JP4629162B2 - トランスポゾン転移酵素および遺伝子改変方法 - Google Patents
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Description
チロシナーゼの遺伝子座に存在したTol2エレメントは、i4変異体の魚では胚発生の間に標的遺伝子座から切り出されることがPCRにより示された(非特許文献1参照)。
また、本発明は、ゼブラフィッシュにおけるTol2因子の切り出しに機能する、活性のあるトランス因子及び必須なシスエレメントを同定する。
また、本発明は、前記の蛋白質をコードする核酸、好ましくは配列表の配列番号1に示される塩基配列を有するDNA若しくは当該DNAにハイブリダイズし得るDNA、又は対応するRNAに関する。
また、本発明は、前記の方法を用いて、細胞の遺伝子に外来遺伝子を導入する方法、及び細胞の遺伝子の発現に基づく機能を改変する方法に関し、さらに本発明は、これらの方法により機能が改変された細胞に関する。
そして、本発明は、これらの方法に使用されるプラスミド、より詳細には塩基配列の上流に、少なくとも1回の逆方向反復配列を含む塩基配列を有するDNAを含有してなるプラスミドにも関する。
さらに、本発明は、脊椎動物のゲノムDNA中に、他の遺伝子を挿入する方法において、トランスポザースを用いて自律的に当該挿入を行うことを特徴とする脊椎動物のゲノムDNA中に他の遺伝子を挿入する方法、好ましくは他の遺伝子がTol2エレメントであり、脊椎動物が、魚類である前記方法に関する。
また、本発明は、脊椎細胞において異なるファミリーの遺伝子転移酵素が、遺伝子を転移させ得る活性を発現することができることを開示するものであり、脊椎動物における遺伝子の転移や転移による変異に関する技術の発展に大きく寄与するものである。一方、最近の遺伝子工学が個々の細胞の形質転換から生体の形質転換へと発展していることから、本発明の細胞レベルの遺伝子の転移技術が単に細胞の形質転換のみに制限されるものではなく、生体における形質転換の手段の一つとして、哺乳動物の遺伝子構造や機能を改変するための医学や農学の分野への応用が期待される技術である。とりわけ、遺伝子治療、魚類の品種改良においては有力な手段となることが期待される。
3’RACEを行なうために用いられたとなり同士の前向きのプライマーは:
Tol2f2 ; 5' - TTGGTCAGACATGTTCATTG - 3'と
Tol2f3 ; 5' - ATGTTCATTGGTCCTTTGGA - 3'、
Tol2f4 ; 5' - ATAGCTGAAGCTGCTCTGATC - 3'と
Tol2f5 ; 5' - CTGCTCTGATCATGAAACAG - 3'、
Tol2f8 ; 5' - GCTTAATAAAGAAATATCGGCC - 3'と
Tol2f9 ; 5' - AATATCGGCCTTCAAAAGTTCG - 3'、並びに
Tol2f12 ; 5' - CTGTAATCAGAGAGTGTATGTGTA - 3'と
Tol2f13 ; 5' - ATTGTTACATTTATTGCATACAAT - 3'である。
次いで、5’RACEを行なうために用いられた重なりのある逆向きの次のプライマー:
Tol2r4 ; 5' - CTCAATATGCTTCCTTAGG - 3'と
Tol2r5 ; 5' - CTTCCTTAGGTTTGATGGCG - 3'
を用いた5’RACEを行ない、2156個のヌクレオチドから成る完全な長さのTol2転写物を同定した(図1)。
図1は、Tol2プラスミド及びその転写物の構造を示す。図1の最上段は完全な長さのTol2因子(Tol2−tyr)である。図の破線部分は、イントロンである。一番目のイントロンにある逆向きの反復(Angel因子)と、前記したプライマーの位置とを矢印で示す。その下の段は、3’RACEの結果を示し、その下の段は5’RACEの結果を示す。いずれの場合も、イントロン部分は破線で示されている。
その下の段にこれらの結果から得られた全長のmRNAの構造を示す。翻訳領域は、配列番号1のcDNAの塩基配列の85番目(ATG)から2032(TAG)に相当している。
図1の下から1段目と2段目は、欠失変異株の(Tol2−tyr)ΔRV及び(Tol2−tyr)Δin1ΔRVの構造を示している。
cDNAのDNA配列決定によりTol2因子のエクソン−イントロン構造(すなわち、4つのエクソンと3つのイントロン)が明らかにされた(図1の最上段参照)。このcDNAは649個のアミノ酸から成るタンパク質をコード化している。この蛋白質のアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。
Tol2エレメントがトランスポゾン様配列であることは知られていたが、本発明は、Tol2エレメントが蛋白質をコードし、当該蛋白質の発現による作用であることを初めて確認したものである。即ち、本発明は、Tol2エレメントにおいてコードされている新規な蛋白質を提供するものであり、また、当該蛋白質をコードするポリヌクレオチドを提供するものである。
ゼブラフィッシュの受精卵に、配列番号1に示すcDNAを鋳型として用いて試験管内で合成したmRNAと、Tol2エレメントのEcoRV切断部位の間の塩基を欠失させた、(Tol2−tyr)ΔRV(図1参照)を含む(Tol2−tyr)ΔRVプラスミドとをコインジェクトした。コインジェクションの約8時間後、各々の胚よりDNAを抽出し、Tol2エレメントの外側の配列に基づいて調製されたプライマーtyr−ex4f及びtyr−ex5r
tyr−ex4f : 5'-GCTACTACATGGTGCCATTCCT-3'
tyr−ex5r : 5'-CACTGCCAGATCTGCTGGGCTT-3'
を用いてPCR法により分析した。図3にこの方法の概要を示し、図4のAにこれらのプライマーに一を示す。
6個の異なる胚からのPCR産物をクローン化し、配列決定した。それらのうちの3個は、野性型のメダカチロシナーゼ遺伝子の配列(図4C、切り出し産物a)を有し、正確な切り出しを示しており、他の3個は、hATファミリーのトランスポゾンの切り出しに特徴的な(Pohlman等、1984 ; Sutton等、1984 ; Koga等、1996 ; Kawakami等、1998)、少数のヌクレオチドが付加したほぼ野性型の配列(図4C、切り出し産物b及びc)を有しており、この実験における切り出しという事象がトランスポザーゼ活性に依存することを示している。
また、ΔRV欠失を修復し、(Tol2−tyr)ΔRVプラスミドとほぼ同じ大きさの(Tol2−tyr)Δin1、即ちTol2エレメントの644〜2163番目の塩基のみを欠失させたものを含有する(Tol2−tyr)Δin1プラスミドもコインジェクションアッセイによって調べたが、切り出しを示すPCR産物は得られなかった(16個のうち0個、データは示さず)。
また、Tc1/marinerファミリーに属するトランスポゾンのゼブラフィッシュゲノムへの転位が報告されている(Raz等、1997 ; Fadool等、1998)。この報告の実験では、ゼブラフィッシュの一細胞期の胚に、インビトロで転写したトランスポザーゼRNAと必須のシスエレメントをもつトランスポゾンベクターとがコインジェクトされた。
異なるファミリーに属するトランスポゾンが、ゲノムへの組込みに関して異なる特異性及び効率を有するかもしれないが、Tol2エレメントを用いた魚類における新規なトランスポゾン技術を開発した本発明の方法によれば、遺伝子の切り出しが前記したラッツ(Raz)らの方法と同様に行われていることから、Tc1/marinerファミリーのトランスポゾンにおいて行なわれたものと類似の方法で、Tol2エレメントなどの遺伝子をゲノム内にトランスポーズすることができることになるであろう。
Tol2エレメントがトランスポジションを活性化することができるトランスポゼースをコードしているかどうかを試験するために、ゼブラフィッシュの受精卵に、トランスポゼースをコードしていると考えられるテンプレートとしてのTol2cDNAを用いてインヴィトロで転写したRNA、及びトランスポゼースをコードしていると考えられる領域を欠失させている(Tol2−tyr)ΔRVエレメントを有するプラスミドDNAを、コインジェクトした。
これらの(Tol2−tyr)ΔRVプラスミド及びTol2DNAの構造を図5に示す。3’及び5’は転写の方向を示す。
インジェクトした8匹の魚のうちの2匹からの子孫に、Tol2配列を見出すことができた。この2匹の魚をff−1(founder fish-1)及びff−7(founder fish-7)と名付けた。
ff−1からの68匹のF1のうちの2匹がTol2配列を持っていた。これらの2匹の魚は、Tol2配列と同様にプラスミド配列も持っていた。また、ff−7からの50匹のF1のうち25匹はTol2配列を持っていた。これらの25匹の魚はプラスミド配列をもっておらず、図6のAに示すサザンブロットの結果からA、B及びCの3種類に分類された。このうちAは7匹で、Bは3匹で、Cは15匹であった。
図6のAは、ff−1、ff−7からのF1の尾ひれから調製したDNAを制限酵素EcoR Vで消化し、これを図5に示すプローブを用いてサザンブロット分析した結果を示す、図面に代わる写真である。ff−1からの2匹は同じパターンを示したが、ff−7からのものはA、B及びCの3種類のパターンを示した。
図7にA、B及びCの3種類の決定された塩基配列を示す。図7中のTol2は、Tol2の配列を示している。Aでは、Tol2配列の両端に「CTCAACTG」の繰り返しが、Bでは、Tol2配列の両端に「TATAGAGA」の繰り返しが、Cでは、Tol2配列の両端に「GTTTTCAG」の繰り返しが見られた。
本発明は、脊椎動物からの自律的なエレメントを同定した最初の報告であり、脊椎動物における機能的なトランスポザース活性を最初に報告するものである。
即ち、本発明は、脊椎動物において自律的に遺伝子を切り出す方法に関するのみならず、遺伝子を切り出し、きりだされた遺伝子をゲノムなどの他の遺伝子の中に挿入する方法にも関するものである。
前記の転移させたい遺伝子を含有する遺伝子としては、転移させたい外来遺伝子を含有するプラスミドのような天然の細胞内に存在しないものであってもよいが、天然の細胞内に存在する遺伝子であってもよい。この場合に転移に必要なシスエレメントを必要に応じて付加することもできる。転移させたい遺伝子としては、トランスポゾンが好ましいが、場合によっては各種の遺伝子異常による疾患を有する細胞に正常な遺伝子を導入するための遺伝子であってもよい。
また、本発明の改変方法は、導入されたプラスミドなどの細胞内の遺伝子の一部を切り出すことのみからなるものであってもよいが、この方法により切り出された遺伝子の全部又は一部が、他の遺伝子に挿入されることを包含するものであってもよい。
本発明の改変方法における切り出される遺伝子は、その塩基配列の上流に、少なくとも1回の逆方向反復配列を含む塩基配列を有することが好ましい。このような逆方向反復配列は、遺伝子の転移におけるシスエレメント、又はシスエレメントの一部と考えられるからである。
本発明の実験においては、Teubingen、TL及びbrass系統のゼブラフィッシュを用いて注入用の卵を得、以下の実験にはこれを使用した。
ゼブラフィッシュの受精卵に、(Tol2−tyr)プラスミドを注入し、注入の9時間後に50個のゼブラフィッシュ胚より、Tri Zol Reagent(Life Technologies社)を用いて全RNAを抽出し、得られた約3μgの全RNAを、各々次の3’RACE法及び5’RACE法に用いた。
3’RACEを行なうために用いられたとなり同士の前向きのプライマーは:
Tol2f2 ; 5' - TTGGTCAGACATGTTCATTG - 3'と
Tol2f3 ; 5' - ATGTTCATTGGTCCTTTGGA - 3'、
Tol2f4 ; 5' - ATAGCTGAAGCTGCTCTGATC - 3'と
Tol2f5 ; 5' - CTGCTCTGATCATGAAACAG - 3'、
Tol2f8 ; 5' - GCTTAATAAAGAAATATCGGCC - 3'と
Tol2f9 ; 5' - AATATCGGCCTTCAAAAGTTCG - 3'、及び
Tol2f12 ; 5' - CTGTAATCAGAGAGTGTATGTGTA - 3'と
Tol2f13 ; 5' - ATTGTTACATTTATTGCATACAAT - 3'である。
5’RACEを行なうために用いられた重なりのある逆向きのプライマーは:
Tol2r4 ; 5' - CTCAATATGCTTCCTTAGG - 3'と
Tol2r5 ; 5' - CTTCCTTAGGTTTGATGGCG - 3'である。
3’RACE及び5’RACE産物をゲル抽出し、TOPO TA クローニングキット(Invitrogen社)を用いてクローン化し、さらにABI PRISM 310 Genetic Analyzerを用いて配列決定した。
決定された塩基配列を配列表の配列番号1に示し、その翻訳領域のアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。
また、その概要を図1に示す。 括弧内の数字は、Tol2エレメントの5’末端からのbpである。cDNA配列のDDBJ/EMBL/Genbank受け入れ番号はAB032244である。
(Tol2−tyr)Δin1ΔRVプラスミドは、まず(Tol2−tyr)プラスミドのNru I−Nsp Vを、cDNAのNru I−Nsp Vフラグメントで置換し、さらにその結果得られたプラスミドをEcoRVで消化し、自己連結させることによって構築した。
推定上のトランスポザーゼのコード領域全体をコード化しているcDNAを、pBluescript SK+(Stratagene)においてクローン化し、直鎖化し、プロテイナーゼKを用いて消化し、さらにフェノール/クロロフォルム抽出した。mRNAは、T7 RNAポリメラーゼ及びmCAP mRNA Cappingキット(Stratagene)を用いた試験管内の転写により生成した。転写物の濃度及び大きさは、アガロースゲル電気泳動で調べた。
ゼブラフィッシュ受精卵に、前記で得られたDNA溶液の1−2nl(〜25ng/μlのプラスミドDNA)をmRNA(〜5ng/μlのTol2のmRNA)と共に、又は単独で注入し、28℃にて〜8時間インキュベートした。各々の胚を、50μlの10mM EDTA、10mM Tris−HCl(pH8.0)、200μg/mlのプロテイナーゼKに浸し、さらに50℃にて3時間インキュベートした。
DNA配列分析用には、PCR産物をゲル抽出し、TOPO TA Cloning(Invitrogen)を用いてクローン化し、配列決定した。各々のサンプル中の注入されたプラスミドDNAの存在を、Tol2f1(5' -TCCACCCATGCTTCCAGCAGTA - 3')及びTol2r3(5' - CGTTGTGGTTGCAATCCATTCAAC - 3')プライマーを用いたPCR(94℃30秒,55℃30秒、及び72℃30秒を25サイクル)により確かめた。
Claims (4)
- 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるトランポザーゼ活性を有する蛋白質又は当該蛋白質を産生し得る核酸を存在させて、細胞内のゲノム中の両端に1対の繰り返し配列を含む遺伝子を切り出す方法。
- 切り出された遺伝子が、他の遺伝子に挿入される請求項1に記載の方法。
- 請求項1又は2に記載の方法を用いて、細胞の遺伝子の発現に基づく機能を改変する方法。
- 請求項3に記載の方法により機能が改変された細胞。
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