従来より、エバネッセント波を利用した測定装置の1つとして、表面プラズモンセンサーが知られている。金属中においては、自由電子が集団的に振動して、プラズマ波と呼ばれる粗密波が生じる。そして、金属表面に生じるこの粗密波を量子化したものは、表面プラズモンと呼ばれている。表面プラズモンセンサーは、この表面プラズモンが光波によって励起される現象を利用して、試料の特性を分析するものであり、種々のタイプのセンサーが提案されている。そして、それらの中で特に良く知られているものとして、 Kretschmann配置と称される系を用いるものが挙げられる(例えば特許文献1参照)。
上記の系を用いる表面プラズモンセンサーは基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料に接触させられる金属膜と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を検出する光検出手段と、該光検出手段の検出結果に基づいて表面プラズモン共鳴の状態を測定する測定手段とを備えてなるものである。
なお上述のように種々の入射角を得るためには、比較的細い光ビームを入射角を変化させて上記界面に入射させてもよいし、あるいは光ビームに種々の角度で入射する成分が含まれるように、比較的太い光ビームを上記界面に収束光状態であるいは発散光状態で入射させてもよい。前者の場合は、入射した光ビームの入射角の変化に従って、反射角が変化する光ビームを、上記反射角の変化に同期して移動する小さな光検出器によって検出したり、反射角の変化方向に沿って延びるエリアセンサーによって検出することができる。一方後者の場合は、種々の反射角で反射した各光ビームを全て受光できる方向に延びるエリアセンサーによって検出することができる。
上記構成の表面プラズモンセンサーにおいて、光ビームを金属膜に対して全反射角以上の特定入射角θSPで入射させると、該金属膜に接している試料中に電界分布をもつエバネッセント波が生じ、このエバネッセント波によって金属膜と試料との界面に表面プラズモンが励起される。エバネッセント光の波数ベクトルが表面プラズモンの波数と等しくて波数整合が成立しているとき、両者は共鳴状態となり、光のエネルギーが表面プラズモンに移行するので、誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射した光の強度が鋭く低下する。この光強度の低下は、一般に上記光検出手段により暗線として検出される。
なお上記の共鳴は、入射ビームがp偏光のときにだけ生じる。したがって、光ビームがp偏光で入射するように予め設定しておく必要がある。
この光強度の低下が生じる全反射角以上の特定入射角θ
SP(以後全反射減衰角θ
SPと記載)より表面プラズモンの波数が解ると、試料の誘電率が求められる。すなわち表面プラズモンの波数をK
SP、表面プラズモンの角周波数をω、cを真空中の光速、ε
mとε
sをそれぞれ金属、試料の誘電率とすると、以下の関係がある。
試料の誘電率εsが分かれば、所定の較正曲線等に基づいて試料の屈折率等が分かるので、結局、全反射減衰角θSPを知ることにより、試料の誘電率つまりは屈折率に関連する特性を求めることができる。
また、エバネッセント波を利用した類似のセンサーとして、漏洩モードセンサーも知られている(例えば非特許文献1参照)。この漏洩モードセンサーは基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されたクラッド層と、このクラッド層の上に形成されて、試料に接触させられる光導波層と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを上記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックとクラッド層との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定する光検出手段と、該光検出手段の検出結果に基づいて導波モードの励起状態を測定する測定手段とを備えてなるものである。
上記構成の漏洩モードセンサーにおいて、光ビームを誘電体ブロックを通してクラッド層に対して全反射角以上の入射角で入射させると、このクラッド層を透過した後に光導波層においては、ある特定の波数を有する特定入射角の光のみが導波モードで伝搬するようになる。こうして導波モードが励起されると、入射光のほとんどが光導波層に取り込まれるので、上記界面で全反射する光の強度が鋭く低下する全反射減衰が生じる。そして導波光の波数は光導波層の上の試料の屈折率に依存するので、全反射減衰角θSPを知ることによって、試料の屈折率や、それに関連する試料の特性を分析することができる。
また、上述した表面プラズモンセンサーや漏洩モードセンサーは、創薬研究分野等において、所望のリガンドに結合するアナライトを見いだすランダムスクリーニングへ使用されることがあり、この場合には前記薄膜層(表面プラズモンセンサーの場合は金属膜であり、漏洩モードセンサーの場合はクラッド層および光導波層)上にリガンドを固定し、該リガンド上に種々のアナライトを含有するバッファー(液体試料)を供給し、所定時間が経過する毎に前述の全反射減衰角θSPを測定している。バッファー中のアナライトが、リガンドと結合するものであれば、この結合によりリガンドの屈折率が時間経過に伴って変化する。したがって、所定時間経過毎に上記全反射減衰角θSPを測定し、全反射減衰角θSPに変化が生じているか否か測定することにより、アナライトとリガンドの結合が行われているか否か、すなわちアナライトがリガンドと結合する特定物質であるか否かを判定することができる。このようなアナライトとリガンドとの組み合わせとしては、例えば抗原と抗体あるいは抗体と抗体が挙げられ、そのようなものに関する具体的な測定としては、一例として、リガンドをウサギ抗ヒトIgG抗体とし、アナライトであるヒトIgG抗体との結合の有無検出とその定量分析を行う測定が挙げられる。
なお、バッファー中のアナライトとリガンドの結合状態を測定するためには、必ずしも全反射減衰角θ
SPの角度そのものを検出する必要はない。例えば最初にアナライトを含まないバッファーを用いて基準となるベースラインを測定した後、リガンド上にアナライトが含まれたバッファーを供給した際の全反射減衰角θ
SPの角度変化量を測定して、その角度変化量の大小に基づいて結合状態を測定することもできる。
特開平6−167443号公報
特開2000−065731号公報
「分光研究」第47巻 第1号(1998)
上記のような表面プラズモンセンサー等の測定装置においては、バッファーによるバルク効果や、リガンドおよびバッファーの温度変化や、光源変動等の外乱による測定結果の誤差をなくすため、リファレンス法と呼ばれる方法を用いて測定精度を向上させる方法が用いられている。
このリファレンス法は、例えば、リガンドとアナライトの結合状態について測定を行う場合に、薄膜層上にリガンドを固定した検出系、および薄膜層上にリガンドを固定していない参照系の2つの系を用意し、例えば、検出系での測定結果から参照系の測定結果を引く等、参照系の測定結果に基づいて検出系の測定結果を校正することによって、上記のような外乱の影響を除外することができるものである。
また、上記のような表面プラズモンセンサー等の測定装置においては、リガンドが固定された薄膜層上に流路機構を用いてバッファーを連続的に供給して測定を行うものが知られている。この形態のセンサーを用いれば、リガンドとアナライトとの結合状態を測定する際に、常に新しいバッファーが薄膜層上に供給されるため、バッファー中の被検体の濃度が変化せず、結合状態の測定を精度良く行うことができる。また、リガンドとアナライトの結合状態を測定したのち、結合が行われている場合には、この結合体が固定されている薄膜層上に、アナライトが含まれていないバッファーを流すことより、リガンドとアナライトとの解離状態を測定することができる。さらに、例えば試料として気体を用いる場合、あるいは気体が溶在しているバッファーを用いる場合に、流路機構を用いて、容易に薄膜層上に試料を供給することができる。
しかしながら、この流路機構を用いた測定装置において、流路内に参照系と検出系とを設けてリファレンス法による校正を行うと、明らかな誤差が発生することが確認された。
この現象について図面を用いて詳細に説明する。図7は流路機構を備えた測定ユニットの断面図、図13は純水を供給している状態からバッファーを供給した後に再度純水を供給した場合の測定結果を示すグラフである。なお、図13では縦軸をSPR信号、横軸を時間としている。
この測定ユニットは、光ビームに対して透明であり、平滑な上面50aに薄膜層としての金属膜55が形成された誘電体ブロック50と、この誘電体ブロック50の金属膜55上に密接される流路部材51等を備えており、流路部材51は、金属膜55に面した測定部63、入口61から測定部63に至る供給路62、および測定部63から出口65に至る排出路64から構成される流路60を備えている。
流路部材51の上面には入口61および出口65が開口され、流路部材51の下部部分には、供給路62の出口と排出路64の入口が開口され、また流路部材51の下面に位置する金属膜55の表面と接する領域に、この供給路62の出口と排出路64の入口を囲むシール部51aが形成されており、このシール部51aの内側が測定部63となる。このため、流路部材51を誘電体ブロック50の金属膜55上に密接させた場合に、このシール部51a内の測定部63が流路として機能するようになり、入口61から測定部63を介して出口65までバッファーが略凵字状に流動可能となる。
上記のような測定ユニットの測定部63の中心から入口側を検出系領域(Ch1)、中心から出口側を参照系領域(Ch2)として、各領域の中心付近に各々測定光を入射させて、流路60内に純水を供給している状態からバッファーを供給した後に再度純水を供給した場合の測定を行ったところ図13に示すような結果となった。
純水時の信号を基準(0RU)とした場合、バッファーを供給した後に再度純水を供給した際にはCh1、Ch2ともにSPR信号は略0RUとなるはずであるが、図13のグラフに示す通り、バッファーから純水に切り替えてからしばらくの間(グラフ中の約230秒から約280秒)Ch1の信号は略0RUとなるがCh2の信号は0RUにならず(約10RU程度)、そのためCh1およびCh2の信号でリファレンス法を行うと、この区間においては誤差が生じることになる。
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、試料等の測定対象物に接した薄膜層と誘電体ブロックとの界面で光ビームを全反射させてエバネッセント波を発生させ、それにより全反射した光ビームの強度に表れる変化を測定して試料の分析を行う測定装置およびこの測定装置に用いる測定ユニットにおいて、上記問題を解消した測定装置および測定ユニットを提供することを目的とする。
本発明者は、流路機構を用いた測定装置において、流路内に参照系と検出系とを設けてリファレンス法による校正を行うと明らかな誤差が発生する場合があることを確認したため、この原因を探るべく上記図7に示すような流路を備えた測定ユニットにおいて、純水を供給している状態から着色した水を供給した後に再度純水を供給し、流路内での液体試料の状態を確認したところ、新しい液体試料を供給した際に測定部63の排出路64側角部において旧い液体試料が循環せずに僅かに残留していることが確認された。
測定ユニットの測定部63の中心から入口側を検出系領域(Ch1)、中心から出口側を参照系領域(Ch2)とした場合、この残留の影響は測定部63の排出路64側角部に近いCh2のみにしか現れないので、新たな液体試料を供給してからしばらくの間は、Ch1は新しい液体試料の測定を正確に行うことができるが、Ch2は旧い液体試料の影響を受けて新しい液体試料の測定を正確に行うことができないため、リファレンス法を用いてCh2の信号に基づいてCh1の信号の校正を行うと、この区間においては誤差が生じることになる。
以上のことから、流路内において残留の影響がある領域を測定領域から外すか、もしくは流路の形状を内部に残留が発生しないようなものとすることにより、残留による誤差の影響を回避できることを見出した。
本発明は上記の新たな知見に基づいてなされたものであり、本発明の測定装置は、平滑な一面に薄膜層が形成された誘電体ブロックと、誘電体ブロックの薄膜層上に密接される流路部材とからなり、流路部材が、薄膜層に面した測定部、流路部材上の入口から測定部の一端に至る供給路、および測定部の他端から流路部材上の出口に至る排出路から構成され、入口から測定部を介して出口まで試料が流動可能な流路を備え、薄膜層が、薄膜層上の測定部に対応する位置に特性の異なる2つの領域を有する測定ユニットと、光ビームを発生させる光源と、薄膜層の異なる2つの領域のうちの一方の領域と誘電体ブロックとの第1の界面に対して第1の光ビームを、2つの領域のうちの他方の領域と誘電体ブロックとの第2の界面に対して第2の光ビームを、各々全反射条件が得られる角度で並列的に入射させる光学系と、第1の界面および第2の界面で全反射した光ビームの強度を各々独立して検出する光検出手段と、光検出手段の検出結果に基づいて、薄膜層上の測定対象物の屈折率情報を求める屈折率情報取得手段とを備えてなる測定装置において、第1の光ビームの第1の界面への入射位置と第2の光ビームの第2の界面への入射位置との中間点が、試料の流動方向における測定部の中間点よりも入口側になるように構成されていることを特徴とするものである。
本発明の測定装置は、薄膜層を、金属膜からなるものとし、前述の表面プラズモン共鳴による効果を利用して測定を行う、所謂表面プラズモンセンサーとして構成されたものとすることができる。また、薄膜層を、誘電体ブロックの前記一面に形成されたクラッド層とクラッド層上に形成された光導波層からなるものとし、光導波層における導波モードの励起による効果を利用して測定を行う、所謂漏洩モードセンサーとして構成されたものとすることができる。
また、薄膜層上の状態の測定方法は、誘電体ブロックと薄膜層との界面に対して種々の入射角度で入射させた光ビームの該界面での反射光を検出して、全反射減衰角もしくはその角度変化を検出することにより屈折率もしくは屈折率変化を測定するものであってもよいし、また、D.V.Noort,K.johansen,C.-F.Mandenius, Porous Gold in Surface Plasmon Resonance Measurement, EUROSENSORS XIII, 1999, pp.585-588 に記載されているように、複数の波長の光ビームを前記界面で全反射条件が得られる入射角で入射させ、各波長毎に前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して、各波長毎の全反射減衰の程度を検出することにより屈折率もしくは屈折率変化を測定するものであってもよい。
また、本発明の第1の測定ユニットは、平滑な一面に薄膜層が形成された誘電体ブロックと、誘電体ブロックの薄膜層上に密接される流路部材とからなり、流路部材が、薄膜層に面した測定部、流路部材上の入口から測定部の一端に至る供給路、および測定部の他端から流路部材上の出口に至る排出路から構成され、入口から測定部を介して出口まで試料が流動可能な流路を備え、薄膜層が、薄膜層上の測定部に対応する位置に特性の異なる2つの領域を有する測定ユニットにおいて、2つの領域の境界が、試料の流動方向における測定部の中間点よりも入口側になるように構成されていることを特徴とするものである。
また、本発明の第2の測定ユニットは、平滑な一面に薄膜層が形成された誘電体ブロックと、誘電体ブロックの薄膜層上に密接される流路部材とからなり、流路部材が、薄膜層に面した測定部、流路部材上の入口から測定部の一端に至る供給路、および測定部の他端から流路部材上の出口に至る排出路から構成され、入口から測定部を介して出口まで試料が流動可能な流路を備え、薄膜層が、薄膜層上の測定部に対応する位置に特性の異なる2つの領域を有する測定ユニットにおいて、測定部の供給路側端部の薄膜層からの高さが、測定部の排出路側端部の薄膜層からの高さよりも高くなるように構成されていることを特徴とするものである。
本発明の測定ユニットは、薄膜層を、金属膜からなるものとし、前述の表面プラズモン共鳴による効果を利用して測定を行う、所謂表面プラズモンセンサーに用いられる測定ユニットとして構成されたものとすることができる。また、薄膜層を、誘電体ブロックの前記一面に形成されたクラッド層とクラッド層上に形成された光導波層からなるものとし、光導波層における導波モードの励起による効果を利用して測定を行う、所謂漏洩モードセンサーに用いられる測定ユニットとして構成されたものとすることができる。
本発明の測定装置によれば、薄膜層に面した測定部、流路部材上の入口から測定部の一端に至る供給路、および測定部の他端から流路部材上の出口に至る排出路から構成され、入口から測定部を介して出口まで試料が流動可能な流路を備えるとともに、この流路内に2つの測定領域を備えた測定ユニットを備えた測定装置において、2つの測定領域のうちの一方への測定光の入射位置と2つの測定領域のうちの他方への測定光の入射位置との中間点を、試料の流動方向における測定部の中間点よりも入口側になるように構成したことにより、測定部と排出路との間に形成される角部において生じる試料の残留の影響を受けにくくなるため、これによる測定誤差を回避することができる。
また、本発明の第1の測定ユニットによれば、薄膜層に面した測定部、流路部材上の入口から測定部の一端に至る供給路、および測定部の他端から流路部材上の出口に至る排出路から構成され、入口から測定部を介して出口まで試料が流動可能な流路を備えるとともに、この流路内に2つの測定領域を備えた測定ユニットにおいて、2つの領域の境界を、試料の流動方向における測定部の中間点よりも入口側になるように構成したことにより、測定装置に対して測定部と排出路との間に形成される角部において生じる試料の残留の影響を受けにくくさせることができるため、これによる測定誤差を回避させることができる。
さらに、本発明の第2の測定ユニットによれば、薄膜層に面した測定部、流路部材上の入口から測定部の一端に至る供給路、および測定部の他端から流路部材上の出口に至る排出路から構成され、入口から測定部を介して出口まで試料が流動可能な流路を備えるとともに、この流路内に2つの測定領域を備えた測定ユニットにおいて、測定部の供給路側端部の薄膜層からの高さを、測定部の排出路側端部の薄膜層からの高さよりも高くなるように構成したことにより、測定部と排出路との間に形成される角部に試料の残留を生じにくくすることができるため、測定装置に対して残留による測定誤差が発生しないようにすることができる。
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。本発明の第1の実施の形態の測定装置は、測定ユニットの複数の測定部に光ビームを並列的に入射させることにより複数の試料の分析を同時に行うことが可能な表面プラズモンセンサーであり、図1は本実施の形態の表面プラズモンセンサーの概略構成を示す平面図、図2はこの表面プラズモンセンサーの測定系の平面図、図3はこの表面プラズモンセンサーの測定系の側面図、図8は図2中のVIII−VIII線断面図である。
この表面プラズモンセンサー1は、図1に示すように、測定ユニット10に設けられた複数の測定部毎に光ビームを並列的に入射させることにより複数の試料の分析を同時に行うことが可能な表面プラズモンセンサーであり、同様の構成の複数の表面プラズモン測定系1A、1B…により構成されている。各測定系の構成について、個別の要素を表す符号であるA、B…の符号は省略して説明する。
図2、図3および図8に示すように、各測定系は、1本の光ビーム13を発生させる半導体レーザ等からなる光源14(以下、レーザ光源14という)と、上記光ビーム13を測定ユニット10に通し、流路60(測定部)の下の誘電体ブロック50と金属膜55との2箇所の界面50dおよび50eに対して、種々の入射角が得られるように並列的に入射させる光学系15と、上記界面50dおよび50eで全反射した光ビーム13を各々平行光化する2つのコリメーターレンズ16と、この平行光化された光ビーム13を各々検出する2つのフォトダイオードアレイ17と、2つのフォトダイオードアレイ17に接続された差動アンプアレイ18と、ドライバ19と、コンピュータシステム等からなる信号処理部20と、この信号処理部20に接続された表示部21とを備えている。なお、信号処理部20は、後述する補正動作の際に使用される予備測定の結果のデータを記憶する図示しない記憶手段が内蔵されたものであり、また補正手段としても機能するものである。
まず、測定ユニット10について説明する。図4は測定ユニット10の斜視図、図5は上記測定ユニットの分解斜視図、図6は上記測定ユニットの上面図、図7は図6中のVII−VII線断面図である。
測定ユニット10は、光ビームに対して透明であり、平滑な上面50aに薄膜層としての金属膜55が形成された誘電体ブロック50と、この誘電体ブロック50の金属膜55上に密接される流路部材51と、誘電体ブロック50と係合して、流路部材51を誘電体ブロック50の上面50a上に保持する保持部材52とから構成される。
誘電体ブロック50は、例えば透明樹脂等からなるものであり、長手方向に直交する断面が上底よりも下底の方が短い台形状の本体を有し、この本体の長手方向の両端部に上面(もしくは下面)方向から見たときの幅が本体よりも薄く形成された保持部50bが形成されたもので、後述の測定装置の光源から出射された光ビームを誘電体ブロック50と金属膜55との界面に入射させるとともに、この界面で全反射した光ビームを測定装置の光検出手段に向けて出射させるプリズム部が一体的に形成されたものである。本体の長手方向の両側面には後述の保持部材52に形成された係合孔52cに係合させるための係合凸部50cと側面が垂直に形成された垂直凸部50dとが両側面で各々互いに対向するように形成されており、底面には長手方向に平行に延びる摺動溝50eが形成されている。
流路部材51は、入口61から測定部63に至る供給路62、および測定部63から出口65に至る排出路64から構成される流路60が、流路部材51の長手方向に渡って複数形成されており、この複数の流路60は直線状に配置されている。
図7に示すように、流路部材51の上面には入口61および出口65が開口され、流路部材51の下部部分には、供給路62の出口と排出路64の入口が開口され、また流路部材51の下面に位置する金属膜55の表面と接する領域に、この供給路62の出口と排出路64の入口を囲むシール部51aが形成されており、このシール部51aの内側が測定部63となる。このため、流路部材51を誘電体ブロック50の金属膜55上に密接させた場合に、このシール部51a内の測定部63が流路として機能するようになり、入口61から測定部63を介して出口65までバッファーが略凵字状に流動可能となる。なお、シール部51aは、流路部材51の上部部分と一体形成されたものであってもよいし、上部部分とは異なる素材により形成され、後付されたものであってもよく、例えばOリング等を流路部材51の下部部分に取り付けたものであってもよい。
本発明の測定ユニットを使用する表面プラズモンセンサー等の測定装置では、蛋白質を含む液体試料が使用されることが想定されるが、流路60内で液体試料中の蛋白質が固着してしまうと測定を正確に行うことが困難となってしまうため、流路部材51の材料としては蛋白質に対する非特異吸着性を有しないことが好ましく、具体的にはシリコン、ポリプロピレン等を用いるとよい。また、流路部材51をこのような弾性材料からなるものとすることにより、流路部材51を金属膜55上に確実に密接させることができるため、接触面からの液体試料の液漏れを防止することができる。
保持部材52は、ポリプロピレン等の弾性材料からなり、長手方向と直交する方向の断面が略冂字形状をしており、保持部材52の上板(保持板部)の流路部材51の入口61および出口65と対向する位置には流路部材51に向けて狭くなるテーパー状のピペット挿入孔52aが形成されており、保持部材52の上面の各ピペット挿入孔52aの中間、および両端のピペット挿入孔52aのさらに外側には位置決め用のボス52bが形成されている。
また、この保持部材52の上面には、蒸発防止部材54が両面テープ(接着部材)53により貼付されている。図5に示すように、両面テープ53のピペット挿入孔52aと対向する位置にはピペット挿入用の孔53aが形成され、ボス52bと対向する位置には位置決め用の孔53bが形成されており、同様に、蒸発防止部材54のピペット挿入孔52aと対向する位置にはスリット54aが形成され、ボス52bと対向する位置には位置決め用の孔54bが形成されており、ボス52bに両面テープ53の孔53bおよび蒸発防止部材54の孔54bを挿通した状態で、蒸発防止部材54を保持部材52の上面に貼付することにより、蒸発防止部材54のスリット54aと流路部材51の入口61および出口65とが対向するように構成される。この蒸発防止部材54は、スリット54aからピペットを挿入できるように弾性を有する材料である必要があり、具体的にはシリコンまたはポリプロピレン等を用いるとよい。なお、上記の保持部材52と蒸発防止部材54とは一体的に形成してもよく、これに加えてさらに流路部材51も一体的に形成してもよい。
さらに、保持部材52の長手方向側板には、誘電体ブロック50に形成された係合凸部50cに係合させるための係合孔52cが形成されており、この係合孔52cを係合凸部50cに係合させて保持部材52と誘電体ブロック50とを係合させた状態で、流路部材51が保持部材52と誘電体ブロック50とに挟持され、流路部材51が誘電体ブロック50の上面50a上に保持されるように構成されている。
図7に示すように、流路部材51が保持部材52と誘電体ブロック50とに挟持された状態では、流路部材51の入口61および出口65は、蒸発防止部材54のスリット54aにより外気から遮断され、流路60内に注入された液体試料の蒸発を防止するように構成されている。
入射光学系15は、レーザ光源14から発散光状態で出射した光ビーム13を平行光化するコリメーターレンズ15aと、該平行光化された光ビーム13を分光するハーフミラー15cと、ハーフミラー15cにより反射された光ビーム13を測定ユニット10方向に反射させるミラー15dと、ハーフミラー15cを透過した光ビーム13、およびミラー15dにより反射された光ビーム13を上記界面50dおよび50e上で各々収束させる2つの集光レンズ15bとから構成されている。
光ビーム13は、上述のように集光されるので、界面50dおよび50eに対して種々の入射角θで入射する成分を含むことになる。なおこの入射角θは、全反射角以上の角度とされる。そこで、光ビーム13は界面50dおよび50eで全反射し、この反射した光ビーム13には、種々の反射角で反射する成分が含まれることになる。なお、上記光学系15は、光ビーム13を界面50dおよび50eにデフォーカス状態で入射させるように構成されてもよい。そのようにすれば、表面プラズモン共鳴の状態検出の誤差が平均化されて、測定精度が高められる。
なお光ビーム13は、界面50dおよび50eに対してp偏光で入射させる。そのようにするためには、予めレーザ光源14をその偏光方向が所定方向となるように配設すればよい。その他、波長板で光ビーム13の偏光の向きを制御してもよい。
図8に示すように、本実施の形態において、測定ユニット10の各流路60の測定部63
には2箇所の界面50dおよび50eに対して光ビーム13が並列的に入射されるが、このうち一方の界面50d上の金属膜55上は何も固定していない参照領域とし、他方の界面50e上の金属膜55上はリガンド73を固定した検出領域とし、後述のリファレンス法による測定結果の校正を行うことができるようにしている。なお、参照領域と検出領域の境界(リガンド73の流路入口61側端部)は、試料の流動方向における測定部63の中間点CMよりも入口61側になるように構成している。
また、参照領域における光ビーム13の入射位置と検出領域における光ビーム13の入射位置との中間点CLを、試料の流動方向における測定部63の中間点CMよりも入口61側になるように構成したことにより、測定部63と排出路64との間に形成される角部において生じる試料の残留の影響を受けにくくなるため、これによる測定誤差を回避することができるようにしている。
以下、上記構成の表面プラズモンセンサー1による試料分析について説明する。測定に先立ち、恒温室2からチップ保持部11上の測定位置へ向けて測定ユニット10が移動される。チップ保持部11には誘電体ブロック50に形成された摺動溝50eと係合するレール11aが形成されており、測定ユニット10を移動させる際に高い位置精度を確保することができるようになっている。さらに、測定ユニット10がチップ保持部11上に載置された後、誘電体ブロック50に形成された垂直凸部50dが不図示の固定機構により挟持されてチップ保持部11上の測定位置に固定される。その後、図8に示すように流路部材51の入口61に液体試料供給用ピペットチップ70を挿入し、出口65に液体試料吸入用ピペットチップ71を挿入し、液体試料供給用ピペットチップ70から液体試料としてアナライトを含有するバッファー72を流路60の測定部63に供給した後、測定を開始する。
図3に示す通り、レーザ光源14から発散光状態で出射した光ビーム13は、光学系15の作用により、測定部63の下の誘電体ブロック50と金属膜55との界面50dおよび50e上で収束する。この際、光ビーム13は、界面50dおよび50eに対して種々の入射角θで入射する成分を含むことになる。なおこの入射角θは、全反射角以上の角度とされる。そこで、光ビーム13は界面50dおよび50eで全反射し、この反射した光ビーム13には、種々の反射角で反射する成分が含まれることになる。
界面50dおよび50eで全反射した後、2つのコリメーターレンズ16によって各々平行光化された2本の光ビーム13は、2つのフォトダイオードアレイ17により各々検出される。本例におけるフォトダイオードアレイ17は、複数のフォトダイオード17a、17b、17c……が1列に並設されてなり、図3の図示面内において、平行光化された光ビーム13の進行方向に対してフォトダイオード並設方向がほぼ直角となる向きに配設されている。したがって、上記界面50dおよび50eにおいて種々の反射角で全反射した光ビーム13の各成分を、それぞれ異なるフォトダイオード17a、17b、17c……が受光することになる。
図9は、この表面プラズモンセンサーの電気的構成を示すブロック図である。図示の通り上記ドライバ19は、差動アンプアレイ18の各差動アンプ18a、18b、18c……の出力をサンプルホールドするサンプルホールド回路22a、22b、22c……、これらのサンプルホールド回路22a、22b、22c……の各出力が入力されるマルチプレクサ23、このマルチプレクサ23の出力をデジタル化して信号処理部20に入力するA/D変換器24、マルチプレクサ23とサンプルホールド回路22a、22b、22c……とを駆動する駆動回路25、および信号処理部20からの指示に基づいて駆動回路25の動作を制御するコントローラ26から構成されている。なお、差動アンプアレイ18、ドライバ19、信号処理部20は、2つのフォトダイオードアレイ17からの入力に対して、同様の処理を並列的に行うように構成されている。
上記フォトダイオード17a、17b、17c……の各出力は、差動アンプアレイ18の各差動アンプ18a、18b、18c……に入力される。この際、互いに隣接する2つのフォトダイオードの出力が、共通の差動アンプに入力される。したがって各差動アンプ18a、18b、18c……の出力は、複数のフォトダイオード17a、17b、17c……が出力する光検出信号を、それらの並設方向に関して微分したものと考えることができる。
各差動アンプ18a、18b、18c……の出力は、それぞれサンプルホールド回路22a、22b、22c……により所定のタイミングでサンプルホールドされ、マルチプレクサ23に入力される。マルチプレクサ23は、サンプルホールドされた各差動アンプ18a、18b、18c……の出力を、所定の順序に従ってA/D変換器24に入力する。A/D変換器24はこれらの出力をデジタル化して信号処理部20に入力する。
図10は、界面50d(または50e)で全反射した光ビーム13の入射角θ毎の光強度と、差動アンプ18a、18b、18c……の出力との関係を説明するものである。ここで、光ビーム13の界面50d(または50e)への入射角θと上記光強度Iとの関係は、同図(1)のグラフに示すようなものであるとする。
界面50d(または50e)にある特定の入射角θSPで入射した光は、金属膜55とバッファー72との界面に表面プラズモンを励起させるので、この光については反射光強度Iが鋭く低下する。つまりθSPが全反射減衰角であり、この角度θSPにおいて反射光強度Iは最小値を取る。この反射光強度Iの低下は、図3にDで示すように、反射光中の暗線として観察される。
また図10の(2)は、フォトダイオード17a、17b、17c……の並設方向を示しており、先に説明した通り、これらのフォトダイオード17a、17b、17c……の並設方向位置は上記入射角θと一義的に対応している。
そしてフォトダイオード17a、17b、17c……の並設方向位置、つまりは入射角θと、差動アンプ18a、18b、18c……の出力I´(反射光強度Iの微分値)との関係は、同図(3)に示すようなものとなる。
信号処理部20は、A/D変換器24から入力された微分値I´の値に基づいて、差動アンプ18a、18b、18c……の中から、全反射減衰角θSPに対応する微分値I´=0に最も近い出力が得られているもの(図10の例では差動アンプ18dとなる)を選択し、それが出力する微分値I´に所定の補正処理を施してから、その値を表示部21に表示させる。なお、場合によっては微分値I´=0を出力している差動アンプが存在することもあり、そのときは当然その差動アンプが選択される。
以後、所定時間が経過する毎に上記のように選択された差動アンプのいずれかが出力する微分値I´が、所定の補正処理を受けてから表示部21に表示される。この微分値I´は、測定チップの金属膜55に接している物質の誘電率つまりは屈折率が変化し、全反射減衰角θSPが変化して、図10(1)に示す曲線が左右方向に移動する形で変化すると、それに応じて上下する。したがって、この微分値I´を時間の経過とともに測定し続けることにより、金属膜55に接しているバッファー72(またはリガンド73)の屈折率変化を調べることができる。
特に本実施形態では検出領域において、バッファー72に含まれるアナライトがリガンド73と結合する特定物質であれば、リガンド73とアナライトとの結合状態に応じてリガンド73の屈折率が変化するので、上記微分値I´を測定し続けることにより、アナライトがリガンド73と結合する特定物質であるか否かを検出することができる。
さらに、本実施の形態においては、リファレンス法を行うべく検出領域と参照領域の2つの領域を有し、この2つの領域の測定を同時に行っているため、上記のピーク状のノイズの補正に加えて、さらにリファレンス法によりバッファーの温度変化や、光源変動等の外乱による誤差を校正することができるため、測定装置の測定精度をより向上させることができる。
なお、本実施の形態において金属膜55上の参照領域には何も固定していないが、参照領域はバッファー72中のアナライトと結合しない機能を有している方が好ましい。そのような態様とするためには、例えばアルキルチオール、アミノアルコールまたはアミノエーテル等を金属膜55上に固定すればよい。
また、測定ユニットについては、参照領域における光ビーム13の入射位置と検出領域における光ビーム13の入射位置との中間点CLが、試料の流動方向における測定部63の中間点CMよりも入口61側となっていれば、参照領域と検出領域の境界(リガンド73の流路入口61側端部)は必ずしも上記中間点CMよりも入口61側にある必要はない。
また、測定ユニットは上記で説明したもの以外に、図11に示すような態様としてもよい。図11は測定ユニットの他の態様を示す図8と同じ位置の断面図である。
この図に示す通り、測定部63の供給路62側端部の金属膜55からの高さLIを、測定部63の排出路64側端部の金属膜55からの高さLOよりも高くなるように構成することにより、測定部63と排出路64との間に形成される角部に試料の残留を生じにくくすることができるため、測定装置に対して残留による測定誤差が発生しないようにすることができる。なおこの場合は、参照領域における光ビーム13の入射位置と検出領域における光ビーム13の入射位置との中間点は、試料の流動方向における測定部63の中間点よりも入口61側である必要はない。
さらに、測定装置については、複数の表面プラズモン測定系により測定ユニットに設けられた全ての流路に対して同時に測定を行う態様に限定されるものではなく、一つの表面プラズモン測定系のみを備え、測定ユニットの位置を測定系に対して相対的に移動させることによって測定ユニットに設けられた複数の流路の測定を順次行う態様としてもよい。
次に、図12を参照して本発明の第2の実施の形態について説明する。なおこの図12において、図3中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は特に必要の無い限り省略する。この第2の実施の形態の測定ユニットは漏洩モードセンサーに対応したものであり、測定系は第1の実施の形態の表面プラズモンセンサーと同じ構成である。
この測定ユニット10´の誘電体ブロック50の一面(図中の上面)には薄膜層としてのクラッド層56および光導波層57が順に積層されている。誘電体ブロック50は、例えば合成樹脂やBK7等の光学ガラスを用いて形成されている。一方クラッド層56は、誘電体ブロック50よりも低屈折率の誘電体や、金等の金属を用いて薄膜状に形成されている。また光導波層57は、クラッド層56よりも高屈折率の誘電体、例えばPMMAを用いてこれも薄膜状に形成されている。クラッド層56の膜厚は、例えば金薄膜から形成する場合で36.5nm、光導波層57の膜厚は、例えばPMMAから形成する場合で700nm程度とされる。
上記構成の漏洩モードセンサーにおいて、レーザ光源14から出射した光ビーム13を誘電体ブロック50を通してクラッド層56に対して全反射角以上の入射角で入射させると、光ビーム13が誘電体ブロック50とクラッド層56との界面50dおよび50eで全反射するが、クラッド層56を透過して光導波層57に特定入射角で入射した特定波数の光は、該光導波層57を導波モードで伝搬するようになる。こうして導波モードが励起されると、入射光のほとんどが光導波層57に取り込まれるので、上記界面50dおよび50eで全反射する光の強度が鋭く低下する全反射減衰が生じる。
光導波層57における導波光の波数は、該光導波層57の上のバッファー72もしくはリガンド73の屈折率に依存するので、全反射減衰が生じる上記特定入射角を知ることによって、バッファー72もしくはリガンド73の屈折率を知ることができる。また、差動アンプアレイ18の各差動アンプが出力する微分値I´に基づいてリガンド73とバッファー72の中の被検体との結合状態の変化の様子を調べることができる。
上記第2の実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。