JP4351776B2 - タンパク質の合成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
無細胞タンパク質合成系は生物や培養細胞等の生きた細胞を用いる系に比べ、タンパク質合成にいたるまでの操作が非常に簡便であることから、近年その需要が高まっている。一方、PCR(ポリメラーゼチェーンリアクション)は大変有効かつ簡便なDNA遺伝子増幅法であり、この両技術を組み合わせ、プラスミドDNAを用いずにPCRにより得られたDNAから直接そのDNAがコードするタンパク質もしくはポリペプチド鎖を容易かつ大量に合成できる技術の開発が待たれている。PCR産物のDNAを用いて無細胞タンパク質合成を行わせる系は既に知られている(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 94,412-417,1997)。この系を用いれば、目的の変異を導入した遺伝子産物を迅速に得ることができ、しかも多数のサンプルを扱うことも可能である。さらに、ランダムに変異を導入した多くの遺伝子を発現させれば、望ましい機能を持った遺伝子産物をたやすく得ることもできる。このように無細胞タンパク質合成系は、タンパク質工学、分子進化工学への応用が広く期待できる有用な方法である。
【0002】
しかしながら、PCR産物を鋳型にして無細胞タンパク質合成を行った場合、同量のプラスミドDNA等の環状DNAを鋳型に用いた場合と比較して、合成されるタンパク質の量は数十分の一程度と非常に少ない。この問題を解決するために、特開平11-56363号公報には、PCR産物の末端に転写のターミネーター配列を付加する方法が開示されている。転写のターミネーター配列を付加することで合成されるタンパク質の量は数倍上昇するが、同量のプラスミドDNAを鋳型に使用した場合と比較すると、まだ十分の一程度であった。PCRで得たDNAを鋳型に用いてプラスミドDNAと同程度のタンパク質を得るためには、プラスミドDNAの数倍量の鋳型DNAが必要であり、多量の鋳型DNAをPCRで得るために多大のコストを要するという問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、プラスミドまたはPCR産物などの2本鎖DNAを鋳型にして、簡便に十分な量のタンパク質を合成させることのできる、無細胞タンパク質合成系を用いたタンパク質の製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ね、PCR産物等の直鎖状2本鎖DNAを鋳型に用いてタンパク質を合成した場合、プラスミド等の環状DNAを鋳型に用いた場合と比較してタンパク質の合成量が大きく低下する原因が、直鎖状2本鎖DNAが反応液中で分解されることにあるということをつきとめた。そして直鎖状2本鎖DNAを鋳型に用いた無細胞タンパク合成系に、タンパク質合成の鋳型にはならない直鎖状核酸を加えることにより、タンパク質合成量が顕著に増加することを見出し、本発明を完成させるに至った。さらにこの効果は環状2本鎖DNAを鋳型にした場合にも見られることが分かった。
本発明は、無細胞抽出液を含む無細胞タンパク質合成系でタンパク質を合成する方法において、合成反応液中にタンパク質合成の鋳型にならない直鎖状核酸を10μg/mlから10mg/mlの範囲で添加する方法である。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に使用する無細胞抽出液の調製から無細胞タンパク合成系におけるタンパク合成活性の測定までの各段階について詳細に説明する。
1. 無細胞抽出液の調製
無細胞抽出液としては、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球等から調製した抽出液を用いることができるが、これらに限られるものではなく、また調製の方法は用いる材料に応じて異なるが、通常のいかなる方法を用いても良い。
2. 無細胞タンパク質合成反応
反応液には無細胞抽出液のほか、タンパク質合成の鋳型になるDNAもしくはRNA、RNAポリメラーゼ、タンパクの構成アミノ酸、緩衝剤、ATP、GTP等のエネルギー源、クレアチンリン酸、ホスホエノールピルビン酸、クレアチンキナーゼ、ピルビン酸キナーゼ等のATP再生系、ジチオスレイトール(DTT)、スペルミン、スペルミジン等の安定化剤、RNase阻害剤を適当量加える。反応は用いる無細胞抽出液及び目的とするタンパクの種類などにより最適の温度で行われ、一般的に20〜40℃が適当である。
【0006】
3. 鋳型にならない直鎖状核酸
鋳型にならない直鎖状核酸は、1本鎖または2本鎖のどちらでも良く、目的とするタンパク質の合成を阻害したり、目的物以外のタンパク質の合成を起こさなければいかなる核酸であっても良い。例えば、魚類由来の核酸、胸腺由来の核酸が挙げられ、サケ精子DNAや牛胸腺DNA等が価格面から好ましい。これらの核酸は未処理の状態では高分子量であるため、溶液状態での粘性が高く取扱が難しい。そこで低分子量に切断したものを使用することが操作上好ましい。鋳型にならない直鎖状核酸の長さは、下限が5塩基以上、上限が粘性が高くなり操作に支障を及ぼさない長さ、100キロ塩基程度以下であることが好ましく、5塩基〜20キロ塩基、さらに好ましくは200塩基〜20キロ塩基が適当である。また添加する濃度は、10μg/ml以上10mg/ml以下であれば良く、中でも20μg/ml〜2mg/mlの範囲が好ましい。
【0007】
本発明者らの研究により従来の直鎖状DNAを鋳型に用いたタンパク質合成系を解析した結果、以下の現象が明らかになった。
合成反応を開始した反応液を定時的にサンプリングし、残存する鋳型DNAを電気泳動で分析した。その結果、反応開始直後には存在した鋳型DNAが、開始5分でほぼ消失していることが明らかになった。一方鋳型DNAとしてプラスミドDNAを用いた場合は、少なくとも一時間は鋳型DNAが残存していた。この結果は、鋳型DNAとしてPCR産物等の直鎖状DNAを用いた場合、プラスミドDNA等の環状DNAを鋳型にした場合に比較して、タンパク質の合成量が少なくなる原因の一つが、鋳型DNAの安定性にあることを示している。
【0008】
直鎖状の鋳型DNAが短時間で消失してしまう原因の一つに、無細胞抽出液に含まれる核酸分解酵素の作用を考えることができる。デオキシリボヌクレアーゼ等の核酸分解酵素は、無細胞抽出液中に多種類存在することが知られており、それらを抗体や特異的阻害剤等を用いて不活性化したり、鋳型DNAをそれら酵素の分解から防いだりすることで、鋳型DNAを安定化することが可能になる。
このような観点から検討を進めた結果、タンパク質合成の反応液中に、鋳型DNA以外にタンパク質合成の鋳型にならない直鎖状核酸を添加することで、タンパク質の合成量が増加することを見出した。
鋳型DNA以外の鋳型にならない直鎖状核酸を添加することにより、タンパク質の合成量が増加する原因はまだ十分に解明されてはいないが、反応液中の核酸分解酵素は一般的には核酸の塩基配列に対する特異性が低く、そのため鋳型DNA以外の鋳型にならない直鎖状核酸とも反応し、鋳型DNAの分解速度が相対的に低下しているためと考えられる。
【0009】
本発明において、実施例で合成したタンパク質CAT(chloramphenicol acetyltransferase)の定量は、以下の方法で行った。反応液を50 mM Tris-HCl (pH 8.0)溶液で100倍に希釈し、この希釈溶液5容量部に対して、測定溶液(0.1 mMアセチルコエンザイムA、0.1 mMクロラムフェニコール、1 mM 5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、100 mM Tris-HCl 緩衝液(pH8.0))を153容量部の割合で加え、415 nmの吸光度の増加を測定することにより定量した。
【0010】
以下、比較例及び実施例によって本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
大腸菌抽出液の調製
Ellmanらの方法(Methods Enzymol. 202:301-336(1991))にしたがって、大腸菌抽出液を調製した。まず、大腸菌A19を8Lの培養液を含むジャーファーメンターにて37℃で培養し、450nmの吸光度が1.1になった時点で培養を停止した。菌体を遠心分離により集め、バッファーに懸濁し、フレンチプレスにて8400psi(591kg/cm2)で菌体を破砕した。直ちに遠心分離して30,000xgの遠心上清を得た。得られた上清にATP等のエネルギー源を加えたバッファーを添加し、37℃、80分ゆっくり振とうした。続いてこの液を4℃、3時間透析し、さらに4,000xgで遠心した上清を大腸菌抽出液として得た。
【0011】
無細胞タンパク質合成反応
遠藤斗志也らにより開発された方法(第69回日本生化学会大会、発表番号4-P-1209)にしたがって、無細胞タンパク合成を行った。反応液の組成は以下の通りである。56.4 mM Tris-酢酸緩衝液 (pH7.4)、1.2 mM ATP、それぞれ0.85mMのGTP、CTP、UTP、1.76 mM DTT、40 mMクレアチンリン酸、0.15 mg/mlクレアチンキナーゼ、それぞれ0.7 mMの20種類のアミノ酸、6 mM酢酸マグネシウム、120 mM酢酸カリウム、0.17 mg/ml大腸菌tRNA、大腸菌抽出液に内在するRNAポリメラーゼの活性を抑制するために10μg/ml リファンピシン、10μg/ml T7 RNAポリメラーゼ、反応液量全体の28.3%の大腸菌抽出液を加えた。用いた鋳型DNAは、T7プロモーター配列、SD配列、CAT遺伝子配列、T7ターミネーター配列を含むプラスミド(pRSETA/CAT)(Invitrogen社から購入)を鋳型とし、T7プロモーター配列を含むセンスプライマー(F1)(配列番号1)とT7ターミネーター配列を含む配列を持つアンチセンスプライマー(R1)(配列番号2)を用いてPCRを行って調製し、20μg/mlの濃度で加えた。添加する鋳型以外の核酸は、サケ精子DNA(和光純薬(株))溶液を注射針を通過させることで切断し、10キロ塩基以下の断片の混合溶液にしたものを50μg/mlの濃度になるように添加した。反応液量は30μl、反応温度は37℃、1時間で行った。
【0012】
【比較例1】
実施例1と同じ反応系でタンパク質を合成した。但し、鋳型DNA以外の核酸は添加しなかった。
【実施例2】
実施例1と同じ反応系でタンパク質を合成した。但し、鋳型DNAは1μg/mlの濃度で用い、サケ精子DNAを200μg/mlの濃度になるように添加した。
【比較例2】
実施例2と同じ反応系でタンパク質を合成した。但し、鋳型DNA以外の核酸は添加しなかった。
【実施例3】
実施例1と同じ反応系でタンパク質を合成した。但し、鋳型DNA濃度は20μg/mlで行い、ウシ胸腺DNAを200μg/mlの濃度になるように添加した。
【比較例3】
実施例3と同じ反応系でタンパク質を合成した。但し、鋳型DNA以外の核酸は添加しなかった。
【実施例4】
実施例1と同じ反応系でタンパク質を合成した。但し、鋳型DNAにはプラスミド(pRSETA/CAT)を用い、さらにサケ精子DNAを100μg/mlの濃度になるように添加した。
【比較例4】
実施例4と同じ反応系でタンパク質を合成した。但し、鋳型DNA以外の核酸は添加しなかった。
結果を以下の表1に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
上記結果は、反応系に鋳型とはならない直鎖状の核酸を加えることによって目的のタンパク質の合成量が顕著に増大することを示している。
【配列表】
Claims (5)
- 無細胞抽出液を含む無細胞タンパク質合成系でタンパク質を合成する方法において、
合成反応液中にタンパク質合成の鋳型にならない直鎖状核酸を10μg/mlから10mg/mlの範囲で添加する方法。 - 鋳型にならない直鎖状核酸が魚類由来の核酸である請求項1記載の方法。
- 鋳型にならない直鎖状核酸が胸腺由来の核酸である請求項1記載の方法。
- 鋳型にならない直鎖状核酸の長さが、5塩基以上20キロ塩基以下である請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
- 無細胞抽出液が大腸菌抽出液である請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
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