JP4581127B2 - パルスレーザーを用いた火災の消火方法 - Google Patents
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駆動されたブラスト波は空間中を減衰しながら伝播し,その背後に流れを誘起する(非特許文献2及び3参照)。
また、一般に,実際の火災でみられる燃焼形態は拡散火炎である。そのため、本発明の実証実験には、実際の火災で観察される拡散火炎の模擬火炎を用いて行う。その拡散火炎は、火炎面部分と基部部分との2つの部分に分けられる。火炎面部分は対向流拡散火炎によって模擬できる。基部部分は、対向流拡散火炎の中心部分に固体を埋め込むことで、よどみ流中に形成した火炎基部を有する拡散火炎によって模擬できる(非特許文献5及び8参照)。
Schmieder, R., J. Appl. Phys. 52 (4):3000-3003 (1981) Jiang, Z., Takayama., K., Moosad, KPB.,Onodera, O. and Sun, M., Shock Waves 8: 337-349 (1998). G. I. Kinney, Explosive shocks in Air,The Macmillan Company (1962). 鳥飼, 北島, 竹内, 第42回燃焼シンポジウム講演論文集,pp.77-78 (2003). Tsuji, H., Prog. Energy Comb. Sci. 8: 93-119 (1982). Ishizuka, S. and Tsuji, H., Proc. Comb. Inst. 18: p.695(1981). 鳥飼・松尾・植田・溝本,機論(B編) 67-663: p.216(2001). 鳥飼・松尾・植田・溝本,機論(B編) 68-666: 610-618(2002).
しかし、レーザー消火の基本となるレーザー誘起ブラスト波と火炎の消炎現象との関係について、ほとんど研究がなされておらず、レーザー消火を実現するためには基礎的な消炎特性の検討が必要であり、本発明においては、レーザー誘起ブラスト波を発生させ効率よく火炎を消炎させる方法を提供する。
そして、本発明は、消火対象の具体的な火炎形態としては、拡散火炎の基礎特性を検討するのに最も適した対向流拡散火炎とよどみ流に形成される火炎基部を有する拡散火炎を用いて行った結果得られた知見に基づくものであり、以下の発明を提供するものである。
[1]くり返し発振型高出力パルスレーザーを、拡散火炎の火炎基部から少なくとも数mm離れ、且つ火炎基部からの距離Zrが下記の式(1)を満たすところにある固体に照射し、固体のアブレーションを生じさせることでブラスト波を駆動し、そのブラスト波を火炎基部にぶつけることで火炎を吹き飛ばすことを特徴とする火災の消火方法。
(式1)
Z r <Z c =(E laser /P 0 ) 1/3
(式中、E laser はブラスト波を駆動するのに使用されたレーザーエネルギ、P 0 は大気圧である。)
[2]前記固体は、火元の固体であることを特徴とする[1]の火災の消火方法。
[3]くり返し発振は、10Hz以下であり、パルスレーザーの照射時間が、3〜10ナノ秒/パルスであることを特徴とする上記[1]又は[2]の火災の消火方法。
(1) レーザー消火では水を使用しないため、水損を回避したい消火活動時に有効である。
(2) レーザー消火ではレーザー光さえ火源に到達すればよく、水のような質量をもつ物質を火源まで到達させる必要のある消火方法に比べ、より火源から離れた位置から消火活動を行うことができる(超長距離消火)。
(3) レーザー消火に気体のブレイクダウンを用いる場合は、必ずレーザー光を集光し無ければならないのに対して、固体のアブレーションを利用する場合、固体のアブレーションが生じるしきい値以上のエネルギ密度を有するレーザー光を、集光せずに火炎の近傍の固体に照射すれば,確実にブラスト波を発生させることができる。固体のレーザーアブレーションによる消火は、気体のブレイクダウンによるレーザー消火に比べ、必ずしも集光させる必要ないので簡単である。
(4) レーザー消火では、消火位置及び消火タイミングを精緻にコントロールすることができ、火炎の安定性を支配する火炎基部部分を局所的に狙って消火することができる。
(5) 災害時に、ライフラインが切断され、水源の確保が困難な場合でも、レーザー消火は,消火源が電気であるため,液体燃料等で起動する簡易な発電機器さえあれば消火活動を行うことが可能である。
(6) レーザー消火の消火源は電気であるため、保管や輸送に水や消火剤のように大きな容積を必要とせず、消火装置をコンパクトにすることができる。これは、レーザー消火の場合、車やヘリコプターなどの輸送機器による消火装置の持ち運びが容易となることを意味する。
(7) 通常の水や、消火剤による消火活動では、それらを放出する場合、放水手や機体への反力が生じる。しかし,レーザー発振は無反動であるため、レーザー消火では、消火活動に伴う反動が全く生じない。これは、ヘリコプターなどの機上からの消火活動に有利である。
(8) 火薬類を用いた消火方法は、レーザー消火と同様に、ブラスト波を用いて火災を消火する。しかし、火薬は保管、取り扱いが容易ではないため、レーザー消火の方が簡便である。そしてまた、くり返しレーザーさえあれば、1秒当たり数十〜数百Hzの速さでくり返し、レーザーブラスト波を形成し、火炎を消火することができる。
本発明で用いることのできるレーザとしては、Nd:YAGレーザー(波長λ=1.06μm,532nm)CO2レーザー(λ=10.6μm)等の繰り返し発振型高出力レーザが挙げられる。レ−ザーの発振時間(Pulse duration)は、先に述べた気体のブレイクダウンまたは固体のアブレーションが生じるだけの単位体積、単位時間当たりのエネルギ密度が大きくなるように、1パルス当たりナノ秒以下のオーダーが望ましい。
レーザーのくり返し発振の周波数は、10Hz以下であることが望ましく、パルスレーザーの照射時間が、3〜10ナノ秒/パルスとくに6ナノ秒/パルス程度が好ましい。
レーザの強さは、気体がブレイクダウンを生じ、固体がアブレーションを生じるだけのエネルギー密度が必要である。空気のブレイクダウンでは、レーザー光の波長を532nm(Nd:YAG レーザーの第2高調波)とした場合、集光位置において1012 W/cm2以上のエネルギ密度が必要となる。また、固体をアブレーションさせるためには、1010〜1011 W/cm2以上のエネルギ密度が必要である。
また、ブラスト波を当てる火炎部位は、火炎面よりも火炎基部の方が消火確率が高くなる。
ブレイクダウン・ポイントまたはアブレーション・ポイントは、火源から少なくとも数ミリ程度離れていることが望ましい。離れすぎていると、消火確率は低下し、近すぎると消火されず、逆に着火する恐れがある。
火源で形成されている火炎の燃焼強度(消え難さ)が大きいほど、それに応じて1パルス当たりのレーザーエネルギを増加する必要がある。例えば、1パルス当たり約200mJ程度エネルギならば、燃料濃度40%程度にまでに希釈されたメタンの気層燃焼の火炎が消火できる。プロパンでは、25%程度まで希釈された火炎を消火することができる。
ブラスト波の強さは、ブラスト波の形成位置(ブレイクダウン・ポイント)から、少なくとも数mm以上の距離を伝播する程度が望ましい。
火炎近傍の固体としては、火元の固体が望ましい。固体の場合は、集光しなくとも、ブラストが起こる.そのためレーザー消火の操作が簡単になるメリットがある。
図1に,本発明の検討に用いたレーザー装置と光学系の配置を示す。レーザーはQ-switched Nd:YAG Laser (BM Industry PVL200,波長:532nm, パルス幅[FWHM]:6ns 最大くり返し周波数:10Hz)を使用した。レーザー光は2枚の平面ミラーで折り返され、テストセクションへ伝送した。気体に集光する場合は、火源を形成する燃焼器側方より水平に伝送した。固体に集光する場合は、燃焼器に対して斜め45度上方から、燃焼器の壁面へ打ち下ろした。集光には、焦点距離f=100mmとf=200mmの平凸レンズを用いて集光した。レーザー出力はエネルギメータ(Scientech PHD50)を用いて測定された。本発明では、レーザー射出口でのエネルギが200mJ/pulse一定となるようにレーザーを調節して消火実験を行った。このとき集光レンズを透過しテストセクションに投入されるレーザーエネルギは約170mJ/pulseであった。
本発明では、図2に示す軸対称衝突噴流バーナを用いた。このバーナーは、実際の火災で観察される拡散火炎の火炎部位を模擬できる。対向流拡散火炎そして中心に火炎基部を有する拡散火炎を形成することができる。この軸対称衝突噴流バーナは、バーナリムが存在せず、また基部がHole状に形成されエンド・エフェクトが存在しないため、火炎基部を有する拡散火炎の研究に適している。また対向流拡散火炎の研究にも適している。
上方に直径40mmの円形ノズル、その30mm下方に衝突平板を設けた。衝突平板には多孔質板を埋め込み、燃料と不活性ガスの混合気を噴出した。
上方ノズルから酸化剤である空気を噴出した。この衝突平板は着脱可能であり、多孔質板の中心に金属円板を埋め込んだ衝突平板を用いた場合、火炎基部を有する拡散火炎を形成できる。また多孔質板のみが埋め込まれた衝突平板(di=0mm )を用いた場合、対向流拡散火炎を形成できる。
本実験では火炎基部を有する拡散火炎を形成するのに直径di=10mmの円板が埋め込まれた衝突平板を用いた.衝突平板には熱電対を埋め込み平板温度をモニターした。実施例は平板が50℃以下の条件で行った。
本発明では、気体のブレイクダウンに消火する場合、空気噴流中の中心軸上にブレイクダウン・ポイントを設定した。固体のアブレーションによる消火する場合、火炎基部を有する火炎を用い、多孔質円板中心に埋め込んだ固体円板上中心にアブレーション・ポイントを設定した。
火炎を形成した場合、燃焼ガスが浮力により上方に排出される。そのため、燃焼ガスが空気流が火炎や燃焼ガスに囲まれた場合、レーザー光路と高温ガスが干渉しブレイクダウンの再現性を低下させる。そこで、衝突平板周囲に余分な火炎及び燃焼ガスを吸引するサクション部を設け、高温ガスがレーザー光路に干渉しないようにした。
燃料にはメタンと比較的反応性の高いプロパンを用いた。燃料の希釈剤には窒素を用いた。各ガスの流量調整はマスフローコントローラ(Brooks 5850/ 5851E )で行った。燃料噴出速度vf[cm/s]、空気流速Uo[m/s]は各流量を各断面積で除した値とした。座標はバーナ中心、衝突平板上の点を原点とし、上向きをz軸、半径方向をr軸とした。
本発明の実施例では、次のパラメータを変化させた。
(気体のブレイクダウンによるレーザー消火)
1)火炎形状は,対向流拡散火炎(di=0mm)と火炎基部を有する拡散火炎(di=10m)の2種類を用いた。
2)反応性の異なるメタン,プロパンの2種類の火炎を用いた.
3)燃料濃度Xf[%](Xfは上限100%からその下限となる限界燃料濃度(Xf)cの範囲内で変化させた。(Xf)cはどのような条件にしても火炎を形成できない限界の燃料濃度を意味する。本バーナでは、CH4の場合(Xf)c-CH4=22%,C3H8の場合(Xf)c-C3H8=13%であった)
4)空気流中心軸上のブレイクダウンポイントの位置:Zb[mm](Zbは10〜20mmまでの範囲で変化させた)
5)半径方向のブレイクダウン・ポイントの位置rb[mm](Zxは,噴流中心から±5mmの範囲で変化させた)
6)集光レンズの焦点距離を変化させた。使用した焦点距離は100mmと200mmのものを使用した。
7)くり返し周波数を変化させた。単発発振から10Hzまで変化させた。
レーザ消火の実験の方法は次のように行った。レーザーを単発発振して実験を行う場合、レーザー消火実験は、火炎を形成した後にレーザーを単発で発振し、ブレイクダウンを生じさせ火炎が消炎したかどうかを目視によって判断して行った。この操作を1つのパラメータに対し50〜100回くり返し、消火に成功した回数を記録した。くり返し発振を行う場合は、5秒間、設定したレーザー発信周波数でレーザー発振を維持し、火炎が消炎した場合を消火成功とした。くり返し発振の場合も、1つのパラメータに対して50〜100回くり返し、消火に成功した回数を記録した。
(固体のアブレーションよるレーザー消火)
燃料にはメタンを使用し,燃料濃度Xf[%]を変化させた(Xfは上限100%からその下限となる限界燃料濃度(Xf)cの範囲内で変化させた。(Xf)cはどのような条件にしても火炎を形成できない限界の燃料濃度を意味する。本バーナでは、CH4の場合(Xf)c-CH4=22%,C3H8の場合(Xf)c-C3H8=13%であった)
レーザ消火の実験の方法は、先の気体のブレイクダウンを用いた消火方法と同様である。
消火対象とした対向流拡散火炎について説明する。図3は対向流拡散火炎を側方から撮影した直接写真である。図3より火炎全体が平面形状をしていることがわかる。
(火炎基部を有する拡散火炎の特徴)
次に、消火対象とした火炎基部を有する拡散火炎について説明する。図4は火炎基部を有する拡散火炎を側方から撮影した直接写真である。写真中央そして衝突平板近傍に火炎基部が形成されている。これは火炎基部から固体壁面への熱損失が生じていることを示しており、火炎基部の一般的な性質である。
図5に設定した各vf での火炎位置Zfを示す。図5から、対向流拡散火炎では、Zfは燃料種またXfの値に関係なくほぼ一定値(約5mm)を示すことがわかる。
火炎基部を有する拡散火炎では、火炎基部の位置をZfとして測定している。図5から、火炎基部のZfが燃料濃度に関係なく多孔質板からの距離約1mm程度の高さに形成されていることがわかる。
図6にデジタルビデオカメラ(Shutter speed:1/60 s, Frame rate:60Hz)で撮影したレーザー消火の消炎過程を示す。ここでの消火対象は対向流拡散火炎である。
図6(a)は安定に形成された対向流拡散火炎を示している。図6(b)は、火炎中央でブレイクダウンが生じていることを示している。図6(b)ではブレイクダウンで生じたプラズマ発光の輝度が大きく、相対的に輝度の小さい火炎は画像から視認できなくなっている。図6(c)ではレーザー誘起ブラスト波の影響によって、火炎中央に円形の局所消炎が形成されている。図6(d)では、形成された局所消炎が半径方向下流へと拡大している。図6(c),(d)において残存している火炎面には大きな変形は観察されない。図6(e)は、最終的に火炎全体が吹き飛ばされ消炎に至ったことを示す。ここで注目すべきことは、レーザー消火の消炎現象がmsecオーダーの時間スケールの撮影によってとらえられていることである。これはレーザー消火で観察される消炎現象がブラスト波の伝播等の高速現象に比べ、比較的遅い速度で生じていることを意味している。そしてこれは、レーザー消火において消炎を引き起こす原因が、ブラスト波によって誘起された流れによるものであることを指し示していると考えられる。
また、火炎基部を有する拡散火炎を、気体のブレイクダウンにより消火した場合も、同様の消火過程を示すことを実験から確認している。
はじめに、図7にメタン−空気対向流拡散火炎のXfの変化つまり火炎の燃焼強度の変化に対するレーザー消火の成功確率Pextを示し、基本的な消火特性を説明する。
図7から燃焼強度の増加に伴いPextの振る舞いは以下の3つの領域に分類できる。
(1) 消火領域・・・常にPextが100%の一定値を示す
(2) 消火不可能領域・・・常にPext が0%の一定値を示す
(3) 遷移領域・・・Xfの増加に伴いPextが単調に減少
上記の様な3領域に分けられるため、それらの領域を隔てる2つの限界値が得られる。1つが消火領域の上限界である消火限界(Xf)pである。これはレーザー消火で消火可能なXfの限界値を表す。他方は、消火不可能領域の下限界である消火不可能限界(Xf)iである。安全工学的にはレーザー消火によって火炎を完全に消化する能力を表す消火限界(Xf)pが重要であるといえる。
これらの消火特性は、燃料種がことなるプロパン火炎でも同様であった。また、火炎形態がことなる火炎基部を有する拡散火炎においても、定性的に全く同様の傾向を示した。
ブレイクダウンポイントの半径方向位置rbを変化させた場合の消火限界(Xf)p、消火不可能限界(Xf)iの分布を検討する。燃料には、メタンを使用した。集光レンズの焦点距離はf=100mmである。ブレイクダウンポイントの軸方向位置Zb=10mmとした。
図8にその結果を示す。図8から、消火限界(Xf)pそして消火不可能限界(Xf)iが、空気噴流中心に置いて最大値を示すことがわかる。そして、火炎中心からブレイクダウン・ポイントが半径方向に移動するのに伴い、両消火限界は徐々に低下する。
このように、火炎の中心(安定点)においてブレイクダウンを形成することが、レーザー消火では効果的に消火する場合に重要であることがわかる。
以下の施行例では、常にレーザー消火限界が最大値を示すrb=0mmの位置(空気噴流中心[よどみ流中心])においてブレイクダウン・ポイントを設定して実験を行った。
次に、ブレイクダウンポイントの軸方向位置Zbを変化させた場合の消火限界(Xf)p、消火不可能限界(Xf)iの振る舞いを検討する。消火対象は、メタン、プロパン対向流拡散火炎とした。集光レンズの焦点距離f=100mmとした。図9(a)、(b)にその結果を示す。図9の横軸は火炎面とブレイクダウンポイントとの相対距離Zr=(Zb
-Zf)として表した。
図9(a)、(b)から(Xf)p、(Xf)iのZrの変化に対する振る舞いは、燃料種によらず定性的にほぼ同様の傾向を示すことがわかる。Zrが相対的に小さく火炎とブレイクダウンポイントが近い場合、(Xf)pと(Xf)iはZrが増加しても顕著な減少を示さず、ほぼ一定に近い値を示す。つぎに、Zrが比較的大きい場合、(Xf)p、(Xf)iは減少傾向を示しはじめる。その各消火限界の振る舞いが変化を示すZrの値は約7-8mmであることが図9(a)、(b)からわかる。ここでその消火限界の振る舞いが変化をはじめるZrの値を(Zr)cとする。
以上のことから、レーザー消火ではできるだけ火源近傍にブレイクダウン・ポイントを設定することが効果的な消火を行うのに有効であることを示している。
上記の(Zr)cを境にして消火限界に2つの振る舞いが観察された理由は、ブラスト波が伝搬する距離よって減衰する傾向が変化することによると予想される。
一般に、ブラスト波はブレイクダウンポイントに極めて近い場合、衝撃波背後の圧力、温度等が極めて大きい。そのとき、それらの物理量はブラスト波が僅かな距離を伝搬するだけで急速に減衰する。
しかし、ブラスト波の強度が充分減衰し弱い衝撃波となると、伝搬距離に対する先の物理量の減衰の程度は著しく小さくなる。本発明においてブレイクダウンに投入した170mJ/Pulse程度のエネルギーでは、数mm程度でブラスト波は弱い衝撃波まで減衰すると予想される。その場合、顕著に減衰したブラスト波が誘起する流れの大きさは、ブレイクダウンポイントからの距離の変化に対して大きな差を示さないと考えられる。
従って、Zr<(Zr)cの領域では上記のような理由により (Xf)p、(Xf)iが顕著な変化を示さなかったものと考えられる。
そして、更にブラスト波がより遠くへ伝播した場合、ブラスト波背後の圧力は大気圧へと減衰してゆく。その結果、ブラスト波に誘起される流れの速度は極めて小さな値となり、ブレイクダウンポイントと火炎との距離の増加が、火炎への影響を小さくし、それに伴い消火限界の低下を生じはじめると考えられる。従って,Zr>(Zr)cの領域では、ブラスト波が減衰し極めて音波に近い擾乱へと変化していることを示していると考えられる。その場合、(Zr)cの7-8mmという値はブラスト波が音波へと減衰するブレイクダウンポイントからの特性距離を表すと考えられる。
過去の研究において、Schmiederは0.5J/PulseのCO2レーザーを用いてレーザー消炎の実験的検討を行っている。その時、Schmiederはレーザーブレイクダウンによって誘起されたブラスト波が擾乱へと変化するブレイクダウンポイントからの特性距離を以下の式で与えている。
(数式1)
ここでElaserはブラスト波を駆動するのに使用されたレーザーエネルギ、P0は大気圧である。本発明も上式を用いて、レーザーより供給されたエネルギElaser、によって形成されたブラスト波の特性距離Zcを求める。P0には大気圧0.101MPaを代入し,Elaser には投入したエネルギの30%〜50%とがブラスト波の駆動に使用されたと仮定し、170mJの30%〜50%の値を代入した。算出されたZcの値を図9(a)、(b)に一点鎖線で示す。その結果、図9から各消火限界の振る舞いの変化から得られた(Zr)cの値と計算したZcの値に定量的に良い一致を示すことがわかる。
以上から、代入したElaserの値は仮定したものではあるが,非現実的な値ではなく、消火限界のZrに対する振る舞いの変化が、上記で推測したようにブラスト波の減衰過程の変化に起因していると考えることは比較的妥当だと考えられる。
また、消火限界値の全てにおいて,反応性の高いプロパンの方がメタンより低い値を常に取っており、(Xf)p、(Xf)iの値も,燃料種の反応性の大きさに相関を有していることがわかる。
焦点距離fを変化させてレーザー消火による実験を行った結果を示す。消火対象は、メタン対向流拡散火炎を使用した。ブレイクダウンポイントの軸方向位置Zb=10mmとした。
結果を図10に示す。図10から焦点距離が長いf=200mmの場合の方が、レーザー消火の消火限界が低下することがわかる。これは,気体のブレイクダウンを用いたレーザー消火では、焦点距離が長くなるほど、同一のエネルギ量では消火能力が低下することを意味している。この原因としては、焦点距離が長くなるほど、レーザーが集光された時に形成されるプラズマの形状が長楕円形状となり、レーザーのエネルギ密度が低下し、形成されるブラスト波の強度が弱くなったためと考えられる。
このことから、気体のブレイクダウンによるレーザー消火では、レーザーを集光するレンズまたはミラーなどの焦点距離が短い方が、効果的に消火できることがわかる。そして、長焦点の集光レンズまたはミラーを用いるときは、より大きなレーザーエネルギーが必要となることを示している。
その結果を図11に示す。図11から消火が可能な総ての燃料濃度において、火炎基部を有する拡散火炎の方が、対向流拡散火炎よりレーザー消火確率が常に高いことがわかる。これはレーザー消火により、火炎基部を有する拡散火炎の方が対向流拡散火炎よりも消火しやすいことを示している。これは、火炎基部が固体への熱損失があることから、燃料濃度が同一であっても、燃焼強度が対向流拡散火炎より低下しているためである。
このことから、レーザー消火を行う場合、その消火ポイントとして、火炎基部に狙いを定めて行うことが効果的であることがわかる。
レーザーをくり返し発振し、ブレイクダウンを繰り返して生じさせることによる、対向流拡散火炎のレーザー消火実験を行った。
消対象は、燃料濃度を固定したメタン対向流拡散火炎とした。集光レンズの焦点距離fは100mmとした。軸方向ブレイクダウンポイントZbは、12mmとした。くり返し周波数は、単発発振を0Hzとして、最大10Hzまで増加させた。またパラメータとして、燃料濃度Xfは40%〜70%まで変化させた。
その結果を図12に示す。縦軸はレーザー消火成功確率、横軸はレーザーのくり返し発信周波数である。
図12から、燃料濃度Xf40-50%の火炎では、レーザーのくり返し周波数が増加するほど、単調に消火の成功確率が増加することがわかる。それに対して、燃料濃度が60%以上では、5Hzまでは、増加する傾向を示すが、それ以上にレーザー発振周波数が増加すると、レーザー消火成功確率が低下することがわかる。これは、火炎の燃焼強度が増した場合、数発のレーザーパルスでは消炎しない火炎が、くり返しくるレーザーパルスと干渉し、ブレイクダウンで生じるブラスト波の形成を難しくする事による。
このように基本的に、レーザーのくり返し発振の周波数の増加は、レーザー消火の成功確率を増加させる。
レーザーをくり返し発振し、ブレイクダウンを繰り返して生じさせることによる対向流拡散火炎のレーザー消火テストを行った。消火対象は、燃料濃度Xf=40%のメタン対向流拡散火炎とした。集光レンズの焦点距離fは100mmとした。くり返し周波数は、単発発振を0Hzとして、最大10Hzまで増加させた。パラメータとして軸方向ブレイクダウンポイントZbは、12mm〜20mmまで変化させた。
その結果を図13に示す。縦軸はレーザー消火成功確率、横軸はレーザーのくり返し発信周波数である。
図13から、総てのZbで、レーザーの発振周波数が増加するほど、レーザー消火の成功確率が増加することがわかる。特に、Zb=20mmでは、単パルス発振では到達するブラスト波が弱く、レーザー消火の成功確率0%であるが、レーザー発振周波数を増加させることにより、消火成功確率を70%程度まで増加させることができた。
このように、レーザー発振周波数を増加させることによって、単発のパルス発振によるレーザー消火では消火できない火炎とブレイクダウンポイントとの距離からでも、消火できることがわかる。
固体のアブレーションによるレーザー消火の消火過程を図14に示す。画像はデジタルビデオカメラ(Shutter speed:1/60 s, Frame rate:60Hz)で撮影した。ここでの消火対象、約直径10mmの火炎基部を有する拡散火炎である。火炎の燃料濃度Xfは40%に設定してる。固体のアブレーションの場合、気体のように必ずしも集光レンズを用いなくてもよいが、消火が可能となるブラスト波を形成するために焦点距離f=100mmの集光レンズを用いてレーザービームを固体表面に集光している。
図14(a)は安定に形成された対向流拡散火炎を示している。図14(b)は、中心円板上で、アブレーションが生じていることを示している。図14(b)ではアブレーションによるプラズマ発光と、固体壁面で反射するレーザ光によって、相対的に輝度の小さい火炎は画像から視認できなくなっている。図6(c)ではアブレーションによって形成されたレーザー誘起ブラスト波の影響によって、火炎中央部分が、半径方向下流に吹き飛ばされはじめていることがわかる。図6(d)−(K)までの間に、吹き飛ばされる火炎の領域が拡大してゆき、最終的に図14(l)で、火炎全体が消炎している。
火炎全体が消火されるまでに経過した時間は、気体のブレイクダウンによるレーザー消火によって消火した場合より大きく、0.2秒ほどで消火した。
このように、固体のアブレーションによるレーザー消火においても、消火現象がmsecオーダーの時間スケールの撮影によってとらえられた。これはアブレーションによるレーザー消火で観察される消炎現象がブラスト波の伝播等の高速現象に比べ、比較的遅い速度で生じていることを意味している。つまり,レーザー消火において消炎を引き起こす原因が、ブラスト波によって誘起された流れによるものであることを指し示している。
以上から、固体のアブレーションによるレーザー消火は、その消火時間が気体のブレイクダウンによるレーザー消火に比べ増加したが、観察された現象の本質は同様であると考えられる。
図15にメタン−空気の火炎基部を有する拡散火炎のXfの変化つまり火炎の燃焼強度の変化に対するレーザー消火の成功確率Pextを示す.
図15から燃焼強度の増加に伴いPextの振る舞いは以下の3つの領域に分類できる。
(1) 消火領域・・・常にPextが100%の一定値を示す
(2) 消火不可能領域・・・常にPext が0%の一定値を示す
(3) 遷移領域・・・Xfの増加に伴いPextが単調に減少
上記の様な3領域に分けられるため、それらの領域を隔てる2つの限界値が得られる。1つが消火領域の上限界である消火限界(Xf)pである。これはレーザー消火で消火可能なXfの限界値を表す。他方は、消火不可能領域の下限界である消火不可能限界(Xf)iである。安全工学的にはレーザー消火によって火炎を完全に消化する能力を表す消火限界(Xf)pが重要であるといえる。
これらの消火特性は,気体のブレイクダウンによるレーザー消火と定性的に全く同様の傾向を示している.従って,気体のブレイクダウンと定性的には同様の消火特性を示すことが考えられる.例えば,レーザー発振くり返し周波数を増加することにより,同じ燃焼強度の火炎に対して消火成功確率を増加させることができると考えられる.
レーザー及び光学系は図1に示したものを用い、アクリル板を燃焼させて拡散火炎を形成したこと、またアクリル自体にレーザーを照射したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。ただし、集光レンズの焦点距離f=100mm、レーザーは単一発振とした。アクリル材には光を透過しない黒色の三菱レイヨン社製のアクリライトLを使用した。アクリル板の厚みは4 mmとした。
図16にアクリルの設置・燃焼方法そしてレーザーの照射位置を示す。
アクリル板は鉛直方向に設置し鉛直下向きに火炎を伝播させた。消火実験のパラメータとして火炎の大きさを変えた。そのために図16で示すアクリル板の燃焼領域(熱分解領域)の幅wと高さhを変化させた。wは10、
12、 15、 20 mmの4段階で変化させた。hは10mm〜37mmまで変化させた。また厚さ1.3mmのアルミニウム板をアクリル板の片面に密着させて配置することにより燃焼を抑制し、燃焼領域つまり火炎が常にレーザーの照射面側に形成されるようにした。レーザー光はアクリル板に垂直に照射した。またレーザー集光位置つまりアブレーション形成位置は、燃焼領域最下端(火炎基部)から更に5 mm下方の位置に設定した。
消火実験は以下の手順で行った。はじめにアクリル板に着火し火炎を下方へ伝播させた。そして、火炎の最上流端に位置するアクリル板角部の火炎基部が、アブレーション形成位置から上方5 mmの距離に達したときにレーザーを単一発振した。そして、レーザーブレーションによって火炎が消火されたかどうかを目視で確認し、消火された場合を成功、消火されない場合を不成功とした。1つのパラメータにつき3〜20回の実験をくり返した。
図17に示すアクリル板を燃焼させて形成した拡散火炎のレーザーブレーションによる消火過程を示す。一連の画像はデジタルビデオカメラ(Shutter speed: 1/60 sec、 frame rate: 60 Hz)を用いて直接撮影した。図17の実験条件は、燃焼領域の幅wが10 mm、燃焼領域高さhが20 mmである。図17(a)は、レーザー発振直前のアクリル表面上を下方に伝播している拡散火炎を示す。図17(b)は、レーザーブレーションによって形成されたプラズマからの発光を示す。図17(c)は、拡散火炎の基部がレーザーブレーションによるブラスト波によって下流へと吹き飛ばされた様子を示す。そして図17(d)は、更に火炎が下流へと押し流され火炎全体が吹き飛び、全体消炎が生じたことを示す。このようにアクリル板上に形成された拡散火炎をレーザーブレーションにより吹き飛ばして消火することができた。
図18に、アクリル板の幅wを20mmに固定し、燃焼領域の高さhを変化させて火炎の大きさを変えた場合に得られるレーザー消火成功確率Pextの分布を示す。
図18に示したように、アクリル板の燃焼領域の高さhが増加するのに伴いPextが単調に減少した。燃焼領域の高さhの変化に対して3つの領域に分類できる。
(1)消火領域・・・Pextが100%の値を示す
(2)消火不可能領域・・・Pextが0%の値を示す
(3)遷移領域・・・hの増加に伴いPextが単調に減少
この結果は、実施例1及び実施例2と定性的に同様であり、レーザー発振の繰り返し周波数を増加することにより、同じ燃焼条件の火炎に対して消火成功確率を増加させることができると考えられる。
図19は、図18における消火領域と遷移領域の境界となる消火限界の条件で、各アクリル板幅に対して形成された火炎の大きさ(火炎基部から火炎頂点までの高さ)を火炎高さhfとして測定した結果を示す。つまり、hfは本実験条件で100%の確率で消火できる拡散火炎の限界の大きさを示す。図19から、燃焼領域の幅wが10mmの場合、火炎の高さは約60mmまで消火でき、またw=20mmの場合は火炎高さ約40mmまで消火できたことがわかった。
Claims (3)
- くり返し発振型高出力パルスレーザーを、拡散火炎の火炎基部から少なくとも数mm離れ、且つ火炎基部からの距離Zrが下記の式(1)を満たすところにある固体に照射し、固体のアブレーションを生じさせることでブラスト波を駆動し、そのブラスト波を火炎基部にぶつけることで火炎を吹き飛ばすことを特徴とする火災の消火方法。
(式1)
Z r <Z c =(E laser /P 0 ) 1/3
(式中、E laser はブラスト波を駆動するのに使用されたレーザーエネルギ、P 0 は大気圧である。) - 前記固体は、火元の固体であることを特徴とする請求項1に記載の火災の消火方法。
- くり返し発振は、10Hz以下であり、パルスレーザーの照射時間が、3〜10ナノ秒/パルスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の火災の消火方法。
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