JP4562279B2 - イオン付着質量分析の方法および装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はイオン付着質量分析の方法および装置に関し、特に、ガスの成分・濃度を正確に測定するイオン付着質量分析の方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
イオン付着質量分析装置(Ion Attachment Mass Spectrometer )は、解離を発生させずに被検出ガスを質量分析することができるという特性を有する。従来より、Hodge(Analytical Chemistry vol.48 No.6 P825 (1976) )やBombick(Analytical Chemistry vol.56 No.3 P396 (1984))、藤井(Analytical Chemistry vol.61 No.9 P1026 (1989)、Chemical Physics Letters vol.191 No.1.2 P162 (1992)、特開平6-11485号公報)によりイオン付着質量分析装置の報告がなされている。
【0003】
図5に従来のイオン付着質量分析装置の代表的構成を示す。イオン付着質量分析装置は一般にエミッタ111と反応領域112と質量分析器113と質量分析制御部(電源)114とデータ処理装置115と被検出ガスボンベ116と冷却用ガスボンベ117を備えている。エミッタ111は反応領域112内の中央に配置されている。反応領域112は容器110の図中左半部に設けられ、上記質量分析器113は容器110の右半部に設けられている。容器110の左側が上流側となっている。エミッタ111はアルカリ金属の酸化物を含む材料、例えばLi酸化物とSi酸化物とAl酸化物の混合物から構成されている。エミッタ111が加熱されると、Li+などの正電荷の金属イオンが空間に放出され、反応領域112に存在している被検出ガスに付着して金属イオンの付着したガスが生成される。この時に、金属イオンの付着したガスを原子レベルで冷却して安定化させるために、被検出ガスとは別にN2など不活性なガスを冷却用ガスとして冷却用ガスボンベ117から反応領域112に導入する。
【0004】
金属イオンの付着したガスは全体として正の電荷を持ったイオンとなり、その質量は被検出ガスと金属イオンの各質量が加算された値となる。例えば、H2OであればH2OLi+となり、H2Oの18amu(atomic mass unit:原子質量単位)にLiの7amuが加えられた25amuとなる。このようにして全体として正の電荷を持つイオンとなった被検出ガスは、質量分析器113により質量数毎に分別されて検出され、その信号強度が質量分析制御部114内の計測器により計測される。質量分析制御部114内の計測器からは、質量数と質量数に対応する信号強度のデータがデータ処理装置115に送られる。
【0005】
データ処理装置115では、上記の信号強度のデータに対して各種の処理が行われる。最も基本的な処理としては、マススペクトルを表示するため、横軸に質量数を、縦軸にその質量数に応じた信号強度をとってグラフ化するものである。
このとき、信号強度を規格化し、あるいは特定質量数のみを表示するなどの処理も必要に応じて行われる。なお、イオン付着質量分析装置によるマススペクトルには、被検出ガスのピーク以外に冷却用ガスのピークやガスに付着しなかった金属イオンのピークも出現する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
多くの元素は特定の1つの質量だけを持っている元素が存在するのではなく同一の元素であっても前後に1〜3amuだけ異なる質量を持つ元素が存在する。これらの元素は同位体として知られており、Liは質量が7amuである原子以外に質量が6amuである同位体をわずかに持っている。なお、同位体は中性子の数が異なるだけで陽子・電子の数は同じであるため質量という物理的な性質は異なるが、化学的性質はほぼ同一である。
【0007】
従って、先のH2Oの例を正確に言えば、Li+イオンが付着すると25amuだけでなく24amuのイオンも発生する。これらは通常の測定では特に問題とはならないが、状況によっては深刻な問題となる。例えば、H2Oより1amuだけ小さなOHがH2Oの中に含まれているかどうかを調べたいときには、微量の7amuの質量のLi+イオンが付着したOHは6amuの質量のLi+の同位体が付着したH2O同位体の信号と重なりOHの有無が判別困難となる。
【0008】
これらの状況を図6に示す。図6の(A)は付着する金属イオンに同位体のない場合のスペクトルである。ピーク118は同位体のない金属イオンのスペクトルであり、ピーク120はOHに同位体のない金属イオンが付着したもののスペクトルであり、ピーク121はH2Oに同位体のない金属イオンが付着したもののスペクトルである。この場合にはH2OとOHのピーク高が正確に出力している。
【0009】
図6の(B)は付着する金属イオンが同位体のあるLi+の場合のスペクトルである。ピーク122は質量が7amuのLi+イオンのスペクトルであり、ピーク123は質量が6amuのLiの同位体のイオンのスペクトルである。また、ピーク124はH2Oに質量が7amuのLi+イオンが付着したもののスペクトルであり、ピーク125はOHに質量が7amuのLi+イオンが付着したもののスペクトルとH2Oに質量が6amuのLiの同位体のイオンが付着したもののスペクトルが重なったものである。
【0010】
図6の(B)で明らかなように、同位体のある金属イオンを用いる場合には、OHに7amuの質量のLi+イオンが付着したものによるスペクトルとH2Oに6amuの質量のLi+イオンが付着したものによるスペクトルが重なって出力されており、これらを区別することが困難である。
【0011】
本発明の目的は、上記問題を解決するため、同位体の存在する金属イオンを付着用イオンとした場合でも、正確な同位体付加率を得ることができ、また、被検出ガスの成分・濃度を正確に測定できるイオン付着質量分析の方法および装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るイオン付着質量分析の方法および装置は、上記の目的を達成するために次のように構成される。
【0013】
第1のイオン付着質量分析の方法(請求項1に対応)は、正電荷の金属イオンを付着させた被検出ガスを質量分析して得られる質量数に対応する信号強度のデータ処理を、金属イオンの同位体付加率のデータを使用して行うイオン付着質量分析の方法であり、データ処理に使用する金属イオンの同位体付加率を、イオン付着質量分析法における金属イオンが付着したガスのマススペクトルから求め、金属イオンが付着したガスとして、被検出ガスとは別に反応室に導入される他のガスを使用し、他のガスは金属イオンが付着したガスと冷却用ガスを兼用していることで特徴づけられる。これにより、同位体の存在する金属イオンを付着用イオンとした場合、被検出ガスの成分・濃度を正確に測定することができる。
【0014】
第2のイオン付着質量分析の方法(請求項2に対応)は、上記の方法において、好ましくは、他のガスはN 2 ,Ar,Heのうちの1つであることで特徴づけられる。
【0019】
第3のイオン付着質量分析の方法(請求項3に対応)は、上記の各方法において、好ましくは、上記のデータ処理としては、金属イオンが低質量側に同位体を持つ場合には、マススペクトルの高質量側の信号強度を用いて順次低質量側へ補正計算を行うことで特徴づけられる。
【0020】
第4のイオン付着質量分析の方法(請求項4に対応)は、上記の各方法において、データ処理としては、正電荷の金属イオンが高質量側に同位体を持つ場合には、マススペクトルの低質量側の信号強度を用いて順次高質量側へ補正計算を行うことで特徴づけられる。
【0021】
イオン付着質量分析装置(請求項5に対応)は、正電荷の金属イオンを発生させるエミッタ、被検出ガスに金属イオンを付着させる反応領域、正電荷の金属イオンが付着した被検出ガスを質量分離して検出する質量分析器、質量分析器を制御する質量分析制御部、質量分析制御部から送られた質量数と質量数に対応する信号強度のデータを処理するデータ処理装置により構成され、さらにデータ処理装置は、データ処理に使用する金属イオンの同位体付加率を、イオン付着質量分析法における金属イオンが付着したガスであって、被検出ガスとは別に反応室に導入されかつ冷却用ガスを兼用する他の当該ガスのマススペクトルから求める演算手段と、演算手段で求められた正電荷の金属イオンの同位体付加率のデータが入力され、同位体付加率のデータを用いて処理を行う処理手段を含むことで特徴づけられる。
【0023】
【作用】
Liについては、質量が7amuの原子と質量が6amuの原子の存在比率は一般的には92.5%と7.5%になっていることが知られている。また、イオン付着において、金属イオンが付着する過程はほとんどが化学的なものとみなされるので、化学的性質の同じ同位体では付着の効率もほぼ同じと考えられる。
【0024】
そこで、被検出ガスに付着させる金属イオンがLi+で被検出ガスがH2Oの場合、金属イオンが付着して生成されたH2OLi+での質量が25amuの分子と質量が24amuの分子の存在比率は、Liの質量7amuの原子と質量6amuの原子の存在比率と同じ92.5%と7.5%になる。すなわち、質量25amuのピーク高の(7.5/92.5)倍の同位体による分が質量24amuの本来のピーク高に付加されて現れている。そこでデータ処理による補正計算として、この付加率を計算して取り除けば質量24amuの本来の7amuのLi+が付着したOHのピーク高を求めることができる。
【0025】
しかしながら、もしこの時に7amuのLi+イオンが付着したH2Oより1amuだけ高質量側の質量26amuに大きなピークがあったとすると、質量25amuのピークにもすでに質量26amuのピークの同位体分が含まれていることになって、先の補正計算が正しく行えないことになる。このような場合には、高質量側の隣接する質量数にはピークがない(実際には、無視し得るピークしか持たない)質量数から順次低質量側へ補正計算を行うことで正しい結果を導くことができる。ただし、これは付着させる金属イオンがLiのように低質量側に同位体を持つ場合である。
【0026】
もし、付着させる金属イオンが高質量側に同位体を持つ場合には、低質量側の隣接する質量数には無視し得るピークしか持たない質量数から順次高質量側へ補正計算を行うことが必要となる。
【0027】
以上ではデータ処理に使用する同位体の存在比率を文献値を使用したが、この値は厳密には正しいとは言えない。原料の違いや精製過程での分離効果により最大数%程度のずれがあることが知られている。また、質量分析器には測定レンジによる最大数%程度の測定感度の違いが存在する。すなわち、微量な同位体を測定するために測定感度を100倍に設定しても実際には100倍とならず、例えば105倍などとなる場合が多い。このような場合に同位体の存在比率として文献値をそのまま使用すると補正計算が正しく行えない。
【0028】
そこで、実際に測定されたマススペクトルの中から既知の成分のピークを調べて本来の形との違いから同位体の存在比率を導き出し、これをデータ処理に使用すればより正しい補正計算が行える。
【0029】
同位体の存在比率を導き出すために使用する既知の成分としては、最も簡単なのはガスに付着しなかった金属イオンそのものである。そこには、同位体の存在比率がピーク高の比として直接現われている。ただしこの金属イオンのピークでは、付着過程でわずかに異なる付着効率の違いや被検出ガスの測定レンジが異なることによる測定感度の違いも反映できない。
【0030】
そこで、被検出ガスの中で1つのピークしか持たないガス既知の成分があってかつこの成分が隣接した質量数には無視し得るピークしか持たない場合には、本来のピークと新たに出現した同位体による付加ピークの高さ比から同位体付加率を知ることができる。
【0031】
また、冷却用として反応領域に導入されているN2などのガスを利用して同位体付加率を知ることもできる。冷却用ガスは導入量としては被検出ガスよりは桁違いに大きいが不活性であるため金属イオンに付着する効率が非常に低く、結果的には被検出ガスと概ね同じ程度のピーク高となることが多い。従って、冷却用ガスが隣接した質量数には無視し得るピークしか持たない場合には、同様にして同位体付加率を知ることができる。
【0032】
さらに、補正計算精度の向上のため冷却用ガスと被検出ガスのピーク高をより一致させたい場合には、冷却用ガスとして順次付着効率が低くなっているN2、Ar、Heの内から適宜選択して、あるいは同時に導入することもできる。またさらには、補正計算専用として既知のガスを用意して別途反応室に導入することもできる。この場合には、導入量を自由に調整できるのでピークの大きさを完全に同じにすることができる。このようにして、より正確な同位体付加率を知ることができる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0034】
図1に本発明によるイオン付着質量分析装置の第1の実施形態を示す。このイオン付着質量分析装置は、エミッタ11、反応領域12、質量分析器13、質量分析制御部14、データ処理装置15、被検出ガスボンベ16、冷却用N2ガスボンベ17、冷却用Arガスボンベ18、冷却用Heガスボンベ19、補正計算用ガスボンベ20から構成される。基本的な動作は従来装置と同じである。
【0035】
第1の実施形態では、エミッタ11として低質量側に同位体を持つLiを放出するものを用いる。そのとき得られる被検出ガスのスペクトルを図2の(A)に示す。図2の(B)には同位体の影響のない本来の被検出ガスのスペクトルを示す。同位体の影響のない本来の被検出ガスのスペクトルでは、それぞれのピーク高がa0,b0,c0のピーク21,22,23の3個のピークが存在する。また、これらのピークの間隔は、1amuとなっている。しかし、同位体の影響のあるLi+が付着して得られた被検出ガスのスペクトルには、それぞれのピーク高がa1,b1,c1,d1であるピーク31,32,33,34の4個のピークが存在する。それらのピークの高さ比率は本来のものと異なっている。
【0036】
そこで、実際に得られた被検出ガスのスペクトルから本来のピーク高を得るための補正計算をデータ処理装置15にて以下のように行う。まず最も高質量側のピーク31の質量数に注目する。この質量数のさらに高質量側の隣接する質量数にはピークがない(実際には、無視し得るピークしか持たない)ことが確認できれば、この質量数のピーク31のピーク高a1には同位体の影響がなく本来のピーク21のピーク高a0であることが判断される。そこで同位体付加率(存在比率)がRとすると、低質量側1amu異なるところに隣接する質量数のピーク32にはa0・Rの同位体による付加分があるので、この付加分を差し引いて本来のピーク高b0を求めることができる。
【0037】
次に、さらに低質量側1amu異なるところに隣接する質量数のピーク33にはb0・Rの同位体による付加分があると計算できる。また、さらに低質量側1amu異なるところに隣接する質量数のピーク34にはc0・Rの同位体による付加分が現れ、本来の3本のピークであったものが4本のピークとして現れる。このように高質量側から順次補正計算を行うことにより、被検出ガスの本来のピーク高を求めることができる。
【0038】
この補正計算で使用する同位体付加率Rは、1)同位体存在比率の文献値、2)金属イオンのスペクトル、3)被検出ガスのスペクトル、4)冷却用ガスのスペクトル、5)補正計算用ガスのスペクトル、などから求めることができる。1)は広く知られている同位体存在比率を使う方法で、Liの場合には質量7amuの原子と質量6amuの原子の存在比率は92.5%と7.5%であるとされている。2)〜5)は、実際に測定して得られたスペクトルから求める。
【0039】
実際に得られるスペクトルを図3に示す。(A)には付着しなかった金属イオンのスペクトル、(B)には1つのピークしか持たない既知ガスに金属イオンが付着したスペクトル、(C)には複数のピークを持つ被検出ガスに金属イオンが付着したスペクトルを示す。(A)で示すように、付着しなかった金属イオンのスペクトルではピーク高αのピーク36とピーク高βのピーク37の2本のピークが存在し、それらは金属イオンとその同位体によるピークである。また(B)に示すように、1つのピークしか持たない既知ガスに金属イオンが付着したスペクトルでは、ピーク高α’のピーク38とピーク高β’のピーク39の2本のピークが存在する。さらに、(C)で示すように、イオン付着した被検出ガスのスペクトルでは、ピーク40,41,42,43の4本のピークが存在する。(B)の1つのピークしか持たない既知ガスとしては、被検出ガスの中のガスの場合もあるし、冷却用ガスや別途導入した補正用ガスなどの場合がある。上記の2)はこのうち(A)の付着しなかった金属イオンのスペクトルから同位体付加率を読み取る。すなわち、ピーク36とピーク37より、同位体付加率Rは、ピーク高α,βを用いてR=β/αから得られる。上記の3)〜5)は(B)の1つのピークしか持たない既知ガスに金属イオンが付着したスペクトルから同位体付加率を読み取る。すなわち、ピーク38とピーク39より、同位体付加率Rは、ピーク高α’,β’を用いてR=β’/α’から得られる。
【0040】
1つのピークしか持たない既知ガスとしてどれを使うかはその時の状況による。たまたま、被検出ガスの中に該当するものがあればこれを利用できるが、1つのピークしか持たない既知ガスであると判断するには注意深い検討が必要である。ただ、同種類のガスをルーチン的に測定する場合には効率の良い方法となる場合が多い。
【0041】
未知成分の測定には、冷却用ガスを利用するのが一般的である。読み取るスペクトルが決っているため自動化が行いやすい。このとき、補正計算の精度を上げるため冷却用ガスと被検出ガスのピーク高をより一致させることが望ましい。そのため、冷却用ガスとして比較的付着効率が高いN2、中ほどのAr、低いHeの3つのガスの内から適宜選択して、あるいは同時に導入することもできる。すなわち予め、冷却用N2ガスボンベ17、冷却用Arガスボンベ18、冷却用Heガスボンベ19の3つのボンベを用意し、これらから使用するガスを選んで使用する。
【0042】
ピークの大きさを完全に同じとして補正計算の精度をより上げるためには、導入量を自由に調整できる補正計算専用の既知ガスを使用することが有効である。
すなわち予め、補正計算用ガスボンベ20を用意して、補正計算時にのみ使用する。
【0043】
次に図4を参照して本発明の第2の実施形態を説明する。第2の実施形態では、エミッタ11には高質量側に同位体を持つRbを放出するものを用いる。得られるスペクトルを図4に示す。図4の(A)に付着しなかった金属イオンのスペクトル、図4の(B)に複数のピークを持つ被検出ガスに金属イオンが付着したスペクトル、図4の(C)に同位体の影響のない本来の被検出ガスのピークが示されている。
【0044】
(A)で示すように、付着しなかった金属イオンのスペクトルでは、ピーク高αのピーク44とピーク高βのピーク45の2本のピークが存在し、金属イオンとその同位体によるピークが見られる。また、(C)で示すように、本来の被検出ガスのスペクトルでは、ピーク高a0のピーク46、ピーク高b0のピーク47、ピーク高c0のピーク48の3本存在する。また、これらのピークの間隔は1amuである。しかし、(B)で示すように、実際に得られる被検出ガスのスペクトルでは、ピーク高がe0,a2,b2,c2のピーク49,50,51,52の4本存在する。それらのピークの高さ比率は本来のものと異なっている。
【0045】
そこで、データ処理装置15にて以下のような補正計算を行う。まず最も低質量側の質量数のピーク52に注目する。この質量数のピーク52のさらに低質量側の隣接する質量数にはピークがない(実際には、無視し得るピークしか持たない)ことが確認できれば、この質量数のピーク52のピーク高c2には同位体の影響がなく本来のピーク高c0であることが判断される。そこで同位体付加率(存在比率)がRとすると、高質量側に1amu離れて隣接する質量数のピーク51にはc0・Rの同位体による付加分があるので、この付加分を差し引いて本来のピーク高b0を求めることができる。
【0046】
次に、さらに高質量側1amu離れて隣接する質量数のピーク50にはb0・Rの同位体による付加分があると計算できる。また、さらに高質量側1amu離れてピーク高a0・Rの同位体による付加分が生じ4本のピークが現れる。このように低質量側から順次補正計算を行うことにより、被検出ガスの本来のピーク高を求めることができる。
【0047】
この補正計算で使用する同位体付加率Rは、1)同位体存在比率の文献値、2)金属イオンのスペクトル、3)被検出ガスのスペクトル、4)冷却用ガスのスペクトル、5)補正計算用ガスのスペクトル、などから求めることができる。これについては、第1の実施形態と同じ状況である。
【0048】
金属イオンとしては本実施形態でのLiとRb以外にKやIn,Gaなども使用することができる。質量分析器としては、2次元四重極型質量分析計や3次元四重極型質量分析計(イオントラップ)やタイムオブフライト(TOF)やイオンサイクロトロンレゾナンス(ICR)などあらゆる種類の質量分析器が使用することができる。
【0049】
本実施形態では試料はガス状のもので説明したが、試料自体は固体でも液体であっても何らかの手段でガス状にされ、そのガスを測定するものであれば、構わない。金属イオンをガスに付着させる際に、直流電界や交流電界を印加する、あるいはガスを超音速にて吹き出すなど各種の付着効率を上げる方法を行うこともできる。本装置を他の成分分離装置、例えばガスクロマトグラフや液体クロマトグラフに接続して、ガスクロマトグラフ/質量分析装置(GC/MS)、液体クロマト/質量分析装置(LC/MS)とすることもできる。
【0050】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように本発明によれば、次の効果を奏する。
【0051】
正電荷の金属イオンの同位体存在比のデータを使用して、質量数に対応する信号強度のデータを処理するため、同位体が存在する金属イオンを用いた場合においても、被検出ガスの正確なマススペクトルを得ることができる。また、実際に測定された金属イオンや付着したガスのマススペクトルから同位体付加率を求めるため、正確な同位体付加率が得られ、被検出ガスの正確なマススペクトルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るイオン付着質量分析装置の第1実施形態の概略的な構成図である。
【図2】第1実施形態のイオン付着質量分析装置を用いて低質量側に同位体を持つ金属イオンによりイオン付着を行って測定したときの被検出ガスのマススペクトルを示す図である。
【図3】第1実施形態のイオン付着質量分析装置を用いて低質量側に同位体を持つ金属イオンによりイオン付着を行って実際に測定したときのマススペクトルを示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態のイオン付着質量分析装置を用いて高質量側に同位体を持つ金属イオンによりイオン付着を行って測定したときのマススペクトルを示す図である。
【図5】従来のイオン付着質量分析装置の概略的な構成図である。
【図6】従来のイオン付着質量分析装置を用いて同位体のないイオンを付着させた場合のマススペクトルと同位体のあるイオンを付着させた場合のマススペクトルを示す図である。
【符号の説明】
11 エミッタ
12 反応領域
13 質量分析器
14 質量分析制御部
15 データ処理装置
16 被検出ガスボンベ
17 冷却用N2ガスボンベ
18 冷却用Arガスボンベ
19 冷却用Heガスボンベ
20 補正計算用ガスボンベ
Claims (5)
- 正電荷の金属イオンが付着された被検出ガスを質量分析して得られる質量数に対応する信号強度のデータ処理を、前記金属イオンの同位体付加率のデータを使用して行うイオン付着質量分析方法において、
前記データ処理に使用する前記金属イオンの前記同位体付加率を、イオン付着質量分析法における前記金属イオンが付着したガスのマススペクトルから求め、
前記金属イオンが付着した前記ガスとして、前記被検出ガスとは別に反応室に導入される他のガスを使用し、
前記他のガスは前記金属イオンが付着したガスと冷却用ガスを兼用している、
ことを特徴とするイオン付着質量分析方法。 - 前記他のガスはN 2 ,Ar,Heのうちの1つであることを特徴とする請求項1記載のイオン付着質量分析方法。
- 前記データ処理は、前記金属イオンが低質量側に同位体を持つ場合、前記マススペクトルの高質量側の信号強度を用いて順次低質量側へ補正計算を行う工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のイオン付着質量分析方法。
- 前記データ処理は、前記金属イオンが高質量側に同位体を持つ場合には、前記マススペクトルの低質量側の信号強度を用いて順次高質量側へ補正計算を行う工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のイオン付着質量分析方法。
- 正電荷の金属イオンを発生させるエミッタと、被検出ガスに前記金属イオンを付着させる反応領域と、前記金属イオンが付着した前記被検出ガスを質量分離して検出する質量分析器と、この質量分析器を制御する質量分析制御部と、この質量分析制御部から送られた質量数と質量数に対応する信号強度のデータ処理を行うデータ処理装置とから構成されるイオン付着質量分析装置において、
前記データ処理装置は、
前記データ処理に使用する前記金属イオンの同位体付加率を、イオン付着質量分析法における前記金属イオンが付着したガスであって、前記被検出ガスとは別に反応室に導入されかつ冷却用ガスを兼用する他の前記ガスのマススペクトルから求める演算手段と、
前記演算手段で求められた前記同位体付加率のデータを用いて前記データ処理を行う処理手段を含む、
ことを特徴とするイオン付着質量分析装置。
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JPH0611485A (ja) * | 1991-11-20 | 1994-01-21 | Kokuritsu Kankyo Kenkyusho | 中性活性種の検出方法とその装置 |
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JP2002181782A (ja) | 2002-06-26 |
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