JP4418906B2 - 防じんマスク用フィルタ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、防じんマスク用フィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来用いられている一般的な防じんマスクaは、図9に示すように、フィルタbが収納されたフィルタケースdを前面中央部に着脱自在に取り付け、外気をフィルタbで濾過した後、フィルタケースdの中心部の内面側に設置した吸気弁cを介して、面体内に取り込む構造となっている。
従って、吸気時におけるフィルタbの内側と外側との気圧差は、吸気弁cに近い中心付近で最も大きくなるので、フィルタbの通気流速は、その中心付近の方が外周付近よりも速くなり、この結果、粉じんはフィルタbの中心付近に集まる傾向にある。
【0003】
ところで、防じんマスクは、その効果として労働衛生面だけを強調すれば、粉じん環境から着用者を防護することを優先させればよいが、作業の安全性を考慮すると着用者の行動や視野を阻害するものであってはならない。また、防じんマスクを装着することによる息苦しさから作業能率の低下があっては困る。すなわち、防じんマスクは様々な観点から見てバランスがとれていなければならない。
そして、防じんマスク用フィルタは、その容積が可能な限り小さい方がマスクに占める割合が少なくなって、マスク装着時における視野が広がる。また、フィルタの質量は小さい方が違和感も少なくなり、粉じん捕集効率が高いほど有害粉塵を体内に取り込むことが少なくなる。さらに、通気抵抗及び使用中の粉じん堆積に伴う通気抵抗の上昇が低いほど、着用者への呼吸の負担が少なくなり、作業性が良好となる。通常、フィルタの通気抵抗が約98Paを越えると人間は息苦しさを感じるといわれている。
【0004】
また、防じんマスクには、主に2種類の捕集方式によるフィルタが用いられる。ひとつは静電フィルタであり、もうひとつはメカニカル捕集方式のフィルタである。
静電フィルタは、例えば基材のフェルトに静電気を帯電する特殊な樹脂加工を施したもので、濾過層全体で粉じんを捕集できるものである。
これに対して、メカニカル捕集方式フィルタは、極細径の繊維を密集させたもので、その表面に粉じんを堆積させて捕集するものである。
このようなメカニカル捕集方式フィルタは、これを構成する繊維の径を細くし、繊維間距離を狭めることで捕集効率を高めることができるが、一定限度以上になると通気抵抗が大きくなりすぎる。また、フィルタの肉厚を厚くすると、捕集効率を高めることはできるが、通気抵抗、質量及び容積が増加するという弊害が生ずる。
【0005】
さらに、メカニカル捕集方式フィルタをラウンドプリーツ状に成形し、フィルタの有効濾過面積を底面積の数倍になるように増加させて、捕集効率を向上させると共に、通気抵抗の増加を抑える技術が知られている。
しかし、ただ単にプリーツの数を増加させるだけでは、質量が大きくなって容積が増大してしまう。また、質量及び容積の増加を抑えてプリーツの数を多くする目的で、全体の肉厚を薄くしたり、プリーツ間の隙間を狭くすると、強度が低下して破損部分から粉じんが侵入する虞があると共に、目詰まりを起こしやすくなり、しかも、目詰まりした粉じんを再使用のためにたたき落とそうとしても落ちにくくなり、この結果、フィルタの寿命が短くなってしまう。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、粉じんを多く含んだ空気が通過する中心付近の捕集効率を低下させることなく、質量及び容積の増加を抑えることが可能で、初期の通気抵抗が低く、しかも使用中における通気抵抗の上昇を抑制することができる防じんマスク用フィルタを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の防じんマスク用フィルタは、中心から外周までの範囲において、単位面積あたりの通気抵抗が中心から外周に向かって徐々に小さくされ、且つ複数の同心円形のプリーツが折曲形成されたことを特徴とする構成を有する。吸気時における通気流速が中心付近と外周部とでは差ができるが、上記構成により、粉じんを含む空気が通過しようとする中心付近の捕集効率を低下させることがない。また、同一半径方向の長さに対する外周部の面積は中心付近のそれよりも広いことから、初期の通気抵抗は外周部の通気抵抗に依存するが、この部分の単位面積あたりの通気抵抗が小さいため、初期の呼吸への負担が少なくて済み、通気抵抗と質量とは一般的に比例するので、質量の増加も抑えられる。さらに、外周付近の単位面積あたりの通気抵抗が中心付近よりも小さくなる結果、堆積する粉じんの厚みが全面に亘って均一化され、時間経過に伴う通気抵抗の上昇が緩和される。また、同心円形のプリーツに形成したことにより、底面積に対する有効濾過面積が大幅に増大して、底面積の拡大及び通気抵抗の増加を生ずることなく捕集効率が向上する。
【0008】
単位面積あたりの通気抵抗を中心から外周に向かって徐々に小さくする構成の一態様として、肉厚を中心から外周に向かって徐々に薄くすることができる。これにより、全体の質量及び容積の増加が抑制され、強度の低下及び捕集効率の低下を防止できる。
また、単位面積あたりの通気抵抗を中心から外周に向かって徐々に小さくする構成の他の態様として、坪量を中心から外周に向かって徐々に小さくすることができる。これによっても、全体の質量の増加、強度の低下並びに捕集効率の低下を防止できる。
【0009】
同心円形のプリーツに折曲すると共に、プリーツ間の隙間を0.5mm以上としても良い。同心円形のプリーツに形成したことにより、底面積に対する有効濾過面積が大幅に増大して、底面積の拡大及び通気抵抗の増加を生ずることなく捕集効率が向上する。プリーツ間の隙間を0.5mm以上とした構成は、目詰まりを防ぎ、堆積した粉塵の落下を容易とする。なお、この時、肉厚は、2.0〜0.5mmの範囲内で徐々に薄くしても良い。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1及び図2は本発明の第1の実施形態を示す。防じんマスク用フィルタ1は、ガラス繊維を主材料とし、加工性を良くするためにこれに適量のセルロース繊維を混入した極細径の繊維を、同心円形のプリーツに一体抄紙成形したメカニカル捕集方式のフィルタである。また、防じんマスク用フィルタ1には、抄紙前の繊維を難燃剤の水溶液に含浸させるか、抄紙したものに難燃剤の水溶液をスプレーによって塗布することにより、難燃加工を施してある。なお、難燃剤としては、燐窒素化合物、ハロゲン燐酸エステル、スルフォアミド化合物等を用いることができ、このように難燃剤を混入することで溶接作業時の安全性が増す。
【0011】
防じんマスク用フィルタ1は、中心円筒部2の外側に9個の同心円形のプリーツ3が形成されるよう折曲され、全体の直径は64mm、高さは16.5mm、質量は約4gである。
防じんマスク用フィルタ1の肉厚は、中心から外周に向かって徐々に薄くなっており、中心部における最大肉厚は1.5mmで、外周部における最小肉厚は0.5mmである。従って、防じんマスク用フィルタ1の単位面積あたりの通気抵抗は、中心から外周に向かって徐々に小さくなっている。
さらに、防じんマスク用フィルタ1の各プリーツ3の間には、0.5mm以上の同じ幅の隙間4がそれぞれ形成されている。
【0012】
この防じんマスク用フィルタ1は、図3に示すように、フィルタケース5に収納され、該フィルタケース5が図7に示すものと同様な防じんマスクに装着される。フィルタケース5の外面側には円環状の外気取り込み口6が穿設されると共に、内面側の中央部には円形の吸気口7が穿設されている。そして、吸気口7の内側には防じんマスクの吸気弁が配置されることになる。
従って、防じんマスク用フィルタ1の外側と内側との気圧差は、吸気弁に近い中心付近において最も大きいので、防じんマスク用フィルタ1の各部における通気流速は、中心付近の方が外周付近よりも速い。このため、外気と共に吸引された粉じんは、防じんマスク用フィルタ1の中心付近に引き寄せられ、この部分を通過しようとする。
【0013】
第1の実施形態においては、防じんマスク用フィルタ1の肉厚は、粉じんが多く通過する中心付近において最も厚くなるよう形成されているので、捕集効率が高く合理的である。しかも、肉厚を全面に亘って均一に厚くするのに比べて、質量及び容積の増大が僅かで済む。
また、外周付近の方が肉厚が薄くて単位面積あたりの通気抵抗が小さいため、空気の流れが中心付近に偏るのを是正することになり、この結果、堆積する粉じんの量を防じんマスク用フィルタ1の全面に亘って均一化する。このため、防じんマスクを使用中に、防じんマスク用フィルタ1の中心付近に厚く粉じんが堆積して、吸気弁に臨む中心付近の通気抵抗が上昇するのを防ぐ。
さらに、プリーツ3間の隙間4の幅は0.5mm以上あるので、粉じんが目詰まりしにくく、たとえ目詰まりしても粉塵堆積面を下に向けて軽くたたくだけで簡単に落とすことができる。
【0014】
この防じんマスク用フィルタ1と、原料が同一で肉厚が均一な従来のラウンドプリーツ状フィルタとの諸性能を比較した結果を表1に示す。なお、表1において、捕集効率は、通気流量を30l/minとし、試験粉塵をシリカ粉じんとした時の捕集効率を、上昇値1は、通気流量を40l/minとし、シリカ粉じんが100mg堆積した時の通気抵抗を、上昇値2は、通気流量を40l/minとし、CO2 溶接ヒュームが100mg堆積した時の通気抵抗をそれぞれ示す。
【0015】
【表1】
また、比較例1は第1の実施形態の防じんマスク用フィルタ1とほぼ同じ容積であるが、比較例2は1.3倍、比較例3は1.1倍であるため、全ての比較例を防じんマスク用フィルタ1と同じ容積に換算した時の諸性能を比較して、表2に示す。
【0016】
【表2】
表1及び表2から、質量については、比較例3の方が本実施形態の防じんマスク用フィルタ1より軽いものの、その他の寸法については、ほぼ同じか防じんマスク用フィルタ1の方が小型であり、捕集効率、当初の通気抵抗及び粉じん堆積に伴う通気抵抗の上昇の面では、防じんマスク用フィルタ1の方が勝っていることがわかる。
【0017】
さらに、シリカ粉じんを5mg/m3含む空気を用いて濾過試験を行った時の、本実施形態の防じんマスク用フィルタ1と、比較例1及び比較例3の捕集効率及び通気抵抗の経時変化を図4に示す。
図4に示すとおり、試験開始後の通気抵抗は、比較例1のフィルタでは7.04時間経過した時点で、また比較例2のフィルタは7.62時間経過した時点で、息苦しさを感ずる98Paに達する。しかし、防じんマスク用フィルタ1は、10時間以上経過しても98Paに達せず、ほぼ10.9時間後に98Paに達するものと予想され、比較例1及び3に比べて使用時間が3割程度延びることがわかる。
【0018】
試験粉じんをシリカ粉じんよりも目詰まりしやすいCO2 溶接ヒュームとした時の、本実施形態の防じんマスク用フィルタ1と、比較例1及び比較例3の通気抵抗の経時変化を図5に示す。
また、試験粉じんを低水素系溶接ヒュームとした時の、本実施形態の防じんマスク用フィルタ1及び比較例1の通気抵抗の経時変化を図6に示す。
いずれの場合も、本実施形態の防じんマスク用フィルタ1の方が、粉じんの堆積に伴う通気抵抗の上昇が緩やかであることがわかる。
【0019】
図7は本発明の第2の実施形態を示す。
防じんマスク用フィルタ1aは、中心円筒部2aの外側に9個の同心円上のプリーツ3aを一定ピッチで形成して成る。また、防じんマスク用フィルタ1の肉厚は、中心から外周に向かって、1.5〜0.5mmの範囲で徐々に薄く形成される。
従って、プリーツ3a間の隙間4aの幅は、中心付近の方が外周付近よりも狭くなるが、最も狭い隙間4aでも0.5mm以上とする。
その他の構成は、図1に示す防じんマスク用フィルタ1とほぼ同様なので、説明を省略する。
なお、第1及び第2の実施形態において、防じんマスク用フィルタ1,1aの最大肉厚は2.0mmまで厚くすることができる。この程度に厚くしても、質量及び容積は多少増加するものの、着用した場合に作業し難くなるほどではなく、捕集効率が高まる。
【0020】
図8は本発明の第3の実施形態を示す。
防じんマスク用フィルタ1bは折り曲げられておらず、平滑で、且つ、肉厚が中心から外周に向かって徐々に薄くなるよう一体抄紙成形されている。なお、防じんマスク用フィルタ1bの材質は、第1の実施形態の防じんマスク用フィルタ1と同じである。
この防じんマスク用フィルタ1bは、第1及び第2の防じんマスク用フィルタ1,1aよりも捕集効率が低いので、過酷な作業環境で用いるには不向きであるが、質量及び容積が小さく、粉じんが集中しやすい中心部分の捕集効率を外周部よりも高めると共に、堆積する粉じんを全面に亘って均一化することができるため、より一般的な環境において用いる簡易型の防じんマスクへ装着するのに適している。
【0021】
なお、上記第1乃至第3の実施形態において、防じんマスク用フィルタの肉厚を変えずに、その坪量を中心から外周部に向かって徐々に小さくすることにより、単位面積あたりの通気抵抗を中心から外周に向かって徐々に小さくすることもできる。
このようにしても、防じんマスク用フィルタの中心付近の捕集効率を低下させず、しかも、全体の通気抵抗、質量及び容積の増加を抑制することができる。
また、本発明の防じんマスク用フィルタは、メカニカル捕集方式のフィルタだけでなく、フェルト等の基材に静電気を帯電させた静電フィルタや、静電気保持型の繊維からなる不織布を素材とする静電フィルタとすることも可能である。
【0022】
【発明の効果】
請求項1に記載された構成によれば、防じんマスクの吸気弁に近いため、粉じんを含む空気が多く通過する中心付近の捕集効率を低下させることなく、初期の通気抵抗を低く抑えることができる。また、一般的に質量と通気抵抗とは比例するので、面積が広い外周部の単位面積あたりの通気抵抗を小さくした結果、全体の質量の増加を抑制することができる。
また、外周付近の単位面積あたりの通気抵抗が中心付近よりも小さいので、堆積する粉じんの厚みが全面に亘って均一化され、このため、時間経過による通気抵抗の上昇が緩和されて、フィルタの寿命が延び、その交換頻度が少なくて済む。
【0023】
請求項4に記載された構成によれば、底面積に対する有効濾過面積が大幅に増大するので、底面積を拡げることなく捕集効率を高めることができ、同時に、捕集効率の向上に伴う通気抵抗の増加を抑制することができる。
また、プリーツ間の隙間の幅が0.5mm以上あるので、目詰まりを起こしにくく、目詰まりをした場合にも、軽くたたくだけで簡単に堆積した粉じんを落とすことができ、この結果、繰り返し使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す防じんマスク用フィルタの断面図
【図2】同上の斜視図
【図3】防じんマスク用フィルタを通して吸気した時の空気の流れを示す断面図
【図4】試験粉じんをシリカ粉じんとした時の、第1の実施形態の防じんマスク用フィルタ及び従来のフィルタの捕集効率及び通気抵抗の経時変化を示す図
【図5】試験粉じんをCO2 溶接ヒュームとした時の、第1の実施形態の防じんマスク用フィルタ及び従来のフィルタの通気抵抗の経時変化を示す図
【図6】試験粉じんを低水素系溶接ヒュームとした時の、第1の実施形態の防じんマスク用フィルタ及び従来のフィルタの通気抵抗の経時変化を比較する図
【図7】本発明の第2の実施形態を示す防じんマスク用フィルタの断面図
【図8】本発明の第3の実施形態を示す防じんマスク用フィルタの断面図
【図9】防じんマスクの断面図
【符号の説明】
1,1a,1b 防じんマスク用フィルタ
2,2a 中心円筒部
3,3a プリーツ
4,4a 隙間
5 フィルタケース
6 外気取り込み口
1 吸気口
Claims (5)
- 中心から外周までの範囲において、単位面積あたりの通気抵抗が中心から外周に向かって徐々に小さくされ、且つ複数の同心円形のプリーツが折曲形成されたことを特徴とする防じんマスク用フィルタ。
- 肉厚を中心から外周までの範囲において中心から外周に向かって徐々に薄くすることにより、中心から外周までの範囲において、単位面積あたりの通気抵抗が中心から外周に向かって徐々に小さくされたことを特徴とする請求項1に記載の防じんマスク用フィルタ。
- 肉厚を変えずに、その坪量を、中心から外周までの範囲において中心から外周に向かって徐々に小さくすることにより、中心から外周までの範囲において、単位面積あたりの通気抵抗が中心から外周に向かって徐々に小さくされたことを特徴とする請求項1に記載の防じんマスク用フィルタ。
- 前記複数のプリーツ間の隙間が0.5mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の防じんマスク用フィルタ。
- 前記複数のプリーツの肉厚が、中心から外周に向かって、2.0〜0.5mmの範囲内で徐々に薄くなっていることを特徴とする請求項4に記載の防じんマスク用フィルタ。
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