JP4473969B2 - 新規フィターゼ及びフィターゼの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規フィターゼ及びフィターゼ生産微生物のスクリーニング法に関する。フィターゼは、食品分野、農業分野及び医薬品分野等で有用な酵素である。
【0002】
【従来の技術】
フィターゼは、フィチン(イノシトールヘキサキスリン酸、フィチン酸ともいう)を加水分解する酵素であり、リン酸基の一つを加水分解した後に、さらに脱リン酸反応を触媒する。最初の脱リン酸の位置によって、6−フィターゼ、3フィターゼ等と分類されているが、多くのフィターゼの反応の詳細は明らかではない。
【0003】
フィターゼは、コメ糠、コムギフスマ、動植物の組織等に含まれており、また、アスペルギルス・フィキューム(Aspergillus ficcum)(Appl. Microbiol., 16, 1348-1351(1968))等の糸状菌、シュワンニオマイセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)(EP 699762)等の酵母等、種々の微生物が産生することが知られている。いくつかの糸状菌については、分泌型のフィターゼ(細胞外フィターゼ)を産生することが知られており、酵素の性質もある程度詳細に研究されている。これらの細胞外フィターゼは自然界におけるリン酸獲得系として機能していると考えられるが、フィターゼ活性がどのように働いているかは明らかではない。一方、酵母では、性質が調べられている細胞外フィターゼは、シュワンニオマイセス・オクシデンタリスのフィターゼが知られているのみである(Segueilha, L. et al., J. Ferm. & Bioeng., 74, 7-11, (1992))。
【0004】
細胞外フィターゼを産生する微生物のスクリーニングは、寒天平板培地を用いて行われている。例えば、フィチン酸カルシウム粒子を含む培地に微生物を生育させ、混濁している培地上で透明なハローを形成する微生物を選択することにより、フィターゼを産生する微生物を得ることができる(Lambrechts, C. et al., Biotechnology Letters, 14, 61-66 (1992))。前記シュワンニオマイセス・オクシデンタリスは、このようにして選択されたものであり、最も優れたフィターゼ生産酵母の一つとして知られている。また、フィチン酸塩を唯一のリン酸源とする最少培地を用い、該培地に生育する微生物を選択することによって、フィターゼを産生する微生物を単離する方法が知られている(特開平8−56676号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、フィターゼ及びそれを産生する微生物について研究が進んでいるが、未だ十分といえるものではなく、公知のフィターゼとは異なる性質を有するフィターゼ、及びそのようなフィターゼを産生する微生物をスクリーニングする方法が望まれている。したがって、本発明は、フィターゼを産生する微生物の新規なスクリーニング法及び新規フィターゼを提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、フィチンを唯一のリン酸源及び炭素源とする培地を用いることによって、フィターゼを産生する微生物を効率よく選択することができること、及び、該方法によって公知のフィターゼと異なる性質を有する新規なフィターゼを見出すことに成功し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)フィターゼを産生する微生物をスクリーニングする方法であって、フィチンを唯一のリン酸源及び炭素源とする培地に微生物を植え、該培地で生育する微生物を選択することを特徴とする方法、
【0008】
(2)前記微生物が酵母であることを特徴とする(1)に記載の方法、
【0009】
(3)アークスラ・アデニニボランスが産生する細胞外フィターゼであって、下記の性質を有するフィターゼ、
(A)反応至適温度が70〜75℃である。
(B)反応至適温度におけるフィターゼ活性の至適pH:約4.5〜5.0
(C)60℃におけるフィターゼ活性の至適pH:約4.5〜5.0
【0010】
(4)アークスラ属に属する酵母を培地に培養し、該培地中にフィターゼを蓄積させ、該培地からフィターゼを採取することを特徴とするフィターゼの製造方法、
【0011】
(5)フィターゼが、(3)に記載のフィターゼである(4)に記載の方法、
(6)前記アークスラ属に属する酵母が、アークスラ・アデニニボランスであることを特徴とする(4)に記載の方法、
【0012】
(7)前記アークスラ・アデニニボランスが、アークスラ・アデニニボランスCBS7370、アークスラ・アデニニボランスCBS7377、又はアークスラ・アデニニボランスCBS8335から選ばれることを特徴とする(6)に記載の方法、および
【0013】
(8)前記アークスラ属に属する酵母が、(1)に記載の方法により選択される菌株である(4)に記載の方法、である。
【0014】
本願発明において、「細胞外フィターゼ」とは、フィターゼを産生する微生物の細胞外に分泌されるフィターゼをいう。また、「フィターゼ活性」とは、フィチンからリン酸が遊離する反応を触媒する活性をいう。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
<1>フィターゼを産生する微生物のスクリーニング法
フィチンを唯一のリン酸源及び炭素源とする培地に微生物を植え、該培地で生育する微生物を選択することにより、フィターゼを産生する微生物をスクリーニングすることができる。選択に用いる微生物としては酵母が好ましい。酵母は、通常、イノシトールは資化することができるが、フィチンを細胞内に取り込むことができない。しかし、細胞外フィターゼを分泌し、該フィターゼによってフィチンからリン酸を遊離させることができれば、これをリン酸源とすることができる。さらに、フィチンからリン酸基が一部又は全部脱離した化合物を炭素源として利用することができれば、フィチンを唯一のリン酸源及び炭素源とする培地で生育することができる。
【0017】
後記実施例で詳述するように、フィチンを唯一のリン酸源とし、グルコースを炭素源として含む培地で酵母約1200株を培養したところ、約300株が生育した(比較例参照)。これに対し、フィチンを唯一のリン酸源及び炭素源とする培地で同様に酵母約1200株を培養した結果、明らかに生育したのは16株であった(実施例参照)。
【0018】
このように、培地中のフィチン以外の炭素源の有無により、生育できる株の数が顕著に異なる理由は明らかではないが、例えば、次のような仮説が考えられる。大部分のフィターゼは、フィチンからリン酸を一部しか遊離することができず、リン酸基が1又は数個結合したイノシトールを、前記フィターゼを産生する酵母は資化することができない。
【0019】
これに対し、フィチンを唯一のリン酸源及び炭素源とする培地で生育できる酵母が産生するフィターゼは、フィチンからリン酸を全て遊離させることができ、生成するイノシトールを前記酵母が資化している可能性がある。または、該フィターゼは、リン酸基が1又は数個結合したイノシトールの炭素−炭素結合を切断し、酵母が資化可能な形態に変換することができるのかもしれない。一方、フィターゼ反応により生成するリン酸基が1又は数個結合したイノシトールに、細胞外フォスファターゼが作用してイノシトールを生成し、これを酵母が資化している可能性も否定できない。
【0020】
いずれにしても、本発明のスクリーニング法は、フィチンをリン酸源及び炭素源として資化することができる酵母を選択する点で、従来の方法と異なる。
【0021】
フィチンを唯一のリン酸源及び炭素源とする培地としては、後記実施例に示す最少培地にフィチン酸ナトリウム0.5%を添加した培地(PhyM)が挙げられる。培地は、液体培地でも寒天培地でもよいが、選択効率の点からは寒天培地が好ましい。このような培地に種々の酵母を接種し、適当な温度、例えば20〜30℃で培養し、形成されるコロニーを選択する。この選択は複数回繰り返してもよい。得られた株から単コロニーの単離を繰り返すことにより、純化することができる。
【0022】
<2>本発明のフィターゼ
本発明のフィターゼは、アークスラ・アデニニボランスが産生する細胞外フィターゼであって、下記の性質を有するフィターゼである。
【0023】
(A)反応至適温度が70〜75℃である。
(B)反応至適温度におけるフィターゼ活性の至適pH:約4.5〜5.0
(C)60℃におけるフィターゼ活性の至適pH:約4.5〜5.0
【0024】
本発明のフィターゼのpH4.5における至適反応温度は、約70〜75℃である。従来知られている酵母由来のフィターゼは、70℃における活性に比べて75℃では活性がかなり低下するのに対し、本発明のフィターゼは、75℃における活性は70℃における活性とほぼ同等である点で、公知のフィターゼとは異なる。
【0025】
アークスラ・アデニニボランスCBS7377が産生するフィターゼの活性は、低濃度(1mM)のMgCl2、CaCl2、MgSO4及びZnSO4によりほとんど影響を受けない。また、高濃度のNaClに対しては比較的耐性であり、少なくとも0.5Mまでは影響を受けない。また、ジチオスライトール及び2−メルカプトエタノールにより活性は低下しない。
【0026】
アークスラ・アデニニボランスCBS7377のpH4.5でのフィチンの脱リン酸反応におけるKm値は、粗酵素液では約0.25mMであり、部分精製酵素では約0.23mMである。これらの値は、報告されているシュワンニオマイセス・オクシデンタリス(0.038mM、Segueilha, L. et al., J. Ferm. & Bioeng., 74, 7-11 (1992))及びアスペルギルス・フィキュームのフィターゼ(0.040mM、Ullah, A. et al., Prep. Biochem., 17, 63-91 (1987))のKm値よりもかなり大きい。尚、アスペルギルス・フィキュームのフィターゼのKm値は、Gorcomら(WO 91/05053号国際公開パンフレット)は0.25mMと報告している。
【0027】
上記のように、アークスラ・アデニニボランスCBS7377のフィターゼは、粗酵素液と部分精製酵素とで同様のKm値を示したことから、主要な促進因子又は阻害因子は培養液には存在しないことが示唆された。
【0028】
基質としてp−ニトロフェニルリン酸を用いたときのアークスラ・アデニニボランスCBS7377のフィターゼによる脱リン酸反応は、フィチンの場合と同様の温度依存性を示すことから、p−ニトロフェニルリン酸の加水分解は、フィターゼが有する非特異的フォスファターゼ活性によるものと考えられる。尚、p−ニトロフェニルリン酸に対するKm値は10mMであり、フィチンに対するKm値よりも40倍大きい。
【0029】
尚、アークスラ・アデニニボランスは、p−ニトロフェニルリン酸に対するKm値が35mMであり、至適反応温度が50〜55℃である細胞外酸性フォスファターゼを分泌することが報告されている(Buttner, R. et al., Zentrlbl. Mikrobilo., 146, 399-406 (1991))。この酵素がフィターゼ活性を有するか否かは知られていないが、温度依存性及びKm値から、本発明のフィターゼとは異なると考えられる。
【0030】
本発明のフィターゼは、フィチンからリン酸を遊離させ、イノシトールを生成する反応に用いることができる。該反応は、例えばフィチンを含む植物性飼料に適用すると、家畜等が消化できないフィチンが消化可能な化合物に変換され、飼料効率を高めることができる。
【0031】
<3>フィターゼの製造法
アークスラ属に属し、フィターゼを産生する能力を有する酵母を培地に培養し、該培地中にフィターゼを蓄積させ、該培地からフィターゼを採取することにより、フィターゼを製造することができる。
【0032】
前記アークスラ属に属する酵母としては、アークスラ・アデニニボランスが挙げられる。また、アークスラ・アデニニボランスに属する菌株としては、アークスラ・アデニニボランスCBS7370、アークスラ・アデニニボランスCBS7377、又はアークスラ・アデニニボランスCBS8335が挙げられる。これらの菌株を用いることにより、前記<2>に示す性質を有するフィターゼを製造することができる。本発明においては、前記菌株以外にも、前記<1>に記載のスクリーニング方法によって選択される菌株を用いることができる。
アークスラ・アデニニボランスCBS7370、アークスラ・アデニニボランスCBS7377、およびアークスラ・アデニニボランスCBS8335は、オランダ国のCentraal Bureau voor Schimmelcultures (CBS) (Oosterstraat 1, P.O. Box 273, NL-3740 AG Baarn, The Netherlands)から入手することができる。
【0033】
本発明に用いる培地としては、通常酵母の培養に用いられる培地、例えば酵母エキス、ペプトン、およびグルコース又はガラクトース等の炭素源を含む培地等(具体的には後述の実施例に記載のYPglu培地およびYPgal培地)を使用することができる。アークスラ・アデニニボランスCBS7370、アークスラ・アデニニボランスCBS7377、又はアークスラ・アデニニボランスCBS8335を用いる場合は、上記のような培地を用いてもよいが、リン酸を欠乏する培地、例えば後述のYΔPglu又はYΔPgalを用いると、フィターゼ分泌量を向上させることができる。また、生産培地に接種するための前培養に、最少培地、好ましくはフィチンを唯一の炭素源及びリン酸源とする培地(例えば後述のPhyM培地)、より好ましくはPhyM寒天培地を用いると、フィターゼを高レベルで生産させることができる。
【0034】
培養は、用いる酵母に適した温度で行えばよく、アークスラ・アデニニボランスでは、25〜30℃で1〜3日間、振盪培養することが好ましい。
培地中に蓄積したフィターゼは、通常のタンパク質の精製法、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、塩析等を組み合わせて分画することによって、前記培地から採取することができる。
【0035】
【実施例】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
本実施例で用いた培地及びフィターゼ活性の測定法を示す。
【0036】
〔培地〕
(YPglu)
酵母エキス(Bacto yeast extract, DIFCO) 1%
バクトペプトン(Bactopeptone, DIFCO) 1%
グルコース 2%
【0037】
(YPgal)
酵母エキス(Bacto yeast extract, DIFCO) 1%
バクトペプトン(Bactopeptone, DIFCO) 1%
ガラクトコース 2%
【0038】
(YΔPglu)
リン酸欠乏−酵母エキス 1%
リン酸欠乏−バクトペプトン 1%
グルコース 2%
【0039】
(YΔPgal)
リン酸欠乏−酵母エキス 1%
リン酸欠乏−バクトペプトン 1%
ガラクトース 2%
【0040】
リン酸欠乏−酵母エキス及びリン酸欠乏−バクトペプトンは、以下のようにして調製した。10%酵母エキス(又はバクトペプトン)溶液に、MgCl2を10-2Mとなるように加え、pHを8.6に調整した。この溶液を一昼夜静置し、無機リン酸を沈殿させた後、6000rpmで10分遠心した。上清を濾過滅菌し、凍結保存した。この処理により、無機リン酸は約3mMから10-4mM以下に減少する。
【0041】
(最少培地)
リン酸を欠乏する最少培地は、Lamprechtsらのプロトコル(Lambrechts, C. et al., Biotechnology Letters, 14, 61-66 (1992))に基づいて、以下のようにして調製した。0.1mlの溶液A(50ml中に、ビオチン1mg、パントテン酸カルシウム200mg、葉酸1mg、ニアシン200mg、p−アミノ安息香酸100mg、塩酸ピリドキシン200mg、リボフラビン100mg、塩酸チアミン200mgを含む)、0.1mlの溶液B(50ml中に、ホウ酸250mg、塩化銅20mg、ヨウ化カリウム50mg、塩化第二鉄100mg、硫酸マンガン200mg、モリブデン酸ナトリウム100mg、硫酸亜鉛200mgを含む)、及び50mlの溶液C(100ml中に、硫酸マグネシウム1.0g、塩化ナトリウム0.2g、塩化カルシウム0.2g、硫酸アンモニウム10.0gを含み、pH5.5に調整)を混合して最少培地を調製した。尚、それぞれの溶液は、濾過除菌を行ったものを用いた。
【0042】
上記最少培地にフィチンを0.5%、グルコースを5%加え、リン酸を唯一のリン酸源とする培地を調製した(MMP培地)。寒天培地は、バクトアガー(DIFCO)を2%加えて作製した。フィチンは、ハロー形成試験に用いる寒天培地にはフィチン酸カルシウムを、それ以外の寒天培地及び液体培地ではフィチン酸ナトリウムを用いた。
【0043】
また、MMP培地からグルコースを除き、フィチンを唯一の炭素源及びリン酸源とする培地を調製した(PhyM培地)。
【0044】
〔フィターゼ活性測定法〕
反応は、50mM酢酸ナトリウム(pH4.5)、1mMフィチン酸ナトリウム、酵素試料(10〜50mU)からなる反応液50mlで行った。pH3以下の条件では、緩衝液として酢酸ナトリウムの代わりに50mMフタル酸カリウムを用いた。また、フィチン酸を含まない以外は上記と同じ組成の反応液をコントロールとした。5〜20分後、反応液中に遊離する無機リン酸を次のようにして定量した。
【0045】
上記反応液に、新鮮なモリブデン−アセトン溶液(1N硫酸1容量部、10mMモリブデン酸アンモニウム1容量部、アセトン2容量部)1mlを加え、光路長5mmの2ml容石英キュベットを用いて、400nmの吸収を測定した。この条件で、500ナノモルのリン酸の吸光度(A400)は約0.4であった。尚、1Uの活性は、1分間に1μモルのリン酸を遊離する活性に相当する。
【0046】
上記培地の調製及びフィターゼ活性測定に用いたフィチンとしては、フィチン酸カルシウム(イノシトールヘキサキスリン酸、カルシウム塩、シグマ社、ref.P9539)又はフィチン酸ナトリウム(イノシトールヘキサキスリン酸、ナトリウム塩、シグマ社製、ref.P3168)を使用した。
【0047】
<1>フィチンを唯一の炭素源及びリン酸源とする培地で生育できる酵母のスクリーニング
公知の酵母600種のうち、約500種、1200株を、PhyM寒天培地で、28℃で5〜7日培養した。大部分の酵母は生育できなかったが、明らかな生育を示すものが数種において合計16株得られた(表1)。それらのうち、アークスラ・アデニニボランスに属する株、特にCBS7370、CBS7377及びCBS8335が、最も顕著な生育を示し、この種に特徴的な性質であることが示唆された。
【0048】
【表1】
【0049】
フィチンの資化は、いくつかの機構が考えられるが、フィチンの脱リン酸活性によるものと考え、表1に示す株の液体培養上清のフィターゼ活性を測定した(表2)。その結果、アークスラ・アデニニボランスは、他の種に比べて明らかに高い活性でフィターゼを分泌することが見い出された。また、PhyM培地で最もよい生育を示した3株は、フィターゼ生産能も最も高く、他の株に比べて1桁高い生産能を示した。
【0050】
【表2】
【0051】
<2>フィターゼ生産に対する培養条件の検討
アークスラ・アデニニボランスCBS7377、CBS8335について、培養条件を検討した。これらの株および対照としてシュワンニオマイセス・オクシデンタリスCBS2863を、表3に示す条件で、28℃で2日間振盪培養した。フィチンは、1mM添加した。培養上清のフィターゼ活性を測定した(pH4.5、70℃)。
【0052】
【表3】
【0053】
その結果、アークスラ・アデニニボランスは、最少培地で前培養した場合、特に本培養にYΔPgalを用いた場合に、高レベルのフィターゼを分泌した。すなわち、アークスラ・アデニニボランスは、リン酸を含まない培地で本培養を行うと、高いフィターゼ産生能を示すことが示唆された。また、表には示されていないが、前培養培地は、液体培地よりも寒天培地(PhyM寒天培地)を用いた場合の方が、高レベルのフィターゼが分泌された。
【0054】
シュワンニオマイセス・オクシデンタリスは、グルコースが存在する培地では、アークスラ・アデニニボランスと同程度のフィターゼを産生したが、PhyM培地では、生育できないために比較することができなかった。
【0055】
アークスラ・アデニニボランスのフィターゼ産生に対する炭素源の影響を調べた(表4)。炭素源としてグルコースの代わりにガラクトースを用いると、フィターゼレベルは数倍上昇した。
【0056】
【表4】
【0057】
PhyM寒天培地で前培養し、YΔPgal液体培地で28℃、一日間本培養したアークスラ・アデニニボランスCBS7377またはCBS8335の細胞を集め、洗滌した後、細胞ペレット画分にあるフィターゼ活性を測定した結果、培地中に分泌された全フィターゼ活性の5.6%であった。このことは、アークスラ・アデニニボランスのフィターゼは、ほとんどが細胞外に分泌されることを示している。
【0058】
<3>アークスラ・アデニニボランスの産生するフィターゼの酵素学的性質
(1)フィターゼの部分精製
アークスラ・アデニニボランスCBS7370、CBS7377及びCBS8335を28℃で24時間培養した培地2mlの上清をMicrocon 50(カットオフ50kDa、アミコン社製)を用いて遠心濃縮した。フィターゼ活性は高分子画分に保持され、分子量は50kDa以上であることが示唆された。約50倍に濃縮された酵素液(以下、「粗酵素液」という)を用いて酵素活性を測定した。また、この酵素液を、10mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)で平衡化した2mlのセファデックスG50カラムを通して、さらに精製した。その一部は、20mMトリス−HCl(pH7.4)で平衡化した3mlのDEAEセルロースカラムに吸着させ、0.1MNaClを含む同緩衝液で溶出した。タンパク質濃度は、キット(シグマ社、No.510)を用いて、ウシ血清アルブミンを対照としてブラッドフォード法(Bradford, M.M., Anal. Biochem. 72, 248-254 (1976))により測定した。比活性は、10U/mgタンパク質であった。これらの粗酵素液及び部分精製酵素は、−30℃で3ヶ月間凍結保存してもほとんど失活しない。
粗酵素液及び部分精製酵素を用いて、以下の酵素学的性質を調べた。
【0059】
(2)酵素活性に対するイオンの影響
CBS7377の培養液のセファデックスG50、DEAEセルロース精製画分に種々のイオンを加えて、70℃、pH4.5でフィターゼ活性を測定した。結果を表5に示す。表中、活性は、無添加の場合の活性を100としたときの相対値として示した。フィターゼ活性は、低濃度で種々のイオンの影響を受けたが、高濃度の塩化ナトリウムには比較的耐性であった。
【0060】
【表5】
【0061】
(3)至適反応pH
CBS7370及びCBS7377培養液のセファデックスG50、DEAEセルロース精製画分を用いて、pHを変化させてフィターゼ活性を測定した(図1)。測定は、60℃で行った。この条件における至適pHは、約4.5〜5.0であった。尚、37℃で測定した場合は、活性は低く、約pH3.0〜3.5に肩が見られた。したがって、耐熱性が低く、より好酸性のフィターゼが培養液に存在する可能性がある。
【0062】
(4)至適反応温度
CBS7370、CBS7377及びCBS8335培養液のセファデックスG50、DEAEセルロース精製画分を用いて、反応の至適温度を調べた(図2)。比較として、シュワンニオマイセス・オクシデンタリスCBS2863及びアスペルギルス・フィキューム由来のフィターゼを用いた。シュワンニオマイセス・オクシデンタリスCBS2863及びアスペルギルス・フィキューム由来のフィターゼが、70℃と比べて75℃では活性がかなり低下したのに対し、CBS7370、CBS7377及びCBS8335が産生するフィターゼでは、75℃における活性は、70℃における活性とほぼ同等であり、至適温度は70〜75℃であった。また、フィチン非存在下で75℃、20分保温したCBS7377のフィターゼは、活性が90%に低下した。
【0063】
(5)Km値
CBS7377の粗酵素液又はセファデックスG50、DEAEセルロース精製画分を用いて、フィチンの脱リン酸反応におけるKm値を測定した。反応は、pH4.5、70℃で行った。その結果、粗酵素液ではKm=0.25mMであり、セファデックスG50、DEAEセルロース精製画分ではKm=0.23mMであった。
【0064】
(6)p−ニトロフェニルリン酸の脱リン酸反応
基質としてp−ニトロフェニルリン酸を用いたときのアークスラ・アデニニボランスのフィターゼによる脱リン酸反応は、フィチンの場合と同様の温度依存性を示した。このことから、p−ニトロフェニルリン酸の加水分解は、アークスラ・アデニニボランスの耐熱性フィターゼが有する非特異的フォスファターゼ活性によるものと考えられる。尚、p−ニトロフェニルリン酸に対するKm値は10mMであり、フィチンに対するKm値よりも40倍高かった。
【比較例】
<1>フィチンを唯一のリン酸源とする培地で生育できる酵母のスクリーニング公知の方法(Lambrechts, C. et al., Biotechnology Letters, 14, 61-66 (1992))に準拠して、種々の酵母約500種、1200株について、フィチン酸カルシウムを含むMMP寒天培地を用いてスクリーニングを行った。その結果、コロニーの周囲に様々な大きさのハローを形成する株が数百個見い出され、ハローの大きさは細胞外に分泌されるフィターゼ活性の強さを示すものと考えた。このことを確認するために、いくつかの株を選択し、YPglu液体培地又はMMP液体培地で生育させ、培養液のフィターゼ活性を測定した。その結果、例えば、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)及びクルイベロマイセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)は大きなハローを形成したが、フィターゼ活性は中程度であり、寒天培地のハローの大きさと液体培養上清のフィターゼ活性は平行関係にはないことが判明した。
一方、ハローではなく生育度合いを観察すると、活発に生育した株は約300株であった。
【発明の効果】
本発明により、フィターゼを産生する微生物の新規なスクリーニング法が提供される。本発明の方法によれば、従来知られているフィターゼと性質が異なるフィターゼを産生する微生物を取得することができると考えられる。
また、本発明のフィターゼは、公知の酵母由来のフィターゼと酵素学的性質が異なっており、フィチンを酵母が資化可能な形態に変換することができると期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 アークスラ・アデニニボランスCBS7370及びCBS7377が産生するフィターゼの至適反応pHを示す図。
【図2】 アークスラ・アデニニボランスCBS7370、CBS7377及びCBS8335が産生するフィターゼの至適反応温度を示す図。左は、アークスラ・アデニニボランスCBS7370(○)、CBS7377(●)及びCBS8335(□)が産生するフィターゼの比較したもの。右は、アークスラ・アデニニボランスCBS7377(●)のフィターゼと、シュワンニオマイセス・カステリCBS2863(○)及びアスペルギルス・フィキューム(+)のフィターゼとの比較。
Claims (2)
- アークスラ・アデニニボランス(Arxula adeninivorans)に属しかつ細胞外フィターゼを産生する酵母を培地に培養し、該培地中にフィターゼを蓄積させ、該培地からフィターゼを採取することを特徴とするフィターゼの製造方法であって、前記フィターゼが、下記の性質を有するフィターゼである前記方法。
(A)フィチンからリン酸を遊離させ、イノシトールを生成する反応を触媒する。
(B)pH4.5における反応至適温度が70〜75℃である。
(C)75℃におけるフィターゼ活性が70℃におけるフィターゼ活性と同等である。
(D)60℃におけるフィターゼ活性の至適pH:4.5〜5.0
(E)分子量:50kDa以上 - 前記酵母が、アークスラ・アデニニボランスCBS7370、アークスラ・アデニニボランスCBS7377、又はアークスラ・アデニニボランスCBS8335から選ばれることを特徴とする請求項1記載の方法。
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