図1は、本発明の実施の一形態の振動低減支援装置1の概略構成を示すブロックである。図2は、振動低減支援装置1の構成を示すブロック図である。振動低減支援装置(以下、単に「支援装置」ともいう)1は、回転羽根を備えるヘリコプタ2の調整要素を調整することによって、ヘリコプタ2の振動を低減するために用いられる支援装置である。本実施の形態では、ヘリコプタ2は、回転羽根としてたとえば4枚のブレード3を備えている。各ブレード3はハブ8に連結される。
ヘリコプタ2では、各ブレード3とハブ8とを含んで構成されるロータ9が、回転軸線Lまわりに回転方向Aへ回転駆動されるとき、各ブレード3の軌跡の相互のずれ、ロータ9全体の回転軸線Lからのずれに起因して、振動が発生する。ヘリコプタ2は、組立後に、各ブレード3の軌跡の相互のずれを無くすようなトラッキング調整、およびロータ9全体の回転軸線Lからのずれを無くすようなバランシング調整を行って、振動が低減された後、完成品となり、本運用で飛行される。支援装置1は、ヘリコプタ2の本運用前の振動低減を目的とる調整を支援するために用いられる。
ヘリコプタ2は、調整要素としてピッチリンク4、タブ5およびウエイト6のうちの少なくともいずれか1つを調整することによって、振動が低減される。ピッチリンク4は、各ブレード3毎に設けられ、各ブレード3の迎角とも呼ばれるピッチ角を変化させるリンク部材である。ヘリコプタ2の振動を低減するにあたっては、ピッチリンク4の長さ寸法が調整される。タブ5は、各ブレード3の後縁に、予め定める個数ずつ設けられる板状の部材である。ヘリコプタ2の振動を低減するにあたっては、タブ5の取付角度が調整される。ウエイト6は、ハブ8の各ブレード3が連結される部分に、各ブレード3毎に設けられる錘である。ヘリコプタ2の振動を低減するにあたっては、ウエイト6の重量が調整される。ウエイト6は、重量の調整範囲に0が含まれる。つまりウエイト6は、設けられない場合もある。以下、ピッチリンク4、タブ5およびウエイト6のうちの不特定のいずれかを指す場合、調整要素4〜6と記す。
支援装置1は、ヘリコプタ2の振動を低減するための調整要素4〜6に対する調整量Uを算出する装置であり、これによってヘリコプタ2の振動低減を支援する。調整量Uは、ピッチリンク調整量PL、タブ調整量TB、ウエイト調整量WTとを含んでいる。支援装置1は、検出手段10と、記憶手段11と、入力手段12と、演算手段13と、出力手段14とを含んで構成される。
検出手段10は、ヘリコプタ2の振動に関する状態量Zを検出する手段であり、本実施の形態では、振動に関する状態量Zとしてたとえば3箇所の振動データS1〜S3を検出する。各振動データS1〜S3は、予め設定される検出点の加速度、速度および変位量のうちのいずれか1つと、ロータ9に対する位相とを含んでいる。
検出手段10は、加速度を検出する3つの加速度センサ10a〜10cと、ロータ9の回転周波数を検出する周波数センサ10dとを備える。第1の加速度センサ10aは、機体の天頂部であって、回転軸線Lが第1の加速度センサ10aを貫く位置に設けられる。第2の加速度センサ10bは、コックピットの前方寄りの位置であって、回転軸線Lに対して機首側(前方側)の位置に設けられる。第3の加速度センサ10cは、キャビンの後方寄りの位置であって、回転軸線Lに対して機尾側(後方側)の位置に設けられる。各加速度センサ10a〜10cが配置される位置が、それぞれ検出点となる。周波数センサ10dは、スワッシュプレート7の下方に設けられる。
第1の加速度センサ10aは、y方向の加速度を検出し、第2および第3の加速度センサ10b,10cは、z方向の加速度を検出する。周波数センサ10dは、スワッシュプレートの一点が、周波数センサ10dの上方を通過すると、パルス信号を発生し、ロータ9の回転周波数を検出する。各振動データS1〜S3は、本実施の形態では、各検出点における速度とロータ9の位相との関係である。言い換えるならば、各振動データS1〜S3は、回転周波数での速度波形の大きさと周波数センサ10dで発生されるパルス信号に対する位相関係を表すデータである。
したがって加速度センサ10a〜10cによって検出される加速度と、周波数センサ10dによって検出される回転周波数に基づいて、各振動データS1〜S3が算出される。検出手段10は、各振動データS1〜S3を算出する振動データ算出部10gを有している。振動データ算出部10gは、たとえばマイクロプロセッサによって実現されてもよい。
検出手段10で検出される状態量Zは、有線通信または無線通信のいずれかによって、演算手段13に与えられる構成であってもよいし、また記録媒体に記録され、演算手段13で読込まれることによって、演算手段13に与えられる構成であってもよいし、検出手段10が状態量を表示する表示部を備え、表示部に表示される状態量Zを作業者が読取って手入力することによって、演算手段13に与えれる構成であってもよい。z方向は、回転軸線Lに平行な方向である。y方向は、x方向およびz方向に垂直な方向であり、x方向は、機軸に平行な方向である。
記憶手段11は、演算手段13によって読出し可能に、情報を記憶する手段であり、たとえば半導体メモリによって実現される。この記憶手段11は、特性記憶部11aと、データ記憶部11bとを有する。データ記憶部11bには、状態量Z、調整量Uなどの各種の情報が記憶される。
特性記憶部11aには、基本伝達特性T0が記憶される。基本伝達特性T0は、基本となる伝達特性Tである。伝達特性Tは、各調整要素4〜6の単位調整量に対する状態量Zの変化量を表し、各調整要素4〜6の単位調整量と、各振動データS1〜S3の変化量との関係を表す。基本伝達特性T0とは、調整の対象となるヘリコプタ2と同一機種のヘリコプタ2について、たとえば試験、シミュレーションなどによって予め求められている伝達特性Tである。
状態量Zと、調整量Uと、伝達特性Tは、次の式(1)〜式(5)の関係を有する。本発明で実施される振動低減は、複数の飛行条件に対して同時に行われる。調整量算出工程で、調整量Uを求めるにあたっては、これらの複数の飛行条件全体に対して総合的に判断して最良と評価される調整量Uを算出する。したがって状態量Zおよび伝達特性Tは、各飛行条件に対しての複数の状態量および伝達特性を含んだものである。式(1)〜式(5)は、説明を簡略化し、理解を容易にするために、1つの飛行条件に対する関係を示す。
Z0は、調整前の状態量Zであり、Zaは、調整後の状態量Zである。S1s0,S2s0,S3s0は、調整前の各振動データS1〜S3のsin成分をそれぞれ表し、S1c0,S2c0,S3c0は、調整後の各振動データS1〜S3のcos成分をそれぞれ表す。S1sa,S2sa,S3saは、調整後の各振動データS1〜S3のsin成分をそれぞれ表し、S1ca,S2ca,S3caは、調整後の各振動データS1〜S3のcos成分をそれぞれ表す。
単純な振動を考えた場合、変位xは、回転周波数ωと、振幅(振動の大きさ)aと、位相θとによって、次式(5a)で表すことができる。またこの式(5a)を変換して、別表現すると、次式(5b)で表すことができる。この式(5b)のAが、振動のcos成分であり、Bが振動のsin成分である。振動は、変位xに代えて、速度でも同様の式で表すことが可能である。したがって状態量Zは、各検出点の速度とロータ9の位相との関係を、sin成分およびcos成分で表すものである。
x=asin(ωt+θ) …(5a)
x=Acosωt+Bsinωt …(5b)
本実施の形態では、ロータ9に4枚のブレード3が設けられており、180度ずれた位置に配置される2つのブレード3に関しては、調整要素4〜6の調整に対する状態量Zの変化が正反対に現れる。たとえば180度ずれた位置にある2枚のブレード3のうち、一方に関してピッチリンク4を単位寸法だけ長くする調整と、他方に関してピッチリンク4を単位寸法だけ短くする調整とは、状態量Zに同様の変化をもたらす。したがって本実施形態では、4枚のブレード3を、180度ずれた位置にある2枚のブレード3を1つの組とみなし、各組毎に調整量Uを求めることが可能であり、演算を簡略化できる。
PL1,TB1,WT1は、前記一方の組のブレード3に関するピッチリンク調整量ΔPL、タブ調整量ΔTAB、ウエイト調整量ΔWTをそれぞれ表し、PL2,TB2,WT2は、前記他方の組のブレード3に関するピッチリンク調整量ΔPL、タブ調整量ΔTAB、ウエイト調整量ΔWTをそれぞれ表す。したがって調整量Uには、ピッチリンク調整量ΔPL、タブ調整量ΔTAB、ウエイト調整量ΔWTが含まれ、ピッチリンク調整量ΔPLには、各組のブレードに関する調整量PL1,Pl2が含まれ、タブ調整量ΔTABには、各組のブレードに関する調整量TB1,TB2が含まれ、ウエイト調整量ΔWTには、各組のブレードに関する調整量WT1,WT2が含まれる。以下、PL1,TB1,WT1,PL2,TB2,WT2を、不特定に指す場合、個別調整量という。
伝達特性Tは、6箇所の調整要素4〜6の調整量である個別調整量PL1,TB1,WT1,PL2,TB2,WT2の単位変化量に対する振動データS1〜S3の変化量の関係を示す6行6列の行列である。ここで各個別調整量PL1,TB1,WT1の変化量に対して、振動データS1〜S3の変化量のsin成分であるS1s,S2s,S3sの関係を示す伝達特性部分をT1とし、振動データS1〜S3のcos成分であるS1c,S2c,S3cの関係を示す伝達特性部分をT2とする。各伝達特性部分T1,T2は、3行3列の行列でそれぞれ表現される。本実施の形態では、4枚のブレード3が設けられており、各個別調整量PL1,TB1,WT1に対して、90度ずれた位置に配置されるブレード3での変化量である各個別調整量PL2,TB2,WT2は、90度位相変化して同様の影響を与えることができることから、全体の伝達特性Tは、各伝達特性部分T1,T2を用いて、式(5)のように表現することが可能であり、演算を簡略化できる。
入力手段12は、たとえばキーボードなどによって実現され、作業者が操作して情報を入力することができる。この入力手段12は、基本情報入力部12aと、状態量入力部12bと、採否情報入力部12cとを有する。基本情報入力部12aは、検出される状態量Zと機体番号や飛行番号を関連付けるための情報である基本情報を入力することができる。状態量入力部12bは、作業者が目視によって得た各ブレード3の軌跡の差を入力することができる。また状態量入力部12bは、前述のように検出手段10によって検出される状態量Zが手入力される構成の場合、作業者が検出手段10によって検出される状態量Zを入力するように構成される。また採否情報入力部12cは、作業者が特性生成に用いるデータを選択するための採否情報を入力することができる。この各ブレード3の軌跡の差もまた、状態量Zの1つである。
演算手段13は、たとえば中央演算処理ユニット(略称CPU)によって実現され、振動を低減するための支援に必要な各種の演算を実行する。演算手段13は、調整量算出部13aと、特性生成部13bとを有する。
調整量算出部13aは、記憶手段11に記憶される基本伝達特性T0に基づいて生成される算出用伝達特性Tcと、検出手段10によって検出される状態量Zとに基づいて、ヘリコプタ2の振動が低減される調整要素4〜6の調整量Uを算出する。
前記式(1)に基づいて、調整後の振動が最小となる調整量U、つまり調整後の状態量Zが最小となる調整量Uは、式(6)で求めることができる。
U=−(TT×Wz×T+Wt)−1×(TT×Wz)×Z0 …(6)
Wzは、検出手段10によって検出される状態量Zにかける重み係数であり、Wtは、調整量にかける重み係数であり、これら各重み係数は、試験値、シミュレーション、経験値などによって、調整が最適に実施されるように決定される。各重み係数Wt,Wzは、複数ある調整要素4〜6、センサ10a〜10d、飛行条件に対して、個別にそれぞれ設定することができる。またGを行列とした場合、GTは、行列Gの転置行列であり、G−1は、行列Gの逆行列である。調整量算出部13aでは、前記式(6)の伝達特性Tとして、基本伝達特性T0または算出用伝達特性Tcを用い、調整量Uを算出する。
調整量Uは、各個別調整量PL1,TB1,WT1,PL2,TB2,WT2に対して計算される。ここで、前述したようにたとえばPL1の指示に対しては、PL1のブレードを指示方向へ調整することとその180°反対側にあるブレードを指示方向に対して逆に調整することは同じ効果が得られる。このとき、追加で取得される各ブレード3の軌跡の差が取得されている場合には、調整量UのPL1,TB1およびPL2,TB2をそれぞれどちらのブレード側で調整したほうが、この軌跡の差が小さくなるかを計算して最も軌跡の差が小さくなる方向で調整するように調整量Uを算出する。
このとき調整量Uに対する各ブレード3の軌跡の差の変化量予測は、振動データS1〜S3に対する伝達特性と同様に、ブレード・トラックに関する伝達特性を予め求めておき、これをもとに計算される。ここでは、ブレード・トラックに関する伝達特性についての詳細説明は、省略するが、前述の振動データS1,S2と、調整量Uとの伝達特性Tと同様に、各ブレード3の軌跡の差と、調整量Uとの関係を示す特性である。
このような目視によって検出される各ブレード3の軌跡の差もまた、状態量Zの1つである。このブレード3の軌跡の差は、必須ではなく、飛行試験時に、目視によって検出されたときだけ入力し、これを考慮して、調整量Uを算出する構成である。
特性生成部13bは、調整量算出部13aによって算出される調整量Uを基に行われる調整による振動の低減結果、つまり調整後の状態量Zに基づいて、基本伝達特性T0を更新して調整量Uの算出に用いられる算出用伝達特性Tcを生成する。算出用伝達特性Tcは、調整量Uの演算のために生成された伝達特性Tである。算出用伝達特性Tcを求めるにあたって、まず、前記式(1)から、次式(7)を導くことができる。
ここで式(7)の左辺は、調整前後の状態量Zの変化量ΔZである。ΔZsは、状態量の変化量ΔZのsin成分であって、各加速度センサ10a〜10cが設けられる位置の振動データS1〜S3のsin成分の変化量である。ΔZcは、状態量の変化量ΔZのcos成分であって、各加速度センサ10a〜10cが設けられる位置の振動データS1〜S3のcos成分の変化量である。ΔZs,ΔZcは、次の式(8)および式(9)で表される。添え字「a」を付したS1s〜S3s,S1c〜S3cは、調整後の値を示し、添え字「0」を付したS1s〜S3s,S1c〜S3cは、調整前の値を示す。
さらに次の式(10)および式(11)のように、PL1,TB1,WT1をまとめてU1とし、PL2,TB2,WT2をまとめてU2とすると、前記式(7)から、式(12)を導くことができる。U1は、一方の組のブレード3の調整量を表し、U2は、他方の組のブレード3の調整量を表す。
この式(12)に基づいて、各回の調整における調整結果データDを用い、最小自乗法を用いて、算出用伝達特性Tcの伝達特性部分T1,T2を求め、算出用伝達特性Tcを求めることができる。調整結果データDは、各回の調整における、調整前後の状態量Zの変化量ΔZと調整量Uとの関係を表すデータであり、状態量Zの変化量ΔZと調整量Uとを関連付けて保有するデータである。調整結果データDは、1回の調整毎に、1つのデータが得られる。また算出用伝達特性Tcを求めるにあたっては、基本伝達特性T0で関係付けられる状態量Zの変化量ΔZと調整量Uとが、1つの基本調整結果データDbasicとして利用される。このような各調整結果データDおよび基本調整結果データDbasicを用いて、伝達特性部分T1,T2が、式(13)で求められ、この式(13)で求められる伝達特性部分T1,T2を用いて算出用伝達特性Tcが求められる。
特性生成部13bでは、この式(13)を用いて、算出用伝達特性Tcを生成する。この式(13)の中で最小自乗するためのデータとなる調整量U(U1,U2)と状態量Zの変化量ΔZ(ΔZs,ΔZc)との関係を表すデータには、前述のように、基本調整結果データDbasicおよび過去および今回の調整結果データDが用いられる。このとき、過去および今回の調整結果データDについては、作業者が採否情報入力部12cから採否の選択が可能である。したがって調整作業および計測時飛行条件から作業者が認識できるエラー要素を含む調整回の調整結果データDを排除することにより生成される算出用伝達特性Tcの精度を向上させることができる。
また、基本調整結果データDbasicは、1つではなく、複数の基本調整結果データDbasicが用いられる。このように基本伝達特性T0に関するデータとして複数の基本調整結果データDbasicが用いられるので、基本伝達特性T0以外の実調整結果データDの算出用伝達特性Tcへの影響度を適切に設定することができる。基本調整結果データDbasicは、基本伝達特性T0とともに、特性記憶部11aに記憶されている。また生成される算出用伝達特性Tcおよびそのデータである調整結果データDは、検出される状態量Z、算出される調整量Uなどとともに、データ記憶部11bに記憶されている。
このように生成される算出用伝達特性Tcは、調整の対象となっているヘリコプタ2の実際の特性を反映したものであり基本伝達特性T0と実際の伝達特性との差異を小さくしていく。そのためこの算出用伝達特性Tcを用いて調整量Uを算出することによって、振動を確実に小さくしていくことができ、結果として非常に少ない調整で作業を完了することができる。
また、部分的に試験飛行が実施された場合でも、つまり複数の飛行条件のうち、一部の飛行条件でだけ状態量Zが検出された場合、または複数の種類の状態量Zのうち、一部の種類の状態量Zだけ、たとえば各振動データS1〜S3のうち、一部の振動データだけが検出された場合、その検出された状態量に対して特性生成処理が実施され、算出用伝達特性Tcを算出することができる。したがって調整作業を効率的に実施することができる。
支援装置1では、伝達特性Tとして算出用伝達特性Tcを用いる式(6)によって調整Uが算出される。支援装置1では、振動低減のための調整が開始され後、最初の調整量Uの算出にあたって、基本伝達特性T0と同一の算出用伝達特性Tcが式(6)の伝達特性Tとして採用され、2回目以降の調整量Uの算出にあたっては、前述のように式(11)を用いて生成される算出用伝達特性Tcが式(6)の伝達特性Tとして採用される。
また記憶手段11の特性記憶部11aには、ヘリコプタ2の基本伝達特性T0および基本調整結果データDbasicが記憶されている。また、データ記憶部11bには、前述の算出用伝達特性Tcのデータである調整量Uと状態量Zの変化量ΔZとの関係を表す調整結果データDが、状態量Zなどとともに記憶されている。また前述したように記憶されている基本伝達特性T0、基本調整結果データDbasic、算出用伝達特性Tc、調整結果データD、状態量Zおよび調整量Uなどのデータは、単一の飛行条件に対するものでなく、設定された複数の飛行条件に対するものとなっている。たとえば各飛行条件毎に伝達特性Tが設定されていてもよいし、各飛行条件を考慮した1つの伝達特性が設定されていてもよい。
飛行条件は、たとえば地上でロータ9を回転させる地上アイドリング状態、飛行速度が0kt(ホバリング)、80kt、100kt、120kt、水平最大速度で飛行する条件である。支援装置1は、このような複数の飛行条件における振動が最良となる調整量Uを算出する。また設定された飛行条件のうち、一部の飛行条件で状態量Zが検出された場合でも、その飛行条件で取得された状態量Zをもとに調整量Uを計算することができる。
出力手段14は、調整量表示部14aを有している。出力手段14には、演算手段13から算出される調整量Uを表す信号が与えられる。この信号に応答し、調整量表示部14aが、調整量Uを表示して、作業者に報知する。作業者は、この表示によって、調整量Uを把握し、各調整要素4〜6を調整することができる。
また調整量算出部13aは、生成される算出用伝達特性Tcを用いる調整量Uの算出に加えて、基本伝達特性T0と、検出手段10によって検出される状態量Zとに基づいて、調整量Uを算出する。このように調整量算出部13aは、伝達特性Tとして算出用伝達特性Tcが用いられる式(6)による調整量Uと、伝達特性Tとして基本伝達特性T0が用いられる式(6)による調整量Uとの2つの調整量Uが求められる。出力手段4には、これら2つの調整量Uを表す信号が与えられ、調整量表示部14aでは、2つの調整量Uが表示される。
また調整量算出部13aでは、生成される算出用伝達特性Tcを用いて算出される調整量Uと、基本伝達特性T0を用いて算出される調整量Uとの差が、予め定める閾値以上であるか否か判定される。この判定の結果、差が閾値以上であると判定される場合、調整量算出部13aは、警報を発するように指令する信号を出力手段14に与える。出力手段14は、警報部14bを有しており、警報を発するように指令する信号に応答し、警報を発する。これによって生成される算出用伝達特性Tcを用いて算出される調整量Uと、基本伝達特性T0を用いて算出される調整量Uとの差が大きいことを、作業者に報知することができる。前記閾値は、ヘリコプタ2の構成などに基づいて設定される値である。
さらに演算手段13は、検出手段10によって検出される状態量Z、入力手段12によって入力される基本情報、採否情報および状態量Z、ならびに演算手段13において算出される調整量Uおよび算出用伝達特性Tcを含む情報を表す信号を、記憶手段11に与える。記憶手段11のデータ記憶部11bには、演算手段13から与えられる信号が表す前記情報が記憶される。
さらに記憶手段11は、前述の情報を記憶するだけでなく、その他の情報を記憶することができる。また入力手段12は、前述の情報を入力するだけでなく、その他の情報を入力することができる。また演算手段13は、前述の演算を実行するだけでなく、その他の演算を実行することができる。出力手段14は、前述の情報を出力するだけでなく、その他の情報を出力することができる。また出力手段14は、演算される調整量Uを含め、データ記憶部11bに記憶される情報を、記録シートに印刷などして記録して出力する構成を備える。
図3は、支援装置1を用いて実行される本発明の振動低減方法の概略構成を示すフローチャートである。図3に示す振動低減方法は、ヘリコプタ2が組立てられた後、ステップb0で開始され、ステップb1に進む。ステップb1では、ヘリコプタ2を試験飛行させ、検出手段10によって、状態量Z、したがって振動データS1〜S3を検出する。
ステップb2では、検出される振動データS1〜S3に基づいて、調整量演算部13aで、前記式(6)によって調整量Uが算出される。ステップb3では、算出される調整量U(ΔPL,ΔTAB,ΔWT)を、調整量表示部14aによって表示して指示し、その指示に従って調整要素4〜6を調整した後、試験飛行して振動データS1〜S3を検出するステップb1に戻り、ステップを繰返す。
振動低減方法を開始して、1回目の試験飛行では、ステップb1を実行し、2回目以降の試験飛行では、ステップb1に加えて、並列的にステップb4が実行される。ステップb4では、試験飛行の前に行われた調整における調整量U(ΔPL,ΔTAB,ΔWT)と、振動データS1〜S3の変化量とを取得する。振動データS1〜S3の変化量は、状態量Zの変化量ΔZ(ΔZs,ΔZc)である。状態量Zの変化量ΔZは、今回の試験飛行で検出手段10によって検出される状態量Zから、1回前の試験飛行で検出手段10によって検出される状態量Zを減算して求められる。このステップb4は、試験飛行で状態量Zを検出する段階と、その後、演算手段の特性演算部13bで状態量Zの変化量ΔZを算出する段階とを含む。
ステップb5では、特性演算部13bで、算出用伝達特性Tcを生成する。このステップb5では、1回目に調整量Uを算出するとき、ステップb7で特性記憶部11aから読込まれる基本伝達特性T0を、そのまま算出用伝達特性Tcとして採用し、2回目以降に調整量Uを算出するとき、前記式(13)によって算出用伝達特性Tcを生成する。そしてステップb6で、算出用伝達特性Tcを調整量演算部13aに与える。振動低減方法では、このような手順が繰返される。
図4は、試験飛行で検出される状態量Zに基づいて、調整量Uを算出する手順を示すフローチャートである。調整量Uの算出手順は、試験飛行で、振動データとして状態量Zが検出された後、ステップc0で開始される。ステップc1では、入力手段12を用いて、調整量Uの算出が初回(1回目)か2回目以降なのかを表す回数情報を入力する。ステップc2では、演算手段13で、ステップc1で入力される回数情報に基づいて、調整量Uの算出回数が初回か否かを判定する。初回であればステップc3に進み、初回ではなく2回目以降であればステップc8に進む。
ステップc3では、入力手段12を用いて、基本情報を入力する。基本情報とは、機体番号および調整名称(調整シリーズ名)などのデータ識別のための情報である。ステップc4では、演算手段13で、検出される状態量Zが取得される。このステップc4では、状態量Zは、たとえば入力手段12を用いて入力されて取得されてもよいし、検出手段10から通信によって与えられることによって取得されてもよいし、記録媒体から読込むことによって取得されてもよい。このとき、作業者の目視によって各ブレード3の軌跡の差が検出されている場合には、その軌跡の差も、状態量Zとして取得される。また状態量Zとともに、各状態量Zが検出された飛行条件を表す飛行条件情報が対応付けられて取得される。これによって一部の飛行条件についてだけ状態量Zが検出される場合でも、検出された飛行条件での状態量Zをもとに、調整量Uを算出することができる。
ステップc4で、状態量Zが取得されると、ステップc5に進む。ステップc5では、調整量演算部13aで調整量Uが算出される。このステップc5では、調整量Uの算出が初回(1回目)である場合、基本伝達特性T0と同一の算出用伝達特性Tcを用いて調整量Uを算出し、調整量Uの算出が2回目以降である場合、算出用伝達特性Tcを用いて調整量Uを算出するとともに、基本伝達特性T0を用いて調整量Uを算出する。調整量Uは、基本的に状態量Zとしての振動データS1〜S3を用いて算出されるが、各ブレード3の軌跡の差が検出されている場合には、この軌跡の差を考慮して、軌跡の差が小さくなるように、算出される。各ブレード3の軌跡の差は、たとえば各ブレード3の先端の上下軌跡差である。
ステップc6では、演算される調整量Uを調整量表示部14aで表示するなど、調整量Uの算出結果を出力するとともに、データ記憶部11bに、今回の調整量Uの算出手順中において得られた状態量Z、調整量U、算出伝達特性Tcなどの情報を、記憶させる。またステップc6では、演算手段13で、調整量Uの算出が2回目以降である場合、算出用伝達特性Tcを用いて算出した調整量Uと、基本伝達特性T0を用いて算出した調整量Uとが、予め定める閾値以上であるか否かを判定し、閾値以上である場合、出力手段14によって警報を発する。そしてステップc7で、調整量Uの算出手順を終了する。
ステップc8では、特性生成部13bで、実際に調整された前回(一回前)の調整量Uが取得される。この調整量Uは、入力手段12によって改めて入力されて取得されてもよいし、データ記憶部11bから読出して取得てもよい。さらに調整量Uがデータ記憶部11bから読出される場合、実際に調整された調整量Uが、記憶されていた調整量Uと異なる場合、入力手段12によって実際に調整された調整量Uを入力して置換えるようにしてもよい。
ステップc9では、ステップc4と同様にして、演算手段13に状態量Zが取得される。ステップc10では、特性生成部13bで、前記式(13)を用いて算出用伝達特性Tcが生成され、ステップc5に進む。振動低減方法では、試験飛行して状態量Zを検出する手順と、このような調整量Uの算出手順とが、調整後の振動が予め定める状態に低減されるまで、交互に繰返して実行される。さらにこのような一連の手順は、ヘリコプタ2の複数の飛行条件に対してまたはその一部に対して実行される。
図5は、前述のような振動低減方法に用いられる演算手段13における算出用伝達特性Tcの生成動作を示すフローチャートである。算出用伝達特性Tcの生成動作は、演算手段13における特性生成部13bで実行される。特性生成部13bは、2回目以降の試験飛行が終了した後、その試験飛行で検出される状態量Zに基づく算出用伝達特性Tcの生成動作をステップd0で開始する。以下、理解を容易にするために、図5の生成動作を、i(=整数)回目の調整後の試験飛行後の生成動作とし、調整量U、状態量Zに、調整回数を表す符号を()書きで付す。
ステップd1では、特性生成部13bは、i回目の調整の調整量U(i)を取得する。このステップd1では、図4のステップc8と同様にして、i回目の調整の調整量U(i)を取得し、ステップd2に進む。ステップd2では、特性生成部13bは、i回目の調整後に試験飛行で検出された状態量Z(i)を取得する。このステップd2では、図4のステップc4、c9と同様にして、i回目の調整後の状態量Z(i)を取得し、ステップd3に進む。
ステップd3では、特性生成部13bは、i回目の調整前の状態量Z(i−1)を取得する。このステップd3では、特性生成部13bは、データ記憶部11bから読込んで、i回目の調整前の状態量Z(i−1)を取得し、ステップd4に進む。ステップd4では、特性生成部13は、ステップd2で取得されるi回目の調整後の状態量Z(i)から、ステップd3で取得されるi回目の調整前の状態量Z(i−1)を減算して、i回目の調整による状態量Zの変化量ΔZ(i)を算出し、ステップd5に進む。
ステップd5では、特性生成部13bは、今回の調整であるi回目の調整による結果を表す調整結果データD(i)を取得する。調整結果データDは、調整量Uと状態量Zの変化量ΔZとの関係を表すデータである。したがってi回目の調整による調整結果データD(i)は、i回目の調整の調整量U(i)と、i回目の調整による状態量Zの変化量ΔZ(i)との関係を表すデータである。ステップd5では、さらに、特性生成部13bは、i回目の調整による調整結果データD(i)を、その他のデータであるi回目の調整の調整量U(i)、i回目の調整後の状態量Z(i)、i回目の調整による状態量Zの変化量ΔZ(i)とともに、データ記憶部11bに記憶させ、ステップd7に進む。
ステップd6では、特性生成部13bは、1回目からi−1回目までの調整による調整結果データである過去の調整結果データD(1)〜D(i−1)を取得する。このステップd6では、特性生成部13bは、データ記憶部11bから読込んで、過去の調整結果データD(1)〜D(i−1)を取得し、ステップd7に進む。このステップd6は、ステップd1〜ステップd5の処理動作と平行して実行される。
ステップd7では、特性生成部13bは、ステップd5およびステップd6で取得された調整結果データD(1)〜D(i)から、採用すべき調整結果データを抽出する、採否処理を実行する。この採否処理は、作業者によって入力される採否情報に基づいて、実行する。このように採用する調整結果データが作業者によって選択されるが、通常は、全ての調整結果データが採用、反映される。ステップd7では、このように採否処理をして、ステップd9に進む。
ステップd8では、特性生成部13bは、基本伝達特性T0における調整量Uと状態量Zの変化量Δとの関係を表す基本調整結果データDbasic(1)〜Dbasic(n)を取得する。前述のように複数の基本調整結果データDbasicを有している。基本調整結果データDbasicに、()書きで付す数値は、調整の回数とは無関係であり、ここでは複数の基本調整結果データDbasicを有していることを理解しやすくするために付している。nは、整数である。このステップd8では、特性生成部13bは、特性記憶部11aから読込んで、各基本伝達データDbasic(1)〜Dbasic(n)を取得し、ステップd9に進む。このステップd8は、ステップd1〜ステップd7の処理動作と平行して実行される。
ステップd9では、特性生成部13bは、各調整結果データD(1)〜D(i)のうち、ステップd7で採用された調整結果データと、ステップd8で取得された各基本調整結果データDbasic(1)〜Dbasic(n)を、前記式(13)に代入し、各伝達特性成分T1,T2を算出し、これら算出した各伝達特性成分T1,T2を用いて算出用伝達特性Tcを生成する。算出用伝達特性Tcを生成すると、ステップd10で、算出用伝達特性Tcの生成動作を終了する。
このように本発明の振動低減方法は、ヘリコプタ2を試験飛行させて、振動に関する状態量Zを検出する検出工程と、調整要素4〜6の調整量Uと状態量Zの変化量ΔZとの関係を表す基本伝達特性T0に基づく算出用伝達特性Tcを用い、検出工程で検出される状態量Zに基づいて、ヘリコプタ2の振動が低減される調整要素4〜6の調整量Uを算出する調整量算出工程と、調整量算出工程における算出結果を基に調整要素4〜6を調整する調整工程と、調整工程における調整後の振動の状態量Zに基づいて、基本伝達特性T0を更新して算出用伝達特性Tcを生成する特性生成工程とを有し、ヘリコプタ2の振動が予め定める状態に低減されるまで、特性生成工程で算出用伝達特性Tcを更新生成しながら、検出工程、調整量算出工程、調整工程を繰返す。
また振動低減方法では、検出工程において、ヘリコプタ2の複数の飛行条件のうちの一部の飛行条件での振動に関する状態量Z、または複数の種類の振動のうちの一部の種類の振動に関する状態量Zだけが検出される場合、その検出される状態量Zに基づいて、算出用伝達特性Tcを更新生成し、調整量算出工程、調整工程を実行する。さらに振動低減方法は、検出工程で検出される状態量、調整量算出工程で算出される調整量および特性更新工程で生成される算出用伝達特性Tcの調整結果データDを、ヘリコプタ2の機体毎に整理して記憶手段11に記憶させるデータ記憶工程をさらに含んでいる。
さらに振動低減方法は、生成される算出用伝達特性Tcの調整結果データDを記憶手段11に記憶させるデータ記憶工程と、記憶手段に記憶される調整結果データDの過去の算出用伝達特性Tcの採否を選択する採否選択工程をさらに含み、特性生成工程では、採否選択工程で採用される過去の算出用伝達特性Tcの調整結果データDに基づいて、基本伝達特性T0を更新して算出用伝達特性Tcを生成する。さらに調整量算出工程では、生成する算出用伝達特性を用いる調整量の算出に加えて、基本伝達特性と、検出工程で検出される状態量とに基づいて、ヘリコプタの振動が低減される調整要素の調整量を算出する。
さらに振動低減方法は、生成される算出用伝達特性を用いて算出される調整量と、基本伝達特性を用いて算出される調整量との差が、予め定める閾値以上である場合、警報を発する警報工程をさらに含む。さらに状態量Zには、ロータ9の各ブレード3の先端軌跡上下差が含まれ、調整量算出工程では、各ブレード3の先端軌跡上下差が小さくなるように、調整量Uを算出する。
前述のような支援装置1および振動低減方法によれば、ヘリコプタ2を試験飛行させて、検出工程で、振動に関する状態量Zが検出手段10によって検出され、調整量算出工程で、演算手段13によって、算出用伝達特性Tcを用い、検出される状態量Zに基づいて、調整量Uが算出され、調整工程で、調整量Uの算出結果に基づいて、ヘリコプタ2の調整要素4〜6が調整される。そして求められる調整量Uを基に調整要素4〜6が調整された調整後に、ヘリコプタ2を試験飛行させて状態量Zを検出する検出工程と、その調整後の検出工程で検出される状態量Zを用いて調整量Uを算出する調整量算出工程と、調整後の状態量Zを用いる調整量Uの算出結果に基づいて、ヘリコプタ2の調整要素4〜6を調整する調整工程とを、ヘリコプタ2の振動が予め定める状態に低減されるまで繰返す。検出工程、調整量算出工程、調整工程を繰返すとき、検出工程と調整量算出工程との間に、特性生成工程が設けられる。特性生成工程では、調整後の振動の状態量Zに基づいて、算出用伝達特性Tcを更新生成する。2回目以降の検出工程と調整量算出工程との間に、特性生成工程が設けられ、2回目以降の調整量算出工程では、調整量Uの演算に、直前の特性生成工程で生成される算出用伝達特性Tcが用いられる。
このように調整要素4〜6の調整量Uを算出するために用いられる算出用伝達特性Tcが、基本伝達特性T0と、1回前の調整による振動の低減結果に基づいて算出される。これによって基本伝達特性T0と、調整の対象となっているヘリコプタ2の実際の伝達特性とが異なっていても、1回前の調整による振動の低減結果を基に修正することが可能である。したがって基本伝達特性T0に比べて、調整の対象となっているヘリコプタ2の実際の伝達特性に近い算出用伝達特性Tcを用いて、調整量Uを算出することができるので、算出される調整量Uの精度を高くすることができる。したがって演算手段13によって算出される調整量Uを基に、調整要素4〜6を調整することによって、調整作業の繰返し回数を少なくすることができ、ヘリコプタ2の試験飛行の回数を少なくすることができる。しかも状態量Zの検出結果だけに基づいて算出用伝達特性Tcが生成されるのではなく、基本伝達特性T0を更新するようにして、つまり基本伝達特性T0を修正するようにして算出用伝達特性Tcが生成されるので、たとえば突発的な外乱、検出誤差によって状態量の検出精度が低くなったとしても、生成される算出用伝達特性Tcが、状態量Zの検出結果だけから求める場合に比べて、算出される調整量Uの精度を高くすることができる。このように基本伝達特性T0と実際の伝達特性とが異なる場合および状態量Zの検出精度が低い場合であっても、調整量Uの精度をできるだけ高く保ち、工程の繰返し回数を少なくすることができ、ヘリコプタ2の試験飛行の回数を少なくすることができる。
また基本伝達特性T0、基本調整結果データDbasic、算出用伝達特性Tc、調整結果データD、状態量Zおよび調整量Uなどのデータは、単一の飛行条件に対するものでなく、設定された複数の飛行条件に対するものとなっている。さらに異なる種類の状態量Zである、各振動データS1〜S3、各ブレード3の先端の軌跡の上下差に、伝達特性が個別に設定されている。したがって検出される状態量Zが、複数の飛行条件のうち一部の飛行条件の状態量、または複数の種類の振動のうち一部の種類の振動の状態量である場合、その検出される状態量Zに基づいて、算出用伝達特性Tcを更新生成し、調整量Uを算出して調整要素4〜6を調整する。このように検出される状態量Zが、一部の状態量であっても、その一部の状態量に基づいて、調整要素4〜6の調整および算出用伝達特性Tcの更新が行われるので、効率的に調整作業が進み、試験飛行の回数を低減することができる。
このように記憶手段11に、ヘリコプタ2の飛行条件毎に基本伝達特性T0が記憶されている。これによってヘリコプタ2の試験飛行によって検出された状態量Zが、一部の飛行条件での状態量Zであったとしても、その検出された状態量Zに基づいて、調整要素4〜6の調整のための手順を実行することが可能である。これによって調整を高効率化して、試験飛行の回数を少なくすることができる。
また状態量Z、調整量U、算出用伝達特性Tcおよび調整結果データDを記憶手段11に記憶させて、収集することができる。これによって記憶される状態量Z、調整量U、算出用伝達特性Tcおよび調整結果データDを、他の用途、たとえば基本伝達特性T0を新たに作り直すなど、他のヘリコプタ2の調整に利用することができる。
また入力手段12によって採否情報を入力することによって、作業者によってエラー要素を排除することができ、生成される算出用伝達特性Tcの精度を向上することができる。これによって実際の伝達特性に近い算出用伝達特性Tcを生成することが可能になり、算出される調整量Uの精度を高くすることができる。したがって調整精度が向上され、効率的に調整作業が進み、試験飛行の回数を低減することができる。
また演算手段13では、算出用伝達特性Tcを用いて調整量Uが算出されるとともに、基本伝達特性T0を用いて調整量Uが算出される。これによって調整要素4〜6を調整するにあたっての調整量Uの選択肢を多くすることができる。さらに各調整量Uを比較することによって、基本伝達特性T0と算出用伝達特性Tcとの差異を把握することができ、算出用伝達特性Tcが、ヘリコプタ2の実際の伝達特性と大きく異なるような精度の低い場合、その算出用伝達特性Tcを用いて算出される精度の低い調整量Uを採用して調整することを防ぐことができる。
また算出用伝達特性Tcを用いて算出される調整量Uと、基本伝達特性を用いて算出される調整量Uとの差が、予め定める閾値以上である場合、出力手段14によって警報が発せられる。このように調整量Uの差が大きい場合、算出用伝達特性Tcの精度が低いと予想され、算出用伝達特性Tcを用いて算出される調整量Uの精度も低いことが予想される。したがって算出用伝達特性Tcを用いて算出される調整量Uの精度が低いおそれがあることを、作業者が容易に把握することができる。さらに各センサ10a〜10dの以上、入力手段12による入力ミス、および調整ミスなどを確認し、状態量Z、調整量U、などを修正入力し、算出量伝達特性Tcを修正して生成し直すようにしてもよい。
また各ブレード3の先端の軌跡の上下差が、作業者の目視、またはセンサの1つである光学式カメラなどによって検出され、各振動データS1〜S3に基づいて求められる調整量Uを、各ブレード3の先端の軌跡の上下差が最小となるように、配分するように演算する。つまり、前述のように、各組のブレード3のうち、どちら側で調整するかを、求め、このどちら側で調整するかを含めて、演算結果として出力する。これによって作業者に明確な調整指示を与えることが可能になる。さらに振動を低減するように調整する過程において、ヘリコプタ2の振動の原因の1つである各ブレード3の先端の軌跡の上下差を小さくすることができ、ヘリコプタの振動を確実に低減することができる。
図6は、支援装置1を用いて振動低減方法に従って、ヘリコプタ2の振動を低減する試験の結果を示すグラフである。ここでは、効果確認のため、意図的に調整前の振動を大きくしている。図6には、調整要素4〜5の調整前後の振動に関する状態量Zの変化を示すグラフであり、各加速度センサ10a〜10cによって検出される振動データを示す。また図6には、前述のように振動の低減に用いられる第1〜第3の加速度センサ10a〜10cに加えて、第4および第5の加速度センサ10e,10fを設けて、その検出結果についても確認した。ここでは、第4および第5の加速度センサ10e,10fは、振動低減の調整に用いたわけではなく、振動低減の確認のために用いている。第4および第5の加速度センサ10e,10fは、z方向の振動を検出可能にヘリコプタ2のキャビンに設けた。ヘリコプタ2では、仕様として振動の許容値が設定されている。図6から明らかなように、各加速度センサ10a〜10c,10e,10fの検出結果が、調整後には、調整前に比べて極めて小さくなり、かつ許容値を大きく下回り、振動の低減効果が高いことがわかる。
図7は、支援装置1を用いて振動低減方法に従って、ヘリコプタ2の振動を低減する試験の結果を示すグラフである。図7(1)は、第1の加速度センサ10aによる検出結果を示し、図7(2)は、第2の加速度センサ10bによる検出結果を示し、図7(3)は、第3の加速度センサ10cによる検出結果を示す。また図7には、各飛行条件毎の検出結果を示し、×付きの線で、調整前の検出結果を示し、■付きの線で、1回目の調整後の検出結果を示し、△付きの線で、2回目の調整後の検出結果を示す。図7から明らかなように、各飛行条件において、1回目の調整後には、調整前に比べて振動が大きく低減され、2回目の調整後には、振動がさらに低減されている。このように2回の調整という少ない調整回数で、各飛行条件において、仕様を満足するように振動を低減可能であることが分かる。調整回数が少ないということは、試験飛行の飛行回数が少ないということを意味する。
図8は、支援装置1を用いて振動低減方法に従って、ヘリコプタ2の振動を低減する試験の結果を示すグラフである。図8は、図7の試験で対象としたヘリコプタ2とは、異なるヘリコプタ2における結果を示す。図8(1)は、第1の加速度センサ10aによる検出結果を示し、図8(2)は、第2の加速度センサ10bによる検出結果を示し、図8(3)は、第3の加速度センサ10cによる検出結果を示す。また図8には、各飛行条件毎の検出結果を示し、×付きの線で、調整前の検出結果を示し、■付きの線で、1回目の調整後の検出結果を示し、△付きの線で、2回目の調整後の検出結果を示す。図8の例では、1回目の調整では、図7に比較して振動が小さくなっていない箇所、たとえば図8に、I、IIで示す箇所がある。これは、基本伝達特性T0と対象機体の実施の伝達特性との間に差があり、精度が悪くなっていることを示している。このような場合、同じ基本伝達特性T0を用いて調整量Uを算出していく場合には、調整回数が増加する。これに対して、本発明に従って徴整量Uを算出して調整した場合、図8に、III、IVで示すように、1回目での調整の精度が悪くなっていた箇所においても、2回目の調整では、十分に振動が小さくなっている。これは、1回目の調整による調整結果に基づいて生成される算出用伝達特性Tcを用いて調整量Uを算出したことによるものであり、本発明がその効果を十分に発揮していることを示している。結果として、2回という少ない調整回数で各飛行条件および各センサ10a〜10cの位置において、振動を低減可能であることがわかる。
図9は、支援装置1を用いて振動低減方法に従って、ヘリコプタ2の振動を低減する試験の結果を示すグラフである。図9には、図8に結果を示すヘリコプタ2の場合の例を示す。図9は、伝達特性の学習機能の効果を示すためのグラフであり、基本伝達特性T0、1回更新の算出用伝達特性Tc(図9では、符号「Tc1」で示す)および2回更新の算出用伝達特性Tc(図9では、符号「Tc2」で示す)をそれぞれ用いた場合の調整後の予測値と調整前後の検出結果とを示す。図9では、図8の試験の結果に、基本伝達特性T0、1回更新の算出用伝達特性Tc1および2回更新の算出用伝達特性Tc2を適用して調整結果をシミュレーション予想した場合と、実際の試験飛行で検出した結果との振動データの平均誤差を示す。図9に示す誤差は、各飛行条件および各センサ10a〜10cの誤差を平均したものである。
図9から明らかなように、前記式(13)を用いて算出用伝達特性Tcを生成することによって、予測値と、実測値である検出結果との差異が小さいことがわかる。これは前記式(13)を用いて算出用伝達特性Tcを生成する機能が有効に働くことを意味している。したがって基本伝達特性T0と、調整の対象となっているヘリコプタ2の実際の伝達特性とが異なる場合に有効であることがわかる。
前述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲内で構成を変更することができる。たとえば本発明の実施の他の形態では、コンピュータを、前述の振動低減支援装置1として機能させるためのプログラムとして実施するようにしてもよい。またヘリコプタ2の構成は、限定されるものではなく、3枚または5枚以上のブレードを有するヘリコプタであってもよい。また振動に関する状態量を検出する加速度センサ10a〜10cの設置数および設置位置などは、限定されるものではなく、他の位置であってもよい。また検出手段として、加速度センサ以外の構成を用いてもよい。またヘリコプタ2の振動を低減するにあたって、前述のようにメインロータ9に関する調整要素4〜6以外の調整要素を調整する構成であってもよい。たとえばテールロータに関する調整要素を調整するために実施されてもよい。