JP4380977B2 - 表面プラズモン共鳴測定用フローセル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、少量のサンプルで測定可能かつ、サンプルの切り替えの速い表面プラズモン共鳴(SPR)測定用フローセルに関する
【0002】
【従来の技術】
光学的なセンサー技術として表面プラズモン共鳴(SPR)が知られている。SPRは金属薄膜に光を照射して反射光をモニターし、金属薄膜上の屈折率の変化を検出する方法である。SPRはバイオ分野、環境分野、工業分野へ応用されており、表面に固定化した生体分子の相互作用解析、抗原抗体反応モニター、糖度モニターなどに用いられている。
【0003】
最近はバイオ分野の生体分子相互作用解析に注目が集まっており、SPRによるラベルフリーかつリアルタイム解析からKineticsデータを得る試みがなされている。平衡状態を評価するだけでなく、結合、解離、反応などの速度を解析したKineticsデータは生体分子の機能を明らかにする上で非常に有用な情報となる。
【0004】
通常のSPRは基本的に一点のみの測定であるため、複数点の解析が可能なSPRイメージング技術が注目されている。SPRイメージングにおいては、複数の生体分子を金蒸着表面に固定化したアレイを作製し、生体分子が固定化された部位の反射光強度をリアルタイムでモニターすることで、リアルタイムにKineticsデータを得ることができる。
【0005】
最近、SPRの測定対象はますます微量化し、しかも複雑な相互作用を測定する状況が生まれてきた。よって、フローセル内の容量を小さくすることで、微量なサンプルを測定できるだけでなく、サンプルの切り替えを速くし、複数の物質を逐次的に流すことを可能とする。
【0006】
SPRイメージングにおいては広い範囲でサンプル液を送液する必要があるため、細い流路は適さないため、シール材によってサンプル流路を確保する方法が効果的である。
しかし、今までシール材を用いたSPR装置において、サンプル量をできるだけ減らす努力はあまりなされてこなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、少ないサンプル量で測定可能かつ、サンプルの切り替えが迅速にできるSPRイメージング用フローセルに関する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出した。
1.Oリングによってフローセルと観察用スライドの金表面の隙間にサンプル流路が確保された表面プラズモン共鳴測定用フローセルであり、
観察用スライドの該金表面上に500μm四方のスポット100個(縦10×横10)が配置されており、
線径1.5mm、内径15.5mmのOリングを、該フローセル上の略正方形のOリング設置溝でありかつ当該設置溝の幅が1.5mm、深さ1.1mmである設置溝に設置することを特徴とする表面プラズモン共鳴イメージング測定用フローセル。
2.1に記載の表面プラズモン共鳴イメージング測定用フローセルを搭載したことを特徴とするSPRイメージング装置。
3.1に記載の表面プラズモン共鳴イメージング測定用フローセルを用いて表面プラズモン共鳴イメージング測定をすることを特徴とする方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
表面プラズモン共鳴(SPR)角は金属の表面に形成される層の厚み、屈折率によって変化する。よって、金属の表面に調べられるべき物質あるいは物質の集合体を固定化し、サンプル中の物質あるいは物質の集合体との相互作用を共鳴角の変化、あるいはある角度での反射光強度の変化で検出可能である。従って、SPRはラベル不要でリアルタイム評価が可能な定量法である。SPRを応用したSPRイメージングは広範囲に偏光光束を照射し、その反射像を解析することで、結合、解離、反応などの速度を解析したKineticsデータを得ることができる。
【0010】
SPRイメージングにおいては広い範囲でサンプル液を送液する必要があるため、Oリングのようなシール材によってサンプル流路を確保する方法が安価かつ効果的である。ただし、フローセル内の容量を小さくすることが非常に重要であり、微量なサンプルを測定できるだけでなく、サンプルの切り替えを速くし、複数の物質を逐次的に流すことが可能となる。
【0011】
用いるシール材の断面積A1(mm2)とシール材設置溝の断面積A2(mm2)が式(1)を満たすことが好ましい。
1.00≦A1/A2≦1.10 式(1)
【0012】
A1/A2が1.10より小さい方が好ましい。1.10より大きいと、フローセルの内部容量が大きくなり、サンプル量が多く必要となるとともに、サンプルの切り替えが遅くなる傾向にある。また、A1/A2は1.00より大きいほうが好ましい。1.00以下では十分なシールをしようと締め付けた際にフローセル壁面のチップ表面が触れる場合があり、正しく測定できない場合があるからである。フローセル壁面と金表面の隙間がないとサンプルが流れない、あるいは測定ができないため好ましくないが、基本的に隙間は小さい方が好ましい。
【0013】
隙間としては隙間の最大部分で300μm以下が好ましく、より好ましくは250μm以下、さらに好ましくは200μ以下、特に好ましくは150μm以下、最も好ましくは120μm以下である。なお、隙間は現実的には1μ以上であることが好ましい。なお、隙間の最少部分では0.1μ以上であることが好ましく、より好ましくは0.3μ以上である。隙間が狭すぎると、フローセル内のスムーズな流れが阻害され、フローセル内の溶液置換に時間を要することになる場合がある。また、正確に隙間を確保するため、フローセルに凸部を設けても良いし、別途スペーサーを用いても良い。
【0014】
シール材断面は、円形、楕円形、略四角形、略六角形などの形状が例として挙げられ、溝形状も同様に、底部を平らとしたもの、半円形としたもの、三角形としたもの、溝全体を三角形としたもの等が挙げられる。
【0015】
シール材は安価かつ入手容易であることからOリングが好ましい。Oリングの材質は特に限定されるものではないが、ゴム系の材質が好ましい。例としては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、SISゴム、SIBSゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンブタジエンゴム、EPDM、ニトリルゴム、アクリル系ゴム、ウレタン系ゴム、ポリエステル系エラストマー、フッ素系ゴム、シリコンゴムなどの素材が挙げられ、発泡体であっても良いし、これらのブレンド体であっても良い。
【0016】
また、SPR観察の際はアレイを上下左右に整列させて観察することが好ましいが、シール材を円形に設置した場合、その中で最大の測定数をとろうとすると、観察するアレイ整列部分を含む状態で真円をとる必要があり、無駄な区域が多い。従って、円形以外の形状で設置する方が好ましい。
【0017】
シール材を配置する際には、配置された状態でのシール材の長さをa、配置された状態でのシール材の最大径を直径とする真円の円周長さをbとした場合、式(2)を満たすよう配置することが好ましい(なお、配置された状態でのシール材の長さ、配置された状態でのシール材の最大径の計測はシール材の厚みの中間位置とする)。
a/b<1.000 式(2)
なお、より好ましくはa/bは0.995以下であり、さらに好ましくは0.990以下である。また、a/bの下限は0.800が好ましく、より好ましくは0.830、さらに好ましくは0.850である。
【0018】
a/b=1の場合はシール材の設置された形状は真円であり、0.995以上の場合は、効率よくアレイ整列部分をとりにくい。また、a/bを0.8未満にした場合もSPRの視野が通常円形であるため、効率よくアレイ整列部分をとりにくくなる。
シール材を配置する具体的な真円以外の形状としては、略正方形(正方形の場合a/b=0.900)、略長方形、略六角形(正六角形の場合a/b=0.955)、略楕円形、円の相対する一部分づつを直線で切り取った形状、などが挙げられる。
【0019】
フローセルの材質としては、特に限定されず、金属、ガラス、セラミック、樹脂、などが挙げられる、樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、酢酸ビニル、塩化ビニル、PETやPBTやPET−G(R)等のポリエステル、6−ナイロンや6,6−ナイロン等のポリアミド、ポリカーボネート、PMMA、メラミン樹脂、フェノール樹脂、デルリン(R)やジュラコン(R)等のアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、テフロン(R)等のフッ素系樹脂、ポリジメチルシロキサン等のケイ素系樹脂、各種ゴム類、等がある。加工方法としては、削り出し、焼成、エッチング、射出など、それぞれの素材に適合したものであれば、特に限定されるものではない。
【0020】
また、溶液の流れ込みのために流入孔、流出孔が設けられるが、セル内への溶液のスムーズな拡散のために、流入孔、流出孔形状に工夫をしても良い。
工夫としては、孔のセル内部側にテーパー角を設ける、孔の角度を傾ける、複数の孔にする、スリット状の孔形状とするなどが挙げられる。
【0021】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0022】
[実施例]
線径1.5mm、内径15.5mmのシリコンゴム製Oリングを幅1.5mm、深さ1.1mmの角を丸くした四角形のOリング設置溝に設置した。フローセルの図を図1に示す。フローセルの材質はポリアセタールである。この場合のA1/A2は1.07であり、式(1)を満たす。また、a/bは0.931であり、式(2)を満たす。
【0023】
このフローセルと観察用スライドをSPRイメージング装置(SPRimager:GWC instruments)にセットして観察を行った。観察用スライドは以下の手順で用意した。
【0024】
厚さ1mm、18mm×18mmのSF10製透明ガラス基板上にクロム1nmを蒸着した後、金を45nm蒸着した。蒸着の厚みは水晶発振子にてモニターした。金が表面に蒸着された基板を8−Amino−1−Octanethiol, Hydrochrolide(8−AOT,同仁化学研究所製)の1mMエタノール溶液に16時間浸漬し、8−AOTの自己組織化表面を形成させた。分子量2000のスクシンイミド基末端ポリエチレングリコール(mPEG−SPA,Sheawater Polymers社製)をpH7.4のリン酸緩衝液に10mg/mlで溶解し、金表面の8−AOTに2時間反応させ、PEGを表面に固定化した。
【0025】
水晶上にクロムでパターンを描いたフォトマスクを基板上に置き、ウシオ電機社製1000W高圧水銀ランプにて一時間照射してパターン化を行った。フォトマスクのパターンは500μm×500μmの四角形(スポット)が100個並んだものである。照射後、ミリQ水とエタノールで洗浄したのち、7−Carboxy−1−Heptanethiol(7−CHT、同仁化学研究所製)の1mMエタノール溶液に16時間浸漬し、光を照射した部分に7−CHTの自己組織化表面を形成させた。次に0.2M水溶性カルボジイミド(ナカライテスク社製)、0.05M N−ヒドロキシスクシンイミド(ナカライテスク社製)をリン酸緩衝液に溶解させ、15分間反応させ、7−CHTのカルボキシル基を活性化させた。すぐに1mMのAB−NTA(同仁化学研究所製)を30分反応させ、ニトリロ三酢酸(NTA)基を固定化部位に導入した。未反応のスクシンイミド基は1Mエタノールアミン溶液(pH8.5)を10分間反応させブロッキングした。
【0026】
8M尿素溶液をフローセル内に充填しておき、MilliQ水を100μl/minで流したときの経時的SPR像を図2〜5に示す。図で斜線領域は黒く見える部分であり、非斜線部は白く見える部分である(屈折率の違いにより、尿素濃厚溶液が存在している部分は白くみえ、milliQ水で洗い流された部分は黒く見える。)、また、外側の太線はOリングの位置を示し、中の四角はスポットであり、実線は周囲と比較してさらに黒く見え、点線部はスポットが見えなくなっている部分である。なお、SPR観察は、角度をもって観察するため、扁平に見える。
図2〜5により、実施例のプローセルは20秒で尿素溶液を洗い流し、除去できることを示している。また、Oリングが四角形に設置されているため、視野が広く、500μm四方のスポット100個が十分に観察できる。
【0027】
また、フローセル内を緩衝液で満たしておき、200μlの2.5mM塩化ニッケル(II)を100μl/minでフローセル内に流しいれ、再度緩衝液を流したときのSPRシグナル変化を図6に示す。塩化ニッケル溶液の屈折率の違いによって、溶液が入るとシグナルが増加する。シグナルの立ち上がりは極めて急峻であり、かつ再度緩衝液を流したときの切り替えも非常に速い。
【0028】
[比較例]
線径1.78mm、内径12.42mmのニトリルゴム製Oリングを内径12.5mm、幅1.8mm、深さ1.2mmの円形のOリング設置溝に設置した。この場合のA1/A2は1.15であり、式(1)を満たさない。a/bは1.00である。
【0029】
このフローセルと観察用スライドをSPRイメージング装置にセットして観察を行った。8M尿素溶液をフローセル内に充填しておき、MilliQ水を100μl/minで流したときの経時的SPR像を図7〜9に示す。尿素溶液を洗い流すのは非常に時間がかかり、90秒流しても十分に洗い流せていない。また、Oリングは円形に設置しているため、500μm四方のスポット100個は端の部分が観察しづらい。
【0030】
また、フローセル内を緩衝液で満たしておき、200μlの2.5mM塩化ニッケル(II)を100μl/minでフローセル内に流しいれ、再度緩衝液を流したときのSPRシグナル変化を図10に示す。シグナルの立ち上がりはやや遅く、再度緩衝液を流したとき、切り替わるのが非常に遅い。
【0031】
【発明の効果】
本発明のSPRフローセルは少ないサンプル量で測定可能かつ、サンプルの切り替えが迅速にできるため、SPR観察において、リアルタイムで様々な測定を正確に行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で用いたフローセルの上面および断面図 単位(mm)
【図2】実施例で8M尿素溶液を洗浄したときのSPR像の経時変化(5秒後)
【図3】実施例で8M尿素溶液を洗浄したときのSPR像の経時変化(10秒後)
【図4】実施例で8M尿素溶液を洗浄したときのSPR像の経時変化(15秒後)
【図5】実施例で8M尿素溶液を洗浄したときのSPR像の経時変化(20秒後)
【図6】2.5mM塩化ニッケル注入時のSPRシグナル変化(実施例)
【図7】比較例で8M尿素溶液を洗浄したときのSPR像の経時変化(30秒後)
【図8】比較例で8M尿素溶液を洗浄したときのSPR像の経時変化(60秒後)
【図9】比較例で8M尿素溶液を洗浄したときのSPR像の経時変化(90秒後)
【図10】2.5mM塩化ニッケル注入時のSPRシグナル変化(比較例)
Claims (3)
- Oリングによってフローセルと観察用スライドの金表面の隙間にサンプル流路が確保された表面プラズモン共鳴測定用フローセルであり、
観察用スライドの該金表面上に500μm四方のスポット100個(縦10×横10)が配置されており、
線径1.5mm、内径15.5mmのOリングを、該フローセル上の略正方形のOリング設置溝でありかつ当該設置溝の幅が1.5mm、深さ1.1mmである設置溝に設置することを特徴とする表面プラズモン共鳴イメージング測定用フローセル。 - 請求項1に記載の表面プラズモン共鳴イメージング測定用フローセルを搭載したことを特徴とするSPRイメージング装置。
- 請求項1に記載の表面プラズモン共鳴イメージング測定用フローセルを用いて表面プラズモン共鳴イメージング測定をすることを特徴とする方法。
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