本発明は、非放射性誘電体線路を用いたミリ波集積回路やミリ波レーダモジュール等に組み込まれるミリ波変調器に関するものである。
従来から、非放射性誘電体線路(NonRadiative Dielectric Waveguide、以下、NRDガイドともいう。)を用いたミリ波変調器に関する技術が提案されている。その主なものとして、非特許文献1に開示される技術が一般に知られている。また、これと同様の技術が特許文献1または特許文献2に開示されている。
特許文献1または特許文献2に開示されているミリ波変調器について、図11乃至図14を用いて説明する。図11乃至図13はNRDガイドを用いたミリ波変調器の基本的構成を説明する図であり、図11はNRDガイドの基本的構成を示す部分破断斜視図、図12(a)および(b)はそれぞれNRDガイドを用いたミリ波変調器の基本的構成の例を示す斜視図および平面図、図13は図12に示すミリ波変調器を構成する基板の例を示す平面図、図14は従来のミリ波変調器の例を示す模式図である。
ミリ波変調器を構成するNRDガイドの基本的構成は、図11に示すように、所定の間隔aをもって平行に配置された平行平板導体11,12間に、断面が矩形状の誘電体線路13を、間隔aをミリ波信号の波長λに対してa≦λ/2として配置したものである。これにより、外部から誘電体線路13へのノイズの侵入をなくし、かつ外部への高周波信号の放射をなくして、誘電体線路13中によりミリ波信号をほとんど損失なく伝搬させることができる。なお、波長λは使用周波数における空気中(自由空間)でのミリ波信号の波長である。
次に、このようなNRDガイドを用いたミリ波変調器の基本的構成の例は、図12に示すような構造である。なお、図12において、NRDガイドを構成する平行平板導体は図示を省略している。
図12において、20はミリ波信号(電磁波)を伝搬させる四フッ化エチレン,ポリスチレン等から成る誘電体線路であり、この誘電体線路20の一端面には、所定の空隙21をあけて、同じく四フッ化エチレン,ポリスチレン等から成る他の誘電体線路22が配置され、さらにその端面に誘電体線路20,22とは比誘電率の異なるアルミナセラミックス等から成る誘電体シート23が配置されている。そして、誘電体シート23を介して、ダイオード26が実装された基板24が配置される。
このダイオード26が実装された基板24は、図13に示すように、基板24上に銅箔等からなるチョーク型バイアス供給線路25aが形成されており、そのチョーク型バイアス供給線路25aの途中に高周波変調用素子であるショットキーバリアダイオード(Schottky Barrier Diode、以下、SBDともいう。)等のダイオード26が実装されて接続されている。
なお、図12に示したミリ波変調器の基本的構成の中では、空隙21および誘電体シート23は、誘電体線路20と基板24上のダイオード26の実装部との間のインピーダンス整合手段として働く。また、チョーク型バイアス供給線路25aはチョークインダクタとして働く。
そして、図14に示すように、従来のミリ波変調器の例、ここではASK(Amplitude Shift Keying)変調器は、上記のようなミリ波変調器の基本的構成と、その構成におけるチョーク型バイアス供給線路25a(図14ではチョークインダクタ25bに相当する)およびダイオード26に、さらに抵抗27とパルス信号源28とが直列に接続されたバイアス回路Cが接続されて構成されている。この構成の中で、ダイオード26、ここではSBDはミリ波信号を検波する手段として、抵抗27はダイオード(SBD)26に発生した検波電流を消費する手段として働く。
以上のように構成されたASK変調器は次のように動作する。
誘電体線路20および22,空隙21,ならびに誘電体シート23を通じてミリ波信号入力W1がSBD26に入射すると、SBD26の両端に検波出力として起電力が発生し、バイアス回路Cに検波電流が流れる。一方、バイアス回路Cにはパルス信号源28の電圧に応じた電流も流れ、この電流と検波電流との総和がバイアス電流となってバイアス回路Cを流れ、抵抗27で消費される。
SBD26に流れるバイアス電流はパルス信号源28の電圧によって制御され、SBD26に順方向バイアス電圧が印加されたときは検波電流を含むバイアス電流が流れ、誘電体線路22から入射したミリ波信号はSBD26で吸収される。したがって、誘電体線路20から入力され、SBD26で吸収されたミリ波信号は、SBD26で反射されず、誘電体線路20の端部に出力されない。ただし、このときSBD26に完全に吸収されなかった一部のミリ波信号は反射されるため、若干の強度のミリ波信号は出力されることとなる。一方、SBD26に逆方向バイアス電圧が印加されたときは検波電流が流れず、ミリ波信号はSBD26で反射される。したがって、SBD26で反射されたミリ波信号は、再び誘電体線路20の端部へと伝搬して出力される。このようにして、SBD26に順方向または逆方向のバイアス電圧をかけることにより、それに対応してミリ波信号に振幅変調(パルス変調またはスッチング制御)を施すことができる。
黒木 太司、池田 研吾、米山 務,「ショットキバリアダイオードを用いたNRDガイド高速ASK変調器」,1997年電子情報通信学会総合大会講演論文集,社団法人電子情報通信学会,1997年3月6日発行,Vol.1,C−2−65,p.120
特開平10−270944号公報
米国特許第6,034,574号明細書
しかしながら、従来のミリ波変調器では、パルス信号源28がSBD26およびそれに接続された抵抗27を直接駆動するため、パルス信号源28に負荷がかかりすぎるという問題点や、パルス信号源28と負荷とのインピーダンス整合がとれないという問題点があった。すなわち、通常、この種のミリ波変調器では例えば30mA程度までの大電流を流す必要があり、この電流を得るために負荷のインピーダンスを低く設定する必要がある。ところが、これは通常のパルス信号源28にとっては高負荷となるため十分に駆動することが難しかった。また、パルス信号源28の信号が負荷で十分終端されにくく、信号が伝わりにくかったため、パルス信号の波形が歪む等の問題が引き起こされる傾向にあった。
また、パルス信号源28に用いられる半導体素子の動作用に正および負の2つの電源を備える必要があり、全体として回路が複雑化するという問題点もあった。
すなわち、この種の反射型ミリ波変調器では、SBD26にバイアス電圧が印加されない(ゼロバイアス)場合であっても、SBD26がミリ波信号を受けると両端に検波出力が生じるため、この検波出力を打ち消すような逆方向バイアス電圧を印加しなければ、ミリ波信号の一部がSBD26に吸収されてしまい、ON状態時に十分なミリ波信号出力が得られない。またその一方、OFF状態時に十分にミリ波信号出力を遮断するには、SBD26にほぼ全てのミリ波信号を吸収させる必要があり、そのためにはSBD26に適切な順方向バイアス電圧を印加しなければならないが、そのバイアス電圧のスイッチングに用いられる半導体素子は、一般に正または負のいずれかのバイアス電圧で使用されるため、上記動作をさせるためには2つの半導体素子を交互にスイッチングするか、またはスイッチングによって発生した電圧をシフトさせる必要があり、単純に正または負のいずれかのバイアス電圧でスイッチングする場合と比べて回路が複雑化するという問題点があった。
また、正および負のディジタル状態を発生させるための例えばコンパレータやレベルシフタといった素子は、通常、応答速度が遅いため、高速の変調動作が行なえないという問題点もあった。
本発明は上記のような従来の技術における問題点を解決すべく案出されたものであり、その目的は、NRDガイドを用いたミリ波送受信器に使用されるミリ波変調器として、検波ダイオードに順方向バイアスと逆方向バイアスとを繰り返し印加して適切な電流を流すことができる簡素な回路を備えた、良好な変調特性を有するミリ波変調器を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、このミリ波変調器を用いた装置の動作試験(故障診断)用として検波ダイオードに順方向または逆方向のいずれかを選択して直流バイアス電圧を印加し続けることができる回路を備えた、良好な変調特性に加えて故障診断機能も有するミリ波変調器を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、ミリ波変調器に入射するミリ波信号の強度が変化してもバイアス回路に所定値の電流を安定に流すことができるミリ波変調器を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記の動作試験(故障診断)用の回路に含まれる寄生容量(寄生キャパシタンス)を補正して、その寄生容量によって引き起こされるパルス波形の歪みを抑制することができるミリ波変調器を提供することにある。
本発明の第1のミリ波変調器は、基板上に形成された幅の広い線路と幅の狭い線路とを交互に形成して成るチョーク型バイアス供給線路の途中に、被変調用のミリ波信号に対し検波作用を有するダイオードを直列に接続し、前記チョーク型バイアス供給線路に、パルス信号源と緩衝増幅器と第1の抵抗とを直列に接続するとともに前記第1の抵抗に並列にコンデンサを接続したバイアス回路を接続し、かつ前記ダイオードに並列に第2の抵抗を接続した回路基板と、前記回路基板が端部または途中に配置された、前記被変調用のミリ波信号を入力し、変調されたミリ波信号を出力する高周波伝送線路と、を具備することを特徴とするものである。
また、本発明の第2のミリ波変調器は、基板上に形成された幅の広い線路と幅の狭い線路とを交互に形成して成るチョーク型バイアス供給線路の途中に、被変調用のミリ波信号に対し検波作用を有していないダイオードを直列に接続し、前記チョーク型バイアス供給線路に、パルス信号源と緩衝増幅器と第1の抵抗とを直列に接続するとともに前記第1の抵抗に並列にコンデンサを接続したバイアス回路を接続し、かつ前記ダイオードに並列に第2の抵抗を接続した回路基板と、前記回路基板が端部または途中に配置された、前記被変調用のミリ波信号を入力し、変調されたミリ波信号を出力する高周波伝送線路と、を具備することを特徴とするものである。
また、本発明の第1および第2のミリ波変調器は、上記各構成において、前記バイアス回路の前記緩衝増幅器と前記第1の抵抗との間に前記パルス信号源の出力と動作試験用信号源の出力とを切り替えるスイッチを設けたことを特徴とするものである。
また、本発明の第1および第2のミリ波変調器は、上記構成において、前記スイッチに並列にコンデンサを接続したことを特徴とするものである。
また、本発明の第1および第2のミリ波変調器は、上記各構成において、前記第1の抵抗と前記ダイオードとの間に直列に第3の抵抗を接続したことを特徴とするものである。
本発明の第1のミリ波変調器によれば、基板上に形成された幅の広い線路と幅の狭い線路とを交互に形成して成るチョーク型バイアス供給線路の途中に、ミリ波信号に対し検波作用を有するダイオードを直列に接続し、前記チョーク型バイアス供給線路に、パルス信号源と緩衝増幅器と第1の抵抗とを直列に接続するとともに第1の抵抗に並列にコンデンサを接続したバイアス回路を接続し、かつダイオードに並列に第2の抵抗を接続したことから、コンデンサが、ダイオードに順方向バイアスがかかったときに電荷を蓄積して、その電荷をダイオードへの逆方向バイアスとして放電するように動作し、第2の抵抗がコンデンサによって発生したその逆方向バイアス電流を電圧に変換してダイオードに逆方向バイアス電圧を印加するように動作するので、パルス信号源等の能動回路に、順方向バイアス電流を制御する手段とともに逆方向バイアス電流を制御する手段をも設ける必要がなくなり、バイアス回路を簡素なものとすることができる。その上、緩衝増幅器がダイオードに電流を流す回路とパルス信号源との間のインピーダンスの相異を緩衝する働きをしてパルス信号源を適切な負荷で駆動し、なおかつダイオードに十分な電流を流すように動作するので、ダイオードに正逆両方向のバイアス電圧が繰り返し印加されるような過酷な負荷条件下においても、ダイオードを変調動作させるのに必要な最大電流を駆動し良好な電流波形でダイオードに適切な電流を流すことができる。
また、本発明の第2のミリ波変調器によれば、基板上に形成された幅の広い線路と幅の狭い線路とを交互に形成して成るチョーク型バイアス供給線路の途中に、ミリ波信号に対し検波作用を有していないダイオードを直列に接続し、前記チョーク型バイアス供給線路に、パルス信号源と緩衝増幅器と第1の抵抗とを直列に接続するとともに第1の抵抗に並列にコンデンサを接続したバイアス回路を接続し、かつダイオードに並列に第2の抵抗を接続したことから、コンデンサが、ダイオードに順方向バイアスがかかったときに電荷を蓄積して、その電荷をダイオードへの逆方向バイアスとして放電するように動作し、第2の抵抗がコンデンサによって発生したその逆方向バイアス電流を電圧に変換してダイオードに逆方向バイアス電圧を印加するように動作するので、パルス信号源等の能動回路に、順方向バイアス電流を制御する手段とともに逆方向バイアス電流を制御する手段をも設ける必要がなくなり、バイアス回路を簡素なものとすることができる。その上、緩衝増幅器がダイオードに電流を流す回路とパルス信号源との間のインピーダンスの相異を緩衝する働きをしてパルス信号源を適切な負荷で駆動し、なおかつダイオードに十分な電流を流すように動作するので、ダイオードに正逆両方向のバイアス電圧が繰り返し印加されるような過酷な負荷条件下においても、ダイオードを変調動作させるのに必要な最大電流を駆動し良好な電流波形でダイオードに適切な電流を流すことができる。また、ダイオードがミリ波信号に対して検波作用を有していないことから、ミリ波変調器に入射するミリ波信号の強度が変化しても、ダイオードにミリ波信号による検波電流が流れないので、バイアス回路に所定値の電流を安定に流すことができる。
また、本発明の第1および第2のミリ波変調器によれば、前記バイアス回路の前記緩衝増幅器と前記第1の抵抗との間に前記パルス信号源の出力と動作試験用信号源の出力とを切り替えるスイッチを設けたときには、バイアス回路に設けたスイッチが、パルス信号源によってパルス化された信号をダイオードに印加する以外に、動作試験用信号源として例えば直流電源によって発生された直流信号をダイオードに印加できるように、バイアス回路で用いられる信号の信号経路を切り替えるように動作するので、検波作用を有するダイオードにパルス化された信号を入力できるだけではなく、このミリ波変調器を用いた装置の動作試験用として、検波作用を有するダイオードに順方向または逆方向のいずれかを選択して直流バイアス電圧を印加することができるものとなる。
また、本発明の第1および第2のミリ波変調器によれば、前記スイッチに並列にコンデンサを接続したときには、コンデンサがスイッチ内部に存在する寄生容量(寄生キャパシタンス)を打ち消して、スイッチの寄生容量によって発生するスイッチでのパルス信号の高周波成分の反射が小さくなるように働くので、歪みの少ないパルス信号をダイオードに入力することができるものとなる。
また、本発明の第1および第2のミリ波変調器によれば、第1の抵抗とダイオードとの間に直列に第3の抵抗を接続したときには、パルス信号源の信号で動作するときでも、あるいは動作試験用信号源の信号で動作するときでも、第3の抵抗が、順方向バイアス時にコンデンサを通して突入する電流を抑制してダイオードに流すように動作するので、ダイオードに瞬時的に大電流が流れることが抑制され、ダイオードを破壊から効果的に保護できるものとなる。
本発明のミリ波変調器について、ASK変調器を例にとって、以下に詳細に説明する。
図1は本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態の一例としてのASK変調器M1を示す模式図であり、図2は本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態の他の例としてのASK変調器M2を示す模式図である。また、図3はASK変調器M2におけるバイアス回路C2の回路の例を詳細に示す回路図である。さらに、図4はバイアス回路C2に接続されたSBDにパルスが入力されたときの入力パルス波形(電圧波形)とそれに対するSBD部の応答電圧波形(SBD駆動波形)の一例を説明する図であり、(a)は入力パルス電圧の波形およびSBD駆動電圧の波形を模式的に示す線図、(b)は後述する実施例における逆バイアス電圧変動の計算例である。なお、これらASK変調器M1またはM2のバイアス回路C1またはC2を除く部分の基本的な構成は、図12乃至図14に示した従来のミリ波変調器におけるものと同様である。
本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態の一例であるASK変調器M1は、ミリ波信号入力W1の波長の2分の1以下の間隔で配置した平行平板導体間に、ミリ波信号入力W1を伝搬させる誘電体線路31と、誘電体線路31の一端に設置された、図12および図13に示すような基板24上に形成された幅の広い線路と幅の狭い線路とを交互に形成して成るチョーク型バイアス供給線路25a(図1ではチョークインダクタ32)の途中にミリ波信号入力W1に対し検波作用を有するダイオード26(図1ではSBD33)を直列に接続し、このチョーク型バイアス供給線路25a(32)の両端に、パルス信号源34と緩衝増幅器35と第1の抵抗36とを直列に接続するとともに第1の抵抗36に並列にコンデンサ38を接続したバイアス回路C1を接続し、かつダイオード26(33)に並列に第2の抵抗37を接続した構成である。
この構成において、第1の抵抗36および第2の抵抗37はダイオード26(33)に流す電流値を制御するためのものであり、各抵抗値を適宜選択することにより、ダイオード26(33)に流す順方向電流または逆方向電流を各々独立に制御することができる。このうち、第1の抵抗36の抵抗値によって逆方向バイアス電圧が決まり、第2の抵抗37の抵抗値とダイオード26(33)の順方向抵抗値によって順方向バイアス電圧が決まる。ただし、通常、ダイオード26(33)の順方向抵抗値は第2の抵抗37の抵抗値に比べて無視できるほど小さい。従って、第1の抵抗36の抵抗値で逆方向バイアス電流が制御され、第2の抵抗37の抵抗値で順方向バイアス電流が制御される。
34は最小電圧値例えば0Vと正の最大電圧値とを周期的に繰り返すパルス信号を発生させるパルス信号源である。代表的なパルス信号としては、正の最大電圧値には例えば5Vが用いられ、最大電圧値が出力される時間であるパルス幅は例えば100n秒程度、最大電圧値が出力される周期であるパルス繰り返し周期は例えば2μ秒程度、最小電圧値から最大電圧値に、もしくは最大電圧値から最小電圧値に遷移する時間は例えば1n秒程度である。
35はダイオード26(33)に順方向バイアス電圧を制御して印加するための緩衝増幅器であり、前述のとおりダイオード26(33)とパルス信号源34との間のインピーダンスの相異を緩衝するように動作する。また、逆方向バイアス電圧を印加するときにも逆方向電流を緩衝し、パルス信号源34に無用な電流が流れないように確実に機能して、パルス信号源34の波形が乱れないように動作する。また、それら以外に、緩衝増幅器35は入力された信号のディジタル状態を反転させて出力する(信号が最大である状態と最小である状態とを入出力で反転させる)インバータとしても動作する。一般にインバータとして動作する緩衝増幅器35は応答速度が速く、急峻なパルス信号に対しても、波形をなまらせずに増幅することができる。
なお、緩衝増幅器35には、その動作用の電源としての直流電源40が接続されている。
38はダイオード26(33)に逆方向バイアス電圧を印加するための電荷を蓄積するためのコンデンサであり、ダイオード26(33)に順方向バイアス電圧が印加されている間に電荷を蓄積し、その順方向バイアス電圧が解除されたときに放電して、第1の抵抗36の両端に逆方向バイアス電圧を発生させる。
ダイオード26(33)としてはSBD(ショットキーバリアダイオード)33を用いることができる。SBD33以外には、検波作用を有するダイオードに代えてFET(電界効果トランジスタ)を用いてもよい。
また、図2に示す本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態の他の例であるASK変調器M2では、ASK変調器M1と同様の構成においてバイアス回路C1の替わりに、バイアス回路C1の第1の抵抗36とダイオード26(33)との間に直列に第3の抵抗39を接続したバイアス回路C2を用いる。
この構成において、第1の抵抗36,第2の抵抗37および第3の抵抗39は、ダイオード26(33)に流す電流値を制御するためのものであり、各抵抗値を適宜選択することにより、ダイオード26(33)に流す順方向電流または逆方向電流を各々独立に制御することができる。このうち、第1の抵抗36の抵抗値によって逆方向バイアス電圧が決まり、第2の抵抗37の抵抗値とダイオード26(33)の順方向抵抗値とによって順方向バイアス電圧が決まる。そして、第3の抵抗39の抵抗値は、第1の抵抗36のみで逆方向バイアス電圧が決められるようにするため、第2の抵抗37の抵抗値よりも例えば1桁以上低い(すなわち1/10以下の)値に設定する。
ASK変調器M2においても、ASK変調器M1と同様に、第1の抵抗36の抵抗値で逆方向バイアス電流が制御され、第2の抵抗37の抵抗値で順方向バイアス電流が制御される。ただし、第3の抵抗39が、順方向バイアス時にコンデンサ38を通して瞬時的に流れる順方向バイアス電流を制限するように動作するので、バイアス回路C2の過電流からのダイオード26(33)の保護をもできる構成となる。
なお、上記の構成では、従来のASK変調器のように、空隙21,誘電体線路22および誘電体シート23に相当するものを用いていないが、これらを用いても差し支えない。
これらASK変調器M1またはM2は、先に述べた従来のASK変調器と同様に動作するが、バイアス回路C1またはC2に流れるバイアス電流の制御方法が従来のASK変調器におけるバイアス回路Cと異なる。
従来のASK変調器におけるバイアス回路Cによる電流制御方法では、SBD26に流れる順方向電流および逆方向電流は両者とも直列に接続された抵抗25bもしくは直並列に接続された複数の合成抵抗によって制御されるので、その抵抗では順方向電流および逆方向電流を各々独立に制御することができなかった。そのため、従来の方法では、パルス信号源28において順方向バイアス電圧および逆方向電圧を発生させなければならなかった。
これに対し、本発明の第1のミリ波変調器であるASK変調器M1またはM2では、第1の抵抗36とコンデンサ38とが順方向バイアス時にコンデンサ38に蓄積した電荷で逆方向バイアス電圧を発生させるので、パルス信号源34は順方向バイアス時の電圧を発生させるのみで済む。また、この順方向バイアス電圧を発生させるために用いる緩衝増幅器35は、一般に高速動作が可能である。
また、本発明のASK変調器M2では、第3の抵抗39は順方向バイアス時にコンデンサ38を通して突入する電流を抑制してダイオード26(33)に流すように動作することから、ダイオード26(33)に瞬時的に大電流が流れることが抑制されるので、ダイオード26(33)やその他の回路素子が大電流による破壊から保護される。
次に、図5は本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例としてのASK変調器M3を示す模式図であり、図6は本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例としてのASK変調器M4を示す模式図である。なお、図5および図6において、図1および図2と同様の箇所には同じ符号を付してある。また、これらASK変調器M3またはM4のバイアス回路C3またはC4を除く部分の基本的な構成は、図12乃至図14に示した従来のミリ波変調器におけるものと同様である。
本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例であるASK変調器M3は、図1に示したASK変調器M1のバイアス回路C1に対して、バイアス回路C3の緩衝増幅器35と第1の抵抗36との間にパルス信号源34の出力と動作試験用信号源である例えば動作試験用直流電源41の出力とを切り替える半導体スイッチ等のスイッチ42を設けた構成である。
図1に示したASK変調器M1の構成においては、パルス信号源34によって逆方向バイアス電圧がダイオード26(33)に印加される場合には、コンデンサ38に蓄積された電荷を放電させることによって逆方向バイアス電圧を発生させているため、コンデンサ38に蓄積された電荷を放電しきってしまうと、それ以後の時間については逆方向バイアス電圧を印加し続けることができないという、さらに改善が望まれる点がある。この時間は通常長くても1秒にも満たないので、ダイオード26(33)に逆方向バイアス電圧を印加し続けてダイオード26(33)の動作を確認したい場合に不都合が生じることとなる。
これに対し、この例のASK変調器M3においては、バイアス回路C3の緩衝増幅器35と第1の抵抗36との間に、ダイオード26(33)の動作試験用信号源として、例えばダイオード26(33)に逆方向バイアス電圧を印加し続けるための動作試験用直流電源41の出力をパルス信号源34の出力と切り替えるための半導体スイッチ等のスイッチ42を設けている。
このように、スイッチ42を用いて、バイアス回路C3でパルス信号源34と動作試験用直流電源41とを切り替えて使用できるようにすれば、前述のような不都合がなくなり、ダイオード26(33)に順方向または逆方向のいずれかを選択して直流バイアス電圧を印加し続けてその動作を確認する試験を容易に行なうことができる。
すなわち、ASK変調器M3において、スイッチ42を切り替えて、ダイオード26(SBD33)と第2の抵抗37とから成る並列回路に直列にチョークインダクタ32と第1の抵抗36とが接続された直流回路(ここで、コンデンサ38は直流に対し無限大のインピーダンスであるので、接続されてないものとみなす。)に動作試験用直流電源41を直列に接続すると、コンデンサ38の充放電とは関係なく動作試験用直流電源41の出力によりダイオード26(SBD33)に逆方向バイアス電圧を印加し続けることができ、一方、スイッチ42を切り替えて、ダイオード26(SBD33)と第2の抵抗37とから成る並列回路に直列にチョークインダクタ32と第1の抵抗36とが接続された直流回路に緩衝増幅器35とパルス信号源34とを直列に接続し、パルス信号源34を動作させずにおくと、緩衝増幅器35はインバータとして動作して最大電圧値を発生し続けることとなり、ダイオード26(SBD33)には、常に順方向バイアス電圧を印加し続けることができる。このときにダイオード26(SBD33)の静的動作(直流バイアス電圧印加時の動作)をダイオード26(SBD33)で反射し、誘電体線路31の端部から出力されたミリ波信号をスペクトラムアナライザ等で測定し、そのミリ波信号の周波数と出力強度を確認することによって、故障診断を行なえばよい。
スイッチ42に用いる半導体スイッチとしては、ディジタル回路で用いられるCMOS,TTL,ECL等の半導体装置によるスイッチを用いることができる。また、スイッチ42としては、押しボタン式、レバー式、もしくはスライド式等の機械的接点式スイッチ、リレー、カンチレバー、アクチエータ、または微小電気機械装置、所謂MEMS(Micro-Electro-Mechanical-Systemの略称)式スイッチ等の機械的接点を有したスイッチを用いてもよい。
また、図6に示す本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例であるASK変調器M4では、図2に示したASK変調器M2のバイアス回路C2に対して、緩衝増幅器35と第1の抵抗36との間にパルス信号源34の出力と動作試験用信号源である例えば動作試験用直流電源41の出力とを切り替える半導体スイッチ等のスイッチ42を設けた構成である。
このASK変調器M4においても、ASK変調器M3と同様に、スイッチ42を用いて、バイアス回路C4でパルス信号源34の出力と動作試験用信号源としての動作試験用直流電源41の出力とを切り替えて使用するようにすれば、ダイオード26(33)に順方向または逆方向のいずれかを選択して直流バイアス電圧を印加してその動作を確認する試験を容易に行なうことができる。
すなわち、ASK変調器M4において、スイッチ42を切り替えて、ダイオード26(SBD33)と第2の抵抗37とから成る並列回路に直列にチョークインダクタ32と第1の抵抗36と第3の抵抗39とが接続された直流回路(ここで、コンデンサ38は直流に対し無限大のインピーダンスであるので、接続されてないものとみなす。)に動作試験用直流電源41を直列に接続すると、コンデンサ38の充放電とは関係なく動作試験用直流電源41の出力によりダイオード26(SBD33)に逆方向バイアス電圧を印加し続けることができ、一方、スイッチ42を切り替えて、ダイオード26(SBD33)と第2の抵抗37とから成る並列回路に直列にチョークインダクタ32と第1の抵抗36と第3の抵抗39とが接続された直流回路に緩衝増幅器35とパルス信号源34とを直列に接続し、パルス信号源34を動作させずにおくと、緩衝増幅器35はインバータとして動作して最大電圧値を発生し続けることとなり、ダイオード26(SBD33)には、常に順方向バイアス電圧を印加し続けることができる。このときにダイオード26(SBD33)の静的動作(直流バイアス電圧印加時の動作)をダイオード26(SBD33)で反射し、誘電体線路31の端部から出力されたミリ波信号をスペクトラムアナライザ等で測定し、そのミリ波信号の周波数と出力強度を確認することによって、故障診断を行なえばよい。
以上のように、本発明のASK変調器M3またはM4によれば、バイアス回路C3,C4に設けたスイッチ42によって、パルス信号源34の出力であるパルス化された信号をダイオード26(33)に印加する以外に、動作試験用信号源としての動作試験用直流電源41の出力である直流信号をダイオード26(33)に印加できるように、バイアス回路C3,C4で用いられる信号の信号経路を切り替えることができるので、ダイオード26(33)にパルス信号源34からパルス化された信号を入力できるだけではなく、ダイオード26(33)およびこのASK変調器M1,M2を用いた装置の動作試験用信号として、ダイオード26(33)に例えば順方向または逆方向のいずれかを選択して直流バイアス電圧を印加することができるので、良好な変調特性を有するとともに、故障診断機能も有するミリ波変調器を提供することができる。
なお、動作試験用信号としては、以上のような直流信号の他にも、ダイオード26(SBD33)の動的動作(交流電圧または直流に更に交流を重畳した電圧を印加した時の動作)を試験するために、矩形波,正弦波,または三角波等の交流信号を用いることもできる。
次に、図7は本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例としてのASK変調器M5を示す模式図であり、図8は本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例としてのASK変調器M6を示す模式図である。なお、図7および図8において、図5および図6と同様の箇所には同じ符号を付してある。また、これらASK変調器M5またはM6のバイアス回路C5またはC6を除く部分の基本的な構成は、図12乃至図14に示した従来のミリ波変調器におけるものと同様である。
本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例であるASK変調器M5は、図5に示したASK変調器M3のバイアス回路C3に対して、スイッチ42に並列にコンデンサ43を接続した構成である。
図5に示したASK変調器M3の構成においては、バイアス回路C3の緩衝増幅器35と第1の抵抗36との間に、ダイオード26(33)の動作試験用信号源として、例えばダイオード26(33)に逆方向バイアス電圧を印加し続けるための動作試験用直流電源41の出力をパルス信号源34の出力と切り替えるための半導体スイッチ等のスイッチ42を設けているが、このスイッチ42の内部の線路とグラウンドとの間にはピコファラド(pF)オーダーの寄生容量(寄生インダクタンス)があり、この寄生容量がパルスの時間的に急峻な電圧変化領域の波形を歪ませてしまう要因になるという、さらに改善が望まれる点がある。
これに対し、この例のASK変調器M5においては、バイアス回路C5のスイッチ42に並列にコンデンサ43を接続している。このように、スイッチ42に並列にコンデンサ43を接続することによって、スイッチ42の寄生容量が等価的に0になるように補正することができ、歪みの少ないパルス信号をダイオード26(33)に入力することができるものとなる。
また、図8に示す本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例であるASK変調器M6では、図6に示したASK変調器M4のバイアス回路C4に対して、スイッチ42に並列にコンデンサ43を接続した構成である。
このASK変調器M6においても、ASK変調器M5と同様に、バイアス回路C6のスイッチ42に並列にコンデンサ43を接続している。このように、スイッチ42に並列にコンデンサ43を接続することによって、スイッチ42の寄生容量が等価的に0になるように補正することができ、歪みの少ないパルス信号をダイオード26(33)に入力することができるものとなる。
図9(a)はバイアス回路C5,C6のスイッチ42に並列にコンデンサ43を接続した部分の等価回路図を示している。図9において、Rrはスイッチ42を閉じた(ONにした)ときのスイッチ42における入力端と出力端との間の抵抗値、CLはスイッチ42の寄生容量値、C0はコンデンサ43の補正容量値を、それぞれ表している。
これによりCLの寄生容量を補正するには、次式で算出される補正容量値C0でもって補正するとよい。
C0=(CL・RL)/Rr・・・(1)
ただし、RLは、第1の抵抗36と第2の抵抗37との合成抵抗値または第1の抵抗36と第2の抵抗37と第3の抵抗39との合成抵抗値である。
このような補正容量値C0のコンデンサ43を寄生容量値CLを有するスイッチ42に並列に接続すれば、スイッチ42の入力端からみた寄生容量を見かけ上なくすことができるので、スイッチ42を通過するパルス信号のパルス波形が、その寄生容量によって歪まないようにすることができる。このことについては、後述するASK変調器M6の実施例において、さらに詳細な説明をする。
なお、以上の本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態の例であるASK変調器M1,M2,M3,M4,M5およびM6についての説明は、ダイオード26(33)にミリ波信号に対し検波作用を有していないダイオード、例えばPINダイオード等を用いることによって、本発明の第2のミリ波変調器の説明としてそのまま適用できるものであるので、本発明の第2のミリ波変調器についての重複する説明は省略する。
以上の説明のうち、ダイオード26(33)に検波作用を有していないダイオードを用いることによって異なる部分は、具体的には、ダイオード26(33)にミリ波信号が入射してもダイオード26(33)に起電力が発生しないので、バイアス回路C1〜C6に接続された抵抗,コンデンサおよびインダクタの抵抗値,キャパシタンスおよびインダクタンスが一定値のもとでバイアス回路C1〜C6に流れる電流は、パルス信号源34もしくは直流電源40によって発生された起電力のみに従うことである。
このようにダイオード26(33)にミリ波信号に対し検波作用を有していないダイオードを用いた本発明の第2のミリ波変調器によれば、第1のミリ波変調器におけるバイアス回路C1〜C6に関する作用効果を有するとともに、ミリ波変調器に入射するミリ波信号の強度が変化しても、ダイオード26(33)にミリ波信号による検波電流が流れないので、バイアス回路C1〜C6に所定値の電流を安定に流すことができるものとなる。
本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態の他の例であるASK変調器M2について、さらに詳細な具体例を以下に説明する。
この例では、ASK変調器M2を次のように構成した。まず、誘電体線路31としてのNRDガイドは、図11に示すように、平行平板導体11,12として厚さが6mmの2枚のAl板を1.8mmの間隔aで配置し、それらの間に、断面形状が1.8mm(高さ)×0.8mm(幅)の矩形状であり、比誘電率が4.8のコージェライトセラミックスから成る誘電体線路13を配置したものを用いた。
そして、誘電体線路31の端面に、図12に示すように、厚さ0.2mmの低誘電率の熱可塑性樹脂(比誘電率εr=3.0)から成る基板24を配置した。この基板24の一主面(誘電体線路31と反対側の面)には、幅の広い線路と幅の狭い線路とを交互に形成して成る銅から成るチョーク型バイアス供給線路(図13における25aおよび図1における32に相当する。)を、幅の広い線路の長さをλ1/4=0.7mm(λ1は76.5GHzの波長)、幅の狭い線路の長さもλ1/4=0.7mmとし、幅の広い線路の幅を1.5mm、幅の狭い線路の幅を0.2mmとして形成した。
そして、図13に示すように、チョーク型バイアス供給線路25aの途中に形成した途切れた部位の各端部に、ビームリードタイプのSBD(図13における26および図1における33に相当する。)を直径が0.1mmの接続用導体としてのはんだバンプで接続して実装した。SBD26(33)のはんだバンプが接続される電極の幅は0.13mmであった。
そして、図2または図3に示すように、SBD33に直列に、抵抗値が56Ωの第1の抵抗36(R21+R51)と抵抗値が68Ωの第3の抵抗39(R22)と出力インピーダンスが50Ωのパルス信号源34と緩衝増幅器35とを接続し、SBD33に並列に抵抗値が1kΩの第2の抵抗37(R19)を接続し、第1の抵抗36に並列に容量値が470nFのコンデンサ38(C26)を接続した。なお、括弧内の符号は図3における各構成部品の符号を示す。
そして、図4(a)に示すように、バイアス回路C2のパルス信号源34の入力端子P0に最小レベルが0V(Low Level)で最大レベルが4.5V(High Level)であり、パルス幅τが100n秒、パルスの立上がり時間および立下がり時間(不図示)が1n秒である入力パルス電圧を印加したところ、SBD33が接続されているP1とP2間に、次式で示される値にほぼ近い電圧値のSBD駆動電圧を得た。
順方向バイアス電圧:
VForward=(r2 // RDf)/(r1+r3+r2 // RDf)≒0.85V
逆方向バイアス電圧:
VReverse=−{r1 / (r1+r3+r2 //RDf)}≒−1.64V
ただし、r1は第1の抵抗36(R21とR51とを直列接続したもの)の抵抗値、r2は第2の抵抗37(R19)の抵抗値、r3は第3の抵抗39(R22)の抵抗値、RDfはSBD33の順方向抵抗値である。また、P1とP2間の電圧は電流がP1からP2へ流れる方向を正(プラス)の電圧値で表しており、また、パルスの立ち上がる時、または立ち下がる時の過渡的なバイアス電圧変動(ΔV1またはΔV2)が起こる時間を除く定常状態の時の電圧値を表している。
一方、逆方向バイアス時のバイアス電圧変動ΔV1は図4(b)に示す計算例の通り、コンデンサ38(C26)の容量c1に依存しており、容量c1が大きくなるに従いΔV1が小さくなり、この例ではc1が220nFでΔV1が1mV以下と安定な特性になり、また、c1が470nFでΔV1が0.5mV程度とさらに安定な特性が得られることが分かった。
次に、このASK変調器M2について次の方法でスイッチ特性の測定を行なった。
誘電体線路31にガン発振器により出力された76.5GHzのミリ波信号入力W1を入射し、LSM01モードで伝搬させ、ASK変調器M2を100n秒のパルス幅でスイッチ動作(パルス動作)させて、これによる誘電体線路31からのミリ波信号出力W2を、ミリ波検波器で検波してパルス状の検波信号を取り出し、このパルス状の検波信号の信号波形をサンプリングオシロスコープを用いて観測した。その結果、パルスの立上がり時間または立下がり時間が1n秒と急峻であっても、ON/OFF比が20dB以上の良好なパルス変調ができていることが確認された。
この実施例における結果は、ASK変調器M2のダイオード33をミリ波信号に対し検波作用を有していないPINダイオードに替えたときにも、同様に確認することができた。
次に、本発明の第1のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例であるASK変調器M6について、さらに詳細な具体例を以下に説明する。
この実施例のASK変調器M6は、上記実施例のASK変調器M2と同様に構成した上で、さらに、緩衝増幅器35と第1の抵抗36との間にCMOSから成るスイッチ42を設け、式(1)を用いて算出した補正容量値C0をC0=10nFとしたコンデンサ43をスイッチ42に並列に接続した。補正容量値C0の算出に必要なCL,RL,Rrは次のように求めた。まず、RLは第1の抵抗36と第2の抵抗37と第3の抵抗39とのそれぞれに用いた抵抗器の抵抗値から合成抵抗値を計算して751Ωを得た。次に、Rrはスイッチ42をONにした状態でスイッチ42の入力端と出力端との間の抵抗値をデジタルマルチメータで測定して6Ωを得た。そして、CLはスイッチ42をONにした状態でスイッチ42の入力端にネットワークアナライザのポート1を接続して、ネットワークアナライザで反射特性(S11)を測定して84MHzにおける容量値である84.5pFを得た。ここで、84MHzにおける容量値を測定した理由は、この実施例において入力すべきパルス信号の立ち上がり時間trをtr=3.8ナノ秒(ns)と設定したためであり、このパルス信号を歪みなく通過させるのに必要な帯域幅fwがfw=1/(π・tr)よりfw≒84MHzとなるためである。図9(b)にこの測定結果の代表的な一例をスミスチャートで示す。この図のマーカ5から84MHzにおける容量値が84.5pFと読みとることができる。
そして、この実施例のASK変調器M6を動作させて検証した。まず、パルス信号源34からパルス繰り返し周期が100ns,立ち上がり時間trが3.8ns,振幅電圧が4.62Vであるパルス信号を発生させて、パルス信号源34の出力端にサンプリングオシロスコープのプローブを接続して、サンプリングオシロスコープでそのパルス信号波形を観測した。そして、その波形が良好であることを確認した。次に、パルス信号源34に発生されたそのパルス信号がバイアス回路C6を通してSBD33の両端に印加されているそのSBD33の両端のパルス信号波形を同じサンプリングオシロスコープで観測した。そして、その波形も、先に観測した波形とほとんど変化なく、良好であることを確認した。
これに対して、同様の測定をASK変調器M2について行なった結果では、SBD33の両端に印加されたパルス信号波形がパルス信号源34によって発生された元のパルス信号波形よりも劣化していることが確認された。すなわち、パルス信号源34が発生させた元のパルス信号のパルスが立ち上がる時間領域において振幅電圧の50%の電圧になる時間から所定時間後での電圧と、SBD33の両端に印加されたパルス信号の同じタイミングでの電圧との電圧差をΔVとして、ΔVをASK変調器M6とASK変調器M2とで比較すると、ASK変調器M6ではΔV<1mVであったのに対して、ASK変調器M2ではΔV=15mVであった。
また、図10に上記実施例におけるASK変調器M6のΔVと上記実施例におけるASK変調器M2のΔVとを、バイアス回路C6およびバイアス回路C4についてSPICE系のシミュレータを用いて計算した計算結果を示す。図10はASK変調器M6およびASK変調器M2のそれぞれのSBD33の両端に印加されたパルス信号の電圧波形を計算した計算結果の一例を示すグラフであり、(a)はASK変調器M6のSBD33の両端のパルス信号波形の立ち上がり部分を拡大したグラフ、(b)はASK変調器M2のSBD33の両端のパルス信号波形の立ち上がり部分を拡大したグラフである。なお、これらのグラフにおいて、横軸は時間、縦軸は電圧を表している。この計算結果による比較においては、ASK変調器M6ではΔV≒0mVであったのに対して、ASK変調器M2ではΔV=15mVであった。
以上に説明したように、技術的考察に矛盾のない整合のとれた実験結果が得られていることから、本発明のASK変調器M6によれば、コンデンサ43によって、スイッチ42の寄生容量を補正して、スイッチ42の寄生容量によるパルス波形の歪みを抑制できることが検証された。
この実施例における結果も、ASK変調器M6のダイオード33をミリ波信号に対し検波作用を有していないPINダイオードに替えたときにも、同様に確認することができた。
なお、本発明は以上の実施の形態の例および実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行なうことは何等差し支えない。
本発明のミリ波変調器は検波用のダイオードのバイアス回路における電流制御手段に順方向バイアス時に蓄積した電荷で逆方向バイアス電流を発生させる手段を用いること、あるいはバイアス回路においてパルス信号源の出力を切り替えて故障診断用等の動作試験用信号として逆方向直流バイアス電流等をダイオードに印加する手段を用いることが重要であり、例えば次のような構成を用いることができる。
検波作用を有するダイオードにミリ波信号を入出力する手段は、誘電体線路としての非放射性誘電体線路であるNRDガイドの他にも、導波管,誘電体導波管,同軸線路,ストリップ線路,マイクロストリップ線路、コプレーナ線路,グランド付きコプレーナ線路,スロット線路,またはこれらを変形した高周波伝送線路であってもよい。
また、被変調用のミリ波信号は、LSMモードのミリ波信号の他にも、TEモード,TMモード,もしくはTEMモードのミリ波信号であってもよい。
また、ミリ波信号に対し検波作用を有するダイオードをマウントする基板には、誘電体線路を始めとする高周波伝送線路とダイオード実装部とのインピーダンス整合ができるように考慮すれば、セラミック基板や、その他にも、熱可塑性樹脂基板,エポキシ樹脂基板,ガラスエポキシ基板,その他一般的な電子回路用の基板を用いることができ、それらの材料の比誘電率に応じて、適宜、長さ,幅および厚さを設定すればよい。
また、検波用のダイオードは、被変調用のミリ波信号を入出力する高周波伝送線路の端部または途中に、ミリ波信号の電界の振動方向に平行な方向に検波電流が流れるように配置されればよい。また、チョーク型バイアス供給線路は、コイル,インダクタ,チップインダクタ素子等をチョークインダクタとして用いたものでもよい。変調用信号源は、パルス信号源の他にも、正弦波,三角波または任意波形を発生する信号源であってもよい。
また、動作試験用信号源としては、故障診断用の直流電源の替わりに、任意波形発生器やプログラマブル電源を用いる構成としてもよい、この場合には、ミリ波変調器を用いた装置に対して任意の複数の電圧値からなるシーケンスで処理される複雑な試験、例えば、バイアス電圧を変化させたときのミリ波変調出力の変動を試験する変動試験、あるいは温度や湿度等の環境条件に応じてバイアス電圧を設定して行なうような温度サイクル試験、温湿度サイクル試験、もしくは熱衝撃試験等の環境試験にも対応できるものとなる。
また、以上の本発明のミリ波変調器の説明についてはダイオードにミリ波信号に対し検波作用を有するものを用いた第1のミリ波変調器の例を中心に説明したが、前述のように、そのバイアス回路に対する作用効果は、ダイオードとしてミリ波信号に対し検波作用を有していないもの、例えばPINダイオードを用いた第2のミリ波変調器についても同様であるとともに、第2のミリ波変調器によればさらに、ミリ波変調器に入射するミリ波信号の強度が変化してもバイアス回路に所定値の電流を安定に流すことができるものとなる。
本発明の第1(または第2)のミリ波変調の実施の形態の一例としてのASK変調器M1を示す模式図である。
本発明の第1(または第2)のミリ波変調器の実施の形態の他の例としてのASK変調器M2を示す模式図である。
ASK変調器M2におけるバイアス回路C2の回路の例を詳細に示す回路図である。
バイアス回路C2に接続されたSBDにパルスが入力されたときの入力パルス波形(電圧波形)とそれに対するSBD部の応答電圧波形(SBD駆動波形)の一例を説明する図であり、(a)は入力パルス電圧の波形およびSBD駆動電圧の波形を模式的に示す線図、(b)は実施例における逆バイアス電圧変動の計算例である。
本発明の第1(または第2)のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例としてのASK変調器M3を示す模式図である。
本発明の第1(または第2)のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例としてのASK変調器M4を示す模式図である。
本発明の第1(または第2)のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例としてのASK変調器M5を示す模式図である。
本発明の第1(または第2)のミリ波変調器の実施の形態のさらに他の例としてのASK変調器M6を示す模式図である。
バイアス回路C5またはC6に接続されたスイッチに含まれる寄生容量をコンデンサによって補正する回路およびその寄生容量を測定した測定結果を説明する図であり、(a)はバイアス回路C5,C6のスイッチ部の等価回路図であり、(b)はコンデンサによって補正を行なう前にスイッチの入力端に高周波信号を入力したときの入力端の反射特性(S11)を測定した測定結果の一例を示すスミスチャートである。
ASK変調器M6およびASK変調器M2それぞれのSBD両端に印加されたパルス信号の電圧波形を計算した計算結果を示すグラフであり、(a)はASK変調器M6のSBD両端のパルス信号波形の立ち上がり部分を拡大したグラフ、(b)はASK変調器M2のSBD両端のパルス信号波形の立ち上がり部分を拡大したグラフである。
NRDガイドの基本的構成を示す部分破断斜視図である。
(a)および(b)は、それぞれNRDガイドを用いたミリ波変調器の基本的構成の例を示す斜視図および平面図である。
図12に示すミリ波変調器を構成する基板の例を示す平面図である。
従来のミリ波変調器の例を示す模式図である。
符号の説明
24:基板
25a:チョーク型バイアス供給線路
26:ダイオード(SBD)
31:誘電体線路
32:チョークインダクタ(チョーク型バイアス供給線路)
33:SBD(ショットキーバリアダイオード)
34:パルス信号源
35:緩衝増幅器
36:第1の抵抗
37:第2の抵抗
38:コンデンサ
39:第3の抵抗
40:直流電源
41:動作試験用直流電源(動作試験用信号源)
42:スイッチ
43:コンデンサ
M1,M2,M3,M4,M5,M6:ASK変調器(ミリ波変調器)
C1,C2,C3,C4,C5,C6:バイアス回路