現在、実用化されているレーザには、He−Neレーザ、Arレーザなどのガスレーザ、Nd:YAGレーザなどの固体レーザ、色素レーザおよび半導体レーザが知られている。図1に、レーザの波長領域と出力との関係を示す。近年、可視および近赤外領域の波長帯102を中心に、小型・軽量、安価な半導体レーザが普及している。特に光通信の分野では、信号光源用の1.3μm帯および1.5μm帯半導体レーザと、ファイバアンプ励起用の0.98μm帯および1.48μm帯半導体レーザとが普及している。また、CD用レーザ、赤色LDとしても半導体レーザが用いられ、DVD、Blu−rayなどの記録媒体の読み書きに利用される可視および紫外領域の波長帯101にも、半導体レーザが用いられている。
しかしながら、半導体レーザは、波長0.5〜0.6μmの緑色、黄緑色、黄色領域の波長帯111と、波長2〜5μmの中赤外領域の波長帯112とにおいては、実用化がなされておらず、高価で消費電力の大きなガスレーザ、固体レーザが用いられている。
液体、ガラスなどの光学媒質の屈折率、吸収などの光学特性は、光学機器の特性を規定する点で、または食品、医薬品などの精度、純度などの品質管理の点で、重要な評価項目となっている。これら光学特性の測定には、波長帯111に含まれる黄色領域の波長589〜590nmのナトリウムD線を発生する光源が用いられている。
例えば、液体中の糖度と屈折率の関係は、Brix値としてICUMSA(International Commission for Uniform Methods of Sugars Analysis)で定められており、屈折率の測定から糖度を求める方法が規定されている。この方法は、果物や酒類の糖度測定に応用され、産業上、幅広く用いられている。
医薬品の分野では、薬剤の品質管理の1つとして、薬剤を溶かした溶液の屈折率が日本薬局方で定められている。サリドマイドのようなラセン構造をもつ医薬品では、「右手系」は薬用効果があるが、「左手系」は毒物となる場合がある。このような互いに逆ラセン構造を有する物質を、物理化学的に分離することは不可能である。しかし、異なる旋光性を示すことが知られており、光学的に容易に識別することができる。そこで、サリドマイドのような薬害事故後、日本薬局方において、ナトリウムD線による旋光度の測定が規定されている。このような性質を示す医薬品としては、サリドマイドのほか、メントール、プロスタグランジン、βラクタム系抗生物質、キノロン系抗菌剤など多数ある。
現在、ナトリウムD線を発生するレーザ光源は実現されておらず、ナトリウムランプあるいは黄色LEDを光源として用いている。ナトリウムランプからの光は、単色性に優れているものの、すべての方向に放射される発散光である。従って、平行光にすることが難しく、光学特性を精度よく測定することが困難である。また、集光エネルギーが高くならないため、大出力ランプを用いる必要がある。
一方、黄色LEDは、スペクトラム線幅が約20nmと広い。そこで、光学フィルタを用いて、ナトリウムD線近傍のスペクトラムを切り出すことにより、スペクトラム線幅を狭くしているものの、限界があった。また、可干渉性もないことから、測定精度の向上には限界があった。
このような背景のもとに、食料品、医薬品の品質管理など、産業上多くの分野で、ナトリウムD線波長で規定されている光学的評価方法の精度向上が求められている。ナトリウムD線におけるレーザを実現することができれば、光の干渉を用いた測定が可能となる。光の干渉を用いると、食品、医薬品をはじめとした各種液体、光学媒質の屈折率測定精度を、現在より2桁程度向上することができ、さらに、低消費電力化、小型化も可能となる。
ナトリウム原子の構造およびそのエネルギー遷移から発生する光の特性について説明する(例えば、非特許文献1参照)。ナトリウム原子から発光する波長は、589.592nm(D1線)と、588.995nm(D2線)とであることが知られている。また、D1線とD2線をあわせてD線と呼び、D線の波長は両者の平均を取り589.3nmと呼ばれることもある。ナトリウム原子のエネルギー準位を図2に示す。D線は、第1励起状態である3P準位から基底状態である3S準位への遷移に伴い発生する。3Pは、3P1/2と3P3/2の微細構造を有し、D1線の発光は、3P1/2から3S1/2へ遷移によるものであり、D2線の発光は、3P3/2から3S1/2へ遷移によるものである。
3S1/2、3P1/2、3P3/2は、電子の磁気モーメントと原子核の固有磁気モーメントとの相互作用により極微細構造を有し、3S1/2は、エネルギー差7.3μeVの2つのレベルに分離し、3P1/2は、0.78μeの幅の2つのレベルに分離し、3P3/2は、0.48μeVの幅の4つのレベルに分離する。
D1線、D2線の波長でレーザを実現するためには、それぞれに対応するエネルギーレベル間で反転分布を形成する必要がある。反転分布を実現するためには、3準位系、あるいは4準位系を構成する必要がある。しかし、図2に示したエネルギー準位において、3P3/2から3P1/2への緩和は禁制遷移であり、3P1/2から3S1/2への緩和時間は15.9ns(例えば、非特許文献2参照)である。例えば、TiAl2O3レーザの緩和時間3.2μsと比較すると、2桁以上も短いため、3S1/2と3P1/2との間で反転分布を形成することが難しく、ナトリウムD線波長のレーザ発振が未だ実現されていない。また、超微細構造を用いたレーザ発振も考えられるが、ナトリウム原子における3S1/2、3P1/2、3P3/2の極微細構造のエネルギー差は、室温(300K)におけるエネルギー25.8meVに比較すると4桁程度小さい。そのため、室温における励起は、スプリットした極微細構造の両方にほぼ均等に分布し、反転分布を形成することができない。このような理由により、これまで、ナトリウムD1線、D2線におけるレーザを実現することが出来なかった。
従来、半導体レーザは、500nm以下または620nm以上の波長領域でしか実用化されていない。500nm〜620nmの波長領域においては、ファイバレーザ、Nd−YAGレーザの第二高調波発生法によって、特定の波長の固体レーザが実現されているものの、任意の波長の固体レーザは、未だ実現されていない。
一方、可視域のコヒーレントな光を発生する方法として、非線形結晶を用いた第二高調波発生法(SHG法)が知られている。この方法により、D1線あるいはD2線の光を発生するためには、波長1179.2nmまたは1178.0nmの光源を必要とする。残念ながら、これらの波長は、半導体レーザで発振することができるものの、必要な出力を得ることが出来るレーザを入手することが非常に困難である。
また、非線形結晶を用い2つの励起レーザ光の和周波を発生し、可視光を得ることもできる。この方法では、和周波光のエネルギーは、2つの励起光のエネルギーの和で与えられる。所望の波長の和周波を得るために、2つの励起光の波長の組み合わせの自由度が広がるという利点もある。したがって、任意の波長のレーザを実現するためには、最も実用的な方法である。しかしながら、一般に非線形光学現象は、効率が低いという問題があった。この問題を解決するためには、非線形光学結晶の特性改善と共に、高励起光強度が得られ、さらに、小型化、低消費電力な既存レーザ装置の選択が重要となる。
従来、共焦点レーザービームにより試料を走査し、光学的断層像を得るレーザ顕微鏡が知られている。レーザ顕微鏡は、蛍光標識された物質の組織・細胞内分布解析に用いられている。また、一列に並んだ細胞の流れにレーザービームを照射し、蛍光強度に応じて細胞を分析・分取するフローサイトメータが知られている。フローサイトメータは、細胞の性質、例えば大きさ、DNA含有量等を光学的パラメータとして定性的に識別するフローサイトメトリ法を用いた測定装置である。
近年、蛍光標識として蛍光色素が用いられているが、蛍光色素は、細胞にとって異物であるため、細胞の性質に影響を与えたり、細胞が死滅するなどの問題があった。そこで、クラゲなどから抽出した緑色蛍光タンパクにより、蛍光標識を行う方法が用いられている。また、緑色蛍光タンパクの突然変異や遺伝子操作によって、黄色、赤色の発光を示す蛍光タンパクも得られ(例えば、非特許文献3参照)、多色の蛍光を用いたより詳細な測定・分析が行われている。
赤色蛍光タンパクは、波長560〜590nmに吸収極大を有するため(例えば、非特許文献4参照)、この波長帯域に発振波長を有するレーザ光源が望まれている。この波長帯域に発振波長を有するレーザは、色素レーザなどの大型レーザだけであるため、代わりに532nm固体レーザ、543nmHe−Neレーザが用いられている。しかしながら、これらの波長は、緑色蛍光タンパクの蛍光波長と黄色蛍光タンパクの吸収波長との重なりが顕著であるため、多色の蛍光タンパクを用いた測定・分析には不都合であった。
最近になって、強い緑色レーザ光(波長530〜560nm)の照射により、72時間以上の長時間にわたり赤色蛍光を安定に発光するKindling赤色蛍光タンパクが報告されている(例えば、非特許文献5参照)。Kindling赤色蛍光タンパクを利用すると、細胞分裂の様子を蛍光によって長時間にわたり観測することができるなどの効果が期待される。しかし、従来の532nm固体レーザ、543nmHe−Neレーザは、緑色蛍光タンパクの蛍光波長と黄色蛍光タンパクの吸収波長との重なりが顕著である。したがって、できるだけ560nmに近い発振波長を有する小型の固体レーザの実現が望まれている。
また、金属ポルフィリンは、光合成、呼吸代謝などの動植物の生命活動で重要な機能を担うタンパク質に含まれる分子であり、波長590nm付近に吸収極大を有する。これら金属ポルフィリンの発光波長は、600nm付近にピークを示すために、波長589nmのレーザを用いると、発光波長とのオーバーラップが大きく測定が困難である。そこで、波長585.0nmの黄橙色レーザが必要とされている。
さらに、水銀ランプの発する輝線の1つ(e線)に相当する波長546.1nm(黄緑)は、人間の視感度が一番高い波長であり、光学ガラスの屈折率標準の波長として使用されている。図1に示したように、波長帯111に含まれる500nm〜600nmの緑色、黄緑色、黄色領域において、高効率、高安定のレーザ光源が必要とされる。
しかしながら、上述したように、半導体レーザは、500nm以下または620nm以上の波長領域でしか実用化されていない。また、500nm〜620nmの波長領域において、任意の波長の固体レーザも、未だ実現されていない。さらに、SHG法により、黄色領域の光を発生するためには、波長1092.2nm、1120.0nmまたは1170.0nmの光源を必要とする。しかしながら、これらの波長は、半導体レーザで発振することができるものの、必要な出力を得ることが出来るレーザを入手することが非常に困難である。
上述したように、非線形光学現象を応用するにあたっては、非線形光学結晶の特性改善と共に、高励起光強度が得られ、さらに、小型化、低消費電力な既存レーザ装置の選択が重要となる。
環境保護、安全衛生上の観点から、NOx、SOx、アンモニア系等の環境ガス、水の吸収ピーク、多くの有機系ガスまたは残留農薬の極微量分析技術の確立が強く望まれている。極微量分析技術として、被測定ガスを特定の物質に吸着し、電気化学的手法による定量分析と、被測定物質の固有の光学吸収特性を測定する光学的方法とが一般的である。このうち、光学的手法は、実時間測定が可能であり、測定光の通過する広範囲な領域の観測が可能という特徴を有する。
被測定物質の吸収ピークは、原子間結合の振動モードに起因し、主に2μmから20μmの中赤外領域にある。しかし、図1に示した中赤外領域の波長帯112において、室温で連続発振が可能なレーザは、未だ実用化されておらず、量子カスケードレーザの研究開発が進められているに留まっている。産業上、中赤外光の必要性は高いものの、実用的なレーザ光源がないことが大きな支障になっている。
中赤外領域における実用可能な光源が存在しないので、既存の通信用半導体レーザ(0.8〜2μm)を使用して各種ガスなどの微量分析を行う場合には、基本吸収波長の倍音(=基本吸収波長の2分の1)、3倍音(=基本吸収波長の3分の1)における吸収を利用することとなる。倍音であれば必要な感度が得られる場合もあるが、3倍音以上の高次の吸収ピークにおける測定は、吸収量そのものが小さいために検出に限界が生じる。従って、本来の基本吸収波長における測定と比較して、3桁程度の感度低下を招くことになる。
従って、環境ガス、危険性を伴うガスなどを分析する際に、高い検出感度を得るためには、中赤外レーザ光源の開発が不可欠である。近年、波長3μm付近において中赤外光を発生させ、ガスセンサとして動作を確認したことが報告されている(例えば、非特許文献6参照)。ガスセンサに用いられた光源は、周期変調構造を有するニオブ酸リチウム(LiNbO3)波長変換素子を用いて、差周波発生により中赤外光を発生する。
しかしながら、周期変調構造を有する波長変換素子からは、1つの固定された波長の中赤外光が発生するのみである。そこで、一度に多種類のガスを検出できるように、波長を可変とするために、(1)1つの波長変換素子の中に多種の周期を設ける(例えば、非特許文献7参照)。(2)Fanout Gratingという構造により周期を変化させる(例えば、非特許文献6参照)。(3)励起光を素子に斜めに入射させて実効的な周期を変える(例えば、非特許文献8参照)などの手法が知られている。
これらの方法は、波長を広範囲に掃引することは可能ではあるが、多種の周期を持つ素子を束ねなければならないことから、多くの作業工程が必要となるという問題があった。また、励起光を素子に斜めに入射させる手法では、高効率化を図るべく素子の構造を導波路構造にすることが困難であるという問題もあった。
近年、環境問題が大きくクローズアップされ、特にダイオキシンが人体に及ぼす影響について、関心が寄せられている。ダイオキシンの発生源のひとつである焼却炉においては、炉の燃焼状態を制御することにより、ダイオキシンの発生を抑制することができる。燃焼状態を監視するためには、温度計、CO濃度計、酸素濃度計が必要とされる。
ガス濃度を検知する一手法として、被測定ガスにレーザ光を当て、その吸収特性を観測する方法が知られている。ガスは、それぞれ特有の吸収線を有しているので、吸収線付近の波長を有するレーザ光をスキャンし、吸収スペクトルを観測することによりガス濃度を検知することができる。このときレーザ光に要求される点は、単色光、すなわちシングルモードのレーザ光であること、数mWから数十mWのガス検知に適した出力であること、波長スキャンが安定して可能なこと、長寿命であることなどが挙げられる。
酸素濃度計に用いられるレーザ光は、波長759nmから768nmに複数本存在する酸素吸収線を含む波長領域113にあり、砒化ガリウム系半導体レーザが用いられている(例えば、特許文献1参照)。砒化ガリウム系半導体レーザは、砒化ガリウム基板上に砒化ガリウムにほぼ格子定数が一致する半導体結晶を成長して作製される。
半導体レーザには、基板に平行に導波路が作製された端面発光レーザと基板に垂直に光を出射する面発光レーザとがある。砒化ガリウム系端面発光レーザは、比較的高出力のシングルモードレーザが開発されているが、発振波長を制御する構造を有していない。従って、砒化ガリウム系端面発光レーザの発振波長は、活性層の利得ピークと共振器の共振モードの一致する点で決まるため、波長スキャンを行った際に、縦モード飛びが生じやすく安定した波長スキャンを行うことが難しい。
発振波長を制御する構造として、分布帰還(DFB)型、分布ブラッグ反射(DBR)型などがよく知られている。これら構造は、半導体結晶中において、基板に平行な方向に周期的に屈折率の異なる、すなわち組成の異なる半導体結晶を作製する必要がある。作製方法は、半導体結晶の表面を、波型などの周期構造にエッチングし、その上に異なる組成の半導体結晶を成長させる。酸素濃度を検知するために、波長763nmで発振させるためには、その波長における吸収を抑える必要があり、アルミ濃度の高い結晶を用いる必要がある。しかしながら、アルミ濃度が高いと、周期構造を作製する際に結晶が酸化しやすいなどの問題を有している。
面発光レーザは、DBR型のレーザの一種である。面発光レーザは、発光方向が基板に垂直であるため、基板に垂直な方向に屈折率分布を有するDBR構造とすればよい。すなわち、基板に平行な層状の、組成の異なる半導体結晶を周期的に作製すればよく、1回の半導体結晶成長で済むために作製が容易である。しかしながら、面発光レーザは、活性層を垂直方向に光が通過するため大きな利得を得ることができない。十分な出力を得るために、発光面積を増やす方法が考えられるが、発光面積を増やすと、横モードを複数有する発振となって、シングルモードではなくなる。発光面積を抑えたままシングルモード発振を行って、酸素濃度の検知に必要なmWオーダの発光強度を得ようとすると、発光に必要な電流が微小面積に集中し、電流密度が高くなる。このため、面発光レーザの寿命が、数ヶ月程度の短いものになるという問題があった。
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以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態においては、高効率の非線形光学結晶と高出力の光通信用半導体レーザとを組み合わせる。図3に、本発明の一実施形態にかかるレーザ光源を示す。レーザ光源120は、非線形光学結晶を励起するための2つの励起レーザ121,122と、和周波光または差周波光を発生するための非線形光学結晶123とからなる。なお、波長によっては、1つの励起レーザからの出力光を非線形光学結晶に入力し、第二高調波発生を利用してもよい。
(第1の実施形態)
非線形結晶を用いた和周波発生では、和周波光の波長λ3は、2つの励起光の波長λ1、λ2とすると、
1/λ3=1/λ1+1/λ2 (1)
で与えられる。ナトリウムD1線、D2線に相当する和周波光を発生するためには、(1)式においてλ3=589.592nmまたは588.995nmとなるλ1、λ2を選び、2つの波長の励起レーザ121,122と非線形光学結晶123とを組み合わせる必要がある。
また、和周波光の発生効率を高めるためには、非線形結晶内における2つの入射光(λ1、λ2)と和周波光(λ3)の伝搬定数ki=2πni/λi(i=1,2,3)の間に、
k3=k1+k2 (2)
が成立しなければならない。ここで、niはλiにおける非線形結晶の屈折率である。しかし、光学媒質に分散特性が存在するために、特定の条件の場合のみ(2)式を満足する。具体的には、入射光あるいは和周波光の何れか1つの偏光方向を変え、常光屈折率と異常光屈折率とを用いる方法がある(例えば、非特許文献9参照)。また、非線形光学結晶に周期的な分極反転構造を形成し、擬似位相整合によって変換効率の高効率化を図る方法が用いられている(例えば、特許文献2参照)。
和周波光の発生強度は、2つの励起レーザ強度の積に比例するため、2つの励起レーザの選択は、それらの波長の組み合わせが(1)式を満足し、さらにより高強度のレーザを用いる。既存の半導体レーザ(例えば、非特許文献10に参照)のうち、大出力が実現されている波長帯は、(1)940nm帯、(2)980nm帯、(3)1060nm帯、(5)1480nm帯である。また、(4)1300nm帯、(6)1550nm帯でも100mW級の半導体レーザが開発されている。特に、(4)、(5)、(6)の領域では、DFB(Distributed FeedBack)レーザが開発されており、シングル縦モード発振、波長安定化が実現されている。また、800nm〜880nmの領域でも高出力半導体レーザが開発されているが、この領域の半導体レーザを励起レーザ1として用いると、励起レーザ2の波長は、1780nm以上となる。このような長波長領域で、大出力かつ信頼性の高い半導体レーザの実現は困難であることから、除外する。
図4に、ナトリウムD線の波長を和周波発生により得るための励起レーザ1と励起レーザ2の波長の関係を示す。励起用レーザ1の波長をλ1とし、励起用レーザ2の波長をλ2とし、和周波光を得るための関係を曲線30で示した。また、上記(1)から(6)の励起レーザ1の領域を1−(1)、1−(2)、1−(3)、1−(4)、1−(5)、1−(6)としてハッチングを施した。併せて、上記(1)から(6)の励起レーザ2の領域を2−(1)、2−(2)、2−(3)、2−(4)、2−(5)、2−(6)としてハッチングを施して示した。図4より、励起レーザ1と励起レーザ2とは、1−(1)から1−(6)のいずれかと2−(1)から2−(6)のいずれかが、曲線30上で交差する組み合わせを用いることにより、和周波発生の高効率化が可能となる。
なお、(1)から(6)の領域は、
(1) 940±10nm
(2) 980±10nm
(3) 1060±10nm
(4) 1280nm〜1350nm
(5) 1480±10nm
(6) 1530nm〜1600nm
とした。ここで、(5)は光通信におけるO帯であり、(6)はC帯である。この2つの波長帯は、波長多重通信技術(WDM)において、最も、広く使われている領域であり、大出力かつ高信頼性の半導体レーザなどの光部品の入手が容易である。
1−(1)から1−(6)のいずれかと2−(1)から2−(6)のいずれかが、曲線30上で交差する組み合わせは、励起レーザ1と励起レーザ2の波長を逆にしても、和周波波長は同じであることを考慮に入れる。その結果、(1)および(6)と、(2)および(5)と、(3)および(4)との組み合わせが、曲線30上で交差し、この組み合わせを用いれば、ナトリウムD線の波長を効率的に発生できることがわかる。
一般に、レーザの形態として、シングルモード発振、マルチモード発振があるが、和周波発生光の特性は、2つの励起半導体レーザの特性で決まる。シングルモード発振を行うためには、2つの励起用半導体レーザもシングルモード発振させる必要がある。そのためには、DFB構造を有する半導体レーザ、またはファイバブラッググレーティングを共振器構造に用いたレーザの使用が必要となる。また、マルチモード発振の場合には、ファブリペロー型半導体レーザ、半値全幅0.1nm〜0.5nm程度の反射スペクトラムを有するファイバグレーティングを共振器構造に適応した半導体レーザを用いることで実現することができる。
非線形光学結晶としては、非線形光学定数が大きく、また励起に用いる2つのレーザ波長とナトリウムD線波長において透明であれば何でも良いが、ニオブ酸リチウム(LiNbO3、LN)、タンタル酸リチウム(LiTaO3、LT)などを具体例として挙げることができる。また、これらの非線形光学結晶は、高効率に和周波発生を行うために、周期的な分極反転構造と導波路構造とを有することが望ましい。
周期的な分極反転構造とは、光の進行方向に対して、周期Λで分極の向きを180度反転させたグレーティング構造である。この構造によって、位相不整合量が0となる擬似位相整合条件を満足させる。波長λ1、λ2、λ3における非線形光学結晶の屈折率を、それぞれn1、n2、n3とすると、
2πn3/λ3=2πn1/λ1+2πn2/λ2+2πn2/Λ (3)
を満たすような周期Λの周期的分極反転構造とすれば、和周波光の発生効率を最大にすることができる。
また、非線形光学結晶に導波路を形成すれば、励起レーザからの入射光を効果的に閉じ込めることができるので、高効率に和周波光を発生することができる。周期的分極反転構造は、電界印加法により実現することができ、導波路構造は、プロトン交換法、ドライエッチング法、またはダイシングソーによる機械加工法などによって実現することができる。導波路の作製方法については、第5の実施形態として後述する。
また、和周波光を発生するために、2つの半導体レーザ光の結合、LN導波路への結合が必要になるが、これらの技術は、光通信用デバイス技術として確立しており、実現上大きな支障がないことも特徴である。
例えば、既存の半導体DFBレーザの線幅は1MHzであり、ファイバブラッググレーティングを用いた外部鏡共振器型半導体レーザの線幅は、100kHz程度である。これらを励起レーザとして用いた場合の和周波光の線幅は、2つの励起光線幅の繰り込み積分で与えられることから数MHz以下である。ナトリウムD線(波長589.3nm、周波数約500THz)における屈折率を干渉法で測定する場合、その測定精度は、使用するレーザ光の周波数と線幅の比で与えられ、線幅を5MHzとすると、測定精度は10−8となる。したがって、本実施形態によれば、ナトリウムD線における屈折率測定は、現状より2桁程度の精度向上が可能となる。
以上説明したように、非線形光学結晶の特性改善と共に、既存レーザ装置の選択により、ナトリウムD1線、D2線波長のコヒーレント光を、高効率、高安定で発生させることができ、レーザ光源の小型化、屈折率測定の精度向上を図ることが可能となる。
(実施例1−1)
図5に、本発明の実施例1−1にかかるナトリウムD線波長のレーザ光源を示す。レーザ光源は、2つの励起レーザ140,141と、周期的に分極反転させたLN144と、励起レーザ140,141のレーザ光をコリメートするレンズ142a,142bと、2つのレーザ光を合波する合波器143と、LN144を透過した励起レーザ140、141のレーザ光とLN144で発生した和周波光とを分離するフィルタ145とから構成されている。
励起レーザ140の波長λ1と、励起レーザ141の波長λ2とは、
1/λ1+1/λ2=1/(589.3±2.0)
を満足するような組み合わせとする。さらにλ1、λ2は、
λ1=976±10nm、λ2=1485±20nm
λ1=1064±10nm、λ2=1320±20nm
λ1=940±10nm、λ2=1565±35nm
のいずれかを満足する範囲とする。λ2の半導体レーザはDFBレーザでもよい。
励起レーザ140の波長λ1=1064nm、LN144への入射強度を50mWとし、励起レーザ141のλ2=1320nm、LN144への入射強度を70mWとしたとき、波長λ3=589.1nm、出力20μWの和周波光が得られた。
(実施例1−2)
図6に、本発明の実施例1−2にかかるナトリウムD線波長のレーザ光源を示す。実施例1−1のレーザ光源との相違は、非線形光学結晶にある。非線形光学結晶は、LN結晶を導波路化された周期的分極反転LN導波路151を用いる。また、入射レーザ光を周期的分極反転LN導波路151に効率よく結合するためのレンズ150と、および周期的分極反転LN導波路151からの出射光をコリメートするレンズ152とを有している。
励起レーザ140の波長λ1=1064nm、LN144への入射強度を50mWとし、励起レーザ141のλ2=1320nm、LN144への入射強度を70mWとしたとき、波長λ3=589.1nm、出力10mWの和周波光が得られた。
(実施例1−3)
実施例1−1および実施例1−2の構成(図4、図5)において、励起レーザ140を、波長1064nm近傍のNdイオンを用いたレーザ(例えば、Nd:YAGレーザ)とし、励起レーザ141を1300±10nmの半導体レーザとする。
(実施例1−4)
図7に、本発明の実施例1−4にかかるナトリウムD線波長のレーザ光源を示す。実施例1−2の構成において、2つのレーザ光を周期的分極反転LN導波路151に結合するために、偏波面保持ファイバ(またはシングルモードファイバ)161,163と、合波器162とを用いた。偏波面保持ファイバ163からの放射される光は、周期的分極反転LN導波路151の端面に直接入射するか、またはレンズ164によって結合する。
(実施例1−5)
図8に、本発明の実施例1−5にかかるナトリウムD線波長のレーザ光源を示す。実施例1−4のさらなる応用例である。励起レーザ170,171は、出射側端面170a,171aに反射率2%以下のARコートを施し、反対側の端面170b,171bに反射率90%以上のHRコートを施す。励起レーザ170,171の出力は、レンズ172a,172bを介して、端面あるいはファイバの途中にファイバブラッググレーティングを形成した偏波面保持ファイバ(またはシングルモードファイバ)173、174に結合される。このようにして、端面170b,171bのHRコーティングとファイバブラッググレーティングとの間で共振器を構成する。
それぞれのレーザの発振波長は、ファイバブラッググレーティングの反射スペクトラムによって制御する。このとき、ファイバブラッググレーティング反射スペクトラムの中心波長は、
976±10nm、1485±20nm
1064±10nm、1320±20nm
940±10nm、1565±35nm
のいずれかとし、その線幅(半値全幅)は0.3nm以下とする。
(第2の実施形態)
本発明の一実施形態にかかる黄色領域のレーザ光源の構成は、図3に示したとおりである。黄色領域に相当する和周波光を発生するためには、(1)式においてλ3=546.1nm、560.0nmまたは585.0nmとなるλ1、λ2を選び、2つの波長の励起レーザ21,22と非線形光学結晶23とを組み合わせる必要がある。
図9に、黄色領域の波長を和周波発生により得るための励起レーザ1と励起レーザ2の波長の関係を示す。励起用レーザ1の波長をλ1とし、励起用レーザ2の波長をλ2とし、和周波光を得るための関係を曲線30で示した。また、上記(1)から(6)の励起レーザ1の領域を1−(1)、1−(2)、1−(3)、1−(4)、1−(5)、1−(6)としてハッチングを施した。併せて、上記(1)から(6)の励起レーザ2の領域を2−(1)、2−(2)、2−(3)、2−(4)、2−(5)、2−(6)としてハッチングを施して示した。なお、(1)から(6)の領域は、図4とおなじである。
図9より、励起レーザ1と励起レーザ2とは、1−(1)から1−(6)のいずれかと2−(1)から2−(6)のいずれかが、λ3=546.1nmとなる曲線21上で交差する組み合わせ、λ3=560.0nmとなる曲線22上で交差する組み合わせ、またはλ3=585.0nmとなる曲線23上で交差する組み合わせを用いることにより、和周波発生の高効率化が可能となる。
1−(1)から1−(6)のいずれかと2−(1)から2−(6)のいずれかが、曲線21〜23上で交差する組み合わせは、励起レーザ1と励起レーザ2の波長を逆にしても、和周波波長は同じであることを考慮に入れる。その結果、(1)および(4)と、(2)および(4)と、(3)および(4)と、(1)および(6)との組み合わせを用いれば、黄色領域の波長を効率的に発生できることがわかる。
以上説明したように、非線形光学結晶の特性改善と共に、既存レーザ装置の選択により、黄色領域のコヒーレント光を、高効率、高安定で発生させることができ、レーザ光源の小型化、屈折率測定の精度向上を図ることが可能となる。
(実施例2−1)
図10に、本発明の実施例2−1にかかる黄色領域のレーザ光源を示す。レーザ光源は、2つの励起レーザ240,241と、周期的に分極反転させたLN244と、励起レーザ240,241のレーザ光をコリメートするレンズ242a,242bと、2つのレーザ光を合波する合波器243と、LN244を透過した励起レーザ240、241のレーザ光とLN244で発生した和周波光とを分離するフィルタ245とから構成されている。
励起レーザ240の波長λ1と、励起レーザ241の波長λ2とは、
1/λ1+1/λ2=1/(546.1±5.0)
を満足するような組み合わせとする。さらにλ1、λ2は、上述の(1)および(4)の組み合わせであり、
λ1=940±10nm、λ2=1320±20nm
を満足する範囲とする。λ2の半導体レーザはDFBレーザでもよい。
励起レーザ240の波長λ1=940nm、LN244への入射強度を40mWとし、励起レーザ241のλ2=1320nm、LN244への入射強度を70mWとしたとき、波長λ3=546.1nm、出力20μWの和周波光が得られた。
(実施例2−2)
図11に、本発明の実施例2−2にかかる黄色領域のレーザ光源を示す。実施例2−1のレーザ光源との相違は、非線形光学結晶にある。非線形光学結晶は、LN結晶を導波路化された周期的分極反転LN導波路251を用いる。また、入射レーザ光を周期的分極反転LN導波路251に効率よく結合するためのレンズ250と、および周期的分極反転LN導波路251からの出射光をコリメートするレンズ252とを有している。
励起レーザ240の波長λ1=940nm、LN244への入射強度を40mWとし、励起レーザ241のλ2=1320nm、LN244への入射強度を70mWとしたとき、波長λ3=546.1nm、出力10mWの和周波光が得られた。
(実施例2−3)
実施例2−1および実施例2−2の構成(図10、図11)において、励起レーザ240を、波長1064nm近傍のNdイオンを用いたレーザ(例えば、Nd:YAGレーザ)とし、励起レーザ241を1320±20nmの半導体レーザとする。従って、上述した(3)および(4)の組み合わせとなって、波長λ3=585.0nmの黄色領域の和周波光を得ることができる。
(実施例2−4)
図12に、本発明の実施例2−4にかかる黄色領域のレーザ光源を示す。実施例2−2の構成において、2つのレーザ光を周期的分極反転LN導波路251に結合するために、偏波面保持ファイバ(またはシングルモードファイバ)261,263と、合波器262とを用いた。偏波面保持ファイバ263からの放射される光は、周期的分極反転LN導波路251の端面に直接入射するか、またはレンズ264によって結合する。
(実施例2−5)
図13に、本発明の実施例2−5にかかる黄色領域のレーザ光源を示す。実施例2−4のさらなる応用例である。励起レーザ270,271は、出射側端面270a,271aに反射率2%以下のARコートを施し、反対側の端面270b,271bに反射率90%以上のHRコートを施す。励起レーザ270,271の出力は、レンズ272a,272bを介して、端面あるいはファイバの途中にファイバブラッググレーティングを形成した偏波面保持ファイバ(またはシングルモードファイバ)273、274に結合される。このようにして、端面270b,271bのHRコーティングとファイバブラッググレーティングとの間で共振器を構成する。
それぞれのレーザの発振波長は、ファイバブラッググレーティングの反射スペクトラムによって制御する。このとき、ファイバブラッググレーティング反射スペクトラムの中心波長は、
940±10nm、1320±20nm
980±10nm、1320±20nm
1064±10nm、1320±20nm
940±10nm、1550±30nm
のいずれかとし、その線幅(半値全幅)は0.3nm以下とする。
(第3の実施形態)
非線形光学結晶と2つの励起レーザ光とを用いた差周波発生により中赤外光を発生する方法において、2つの励起レーザ光の波長をλ1、λ2と、発生する中赤外光の波長をλ3との関係は、
で与えられる。ここで、波長λ
1、λ
2の大小関係は問わないが、便宜上λ
3>0とするため、λ
1<λ
2とする。差周波光λ
3を効率よく発生させるために、
となる位相整合条件を満足する必要がある。(4)式において、k
i(i=1,2,3)は、非線形結晶内を伝搬する各レーザ光の伝搬定数であり、k
iにおける非線形光学結晶の屈折率をn
iとすると、
となる。しかし、結晶のもつ分散特性により、一般的には(4)式を満足することは難しい。
これを解決する方法として、非線形結晶を周期的に分極反転させた擬似位相整合法が用いられている。擬似位相整合法には、LiNbO3のような強誘電体結晶が有利であるが、これらの非線形光学定数の符号は自発分極の極性に対応する。この自発分極を、光の伝搬方向に周期Λで変調した場合、位相整合条件は、
で表される。特定の波長λ
1、λ
2を励起光として用いた場合には、(3)、(6)式を同時に満足し、高効率に差周波光λ
3を発生することができる。
しかしながら、波長λ1、λ2を変化させて異なる波長λ3の差周波光を得ようとする場合、波長λ1、λ2に変動がある場合には、(6)式を満足することができず、差周波光λ3の強度は低下する。ここで、波長λ1、λ2、λ3および周期Λと差周波光の発生効率ηとの関係について考える。まず、位相不整合量Δkを
と定義する。このとき、試料長をlとすると、差周波光の発生効率ηは、Δkとlの積に依存し、
と表される。(8)式において、η
oは、Δk=0の時の差周波光の発生効率であり、LiNbO
3など結晶の非線形光学定数、励起光強度、試料長などで決まる。したがって、同一の試料においては、周期Λが固定されているため、波長λ
1またはλ
2の変化は、Δkを増減させ、発生効率ηの低下をもたらす。与えられた周期Λに対して、η≧0.5η
o、すなわち
となる波長λ
1、λ
2の領域を周期Λにおける3dB領域という。この3dB領域を広く取ることができれば、発生効率ηを低下させることなく、差周波光λ
3の波長を可変にすることができる。
以下の議論では、z−cut LiNbO3を用い、2つの励起光および差周波光の偏光方向が、共に結晶のc軸方向の場合について取り扱う。このとき、2つの励起光、差周波光の伝搬特性は、異常光屈折率neで決まる。neは、セルマイヤー方程式より、
で与えられる。ここで、Tは温度(K)、波長λの単位はμmである。
図14に、周期Λと仮定し、波長λ3を助変数として求めた3dB領域を示す。波長λ1、λ2に対する3dB領域は、(1)、(5)および(7)式より与えられる。室温において、(3)式から計算される差周波光波長λ3=2.0μm、2.5μm、3.0μm、3.5μm、4.0μm、4.5μm、5.0μm、5.5μm、6.0μmを与える波長λ1、λ2の関係を点線で示した。また、周期Λ=26μm,27μm,28μm,29μm,30μmに対する3dB領域を、(7)および(9)式より求め、それぞれの領域をハッチングによって示した。素子長は10mmとした。
完全に位相整合を満足するη=ηoは、3dB領域のほぼ中央部に存在する。すなわち、周期Λの周期的分極反転構造を有するLiNbO3における差周波光発生では、周期Λの擬似位相整合素子を用いる。所望の差周波光λ3を得る場合、η=0.5ηoとなる波長λ1、λ2は、(3)、(7)および(9)式から得られ、周期Λの3dB領域と所望の差周波光λ3を与える(3)式の曲線との交点で与えられることがわかる。
一例として、周期Λ=28μmの周期分極反転構造を有するLiNbO3を用い、波長λ3=3.0μmの差周波光を発生させる場合を考える。波長λ3=3.0μmの点線と、周期Λ=28μmの3dB領域とが交差する波長λ1、λ2の領域(図中Aの○で囲った部分)は、η=0.5ηoとなる。
次に、具体的な条件を示す。差周波光発生における発生強度は、2つの励起光強度の積に比例する。したがって、これまで報告された例では、高強度が得られやすいNd:YAGレーザ(波長1.064μm)が主に用いられている。ここでは、波長λ1=1.064μmとし、波長λ2を変化させることにより、波長可変な差周波光λ3を実現する場合を考える。周期Λの周期的分極反転構造を有するLiNbO3の試料を用いた場合、図14においてハッチングで示した周期Λの3dB領域と、波長λ1=1.064μmの直線Bとが交差する領域の波長λ2においてη=0.5ηoとなる。
図15に、周期Λ=27μm、波長λ1=1.064μmとした時の波長λ2に対する規格化変換効率η/ηoを示す。η=0.5ηoを満足する波長λ2の幅は、2nm程度しかなく、したがって、差周波光λ3の波長可変量は、20nm程度に制限される。周期Λを28μm、29μm、30μmに変えた場合も、波長λ1=1.064μmとすると、いずれの場合でも、η=0.5ηoを満足する波長λ2の幅は、2nm程度しかなく、差周波光λ3の波長可変量も同じように制限される。
しかし、図14を見ると、波長λ1を固定し波長λ2を変化させれば、差周波光λ3の波長可変域を大幅に拡大できる領域があることが分かる。すなわち、波長λ1が一定となる直線と周期Λの3dB領域とが、より広範囲で交差すれば差周波光λ3の波長可変域幅が飛躍的に増大する。周期Λ=25.5μm〜29μmの3dB領域は、波長λ1=0.9μm〜1.0μmでほぼ縦軸に平行になっており、この波長0.9μm〜1.0μm領域で波長λ1が一定となる直線と広範囲で交差している。すなわち、単一の周期Λを有する分極反転構造LiNbO3を用いても、波長λ1を0.9μm〜1.0μmの範囲で固定し、波長λ2を1.3μm〜1.8μmの領域で変化させると、差周波光λ3は、波長1.3μm<λ2<1.8μmのほぼすべての範囲で位相整合条件を満足し、高効率で波長を可変にすることができる。
例えば、周期Λ=27μm、波長λ1=0.94μmとしたとき、波長λ2に対する規格化変換効率は、波長λ2>1.43μmの領域においてη=0.5ηoとなり、ほぼ波長2μm〜3μmの広い波長範囲で差周波光の発生が可能である。なお、波長λ3=3μm近傍においては、後述するように、温度調整により1つの周期Λで発生させることが可能となる。
以上説明したように、第1のレーザと、第2のレーザと、1の周期の分極反転構造を有する非線形光学結晶とを備え、レーザの一方の波長を1.3〜1.8μmの間で変化させることにより、中赤外領域のレーザ光を波長2〜3μmの範囲において可変することが可能となる。
(実施例3−1)
図3に、本発明の一実施形態にかかる中赤外光を発生するレーザ光源を示す。レーザ光源は、波長λ1の半導体レーザ(λ1=0.94帯とする)310と、波長λ2(λ2=1.45〜1.60μm帯で波長可変とする)の半導体レーザ311と、半導体レーザ310,311の出力光を合波する合波器318と、合波された出力光を入力し差周波光、すなわち中赤外光を発生する1の周期の分極反転構造を有するLiNbO3結晶バルク321とを備えている。半導体レーザ310の出力は、結合レンズ系312,313と偏波面保持ファイバ316とを介して合波器318に接続される。半導体レーザ311の出力は、結合レンズ系314,315と偏波面保持ファイバ317とを介して合波器318に接続される。
半導体レーザ310は、その端面310Aに90%以上の高反射膜が形成され、反対側の端面310Bは、反射率2%以下の低反射膜が形成されている。偏波面保持ファイバ316には、ファイバブラッググレーティング316Aを設けて、波長安定性を向上させている。また、偏波面保持ファイバ317には、必要に応じて、その途中にファイバアンプを結合して半導体レーザ311の出力光を増大させることもできる。
また、合波器318の出力は、光ファイバ319と結合レンズ系320とを介してLiNbO3結晶バルク321に接続される。なお、LiNbO3結晶バルク321の出力は、中赤外光である出力光を測定するために結合レンズ系322,324と光ファイバ323とを介して分光器325に接続してある。
図14の直線Cで示したように、波長λ1=0.94μm帯とすれば、LiNbO3結晶バルク321の周期Λが27μmのとき、半導体レーザ311の波長を1.45〜1.60μmの範囲で変化させても、1つの周期Λで、上述の3dB領域を得ることができる。言い換えれば、1つの周期Λにより、広い波長範囲で中赤外光を得ることができる。波長λ1=0.94μm帯において、波長λ2を1.45〜1.60μmの範囲で変化させると、発生する中赤外光の波長λ3は、2.3〜2.7μmの広い範囲に及ぶことが分かる。
図17に、実施例1における3dB領域を示す。縦軸は中赤外光強度、横軸は半導体レーザ311の波長λ2である。図14の計算結果から予想される通り、1つの周期ΛからなるLiNbO3結晶バルク321により、1.45μm<λ2<1.60μmの広い波長範囲で、ほぼ一定の強度を持つ中赤外光を得ることができる。半導体レーザ311の出力は、すべての波長域で一定である。1.45μm<λ2<1.60μmの変化は、中赤外光の2.7μm>λ3>2.3μmの変化に対応する。発生した中赤外光の波長は、分光器325により確認する。本実施例では、素子長10mmのLiNbO3結晶バルク321を使ったが、変換効率は全ての波長域で1%/Wであった。
本実施例のような差周波発生実験を行う際には、2つの励起光の偏光方向が一致するときに最大の中赤外光が発生する。ここで、半導体レーザ310の偏光方向を固定し、半導体レーザ311の偏光方向を、角度θだけ傾けたとすると、中赤外光の光強度I3は、半導体レーザ310の光強度をI1とし、半導体レーザ311の光強度をI2とすると、
となる。(11)式は、中赤外光の発生を確認する手段となる。図18に、実施例3−1において出力された中赤外光の偏波依存性を示す。実験結果は、計算によるものとほぼ一致することが確かめられた。
(実施例3−2)
実施例3−1では、出力された中赤外光の波長範囲は、2.3〜2.7μmであったが、LiNbO3結晶の周期Λを変えることにより、波長域をさらに拡大することができる。実施例3−2では、図16に示したLiNbO3結晶バルク321の周期Λを26μmとした。半導体レーザ310は、波長0.91μm帯において微少範囲で波長可変な装置とし、半導体レーザ311は、波長1.30〜1.68μm帯の広い範囲で波長可変な装置とした。
3dB領域は、1つの周期ΛからなるLiNbO3結晶バルク321により、1.30μm<λ2<1.68μmの広い波長範囲で、ほぼ一定の強度を持つ中赤外光を得ることができる。波長λ2を1.30〜1.68μmで変化させたことから、中赤外光の波長λ3は、3.1〜2.0μmを得ることができた。本実施例では、素子長10mmのLiNbO3結晶バルク321を使ったが、変換効率は全ての波長域で1%/Wであった。
なお、LiNbO3結晶は、(10)式から分かるように、屈折率が温度とともに変化するので、それに伴って実効的な周期Λも変わる。したがって、LiNbO3結晶の温度を微細に調整すれば、1つの周期Λを有するLiNbO3結晶で差周波発生を行っても、実効的な1つの周期Λを変えることができるので、高い変換効率を保つことができる。図14に示したとおり、半導体レーザ310の波長を固定したままでは、変換効率を高く保てない領域(例えば、周期Λ=28,29μmのように、特性曲線が縦軸に完全に平行でない領域)がある。そこで、LiNbO3結晶バルク321の温度を調整し、常に、半導体レーザ310の波長に対する実効的な周期Λを最適化し、高い変換効率を保つことができる。
実施例3−2においては、適当な温度調整の下、周期Λを25.5〜29.3μmの間を0.1μm間隔で変え、周期Λを有するLiNbO3結晶バルク321を用いて差周波を発生させる。その結果、周期Λ毎に波長λ1を波長0.9〜1.0μmの範囲で適当に選び、これに合わせて、波長λ2を1.27〜1.80μmの範囲で変化させると、中赤外光の波長λ3を3.1〜2.0μmの範囲で連続的に得ることができる。ただし、周期Λが28.5μmを越えたところから、図14に示したとおり、特性曲線が縦軸に平行な部分が減少することから、一定強度の差周波光を得るために必要な温度制御の寄与が次第に大きくなった。温度変化100度は、波長λ1の0.005μmの変化分に相当した。
(実施例3−3)
波長変換素子をバルク型のLiNbO3結晶から導波路型に変えて、実施例3−1,3−2と同様の構成とすると、より高効率に中赤外光を得ることができる。実施例3−3では、図16に示したLiNbO3結晶バルク321を導波路素子に変えた光学系を用いる。LiNbO3導波路の素子長は10mm、コアの断面サイズは8μm×8μm、周期Λは26μmとした。半導体レーザ310は、0.91μm帯の微少範囲で波長可変とし、半導体レーザ311は、1.3〜1.65μm帯の広い範囲で波長可変とした。
導波路素子における3dB領域は、適当な温度調整の下、波長λ1=0.91μm帯に対して、1.3μm<λ2<1.65μmの広い波長範囲で、ほぼ一定の強度を持つ中赤外光λ3が波長範囲3.1〜2.0μmにおいて得られる。変換効率は全ての波長域で向上し、バルク素子に比べて、2桁の向上が見られた。
また、周期Λを25.5〜29.3μmの間を0.1μm間隔で変え、適当な温度調整の下、周期Λを有するLiNbO3導波路を用いて中赤外光を発生させる。その結果、周期Λ毎に波長λ1を0.9〜1.0μmの範囲で適当に選び、これに合わせて、波長λ2を1.27〜1.80μmで変化させると、中赤外光の波長λ3を3.1〜2.0μmの範囲で連続的に得ることができる。
(実施例3−4)
図14に示したように、位相整合曲線は、急激に湾曲を生じる領域がある。この領域を利用すると、波長可変性の点から大きなメリットはない。しかしながら、差周波発生を行う際に、2つの励起光の波長安定性における許容度が大きく改善され、特に短波長側の半導体レーザの許容度の改善に効果をもたらす。例えば、図14において、周期Λ=27μmの場合、半導体レーザ11のλ2が1.45〜1.8μmの領域では、波長λ2が変動しても3dB領域から外れることはないが、半導体レーザ310の波長λ1は、その僅かな変動により3dB領域から外れる原因となる。しかし、波長λ2が1.35μm近辺の湾曲部では、半波長側の波長λ1にも、3dB領域に対する波長変動の許容量が2倍に増えるという利点が生じる。LiNbO3結晶バルク321の温度調整量も減少する。ここで、波長λ2に対しては、許容量は減少しているが、それでも通常の市販されているレーザ光源の安定性から見れば十分な幅である。
実施例3−4では、半導体レーザ310の端面310A,310Bにおける反射膜と偏波面保持ファイバ316のファイバブラッググレーティング316Aとを取り除いた光学系を用いる。ファイバブラッググレーティングは、設計された波長の光を選択的に得ることができるデバイスであり、実施例3−1では、これによって波長λ1の変動を抑えていた。したがって、ファイバブラッググレーティング316Aを除くと、安定な3dB領域を得るのが難しい場面もある。しかしながら、実施例3−4では、このような波長を安定化するための構成を有さなくても、3dB領域を外れないで十分安定な動作をすることができる。ここで、LiNbO3結晶バルク321の周期Λを27μmとし、半導体レーザ310の波長を0.945μmとし、半導体レーザ311の波長を1.35μmとした。
(実施例3−5)
本発明にかかる中赤外光を発生するレーザ光源によれば、環境ガスのNOxを精度よく検出することができる。NOxガスの基本吸収は、波長5μm以上であるため、LiNbO3の吸収特性(波長5.4μm以上の光は透過し難い)を考えると、下記反応式を利用するのが便利である。
4NO+4NH3+O2→4N2+6H2O (12)
6NO2+8NH3→7N2+12H2O (13)
すなわち、NOxは、触媒下においてNH3により分解されることから、消費されたNH3、または新たに発生するH2Oを調べることにより、NO、NO2濃度を間接的に算出することができる。また、NO、NO2の基本吸収の倍音が、波長2〜3μmにあることを活用して検出することもできる。そこで、波長2〜3μmにおいて波長を可変することができるレーザ光源があれば、上述のガスの吸収を一括して調べることができる。各ガスの波長2〜3μmにおける主な基本吸収波長、波数、吸収の名称は、以下の通りである。
H2O 2.662μm 3756cm−1 逆対称伸縮振動
H2O 2.734μm 3657cm−1 全対称伸縮振動
NH3 2.904μm 3444cm−1 二重縮重振動
NH3 2.997μm 3337cm−1 全対称振動
NO 5.330μm 1876cm−1 逆対称伸縮振動 倍音=2.665μm
NO2 6.180μm 1618cm−1 逆対称伸縮振動 倍音=3.090μm
図19に、本発明の一実施形態にかかる光吸収分析装置を示す。特に、NOxガス濃度を検出するための光学系を示す。被測定ガスが封入されるガスセル344は、両端にある反射鏡を利用して、最大18mの光路長を有する。反応ガスは、ポンプ345によりガス除去管346から、ガスセル344に導かれ、ポンプ347によりガス排気管348に排出される。ポンプを活用するとガスセル内の圧力を変えることができる。ガス除去管346は、(12)式または(13)式の反応により、NOxが除去される。検出器349は、中赤外光用のHgCdTeディテクタである。
レーザ光源は、波長λ1の半導体レーザ(λ1=0.91μm帯固定)330と、波長λ2(λ2=1.28〜1.46μmで波長可変とする)の半導体レーザ331と、半導体レーザ330,331の出力光を合波する合波器338と、合波された出力光を入力し、中赤外光を発生する周期Λ=26μmのLiNbO3結晶バルク341とを備えている。半導体レーザ330の出力は、結合レンズ系332,333と偏波面保持ファイバ336とを介して、半導体レーザ331の出力は、結合レンズ系334,335と偏波面保持ファイバ337とを介してそれぞれ合波器338に接続される。
半導体レーザ330は、その端面330Aに90%以上の高反射膜が形成され、反対側の端面330Bは、反射率2%以下の低反射膜が形成されている。偏波面保持ファイバ336には、ファイバブラッググレーティング336Aを設けて、波長安定性を向上させている。合波器338の出力は、光ファイバ339と結合レンズ系340とを介してLiNbO3結晶バルク341に接続される。LiNbO3結晶バルク341の出力は、結合レンズ系342と光ファイバ343とを介してガスセル344に接続される。
実施例3−5では、最初に、NO2ガスの除去に伴う計測結果を示す。測定は、下記の3ステージに分けて行う。
(i)触媒もNH3ガスも与えないで、NO2ガスのみをガス除去管に導入する
(ii)触媒を与えずNH3ガスを与えて、NO2ガスをガス除去管に導入する
(iii)触媒とNH3ガスとを与えて、NO2ガスをガス除去管に導入する
ステージ(i)では、半導体レーザ331の波長を調整し、波長を1.290μmにしたところ、化学反応が起こっていないことに相応し、波長3.090μmにおいてNO2の逆対称伸縮振動の倍音吸収を検出することができる。一方で、半導体レーザ331の波長を再度調整しNH3やH2Oの吸収波長に合わせても、これら二つの吸収は観測されない。
ステージ(ii)では、NH3を与えても触媒がないので化学反応が進まず、未反応のNO2とNH3の吸収を観測することになる。ところが、ステージ(iii)になると、触媒が与えられているので化学反応が進み、NO2が除去されNH3が消費されることから、NO2とNH3の吸収が減少し始め、代わって、新たに生成したH2Oの吸収が観測されるようになる。さらに、多くのNH3を加えた場合、NO2の吸収が完全に消失し、過剰に加えたNH3と新たに生成したH2Oの吸収が増大するようになる。
ここで、(13)式を利用すると、ステージ(iii)において、NO2の濃度を定量的に計量することができる。すなわち、多量のNH3を加えていくとNO2の吸収が減少し、過剰に加えられたNH3と新たに生成したH2Oの吸収が出現する。NO2の吸収がゼロになる点、過剰となったNH3の吸収が出始める点、または、H2Oの吸収強度が増大した後一定値をとり始める点の何れかまでに加えたNH3量を計れば、(13)式により、ガス除去管に含まれていたNO2の濃度を算出することができる。
NH3濃度は、加えた量だけを測ればよいから、正確に計量することができる。実施例3−5では、バルク長10mmのLiNbO3結晶バルク341を用いた場合、NO2の最少検出濃度が、100Torrにおいて、1ppmである。また、10mm長の導波路を用いた場合には、NO2の最少検出濃度は、10ppbオーダにまで低減させることができた。
NOガスの検出も、(12)式を利用すると便利であり、ガス除去管346にNH3とO2を加えて行き、NOの吸収がゼロになる点、過剰のNH3の吸収が出始める点、または、H2Oの吸収強度が増大した後一定値をとり始める点でのNH3量を計れば、NOの濃度を算出できる(ここでは、O2の吸収は見ない)。ただし、NOの倍音吸収とH2Oの逆対称伸縮振動吸収の波長が極めて近いので、H2Oの全対称伸縮振動吸収とNH3の吸収とを主に活用することになる。NOガスの最少検出濃度もNO2とほぼ同等であった。
なお、実施例3−5では、LiNbO3結晶バルク341に対して1つの周期Λだけを用意すればよいことから、測定は極めて簡便、迅速である。また、NO、NO2ガスが、存在するか否かを調べるだけであれば、吸収ピークの有無だけを調べ、NH3量を計量しなくてもよいことから、さらに測定は簡便、迅速となる。
(実施例3−6)
波長2〜3μmにおいて波長可変の中赤外領域のレーザ光源を用いて、NOx、CO2、COなどのガス計を構成すると、一台の光源で多種類のガス濃度を測定することができる。ここでは、NO、NO2、CO、CO2の4種のガスを同時に検出することについて述べる。対象となる各ガスの基本吸収波長、波数、吸収の名称、倍音吸収波長は、以下の通りである。
CO2 4.257μm 2349cm−1 逆対称伸縮振動 倍音=2.129μm
CO 4.666μm 2143cm−1 伸縮振動 倍音=2.333μm
NO 5.330μm 1876cm−1 逆対称伸縮振動 倍音=2.665μm
NO2 6.180μm 1618cm−1 逆対称伸縮振動 倍音=3.090μm
H2O 2.662μm 3756cm−1 逆対称伸縮振動
H2O 2.734μm 3657cm−1 全対称伸縮振動
NH3 2.904μm 3444cm−1 二重縮重振動
NH3 2.997μm 3337cm−1 全対称振動
本実施例では、下記の3ステージを通して、各ガスを順番に除去して行き、ガス濃度を計量した。構成は、図19に示した実施例3−5と同じである。
(a)触媒や除去用ガスを与えないで、NO、NO2、CO2、COをガス除去管に導入する
(b)触媒とNH3、O2ガスを与えて、NO、NO2を除去する
(c)上記(b)でNO、NO2が除去された後、O2ガスを与えて、COを燃焼させる
ステージ(a)では、ガス除去管346において、何の化学反応も進まないので、波長2〜3μmにおいて、NO、NO2、CO2、COガスの倍音吸収が観測される。
ステージ(b)になると、NO、NO2が除去され、NH3が消費されることに呼応して、これらの吸収が減少し始め、代わって、新たに生成したH2Oの吸収が観測されるようになる。さらに、過剰のNH3、O2を加えた場合、NO、NO2の吸収が完全に消失し、過剰のNH3と新たに生成したH2Oの吸収が増大するようになる(ここでも、O2の吸収は見ない)。ステージ(c)では、下記反応式(14)に従って、COが燃焼させるに連れて、CO2の吸収が増大することになる。
2CO+O2→2CO2 (14)
ステージ(b)において、NOとNO2の合計濃度を定量的に計量することができる。すなわち、多量のNH3、O2を加えていくとNO、NO2の吸収が減少し、過剰に加えられたNH3と新たに生成したH2Oの吸収が出現する。NO、NO2の吸収がゼロになる点、過剰となったNH3の吸収が出始める点、または、H2Oの吸収強度が増大した後一定値をとり始める点の何れかまでに加えたNH3量を計れば、(12)、(13)式により、ガス除去管に含まれていたNOとNO2の合計濃度を算出することができる。NO、NO2の個別の濃度を知るには実施例3−5に拠ればよい。
ステージ(c)においては、COの濃度を計量することができる。すなわち、O2存在下、COを燃焼させるとCO2が生じるから、O2を加えて行って、COの吸収が消失する点、またはCO2の吸収が増大しピークを迎えた後一定値を取り始める点のいずれかに加えたO2量を計れば、(12)式により、ガス除去管に含まれていたCOの濃度を算出することができる。O2は加えた量だけを測ればよいから、正確に計量することができる。実施例3−6では、バルク長10mmのLiNbO3結晶バルク341を用いた場合、NO2の最少検出濃度が、100Torrにおいて、1ppmであった。また、10mm長の導波路を用いた場合には、NO2の最少検出濃度は10ppbオーダにまで低減させることができた。
(実施例3−7)
本発明にかかる中赤外光を発生するレーザ光源を用いれば、波長2〜3μmに吸収のあるNOx、CO2、COなどのガスを遠隔操作によって検出することができる。実施例3−7では、2波長差分吸収ライダー(例えば、非特許文献11参照)により環境ガスの検出を行った。2波長差分吸収ライダーは、被測定ガスの吸収波長と非吸収波長とを用いるが、吸収波長のライダー信号は、非吸収波長に比べて減衰が大きいことから、この2波長の信号差を利用してガス分子の濃度を計量することができる。
実施例3−7では、NO、NO2、CO、CO2の4種のガスを、2波長差分吸収ライダーにより検出する。各ガスの基本吸収波長、波数、吸収の名称、倍音吸収波長は、以下の通りである。
CO2 4.257μm 2349cm−1 逆対称伸縮振動 倍音=2.129μm
CO 4.666μm 2143cm−1 伸縮振動 倍音=2.333μm
NO 5.330μm 1876cm−1 逆対称伸縮振動 倍音=2.665μm
NO2 6.180μm 1618cm−1 逆対称伸縮振動 倍音=3.090μm
測定にあたっては、なるべく近い時間に2波長の測定を行うことが正確なデータを得るために必要であるが、本発明にかかるレーザ光源は、瞬時に目的の2波長を出すことができ、LiNbO3結晶に対して1つの周期Λだけを用意すればよいことから、波長2〜3μm帯での4種ガスの測定も極めて迅速に行える。
図20に、2波長差分吸収ライダーの測定系を示す。2波長差分吸収ライダー360は、レーザ光出射部360Aとレーザ光検出部360Bとからなる。レーザ光出射部360Aに含まれるレーザ光源は、素子長10mmのLiNbO3結晶導波路を用い、周期Λ=26μmとした。半導体レーザ330の波長は、0.91μm帯とし、半導体レーザ331の波長は、1.28〜1.46μmの間において可変とした。適当な温度調整の下、波長2〜3μmの中赤外光をレーザ出射口361より出力する。
中赤外光364は、検出ガス366に向けて出射され、検出ガス366からの散乱光(レイリー散乱、ミー散乱)365をレーザ光検出部360B内部にある反射鏡362により受光する。集光された光は、HgCdTeディテクタである検出器363により検出される。
測定において、非吸収波長としては、検出ガスの倍音吸収波長から2〜10nm低波長側に設定する。発生する中赤外光の強度が大きいほど測定可能な距離が伸びるため、中赤外光強度は、10mWの高出力とする。距離3メートル離れた空間(=直径1メートル以上の球状空間)に、上述の4つのガスを濃度1ppmで拡散させると、全てのガスの吸収を観測することができる。ガス濃度を10ppmに上昇させると、計測する空間が10メートル離れても検出することができる。
(実施例3−8)
本発明にかかる中赤外光を発生するレーザ光源は、農作物に残留する農薬の検出にも有益である。農薬に含まれるCN基やNO2基は、特に有害な官能基の代表例であり、これらが検出できれば、残留農薬の濃度の目安を知ることができる。CN基やNO2基は、ピレスロイド系農薬のフェンプロパトリン、カーバメイト系農薬の1−ナフチル−N−メチルカーバメートに含有されている。吸収波長は、CN基=4.44μm(2250cm−1、伸縮振動)、NO2基=6.15μm(1625cm−1、伸縮振動)である。
図21に、残留農薬測定器の測定系を示す。残留農薬測定器380は、レーザ光出射部380Aとレーザ光検出部380Bとからなる。各々の先端に設けた光ファイバ381,382により、農作物からなる被測定体383に光を出射し、その散乱光をレーザ光検出部380Bにて検出する。レーザ光検出部380B内部に設けた検出器には、HgCdTeディテクタとPbSeディテクタを使用する。レーザ光出射部380Aに含まれるレーザ光源は、適度な温度調整の下、素子長10mm、周期Λ=26μmのLiNbO3結晶導波路を用いる。一方の半導体レーザの波長は、0.91μm帯とし、他方の半導体レーザの波長は、1.30〜1.65μm帯で可変とした。
被測定体のリンゴの表皮にフェンプロパトリンおよび1−ナフチル−N−メチルカーバメートを塗布し(濃度1‰)、これに出力10mWの中赤外光を照射する。その結果、波長2.22μmにおいてCN基の倍音吸収を、波長3.08μmにおいてNO2基の倍音吸収を十分観測することができる。実施例3−8により、残留農薬の検出においても、1つの周期ΛからなるLiNbO3結晶によって複数の官能基の存在を確認することができる。
なお、検出すべき官能基がNO2基だけであれば、その他の利点も示すことができる。すなわち、LiNbO3結晶導波路の周期Λ=27μmとするならば(周期Λ=26μmでもよいが、効果の大きさを示すべく周期Λ=27μmで議論する)、実施例3−4で説明したように、検出体の吸収波長が3.0μmを少し超えた領域だと、使用する半導体レーザ双方に対しての波長安定性が向上する。半導体レーザの端面の反射膜と光ファイバのファイバブラッググレーティングとを取り除いた光学系を用いても、十分なNO2基の倍音吸収を観測することができる(なお、この効果は、上述のNO2ガスの検出においても同様に見られる)。
(第4の実施形態)
図22に、本発明の一実施形態にかかる酸素吸収線の波長を発生するレーザ光源を示す。酸素吸収線の波長を発生するレーザ光源は、波長759nmから768nmに存在する酸素吸収線の中から選択された1つの吸収線の波長に対して、2倍の波長を有するレーザ光を発振する分布帰還型半導体レーザモジュール401と、二次非線形光学効果を有する光導波路403と、半導体レーザモジュール401および二次非線形光学効果を有する光導波路403の一端を接続する偏波保持型ファイバ402とを備えている。
従来と異なり、759nmから768nmの2倍の波長である1518nmから1536nmで発振するので、半導体レーザとしてリン化インジウム系材料を使用する。リン化インジウムは、砒化ガリウムに比べて素子のいわゆる頓死現象がなく、素子寿命に対する信頼性が高いことが知られている。また、1518nmから1536nmの波長は、通信波長帯のS帯とC帯に属し、近年の光通信分野の発展により、DFB型の作製技術も容易である。さらに、40mWという高出力の素子を作製することができる。
リン化インジウム系の半導体レーザにおいては、素子の温度や注入電流を変化させることにより波長を変えることができ、DFB型の構造を採用することにより、モード飛びのない安定した波長スキャンを行うことができる。波長1518nmから1536nmのレーザ光を、二次非線形光学効果に基づく第二高調波発生を利用して、波長759nmから768nmの光を出力する。
ここで二次非線形光学効果について説明する。非線形光学効果とは、物質中の電気分極Pが下記のように光の電界Eに比例する項以外に、E2、E3の高次項をもつために起こる効果である。
P=χ(1)E+χ(2)E2+χ(3)E3+・・ (15)
特に第2項は、中心対照性のくずれた物質において強く現れる効果で、角周波数の違う3つの光ω1、ω2、ω3が、ω1+ω2=ω3の関係にあるとき、
1)ω1とω2の光を入力したときに、ω3の光を発生(和周波発生)
2)和周波発生時にω1とω2が同じ角周波数の場合には、第二次高調波を発生
3)ω1とω3の光を入力したときに、ω2(=ω3−ω1)の光を発生(差周波発生)
という効果を生じる。すなわち、入力されたレーザ光の波長を、別の波長へと変換することができる。
二次の非線形光学材料の分極を周期的に反転することにより、高効率の波長変換器が実現されている。この構造は、材料による屈折率分散の影響を、周期的に分極を反転することにより、入力光と変換光の位相を擬似的に整合させるものである。この原理を用いた例として、例えば、二次非線形光学材料であるニオブ酸リチウムの分極を周期的に反転し、プロトン交換により導波路を形成した波長変換器が知られている(例えば、非特許文献12参照)。このような周期分極反転構造を有するニオブ酸リチウム光導波路において、90%以上の第二高調波発生が可能であることが示されている。
この様な二次非線形光学効果を有する光導波路においては、フォトリフラクティブ効果による第二高調波発生の効率低下という、寿命に関する問題を有している。波長1518nmから1536nmの光ではこのような問題は起こらないので、その第二高調波である波長759nmから768nmの光強度によって起こる。しかしながら、二次非線形光学効果を有する光導波路の温度を50℃から100℃程度に上げること、または亜鉛やマグネシウムを添加した二次非線形光学材料を用いることにより、効率低下を回避できることが知られており(例えば、非特許文献13参照)、長寿命な光導波路を得ることは容易である。
この様な二次非線形光学効果を有する光導波路は、結晶方位に対してある特有の方向に偏光した光に対して、その効果を大きく生じる。例えば、ニオブ酸リチウムではz軸方向である。半導体レーザも基板に対してある一定の偏波で発振している。そこで、半導体レーザモジュール401と二次非線形光学効果を有する光導波路403とを光ファイバで接続する場合、光導波路に入射する光の偏光方向の変動を抑えるために偏波保持型ファイバ402を用いることが好ましい。なお、偏波保持型ではない光ファイバで接続し、偏光制御素子を光ファイバ中に挿入しても第二高調波発生は可能である。しかしながら、温度などの外部環境の変化により光ファイバ中の偏光が変動するため、長期的に安定して第二高調波を発生させることは困難である。
図23に、出力にレンズとフィルタを備えたレーザ光源を示す。図22のレーザ光源に加えて、二次非線形光学効果を有する光導波路413の他端には、出射される光を平行光にするレンズ414と、出射された光のうち波長1518nmから1536nmの光を透過せず、波長759nmから768nmの光を透過させるフィルタ415とを備えた。このようにして、酸素吸収線である波長759nmから768nmにおいて、モード飛びのない安定した波長スキャンを行うための光を取り出すことができる。
図24に、出力に光ファイバを備えたレーザ光源を示す。図23の実施形態に代えて、二次非線形光学効果を有する光導波路423の他端に光ファイバ424を接続する。光ファイバ424を、波長759nmから768nmの光に対して、シングルモードで導波可能な構造とすれば、光ファイバ424に若干の曲げを加えるだけで、酸素吸収線である波長759nmから768nmの光のみを取り出すことができる。これは、波長1518nmから1536nmの光が、光ファイバ424の中では広いモードとして伝播し、少しでも曲げが加えられた部分があると、その部分で散乱されて光ファイバ424中で減衰するからである。
以上説明したように、光導波路の二次非線形光学効果に基づく第二高調波発生を利用して、酸素吸収線である波長759nmから768nmのレーザ光を出力し、モード飛びのない安定した波長スキャンを行うことができ、高出力かつ長寿命のレーザ光源を提供することが可能となる。
(実施例4−1)
図25に、実施例4−1にかかるレーザ光源を示す。実施例4−1にかかるレーザ光源は、レーザ光を発振する分布帰還型半導体レーザモジュール431と、二次非線形光学効果を有する光導波路433と、半導体レーザモジュール431および二次非線形光学効果を有する光導波路433の一端433aを接続する偏波保持型ファイバ432とを備えている。二次非線形光学効果を有する光導波路433の他端433bには、出射される光を平行光にするレンズ435と、出射された光のうち1526nm付近の光を透過せず、763nm付近の光を透過させるフィルタ436とを配置している。
半導体レーザモジュール431は、偏波保持型ファイバ432によって出力される酸素吸収線のひとつである763.04nmの2倍の波長である1526.08nm付近のレーザ光を発振する。半導体レーザモジュール431には、ペルチェ素子(不図示)が内蔵されており、素子の温度を変えることができるようになっている。また、半導体レーザモジュール431には、アイソレータ(不図示)が内蔵されており、光導波路433の端面等における反射光が、レーザ発振に悪影響を及ぼさないようにする。
二次非線形光学効果を有する光導波路433は、ニオブ酸リチウム基板に周期分極反転構造が施され、第5の実施形態にかかる方法または熱処理プロトン交換法を用いて導波路が形成されている。光導波路433の一端433aには、波長1526nmに対して無反射となるコーティングを施している。また、光導波路433の他端433bには、波長763nmの波長に対して無反射となるコーティングを施している。さらに、光導波路433の下には、光導波路433の温度を制御するためのペルチェ素子434を配置し、光導波路433の入射光波長1526.08nmにおける第二高調波発生の効率が最も良いように、光導波路433を90℃の温度に保つ。
半導体レーザモジュール431を25℃に設定し、波長1526.08nm、出力30mWで動作させたところ、出力光437として波長763.04nm、出力5mWの光を観測した。半導体レーザモジュール431の温度を、24℃から26℃に連続的に変化させながら、出力光437を観測したところ、波長は762.99nmから763.09nmへ連続的に変化し、モード飛びの様な現象は見られなかった。出力光437の光強度は4.7mWから5.0mWと安定した動作を示した。この動作を1年間通して連続して行ったが、出力の低下および波長の飛びは観測されなかった。
(実施例4−2)
図26に、実施例4−2にかかるレーザ光源を示す。実施例4−2にかかるレーザ光源は、レーザ光を発振する分布帰還型半導体レーザモジュール441と、二次非線形光学効果を有する光導波路445と、半導体レーザモジュール441および二次非線形光学効果を有する光導波路445の一端445aを接続する偏波保持型ファイバ442,444および光コネクタ443とを備えている。二次非線形光学効果を有する光導波路445の他端445bには、光ファイバ447が接続され、出射される光を平行光にするレンズ449を配置している。
半導体レーザモジュール441は、実施例4−1の半導体レーザモジュール431と同じものを用いた。二次非線形光学効果を有する光導波路445は、Znのドープされたニオブ酸リチウム基板に周期分極反転構造が施され、第5の実施形態にかかる方法または熱処理プロトン交換法を用いて導波路が形成されている。光導波路445の一端445aには、波長1526nmに対して無反射となるコーティングを施し、波長1526nm付近の光に対しシングルモードになる偏波保持型ファイバ444を接続する。また、光導波路445の他端445bには、波長763nmに対して無反射となるコーティングを施し、波長763nm付近の光でシングルモードとなる光ファイバ447を接続する。
光導波路445の下には、温度制御用のペルチェ素子446を配置し、光導波路445の入射光波長1526.08nmにおける第二高調波発生の効率が最も良いように、光導波路445を25.0℃の温度に保つ。光ファイバ442と光ファイバ444とを、コネクタ443によって接続し、光ファイバ447の光出力を、レンズ448により平行光にする。
半導体レーザモジュール441を25℃に設定し、波長1526.08nm、出力30mWで動作させたところ、出力光449として波長763.04nm、出力7mWの光を観測した。半導体レーザモジュールの温度を、24℃から26℃に連続的に変化させ、かつ光導波路445の温度をペルチェ素子446によって24℃から26℃に連続的に変化させながら出力光449を観測した。波長は762.99nmから763.09nmへ連続的に変化し、出力光449の光強度は6.9mWから7.0mWと非常に安定した動作を示した。
このとき、出力光449において、第二高調波に変換されずに透過してきた波長1526nmの光は観測限界以下であった。これは、1526nm付近の光が光ファイバ447の中では広いモードとして伝播し、少しでも光ファイバ447に曲げが加えられた部分があると、その部分で散乱されて光ファイバ447中で減衰するからである。なお、安全のために、レンズ448の後に波長1526nmを除去するフィルタを取り付けてもよい。また、実施例4−2では、コネクタ443によって偏波保持型ファイバを接続したが、融着によっても良いことは言うまでも無い。
本実施例では、酸素吸収線のひとつである763.04nmに注目して半導体レーザを選んで構成したが、759nmから768nmにかけて存在する他の吸収線、例えば760.4nmを発生するように、その2倍の波長である1520.8nmを選んでも良い。
本実施形態では、二次非線形光学効果を有する光導波路に周期分極反転構造を有するものを用いたが、他の位相整合方法を用いても同様の効果が得られる。また、基板には、ニオブ酸リチウムまたはこれに亜鉛をドープしたものを用いたが、ニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムの混晶、またはこれに元素を微量に添加したものを用いたり、他の二次非線形光学材料を用いても同様の効果が得られる。さらに、導波路作製方法として第5の実施形態にかかる方法または熱処理プロトン交換法を用いたが、Ti拡散などの金属拡散導波路、リッジ導波路、埋め込み導波路などを用いても同様の効果が得られることは言うまでもない。
二次非線形光学効果を有する光導波路の両端付近において、それぞれの端面に接続される光ファイバに光が結合しやすいように、または空間放射するときの光の形状を最適にするように導波路構造を変化させても良いことは言うまでも無い。また、半導体レーザモジュールにアイソレータを内蔵したが、二次非線形光学効果を有する光導波路の端面に無反射コートを付すこと、二次非線形光学効果を有する光導波路を斜めに切り出し光ファイバやレンズを配置すること、またはこれらを組み合わせて反射戻り光を防止してもよい。
(第5の実施形態)
次に、非線形光学結晶に導波路を形成する方法について説明する。本実施形態においては、ウエハ直接接合基板を用いたリッジ型導波路を用いる。ウエハ直接接合法は、動作波長に合わせた分極反転構造を有したLiNbO3基板と、表面処理済みの基板とを接着剤を介さずに、室温で直接的に接合し、アニール処理を行う。導波路は、接合基板の分極反転構造を研削または薄膜化し、ダイシングソーを用いてリッジ型導波路を形成する。
LiNbO3基板の有する課題として光損傷耐性の向上がある。光損傷は、導波路中に入射された光によって結晶中に存在する欠陥からキャリアが励起され、その後結晶中にトラップされることにより誘起される屈折率変化(フォトリフラクティブ効果)の結果、動作波長がずれてしまう現象である。LiNbO3基板により導波路の動作波長帯域は、1nmと狭いため、光損傷が存在すると出力光のパワーが大幅に減少したり、全く出力されない結果となる。ノンドープLiNbO3基板に、プロトン交換法を用いて作成した導波路素子では、十分な光損傷耐性を実現するために、導波路素子の動作温度を100℃以上にする必要があるが、この加熱によるプロトン再拡散のため長期安定性を保てないという問題があった。ノンドープLiNbO3基板の代わりに、MgまたはZnをドープしたLiNbO3基板に、プロトン交換法を用いて作成した導波路素子では、光損傷耐性に一定の改善が見られるが、導波路素子を50℃以上に加熱する必要がある。
一方、直接接合基板を用いたリッジ型導波路では、LiNbO3本来の結晶性を劣化させることのない作製方法であり、新たな欠陥生成を抑制することができるため、光損傷耐性を大幅に向上させることができる。
ここで、波長変換効率は、和周波光または差周波光のパワーPaは、
P=ηL2P1P2/100
となり、第二高調波のパワーPbは、
Pb=ηL2P3 2/100
となる。ηは、単位長さ当たりの効率(%/W/cm2)であり、Lは素子長であり、P1P2P3は、励起レーザの出力光パワーである。
本実施形態では、光通信用の波長帯以外で動作することができ、10〜100W程度の高出力半導体レーザと組み合わせることにより、10mW以上の安定した出力を得ることができる。このようにして、LiNbO3が透明である450nm〜5μmの領域で、任意の波長のレーザ光を発生させることができる。
(実施例5−1)
図27に、単一モードのリッジ導波路の作製方法を示す。第1の基板501は、予め周期的な分極反転構造が作製されているZカットZn添加LiNbO3基板であり、第2の基板502は、ZカットMg添加LiNbO3基板である。基板501,502は、いずれも両面が光学研磨されている3インチウエハであり、基板の厚さは300μmである。第1の基板501と第2の基板502の表面を、通常の酸洗浄あるいはアルカリ洗浄によって親水性にした後、基板501,502を清浄雰囲気中で重ね合わせる。重ね合わせた基板501,502を電気炉に入れ、400℃で3時間熱処理することにより拡散接合を行う(第1の工程)。接着された基板501,502はボイドフリーであり、室温に戻したときにクラックなどは発生しなかった。
次に、研磨定盤の平坦度が管理された研磨装置を用いて、接着された基板501,502の第1の基板501の厚さが5〜10μmになるまで研磨加工を施す。研磨加工の後に、ポリッシング加工を行うことにより鏡面の研磨表面を得る(第2の工程)。基板の平行度を光学的な平行度測定機を用いて測定したところ、3インチウエハの周囲を除き、ほぼ全体にわたってサブミクロンの平行度が得られ、導波路の作成に好適な薄膜基板を作製することができる。なお、第1の基板501としてXカットZn添加LiNbO3基板を用い、第2の基板502としてXカットMg添加LiNbO3基板を用いてもよい。
作製した薄膜基板表面に、通常のフォトリソグラフィのプロセスによって導波路パターンを作製した後、ドライエッチング装置に基板をセットし、CF4ガスをエッチングガスとして基板表面をエッチングすることにより幅6〜20μmのコアを形成し、リッジ型導波路を作製した(第3の工程)。ウエハからリッジ型導波路を切り出し、導波路端面を光学研磨することにより、長さ10〜60mmの非線形光学結晶の導波路素子を得ることができる。
(実施例5−2)
第1の基板501は、予め周期的な分極反転構造が作製されているZカットZn添加LiNbO3基板であり、第2の基板502は、ZカットLiTaO3基板である。基板501,502は、いずれも両面が光学研磨されている3インチウエハであり、基板の厚さは300μmである。第1の基板501と第2の基板502の表面を、通常の酸洗浄あるいはアルカリ洗浄によって親水性にした後、基板501,502を清浄雰囲気中で重ね合わせる。重ね合わせた基板501,502を電気炉に入れ、400℃で3時間熱処理することにより拡散接合を行う(第1の工程)。接着された基板501,502はボイドフリーであり、室温に戻したときにクラックなどは発生しなかった。
次に、研磨定盤の平坦度が管理された研磨装置を用いて、接着された基板501,502の第1の基板501の厚さが6〜10μmになるまで研磨加工を施す。研磨加工の後に、ポリッシング加工を行うことにより鏡面の研磨表面を得る(第2の工程)。基板の平行度を光学的な平行度測定機を用いて測定したところ、3インチウエハの周囲を除き、ほぼ全体にわたってサブミクロンの平行度が得られ、導波路の作成に好適な薄膜基板を作製することができる。なお、第1の基板501としてXカットZn添加LiNbO3基板を用い、第2の基板502としてXカットLiTaO3基板を用いてもよい。
作製した薄膜基板表面に、通常のフォトリソグラフィのプロセスによって導波路パターンを作製した後、ドライエッチング装置に基板をセットし、CF4ガスをエッチングガスとして基板表面をエッチングすることにより幅6〜20μmのコアを形成し、リッジ型導波路を作製した(第3の工程)。ウエハからリッジ型導波路を切り出し、導波路端面を光学研磨することにより、長さ10〜60mmの非線形光学結晶の導波路素子を得ることができる。
(実施例5−3)
第1の基板501は、予め周期的な分極反転構造が作製されているLiNbO3基板であり、第2の基板502は、水晶基板である。水晶のZ軸に垂直な面内方向の熱膨張係数は、13.6×10−6/Kであり、LiNbO3の熱膨張係数に近く、LiNbO3の屈折率が2.1であるのに対して、水晶の屈折率は1.53と小さいために、導波路の作製に好適である。実施例5−1と同様の製造方法により、非線形光学結晶の導波路素子を得ることができる。
なお、第1の基板501としてZn添加LiNbO3基板のほか、Mg添加LiNbO3基板、Sc添加LiNbO3基板、In添加LiNbO3基板、LiTaO3基板、LiNbxTa1−xO3基板、KNbO3基板、KTiNbO3基板などを用いてもよい。
(実施例5−4)
実施例5−1の第2の工程までに作製された基板を、ダイシングソーによる精密研削加工技術を用いて導波路を作製する。研磨された基板をダイシングソーにセットし、粒子径が4ミクロン以下のダイアモンドブレードを用いた精密加工により、幅6μmのコアを有するリッジ導波路を作製する(第3の工程)。ウエハからリッジ型導波路を切り出し、導波路端面を光学研磨することにより、長さ10〜60mmの非線形光学結晶の導波路素子を得ることができる。なお、実施例5−2および実施例5−3で作製した基板を用いることもできる。