以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る内燃機関の燃料供給装置および燃料圧制御装置について説明する。この燃料圧制御装置1は、図2に示すように、ECU2を備えており、このECU2は、後述するように、内燃機関(以下「エンジン」という)3の運転状態に応じて、燃料圧制御などの各種の制御処理を実行する。
エンジン3は、図1に示すように、4組の気筒3aおよびピストン3b(1組のみ図示)を有する直列4気筒ガソリンエンジンであり、図示しない車両に搭載されている。このエンジン3の吸気管4には、上流側から順に、エアフローセンサ30およびスロットル弁機構5などが設けられている。このエアフローセンサ30は、熱線式エアフローメータで構成されており、吸気管4内を流れる空気の流量(以下「空気流量」という)Gthを表す検出信号をECU2に出力する。
また、スロットル弁機構5は、スロットル弁5aおよびこれを開閉駆動するTHアクチュエータ5bなどを備えている。スロットル弁5aは、吸気管4の途中に回動自在に設けられており、当該回動に伴う開度の変化により空気流量Gthを変化させる。THアクチュエータ5bは、ECU2に接続されたモータにギヤ機構(いずれも図示せず)を組み合わせたものであり、ECU2からの制御信号によって制御されることにより、スロットル弁5aの開度を変化させる。
また、スロットル弁5aには、これを開弁方向および閉弁方向にそれぞれ付勢する2つのばね(いずれも図示せず)が取り付けられており、これら2つのばねの付勢力により、スロットル弁5aは、制御信号がTHアクチュエータ5bに入力されていないときには、所定の初期開度に保持される。この初期開度は、全閉状態に近くかつエンジン3の始動に必要な吸入空気量を確保できる値(例えば6゜)に設定されている。
さらに、吸気管4のスロットル弁5aの近傍には、例えばポテンショメータなどで構成されたスロットル弁開度センサ31が設けられている。このスロットル弁開度センサ31は、スロットル弁5aの開度(以下「スロットル弁開度」という)THを表す検出信号を、ECU2に出力する。
また、吸気管4のスロットル弁5aよりも下流側の部分には、吸気管内絶対圧センサ32および吸気温センサ33が設けられている。この吸気管内絶対圧センサ32は、例えば半導体圧力センサなどで構成され、吸気管4内の絶対圧(以下「吸気管内絶対圧」という)PBAを表す検出信号をECU2に出力する。また、吸気温センサは、吸気管4内を流れる空気の温度(以下「吸気温」という)TAを表す検出信号をECU2に出力する。
一方、エンジン3には、クランク角センサ34および水温センサ35がそれぞれ設けられている。このクランク角センサ34は、クランクシャフト3cの回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。このCRK信号は、所定のクランク角(例えば30゜)ごとに1パルスが出力され、ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、各気筒3aのピストン3bが吸気行程のTDC位置よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、所定クランク角ごとに1パルスが出力される。
また、水温センサ35は、エンジン3のシリンダブロックに取り付けられたサーミスタなどで構成されており、シリンダブロック内を循環する冷却水の温度であるエンジン水温TWを表す検出信号をECU2に出力する。
さらに、エンジン3のシリンダヘッドには、燃料噴射弁6および点火プラグ7が気筒3aごとに設けられている。各燃料噴射弁6は、燃料を気筒3aの燃焼室内に直接噴射するように、傾斜した状態でシリンダヘッドに取り付けられている。すなわち、エンジン3は筒内噴射式エンジンとして構成されている。また、燃料噴射弁6は、ECU2に電気的に接続されており、ECU2により、後述する燃料噴射時間Tcylに応じた開弁時間および開弁タイミングで燃料を噴射するように、制御される。
また、各点火プラグ7も、ECU2に電気的に接続されており、ECU2により、後述する点火時期Iglogに応じたタイミングで燃料室内の混合気を燃焼させるように、放電状態が制御される。
一方、エンジン3の排気管8には、図示しない触媒装置よりも上流側にLAFセンサ36が設けられている。LAFセンサ36は、ジルコニアおよび白金電極などで構成され、理論空燃比よりもリッチなリッチ領域から極リーン領域までの広範囲な空燃比の領域において、排気管8内を流れる排気ガス中の酸素濃度をリニアに検出し、それを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、このLAFセンサ36の検出信号の値に基づき、排気ガス中の空燃比を表す検出空燃比KACTを算出する。なお、この検出空燃比KACTは、具体的には当量比として算出される。
次に、本実施形態の燃料供給装置10について説明する。この燃料供給装置10は、燃料噴射弁6に高圧の燃料(ガソリン)を供給するものであり、図3に示すように、燃料タンク11(燃料貯蔵室)と、これに燃料供給路12を介して接続された主デリバリパイプ13などを備えている。
この燃料供給路12には、低圧ポンプP1および高圧ポンプP2が設けられている。低圧ポンプP1は、ECU2により運転が制御される電動ポンプタイプのものであり、燃料タンク11内に配置されている。低圧ポンプP1は、エンジン3の運転中、常に運転され、燃料タンク11内の燃料を所定圧(例えば0.5MPa)まで増圧し、高圧ポンプP2側に吐出するとともに、余分な燃料をリターン路12aを介して、燃料タンク11内に戻す。
また、高圧ポンプP2(燃料ポンプ)は、低圧ポンプP1からの燃料をさらに増圧し、主デリバリパイプ13側に吐出するものであり、図示しない電磁クラッチを内蔵しているとともに、この電磁クラッチを介してクランクシャフト3cに連結されている。この電磁クラッチは、ECU2に接続されており、ECU2からの制御信号により締結・遮断されるとともに、その締結力が制御される。それにより、後述するように、高圧ポンプP2の運転が制御され、高圧ポンプP2による燃料の増圧状態が制御される。
一方、主デリバリパイプ13は、その内部空間が高圧ポンプP2からの燃料を高圧状態で蓄える主燃料室13a(燃料室)になっている。この主デリバリパイプ13には、前述した4つの燃料噴射弁6および主燃料圧センサ37が取り付けられており、これらの燃料噴射弁6の開弁により、主燃料室13a内の燃料が、燃焼室内に噴射される。
また、主燃料圧センサ37は、ECU2に接続されており、主燃料室13a内の燃料圧である主燃料圧Pmainを検出し、それを表す検出信号をECU2に出力する。本実施形態では、主燃料圧センサ37が主燃料圧検出手段および燃料圧検出手段に相当する。
さらに、主デリバリパイプ13は、燃料戻し路14を介して燃料タンク11に接続されており、この燃料戻し路14には、高圧リリーフ弁15が設けられている。この高圧リリーフ弁15は、機械式のものであり、高圧ポンプP2の運転により主燃料圧Pmainが所定の設定圧Pmain_max(例えば50MPa)を超えたときに、開弁する。これにより、主燃料室13a内の燃料が燃料タンク11内に戻され、主燃料圧Pmainが所定の設定圧Pmain_maxまで低減される。
また、主デリバリパイプ13は、連通路16を介して副デリバリパイプ17に接続されており、この副デリバリパイプ17の内部空間は、主デリバリパイプ13からの燃料を蓄える副燃料室17aになっている。
この連通路16(燃料戻し路)には、電磁制御弁18が設けられている。この電磁制御弁18(制御弁)は、ECU2に接続されており、後述するように、ECU2により、その開度が制御される。この電磁制御弁18の開弁により、主燃料室13a内の燃料が副燃料室17a内に流れ込み、蓄えられる。
また、副デリバリパイプ17(燃料戻し路)には、副燃料圧センサ38が取り付けられている。この副燃料圧センサ38(副燃料圧検出手段)は、ECU2に接続されており、副燃料室17a内の燃料圧である副燃料圧Psubを検出し、それを表す検出信号をECU2に出力する。
さらに、副デリバリパイプ17は、燃料戻し路19を介して燃料タンク11に接続されており、この燃料戻し路19には、低圧リリーフ弁20が設けられている。この低圧リリーフ弁20(リリーフ弁)は、機械式のものであり、電磁制御弁18の開弁などにより、副燃料圧Psubが所定の設定圧Psub_max(例えば20MPa)を超えたときに、開弁する。これにより、副燃料室17a内の燃料が燃料タンク11内に戻され、副燃料圧Psubが所定の設定圧Psub_maxまで低減される。
以上の構成により、この燃料供給装置10では、高圧ポンプP2の運転状態、電磁制御弁18の開閉状態、および燃料噴射弁6の開閉状態により、主燃料圧Pmainが所定の設定値Pmain_maxを上限とする範囲内で変更される。また、副燃料圧Psubは、電磁制御弁18の開弁により、所定の設定値Psub_maxを上限として高められる。また、ECU2により、後述するように、主燃料圧Pmainおよび副燃料圧Psubが制御される。
一方、図2に示すように、ECU2には、アクセル開度センサ39、バッテリ電圧センサ40およびイグニッション・スイッチ(以下「IG・SW」という)41が接続されている。このアクセル開度センサ39は、車両の図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号をECU2に出力する。
また、バッテリ電圧センサ40は、図示しないバッテリの電圧(以下「バッテリ電圧」という)VBを表す検出信号をECU2に出力し、IG・SW41は、イグニッションキー(図示せず)操作によりON/OFFされるとともに、そのON/OFF状態を表す信号をECU2に出力する。
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種のセンサ30〜40の検出信号およびIG・SW41のON/OFF信号などに応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、各種の制御を実行する。具体的には、高圧ポンプP2および電磁制御弁18を介して、主燃料圧Pmainおよび副燃料圧Psubを制御する。さらに、スロットル弁機構5を介して、吸入空気量を制御するとともに、燃料噴射弁6および点火プラグ7を介して、燃料噴射制御および点火時期制御をそれぞれ実行する。
なお、本実施形態では、ECU2が、減圧条件判定手段、弁制御手段、増圧条件判定手段、目標主燃料圧設定手段、制御手段、フィルタ値算出手段および目標燃料圧設定手段に相当する。
以下、ECU2により実行される各種の制御処理について説明する。図4は、プログラムタイマの設定により、所定周期ΔTk(例えば5msec)で割込み実行される制御処理を示している。この処理では、同図に示すように、まず、ステップ1(図では「S1」と略す。以下同じ)で、後述するように、吸入空気量制御を実行し、次いで、ステップ2で、後述するように、燃料圧制御を実行した後、本処理を終了する。
次に、図5を参照しながら、上述した吸入空気量制御処理について説明する。この処理は、以下に述べるように、スロットル弁開度THを制御することにより、吸入空気量を制御するものである。この処理では、まず、ステップ10で、スロットル弁故障フラグF_THNGが「1」であるか否かを判別する。このスロットル弁故障フラグF_THNGは、図示しない故障判定処理において、スロットル弁機構5が故障していると判定されたときには「1」に、正常であると判定されたときには「0」にそれぞれ設定される。
ステップ10の判別結果がNOで、スロットル弁機構5が正常であるときには、ステップ11に進み、エンジン始動フラグF_ENGSTARTが「1」であるか否かを判別する。
このエンジン始動フラグF_ENGSTARTは、図示しない判定処理において、エンジン回転数NEおよびIG・SW41の出力信号に応じて、エンジン始動制御中すなわちクランキング中であるか否かを判定することにより設定されるものであり、具体的には、エンジン始動制御中であるときには「1」に、それ以外のときには「0」にそれぞれ設定される。
ステップ11の判別結果がYESで、エンジン始動制御中であるときには、ステップ12に進み、目標開度TH_cmdを、エンジン水温TWに基づいて図6に示すテーブルを検索することにより、算出する。このテーブルでは、目標開度TH_cmdは、エンジン水温TWが所定値TWREF1より高い範囲では、エンジン水温TWが低いほど、より大きい値に設定されているとともに、TW≦TWREF1の範囲では、所定値THrefに設定されている。これは、低水温時、エンジン3のフリクションが増大するので、それに対応するためである。
次いで、ステップ13に進み、スロットル弁開度THのフィードバック制御処理を実行する。具体的には、スロットル弁開度THが目標開度TH_cmdに追従するように、所定のフィードバック制御アルゴリズム(例えば、後述する目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズム)により、スロットル弁機構5への制御信号の値を算出する。これにより、スロットル弁開度THが目標開度TH_cmdに追従するように、フィードバック制御される。この後、本処理を終了する。
一方、ステップ11の判別結果がNOで、エンジン始動制御中でないときには、ステップ14に進み、アクセル開度APが所定値APREFより小さいか否かを判別する。この所定値APREFは、アクセルペダルが踏まれていないことを判別するためのものであり、アクセルペダルが踏まれていないことを判別可能な値(例えば1゜)に設定されている。
ステップ14の判別結果がYESで、アクセルペダルが踏まれていないときには、ステップ15に進み、触媒暖機制御の実行時間Tcat(エンジン3の始動終了直後からの経過時間の計時値)が所定値Tcatlmt(所定時間;例えば30sec)より小さいか否かを判別する。この触媒暖機制御は、排気管8に設けられた触媒装置内の触媒をエンジン始動後に急速に活性化させるためのものである。
ステップ15の判別結果がYESのときには、触媒暖機制御を実行すべきであるとして、ステップ16に進み、目標開度TH_cmdを、触媒暖機制御の実行時間Tcatおよびエンジン水温TWに応じて、図7に示すマップを検索することにより、算出する。同図において、TW1〜TW3は、TW1<TW2<TW3の関係が成立するエンジン水温TWの所定値を示している。
このマップでは、目標開度TH_cmdは、エンジン水温TWが低いほど、より大きな値に設定されている。これは、エンジン水温TWが低いほど、触媒の活性化に要する時間が長くなるので、排気ガスボリュームを大きくすることで、触媒の活性化に要する時間を短縮するためである。これに加えて、このマップでは、目標開度TH_cmdは、触媒暖機制御の実行時間Tcatが短い間は、実行時間Tcatが長いほど、より大きな値に設定され、実行時間Tcatがある程度経過した後は、実行時間Tcatが長いほど、より小さな値に設定されている。これは、実行時間Tcatの経過に伴い、エンジン3の暖機が進むことで、フリクションが低下した場合において、吸入空気量を低減しないと、エンジン回転数NEを目標値に維持するために点火時期が過剰にリタード制御された状態となり、燃焼状態が不安定になってしまうので、それを回避するためである。
次いで、前述したようにステップ13を実行した後、本処理を終了する。
一方、ステップ14またはステップ15の判別結果がNOのとき、すなわちエンジン始動制御中でない場合において、アクセルペダルが踏まれているとき、またはTcat≧Tcatlmtであるときには、ステップ17に進み、目標開度TH_cmdを、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じて、図8に示すマップを検索することにより算出する。同図において、AP1〜AP3は、AP1<AP2<AP3の関係が成立するアクセル開度APの所定値を示しており、この点は以下の説明においても同様である。
このマップでは、目標開度TH_cmdは、エンジン回転数NEが高いほど、またはアクセル開度APが大きいほど、より大きな値に設定されている。これは、エンジン回転数NEが高いほど、またはアクセル開度APが大きいほど、エンジン3に対する要求出力が大きいことで、より大きな吸入空気量が要求されることによる。
次いで、前述したようにステップ13を実行した後、本処理を終了する。
一方、ステップ10の判別結果がYESで、スロットル弁機構5が故障しているときには、ステップ18に進み、スロットル弁開度THのフィードバック制御を停止する。すなわち、スロットル弁機構5のTHアクチュエータ5bへの制御信号の出力を停止する。これにより、スロットル弁開度THは、前述した所定の初期開度に保持される。この後、本処理を終了する。
次に、図9を参照しながら、前述した燃料圧制御処理について説明する。この処理は、以下に述べるように、高圧ポンプP2および電磁制御弁18を制御することにより、主燃料圧Pmainおよび副燃料圧Psubを制御するものである。この処理では、まず、ステップ20,21で、RAMに記憶されている主燃料圧Pmainおよび副燃料圧Psubの値をそれぞれ読み込む。すなわち、Pmain,Psubの値をサンプリングする。これらの主燃料圧Pmainおよび副燃料圧Psubの値は、後述するように、燃料噴射制御処理において算出される。
次いで、ステップ22に進み、前述したエンジン始動フラグF_ENGSTARTが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、エンジン始動制御中であるときには、ステップ23に進み、目標主燃料圧Pmain_cmdを所定の始動時用値Pmain_stに設定する。この所定の始動時用値Pmain_stは、エンジン始動時間の短縮化と、エンジン始動に適した燃料噴霧とをバランス良く確保できる値(例えば2MPa)に設定されている。
次に、ステップ24に進み、主燃料圧Pmainが目標主燃料圧Pmain_cmd以上であるか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、燃料噴射を適切に実行可能な主燃料圧Pmainが確保されていることを表すために、ステップ25で、主燃料圧確保フラグF_Pmain_OKを「1」に設定する。
一方、ステップ24の判別結果がNOのときには、燃料噴射を適切に実行可能な主燃料圧Pmainが確保されていないことを表すために、ステップ26で、主燃料圧確保フラグF_Pmain_OKを「0」に設定する。
ステップ25または26に続くステップ27では、ポンプ制御入力Upumpを算出する。このポンプ制御入力Upumpは、高圧ポンプP2を制御するためのものであり、このポンプ制御入力Upumpの値に応じた制御信号が高圧ポンプP2に入力されることにより、高圧ポンプP2の運転が制御される。このポンプ制御入力Upumpは、具体的には、図10に示すように算出される。
同図に示すように、まず、ステップ40において、制御入力Uslを下式(1)〜(7)に示す目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより、算出する。また、下式(1)〜(7)における記号(k)付きの各離散データは、前述した所定周期ΔTkに同期してサンプリング(または算出)されたデータであることを示しており、記号kは各離散データのサンプリングサイクルの順番を表している。例えば、記号kは今回の制御タイミングでサンプリングされた値であることを、記号k−1は前回の制御タイミングでサンプリングされた値であることをそれぞれ示している。この点は、以下の離散データにおいても同様である。また、以下の説明では、各離散データにおける記号(k)などを適宜、省略する。
上記式(1)において、Ueqは、等価制御入力であり、式(2)により算出される。同式(2)において、Pmain_cmd_fは、目標主燃料圧Pmain_cmdのフィルタ値であり、式(7)に示す1次遅れフィルタアルゴリズムにより算出される。同式(7)において、POLE_fは、−1<POLE_f<0の関係が成立するように設定される目標値フィルタ設定パラメータである。また、式(2)において、a1,a2,b1は後述する式(8)に示すモデルのモデルパラメータであり、POLEは、−1<POLE<0の関係が成立するように設定される応答指定パラメータである。
また、式(1)において、Urchは、到達則入力であり、式(3)により算出される。同式(3)において、Krchは、所定の到達則ゲインであり、σは、式(5)により算出される切換関数である。同式(5)において、eは式(6)のように定義される追従誤差(偏差)である。さらに、式(1)において、Uadpは、適応則入力であり、式(4)により算出される。同式(4)において、Kadpは、所定の適応則ゲインである。以上の式(1)〜(7)により、制御入力Uslは、−1≦Usl≦1の範囲内の値として算出される。
なお、以上の式(1)〜(7)は、主燃料圧Pmainおよび制御入力Uslの動特性の関係を表すモデルを、下式(8)のように定義し、このモデルに基づき、エンジン回転数NEが目標回転数NE_cmdに収束するように、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御則を適用することにより、導出される。
Pmain(k+1)=a1・Pmain(k)+a2・Pmain(k−1)
+b1・Usl(k) ……(8)
ステップ40で以上のように制御入力Uslを算出した後、ステップ41に進み、ステップ40で算出した制御入力Uslが値0より大きいか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、高圧ポンプP2を運転すべき状態すなわち増圧制御を実行すべき状態にあるとして、ステップ42に進み、ポンプ制御入力Upumpを制御入力Uslに設定した後、本処理を終了する。これにより、主燃料圧Pmainが目標主燃料圧Pmain_cmdに追従するように、高圧ポンプP2の運転がフィードバック制御される。
この場合、Usl>0が成立するのは、σ(k)=e(k)+POLE・e(k)<0が成立するときであり、例えば目標主燃料圧Pmain_cmdが主燃料圧Pmainよりも高い値に設定される増圧制御の場合には、Pmain<Pmain_cmd_fが成立しているときである。また、Usl=1のとき、すなわちUpump=1のときには、高圧ポンプP2の仕事が最大となるように構成されている。
一方、ステップ41の判別結果がNOのときには、高圧ポンプP2を停止すべき状態にあるとして、ステップ43に進み、ポンプ制御入力Upumpを値0に設定した後、本処理を終了する。これにより、高圧ポンプP2が停止される。
図9に戻り、ステップ27で以上のようにポンプ制御入力Upumpを算出した後、ステップ28に進み、バルブ制御入力Usolを値0に設定する。このバルブ制御入力Usolは、電磁制御弁18を制御するためのものであり、このバルブ制御入力Usolの値に応じた制御信号が電磁制御弁18に入力されることにより、電磁制御弁18の開度が制御される。具体的には、Usol=0の場合、電磁制御弁18が全閉状態に制御され、連通路16が閉鎖される。このようにステップ28を実行した後、本処理を終了する。
一方、前述したステップ22の判別結果がNOで、エンジン始動制御中でないときには、ステップ29に進み、アクセル開度APが前述した所定値APREFより小さいか否かを判別する。この判別結果がYESで、アクセルペダルが踏まれていないときには、ステップ30に進み、触媒暖機制御の実行時間Tcatが前述した所定値Tcatlmtより小さいか否かを判別する。
この判別結果がYESのときには、触媒暖機制御を実行すべきであるとして、ステップ31に進み、目標主燃料圧Pmain_cmdを所定の触媒暖機制御用値Pmain_astに設定する。この所定の触媒暖機制御用値Pmain_astは、触媒暖機制御において点火時期リタード制御の実行中、安定した燃焼状態を確保できるような主燃料圧Pmainの値(例えば20MPa)に設定されている。
次いで、前述したように、ステップ27,28を実行した後、本処理を終了する。
一方、ステップ29またはステップ30の判別結果がNOのとき、すなわちエンジン始動制御中でない場合において、アクセルペダルが踏まれているとき、またはTcat≧Tcatlmtであるときには、ステップ32に進み、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じて、図11に示すマップを検索することにより、通常運転用値Pmain_mapを算出する。
このマップでは、通常運転用値Pmain_mapは、エンジン回転数NEが高いほど、またはアクセル開度APが大きいほど、より大きな値に設定されている。これは、エンジン回転数NEが高いほど、またはアクセル開度APが大きいほど、エンジン3に対する要求出力が大きいことで、より高い主燃料圧Pmainが要求されることによる。
ステップ32に続くステップ33では、目標主燃料圧Pmain_cmdを上記通常運転用値Pmain_mapに設定する。次いで、ステップ34に進み、前述したステップ27と同様に、図10に示す算出処理により、ポンプ制御入力Upumpを算出する。
次に、ステップ35に進み、バルブ制御入力Usolを算出する。このバルブ制御入力Usolの算出は、具体的には、図12に示すように実行される。
同図に示すように、まず、ステップ50において、DPmain_cmd_f>0およびPmain<Psubがいずれも成立しているか否かを判別する。これらの条件は、副燃料圧Psubを主燃料室13a内に導入することで主燃料圧Pmainを高めるアシストモードの実行条件を表している。このDPmain_cmd_fは、目標主燃料圧のフィルタ値の今回値と前回値との偏差[Pmain_cmd_f(k)−Pmain_cmd_f(k−1)]として算出される。すなわち、目標主燃料圧のフィルタ値Pmain_cmd_fが増大方向にあり、主燃料圧Pmainの増圧制御が実行される場合において、副燃料圧Psubが主燃料圧Pmainよりも高いときには、アシストモードの実行条件が成立していると判別される。
ステップ50の判別結果がYESで、アシストモードの実行条件が成立しているときには、ステップ51に進み、バルブ制御入力Usolを値1に設定した後、本処理を終了する。なお、このようにUsolが値1に設定されたときには、電磁制御弁18が全開状態に制御される。
一方、ステップ50の判別結果がNOで、アシストモードの実行条件が成立していないときには、ステップ52に進み、|e|<e_fup、Psub<Psub_cmdおよびPmain>Pmain_msetがいずれも成立しているか否かを判別する。これらの条件は、主燃料圧Pmainを副燃料室17a内に導入することにより副燃料圧Psubを高める充填モードの実行条件を表している。
具体的には、e_fupは、所定のしきい値であり、追従誤差の絶対値|e|がかなり小さい値になっているか否か、すなわち主燃料圧Pmainが目標主燃料圧Pmain_cmdにかなり近づいているか否かを判別できる値(例えば1MPa)に設定されている。また、Pmain_msetは、充填モードを実行可能な主燃料圧Pmainの所定値(例えば20Mpa)であり、Psub_cmdは、副燃料圧Psubの所定の目標値(例えば16MPa)である。
ステップ52の判別結果がYESで、充填モードの実行条件が成立しているときには、前述したように、ステップ51を実行した後、本処理を終了する。これにより、電磁制御弁18が全開状態に制御され、主燃料圧Pmainが副燃料室17a内に導入されることにより、副燃料圧Psubが高められる。
一方、ステップ52の判別結果がNOで、充填モードの実行条件が成立していないときには、ステップ53に進み、Usl<Usl_decおよびPmain>Pmain_msetがいずれも成立しているか否かを判別する。これらの条件は、主燃料圧Pmainを副燃料室17a内に導入することにより主燃料圧Pmainを低減する減圧モードの実行条件を表している。
具体的には、Usl_decは、所定のしきい値であり、切換関数σの値が値0よりもかなり大きいか否かを判別できる値(例えば値−0.3)に設定されている。すなわち、Usl<Usl_decが成立するのは、σ≫0が成立しているときであり、例えば、目標主燃料圧Pmain_cmdが主燃料圧Pmainよりも低い値に設定された場合において、両者の乖離度合いが大きいときである。
ステップ53の判別結果がYESで、減圧モードの実行条件が成立しているときには、前述したように、ステップ51を実行した後、本処理を終了する。これにより、電磁制御弁18が全開状態に制御されることによって、主燃料圧Pmainが、連通路16を介して副燃料室17a内に導入され、低減される。
一方、ステップ53の判別結果がNOのとき、すなわち、アシストモード、充填モードおよび減圧モードの実行条件がいずれも成立していないときには、ステップ54に進み、バルブ制御入力Usolを値0に設定した後、本処理を終了する。これにより、電磁制御弁18が全閉状態に制御される。
図9に戻り、ステップ35において、以上のようにバルブ制御入力Usolを算出した後、本処理を終了する。
次に、図13を参照しながら、TDC信号の発生タイミングに同期して実行される制御処理について説明する。同図に示すように、この処理では、まず、ステップ60で、前述した主燃料圧確保フラグF_Pmain_OKが「1」であるか否かを判別する。
この判別結果がYESで、燃料噴射を適切に実行可能な主燃料圧Pmainが確保されているときには、ステップ61に進み、後述するように、燃料噴射制御処理を実行する。次いで、ステップ62に進み、後述するように、点火時期制御処理を実行した後、本処理を終了する。
一方、ステップ60の判別結果がNOで、燃料噴射を適切に実行可能な主燃料圧Pmainが確保されていないときには、ステップ63に進み、燃料噴射制御処理および点火時期制御処理を停止した後、本処理を終了する。これにより、燃料噴射弁6による燃料噴射および点火プラグ7による点火が停止される。
次に、図14を参照しながら、上記燃料噴射制御処理について説明する。この処理では、以下に述べるように、燃料噴射時間Tcylが気筒3aごとすなわち燃料噴射弁6ごとに算出される。
まず、ステップ70で、主燃料圧Pmainを下式(9)により算出する。
Pmain=[Pmain'(m)+Pmain'(m-1)+……+Pmain'(m-w+1)]/w ……(9)
ここで、Pmain’は、主燃料圧センサ37の検出信号に基づき、CRK信号の発生タイミングに同期してサンプリングされた主燃料圧のサンプリング値を示しており、wは、正の所定値(例えば値6)である。また、記号(m)は、各離散データのサンプリングの順番を表している。
上記式(9)に示すように、主燃料圧Pmainは、サンプリング値Pmain’の移動平均値として算出される。これは、高圧ポンプP2の吐出圧の変動に起因して主燃料圧Pmainが変動した場合でも、その影響を回避しながら、主燃料圧Pmainを適切に算出するためである。なお、このように算出された主燃料圧Pmainは、RAM内に記憶されるとともに、前述したように、燃料圧制御処理の際に読み出される。
ステップ70に続くステップ71では、副燃料圧Psubを下式(10)により算出する。
Psub=[Psub'(m)+Psub'(m-1)+……+Psub'(m-w+1)]/w ……(10)
ここで、Psub’は、副燃料圧センサ38の検出信号に基づき、CRK信号の発生に同期してサンプリングされた副燃料圧のサンプリング値を示している。
上記式(10)に示すように、副燃料圧Psubは、サンプリング値Psub’の移動平均値として算出される。これは、高圧ポンプP2の吐出圧の変動や電磁制御弁18の開弁に起因して副燃料圧Psubが変動した場合でも、その影響を回避しながら、副燃料圧Psubを適切に算出するためである。なお、このように算出された副燃料圧Psubは、RAM内に記憶されるとともに、前述したように、燃料圧制御処理の際に読み出される。
ステップ71に続くステップ72では、空気流量Gthを下式(11)により算出する。
Gth=[Gth'(m)+Gth'(m-1)+……+Gth'(m-w+1)]/w ……(11)
ここで、Gth’は、スロットル弁開度センサ31の検出信号に基づき、CRK信号の発生に同期してサンプリングされた空気流量のサンプリング値を示している。
上記式(11)に示すように、空気流量Gthは、サンプリング値Gth’の移動平均値として算出される。これは、吸気脈動に起因して空気流量が変動した場合でも、その影響を回避しながら、空気流量Gthを適切に算出するためである。
次いで、ステップ73で、下式(12)により、吸入空気量Gcylを気筒3aごとに算出する。
この式(12)において、Vbは吸気管内体積を、Rは所定の気体定数をそれぞれ表している。また、式(12)における記号(n)付きの吸気管内絶対圧PBAの離散データは、TDC信号の発生タイミングに同期してサンプリングされたデータであることを示しており、記号nは離散データのサンプリングサイクルの順番を表している。例えば、PBA(n)は、今回の制御タイミングでサンプリングされた吸気管内絶対圧の今回値を、PBA(n−1)は、前回の制御タイミングでサンプリングされた値であることをそれぞれ示している。なお、以下の説明では、各離散データにおける記号(n)などを適宜、省略する。
次に、ステップ74に進み、下式(13)により、燃料量Minjを燃料噴射弁6ごとに算出する。
Minj=Kgt・KCMD・KAF・Gcyl ……(13)
上記式(13)において、Kgtは、燃料噴射弁6ごとに予め設定される換算係数である。KCMDは、目標空燃比(当量比換算値)であり、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じて、図示しないマップ検索により算出される。また、KAFは、空燃比補正係数であり、空燃比フィードバック制御の実行中は、フィードバック補正係数KSTRを目標空燃比KCMDで除算した値に設定され、空燃比フィードバック制御の停止中は、値1に設定される。このフィードバック補正係数KSTRは、前述した式(1)〜(7)と同様の、図示しない目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより、検出空燃比KACTが目標空燃比KCMDに追従するように算出される。
ステップ74に続くステップ75では、燃料圧補正係数Kdpを、主燃料圧Pmainと吸気管内絶対圧PBAとの偏差DPm(=Pmain−PBA)に応じて、図15に示すテーブルを検索することにより、算出する。このテーブルでは、燃料圧補正係数Kdpは、偏差DPmが所定値DPm1のとき(例えばPmain=10MPaで、PBAが大気圧のときの値)に、Kdp=1となるように正規化されているとともに、偏差DPmが大きいほど、より小さい値になるように設定されている。
次に、ステップ76に進み、基本燃料噴射時間Tcyl_baseを、燃料量Minjに応じて図16に示すテーブルを検索することにより、算出する。このテーブルでは、基本燃料噴射時間Tcyl_baseは、燃料量Minjが大きいほど、より大きい値に設定されている。また、Minj=0付近の領域では、燃料噴射弁6の開弁時の応答遅れを補償するために、それ以外の領域よりも、燃料量Minjの増大に対する増大度合いがより大きくなるように設定されている。
次いで、ステップ77に進み、無効補正値TiVBを、バッテリ電圧VBに応じて図17に示すテーブルを検索することにより、算出する。同図に示すように、この無効補正値TiVBは、バッテリ電圧VBが低いほど、より大きい値に設定されている。これは、バッテリ電圧VBが低いほど、燃料噴射時において燃料噴射弁6が実際に開くまでの遅れがより大きくなるので、それを補償するためである。
次に、ステップ78に進み、下式(14)により、燃料噴射時間Tcylを算出した後、本処理を終了する。
Tcyl=Kdp・Tcyl_base+TiVB ……(14)
これにより、以上のように算出された燃料噴射時間Tcylに応じて、燃料噴射弁6の開弁時間およびその開弁タイミングが制御される。なお、以上のように算出された燃料噴射時間Tcylに、所定の付着補正処理を施すことにより、最終的な燃料噴射時間を算出するように構成してもよい。
次に、図18を参照しながら、前述した点火時期制御処理について説明する。この処理では、以下に述べるように、点火時期Iglogが気筒3aごとすなわち点火プラグ7ごとに算出される。まず、ステップ90で、前述したスロットル弁故障フラグF_THNGが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がNOで、スロットル弁機構5が正常であるときには、ステップ91に進み、前述したエンジン始動フラグF_ENGSTARTが「1」であるか否かを判別する。
このステップ91の判別結果がYESで、エンジン始動制御中であるときには、ステップ92に進み、点火時期Iglogを、所定の始動時用値Ig_crk(例えばBTDC10゜)に設定した後、本処理を終了する。
一方、ステップ91の判別結果がNOで、エンジン始動制御中でないときには、ステップ93に進み、アクセル開度APが前述した所定値APREFより小さいか否かを判別する。この判別結果がYESで、アクセルペダルが踏まれていないときには、ステップ94に進み、触媒暖機制御の実行時間Tcatが前述した所定値Tcatlmtより小さいか否かを判別する。
この判別結果がYESで、Tcat<Tcatlmtのときには、触媒暖機制御を実行すべきであるとして、ステップ95に進み、触媒暖機用値Ig_astを算出する。この触媒暖機用値Ig_astは、具体的には、下式(15)〜(17)の応答指定型制御アルゴリズム(スライディングモード制御アルゴリズムまたはバックステッピング制御アルゴリズム)により、算出される。
上記式(15)において、Ig_ast_baseは、所定の触媒暖機用の基準点火時期(例えばBTDC5゜)を表し、Krch_ig,Kadp_igは、所定のフィードバックゲインを表している。また、σ_igは、式(16)のように定義される切換関数である。同式(16)において、pole_igは、−1<pole_ig<0の関係が成立するように設定される応答指定パラメータであり、Enastは、式(17)により算出される追従誤差である。式(17)において、NE_astは、所定の触媒暖機用の目標回転数(例えば1800rpm)である。以上の制御アルゴリズムにより、触媒暖機用値Ig_astは、エンジン回転数NEを上記触媒暖機用の目標回転数NE_astに収束させる値として、算出される。
次いで、ステップ96に進み、点火時期Iglogを上記触媒暖機用値Ig_astに設定した後、本処理を終了する。
一方、ステップ93または94の判別結果がNOのとき、すなわちアクセルペダルが踏まれているとき、またはTcat≧Tcatlmtであるときには、ステップ97に進み、エンジン回転数NEおよび吸気管内絶対圧PBAに応じて、図19に示すマップを検索することにより、通常運転用値Ig_mapを算出する。
同図において、PBA1〜PBA3は、PBA1<PBA2<PBA3の関係が成立する吸気管内絶対圧PBAの所定値である。同図に示すように、このマップでは、通常運転用値Ig_mapは、吸気管内絶対圧PBAおよびエンジン回転数NEが高い領域では、より遅角側の値に設定されている。これは、高負荷域でのノッキングの発生を回避するためである。
次いで、ステップ98に進み、点火時期Iglogを上記通常運転用値Ig_mapに設定した後、本処理を終了する。
一方、ステップ90の判別結果がYESで、スロットル弁機構5が故障しているときには、ステップ99に進み、故障時用値Ig_fsを算出する。この故障時用値Ig_fsは、具体的には、下式(18)〜(20)の応答指定型制御アルゴリズム(スライディングモード制御アルゴリズムまたはバックステッピング制御アルゴリズム)により、算出される。
上記式(18)において、Ig_fs_baseは、所定の故障時用の基準点火時期(例えばTDC±0゜)を表し、Krch_ig#,Kadp_ig#は、所定のフィードバックゲインを表している。また、σ_ig#は、式(19)のように定義される切換関数である。同式(19)において、pole_ig#は、−1<pole_ig#<0の関係が成立するように設定される応答指定パラメータであり、Enfsは、式(20)により算出される追従誤差である。式(20)において、NE_fsは、所定の故障時目標回転数(例えば2000rpm)である。以上の制御アルゴリズムにより、故障時用値Ig_fsは、エンジン回転数NEを上記故障時目標回転数NE_fsに収束させる値として、算出される。
次いで、ステップ100に進み、点火時期Iglogを上記故障時用値Ig_fsに設定した後、本処理を終了する。
次に、以上のように構成された本実施形態の燃料圧制御装置1による主燃料圧Pmainおよび副燃料圧Psubの制御結果について説明する。図20は、本実施形態の燃料圧制御装置1による制御結果例を示しており、図21は、比較のために、電磁制御弁18を常に全閉状態に保持し、主燃料圧Pmainのみを制御した場合の制御結果例を示している。なお、両図中のMpumpは、高圧ポンプP2の燃料の吐出量を表している。
両図を参照すると、目標主燃料圧Pmain_cmdがより低い値に設定され、減圧制御が開始された場合(時刻t1およびt11)、それ以降における主燃料圧Pmainの低下度合いは、本実施形態の制御結果の方が、比較例よりも大きくなっていることが判る。また、本実施形態の制御結果では、時刻txにおいて、主燃料圧Pmainが目標主燃料圧Pmain_cmdまで低減され、減圧制御が終了しているのに対して、比較例の制御結果では、増圧制御が開始された時点(時刻t12)においても、主燃料圧Pmainが目標主燃料圧Pmain_cmdまで低減されていないことが判る。このように、本実施形態の燃料圧制御装置1によれば、電磁制御弁18を開放し、主燃料室13a内の燃料を連通路16を介して副デリバリパイプ17側に流入させることにより、主燃料圧Pmainをより迅速かつ効果的に減圧制御できることが判る。
さらに、目標主燃料圧Pmain_cmdがより高い値に設定され、増圧制御が開始された場合、増圧制御中(時刻t2〜t3およびt12〜t13)における主燃料圧Pmainの上昇度合いも、本実施形態の制御結果の方が、比較例よりも大きくなっており、言い換えれば、本実施形態の制御結果の方が、比較例よりも増圧に要する時間が短くなっていることが判る。これは、アシストモードの実行条件が成立し、電磁制御弁18が開弁されることにより、高圧ポンプP2に加えて、副燃料圧Psubを利用しながら、主燃料圧Pmainが高められているためである。このように、本実施形態の燃料圧制御装置1によれば、主燃料圧Pmainの増圧制御における初期応答性を向上させることができ、主燃料圧Pmainをより迅速かつ効果的に増圧できることが判る。
以上のように、本実施形態の燃料供給装置10によれば、電磁制御弁18により連通路16が閉鎖されている場合、高圧ポンプP2が運転されることにより主燃料室13a内の燃料が増圧される。一方、電磁制御弁18により連通路16が開放されると、主燃料室13a内の燃料が副燃料室17a内に流れ込むことで、主燃料室13a内が減圧されるとともに、副燃料圧Psubが、低圧リリーフ弁20により設定圧Psub_maxに保持される。それにより、主燃料圧Pmainを設定圧Psub_maxまで減圧することができるので、この設定圧Psub_maxを適切に設定することにより、従来よりも低い値まで減圧することが可能になり、従来よりも広い増減幅で変更することが可能になる。
また、燃料圧制御装置1によれば、上記のような燃料供給装置10において、高圧ポンプP2および電磁制御弁18を介して、主燃料圧Pmainが制御されるので、主燃料圧Pmainを従来よりも低い値まで迅速に減圧制御することができ、それにより、主燃料圧Pmainを従来よりも広い制御幅で制御することができる。その結果、この燃料圧制御装置1によりガソリンエンジン3を制御することによって、低負荷運転時などには、燃料噴射弁6に供給する主燃料圧Pmainを適切な値まで迅速に減圧させることができ、それにより、空燃比制御における良好な制御精度を確保でき、安定した運転状態を確保できる。同じ理由により、燃料噴霧における適切なペネトレーションを確保できることによって、気筒内壁に付着する燃料量を減少させることができ、それにより、未燃HCを減少させ、排ガス特性を向上させることができる。これに加えて、燃料噴霧における適切なペネトレーションを確保できることにより、混合気を適切な状態で形成でき、燃焼効率を向上させることができる。
また、減圧モード、アシストモードおよび充填モード以外のとき(ステップ53の判別結果がNOのとき)には、電磁制御弁18が閉弁され、燃料を蓄える室の容積がより小さくなるように制御されるので、燃料の増圧に要する時間を短縮することができ、その分、高圧ポンプP2の仕事を低減できる。その結果、エンジン3の運転効率を向上させることができる。
また、触媒暖機制御が終了するまでの間(Tcat<Tcatlmtが成立している間)は、電磁制御弁18が閉鎖され、燃料を蓄える室の容積がより小さな値に制御されることにより、触媒暖機制御中における燃料の増圧に要する時間を短縮できる。その結果、触媒暖機制御中、燃料噴射制御を精度良く実行することができ、燃焼の安定性を確保することができ、それにより、未燃HCおよびスモーク(PM)の排出量を低減することができる。
さらに、アシストモードの実行条件が成立しているとき(ステップ50の判別結果がYESのとき)には、電磁制御弁18が開放されることにより、副燃料室17a内の燃料が主燃料室13aに流れ込み、主燃料圧Pmainが高められる。すなわち、高圧ポンプP2に加えて、副燃料圧Psubを利用しながら、主燃料圧Pmainを高めることができるので、主燃料圧Pmainの増圧制御における初期応答性を向上させることができる。その結果、燃料噴射制御をさらに精度良く実行することができ、より良好な燃焼の安定性を確保することができ、それにより、未燃HCおよびスモーク(PM)の排出量をさらに低減することができる。
また、充填モードのとき(ステップ52の判別結果がYESのとき)、すなわち、追従誤差の絶対値|e|が所定値e_fup未満で、主燃料圧Pmainが目標主燃料圧Pmain_cmdに近い値まで十分に制御されているときには、電磁制御弁18が開放され、主燃料室13a内の燃料が副燃料室17a側に充填されるので、主燃料圧Pmainの不足に起因する燃料噴射制御の制御精度の低下を回避しながら、高圧状態の燃料を副燃料室17aに充填し、副燃料圧Psubを高めることができる。それにより、上述したアシストモードでの増圧制御を実行することができる。
また、一般に、高圧ポンプP2などの燃料ポンプおよび電磁制御弁18を用いて燃料圧制御を実行した場合、これらの応答性が低いことに起因して、燃料圧がその目標値に対してオーバーシュートを生じやすく、その結果、燃料ポンプの仕事が必要以上に増大してしまう。これに対して、本実施形態の燃料圧制御装置1では、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより、主燃料圧Pmainが目標主燃料圧Pmain_cmdに追従するように、高圧ポンプP2および電磁制御弁18が制御されるので、主燃料圧Pmainの目標主燃料圧Pmain_cmdに対するオーバーシュートなどを回避でき、主燃料圧Pmainの目標主燃料圧Pmain_cmdへの追従性を高めることができる。その結果、高圧ポンプP2の仕事を低減することができ、エンジン3の燃費を向上させることができる。
また、本実施形態のような燃料圧制御装置1では、高圧ポンプP2の運転中、電磁制御弁18が開放されると、主燃料室13aに加えられる副燃料圧Psubは、主燃料圧Pmainの制御における外乱として作用し、主燃料圧Pmainが振動状態になる可能があるものの、上記のように、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより、主燃料圧Pmainを制御することによって、副燃料圧Psubの外乱的な影響に起因して主燃料圧Pmainが振動状態になるのを回避しながら、主燃料圧Pmainを目標主燃料圧Pmain_cmdに追従させることができる。その結果、燃料噴射制御の制御精度を向上させることができる。
なお、第1実施形態は、アシストモード、充填モードおよび減圧モードのときには、Usol=1とし、電磁制御弁18を全開状態に制御するように構成した例であるが、これらのモードにおいて、電磁制御弁18を全閉状態と全開状態の中間の開度に制御するように構成してもよい。
次に、第2実施形態に係る燃料供給装置10Aおよび燃料圧制御装置1Aについて説明する。図22に示すように、この燃料供給装置10Aは、第1実施形態の燃料供給装置10(図3参照)と一部を除いて同様に構成されているので、以下、第1実施形態の燃料供給装置10と同じ構成については、同じ符号を付し、その説明は省略するとともに、異なる点についてのみ説明する。
図22および図3を比較すると明らかなように、この燃料供給装置10Aは、第1実施形態の燃料供給装置10において、副デリバリパイプ17および低圧リリーフ弁20を省略した構成を備えている。そのため、第2実施形態の燃料圧制御装置1Aでは、第1実施形態の燃料圧制御装置1における、副デリバリパイプ17内の副燃料圧Psubを検出する副燃料圧センサ38が省略されている。
また、燃料圧制御装置1Aによる燃料圧制御処理は、第1実施形態の燃料圧制御装置1による図9の燃料圧制御処理において、ステップ35のバルブ制御入力Usolの算出処理の内容のみが異なっており、それ以外は同様に構成されている。この燃料圧制御装置1Aでは、バルブ制御入力Usolの算出処理は、図23に示すように実行される。
まず、ステップ110で、制御入力Uslが値0より小さいか否かを判別する。この条件は、主燃料圧Pmainを燃料タンク11側に逃がすことにより主燃料圧Pmainを低減する減圧モードの実行条件を表しており、この場合、Usl<0が成立するのは、σ>0が成立しているときであり、例えば、目標主燃料圧Pmain_cmdが主燃料圧Pmainよりも低い値に設定される減圧制御の場合には、Pmain>Pmain_cmd_fが成立しているときである。
ステップ110の判別結果がYESで、減圧モードの実行条件が成立しているときには、ステップ111に進み、バルブ制御入力Usolを−Uslに設定した後、本処理を終了する。これにより、電磁制御弁18の開度が値−Uslに応じた値に制御され、主燃料圧Pmainの減圧制御が実行される。
一方、ステップ110の判別結果がNOで、減圧モードの実行条件が成立していないときには、ステップ112に進み、バルブ制御入力Usolを値0に設定した後、本処理を終了する。これにより、電磁制御弁18が閉弁状態に保持される。
次に、以上のように構成された第2実施形態の燃料圧制御装置1Aによる主燃料圧Pmainの制御結果について説明する。図24は、第2実施形態の燃料圧制御装置1Aによる制御結果例を示している。同図および前述した図21を参照しながら、すると、目標主燃料圧Pmain_cmdがより低い値に設定され、減圧制御が開始された場合(時刻t21およびt11)、それ以降における主燃料圧Pmainの低下度合いは、第2実施形態の制御結果の方が、比較例よりも大きくなっていることが判る。
また、第2実施形態の制御結果では、時刻tyにおいて、主燃料圧Pmainが目標主燃料圧Pmain_cmdまで低減され、減圧制御が終了しているのに対して、比較例の制御結果では、増圧制御が開始された時点(時刻t12)においても、主燃料圧Pmainが目標主燃料圧Pmain_cmdまで低減されていないことが判る。以上のように、第2実施形態の燃料圧制御装置1Aによれば、第1実施形態の燃料圧制御装1と同様に、電磁制御弁18を開放し、主燃料室13a内の燃料を燃料戻し路19を介して燃料タンク11側に戻すことにより、主燃料圧Pmainをより迅速かつ効果的に減圧制御できることが判る。
さらに、目標主燃料圧Pmain_cmdがより高い値に設定され、増圧制御が開始された場合、増圧制御中(時刻t22〜t23およびt12〜t13)における主燃料圧Pmainの上昇度合いは、第2実施形態および比較例の両者とも同じ程度になっていることが判る。
また、図25は、第2実施形態の燃料圧制御装置1Aによる燃料圧制御の制御結果と、第1実施形態の燃料圧制御装置1による燃料圧制御の制御結果とを同一タイミングで比較したものである。同図に示すように、増圧制御が開始された場合(時刻t31)、それ以降における主燃料圧Pmainの上昇度合いは、第1実施形態の方が、副燃料圧Psubを用いた分、第2実施形態の方よりも大きくなっている。すなわち、第1実施形態のように、副燃料圧Psubを利用することにより、主燃料圧Pmainの増圧制御における初期応答性を高めることができ、その分、主燃料圧Pmainの増圧に要する時間を短縮できることが判る。
一方、減圧制御が開始された場合(時刻t32)、それ以降における主燃料圧Pmainの低下度合いは、初期の段階では、両者はほとんど同じ変わらないとともに、第2実施形態の方が、燃料戻し路19が開放状態にあることにより、より低い値まで減圧可能であることが判る。
以上のように、第2実施形態の燃料圧制御装置1Aによれば、第1実施形態の燃料圧制御装置1と同様に、主燃料圧Pmainをより迅速かつ効果的に減圧制御でき、それにより、燃料圧を従来よりも広い制御幅で制御することができる。その結果、第1実施形態の燃料圧制御装置1と同様に、低負荷運転時などには、空燃比制御における良好な制御精度を確保でき、安定した運転状態を確保できる。同じ理由により、燃料噴霧における適切なペネトレーションを確保できることによって、気筒内壁に付着する燃料量を減少させることができ、それにより、未燃HCを減少させ、排ガス特性を向上させることができる。これに加えて、燃料噴霧における適切なペネトレーションを確保できることにより、混合気を適切な状態で形成でき、燃焼効率を向上させることができる。
これに加えて、第1実施形態の燃料圧制御装置1と同様に、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより、主燃料圧Pmainが目標主燃料圧Pmain_cmdに追従するように、高圧ポンプP2および電磁制御弁18が制御されるので、前述した作用効果を得ることができる。
なお、各実施形態は、本発明の燃料供給装置および燃料圧制御装置をガソリンを燃料とする内燃機関に適用した例であるが、本発明の燃料供給装置および燃料圧制御装置はこれに限らず、ディーゼルエンジンなどの、燃料が燃料噴射弁により気筒内に直接噴射される内燃機関に適用可能である。
また、各実施形態は、制御弁として電磁制御弁18を用いた例であるが、制御弁はこれに限らず、開閉を電気的に制御可能なものであればよい。例えば、電気モータ式の電動弁を用いてもよい。