JP4433631B2 - 希土類鉄ガーネットナノクリスタルを分散させたガラス媒体を作成する方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁性超微粒子を高密度に含むガラス媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
我々はすでにアルコキシド法でナノメーターサイズののアモルファス希土類鉄ガーネット超微粒子の作成に成功している(J. Ame. Ceramic Society Vol.77 pp.1787−1792(1994)、特開平4−95356号公報)。磁性超微粒子を分散させた分散媒質の作成は、高密度記録媒体の磁気的記録素子としての応用上の利用価値がある他、超微粒子となっているためにバルク状態とは異なった物性が現れる量子サイズ効果を応用できるので産業応用上非常に重要な意味を持つ(J. Phys. Soc. Jpn. Vol.60(1991) pp.3426−3432、IEEE Trans. Magn. Vol.30 pp.945−947(1994)。ただ実際問題として磁性超微粒子は磁気モーメントを持つから、磁性超微粒子を作成しても、互いに磁気的引力で粒子は凝集してしまい、磁性超微粒子本来の重要な性質が打ち消されてしまう。そこで、バイダーと呼ばれる有機物質の糊の中に磁性超微粒子を分散させて固めたり(磁気テープ)する方法が従来使われてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしこれらの方法は、撹拌によって分散させるためどうしても凝集を完全になくす事はできないし、強度の点でも問題があった。我々はナノサイズの気孔を持った多孔質ガラスの中に希土類鉄ガーネットのアモルファスナノ超微粒子を導入した後、熱処理によって希土類鉄ガーネットナノクリスタルをガラスの表面層の中に高密度に分散させる事に成功した。
なお、「ナノ超微粒子」とは粒径が数ナノメートルから数百ナノメートルの領域にある超微粒子を指し、「ナノクリスタル」とは大きさが数ナノメートルから数百ナノメートルの領域にある結晶粒を呼ぶことにする。また、「希土類鉄ガーネット」を以下の化学式のものに限定して使う。化学式をFe5Y3-x-yMxNyO12とし、ガーネット結晶構造を持った物質とする。式注、M,NはY,Bi,Gd,Inや希土類元素La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tn,Yb,Lnのどれかを表し、x,yは0≦x+y≦1の数を表す。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の希土類鉄ガーネットナノクリスタルを高密度にガラスの表面相中に分散させた分散媒体の作成方法は、まだ磁性を持っていないアモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子をナノメーターサイズの気孔を持つ多孔質ガラスに吸収させて導入した後、熱処理により、気孔中のアモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子を結晶化させ磁性を持った希土類鉄ガーネットナノクリスタルに変化させ、かつ多孔質ガラスの気孔を融解させて作成することを特徴とする。
【0005】
本発明の特長は
a.分散媒質の希土類鉄ガーネットが大きな磁気光学効果を有するので磁気光学素子として使える。
b.分散媒質の希土類鉄ガーネットがナノクリスタルの形で分散しているので量子サイズ効果を現し、バルクの希土類鉄ガーネットに比べ磁気光学効果が強まる可能性がある。
c.希土類鉄ガーネットナノクリスタルをガラスの表面層に単位面積当たり高密度に分散させているため、高密度光磁気記録媒体となる。
d.熱処理前は非磁性状態のpredicessorの超微粒子であるため、磁気的引力がなく、分散が完全にでき、その後の熱処理で凝集の無い磁性超微粒子を分散したものが得られる。
e.マトリックスがガラスなので可視光に対して透明でこのため、磁気光学素子として優れている。
【0006】
詳細な作成方法
1.アルコキシド法によるFe5Y3-xMxO12超微粒子の作成
まず、アモルファスY3Fe5O12ナノ超微粒子の作成法を例にとって説明する。
主要原料としては、第二鉄のアルコキシドFe(OR)3溶液とイットリウムのアルコキシドY(OR’)3溶液をFeとYのモル比が5:3になるように化学量論的に混合する。ここでRおよびR’はエチル基、ブチル基などのアルキル基を表す。この混合溶液に水を加えて加水分解を起こし、アモルファスの鉄水酸化物とイットリウム水酸化物の混合ナノ超微粒子を作成する。
ここで、単に水を加えただけでは超微粒子は生成せず、かなり大きな粒子となる。そこで加水分解の際には、たとえば鉄アルコキシドとイットリウムアルコキシドの混合溶液を沸騰状態に加熱して激しく撹拌を行いながら、100℃以上に加熱した気体の水蒸気をこの混合溶液に導入して加水分解を起こさせる。このようにすると、10nm以下の超微粒子を得ることができる。
これら鉄とイットリウムの水酸化物の超微粒子はアモルファスの状態であり単に、鉄とイットリウムの成分比が5:3のモル比になっているに過ぎない。
【0007】
この他にBi,Gd,Inや希土類元素(La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tn,Yb,Ln)を添加した化合物Fe5Y3-xMxO12やFe5Y3-x-yMxNyO12を作る場合には、例えばFe5Y3-x-yMxNyO12を作る場合は以下のようにする。ただしM,NはBi,Gd,Inや希土類元素(La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tn,Yb,Ln)のどれかを表し、x,yは0≦x+y≦1の数を表す。
5Fe(OR)3+(3−x−y)Y(OR’)3+xM(OR’’)3+yN(OR’’’)3+24H2O
→[5Fe(OH)3][(3−x−y)Y(OH)3][xM(OH)3][yN(OH)3](超微粒子)↓+15ROH+3(3−x−y)R’OH+3xR’’OH+3yR’’’OH (2)
ただし、R’’,R’’’はアルキル基を表す。
【0008】
これら超微粒子は互いに分子間力などで凝集して二次粒子を作る。そして溶液を遠心分離にかけるなどすると、ナノ超微粒子が分子間力などでくっついて塊を作り、沈澱する。この沈澱物がアモルファスYIGナノ超微粒子やアモルファスFe5Y3-xMxO12またはアモルファスFe5Y3-x-yMxNyO12のナノ超微粒子である。
【0009】
以上の方法でアモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子が作成されるが、このままではナノ超微粒子同士が分子間力などで結合し固まって大きな二次粒子を生成するのでナノサイズの気孔を持つ多孔質ガラスの気孔には導入できない。そこで次のようにアモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子をコロイド粒子としてコロイド溶液化して、一個一個のアモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子をコロイド溶液の溶媒中に分散させてこの溶液を多孔質ガラスに吸収させる。
【0010】
2.界面活性剤を使ったコロイド溶液の作成
次に、このナノ超微粒子がくっついた塊の二次粒子を一次粒子(ナノ超微粒子)
にして水や有機溶媒に分散させなければならない。このために、遠心分離で沈澱して得られた粒子を溶媒となる液体に注入して同時に界面活性剤を注入してこの溶液を高速ボールミル、ロールミル、ジェットミル、サンドミルなどで粉砕する。この粉砕によって二次粒子は分解されて一次粒子のナノ超微粒子となる。この超微粒子の表面に界面活性剤分子が付着して超微粒子は溶媒中で安定に分散することとなる。
ただし界面活性剤分子が超微粒子表面に完全に付着しない場合があるので、この場合は界面活性剤としてオレイン酸を使い、ボールミルで粉砕した後、アンモニア水を加えて、オレイン酸アンモニウムとする。
【0011】
この状態でホモジナイザーで激しく撹拌しながら溶液を98℃まで加熱する。78℃以上になると、オレイン酸アンモニウムが分解してアンモニアがガスとして放出される。一方遊離したオレイン酸分子は浮遊しているYIGまたは化合物Fe5Y3-xMxO12やFe5Y3-x-yMxNyO12の超微粒子表面に付着して表面を完全に覆ってしまう。このために超微粒子は有機溶媒中に安定に分散した状態となり、安定したコロイド溶液が作成される。これによって、コロイド粒子の二次粒子が粉砕されて本来の超微粒子の一次粒子となる。一方、超微粒子の粒径は広く分布しており、1000A以上の粒子も混在しているがこの処理によって粒径の大きな粒子は沈澱してしまうから、このコロイド溶液は粒径が300A以下の超微粒子のみを含む溶液となる。
この後、二層に別れたコロイド粒子を含む有機溶媒層と水の層をデカンテーション等によって分離してやる。以上によって得られたコロイド粒子を含む有機溶媒の溶液はコロイド粒子の濃度が小さいので、エバポレーターなどによって溶媒を蒸発させて溶液を濃縮してやる。
【0012】
3.アモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子の多孔質ガラスの気孔への導入
A.ナノメーターサイズの気孔を有する多孔質ガラス
ナノメーターサイズの気孔を有する多孔質ガラスは一般にはサースティーガラスと呼ばれているが、二つの種類にわけられる。一つはダウコーニング社製のヴァィコールガラスと呼ばれるもので、もう一つは米国NISTのW. Hallerによって開発されたコントロールドポアガラス(controlled pore glass 以下CPGと略して使う。)と呼ばれるものである(Nature Vol. 206 p.693 (1965)。
【0013】
前者は次のようにして作られる。Na2O,B2O3,SiO2を高温で溶融状態で混合しておき、急冷し、相分離を起こさせる。この時、spinodal decomposition が起き、ナノスーケールのNa2O−B2O3相とSiO2相がスピノーダル分解で相分離して析出する。この後、酸でNa2O−B2O3相を除去してSiO2相のみ残り、ナノメーターサイズの気孔を有する多孔質のガラスが生成される。
【0014】
後者は次のようにして作られる。Na2O,B2O3,SiO2を高温で溶融状態で混合しておき、冷却するところまでは同じだが、冷却後も相分離は起きない。この後、再び温度を少し上昇させてこの状態を保持する。この間に徐々に相分離が進み、ナノスーケールのNa2O−B2O3相とSiO2相が相分離して析出する。この後、酸でNa2O−B2O3相を除去してSiO2相のみ残し、ナノメーターサイズの気孔を有する多孔質のガラスが生成される。
CPGの方がヴァィコールガラスより気孔の大きさが均一であるといわれている。
【0015】
図1がCPGの表面の電子顕微鏡写真である。蜂の巣のように気孔が存在していることが分かる。今回の発明の基礎となる実験では、ヴァィコールガラスの場合は平均気孔径が11nmで平板のガラスを2.5cm四方に切って実験した。CPGの場合は、粒径が約50μmの粉末のCPGを用いた。模式図を図2に示す。気孔の平均径が48.6,114,204,292nmの4つの種類のCPGを用いて実験した。なお、今回CPGの粉末を実験に使用したのは、実験の便宜上のためである。
【0016】
B.多孔質ガラスの気孔への希土類鉄ガーネット超微粒子の導入
ヴァィコールガラス片を希土類鉄ガーネットコロイド粒子を含むコロイド溶液に漬けてこれによって希土類鉄ガーネットコロイド粒子、つまり希土類鉄ガーネットナノ超微粒子を多孔質ガラスの気孔に導入した。実験で用いた希土類鉄ガーネットナノ超微粒子はYIG(イットリウム鉄ガーネット)Y3Fe5O12である。一日ほど経った後、コロイド溶液を吸収したガラス片を取り出し空気中で乾燥させ、コロイド溶液の溶媒を蒸発させコロイド粒子のみが気孔に残るようにした。実際の実験では、これは失敗した。この原因は、試料のヴァィコールガラスの気孔が11nmと小さかったため、コロイド粒子が入り込めなかったことによる。
【0017】
CPGの場合は、瓶の中にCPGを入れておきそれにコロイド溶液を入れてCPGにコロイド溶液を吸収させる。その後、濾紙で濾して余分なコロイド溶液を捨て、コロイド溶液を吸収したCPGを得る。この後空気中で乾燥させ気孔中の溶媒も蒸発させて希土類鉄ガーネットナノ超微粒子だけが気孔中に残るようにする。図2(a)にCPGの気孔に導入された希土類鉄ガーネットナノ超微粒子の模式図を示している。
【0018】
4.YIGコロイド粒子の結晶化と多孔質ガラスの気孔の融解−熱処理条件
A.仮焼法
希土類鉄ガーネットナノ超微粒子をナノメーターサイズの気孔に導入したCPGを熱処理することにより、アモルファス状態の超微粒子が結晶化し希土類鉄ガーネットナノクリスタルに変わりかつ、ガラスの気孔が融解してなくなりナノクリスタルがガラス中に閉じこめられて分散した物質ができる(図2(b)参照)。しかし、熱処理条件によって、目的の希土類鉄ガーネットが得られないこともある。以下がその条件を求めた実験である。希土類鉄ガーネットナノ超微粒子としてはYIGナノ超微粒子を用いた。また多孔質ガラスとしてはCPGを用いた。他の希土類鉄ガーネットナノ超微粒子の場合も、この実験結果から類推できる。
仮焼は電気炉を使い、空気中で室温から200℃/時の上昇速度で温度を上げ仮焼温度Toに達するとto時間この温度に保ち、その後自然冷却する。ただし、試料B3, D1だけは窒素雰囲気中で仮焼した。今回の実験では、気孔の大きさ、仮焼温度、仮焼時間について多くの試料を作り調べた。試料の特性を表1に示す。
【0019】
B.X線回折による生成物質の同定
図3は気孔300nmのCPGを使った試料について仮焼時間2時間での仮焼温度を700℃から1000℃まで変えた場合の結果である。なお、以下回折強度のグラフはすべてスムージングを施していない生のグラフである。800℃以下ではYIGとクリストバライトが各々生成されている。生成されたYIG超微粒子の結晶粒径DはYIGの(420)の回折ピーク(2θ=32.314゜)の半値幅Δと標準多結晶シリカの(112)回折ピーク(2θ=50.138゜)の半値幅Δstを次式
D=0.9λ/(Δ−Δst)cosθ (3)
に代入して求めた。ここでλはX線の波長(0.154nm)、2θは回折角である(X線回折分析、加藤誠軌著、内田老鶴圃発行 246頁(1990)参照)。
【0020】
【表1】
【0021】
表中、To:仮焼温度(℃)、to:仮焼時間(時間)、D:YIGナノクリスタル結晶粒径(nm)、試料Ai(i=1〜9):CPGの平均気孔径は292nm、試料Bi(i=1〜4):CPGの平均気孔径は 48.6nm、試料C:CPGの平均気孔径は204nm、試料D:CPGの平均気孔径は114nm、生成物質の同定はPowder Data File of Joint Committee on Powder Diffraction Standard (JCPDS)を用いた。生成物質の横の数字はJCPDSナンバーを示す。
【0022】
cristobalite(1):39−1425、cristobalite(2):76−0936、quartz:83−2465、Fe5Y3O12:43−0507、Y2Si2O7(1):45−0042、Y2Si2O7(2):21−1459、Fe2SiO4(1):71−1667、Fe2SiO4(2):72−0297、Y2SiO5:21−1461、α−Fe2O3:80−2377、ε−Fe2O3:16−0653、Y2O3:44−0399。
【0023】
YIG超微粒子の結晶粒径Dを表1に示す。表1より、YIGの結晶粒径は温度上昇と共に非常に大きくなっている。850℃以上ではYIG粒子とシリカの反応により様々の鉄シリケイト、イットリウムシリケイト物質が生成されている。しかも、同定できないピークも多数ある。Fe2SiO4にも多数の同位体がある。このピークの多さから多数の鉄シリケイト、イットリウムシリケイトの同位体がYIG粒子とシリカの反応で生成された事が推論できる。
【0024】
図4は気孔48.6nmのCPGを使った試料について仮焼時間2時間での仮焼温度を700℃から1200℃まで変えた場合の結果である。ただし、B3の試料のみ窒素雰囲気中で仮焼している。800℃の温度ですでにYIG粒子がシリカと反応してYIG粒子が消失している。また、一番高い温度1200℃ではイットリウムシリケイトおよび鉄シリケイトが消えてクリストバライト以外はαFe2O3とY2O3がほとんどになっている。
【0025】
図5は仮焼時間依存性について調べたものである。ただし図8,9と違って温度一定ではない。ここで仮焼温度890℃、仮焼時間0時間とは、電気炉の温度を上げていき、温度が890℃になった瞬間、加熱を止めて自然冷却した事を表す。
これから675℃という低温でも16時間という長時間の仮焼を行うとYIGとシリカが反応してイットリウムシリケイトが生成される事がわかる。これからYIGとシリカに分離しているより鉄シリケイトやイットリウムシリケイトの方が熱力学的には安定な事を示している。
図6は気孔が48.6nm,300nm以外の大きさのCPGを使った試料の結果である。ただし、100nmの気孔の試料Dだけは空気雰囲気中ではなく、窒素雰囲気中で仮焼した。この試料Dと試料A3にεFe2O3が生成されている。
【0026】
C.試料の電子顕微鏡観察
以下は、今まで述べてきた方法で希土類鉄ガーネットナノクリスタルがガラスの中に分散していることを示す電子顕微鏡観察の結果である。電子顕微鏡で試料を観察するとき、電子線は試料が非常に薄くないと透過できないので以下の方法で電子顕微鏡観察ができる試料を作成した。
【0027】
仮焼した試料粉末の粒径は50μm程度で電子線を透過しないので、まず仮焼した試料粉末を瑪瑙乳鉢ですりつぶし粒径が一ミクロン以下の粉末にした。この粉砕によって非常に大部分の破片はYIG粒子を含まない純粋なシリカの破片となった。実際、粒径50μmのCPG粒子の表面に染み込めるYIG超微粒子の侵入長は0.5μm程度だから、表面層の破片以外はすべてシリカの破片となる。実際、試料B4はX線回折で同定されたように、仮焼によってYIG粒子がαFe2O3に分解して鮮明な赤色に変色したが、乳鉢による粉砕で白っぽいピンク色に変わった。これは粉砕によって粒子内部のこれもシリカが結晶化した白色のクリストバライトが現れたためである。このすりつぶした粉末を瓶の中の97%エタノールに入れて激しくかき回す。粉末がすべて沈澱する前に上澄み液を捨てる。これによって浮遊している余分なSiO2の破片を除去するためである。YIGを含む破片は比重が重くかつ磁気的な吸引力で塊を作り易いので速く沈澱する。エタノールを加えこのデカンテーションを数回行い、その後エタノールを足して激しくかき回した直後の一滴を高分子フィルムを張った銅メッシュに落としてTEM用試料を作った。
【0028】
図7,8,9は各々、試料A1,A2,A3の電子顕微鏡写真である。ガラス中の散らばった黒点がYIGナノクリスタルもしくは珪素と反応した鉄イットリウム珪酸ナノクリスタルである。この写真から超微粒子結晶がガラス中に分散して埋もれていることが分かる。また、適当な条件下で作成すると、ガラス表面相に1mm2当たり109個の希土類鉄ガーネットナノクリスタルを分散させることができることも分かった。
【0029】
D.仮焼条件
以上の実験から、実際に希土類鉄ガーネットナノクリスタルをガラスに分散させる仮焼条件は非常に厳しい条件である。
【0030】
今回の仮焼は3つのプロセスが同時進行している化学反応である。図10がこの説明の模式図である。図10(a)は仮焼前の状態で超微粒子ガラスともにアモルファスである。第一のプロセスはアモルファスYIGが結晶YIGに相転移する過程、第二のプロセスはアモルファスシリカがクリストバライト結晶に相転移する過程である。この模式図が図10(b)である。第三番目のプロセスはYIG粒子とそれに接しているシリカが反応して、鉄シリケイトやイットリウムシリケイトを生成する過程である(図10(c))。第三番目のプロセスは低温では第一、二番目のプロセスに比べてゆっくりと進行する。だから熱力学的にはシリケイト化合物が安定なのだが、2時間程度の短時間の低温仮焼ではシリケイト化合物が検出されず第一と第二プロセスのみが起こっているように見える。また、気孔の径が小さいものは接触面積も大きくなるので気孔の径の大きいものに比べて低温でも比較的速く第三の過程が観測される。また、仮焼温度を1200℃まで上げるとシリケイト化合物よりも珪酸、酸化鉄、酸化イットリウムの各酸化物に分離してしまう(図10(d))。以上から、YIG粒子を分散させたガラスを作るという応用上の目的からは仮焼方法は急激に温度を上昇させて第一、二の過程が起こる温度まで上昇させ、すぐに温度を下げて極力第三の過程が進まないようにすればいい事がわかった。
【0031】
応用分野−高密度光磁気記録媒体
1.基本的仕組
従来の光磁気記録媒体はガラスや合成樹脂の基盤の上に磁気合金などの金属を蒸着させたりして薄膜の磁気媒体を作っていた。しかしこの構造の記録媒体では、一つの情報を記録するための領域が一つの磁区領域を占めるため、1bitの情報が1平方μmの領域を占めることになり、情報記録の高密度化の障害になっていた。
【0032】
これを克服するため最近いくつかの試みがなされている。例えば非磁性基板の上にフォトマスクで格子状のアレイを作り、そこにスパッタリングなどでコバルトなどの磁性金属などをスパッタリングやイオンプレーティングなどで付着させ、最後にフォトマスクを溶かして取り去り、磁性のドット構造を作る。各磁性ドットに1bitの情報を記録させる試みがなされている。この場合、各磁性ドットの大きさは100nm程度であるから情報の高密度化が可能である。
【0033】
2.希土類鉄ガーネットナノクリスタル分散ガラスの優位性
しかし、上記の記録媒体には致命的な短所がある。スパッタリングなどで磁性金属を付着させる方法なので希土類鉄ガーネットのような複雑な結晶構造の化合物のドットができないのである。このため、光磁気記録媒体でこのようなナノスケールのドットの作成が待ち望まれていた。今回の希土類鉄ガーネットナノクリスタルを分散させたガラス媒体はこのような高密度光磁気記録媒体として最適のものである。一個のナノクリスタルに1bitの情報を記録できるので、記録密度の飛躍的増大が可能である。例えば直径20nmのYIGナノクリスタルが30nmの間隔をおいてガラス中に分散している場合、ガラス表面1平方mm当109個のYIGナノクリスタルが存在するから、記録情報密度としては1Gbit/mm2が達成される。現在の記録密度はハードデスクドライブで2Mbit/mm2であるから500倍程度の高密度化が可能である。
【0034】
【発明の効果】
本発明により、我々はナノサイズの気孔を持った多孔質ガラスの中に希土類鉄ガーネットのアモルファスナノ超微粒子を導入した後、熱処理によって希土類鉄ガーネットナノクリスタルをガラスの表面層の中に高密度に分散させる事に成功した。また、本発明の希土類鉄ガーネットナノクリスタルを分散させたガラス媒体は、高密度光磁気記録媒体として最適のものであり、一個のナノクリスタルに1bitの情報を記録できるので、記録密度の飛躍的増大が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】CPGガラスの電子顕微鏡写真。蜂の巣のような気孔の存在が分かる。
【図2】CPGガラスの粉末粒子がアモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子を吸収した状態(a)、および仮焼後希土類鉄ガーネットナノクリスタルを分散した状態(b)の模式図である。
【図3】平均気孔径292nmのCPGを用いてアモルファスYIGナノ超微粒子を吸収させた多孔質ガラスの2時間の仮焼時間での仮焼温度を変えた場合の生成物のX線回折結果。試料名および同定した結果は表1に示してある。。
【図4】平均気孔径48.6nmのCPGを用いてアモルファスYIGナノ超微粒子を吸収させた多孔質ガラスの2時間の仮焼時間での仮焼温度を変えた場合の生成物のX線回折結果であり、試料名および同定した結果は表1に示してある。また各ピークの印は図3参照。
【図5】平均気孔径292nmのCPGを用いてアモルファスYIGナノ超微粒子を吸収させた多孔質ガラスの仮焼時間を変えた場合の生成物のX線回折結果であり、試料名および同定した結果は表1に示してある。また各ピークの印は図3参照。
【図6】平均気孔径114, 204nmのCPGを用いてアモルファスYIGナノ超微粒子を吸収させた多孔質ガラスの2時間の仮焼時間での仮焼温度を変えた場合の生成物のX線回折結果であり、試料名および同定した結果は表1に示してある。また各ピークの印は図3参照。
【図7】試料A1の電子顕微鏡写真である。
【図8】試料A2の電子顕微鏡写真である。
【図9】試料A3の電子顕微鏡写真である。
【図10】仮焼による化学反応の進行の模式図である。イオンを表す各円の半径は各イオンのイオン半径に比例している。
【符号の説明】
1 アモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子
2 気孔
3 CPGガラス
4 希土類鉄ガーネットナノクリスタル
Claims (5)
- アモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子をナノメーターサイズの気孔を有する多孔質ガラスの気孔に導入した後、熱処理によって気孔中のアモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子を希土類鉄ガーネットナノクリスタルに変化させ、同時に多孔質ガラスの気孔を融解させて通常のガラスとし、最終的に希土類鉄ガーネットナノクリスタルを高密度に含むガラスを作成する方法。
- 多孔質ガラスが15〜400nmの平均気孔径を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
- アモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子がアルコキシド法によって作成されたことを特徴とする請求項1記載の方法。
- アモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子を多孔質ガラスの気孔に導入するため、アモルファス希土類鉄ガーネットナノ超微粒子をコロイド粒子とするコロイド溶液とし、次いでコロイド溶液を多孔質ガラスに吸収させることを特徴とする請求項1記載の方法。
- 熱処理が空気中もしくは窒素ガスもしくは不活性ガス雰囲気中で650〜850℃の領域の温度で2時間仮焼することを特徴とする請求項1記載の方法。
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