JP4474017B2 - 新規プラスミドベクター - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、宿主細胞のゲノムに任意のDNAを挿入することができるプラスミドベクターに関する。
【0002】
さらに、本発明は、前記プラスミドベクターを用いた、形質転換体、遺伝子導入動物(以下「TG動物」ということがある)などの作出方法、および有用物質の生産方法に関する。
【0003】
【従来の技術】
(1)外来DNA導入技術の利用
宿主細胞のゲノムに外来のDNAを挿入することは、産業および医療において非常に重要な技術であり、様々な分野に用いられている。
【0004】
第一に、有用物質の生産が挙げられる。技術的に初期の段階では、このような目的のために大腸菌を宿主とするベクターが用いられ、現在でも利用されている。しかしながら、このシステムの欠点として、生産されたタンパク質の修飾の受け方が哺乳類あるいは鳥類とは違うことが挙げられる。このことはヒトまたは他の動物由来の有用タンパク質の産生および使用を目的とした場合に問題となる。特に大腸菌ではタンパク質への糖鎖の付加が起こらないため、糖タンパク質の生産には適さない。また、大腸菌では生産されたタンパク質が不溶性の凝集塊を形成する場合も多く、生理活性を持つタンパク質を得るためにはさらに何らかの処理を行うことが必要となる。
【0005】
このような欠点を軽減するために、酵母を宿主とするベクターも用いられている。大腸菌とは異なり、酵母では糖鎖の付加は起こる。しかしながら、付加される糖鎖の種類が異なるため生理活性において問題となる場合もある。また、大腸菌と同様に生産されたタンパク質が凝集塊を作りやすいという欠点もある。
【0006】
ウイルスを発現ベクターとして用いる方法も広く応用されている。現在、生理活性のあるタンパク質を大量に得る目的で、バキュロウイルスをベクターとする発現システムが広く使われている。このシステムでは、前記二者と比較して生理活性のあるタンパク質が得られる場合が多い様である。しかしながら、この場合にも糖タンパク質において付加される糖鎖の種類が異なるという問題や、凝集塊形成の問題が残されている。また、生産されるタンパク質の発現量がタンパク質によって大きく変動し、現在のところ遺伝子組換え体を構築しタンパク質を発現させるまでは、発現量の予測は出来ない。
【0007】
動物細胞にプラスミドベクターを導入して有用タンパク質を発現させるという方法も用いられている。この場合には、発現タンパク質の修飾に関する問題がほとんどないという利点がある。プラスミドベクターを細胞内に導入する方法としては、電気的穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法など様々な方法が実用化されている。しかし、このようにして細胞内に導入されたDNAは通常ゲノムに挿入されないために細胞の増殖過程で失われていき、ついには消失してしまう。そのためタンパク質を生産させようとするたびにDNAの導入を行う必要が生ずる。
【0008】
細胞に導入されたプラスミドDNAは極めて低い頻度ではあるが宿主細胞のゲノムと組換えを起こし、ゲノムへの挿入が起こる場合がある。このようにして宿主細胞のゲノムに挿入されたDNAは、宿主細胞の増殖により消滅することは通常ない。そのため、ベクターDNAが挿入された細胞を人為的に選択することができれば永続的にタンパク質を発現する細胞を得ることができる。このような目的で、例えば、外来遺伝子および抗生物質に対する抵抗性タンパク質を同時に発現させ、抗生物質による選択により有用タンパク質を発現させる細胞が得られている。しかしながら、このようにして得られた細胞ではそのタンパク質の発現量は通常低く、そのためこの方法の適用範囲は限定されているのが実情である。
【0009】
また、動物を利用した有用タンパク質の生産の試みもなされている。このような目的では、ウシ、ヤギあるいはブタなどの乳汁中に有用タンパク質を発現させる方法、あるいはニワトリの卵の中に有用タンパク質を発現させる方法などが試みられている。この方法が成功した場合には大量のタンパク質を得ることが可能となる。しかし前者の場合、ウシ、ヤギあるいはブタなどの大型哺乳類の遺伝子導入(transgenic;TG)動物を確立するためには莫大な資金がかかるという欠点がある。
【0010】
また、後者のニワトリの場合、一般に、取り扱いの容易さなどから産卵された卵に外来DNAを導入することが考えられるが、哺乳類TG動物の作出で行われているように卵割前の受精卵または卵割開始後ごく初期段階の受精卵にマイクロマニピュレーター等を用いて核内にDNAを注入するという方法は、産卵された時点で卵割が進んでいるため産卵後の卵では実施できない。また、すでに卵割して数が増えた細胞のそれぞれにマイクロマニピュレーターなどで外来遺伝子を導入するのは操作上極めて煩雑である。最近、産卵前に取り出したニワトリの未分割の受精卵にプラスミドDNAをマイクロインジェクションにより導入し、これを体外培養で孵化させた個体を得、次世代以降への外来遺伝子の伝達を観察している報告がある(Love, J., et al., Biotechnology, 12, 60-63, 1994)が、いずれにしてもマイクロマニピュレーションやニワトリ受精卵の体外培養技術といった特殊技術が必要とされるものである。これらの問題点を克服するためニワトリ初期胚の始原生殖細胞を採取して、この細胞に外来遺伝子を導入し、これを別の発育鶏卵の初期胚に戻し孵化させるという方法が考案されている。この方法により、生殖系列の細胞内に外来遺伝子が導入された個体が得られ、成長したこの個体から生まれたヒナに外来遺伝子が伝達されることが期待される。しかしながら、この方法は採取した始原生殖細胞のゲノムに外来遺伝子を効率よく挿入させる方法が確立されていないことが大きな障害となって実用化に至っていない。
【0011】
さらに、最近ではクローン技術の応用も試みられている。これは、動物の体細胞を採取し、in vitroで遺伝子導入を行い、ゲノムに外来遺伝子が挿入された細胞を選別し、マイクロマニピュレーションの技術を用いてその細胞から採取した核を、脱核した卵細胞に移植し、この細胞を雌の子宮に戻し産仔を得ようとするものである。しかしながら、マイクロマニピュレーションを用いての移植などには特殊技術が必要であり、また、クローン動物の確立には莫大な費用を要するという欠点がある。
【0012】
ニワトリ始原生殖細胞内に外来遺伝子を導入する方法としても、マイクロマニピュレーターを用いて細胞内にDNAを注入する方法が先ず挙げられる。しかしながら、1個の発育鶏卵の初期胚に戻すのに必要な始原生殖細胞の数は約100個程度といわれており、マイクロマニピュレーターを用いるこの方法は多数の始原生殖細胞を処理するためには適した方法ではない。
【0013】
大量の始原生殖細胞を処理する方法としては、電気的穿孔法によるプラスミドDNAの導入や、ベクター自身の感染性を利用したレトロウイルスベクターの利用などが考えられる。前者に関しては、電気的穿孔法の応用により比較的効率よく始原生殖細胞への遺伝子の導入が可能であるとの報告があるが、(Hong, Y.H.,et al., Transgenic Res., 7, 247-252, 1998)、通常のプラスミドベクターを用いているため、導入された遺伝子が安定して子孫に伝達されるかについては問題が残っている。また後者のレトロウイルスベクターに関しては、これを用いてニワトリ始原生殖細胞に外来遺伝子を導入し、これを移植した別の卵の胚から孵化した個体の次世代への外来遺伝子の伝達を観察している報告(Vick, L., et al., Proc.R.Soc.Lond.B.Biol.Sci., 251, 179-182, 1993)があるが、その構築に時間がかかるうえ、一般にウイルスの増殖性が悪く感染効率も低いなどの難点がある。さらに、強力なプロモーターを組み込んだレトロウイルスベクターの作出は困難である。
【0014】
ここまでは、TG動物については、有用タンパク質の生産という点に関連して述べてきたが、TG動物は他の様々な用途にも用いられている。例えば、TGマウスはある遺伝子の機能を解析する目的に用いられたり、あるいは病原体のレセプターをコードする遺伝子を導入したTGマウスはその疾病のモデル動物として用いられている。また、TG動物の応用例としては、移植臓器を提供するための動物の作出なども考えられる。
【0015】
TGマウスの作出は既に確立された技術であると言える。しかしながら、TGマウスの作出には、通常マイクロマニピュレーションという特殊な技術とそのための機材を必要とする。
【0016】
最近、雄の精巣に直接DNAを注入し、雌との自然交配により受精卵中に外来遺伝子を導入し、より簡便にTG動物を作出する方法が検討されている。実際に、マウスの雄の精巣にDNAを注入後、自然交配で受精した受精卵から発生した初期の胚盤胞に外来遺伝子の発現が見られるとの報告がある(Ogawa S., et al., J.Reproduction and Developement, 41, 379-382, 1995)。しかし、このようにして導入した外来遺伝子が安定して子孫に伝わり、確実にTGマウスが作出されるまでには至っていない。
【0017】
最近DNAワクチンという概念が生まれ研究が進められている。これは、対象となる動物の細胞内で免疫原となるタンパク質が発現するようにプロモーターと連結した遺伝子を含むDNAを注射あるいは圧縮銃などによって当該動物に接種し免疫を賦与しようというものである。このアイデアの根底には、通常は、ワクチンとして不活化または弱毒化した病原体あるいは感染防御免疫を誘導するペプチドよりも、DNAの方が取り扱いが容易で開発の面で有利であるということがある。プラスミドDNAを接種された動物の細胞内で実際に外来遺伝子の発現は観察されており、そして、不活性化ワクチンでは通常、誘導することが困難であるとされる細胞性免疫とともに、液性免疫の誘導も観察されている(Ulmer, J.B.et al., Science,259,1745-1749.1993)。しかしながら現在までのところ、免疫応答の誘導には大量のDNAを必要とし実用化には至っていない。この理由の1つとして細胞内に取り込まれたDNAが短期間のうちに除去されてしまうことが考えられる。そこで、プロウイルス化するレトロウイルスをベクターとして用いることが検討されている。具体的には、エイズの原因ウイルスであるHIVのenv/rev遺伝子を組み込んだものをワクチンとして用いることが検討されているが(Irwin,M.J., et al., J.Virol., 68,5036-5044, 1994)、レトロウイルスをベクターとして用いるにはいくつもの問題点がある。(この問題点については下記にてまとめて説明する。)
宿主細胞のゲノムへ外来遺伝子を挿入する技術は、遺伝子治療としてヒトの難病の治療にも応用されている。先ず第一に遺伝病の治療が挙げられる。遺伝病とは重要な遺伝子の欠損あるいは変異により引き起こされる病気である。したがって、欠損あるいは変異した遺伝子を補う正常な遺伝子を導入することにより、症状は回復あるいは軽減することが考えられる。全ての細胞に遺伝子を導入することは実際上不可能であるため適用可能な遺伝病は限られるが、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症における遺伝子治療のように成功例もある。
【0018】
第二に癌の治療が以下のように挙げられる。先ず癌抑制遺伝子を導入したり、癌遺伝子のアンチセンスRNAを発現する遺伝子を導入するなどして癌を抑えようというものであり、現在のところ最も有望視されていると思われる。次に、サイトカイン遺伝子を免疫担当細胞や癌細胞に導入したり、癌細胞に主要組織適合抗原複合体(MHC)関連遺伝子を導入したりして宿主の免疫機能を高めて癌を抑制しようというものがある。また、抗癌剤耐性遺伝子を導入して骨髄幹細胞等抗ガン剤に弱い細胞を保護した上で大量の抗ガン剤を投与しようというものもある。
【0019】
第三に感染症の治療が挙げられる。ここで問題となるのは、エイズやC型肝炎に代表されるような病原体の増殖が遅く、宿主の免疫系を逃れているような疾病である。ここでも、病原体の増殖に必須な遺伝子の発現を抑える遺伝子(例えばアンチセンスやウイルスRNAを特異的に切断するリボザイム遺伝子など)を病原体の標的細胞に導入することにより、遺伝子を導入した細胞を病原体から守ることができることが期待される。このような細胞単位の抗病性をさす細胞内免疫(Intracellular Immunization)という概念が近年提唱され研究が進められている(Baltimore, D., Nature, 335, 395-396, 1988)。
【0020】
(2)レトロウイルスベクター等によるDNA挿入方法
ゲノムに外来DNAを挿入させる方法としては、外来DNAと薬剤耐性遺伝子を組み込んだプラスミドベクターを細胞内に導入し、ゲノムに外来DNAが組み込まれた細胞を薬剤によって選択する方法がある。これはある程度有効な方法であるが、挿入効率が極めて低いために培養細胞等限られた分野でしかこの方法を用いることが出来ない。
【0021】
また、TG動物作出では核内に直接DNAを注入する方法がよく用いられ、この方法によれば核内に直接大量の外来DNAが入るために外来DNAがゲノムに挿入される確率は高い。しかしながら、この方法はマイクロマニピュレーター等の特殊な機械及び技術が必要な上、個々の細胞に操作を加えるために大量の細胞を処理することは作業上極めて煩雑である。
【0022】
そこで、宿主細胞のゲノムに所望のDNA配列を挿入させる方法としては、現在のところレトロウイルスを用いる方法が最も一般的であると思われる。レトロウイルスは一本鎖のRNAウイルスであり、そのゲノムRNAは5’末端にキャップ構造を持ち、3’末端にポリAをもつメッセンジャーRNA(mRNA)様の構造をしている。宿主細胞のレセプターとの特異的な結合を介してウイルス粒子が吸着後、ウイルスエンベロープと細胞膜の融合が起こり、プレインテグレーションコンプレックス(pre-integration complex)が細胞質内に侵入する。この複合体にはウイルスRNAのほかに、ウイルス粒子由来の逆転写酵素やインテグラーゼ等が含まれており、この逆転写酵素によりウイルスRNAを鋳型として直鎖状二本鎖DNAが合成される。この時に、ウイルスRNAにはなかった長い繰り返し配列 (long terminal repeat:LTR) が両末端に形成される。この直鎖状二本鎖DNAはインテグラーゼ等とともに複合体の形で核内に移行し、やがて環状化する。そして、この環状化したDNAはインテグラーゼの働きで宿主ゲノムに組み込まれる(ワトソン遺伝子の分子生物学、第4版、原著者:Watson, J.D., Hopkins, N, H., Roberts, J.W., Steitz, J.A., Weiner, A.M., 監訳者:松原謙一、中村桂子、三浦謹一郎、株式会社トッパン、1988)。しかし、宿主ゲノムへの組み込みの前駆体はこのような環状DNAではなく、直鎖状二本鎖DNAであるとの報告もある(Brown, P.O., et al., Proc.Natl.Acad.Scl.USA., 86, 2525-2529, 1989.)。ここで作用を発揮するインテグラーゼは、感染後ウイルスゲノムから新たに転写・翻訳された産物ではなく、感染により宿主細胞にもちこまれたウイルス粒子由来のものであると考えられている。また、インテグラーゼの核内への移行ならびにその作用の発揮は、インテグラーゼとウイルスゲノムの両者が結合した形でなされているものと考えられる。
【0023】
また、宿主細胞のゲノムへの組み込みは、直鎖状二本鎖DNAの環状化により形成された両LTRの連結部で起こるとの報告がある(Panganiban, A.T. and Temin, H.M., Cell, 36, 673-679, 1984.)。そして、インテグラーゼの認識配列に関する報告としては、Panganiban, A.T. and Temin, H.M.(Nature, 306, 155-160, 1983)やDuyk, G.ら(J.Virol., 56, 589-599, 1985)のものがある。
【0024】
宿主細胞のゲノムに組み込まれた状態のウイルスをプロウイルスという。宿主細胞のRNAポリメラーゼIIがプロウイルスのLTR内のプロモーターを認識して、レトロウイルスのRNAが転写される。転写されたRNAの一部はウイルスRNAとして、他はスプライシングされてmRNAとして機能し、ウイルスタンパク質が合成される。このようにレトロウイルスはその生活環の中で宿主細胞のゲノムに組み込まれたプロウイルスの状態となる性質があり、この性質を利用して、レトロウイルスが宿主細胞のゲノムに外来遺伝子を挿入するためのベクターとして用いられる。
【0025】
レトロウイルスはgag、pol、envの遺伝子を持ち、これらの遺伝子を欠損したウイルスは感染性はあるが、次世代のウイルス粒子をつくることが出来ない。そこで、これらの遺伝子の一つまたはそれ以上を欠損させ、代わりに外来遺伝子を挿入したウイルスをベクターとして用いると、このベクターは外来遺伝子の宿主細胞ゲノムへの挿入を引き起こし、それ以後感染性のウイルス粒子を産生しない安全なベクターとなる。
【0026】
しかし、レトロウイルスベクターの安全性については問題もある。このようなベクターを増殖させるためには、欠損させたウイルスタンパク質を発現する細胞(ヘルパー細胞)を樹立し用いる。そのため低い確率ではあるが、ヘルパー細胞内のウイルス由来の遺伝子と、外来遺伝子を組み込んだベクタープラスミドとの間の相同組換えが起こり、増殖能力を持った感染性ウイルス(replicant competent retrovirus:RCR)が生じる危険がある。実際このようなウイルスによりサルにT細胞リンパ腫が発生したとの報告もある(Donahue, R. E., et al., J. Exp. Med., 176, 1125-1135, 1992)。
【0027】
レトロウイルスベクターはゲノムに外来遺伝子を挿入させるためのベクターとしては原理的には理想的ではあるが、下記に示すような問題点もある。
(i)高力価のウイルスを得ることが難しいことが挙げられる。通常105〜107colony forming unit (cfu)/ml程度の力価のウイルスしか得ることができない。そのうえ遠心操作などによるウイルス粒子の濃縮過程で、宿主細胞のレセプターへの特異的吸着に関与するエンベロープタンパクを構成するSUポリペプチド等の消失が起こるため、感染性ウイルス粒子の濃縮は困難である。このことは、高力価のウイルスを得ることが非常に難しい理由の一つである。
(ii)ウイルスの感染効率が低いことが挙げられる。高力価のウイルスが得づらいことも相まって、十分な遺伝子の導入効率が期待できない。
(iii)強力なプロモーターを組み込んだ組換え体が作出できないことが挙げられる。これは、大量発現を目的とした場合に問題となる。
(iv)一般に、実用できるウイルスベクターの確立には多大の時間がかかる。
(v)レトロウイルスベクターの感染効率および導入遺伝子の発現効率が低い場合が多い。
(vi)生体内では、補体の作用によりウイルスが失活しやすい。
【0028】
また、現在使用されている遺伝子導入ベクターの長所、短所について表1にまとめておく。
【0029】
【表1】
Figure 0004474017
【0030】
レトロウイルスのインテグラーゼ等に関連する報告としては、田中らによる報告がある(Shoji-Tanaka, A., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 203, 1756-1764, 1994)。この報告では、大腸菌で発現させたウシ白血病ウイルスのインテグラーゼを精製し、これをインテグラーゼ認識配列を組み込んだプラスミドとともにリポソームを担体として導入することにより、細胞へのDNAの導入効率が数倍上昇したことを観察している。また、この細胞へのDNAの導入効率の上昇は、LTRの連結部位およびその周辺の配列の有無により変化した。サザンハイブリダイゼーション法によりゲノムに挿入されたプラスミドDNAの開裂部位を調べたところ、インテグラーゼとともに細胞内に導入されたプラスミドでは、LTRの連結部を含む領域で挿入が起こっていることが示唆されたが、インテグラーゼを伴わずプラスミド単独で細胞に導入した場合には、プラスミド内のLTR連結領域以外で組換えが起こっているであろうことを示す成績が得られている。
【0031】
この報告では、インテグラーゼとDNAを混合してから、室温で30分間インキュベートしている。これは、インテグラーゼのもつDNAとの結合能を利用して、積極的に両者の複合体形成を促進するために行っているものと思われる。従って、リポソームを担体として細胞へ導入後の、インテグラーゼおよびプラスミドの核への移行は、それぞれが単独ではなく、複合体として移行したものであり、従って、このシステムでのゲノムへの挿入は前述のレトロウイルスの生活環を利用したものと考えられる。
【0032】
しかし、餅井は、上記田中らの方法をニワトリ受精卵に応用したが、細胞ゲノムへの外来遺伝子の挿入効率の上昇は観察されなかったことを報告している(蛋白質核酸酵素(Protein, Nucleic acid and Enzyme), 40, 2265-2273, 1995)。
【0033】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、外来DNAを宿主細胞のゲノムに挿入可能なベクターを提供することにある。さらに、このベクターの備えるべき条件として、外来DNAを組み込んだベクターの構築が容易であること、ベクターの大量生産が容易であること、外来DNAのゲノムへの挿入効率が良いこと、安全性が高いことなどが挙げられ、これらの条件を満たすベクターの開発をめざした。
【0034】
また、本発明は、前記ベクターを用いた、形質転換体、TG動物等およびその作出方法、有用物質の生産方法などを提供することを課題とする。
【0035】
【課題を解決するための手段】
上記のような状況に鑑み、本発明者らは、レトロウイルスベクターの長所を活かしながら、先に挙げた欠点を解決するようなベクターを構築する事を目指した。現在汎用されていると思われるレトロウイルスベクターの長所とは、レトロウイルスの生活環を利用したDNAの宿主ゲノムへの挿入であり、短所は主としてレトロウイルスのウイルスとしての扱い難さに起因する事項である。
【0036】
本発明者らは上記のような観点から鋭意研究を進め、取り扱いの手技が確立しているプラスミドを用い、インテグラーゼ遺伝子及びインテグラーゼの認識領域を有するベクターを作出することに思い至たり、驚くべきことにこのようなプラスミドが外来DNAをゲノムに効率よく挿入し得ることを見いだし、本発明を完成させた。
【0037】
すなわち、本発明は、下記(イ)、(ロ)および(ハ)を有するプラスミドベクターであり、(イ)インテグラーゼ遺伝子(ロ)インテグラーゼ遺伝子を発現制御する領域をなすDNA(ハ)1つのLTRと他のLTRとが連結する際に形成される末端塩基どうしの配列を少なくとも含み、インテグラーゼがインテグレーション反応を触媒する際の認識領域をなすDNA、である。なお、本明細書では、このベクターを(イ)〜(ハ)を有するプラスミドベクターということがある。
【0038】
また、本発明は、下記(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)を有するプラスミドベクターであり、(イ)インテグラーゼ遺伝子(ロ)インテグラーゼ遺伝子を発現制御する領域をなすDNA(ハ)1つのLTRと他のLTRとが連結する際に形成される末端塩基どうしの配列を少なくとも含み、インテグラーゼがインテグレーション反応を触媒する際の認識領域をなすDNA(ニ)宿主細胞のゲノムに挿入しようとする任意のDNA、である。なお、本明細書では、このベクターを(イ)〜(ニ)を有するプラスミドベクターということがある。
【0040】
また、本発明は、連結した2つのLTRからなる領域を有し、前記(ロ)および(ハ)のDNAが前記2つのLTRからなる領域内のDNAである、前記プラスミドベクターである。
【0041】
また、本発明は、さらに、前記インテグラーゼ遺伝子に核移行シグナルをコードするDNAが付加された前記プラスミドベクターである。
【0042】
また、本発明は、前記インテグラーゼ遺伝子および/またはLTRが、レトロウイルス科に属するウイルス由来である前記プラスミドベクターである。
【0043】
また、前記レトロウイルス科に属するウイルスが、レトロウイルス科オンコウイルス亜科に属するウイルスである前記プラスミドベクターである。
【0044】
また、本発明は、前記プラスミドベクターにより形質転換された形質転換体である。
【0045】
また、本発明は、本発明に係るプラスミドベクターがゲノムに挿入されているキメラトリである。
【0046】
また、本発明は、本発明に係るプラスミドベクターがゲノムに挿入されている、遺伝子導入トリである。
【0047】
また、本発明は、(イ)〜(ニ)を有するプラスミドベクターをトリの卵中の胚に注入して胚を構成する細胞のゲノムに(ニ)のDNAを挿入し、当該卵を孵化させて(ニ)のDNAが挿入された個体を得る、外来DNAが挿入されたトリの作出方法である。
【0048】
また、本発明は、(イ)〜(ニ)を有するプラスミドベクターを、トリの発生初期段階で採取した始原生殖細胞に導入して前記プラスミドベクターが有する(ニ)のDNAを当該始原生殖細胞のゲノムに挿入し、当該DNAが挿入された始原生殖細胞を別の個体の卵中の初期胚に注入し、当該卵を孵化させて、(ニ)のDNAが挿入された個体を得る、外来DNAが挿入されたトリの作出方法である。
【0049】
また、本発明は、前記外来DNAが挿入されたトリの作出方法により得られる、生殖系列の細胞に外来DNAが挿入された個体を自然交配または人工授精させることを特徴とする、遺伝子導入トリ作出方法である。
【0051】
また、本発明は、生体内(ヒトを除く)または生体外にて有用物質が産生される有用物質の生産方法であって、(イ)〜(ニ)を有するプラスミドベクターが有する(ニ)のDNAがタンパク質をコードする領域およびその発現を制御する領域を有しており、当該プラスミドベクターを宿主細胞に導入して宿主細胞のゲノムに(ニ)のDNAを挿入し、宿主細胞内で(ニ)のDNAがコードするタンパク質を発現させて有用物質を得る、有用物質の生産方法である。
【0055】
本明細書において「遺伝子の導入」とは、遺伝子を細胞内へ入れることであり、「遺伝子の挿入」とは、細胞のゲノムに遺伝子を組み込むことを意味する。ただし、「遺伝子導入(トランスジェニック:transgenic:TG)動物」というときの「導入」は、ここでいう「挿入」を意味する。また、本明細書では、「遺伝子導入動物」のことを「TG動物」ということがある。
【0056】
また、本明細書において「インテグラーゼ遺伝子」というときは、インテグラーゼというタンパク質をコードするDNAを意味する。また、本明細書においては、「ゲノム」とはゲノムを構成する核酸のことである。
【0057】
本発明のベクターが、所望のDNAを効率よく宿主細胞のゲノムへと挿入できる機序については、必ずしも明確ではないが、次のように推測される。まず、本発明のベクターが細胞内に導入されると通常のベクターと同様に核内へと移行し、核内においてインテグラーゼ遺伝子が転写されてmRNAが合成され、mRNAが核外へ移行し細胞質中のリボソームでインテグラーゼが合成される。合成されたインテグラーゼは、核移行シグナルなどの働きにより再び核内に移行し、このインテグラーゼがインテグレーション反応を触媒する際の本発明のベクターに組み込まれた認識領域を認識して、当該認識領域でベクターを開裂させつつ宿主細胞のゲノムに挿入する。以上のような過程を経て本発明のベクターは、挿入しようとする任意のDNAを宿主細胞のゲノムに挿入する事ができるものと考えられる。
【0058】
レトロウイルス感染に於ては感染ウイルス粒子が持ち込んだインテグラーゼによりウイルスゲノムの宿主ゲノムへの挿入が行われる。この場合には、インテグラーゼはウイルスゲノムとともに移動していると想像される。
【0059】
しかし、本発明のベクターは、このようなレトロウイルスの生活環からは類推できない経路を用いた特色のあるものであるといえる。本発明のベクターでは、プラスミド中にインテグラーゼ遺伝子が含まれ、インテグラーゼ遺伝子が宿主細胞内で発現して、プラスミドをゲノムに挿入させるのである。インテグラーゼ遺伝子をベクターに組み込んでおき、宿主細胞内でインテグラーゼ遺伝子を発現させてインテグラーゼを合成するということ、また、この宿主細胞内で合成されたインテグラーゼが、予めプラスミド内に組み込んでおいた、LTRを応用して作製された塩基配列領域を認識して環状DNAをゲノムに挿入させる反応を生じさせることができるという思想は未だかつてないものである。
【0060】
【発明の実施の形態】
本発明は、新規なプラスミドベクターを提供するものであり、このプラスミドベクターは様々な応用が可能である。そこで、本発明の実施の形態を、(1)プラスミドベクターおよび形質転換体、(2)TG動物およびその作出方法等、(3)本発明の他の用途、に分けて以下説明する。
【0061】
(1)本発明のベクターおよび形質転換体
本発明のベクターは、
(イ)インテグラーゼ遺伝子、
(ロ)インテグラーゼ遺伝子を発現制御する領域をなすDNA、
および
(ハ)インテグラーゼがインテグレーション反応を触媒する際の認識領域をなすDNA、
を有するプラスミドベクターである。
【0062】
本発明のベクターは、宿主細胞のゲノムに効率よく挿入される。したがって、(イ)〜(ハ)を有するベクターに、通常の手段を用いて、任意のDNAを組み込んでおき、これを宿主細胞に導入することによって、所望のDNAを宿主細胞のゲノムに挿入することができる。
【0063】
すなわち、本発明は、
(イ)インテグラーゼ遺伝子、
(ロ)インテグラーゼ遺伝子を発現制御する領域をなすDNA、
(ハ)インテグラーゼがインテグレーション反応を触媒する際の認識領域をなすDNA、
および
(ニ)宿主細胞のゲノムに挿入しようとする任意のDNA、
を有するプラスミドベクターをも提供するものである。
【0064】
本発明のベクターは、プラスミドに、前記(イ)、(ロ)および(ハ)のDNAを組み込むことにより作製できる。(イ)(ロ)および(ハ)を組み込むプラスミドは、宿主細胞のゲノムに挿入しようとするDNAのサイズや、取り扱いの容易さなどにより定めることができ、制限酵素地図が既に作製された公知のプラスミドなどを用いることもできる。公知のプラスミドとしては、例えば、pUC系、pBR系、pACYC系などのプラスミドを用いることができる。
【0065】
まず(イ)について説明する。インテグラーゼは、一般に、レトロウイルスが感染した細胞内で生産されるタンパク質であって、宿主内で逆転写酵素により複製されたウイルスゲノムが、宿主の染色体に組み込まれる反応を触媒するもの(分子細胞生物学辞典第1版、東京化学同人)とされている。インテグラーゼ遺伝子、すなわちインテグラーゼをコードするDNAの配列としては、例えば、「Nucleic Acids Res., 18, 4022, 1990.」、「Virology, 137, 358-370, 1984.」、「Cell, 32, 853-869, 1983.」などにおいて明らかにされており、本発明のベクターには、このような公知のインテグラーゼ遺伝子を用いることができる。また、インテグラーゼ遺伝子は、例えば、公知のDNA配列を参考にしてプライマーを構築し、PCR(Polymerase chain reaction)などの手法により新たに入手することも可能であり、このようにして得たインテグラーゼ遺伝子も用いることができる。
【0066】
インテグラーゼタンパクは、36kダルトンのタンパクとして合成されるが、ウイルス粒子内では36kと32kダルトンのタンパクとして存在することから、36kダルトンのタンパクは32kダルトンのタンパクの前駆体であると推測されている。インテグラーゼ活性は36kダルトンと32kダルトンの両者にあると報告がなされている(Terry, R., et al., J.Virol., 62, 2358-2365, 1988)。したがって、インテグラーゼ遺伝子としては、どちらのタンパクをコードするものでも使用することができる。
【0067】
次に(ロ)について説明する。本発明のプラスミドベクターは、プラスミドベクター内に組み込まれたインテグラーゼ遺伝子が宿主細胞内で発現するための発現制御領域をなすDNAを有する。発現制御する領域にはプロモーター、エンハンサー、サイレンサーなど一般に遺伝子発現制御のために用いられるDNAを設けることができる。また、発現制御する領域は、レトロウイルスが元来有するインテグラーゼ遺伝子の発現制御領域を用いることができ、さらに宿主細胞内でインテグラーゼ遺伝子を発現させることができるものであれば前記のようなレトロウイルス由来のものに限られず、宿主細胞の種類などに応じ適宜定めることができる。例えば、特定の細胞に限定されずに発現させる場合には、レトロウイルスのLTR内のプロモーターやSV40のプロモーター等を使用することができる。また、特定の細胞に発現させることも可能であり、例えば、筋肉細胞においてはミオシン重鎖β等の、肝臓ではアルブミンやα−フェトプロテイン等の、Bリンパ球では免疫グロブリン等の発現制御領域を選択することができる。また、癌細胞に特異的に発現させる目的では、例えば、癌胎児抗原(cartinoembryonic antigen)やc-erb B2,B3あるいはB4 のプロモーター等を使用することができる。
【0068】
次に(ハ)について説明する。本発明のプラスミドベクターは、インテグラーゼがインテグレーション反応を触媒する際の認識領域(以下「インテグラーゼ認識領域」ということがある)をなすDNAを有する。インテグラーゼ認識領域は、インテグラーゼが宿主細胞のゲノムに環状DNAを挿入する反応、すなわちインテグレーション反応を触媒する際に、インテグラーゼが基質として認識する領域が含まれていればよい。
【0069】
インテグラーゼ認識領域としては、例えば、LTRとLTRとを連結させた場合に、一方のLTRの末端塩基と、他方のLTRの末端塩基とが連結した末端塩基どうしの配列(連結部位)を少なくとも含むDNAがある。また、この連結部位を含む前後の8塩基程度の配列をアタッチメント(att)配列ということがあるが、このようなアタッチメント配列としては、例えば、RSV(Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 78, 4299-4303, 1981)、Murine leukemia virus(Cell, 63, 87-95, 1990)、Rous associated virus 2(J.Virol., 56, 589-599)、Spleen necrosis virus(Cell, 36, 673-679, 1984)やAvian reticuloendotheliosis virus(Cell, 36, 673-679, 1984)で報告されている「CATTAATG」、HIV(J.Virol., 68, 3558-3569, 1994)で報告されている「CAGTACTG」、あるいはVisna virus(J.Virol., 68, 3558-3569, 1994)で報告されている「CAGCACTG」などが挙げられる。
【0070】
LTR(long terminal repeat)は、レトロウイルスのウイルスDNAの両端で重複している長い末端反復配列のことであり、通常、U3−R−U5配列から構成されるDNAが1単位である。上記の連結部位またはアタッチメント配列は、2つのLTRの末端の組み合わせを「U5−U3」、「U3−U5」としたときに形成することができる。すなわち、インテグラーゼ認識領域は、例えば、LTRを2つ連結することにより、その2つのLTRで構成される領域の内部に形成させることができる。したがって、(ハ)のDNAとしては、2つのLTRを連結させたものを用いることができる。ただし、2つのLTRの全領域が必須とは限らず、連結部位またはアタッチメント配列を構成するDNAを含み、かつこの前後にある周辺領域があれば、インテグラーゼ認識領域とすることができる場合もある。
【0071】
例えばアタッチメント配列を含むインテグラーゼ認識配列のうちのアタッチメント配列の周辺領域は、インテグラーゼ遺伝子やLTRの由来などにより差があり必ずしも一定ではないが、アタッチメント配列を含む20〜40塩基程度からなる領域である場合がある(Panganiban, A.T. and Temin, H.M., Nature, 306, 155-160, 1983: Duyk, G., et al., J.Virol., 56, 589-599, 1985)。
【0072】
したがって、本発明のベクターは、(ハ)のDNAとして、例えば、
(a)連結した2つのLTRからなるDNA、または、
(b)LTRを2つ連結したときに構成されるDNAの一部が欠失、置換もしくは付加されたDNAであって、かつインテグラーゼ認識領域を含むDNA、
などを用いることができる。(b)における「LTRを2つ連結したときに構成されるDNAの一部が欠失、置換もしくは付加されたDNA」には、LTRの一部分を用いる場合、例えば「連結部位およびその周辺領域からなる領域」または「アタッチメント配列およびその周辺領域からなる領域」を用いる場合が含まれる。
【0073】
LTRのDNA配列は、例えば、「Cell, 32, 853-869, 1983」、「Genebank」の「accession No.AF110968, Y07725」あるいは同「X94150」等に明らかにされており、本発明のベクターには、これらのLTRを用いることができる。また、LTRも、例えば、これらの公知のDNA配列を参考にしてプライマーを構築し、PCRなどの手法により新たに入手することも可能であり、このようにして得たLTRも用いることができる。
【0074】
多くの場合、LTRにはプロモーターが含まれており、このプロモーターがあることによりインテグラーゼ遺伝子は発現することができる。すなわち、連結した2つのLTRからなる領域をプラスミドに組み込んだ場合、前記(ロ)インテグラーゼ遺伝子を発現制御する領域をなすDNAを備えたベクターとすることができる。宿主細胞の種類などによりLTR中のプロモーターが機能しないような場合や、プロモーター部分をあえて除外してベクターを作製した場合などでも、インテグラーゼ遺伝子の上流にプロモーターなどの発現制御領域を別途設けることにより、インテグラーゼ遺伝子を発現させることができる。
【0075】
また、本発明のプラスミドベクターには、インテグラーゼ遺伝子が組み込まれており、インテグラーゼ遺伝子が宿主細胞内で発現してインテグラーゼが細胞質内で合成される。インテグラーゼ遺伝子の由来などにもよるが、インテグラーゼに核移行シグナルがもともと備わっている場合には、インテグラーゼが核内へ移行してプラスミドの(ハ)の部分を認識し、プラスミドを宿主細胞のゲノムに挿入すると推定されるが、インテグラーゼに核移行シグナルが備わっていない場合や、備わっていてもインテグラーゼの核内への移行が円滑に進行しない場合には、予めプラスミド内にインテグラーゼの核移行シグナルをコードするDNAを別途に付加しておくことが望ましい。例えば、核移行シグナルをコードするDNAとしては、例えば、Nath, S.T. and Nayak, D.P.の報告(Mol.Cell.Biol., 10, 4139-4145, 1990:14種の配列が記載された一覧表がある)やKalderon, D.らの報告にあるSV40 largeT抗原の核移行シグナル(Cell, 39, 499-509, 1984)等において明らかにされているものを用いることができ、その種類に応じて、プラスミド中のインテグラーゼ遺伝子の前および/または後に付加すればよい。
【0076】
また、インテグラーゼ遺伝子およびLTRは、好ましくはレトロウイルスに由来するものを用いることができ、レトロウイルスのなかでもより好ましくは、オンコウイルス亜科(Oncovirinae)に属するウイルス、さらに好ましくはアビアンリューコーシス−ザルコーマ ウイルス(Avian luekosis-sarcoma virus)グループに属するウイルス、特に好ましくはラウス肉腫ウイルス(Rous sarcoma virus)に由来するものが好適である。
【0077】
次に(ニ)について説明する。(ニ)は、宿主細胞のゲノムに挿入しようとする任意のDNAであり、本発明のベクターを用いて所定の宿主細胞のゲノムに挿入しようと所望するところのDNAである。(ニ)のDNAは任意であるが、通常、このようなDNAは何らかの機能を有しており、その機能の発現を期待してゲノムへの挿入が図られるものと思われる。宿主ゲノムへの挿入が予想される機能的なDNAとしては、例えば、所定のタンパク質をコードする外来遺伝子およびその遺伝子の発現に関わるDNAまたはこれらの一部分、およびアンチセンスやリボザイム等をコードするDNAなどが挙げられる。外来遺伝子の発現制御に関わるDNAとは、例えばプロモーター、エンハンサー、ターミネーター、リボソーム結合領域やLCR(locus control region)などが例示される。(ニ)のDNAには、(ニ)のDNAがプラスミドに組み込まれたか、また(ニ)のDNAが宿主細胞のゲノムに挿入されたかなどを確認しやすくするために、いわゆるマーカー遺伝子となるDNAを加えておくこともできる。
【0078】
これら(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)などのDNAは、制限酵素、リガーゼなどを用いた通常の手法によりプラスミド中に組み込むことができる。制限酵素等は、(イ)などのDNAを組み込む前の、本発明のベクターの基礎となるとベクターの種類に応じて選ぶことができる。また、本発明のベクターを細菌を用いて容易に大量に生産するためには、菌体内での増殖に必須な複製開始点を持つプラスミドをベクターとすればよい。また、本発明のベクターには、上記以外にも、一般にベクターとしてのプラスミドを構築する場合にプラスミド内に組み込むことのできるDNAを組み込んでもよい。
【0079】
本発明のベクターであることの確認は、例えば、作製したベクターを制限酵素で数カ所切断し電気泳動を行ったり、PCR、サザンハイブリダイゼーション、シークエンシングなどを組み合わせるなどの一般的な手法により行うことができる。
【0080】
本発明のベクターは、通常のプラスミドベクターと同様の手法により、宿主細胞の細胞内へと導入することができ、例えば、電気的穿孔法(エレクトロポレーション)、リン酸カルシウム法、リポソーム法、イムノジーン法などが挙げられる。
【0081】
本発明のプラスミドベクターを導入する宿主細胞には、特段の制限はなく、例えば、大腸菌、酵母などの微生物、動植物の培養細胞、さらには動植物生体の細胞などが宿主細胞の対象となり得る。宿主細胞に導入された本発明のベクターが、ベクター内のインテグラーゼ遺伝子等の働きにより効率よく宿主細胞のゲノムに挿入される結果、本発明のベクターにより形質転換された形質転換体を得ることができる。
【0082】
このような形質転換体のより具体的な実施の形態として、以下に説明するところのTG動物等がある。
【0083】
本発明のベクターは、インテグラーゼ遺伝子も有していることから、インテグラーゼも宿主細胞内で合成することができ、インテグラーゼをベクターとは別に導入するような操作を要しない。仮にインテグラーゼを別途に宿主細胞に導入するとなると、インテグラーゼというタンパク質を精製しておく必要性が生じ、しかもトランスフェクションさせるたびに精製インテグラーゼを用意する必要がある。しかし、タンパク質の精製は操作が煩雑である場合が多く、一般に、タンパク質の精製に比較すればプラスミドの作製自体は作業が容易である。すなわち、本発明のベクターは作製が容易であり、また一旦作製してしまえばその増産も通常の手法に従って容易に行うことができる。
【0084】
本発明のベクターが宿主細胞のゲノム中のどこに挿入されるかは、必ずしも特定されない。しかし、まったくランダムに挿入されるわけではなく、ある特定の場所に高い割合で挿入される傾向がある。
【0085】
(2)TG動物(遺伝子導入動物)等およびその作出方法等
(i)TG動物等およびその作出方法
本発明のベクターを用いて、キメラ動物やTG動物など(本明細書では「TG動物等」ということがある)を作出することができる。本発明のベクターを所定の細胞に挿入することで本発明のベクターに予め組み込んでおいた外来DNAを、動物細胞のゲノムに挿入して形質転換させ、キメラ動物やTG動物などを得ることができる。
【0086】
TG動物等の作製のために本発明のベクターを導入する細胞としては、例えば受精卵、未受精卵、胚、生殖系列の細胞、あるいは始原生殖細胞などが挙げられる。また、細胞への導入は、プラスミドベクターについての通常の方法を用いて導入することができる。
【0087】
ベクターは、前記(イ)〜(ニ)を有するベクターを用いる。(ニ)のDNAは、TG動物等に組み込もうとしているDNAであり、TG動物等の作出の目的に応じて選択することができる。TG動物等は、一般にシスエレメントの同定、遺伝子機能の解析、ヒト疾患モデル動物の作出、家畜の品種改良、生理活性物質の生産、移植臓器提供のための動物の作出などの研究や産業的利用が行われており、これらの目的に応じたDNAを入手すれば、前記(イ)〜(ハ)を有するベクターに組み込んで、(イ)〜(ニ)を有するベクターを作製することができる。
【0088】
以下、TG動物等の作出方法の具体的な実施形態について説明する。
【0089】
第1の実施形態として、遺伝子が挿入されたトリの作出方法およびこのトリを用いてトリのTG動物を作出する方法について説明する。(イ)〜(ニ)を有するプラスミドベクターをトリの卵中の胚に注入して、胚を構成する細胞のゲノムに前記(ニ)のDNAを挿入し、この卵を孵化させて(ニ)のDNAが挿入された個体(外来DNAが挿入されたトリ)を得ることができる。
【0090】
所望の外来DNAを挿入させる対象となるトリは、特に制限はないが、例えば、ニワトリ、ダチョウ、七面鳥、アヒル、ガチョウ、ハト、ウズラなどが挙げられ、好ましくはニワトリ、ダチョウ、七面鳥、アヒルなどが挙げられる。
【0091】
トリに挿入させようとするDNAを組み込んだプラスミドベクター(すなわち(イ)〜(ニ)を有するプラスミドベクター)を作製し、これをトリの胚に注入する。プラスミドベクターの作製については、上記「(1)本発明のベクターおよび形質転換体」の項で説明したとおりである。
【0092】
本発明の外来DNAが挿入されたトリの作出方法では卵中の胚にベクターを注入するので、このトリの作出方法で用いられる胚は、孵卵開始直前の状態(または産卵直後の状態)から孵化直前までの発生段階にある個体であり、本明細書では、孵卵開始直前から孵化直前までの期間を前後に分け、前半時期のものを「初期胚」、後半時期のものを「後期胚」という。本発明の外来DNAが挿入されたトリの作出方法においては、胚に注入すればよいが、好ましくは初期胚に注入する。
【0093】
注入の方法は、従来からある通常のプラスミドベクターを胚に注入する手法と同様の手法により行うことができる。例えば、プラスミドベクターを生物学的に許容される生理的塩類溶液、あるいはリポソームなどと混合した溶液を調製し、卵殻の一部を切除して穴を開けておいた卵中の初期胚に、このベクターを含む溶液をガラスキャピラリーなどを用いて注入するなどして行うことができる。また、例えば、ベクターDNA−トランスフェリン−ポリLリジン複合体を作製して、当該複合体をガラスキャピラリーで卵に注入することもでき、この複合体を用いれば、トランスフェリンと、ほとんどの細胞の細胞膜に存在するトランスフェリンレセプターとの相互作用により細胞内に取り込まれ、効率よくDNAを細胞内に導入することができる。初期胚に注入することが好ましいことは上記したが、鳥類のTG動物を作出する目的では、初期胚のうちでもできるだけ発生段階の進行していない時期に注入することがより好ましい。
【0094】
胚に注入されたベクターは、胚を構成する細胞に導入される。さらに、細胞に導入されたベクターは当該細胞のゲノムに挿入され、挿入を予定していたDNA((ニ)のDNA)がトリの胚の細胞のゲノムに組み込まれることになる。ベクターの細胞への導入を促進するために、電気的穿孔法(エレクトロポレーション)などを行うこともできる。
【0095】
ベクターを胚に注入した後は、穴をビニールテープなどで塞いで孵卵を継続し、ヒナを孵化させ、外来DNAが挿入されたトリの個体を得ることができる。孵化したヒナの細胞に所望のDNAが挿入されたかどうかは、ヒナの細胞などからDNAを回収し、PCRやサザンハイブリダイゼーション法などを利用したDNAを検出する通常の方法を行うことにより確認することができる。
【0096】
上記のようにして、胚に本発明のベクターを導入することにより得られる外来DNAが挿入されたトリは、ほとんどの場合が、個体全体の細胞のうち一部の細胞に外来DNAが挿入されたキメラである。外来DNAが挿入される細胞は、体細胞または生殖系列の細胞のいずれか一方である場合、または双方の細胞である場合があり得る。(以下、始原生殖細胞、精母細胞、卵母細胞、精子、卵子などの生殖系列の細胞のうちの一部の細胞に外来DNAが挿入された個体を生殖系列キメラといい、生殖系列の細胞以外の体細胞のうちの一部の細胞に外来DNAが挿入された個体を体細胞キメラという。)胚に注入した場合、生殖系列キメラを得る確率を高めるには、例えば、始原生殖細胞が集中する孵卵2日目の胚の生殖三日月環(germinal crescent)の部分に導入することなども可能である。
【0097】
体細胞、生殖系列の細胞のいずれに外来DNAが挿入されているかは、例えば、皮膚、血液細胞などの体細胞または精子もしくは卵子を採取して、上記と同様PCRなどの通常の手法を用いて確認することができる。
【0098】
上記のようにして得られた、生殖系列の細胞に外来DNAが挿入されたトリを自然交配または人工授精させることにより、鳥類の遺伝子導入動物を作出することができる。すなわち、外来DNAが挿入された個体のうちから生殖系列キメラを選抜し(1世代目)、生殖系列キメラからTG動物を作出する通常の方法を用いて、鳥類の遺伝子導入動物を作出することができる。
【0099】
生殖系列キメラが生産する精子、卵子のうちには、外来DNAが挿入されているものと、そうではないものが生じる。したがって、例えば、生殖系列キメラ(1世代目)の個体と本発明のベクターを導入してない無処理の個体とを交配させて得た個体(2世代目)の中には外来DNAが挿入された個体とそうではない個体とが存在する。しかし、生殖系列キメラの個体と無処理の個体とを交配させて得た個体のなかで、外来DNAが挿入されたことが確認された個体は、相同染色体の一方には外来DNAが挿入されているヘテロのTG動物である。さらに、ある1組の生殖系列キメラと無処理の個体とから得たヘテロなTG動物どうしを交配させ、選抜を行うことにより、最短で3世代目で相同染色体の双方に外来DNAが挿入されて、いわゆるホモ化した個体を得ることができる。
【0100】
一旦ヘテロなTG動物、またはホモなTG動物が作出されれば、このような外来DNAが挿入されている系統を通常の手段を用い継代して維持することができる。
【0101】
次に、遺伝子が挿入されたトリの作出方法およびこのトリを用いてトリのTG動物を作出する方法の第2の実施形態を、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。第2の実施形態では、前記(イ)〜(ニ)有するプラスミドベクターをトリの発生初期段階で採取した始原生殖細胞に導入して前記プラスミドベクターが有する(ニ)のDNAを当該始原生殖細胞のゲノムに挿入し、当該DNAが挿入された始原生殖細胞を、別の個体の卵中の初期胚に注入して当該胚を有する卵を孵化させて、遺伝子が挿入された個体を得る。
【0102】
一般に、始原生殖細胞はトリの発生の初期段階にある胚に多く含まれ、より具体的には例えばニワトリならば、孵卵開始後48〜55時間の胚の血液などから多く採取することができる。始原生殖細胞へのベクターの導入は、通常のプラスミドの導入方法に従って行うことができる。ベクターの導入された始原生殖細胞は、別の卵の中の胚に注入し、この卵を孵化させる。別の卵の初期胚に戻すというのは、通常、始原生殖細胞の採取に用いた胚は生存できず、始原生殖細胞を採取した胚に戻すことは困難なことによる。
【0103】
始原生殖細胞が注入された卵から孵化した個体のなかには、生殖系列キメラが含まれる。外来DNAが挿入された生殖系列キメラの選抜は、通常の方法に従って行うことができる。
【0104】
この生殖系列キメラの個体を用い、第1の実施の形態で説明したのと同様にして自然交配または人工授精を行うことにより、鳥類のTG動物を得ることができる。
【0105】
次に、第3の実施形態となるTG動物の作出方法について説明する。第3の実施形態では、非ヒト脊椎動物のオスの精巣内に、前記(イ)〜(ニ)を有するプラスミドベクターを注入し、当該プラスミドベクターが注入された前記動物を自然交配または人工授精させて遺伝子が挿入された個体(TG動物)を作出する。
【0106】
第3の実施形態において、脊椎動物に特に制限はないが、哺乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類のいずれに属する動物にも本発明の方法は適用でき、より具体的には、マウス、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどが好適なものとして挙げられる。
【0107】
脊椎動物のオスの精巣に本発明のベクターを導入するには、例えば、第1の実施形態のところで説明したのと同様のベクターを含む溶液を用意し、この溶液をシリンジなどを用いて精巣に注入すればよい。
【0108】
精巣内に注入されたベクターは、精巣内の生殖系列の細胞である精子形成細胞(spermatogenic cell)に導入され、さらに精子形成細胞のゲノムに挿入される。このようにして外来DNAがゲノムに挿入された精子形成細胞から増殖、分化した精子のうちには、外来DNAを有しているものが含まれている。したがって、精巣にベクターを注入されたオスをメスと交配させることにより得られる2世代目の中にはヘテロ遺伝子導入動物となっているものが存在し、PCRなどを用いた常法に従ってこの遺伝子導入動物を選抜することができる。自然交配および人工授精の手法は、脊椎動物の種類などに応じて、通常の方法に従って行うことができる。
【0109】
マウスのオスの精巣にDNAを注入後、自然交配で受精した受精卵から発生した胚盤胞に外来遺伝子の発現が見られるとの報告がある(Ogawa S., et al., J.Reprod.Dev., 41, 379-382, 1995)。しかし、このようにして導入した外来遺伝子が安定して子孫に伝わり、確実にTGマウスが作出されるまでには至っていない。
【0110】
しかし、本発明のベクターを用いることにより、宿主細胞内に導入されたDNAを効率よく宿主細胞のゲノムに挿入することが可能であるから、自然交配または通常の人工授精により、導入されたDNAを安定して保持したTGマウスを作出することができる。これは、マウスに限らず、すべての哺乳類に応用可能な技術である。
【0111】
(ii)有用物質の生産
本発明のベクターを用いて、生体内(ヒトを除く)または生体外にて有用物質の生産を行うことができる。ベクターを用いて宿主細胞を形質転換させ有用物質を生産すること自体は既に行われており、本発明の有用物質の生産方法においても前記本発明のベクターを用いること以外は、ベクターを用いた一般的な有用物質の生産方法に従って行うことができる。
【0112】
すなわち、(イ)〜(ハ)を有するプラスミドベクターに、(ニ)のDNAとして有用タンパク質をコードするDNA、および当該DNAを発現させるためのプロモーターなどを含む発現制御領域を組み込んだベクターを作製し、これを宿主細胞に導入し(ニ)のDNAを宿主細胞のゲノムに挿入させ、このDNAの発現により有用なタンパク質を得ることができる。また、(ニ)のDNAが酵素をコードしているものであれば、この酵素を生成させることにより当該酵素の関与する反応を生じさせてタンパク以外の有用物質を得ることもできる。
【0113】
本発明のベクターを導入する宿主細胞には、特段の制限はなく、例えば、大腸菌、酵母などの微生物、動植物の培養細胞、さらには動植物生体の細胞などが宿主細胞の対象となり得る。宿主細胞が生体の体細胞であれば、体細胞キメラを、またはTG動物を作出し、体細胞キメラ、TG動物に有用物質を生産させることができる。例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどの哺乳動物の乳汁中に有用物質を産生させたり、ニワトリ、ダチョウ、アヒルなどの鳥類の卵中に有用物質を産生させることなどができる。
【0114】
有用物質の生産について、鳥類を用いた場合を例として、より具体的な実施形態を説明する。
【0115】
実施の形態の一例としては、(イ)〜(ニ)を有するプラスミドベクターにおける(ニ)のDNAがタンパク質をコードする領域およびその発現を制御する領域を有しており、当該プラスミドベクターをトリの胚に注入して当該胚を構成する細胞のゲノムに(ニ)のDNAを挿入し、当該DNAが挿入されたトリを作出し、当該DNAが挿入されたトリが産卵する卵中に有用物質を発現させ、有用物質を得る方法が特徴的な方法として挙げられる。
【0116】
(イ)〜(ニ)を有するプラスミドベクターの作製は、上記「(1)本発明のベクターおよび形質転換体」などで説明したとおりである。トリの卵中に産生させようとする有用物質は、その有用物質自体であるタンパク質をコードするDNA、またはその有用物質の生成させ得る酵素をコードするDNAを入手できるものであれば特に制限はないが、例えば、サイトカイン、ヒト型抗体、ホルモン、抗血液凝固タンパク、ワクチンなどの生産に本発明の方法は好適である。
【0117】
卵中に有用物質を産生させるには、例えば、発現させたいタンパク質をコードするDNAの上流に、卵中に大量に存在するタンパク質のプロモーター等の発現制御領域をつないで(ニ)のDNAとし、このプラスミドベクターを胚に注入することにより行うことができる。例えば、卵白アルブミンのプロモーターを含む発現制御領域とこのプロモーターの下流にタンパク質をコードするDNAを(ニ)のDNAとしてプラスミドに組み込んでおき、このプラスミドベクターをトリの卵中の胚に導入し、この卵を孵化させて外来DNAが挿入された個体を得、このうちから体細胞キメラの個体を選抜すれば、輸卵管上皮で大量の有用タンパク質の発現が起こり、体細胞キメラの個体が産む卵の中に有用タンパク質の蓄積が起こることが期待される。発現させようとするタンパク質により異なるが、胚を構成するできるだけ多くの細胞にベクターが導入されることが、安定した生産を行う上では好ましい。
【0118】
また、生殖系列キメラから鳥類のTG動物を作出し、このTG動物の卵中に有用物質を産生させることもできる。
【0119】
すなわち、上記「(i)TG動物等およびその作出方法」のところで説明した方法により、生殖系列キメラ、ヘテロの遺伝子導入動物、ホモの遺伝子導入動物を得ることができ、本発明のベクターを用いて挿入する外来DNAとして、上記のような所定のタンパク質をコードする領域およびその発現制御領域を有するDNAを用いればよい。
【0120】
より具体的には、(ニ)のDNAがタンパク質をコードする領域およびその発現を制御する領域を有する(イ)〜(ニ)を有するプラスミドベクターを用い、このプラスミドベクターをトリの卵中の胚に注入して胚を構成する細胞のゲノムに当該DNAを挿入し、当該卵を孵化させる。孵化した個体の中から生殖系列の細胞に当該DNAが挿入された1世代目のトリを選抜し、この1世代目のトリを無処理の個体と自然交配または人工授精させて、挿入された外来DNAについてヘテロな遺伝子導入動物であるトリ(2世代目)を作出し、このヘテロな遺伝子導入動物が産卵する卵中から有用物質を回収する。また、同じ親から生まれたヘテロな遺伝子導入動物どうしをさらに自然交配または人工授精して作出される外来DNAについてホモまたはヘテロな遺伝子導入動物であるトリ(3世代目)を作出し、このホモまたはヘテロな遺伝子導入動物が産卵する卵中から有用物質を回収する。
【0121】
一旦ヘテロな遺伝子導入動物、またはホモな遺伝子導入動物が作出されれば、このような外来DNAが挿入されている系統を通常の手段を用い継代して維持することにより、3世代目以降のヘテロまたはホモの遺伝子導入動物を用いて継続的に有用物質の生産をすることができる。
【0122】
また、次のように有用物質を産生させることもできる。(ニ)のDNAがタンパク質をコードする領域およびその発現を制御する領域を有する(イ)〜(ニ)を有するプラスミドベクターを用い、このプラスミドベクターを、トリの発生初期段階で採取した始原生殖細胞に導入して前記プラスミドベクターが有する当該DNAを当該始原生殖細胞のゲノムに挿入する。当該DNAが挿入された始原生殖細胞を別の個体の卵中の初期胚に注入し、当該卵を孵化させる。孵化した個体の中から生殖系列の細胞に当該DNAが挿入された1世代目のトリ選抜し、この1世代目のトリと無処理の個体とを自然交配または人工授精させて、挿入されたDNAについてヘテロな遺伝子導入動物であるトリ(2世代目)を作出し、このヘテロな遺伝子導入動物であるトリが産卵する卵中から有用物質を回収する。また、同じ親から生まれたヘテロな遺伝子導入動物どうしをさらに自然交配または人工授精して外来DNAについてホモまたはヘテロな遺伝子導入動物であるトリ(3世代目)を作出し、このホモまたはヘテロな遺伝子導入動物が産卵する卵中から有用物質を回収する。
【0123】
一旦ヘテロな遺伝子導入動物、またはホモな遺伝子導入動物が作出されれば、このような外来DNAが挿入されている系統を通常の手段を用いて継代して維持することにより、3世代目以降のヘテロまたはホモの遺伝子導入動物を用いて継続的に有用物質の生産をすることができる。
【0124】
卵中に産生させた有用物質は、その有用物質に応じ通常の方法によって回収することができる。
【0125】
(3)本発明のベクターの他の用途
(イ)、(ロ)(ハ)および(ニ)を有する本発明のベクターは、形質転換に用いることができ、上記に説明した以外にも、目的に応じて選択した(ニ)のDNAごとに様々な応用が可能である。
(i)DNAワクチン
(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)を有する本発明のベクターは、DNAワクチンとして用いることができる。DNAワクチンとするには、対象となる動物の細胞内で免疫原となるタンパク質をコードするDNAおよびこのタンパク質を発現させ得るプロモーター等と連結したDNAを(ニ)のDNAとしてベクターを作製すればよい。このようなタンパク質をコードするDNA等については既に多数のものが知られており、Davis, H.L. and McCluskie, M.J.の報告(Microbes and infection, 1, 7-21, 1999)等に記載されるヒト、あるいは非ヒト脊椎動物の感染症の感染防御抗原をコードする遺伝子などを(ニ)のDNAとして用いることができる。
【0126】
DNAワクチンであるベクターは、ワクチンとして一般的な剤形とすることができ、具体的は、液状製剤、注射剤、乾燥製剤、カプセル化剤、金コロイド製剤、粉末製剤、微粒子化剤などの剤形とすることができ、好ましくは、経口投与用液状製剤、経口投与用乾燥製剤、カプセル製剤、微粒子化剤、注射剤などが挙げられ、特に好ましくは経口投与用乾燥製剤などが挙げられる。
【0127】
DNAワクチンの投与方法としては、注射による投与、経口投与などが挙げられる。注射による投与は、注射剤としたワクチンを通常の方法に従って、注射により生体内に導入すればよい。Vaccine誌によれば、微細粒子化されたプラスミドDNAを経口投与することにより血液中の抗体および分泌型IgAの誘導が認められることが報告されており(Jones, D. H., et al., Vaccine, 15, 814-817, 1997)、この文献に示されるような方法に従って、本発明のベクターをワクチンとして経口投与することができる。DNAワクチンの経口投与法は、投与の簡便さ、投与部位の接種反応などの副作用が少ないこと、さらに局所免疫の誘導により、粘膜面を侵入門戸とする多くの病原体の感染防御が期待されることなどから優れた方法である。
【0128】
従来、プラスミドを用いての免疫応答の誘導には大量のDNAを必要とし実用化には至っていなかった。この理由の1つとしては、細胞内に取り込まれたプラスミドDNAが短期間のうちに除去されてしまうことが考えられる。しかし、本発明のベクターからなるワクチンを用いれば、細胞内に導入されたプラスミドが細胞ゲノムに挿入されるので、持続的に抗原が生産され、従来のような大量のDNAを要せずとも、強い免疫刺激による強い免疫応答を生じさせることが期待できる。
【0129】
(ii)癌の遺伝子治療
本発明のベクターに(ニ)のDNAとして下記に示すような癌治療の機能を発揮するDNAを組み込み、このDNAを細胞のゲノムに挿入させることで癌の治療を行う。具体的な実施形態について以下説明する。
【0130】
(a)本発明のベクターを用いた癌の治療法として、例えば、癌遺伝子のアンチセンスRNAを発現させる方法、あるいは正常癌抑制遺伝子の導入による脱癌化あるいはアポトーシスの誘導による治療などが挙げられる。
【0131】
アンチセンスRNAによる方法は、本発明のベクターによりゲノムに挿入されたDNAが転写され、癌遺伝子に対するアンチセンスRNAが生成されることにより、癌遺伝子のmRNAの翻訳を阻害し、癌を抑制するものである。(ニ)のDNAとしてベクターに組み込む遺伝子としては例えば、肺癌に対してはK−ras等、乳癌に対してはc−fosやc−myc等が挙げられる。
【0132】
正常癌抑制遺伝子の導入による脱癌化は、癌抑制遺伝子が欠失、変異した癌細胞に当該癌抑制遺伝子を導入することにより腫瘍原性を低下させるものである。(ニ)のDNAとしてベクターに組み込む遺伝子としては、例えば、p53遺伝子などの癌抑制遺伝子などが挙げられる。
【0133】
また、アポトーシスを利用した癌細胞の排除の機序はまだ不明な点が多いが、癌細胞にアポトーシスによる細胞死を誘導する癌抑制遺伝子として、例えばp53遺伝子等が挙げられる。
【0134】
(b)また、本発明のベクターを用いた癌の治療法として、例えば、癌細胞への薬剤代謝遺伝子、いわゆる自殺遺伝子の導入などによる癌治療も挙げられる。この治療は、本来細胞には存在しない微生物由来の代謝酵素遺伝子を本発明のベクターを用いて癌細胞に導入し、その酵素により活性化(毒性化)されるプロドラッグ(一般には抗微生物剤)を投与することで遺伝子導入癌細胞を選択的に死滅させようというものである。自殺遺伝子とプロドラッグの組み合わせとしては、例えば、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(TK)遺伝子とガンシクロビル、水痘帯状疱疹ウイルスのTK遺伝子と6−メトキシプリンアラビノヌクレオシド、大腸菌のシトシンデアミナーゼ遺伝子と5−フルオロシトシン、大腸菌のプリンヌクレオシドホスホリラーゼと6−メチルプリン-2’−デオキシリボシド等が挙げられる。
【0135】
(c)また、本発明のベクターを利用した癌の治療法として、免疫遺伝子療法による抗腫瘍免疫の増強が挙げられる。遺伝子導入の標的細胞により以下のような方法が例示される。
【0136】
癌細胞に細胞傷害を与えるエフェクター細胞を、本発明のベクターを導入する標的細胞とすることができる。すなわち、当該エフェクター細胞にサイトカイン遺伝子を導入し、抗腫瘍活性を増強しようというものである。導入する遺伝子としては、例えば、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン (IFN) −γ、インターロイキン(IL)−2、IL−7、あるいはIL−12等をコードする遺伝子が挙げられる。
【0137】
癌細胞自体を本発明のベクターを導入する標的細胞とすることもできる。培養癌細胞に、サイトカイン遺伝子、接着分子をコードする遺伝子または主要組織適合抗原複合体(MHC)関連遺伝子等を導入し、これらの遺伝子をゲノムに挿入した細胞をワクチンとして用いるものである。それぞれの遺伝子として具体的には、例えば、サイトカイン遺伝子としてはIL−2、IL−4、IL−6、IL−7、IL−12、TNF、IFN、あるいは顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)等の遺伝子が、そして接着分子をコードする遺伝子としてはCD80、CD86あるいはICAM−I等をコードする遺伝子が、またMHC関連遺伝子についてはクラスIあるいはクラスII遺伝子等の遺伝子が挙げられる。
【0138】
また、線維芽細胞や抗原提示細胞などを遺伝子導入の標的細胞とすることもできる。本発明のベクターを用いて、腫瘍特異抗原をコードする遺伝子、上述のサイトカイン遺伝子等を線維芽細胞や抗原提示細胞等に導入し、これをワクチンとして用いるものである。
【0139】
また、腫瘍特異抗原をコードする遺伝子をベクターに組み込み、このベクターをDNAワクチンとして用いることもできる。
【0140】
(d)また、本発明のベクターを利用した癌の治療法として、本発明のベクターを用いて抗癌剤耐性を賦与する方法も挙げられる。すなわち、本発明のベクターを用いて、造血幹細胞に抗癌剤耐性遺伝子を導入して抗癌剤耐性を獲得させ、より強力な癌化学療法から骨髄を保護しようというものである。抗癌剤耐性遺伝子としては、例えば、multi-drug resistance (MDR)−1遺伝子やトポイソメラーゼ等が挙げられる。
【0141】
(e)骨髄移植後の再発白血病に対する対策として、移植片対白血病効果を期待したドナーリンパ球輸注療法がある。しかし、副作用として重症の移植片対宿主病(graft-versus-host disease; GVHD) が問題となる場合がある。そこで、ドナーリンパ球に、本発明のベクターを用いて予め自殺遺伝子を組み込んでおき、GVHDが生じた場合にプロドラッグを投与し、投与したドナーリンパ球を排除してこの副作用を解除しようとすることができる。
【0142】
(iii)感染症に対する遺伝子治療
本発明のベクターに、(ニ)のDNAとして下記に示すような遺伝子を組み込み、このDNAを細胞ゲノムに挿入させることで感染症の治療を行うことができる。
【0143】
感染症治療において特に問題になるのは、エイズやC型肝炎などに代表されるような、増殖が遅くまた宿主の免疫系を逃れるような疾病などである。感染症に対する遺伝子治療の1つとして、病原体の生活環を阻害する活性のあるタンパクあるいはRNAをコードするDNAを標的細胞内に導入、発現させる方法がある。この方法は、細胞内に外来遺伝子を入れて細胞レベルで感染抵抗性を賦与しようとするものであることから「細胞内免疫(intracellular immunization)」とも呼ばれている(Baltimore, D., Nature, 335, 395-396, 1988)。
【0144】
導入するDNAとしては、アンチセンス、リボザイム、デコイ、トランスドミナント変異タンパク、病原体に対する特異性を持つ一本鎖抗体、小胞体に留まるように改変した病原体の受容体などをコードする遺伝子などが挙げられる。
【0145】
病原体の受容体に関しては、分泌型のものも有効であると考えられる。また、感染後早期に細胞を死に至らしめることで病原体の増殖を阻止するという治療法も考えられる。この目的で用いられるものとしては、例えば、ジフテリア毒素のAフラグメントなどの毒性遺伝子や自殺遺伝子などが挙げられる。
【0146】
細胞内免疫法の他に、感染防御に関わる病原体の遺伝子を組み込んだベクターをワクチンとして用いることもできることは上記「(i)DNAワクチン」で説明したとおりである。外来遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクターをワクチンとして用いるIrwin, M.J.らの報告(J.Virol.,68, 5036-5044, 1994)と同様にして、本発明のベクターを用いて細胞内で発現した外来タンパクに対して、細胞性免疫とともに液性免疫を引き起こすこともできる。
【0147】
(iv)先天性遺伝子疾患の治療
先天性遺伝子疾患を発症している患者細胞に、(ニ)のDNAとして本来の正常な遺伝子を有する本発明のベクターを導入し、本来の正常な遺伝子を発現させて疾患を治療することができる。
【0148】
例えば、アデノシンデアミナーゼ欠損症に対しては、正常なアデノシンデアミナーゼ遺伝子を導入して治療することが可能と期待される。
【0149】
ベクターを医療目的に用いる場合、その安全性が大きな問題となるが、本発明のベクターはプラスミドであるから、レトロウイルスベクターのように相同組み換えによる増殖性ウイルスの出現のおそれはないため、レトロウイルスベクターに比べれば安全性は高いものと考えられる。
【0150】
【実施例】
以下、本発明について実施例に沿ってより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0151】
<実施例1>ゲノム挿入型ベクターの作製
(1−1)LTR領域およびインテグラーゼ遺伝子領域の増幅
レトロウイルスフリーの白色レグホンLine−M(C/O)の有精卵を孵卵させ、孵卵12日目の胚より調製した線維芽細胞に、ラウス肉腫ウイルス(Rous Sarcoma Virus、以下「RSV」という。(財)日本生物科学研究所所有のものを使用。)を感染させた。
【0152】
感染2日後に、常法にしたがって(Molecular Cloning, 2nd edition: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989.,以下「M.C.」という)細胞からDNAを回収した。
【0153】
PCRに用いたプライマーはSchwartz, D.E.らの論文(Cell, 32, 853-869, 1983)に記載されているRSVの塩基配列を参考に合成した。合成したプライマーの塩基配列は次の通りである。
U353 5'-GGCATTAATGTAGTCTTATGCAATACTCCTG-3'(配列番号1)
PSU535 5'-GTTAACGATATCAGATCTGCTTGATCCACCGGGCGACCAG-3'(配列番号2)
IN53 5'-TTGGATCCATGCCCTTGAGAGAGGCTAAAGATCTTC-3'(配列番号3)
PO35 5'-TTTATTTTAACTCTCGTTGGCAGCAAGGGTGTC-3'(配列番号4)
U535 5'-GGCATTAATGAAGCCTTCTGCTTCATTCA-3'(配列番号5)
NLSPO35 5'-TTTATTTTAAACCTTCCTCTTCTTCTTAGGACTCTCGTTGGCAGCAAGGGT-3'(配列番号6)
(プライマー配列の説明)
下記に記載のRSVゲノムの塩基配列番号は、「Cell, 32, 853-869, 1983」の「図2」に記載されいるRSVの塩基配列の先頭を1番としている。
U353の4〜9番:制限酵素VspI認識配列。
U353の7〜31番:RSVゲノム上の9058〜9082番。
PSU535の1〜6番:制限酵素HincII認識配列。
PSU535の7〜12番:制限酵素EcoRV認識配列。
PSU535の13〜18番:制限酵素BglII認識配列。
PSU535の19〜40番:RSVゲノム上の357〜380番の相補鎖。
IN53の3〜8番:制限酵素BamHI認識配列。
IN53の9〜11番:翻訳開始コドン
IN53の12〜36番:RSVゲノム上の4119〜4243番の配列。
PO35の1〜6番:ポリA付加シグナルの相補鎖。
PO35の7〜33番:RSVゲノム上の5164〜5190番の相補鎖。
U535の4〜9番:制限酵素VspI認識配列。
U535の7〜29番:RSVゲノム上の79〜101番の相補鎖。
NLSPO35の1〜6番:ポリA付加シグナルの相補鎖。
NLSPO35の7〜9番:終止コドンの相補鎖。
NLSPO35の10〜30番:遺伝子第5版(東京化学同人)292頁とアミノ酸のコドン表をもとに作製したSV40 largeT抗原の核移行シグナルをコードする配列。
PO35の31〜51番:RSVゲノム上の5164〜5187番の相補鎖。
【0154】
合成したプライマーには、プラスミドへのクローニングがしやすいように制限酵素の認識配列を付加した。インテグラーゼ遺伝子クローニング用3’側のプライマーNLSPO35については、さらにSV40 largeT抗原核移行シグナルをコードする配列(Kalderon, D., et al., Cell, 39, 499-509, 1984)、ポリA付加シグナルを付加した。インテグラーゼ遺伝子クローニング用5’側プライマーIN53および3’側プライマーPO35については、Schwartz, D.E.ら(Cell, 32, 853-869, 1983)およびHippenmeyer P.J. and Grandgenett, D.P.(Virology, 137, 358-370, 1984)を参考に設計した。
【0155】
PSU535については、インテグラーゼ遺伝子を転写させるのにLTR上のプロモーターを用いるため、ウイルスゲノム上で一番先頭にコードされるタンパクの読み枠の直前から上流に向かって作製した。LTR領域クローニング用5’側プライマーU353、同じく3’側プライマーU535については、これらおよびU353、PSU535によって増幅されるPCR産物をタンデムにつないだとき、RSVの生活環において2本鎖環状DNA状態で見られるLTR−LTR連結部位の配列ができるように設計した。このことについてもう少し詳しく説明する。
【0156】
RSVが感染細胞内で2本鎖環状DNA状態になったとき、タンデムにつながったLTR−LTRの連結部位つまりU5とU3との間には「ATTAAT」という配列が存在する(Schwartz, D.E., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 74, 994-998,1977)。ウイルスDNAがゲノムに組み込まれプロウイルスになる際にウイルスDNAの両末端からそれぞれ2塩基の欠失が起こるため、プロウイルス中にはこの欠失部分の配列が存在しない(Virology, 2nd Edition, 1437-1500, edited by Fields, B.N., Knipe, D. M., et al., Raven Press, Ltd., New York, 1990.)(図1)。そこで、LTR領域を増幅させるためのプライマーU353、U535の配列中に制限酵素VspI認識配列「ATTAAT」を入れ、PCRで増幅した2つのLTR領域をつなげる際に制限酵素VspIで切断してからつなげることでLTR−LTRの連結部位に「ATTAAT」という配列を作った(図2)。
【0157】
これらのプライマーのセットを用いて上記RSV感染線維芽細胞より抽出したDNAを鋳型にPCRを行い、LTR領域およびインテグラーゼ遺伝子領域を増幅した。インテグラーゼ遺伝子の塩基配列は配列番号8に示す。
【0158】
(1−2)プラスミドの構築
プラスミドpHSG397(図3)を制限酵素VspIで切断後、平滑末端化処理を行い、これにPSU535とU353で増幅させたLTRを含む領域をつなげた。さらに、このプラスミドを制限酵素HindIIIで切断後、平滑末端化処理を行い、さらに制限酵素VspIで切断した。これにU535とU353とで増幅させたLTRを含む領域を制限酵素RsaIおよびVspIで切断したものをつなげて、LTRをタンデムに2つ持つがインテグラーゼ遺伝子を持たないプラスミドpLTR43を作製した(図4、図4中酵素の種類を示すアルファベットの上に*をつけたところは、当該酵素で切断したあと、平滑末端化処理またはPCR産物などとつなげる処理により当該酵素で再び切れなくなったことを示す。他の図においても同様である。)。連結した2つのLTRの配列は、配列表の配列番号7に示す。
【0159】
pLTR43プラスミドを制限酵素EcoRVで切断し、切断部位にIN53とNLSPO35で増幅したインテグラーゼ遺伝子を含む領域をつなぐことで目的プラスミドpLTR435を作製した(図5)。
【0160】
pHSG397からpLTR43、pLTR435までのプラスミド作製プロトコールを図6、図7に示す。
【0161】
<実施例2>トランスフェクションおよび解析
pLTR43またはpLTR435をそれぞれ別個に、マウスフレンド白血病由来細胞株MEL細胞(理化学研究所細胞銀行より購入)へ、トランスフェリンフェクションキット(Bender MedSystems社)を用いて導入した。
【0162】
細胞の継代は10倍希釈により行い、3代継代後の細胞からDNAを回収し、ネステッドPCRおよびサザンハイブリダイゼーションに用いた。
【0163】
(2−i)ネステッドPCR
TaKaRa LA in vitro cloningキットを用いてベクターを含む細胞由来DNAをネステッドPCRを行って増幅した。その原理を図8に示す。図8中に示されるように、プライマー1としてPSU535、プライマー3としてU535、プライマー2、4としてはキットに添付のCassette Primer C1、Cassette Primer C2をそれぞれ用いた。
【0164】
挿入されたベクターから宿主細胞ゲノムの中のHindIII認識配列までの距離によって、PCRで増幅されるバンドの大きさが変わる(図8中**印を付けた太い矢印の部分)。したがって、ベクターが特異的な数箇所に挿入されるのであれば数本のバンドが、また不特定の箇所に挿入されるのであればスメアとして検出されることになる。
【0165】
ネステッドPCRの結果を図9に示す。pLTR43では、いずれのPCRにおいても増幅産物は検出されなかった。このことは、pLTR43がMEL細胞のゲノムにほとんど挿入されていないことを示す。一方、pLTR435を導入した細胞については、2回目のPCRにおいてその増幅産物が検出され、その泳動は、スメアなバンドパターンとして現れた。PCRの鋳型としたDNAは、pLTR43、pLTR435のプラスミドを切断することはない制限酵素であるHindIIIで処理しているため、ここで検出している産物は、ゲノムに組み込まれずに環状で存在している導入プラスミドDNAではなく、ゲノムに組み込まれた導入プラスミドDNAより増幅されたものである。また、バンドパターンがスメアになっているとともに、一部に強いバンドが現れていることは、先の図8の原理よりpLTR435はMEL細胞のゲノムの不特定な部位に挿入されるが、いずれか特定の部位に挿入されやすい傾向を示すものと推測される。
【0166】
(2−ii)サザンハイブリダイゼーション
(2−ii−1) 上記3代継代後の細胞からそれぞれ回収した20μgのDNAを、pLTR43、pLTR435のプラスミド内を2箇所で切断する制限酵素HincIIおよび3箇所で切断するEcoRIでそれぞれ切断後、常法に従って(「M.C.」参照)、サザンハイブリダイゼーションを行った。
【0167】
その結果を図10に示す。図10に示される通り、pLTR435を導入した細胞から回収したDNAについてのみバンドが検出されていることから、pLTR435は細胞に安定に保持されていることが明らかになった。
【0168】
なお、プローブは、プラスミドpHSG397を酵素SalIで1箇所切断したものをTaKaRaランダムプライマーDNAラベリングキットを用い、α−32P−dATPで標識したものを使用した。
【0169】
(2−ii−2) 上記3代継代後の細胞から回収したDNAのうちpLTR435を導入した細胞から得られたDNAを、pLTR435を3箇所で切断する制限酵素EcoRI、1箇所で切断する制限酵素SalI、切断しない制限酵素NheIでそれぞれ処理し、(2−ii−1)と同様に常法に従って(「M.C.」参照)サザンハイブリダイゼーションを行った。
【0170】
その結果を図11に示す。仮に、プラスミドがゲノムの不特定な様々な箇所に挿入されるのであれば、プラスミドを1箇所で切断する酵素SalIで切断すると、ゲノム中のSalI認識配列から挿入されたプラスミドまでの長さが様々になるために、泳動後のDNA断片が1箇所に集中しないため、ハイブリダイゼーションではバンドは検出されないはずである。また、仮に、導入したベクターが細胞のゲノムに挿入されず、プラスミドの状態のままで細胞内に存在しているのであれば、プラスミドの大きさの位置にバンドが現れるはずである。しかし、図11ではいずれでもなく、プラスミド内を複数切断するEcoRIでのみバンドが検出され、しかもバンドはプラスミドをEcoRIで切断したときに予測される位置に現れた。したがって、pLTR435が細胞のゲノム内の不特定な位置に挿入された形質転換体が得られたことが推定された。
【0171】
<実施例3>ニワトリへの遺伝子の導入
上記のレトロウイルスフリーの白色レグホンLine−M(C/O)の有精卵を48時間孵卵後、卵の側面に直径1cm程度の穴を開け、そこから発生途中の胚の胚盤葉(blastoderm)下腔へトランスフェリンフェクションキットで作製したDNA−トランスフェリン−ポリLリジン複合体(実施例2でMEL細胞へのトランスフェクションに用いたものと同じもの)をガラスキャピラリーを用いて約2ul/胚で注入した。穴をビニールテープでふさいで再び孵卵し、ヒヨコを孵化させた。孵化後2週間目のヒナの翼下静脈から血液を採取した。
【0172】
採取した血液からGenomicPrepTM Blood DNA Isolation KIT(ファルマシア社)用いてDNAを回収し、プライマーとしてIN53とPO35を用いてPCRを行った結果を図12に示す。
【0173】
図12に示されるとおり、pLTR43を注入した卵から孵化したヒヨコのDNAを鋳型にした場合(図12、レーン2)、増幅されたバンドは確認できなかった。他方、pLTR435を注入した卵から孵化したヒヨコのDNAを鋳型にした場合(図12、レーン3〜8:各レーンの検体は、それぞれ異なる個体から採取した)には、増幅されたバンドが確認された。すなわち、実施例2の結果もふまえると、pLTR435を胚盤葉下腔に注入して作出されたニワトリの細胞ゲノムにpLTR435が挿入されたことが確認された。
【0174】
さらに、実施例の(2−i)で行ったのと同様にTaKaRa LA in vitro cloningキットを用いてネステッドPCRを行い、増幅されたDNAの塩基配列を解析した(図13)。
【0175】
図13に示すように、増幅したバンドの塩基配列のすべてにPCRに用いたHindIIIカセットの配列が見られた。しかし、HindIIIカセット以外の部分では各クローン間に相同性は認められず、また、その配列は導入したベクターのものとは異なるものだった。このことからも、導入されたpLTR435は、ニワトリのゲノムの不特定の箇所に挿入されたと推定された。
【0176】
pLTR435の存在を示すバンドの増幅が確認されたオスをさらに飼育し、成熟したところで精液を採取し、DNAを回収後、再びIN53(配列番号3)とPO35(配列番号4)を用いてPCRを行った(図14)。図14に示されるとおり、生殖細胞中にも、卵に注入したDNAが挿入されていることが推測された。
【0177】
したがって、本発明のベクターによればin vivoでの外来DNAの挿入が可能である。
【0178】
<実施例4>チャイニーズハムスター卵巣組織由来細胞(CHO細胞)でのネコG−CSFの発現
プラスミドpEGFP−C1(Clontech社)のEGFP遺伝子をネコG−CSF遺伝子に置き換えたプラスミドpGCSF(図15)を制限酵素MluIで切断し、このプラスミドに、上記プラスミドpLTR43またはpLTR435から制限酵素HincIIでそれぞれ切断して取り出した「LTR−LTRを含みインテグラーゼ遺伝子を含まないフラグメント」(本実施例4では「LTR−LTRフラグメント」という)、または「LTR−LTR−インテグラーゼ遺伝子領域を含むフラグメント」(本実施例4では「LTR−LTR−インテグラーゼフラグメント」という)のいずれか一方を挿入して(図16)、LTR−LTRフラグメントが挿入されたプラスミドであるpGCSF−ΔIN(図17)、LTR−LTR−インテグラーゼフラグメントが挿入されたプラスミドであるpGCSF−IN(図18)を作製した。また、ポジティブコントロールとして、バキュロウイルストランスファーベクターpBacPAK1(Clontech社)を用いて常法に従いネコG−CSF遺伝子を組み込んだバキュロウイルスベクターを用いた。
【0179】
これらのプラスミドをそれぞれCHO細胞(理化学研究所細胞銀行より購入)へ、FuGENE6(ファルマシア社)を用いてトランスフェクションし、トランスフェクション後の細胞培養上清中のG−CSFの活性をCell counting kit-8(DOJINDO社)を用いたネコG−CSF感受性のマウス骨髄球様細胞株NFS−60細胞の増殖支持により測定した。なお、ポジティブコントロールについては、上記組換えバキュロウイルスをSf21AE細胞に感染させ、その培養上清を用いた。測定結果を表2に示す。測定はそれぞれ2検体ずつ行った。
【0180】
【表2】
Figure 0004474017
【0181】
表2の「継代1代目」の検体は、トランスフェクション後2日目に回収した細胞の培養上清である。また、細胞はトリプシン消化した後、その1/4量を継代した。さらに、その2日後に細胞の培養上清を回収し「継代2代目」の検体とした。なお、ネガティブコントロールとは、無処理のCHO細胞の培養上清である。表2からインテグラーゼ遺伝子を持たないpGCSF−ΔINを導入した細胞の培養上清中のG−CSF活性を継代1代目と継代2代目とで比較すると、継代2代目で明らかに低下していることがわかった。一方、インテグラーゼ遺伝子を持つpGCSF−INを導入した細胞の培養上清中のG−CSF活性は、継代2代目で低下することはなく、むしろ上昇する傾向にあった。pGCSF−ΔINトランスフェクションの場合、継代1代目の測定値の平均値を100%としたときに、継代2代目の測定値の平均値は約33%である。一方、pGCSF−INトランスフェクションの場合は、継代1代目の測定値の平均値を100%としたときに、継代2代目の測定値の平均値は約175%である。このことは、pGCSF−INは培養しているCHO細胞中に安定的に存在し、ネコG−CSFを安定的に産生することを示すものと考えられる。
【0182】
<実施例5> ニワトリでの導入遺伝子の発現
ゲノム挿入型プラスミド に、サイトメガロウイルスのプロモーター/エンハンサーの下流に green fluorescent protein(「GFP」と略称する)遺伝子をもつDNA断片を組み込んだプラスミドpLTRGFP435を作製した(図19)。このプラスミドを上記実施例3と同様の胚操作によりゲノムにGFP遺伝子の挿入された個体を作出した。
【0183】
このニワトリの末梢血より得たリンパ球を、20mg/ml 2−メルカプトエタノール、10mM リポポリサッカライドおよび10%ウシ胎児血清を加えたRPMI1640培地中で2日間培養し、落射蛍光顕微鏡を用いて細胞でのGFPの発現を観察した。培養前のリンパ球では緑色の蛍光を発するものは見られなかったが(データ示さず)、図20の「2」に示すように、培養2日後では、顕著に蛍光を発する細胞が検出された。図20の「1」は、同視野での顕微鏡写真である。
【0184】
さらに GFPのmRNAの発現を観察するために、図20で用いた細胞から RNAを回収し、オリゴdTプライマーで逆転写反応を行った後、GFP遺伝子内に設定したプライマーでPCRを行った。用いたプライマーは、pEGFPF1:CTAGCGCTACCGGTCGCCACC(配列番号9)およびGFP5: GTTGCCGTCCTCCTTGAAGT(配列番号10)である。このプライマーの組み合わせでは、GFP遺伝子のmRNAが存在すれば430b. p.の DNA断片が増幅されることが予想される。
【0185】
結果を図21に示す。図21中「M」はマーカーのレーンであり、レーン1、3は培養前のリンパ球より調整したRNAを用いたRT−PCR(reverse transcription-PCR)、またレーン2、4は培養2日目のリンパ球より調整したRNAを用いたRT−PCRの結果である。また、レーン3は、レーン1に用いたRNAを、逆転写反応を行わずにRNase処理したものを用いた結果であり、レーン4はレーン2に用いたRNAを逆転写反応を行わずにRNase処理したものを用いた結果である。
【0186】
培養前のリンパ球より調整した RNAを用いたRT−PCRではバンドは検出されなかったのに対し(レーン1)、培養後のものでは予想されたバンドが検出された(レーン2)。さらに、レーン2のバンドはRNase処理により増幅されなかったことから(レーン4)、ゲノムDNAが混入してこれを鋳型に増幅されたものではないことが確かめられた。これらの結果は、先の蛍光顕微鏡観察を反映するものである。
【0187】
以上の結果から、本プラスミドを用いることにより、目的とする外来遺伝子を生体のゲノムに挿入させ、その遺伝子を発現させることが可能であることが確認された。
【0188】
<実施例6> 次世代ニワトリへの導入遺伝子の伝搬(Tgニワトリの作出)上記実施例3に示すように、本ベクターを発育鶏卵の胚盤葉下腔に注入することにより、孵化したヒヨコの体細胞のゲノムにDNAの挿入が見られるのみならず、生殖細胞のゲノムへのDNAの挿入がおこることが推測された。そこで、上記実施例5で作出した GFP遺伝子の挿入が確認された個体と、GFP遺伝子を導入してない未処置の個体との間で人工授精を行った。産卵された有精卵を人工孵化させ、2世代目の個体に導入したDNAが伝搬されるかを検討した。
【0189】
試験は、上記実施例3と同様の方法で採取した血液からDNA抽出し、これをを鋳型に、導入遺伝子の挿入を検出する目的でプライマーPO35(配列番号4)とU553:TTGGTGTGCACCTGGGTTGAT(配列番号11)とを用いてPCRを行った。 またその際、PCR反応が適切に起こっていることを判別するためのインターナルコントロールとしてオボアルブミンの5′上流領域にプライマーを設定して、両セットのPCRを同一試験管内で行った。前者の遺伝子の増幅が見られれば1,350 b. p.のバンドが、また、後者の遺伝子が増幅されれば 661 b.p. のバンドが検出されることが予想される。
【0190】
図22に各個体での典型的な泳動像を示す。図22中レーン「M」はマーカーであり、レーン1〜8は、各個体から得たゲノムを用いたPCR産物の泳動像である。
【0191】
レーン1では、両者のバンドが検出されないことからPCR反応自体がうまくいっていないと考えられ、このような個体は判別不能とした。また、レーン6あるいは8のような個体は、インターナルコントロールとしたバンドは検出されるのに対し、1,350b. p.のバンドが検出されないことから、これらの個体には導入遺伝子の伝搬はないと判断された。一方、レーン2から5、および7の個体は双方のバンドが検出され、導入遺伝子の伝搬が起こっているものと判定された。このような解析から、24個体のうち13個体、すなわち約1/2の効率で導入遺伝子の子孫への伝搬が確認された。
【0192】
以上の成績から、本ベクターを用いることにより、従来困難とされていたTGニワトリの作出が容易に行えることが明らかとなった。
【0193】
<実施例7>パッケージングシグナルを含む非翻訳領域欠損プラスミドでのニワトリゲノムへの遺伝子挿入
通常、プラスミドにはその全体の大きさに限界があるため、より長い外来遺伝子を組み込む事を考慮した場合、必要のない配列は含まないほうが望ましい。上記の実施例1〜6で使用してきたゲノム挿入型プラスミドでは、非翻訳領域の転写に与える影響を避けるという理由から、パッケージングシグナルを含むLTRの下流からポリメラーゼの翻訳開始点まで(「Ps」と略す)を除かない状態にしておいたが、この領域を欠損させたプラスミドでのゲノムへの挿入効果について検討した。
【0194】
Psを欠損させたプラスミド pΔPsGFP435の構成を図23に示す。このプラスミドおよびPsをもつpLTRGFP435、ならびに陰性対照としてインテグラーゼ遺伝子を含まないpΔGFP435(図24)を上記実施例3と同様にニワトリ胚の胚盤葉下腔にガラスキャピラリーを用いて注入後、遺伝子導入装置CUY21(EDITタイプ;BEX社製)を用いて電気的穿孔法により導入した。孵化後約2週目のヒヨコの血液細胞より調整したDNAを用いて、上記実施例2と同様にPCRを行い、ゲノムへの挿入を調べた。ただし、ゲノムの切断には制限酵素Xba Iを用い、また、PCRには図8のプライマー1に相当するものとしてPEGF1: ATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTGTTCACCGGGGTG(配列番号12)を、プライマー3に相当するものとしてPEGF2: GTCGAGCTGGACGGCGACGT (配列番号13)を用いた。
【0195】
図25に結果を示す。レーン1はpΔGFP435を導入したニワトリから得られたゲノムを鋳型にしたPCRであり、レーン2はpLTRGFP435を導入したニワトリから得られたゲノムを鋳型にしたPCRであり、レーン3はpΔPsGFP435を導入したニワトリから得られたゲノムを鋳型にしたPCRの結果である。
【0196】
図25に示されるように、陰性対照であるpΔGFP435を導入した個体ではPCRで増幅されるバンドは検出されなかった。一方、pLTRGFP435と同様にpΔPsGFP435を導入した個体においてはスメアなバンドとしてPCR増幅産物が検出されており、ゲノムの不特定の箇所への挿入が起こっていることが確認された。以上の結果から、Psを欠損させたpΔPsGFP435においてもゲノムへの挿入に有効であることが判明した。
【0197】
<配列表フリーテキスト>
本明細書に含まれる配列表中の項目<223>におけるフリーテキストの記載内容を以下に示す。
(配列番号1)
U3の3’末端領域およびVspI制限酵素認識部位を含む、RSVのLTR増幅のためのPCR用合成プライマー。
(配列番号2)
p19遺伝子の非コーディング領域の5’末端領域、およびHincII、EcoRV、BglII制限酵素認識部位を含む、RSVのLTRおよびLTRの下流領域増幅のためのPCR用合成プライマー。
(配列番号3)
RSVインテグラーゼ遺伝子の5’末端領域およびBamHI制限酵素認識部位を含む、RSVのインテグラーゼ遺伝子増幅のためのPCR用合成プライマー。
(配列番号4)
RSVインテグラーゼ遺伝子の3’末端領域およびポリAシグナルを含む、RSVのインテグラーゼ遺伝子増幅のためのPCR用合成プライマー。
(配列番号5)
U5の5’末端領域およびVspI制限酵素認識部位を含む、RSVのLTR増幅のためのPCR用合成プライマー。
(配列番号6)
RSVのインテグラーゼ遺伝子の3’末端領域、ポリAシグナル、SV40のラージT抗原の核移行シグナルを含む、RSVのインテグラーゼ遺伝子増幅のためのPCR用合成プライマー。
(配列番号7)
RSVの環状構造DNAの一部であり、LTRのタンデムリピートおよび非翻訳領域近傍の配列である。
(配列番号9)
GFP遺伝子の5’末端領域およびNheI制限酵素部位の一部を含む、GFP遺伝子を増幅するためのPCR用合成プライマー。
(配列番号10)
GFP ORFのアンチセンス配列を含む、GFP遺伝子の一部を増幅するためのPCR用合成プライマー。
(配列番号11)
LTR配列のU5領域を含む、導入されたプラスミドベクターの一部を増幅するためのPCR用合成プライマー。
(配列番号12)
GFP ORF配列の5’末端を含む、GFP遺伝子の一部を増幅するためのPCR用合成プライマー。
(配列番号13)
GFP ORF配列の一部を含む、GFP遺伝子の一部を増幅するためのPCR用合成プライマー。
【0198】
【発明の効果】
本発明は主に次のような効果を有する。
(1)所望のDNAを宿主細胞に効率よく宿主細胞のゲノムに挿入することができる。また、本発明のベクターは、in vitroでもin vivoでも所望のDNAをゲノムへ挿入することができる。
(2)外来DNAをゲノムに挿入することができるので、性質の安定した形質転換体を得ることができる。また、性質の安定したTG動物の作出も容易に行うことができる。
(3)本発明のベクターはプラスミドであり、また既知のプラスミドを用いて作製することができるので、ウイルスベクターに比べ作製が容易である。また、一旦作製してしまえば、その後の大量生産も容易である。
(4)プラスミド自体には病原性がなく、安全性の高いベクターとすることができる。
(5)レトロウイルスベクターと比較して、強力なプロモーターの使用が可能なベクターが得られる。
(6)例えば、pUC系を基礎とした本発明ベクターであれば9kb、pBR系を基礎とした本発明のベクターであれば19kbの外来遺伝子の組み込みが可能であり、大きなDNAの挿入が可能である。
(7)本発明のベクターを細胞に導入すれば高い割合で当該ベクターがゲノムに挿入されるため、細胞の増殖過程でベクターのDNAが失われにくい。したがって、形質転換を利用した有用物質の安定した生産が期待される。
(8)本発明のベクターは、DNAを構成要素としているため、ウイルスを基本とする従来のベクターのような生体の免疫機構による排除は起こりにくいことから、生体への繰り返し投与が可能である。
【0199】
【配列表】
Figure 0004474017
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【図面の簡単な説明】
【図1】2本鎖環状ウイルスDNAが宿主DNAに挿入される際に2塩基欠失が起こる様子を示す図である。「H」、「J」、「K」、「L」、「M」、「P」は、ウイルスDNA組み込みの際ターゲットとなった宿主細胞DNAの塩基を表す。「’」印は同じアルファベットで表されている塩基の相補的な塩基を表す。
【図2】LTR−LTRを作製する際に2本鎖環状ウイルスに見られるLTR−LTR連結部位をどのように作ったかについて示す図である。なお、LTRの連結のさせ方を明らかにするため、連結させる部分の配列にはもともとU3、U5に含まれる配列も一部表示した。
【図3】プラスミドpHSG397の構造を表す図である。
【図4】プラスミドpLTR43の構造を表す図である。
【図5】プラスミドpLTR435の構造を表す図である。
【図6】LTRをタンデムに2つ持つがインテグラーゼ遺伝子を持たないプラスミドベクターpLTR43の作製の概略を示す図である。
【図7】LTRをタンデムに2つ持ちインテグラーゼ遺伝子を持つプラスミドベクターpLTR435の作製の概略を示す図である。
【図8】ベクターが挿入された近傍の宿主細胞DNAのTaKaRa LA in vitro cloningキットによるクローニングを概説する図である。本実施例2、3ではプライマー1としてPSU535、プライマー3としてU535を、プライマー2、4としてはキットに添付の Cassette Primer C1、Cassette Primer C2を用いた。
【図9】実施例2におけるネステッドPCR後の結果を示す電気泳動の写真を表した図である。「M」はマーカーのレーンである。レーン上の「1」、「2」の数値は、それぞれ1回目のPCR産物であること、または2回目のPCR産物であることを示す。1回目のPCRに用いたプライマーは、PSU535、Cassette Primer C1であり、2回目のPCRに用いたプライマーは、U535、Cassette Primer C2である。
【図10】実施例2における(2−ii−1)のサザンハイブリダイゼーションの結果を示す泳動写真を表した図である。矢印は、マーカー以外の試料(検体)においてバンドが現れた位置を示す。レーンMはマーカーであり、レーンEはEcoRIで切断したもの、レーンHcはHinCIIで切断したものである。
【図11】実施例2における(2−ii−2)のサザンハイブリダイゼーションの結果を示す泳動写真を表した図である。矢印は、マーカー以外の試料(検体)においてバンドが現れた位置を示す。レーンMはマーカーであり、レーンEはEcoRIで切断したもの、レーンNはNheIで切断したもの、レーンSはSalIで切断したものある。pLTR435は、EcoRIにより2箇所、NheIにより0箇所、SalIにより1箇所切断される。
【図12】実施例3におけるヒヨコの血液から回収したDNAについてPCRを行い、その結果を示す泳動の写真を表した図である。レーンMはマーカーであり、レーン1はプラスミドベクターを導入していないネガティブコントロール、レーン2はpLTR43を導入した卵から孵化したヒヨコのDNAのPCR、3〜8はpLTR435を導入した卵から孵化したヒヨコのDNAのPCRの結果である。
【図13】LA PCRによって遺伝子導入ニワトリから増幅されたDNAの塩基配列の比較を示す図である。「HindIII Cassette」はクローニングに用いたカセットを示す。長方形の枠で囲われた部分は、HindIII site同士のligationによってできたHindIII siteを示す。
【図14】実施例3における成熟したニワトリの精液から回収したDNAについてPCRを行い、その結果を示す泳動の写真を表した図である。矢印は、マーカー以外の試料(検体)においてバンドが現れた位置を示す。
【図15】プラスミドpEGFP−C1からプラスミドpGCSFを作製する工程の概略を示す図である。
【図16】プラスミドpGCSFからプラスミドpGCSF−ΔINまたはプラスミドpGCSF−INを作製する工程の概略を示す図である。
【図17】プラスミドpGCSF−ΔINの構造を表す図である。
【図18】プラスミドpGCSF−INの構造を表す図である。
【図19】プラスミドpLTRGFP435の構造を示す図である。
【図20】遺伝子導入ニワトリ末梢血由来細胞の顕微鏡写真を示す図である。「1」は、末梢血由来細胞の2日培養後の顕微鏡写真であり、「2」は「1」と同視野における蛍光および可視光を当てた細胞の顕微鏡写真を示す。「2」中の矢印のうち、大きい方は典型的なGFP陽性細胞を指し示し、小さい方は典型的なGFP陰性細胞を指し示す。
【図21】実施例5におけるPCR後の結果を示す泳動写真を示した図である。図21中「M」はマーカーのレーンであり、レーン1、3は培養前のリンパ球より調整したRNAを用いたRT−PCR、またレーン2、4は培養2日目のリンパ球より調整したRNAを用いたRT−PCRの結果である。また、レーン3は、レーン1に用いたRNAを、逆転写反応を行わずにRNase処理したものを用いた結果であり、レーン4はレーン2に用いたRNAを逆転写反応を行わずにRNase処理したものを用いた結果である。
【図22】実施例6におけるPCR後の結果を示す泳動写真を示した図である。図22中レーンMはマーカーであり、レーン1〜8は、各個体から得たゲノムを用いたPCR産物の泳動像である。
【図23】Psを有するプラスミドであるpLTRGFP435、およびPsを欠損させたプラスミドであるpΔPsGFP435の構造を示す図である。
【図24】インテグラーゼ遺伝子を備えていないプラスミドであるpΔGFP435の構造を示す図である。
【図25】実施例7におけるPCR後の結果を示す泳動写真を示した図である。レーン1はpΔGFP435を導入したニワトリから得られたゲノムを鋳型にしたPCRであり、レーン2はpLTRGFP435を導入したニワトリから得られたゲノムを鋳型にしたPCRであり、レーン3はpΔPsGFP435を導入したニワトリから得られたゲノムを鋳型にしたPCRの結果である。
【符号の説明】
図中、制限酵素は以下のように省略して記載される場合がある。また、酵素の種類を示すアルファベットの上に*をつけたところは、当該酵素で切断したあと、平滑末端化処理またはPCR産物などとつなげる処理などにより当該酵素で切断されなくなったことを示す。
B・・・BamHI
C・・・ClaI
E・・・EcoRI
H・・・HindIII
Hc・・・HincII
K・・・KpnI
M・・・MluI
N・・・NheI
Rs・・・RsaI
Rv・・・EcoRV
S・・・SalI
Sc・・・SacI
Sp・・・SphI
V・・・VspI
Xb・・・XbaI
Xh・・・XhoI
P・・・PstI
Bg・・・BglII

Claims (13)

  1. 下記(イ)、(ロ)および(ハ)を有するプラスミドベクター。
    (イ)インテグラーゼ遺伝子
    (ロ)インテグラーゼ遺伝子を発現制御する領域をなすDNA
    (ハ)1つのLTRと他のLTRとが連結する際に形成される末端塩基どうしの配列を少なくとも含み、インテグラーゼがインテグレーション反応を触媒する際の認識領域をなすDNA
  2. 連結した2つのLTRからなる領域を有し、前記(ロ)および(ハ)のDNAが前記2つのLTRからなる領域内のDNAである、請求項1に記載のプラスミドベクター。
  3. さらに、前記インテグラーゼ遺伝子に核移行シグナルをコードするDNAが付加された請求項1または2に記載のプラスミドベクター。
  4. 前記インテグラーゼ遺伝子および/またはLTRが、レトロウイルス科に属するウイルス由来である請求項1から3のいずれか1つに記載のプラスミドベクター。
  5. 前記レトロウイルス科に属するウイルスが、レトロウイルス科オンコウイルス亜科に属するウイルスである請求項4に記載のプラスミドベクター。
  6. 下記(ニ)をさらに有する請求項1から5のいずれか1つに記載のプラスミドベクター。
    (ニ)宿主細胞のゲノムに挿入しようとする任意のDNA
  7. 請求項6に記載のプラスミドベクターにより形質転換された形質転換体。
  8. 請求項6に記載のプラスミドベクターがゲノムに挿入されているキメラトリ。
  9. 請求項6に記載のプラスミドベクターがゲノムに挿入されている遺伝子導入トリ。
  10. 請求項6に記載のプラスミドベクターをトリの卵中の胚に注入して胚を構成する細胞のゲノムに請求項6における(ニ)のDNAを挿入し、当該卵を孵化させて(ニ)のDNAが挿入された個体を得る、外来DNAが挿入されたトリの作出方法。
  11. 請求項6に記載のプラスミドベクターを、トリの発生初期段階で採取した始原生殖細胞に導入して前記プラスミドベクターが有する請求項6における(ニ)のDNAを当該始原生殖細胞のゲノムに挿入し、当該DNAが挿入された始原生殖細胞を別の個体の卵中の初期胚に注入し、当該卵を孵化させて、(ニ)のDNAが挿入された個体を得る、外来DNAが挿入されたトリの作出方法。
  12. 請求項10または11の方法により得られる、生殖系列の細胞に外来DNAが挿入された個体を自然交配または人工授精させることを特徴とする、遺伝子導入トリ作出方法。
  13. 生体内(ヒトを除く)または生体外にて有用物質が産生される有用物質の生産方法であって、
    請求項6に記載のプラスミドベクターが有する(ニ)のDNAがタンパク質をコードする領域およびその発現を制御する領域を有しており、
    当該プラスミドベクターを宿主細胞に導入して宿主細胞のゲノムに(ニ)のDNAを挿入し、
    宿主細胞内で(ニ)のDNAがコードするタンパク質を発現させて有用物質を得る、有用物質の生産方法。
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