JP4372440B2 - 発振波長可変セル及びそれを用いた発振波長可変レーザ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、異なる波長の光を出力する波長可変方法及び装置と波長可変セルに関する。
【0002】
【従来の技術】
出力する光の波長を制御できる波長可変装置、例えば波長可変レーザ装置が種々提案されている。これら既存の波長可変装置は、発振波長を切り換えるために、例えば、1対の共振器ミラーの一方に回折格子を利用すると共にこの回折格子の角度を機械的に変化させる方式、又は共振器内に光学部品(例えば、プリズム、フィルタ、エタロン、複屈折板)を配置すると共にこの光学部品の位置や角度を機械的に変化させる方式を採用している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の波長可変装置は、回折格子や光学部品を機械装置によって回転又は移動している。そのために、波長可変装置の構成が複雑になり、また大型化するという問題があった。また、回折格子や光学部品を機械的に移動させているため、波長掃引速度が遅く(例えば、数ミリ秒〜数秒)、光通信などの高速性が要求される分野に利用できないという問題があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明は従来の波長可変装置が抱えているこれらの問題を解消し、出力する波長の切り換えを短時間で行うことができる新たな方法及び装置を提供することを目的としてなされたものである。
【0005】
具体的に説明すると、本発明に係る第1の発振波長可変セルは、屈折率の異なる複数の層を積層した一次元周期構造と、一次元周期構造の中に導入され、置かれている場(例えば、電場、磁場、光場、温度場)の強度に応じて屈折率が変化する第1の物質を含む欠陥構造層とを備えており、一次元周期構造はフォトニックバンドギャップを有し、欠陥構造層は、フォトニックバンドギャップ内で局在モードを有し、前記場の強度に応じて前記局在モードの光の波長を変化する。欠陥構造層は、さらに、入射光によって励起される第2の物質を含み、前記第2の物質の励起によるレーザ発振の波長を前記場の強度に応じて変化できる。また、本発明に係る第2の発振波長可変セルは、屈折率の異なる複数の層を積層した一次元周期構造と、一次元周期構造の中に導入され、置かれている場の強度に応じて屈折率が変化する第1の物質を含む欠陥構造層と、一次元周期構造内に導入され、入射光により励起される第2の物質を含む活性媒質層とを備えており、一次元周期構造はフォトニックバンドギャップを有する。欠陥構造層は、フォトニックバンドギャップ内で局在モードを有し、前記場の強度に応じて前記局在モードの光の波長を変化し、前記第2の物質の励起によるレーザ発振の波長を前記場の強度に応じて変化できる。本発明の好ましい形態において、欠陥構造は、置かれている場の強度に応じて屈折率が変化する第1の物質を有する。この第1の物質には、液晶(LC)、π共役系高分子、電気光学効果を示す材料、サーモクロミズム材料、フォトクロミック分子、非線形光学材料、フォトリフラクティブ材料又は光反応性液体材料が利用される。第2の物質には、発光性色素又はπ共役系高分子が含まれる。
【0006】
本発明に係る第3の発振波長可変セルは、屈折率の異なる複数の層を積層した一次元周期構造と、前記一次元周期構造の中に導入され、第1の物質を含む欠陥構造層とを備えており、前記一次元周期構造はフォトニックバンドギャップを有し、前記欠陥構造層は、フォトニックバンドギャップ内で局在モードを有し、前記場の強度に応じて前記局在モードの光の波長を変化する。前記第1の物質は、置かれている場の強度に応じて屈折率が変化するとともに、入射光によって励起される物質であり、前記第1の物質の励起によるレーザ発振の波長を前記場の強度に応じて変化できる。前記第1の物質はフォトクロミック分子および非線形光学材料のいずれか一つである。
【0007】
本発明の発振波長可変レーザ装置は、(a)場の強度に応じてレーザ発振の波長を変化できる上述の発振波長可変セルと、(b)前記波長可変セル内の前記一次元周期構造と欠陥構造層を透過する励起光を前記発振波長可変セルに出射する光源と、(c)前記光源と前記波長可変セルとの間の光路に配置される第1偏光素子と、(d)前記発振波長可変セルが置かれている前記場の強度を調整する強度調整装置と、(e)前記発振波長可変セルの出射側光路に配置される第2偏光素子、および、(f)前記発振波長可変セルの出射側光路に配置され、出射された前記励起光をカットする励起光カットフィルタとを備え、前記場の強度に応じてレーザ発振の波長を変化できる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0009】
図1は、本発明に係る波長可変セルの断面を示す。この図に示すように、波長可変セル10は、透光性の一次元周期構造(一次元フォトニック結晶構造)12と、この周期構造12の中に組み込まれた透光性の欠陥構造(欠陥層)14を備えている。周期構造12は、第1の屈折率を有する第1の誘電体層16と、第1の屈折率と異なる第2の屈折率を有する第2の誘電体層18とを交互に配置して誘電体多層膜に形成されており、これにより周期構造12にフォトニックバンドギャップ特性が与えられている。当業者には良く知られていることであるが、フォトニックバンドギャップの波長領域は、誘電体層の屈折率、厚さ、配列数によって決まる。本実施の形態において、欠陥構造14は、周期構造12のほぼ中央に位置する第1の誘電体層16又は第2の誘電体層18のいずれか一方に置換された状態で配置されている。また、本実施の形態では、欠陥構造14を挟んでその両側にそれぞれ5つの誘電体層16,18を交互に配置しているが、両側の誘電体層の数や順序は図示する例に限るものでない。
【0010】
欠陥構造14は、周期構造12の周期性に乱れを与えることでフォトニックバンドギャップの波長領域に欠陥モード(この波長領域に透過スペクトル)を発現させる。欠陥モードの波長や数は、欠陥構造の屈折率、厚さによって変化する。本実施の形態において、欠陥構造14は、その物の置かれている場(例えば、電場、磁場、光場、温度場)の強度に応じて屈折率が変化する物質(第1の物質)を含む。例えば、第1の物質として、液晶、π共役系高分子、電気光学効果を示す材料、サーモクロミズム材料、フォトクロミック分子、非線形光学材料、フォトリフラクティブ材料、光反応性液体材料が利用できる。
【0011】
図示する例では、欠陥モードを制御するために電場の強度を変化させる方法を採用している。そのため、周期構造12の両最外層上にそれぞれ透光性の電極20,22が配置されており、これらの電極20,22に印加する電圧を調整することで欠陥構造12に含まれる第1の物質の屈折率を変化させるようにしてある。電極20,22の配置場所は図示する実施例に限るものでなく、周期構造12の内部に設けてもよい。電極には櫛状電極を用いることもでき、その場合は欠陥構造14の中に正極電極と負極電極が交互に並ぶように、櫛状電極を配置するのが好ましい。この場合、櫛状電極は、透明電極である必要はない。
【0012】
また、磁場の強度を変化させる場合は、電極20,22に代えてセル10の周囲にコイルを配置すればよい。同様に、光場や温度場を変化させる場合は、欠陥構造14に加える光や熱の強度を調整できる装置をセル10の周囲又は内部に配置すればよい。
【0013】
欠陥構造14はまた、第1の物質に入射された光によってレーザ光を発振させるように、光によって励起される第2の物質(活性媒質)を含む。例えば、第2の物質として、発光性色素、π共役系高分子がある。上述のように、第1の物質として液晶を用いる場合、第2の物質として色素が液晶中に添加(溶解)される。この色素は、セル10に入射される励起光に応じて適当な材料が選択される。
【0014】
本実施の形態のセル10はまた、電極20,22を保護するためにその外側に透明基板24,26を備えている。
【0015】
このような構成を有する波長可変セル10によれば、透明基板24,26からセル10に入射された光は、周期構造12と欠陥構造14を透過する。このとき、欠陥構造14が無ければ、周期構造12の特性によって定まるフォトニックバンドギャップの波長領域にある光の透過が遮断される。しかし、欠陥構造14が存在することにより、その欠陥構造14の性質などから定まる特定の波長の光がセル10から出力する欠陥モードが発現する。また、例えば、電極20,22の間に印加する電圧を調整することによって場の強度を変化させると、それに応じてセル10から出力する光の波長が変化する。さらに、欠陥構造14が第2の物質を含む場合、欠陥モード波長のレーザ光が発振する。したがって、この波長可変セル10によれば、場の強度を調整することによってセルから出力される光又はレーザ光の波長を変化させることができる。当然、場の強度を変化させる速度は高速で行えるため、波長の切換は高速で行える。
【0016】
【実施例1】
波長可変セルを作成し、このセルから出力される光の波長が変化することを確認した。試験に用いたセルは、まず、透明ガラス基板の表面に、透明電極層と、透明電極層の上に二酸化ケイ素SiO2(屈折率 n1=1.46)と酸化チタンTiO2(屈折率 n2=2.35)を交互に5層づつ積層した積層誘電体層と、配向膜としてのポリイミド層を配置したセルブロック(図1に符号12a,12bで示されている。)を2つ用意し、次に、これらの2つのセルブロックをガラス基板の反対側にある配向膜を所定の大きさの隙間をあけて対向するように配置し、最後にその隙間に液晶を充填して作成した。
【0017】
二酸化ケイ素と酸化チタンの厚さ(d1,d2)はそれぞれ103nm、64nmとした。ここで、フォトニックバンドギャップの波長領域における中心波長(λ0)は、2種類の誘電体層の屈折率(n1,n2)と厚さ(d1,d2)を用いて、以下の式(1)で表わされる。
【数1】
この式(1)によれば、誘電体層として二酸化ケイ素SiO2(屈折率 n1=1.46、厚さ d1=103nm)と酸化チタンTiO2(屈折率 n2=2.35、厚さ d2=64nm)を用いた場合、フォトニックバンドギャップの波長領域の中心波長λ0は約600nmである。
【0018】
電極にはインジウム-スズ酸化物(ITO)を用いた。欠陥構造の厚さ(隙間)は1μmとし、そこにはネマチック液晶(メルク社製、製品番号E47)を充填した。また、セルを二つ用意し、一方のセルに充填された液晶には、色素[2−[2−[4−ジメチルアミノフェニル]エテニル]−6−メチル−4H−ピラン−4−イリデン]プロパンジニトリル(以下、「DCM」という。)を0.5wt%の割合で添加した。
【0019】
ITO透明電極層は、ガラス基板の上にスパッタリングで成膜した。同様に、二酸化ケイ素と酸化チタンの誘電体層もスパッタリングで成膜した。配向膜は、誘電体層上にポリイミドをスピンコートした後、所定の温度条件で焼成し、ラビング処理を施した。ポリイミドには日本合成ゴム社製のAL1254を使用し、150℃で1時間焼成した。
【0020】
ガラス基板に電極層、誘電体層、配向膜を形成した2つのセルブロックを対向させ、両者の間にスペーサボールを挟持して1μmの隙間を形成した。液晶は、毛細管現象を利用して常温で隙間に充填した。その後、液晶分子をラビング方向に平行に配向するために、液晶が等方相(等方性液体相)となる温度まで加熱し、再び室温まで徐冷した。
【0021】
このようにして形成されたセルのうち、液晶に色素を添加していないセルを、図2及び図3に示す波長可変装置に組み入れた。図2(a)に示されるように、この波長可変装置30において、光源には白色光源(タングステンランプなど)32を使用した。電極層20,22に電圧を印加するために、ファンクションジェネレータ34を用いた。光源32から出射された光をセル36に導く入射光学系38には、偏光素子42を組み入れた。その他、波長可変レーザ装置波長変換装置30のセル36から出射した光の分光特性を測定するために、CCDマルチチャンネル分光器(分解能3nm)44を利用した。
【0022】
図2(b)は、セル36の断面を示す。図2(b)において、図1の波長可変セル10と同一の構成要素には同一の符号を付す。図2(b)のセル36において、欠陥層14は、液晶とその液晶を配向させる配向膜48,50を含むことが明示されている。
【0023】
図3は、図2(a)に示された波長可変装置30の構成要素のうち、セル36と、偏光素子42と、ファンクションジェネレータ34を抽出して示す。セル36に電圧を印加しない場合、欠陥層14中の液晶は、セル面に平行な方向(ラビング方向)に配向されている。
【0024】
液晶に色素を添加していないセルに対し、1kHzの矩形波を利用して電極層20,22に印加する電圧を0V〜9Vまで連続的に変化させ、セルを透過した光のスペクトルを測定した。図4は、透過スペクトルの電圧依存性を示す。この図から明らかなように、いずれの電圧条件においても、ストップバンドは520nm〜780nmの範囲に現れ、バンド幅は変化しなかった。しかし、電圧0Vでは欠陥モードが4箇所存在したが、電圧8Vでは欠陥モードが3箇所に減少した。これは、電圧印加によって、ネマチック液晶がセル面に垂直方向に再配向することにより屈折率が減少して光学距離が短くなり、そのためにモードの数が減少したものと考えられる。同様に、電圧が2V、4Vの透過スペクトルも図4に示す。これらの結果より、欠陥モード波長が印加電圧に応じて変化することが確認できた。
【0025】
図5は、印加電圧と欠陥モード波長(局在モード波長)との関係を示すグラフである。この図に示すように、入射光の偏光方向がラビング方向に平行な場合、印加電圧が1Vまで局在モード波長がシフトせず、1Vを超えてから局在モード波長のシフトが始まった。局在モード波長は約4Vまで大きく変化し、4Vを超えるとなだらかに変化した。この減少傾向は、フレデリクス転移と一致していると考えられる。また、偏光板を回転させて偏光方向を変化させ、ラビング方向と垂直に偏光した光をセルに入射した場合、印加電圧に対してピーク波長は応答せず、ほぼ一定であった。これは光が常に液晶の常光屈折率を感じ、印加電圧の変化によって液晶の屈折率が変化しないためと考えられる。
【0026】
これらの結果より、液晶欠陥構造を有するフォトニック結晶構造に生じる局在モードは場(例えば、電場)の強度調整によって制御可能であることが明らかになった。また、欠陥構造の液晶に色素を添加したセルの場合、光励起により局在モードからのレーザ発振も観察された。また、レーザ発振波長の電界変調も可能であることが確認された。
【0027】
なお、比較のために、欠陥構造を除いたセルを作成し、波長−透過スペクトル特性を調べた。結果を図6に示す。
【0028】
上述した色素入りのセルを用い、レーザの発振を確認した。そのために使用した設備を図7に示す。この設備において、ファンクションジェネレータ34、偏光素子42、分光器44は上述の設備(図2)と同一とした。図7の設備が図2の設備と異なる点は、光源として、励起光源60、例えば、QスイッチNd:YAG(ネオジウム:イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザ(出力波長532nm、パルス幅8nm)を使用したこと、励起光源60と偏光素子42との間に集光レンズ62を配置したこと、及び、セル36と分光計44との間に、偏光板64と励起光カットフィルタ66を配置したことである。励起光カットフィルタ66は、セル36から出射した光のうち励起光成分を除去する。
【0029】
実験の結果を、図8〜図10に示す。まず、図8は、励起光源60から出力される励起光の強度を増大させていったときにセル36から出力される光の発光スペクトルの励起光強度(横軸)、半値幅(左縦軸)、発光強度(右縦軸)の関係を示す。この図に示されているように、発光強度(右側縦軸)は、励起光強度が3μJより小さい場合はほぼ0に等しいが、励起光強度が3μJを越えると励起光強度に比例して増加した。発光スペクトルの半値幅(左縦軸)は、励起光強度が3μJ以下のとき、10nm程度であった。なお、セル36からの発光は、フォトニックバンドギャップ内の欠陥モードを抜けてくるものであるため、励起光強度が低い場合でも10nm程度と比較的狭いものである。また、励起光強度が3μJ以上では、分光器44の波長分解能(3nm)まで急激に減少した。これは、セル36が、閾値励起光強度(3μJ)以上でレーザ発振したことを意味する。
【0030】
図9(a)〜(c)及び図10(a)、(b)は、セルに印加する矩形型パルス(周波数1kHz)の電圧を変化させたときに現れた、レーザ発光スペクトルの電圧依存性を示す。この図に示すように、印加電圧を増加すると、同一欠陥モードのレーザ発光ピーク波長が短波長側にシフトした。これは、電圧を印加すると、欠陥層におけるネマチック液晶の配向方向(長軸方向)が光の伝搬方向に平行になろうとして、光の伝搬方向における液晶の屈折率が減少したことに起因する。特に図10(a)、(b)に示すように、波長の移動は、電圧が1.1V以上のときに発生する。この電圧1.1Vは、使用した液晶(メルク社、E47)のフレデリクス転移の閾値電圧に対応している。したがって、レーザ発振波長のシフトは、電圧印加により誘起された液晶の再配列に基づく欠陥層の屈折率の減少に起因することが理解できる。
【0031】
なお、図9(a)に示すように、セルに電圧を印加しない場合(印加電圧が0Vの場合)、発光スペクトルの波長は約618nmである。この波長は、色素DCMに波長532nm(Nd:YAGレーザの第二高調波)の励起光を照射したときにDCMが発する光の波長と同一である。したがって、波長可変セルにおける誘電体積層を適宜設計してフォトニックバンドギャップの中心波長λ0を600nmに設定することにより、印加電圧が0Vのときの発光スペクトル波長を、フォトニックバンドギャップのほぼ中央に出現させることができた。
【0032】
また、図10(a)、(b)に示すように、印加電圧を僅か0Vから2.2Vまで変化させるだけで、レーザ発振波長を約26nmの範囲で制御できた。そして、電圧によるレーザ発振波長の制御は可逆的であり、シフト可能な発振波長の範囲において約100μsの掃引速度を実現できることが確認できた。
【0033】
なお、以上の実施例では、ネマチック液晶(メルク社のE47)に対するDCMの添加量を0.5wt%とした。しかし、添加量はその値に限るものでなく、添加量を変えても以上の実験と同様の傾向(すなわち、発振波長の電圧依存性)が得られることは明らかである。ただし、液晶に溶解できる色素DCMの量には限りがあるので、実質的にその添加量は、0.1wt%から数wt%の範囲で選択される。
【0034】
また、上述の実験では電圧を0Vから2.2Vまで変化させたときにレーザ発振波長が26nm変化することを示したが、レーザ色素の種類や欠陥層の厚さを最適化すれば、他の構成が同一のセルであっても、5V以下の範囲の電圧制御によって50nm以上の波長制御が可能であるものと思われる。これは、発振波長の制御範囲が、レーザ色素の発光波長範囲に依存することによる。
【0035】
このように、実施例1によれば、種々の作用効果が得られることが確認できた。例えば、実施例1の波長可変セル及びそれを用いた波長可変レーザ装置では、欠陥構造としてレーザ活性媒質(色素)を添加した液晶を用いており、この液晶は屈折率について異方性を有し且つ印加電圧に応じてその配向方向を変化させる。したがって、実施例1の波長可変セル及びそれを用いた波長可変レーザ装置では、セルの印加電圧を制御することによりレーザ発振波長を制御することが可能となる。
【0036】
また、波長可変セル及びそれを用いた波長可変レーザ装置は、従来の波長可変装置のように機械的な回転機構や移動構造を必要としないので、波長可変レーザ装置を小型にすることができる。さらに、電気信号を機械的信号に変換するモータを必要としないため、コスト及び消費電力を低減できる。さらにまた、レーザ波長の掃引速度は100μ秒程度であり、高速で波長を切り換えることができるため、高速通信の光スイッチとして応用することができる。そして、上述の波長可変セル及びそれを用いた波長可変レーザ装置によれば、数V以下の低電圧を用いて、レーザ発振波長を数十nm以上の広い範囲に渡って連続的に制御できる。
【0037】
以上の実施例では、レーザ活性媒質としてDCMを挙げたが、それは一例であってレーザ活性媒質はそれに限るものでないことは当然である。例えば、DCMの他に、ローダミン、クマリンなどの発光性色素、及びポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリフルオレンなどのπ共役系高分子を用いることができる。なお、π共役系高分子は、蛍光量子効率の高い材料が好ましい。
【0038】
液晶の種類も同様で、使用する液晶はネマチック液晶以外の液晶であってもよい。例えば、カイラルスメクチック液晶は、電圧を印加したときにネマチック液晶よりも応答速度が速いという効果がある。これは、カイラルスメクチック液晶が、カイラルスメクチックC相において強誘電性を示す強誘電性液晶であることに起因する。ネマチック液晶に電圧を印加した場合は、液晶分子の再配列がネマチック液晶の誘電異方性に起因しているため、その駆動トルクが小さく、液晶分子自身の応答時間が数十ミリ秒と遅いのに対し、強誘電性液晶に電圧を印加した場合、自発分極と電界との相互作用を駆動力とするため、数μ秒〜数十μ秒の高速応答が実現できる。特に、欠陥層中の液晶としてカイラルスメクチック液晶を用いた場合、キュリー温度直上でのエレクトロクリニック効果を利用して、サブマイクロ秒の応答を実現することもできる。したがって、本実施例で示した波長可変装置を用いることにより、数十〜数百nsでの波長制御が可能である。
【0039】
誘電体層の種類数も限定的ではなく、屈折率の異なる3種類以上の層を周期的に配列してもよい。各種類の層の屈折率、配列方向における厚さ及び配列数も任意に選択できる。
【0040】
さらに、屈折率が一方向に周期的に変化する材料を用いれば、種類の異なる層を積層することなく、1種類の層だけで一次元周期構造を構成できる。そのような材料として、例えばカイラルネマチック(CN)液晶やカイラルスメクチック液晶が挙げられる。
【0041】
なお、フォトニックバンドギャップの波長領域及びその中心波長(λ0)は、誘電体層の屈折率、厚さ、配列数を選択することにより、紫外域から赤外域にわたる広い範囲で任意に選択可能である。また、欠陥モード波長の制御領域は、欠陥層の厚さを変えることにより、紫外域から赤外域にわたる広い範囲で任意に選択可能である。ここで、欠陥層がレーザ活性媒質を含む場合、レーザ活性媒質の種類を選択することにより、レーザ発振波長の制御領域を任意に設定できる。また、レーザ活性媒質の発光波長領域と欠陥モード波長の制御領域が広い範囲で重なるように、レーザ活性媒質の種類や欠陥層の厚さを設定すれば、レーザ発振波長を広い範囲で制御することが可能となる。加えて、欠陥層中の液晶に発光波長領域の異なる複数のレーザ活性媒質を添加すれば、レーザ発振波長をより広い範囲で制御することも可能である。
【0042】
また、本実施例では、第1の物質として液晶を用いたが、電界を印加することにより屈折率が変化するその他の材料、例えば、電気光学効果を示す高分子を用いても本実施例と同一の作用効果が得られる。
【0043】
なお、本実施例の波長可変レーザ装置においては、励起光源としてYAGレーザを用いたが、レーザ活性媒質を励起できるものであれば任意の光源を使用できる。
【0044】
また、本実施例の波長可変レーザ装置において、励起光源をセルの外部ではなく内部に設けることもできる。図11は、内部に励起光源を含む波長可変セルの断面を示す。図11に示されるように、励起光源68は、2つの電極層22,70と、その間に挟まれたEL(エレクトロルミネセンス)材料を含むEL層72から成る。電極層22は、図12に示されるように、欠陥層14に電圧を印加する際にも使用される共通電極として機能する。EL層72は、直流電源73を用いて、電極22と電極72の間に電圧を印加することによって発光する。EL層72から放出された光は、欠陥層14中のレーザ活性媒質を励起する。上述のように、内部に励起光源を含む波長可変セルを用いれば、波長可変レーザ装置をさらに小型にすることができる。なお、上記のEL材料は、無機又は有機の別を問わない。
【0045】
また、図11の実施例では、光源68としてEL素子を導入したが、発光ダイオードや半導体レーザなどの半導体発光素子を導入してもよい。EL素子や半導体発光素子は、種々の改良形を含み、その構造は限定されない。また、光源68の位置は、図示したものに限られず、周期構造12の任意の位置に設けられてよい。例えば、図13に示すように、周期構造12のほぼ中央に挿入してもよい。さらには、欠陥層14と同じ層内にEL素子又は半導体発光素子の発光層(光が出力される層のことであり、上記EL層や半導体レーザの活性層等を含む。)を設けて、欠陥層14に導波光を照射することにより、レーザ活性媒質を励起する構成にすることもできる。
【0046】
加えて、欠陥層が発光波長領域の異なる複数のレーザ活性媒質を含むとき、複数の発光層を設けることにより、それぞれのレーザ活性媒質を励起できる複数の励起光源をセル内に導入すれば、より広い範囲でレーザ発振波長を制御できる波長可変レーザ装置を実現できる。
【0047】
波長可変セルを用いれば、特定の範囲の印加電圧についてのみレーザが発振するように構成することも可能である。これは、上述のように、レーザ発振波長がフォトニックバンドギャップの範囲内でのみ移動する性質を利用するもので、例えば、印加電圧が0Vのときには欠陥モードがフォトニックバンドギャップ波長領域に現れず、特定の値(液晶のフレデリックス転移の閾値電圧の値)以上の電圧を印加することにより初めて欠陥モードがフォトニックバンドギャップ波長領域に現れるようにするものである。これは、レーザ活性媒質の種類や欠陥層の厚さなどを選択することにより実現できる。
【0048】
【実施例2】
図14は、実施例2の波長可変セルを示す。図示する実施例において、図1の波長可変セル10と同一の構成要素には同一の符号を付し、それらの説明は省略する。本実施例のセル74が、実施例1のセルと異なる点は、欠陥構造14が、液晶層76とレーザ活性媒質層78の2つの独立した層で構成されていることである。
【0049】
この波長可変セル74の製造方法は、上述した実施例1の波長可変セルの製造方法と異なり、一方のセルブロックにおいて誘電体層を積層した後、誘電体層の上にπ共役系高分子などのレーザ活性媒質を例えばクロロフォルム溶液などからスピンコート法により塗布して活性媒質層78を形成する。活性媒質層78を積層した後、この活性媒質層78の表面に液晶配向膜を生成する。そして、2つのセルブロックを液晶配向膜を対向させて配置し、これら液晶配向膜の間に形成された隙間に毛細管現象を利用して液晶を充填し液晶層76を形成する。このようにして形成された波長可変セル74は、図7に示す波長可変レーザ装置に組み込まれ、実施例1で説明したように利用される。また、実施例1と同一の作用効果が得られる。なお、図15は、活性媒質層78としてポリパラフェニレンビニレン誘導体を用いた波長可変セル74を波長可変レーザ装置(図7)に組み込んでレーザ発振させた場合のレーザ発光スペクトルを示す。図15により、約620nmの波長付近で、レーザ発振していることが確認できた。
【0050】
この実施例において、液晶層と活性媒質層は隣接している必要はなく、両者の間に別の層が介在してもよい。例えば、液晶層を挟むように配置される2つの電極層の一方を液晶層と活性媒質層との間に配置してもよい。また、電極の位置も任意で、一対の電極の間に印加される電圧を変化させることによって両者の間に形成されている電界の変化が液晶の配向に影響を及ぼすものであればよい。さらに、レーザ活性媒質は光励起によりレーザ発振する材料であればよく、無機又は有機の別は問わない。
【0051】
また、本実施例では、第1の物質として液晶を用いたが、電界を印加することにより屈折率が変化するその他の材料、例えば、電気光学効果を示す結晶または高分子を用いても本実施例と同一の作用効果が得られる。
【0052】
なお、本実施例においても、実施例1で述べたように、励起光源をセルの内部に設けることができる。特に、活性媒質層と同じ層内に半導体レーザを作り込んで導波光によりレーザ活性媒質を励起することも可能である。また、発光層を複数設けて、セル内に出力波長の異なる複数の励起光源を導入し、かつ、同じセル内にそれぞれの励起光源に対応した種類の異なる複数の活性媒質層を導入すれば、より広い範囲でレーザ発振波長を制御できる波長可変レーザ装置を実現することも可能である。
【0053】
【実施例3】
図16は、実施例3の波長可変セルを示す。図示する実施例において、図1の波長可変セル10と同一の構成要素には同一の符号を付し、それらの説明は省略する。本実施例のセル80は、温度の変化によって欠陥層の屈折率を制御するもので、電極が省かれている点で実施例1のセルと異なる。したがって、波長可変セル80の製造方法は、ガラス基板22の上に直接セルブロック12a,12bを形成する点を除いて実施例1の波長可変セルの製造方法と同一である。欠陥層の液晶にレーザ活性媒質を添加することは任意である。
【0054】
この波長可変セルを波長可変装置に使用する場合、図17に示されるように、波長可変セル80上又はその近傍に加熱源82を配置し、その発熱温度を温度制御装置84で制御して液晶欠陥層14の温度を調整する。その結果、例えば温度を上昇させると欠陥層14の液晶が等方相(等方性液体層)になり、欠陥層14の屈折率が変化する。この欠陥層14の屈折率の変化は、欠陥モードの波長を変化させる。したがって、加熱源82の温度、すなわち伝熱ヒータを用いる場合にはその印加電圧を制御することにより、欠陥モード波長(欠陥モードからのレーザ発振波長)を変化させることができる。
【0055】
具体的に、実施例1で用いた具体的構成の波長可変セルから電極層を除いた波長可変セルを用い、これに実施例1と同一の励起用Nd:YAGレーザを照射し、セルの温度を変化させた。その結果、セルの温度が61℃を超えたときからレーザ発振波長のシフトが測定された。このシフトが測定される温度は、ネマチック液晶が等方相になる温度である。
【0056】
この温度の変化を利用した波長可変セルにおいて、波長シフトが発現する温度は欠陥層内の液晶の種類に依存する。例えば、ある液晶は室温近くで等方相になり、別の液晶は非常に高温(例えば、100℃以上)で等方相になる。したがって、液晶の種類を選択することにより、欠陥モード波長(欠陥モードからのレーザ発振波長)を制御できる温度範囲を任意に選択することができる。
【0057】
周囲の温度に応じて欠陥モード波長(レーザ発振波長)が変化するという特性を利用し、波長可変セルを温度センサに利用することも考えられる。例えば、温度を測定したい場所に設置された波長可変セルに励起光源を照射し、セルから出力される光の波長をモニタすることにより、セルの設置されている場所の温度を検出することができる。この場合、セルとモニタを適当な光導波路(例えば、光ファイバ)で光学的に接続すれば、遠隔地で温度をモニタすることができる。
【0058】
なお、本実施例の波長可変レーザ装置では、欠陥構造を液晶欠陥層のみで形成したが、図18に示すように、欠陥構造を液晶層と活性媒質層の2つの層で形成してもよい。また、以上の説明では加熱源をセルの外部に設けたが、液晶欠陥層の近傍に透明電極材料からなる発熱抵抗層を配置し、この発熱抵抗層に印加する電圧を制御することによって欠陥モード波長をシフトしてもよい。
【0059】
また、本実施例の波長可変レーザ装置では、励起光源をセルの外部に設けたが、実施例1で述べたように、励起光源をセルの内部に設けてもよい。その場合には、例えば、図11で示されるように、2つの電極層とそれらの間に挟まれた発光層とから成る励起光源を周期構造の任意の位置に挿入すればよい。
【0060】
なお、本実施例では、ネマチック液晶のネマチック相−等方相転移を利用したが、カイラルスメスチック液晶の配向方向の温度依存性を利用することも可能である。具体的に説明すると、カイラルスメスチック液晶は、キュリー温度以下での温度変化により、スメスチック層の法線から傾く角度(チルト角)が連続的にかつ可逆的に変化する(図19参照)。この特性を利用すれば、温度変化によって欠陥層の屈折率を連続的に制御できる。
【0061】
また、本実施例では、第1の物質として液晶を用いたが、サーモクロミズム材料などの、温度変化によって屈折率が変化するその他の材料を用いても同一の作用効果が得られる。
【0062】
【実施例4】
磁場の変化により欠陥層の屈折率を制御することもできる。この実施例には、実施例3で説明した波長可変セル(図16と図18参照)が利用できる。この波長可変セルを用いた波長可変装置が実施例3の波長可変装置と異なる点は、波長可変セル上又はその近傍に磁界形成手段として例えばコイルや電磁石(図16,図18において点線86で示される。)が配置されることである。この波長可変装置において、コイル86に印加する電圧を制御することにより欠陥構造14を含む空間の磁界強度を変化させると、欠陥構造14内の液晶の配向方向とその屈折率が変化し、結果として、波長可変装置から出力される光の波長が変化(シフト)する。
【0063】
したがって、この波長可変セルは磁場センサとして利用できる。特に、波長可変セルは金属部品を含まないので、磁場を乱すことなく正確にその大きさを検出できるという利点ある。そのため、例えば、超伝導磁石によって作られる磁場をモニタするセンサとして好適に利用できる。
【0064】
なお、本実施例において、出力される光のシフトが起こる磁界の強さは、欠陥構造14に含まれる液晶の種類に依存する。従って、液晶を適当に選択することにより、出力光の波長範囲を任意に選択することができる。
【0065】
また、本実施例の波長可変レーザ装置では、励起光源がセルの外部に設けられるが、実施例1で述べたように、励起光源がセルの内部に設けられてもよい。その場合は、例えば、図11で示されるように、2つの電極層とそれらの間に挟まれた発光層とから成る励起光源が周期構造の任意の位置に挿入される。
【0066】
【実施例5】
光の強度変化により欠陥層の屈折率を制御することもできる。この実施例には、実施例3で説明した波長可変セル(図16と図18参照)が利用できる。この波長可変セルを用いた波長可変装置が実施例3の波長可変装置と異なる点は、波長可変セル上又はその近傍に別の光源が配置されることである。このように構成された波長可変装置によれば、光源に印加する電圧を制御することによって欠陥構造14を含む空間を照射する光の強度を変化させると、欠陥構造14内の液晶の配向方向とその屈折率が変化し、波長可変装置から出力される光の波長が変化(シフト)する。したがって、この波長可変セルは光センサとしても利用できる。
【0067】
なお、本実施例において、欠陥構造14に含まれる屈折率可変物質(置かれている場の強度に応じて屈折率が変化する物質)を液晶としたが、フォトクロミック分子、非線形光学材料又はフォトリフラクティブ材料を用いることもできる。また、液晶の代わりに、光によって屈折率の変化するニトロベンゼンや二硫化炭素(CS2)などの光反応性液体材料を用いることもできる。それらの場合にも、欠陥構造14を含む空間を照射する光の強度を変化させると、欠陥構造14内の屈折率が変化し、結果として、波長可変装置から出力される光の波長が変化(シフト)する。
【0068】
なお、フォトクロミック分子のなかには、それ自体が強い蛍光を示してレーザ活性媒質として働くものがある。そのようなフォトクロミック分子が欠陥構造14に含まれる場合、そのフォトクロミック分子は、屈折率可変物質として働くと同時にレーザ活性媒質としても働き、欠陥構造14は、別個にレーザ活性媒質を含む必要がない。この欠陥構造14は、図16における欠陥層14として、2つのセルブロック(12a,12b)の誘電体層の隙間にフォトクロミック分子を分散(溶解)させたマトリックス材料(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などの透明高分子)又はフォトクロミック高分子を充填することにより作成できる。
【0069】
同様に、非線形光学材料のなかにも、屈折率可変物質及びレーザ活性媒質として働くものがある。例えば、PPV、置換ポリアセチレン、ポリフルオレンなどの共役系高分子は、EL材料にも使用できるほど強い蛍光を示し、レーザ活性媒質になると同時に、大きな三次の非線形光学効果を示す。このような非線形光学材料を欠陥層14として用いれば、別個にレーザ活性媒質を含む必要がなくなる。また、そのような非線形光学材料が、レーザ発振によりその屈折率を自ら変化させるという現象(非線形現象)を利用して、波長可変装置のレーザ発振波長を自動的に変化させることも可能である。さらには、非線形現象を利用して、光双安定、カオスなどの現象を利用した素子への応用も可能である。
【0070】
以上のような屈折率可変物質でもありレーザ活性媒質でもあるフォトクロミック分子及び非線形光学材料を欠陥層14として含む場合、この波長可変セルを用いた波長可変レーザ装置は、その欠陥構造において非線形光学材料とレーザ活性媒質とを別々に含む波長可変セルを用いた波長可変レーザ装置と同一の作用効果を示す。
【0071】
また、フォトクロミック分子が、照射される光の波長に応じて2つの異性体間を転移する(屈折率が非連続的に変化する)という性質を利用し、特定波長の光を照射する場合についてのみ光が出力されるように波長可変セルを構成することも可能である。その場合には、異性体間の遷移のために、波長可変セルに、特定波長の光又は異なる波長の2つの光を照射する必要があるので、実施例3の波長可変装置において、波長可変セル上又はその近傍に、特定波長の光源又は出力光の波長を制御できる光源を配置する必要がある。
【0072】
なお、その特定波長の光源又は出力光の波長を制御できる光源を、波長可変セルの内部に設けることもできる。図20は、特定波長の光源を内部に備える波長可変セルの断面を示す。図20に示されるように光源90は、2つの電極層92,94と、その間に挟まれたEL(エレクトロルミネセンス)材料を含むEL層96から成る。これは、図11や図13で示された励起光源68の構成と同一である。以上のように、光源が波長可変セルの内部に含まれる場合、波長可変装置をさらに小型にすることができる。なお、光源90として、EL素子の代わりに、発光ダイオードや半導体レーザなどの半導体発光素子を導入することもできる。さらには、欠陥層14と同じ層内にEL素子又は半導体発光素子の発光層を設けて、欠陥層14に導波光を照射することにより、レーザ活性媒質を励起することもできる。
【0073】
また、波長可変セル内に複数の発光層を設けて、出力波長の異なる複数の光源をセル内に導入することにより、出力光の波長を制御できる光源を含む波長可変セルを実現することも可能である。その場合には、一方の異性体への遷移および他方の異性体への遷移の両方の遷移(光異性化)をそれぞれ制御できる。
【0074】
また、本実施例の波長可変レーザ装置では、励起光源をセルの外部に設けたが、実施例1で述べたように、励起光源をセルの内部に設けてもよい。また、上述した特定波長の光源又は出力光の波長を制御できる光源と、レーザ活性媒質の励起光源とを、同時に波長可変セルの内部に含むことも可能である。
【0075】
以上の実施例で説明された波長可変装置は、出力する光の波長を外場により任意にかつ高速に制御でき、種々の分野への応用が期待できる。特に、波長可変レーザ装置は、レーザ発振波長又はレーザ発振自体を外場により任意かつ高速に制御できるため、光通信分野への応用が期待できる。例えば、WDM(波長分割多重)装置のレーザ光源として用いれば、1台で複数の光波長を送出できるため、WDM装置全体の低コスト化が可能となる。また、本発明による波長可変レーザ装置を、レーザ送出装置の故障時の代替用光源として活用すれば、これまでそれぞれの波長毎に用意していたバックアップ用のレーザ送出装置が不要となるとともに、あらかじめWDM装置にバックアップ用として搭載することで、システムダウンの際の迅速な復旧を可能とするなど、コストダウン以外のメリットも期待できる。
【0076】
また、上述の波長可変レーザ装置は、リモートセンシング(地球環境、気象、防災)分野にも応用できる。この分野においては、レーザを光源とするレーダー手法(ライダー)を用いて、大気中のエアロゾル(浮遊粒子状物質)、水蒸気、汚染気体、大気構造、気温、気圧、風向風速、成層圏オゾン層、中間圏金属原子層などの観測を行う。本発明による波長可変レーザ装置は、共鳴散乱ライダーや2波長の信号の違いを解析する差分吸収ライダーの波長可変光源として使用でき、小型で信頼性が高いことから、航空機、人工衛星、スペースシャトルなどへの搭載も期待できる。
【0077】
また、本発明による波長可変レーザ装置は、医療分野にも応用できる。例えば、血液中又は筋肉中の酸素濃度分布の無侵襲イメージング(CT画像)用の光源として利用でき(例えば、脳内酸素分布など)、虚血症、脳梗塞、心筋梗塞などの診断、癌の診断への応用が期待できる。また、レーザの波長を医療行為の種類に応じて変化させるレーザメスとしても利用できる。さらに、本発明による波長可変レーザ装置は、記録デバイス分野におけるCD−R、DVDなどの光記録媒体への書き込み光源として利用可能であり、光感応性色素などの記録媒体の応答波長選択制を利用した多重記録や、媒質の深さ方向への浸透距離の波長依存性を利用した三次元記録など、高密度光記録への応用が期待される。
【0078】
本発明による波長可変レーザ装置は、その他にも、高分解能分光や気体分子種分析の光源として利用でき、例えば共鳴散乱を利用したS/N比の高いガスの成分・濃度計測を可能にする。また、レーザ同位体分離に用いるレーザ光源としても利用できる。さらに、コヒ−レント光を利用する光応用計測分野にも応用が可能である。
【0079】
【発明の効果】
本発明による波長可変方法及び装置によれば、出力する光の波長の切り換えを短時間に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態による波長可変セルを示す断面図である。
【図2】 (a)は、本発明の実施の形態による波長可変装置の構成を示す図であり、(b)は、図2(a)の波長可変装置に組み込まれた波長可変セルを示す断面図である。
【図3】 図2(a)に示された波長可変装置の一部を示す図である。
【図4】 液晶に色素を添加していない波長可変セルに電圧を印加した場合の透過スペクトルの電圧依存性を示す図である。
【図5】 液晶に色素を添加していない波長可変セルに対する印加電圧と欠陥モード波長との関係を示す図である。
【図6】 欠陥構造を除いた波長可変セルの波長−透過スペクトルを示す図である。
【図7】 本発明の実施の形態による波長可変レーザ装置を示す図である。
【図8】 液晶に色素を添加した波長可変セルの発振レーザスペクトルのピーク強度と半値幅の励起光強度依存性を示す図である。
【図9】 液晶に色素を添加した波長可変セルのレーザ発光スペクトルの電圧依存性を示す図であり、(a)0V、(b)1.5V、(c)2.0Vの電圧を印加した場合のレーザ発光スペクトルを示す。
【図10】 液晶に色素を添加した波長可変セルのレーザ発振波長の電圧依存性を示す図であり、(a)は、欠陥モード波長の電圧依存性を示し、(b)は、レーザ発振波長の電圧依存性を示す。
【図11】 内部に光源を導入した波長可変セルを示す断面図である。
【図12】 図11の波長可変セルの電極と電源との接続を示す図である。
【図13】 図11の波長可変セルの変形例を示す断面図である。
【図14】 本発明による実施例2の波長可変セルを示す断面図である。
【図15】 実施例2の波長可変セルのレーザ発光スペクトル示す図である。
【図16】 本発明による実施例3の波長可変セルを示す断面図である。
【図17】 図16の波長可変セルの温度制御装置を示す図である。
【図18】 図17の波長可変セルの変形例を示す図である。
【図19】 カイラルスメスチック液晶の配向方向の温度依存性を示す図である。
【図20】 特定波長の光源を内部に備える波長可変セルを示す断面図である。
【符号の説明】
10 波長可変セル
12 一次元周期構造
14 欠陥構造
16,18 誘電体層
20,22 電極
24,26 透明基板
Claims (10)
- 屈折率の異なる複数の層を積層した一次元周期構造と、
前記一次元周期構造の中に導入され、置かれている場の強度に応じて屈折率が変化する第1の物質を含む欠陥構造層とを備えており、
前記一次元周期構造はフォトニックバンドギャップを有し、
前記欠陥構造層は、フォトニックバンドギャップ内で局在モードを有し、前記場の強度に応じて前記局在モードの光の波長を変化し、
前記欠陥構造層は、さらに、入射光によって励起される第2の物質を含み、
前記第2の物質の励起によるレーザ発振の波長を前記場の強度に応じて変化できる発振波長可変セル。 - 屈折率の異なる複数の層を積層した一次元周期構造と、
前記一次元周期構造の中に導入され、置かれている場の強度に応じて屈折率が変化する第1の物質を含む欠陥構造層と、
前記一次元周期構造内に導入され、入射光により励起される第2の物質を含む活性媒質層とを備えており、
前記一次元周期構造はフォトニックバンドギャップを有し、
前記欠陥構造層は、フォトニックバンドギャップ内で局在モードを有し、前記場の強度に応じて前記局在モードの光の波長を変化し、
前記第2の物質の励起によるレーザ発振の波長を前記場の強度に応じて変化できる発振波長可変セル。 - 前記第1の物質が、液晶、π共役系高分子、電気光学効果を示す材料、サーモクロミズム材料、フォトクロミック分子、非線形光学材料、フォトリフラクティブ材料、光反応性液体材料のいずれか一つであることを特徴とする請求項1または2に記載の発振波長可変セル。
- 前記第2の物質が、発光性色素、π共役系高分子のいずれか一つである請求項1から3のいずれか一に記載の発振波長可変セル。
- 屈折率の異なる複数の層を積層した一次元周期構造と、
前記一次元周期構造の中に導入され、第1の物質を含む欠陥構造層とを備えており、
前記一次元周期構造はフォトニックバンドギャップを有し、
前記欠陥構造層は、フォトニックバンドギャップ内で局在モードを有し、前記場の強度に応じて前記局在モードの光の波長を変化し、
前記第1の物質は、置かれている場の強度に応じて屈折率が変化するとともに、入射光によって励起される物質であり、
前記第1の物質の励起によるレーザ発振の波長を前記場の強度に応じて変化できる発振波長可変セル。 - 前記第1の物質がフォトクロミック分子および非線形光学材料のいずれか一つであることを特徴とする請求項5に記載の発振波長可変セル。
- 前記場が、電場、磁場、光場、温度場のいずれかであることを特徴とする請求項1から6のいずれか一に記載の発振波長可変セル。
- さらに、前記一次元周期構造と前記欠陥構造層を透過する入射光を発生する光源を備え、前記光源は前記一次元周期構造と一体化されている、請求項1から7のいずれか一に記載の発振波長可変セル。
- (a) 請求項1から6のいずれか一に記載の、場の強度に応じてレーザ発振の波長を変化できる発振波長可変セルと、
(b)前記波長可変セル内の前記一次元周期構造と欠陥構造層を透過する励起光を前記発振波長可変セルに出射する光源と、
(c)前記光源と前記波長可変セルとの間の光路に配置される第1偏光素子と、
(d)前記発振波長可変セルが置かれている前記場の強度を調整する強度調整装置と、
(e)前記発振波長可変セルの出射側光路に配置される第2偏光素子、および
(f)前記発振波長可変セルの出射側光路に配置され、出射された前記励起光をカットする励起光カットフィルタと
を備え、前記場の強度に応じてレーザ発振の波長を変化できる発振波長可変レーザ装置。 - 前記光源と前記波長可変セルが一体化されたことを特徴とする請求項9に記載の発振波長可変レーザ装置。
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