JP4337364B2 - スラスト滑り軸受 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、スラスト滑り軸受、特に四輪自動車におけるストラット型サスペンション(マクファーソン式)の滑り軸受として組込まれて好適なスラスト滑り軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ストラット型サスペンションは、主として四輪自動車の前輪に用いられ、主軸と一体となった外筒の中に油圧式ショックアブソーバを内蔵したストラットアッセンブリにコイルばねを組合せたものである。斯かるサスペンションは、ストラットの軸線に対してコイルばねの軸線を積極的にオフセットさせ、該ストラットに内蔵されたショックアブソーバのピストンロッドの摺動を円滑に行わせる構造のものと、ストラットの軸線に対してコイルばねの軸線を一致させて配置させる構造のものとがある。いずれの構造においても、ステアリング操作によりストラットアッセンブリがコイルばねと共に回転する際、当該回転を円滑に行わせるべく車体の取付部材とコイルばねの上部ばね座との間にスラスト軸受が配されている。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−303873号公報
【特許文献2】
特開2002−257146号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このスラスト軸受には、ボール若しくはニードルを使用したころがり軸受又は合成樹脂製の滑り軸受が使用されている。しかしながら、ころがり軸受は、微少揺動及び振動荷重等によりボール若しくはニードルに疲労破壊を生ずる虞があり、円滑なステアリング操作を維持し難いという問題がある。滑り軸受は、ころがり軸受に比べて摩擦トルクが高いので、スラスト荷重が大きくなると摩擦トルクが大きくなり、ステアリング操作を重くする上に、合成樹脂の組合せによっては、スティックスリップ現象を生じ、往々にして当該スティックスリップ現象に起因する摩擦音を発生するという問題がある。
【0005】
また滑り軸受にはグリース等の潤滑剤が適用されるのであるが、斯かる潤滑剤が摺動面に所望に介在する限りにおいては、上記のような摩擦音は殆ど生じないのであるが、長期の使用による潤滑剤の消失等で摩擦音が生じ始める場合もあり得る。
【0006】
なお、上記の問題は、ストラット型サスペンションに組込まれるスラスト滑り軸受に限って生じるものではなく、一般のスラスト滑り軸受においても同様に生じ得るのである。
【0007】
本発明は前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、グリース等の潤滑剤を長期に亘って摺動面に介在させることができる上に、斯かる潤滑剤をスラスト荷重受けにも利用でき、而して、スラスト荷重が大きくなっても摩擦トルクはほとんど変わらず、低い摩擦トルクをもって摺動面を構成できて、長期の使用でも斯かる低い摩擦係数を維持できる上に、摺動面での摩擦音の発生がなく、しかも、ストラット型サスペンションにスラスト滑り軸受として組込んでもころがり軸受と同等の滑らかなステアリング操作を確保し得る上に乗り心地を向上できるスラスト滑り軸受を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の第一の態様のスラスト滑り軸受は、環状面を有した第一の軸受体と、この第一の軸受体に当該第一の軸受体の軸心の回りで回転自在となるように重ね合わされると共に第一の軸受体の環状面に対面した環状面を有する第二の軸受体と、両環状面間に介在されている環状のスラスト滑り軸受片及び容積可変室形成手段とを具備しており、ここで、スラスト滑り軸受片は、環状板部と、この環状板部の一方の面に一体的に形成されていると共に第一の軸受体の環状面に当該環状面に対して摺動自在であって当該環状面と協働して環状空間を形成するように接触する少なくとも二つの環状突起部と、環状板部に設けられた少なくとも一つの貫通孔とを具備しており、容積可変室形成手段は、環状板部の他方の面と協働して容積可変室を形成するようにスラスト荷重下で弾性変形可能であって環状板部の他方の面と第二の軸受体の環状面との間に介在されており、貫通孔は、一端では環状空間に開口する一方、他端では容積可変室に開口して環状空間と容積可変室とを互いに連通させており、環状空間、容積可変室及び貫通孔には潤滑剤が充填されている。
【0009】
第一の態様のスラスト滑り軸受によれば、二つの環状突起部により形成された環状空間に潤滑剤が充填されているために、潤滑剤を二つの環状突起部と第一の軸受体の環状面との間の摺動面に必要微小量だけ供給でき、しかも、環状空間の潤滑剤でもってもスラスト荷重を受けることができるために、第一の軸受体の環状面に接する潤滑剤の面もまた第一の軸受体に対する第二の軸受体の回転での摺動面となる上に、スラスト荷重下での容積可変室形成手段の弾性変形による容積可変室の縮小に伴う容積可変室の潤滑剤の内圧上昇が貫通孔を介して環状空間の潤滑剤に伝達されるために、環状空間の潤滑剤によるスラスト荷重受けを確実に行わせることができ、而して、更に低い摩擦トルクをもって摺動面を構成できて、摺動面での摩擦音の発生がなく、ころがり軸受と同等の滑らかなステアリング操作を確保できる。
【0010】
容積可変室形成手段は、本発明の第二の態様のスラスト滑り軸受のように、環状板部の他方の面に一体的であって弾性変形可能に形成されていると共に第二の軸受体の環状面と協働して容積可変室を形成するように第二の軸受体の環状面に接触する環状突起を具備していても、本発明の第三の態様のスラスト滑り軸受のように、環状板部の他方の面と第二の軸受体の環状面との間に介在されている容積可変室形成部材を具備していてもよく、斯かる容積可変室形成部材は、環状基板と、この環状基板の一方の面に一体的であって弾性変形可能に形成されていると共に環状板部の他方の面と協働して容積可変室を形成するように環状板部の他方の面に接触する環状突起とを具備している。
【0011】
スラスト滑り軸受片は、本発明の第四の態様のスラスト滑り軸受のように、環状板部の他方の面に一体的に形成されている二つの他の環状突起部を更に具備しており、この場合、容積可変室形成部材は、径方向において二つの他の環状突起部間に配されているとよい。斯かる態様のスラスト滑り軸受によれば、スラスト滑り軸受片と別体に設けられた容積可変室形成部材を二つの他の環状突起部でもってスラスト滑り軸受片に対して常時正常な位置に位置決めでき、スラスト滑り軸受片と容積可変室形成部材との互いの正常な重ね合わせを維持できる。
【0012】
容積可変室形成部材は、好ましくは本発明の第五の態様のスラスト滑り軸受のように、天然ゴム、合成ゴム又は熱可塑性エラストマーからなっている。
【0013】
本発明では、スラスト滑り軸受片は、その第六の態様のスラスト滑り軸受のように、径方向においてその二つの環状突起部間であって環状板部の一方の面に一体的に形成されていると共に第一の軸受体の環状面に当該環状面に対して摺動自在であって環状空間を分割して当該環状面及び二つの環状突起部と協働して複数の互いに分離された分割環状空間を形成するように接触する少なくとも一つの中間環状突起部を具備していてもよく、斯かる中間環状突起部でもスラスト荷重を分散して受けることになる結果、二つの環状突起部の撓み変形の生起を更に確実に回避できる上に、複数の分割環状空間のうちの一つの分割環状空間に充填された潤滑剤が多量に漏出したとしても、この漏出が他の分割環状空間に影響することを阻止して、残る他の分割環状空間で上記の作用を行わせることができる結果、フェールセーフなものとなる。
【0014】
潤滑剤は、好ましくは本発明の第七の態様のスラスト滑り軸受のように、スラスト荷重下で環状空間、容積可変室及び貫通孔を隙間なしに満たしており、場合により、本発明の第八の態様のスラスト滑り軸受のように、スラスト無荷重下で環状空間、容積可変室及び貫通孔を隙間なしに満たしていてもよい。
【0015】
潤滑剤は、本発明の第九の態様のスラスト滑り軸受のように、グリース及び潤滑油のうちの少なくとも一つを含んでおり、好ましくは本発明の第十の態様のスラスト滑り軸受のように、シリコーン系グリースからなる。
【0016】
本発明のスラスト滑り軸受では、両軸受体及びスラスト滑り軸受片は合成樹脂製であることが好ましく、両軸受体間に収容されるスラスト滑り軸受片を構成する合成樹脂は、特に自己潤滑性を有することが好ましく、両軸受体を構成する合成樹脂は、耐摩耗性、耐衝撃性、耐クリープ性等の摺動特性及び剛性等の機械的特性に優れていることが好ましく、具体的には、本発明の第十一の態様の滑り軸受のように、両軸受体は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂からなっているとよく、また、スラスト滑り軸受片は、本発明の第十二の態様の滑り軸受のように、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂からなっているとよい。少なくとも第一の軸受体には、スラスト滑り軸受片を構成する合成樹脂と同様の合成樹脂が使用され得るが、特にスラスト滑り軸受片に使用される合成樹脂と摩擦特性の良好な組合わせの合成樹脂が使用され、その望ましい組合わせについて例示すると、スラスト滑り軸受片と第一の軸受体とに対して、ポリアセタール樹脂とポリアミド樹脂との組合わせ、ポリオレフィン樹脂、特にポリエチレン樹脂とポリアセタール樹脂との組合わせ、ポリアセタール樹脂と熱可塑性ポリエステル樹脂、特にポリブチレンテレフタレート樹脂との組合わせ及びポリアセタール樹脂とポリアセタール樹脂との組合わせがある。
【0017】
本発明のスラスト滑り軸受では、好ましくはその第十三の態様の滑り軸受のように、第一の軸受体は、その径方向の外周縁部で第二の軸受体に当該第二の軸受体の径方向の外周縁部において弾性嵌着されるようになっており、また、本発明の第十四の態様の滑り軸受のように、両軸受体のその径方向の外周縁部及び内周縁部のうちの少なくとも一方における両軸受体間にはラビリンスが形成されるようになっており、スラスト滑り軸受片を装着した第一及び第二の軸受体間の空間への塵埃、泥水等の侵入を斯かるラビリンスにより好ましく阻止できるようになる。
【0018】
本発明の第十五の態様の滑り軸受では、第二の軸受体は、その環状面に一体的に形成された大径及び小径の環状突起を有しており、スラスト滑り軸受片及び容積可変室形成手段は、大径の環状突起よりも径方向の内側に配されていると共に小径の環状突起よりも径方向の外側に配されており、斯かる一対の環状突起により少なくともスラスト滑り軸受片を径方向に関して位置決めできる上に、スラスト滑り軸受片を本発明の第十六の態様の滑り軸受のように径方向の外周面及び内周面で第二の軸受体の大径及び小径の環状突起の夫々に摺動自在に接触させることにより、スラスト荷重下でのスラスト滑り軸受片の撓みを防止できる。
【0019】
次に本発明及びその実施の形態を、図に示す好ましい例を参照して説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0020】
【発明の実施の形態】
図1から図4において、本例の四輪自動車におけるストラット型サスペンションに用いるためのスラスト滑り軸受1は、環状面2を有すると共に合成樹脂製、例えばポリアセタール樹脂製の第一の軸受体としての上ケース3と、上ケース3に当該上ケース3の軸心Oの回りでR方向に回転自在となるように重ね合わされると共に上ケース3の環状面2に対面した環状面4を有する合成樹脂製、例えばポリアセタール樹脂製の第二の軸受体としての環状の下ケース5と、両環状面2及び4間に介在されている環状のスラスト滑り軸受片6及び容積可変室形成手段7とを具備している。
【0021】
内周面11によって規定された貫通孔12を有する環状の上ケース3は、環状面2を有した円環状の上ケース本体部13と、上ケース本体部13の環状面2に一体に形成されていると共に下ケース5に向かって垂下した最内周側円筒状垂下部14と、最内周側円筒状垂下部14の径方向の外側に配されていると共に環状面2に一体に形成されており、しかも、下ケース5に向かって垂下した内周側円筒状垂下部15と、上ケース本体部13の径方向の外周縁に一体に形成された円筒状垂下係合部16と、円筒状垂下係合部16の径方向の内側であって内周側円筒状垂下部15の径方向の外側に配されていると共に環状面2に一体に形成されており、しかも、下ケース5に向かって垂下した外周側円筒状垂下部17と、円筒状垂下係合部16の径方向の内周面に形成された係合フック部18と、上ケース本体部13の径方向の内周側において当該上ケース本体部13の外面19に一体に形成されている円筒部20とを備えて、一体形成されている。
【0022】
貫通孔12と同心、同径であって内周面21によって規定された貫通孔22を有した環状の下ケース5は、環状面4を有した円環状の下ケース本体部23と、下ケース本体部23の径方向の内周縁に一体に形成されていると共に最内周側円筒状垂下部14の径方向の内側に配されるように上ケース3に向かって突出した最内周側円筒状突出部24と、最内周側円筒状突出部24の径方向の外側に配されていると共に環状面4に一体に形成されており、しかも、最内周側円筒状垂下部14及び内周側円筒状垂下部15間に配されるように上ケース3に向かって突出した内周側円筒状突出部25と、内周側円筒状突出部25の径方向の外側に配されていると共に環状面4に一体に形成されており、しかも、内周側円筒状垂下部15の径方向の外側に配されるように上ケース3に向かって突出した小径の環状突起26と、下ケース本体部23の径方向の外周縁に一体に形成されていると共に、円筒状垂下係合部16及び外周側円筒状垂下部17間に配されるように上ケース3に向かって突出した円筒状突出係合部27と、円筒状突出係合部27の径方向の内側であって環状突起26の径方向の外側に配されていると共に環状面4に一体に形成されており、しかも、外周側円筒状垂下部17の径方向の内側に配されるように上ケース3に向かって突出していると共に環状突起26よりも大径の環状突起28と、円筒状突出係合部27の径方向の外周面に形成されていると共に係合フック部18に係合する係合フック部29とを備えて、一体形成されている。
【0023】
上ケース3は、その径方向の外周縁部の円筒状垂下係合部16の係合フック部18で下ケース5における径方向の外周縁部の円筒状突出係合部27の係合フック部29にスナップフィット式に弾性係合して下ケース5に弾性嵌着されるようになっている。
【0024】
上ケース3及び下ケース5のその径方向の外周縁部及び内周縁部のうちの少なくとも一方、本例では両縁部において、上ケース3及び下ケース5間には、上ケース本体部13、最内周側円筒状垂下部14及び内周側円筒状垂下部15と下ケース本体部23、最内周側円筒状突出部24、内周側円筒状突出部25及び環状突起26とによりラビリンス(迷路)31が、上ケース本体部13、円筒状垂下係合部16及び外周側円筒状垂下部17と下ケース本体部23、円筒状突出係合部27及び環状突起28とによりラビリンス32が夫々形成されるようになっており、斯かる内周縁部のラビリンス31及び外周縁部のラビリンス32により上ケース本体部13と下ケース本体部23との間のスラスト滑り軸受片6を装着した環状空間33への外部からの塵埃、泥水等の侵入が防止されている。
【0025】
合成樹脂製、例えばポリアセタール樹脂製のスラスト滑り軸受片6は、その径方向の環状の内周面41及び外周面42で環状突起26及び28の夫々に摺動自在に接触して、環状突起28よりも径方向の内側に配されていると共に環状突起26よりも径方向の外側に配されている。
【0026】
スラスト滑り軸受片6は、環状板部45と、環状板部45の一方の環状の面46に径方向において離間して一体的に形成されていると共に上ケース3の環状面2に当該環状面2に対して摺動自在であって当該環状面2と協働して環状空間47を形成するように接触する同心の小径及び大径の環状突起部48及び49と、環状板部45に円周方向に等間隔に設けられた複数の貫通孔50とを具備している。
【0027】
環状板部45の他方の環状の面55と協働して環状の容積可変室56を形成するようにスラスト荷重下で弾性変形可能であって環状板部45の面55と下ケース5の環状面4との間に介在されている容積可変室形成手段7は、環状板部45の面55に一体的であって弾性変形可能に形成されていると共に下ケース5の環状面4と協働して容積可変室56を形成するように下ケース5の環状面4に接触する二つの環状突起57及び58を具備しており、環状突起57及び58により環状板部45の面55は、下ケース5の環状面4から離間して環状面4に非接触となっている。
【0028】
環状突起28よりも径方向の内側に配されていると共に環状突起26よりも径方向の外側に配されている容積可変室形成手段7の環状突起57及び58の夫々は、環状板部45と一体形成されている結果、環状板部45と同様にポリアセタール樹脂製であって、スラスト荷重下で環状突起部48及び49の変形に先立って弾性変形するように環状突起部48及び49の径方向幅よりも狭い径方向幅を有して形成されており、斯かるスラスト荷重による弾性変形で容積可変室56の容積を小さくするようになっている。
【0029】
各貫通孔50は、一端では環状空間47に開口する一方、他端では容積可変室56に開口して、環状空間47と容積可変室56とを互いに連通させている。
【0030】
環状空間47、貫通孔50及び容積可変室56にはスラスト無荷重下でこれら環状空間47、貫通孔50及び容積可変室56を隙間なしに満たす量のシリコーン系グリースからなる潤滑剤59が充填されており、斯かる量の潤滑剤59は、スラスト荷重下でも環状空間47、貫通孔50及び容積可変室56を隙間なしに満たす量となり、環状空間47、貫通孔50及び容積可変室56に隙間なしに満たされた潤滑剤59は、環状突起部48及び49並びに環状突起57及び58と共に環状面2及び4に接触してスラスト荷重を受けるようになっている。
【0031】
以上のスラスト滑り軸受1は、図5に示すようなストラット型サスペンションアセンブリにおけるコイルばね61の上部ばね座62と、油圧ダンパのピストンロッド63が固着される車体側の取付部材64との間に装着されて用いられる。この場合、貫通孔12及び22にピストンロッド63の上部が上ケース3及び下ケース5に対して軸心Oの回りでR方向に回転自在になるようにして挿通される。
【0032】
図5に示すようにスラスト滑り軸受1を介して装着されたストラット型サスペンションアセンブリでは、ステアリング操作に際してはコイルばね61を介する上部ばね座62の軸心Oの回りでの相対的なR方向の回転は、上ケース3の環状面2と環状突起部48及び49並びに潤滑剤59との間の摺動面での同方向の相対的な回転で滑らかに行われる。
【0033】
スラスト滑り軸受1によれば、環状突起部48及び49により形成された環状空間47に潤滑剤59が充填されているために、潤滑剤59を環状突起部48及び49と上ケース3の環状面2との間の摺動面に必要微小量だけ供給でき、しかも、環状空間47の潤滑剤59でもってもスラスト荷重を受けることができるために、上ケース3の環状面2に接する潤滑剤59の面もまた上ケース3に対する下ケース5の回転での摺動面となる上に、スラスト荷重下での容積可変室形成手段7の弾性変形による容積可変室56の縮小に伴う容積可変室56の潤滑剤59の内圧上昇が貫通孔50を介して環状空間47の潤滑剤に伝達されるために、環状空間47の潤滑剤59によるスラスト荷重受けを確実に行わせることができ、而して、低い摩擦トルクをもって摺動面を構成できて、摺動面での摩擦音の発生がなく、ころがり軸受と同等の滑らかなステアリング操作を確保できる。
【0034】
またスラスト滑り軸受1によれば、スラスト滑り軸受片6を環状突起26よりも径方向の外側であって環状突起28よりも径方向の内側に配しているため、斯かる一対の環状突起26及び28によりスラスト滑り軸受片6を径方向に関して位置決めできる上に、スラスト滑り軸受片6を径方向の内周面41及び外周面42で環状突起26及び28の夫々に摺動自在に接触させているために、スラスト荷重下でのスラスト滑り軸受片6の撓みを防止できる。
【0035】
前記のスラスト滑り軸受1では、環状板部45の面55に一体的に形成された環状突起57及び58を具備して容積可変室形成手段7を構成したが、これに代えて、図6及び図7に示すように、スラスト滑り軸受片6とは別体であって、環状板部45の面55と下ケース5の環状面4との間に介在されていると共に天然ゴム、合成ゴム又は熱可塑性エラストマーからなっている容積可変室形成部材71を具備して容積可変室形成手段7を構成してもよい。
【0036】
図6に示す容積可変室形成部材71は、環状基板72と、環状基板72の一方の面73に一体的にしかも同心であって径方向に離反して弾性変形可能に形成されていると共に環状板部45の面55と協働して容積可変室56を形成するように環状板部45の面55に夫々接触する二つの環状突起74及び75とを具備しており、環状基板72の他方の面76は下ケース5の環状面4に接触している。
【0037】
天然ゴム、合成ゴム又は熱可塑性エラストマーからなっている容積可変室形成部材71の環状突起74及び75は、スラスト荷重下で環状突起部48及び49の変形に先立って弾性変形し、斯かるスラスト荷重による弾性変形で容積可変室56の容積を小さくするようになっている。
【0038】
容積可変室形成部材71を具備したスラスト滑り軸受1でも、各貫通孔50を介して環状空間47と容積可変室56とは互いに連通されており、環状空間47、貫通孔50及び容積可変室56に隙間なしに満たされた潤滑剤59は、環状突起部48及び49と共に環状面2に接触してスラスト荷重を受けるようになって、上ケース3の環状面2に接する潤滑剤59の面もまた上ケース3に対する下ケース5の回転での摺動面となる結果、斯かるスラスト滑り軸受1を図5に示す上部ばね座62と取付部材64との間に装着しても、スラスト荷重下での容積可変室形成手段7の環状突起74及び75の弾性変形による容積可変室56の縮小に伴う容積可変室56の潤滑剤59の内圧上昇が貫通孔50を介して環状空間47の潤滑剤に伝達されるために、環状空間47の潤滑剤59によるスラスト荷重受けを確実に行わせることができ、上記と同様に、低い摩擦トルクをもって摺動面を構成できて、摺動面での摩擦音の発生がなく、ころがり軸受と同等の滑らかなステアリング操作を確保できる。
【0039】
容積可変室形成部材71を具備した容積可変室形成手段7の場合には、図6に示すように、環状板部45の面55に一体的に形成されていると共に同心であって径方向において離反した二つの他の環状突起部78及び79を更に具備したスラスト滑り軸受片6を用い、容積可変室形成部材71を径方向において環状突起部78及び79間に配すると、容積可変室形成部材71を環状突起部78及び79でもってスラスト滑り軸受片6に対して常時正常な位置に位置決めでき、スラスト滑り軸受片6と容積可変室形成部材71との互いの正常な重ね合わせを維持できて好ましい。
【0040】
上記の環状突起部48及び49の夫々は、断面矩形状をもって形成されているが、これに代えて、図8に示すように断面半円形状をもって形成されてもよく、また、図9に示すように、環状突起部48及び49に加えて、径方向において環状突起部48及び49間であって環状板部45の面46に一体的に形成されていると共に上ケース3の環状面2に当該環状面2に対して摺動自在であって環状空間47を分割して当該環状面2並びに環状突起部48及び49と協働して複数(本例では二つ)の互いに分離された分割環状空間81及び82を形成するように接触する中間環状突起部83を具備してスラスト滑り軸受片6を構成してもよく、この場合にも上記と同様に、分割環状空間81及び82の夫々に隙間なしに潤滑剤59を充填するが、例えば環状突起57及び58をもって容積可変室形成手段7を構成する場合には、好ましくは、環状突起57及び58に加えて、径方向において環状突起57及び58間であって環状板部45の面55に一体的であって弾性変形可能に形成されていると共に容積可変室56を分割して下ケース5の環状面4並びに環状突起57及び58と協働して二つの互いに分離された分割容積可変室84及び85を形成するように下ケース5の環状面4に接触する中間環状突起86を更に具備して容積可変室形成手段7を構成し、分割環状空間81及び82を各貫通孔50を介して分割容積可変室84及び85に夫々独立して連通させる。
【0041】
図9に示すスラスト滑り軸受1では、スラスト荷重を中間環状突起部83でも分散して受けることになる結果、環状突起部48及び49の撓み変形の生起を更に確実に回避できる上に、分割環状空間81及び82のうちの一方の分割環状空間に充填された潤滑剤59が多量に漏出したとしても、この漏出が他方の分割環状空間に影響することを阻止して、残る他方の分割環状空間で上記の作用を行わせることができる結果、フェールセーフなものとなる。
【0042】
【発明の効果】
本発明によれば、グリース等の潤滑剤を長期に亘って摺動面に介在させることができる上に、斯かる潤滑剤をスラスト荷重受けにも利用でき、而して、スラスト荷重が大きくなっても摩擦トルクはほとんど変わらず、低い摩擦トルクをもって摺動面を構成できて、長期の使用でも斯かる低い摩擦係数を維持できる上に、摺動面での摩擦音の発生がなく、しかも、ストラット型サスペンションにスラスト滑り軸受として組込んでもころがり軸受と同等の滑らかなステアリング操作を確保し得る上に乗り心地を向上できるスラスト滑り軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の好ましい一例の断面図である。
【図2】図1に示す例の下ケース及びスラスト滑り軸受片の平面図である。
【図3】図1に示す例のスラスト滑り軸受片の上方からの斜視図である。
【図4】図1に示す例のスラスト滑り軸受片の下方からの斜視図である。
【図5】図1に示す例をストラット型サスペンションに組込んだ例の説明図である。
【図6】本発明の実施の形態の好ましい他の例の断面図である。
【図7】図6に示す例の容積可変室形成部材の平面図である。
【図8】本発明の実施の形態の好ましい更に他の例の一部の断面図である。
【図9】本発明の実施の形態の好ましい更に他の例の一部の断面図である。
【符号の説明】
1 スラスト滑り軸受
2、4 環状面
3 上ケース
5 下ケース
6 スラスト滑り軸受片
7 容積可変室形成手段
45 環状板部
46、55 面
47 環状空間
48、49 環状突起部
50 貫通孔
56 容積可変室
59 潤滑剤

Claims (9)

  1. 環状面を有した第一の軸受体と、この第一の軸受体に当該第一の軸受体の軸心の回りで回転自在となるように重ね合わされると共に第一の軸受体の環状面に対面した環状面を有する第二の軸受体と、両環状面間に介在されている環状のスラスト滑り軸受片及び容積可変室形成手段とを具備しており、スラスト滑り軸受片は、環状板部と、この環状板部の一方の面に一体的に形成されていると共に第一の軸受体の環状面に当該環状面に対して摺動自在であって当該環状面と協働して環状空間を形成するように接触する少なくとも二つの環状突起部と、環状板部に設けられた少なくとも一つの貫通孔とを具備しており、容積可変室形成手段は、環状板部の他方の面と協働して容積可変室を形成するようにスラスト荷重下で弾性変形可能であって環状板部の他方の面と第二の軸受体の環状面との間に介在されており、且つ、共に環状板部の他方の面に一体的であって弾性変形可能に形成されていると共に第二の軸受体の環状面と協働して容積可変室を形成するように第二の軸受体の環状面に接触する環状突起を具備しており、貫通孔は、一端では環状空間に開口する一方、他端では容積可変室に開口して環状空間と容積可変室とを互いに連通させており、環状空間、容積可変室及び貫通孔には潤滑剤が充填されているスラスト滑り軸受。
  2. 環状面を有した第一の軸受体と、この第一の軸受体に当該第一の軸受体の軸心の回りで回転自在となるように重ね合わされると共に第一の軸受体の環状面に対面した環状面を有する第二の軸受体と、両環状面間に介在されている環状のスラスト滑り軸受片及び容積可変室形成手段とを具備しており、スラスト滑り軸受片は、環状板部と、この環状板部の一方の面に一体的に形成されていると共に第一の軸受体の環状面に当該環状面に対して摺動自在であって当該環状面と協働して環状空間を形成するように接触する少なくとも二つの環状突起部と、環状板部に設けられた少なくとも一つの貫通孔とを具備しており、容積可変室形成手段は、環状板部の他方の面と協働して容積可変室を形成するようにスラスト荷重下で弾性変形可能であって環状板部の他方の面と第二の軸受体の環状面との間に介在されている容積可変室形成部材を具備しており、容積可変室形成部材は、環状基板と、この環状基板の一方の面に一体的であって弾性変形可能に形成されていると共に環状板部の他方の面と協働して容積可変室を形成するように環状板部の他方の面に接触する環状突起とを具備しているスラスト滑り軸受。
  3. スラスト滑り軸受片は、環状板部の他方の面に一体的に形成されている二つの他の環状突起部を更に具備しており、容積可変室形成部材は、径方向において二つの他の環状突起部間に配されている請求項2に記載のスラスト滑り軸受。
  4. 容積可変室形成部材は、天然ゴム、合成ゴム又は熱可塑性エラストマーからなっている請求項2又は3に記載のスラスト滑り軸受。
  5. スラスト滑り軸受片は、径方向においてその二つの環状突起部間であって環状板部の一方の面に一体的に形成されていると共に第一の軸受体の環状面に当該環状面に対して摺動自在であって環状空間を分割して当該環状面及び二つの環状突起部と協働して複数の互いに分離された分割環状空間を形成するように接触する少なくとも一つの中間環状突起部を具備している請求項1から4のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
  6. 潤滑剤は、スラスト荷重下で環状空間、容積可変室及び貫通孔を隙間なしに満たしている請求項1から5のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
  7. 潤滑剤は、スラスト無荷重下で環状空間、容積可変室及び貫通孔を隙間なしに満たしている請求項1から6のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
  8. 第二の軸受体は、その環状面に一体的に形成された大径及び小径の環状突起を有しており、スラスト滑り軸受片及び容積可変室形成手段は、大径の環状突起よりも径方向の内側に配されていると共に小径の環状突起よりも径方向の外側に配されている請求項1から7のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
  9. スラスト滑り軸受片は、その径方向の外周面及び内周面で第二の軸受体の大径及び小径の環状突起の夫々に摺動自在に接触している請求項8に記載のスラスト滑り軸受。
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