JP4469517B2 - 人工乳房 - Google Patents

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、体内に埋め込まず胸部に当てて使用するタイプの人工乳房の構造に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
発育不全による左右不均一の補修や手術痕の補綴を図る目的で採用されるいわゆる人工乳房には、下着等の中に収めるタイプのものと、外科手術によって体内に収めるタイプのものに大別できる。
【０００３】
このうち、手術によらないタイプのものは、外観を人工乳房の外皮に依存できるので乳癌術後の如く胸部表面に手術痕を有している場合には有効であるし、また、危険性が全くなく安心して使用できることもあり、ほとんどがこのタイプのものである。また、発育不全による左右の乳房の不均一といった場合にもこのタイプの人工乳房が基本的には使用されている。そして、こうした人工乳房は、シリコーンゼリーやウレタンフォームを内部に充填しシリコーンゴムで表面加工して製作されている。
【０００４】
しかしこのような従来の人工乳房は、第一に、重量が大きくなり易いものであったし、圧力による変形が元来の乳房のものと大きく異なるため、装用感の悪いものであった。また重くなりやすいということと関連して、多くの人工乳房は、装用に際して特別な下着（ブラジャー等）を用意する必要があった。更に、乳房の弾力の調整が可能なものは従来にはなく、体型変化等に応じた微調整もできないためその度に新調する必要がある、等々装用者に心理的、肉体的、経済的に負担を強いることとなっていた。
【０００５】
そこで以前、内部に重量のあるものを充填するのではなく、エアーを入れることで弾力を持たせれば、こうした問題は解消できると考え、人工乳房を開発した（特開平６−１２１８０６号）。そして、実際上述した問題点は一層された製品が得られることとなり一応の成功も収めた。
【０００６】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、当初は弾性生地を芯材として挟み込めば十分であると考えていた形状保持能力が実際には万全のものではないことが判明し、また装用者の中から「尖った硬いものにぶつかるなどして局部的に大きな圧力を受け万一亀裂が入ってしまったりすると、風船のように突然しぼんでしまうのではないか」と心配する声を耳にした。弾性生地を芯材としているので、日常生活において受ける通常の圧力による変形で、本発明人工乳房の組織が破壊されるということは考えられないものであるが、尖った金属にぶつかるといった、特殊な、そして本来の乳房であれば怪我するような種類の圧力に対しても損傷は受けないという強度を持ち合わせているわけではないので、そうした場合には亀裂が入ることもある。そして当然のことながら人工乳房装用者は、人工乳房に対して万全の強度を要求しているわけではない。強度に限界があることは十分承知している。しかし不測の事故で完全に空気が漏れる事態となった時、人前で片方の胸がひしゃげてしまうことの辛さは筆舌に尽くしがたいものがあり、これを恐れる上記声を理解しその不安を解消すべく対処する必要を痛感した。
【０００７】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者は、上記諸点に鑑み鋭意研究の結果遂に本発明人工乳房を完成させたものでありその特徴とするところは、弾性生地を芯材として挟み込んだシリコーンゴム製厚膜体を外皮及び底皮とし、内部にはエアーが封入された袋状体であって、その該外皮内面側には該内面形状に概ね添う表面形状を有する発泡プラスチック製の厚膜補強体が配置されている点にある。
【０００８】
即ち、本発明の最大の特徴は、エアー封入という手法によってリアルな弾力性を獲得し、軽量化を果たした人工乳房にあって、エアー抜けという事態に陥っても最低限の保形性は具備するという現実的な効果を有し、空気で膨らんでいる人工乳房ではあるが内部には補強体という具体的な部材があるのだから乳房としての形を失ってしまうような心配がない、という心理的な効果を与えるものであると言える。
【０００９】
なお本発明の人工乳房の本体部分は、皮膚とのなじみが良く、触感も良好なことで知られるシリコーンゴムを主材料としているが、更に弾性生地を内部に包有した構造となっている。この弾性生地は、シリコーンゴムの芯材として強度（特に引き裂きに対する強度）付与に貢献するものであり、本来の弾力性を損なうことがないようにストッキング生地の如く薄くて伸びの良いものが好ましい。但し弾性生地の詳細については特に限定はしない。
【００１０】
本発明の人工乳房の本体部分は、装着後乳房表面となる「外皮」部分と、胸に密着することなる「底皮」部分とから構成される。いずれの材質もシリコーンゴムであるが、一体的に成形されているわけではなく、別部材を接着させたものである。本発明の顕著な特徴部材である「厚膜補強体」は、この接着前に人工乳房の内部空間に設置されるものである。
【００１１】
「厚膜補強体」は、発泡プラスチック製であり、人工乳房外皮の内側に配置されるものである。表面形状は、外皮の内面形状に概ね添う形状であるが、人工乳房本体に接着しておく必要はない。また本発明において発泡プラスチックは、人工乳房本体の内部空間の隅々にまで充填されたものではなく、剛性の高い材質のものを使用するわけでもない。単に自身の形状を保持するためだけであれば、内部に例えば格子状に金属線を配するだけでも効果を発揮することになるが、それでは乳房本来の弾力性からかけ離れた製品としかならず好ましくない。そこで、ある程度の厚みを持つ発泡プラスチックを人工乳房本体の内部（内面）に配置しておけば、弾力の形態を損なうことなく保形性を付与することができる。そしてこの補強体はお椀型をした三次元構造物であるので保形性は高いため、相当柔らかな発泡プラスチックであっても１０ｍｍを超えるような厚さのものとする必要はないし、少しコシのあるプラスチックであれば更に薄いものとすることが可能である。本発明者が試作実験した範囲では、厚膜補強体の材質としてはポリウレタンが最適であり且つ発泡倍率について言うと、１００〜１５０倍程度の発泡倍率のものの表面を加熱溶融し皮膜層を形成させたものが、良好であった。勿論これに限定するものではない。
【００１２】
本発明の人工乳房の製作方法については何ら限定するものではないが、例えばその型採りに際しては、まず原型をアルミホイルで作り、このままでは変形しやすいので補強のためにその外側を発泡ウレタン樹脂で覆って接合固着させ、その後内側に石膏を流し入れて陽性モデルを製作するという手順がある。この方法はアルミホイルにて作る最初のモデル（型）が、家庭でも簡単にできるという利点がある。また、この型はある程度の強度もあるので郵送等による破損の心配も少なく、従って、製作者と使用者が郵便のみによるやりとりで、型採りから製品の完成まで行ない得ることになる。但し、これに類した方法、或いは従来の方法その他を採用しても勿論良いものである。
【００１３】
【発明の実施の形態】
以下図面に示す実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
【００１４】
図１は、本発明に係る人工乳房１の一例を示す一部を切欠した斜視図であり、図より明らかなように人工乳房１は、本体部分とその内部に配置される補強体とにより構成されるものであって本体部分は、弾性生地層２とこれを包有するシリコーンゴム層３より成る外皮４及び底皮５にて構成されている。内部空間６は外部と遮断されており、エアーによって適当な弾力を有している。その結果、実際の乳房の形状を模した外皮４の外側部分は触れても押圧しても実際に乳房に非常に近いものとなっている。
【００１５】
また人工乳房１の本体部分の内部空間６には、ポリウレタンフォーム製の厚膜補強体７が配置されている。厚膜補強体７の外表面は、本体部分である外皮４の内表面とほぼ同一の形状であるので、接着剤は用いていないが通常両者は密接に接触している。なお本例の厚膜補強体７は、底部材を有していない。
【００１６】
また本例の人工乳房１では内部空間６への空気の出し入れは、底皮５内面に設けられた瘤状の肉厚部５１部分で行なう。この肉厚部５１は、エアー出し入れの際の簡易弁の役をなす。その弁の構造は、図示したエアースポイド針８の如き鋭利な針を用いる場合には瘤状の肉厚を設けるだけで弁になり得る。これは、軟式テニスボールやゴムマリの「ヘソ」「ムシ」と呼ばれるものと同様である。
【００１７】
底皮５は、直接肌に接触することになる部材である。通常は外皮４と一体的に製造されることはなく、接着剤を用いて接合される。外皮４の周縁部分は装用者の皮膚と目立つ段差がないようにあるべき部分であり、内部空間６は気密が保持されていなけばならないので注意が必要であるが本発明にとって外皮４と底皮５との接合は重要な事項ではないので、詳述はしない。なお底皮５に関しては、シリコーンゴム内部に弾性生地を内包させなくても良い。またシリコーンゴムは、皮膚とのなじみが良く他の材質のものに比してカブレや発疹の発生の可能性が非常に小さいものであるが、これを予防するためにベビーパウダーその他の制汗剤を撒布又は塗布するようにしても良い。
【００１８】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明に係る人工乳房は、弾性生地を芯材として挟み込んだシリコーンゴム製厚膜体を外皮及び底皮とし、内部にはエアーが封入された袋状体であって、その該外皮内面側には該内面形状に概ね添う表面形状を有する発泡プラスチック製の厚膜補強体が配置されているものであることを特徴とするものであって、以下述べる如き種々の効果を有する極めて高度な発明である。
（１） シリコーンゴムで覆われているので、接触している皮膚が過度の炎症を起こすことが少ない。
（２） エアー袋となっており、従来のものに比して重量が小さいため、装用時の違和感が少なく、又装着のために特別な下着を要するということもない。
（３） 本体の内部空間には発泡プラスチック製の厚膜補強体が設置されているので、本体に亀裂が入るなどしてエアーが完全に抜けても、これがある程度の保形力を発揮するため、人前で胸が急にしぼんでしまうということがない。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明に係る人工乳房の一例を示す概略端面図である。
【符号の説明】
１ 本発明に係る人工乳房
２ 弾性生地層
３ シリコーンゴム層
４ 外皮
５ 底皮
５１ 肉厚部
６ 内部空間
７ 厚膜補強体
８ エアースポイド針

Claims (1)

1. 弾性生地を芯材として挟み込んだシリコーンゴム製厚膜体を外皮及び底皮とし、内部にはエアーが封入された袋状体であって、その該外皮内面側には該内面形状に添う表面形状をした、厚さ１０ｍｍ以下、発泡倍率１００〜１５０倍であるポリウレタンフォーム製の厚膜補強体が配置されているものであることを特徴とする人工乳房。

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