JP4344151B2 - 環境試料のセルロース分解能の評価方法及びそのためのオリゴヌクレオチド - Google Patents

環境試料のセルロース分解能の評価方法及びそのためのオリゴヌクレオチド Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、環境試料のセルロース分解能の評価法、及びそれに使用できるオリゴヌクレオチドに関し、より詳しくは、メタン発酵汚泥等の環境試料から、一定の性質を有するクロストリジウム(Clostridium)属に属するセルロース分解細菌の菌数を、遺伝子工学的手法を用いて検出、定量することにより、当該環境試料が有するセルロース分解能を評価する方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
微生物の生物分解を利用した各種有機廃棄物の処理・減容化方法は、下記のような有用性を有する。すなわち、生ごみ、紙ごみ、し尿・浄化槽汚泥は、我々が日常生活を営む過程で大量に発生する代表的な有機性廃棄物であるが、水分を多く含むため、従来の焼却処分では大量の化石燃料を消費すると共に、多量の二酸化炭素・NOx・SOx等を生成し、またダイオキシン等の有害物質の発生源ともなっている。また、焼却灰を含めた廃棄物の埋め立て処分地の確保も困難になりつつある。一方、平成12年4月の容器包装紙リサイクル法完全施行により、これまで廃棄されていた包装紙、紙容器などの再商品化が義務づけられたが、同法の施行前から古紙の再商品率は56%程度であり(古紙リサイクル推進検討会、「今後の古紙リサイクル向上に向けて」平成12年)、今後更に再商品化に不向きな古紙の利用の場が求められている。従って、それらの問題を解決するには生物学的な処理が有用である。
【0003】
特に下水余剰汚泥や畜産廃棄物の有用な生物学的処理・減容化方法として、メタン発酵技術が知られている。この技術では、嫌気的な環境条件下で複数の嫌気性細菌群の連係プレーにより、有機物をエネルギーとしてのメタンガスにまで転換することができる。またメタン発酵は、焼却・埋め立て処理されてきた有機性廃棄物の処理及びエネルギー回収技術としても有効である。
【0004】
しかしながら、下水汚泥、生ゴミ、古紙・パルプ系の廃棄物は、生物分解を受け難い固形性有機物であるセルロースを多く含有し、そのような環境下でのメタン発酵においては、セルロースの加水分解・酸生成反応が律速となっているため、30から40日程度の長い処理時間を必要とし、しかもその有機物分解率(セルロースのメタンへの転換率)が易分解性の廃水などと比較してかなり低い(非特許文献1)。すなわち、メタン発酵を中心とした高効率な有機性廃棄物の処理技術を確立するためには、セルロース分解細菌をそのメタン発酵処理系内で安定的に維持及び制御することが重要であると考えられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、嫌気性下でセルロースを分解することが知られる細菌は、草食動物の管腔(ルーメン)に生息する細菌や、堆や土壌、コンポスト、底泥、温泉等から分離された細菌などについての報告がなされているが、この種の細菌がメタン発酵汚泥中に存在するか否か、或いはメタン発酵汚泥中でそのようなセルロースの分解に関与するのか否かについての報告はなされていなかった。
【0006】
そこで、本発明者等は、メタン発酵処理系等の環境浄化に有用な環境試料において重要な役割を果たすセルロース分解細菌を見出すため、セルロースを炭素源に用いた高温メタン発酵汚泥の集積培養実験を行い、その細菌相の解析と基質代謝特性の調査を行った。その結果、Clostridiumに属する新規のセルロース分解細菌Clostridium sp. JC3(以下単に「JC3菌」と記述する)がメタン発酵細菌群集内で優占化することを突き止めた(未公開特許文献1)。
【0007】
さらに本発明者等は、メタン発酵汚泥におけるJC3菌の優占化がそのような環境試料のセルロース分解能に強く関与しているとの観点から、環境試料中に存在する上記JC3菌のような優占セルロース分解細菌の存在量に関する情報に基づき、当該環境試料のセルロース分解能力を評価できると考えた。そのようなセルロース分解能力についての評価は、メタン発酵処理系におけるセルロース分解の高効率化、そのプロセスの安定化或いはプロセス立ち上げの短縮化等に向けられたプロセス管理を可能にするであろう。
【0008】
それら評価法を確立するためには、先ず、環境試料中のJC3菌及びこれと同等の性質を有するセルロース分解細菌を効率よく検出し、菌数を計測するための技術開発が必須である。
【0009】
従来、一般的なセルロース分解細菌の計測法としては、セルロースを単一炭素源とした液体培地で希釈培養を行って計数する最確数法(Most Probably Number; MPN(非特許文献2))が挙げられる。この方法では、計数に1ヶ月程度を要し、しかも用いる培地組成によって少なからず計数細菌が制限されるという問題があった。
【0010】
また、環境試料のセルロース分解能の評価は、セルロースを基質とした単位時間、単位生物量あたりのセルロースの分解量を測定することによって算定できるとも考えられる。しかしながら、そのセルロース分解活性が低くて、セルロース分解量が少ない環境試料のセルロース分解能を正確に評価することは難しい。加えて、セルロース量の分析にはその操作の性質上、比較的多量の試料が必要であり、また分析操作が煩雑で時間を要するといった問題もある(非特許文献3)。
【0011】
メタン発酵汚泥等の嫌気的環境下では、生育可能な細菌種がある程度限定されるが、有機物の分解が複数種の微生物群による連係プレーによってなされており、また処理対象の廃水、廃棄物には多種多様な有機物が含まれるため、少数多様の微生物群が存在しており、このような情況下では、環境試料中のセルロース量等を測定するだけでセルロース分解細菌の菌数を正確に知ることはできない。このような細菌群を正確に把握するには、上記のような従来の菌数計測法では困難である。
【0012】
他方、分子系統学的検出に関する最新の技術動向によれば、細菌遺伝子を標的とした検出定量方法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR法」と記述する)、in situ(生体内原位置)ハイブリダイゼーション法(以下「FISH法」とも記述する)等を利用する技術が開発されてきている(非特許文献4)。
【0013】
しかしながら、試料中の細菌遺伝子を標的とした検出法によれば、直ちに特定のセルロース分解細菌群について属や種レベルの分類を反映させた検出が可能となる訳ではない。すなわち従来においては、メタン発酵汚泥等のような複雑な微生物群構造を対象として、本発明において着目される新規セルロース分解細菌群を特異的に検出するための分子系統学的又は遺伝子工学的側面からの検討はなされていない。
【0014】
上述の課題及びそれらの背景技術に鑑み、本発明は、環境試料に存在する一定の性質を有するセルロース分解細菌の菌数をより正確に把握するための評価法を提供することを目的とし、より具体的には、その菌数に関する情報をメタン発酵処理系等の浄化処理環境の状態の診断、制御あるいは管理に有用な基礎データとして利用する評価方法等を提供する。
【0015】
本発明の更なる目的は、一定の性質を有するセルロース分解細菌の分子系統学的側面に着目し、遺伝子工学的手法を用いることによって迅速に、特異的に且つ/又は一定の性質を有するセルロース分解細菌を定量的に検出できる方法、特に、環境試料中のセルロース分解細菌数を定量的に検出することにより、試料のセルロース分解能力を評価する方法を提供する。
【0016】
【非特許文献1】
De Baere L., Anaerobic digestion of solid waste: state-of-the-art, Water Sci. Technol. 2000;41(3):283-90
【非特許文献2】
団法人日本下水道協会、下水試験方法、1997;上巻701-710
【非特許文献3】
岩堀ら、生下水・汚泥からのセルロース定量に関する実験的検討、下水道協会誌 2000;37(451):121-128
【非特許文献4】
Amann, R., Ludwig, W., Schleifer, K., 1995, Phylogenetic identification and in situ detection of individual microbial cells without cultivation, Microbiological reviews, vol.59, No.1, p143-169
【未公開特許文献1】
特願2002−279233(珠坪一晃,セルロース分解能を有する新菌株、その利用法および増殖促進法,寄託菌株Clostridium sp. Strain JC3)
【0017】
【課題を解決するための手段】
発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、高温嫌気的環境下で優占化するJC3菌の発見に続き、このJC3菌の一定の特徴に着目することでセルロース分解能を効率的に評価できることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
より詳しくは、JC3菌の菌学的性質とその系統学的側面に着目し、この種の細菌が安定的に保持している特定遺伝子を標的とすることによって、環境試料中の優占セルロース分解細菌の菌数を効率的、定量的且つ/又は特異的に測定できる菌数測定法、及びそのためのオリゴヌクレオチドプライマー等が見出された。
【0019】
すなわち、本発明は、環境試料中に存在する下記(1)〜(4)の性質を有するセルロース分解細菌の菌数を測定することによって、該環境試料のセルロース分解能を評価する方法を提供する:
(1)クロストリジウム属に属する;
(2)45〜65℃の温度領域で至適生育温度を有する;
(3)セルロースの分解能を有する;且つ
(4)配列番号1の塩基配列に対して少なくとも90%の相同性を持つ16S rRNA遺伝子を有し、且つ/又は配列番号2の塩基配列に対して少なくとも80%の相同性を持つcbhA遺伝子を有する。
【0020】
本発明の評価法は、配列番号3〜12のいずれか1つの塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を含む核酸であって、配列番号1又は配列番号2の塩基配列の少なくとも一部に対しハイブリダイズすることができる核酸を使用して、前記環境試料から、該配列番号1又は配列番号2の塩基配列の少なくとも一部分の存在を検出することを含むことが好ましい。
【0021】
本発明の好ましい第1の態様の評価法は、環境試料に由来するセルロース分解細菌のcbhA遺伝子を標的として、下記(A)又は(B)に記載の一組の塩基配列からなるプライマー対を使用して定量的PCR法を行い、それにより増幅された核酸の量を測定し、そして、該測定値に基づいて、該環境試料中に存在する前記一定の性質を有するセルロース分解細菌の菌数を求めることを含む、請求項1又は2に記載の方法である:
(A)配列番号3の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列と、配列番号4の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列;或いは
(B)配列番号5の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列と、配列番号6の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列。
【0022】
本発明の好ましい第2の態様の評価法は、環境試料に由来するセルロース分解細菌の16S rDNAを標的として、下記(C)又は(D)に記載の一組の塩基配列からなるプライマー対を使用して定量的PCR法を行い、それにより増幅された核酸の量を測定し、そして、該測定値に基づいて、該環境試料中に存在する前記一定の性質を有するセルロース分解細菌の菌数を求めることを含む、請求項1又は2に記載の方法である:
(C)配列番号7の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列と、配列番号8の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列;或いは
(D)配列番号9の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列と、配列番号8の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列。
【0023】
本発明の好ましい第3の態様の評価法は、環境試料中に含まれるセルロース分解細菌の16S rRNA又はrDNAを標的とし、配列番号10〜12のいずれかの塩基配列又はそれらと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドにより構成される標識プローブを使用してハイブリダイゼーションを行い、それによりハイブリッドを形成した標記プローブから得られるシグナルに基づいて、該環境試料中に存在する前記一定の性質を有するセルロース分解細菌の菌数を求めることを含む方法である。
【0024】
本評価法が適用される好適な環境試料は、セルロース分解細菌が関与する浄化作用が期待される汚泥試料である。
また本発明は、下記(a)〜(e)のいずれかに記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを提供する:
(a)配列番号3の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;
(b)配列番号4の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;
(c)配列番号5の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;
(d)配列番号6の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;
(e)配列番号7の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;
(f)配列番号8の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;
(g)配列番号9の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;
(h)配列番号10の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;
(i)配列番号11の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;又は
(j)配列番号12の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0026】
本発明による環境試料のセルロース分解能についての評価法
本発明者等の検討によれば、環境試料のセルロース分解能は、メタン発酵活性汚泥中で優占化する寄託菌株JC3(受託番号:FERM P-19026)の当該環境試料中の存在量(典型的には、細菌の細胞数である)に相関する。
【0027】
概して、上記寄託菌株JC3は、クロストリジウム属に属し;45〜65℃の温度領域で至適生育温度を有し;且つセルロースの分解能を有する細菌であって、その16S rRNA遺伝子(配列番号1)とcbhA遺伝子(セルロース分解酵素をコードする遺伝子(配列番号2))についての類縁細菌との比較による遺伝子分子系統学的によって特徴づけられる新種のセルロース分解細菌である。
【0028】
その分子系統学的側面の更なる検討によれば、寄託菌株JC3は、最も近縁と見られる公知株Clostridium thermocellum(DSM1237もしくはF7株)との間では16S rDNAについて88%(DSM1237)の相同性、またcbhA遺伝子をコードするDNAについて79%(F7系統)の相同性しか示さないので、系統学的に明らかに他の細菌とは異なったグループを代表する。その反面、当該寄託菌株JC3に代表される一群の菌株は、それら同種類縁の菌株との間で16S rDNAについて概ね90%以内の相同性を持ち、cbhA遺伝子をコードするDNAについても概ね80%以内の相同性を持つグループを構成すると言える。
【0029】
上記の観点に基づき、本明細書で定義されるJC3菌は、寄託菌株JC3及びこれと同等の性質を発揮し得る同種類縁のセルロース分解細菌を含む概念として用いている。すなわち、本評価法の検出対象とされる「JC3菌」とは、系統学的にJC3菌と同じグループに属するあらゆるセルロース分解菌を含み、より具体的には、配列番号1の塩基配列と90%以上の相同性を示す16S rDNAを有する嫌気性酸生成細菌、及び/又は配列番号2の塩基配列と80%以上の相同性を示すcbhA遺伝子を有する嫌気性酸生成細菌を包含する新規な菌株群として定義される。それらJC3菌の詳細については、特願2002-279233号にも記載されている。
【0030】
かくして本発明の評価法は、上記のようなJC3菌の一定の菌学的特徴と分子系統学的特徴とを特定することによって、環境試料からJC3菌をほぼ網羅的に且つほぼ特異的に検出するものである。
【0031】
本発明の評価法の好ましい一態様では、嫌気的条件下のメタン発酵系環境浄化槽から採取された一定の環境試料から、次の(1)〜(4)の性質を有するセルロース分解細菌の菌数を定量的に検出し、その定量値をメタン発酵系環境試料のセルロース分解能に対応する基礎データとする。
(1)クロストリジウム属に属する;
(2)45〜65℃の温度領域で至適生育温度を有する;
(3)セルロースの分解能を有する;且つ
(4)配列番号1の塩基配列に対して少なくとも90%の相同性を持つ16S rDNAを有し、且つ/又は配列番号2の塩基配列に対して少なくとも80%の相同性を持つcbhA遺伝子を有する。
【0032】
本評価法は、上記(4)のような特定遺伝子の分子系統学的特徴を要件とするので、種複雑な微生物群構造を持つ生物処理環境試料の中からでも確実且つ効率的に目的のJC3菌を検出することができる。
【0033】
上述のようにして得られた菌数定量値は、当該環境試料のセルロース分解能と相関する基礎データとして位置づけることができ、この種の基礎データは、セルロース系廃棄物処理プロセスの管理や診断に使用できる。例えば、当該処理プロセスにおけるセルロース分解の高効率化やセルロースからの糖、エタノール、乳酸、酢酸、水素等の有用物質生産等のために、処理環境中の有機物や栄養源(例えばセルロース源)について増減処置や温度制御等の必要性についての目安を与えることができる。
【0034】
また、メタン発酵系処理のように複雑なプロセスについては、その微生物群構造の詳細は解明されておらず、その制御法も確立していないが、少なくとも本評価法によれば、この種の系に関する理想的な状態やその状態変化を示す指標データを提供できる。すなわち、当該菌数の基礎データを、その系の状態について実際に得られる他のパラメータ、例えばガス発生量等と照らして経時的に記録することができる。
【0035】
そのような系状態と菌数データとの相関関係は、多くの場合、経験則のみに依拠するが、一般にその系の状態変化と菌数データとの間には何らかの相関関係があると見られるので、当該菌数データは系状態の評価に有用である。例えば、当該菌数の基礎データを経時的にサンプリングして監視し、その有意な変化から系のガス発生量変化を診断、予測することができ、このようにして系の理想的状態への制御或いはその悪化を避けるための処置が可能となる。
【0036】
このように本評価法は、従来において時間と手間がかかっていた環境試料のセルロース分解能についての評価を迅速且つ簡易に達成できるだけでなく、メタン発酵汚泥等のように状態の予測や制御が容易ではない微生物利用処理プロセスの管理に役立つ。
【0037】
遺伝子工学的手法を用いた評価法
JC3菌の遺伝子系統学的側面によれば、JC3菌に普遍的に存在し且つ保存性の高いコンセンサス配列を見出し得る遺伝子配列としては、16S rRNA遺伝子、cbhA遺伝子(Zverlov V.V., Multidomain structure and cellulosomal localization of the Clostridium thermocellum cellobiohydrolase CbhA, J. Bacteriol. 180(12),3091−3099(1998))、及びgyrB遺伝子等の核酸配列が挙げられる。
【0038】
本評価法の一特徴として位置づけられる上記項目(4)において、寄託菌株JC3菌の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号1)と寄託菌株JC3のcbhA遺伝子の塩基配列(配列番号2)に対しそれぞれ少なくとも90%と80%の相同性を有する核酸群が規定されるので、それら核酸群はJC3菌を検出するための指標ないし標的となる。
【0039】
従って、JC3菌を検出するためには、配列番号1の塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する核酸、及び/又は配列番号2の塩基配列と少なくとも80%の相同性を有する核酸と適宜にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドプローブ又はプライマーを設計し、使用するとよい。具体的には、JC3菌を検出するための標的とされる核酸配列間で実質的に相同な塩基(その特異性に求められる包括的範囲を考慮して選択する)であるが、他の区別したい微生物とは異なっている塩基(その特異性に求められる排他的範囲を考慮して選択する)を基にPCRプライマー等を設計する。それらプライマー又はプローブは合成オリゴヌクレオチドであってもよいし、また長鎖のプローブならば、配列番号1及び/又は配列番号2の塩基配列を有する単離核酸から調製されるcDNAプローブ等であってもよい。
【0040】
特に好ましいオリゴヌクレオチドは、配列番号1及び/又は配列番号2の塩基配列の少なくとも一部を有する核酸の存在を検出するために、配列番号1及び/又は配列番号2の塩基配列の少なくとも一部、好ましくは少なくとも20塩基、より好ましくは少なくとも15塩基程度からなる部分配列と完全に相補的であるか又はそれと実質的に相補的な核酸として設計される。
【0041】
上記のような好ましいオリゴヌクレオチドの例には、(a)配列番号3の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;(b)配列番号4の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;(c)配列番号5の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;(d)配列番号6の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;(e)配列番号7の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;(f)配列番号8の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;(g)配列番号9の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;(h)配列番号10の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;(i)配列番号11の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列;或いは(j)配列番号12の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列、又はそれらと実質的に相同な塩基配列が挙げられる。
【0042】
上記オリゴヌクレオチド群のうち、PCR用プライマー対に好適なオリゴヌクレオチドの組み合わせは(a)と(b)、(c)と(d)、(e)と(f)、及び(g)と(f)であり、またプローブに好適なオリゴヌクレオチドは、(h)、(i)、及び(j)である。
【0043】
上記のようにして、JC3菌の16S rRNA遺伝子及び/又はcbhA遺伝子を特異的に検出するために、本明細書に開示された配列番号1〜12の各塩基配列情報に基づいてJC3菌に特徴的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチド部分を選択するか、又は当該技術分野に関する常法ないし当業者が容易に知り得る経験則に従い、そのような特異的配列をデザインすることができる。
【0044】
上記態様の本評価法によれば、それら有用なオリゴヌクレオチドプローブ又はプライマーを使用してJC3菌由来の標的核酸の少なくとも一部分の存在を特異的に検出できるので、環境試料に存在するJC3菌を迅速かつ正確に検出し、定量することができる。
【0045】
定量的 PCR
遺伝子工学的手法が使用される本評価法において、定量的検出が必要であれば、定量的PCR法を使用するとよい。そのようなPCR法を使用してJC3菌を検出、定量する方法としては、上述のとおりJC3菌の16S rRNA遺伝子の塩基配列(典型的には配列番号1)、及び/又はJC3菌のcbhA遺伝子の核酸配列(典型的には配列番号2)の少なくとも一部を特異的に増幅できる一対のPCRプライマーを設計し、使用する。
【0046】
そのような定量的PCR法として有用な技術は、競合PCR法(中山広樹、細胞工学別冊バイオ実験イラストレイテッド3、秀潤社、1996)、Taq ManPCR法、ライトサイクラーを用いる方法(磯野一宏、臨床病理、45、p218、1997)等を挙げることができる。
【0047】
定量的PCR法の一般的手順は、次の通りである。環境試料に由来する核酸試料を鋳型としてプライマーを接触させ、一連のポリメラーゼ連鎖反応条件下で断続的な増幅反応を繰り返す。このときの増幅反応条件は、当該技術分野において技術常識ないし経験則に従って適宜設定するとよい。その結果、使用した3’側プライマーと5’側プライマーとの間の、特定の断片長の核酸領域が特異的に増幅される。増幅された核酸は、例えば、その断片長を電気泳動法によって確認したり、その断片に特異的なプローブ等を用いるなどして、それが目的核酸であることを確認できる。増幅される核酸の量は、被検試料中の菌数とほぼ相関しているので、その増幅核酸の定量値に基づいて菌数を求めることができる。競合PCR法によれば、例えば、目的核酸と共にこれとは断片長が異なる既知濃度の核酸を増幅させる競合的増幅反応を行い、既知量の核酸の増幅度を指標にして目的核酸の量を知ることができる。
【0048】
上記態様の本評価法に使用するのに好適なプライマー対は上述した通りであるが、それらのうち、cbhA遺伝子を標的としたプライマー対は(a)と(b)又は(c)と(d)の組み合わせ、また16S rRNA遺伝子を標的としたプライマー対は(e)と(f)又は(g)と(f)の組み合わせである。
【0049】
ISH
プローブを使用してJC3菌の細胞を検出・定量する方法としては、FISH法が挙げられる。
【0050】
典型的なFISH法では、JC3菌に特異的な蛍光FISHプローブを使用し、これを環境試料と混合し、細胞内の標的核酸とFISHプローブの結合が行われる条件下でハイブリダイゼーション(結合)を行い、蛍光顕微鏡観察下でハイブリダイズした遺伝子プローブからの蛍光シグナルが得られるかどうかによって、検出対象菌の細胞を同定し、菌数計測を行うことができる。
【0051】
したがって、PCR法が少量の試料からでも目的核酸を検出、定量可能な点で好都合であるのに対し、FISH法は、検出菌を蛍光標識等によって直接的に確認でき、検出対象菌が全細菌の数%以上の割合で存在する場合には定量性が高い点で好都合である。またFISH法は、PCR法において試料に含まれる阻害物質の有無によりその計測効率が大きく異なったり或いは特に検出対象菌が試料間で大きく異なったりすることに起因する解像度の低さからその定量性が悪化するといった不都合もない(バイオ実験イラストレイテッド3,本当に増えるPCR、中山広樹、秀潤社、1996)。
【0052】
FISHプローブの設計においても、特異性が高く、好適に使用できる遺伝子としては、16S rRNA遺伝子が挙げられる。上述した通り、例えばJC3菌の16S rRNA遺伝子の塩基情報を基にして、当該技術分野の常法ないし経験則に従って、JC3菌に好ましく特異性なオリゴヌクレオチドを選択するか又は設計するとよい。
【0053】
16S rRNA遺伝子を基にして設計された好適なFISHプローブの例は、上述の通り、配列番号10〜12のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブが挙げられる。
【0054】
FISH法による具体的な検出・定量の一態様は、次の通りである。JC3菌に由来するJC3菌に特異的なオリゴヌクレオチドを調製し、このDNAを蛍光色素あるいは放射性同位元素、又はジゴキシゲニン(DIG)等の化学発光物質で標識する。その標識プローブを、JC3菌を検出及び定量したい被検試料と混合し、適切な温度、塩濃度条件下でのハイブリダイゼーション処置を行い、標識プローブと標的核酸とのハイブリッドを形成させる。次いで、ハイブリッドを形成しなかった標識プローブ等を洗い出し、ハイブリッドを形成している標識プローブのみからのシグナルを検出する。ハイブリッド形成プローブの具体的な検出・定量方法としては、標識シグナルを蛍光顕微鏡で検出する方法や、フローサイトメトリーを用いる方法等が挙げられる。このとき、例えば、標識の化学発光等を可視的に捕らえて試料中の標的核酸の分布を見て菌数を計測できるし、定量的に評価可能なシグナルであれば、そのシグナルレベルを比較して標的核酸の量、つまり菌数を定量することができる。
【0055】
このように上記FISHプローブは、一般的には微生物細胞を含むin situ試料と混合されるが(in situハイブリダイゼーション)、これに限らず、微生物試料から抽出した精製DNA試料と混合してもよい(Dot blotハイブリダイゼーション)。
【0056】
本明細書内で言及される「菌数の計測」又は「菌数の測定」とは、試料内のコロニー形成等の生菌数計測によるような直接的な計測に限らず、上述したように試料中の菌数によって変動する核酸量を定量することによる間接的な菌数の推定をも含む概念である。
【0057】
本明細書内で言及される「環境試料」とは、セルロース分解細菌が生息することによる浄化ないし資化作用が期待される有機物含有試料を意味する。例えば、セルロース分解細菌が関与する浄化作用が期待される高温嫌気条件下のセルロース含有汚泥試料等である。
【0058】
本明細書においてプローブ又はプライマーに関して使用される「塩基配列が実質的に相同である」或いは「塩基配列が実質的に相補的である」という表現は、当該核酸がプローブ又はPCRプライマー等として機能し得る程度の断片長と相同性を有していることを意味する。
【0059】
プローブ又はプライマーは、使用目的や条件によっては必ずしも100%の相同性を有している部位から設計する必要はない。例えば、目的とする領域のプライマーの5’末端付近で数塩基が異なっていても、プローブであれば塩基長、温度、塩濃度等を検討することによって適度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせることができ、またPCRでは、例えばアニーリング温度等を検討することによって標的領域のDNAを増幅させることが可能である。完全に相同な部位を使用し且つ特異性が高くなる条件を選択すれば、特異性の高い検出・定量が可能となり、特異性の低い条件でよければ数塩基が異なっている配列も許容される。
【0060】
なお、プローブ又はプライマーとして実質的に相同或いは相補的であるか否かは、例えば、インターネット上に公開されている上記のプローブチェックプログラム(The RDP-II:Ribosomal Database Project, Maidak BL, Cole JR, Lilburn TG, Parker CT Jr, Saxman PR, Farris RJ, Garrity GM, Olsen GJ, Schmidt TM, Tiedje JM., Nucleic Acids Res 2001 Jan 1;29(1):173-4)によって行うことができる。
【0061】
【実施例】
〔実施例1〕
試料中のJC3菌の存在を特異的に検出するために、配列番号2に記載の塩基配列により表されるJC3菌cbhA遺伝子に特異的なプライマーとして、配列番号3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(cbhA14F)と、配列番号4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(cbhA14R)をPCRプライマー対として設計した。配列番号3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号4の塩基配列からなるPCRプライマー対を使用すると、JC3菌cbhA遺伝子をコードするDNAが存在する試料からは、配列番号2の塩基配列中の塩基番号719〜870に相当する151塩基の核酸断片が増幅される。
【0062】
また、同様に配列番号5の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(cbhA6F)と、配列番号6の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(cbhA11R)をPCRプライマー対として設計した。このPCRプライマー対を使用すると、JC3菌cbhA遺伝子をコードするDNAが存在する試料からは、配列番号2の塩基配列中の塩基番号469〜744に相当する275塩基の核酸断片が増幅される。
【0063】
上記配列番号3と配列番号4の一組の塩基配列からなるPCRプライマー対を用いて、5種の異なる運転条件のメタン発酵槽より採取した汚泥からDNAを抽出し、抽出したDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRの条件は、94℃ 10分を1サイクル;94℃ 1分、55℃ 1分及び72℃ 1分を35サイクル;そして72℃ 10分を1サイクルとした。
【0064】
表1に、本実験に供された5種の汚泥について、それらの採取源である発酵槽の各運転条件を示す。
【0065】
【表1】
Figure 0004344151
【0066】
各試料のPCRによって得られた増幅産物を電気泳動にかけ、増幅産物の有無を確認した。なお、JC3菌が存在することが確認できる定量限界は、105 cells / gVSSである。
【0067】
図1はPCR増幅産物についての電気泳動結果を示す。ここでは、寄託菌株JC3(Clostridium sp.JC3)の抽出DNAを鋳型としてPCR増幅を行った試料をレーン1に、Clostridium thermocellum標準株(寄託菌株JC3に最も近縁であるが目的細菌ではない)を含む対照試料をレーン2に置き、メタン発酵槽A〜Eの被検試料をそれぞれレーン3〜5で泳動した。
【0068】
図1の結果から、3種の高温処理槽A〜Cから採取した試料(レーン3〜5)については、期待されるサイズの151塩基のDNAが多量に増幅され、それらの試料中にJC3菌が存在していることが示された。他方、JC3菌が存在しない対照試料(レーン2)、及び中温ないし無加温の発酵槽D〜E由来の試料(レーン6〜7)に含まれるJC3菌数は定量限界(105 cells / gVSS)以下であり、JC3菌が存在しないあるいは、その存在量は極めて少ないと示された。
【0069】
上記配列番号5と配列番号6の一組の塩基配列からなるPCRプライマー対を用いた場合にも同様の結果が得られた。
【0070】
〔実施例2〕
試料中のJC3菌数の定量のために、実施例1に記載される配列番号3と配列番号4の一組の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド対を、競合PCR用プライマーとして使用した。
【0071】
上記PCRプライマー対を使用して、セルロース負荷の異なる高温(55℃)メタン発酵汚泥から抽出したDNAを鋳型とし、それぞれ競合PCRを行い、各試料中のJC3菌数を定量した。
【0072】
なお、競合PCR用のコンペティターの作成には、宝酒造株式会社製のDNA Competitor作成キット(Code No.RR017)を用い、上記PCRプライマーを用いた場合に「191塩基」のコンペティターDNAが増幅されるように設計した。コンペティター溶液は、104 copies/reaction 、105 copies/ reaction、 106 copies/ reaction、 107 copies/ reaction、108 copies/ reaction、109 copies/ reactionでそれぞれ添加した。
【0073】
上記競合PCRの条件は、94℃ 10分を1サイクル;94℃ 1分、55℃ 1分、及び72℃ 1分を35サイクル;そして72℃ 10分を1サイクルとした。
図2に各試料についてのJC3菌の定量結果を示す。同図によると、セルロース負荷(セルロース分解活性)0.007 gCOD/gVSS/dから0.6 gCOD/gVSS/dまで履歴の異なる複数のメタン発酵汚泥を試料とし、この場合にセルロース負荷を横軸にしてJC3菌濃度を縦軸にプロットすると、各試料の定量値はJC3菌数とセルロース負荷との間に信頼性の高い正の相関を持つことが示された。
【0074】
本実験の結果から、配列番号3と配列番号4の一組の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー対を用いた競合PCRによって汚泥等の環境試料中のJC3菌数を定量することができ、それによりJC3菌数を指標としてセルロース分解能を評価できることが示された。
【0075】
〔実施例3〕
実施例1の発酵槽E汚泥、発酵槽D汚泥で示したJC3菌が存在しないか若しくは定量限界(105 cells/gVSS)以下の汚泥では、55℃嫌気条件下でセルロースの分解能を示すようになるには、10日から25日程度の時間を要することが明らかになっている(未発表データ)。そこで、このJC3菌含有量が著しく低く、セルロース分解能を示さなかった発酵槽D汚泥にJC3菌を高濃度に含む汚泥を1/10000量、1/1000量、1/100量で添加し、無添加の系を対照とし、セルロース投与から2日後のセルロース分解率を測定した。
【0076】
本試験に用いた培地などの条件を表2に示す。
【0077】
【表2】
Figure 0004344151
【0078】
図3に、試験開始から2日目のセルロース分解率と試験開始時のJC3菌濃度の測定結果を示す(n=2)。セルロース分解率は、投与したセルロース量に対する、生成したメタンガス量と溶解性有機物(溶解性CODcr; 重クロム酸カリウム法によって分析した化学的酸素要求量)の和である。また、各バイアル内のJC3菌濃度は、実施例2に記載の方法で測定された。
【0079】
図3で示されるように、試験開始時のJC3菌濃度は、1/10000量、1/1000量、1/100量の添加系、及び無添加(対照)の系で、それぞれ5×105 cells/gVSS、5×106 cells/gVSS、5×107 cells/gVSS、及び定量限界 (105 cells/gVSS) 以下であった。そして、試験2日目のセルロース分解率は、JC3菌無添加系では10%程度、JC3菌濃度5×105 cells/gVSS系では50%、5×106 cells/gVSSでは75%、5×107 cells/gVSSでは90%であった。この結果から、JC3菌濃度の増加とともにセルロースの分解率が増加することが確認された。
【0080】
〔実施例4〕
JC3菌を特異的に検出するために、配列番号1に記載の塩基配列により表されるJC3菌16S rDNAに特異的なPCRプライマー対として、配列番号7の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(JC3-3)と、配列番号8の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(JC3-5R)を設計した。このPCRプライマー対を使用すると、JC3菌の16S rDNAを含む試料からは、配列番号1の塩基配列中の塩基番号283〜1102に相当する「819塩基」の核酸断片が増幅される。
【0081】
また、配列番号1に記載の塩基配列により表されるJC3菌16S rDNAに特異的なPCRプライマー対として、配列番号9の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(JC3-1.9)と、配列番号8の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを設計した。このPCRプライマー対を使用すると、JC3菌の16S rDNAを含む試料からは、配列番号1の塩基配列中の塩基番号80〜1102に相当する「1022塩基」の核酸断片が増幅される。
【0082】
設計されたプライマーの特異性の評価は、上記プローブチェックプログラム(The RDP-II)によって行うことができる。その結果、上記オリゴヌクレオチドプライマーは、現在知られている他の細菌の遺伝子配列とは相補的に一致しないことが確認され、JC3菌の16S rDNAに特異的であり得ると評価された。
【0083】
上記PCRプライマー対を用い、寄託菌株JC3の培溶液及びClostridium thermocellum 標準株(寄託菌株JC3に最も近縁であるが目的細菌ではない)の培溶液から抽出した各核酸試料を鋳型としてPCRを行った。PCRの条件は、94℃ 10分を1サイクル;94℃ 1分、56℃ 1分、及び72℃ 1分を35サイクル;そして72℃ 10分を1サイクルとした。
【0084】
図4に上記PCRの結果を示す。ここでは、寄託菌株JC3(Clostridium sp.JC3)菌のDNAを鋳型としたPCR増幅試料をレーン1、3、5に、Clostridium thermocellum標準株(寄託菌株JC3に最も近縁であるが目的細菌ではない)を含む対照試料をレーン2、4、6に泳動した。レーン1およびレーン2には配列番号7と配列番号8の一組の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド対をPCRプライマーに用いた増幅試料、レーン3およびレーン4には配列番号9と配列番号10の一組の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド対をPCRプライマーに用いた増幅試料、そして、レーン5およびレーン6には真正細菌の16S rDNAにおいて相同性の高い領域に設計された既知のプライマーである341Fプライマー(配列番号13)及び534Rプライマー(配列番号14)をPCRプライマーに用いた各菌体試料のポジティブコントロールをそれぞれ流した。
【0085】
この結果から、配列番号7と配列番号8の一組の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド対をPCRプライマーに用いた場合、目的細菌ではないClostridium thermocellum標準株では増幅断片が生じず、寄託菌株JC3からの抽出DNAに対してのみ「819塩基」のDNA断片の増幅が生じた。
【0086】
また、配列番号9及び配列番号8の一組の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド対をPCRプライマーに用いた場合、目的細菌ではないClostridium thermocellum標準株では増幅断片が生じず、寄託菌株JC3からの抽出DNAに対してのみ「1022塩基」のDNA断片の増幅が生じた。
【0087】
すなわち、配列番号5と配列番号6の一組の塩基配列、配列番号7と配列番号8の一組の塩基配列、又は配列番号9と配列番号8の一組の塩基配列からなる各オリゴヌクレオチドプライマー対を用いたPCRによる増幅によって、JC3菌を特異的に検出することができた。
【0088】
〔実施例5〕
FISH法によるJC3菌の特異的検出のため、配列番号1の塩基配列により表されるJC3菌16S rDNA(rRNA)遺伝子に特異的なFISHプローブとして、配列番号10、11、12の各々の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ(それぞれJC3-558, JC3-995, TCB-210)を設計した。これらFISHプローブは、配列番号1の塩基配列中の塩基番号670〜687、1078〜1097、310〜331とそれぞれ相補的なポリヌクレオチド断片である。
【0089】
設計したプローブの特異性の評価は、上記プローブチェックプログラムによって行うことができる。その結果、上記のFISHプローブは、現在知られている他の細菌の遺伝子配列とは相補的に一致しないことが確認された。
【0090】
配列番号10のポリヌクレオチド断片の5'端に蛍光色素(Cy3)を付加したFISHプローブを、予めパラホルムアルデヒドで細胞固定を行い、エタノールシリーズで脱水を施したセルロース集積高温メタン発酵汚泥と下記ハイブリダイゼーション条件下で接触させハイブリダイゼーションを行った。そのハイブリダイゼーション条件は、46°Cで3時間; Washingを48°Cで20minとし;ハイブリダイゼーションバッファーを0.9M NaCl、20mM Tris-HCl (pH7.2)及び0.01%SDSとし;ホルムアミド濃度を5 %(v/v)とした。
【0091】
その後、上記FISHプローブとハイブリダイズを行った試料の全菌数を計測するため、DAPI(4',6-Diamidino-2-phenylindole, dihydrochloride)による核酸染色を施し、蛍光顕微鏡観察により、JC3菌細胞および全細菌細胞をそれぞれ特異的な励起波長(DAPI:UV励起、Cy3:G励起)で検出した。その結果を図5に示す。本実験の結果から、JC3菌の細胞のみにFISHプローブが結合し、蛍光顕微鏡観察下で特異的に検出され、JC3菌の細胞数の特異的計測が可能であると分かった。また配列番号11又は配列番号12の各塩基配列からなるFISHプローブを用いた場合も、同様の結果が得られた。
【0092】
〔実施例6〕
本発明により開発されたFISHプローブの、メタン生成微生物群の菌叢構造解析への適用性また試料のセルロース分解能評価への可能性を確認するために、2種の異なるセルロース負荷条件下で運転されているメタン発酵槽から採取した汚泥(メタン発酵汚泥1、メタン発酵汚泥2)について、配列番号10のFISHプローブを用いたin situハイブリダイゼーションにより、JC3菌の細菌数計測を行った。ハイブリダイゼーションは、実施例5と同様の条件で行った。なお、JC3菌の計測に用いたメタン発酵汚泥は、それぞれ0.6 gCOD・gVSS-1・d-1、1.4 gCOD・gVSS-1・d-1のセルロース分解活性を有しており、反応槽内の菌体濃度は、約3 gVSS・l-1でほぼ一定であった。
【0093】
図6には、各メタン発酵汚泥中のJC3菌の計測結果を示した。その結果、セルロース分解活性の低いメタン発酵汚泥1におけるJC3菌の割合は、全菌数の9.4 %であったのに対し、セルロース分解活性の高いメタン発酵汚泥2におけるJC3菌の割合は、全菌数の21.6 %と2倍以上に達しており、汚泥のセルロース分解能を反映する結果となった。
【0094】
以上の結果から、本発明により、セルロース分解菌JC3菌の細胞の特異的な検出、細胞数計測が可能になり、メタン生成微生物群の菌叢構造解析、汚泥試料のセルロース分解能の評価への有効性が示された。
【0095】
【配列表】
Figure 0004344151
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Figure 0004344151
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【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1においてcbhA遺伝子を標的とするPCR増幅産物についての電気泳動結果を示す図である。
【図2】実施例2においてcbhA遺伝子を標的とするPCR増幅産物について定量されたJC3菌数と、セルロース負荷との相関を示す図である。
【図3】実施例3においてJC3菌添加3系列とコントロール系列のセルロース分解試験におけるセルロース分解率とJC3菌濃度の測定結果を示す図である。
【図4】実施例4において16S rRNA遺伝子を標的とするPCR増幅産物についての電気泳動結果を示す図である。
【図5】実施例5においてFISHプローブをハイブリダイズさせた培養試料について得られた蛍光顕微鏡写真を示す図である。
【図6】プローブJC3-588を用いたin situハイブリダイゼーションにより、メタン発酵汚泥の全菌数に対するJC3菌の存在率の定量を行った結果を示す図である。

Claims (7)

  1. 環境試料中に存在する下記(1)〜(4)の性質:
    (1)クロストリジウム属に属する;
    (2)45〜65℃の温度領域で至適生育温度を有する;
    (3)セルロースの分解能を有する;且つ
    (4)配列番号1の塩基配列に対して少なくとも90%の相同性を持つ16S rDNAを有し、且つ/又は、配列番号2の塩基配列に対して少なくとも80%の相同性を持つcbhA(cellobiohydrolaseA)遺伝子を有する;
    を有するセルロース分解細菌の菌数を測定することによって、該環境試料のセルロース分解能を評価する方法であって、
    セルロース分解細菌のcbhA遺伝子を標的として、下記(A)又は(B):
    (A)配列番号3の塩基配列と配列番号4の塩基配列;
    (B)配列番号5の塩基配列と配列番号6の塩基配列;
    に記載の一組の塩基配列からなるプライマー対を使用して定量的PCR法を行い、それにより増幅された核酸の量を測定し、そして、該測定値に基づいて、該環境試料中に存在する前記一定の性質を有するセルロース分解細菌の菌数を求めることを含む、上記方法。
  2. 環境試料に由来するセルロース分解細菌の16S rDNAを標的として、下記(C)又は(D):
    (C)配列番号7の塩基配列と配列番号8の塩基配列;
    (D)配列番号9の塩基配列と配列番号8の塩基配列;
    に記載の一組の塩基配列からなるプライマー対を使用して定量的PCR法を行い、それにより増幅された核酸の量を測定し、そして、該測定値に基づいて、該環境試料中に存在する前記一定の性質を有するセルロース分解細菌の菌数を求めることを含む、請求項1に記載の方法。
  3. 環境試料中に含まれるセルロース分解細菌の核酸を標的とし、配列番号10〜12のいずれかの塩基配列を有するオリゴヌクレオチドにより構成される標識プローブを使用してハイブリダイゼーションを行い、それによりハイブリッドを形成した標記プローブから得られるシグナルに基づいて、該環境試料中に存在する前記一定の性質を有するセルロース分解細菌の菌数を求めることをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記環境試料が、セルロース分解細菌が関与する浄化作用が期待される汚泥試料である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 下記のいずれかに記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド:
    (a)配列番号3の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列;
    (b)配列番号4の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列;
    (d)配列番号6の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列;
    (e)配列番号7の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列;
    (f)配列番号8の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列;
    (g)配列番号9の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列;
    (h)配列番号10の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列;
    (i)配列番号11の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列;又は
    (j)配列番号12の塩基配列若しくはそれと相補的な塩基配列。
  6. 下記のいずれかに記載の塩基配列からなるプライマー対:
    配列番号3の塩基配列と配列番号4の塩基配列;
    配列番号5の塩基配列と配列番号6の塩基配列;
    配列番号7の塩基配列と配列番号8の塩基配列;又は
    配列番号9の塩基配列と配列番号8の塩基配列。
  7. 環境試料中に存在する下記(1)〜(4)の性質:
    (1)クロストリジウム属に属する;
    (2)45〜65℃の温度領域で至適生育温度を有する;
    (3)セルロースの分解能を有する;且つ
    (4)配列番号1の塩基配列に対して少なくとも90%の相同性を持つ16S rDNAを有し、且つ/又は、配列番号2の塩基配列に対して少なくとも80%の相同性を持つcbhA(cellobiohydrolaseA)遺伝子を有する;
    を有するセルロース分解細菌の菌数を測定することによって、該環境試料のセルロース分解能を評価する方法であって、
    環境試料中に含まれるセルロース分解細菌の核酸を標的とし、配列番号10〜12のいずれかの塩基配列を有するオリゴヌクレオチドにより構成される標識プローブを使用してハイブリダイゼーションを行い、それによりハイブリッドを形成した標記プローブから得られるシグナルに基づいて、該環境試料中に存在する前記一定の性質を有するセルロース分解細菌の菌数を求めることを含む、上記方法。
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