JP4417597B2 - 汎用エンジンの制御装置 - Google Patents

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  • Combined Controls Of Internal Combustion Engines (AREA)
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は汎用エンジンの制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
汎用エンジン、即ち、単気筒あるいは2気筒以下の気筒数を備え、スロットルバルブで調量された吸入空気をキャブレタを介してガソリン燃料と混合して気筒に吸入させ、点火して燃焼させる火花点火式の内燃エンジンは、良く知られており、携帯発電機、農作業機、土木作業機など種々の機械の動力源として使用されている。
【0003】
この種の汎用エンジンにあっては堅牢で安価であることが望まれるので、燃料供給系にはキャブレタが用いられると共に、始動もリコイルスタータを介して手動で行われる。さらに、使用回転域も一定していることから、通例、ウエイトとスプリングからなる機械的なガバナを用いて回転数を制御している。
【0004】
しかしながら、この種の汎用エンジンにあっても、近時、スロットルバルブにリニアソレノイドあるいはステップモータなどのアクチュエータを接続し、マイクロコンピュータからなる電子制御ユニット(ECU)を用いてアクチュエータの指令値をPID制御することも提案されつつある。
【0005】
さらに、汎用エンジンではないが、乗用車用の内燃エンジンに関しては、例えば、特開平10−103131号公報に記載されるように、適応制御器を用いて空燃比を制御することが提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
機械式ガバナは電源が不要で安価であるが、負荷の多寡に関わらず一定回転を保持するのが困難であると共に、機種や使用回転域に応じてスプリング特性などを設定する必要があった。またスロットルバルブにアクチュエータを接続してその指令値をPID制御則を介して制御する場合、発電機などの負荷に応じてPID制御ゲインを設定する必要があると共に、使用回転域が変更されると、ゲインを設定し直す必要がある。即ち、PID制御則を用いて制御する場合、制御対象の特性が変化したとき、最適な安定性と追従性が保証されない不都合がある。
【0007】
それに対し、アクチュエータの指令値を適応制御則を用いて設定するようにすると、演算量は増加するものの、負荷を考慮することなくゲインを設定できる点で、制御対象の特性の変化に対してロバストな制御を実現することができると共に、使用回転数を自由に設定できるなどの利点がある。
【0008】
そのような適応制御を実機に応用するとき、汎用エンジンの回転数の適応制御において、目標回転数への収束性を上げるために収束ゲインを高めに設定すると、外乱を受けた場合に目標値近傍で回転数が不安定となる。他方、安定性を優先して収束ゲインを低めに設定すると、負荷の変動などでプラントの特性が大幅に変化する場合に収束性が低下する。
【0009】
従って、この発明の目的は上記した課題を解消することにあり、少なくとも2気筒以下の個数の気筒を備え、スロットルバルブで調量された吸入空気をキャブレタを介してガソリン燃料と混合して前記気筒に吸入させ、点火して燃焼させる火花点火式の内燃エンジンからなる汎用エンジンにおいて、前記スロットルバルブにアクチュエータを接続し、アクチュエータの指令値を適応制御器を用いて演算すると共に、目標回転数への収束性と安定性を最適にバランスさせるようにした汎用エンジンの制御装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1項にあっては、少なくとも2気筒以下の個数の気筒を備え、スロットルバルブで調量された吸入空気にキャブレタを介してガソリン燃料を噴射し、よって生成された混合気を前記気筒に吸入させて点火・燃焼させる火花点火式の内燃エンジンからなる汎用エンジンの制御装置において、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段、前記スロットルバルブに接続され、指令値に応じて作動して前記スロットルバルブを開閉するアクチュエータ、前記エンジンの目標回転数を決定する目標回転数決定手段、パラメータ同定機構を備えると共に、前記検出された回転数が前記目標回転数に一致するように、前記パラメータ同定機構で同定された適応パラメータを用いて前記アクチュエータに供給すべき指令値を演算する適応制御器、前記演算された指令値に基づき、前記アクチュエータに供給すべき指令値を決定する指令値決定手段、および前記適応パラメータの同定速度を決定するゲインを前記検出された回転数と前記目標回転数の偏差に応じて設定するゲイン設定手段を備える如く構成した。
【0011】
適応パラメータの同定速度を決定するゲインを検出された回転数と目標回転数の偏差に応じて設定するように構成したので、例えば、回転数偏差が小さいときは低くする一方、それ以外では高くするように算出(設定)することが可能となり、汎用エンジンの回転数制御において安定性と収束性を最適にバランスさせることができる。
【0012】
請求項2項においては、前記ゲイン設定手段は、前記目標回転数から前記検出された回転数を減算して前記偏差を算出すると共に、前記算出された偏差を正値からなる第1の規準値と比較し、前記偏差が第1の規準値より大きいとき、前記ゲインを第1の値に設定する第1ゲイン設定手段、前記算出された偏差を負値からなる第2の規準値と比較し、前記偏差が第2の規準値より小さいとき、前記ゲインを第2の値に設定する第2ゲイン設定手段、および前記偏差が前記第1の規準値以下であると共に、前記第2の規準値以上であるとき、前記ゲインを第3の値に設定する第3ゲイン設定手段を備える如く構成した。
【0013】
このように、収束ゲインを可変とすると共に、偏差が第1の規準値より大きいときは前記ゲインを第1の値に設定し、偏差が第2の規準値より小さいときは第2の値に設定すると共に、前記第1の規準値以下であり、かつ前記第2の規準値以上であるときは第3の値に設定する、換言すれば、回転数偏差が小さいときは低くする一方、それ以外では高くするように算出(設定)するように構成したので、汎用エンジンの回転数制御において安定性と収束性を一層最適にバランスさせることができる。
【0014】
請求項3項にあっては、前記第1の値が前記第2の値より大きい如く構成した。
【0015】
前記第1の値が前記第2の値より大きいように構成したので、即ち、収束ゲインを、検出回転数が目標回転数を下回って不足する場合、検出回転数が目標回転数を上回って越える場合に比して高くするように設定したので、検出回転数が目標回転数を上回って越える場合と同様の時間で目標値に収束させることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に即し、この発明の一つの実施の形態に係る汎用エンジンの制御装置を説明する。
【0017】
図1はその汎用エンジンの制御装置を全体的に示す概略図である。
【0018】
図1において、符号10は汎用エンジン(以下「エンジン」という)を示し、エンジン10は、水冷4サイクルのOHV型であり、196ccの排気量を備える。
【0019】
エンジン10は1個の気筒(シリンダ)12を備え、その内部にピストン14が往復動自在に収容される。ピストン14はクランクシャフト16に連結され、クランクシャフト16はギヤを介してカムシャフト18と連結される。
【0020】
ピストン14の頭部と気筒壁面の間には燃焼室20が形成されると共に、気筒壁面には吸気バルブ24と排気バルブ26が配置され、燃焼室20と吸気路28あるいは排気路30の間を開閉する。
【0021】
クランクシャフト16にはフライホイール32が取り付けられると共に、フライホイール32の先端側には操作者がエンジン10を始動させるための、リコイルスタータ34が取り付けられる。フライホイール32の内側には発電コイル(オルタネータ)36が配置され、交流を発電する。発電された交流は整流回路(図示せず)を介して直流に変換され、点火プラグ(図示せず)などに供給される。
【0022】
吸気路28の上流にはキャブレタ38が配置されると共に、それと一体に構成されたスロットルバルブ40が配置される(図1においてスロットルバルブ40はその軸で示す)。キャブレタ38は燃料タンク(図示せず)に燃料管(図示せず)を介して接続され、そこに貯留されたガソリン燃料を供給され、吸入された空気にノズルからガソリン燃料を噴射して混合気を生成する。生成された混合気は吸気路28の下流を流れ、吸気バルブ24を通って気筒12の燃焼室20に吸入される。
【0023】
スロットルバルブ40はステップモータ(アクチュエータ)46が接続され、指令値(ステップ(角))を供給されて動作し、指令値に応じてスロットルバルブ40を開閉する。尚、図1においてステップモータ46はキャブレタ38の裏側に配置されるため、想像線で示す。
【0024】
また、フライホイール32の付近には電磁ピックアップからなるクランク角センサ(回転数センサ)48が設けられ、クランク角度12度ごとにパルスを出力する。このように、クランク角センサ48はクランクシャフト1回転(クランク角度で360度)当たり30個、即ち、カムシャフト1回転(クランク角度720度)当たり60個のパルスを出力する。
【0025】
エンジン10の適宜位置にはケース内に収容されたECU(電子制御ユニット)50が配置され、クランク角センサ48の出力はECU50に送られる。ECU50はマイクロコンピュータからなり、CPU,ROM,RAMおよびカウンタを備える。ECU50においてクランク角センサ48の出力パルスはカウンタに入力され、そこでカウントされてエンジン回転数(以下「回転数」と略称する)NEが算出(検出)される。
【0026】
ECU50は検出された回転数などに基づき、後述するように適応制御演算(適応制御器およびパラメータ同定機構からなる適応制御則を用いた演算)を行い、検出された回転数が目標回転数に一致するようにステップモータ(アクチュエータ)46の指令値を算出し、前記したケース内に隣接して配置されたモータドライバ54を通じて指令値をステップモータ46に出力して作動させる。尚、エンジン10には、発電機(図示せず)が負荷として接続される。また、図1において符号58は冷却ファンを、符号60はヘッドカバーを示す。
【0027】
図2はそのECU50の動作を機能的に示すブロック図である。
【0028】
図示の如く、ECU50は、回転数検出部100(クランク角センサ48、カウンタ)で検出される回転数NEと、目標回転数入力部102で入力された目標回転数NEMなどに基づいて適応制御演算部104において適応制御演算を行って指令値(スロットル開度指示値)を算出し、モータドライバ54を介してステップモータ46を作動させ、スロットルバルブ40を開閉する。
【0029】
また、回転数検出部100の出力は点火処理・過回転検出部106にも入力され、そこで点火処理と過回転検出が行われる。点火処理は、メインSW(スイッチ)がオンされた状態で、所定のクランク角度で前記した整流回路の出力を点火コイル(図示せず)の1次側に供給して通電を開始し、所定のクランク角度(例えばBTDC10度)で通電を遮断して2次側に高電圧を生じさせ、点火プラグを通じて気筒12の燃焼室内の混合気が着火されて燃焼する。尚、メインSWは、ECU50に動作電源を供給するためのスイッチであるが、図1で図示を省略した。
【0030】
このように、点火は固定点火であり、またエンジン10はバッテリを備えない。尚、点火処理・過回転検出部106は、検出された回転数NEを上限値と比較し、検出回転数が上限値を超えるときは過回転数と判断し、点火をカット(中止)し、エンジン10を停止させる。
【0031】
尚、図1においてエンジン10として単気筒のエンジンを示したが、この実施の形態に係る汎用エンジンの制御装置は、2気筒の汎用エンジンについても同様に妥当する。逆に言えば、この実施の形態に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、2気筒以下の汎用エンジンを前提とする。
【0032】
ここで、上記した適応制御演算部104が行う適応制御演算について説明する。
【0033】
図1に示すような、スロットル開度THを入力とするエンジン10を簡略にモデル化して示すと、図3に示す如くとなる。適応制御を行うに際し、図3で破線で囲まれている部分をENGINE(エンジン)モデルとみなし、1つのブロックとして扱うことにした。尚、図3で、Gaは吸入空気質量、Gfはガソリン燃焼質量、Pmiはピストン14が生じる、その質量mとイナーシャiの積からなる出力を意味する。
【0034】
制御の目標は、制御対象(ENGINEモデル)の出力である回転数NEが目標値(目標回転数NEM)と等しくなるように、入力であるスロットル開度THを演算して調整することにある。ここでは、負荷変動が主な未知パラメータとなり、負荷(発電機)を含めたエンジン10の燃焼モデルのパラメータを逐次演算で求めることなる。
【0035】
具体的には、図4に示す構成のSTR(セルフチューニングレギュレータ)を用い、図3の破線で囲まれたENGINEモデルを制御対象とする制御モデルを構築する。図4において(パラメータ)同定機構110は、制御対象の入力であるスロットル開度THと回転数NEを用い、負荷変動までも含めたENGINEモデルのパラメータ(適応パラメータ)θハットを同定する(ハットは推定値を示す)。
【0036】
次いで、同定されたパラメータを用い、目標回転数NEMと検出回転数NEの差が零となるように、コントローラ(適応制御器)112でスロットル開度THを修正する。それを逐次繰り返すことにより、検出回転数NEが目標回転数NEMと一致するようなスロットル開度THを決定することができる。
【0037】
図4を参照してこの実施の形態に係る適応制御をより具体的に説明する。尚、この適応制御自体は、公知なものである。
【0038】
図示のプラントは、一般的には、数1のような1入力1出力の線形離散時間系で示される。
【0039】
【数1】
Figure 0004417597
【0040】
数1で、A,B:プラントの伝達関数を示す係数行列、y(k):時刻kにおけるプラント出力(回転数)、u(k):時刻kにおけるプラント入力(スロットル開度TH。より具体的にはステップモータへの指令値(ステップ(角))、w(k):時刻(k) における白色雑音である。
【0041】
これによって、目標の回転数を得るためには、スロットル開度をどのような値に調整すれば良いか計算することができる筈である。しかしながら、実際には負荷が大きく変動すると共に、エンジンが異なれば、特性も異なる。従って、特性の変化を推測することが必要となる。
【0042】
そこで、目標回転数NEMをym(k)、既知パラメータ(適応パラメータ)をθ、既知信号をζ(k) とおくと共に、プラントのパラメータを未知としてθを可調整パラメータθハットT(k) で置き換え、プラントの入力u(k) 、即ち、コントローラ出力を数2のように算出するようにした。尚、Tは転置行列であることを示す。
【0043】
【数2】
Figure 0004417597
【0044】
数2でb0は、ゲインを決定するスカラ量である。尚、θとζ(k) は、それぞれ、数3のように示される。
【0045】
【数3】
Figure 0004417597
【0046】
これによって、汎用エンジン10において負荷が変動したり、機種が相違しても、特性の変化を推測することができる。尚、図示の構成において、パラメータ調整則は数4あるいは数5のようになる。
【0047】
【数4】
Figure 0004417597
【0048】
【数5】
Figure 0004417597
【0049】
数5に示すパラメータ調整則を用いると、可変ゲインλ1(k) ,λ2(k) の選び方によって固定ゲイン、漸減ゲイン、最小二乗法および固定トレースからなる4種のアルゴリズムを選択することができる。
【0050】
この実施の形態においては、数4に示すパラメータ調整則を選び、後述するように適応パラメータθの同定速度(収束性)を決定する収束ゲインγの値を回転数偏差に応じて可変に設定するようにした。尚、数4でεは同定誤差を示す信号である。
【0051】
上記を前提とし、図5フロー・チャートを参照してこの実施の形態に係る汎用エンジンの制御装置の動作を説明する。
【0052】
図示のプログラムは、リコイルスタータ34を介してエンジン10が手動で始動されると、前記したECU50において実行され、10msecごとにループされる。
【0053】
先ず、S10において発電コイル(オルタネータ)36の出力電圧がエンジン10の完爆回転数相当値まで立ち上がったか否か、換言すれば、エンジン10が始動されたか否か判断する。尚、ECU50は、その完爆回転数相当値未満の電圧で起動され、図示のプログラムが実行されて10msecごとにループされる。
【0054】
S10で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS12に進み、スロットル位置初期化処理を行う。これは具体的には、ステップモータ46に指令値(ステップ(角))を出力し、スロットルバルブ40を全閉開度相当位置、より具体的には全閉開度を0度、全開開度を90度とするとき、スロットルバルブ40の固着を考慮して2度程度の開度位置に駆動する。
【0055】
続いてS14に進み、検出回転数NEの算出を行う。
【0056】
図6はその処理を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【0057】
以下説明すると、S100においてクランク角センサ48の出力パルスの経過時間を測定して順次加算する。経過時間は、図7に示すように、パルスの立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間を示す。次いでS102に進み、規定個数(具体的には60個)のパルスについて経過時間の加算が終了したか否か判断し、肯定されるときはS104に進み、出力パルスの経過時間の平滑化を行う。
【0058】
具体的には、経過時間の合計値を規定個数60で除算し、パルス間隔の移動平均値(時間)を求めることで、回転数NEを検出(算出)する。これについて説明すると、エンジン10が単気筒であることから、回転数制御に前記したような適応制御則を用いる場合、観測パラメータである回転数が吸気、圧縮、膨張、排気行程からなる燃焼サイクルの影響を受けて大幅に変動するため、安定な制御系の構築が困難となる。
【0059】
そこで、出力パルス間隔(立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間間隔)をクランクシャフト2回転(クランク角度720)、即ち、燃焼サイクルの整数倍、より具体的には1倍に相当する期間ごとに区切って移動平均値を求めることで、観測パラメータである回転数の平滑化を行うようにした。
【0060】
これによって、吸気、圧縮、膨張、排気行程による変動を相殺することができ、瞬時値を用いて回転数を観測する場合に比し、安定な制御系を構築することができる。尚、燃焼サイクルの整数倍の例として1倍を示したが、n倍(n≧2)であっても良い。
【0061】
尚、図6フロー・チャートにおいてS102で否定されるときはS104をスキップすると共に、平均値は前回値を使用する。
【0062】
図5フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS16に進み、目標回転数NEMのサンプリング処理をすべきか否か判断する。
【0063】
これは、このプログラムを10msecごとにループさせると共に、100msecごとに、換言すれば、プログラムループ10回に1回ごとに目標回転数の読み込み(サンプリング)を行い、目標回転数が変更されるときは、それに応じて目標回転数NEMを決定(修正)するようにしたためである。従って、S16ではその処理を行うべきループか否か判断する。
【0064】
S16で肯定されるときはS18に進み、目標回転数NEMの算出を行う。尚、S16で否定されるときはS18をスキップする。
【0065】
図8はその処理を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【0066】
以下説明すると、S200において目標回転数NEMを入力する。入力した目標回転数NEMをNEM(k) とする。尚、この目標回転数NEMは、図2に示す目標回転数入力部102で入力される値である。具体的には、目標回転数NEMの入力は、ボリューム(図1で図示省略)を介して入力される操作者の指示値を読み取ることで行う。尚、目標回転数NEMをECU50のROMに格納しておき、このステップで読み出すようにしても良い。
【0067】
次いでS202に進み、入力した目標回転数NEM(k) から前回の目標回転数NEM(k-1) (図5フロー・チャートの前回ループ時の値)を減算して差ΔNEMを算出し、S204に進み、算出した差ΔNEMが所定値NE1(具体的には300rpm。正値)以上か否か判断する。即ち、所定値NE1以上の上昇要求がなされたか否か判断し、肯定されるときはS206に進み、前回の目標回転数NEM(k-1) に所定値NE1を加算して得た和を今回の目標回転数NEM(k) とする。
【0068】
S204で否定されるときはS208に進み、算出した差ΔNEMが第2の所定値NE2(具体的には−100rpm。負値)以下か否か判断する。即ち、第2の所定値NE2(負値)を超える下降要求がなされたか否か判断し、肯定されるときはS210に進み、前回の目標回転数NEM(k-1) から第2の所定値NE2(負値)を加算、より正確には減算して得た差を今回の目標回転数NEM(k) とする。
【0069】
このように、目標回転数の単位時間当たりの変化を所定値以下に決定するようにした。具体的には、回転数の上昇要求に対しては100msec当たりの上昇分を最大300rpm以下に決定すると共に、下降要求に対しては100msec当たりの下降分を最大100rpm以下に決定するようにした。
【0070】
尚、上昇方向の値NE1を下降値の値NE2より(絶対値において)大きくしたのは、図示の汎用エンジン10にあっては、同一回転数だけ変化させるとき、上昇側の方が時間がかかるためであり、従って目標回転数の変化分も、下降側に比して大きくした。また、NE1およびNE2は、エンジンの機種や負荷の種類に応じて実験結果を通じて決定するものとする。
【0071】
図8の処理について説明すると、適応制御を実機(エンジン10)に応用するとき、スロットル開度に限界があるために入力値に制限があることから、急激なステップ状の目標値の変化に対応できず、さらにキャブレタ38の動作遅れによる燃料制御の応答性が低いこともあって、目標回転数に対してオーバーシュートや制御ハンチングが生じる恐れがある。
【0072】
そこで、単位時間(100msec)当たりの回転数変更を制限し、徐々に変更させるようにした。即ち、図9に示す如く、目標回転数については、1点鎖線で示すような急激なステップ状に変化させず、実線で示すように徐々に変化させるようにした。これにより、キャブレタ38を用いるために燃焼制御の応答性が低いにも関わらず、目標回転数の変化に対してオーバーシュートや制御ハンチングを生じることがない。
【0073】
図5フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS20に進み、制御周期を算出する。
【0074】
図10はその処理を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【0075】
同図の説明に入る前に、かかる処理を行う理由を説明すると、エンジン10の回転数制御に適応制御則を用いる場合、制御周期が固定されると、制御系が安定しない場合が生じ得る。即ち、前記したように、単気筒の汎用エンジンにあっては、回転変動の周期は、吸気、圧縮、膨張、排気行程からなる燃焼サイクルに大きく依存する。従って、スロットルバルブ40を駆動するタイミングは吸気行程前が望ましく、また少なくとも燃焼サイクルに同期させるのが望ましい。
【0076】
そこで、この実施の形態においては、回転数に応じて最適な制御周期を予め実験を通じて求めておき、検出された回転数NEに応じて制御周期を変えるようにした。
【0077】
以下、図10フロー・チャートを参照して説明すると、S300において制御周期を計算する。制御周期は、具体的には、60000〔msec〕を検出回転数NEで除算して商を求めることで行う。即ち、1分間を回転数で割ることで制御周期を演算する。
【0078】
次いでS302に進み、計算値が所定値T1(具体的には60msec)より大きいか否か判断し、肯定されるときはS304に進み、制御周期を所定値T1とする。他方、S302で否定されるときはS306に進み、計算値が第2の所定値T2(具体的には10msec)より小さいか否か判断し、肯定されるときはS308に進み、制御周期を第2の所定値T2とする。尚、S306で否定されるときは、S308をスキップする。
【0079】
このように、検出された回転数NEに応じて制御周期を可変とするように構成したので、図示の汎用エンジン10において低回転から高回転にわたり、その回転数に最適な制御周期とすることができ、安定した制御系を実現することができる。
【0080】
図5フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS22に進み、適応制御の収束ゲインを算出する。尚、収束ゲインは、数4にγで示す値である。
【0081】
図11はその処理を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【0082】
同図の処理を説明する前に、かかる処理を行う理由を説明すると、図示のような汎用エンジンの回転数の適応制御において、前記したように、目標回転数への収束性を上げるために収束ゲインを高めに設定すると、外乱を受けた場合に目標値近傍で回転数が不安定となる。
【0083】
他方、安定性を優先して収束ゲインを低めに設定すると、負荷の変動などでプラントの特性が大幅に変化する場合に収束性が低下する。そこで、この実施の形態においては、収束ゲインを可変とすると共に、回転数偏差が小さいときは低く、それ以外では高く設定(算出)するように構成した。
【0084】
図11フロー・チャートを参照して以下説明すると、S400において目標回転数NEM(k) から検出回転数NE(k) を減算して偏差ΔNEを算出し、S402に進み、算出した偏差ΔNEが所定値NE3(具体的には300rpm。正値)より大きいか否か判断する。
【0085】
S402で肯定されるときはS404に進み、収束ゲインを変更する。具体的には、検出回転数NEが目標回転数NEM近傍にあるときを定常状態とし、そのときの収束ゲインを0.9とするとき、S402の示す状態では、検出回転数が目標回転数を大きく下回ってその近傍にないことから、収束ゲインを定常状態のそれより大きい1.5とする。
【0086】
他方、S402で否定されるときはS406に進み、算出した偏差ΔNEが第2の所定値NE4(具体的には−500rpm。負値)より小さいか、換言すれば偏差ΔNEが第2の所定NE4を負方向に超えているか否か判断し、肯定されるときはS408に進み、収束ゲインを変更する。具体的には、検出回転数が目標回転数を大きく上回って同様にその近傍にないことから、収束ゲインを定常状態のそれより大きい1.2とする。尚、S406で否定されるときはS410に進み、収束ゲインを定常(状態)の値0.9に戻す(即ち、算出あるいは設定する)。
【0087】
上記において、S408のゲインをS404のゲインより小さくしたのは、前記したように、回転数を下降させる方が、要する時間が短いからである。
【0088】
このように、この実施の形態にあっては、収束ゲインを可変とすると共に、回転数偏差が小さいときは低くする一方、それ以外では高くするように算出(設定)する、換言すれば、回転数偏差に応じて可変となるように構成したので、汎用エンジンの回転数制御において安定性と収束性を最適にバランスさせることができる。
【0089】
さらに、収束ゲインを、検出回転数が目標回転数を下回って不足する場合、検出回転数が目標回転数を上回って越える場合に比して高くするように設定したので、検出回転数が目標回転数を上回って越える場合と同様の時間で目標値に収束させることができる。
【0090】
図5フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS24に進み、適応制御演算処理を行う。これは具体的には、前記した数2の式に従ってコントローラ出力(プラント入力)u(k) をステップ(角)数で演算することで行う。
【0091】
次いでS26に進み、開度指示処理、即ち、ステップモータ46へ供給すべき指令値の決定を行う。
【0092】
図12はその処理を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【0093】
以下説明すると、S500において演算された開度指示値(ステップ(角))をスロットルバルブ40の物理的上限値(具体的には100ステップ(角))と比較し、演算された開度指示値が物理的上限値より大きいか否か判断し、肯定されるときはS502に進み、開度指示値を物理的上限値に置換する。
【0094】
また、S500で否定されるときはS504に進み、演算された開度指示値をスロットルバルブ40の物理的下限値(具体的には0ステップ(角)と比較し、演算された開度指示値が物理的下限値より小さいか否か判断し(角)と比較し、肯定されるときはS506に進み、開度指示値を物理的下限値に置換する。
【0095】
これについて説明すると、実際の汎用エンジン10のスロットルバルブ40には物理的な上下限値があり、演算された開度指示値がそれを超えた場合、制御系が成り立たなくなる。
【0096】
即ち、前記したようにステップモータ46は全閉開度相当位置を示す0ステップ(角)から全開開度相当位置を示す100ステップ(角)の間で動作するが、全閉開度相当位置は、スロットル位置初期化処理に関して述べたように、固着防止のために、所定量、例えば2度程度だけ開放方向に設定された値を下限開度とするのが望ましい。また、全開開度相当位置も、エンジン10の出力が最大となる開度以上に開放するのは意味がないので、エンジン10の出力が最大となる開度を上限開度とするのが望ましい。
【0097】
尚、一般の汎用エンジンにあっては、全閉開度相当位置は機械的なストッパでこの程度の値だけ開くように構成されると共に、全閉開度相当開度は調整されず、放置されている。
【0098】
従って、この実施の形態に係る汎用エンジンの制御装置にあっては、スロットルバルブ40にステップモータ46を接続して開度を調整できるように構成したことから、全開開度相当開度についてもエンジン出力が最大となる開度を実験により求め、その開度をステップ角で100とすると共に、全閉方向は2度を0とし、演算された開度指示値がその範囲内にあるか否か判断するようにした。
【0099】
このように、この実施の形態においては適応制御演算で決定されたステップモータ46に供給すべき開度指示値を物理的な限界値で規制するように構成したので、制御対象の特性の変化に対してロバストな適応制御系を構築することができる。
【0100】
次いで、ECU50が行う残余の制御について説明する。
【0101】
図13は、ECU50が行う点火制御を示すフロー・チャートである。尚、図示のプログラムも、図5フロー・チャートのプログラムの同様に、10msecごとに実行される。
【0102】
以下説明すると、S600においてメインSW(スイッチ)がオンしているか否か判断し、肯定されるときはS602に進み、点火処理を行う。これは前記したように、BTDC10度などの固定クランク角度において点火することで行う。
【0103】
次いでS604に進み、異常か否か判断する。これは具体的には、前記した点火処理・過回転検出部106の出力から判断する。即ち、ECU50は図示しない別ルーチンにおいて検出回転数NEを許容値と比較し、検出回転数NEが許容値を超えているときは過回転と判断し、出力を生じる。S604ではその出力から判断する。
【0104】
S604で肯定されるときはS606に進み、点火をカット(停止)する。これによってエンジン10は直ちに停止し、過回転が防止される。尚、S604で否定されるときは以降の処理をスキップする。
【0105】
上記の如く、この実施の形態においては、少なくとも2気筒以下の個数の気筒12を備え、スロットルバルブ40で調量された吸入空気にキャブレタ38を介してガソリン燃料を噴射し、よって生成された混合気を前記気筒に吸入させて点火・燃焼させる火花点火式の内燃エンジン10からなる汎用エンジンの制御装置において、前記エンジンの回転数NEを検出するエンジン回転数検出手段(クランク角センサ48,ECU50、回転数検出部100,S14,S100からS104)、前記スロットルバルブに接続され、指令値に応じて作動して前記スロットルバルブを開閉するアクチュエータ(ステップモータ46)、前記エンジンの目標回転数NEMを決定する目標回転数決定手段(ECU50、目標回転数入力部102,S18,S200からS210)、パラメータ同定機構110を備えると共に、前記検出された回転数が前記目標回転数に一致するように、前記パラメータ同定機構で同定された適応パラメータθハットを用いて前記アクチュエータに供給すべき指令値を演算する適応制御器(ECU50、コントローラ112、適応制御演算部104,S24)、前記演算された指令値に基づき、前記アクチュエータに供給すべき指令値を決定する指令値決定手段(ECU50,S26,S500からS506)、および前記適応パラメータの同定速度を決定するゲインγを前記検出された回転数と前記目標回転数の偏差に応じて設定するゲイン設定手段(ECU50,S22,S400からS410)を備える如く構成した。
【0106】
また、前記ゲイン設定手段は、前記目標回転数から前記検出された回転数を減算して前記偏差ΔNEを算出すると共に、前記算出された偏差を正値からなる第1の規準値NE3と比較し、前記偏差が第1の規準値より大きいとき、前記ゲインを第1の値に設定する第1ゲイン設定手段(S402,S404)、前記算出された偏差を負値からなる第2の規準値NE4と比較し、前記偏差が第2の規準値より小さいとき、前記ゲインを第2の値に設定する第2ゲイン設定手段(S406,S408)、および前記偏差が前記第1の規準値以下であると共に、前記第2の規準値以上であるとき、前記ゲインを第3の値に設定する第3ゲイン設定手段(S410)を備える如く構成した。
【0107】
また、前記第1の値(具体的には1.5)が前記第2の値(具体的には1.2)より大きい如く構成した。
【0108】
尚、上記において、アクチュエータの例としてステップモータを使用したが、それに限られるものではなく、リニアソレノイド、DCモータなど、スロットルバルブの開閉を調節できるものであれば、どのようなものでも良い。
【0109】
【発明の効果】
請求項1項にあっては、適応パラメータの同定速度を決定するゲインを検出された回転数と目標回転数の偏差に応じて設定するように構成したので、例えば、回転数偏差が小さいときは低くする一方、それ以外では高くするように算出(設定)することが可能となり、汎用エンジンの回転数制御において安定性と収束性を最適にバランスさせることができる。
【0110】
請求項2項においては、収束ゲインを可変とすると共に、偏差が第1の規準値より大きいときは前記ゲインを第1の値に設定し、偏差が第2の規準値より小さいときは第2の値に設定すると共に、前記第1の規準値以下であり、かつ前記第2の規準値以上であるときは第3の値に設定する、換言すれば、回転数偏差が小さいときは低くする一方、それ以外では高くするように算出(設定)するように構成したので、汎用エンジンの回転数制御において安定性と収束性を一層最適にバランスさせることができる。
【0111】
請求項3項にあっては、前記第1の値が前記第2の値より大きい如く構成したので、即ち、収束ゲインを、検出回転数が目標回転数を下回って不足する場合、検出回転数が目標回転数を上回って越える場合に比して高くするように設定したので、検出回転数が目標回転数を上回って越える場合と同様の時間で目標値に収束させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一つの実施の形態に係る汎用エンジンの制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1装置のECUの動作を機能的に示すブロック図である。
【図3】図1に示すエンジンを簡略にモデル化して示したブロック図である。
【図4】図1装置が用いるSTR(セルフチューニングレギュレータ)の構成を示すブロックである。
【図5】図1装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図6】図5フロー・チャートの検出回転数の算出処理を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【図7】図6フロー・チャートで加算される経過時間を説明する説明図である。
【図8】図5フロー・チャートの目標回転数の算出処理を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【図9】図8フロー・チャートの処理を説明するタイム・チャートである。
【図10】図5フロー・チャートの制御周期の算出処理を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【図11】図5フロー・チャートの適応制御の収束ゲインγの算出処理を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【図12】図5フロー・チャートの開度指示処理を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【図13】図1装置のECUが行う残余の制御である点火制御を示すフロー・チャートである。
【符号の説明】
10 エンジン(汎用エンジン)
12 気筒
34 リコイルスタータ
38 キャブレタ
40 スロットルバルブ
46 ステップモータ(アクチュエータ)
50 ECU
54 モータドライバ
110 同定機構(パラメータ同定機構)
2 コントローラ(適応制御器)

Claims (3)

  1. 少なくとも2気筒以下の個数の気筒を備え、スロットルバルブで調量された吸入空気にキャブレタを介してガソリン燃料を噴射し、よって生成された混合気を前記気筒に吸入させて点火・燃焼させる火花点火式の内燃エンジンからなる汎用エンジンの制御装置において、
    a.前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段、
    b.前記スロットルバルブに接続され、指令値に応じて作動して前記スロットルバルブを開閉するアクチュエータ、
    c.前記エンジンの目標回転数を決定する目標回転数決定手段、
    d.パラメータ同定機構を備えると共に、前記検出された回転数が前記目標回転数に一致するように、前記パラメータ同定機構で同定された適応パラメータを用いて前記アクチュエータに供給すべき指令値を演算する適応制御器、
    e.前記演算された指令値に基づき、前記アクチュエータに供給すべき指令値を決定する指令値決定手段、
    および
    f.前記適応パラメータの同定速度を決定するゲインを前記検出された回転数と前記目標回転数の偏差に応じて設定するゲイン設定手段、
    を備えることを特徴とする汎用エンジンの制御装置。
  2. 前記ゲイン設定手段は、前記目標回転数から前記検出された回転数を減算して前記偏差を算出すると共に、
    g.前記算出された偏差を正値からなる第1の規準値と比較し、前記偏差が第1の規準値より大きいとき、前記ゲインを第1の値に設定する第1ゲイン設定手段、
    h.前記算出された偏差を負値からなる第2の規準値と比較し、前記偏差が第2の規準値より小さいとき、前記ゲインを第2の値に設定する第2ゲイン設定手段、
    および
    i.前記偏差が前記第1の規準値以下であると共に、前記第2の規準値以上であるとき、前記ゲインを第3の値に設定する第3ゲイン設定手段、
    を備えることを特徴とする請求項1項記載の汎用エンジンの制御装置。
  3. 前記第1の値が前記第2の値より大きいことを特徴とする請求項2項記載の汎用エンジンの制御装置。
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