JP4371655B2 - 血液バッグシステムおよび病原微生物の不活化方法 - Google Patents

血液バッグシステムおよび病原微生物の不活化方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、血液中の病原微生物を不活化する方法、および微生物学的、毒性学的に安全な血液製剤を供給する血液バッグシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】
現代の医療に欠かせない輸血であるが、1985年に米国赤十字社がHIV( ヒト免疫不全ウイルス)汚染血液除去のためのスクリーニングを開始するまでに、9000人が輸血によりHIVに感染した。それ以降、血液製剤はウイルス感染のスクリーニングが行われ、感染血液製剤が排除されたことで輸血による感染者数は僅か41人となった。しかし、それでもなお、現在のスクリーニング技術では、検査項目以外のウイルスや細菌といった輸血による感染症の原因となる病原微生物を検出することは不可能で、新種のウイルス等に感染する危険性を排除することはできない。そのため血液製剤に対して、病原微生物の不活化処理を行うことが必要となる。
【0003】
これまでに開発されたウイルス、細菌等の病原微生物に対する不活化技術として、血漿製剤におけるSolvent/Detergent(SD) 処理が知られるが、ノンエンベロープウイルスに効果がないなど、必ずしも安全な血液製剤が供給されていると言えない状況にある。このため、近年、安全な血液を供給するために病原微生物の不活化剤の開発が活発である。
【0004】
例えば、エチレンイミンオリゴマーを含むウイルス不活化剤が提案されている(特許文献1および2参照)が、エチレンイミンオリゴマーはウイルスの不活化に優れるが、不安定な構造のため室温で気化して爆発を起こす。このため、エチレンイミンオリゴマーを用いて血液製剤中の病原微生物を不活化する場合には、作業者が感染する危険性が非常に高い。
【0005】
また、エチレンイミンオリゴマーの製造・保存には、低温維持が必要になるため、エチレンイミンオリゴマーを含む病原微生物の不活化剤は、製造設備や輸送、保管にも多大な費用がかかるばかりでなく、医療現場で使用する際にもエチレンイミンオリゴマーを含む病原微生物の不活化剤の安全管理により一層の注意が求められるのである。
【0006】
【特許文献1】
国際公開第97/7674号パンフレット
【特許文献2】
国際公開第99/17802号パンフレット
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、従来の病原微生物の不活化剤がもたらす諸問題が解消された血液中の病原微生物を不活化する方法、および微生物学的、毒性学的に安全な血液製剤を供給する血液製剤用血液バッグシステムを提供することにある。特に、病原微生物の不活化効果が大きく、該不活化効果に持続性があり、かつ光、温度などの環境条件に対して安定な血液製剤用血液バッグシステムを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、以下の本発明により達成される。
本発明は、液体を収納可能な1以上の容器と、該容器に液密に接続される連結チューブと、を含む血液バッグシステムであって、該容器の少なくとも1つには、血液に含まれる病原微生物を不活性化する不活化剤および/または抗凝固剤が収容されており、該不活化剤は、該微生物の核酸に結合できる白金化合物または該白金化合物のアコ錯体を主成分とするものであることを特徴とする血液バッグシステムを提供する。
【0009】
本発明の血液バッグシステムにおいて、前記容器は2つ以上であり、前記不活化剤と、前記抗凝固剤とは、各々異なる容器に収容されており、前記不活化剤が収容されている容器と、前記抗凝固剤が収容されている容器とは、前記連結チューブで連結されていてもよい。
また、本発明の血液バッグシステムにおいて、前記不活化剤と、前記抗凝固剤とは、同一の容器に収容されていてもよい。
【0010】
したがって、本発明の血液バッグシステムは、抗凝固剤が収容された血液バッグと、血液に含まれる微生物を不活化する不活化剤が収容された容器とが連結された血液バッグシステムであって、該不活化剤が、該微生物の核酸に結合できる白金化合物または該白金化合物のアコ錯体を主成分とするものであることを特徴とする血液バッグシステムであり、また、抗凝固剤および血液に含まれる病原微生物を不活化する不活化剤が収容された血液バッグシステムであって、該不活化剤が、該微生物の核酸に結合できる白金化合物または該白金化合物のアコ錯体を主成分とするものであることを特徴とする血液バッグシステムである。
【0011】
本発明の血液バッグシステムにおいて、前記白金化合物が、シスプラチン、カルボプラチンおよびネダプラチンからなる群から選択される少なくとも一つであるのが好ましい。
【0012】
本発明の血液バッグシステムにおいて、前記白金化合物のアコ錯体が、モノアコ錯体(例えばcis-monochloromonoaqua diammineplatinous(II)chloride)、ジアコ錯体(例えばcis-diaquodiammineplatinous(II)dinitrate)、モノアコモノヒドロキソ錯体(例えばcis-monohydroxymonoaqua diammineplatinous(II)chloride )およびジヒドロキソ錯体(例えばcis-dihydroxydiammineplatinum(II) )からなる群から選択される少なくとも一つであるのが好ましい。
【0013】
本発明の血液バッグシステムにおいて、前記病原微生物が、DNA型ウイルス、RNA型エンベロープウイルスおよび細菌からなる群から選択される少なくとも一つであるのが好ましい。
【0014】
本発明は、また、血液に含まれる微生物を不活化する方法であって、予め採取した血液が収容された血液バッグに、該病原微生物の核酸に結合できる白金化合物または該白金化合物のアコ錯体を主成分とする微生物不活化剤を添加することを特徴とする病原微生物を不活化する方法を提供する。
【0015】
本発明の病原微生物を不活性化する方法において、前記微生物不活化剤を0.07mM(μmol/mL)以上の濃度となるように添加し、前記血液バッグに収容された血液中の1log 10以上の前記病原微生物を不活化させるのが好ましい。
【0016】
本発明の病原微生物を不活性化する方法において、前記微生物不活化剤を添加した後に、アミノ酸化合物またはチオ硫酸塩を主成分とする中和剤を添加して該不活化剤を中和処理するのが好ましい。
【0017】
本発明の病原微生物を不活性化する方法において、前記中和剤が、メチオニンまたはチオ硫酸ナトリウムであるのが好ましい。
【0018】
本発明の病原微生物を不活性化する方法において、前記中和剤を前記微生物不活化剤の10〜500倍の濃度となるように添加するのが好ましい。
【0019】
本発明は、さらにまた、白金化合物または該白金化合物のアコ錯体を有効成分とする予め採血された血液中の病原微生物を不活化する不活化剤を提供する。
【0020】
本発明の不活化剤において、前記白金化合物が、シスプラチン、カルボプラチンおよびネダプラチンからなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0021】
本発明は、さらにまた、白金化合物または該白金化合物のアコ錯体を予め採血された血液中の病原微生物の不活化剤として使用する方法を提供する。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の血液バッグシステムは、少なくとも1つ以上の液体収納可能な容器と、該液体収納可能な容器に液密に連結されており、該容器内に収納された液体の出し入れに使用される連結チューブと、を含んで構成されている。該システムを構成する容器のうち少なくとも1つには、採取した血液を収納するために抗凝固剤が収容されている。以下、この抗凝固剤が収容されている容器を「血液バッグ」という。該血液バッグシステムは、血液バッグ以外に、薬剤や、分離後の赤血球、白血球、血小板または血漿といった血液成分を収容するのに使用される1またはそれ以上の他の容器を有していてもよい。
【0023】
該血液バッグシステムにおいて、容器が複数ある場合、容器間は互いに連結チューブによって連結されており、該連結チューブを介して該容器内に収納されている液体、例えば血液、をやり取りすることができる。また、血液バッグシステムは、一方の端部のみが容器と連結している連結チューブを含んでいてもよい。このような一方の端部のみが容器と連結しているチューブは、主として血液バッグシステムの外部との血液のやり取りに使用されるものであり、具体的には、例えば容器に連結される側の端部とは反対側の端部に採血針が装着された採血チューブが挙げられる。
【0024】
図1は、本発明の血液バッグシステムの1構成例を示す概念図である。図1に示す血液バッグシステムでは、血液バッグ1と、血液中に含まれる病原微生物を不活化する不活化剤が収容された容器2と、他の容器として複数(図では2つ)の血液成分バッグ3、4とが連結チューブ5により連結されている。血液バッグ1には、採血チューブ6が連結され、その先端には採血針7が装着されている。連結チューブ5はアルミリングで圧着したり、ヒートシーラーで熱融着されて、封止できるようになっている。また、分離後の血液成分を収容するための血液成分バッグ3、4はバッグ毎に容易に切り離しできるようになっている。
【0025】
図2は、本発明の血液バッグシステムの別の1構成例を示す概念図である。図2に示す血液バッグシステムでは、血液バッグ1と、血液中に含まれる病原微生物を不活化する不活化剤が収容された容器2とが、連結チューブ5により連結されている。連結チューブ5には、必要な場合以外に、血液バッグ1および容器2間で内容物が移行されることを防止するため、連結チューブ5の開閉手段である弁51が設けられている。なお、図示していないが、図1に示す血液バッグシステムでも、血液バッグ1、容器2および血液成分バッグ3、4を連結する連結チューブ5には、開閉手段であるクレンメが設けられていることが好ましい。
【0026】
血液バッグ1には、採血チューブ6が連結され、その先端には採血針7が装着されている。また、血液バッグ1には、エア抜き用のチューブ10が設けられている。血液バッグ1に採血チューブ6から採血した血液を導入する際、または容器2から不活化剤を導入する際には、チューブ10から血液バッグ1内部のエアを排出することで、血液バッグ1への血液または不活化剤の導入を容易に行うことができる。
【0027】
図1および図2に示す血液バッグシステムの各構成要素は、安全性に配慮して、可塑剤入り塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂の成形品であるのが好ましい。
【0028】
図示した血液バッグシステムにおいて、血液バッグ1には、抗凝固剤が収容されており、採取された血液の凝固を防止することができる。血液バッグ1に収容される抗凝固剤は、公知の抗凝固剤から広く選択することができ、具体的には例えばクエン酸、ヘパリン、低分子ヘパリン、メシル酸ナファモスタット、メシル酸ガベキサート、EDTA等が使用できる。これらの抗凝固剤は、通常は生理食塩水やブドウ糖水溶液で希釈され、収納される血液との液比が通常の割合、具体的には例えば、血液との液比(抗凝固剤液:血液)が(1:2〜1:20)程度になる量、で収容される。これらの抗凝固剤は、血液保存液の一部をなすものであってもよく、このような血液保存液としては、アデニン、マンニトール、ソルビトール、グアノシン等を1種類以上含む生理溶液、例えばACD液、CPD液等が挙げられる。
【0029】
容器2には、血液に含まれる病原微生物を不活化する不活化剤が収容されている。該不活化剤は、必要な場合には、好ましくは開閉手段である弁51を開放することにより、連結チューブ5を通って血液バッグ1に導入される。これにより、血液バッグ1中の血液に含まれる病原微生物が不活化される。
【0030】
なお、図示した血液バッグシステムでは、血液バッグ1に抗凝固剤が収容され、容器2に不活化剤が収容された構成、すなわち抗凝固剤と不活化剤とが異なる容器に収容された構成であるが、抗凝固剤と不活化剤とが同じ容器に収容されていてもよい。すなわち、図示した構成において、不活化剤を予め血液バッグ1に収容しておいてもよい。この場合、採血した血液が血液バッグ1に導入された時点から血液に含まれる病原微生物の不活化が行われる。
ただし、アデニンおよびグアノシンを含む血液保存液を用いる場合は、アデニンおよびグアノシンが白金化合物と反応するので、病原微生物を不活化する前に、白金化合物とアデニンおよびグアノシンを混合することを回避しなければならない。
【0031】
本発明において、血液に含まれており、不活化が必要な病原微生物は、DNA型ウイルス、RNAエンベロープウイルス、細菌などである。ウイルスは遺伝学的にはDNA型とRNA型に分類され、構造的にはウイルス膜(エンベロープ)の有無で分類されている。現在、輸血感染で問題となるHIV、HCV(ヒトC型肝炎ウイルス)はRNA型のエンベロープウイルスであり、HBV(ヒトB型肝炎ウイルス)はDNA型のエンベロープウイルスである。
【0032】
また、輸血感染で問題となる細菌は、Yersinia enterocolitica (エルシニア菌)、Serratia marcescens (セラチア菌)などである。これらに感染している患者の血中菌数は1×101 〜1×102 CFU/mLであるが、不活化剤が含有されていない血液バッグを使用して採血すると、約3週間で1×106 〜1×108 CFU/mLに増加し、このような濃度の血液を輸血するとエンドトキシンショックで死亡することもある。
【0033】
本発明では、輸血用血液中のこれらの病原微生物を不活化する薬剤(以下、不活化剤と称する)として、抗がん剤として知られる白金化合物、より具体的には、病原微生物の核酸と結合できる白金化合物および/または該白金化合物のアコ錯体(両者を単に白金化合物と称することもある)を用いることを特徴とする。不活化剤として、これらの白金化合物を使用した場合、病原微生物の核酸に該白金化合物が結合することにより、病原微生物が不活化されるものと推定される。
【0034】
本発明に使用される白金化合物は病原微生物の核酸に結合性を有するものであり、具体的には、例えばシスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチンなどが例示される。これらは2種以上併用することもできる。
また、本発明には、該白金化合物のアコ錯体、すなわち、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチンなどのアコ錯体を使用することができる。アコ錯体としては、モノアコ錯体として、例えばcis-monochloromonoaqua(II)chloride、ジアコ錯体として、例えばcis-diaquodiammineplatinous(II)dinitrate、モノアコモノヒドロキソ錯体として、例えばcis-monohydroxymonoaqua diammineplatinous(II)chloride 、ジヒドロキソ錯体として、例えばcis-dihydroxydiammineplatinum(II) が好適である。これらは2種以上併用することができる。また、前記白金化合物と併用することもできる。
【0035】
白金化合物は、好ましくは開閉手段である弁51を開放することにより、連結チューブ5を介して容器2から血液バッグ1に導入できるように生理食塩水やブドウ糖水溶液に溶解させて浸透圧比1前後の液体の状態で容器2に収容されることが好ましい。
また、白金化合物は、光により分解したり、イオン濃度により安定性が変わるので、不活化剤を収容する容器2に遮光容器を用いたり、塩化ナトリウムなどによりイオン濃度を調整した状態で容器2に収容するのが好ましい。
【0036】
本発明の病原微生物を不活性化する方法は、予め血液が収容された血液バッグに、上記した白金化合物または該白金化合物のアコ錯体を主成分とする不活化剤を添加することにより、血液中に含まれる病原微生物を不活化するものであり、上記した本発明の血液バッグシステムにより好ましく実施される。以下、図2の血液バッグシステムを用いて本発明の病原微生物を不活化する方法を説明する。
【0037】
具体的には、図2の血液バッグシステムにおいて、採血針7および採血チューブ6を介して採血した血液を収容した血液バッグ1に、連結チューブ5に取り付けられた弁51を開放することで、容器2から血液バッグ1に不活化剤が導入され、本発明の病原微生物を不活化する方法が実施される。
【0038】
本発明の方法において、白金化合物の使用量は、時間、温度、病原微生物を含む血液成分組成と濃度などにより変化する。不活化処理時において、血液バッグ1中の白金化合物の最終濃度が0.02mM(μmol/mL)程度、具体的には0.0209mMであっても、血液バッグ内に収容された血液中の病原微生物を不活化させることができる。ただし、血液バッグ1中における白金化合物の最終濃度は、0.07〜100mMであることが好ましく、より好ましくは1〜10mMである。白金化合物の最終濃度が該濃度であれば、血液中の病原微生物を不活化させる効果が大きく、具体的には血液中の病原微生物を1log10 以上不活化させることができる。白金化合物の最終濃度が100mM超であると、溶媒によっては容易に溶解することができず溶液を調整するのが困難である。
なお、ここでいう白金化合物の最終濃度とは、不活化処理の際、使用される白金化合物を実質的にほぼ全て血液バッグ1に導入した時点における白金化合物の濃度(mM)である。
【0039】
本発明の方法における白金化合物の使用量を具体的に示すと、白金化合物がシスプラチンであって、濃厚赤血球製剤(RC−MAP)中の病原微生物を不活化処理する場合、最終濃度が21μg/mL〜30mg/mL 、好ましくは0.3mg/mL 〜3mg/mL になる量で使用する。
【0040】
なお、シスプラチンのがん細胞に対する有効濃度は0.25μg/mL( Ehrlichがん初代培養細胞に対する増殖阻害活性(IC50))であるから、上記したシスプラチン最終濃度21μg/mLは84倍もの高濃度である。すなわち、血液製剤の場合には、ヒトへの抗がん剤としての使用濃度より遥かに高濃度で使用することになる。
【0041】
本発明の方法において、白金化合物を血液に添加し、白金化合物と病原微生物の核酸とを反応させる温度は、0℃以上であればよいが、血液製剤への影響を考慮して、4〜30℃であるのが好ましい。
また、本発明の方法において、白金化合物を血液に添加すると、白金化合物と病原微生物の核酸とは直ちに反応を開始するが、病原微生物の不活化をより完璧にするために3時間以上反応させるのが好ましい。
【0042】
本発明の方法で使用される白金化合物は毒性学的には毒物に属すものであり、かつ上記したように非常に高濃度で使用するため、不活化処理後白金化合物による毒性を和らげるために、中和処理することが好ましい。このような中和処理では、白金化合物を含む抗がん剤の毒性を毒性学的に安全にするために通常使用される中和剤を、不活化後の白金化合物を含有する血液製剤に添加するのが好ましい。また、光照射して、中和処理することもできる。なお、中和処理は白金化合物の微生物の核酸に対する反応性を低下させることでもあり、不活化反応を終了させる役割も果たすことができる。
【0043】
上記所望の時間不活化反応した後、白金化合物を含有する血液製剤に中和剤を添加するには、例えば、開閉手段である弁を有する連結チューブを介して血液バッグ1に中和剤を含有する容器を連結しておき、必要に応じて弁を開放して血液バッグ1に中和剤を導入すればよい。また、シリンジ等を用いてエア抜き用のチューブ10から血液バッグ1に中和剤を導入してもよい。
【0044】
中和剤は微生物不活化剤である白金化合物濃度の42倍以上の濃度で、白金化合物と反応させれば完全に中和処理できるが、通常は10〜500倍、好ましくは25〜100倍の濃度になるように添加される。
中和処理は、0℃以上の温度であれば効果が現れるが、血液製剤の機能への影響を考慮して4〜30℃で反応させるのが好ましい。
また、白金化合物を添加すると直ちに反応を開始するが、中和処理を確実にするために30分〜1時間程度反応させるのがよい。
【0045】
中和剤は、例えば、シスプラチンに対してはチオ硫酸ナトリウムなどのチオ硫酸塩、メチオニン、システインなどのアミノ酸、グルタチオン、補酵素Aなどのチオール化合物であるが、チオ硫酸ナトリウムやメチオニンが好適である。これらの中和剤は、血液バッグ1に導入する際に都合がよいように、生理食塩水またはブドウ糖水溶液に溶解させて浸透圧比1前後の液体の状態で添加されることが好ましい。
なお、メチオニンのような光分解性中和剤は、遮光容器で保存するのが好ましい。
【0046】
以上、図1および図2の血液バッグシステムを用いて本発明の病原微生物を不活化する方法を説明したが、本発明の方法はこれに限定されない。例えば、本発明の血液バッグシステムが、血液バッグ中に抗凝固剤および不活化剤を予め収容しているのであれば、採血した血液を血液バッグに導入した時点から血液中の病原微生物の不活化反応が開始される。また、予め血液が収容された血液バッグに注射器等を用いて不活化剤を導入することで本発明の方法を実施してもよい。
したがって、上記した白金化合物および該白金化合物のアコ錯体を有効成分とする予め採血された血液中の病原微生物の不活化剤および上記白金化合物および該白金化合物のアコ錯体を予め採血された血液中の病原微生物の不活化剤として使用する方法も本発明に含まれる。
【0047】
【実施例】
(実施例1)
[DNA型のノンエンベロープウイルスであるシミアンウイルス40(SV−40)のウイルス不活化]
図1に示す血液バッグシステムの400mLのCPDA血液バッグに、ヒト健常人より採血を行い、RC−MAP(濃厚赤血球製剤)を調整した。その後、RC−MAP2mLを無菌的に15mLの遠心管に採取し、108 TCID50/mL (50%感染終末点)のSV−40を2mL添加し、軽く攪拌した。これに、不活化剤として、塩化ナトリウムおよび塩酸を含む水溶液中にシスプラチンを濃度1.67mMで含有するシスプラチン溶液(プリプラチン(登録商標名))を2mL加え、軽く攪拌した後、室温(暗所)で7時間反応させ、不活化を行なった。不活化終了後、不活化生成液を3000rpm で1分間遠心分離し、遠心上清をウイルス不活化評価に用いた。
また、シスプラチン溶液の代わりに、不活化剤として、りん酸緩衝液にカルボプラチン(パラプラチン(登録商標名))を溶解させた濃度3.5mMのカルボプラチン溶液、りん酸緩衝液にネダプラチン(アクプラ(登録商標名))を溶解させた濃度3.5mMのネダプラチン溶液を用いて同様に不活化を行い、不活化生成液の遠心上清をウイルス不活化評価に用いた。
【0048】
ウイルス不活化評価は、96ウエルのマイクロプレートを用いたTCID50で行った。25cm2 の細胞培養用フラスコ中で、SV−40の増殖細胞であるCV−1細胞(サル腎臓由来細胞)を10%胎児牛血清加MEM培地で3日間培養し、増殖させた後、0.5mLの0.05%トリプシン−EDTAで浮遊させ、25mLの10%胎児牛血清加MEM培血で細胞浮遊液を調製した。
【0049】
該細胞浮遊液を96ウエルのマイクロプレートの各ウエルに90μL づつ添加した後、96ウエルのマイクロプレート上の第一列目に反応液(前記遠心上清)を10μL 添加し、ピペッティングを行い、攪拌した。さらに、第一列目の各ウエルの溶液を第二列目の各ウエルに10μL 添加して10倍の段階希釈操作を第十二列目のウエルまで行った。これを37℃の5%炭酸ガスインキュベーター内で10日間の培養を行い、SV−40による細胞変性(CPE)の有無を光学顕微鏡で確認し、対数値(log 10)としてTCID50を算出した。
同時に白金化合物の代わりにりん酸緩衝液を添加したものを陽性コントロールとし、対数値(log 10)としてTCID50を求めた。そして、陽性コントロールのTCID50、不活化生成液のTCID50を差し引いた値をSV−40の死滅効果とした。
【0050】
結果を図3に示す。図3において、不活化効果とは、上記した陽性コントロールのTCID50(対数値(log10 ))から、不活化生成液のTCID50(対数値(log10 ))を差し引いた値である。
ここで、陽性コントロールのTCID50は6.5log10 であり、不活化剤としてシスプラチン溶液、カルボプラチン溶液、ネタプラチン溶液と反応させた不活化生成液のTCID50は、それぞれ1.25log10 、5.50log10 、2.25log10 であった。ここから前者から後者を差し引いた結果として、濃度1.67mMのシスプラチン溶液では5.25log 10、濃度3.5mMのカルボプラチン溶液では1.00log 10、濃度3.5mMのネダプラチン溶液では4.25log 10の不活化効果があったことが確認された。
【0051】
(実施例2)
[本発明の血液バッグシステムを用いたDNA型のノンエンベロープウイルスであるシミアンウイルス40(SV−40)のウイルス不活化]
ヒト健常人より採血を行い、RC−MAP(濃厚赤血球製剤)を調製して図2に示す血液バッグシステムの血液バッグ1(400mLのCPDA血液バッグ)に導入した。その後、エア抜き用のチューブ10から、注射器を用いてRC−MAP2mL当たりの量で108 TCID50/mL (50%感染終末点)のSV−40を2mL添加して血液バッグ1を軽く攪拌した。
【0052】
次に、弁51を開放することにより、容器2から不活化剤としてシスプラチンを塩化ナトリウムおよび食塩水を含む水溶液中に濃度1.67mM(μmol/mL)で含有するシスプラチン溶液(プリプラチン(登録商標名)、ブリストル・マイヤーズスクイブ株式会社製)をRC−MAP2mL当たりの量で2mL血液バッグ1に導入した。その後、軽く攪拌した後、室温(暗所)で7時間反応させ、不活化を行なった。不活化終了後、血液バッグ1から不活化生成液4mLを採取して3000rpm で1分間遠心分離し、遠心上清をウイルス不活化評価に用いた。
【0053】
また、シスプラチン溶液の代わりに、不活化剤として、りん酸緩衝液にカルボプラチン(パラプラチン(登録商標名)、ブリストル製薬株式会社製)を溶解させた濃度3.5mMのカルボプラチン溶液、リン酸緩衝液にネダプラチン(アクプラ(登録商標名)、塩野義製薬株式会社製)を溶解させた濃度3.5mMのネダプラチン溶液を用いて同様に不活化を行い、血液バッグ1から採取した不活化生成液の遠心上清をウイルス不活化評価に用いた。
【0054】
ウイルス不活化評価は、96ウエルのマイクロプレートを用いたTCID50で行った。25cm2 の細胞培養用フラスコ中で、SV−40の増殖細胞であるCV−1細胞(サル腎臓由来細胞)を10%胎児牛血清加MEM培地で3日間培養し、増殖させた後、0.5mLの0.05%トリプシン−EDTAで浮遊させ、25mLの10%胎児牛血清加MEM培血で細胞浮遊液を調製した。
【0055】
該細胞浮遊液を96ウエルのマイクロプレートの各ウエルに90μL ずつ添加した後、96ウエルのマイクロプレート上の第一列目に反応液(前記遠心上清)を10μL 添加し、ピペッティングを行い、攪拌した。さらに、第一列目の各ウエルの溶液を第二列目の各ウエルに10μL 添加して10倍の段階希釈操作を第十二列目のウエルまで行った。これを37℃の5%炭酸ガスインキュベーター内で10日間の培養を行い、SV−40による細胞変性(CPE)の有無を光学顕微鏡で確認し、対数値(log10 )としてTCID50を算出した。
同時に白金化合物の代わりにりん酸緩衝液を添加したものを陽性コントロールとし、対数値(log10 )としてTCID50を求めた。そして、陽性コントロールのTCID50から、不活化生成液のTCID50を差し引いた値をSV−40の死滅効果(不活化効果)とした。
【0056】
結果を図4に示す。図4において、不活化効果とは、上記した陽性コントロールのTCID50(対数値(log10 ))から、不活化生成液のTCID50(対数値(log10 ))を差し引いた値である。
ここで、陽性コントロールTCID50は6.0log10 であり、不活化剤として、シスプラチン溶液、カルボプラチン溶液、ネタプラチン溶液と反応させた不活化生成液のTCID50は、それぞれ1.0log10 、4.5log10 、2.5log10 であった。ここから前者から後者を差し引いた結果として、図4には濃度1.67mMのシスプラチン溶液では5.0log 10、濃度3.5mMのカルボプラチン溶液では1.5log 10、濃度3.5mMのネダプラチン溶液では3.5log 10の不活化効果があったことが示されている。
【0057】
(実施例3)
[DNA型エンベロープウイルスであるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のウイルス不活化]
図1に示す血液バッグシステムの血液バッグ1(400mLのCPDA血液バッグ)に、ヒト健常人より採血を行い、RC−MAP(濃厚赤血球製剤)を調製した。その後、RC−MAP2mLを無菌的に15mLの遠心管に採取し、107 TCID50/mL のHCMVを2mL添加し、軽く攪拌した。これに不活化剤として、塩化ナトリウムおよび塩酸を含む水溶液中にシスプラチンを濃度1.67mMで含有するシスプラチン溶液(プリプラチン(登録商標名))を2mL加え、軽く攪拌した後、室温(暗所)で7時間反応させ、不活化を行なった。不活化終了後、不活化生成液を3000rpm で1分間遠心分離し、遠心上清をウイルス不活化評価に用いた。
【0058】
ウイルス不活化評価は、96ウエルのマイクロプレートを用いたTCID50で行った。25cm2 の細胞培養用フラスコ中で、HCMVの増殖細胞であるHEL細胞(初代ヒト胎児肺繊維芽細胞)を10%胎児牛血清加MEM培地で3日間培養し、増殖させた後、0.5mLの0.05%トリプシン−EDTAで浮遊させ、25mLの10%胎児牛血清加MEM培血で細胞浮遊液を調製した。
【0059】
この細胞浮遊液を96ウエルのマイクロプレートの各ウエルに90μL ずつ添加した後、96ウエルのマイクロプレート上の第一列目に生成液(前記遠心上清)を10μL 添加し、ピペッティングを行い、攪拌した。さらに、第一列目の各ウエルの溶液を第二列目の各ウエルに10μL 添加して10倍の段階希釈操作を第十二列目のウエルまで行った。これを37℃の5%炭酸ガスインキュベーター内で14日間の培養を行った後、HCMVによる細胞変性(CPE)の有無を光学顕微鏡で確認し、対数値(log 10)としてTCID50を算出した。同時に白金化合物の代わりにりん酸緩衝液を添加して陽性コントロールとし、対数値(log 10)としてTCID50を求めた。そして、陽性コントロールのTCID50から、不活化生成液のTCID50を差し引いた値をシスプラチンの抗HCMV効果(不活化効果)とした。
【0060】
ここで、陽性コントロールのTCID50は、5.25log10 であり、シスプラチン溶液と反応させた不活化生成液のTCID50は、1.25log10 であった。そして前者から後者を差し引くことにより、濃度1.67mMのシスプラチン溶液は、RC−MAP中でHCMVを4.00log 10死滅させたことが確認された。
【0061】
(実施例4)
[RNA型エンベロープウイルスであるマウス肝炎ウイルス(MHV)のウイルス不活性化]
図1に示す血液バッグシステムの血液バッグ1(400mLのCPDA血液バッグ)に、ヒト健常人より採血を行い、RC−MAP(濃厚赤血球製剤)を調製した。その後、RC−MAP2mLを無菌的に15mLの遠心管に採取し、107 TCID50/mL のMHVを2mL添加し、軽く攪拌した。これに不活化剤として、塩化ナトリウムおよび塩酸を含む水溶液中にシスプラチンを濃度1.67mMで含有するシスプラチン溶液(プリプラチン(登録商標名))を2mL加え、軽く攪拌した後、室温(暗所)で7時間反応させ、不活化を行なった。不活化終了後、不活化生成液を3000rpm で1分間遠心分離し、遠心上清をウイルス不活化評価に用いた。
【0062】
ウイルス不活化評価は、96ウエルのマイクロプレートを用いたTCID50で行った。25cm2 の細胞培養用フラスコ中で、MHVの増殖細胞であるDBT細胞を5%胎児牛血清加MEM培地で3日間培養し、増殖させた後、0.5mLの0.05%トリプシン−EDTAで浮遊させ、25mLの10%胎児牛血清加MEM培血で細胞浮遊液を調製した。
【0063】
この細胞浮遊液を96ウエルのマイクロプレートの各ウエルに90μL ずつ添加した後、96ウエルのマイクロプレート上の第一列目に生成液を10μL 添加し、ピペッティングを行い、攪拌した。さらに、第一列目の各ウエルの溶液を第二列目の各ウエルに10μL 添加して10倍の段階希釈操作を第十二列目のウエルまで行った。これを37℃の5%炭酸ガスインキュベーター内で14日間の培養を行った後、MHVによる細胞変性(CPE)の有無を光学顕微鏡で確認し、対数値(log10 )としてTCID50を算出した。同時に白金化合物の代わりにりん酸緩衝液を添加して陽性コントロールとし、対数値(log10 )としてTCID50を求めた。そして、陽性コントロールのTCID50から白金化合物と反応させた生成液のTCID50を差し引いた値をシスプラチンのMHV不活化効果とした。
【0064】
ここで、陽性コントロールのTCID50は、5.50log10 であり、シスプラチン溶液と反応させた不活化生成液のTCID50は、1.25log10 であった。そして前者から後者を差し引くことにより、濃度1.67mMのシスプラチン溶液は、RC−MAP中でMHVを4.0log 10死滅させたことが確認された。
【0065】
(実施例5)
[細菌Yersinia enterocolitica (エルシニア菌)の細菌不活化]
図1に示す血液バッグシステムの血液バッグ1(400mLのCPDA血液バッグ)に、ヒト健常人より採血を行い、RC−MAP(濃厚赤血球製剤)を調製した。その後、RC−MAP2mLを無菌的に15mLの遠心管に採取し、108 CFU/mLのエルシニア菌を2mL添加し、軽く攪拌した。これに不活化剤として、生理食塩水にシスプラチン(和光純薬株式会社製)を溶解させて濃度4.00mMに調整したシスプラチン溶液を2mL加え、軽く攪拌した後、室温(暗所)で7時間反応させ、不活化を行なった。不活化終了後、不活化生成液を3000rpm で1分間遠心分離し、遠心上清をウイルス不活化評価に用いた。
同様に、不活化剤として、生理食塩水中にシスプラチン(和光純薬株式会社製)を溶解させて、濃度2.00mM、1.00mM、0.50mM、0.25mM、0.125mM、0.0625mMとしたシスプラチン溶液を用いて不活化を行い、遠心上清を細菌不活化評価に用いた。
【0066】
抗細菌活性の評価は、生成液1mLを9mLの滅菌生理食塩液に添加した後、タッチミキサーで攪拌し、得られた液を、さらに、9mLの生理食塩液に添加して希釈した10倍の段階希釈操作を行ったものを対象にした。各段階の希釈液1mLまたは100μL を、15mLのソイビーンカゼインダイジェスト寒天培地を含む直径9cmのシャーレ中で混釈した。これを31℃で2日間培養し、出現したコロニー数を生残菌数とした。
なお、シスプラチンを添加していないものを陽性コントロールとし、陽性コントロールの生残菌数(対数値(log 10))からシスプラチンを添加した不活化生成液での生残菌数(対数値(log 10))を差し引いて細菌不活化効果とした。
【0067】
結果を図5に示す。ここで、陽性コントロールの生残菌数は、5.00log 10であり、シスプラチン溶液で不活化させた不活化生成液の生残菌数は以下の通りであった。
シスプラチン濃度 生残菌数
1.33mM 0.06log 10
0.67mM 1.48log 10
0.33mM 2.27log 10
0.17mM 2.80log 10
0.083mM 3.79log 10
0.042mM 4.52log 10
0.0209mM 4.82log 10
【0068】
そして前者から後者を差し引いた結果、各不活化剤の細菌死滅効果は以下の通りであった。
不活化剤のシスプラチン濃度 細菌死滅効果
1.33mM 4.94log 10
0.67mM 3.52log 10
0.33mM 2.73log 10
0.17mM 2.20log 10
0.083mM 1.21log 10
0.042mM 0.48log 10
0.0209mM 0.18log 10
【0069】
(実施例6)
[シスプラチンの無毒化/チオ硫酸ナトリウムまたはメチオニンと反応させた後の抗エルシニア菌活性]
図1に示す血液バッグシステムの血液バッグ1(400mLのCPDA血液バッグ)に、ヒト健常人より採血を行い、RC−MAP(濃厚赤血球製剤)を調製した。その後、RC−MAP2mLを無菌的に15mLの遠心管に採取し、これに不活化剤として、生理食塩水にシスプラチン(和光純薬株式会社製)を溶解させて濃度4.00mMに調整したシスプラチン溶液を2mL添加し、軽く攪拌した。これに、生理食塩水にL-メチオニンを溶解させた濃度168mMのL-メチオニン溶液を2mL添加し、室温で30分間反応させた。
【0070】
同様に、中和剤として、生理食塩水中にL-メチオニンを溶解させた濃度84mM、42mM、21mM、10.5mM、5.25mM、2.63mM、1.31mMのL-メチオニン溶液、または生理食塩水にチオ硫酸ナトリウムを溶解させた濃度168mM、84mM、42mM、21mM、10.5mM、5.25mM、2.63mM、1.31mMのチオ硫酸ナトリウム溶液を用いて反応を行った。また、コントロールとして、不活化剤および中和剤の代わりにりん酸緩衝液を添加したもの(シスプラチンなし)を調製し、同様に反応を行った。その後、108 CFU/mLのエルシニア菌を10μL 添加し、攪拌した後の菌数を測定した。
【0071】
菌数測定は、生成液1mLを9mLの滅菌生理食塩液に添加した後、タッチミキサーで攪拌した液を、さらに9mLの生理食塩液に添加して希釈を行う10倍の段階希釈操作を3回行ったものを対象にした。各段階の希釈液10mL、1mLまたは100μL を15mLのソイビーンカゼインダイジェスト寒天培地を含む直径9cmのシャーレ中で混釈した。これを31℃で2日間培養し、出現したコロニー数を生残菌数とし、その対数値(log 10)を中和効果とした。
【0072】
図6に中和剤としてメチオニンを用いた中和処理の結果を示す。その結果、メチオニン濃度が56mMの中和剤を用いた例では、シスプラチンなしと同じ結果(生残菌数5.1log 10)が得られ、エルシニア菌は全く死滅しなかったことが確認された。他の濃度の中和剤を用いた例では、生残菌数が以下の通りであった。
Figure 0004371655
【0073】
一方、中和剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いた中和処理の結果を図7に示す。チオ硫酸ナトリウム濃度が56mMの中和剤を用いた例は、シスプラチンなしと同じ結果(生残菌数5.1log 10)が得られ、エルシニア菌は全く死滅しなかったことが確認された。他の濃度の中和剤を用いた例では、生残菌数が以下の通りであった。
Figure 0004371655
【0074】
(実施例7)
[シスプラチンの中和処理/シスプラチンをチオ硫酸ナトリウムまたはメチオニンと反応させた後の抗SV−40活性]
図1に示す血液バッグシステムの血液バッグ1(400mLのCPDA血液バッグ)に、ヒト健常人より採血を行い、RC−MAP(濃厚赤血球製剤)を調製した。その後、RC−MAP1mLを無菌的に15mLの遠心管に採取し、これに不活化剤として、生理食塩水にシスプラチン(和光純薬株式会社製)を溶解させて濃度3.5mMに調整したシスプラチン溶液を1mL添加し、軽く攪拌した。これに中和剤として、チオ硫酸ナトリウムを生理食塩水に溶解した濃度175mMのチオ硫酸ナトリウム溶液を1mL添加し、室温で30分間反応させた。その後、108 TCID50/mL のSV−40を0.5mL添加し、軽く攪拌した後、室温のインキュベーター内(暗所)で30分間反応させた。反応終了後、生成液を3000rpm で1分間遠心分離し、遠心上清をウイルス不活化評価に用いた。
【0075】
ウイルス不活化評価は、96ウエルのマイクロプレートを用いたTCID50で行った。25cm3 の細胞培養用フラスコ中で、SV−40の増殖細胞であるCV−1細胞(サル腎臓由来細胞)を10%胎児牛血清加MEM培血で3日間培養し、増殖させた後、0.5mLの0.05%トリプシン−EDTAで浮遊させ、25mLの10%胎児牛血清加MEM培血で細胞浮遊液を調製した。
【0076】
この細胞浮遊液を96ウエルのマイクロプレートの各ウエルに90μL ずつ添加した後、96ウエルのマイクロプレート上の第一列目に生成液を10μL 添加し、ピペッティングを行い、攪拌した。さらに、第一列目の各ウエルの溶液を第二列目の各ウエルに10μL 添加して10倍の段階希釈操作を第十二列目のウエルまで行った。これを37℃の5%炭酸ガスインキュベーター内で10日間の培養を行った後、SV−40による細胞変性(CPE)の有無を光学顕微鏡で確認し、対数値(log 10)としてTCID50を算出した。同時にシスプラチンの代わりにりん酸緩衝液を添加した陽性コントロールとし、対数値(log 10)としてTCID50を求めた。そして、陽性コントロールのTCID50から、不活化生成液のTCID50を差し引いた値をSV−40の死滅効果(不活化効果)とした。
【0077】
その結果、陽性コントロールのTCID50(6.00log10 )から、不活化剤として濃度3.5mMのシスプラチン溶液を添加しその後に中和剤として濃度175mMのチオ硫酸ナトリウム溶液を添加した例のTCID50(6.00log10 )を差し引いたところ、SV−40の死滅効果、すなわち不活化効果は認められなかった。これは、シスプラチンを濃度3.5mMで含有する不活化剤がチオ硫酸ナトリウムを濃度175mMで含有する中和剤の添加により中和処理されたことを意味する。
【0078】
(実施例8)
[シスプラチンの赤血球製剤への溶血毒性]
図1に示す血液バッグシステムの血液バッグ1(400mLのCPDA血液バッグ)に、ヒト健常人より採血を行い、RC−MAP(濃厚赤血球製剤)を調製した。その後、RC−MAP1mLを無菌的に15mLの遠心管に採取し、これにシスプラチンを塩化ナトリウムおよび食塩水を含む水溶液中に濃度1.67mMで含有するシスプラチン溶液(プリプラチン(登録商標名))1mLと、生理食塩水1mLとを軽く混和して添加し、室温(暗所)で7時間反応させた。その後、生成液を2000rpm で5分間遠心分離し、遠心上清にDrabkin's 試薬を加えて反応させ、540nmの吸光度を測定して、溶血率をシアンメトヘモグロビン法により測定した。その結果、シスプラチンの溶血率は0.1%以下であり、赤血球製剤に対して溶血毒性が低いことが確認された。
【0079】
【発明の効果】
本発明では、抗がん剤として使用される特性が広く知られている白金化合物を、血液中の病原微生物の不活化剤として使用するため、安全であり、かつ不活化剤の入手が容易である。また、不活化剤を新たに開発する必要がないのでコスト的にも優れている。
また、本発明において、白金化合物を0.07mM以上という本来の抗がん剤としての使用量よりも遥かに高濃度で使用すれば、病原微生物を不活化する効果が大きく、かつ不活化効果の持続性に優れる。
本発明において、不活化された血液を、抗がん剤の中和処理または洗浄処理を行ってから輸血すれば、がん治療に使用する抗がん剤の本来の用法とは全く異なり、微生物学的および毒性学的に安全な血液製剤を供給することが可能である。本発明において、病原微生物が不活化され、好ましくは中和処理された血液または血液成分は、バッグ毎に切り離され、輸血に使用される。保存、輸送に際しては、従来のバッグに適用される方法、手段をそのまま適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の血液バッグシステムの1構成例の概念図である。
【図2】 本発明の血液バッグシステムの別の1構成例の概念図である。
【図3】 実施例1における白金化合物のSV−40死滅効果を示すグラフであり、SV−40の死滅効果は、不活化効果(対数値(log10 ))として示されている。
【図4】 実施例2における白金化合物のSV−40死滅効果を示すグラフであり、SV−40の死滅効果は、不活化効果(対数値(log10 ))として示されている。
【図5】 実施例5におけるシスプラチンのエルシニア菌不活化効果を示すグラフである。
【図6】 実施例6におけるシスプラチンのメチオニンを用いた中和効果を示すグラフである。
【図7】 実施例6におけるシスプラチンのチオ硫酸ナトリウムを用いた中和効果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 血液バッグ
2 容器
3,4 血液成分バッグ
5 連結チューブ
51:弁
6 採血チューブ
7 採血針
10 エア抜き用のチューブ

Claims (9)

  1. 抗凝固剤が収容されている血液バッグと、
    血液に含まれる病原微生物を不活性化する不活化剤が収容されている容器と、
    該血液バッグと該不活化剤が収容されている容器とを液密に接続する連結チューブと、
    該血液バッグに接続され、該不活化剤を中和処理する中和剤を導入するチューブと、を有し、
    該不活化剤は、該微生物の核酸に結合できる白金化合物または該白金化合物のアコ錯体を主成分とするものであることを特徴とする血液バッグシステム。
  2. 前記白金化合物が、シスプラチン、カルボプラチンおよびネダプラチンからなる群から選択される少なくとも一つである請求項に記載の血液バッグシステム。
  3. 前記白金化合物のアコ錯体が、モノアコ錯体、ジアコ錯体、モノアコモノヒドロキソ錯体およびジヒドロキソ錯体からなる群から選択される少なくとも一つである請求項に記載の血液バッグシステム。
  4. 前記中和剤を導入するチューブに接続され、前記不活化剤を中和処理する中和剤が収容された容器を有する請求項1ないし3のいずれかに記載の血液バッグシステム。
  5. 前記病原微生物がDNA型ウイルス、RNA型エンベロープウイルスおよび細菌からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1ないし4のいずれかに記載の血液バッグシステム。
  6. 血液バッグに収容された血液製剤に含まれる病原微生物を不活化する方法であって、
    血液製剤が収容された血液バッグに、該病原微生物の核酸に結合できる白金化合物または該白金化合物のアコ錯体を主成分とする微生物不活化剤を添加し、
    該微生物不活化剤を添加した後に、アミノ酸化合物またはチオ硫酸塩を主成分とする中和剤を添加して該不活化剤を中和処理することを特徴とする病原微生物を不活化する方法。
  7. 前記微生物不活化剤を0.07mM(μmol/mL)以上の濃度となるように添加し、前記血液バッグに収容された血液製剤中の1log10以上の前記病原微生物を不活化させる請求項6に記載の病原微生物を不活化する方法。
  8. 前記中和剤がメチオニンまたはチオ硫酸ナトリウムである請求項に記載の病原微生物を不活化する方法。
  9. 前記中和剤を前記微生物不活化剤の10〜500倍の濃度となるように添加する請求項またはに記載の病原微生物を不活化する方法。
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