JP4485032B2 - 滅菌方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は薬液充填済シリンジ製剤の滅菌方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
水溶性注射剤は蒸気で滅菌されるのが一般的である。バイアル製剤やアンプル製剤等の容器の熱線膨張係数が小さく、ゴム栓が固定されている製剤については、滅菌時に容器の変形を防止するための圧力制御は必要とされなかった。近年、熱線膨張係数の大きいプラスチックス容器やガスケットが固定されていないシリンジ製剤が使用されるようになり、滅菌時の圧力制御が重要となっている。特にシリンジ製剤については、ガスケットが容器に固定されておらず、滅菌工程の圧力制御方法によっては滅菌時の内圧上昇に伴うガスケットの移動によるゴム栓の脱落又は汚染の可能性があるため、滅菌時の圧力制御を正確に行う必要がある。
【0003】
シリンジ製剤ではガスケットが移動する可能性があり、この場合、移動により拡大または縮小する容器の接液部については汚染の可能性がある。特に無菌保証については、移動により拡大または縮小する接液部についても、バリデーションで証明する無菌保証レベルを確保する必要がある。加熱滅菌工程中にガスケットの移動がなくても、冷却工程の途中で外側にガスケットの移動がある制御では、汚染が起こる可能性がある。
【0004】
そこで、ガスケットの移動が起こらないように、高い圧力で滅菌を実施すればガスケットの移動及び脱落、また、それに伴う内容液の汚染及び流出の可能性はなくなるが、不必要に高い圧力で滅菌した場合、シリンジ容器及びガスケットの変形や破損が起こる可能性が増す。また、容器に熱線膨張係数の小さな容器を用い、エアースペースが小さな場合、溶液の体積膨張を吸収できないため、ガスケットは必然的に移動する。さらに、滅菌機の能力上、移動が起こらない圧力まで昇圧することができず、ガスケットを移動させなくてはならない場合もある。
【0005】
このようにガスケットであるゴム栓が固定されていない薬液充填済シリンジ製剤の滅菌操作においては、品質を保証するためには、ガスケットの移動を考慮に入れた十分な圧力制御が必要であるにもかかわらず、そのような制御手段は報告されていない。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、R.E.Beckにより提案された密封容器内の温度と圧力の関係式(Pharmaceutical Manufacturing, 18-23, June(1985))に着目して検討したが、この式はバイアル、プラスチックボトル製剤のようにゴム栓が固定されている場合にしか適用できなかった。そこで、さらに移動し得るガスケットを有するシリンジ製剤について検討した結果、R.E.Beckの式に、ガスケットが移動することを考慮に入れた全く新しい温度Tにおける容器内圧の関係式を考案し、この内圧と略同一に外部圧力を制御すれば、ガスケットの移動方向及び移動量を制御しつつ、滅菌できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、移動可能なガスケットを有する薬液充填済シリンジ製剤を、温度Tにおける圧力(P)を下記式(1)
【数5】
〔ここで、
T=温度
MWw=水の分子量
Pvp=温度Tにおける蒸気圧
H=温度Tにおける空気の水に対するヘンリー定数
ρw=温度Tにおける水の密度
C=温度Tにおける容器の熱線膨張係数
Y=空気及び蒸気の容器容量に占める割合
e c =下記式(5)
【数6】
(e m =ガスケットの移動量(但し移動量は0でない)、S 0 =シリンジ容器断面積、V c =温度Tにおける容器容量)
で表されるガスケットの移動により増加する容量の容器容量に対する割合
サブスクリプト0:充填された時の状態
P=温度Tにおける圧力
R=気体定数〕
で表される圧力にして滅菌することを特徴とする滅菌方法を提供するものである。また本発明は上記滅菌方法による滅菌済薬液充填済シリンジ製剤の製造方法を提供するものである。
【0008】
【数4】
【0009】
(ここで、
T=温度
MWw=水の分子量
Pvp=温度Tにおける蒸気圧
H=温度Tにおける空気の水に対するヘンリー定数
ρw=温度Tにおける水の密度
C=温度Tにおける容器の熱線膨張係数
Vc=温度Tにおける容器容量
Y=空気及び蒸気の容器容量に占める割合
S=シリンジ容器の断面積
サブスクリプト0:充填された時の状態
P=温度Tにおける圧力
R=気体定数)
で表される圧力にして滅菌することを特徴とする滅菌方法を提供するものである。
また本発明は上記滅菌方法による滅菌済薬液充填済シリンジ製剤の製造方法、及び当該製造方法により得られる滅菌済薬液充填済シリンジ製剤を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
密封された容器内における温度と圧力の理論的な関係は、液の蒸気圧、密度、ヘンリー定数及び容器の熱線膨張係数を用いて、R.E.Beckにより示されている(前出)。R.E.Beckにより示された式は、以下の5項目を考慮して導出されている。
(1)水のヘッドスペースへの蒸発
(2)液の膨張
(3)温度上昇に伴う、蒸気の膨張
(4)液に溶解した気体の、ヘッドスペースへの気化
(5)容器材質の熱膨張による容器容量の増加
【0011】
R.E.Beckによれば、温度Tにおける容器容量(Vc)は次式(2)で、そして温度Tにおける容器内圧(P)は次式(3)で表される。
【0012】
【数5】
【0013】
しかし、シリンジ製剤のようにガスケットであるゴム栓が固定されていない場合は、滅菌工程中にガスケットが移動する可能性があるため、この移動量を考慮する必要がある。
ガスケットが移動した場合、R.E.Beckが考慮した、(5)容器材質の熱膨張による容器容量の増加に、ガスケットの移動に伴い増加、または縮小する容器容量(ecVc0)を加える必要があり、これを加えた温度Tにおける容器容量(Vc)は次式(4)のように表される。
【0014】
【数6】
【0015】
em=ガスケットの移動量
S0=シリンジ容器断面積
ec=ガスケットの移動により増加する容量の容器容量に対する割合
Vc、C及びTは前記と同じ。
【0016】
従って、この式(4)から、シリンジ製剤滅菌時の温度Tにおける容器内圧(P)は、前記式(1)で表されることになり、当該容器内圧と略同一の圧力に制御すれば、温度Tが変化してもガスケットの移動方向及び移動量を制御しつつ、滅菌できる。ただし、この温度Tにおける圧力は、式(1)で求められる圧力と同一である必要はなく、ガスケットの移動が1mm以内程度に制御できる程度異なっていてもよい。
【0017】
本発明において上記式(1)従って温度Tにおける圧力はコンピュータを用いて計算するのが好ましく、シリンジに充填された薬液が水溶液の場合には、例えば水の蒸気圧、水の密度、ヘンリー定数については文献値を最小二重法を用いて温度に関して下記のようにフィッティングさせればよい。
【0018】
Pvp[kg/cm2]=exp(13.221-4922.2/T)
ρw[g/cm3]=-1.8217×10-6T2+7.0240×10-4T+0.94928 (6)
H[kg/cm2]=1.1170×105-1.5055×107/T×exp[-{(T-274.93)/43.132}2]
ここで、
Pvp0=2.3842×10-2kg/cm2 at 293.15K
ρw0=9.9820×10-1g/cm3 at 293.15K
H0=6.8600×104kg/cm2 at 293.15K
【0019】
熱線膨張係数は一般的に、標準化されたASTMの方法を用いて測定される。ガラスのように熱線膨張係数が非常に小さな材質についてはASTMの方法は使用できるが、プラスチックのように熱膨張が大きな材質についは、−30〜30℃の間でしか、通常は測定されない。加えて、プラスチックは弾性があるため、ASTMの方法を用いて測定した熱線膨張係数を、高温高圧下となる滅菌工程中について用いるのは不適切である。滅菌条件下での熱線膨張係数を測定することは困難であるため、実際的な方法としては、あらかじめ実験機で滅菌工程中の温度、圧力そしてガスケットの移動量を測定し、式(1)から熱線膨張係数を算出する方法がよい。この方法では、ガスケットの移動量から熱線膨張係数を算出しているため、純粋な容器材質の熱線膨張係数ではなく、ガスケットの圧縮及び摩擦抵抗等を含めた、パラメーターとなるが、実際には有効である。
【0020】
本発明の滅菌方法における薬液充填済シリンジ製剤としては、例えば図1のような一端に移動可能なガスケットを有し、他端が使用時に注射針取付け部である薬液充填済シリンジ製剤が挙げられる。シリンジの材質はガラスでもプラスチックでもよい。ガスケットは通常ゴム栓である。また充填されるべき薬液は、注射剤であれば特に制限されない。
【0021】
また滅菌装置としては、加圧コントロールが可能で滅菌に充分な加熱手段を備えた装置であれば特に制限されないが、例えばウォーターカスケード型(シャワー型)滅菌機、ファン攪拌式スチーム/エアー混合型滅菌機及び浸水型滅菌機のように、滅菌時に圧縮空気を送り込み、加圧コントール可能な滅菌装置を挙げることができる。
【0022】
滅菌は通常、滅菌に充分な温度にまで加熱し、その後冷却することにより行われるが、本発明の滅菌法では、滅菌装置内の温度変化に対応させて当該装置内の圧力を前記式(1)に従って制御することにより行われる。従って、温度を上昇させるに従って圧力上昇させ、温度低下に従って圧力を低下させる。この制御はコンピュータにより制御するのが望ましい。かくすることにより、シリンジ内の圧力とその外部圧力とが一致し、ガスケットの移動方向及び移動量を制御しつつ、滅菌することができる。
【0023】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに何ら制限されるものではない。
〔材料及び方法〕
プラスチック容器を使用した100mLシリンジ製剤での圧力制御条件を検討した。使用した部材の材質、構成条件を表1に示す。各部材を滅菌した後、20℃で充填した。
【0024】
【表1】
【0025】
実施例1
(1)まず、式(1)を用いて制御圧力条件を確立するため、熱線膨張係数を求めた。熱線膨張係数及び生産スケールでの圧力制御条件は、以下のステップに従って実施した。
1)シリンジ容器の熱線膨張係数を、実験機で測定した温度、圧力及びガスケットの移動量を使用して、式(1)により求めた。
2)ステップ1)で求めた熱線膨張係数を検証した。
3)実験機で求めた熱線膨張係数を用いて生産機での加圧コントロール条件を設定した。
【0026】
(2)熱線膨張係数、温度及びガスケット移動量の測定
圧力測定器(EBI-125A-PT, ebro Electric GmbH)をトップキャップ側、温度測定器(EBI-125A-EM-150, ebro Electric GmbH)をガスケットから挿入した(図2)。双方とも接続部分はシリコンによりコーキングを行った。圧力及び温度のデータは10秒ごとに記録し、Microsoft Excel(Microsoft Corporation)を用いて解析した。ガスケットの移動量は圧力測定器及び温度測定器を取り付けたシリンジのそばに、スケールを取り付けたシリンジを置き、測定した。
【0027】
(3)滅菌操作
実験機に加圧コントロールが可能なシャワー型滅菌機を使用して、滅菌制御圧の検討を行い、蒸気/エアー混合型の滅菌機に圧力制御パラメーターを設定した(表2及び3)。内圧と温度の関係のため、滅菌方式の違いは無視した。図3及び4にそれぞれの滅菌機の工程を示す。生産機では3段階の昇温及び冷却工程があり、実験機より細かな制御を行うことができる。また、実験機には乾燥工程がない。
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
(4)熱線膨張係数の算出
実験スケールで熱線膨張係数を算出すれば、生産機レベルでもゴム栓移動量の制御が可能となる。実験機で滅菌工程を実施し、各温度における圧力及び移動量のデータから、熱線膨張係数を算出した。コンピュータで計算するため、熱線膨張係数を温度に対してプロットし、最小二乗法によりフィッティングさせた(図5、6)。20℃についてはASTMの方法を使用して測定された熱線膨張係数を使用した。
比較のため移動量0mm(移動なし)と、移動量1mmの熱線膨張係数を算出した。正確な制御とするため、それぞれについて熱線膨張係数を求めたが、圧縮率、静止摩擦係数及び動摩擦係数の小さなゴム栓であれば、1つの熱線膨張係数でも圧力の制御は可能である。
【0031】
(5)求めた熱線膨張係数の妥当性の検討
得られた熱線膨張係数を式(1)に適用し、各温度におけるシリンジ内圧と滅菌機制御圧が等しくなるように、実験機の圧力制御カーブを設定し、滅菌サイクルを実施し、温度、圧力、移動量のモニタリングを行った。移動量1mmの圧力制御については、高温側の方がガスケットがスムースに移動すること、及び滅菌保証の観点から100−121℃にかけて1mm移動させる設定とした。
モニタリングの結果、意図した移動量の制御を確認した。また、得られた温度データを式(1)に入れシリンジ内圧を計算した結果と、シリンジ内圧モニタリングデータを比較したところ、何れの移動量についても、良く相関できており、理論式及び熱線膨張係数の妥当性を確認できた(図7、8)。
【0032】
(6)生産機への適用
生産機庫内のシリンジ内温度を測定した後、式(1)及び実験機で求めた熱線膨張係数を使用して計算した圧力と制御圧力が等しくなるように設定した。シリンジ内の温度はバリデーション時の熱浸透実験と同様の手法で行い、最大積載状態で実施した。熱電対をシリンジ内に挿入し、庫内に均一となるように配置した。温度の測定にはT型熱電対を取り付けたPortable Validator及びValidator KL(Kay Instruments, Inc.)を使用した。
PP(ポリプロピレン)は熱線膨張係数が大きく、加温時の溶液の熱膨張を吸収することができ、かつ、シリンジ内圧は生産機の耐圧範囲内であるため、ガスケットの移動量を0mmとする制御とした。庫内全てのシリンジ製剤について外側へのガスケットの移動量を0mmとする必要があるため、庫内の最高温度を指標とすることにした。最高温度を指標としたとき、他の積載箇所ではシリンジ内圧は制御圧力よりも低くなる。この差圧は約1bar程度であるが、最低温度部分のガスケットの移動量はほとんどなく、問題とならなかった(図9)。
【0033】
【発明の効果】
本発明の滅菌方法によれば、滅菌操作中にガスケットの移動方向及び移動量が制御でき、効率良く、かつ安定して、品質の保証された滅菌済薬液充填済シリンジ製剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】薬液充填済シリンジ製剤の概略図である。
【図2】シリンジ内圧測定用シリンジ製剤の概略図である。
【図3】実験機の加熱サイクルを示す図である。
【図4】生産機の加熱サイクルを示す図である。
【図5】移動量0mm時の熱線膨張係数の測定結果を示す図である。
【図6】移動量1mm時の熱線膨張係数の測定結果を示す図である。
【図7】移動量0mm時のシリンジ内圧計算値とシリンジ内温度、シリンジ内圧及びチャンバー圧との関係を示す図である。
【図8】移動量1mm時のシリンジ内圧計算値とシリンジ内温度、シリンジ内圧及びチャンバー圧との関係を示す図である。
【図9】生産機におけるシリンジ内圧計算値と、庫内温度及び制御圧力との関係を示す図である。
Claims (2)
- 移動可能なガスケットを有する薬液充填済シリンジ製剤を、温度Tにおける圧力(P)を下記式(1)
T=温度
MWw=水の分子量
Pvp=温度Tにおける蒸気圧
H=温度Tにおける空気の水に対するヘンリー定数
ρw=温度Tにおける水の密度
C=温度Tにおける容器の熱線膨張係数
Y=空気及び蒸気の容器容量に占める割合
e c =下記式(5)
で表されるガスケットの移動により増加する容量の容器容量に対する割合
サブスクリプト0:充填された時の状態
P=温度Tにおける圧力
R=気体定数〕
で表される圧力にして滅菌することを特徴とする滅菌方法。 - 移動可能なガスケットを有する薬液充填済シリンジ製剤を、温度Tにおける圧力(P)を下記式(1)
T=温度
MWw=水の分子量
Pvp=温度Tにおける蒸気圧
H=温度Tにおける空気の水に対するヘンリー定数
ρw=温度Tにおける水の密度
C=温度Tにおける容器の熱線膨張係数
Y=空気及び蒸気の容器容量に占める割合
e c =下記式(5)
で表されるガスケットの移動により増加する容量の容器容量に対する割合
サブスクリプト0:充填された時の状態
P=温度Tにおける圧力
R=気体定数〕
で表される圧力にして滅菌することを特徴とする滅菌済薬液充填済シリンジ製剤の製造方法。
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