JP4356968B2 - ダニ抗原変性処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カーペットや布団等に付いているダニやダニの糞、死骸、脱皮殻、卵や幼虫などのダニアレルゲン(以下、ダニ抗原と称する)を人体に害のないように変性するダニ抗原変性処理方法に関する。
【0002】
【従来技術】
アトピー性皮膚炎、喘息発作や鼻炎の多くは、ダニ抗原を体内に摂取したり、皮膚などから入り込むことに起因している。このようなダニ抗原対策としては、薬剤の殺ダニ作用等によって対処する殺虫処理方法(特開昭62−159692号、特開昭62−127097号等)と、縫い目や生地を工夫してダニ類を内部に入り込まないようする防通過処理方法(特開平4−341218号等)と、下記特許文献1や2に開示されているタンニン酸の水溶液によりダニ抗原を人体に害のないよう処理する変性処理方法とがある。このうち、殺虫処理方法は、ダニを殺したり追い出す作用を狙ったものであるが、薬剤自身によるかばぶれ等の二次的な問題があり、又、薬剤でダニを殺してもダニの死骸によってさらに強いダニ抗原性をおびる。防通過処理方法は、使用生地の制約や縫い目処理によって性能が左右され易く、又、詰物を生地で被覆処理するに際して生地や詰物に付いているダニ抗原を高温で加熱等の処理を行なわなくてはならない。これに対し、変性処理方法は、特許文献2に詳記されているようにタンニン酸水溶液によりダニ抗原を人体に害のない形態に変性することから根本的な対策となり、タンニン酸が無臭・無害で化学的に安定していることから適用上の弊害もない。なお、これ以外の対策としては、布団等を掃除機で時間をかけて吸引除去する吸引方法、布団等を洗剤で丸洗いする洗浄方法、袋状シート内に入れて加熱処理する加熱方法、更に室内空間や部屋の一部を隔離してダニ抗原を遮断するクリーンルーム方法が提唱されている。しかし、吸引方法では、ダニ抗原が布団等の内部から表面に吸い出されることはあっても完全に除去し難い。洗浄方法では、時間と手間がかかり、又、布団等の内部に残る洗剤に起因した弊害を受け易い。加熱方法では、前記殺虫処理と同様にダニの死骸が残るため二次的な問題がある。クリーンルーム方法は、各種学会等においてその顕著な改善効果が報告されているが、一般の家庭で採用するには経費等の制約があり、又、隔離部より部屋へ出た場合にダニ抗原の影響を避けることができない。
【0003】
【特許文献1】
特公昭63−66950号公報(第1〜2頁)
【特許文献2】
特許第3005655号公報(第1〜3頁)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記した変性処理方法は、ダニ抗原に対するタンニン酸の変性作用を利用するものであるが、タンニン酸水溶液を用いてカーペットや布団等を処理したとしても時間経過により、新たなダニ抗原が外部より付着したり侵入する。そして、僅かなダニでもいったん付着すると短期間に増殖することになる。このため、対策としては、例えば、タンニン酸水溶液をスプレーにより室内用品に吹き付けて、新たに付着したダニ抗原を定期的に変性処理することが考えられる。本発明者らは、そのような吹き付け方法を検討してきた結果、実施化する上で例えば、タンニン酸水溶液を放置すると比較的早期に劣化すること、該劣化により逆に二次的な弊害を生じる虞があること、タンニン酸水溶液の濃度等により布地等を変色し易いこと等が問題になることが分かった。
【0005】
本発明は以上のような問題を解消したものである。その目的は、タンニン酸水溶液の劣化を防いでダニ抗原に対する変性作用をより有効に活用可能にしたり、吹き付け後に痕跡や変色を起きないようにし、更に家庭や乗り物等の室内で簡単かつ低コストで実施できるようにすることにより、ダニアレルギー症状の予防及び改善に寄与することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、課題に挙げた問題を解消する方法を検討している過程で、タンニン酸水溶液に塩化ナトリウムを加えることにより、タンニン酸水溶液を変色させずにタンニン酸水溶液の劣化を防いで、ダニ抗原に対する変性作用をより有効に引き出したり、これを吹き付けた部材に痕跡や変色を生じなくなることを知見し、本発明に至った。すなわち、本発明のダニ抗原変性処理方法は、タンニン酸水溶液によりダニ抗原を人体に害のない形態に変性する処理方法において、前記タンニン酸水溶液に塩化ナトリウムを含有させたものを用いて、布団や家具等の室内用品に吹き付けることにより当該室内用品に付着しているダニ抗原を変性することを特徴としている。
【0007】
(要部説明)以上の本発明は、タンニン酸水溶液に塩化ナトリウムを加えたものを用いることにより、例えば、タンニン酸水溶液の劣化を防いで、変性作用を活性化したり長期に維持できるようにし、それにより実用性に優れた吹き付け方法を実現可能にしたことに意義がある。換言すると、本発明のダニ抗原変性処理方法は、タンニン酸水溶液を吹き付けてダニ抗原を変性する場合、最良な添加物である塩化ナトリウムを含有させて上記した課題を解消したものである。この塩化ナトリウムは、タンニン酸水溶液を変色させずにタンニン酸水溶液の劣化を防いで、作製後に30日経過後もダニ抗原に対する変性作用を有効に活用できるようにしたり、これを吹き付けた部材に痕跡や変色を生じ難くする。このような特性は、例えば、硫化ナトリウムでも多少は期待されるものの、塩化ナトリウムと比べると改善効果が低いだけではなくコストも高く総合評価として好ましくない。ここで、「ダニ抗原を変性する」とは、特許文献2に記載されているように、ダニやその糞、死骸、脱皮殻、卵や幼虫などを形成しているタンパク質や核酸等の立体構造が壊されて、その生物的、物理・化学的性質が変化したり、ダニ抗原としての活性を喪失して人体に害のない形態になる意味である。「タンニン酸」は、m−ガロイル没食子酸と称され、タンニンの加水分解で生じることからタンニン自体を示すこともある。「塩化ナトリウム」は、工業用又は食用の何れであってもよく、また、100%純正でなくても、常識的な範囲において微量な塩化マグネシュウム等を混入しているものを含む。「室内用品」には、布団、タンスや棚等の家具、床、ソファー、カーペットやジュータン、カーテン、乗り物用座席やカバー等の内装品を含む。
【0008】
また、請求項2は、タンニン酸水溶液が塩化ナトリウムを重量比で2〜4%含有している構成である。この特定理由は、塩化ナトリウムが重量比で2%より少なくなるとタンニン酸水溶液の劣化防止として不足し、逆に、4%を超えると室内用品に吹き付けた後に痕跡として残り易くなるためである。これに対し、請求項3は、タンニン酸水溶液がタンニン酸の2〜5重量%水溶液からなる構成である。この特定理由は、変性作用としてタンニン酸の濃度を2%以上にすることが好ましく、逆に、5%を超えるとコスト高となったり均一に吹き付けし難くなったり吹き付け後に痕跡として残る虞もあるためである。
【0009】
【実施例】
以下の実施例は、タンニン酸水溶液を吹き付けてダニ抗原を変性処理する上で問題となる特性、つまりタンニン酸水溶液が塩化ナトリウムを含有している否かにより、劣化進行にどの様に作用するか(実施例1)、吹き付けた部材に変色等や痕跡等を生じる否か(実施例2と3)を調べたときの一例である。なお、タンニン酸水溶液のダニ抗原に対する変性作用については特許文献2でも確認されているため省略する。試験からは、スプレー方式で吹き付ける態様において、ダニ抗原に対する変性作用としてタンニン酸の濃度を2重量%以上にすることが好ましく、逆に、5%を超えるとコスト高となるだけではなく、吹き付け後に痕跡として残る虞、更にその痕跡が腐敗して弊害となる虞も考えられる。
【0010】
(実施例1)この実施例は、タンニン酸の3重量%水溶液について、透明容器に同量ずつ入れ、塩化ナトリウム(NaCl)を表1の比率で加えて混合した後、1日、30日、45日後の状態を観察したときの一例である。試験では、前記タンニン酸水溶液を複数の透明容器に同量づつ入れ、塩化ナトリウムを入れない比較液と、塩化ナトリウムの投入量(約1〜5重量%)を変えた発明液1〜5とがどの様な状態になるかを調べた。なお、各透明容器は、同程度に混合した状態で、約25℃にした恒温槽内に放置した。初期段階では各透明容器内で、液がタンニン酸により無色ないしは薄いクリーム色を呈し、混合時の泡が点在している。ここで、評価は次のような観点より行った。1日経過後は、液の色変化を念のため観察した。30日経過後と45日経過後は、劣化程度(腐敗してカビ状となるか否か)を観察し、それにより、吹き付け方法を採用したときの保存性及びダニ抗原対策用としての良否を推定することにした。表1は、各発明液の塩化ナトリムの含有量と観察結果を一覧したものである。
【0011】
【表1】
【0012】
以上の実施例1からは、タンニン酸水溶液が塩化ナトリウムを含有していない比較液だと、30日経過前後から色が黄茶色になり一部がカビ状に劣化する。これに対し、タンニン酸水溶液が塩化ナトリウムを含有している発明液だと、30日経過しても比較液より薄い黄茶色でありカビ状も一切認められない、つまり劣化しないことが分かる。このような現象は次の点から重要となる。まず、ダニ抗原に対する変性作用をより有効に引き出すには、時間経過により劣化し難いことが不可欠となり、タンニン酸水溶液に塩化ナトリウムを含有させて劣化を防ぐことがより好ましい。また、上記した吹き付け方式を採用する場合には、保存性つまりスプレー容器に入れた状態で少なくとも30日程度は劣化しないことが不可欠となり、この点からもタンニン酸水溶液に塩化ナトリウムを含有させて劣化し難くすることが好ましい。
【0013】
(実施例2)この実施例は、上記と同じ発明液3と、比較液とを透明容器に用意し、30日経過した後、容器内の液に布地を浸して乾燥した状態、つまり変色するか否かを観察したときの一例である。試験では、薄いピンク色の布地と、ブルー色の布地をそれぞれ同じ大きさの小片に裁断して、前記容器内の液に24時間浸した後に自然乾燥した。その観察結果は表2のとおりである。
【0014】
【表2】
【0015】
以上の実施例2からは、タンニン酸水溶液が塩化ナトリウムを含有していない比較液だとピンク色及びブルー色の布地共に変色が認められるのに対し、タンニン酸水溶液が塩化ナトリウムを含有している発明液だとほとんど変色しないことが分かる。このような現象は、上記した吹き付け方式を採用する場合、吹き付け対象物が変色すると問題となる。このため、タンニン酸水溶液に塩化ナトリウムを含有させて、対象物が変色するという虞を多少なりとも避けることが好ましい。
【0016】
(実施例3)この実施例は、実施例1と同じ発明液3と、発明液5と、比較液とを同じスプレー容器を使用して、同じ木製板及び同じガラス板にほぼ同じ程度に吹き付けて自然乾燥した後の痕跡等の有無を観察したときの一例である。この結果は、発明液3及び比較液では木製板とガラス板の両者ともに痕跡が殆ど認められなかった。これに対し、発明液5では木製板の方は痕跡が殆ど認められなかったが、ガラス板の方は極微量な痕跡が認められた。なお、吹き付けた箇所を白布で擦ると、何れもが白布に若干の薄クリーム色を添着した。この結果からは、塩化ナトリウムの混入量を余り多くすると痕跡形成要因となるため、重量比で5%より少なくすることが好ましい。
【0017】
なお、本発明は、以上の技術的思想を具体化するに際し、要部以外についてはこの例を基に種々変形ないしは展開することができるものである。その一例としては、本発明はタンニン酸水溶液に塩化ナトリウムを加えたものであればよく、それ以外に害のない香料等の他の物質を混入しても差し支えないものである。
【0018】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のダニ抗原変性処理方法は、タンニン酸水溶液に塩化ナトリウムを含有させるだけで、タンニン酸水溶液の劣化を防いで、ダニ抗原に対する変性作用をより有効に活用できるようにし、又、吹き付け後の変色等の問題も解消できる。この結果、本発明方法は、例えば、タンニン酸水溶液に塩化ナトリウムを含有したものをスプレー容器に収容しておき、家庭等においてダニ抗原の付着していると思われる床やジュータン、布団類、タンス等の室内用品、更に乗り物用座席等の室内用品に定期的に吹き付けるようにすれば、簡単かつ低コストにてダニアレルギー症状の予防及び改善効果を大幅に高めることができる。なお、本発明方法は、従来技術に挙げた各種方法に比べ、適用上の制約や弊害が一切なくより根本的な対策で実施も極めて容易であり、又、タンニン酸自体は化学的に安定し塩化ナトリウム自体は食用等として慣れ親しんでいる物質であるため信頼性も得られる。
Claims (3)
- タンニン酸水溶液によりダニ抗原を人体に害のない形態に変性する処理方法において、
前記タンニン酸水溶液に塩化ナトリウムを含有させたものを用いて、室内用品に吹き付けることにより当該室内用品に付着しているダニ抗原を変性することを特徴とするダニ抗原変性処理方法。 - 前記タンニン酸水溶液が前記塩化ナトリウムを重量比で2〜4%含有している請求項1に記載のダニ抗原変性処理方法。
- 前記タンニン酸水溶液がタンニン酸の2〜5重量%水溶液である請求項1又は2に記載のダニ抗原変性処理方法。
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2003
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