JP4484492B2 - 溶射被膜用コーティング剤 - Google Patents

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Description

本発明は、フッ化ピッチを含有する溶射被膜用コーティング剤、及びこのコーティング剤を用いて得られた溶射被膜及びその製造方法に関する。
溶射は金属成形品に対するコーティング技術の一つであり、日本工業規格JIS H8200(非特許文献1)に記載されているように、燃焼又は電気エネルギーを用いて溶射材料(金属材料)を加熱し、溶融又はそれに近い状態にした粒子を素地(金属成形品など)に吹き付けて、被膜を形成する。このような溶射は、完全なドライプロセスであり、成膜速度が大きく、基材の材質、形状及び寸法に対する自由度も大きい。さらに、大気中及び現場での施工も可能である。
また、溶射によって形成された被膜(溶射被膜)は、防錆性、防食性、耐熱性などに優れているため、車両、船舶、航空機、電気通信施設、水門、道路交通標識などの各種金属構造物のコーティング技術として溶射が広く利用されている。しかし、溶射被膜は、撥水性が低いため、金属構造物の長期間に亘る安定性は充分でない。
そこで、特開平11−222660号公報(特許文献1)には、溶射材料として、金属材料とフッ化ピッチとを組み合わせることにより、溶射被膜に高い撥水性を付与する方法が提案されている。しかし、この方法で形成された溶射被膜であっても、フッ化ピッチの分布状態に若干のムラがあるため、過酷な条件における撥水性が充分でなく、例えば、積雪の多い寒冷地域では、各種構造物に雪や氷が付着し、安定性が低下する。
特開平11−222660号公報(請求項1、段落番号[0035]) 日本工業規格JIS H8200
従って、本発明の目的は、過酷な条件であっても、長期間に亘り安定な溶射被膜を形成できる溶射被膜用コーティング剤、このコーティング剤を用いて得られた溶射被膜及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、寒冷地域などの低温条件において、溶射被膜に対して、雪や氷などが付着するのを抑制できる溶射被膜用コーティング剤、このコーティング剤を用いて得られた溶射被膜及びその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フッ化ピッチを含有する溶射被膜の表面を、シラン系化合物で処理することにより、過酷な条件であっても安定な溶射被膜が形成できることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明の溶射被膜用コーティング剤は、金属及びフッ化ピッチで構成された溶射被膜の表面を処理するためのコーティング剤であって、シラン系化合物を含有する。前記シラン系化合物は、加水分解縮合性基を有していてもよく、例えば、C1-6アルキルトリC1-4アルコキシシランなどであってもよい。前記コーティング剤は、シラン系化合物及び水性溶媒で構成された溶液であってもよい。
本発明には、金属及びフッ化ピッチで構成された溶射被膜の表面に、シラン系化合物で形成された被膜を有する溶射被膜も含まれる。
本発明には、金属及びフッ化ピッチで構成された溶射被膜の表面を前記コーティング剤で処理して、前記溶射被膜の表面にシラン系化合物で構成された被膜を形成する方法も含まれる。この方法において、前記コーティング剤で溶射被膜の表面を塗布した後、加熱して被膜を形成してもよい。
本発明では、金属及びフッ化ピッチを含有する溶射被膜の表面を、シラン系化合物で処理することにより、過酷な条件であっても、長期間に亘り安定な溶射被膜を形成できる。特に、シラン系化合物で処理された被膜は、寒冷地域などの低温条件において、雪や氷などの付着も抑制できる。
[溶射被膜用コーティング剤]
本発明の溶射被膜用コーティング剤は、シラン系化合物を含有している。シラン系化合物は、ポリシランやシリコーン化合物などのシラン系化合物であってもよいが、反応性基、特に加水分解縮合性基(例えば、アルコキシ基など)を有するシラン系化合物が好ましい。
このようなシラン系化合物としては、例えば、ハロアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、エポキシアルコキシシランなどのシランカップリング剤であってもよいが、アルコキシシリル基などの加水分解縮合性基以外に、アルキル基やアリール基などの非反応性基(又は疎水性基)を有している化合物(例えば、アルキルシラン化剤やアリールシラン化剤などのシラン化剤、ハロアルキルシランやハロアリールシランなどのシリル化剤など)を好ましく使用することができる。
アルキルシラン化剤としては、例えば、アルキルトリアルコキシシラン(メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリプロポキシシランなどのC1-6アルキルトリC1-4アルコキシシランなど)、ジアルキルジアルコキシシラン(ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジエトキシシランなどのジC1-6アルキルジC1-4アルコキシシランなど)、トリアルキルアルコキシシラン(トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリイソプロピルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリプロピルエトキシシラン、トリイソプロピルエトキシシラン、トリブチルエトキシシランなどのトリC1-6アルキルC1-4アルコキシシランなど)などが挙げられる。
アリールシラン化剤としては、例えば、アリールトリアルコキシシラン(フェニルトリメトキシシラン、トリルトリメトキシシラン、キシリルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリルトリエトキシシラン、キシリルトリエトキシシラン、ナフチルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシランなどのアリールトリC1-4アルコキシシランなど)、ジアリールジアルコキシシラン(ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどのジアリールジC1-4アルコキシシランなど)、トリアリールアルコキシシラン(トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシランなどのトリアリールC1-4アルコキシシラン)などが挙げられる。
ハロアルキルシランとしては、例えば、トリアルキルハロシラン(トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、トリプロピルクロロシラン、トリイソプロピルクロロシラン、トリブチルクロロシランなどのトリC1-6アルキルハロシランなど)、ジアルキルハロシラン(ジメチルジクロロシラン、ジプロピルジクロロシランなどのジC1-6アルキルジハロシランなど)、アルキルトリハロシラン(メチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシランなどのC1-6アルキルトリハロシランなど)などが挙げられる。
ハロアリールシランとしては、例えば、トリアリールハロシラン(トリフェニルクロロシラン、トリトリルクロロシラン、トリキシリルクロロシランなど)、ジアリールハロシラン(ジフェニルジクロロシランなど)、アリールトリハロシラン(フェニルトリクロロシランなど)などが挙げられる。
これらのシラン系化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらのシラン系化合物のうち、アルキルトリアルコキシシランなどのアルキルシラン化剤が好ましく、中でも、C1-4アルキルトリC1-2アルコキシシラン(例えば、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシランなど)、特に、プロピルトリエトキシシランなどのC2-4アルキルトリC1-2アルコキシシランが好ましい。
前記コーティング剤は、溶媒を用いずに使用してもよいが、通常、溶媒と混合した混合液(特に溶液)の形態で使用される。溶媒としては、アミド類、(ジメチルホルムアミドなど)、ハロゲン含有化合物(塩化メチレンなど)、芳香族炭化水素(トルエンなど)、脂肪族炭化水素(ヘキサンなど)などの有機溶媒であってもよいが、水性溶媒が好ましい。
水性溶媒には、水、水溶性溶媒が含まれる。水溶性溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなど)、ケトン類(アセトンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなど)、カルビトール類(カルビトール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルなど)などが挙げられる。これらの水溶性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの水性溶媒のうち、シラン系化合物の反応性の観点から、少なくとも水を含むのが好ましく、特に、アルキルシラン化剤を使用した場合は、水とアルコール(エタノールなどのC1-4アルキルアルコールなど)との混合溶媒が好ましい。水とアルコールとの割合(重量比)は、例えば、水/アルコール=100/0〜10/90、好ましくは90/10〜20/80、さらに好ましくは30/70〜70/30程度である。
混合液中のシラン系化合物の濃度は、0.1〜90重量%程度の範囲から選択でき、特に限定されないが、例えば、1〜30重量%、好ましくは2〜10重量%、さらに好ましくは3〜8重量%程度である。
[溶射被膜]
本発明のコーティング剤は、金属及びフッ化ピッチで構成された溶射被膜の表面を処理するために用いられる。この溶射被膜は、溶射によって金属とフッ化ピッチとが複合して形成されている。
前記金属としては、溶射可能であれば特に限定されず、例えば、周期表第4A族金属(チタン、ジルコニウムなど)、周期表第5A族金属(バナジウムなど)、周期表第6A族金属(クロム、モリブデン、タングステンなど)、周期表第7A族金属(マンガンなど)、周期表第8族金属(鉄、コバルト、ニッケル、白金など)、周期表第1B族金属(銅、銀、金など)、周期表第2B族金属(亜鉛など)、周期表第3B族金属(アルミニウムなど)、周期表第4B族金属(スズ、鉛など)などが例示できる。これらの金属は、単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて合金として使用してもよい。
これらの金属のうち、周期表第4A族金属(チタンなど)、周期表第6A族金属(クロム、モリブデン、タングステンなど)、周期表第8族金属(鉄、ニッケルなど)、周期表第1B族金属(銅など)、周期表第2B族金属(亜鉛など)、周期表第3B族金属(アルミニウムなど)、周期表第4B族金属(スズ、鉛など)などが好ましく使用され、特に、アルミニウムや銅が汎用される。
フッ化ピッチ(フッ素化カーボン)は、ピッチをフッ素ガスでフッ素化することにより得られる慣用の化合物であり、例えば、特開昭62−275190号公報に開示されている。
本発明では、特開平11−222660号公報に開示されているフッ化ピッチなどを好ましく使用することができる。具体的には、フッ化ピッチの原料であるピッチとしては、等方性ピッチ、(水素化)メソフェーズピッチ、メソマイクロカーボンビーズなどを使用することができる。ピッチとフッ素ガスとの反応温度は、0〜350℃程度である。フッ化ピッチにおけるフッ素原子と炭素原子との原子比は、例えば、フッ素原子/炭素原子=1/0.5〜1/1.8程度である。フッ化ピッチは、液状であってもよいが、通常、粉粒状である。
フッ化ピッチの割合は、金属100重量部に対して、例えば、1〜500重量部、好ましくは3〜200重量部、さらに好ましくは5〜100重量部(特に5〜50重量部)程度である。
溶射被膜の製造方法も、前記特開平11−222660号公報に開示された方法を好ましく使用できる。具体的には、溶射被膜の製造方法としては、予め調製した溶射被膜にフッ化ピッチを含む樹脂を塗布又は含浸する方法であってもよいが、好ましくは、フッ化ピッチ及び金属で構成された成形体(ワイヤ状、コイル状、棒状などの溶射に適した成形体)を溶射する方法や、粉粒状金属と粉粒状フッ化ピッチとをホッパー内で混合して溶射する方法などを用いることができる。これらの方法のうち、フッ化ピッチを金属とともに均等に溶射し易い点から、フッ化ピッチを内部に含む金属で形成されたワイヤを用いて溶射する複合ワイヤ法が特に好ましい。
複合ワイヤ法において、ワイヤは、金属で構成された筒状体(チューブ)の内部に、フッ化ピッチが充填された構造を有している。ワイヤの直径(筒状体の外径)は、例えば、1〜10mm、好ましくは1〜6mm、さらに好ましくは2〜4mm程度である。フッ化ピッチが充填される筒状体の孔部の直径(筒状体の内径)は、例えば、0.1〜7mm、好ましくは0.5〜5mm、さらに好ましくは1〜3mm程度である。溶射方法としては、一般的な各種溶射方法を使用することができ、複合ワイヤ法では、例えば、溶線式溶射方法などのフレーム溶射法が使用される。
溶射被膜を形成する材料(被溶射材料)としては、例えば、各種の金属材料、ガラス、陶磁器、有機材料(例えば、木材、紙、布、樹脂、皮革など)などが挙げられる。
溶射被膜の厚みは、例えば、10〜1000μm、好ましくは50〜700μm、さらに好ましくは100〜500μm程度である。
[シラン系化合物で構成された被膜及びその形成方法]
前記溶射方法のうち、例えば、複合ワイヤ法で得られた溶射被膜は、平均接触角120〜140°程度の高い撥水性被膜である。しかし、このような溶射被膜でも、フッ化ピッチの分布状態には若干のムラがあり、接触角に±15°程度のバラツキを生じている場合が多い。そこで、本発明の溶射被膜は、これらのバラツキを抑制する観点から、金属及びフッ化ピッチで構成された前記溶射被膜の表面に、さらに、シラン系化合物で形成された被膜(以下、「シラン系被膜」と称することもある)を有している。シラン系化合物で被膜を形成することにより、接触角のバラツキ幅が小さくなるため、撥水性の均一化が図られ、より高度な撥水性が実現される。
シラン系被膜は、次のような構造を有していると推定される。溶射被膜は、大気中の高温プロセスで作製されるため、表面の金属部分は酸化して、金属酸化物となっている。シラン系被膜は、シラン系化合物(特にシラン化剤)が、この表面の金属酸化物と反応して、化学結合することにより形成されている。シラン系被膜は、シラン系化合物が溶射被膜の表面に結合されていれば特に制限されないが、被膜強度の点から、シラン系化合物が、被膜の表面で縮合しているのが好ましい。また、シラン系被膜は、撥水性の点から、シラノール基などの親水性基の割合が少ないのが好ましい。このようなシラン系被膜は、例えば、シラノール基などの親水性基を表面に有さず、アルキル基などの疎水性基を表面に有する構造である被膜、特に、単分子被膜(又は単分子有機層)であってもよい。本発明において、単分子被膜とは、略全てのケイ素が金属酸化物に結合し、かつアルキル基などの有機基を表面に有している被膜を意味し、換言すると、溶射被膜の表面において金属酸化物と結合したシラン系化合物が、他の遊離のシラン系化合物と結合することなく、金属酸化物と結合したシラン系化合物同士で結合することにより膜が形成されるとともに、残存するアルキル基などの有機基を表面に有している被膜を意味する。このような単分子被膜又は単分子有機層は、例えば、アルキルシラン化剤などを用いることにより、後述する方法で製造できる。
このような被膜の厚みは、例えば、0.05〜1μm、好ましくは0.1〜0.5μm、さらに好ましくは0.1〜0.3μm程度である。
この被膜は、金属及びフッ化ピッチで構成された溶射被膜の表面を、前記コーティング剤で処理することにより製造することができる。コーティング剤による処理方法としては、例えば、コーティング剤を調製後、前記溶射被膜表面に前記コーティング剤を接触させた後、乾燥する方法などを挙げることができる。
コーティング剤の調製方法としては、溶媒を用いずに調製してもよいが、シラン系化合物を含む溶液、特に水性溶液として調製するのが好ましい。シラン系化合物が、アルコキシシリル基などの加水分解縮合性基を有する場合は、水性溶液として調製することにより、加水分解縮合性基が加水分解し、シラノール基を有する化合物が生成する。
なお、この溶液には、加水分解反応を促進する観点から、加水分解用触媒として、塩酸、硫酸、硝酸、スルホン酸などの酸、特に塩酸や硫酸が含まれていてもよい。
加水分解における温度は、用いる溶媒の種類に応じて選択できるが、例えば、5〜75℃、好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは20〜60℃(特に40〜60℃)程度である。この温度が低すぎると、反応時間が長くなり、一方、高すぎると、シラン系化合物が、溶射被膜の表面と反応する前に、自己縮合してゲル化し易い。
溶射被膜と接触させる前に、調製したコーティング剤溶液のシラン系化合物を加水分解してシラノール化するための加水分解反応時間としては、シラン系化合物の濃度や温度によって選択できるが、例えば、0〜60分間程度の範囲から選択でき、通常、1〜30分、好ましくは2〜20分、さらに好ましくは3〜10分(特に3〜7分)程度の時間反応するのが好ましい。
この溶液と溶射被膜表面とを接触する方法としては、コーティング剤を溶射被膜表面に塗布する方法や、コーティング剤に溶射被膜表面を浸漬する方法などが挙げられる。このような方法によって両者を接触させることにより、溶液中で加水分解により生成したシラノール基を有する化合物が、溶射被膜の金属酸化物と縮合反応し、溶射被膜表面に結合する。さらに、シラン系化合物が複数のアルコキシシリル基を有している場合には、金属酸化物の表面に結合した隣接するシラン系化合物のシラノール基同士が溶射被膜の表面で縮合反応し、シラン系被膜を形成してもよい。縮合反応における温度は、前記加水分解反応における温度と同様である。
縮合反応させる時間としては、反応温度やシラン系化合物の濃度などによって選択できるが、例えば、30分間以上反応させるのが好ましく、好ましくは1時間以上(例えば、1〜5時間)、さらに好ましくは2時間以上(例えば、2〜4時間)程度である。
例えば、シラン系化合物としてメチルトリエトキシシランを使用した場合、シラン系被膜は次のようにして形成されると推定できる。まず、メチルトリエトキシシランを含む水溶液が、コーティング剤として調製される。メチルトリエトキシシランは、水性溶液中で、下記式(a)で記載されているように、加水分解し、シラノール基を有する化合物が生成する。
Figure 0004484492
次に、生成したシラノール化合物は、下記式(b)で記載されているように、溶射被膜表面の金属酸化物と縮合反応するとともに、隣接するシラノール基同士も縮合反応して、表面にメチル基を有する単分子有機層が形成される。
Figure 0004484492
これに対して、例えば、下記式(c)で記載されているように、金属酸化物と結合したシラン系化合物のシラノール基に対して、金属酸化物に結合していない遊離のシラン系化合物のシラノール基が結合することにより、前記単分子被膜とは異なり、金属酸化物と直接的に結合していないケイ素を有する被膜が形成される場合もある。
Figure 0004484492
このような被膜は、シラン系化合物の加水分解反応によって生じたシラノール基同士が、溶射被膜と接触する前に、縮合することによって形成され易く、単分子被膜又は単分子有機層に比べて、シラノール基などの親水性基を表面に有しているため、撥水性が低い。
撥水性及び膜強度の高いシラン系被膜(単分子被膜など)は、反応温度、加水分解反応時間、縮合反応時間、シラン系化合物の濃度、加水分解触媒の種類や濃度などの諸条件を調整することにより、形成することができる。これらのうち、撥水性の高いシラン系被膜を形成するためには、特に、シラン系化合物の濃度と加水分解反応時間とを調整することが重要であり、これらの条件を調整することにより、溶射被膜の表面との反応前に、加水分解反応で生成したシラノール基同士が縮合するのを抑制することができる。加水分解反応時間及びシラン系化合物の濃度は、いずれも、他の条件に応じて適宜選択できるが、例えば、シラン系化合物の濃度が2〜10重量%(特に3〜8重量%)程度の水溶液を、加水分解反応時間3〜10分(特に3〜7分)程度で加水分解してもよい。
これらの反応は、シラン系化合物を含む溶液から、加水分解反応及び縮合反応を経ることにより、ゾルからゲルへの相変化を利用する低温合成法(ゾル−ゲル法)による反応であり、金属などの無機材料の表面を改質する方法として有用である。
溶射被膜とシラン系化合物とを反応後、被膜を乾燥させるために、加熱してもよい。加熱温度は、例えば、70〜250℃、好ましくは80〜200℃、さらに好ましくは100〜150℃程度である。加熱温度が高すぎると、フッ化ピッチが熱分解する虞がある。
本発明は、建造物(家屋、集合家屋、家畜用家屋など)、輸送機(車両、船舶、航空機などの)、交通標識(信号や道路標識など)、電気通信施設、鋼構造物(可動式水門など)、土木機械(土木機械のキャタピラーなど)、反射板、冷凍庫の内壁材、特に、着氷や着雪の影響を受け易い寒冷地域での前記建造物、輸送機、交通標識、構造物や、冷凍庫の内壁材などの溶射被膜のコーティングに有効である。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例で使用した溶射被膜された試験片の作製方法及びその溶射被膜の状態を以下に示す。
[溶射被膜された試験片の作製方法]
ブラスト法によって厚み約250μmで、寸法100mm×100mm×4mmのアルミニウム基板を粗面化した。一方、純度99.7重量%のアルミニウムチューブ(外径3mm、内径2.2mm)に、平均粒径1.2μmのフッ化ピッチを充填し、単位長さ当りの割合がアルミニウム約90重量%、フッ化ピッチ約10重量%であるワイヤを調製した。このワイヤを用いて、下記のガスフレーム溶射条件(ワイヤ供給速度を通常のソリッドワイヤの場合よりも1.5倍程度大きく設定)で、溶線式ガス溶射装置を用いて、前記アルミニウム基板を被覆し、幅30mmに切り出して試験片を作製した。溶射被膜の厚みは約250μm程度である。
(溶射条件)
ガス圧力:O2(0.2MPa)、C22(0.1MPa)、空気(0.31MPa)
ガスフローレート:O2(0.64×10-33/秒)、C22(0.31×10-33/秒)、空気(13.31×10-33/秒)
溶射距離:150mm
移動速度:約0.7m/秒
ワイヤ供給速度:60mm/秒。
[溶射被膜表面のフッ素濃度]
前記試験片の溶射被膜について、その被膜中のフッ素成分を、波長分散型エレクトロンプローブマイクロアナライザー(EPMA)(日本電子(株)製、商品名「JXA−8900RL」)を用いて面分析し、フッ素濃度と、その濃度が占める面積割合との関係をマッピング処理により求めた。結果を表1に示す。
Figure 0004484492
表1の結果から明らかなように、フッ素濃度が10重量%以上の部分も局部的に認められるが、0.12重量%以下の部分が全体の97.5%を占め、平均濃度は0.93重量%である。従って、複合ワイヤ法で製造したこの溶射被膜は、フッ化ピッチの分布状態にムラがあるため、金属リッチな部分が発生している。そのため、この部分に、水滴が付着すると、低温環境下ではこの部分を核にして氷が成長する虞がある。
実施例1
メチルトリエトキシシランを、水37.5g及びエタノール22.5gの混合溶媒に、メチルトリエトキシシランの濃度が6重量%となるように溶解し、この溶液に対して、加水分解用触媒として、濃塩酸(pH2)を10μl添加した溶液を調製した。次に、温度を50℃に保持しながら、5分間加水分解反応に供した。加水分解されたこの溶液に試験片を浸漬し、3時間経過後に溶液から引き上げて水洗した後、130℃で12時間加熱することにより乾燥した。この試験片の表面の接触角を液適法によって、5mm刻みで合計75点測定した。その結果、接触角は127〜139°に亘って分布し、平均接触角は133°であった。
さらに、浸漬時間については、3時間経過までは、時間の増加に伴い、接触角がやや大きくなる傾向が認められたものの、3時間を超えると、ほとんど接触角が変化しないことが認められた。
なお、前記溶液に浸漬前の試験片の接触角を測定した結果、接触角は92〜140°に亘って分布し、平均接触角は124°であり、浸漬後に比べて、平均接触角が小さく、ばらつき幅も大きかった。
実施例2
加水分解時間が接触角に及ぼす影響を調べるため、メチルトリエトキシシランを含む溶液の加水分解の反応時間を、0、5、10、15、20、45分の6種類に変化させる以外は、実施例1と同様にして、平均接触角を測定した。その結果を図1に示す。なお、メチルトリエトキシシランを含む溶液による処理前の接触角は120°であった。
図1の結果から明らかなように、接触角は加水分解反応時間が5分の条件で最大になり、20分以上では、処理前よりも小さくなる傾向が認められた。すなわち、加水分解時間が長すぎると、加水分解反応が終了し、シラノール化合物の縮合反応が起こり、二次元的な配列構造を有する化学分子膜の表面における形成が困難になると推定される。
実施例3
シラン系化合物の種類が接触角に及ぼす影響を調べるため、平均接触角125°で、ばらつき幅±15°である溶射被膜を用いて、メチルトリエトキシシラン(MTEOS)以外に、シラン系化合物として、フェニルトリエトキシシラン(PTEOS)、エチルトリエトキシシラン(ETEOS)、プロピルトリエトキシシラン(PRTEOS)についても、実施例1と同様の方法で、平均接触角を測定した。結果を図2に示す。
図2の結果から明らかなように、いずれのシラン系化合物も、ばらつき幅は±5°程度であり、処理前の溶射被膜よりも小さくなっていた。さらに、これらのシラン系化合物の中でも、プロピルトリエトキシシランの平均接触角は135°であり、最も大きかった。
図1は、実施例2の被膜における加水分解反応時間と接触角との関係を示すグラフである。 図2は、実施例3の被膜におけるシラン系化合物の種類と接触角との関係を示すグラフである。

Claims (5)

  1. 金属及びフッ化ピッチで構成された溶射被膜の表面に、シラン系化合物で形成された厚み0.1〜0.5μmの被膜を有する溶射被膜であって、前記シラン系化合物がC 2−4 アルキルトリC 1−2 アルコキシシランで構成されている溶射被膜
  2. シラン系化合物がプロピルトリC 1−2 アルコキシシランで構成されている請求項1記載の溶射被膜。
  3. シラン系化合物で形成された被膜の厚みが0.1〜0.3μmである請求項1又は2記載の溶射被膜。
  4. 金属及びフッ化ピッチで構成された溶射被膜の表面を、C 2−4 アルキルトリC 1−2 アルコキシシラン、水性溶媒及び酸触媒からなるコーティング剤で処理して、前記溶射被膜の表面にシラン系化合物で構成された厚み0.1〜0.5μmの被膜を形成する方法。
  5. ーティング剤で溶射被膜の表面を塗布した後、加熱して被膜を形成する請求項記載の方法。
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