JP4334228B2 - サイトカイニン合成に関わる蛋白質をコードする遺伝子 - Google Patents

サイトカイニン合成に関わる蛋白質をコードする遺伝子 Download PDF

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Description

発明の分野
本発明はサイトカイニン生合成に関与する蛋白質をコードする遺伝子ならびにその利用方法、及びその取得方法に関するものである。
背景技術
サイトカイニンは重要な植物ホルモンの一種であり、細胞分裂の誘導、新たな芽の形成、腋芽の休眠打破、老化防止、果実の肥大促進など様々な効果を持っている。サイトカイニンはアデニンやアデノシンの6位の窒素原子にジメチルアリル基(イソペンテニル基)が結合した構造や、さらにそのイソペンテニル基が水酸化された構造を基本骨格として持っている。植物病原性を持つバクテリアには、サイトカイニン合成酵素をもつものが知られており、そのうち、アグロバクテリウムのサイトカイニン合成酵素IPTとTZSに関しては、ジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)のジメチルアリル基をアデノシン一リン酸(AMP)の6位の窒素原子に転移する活性があることが知られており、この反応がサイトカイニン合成の最も重要なステップであると考えられている。しかし、植物のもつサイトカイニン合成酵素と、これをコードする遺伝子は同定されていなかった。
発明の開示
そこで本発明は、サイトカイニンの合成を触媒する酵素をコードする遺伝子及びそれによりコードされる蛋白質、並びにその用途を提供しようとするものである。また、本発明は、これら遺伝子を同定する方法も提供しようとするものである。
本発明者らは、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)よりサイトカイニンの合成を触媒する酵素をコードする新たな遺伝子を得る方法を見出し、サイトカイニンの合成を触媒する酵素をコードする新たな遺伝子を得た。
従って本発明は、サイトカイニンの合成に関与する蛋白質をコードする遺伝子を提供する。具体的には、植物では未報告であった、サイトカイニンのアデニン骨格のN6位の側鎖を導入する反応を触媒する酵素である。
より具体的には、本発明は、配列番号2,4,6,8,10,12または14に記載のアミノ酸配列を有し、サイトカイニンの合成に関与する蛋白質をコードする遺伝子を提供する。本発明は、また、配列番号2,4,6,8,10,12または14において1個または複数個のアミノ酸の付加、欠失及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有し、且つサイトカイニンの合成に関与する蛋白質をコードする遺伝子を提供する。本発明はさらに、配列番号1,3,5,7,9,11または13に記載する核酸、特にDNA又はその部分とストリンジェント条件下でハイブリダイズし、且つサイトカイニンの合成に関与する蛋白質をコードする遺伝子を提供する。
本発明はまた、上記遺伝子を含んでなるベクターを提供する。
本発明はさらに、上記ベクターにより形質転換された宿主を提供する。この宿主は植物細胞であっても、植物体であってもよい。
本発明はまた、上記宿主を培養、栽培することによる、サイトカイニン合成に関与する蛋白質の製造方法を提供することができる。
本発明はまた、上記遺伝子を植物又は植物細胞に導入し、該遺伝子を発現せしめることによる植物又は植物細胞の成長を調節する方法を提供することができる。即ち、本遺伝子を発現させることにより、不定芽の形成を促進、側芽の休眠打破、花や葉の老化・果実の成熟防止、花の日持ち性向上や光合成機能の維持、果実の肥大促進・落下防止、花成の制御等のサイトカイニンが関与する様々の生理作用を調節することができる。
発明の実施の形態
発明者らは、サイトカイニンの合成には、アデニン骨格のN6位のイソペンテニル(ジメチルアリル)側鎖を導入する反応を触媒する反応が律速段階であると推定した。サイトカイニン合成に関わるイソペンテニル基転移酵素をコードする遺伝子としては、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のT−DNAにコードされるipt(gene4)遺伝子とTi−プラスミドのvir領域に存在するtzs遺伝子、シュードモナス(Pseudomonas)のいくつかの種に存在するptz遺伝子、ロドコッカス・ファシエンス(Rhodococcus faciens)のipt遺伝子、エルウイニア・ヘルビコラ(Erwinia herbicola)のetz遺伝子などが知られている。これらのうち、アグロバクテリウム(Agrobacterium)のtzsipt,シュードモナス(Pseudomonas)のptz,ロドコッカス(Rhodococcus)のipt遺伝子産物は試験管内でDMAPP:AMPジメチルアリルトランスフェラーゼ活性を持つことが示されている。これらの他、多くの生物はDMAPPからtRNAへとイソペンテニル基を転移する酵素を持っている。植物のサイトカイニンも、アデニン骨格のイソペンテニル化によって合成されるとすると、それを触媒する酵素は上に述べたイソペンテニル基転移酵素と共通の配列をもつ可能性が考えられた。そこで、まず、これらの遺伝子産物のアミノ酸配列を比較して、保存されたアミノ酸残基を見い出した。その配列は、GxTxxGK[ST]xxxxx[VLI]xxxxxxx[VLI][VLI]xxDxxQx[57,60][VLI][VLI]xGG[ST]であった。ここで、xは任意のアミノ酸残基を、[]でくくったアミノ酸残基はその中のアミノ酸残基のどれか一つを、[a,b]はa以上b以下の数の任意の種類のアミノ酸残基を示す。
TAIR Pattern Matching programを用いてシロイヌナズナのゲノム配列を検索し、このアミノ酸配列パターンをもつと考えられる遺伝子、あるいは推定遺伝子領域を見出した。その遺伝子は、
AT4g24650(ゲノムプロジェクトによる推定遺伝子領域の番号)、
T20010_210(ゲノムプロジェクトによる推定遺伝子領域の番号)、
T16G12(accession number ACO68809)ゲノムクローンの29375−30301 bp、
MDB19.12(ゲノムプロジェクトによる推定遺伝子領域の番号)、
MVI11.6(ゲノムプロジェクトによる推定遺伝子領域の番号)、
T26J14.3(ゲノムプロジェクトによる推定遺伝子領域の番号)、
F2J7.12(ゲノムプロジェクトによる推定遺伝子領域の番号)、
AF109376、
の8個の遺伝子であった。
これら8個の遺伝子・推定遺伝子のうち、AF109376はcDNAがクローン化されており、tRNAイソペンテニルトランスフェラーゼmRNAと注釈されている。残りの7個の遺伝子のうち、T20010_210、MDB19.12、AT4g24650、MVI11.6、T26J14.3、F2J7.12は全長のcDNAとしては分離されておらず推定遺伝子で、tRNAイソペンテニルトランスフェラーゼであるだろうと注釈されている。T16G12(accesson number ACO68809)ゲノムクローンの29375−30301 bpに関しては注釈すらされていない。
AT4g24650、T20010_210、T16G12(accession number ACO68809)ゲノムクローンの29375−30301 bpに対応するcDNA、MDB19.12、MVI11.6、T26J14.3、F2J7.12の遺伝子・推定遺伝子を各々AtIPT4、AtIPT3、AtIPT5、AtIPT7、AtIPT8、AtIPT1、AtIPT6と記す。また、各々の塩基配列を、配列番号1,3,5,7,9,11および13に示し、そしてそれに対応するアミノ酸配列を配列番号2,4,6,8,10,12および14に示した。
通常、シロイヌナズナのカルスは、培地中にサイトカイニンが存在する場合には葉と芽(以下シュートと呼ぶ)を形成するが、サイトカイニンが存在しなければ、全くシュートが形成されないか、あるいは、されてもその頻度は非常に低い。そこで、カルスに遺伝子を導入して発現させた時に、そのカルスがサイトカイニン非存在下でもシュートを効率よく形成するならば、導入した遺伝子はサイトカイニン合成酵素、またはサイトカイニン応答に関わる蛋白質をコードしていると考えられる。
あるいはまた、得られた遺伝子を大腸菌や酵母などの遺伝子発現系を用いて発現させ、酵素活性を測定することにより、得られた遺伝子がサイトカイニン合成酵素、またはサイトカイニン応答に関わる蛋白質をコードすることを確認することができる。
以上のことから、本発明において、はじめて植物由来のサイトカイニン合成酵素、またはサイトカイニン合成に関わる蛋白質をコードする遺伝子を単離・同定することができた。
また、本発明において、植物のサイトカイニン合成酵素はDMAPPのDMA基をATPとADPに転移させることも見出した。
本発明の遺伝子としては、例えば、配列番号2,4,6,8,10,12または14に記載のアミノ酸配列をコードするものが挙げられる。しかしながら、複数個のアミノ酸の付加、欠失および/または他のアミノ酸による置換によって修飾されたアミノ酸配列を有する蛋白質ももとの蛋白質と同様の活性を維持することが知られている。従って本発明は、配列番号2,4,6,8,10,12または14に記載のアミノ酸配列に対して1個または複数個のアミノ酸の付加、欠失および/または他のアミノ酸との置換によって修飾されたアミノ酸配列を有し、且つサイトカイニン合成酵素、またはサイトカイニン合成活性に関わる蛋白質をコードする修飾された遺伝子も本発明に属する。
ここで、この修飾の程度は、本件出願の前に周知技術となっている手段、例えば部位特定変異誘発、PCR法等により可能な程度である。サイトカイニン合成酵素、またはサイトカイニン合成に関わる活性を維持しながら修飾の対象となるアミノ酸の数は、例えば100個以下、例えば50個以下、好ましくは25個以下、例えば10個以下である。
本発明はまた、配列番号1,3,5,7,9,11または13に記載の塩基配列を有する核酸、又はその部分と、ストリンジエント条件下でハイブリダイズすることができ、且つサイトカイニン合成酵素、またはサイトカイニン合成に関わる活性を有する蛋白質をコードするDNAからなる遺伝子を提供する。ここでストリンジエント条件とは、例えば5xSSC、50℃の条件下でハイブリダイズする条件をいう。なお適切なハイブリダイゼーションの温度は塩基配列やその塩基配列の長さによって異なり、適宜選択して実施することができる。
上記ハイブリダイゼーションの対象としての遺伝子源としては、サイトカイニン合成酵素、またはサイトカイニン合成に関わる活性を有する蛋白質を有する植物、微生物などから調製されるcDNAライブラリー、ゲノムDNAライブラリー等を使用することができ、例えば、植物としてシロイヌナズナ、トウモロコシ、ポプラ、ベチュニア、タバコ、イネ、トマト、ユーカリ等が挙げられる。
このようにして得られる、サイトカイニン合成酵素、またはサイトカイニン合成に関わる蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列は、配列番号1,3,5,7,9,11または13に示す塩基配列に対して、50%以上、60%以上、好ましくは70%以上又は80%以上、例えば90%以上の相同性を有する。
配列番号2,4,6,8,10,12または14に示すアミノ酸配列を有する蛋白質をコードする本遺伝子は、実施例に具体的に示すように、cDNAまたはゲノムDNAとして、シロイヌナズナから得ることができる。
また、修飾されたアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNAは生来の塩基配列を有するDNAを基礎として、常用の部位特定変異誘発やPCR法を用いて合成することができる。例えば修飾を導入したいDNA断片を生来のcDNAまたはゲノムDNAの制限酵素処理によって得、これを鋳型にして、所望の変異を導入したプライマーを用いて部位特異的変異誘発またはPCR法を実施し、所望の修飾を導入したDNA断片を得る。その後、この変異を導入したDNA断片を目的とする蛋白質の他の部分をコードするDNA断片と連結すればよい。
あるいはまた、短縮されたアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAを得るには、例えば目的とするアミノ酸配列より長いアミノ酸配列、例えば全長アミノ酸配列をコードするDNAを所望の制限酵素により切断し、その結果得られたDNA断片が目的とするアミノ酸配列の全体をコードしていない場合は、不足部分の配列からなるDNA断片を合成し、連結すればよい。
あるいはまた、配列番号2,4,6,8,10,12または14に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質に対する抗体を用いても、サイトカイニン合成酵素、またはサイトカイニン合成に関わる活性を有する蛋白質を得ることができ、抗体を用いて他の生物のサイトカイニン合成酵素、またはサイトカイニン合成に関わる活性を有する蛋白質をクローン化することもできる。
従って本発明はまた、前述の遺伝子を含む組換えベクター、特に発現ベクター、及び当該ベクターによって形質転換された宿主に関するものである。宿主としては、原核生物または真核生物を用いることができる。原核生物としては細菌、例えばエシェリヒア(Escherichia)属に属する細菌、例えば大腸菌(Escherichia coli)、バシルス(Bacillus)属微生物、例えばバシルス・スプシルス(Bacillus subtilis)など常用の宿主微生物を用いることができる。
真核性宿主としては、下等真核生物、例えば真核性微生物である酵母または糸状菌が使用できる。酵母としては例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属微生物、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等が挙げられ、また糸状菌としてはアスペルギルス(Aspergillus)属微生物、例えばアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ベニシリウム(Penicillium)属微生物が挙げられる。さらに動物細胞または植物細胞が使用でき、動物細胞としては、マウス、ハムスター、サル、ヒト等の細胞系、具体的にはCOS細胞、Vero細胞、CHO細胞、L細胞、C127細胞、BALB/c 3T3細胞、Sp−2/0細胞等が使用される。植物細胞としては、タバコやシロイヌナズナの培養細胞、ポプルス属、ユーカリ属、アカシア属等の培養細胞が使用できる。
さらに昆虫細胞、例えばカイコ細胞(Bombyx mori)、またはカイコの成虫それ自体も宿主として使用される。また、例えばヨガ細胞(Spodoptera frugiprd)、キャベツルーパー細胞(Trichoplusia ni)を用いることもできる。
発現ベクターとしては、プラスミド、ファージ、ファージミド、ウィルス(バキュロウィルス(昆虫での発現)、ワクシニアウィルス(動物細胞での発現)等)が使用できる。
本発明の発現ベクターはそれらを導入すべき宿主の種類に依存して発現制御領域、例えばプロモーター及びターミネーター、複製起点等を含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、lacプロモーター等が使用され、酵母用プロモーターとしては、例えばグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PHO5プロモーター、adhIプロモーター、pqkプロモーター等が使用され、糸状菌用プロモーターとしては例えばアミラーゼプロモーター、trpCプロモーター等が使用される。
また、昆虫用プロモーターとしてはバキュロウイルスポリヘドリンプロモーター等、動物細胞用プロモーターとしてはSimian Virus 40のearlyおよびlateプロモーター、CMVプロモーター、HSV−TKプロモーターまたはSRαプロモーター等が挙げられる。植物用プロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター、ノパリン合成酵素のプロモーター、誘導型プロモーターとしては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼII系遺伝子のプロモーター、hsp80プロモーター、リブロース2リン酸カルボキシラーゼ小サブユニット遺伝子のプロモーター等が挙げられる。
また、発現ベクターには、以上の他にエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー(例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(メトトレキセート耐性)、neo遺伝子(G418耐性)等)を含有しているものを用いるのも好ましい一態様である。なお、エンハンサーを使用する場合、例えばSV40のエンハンサー等を遺伝子の上流または下流に挿入する。
発現ベクターによる宿主の形質転換は、当業者においてよく知られている常法により行うことができ、これらの方法は例えば、Current Protocols In Molecular Biology,John Wiley & Sons社、1995年、に記載されている。形質転換体の培養も常法に従って行うことができる。培養物からのサイトカイニンの合成に関与する蛋白質の精製は、蛋白質を単離・精製するための常法に従って、例えば、限外ろ過、各種カラムクロマトグラフィー、例えばセファロースを用いるクロマトグラフィー等により行うことができる。
現在の技術水準をもってすれば、さらに、このcDNAあるいは遺伝子を構成的なあるいは誘導型のプロモーターの制御下に連結し、アグロバクテリウムを用いるシステムあるいはパーティクルガン、エレクトロポーレーション等を用いるシステムで、この遺伝子を植物に導入し発現させることで、培地に外添した植物ホルモンによる人為調節によっても個体再生が困難な植物、例えば、バラなどにおいても、不定芽形成を促進することが可能である。さらに、サイトカイニンの合成に関与する蛋白質をコードする遺伝子の発現を制御することで、サイトカイニンが植物体において示す様々な生理作用、例えば、側芽の伸長や老化防止、花形成時期、果実の肥大促進、果実の落下防止などを調節することが可能である。
実施例
以下、実施例に従って、発明の詳細を述べる。分子生物学的手法は特に断らない限り、Molecular Cloning(Sambrook et al.1989)に依った。
実施例1サイトカイニン合成に関与する蛋白質をコードする遺伝子のサーチと単離
アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のtzs遺伝子(ACCESSION XO3933−1,PROTEIN_ID CAA27572.1)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のipt遺伝子(ACCESSION ABO25109−1,PROTEIN#ID BAA76344.1)、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)のptz遺伝子(ACCESSION XO3679−1,PROTEIN_ID CAA27315.1)、ロドコッカス・ファシエンス(Rhodococcus fascians)のipt遺伝子(ACCESSION Z29635−4,PROTEIN_ID CAA82744.1)、エルウイニア・ヘルビコラ(Erwinia herbicola)のジメチルアリルトランスフェラーゼ遺伝子(ACCESSION Z46375−2,PROTEIN_ID CAA86510.1)、及び大腸菌(Escherichia coli)tRNAのδ−2−イソペンテニルピロホスフェート(IPP)トランスフェラーゼ遺伝子(ACCESSION U14003−83,PROTEIN_ID AAA97067.1)の遺伝子産物のアミノ酸配列を、アミノ酸配列比較ソフトウエアーMacVector6.5.3のClustalVを用いて解析した結果、保存配列GxTxxGK[ST]xxxxx[VLI]xxxxxxx[VLI][VLI]xxDxxQx[57,60][VLI][VLI]xGG[ST]を見出した。ここで、xは任意のアミノ酸残基を、[]でくくったアミノ酸残基はその中のアミノ酸残基のどれか一つを、[a,b]はa以上b以下の数の任意の種類のアミノ酸残基を示す。
次に、この保存されたアミノ酸配列パターンを持つと考えられる遺伝子、あるいは推定遺伝子領域を単離するため、TAIR Pattern Matching programを用いてシロイヌナズナのゲノムデータベースを検索した。その結果、国際ゲノムプロジェクトによる推定遺伝子領域番号であるAT4g24650、T20010_210、MDB19.12、MVI11.6、T26J14.3、F2J7.12、AF109376とT16G12(accession number ACO68809)ゲノムクローンの29375−30301 bpの8個の遺伝子が上記保存アミノ酸配列パターンを持つ遺伝子であることがわかった。
これら8個の遺伝子のうち、AF109376だけは、既にcDNAがクローン化されており、tRNAイソペンテニルトランスフェラーゼmRNAと注釈されている。しかし、AT4g24650、T20010_210、MDB19.12、MVI11.6、T26J14.3、F2J7.12は全長cDNAは分離されておらず、tRNAイソペンテニルトランスフェラーゼであるだろうと注釈されている。T16G12(accession number ACO68809)ゲノムクローンの29375−30301 bpに関しては、推定機能すら注釈されていない。すなわち、これら8個の遺伝子については、コンピューター上で、機能が推測されているだけであり、実験による機能解析は一切行われておらず、機能が知られていなかった。また、酵素活性が測定されたこともなく、基質が何であるかも同定されていない。
AT4g24650(AtIPT4)、T20010_210(AtIPT3)、T16G12(accession number ACO68809)ゲノムクローンの29375−30301 bpに対応するcDNA(AtIPT5)、MDB19.12(AtIPT7)、MVI11.6(AtIPT8)、T26J14.3(AtIPT1)、F2J7.12(AtIPT6)、の塩基配列は、配列番号1,3,5,7,9,11及び13に示す。
また、それぞれがコードするアミノ酸配列(配列番号2、4、6、8、10、12、14)およびDNAデータベース(たとえばDNA Data Bank of Japan(DDBJ)(http://www.ddbj.nig.ac.jp))検索の結果得られた相同性のあるアミノ酸配列を含めて、ClustalWプログラム(http://www.ddbj.nig.ac.jp/E−mail/clustalw−e.html、Thompson,et al.1994,Nucl.Acids Res.22,4673−4680.)で分子系統樹を作製した。その結果、配列番号2、4、6、8、10、12、14で示した配列は、真核生物あるいは細菌のDMAPP:tRNAイソペンテニルトランスフェラーゼ、あるいはアグロバクテリウムなどのゴールを形成する植物病原菌のサイトカイニン合成に関わるイソペンテニルトランスフェラーゼとファミリーを形成していることが示された。さらに、配列番号2、10、12、14に示したアミノ酸配列は1つのサブグループを形成した。このサブグループと近縁の遺伝子として、ペチュニア由来のAAL83819(DDBJアクセッション番号)、イネ由来のBAB86364(DDBJアクセッション番号)があった。また、配列番号4、6、8に示したアミノ酸配列も1つのサブグループを形成し、このサブグループにはミヤコグサ由来のAW720363(DDBJのアクセッション番号)、が位置付けられた。
実施例2サイトカイニン合成に関与する蛋白質をコードする遺伝子の植物での過剰発現
i)植物への遺伝子導入ベクターの作成
pBI35T(WO 01/16332)をEcoRIとHindIIIで処理し、カリフラワーモザイクウイルス35S RNA遺伝子のプロモーター、マルチクローニングサイト、35S RNA遺伝子のターミネーターを含むDNA断片を得、これをpGPTV−KAN(Becker R etal,Plant Molecular Biology 20,1195−1197,1992)のHindIIIとEcoRIで処理して生成する2つの断片のうち、長いほうの断片とライゲーションすることにより、pTKO15を得た(図1)。また、同様に、このカリフラワーモザイクウイルス35S RNA遺伝子のプロモーター、マルチクローニングサイト、35S RNA遺伝子のターミネーターを含むDNA断片を、pGPTV−Bar(Becker R et al,Plant Molecular Biology 20,1195−1197,1992)のHindIIIとEcoRIで処理して生成する2つの断片のうち、長いほうの断片とライゲーションすることにより、pTKO16を得た。
AF109376の予測オープンリーディングフレームは、シロイヌナズナのcDNAライブラリーをPCR反応の鋳型DNA、プライマーとしてプライマー398(5’−TCCCCCGGGCGATGATGATGTTAAACCCTAGC−3’)(配列番号15)とプライマー399(5’−TCCCCCGGGTCAATTTACTTCTGCTTCTTGAACTTC)(配列番号16)、pfx DNAポリメラーゼ(GIBCO BRL)を用い、94℃、2分の後、(94℃、15秒;53℃、30秒;68℃、2分40秒)x40サイクルの条件でインキュベートすることによりDNAを増幅し、増幅DNAを精製後、SmaIで処理し、再びDNAを精製した。これをpTKO15のSmaIサイトにクローン化し、カリフラワーモザイクウイルスの35S RNA遺伝子プロモーター(35Sプロモーター)の下流にセンス方向にクローン化されたものを選び、pTKO15−AF109376とした。
AtIPT4は、シロイヌナズナのゲノムDNAをPCR反応の鋳型に、プライマー421(AAAATGAAGTGTAATGACAAAATGGTTGTG−3’)(配列番号17)とプライマー407(5’−GTCCAAACTAGTTAAGACTTAAAAATC−3’)(配列番号18)をプライマーとしてpfx DNA polymerase(GIBCO BRL)を用い、94℃、2分の後、(94℃、15秒;53℃、20秒;68℃、1分)x42サイクルの条件でインキュベートすることにより増幅し、精製後pTKO15のSmaIサイトにクローン化した。35Sプロモーターの下流にセンス方向にクローン化されたものをpTKO15−AtIPT4とした。
AtIPT3は、鋳型としてシロイヌナズナのゲノムDNA、プライマーとしてプライマー703(5’−CACCAGCAAGTTTATATTGCAAAGCGT−3’)(配列番号19)とプライマー705(5’−GTTGTAACCACGTAAAAGATAAGGGTG−3’)(配列番号20)、耐熱性DNA合成酵素としてHerculase(商標)(STRATAGENE社)を用いてDNAを増幅した。PCR反応は、92℃、1分の後、(92℃、30秒;55℃、30秒;70℃,2分30秒)を35回繰り返した。これを精製後、pTKO16のSmaIサイトに平滑末端でクローン化し、AtIPT3が35Sプロモーターの下流にセンス方向にクローン化されたものを選び、pTKO16−AtIPT3とした。
pTKO15をSmaIとKpnIで切断後、キアゲン社QUIAquick PCR purification kitを用いてDNAを精製した。ここに、プライマー852(5’−CTCGAGTTGGCGCGCCACCCGGGATTAATTAAGACTAGTGGGGTAC−3’)(配列番号27)とプライマー853(5’−CCCACTAGTCTTAATTAATCCCGGGTGGCGCGCCAACTCGAG−3’)(配列番号28)をクローン化することにより、pTKO15のマルチクローニングサイトの配列を変更した。ここで、プライマー852とプライマー853は互いに相補的な配列を持つ合成DNAであるので、この操作はpTKO15をSmaIとKpnIで切断した断片、プライマー852、プライマー853の三者を、リガーゼ存在下に一般的条件下でインキュベートすることによりおこなった。この様にして作成したプラスミドをpHM4と名付けた。pHM4とpTKO15の違いはマルチクローニングサイトの配列だけである。pTKO15のマルチクローニングサイトにある、ユニークサイトは、XbaI,XhoI,AscI,SmaI,PacI,SpeI,KpnI,SalIである。
4μgのpHM4を、20unitのBamHIで切断した。その半量を、200μMのdeoxyATP,deoxyTTP,deoxyCTP,deoxyGTP,1unit pfu DNA polymerase(Stratagene社)の存在下、70℃30分インキュベートすることにより、末端の平滑化をおこなった。これを、20unnit Calf Intestine Alkaline Phosphatase(タカラ社)で37℃1時間処理後、QUIAquick PCR purification kit(キアゲン社)を用いてDNAを精製した。ここに、シロイヌナズナのゲノムDNAより、耐熱性DNAポリメラーゼHerculase(Stratagene社)、プライマー918(5’−ATG ACA GAA CTC AAC TTC CAC CT−3’)(配列番号29)とプライマー879(5’−CAAAAAAAAGATCTAATTTTGCACCAAATGCCGCTT−3’)(配列番号30)を用いて増幅(94℃,20秒;55℃,30秒;72℃,1分のサイクルを35サイクル)したDNA断片をクローン化したものをクローン化し、pHM4−AtIPT1とした。
pHM4−AtIPT1の作製と同様の方法で、シロイヌナズナのゲノムDNAよりプライマーとしてプライマー533(5’−ATTATGCAAAATCTTACGTCCACATTCGTC−3’)(配列番号31)とプライマー881(5’−ACAGGATCCTCACACTTTGTCTTTCACCAAG−3’)(配列番号32)を用いて増幅したDNA断片をクローン化したものをクローン化し、pHM4−AtIPT8とした。
配列番号5に記載の翻訳開始点ATGより上流66bpsから配列番号6の全コード領域を含む配列をプライマー856(5’−CCGCTCGAGATGAAGCCATGCATGACGGCTC−3’)(配列番号33)とプライマー857(5’−GGACTAGTCACCGGGAAATCGCCGCCA−3’)(配列番号34)を用いてColumbia野生株(宝酒造(株))より抽出したゲノムDNAをテンプレートとしてPCRにより増幅した。これらのプライマーには制限酵素サイトが含まれており、PCR後XhoIとSpeIで処理した。このDNA断片を植物での過剰発現用ベクターである、pHM4にクローン化した。これをpHM4−AtIPT5と名付ける。
ii)植物への遺伝子導入
シロイヌナズナのカルスに、アグロバクテリウムを用いてpTKO15,pTKO15−AF109376,pTKO15−AtIPT4とpTKO16−AtIPT3を導入した。アグロバクテリウムを用いた遺伝子導入の方法は、Akamaらの方法に従った(Akama,K.et al.1992 Plant Cell Rep.12,7−11.)。遺伝子導入したカルスを、無サイトカイニン培地[GM培地(Akama,K.et al.1992 Plant Cell Rep.12,7−11.)に50μg/mlカナマイシンサルフェート,100μg/mlセフォタキシン,100μg/mlバンコマイシンおよび0.3μg/mlインドール酢酸]と有サイトカイニン培地(無サイトカイニン培地に0.5μg/mlトランス−ゼアチンを加えたもの)の2種類の培地上で培養した。2週間後に観察したところ、pTKO15で形質転換したカルスとpTKO15−AF109376で形質転換したカルスはどちらも無サイトカイニン培地ではシュートを形成せず、有サイトカイニン培地上でのみシュートを形成していた。これに対して、pTKO15−AtIPT4で形質転換したカルスは、無サイトカイニン培地、有サイトカイニン培地のどちらの培地上でもシュートを形成した。また、pTKO16−AtIPT3で形質転換したカルスも同様に無サイトカイニン培地、有サイトカイニン培地のどちらの培地上でもシュートを形成した。
また、pHM4,pHM4−AtIPT1,pHM4−AtIPT8,pHM4−AtIPT5おのおのを導入したシロイヌナズナのカルスを、0.2μg/mlのインドール酪酸、50μg/mlのカナマイシン、100μg/mlのクラフォランを含むサイトカイニンを含まない培地上で培養した。手法は、カルスにAtIPT4を導入した実施例と同じである。pHM4を導入したカルスはシュート組織を形成しなかったが、pHM4−AtIPT1,pHM4−AtIPT8とpHM4−AtIPT5を導入したカルスはシュート組織を形成した。
これらのことから、AtIPT4とAtIPT3には、シュート誘導能力があり、サイトカイニン合成能力があることが示唆された。
また、AtIPT1,AtIPT5,AtIPT8の過剰発現によりサイトカイニン応答を引き起こすことができることが示された。
iii)pHM4−AtIPT5の植物体での過剰発現
pHM4−AtIPT5を減圧浸潤アグロバクテリア感染法(荒木崇、秀潤社、細胞工学別冊、植物細胞工学シリーズ4、モデル植物の実験プロトコール、109ページ−113ページ)を用いてシロイヌナズナに形質転換した。得られた種子を、カナマイシン50μg/mlを含むMS寒天培地上にて栽培し、形質転換体を選抜した。これらの形質転換体を1/2濃度MS培地を加えたバーミキュライト上で栽培したところ、複数の個体において極めて多くの側芽を形成した(bushyになった)(図2)。コントロールとして栽培したpHM4形質転換体では、このような表現型は見られなかった。このことよりAtIPT5を過剰発現すると、頂芽優性が欠如し、側芽の形成を促進することが分かった。
実施例3サイトカイニン合成に関与する蛋白質の酵素活性測定
i)酵素活性測定用プラスミドの作成
実施例2で作成したpTKO15−AtIPT4をPCR反応の鋳型、プライマーとしてプライマー480(5’−GGAATTCCATATGAAGTGTAATGACAAAATGGTTG−3’)(配列番号21)とプライマー481(5’−GAAGATCTGTCCAAACTAGTTAAGACTTAAAAATC−3’)(配列番号22)を用い、LA taq(宝酒造)を用いてコード領域を増幅した。これを精製後、NdeIとBglIIで処理し、再びDNAを精製した。このDNA断片をpET16b(Novagen社)のNdeIとBamHIサイトの間にクローン化し、pET16b−AtIPT4を作成した。
また、pTKO15−AF109376をPCR反応の鋳型、プライマーとしてプライマー550(5’−GATCCCCGGCATATGATGATGTTAAACCCTAGC−3’)(配列番号23)とプライマー551(5’−ACGGTACCCATATGTCAATTTACTTCTGCTTCTTGAAC−3’)(配列番号24)、耐熱性DNA polymeraseとしてHerculase(Stratagene社)を用いて、コード領域を増幅した。これをNdeIで処理し、pET16bのNdeIサイトにクローニングし、pET16b−AF109376を作成した。
さらに、シロイヌナズナのゲノムDNAをPCR反応の鋳型、プライマーとしてプライマー741(5’−TTATACATATGAAGCCATGCATGACGGCTCTAAG−3’)(配列番号25)とプライマー742(5’−CGGGATCCTCACCGGGAAATCGCCGCCA−3’)(配列番号26)、耐熱性酵素としてLA taq(宝酒造)を用いてコード領域を増幅した。これを精製後、NdeIとBamHIで処理し、pET15b(Novagen社)のNdeIとBamHIの間にクローン化し、pET15b−AtIPT5を作成した。
ii)大腸菌抽出液の酵素活性の測定
先に述べたように、AtIPT1,AtIPT4,AtIPT8,AtIPT6はひとつのサブグループを形成し、AtIPT3,AtIPT5,AtIPT7は別のサブグループを形成する。それぞれから1つの遺伝子について大腸菌で活性を測定した。
pET16b−AtIPT4,pET16b−AF109376,またはpET15b−AtIPT5を導入した大腸菌AD494(DE3)pLysS株を20℃、1mM IPTG存在下で12時間培養した後、遠心で集菌し、OD600=100となるようにバッファーA(25mM Tris−HCl,50mM KCl,5mM β−メルカプトエタノール,1mM PMSF,20μg/mlロイペプチン)を加えた後、凍結融解によって大腸菌を破砕した。これを、300000gで、10分間遠心し、上清を回収した。これらの上清10μlと、60μM DMAPP、5μM[3H]AMP(722GBq/mmol)、10mM MgClを含む10μlのバッファーAを混合し、25℃で30分インキュベートした。その後、この反応液にTris−HCl(pH9)を50mM、ウシ腸アルカリホスファターゼを2ユニット/30μlとなるように加え、37℃で30分間インキュベートすることにより脱リン酸化反応をおこなった。反応液をC18逆相薄層クロマトグラフィー(移動相は50%メタノール)で展開し、オートラジオグラフィーによって反応産物を検出した結果、pET16b−AtIPT4とpET15b−AtIPT5をもつ大腸菌の抽出液を加えた反応液ではイソペンテニルアデノシンの生成を確認した。しかし、pET16b−AF109376を導入した大腸菌の抽出液にはイソペンテニルアデノシンの生成活性はみられなかった。
iii)精製蛋白質の酵素活性の測定
実施例3−(i)と同様に、AtIPT4をpET32b(Novagen社)にクローニングして、実施例3−(ii)と同様に大腸菌から抽出液を調製した。これをsampleAと呼ぶ。SampleA 800μlに、400μlのNi−NTAagarose懸濁液(沈殿にして110μlのNi−NTAagarose,30mM NaHPO(pH8),15mMイミダゾール、0.9M NaCl,7.5mM β−mercaptoethanol,0.5mM PMSF,30μg/ml leupeptin)を加える。この懸濁液をSampleBと呼ぶ。SampleBを遠心し、上清(SampleC)と沈殿に分ける。沈殿に洗い液(20mM NaHPO(pH8),10mMイミダゾール、0.3M NaCl,5mM β−mercaptoethanol,0.5mM PMSF,10μg/ml leupeptin)を加え、遠心により沈殿を回収する操作でNi−NTAagaroseを4回洗う。このNi−NTAagaroseは500μlの洗い液に懸濁した。これをSampleDと呼ぶ。SampleD 50μlと、Hラベルした0.25μMの各種核酸ATP,ADP,AMP、アデノシン、アデニンの内の一つを含む50μlの2×反応液(Tris HCl(pH7.5)25mM,KCl 75mM,MgCl 10mM,leupeptin 10μg/ml,PMSF 1mM,DMAPP66μM)と混合を行い、23℃で30分反応を行なった。この反応液に、700μlの酢酸エチルを加え、撹拌、遠心後、550μlの酢酸エチル層を回収し、これに500μlの蒸留水を加えた。撹拌、遠心分離後、350μlの酢酸エチル層を回収し、これに500μlの蒸留水を加えた。再び撹拌、遠心分離後、酢酸エチル層のうち50μlの酢酸エチル層に0.5mlのACSII(ファルマシア)を加えて液体シンチレーションカウンターで放射能量を測定した。その結果、DMAPPのジメチルアリル基がATPとADPに効率よく転移することを見出した。したがって、AtIPT4産物はジメチルアリル基をATPとADPに転移する活性を有していることを示すことができた。
精製した組換えAtIPT4蛋白質(2ng/ml)を用いて、0.4mM DMAPP存在下でATPに対するKmを測定したところ18μMであった。この値はtzsのAMPに対するKm 11.1μM(Morris et al.Aust.J.Plant Physiol.20,621−637,1993)と匹敵するものであった。また、200μMのATP存在下でDMAPPに対するKmを測定したところ、6.5μMであった。
同様に、AtIPT1もジメチルアリル基とATPとADPに転移する活性を有する蛋白質をコードしていた。
iv)反応産物の同定
上記のSampleDと等量の2X反応液(1mM ATPと1mM DMAPPを含む)を混合し、25度で1時間反応させた。遠心後、上清を2等分し、一方を上述のようにウシ腸アルカリホスファターゼで処理した。それぞれを3倍の体積量のアセトンで希釈した後、−80度で30分保持した後、17、000xgで30分間遠心し、蛋白質を除去した。上清を減圧下で乾固した後、メタノールに溶解した。その一部をChemocobond ODS−Wカラム(Chemco社)で分画した。溶出は20mM KHPO 15分の後、20mM KHPOから4mM KHPOを含む80%のアセトニトリル水溶液の30分の直線濃度勾配で行った。ウシ腸アルカリホスファターゼ処理していないサンプルは、Chemocobond ODS−Wカラムクロマトグラフィーでは主に2つのピークを示した。このうち早く溶出されるピークの保持時間はATPの保持時間と一致した。遅く溶出されるピーク(ピークA)の保持時間はATP、アデノシン、イソペンテニルアデノシンのいずれの保持時間とも一致しなかった。ウシ腸アルカリホスファターゼで処理したサンプルのChemocobond ODS−Wカラムクロマトグラフィーも主に2つのピークを示した。このうち早く溶出されるピークの保持時間はアデノシンの保持時間と、遅く溶出されるピーク(ピークB)の保持時間はイソペンテニルアデノシンと一致した。
ピークAとBの画分を乾燥後、エタノールに溶解し、fast atom bombardment mass spectrometry(JMS−SX102またはJEOL MStaion,JOEL DATUM Ltd)により解析した。その結果、ピークAの化合物に由来するシグナルは、トリリン酸基がイオン化を阻害するために得ることはできなかった。ピークBの化合物に由来するシグナルはm/z値336と204に観察され、前者はイソペンテニルアデノシンに対応し、後者はイソペンテニルアデノシンの分解物に対応した。以上から、ピークAはイソペンテニルアデノシンのリン酸化された化合物であるイソペンテニルATP(別称iPTP)であることが示唆された。
産業上の利用可能性
配列番号2、6、で示した遺伝子を大腸菌で発現させたところ、いずれにもサイトカイニン合成活性があった。また、配列番号2、4、6、10、12で示される遺伝子の酵素を植物中で過剰発現した場合にサイトカイニン応答を引き起こせた。また、配列番号2、10、12及び14又は配列番号4、6及び8は、それぞれ分子系統上、極めて近い関係にあることが明らかとなった。したがって、これらはいずれもサイトカイニン合成酵素であると考えられる。従って、本発明の遺伝子、及びその類似遺伝子の発現制御により、細胞分裂、分化、腋芽の成長、栄養分の分配調節、老化抑制、生殖成長、種子の成長などを調節することが可能となった。また、植物の遺伝子であるため、これら遺伝子を導入した植物において発現する蛋白質の毒性等が現れるとは考えにくい。
サイトカイニン合成の基質としてATPを効率よく利用できることから、AMPを基質とする細菌由来のサイトカイニン合成遺伝子よりも、植物体内では良好に機能することが期待される。
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
図1は、プラスミドpTKO15の構造を示す図である。
図2は、pHM4−AtIPT5により形質転換したシロイヌナズナの再生した植物体の写真である。

Claims (6)

  1. 配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して1個又は数個のアミノ酸の付加、欠失及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されているアミノ酸配列を有し、且つサイトカイニン合成活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を、植物又は植物細胞に導入し、当該遺伝子を発現せしめることにより、植物又は植物細胞の成長を調節する方法。
  2. 配列番号1に記載の塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つサイトカイニン合成活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を、植物又は植物細胞に導入し、当該遺伝子を発現せしめることにより、植物又は植物細胞の成長を調節する方法。
  3. 配列番号1に記載の塩基配列に対して90%以上の相同を有し、且つサイトカイニン合成活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を、植物又は植物細胞に導入し、当該遺伝子を発現せしめることにより、植物又は植物細胞の成長を調節する方法。
  4. 配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して1個又は数個のアミノ酸の付加、欠失及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されているアミノ酸配列を有し、且つサイトカイニン合成活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を、植物又は植物細胞に導入し、当該遺伝子を発現せしめることにより、植物の不定芽形成を誘導する方法。
  5. 配列番号1に記載の塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つサイトカイニン合成活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を、植物又は植物細胞に導入し、当該遺伝子を発現せしめることにより、植物の不定芽形成を誘導する方法。
  6. 配列番号1に記載の塩基配列に対して90%以上の相同を有し、且つサイトカイニン合成活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を、植物又は植物細胞に導入し、当該遺伝子を発現せしめることにより、植物の不定芽形成を誘導する方法。
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