JP4317982B2 - 磁性流体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁性流体に関し、更に詳しくは、強磁性物質を、有機分散媒、特に、炭化水素系オイル、エステル系オイル、フッ化炭素系オイル及びシリコーン系オイル等の基油中に分散せしめた磁性流体に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁性流体の商業用の用途には、シール、ダンパー、熱伝導、ノイズ制御、材料分離、センサー、部品検査等がある。磁性流体は、様々な製品に使用されており、これらの製品には、隔離用シール、ラウド・スピーカー、ステッピング・モータ等々がある。磁性流体を使用した製品が典型的に使用される産業分野には、半導体産業、コンピュータ産業、航空産業、石油探査産業、及び鉱山産業がある。
【0003】
一般に、磁性微粒子は親水性が強いため、そのままでは基油中で凝集してしまい、磁性流体を形成し得ない。そこで、磁性微粒子の表面に界面活性剤を吸着させて基油との親和性を高め、凝集を防止する必要がある。
【0004】
典型的な磁性流体は、以下の体積比率を有することもある。即ち、磁性粒子が4%で、界面活性剤が8%で、液体状担体が88%である。磁性流体は、磁性粒子が懸濁している液体状担体により特徴付けられるが、この理由は、液体状担体の割合が大きいからである。例えば、水ベースの磁性流体は水の中に磁性粒子が安定的に懸濁しているものであるが、オイルベースの磁性流体は、オイル(例えば、炭化水素、エステル、フッ化炭素、シリコーンオイル、ポリフェニルエーテル等々)の中に、磁性粒子が安定的に懸濁しているものである。磁性流体の物理特性は、更に、液体状担体が主な成分であるので、この選択にも左右される。このことに加えて、水ベースの磁性流体とオイルベースの磁性流体に使用する界面活性剤は異なる(特許文献1参照)。
【0005】
上記液体状担体としてのシリコーンオイルは、耐熱性、耐寒性、耐薬品性などにすぐれており、一般の鉱油や合成油にはみられない特性を兼ね備えている。これと同様の特性を有するオイルとしてはフッ素化オイルがあるが、シリコーンオイルはこれと比べてその価格が1/10以下と非常に廉価であり、また市販品も多種多様にわたっており、例えば粘度についていえば、約1〜1,000,000mPa・sの間に30種類以上の製品が上市されている。
【0006】
このように多種多様なシリコーンオイルを磁性流体用基油として用いれば、磁性流体の応用用途が拡がり、使用目的に合った磁性流体の調製が可能となるが、磁性微粒子をシリコーンオイル中に有効に分散し得る適切な界面活性剤またはそれの組合せが知られてはおらず、実際に使用に耐え得るシリコーンオイルベース磁性流体が得られてはいないのが実情である(特許文献2参照)。
【0007】
同様に、炭化水素系オイル、エステル系オイル、フッ化炭素系オイルを液体状担体とする磁性流体が知られている(特許文献1参照)が、更に性能の改善が望まれている。
【0008】
【特許文献1】
特開平11−260620(段落0003参照)
【0009】
【特許文献2】
特開平11−233331(段落0003参照)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、磁性微粒子をシリコーンオイル基油中に有効に分散せしめた磁性流体を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、次の知見を得た。
【0012】
(1)強磁性物質を内包するナノスケールカーボンチューブが、特に界面活性剤を使用しなくても、シリコーンオイル等の担体用液体中への分散性が高く、優れた磁性流体となる。
【0013】
(2)本発明で使用する強磁性物質内包ナノスケールカーボンチューブは、化学的に安定なカーボンにより強磁性物質が保護されているので、耐酸化性に極めて優れており、高温酸化雰囲気や腐食性雰囲気においても使用可能である。
【0014】
(3)また、強磁性物質を内包するナノスケールカーボンチューブと担体用液体とからなる組成に、界面活性剤を添加すると、強磁性物質内包ナノスケールカーボンチューブの担体用液体中への分散性を向上させることができ、また、低粘度の磁性流体となる。
【0015】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の磁性流体を提供するものである。
【0016】
項1 (A)強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブ及び
(B)炭化水素系オイル、エステル系オイル、フッ化炭素系オイル及びシリコーン系オイルからなる群から選択される担体用液体
を含有することを特徴とする磁性流体。
【0017】
項2 強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブが、
(i) 多層カーボンナノチューブと、鉄、ニッケル、コバルト及びこれらの合金からなる群から選ばれる強磁性物質からなり、該多層カーボンナノチューブのチューブ内空間部の99%以上が該強磁性物質により充填されている強磁性物質−多層カーボンナノチューブ複合体であるか、または、
(ii) (a) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと、(b)鉄、ニッケル、コバルト及びこれら金属の合金からなる群から選ばれる強磁性物質とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に、強磁性物質(b)が充填されている強磁性物質−炭素複合体であるか、または、
(iii)上記(i)及び(ii)の混合物である
上記項1に記載の磁性流体。
【0018】
項3 強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブの飽和磁化が1〜100emu/gである上記項1又は2のいずれかに記載の磁性流体。
【0019】
項4 (A)強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブ、
(B)炭化水素系オイル、エステル系オイル、フッ化炭素系オイル及びシリコーン系オイルからなる群から選択される担体用液体および
(C)陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤からなる群から選択される界面活性剤
を含有することを特徴とする磁性流体。
【0020】
項5 強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブが、
(i) 多層カーボンナノチューブと、鉄、ニッケル、コバルト及びこれらの合金からなる群から選ばれる強磁性物質からなり、該多層カーボンナノチューブのチューブ内空間部の99%以上が該強磁性物質により充填されている強磁性物質−カーボンナノチューブ複合体であるか、または、
(ii) (a) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと、(b)鉄、ニッケル、コバルト及びこれら金属の合金からなる群から選ばれる強磁性物質とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に、強磁性物質(b)が充填されている強磁性物質−炭素複合体であるか、または、
(iii)上記(i)及び(ii)の混合物である
上記項4に記載の磁性流体。
【0021】
項6 強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブの飽和磁化が1〜100emu/gである上記項4又は5に記載の磁性流体。
【0022】
項7 担体用液体100重量部に対して、強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブ5〜70重量部、及び界面活性剤0.1〜10重量部を含有する上記項4〜6のいずれかに記載の磁性流体。
【0023】
【発明の実施の形態】
上記のように、本発明の磁性流体は、強磁性物質を内包するナノスケールカーボンチューブを、界面活性剤を用いることなく、又は界面活性剤を用いて、シリコーンオイル等の担体用液体中に分散させてなるものである。
【0024】
強磁性物質を内包するナノスケールカーボンチューブ
本明細書において、「ナノスケールカーボンチューブ」とは、外径がナノサイズ、即ち、1000nm未満、特に500nm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下のサイズのチューブであって、カーボンからなるチューブである。
【0025】
本発明で使用する強磁性物質を内包するナノスケールカーボンチューブとしては、鉄、ニッケル、コバルト、これらの合金等の強磁性物質を、そのチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブである。
【0026】
かかる強磁性物質内包ナノスケールカーボンチューブとしては、各種のものが使用でき、特に、次の複合体が好ましく使用できる。
【0027】
(i) 多層カーボンナノチューブと、鉄、ニッケル、コバルト及びこれらの合金からなる群から選ばれる強磁性物質からなり、該多層カーボンナノチューブのチューブ内空間部の99%以上が該強磁性物質により充填されている強磁性物質−カーボンナノチューブ複合体、又は、
(ii) (a) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるナノスケールカーボンチューブと、(b)鉄、ニッケル、コバルト及びこれらの合金からなる群から選ばれる強磁性物質とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に、強磁性物質(b)が充填されている強磁性物質−炭素複合体、又は、
(iii)上記(i)及び(ii)の混合物。
【0028】
以下、これら(i)、(ii)について説明する。
【0029】
(i) 強磁性物質−多層カーボンナノチューブ複合体
上記(i)の強磁性物質−多層カーボンナノチューブ複合体は、例えば、本願出願人の出願に係る特開2001−89116号に記載されているもの等が使用できるが、これらに限定されず、他の同種のものがいずれも使用可能である。
【0030】
上記特開2001−89116号に記載の強磁性物質−カーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブとそのチューブ内空間部(即ち、チューブ壁で囲まれた空間)の99%以上が、特に全体が強磁性物質により充填されている。
【0031】
該複合体の壁部を構成するカーボンナノチューブは、高度に発達したグラファイト構造の多層カーボンナノチューブである。また、該複合体のチューブ内空間部には、その全体にわたって強磁性物質が充填されている。即ち、強磁性物質は、該チューブ内空間部の99%以上、特に100%の範囲に、充填されている。チューブ内空間部の全体を充填する強磁性物質としては、鉄、ニッケル、コバルト、及びこれらを含む合金が例示できる。
【0032】
該合金としては、鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれる2種以上の金属からなる合金、例えば、鉄−ニッケル合金、鉄−ニッケル−コバルト合金等を例示できる。チューブ内空間部を充填している金属(合金)は、高度に発達した結晶状態で存在している。
【0033】
かかる強磁性物質−カーボンナノチューブ複合体は、上記特開2001−89116号に記載の方法に従って、(1)ハロゲン化鉄、(2)ハロゲン化鉄及び他の金属のハロゲン化物(ハロゲン化コバルト、ハロゲン化ニッケル等)、(3)ハロゲン化ニッケル、(4)ハロゲン化ニッケル及び他の金属のハロゲン化物(例えば、ハロゲン化コバルト、ハロゲン化鉄等)と、ベンゼン、トルエン、キシレン、メタン、エチレン、プロピレン等の有機化合物とを、非酸化雰囲気下で500℃以上、特に600〜3000℃程度の温度下で、0.1〜5時間程度加熱することにより製造される。
【0034】
(ii) の強磁性物質−炭素複合体
上記(i)の強磁性物質−カーボンナノチューブ複合体は、強磁性物質がそのチューブ内空間部の100%の範囲に完全に充填されているものであるのに対して、(ii)の強磁性物質−炭素複合体は、強磁性物質がそのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に充填されている(即ち、部分的に充填されている)ことを特徴とするものである。
【0035】
さらに、壁部を構成するナノスケールカーボンチューブは、入れ子状(同心円筒状)のマルチウォールカーボンナノチューブ、スクロール状のマルチウォールカーボンナノチューブ、或いは、パッチワーク状ないし張り子状(いわゆるpaper mache状)のナノフレークカーボンチューブのいずれであってもよい。
【0036】
本明細書において、「ナノフレークカーボンチューブ」とは、フレーク状の黒鉛シートが複数枚(通常は多数)パッチワーク状ないし張り子状(paper mache状)に集合して構成されている、黒鉛シートの集合体からなる炭素製チューブを指す。
【0037】
このナノフレークカーボンチューブは、一枚の黒鉛シートが円筒状に閉じた単層カーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブ)や複数枚の黒鉛シートがそれぞれ円筒状に閉じて同心円筒状ないし入れ子状となっている多層カーボンナノチューブ(マルチウォールカーボンナノチューブ)とは全く構造の異なるチューブ状炭素材である。
【0038】
また、チューブ内空間部に内包される金属は、強磁性を示すものであり、一種類の金属であっても合金であってもよい。チューブ内空間部に内包される金属としては、鉄、ニッケル、コバルト等が例示できる。また、チューブ内空間部に内包される合金としては、上記金属の2種以上からなる合金、例えば、鉄-ニッケル合金、鉄-コバルト合金、ニッケル-コバルト合金、鉄-ニッケル-コバルト合金等の金属同士の合金を例示できる。また、鉄、ニッケル、コバルト等の金属又はこれら金属の合金に炭素が含まれた合金、又は、炭化鉄、炭化ニッケル、炭化コバルト等も例示できる。
【0039】
本発明で使用する金属内包カーボンチューブは、(a)ナノフレークカーボンチューブ及び多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと(b)内包金属又は合金(特に鉄又は炭化鉄)とからなるものであり、該カーボンチューブ内空間部(即ち、チューブ壁で囲まれた空間)の実質上全てが充填されているのではなく、該空間部の一部、より具体的には10〜90%程度、特に30〜80%程度、好ましくは40〜70%程度が内包金属又は合金(特に炭化鉄又は鉄)により充填されている。以下、炭化鉄又は鉄を内包するカーボンチューブを鉄−炭素複合体という。
【0040】
かかる鉄−炭素複合体は、
(1)不活性ガス雰囲気中、圧力を10-5Pa〜200kPaに調整し、反応炉内の酸素濃度を、反応炉容積をA(リットル)とし酸素量をB(Ncc)とした場合の比B/Aが1×10-10〜1×10-1となる濃度に調整して、反応炉内でハロゲン化鉄を600〜900℃まで加熱する工程、及び
(2)上記反応炉内を不活性ガス雰囲気とし、圧力を10-5Pa〜200kPaに調整し、熱分解性炭素源を導入して600〜900℃で加熱処理を行う工程
を包含する製造方法により得られる。
【0041】
以下本発明の鉄又は炭化鉄内包カーボンチューブ(鉄−炭素複合体)について説明する。
【0042】
本発明の鉄−炭素複合体においては、炭素部分は、製造工程(1)及び(2)を行った後、特定の速度で冷却するとナノフレークカーボンチューブとなり、製造工程(1)及び(2)を行った後、不活性気体中で加熱処理を行い、特定の冷却速度で冷却することにより、入れ子構造の多層カーボンナノチューブとなる。
【0043】
<(a-1) ナノフレークカーボンチューブ>
本発明のナノフレークカーボンチューブと炭化鉄又は鉄からなる鉄−炭素複合体は、典型的には円柱状であるが、そのような円柱状の鉄−炭素複合体(製造例1で得られたもの)の長手方向にほぼ垂直な断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図6に示し、側面のTEM写真を図2に示す。
【0044】
また、図9の(a-1)にそのような円柱状のナノフレークカーボンチューブのTEM像の模式図を示す。図9の(a-1)において、100は、ナノフレークカーボンチューブの長手方向のTEM像を模式的に示しており、200は、ナノフレークカーボンチューブの長手方向にほぼ垂直な断面のTEM像を模式的に示している。
【0045】
本発明の鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブは、図6及び図9の(a-1)の200から明らかなように、その長手方向をにほぼ垂直な断面をTEM観察した場合、多数の弧状グラフェンシート像が多層構造のチューブ状に集合しているが、個々のグラフェンシート像は、例えば210、214に示すように、完全に閉じた連続的な環を形成しておらず、途中で途切れた不連続な環を形成している。一部のグラフェンシート像は、211に示すように、分岐している場合もある。不連続点においては、一つの不連続環を構成する複数の弧状TEM像は、図9の(a-1)の222に示すように、層構造が部分的に乱れている場合もあれば、223に示すように隣接するグラフェンシート像との間に間隔が存在している場合もあるが、TEMで観察される多数の弧状グラフェンシート像は、全体として、多層状のチューブ構造を形成している。
【0046】
また、図2及び図9の(a-1)の100から明らかなように、ナノフレークカーボンチューブの長手方向をTEMで観察した場合、多数の略直線状のグラフェンシート像が本発明の鉄−炭素複合体の長手方向にほぼ並行に多層状に配列しているが、個々のグラフェンシート像110は、鉄−炭素複合体の長手方向全長にわたって連続しておらず、途中で不連続となっている。一部のグラフェンシート像は、図9の(a-1)の111に示すように、分岐している場合もある。また、不連続点においては、層状に配列したTEM像のうち、一つの不連続層のTEM像は、図9の(a-1)の112に示すように、隣接するグラフェンシート像と少なくとも部分的に重なり合っている場合もあれば、113に示すように隣接するグラフェンシート像と少し離れている場合もあるが、多数の略直線状のTEM像が、全体として多層構造を形成している。
【0047】
かかる本発明のナノフレークカーボンチューブの構造は、従来の多層カーボンナノチューブと大きく異なっている。即ち、図9の(a-2)の400に示すように、入れ子構造の多層カーボンナノチューブは、その長手方向に垂直な断面のTEM像が、410に示すように、完全な円形のTEM像となっている同心円状のチューブであり、且つ、図9の(a-2)の300に示すように、その長手方向の全長にわたって連続する直線状グラフェンシート像310等が平行に配列している構造(同心円筒状ないし入れ子状の構造)である。
【0048】
以上より、詳細は未だ完全には解明されていないが、本発明の鉄−炭素複合体を構成するナノフレークカーボンチューブは、フレーク状のグラフェンシートが多数パッチワーク状ないし張り子状に重なり合って全体としてチューブを形成しているようにみえる。
【0049】
このような本発明のナノフレークカーボンチューブとそのチューブ内空間部に内包された炭化鉄又は鉄からなる鉄−炭素複合体は、特許第2546114号に記載されているような入れ子構造の多層カーボンナノチューブのチューブ内空間部に金属が内包された複合体に比し、カーボンチューブの構造において大きく異なっており、従来知られていなかった新規な炭素材料である。
【0050】
本発明の鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブをTEM観察した場合において、その長手方向に配向している多数の略直線状のグラフェンシート像に関し、個々のグラフェンシート像の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。即ち、図9の(a-1)の100に示されるように、110で示される略直線状のグラフェンシートのTEM像が多数集まってナノフレークカーボンチューブの壁部のTEM像を構成しており、個々の略直線状のグラフェンシート像の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。
【0051】
本発明の鉄−炭素複合体を構成するナノフレークカーボンチューブの壁部の炭素部分は、上記のようにフレーク状のグラフェンシートが多数長手方向に配向して全体としてチューブ状となっているが、X線回折法により測定した場合に、炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するものである。
【0052】
また、本発明の鉄−炭素複合体のナノフレークカーボンチューブからなる壁部の厚さは、49nm以下、特に0.1〜20nm程度、好ましくは1〜10nm程度であって、全長に亘って実質的に均一である。
【0053】
<(a-2) 入れ子構造の多層カーボンナノチューブ>
前記のように、工程(1)及び(2)を行った後、特定の加熱工程を行うことにより、得られる鉄−炭素複合体を構成するカーボンチューブは、入れ子構造の多層カーボンナノチューブとなる。
【0054】
こうして得られる入れ子構造の多層カーボンナノチューブは、図9の(a-2)の400に示すように、その長手方向に垂直な断面のTEM像が完全な円を構成する同心円状のチューブであり、且つ、その長手方向の全長にわたって連続したグラフェンシート像が平行に配列している構造(同心円筒状ないし入れ子状の構造)である。
【0055】
本発明の鉄−炭素複合体を構成する入れ子構造の多層カーボンナノチューブの壁部の炭素部分は、X線回折法により測定した場合に、炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するものである。
【0056】
また、本発明の鉄−炭素複合体の入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる壁部の厚さは、49nm以下、特に0.1〜20nm程度、好ましくは1〜10nm程度であって、全長に亘って実質的に均一である。
【0057】
<(b)内包されている炭化鉄又は鉄>
本明細書において、上記カーボンチューブ内空間部の炭化鉄又は鉄による充填率(10〜90%)は、本発明により得られた鉄−炭素複合体を透過型電子顕微鏡で観察し、各カーボンチューブの空間部(即ち、カーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)の像の面積に対する、炭化鉄又は鉄が充填されている部分の像の面積の割合である。
【0058】
炭化鉄又は鉄の内包形態は、カーボンチューブ内空間部に連続的に内包されている形態、カーボンチューブ内空間部に断続的に内包されている形態等があるが、基本的には断続的に内包されている。従って、本発明の鉄−炭素複合体は、金属内包炭素複合体ないし鉄化合物内包炭素複合体、炭化鉄又は鉄内包炭素複合体とも言うべきものである。
【0059】
また、本発明の鉄−炭素複合体に内包されている炭化鉄又は鉄は、カーボンチューブの長手方向に配向しており、結晶性が高く、炭化鉄又は鉄が充填されている範囲のTEM像の面積に対する、結晶性炭化鉄又は鉄のTEM像の面積の割合(以下「結晶化率」という)は、一般に、90〜100%程度、特に95〜100%程度である。
【0060】
内包されている炭化鉄又は鉄の結晶性が高いことは、本発明鉄−炭素複合体の側面からTEM観察した場合、内包物のTEM像が格子状に配列していることから明らかであり、電子線回折において明確な回折パターンが得られることからも明らかである。
【0061】
また、本発明の鉄−炭素複合体に炭化鉄又は鉄が内包されていることは、電子顕微鏡、EDX(エネルギー分散型X線検出器)により容易に確認することができる。
【0062】
<鉄−炭素複合体の全体形状>
本発明の鉄−炭素複合体は、湾曲が少なく、直線状であり、壁部の厚さが全長に亘ってほぼ一定の均一厚さを有しているので、全長に亘って均質な形状を有している。その形状は、柱状で、主に円柱状である。
【0063】
本発明による鉄−炭素複合体の外径は、通常、1〜100nm程度、特に1〜50nm程度の範囲にあり、好ましくは1〜30nm程度の範囲にあり、より好ましくは10〜30nm程度の範囲にある。チューブの長さ(L)の外径(D)に対するアスペクト比(L/D)は、5〜10000程度であり、特に10〜1000程度である。
【0064】
本発明の鉄−炭素複合体の形状を表す一つの用語である「直線状」なる語句は、次のように定義される。即ち、透過型電子顕微鏡により本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を200〜2000nm四方の範囲で観察し、像の長さをWとし、該像を直線状に伸ばした時の長さをWoとした場合に、比W/Woが、0.8以上、特に、0.9以上となる形状特性を意味するものとする。
【0065】
本発明の鉄−炭素複合体は、バルク材料としてみた場合、次の性質を有する。即ち、本発明では、上記のようなナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブから選ばれるカーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に鉄または炭化鉄が充填されている鉄−炭素複合体は、顕微鏡観察によりかろうじて観察できる程度の微量ではなく、多数の該鉄−炭素複合体を含むバルク材料であって、鉄−炭素複合体を含む炭素質材料、或いは、炭化鉄又は鉄内包炭素質材料ともいうべき材料の形態で大量に得られる。
【0066】
後述の製造例1で製造されたナノフレークカーボンチューブとそのチューブ内空間に充填された炭化鉄からなる本発明炭素質材料の電子顕微鏡写真を、図3に示す。
【0067】
図3から判るように、本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料においては、基本的にはほとんど全ての(特に99%又はそれ以上の)カーボンチューブにおいて、その空間部(即ち、カーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されており、空間部が充填されていないカーボンチューブは実質上存在しないのが通常である。但し、場合によっては、炭化鉄又は鉄が充填されていないカーボンチューブも微量混在することがある。
【0068】
また、本発明の炭素質材料においては、上記のようなカーボンチューブ内空間部の10〜90%に鉄または炭化鉄が充填されている鉄−炭素複合体が主要構成成分であるが、本発明の鉄−炭素質複合体以外に、スス等が含まれている場合がある。そのような場合は、本発明の鉄−炭素質複合体以外の成分を除去して、本発明の炭素質材料中の鉄−炭素質複合体の純度を向上させ、実質上本発明の鉄−炭素複合体のみからなる炭素質材料を得ることもできる。
【0069】
また、従来の顕微鏡観察で微量確認し得るに過ぎなかった材料とは異なり、本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料は大量に合成できるので、その重量を容易に1mg以上とすることができる。後述する本発明製法をスケールアップするか又は何度も繰り返すことにより本発明の該材料は無限に製造できる。一般には、本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料は、反応炉容積1リットル程度の実験室レベルであっても、1mg〜100g程度、特に10〜1000mg程度の量であれば容易に提供できる。
【0070】
本発明炭素質材料は、該炭素質材料1mgに対して25mm2以上の照射面積で、CuKαのX線を照射した粉末X線回折測定において、内包されている鉄または炭化鉄に帰属される40°<2θ<50°のピークの中で最も強い積分強度を示すピークの積分強度をIaとし、カーボンチューブの炭素網面間の平均距離(d002)に帰属される26°<2θ<27°のピークの積分強度Ibとした場合に、IaのIbに対する比R(=Ia/Ib)が、0.35〜5程度、特に0.5〜4程度であるのが好ましく、より好ましくは1〜3程度である。
【0071】
本明細書において、上記Ia/Ibの比をR値と呼ぶ。このR値は、本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を、X線回折法において25mm2以上のX線照射面積で観察した場合に、炭素質材料全体の平均値としてピーク強度が観察されるために、TEM分析で測定できる1本の鉄−炭素複合体における内包率ないし充填率ではなく、鉄−炭素複合体の集合物である炭素質材料全体としての、炭化鉄又は鉄充填率ないし内包率の平均値を示すものである。
【0072】
尚、多数の本発明鉄−炭素複合体を含む炭素質材料全体としての平均充填率は、TEMで複数の視野を観察し、各視野で観察される複数の鉄−炭素複合体における炭化鉄又は鉄の平均充填率を測定し、更に複数の視野の平均充填率の平均値を算出することによっても求めることができる。かかる方法で測定した場合、本発明の鉄−炭素複合体からなる炭素質材料全体としての炭化鉄又は鉄の平均充填率は、10〜90%程度、特に40〜70%程度である。
【0073】
<本発明の鉄−炭素複合体及びそれを含む炭素質材料の製造方法>
本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料は、
(1)不活性ガス雰囲気中、圧力を10-5Pa〜200kPaに調整し、反応炉内の酸素濃度を、反応炉容積をA(リットル)とし酸素量をB(Ncc)とした場合の比B/Aが1×10-10〜1×10-1となる濃度に調整して、反応炉内でハロゲン化鉄を600〜900℃まで加熱する工程、及び
(2)上記反応炉内を不活性ガス雰囲気とし、圧力を10-5Pa〜200kPaに調整し、熱分解性炭素源を導入して600〜900℃で加熱処理を行う工程
を包含する製造方法により得られる。
【0074】
ここで、酸素量Bの単位である「Ncc」は、気体の25℃での標準状態に換算したときの体積(cc)という意味である。
【0075】
内包される炭化鉄又は鉄の供給源であり、かつ触媒としての機能をも発揮するハロゲン化鉄としては、弗化鉄、塩化鉄、臭化鉄等が例示できるが、これらのうちでも塩化鉄が好ましい。塩化鉄としては、例えば、FeCl2、FeCl3、FeCl2・4H2O及びFeCl3・6H2O等が例示され、これらの少なくとも1種が使用される。これら触媒の形状は特に限定されないが、通常は、粉末状、例えば平均粒子径が1〜100μm程度、特に1〜20μm程度の粉末状で使用するかあるいは気体状で使用するのが好ましい。
【0076】
熱分解性炭素源としては、種々の有機化合物が使用でき、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭素数6〜12の芳香族炭化水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘキサン等の炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素、エチレン、プロピレン、アセチレン等の炭素数2〜5の不飽和脂肪族炭化水素などの有機化合物が挙げられる。液状の有機化合物は、通常、気化させて用いる。これらの中でも、ベンゼン、トルエンなどが好ましい。
【0077】
本発明で使用する反応装置としては、例えば、図1に示すような装置を例示できる。図1の装置においては、反応炉1は石英管、アルミナ管、カーボン管等からなる反応炉であり、加熱装置2を備えている。反応炉にはガス導入口(図示せず)と真空に吸引するためのガス吸引口(図示せず)が備えられている。ハロゲン化鉄は、例えば、磁製ボート、ニッケルボート等のハロゲン化鉄仕込み皿に薄く広げて敷き詰める等して、反応炉内に配置する。
【0078】
工程 (1)
本発明の製造方法においては、まず、反応炉内において、上記触媒であるハロゲン化鉄を不活性ガス雰囲気中で、600〜900℃まで加熱する。
【0079】
不活性ガスとしては、He、Ar、Ne、N2等のガスを例示できる。不活性ガス雰囲気中で触媒の加熱処理を行う際の反応炉内の圧力は、例えば、10-5Pa〜200kPa程度、特に0.1kPa〜100kPa程度とするのが好ましい。
【0080】
加熱処理は、反応炉内の温度、特に触媒の温度が、工程(2)で使用する熱分解性炭素源の熱分解温度に達するまで行う。熱分解性炭素源の熱分解温度は、熱分解性炭素源の種類によっても異なるが、一般には、反応炉内の触媒の温度を600〜900℃程度、特に750〜900℃程度とするのが好ましい。
【0081】
本発明者の研究によると、工程(1)の加熱時に、少量の酸素が存在するのが好ましい。大量の酸素を存在させると、ハロゲン化鉄が酸化鉄になってしまい、所望の複合体を得難い。従って、反応炉内の酸素濃度としては、反応炉容積をA(リットル)とし酸素量をB(Ncc)とした場合の比B/Aが1×10-10〜1×10-1、特に1×10-8〜5×10-3となる濃度とするのが好ましい。
【0082】
この場合、酸素の導入方法としては、種々の方法を採用できるが、例えば、反応炉のガス導入口から、酸素5〜0.01%程度を含有するアルゴン等の不活性ガスからなる混合ガスを徐々に添加するのが好ましい。
【0083】
工程 (2)
次いで、本発明では、工程(2)として、工程(1)の加熱処理により600〜900℃に加熱されているハロゲン化鉄を含む反応炉内を、不活性ガス雰囲気とし、ガス導入口から熱分解性炭素源を導入して加熱処理を行う。
【0084】
この工程(2)の加熱処理を行う際の圧力としては、10-5Pa〜200kPa程度、特に1kPa〜100kPa程度とするのが好ましい。また、工程(2)の加熱処理時の温度は、通常600℃以上であり、特に600〜900℃、好ましくは750〜900℃程度である。
【0085】
熱分解性炭素源の導入方法としては、例えば、ベンゼン等の熱分解性炭素源にアルゴンガス等の不活性ガスをバブリングさせることにより、ベンゼン等の熱分解性炭素源を担持させた不活性ガスを調整し、該ガスを反応炉のガス導入口から少量ずつ導入すればよいが、この方法に限らず、他の方法を採用してもよい。ベンゼン等の該熱分解性炭素源を担持させた不活性ガスの供給速度は、広い範囲から選択できるが、一般には、反応炉容積1リットル当たり、0.1〜1000ml/min程度、特に1〜100ml/min程度となるような速度とするのが好ましい。その際に、必要であれば、Ar、Ne、He、窒素等の不活性ガスを希釈ガスとして導入してもよい。
【0086】
ハロゲン化鉄と熱分解性炭素源との量的割合は、広い範囲から適宜選択すればよいが、ハロゲン化鉄100重量部に対し、熱分解性炭素源を10〜5000重量部程度、特に50〜300重量部程度とするのが好ましい。熱分解性炭素源である有機化合物の量的割合が増大する場合には、カーボンチューブの成長が十分に行われて、長寸法のカーボンチューブが得られる。
【0087】
工程(2)の反応時間は、原料の種類、量などにより異なるので、特に限定されないが、通常0.1〜10時間程度、特に0.5〜2時間程度である。
【0088】
上記工程(2)の加熱処理工程後、通常50〜2000℃/h程度、好ましくは70〜1500℃/h程度、より好ましくは100〜1000℃/h程度の速度で500℃まで冷却することによりナノフレークカーボンチューブとそのチューブ内空間部の10〜90%に充填されている炭化鉄又は鉄からなる鉄−炭素複合体を生成させることができる。
【0089】
また、工程(2)の加熱処理工程後、
(3)反応炉内を工程(2)の温度を維持したまま不活性気体で置換する工程、
(4)不活性気体で置換された反応炉内を950〜1500℃程度、好ましくは1200〜1500℃程度、より好ましくは1300〜1400℃程度に昇温する工程、
(5)昇温終点で終点温度を入れ子構造の多層カーボンナノチューブが生成するまで維持する工程、及び
(6)反応炉を、50℃/h以下程度、好ましくは5〜40℃/h程度、より好ましくは10〜30℃/h程度の速度で冷却する工程
を行うことによりすることにより入れ子構造の多層カーボンナノチューブとそのチューブ内空間部の10〜90%に充填されている炭化鉄又は鉄からなる鉄−炭素複合体を生成させることができる。
【0090】
上記工程(3)で使用する不活性気体としては、Ar、Ne、He、窒素等の不活性ガスが例示できる。また、工程(3)における置換後の炉内の圧力は、特に限定されないが、10-5〜107Pa程度、好ましくは50〜2×105 Pa程度、より好ましくは100〜1.2×105Pa程度である。
【0091】
工程(4)の昇温速度は特に限定されないが、一般には50〜2000℃/h程度、特に70〜1500℃/h程度、より好ましくは100〜1000℃/h程度の昇温速度とすることが好ましい。
【0092】
また、工程(5)の終点温度を維持する時間は、入れ子構造の多層カーボンナノチューブが生成するまでの時間とすればよいが、一般には2〜30時間程度である。
【0093】
工程(6)の冷却時の雰囲気としては、Ar、Ne、He、窒素等の不活性ガス雰囲気であり、圧力条件は特に限定されないが、10-5〜107Pa程度、好ましくは50〜2×105 Pa程度、より好ましくは100〜1.2×105Pa程度である。
【0094】
又、本発明においては、ハロゲン化鉄に代えて、例えば、(A)ニッケル、コバルト等からなる群から選ばれる金属のハロゲン化物、又は(B)上記(A)の該金属のハロゲン化物と他の金属(例えば鉄)のハロゲン化物との混合物を用いて、前記(1)及び(2)と同様の工程を行い、上記と同様の冷却工程を行うことにより、上記(A)のニッケル、コバルトなどからなる群から選ばれる金属、又は、上記(B)の混合物の構成元素からなる合金、又は、上記ニッケル、コバルト等の炭化物を内包したナノフレークカーボンチューブを得ることができる。
【0095】
また、ハロゲン化鉄に代えて、例えば、(a)ニッケル、コバルト等からなる群から選ばれる金属のハロゲン化物、又は(b)上記(a)の金属のハロゲン化物と他の金属(例えば鉄)のハロゲン化物との混合物を用いて、上記工程(1)及び(2)と同様の工程を行った後に、前記(3)〜(6)の工程と同様の工程を行うことにより、上記(a)のニッケル、コバルトなどからなる群から選ばれる金属、又は、上記(b)の混合物の構成元素からなる合金、又は、上記ニッケル、コバルト等の炭化物を内包した同心円筒状の多層カーボンナノチューブを得ることができる。
【0096】
上記チューブ内空間部に内包される金属及び合金の中でも、特に、磁性体であるものが好ましい。かかる磁性体の好ましい例としては、鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた金属、該金属の合金等を例示できる。該金属の合金としては、イ)鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた金属の2種以上からなる合金、ロ)鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた金属と炭素との合金、又はハ)鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた金属の2種以上からなる合金と炭素との合金等を例示できる。
【0097】
本発明では、上記(i)及び(ii)の強磁性体内包ナノスケールカーボンチューブは、その飽和磁化が1〜100emu/g、特に5〜100emu/gであるのが好ましい。なお、本明細書において、飽和磁化は、振動試料型磁化計(東英工業株式会社製振動試料型磁化計VSM-P7-15)により求めた飽和磁化(emu)を測定重量(試料の重量)で割って得られる、(質量)飽和磁化(emu/g)である。
【0098】
(B)担体用液体
本発明では、担体用液体として、炭化水素系オイル、エステル系オイル、フッ化炭素系オイル及びシリコーン系オイルからなる群から選択される担体用液体を使用する。
【0099】
<シリコーン系オイル>
本発明では、上記強磁性物質内包ナノスケールカーボンチューブの分散媒として、シリコーンオイルを使用する。シリコーンオイルとしては、磁性流体の分野で使用されているシリコーンオイルが広い範囲から特に制限されることなく使用できる。これらシリコーンオイルは、常温で液体のものが好ましい。これらシリコーンオイルのうちでも、特に、25℃における粘度が、10〜10000mPa・s程度、特に 100〜7000mPa・s程度のものが好ましい。これらは、すでに多数の製品が上市されているので、かかる市販品を使用することが出来る。
【0100】
上記のシリコーンオイルの中でも、本発明では、一般式(1)で表されるシリコーンオイルを使用するのが好ましい。
【0101】
【化1】
Figure 0004317982
【0102】
(式中、R1 、R2 、R3 およびR4 は、それぞれ、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を示す。R1 、R2 、R3 およびR4 は互いに同一であっても相異なっていてもよい。nは1〜30の整数を示す。)
例えば、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジメチルシロキサン等が例示されるが、これらに限定されない。
【0103】
<炭化水素系オイル>
本発明で使用する炭化水素系オイルとしては、磁性流体の分野で使用されている公知の炭化水素系オイルがいずれも使用できる。例えば、ポリαオレフィン類等を例示できる。
【0104】
<エステル系オイル>
本発明で使用するエステル系オイルとしては、磁性流体の分野で使用されている公知のものがいずれも使用できる。
【0105】
<フッ化炭素系オイル>
本発明で使用するフッ化炭素系オイルとしては、磁性流体の分野で使用されている公知のものがいずれも使用できる。例えば、パーフルオロポリエーテル等が例示できる。
【0106】
(C)界面活性剤
本発明では、基本的には界面活性剤を使用しなくてもよいが、必要に応じて使用してもよい。本発明で使用される界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0107】
アニオン性界面活性剤としては、カルボン酸塩(例えば、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム)、硫酸エステル塩(例えば、アルキル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミン、アルキル硫酸アンモニウム)、スルホン酸塩(例えば、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム)、リン酸エステル塩(例えば、ポリエキシエチレンアルキルエ−テルリン酸カリウム)等が例示できる。塩は、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等である。
【0108】
カチオン性界面活性剤としては、アミン塩(例えば、アルキルアミンアセテート)、アンモニウム塩(例えば、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド)等が例示できる。
非イオン性界面活性剤としては、多価アルコール型、ポリエチレングリコール型等が例示できる。
【0109】
磁性流体
本発明の磁性流体は、前記強磁性物質内包ナノスケールカーボンチューブと前記担体用液体とを、前記界面活性剤を使用することなく、又は前記界面活性剤を使用して、均一に混合することにより得られる。
【0110】
いずれの場合も、(A)成分である強磁性物質を内包するナノスケールカーボンチューブの使用量は、磁性流体として使用するのに有効な量で使用すればよい。一般には、(B)成分である担体用液体100重量部に対して、(A)成分である強磁性物質を内包するナノスケールカーボンチューブを、5〜70重量部程度、特に10〜60重量部、より好ましくは20〜60重量部程度使用するのが有利である。
【0111】
本発明では、界面活性剤を使用しなくてもよいが、界面活性剤を使用する場合、一般には、担体用液体100重量部に対して、10重量部以下、特に0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜7重量部、より好ましくは0.5〜5重量部とするのが好ましい。
【0112】
本発明の磁性流体を製造するには、この分野で通常使用されている分散方法を採用すればよい。例えば、前記(A)成分、(B)成分及び必要に応じて(C)成分を、遊星ミル、ホモジナイザー、ボールミル、超音波処理等の分散処理方法を単独で又は組み合わせて均一な組成物となるまで分散させればよい。また、全体に分散処理をする前に、ナノスケールカーボンチューブ表面に界面活性剤を修飾する処理をしてもよい。
【0113】
こうして、本発明により、(A)強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブ及び(B)担体用液体を含有する磁性流体、並びに、(A)強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブ、(B)担体用液体及び(C)界面活性剤を含有する磁性流体が得られる。
【0114】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明をより一層詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく各種の変更が可能である。
【0115】
先ず、本発明で使用する(A)強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブの製造例を掲げ、次いで、得られた強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブを用いた磁性流体の実施例を掲げる。
【0116】
製造例1
図1に示すような反応装置を使用し、次のようにして本発明の鉄−炭素複合体を得た。
【0117】
工程 (1)
無水FeCl3(関東化学株式会社製)0.5gを磁製ボート内に薄く広げて敷き詰める。これを石英管からなる炉内中央に設置し、炉内を圧力50Paまで減圧する。このとき、真空吸引するラインを取り付けた反応炉端部とは反対側(図1の反応管の左側)から酸素5000ppm含有アルゴンガスを30ml/minの速度で供給する。これにより、反応炉容積をA(リットル)とし、酸素量をB(Ncc)とした場合の比B/Aを、2.5×10-3とした。次いで、反応温度800℃まで減圧のまま昇温する。
【0118】
工程 (2)
800℃に到達した時点で、アルゴンを導入し、圧力を6.7×104Paに制御する。一方、熱分解性炭素源として、ベンゼン槽にアルゴンガスをバブリングさせて、揮発したベンゼンとアルゴンの混合ガスを、反応炉容積1リットル当たり、30ml/minの流速で炉内に導入し、希釈ガスとして、アルゴンガスを20ml/minの流速で導入する。
【0119】
800℃の反応温度で30分間反応させ、500℃まで20分で降温後、ヒーターを取り外して20分で室温まで空冷することにより、本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を200mg得た。
【0120】
SEM観察の結果から、得られた鉄−炭素複合体は、外径15〜40nm、長さ2〜3ミクロンで直線性の高いものであった。また、炭素からなる壁部の厚さは、2〜10nmであり、全長に亘って実質的に均一であった。また、該壁部は、TEM観察及びX線回折法から炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するナノフレークカーボンチューブであることを確認した。
【0121】
また、X線回折、EDXにより、上記本発明の鉄−炭素複合体には炭化鉄が内包されていることを確認した。
【0122】
得られた本発明の炭素質材料を構成する多数の鉄−炭素複合体を電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、ナノフレークカーボンチューブの空間部(即ち、ナノフレークカーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)への炭化鉄の充填率が10〜80%の範囲の種々の充填率を有する鉄−炭素複合体が混在していた。
【0123】
ちなみに、該多数の鉄−炭素複合体のナノフレークカーボンチューブあるいはカーボンナノチューブ内空間部への炭化鉄の平均充填率は40%であった。また、X線回折から算出されたR値は、0.56であった。
【0124】
本製造例1で得られた炭素質材料を構成する鉄−炭素複合体1本の電子顕微鏡(TEM)写真を図2に示す。
【0125】
本製造例1で得られた炭素質材料における多数の鉄−炭素複合体の存在状態を示す電子顕微鏡(TEM)写真を図3に示す。
【0126】
本製造例1で得られた鉄−炭素複合体1本の電子線回折図を図4に示す。図4から、鮮明な電子回折パターンが観測されており、内包物が高い結晶性を有することが分かる。TEM観察の結果、内包物の結晶化率(炭化鉄が充填されている範囲のTEM像の面積に対する、結晶性炭化鉄のTEM像の面積の割合)は、約100%であった。
【0127】
本製造例1で得られた鉄−炭素複合体を含む炭素質材料(鉄−炭素複合材料の集合物)のX線回折図を図5に示す。
【0128】
本製造例1で得られた鉄−炭素複合体1本を輪切状にした電子顕微鏡(TEM)写真を、図6に示す。
【0129】
図6から判るように、本製造例1で得られた炭素質材料においてはその炭素壁面が、入れ子状でもスクロール状でもなく、パッチワーク状(いわゆる paper mache 状ないし張り子状)になっているように見え、ナノフレークカーボンチューブであった。
【0130】
図6から判るように、本製造例で得られた鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブの形状は、円筒状であり、その長手方向にほぼ垂直な断面のTEM写真において観察されるグラフェンシート像は、閉じた環状ではなく、不連続点を多数有する不連続な環状であった。
【0131】
また、本発明の鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブをTEM観察した場合において、その長手方向に配向している多数の略直線状のグラフェンシート像に関し、個々のグラフェンシート像の長さは、概ね2〜30nmの範囲であった(図2)。
【0132】
さらに、図6のチューブ内1〜20までのポイントで測定したEDX測定結果から、炭素:鉄の原子比率は5:5でほぼ均一な化合物が内包されていることが判った。
【0133】
製造例2
図1に示すような反応装置を使用し、次のようにして本発明の鉄−炭素複合体を得た。
【0134】
工程 (1)
FeCl2・4H2O(関東化学株式会社製)0.5gを磁製ボート内に薄く広げて敷き詰める。これを石英管からなる炉内中央に設置し、炉内を圧力50Paまで減圧する。このとき、真空吸引するラインを取り付けた反応管の反対側(図1の反応管左側)から酸素5000ppm含有アルゴンガスを5ml/minの速度で供給する。これにより、反応炉の内容積をA(リットル)とし、酸素量をB(Ncc)とした場合の比B/Aを、2.5×10-3とした。次いで、反応温度800℃まで減圧のまま昇温する。
【0135】
工程 (2)
800℃に到達した時点で、アルゴンを導入し、圧力を6.7×104Paに制御する。一方、熱分解性炭素源として、ベンゼン槽にアルゴンガスをバブリングさせて、揮発したベンゼンとアルゴンの混合ガスを、反応炉容積1リットル当たり、30ml/minの流速で炉内に導入し、希釈ガスとして、アルゴンガスを20ml/minの流速で導入する。
【0136】
800℃の反応温度で30分間反応させることにより、500℃まで20分で降温後、ヒーターを取り外して20分で室温まで空冷することで本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を120mg得た。
【0137】
SEM観察の結果から、得られた炭素質材料を構成する鉄−炭素複合体は、直径15〜40nm、長さ、2〜3ミクロンで直線性の高いものであった。また、炭素からなる壁部の厚さは、2〜10nmであり、全長に亘って実質的に均一であった。また、該壁部は、TEM観察及びX線回折法から、炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するナノフレークカーボンチューブであることを確認した。
【0138】
図7に、本製造例2で得られた鉄−炭素複合体の電子顕微鏡(TEM)写真(1本の鉄−炭素複合体)を示す。
【0139】
図8に、本製造例2で得られた鉄−炭素複合体の電子線回折図を示す。図8から、鮮明な電子回折パターンが観測されており、内包物が高い結晶性を有することが分かる。TEM観察の結果、内包物の結晶化率(炭化鉄又は鉄が充填されている範囲のTEM像の面積に対する、結晶性炭化鉄のTEM像の面積の割合)は、約100%であった。
【0140】
上記本発明の炭素質材料を構成する多数の鉄−炭素複合体を電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、ナノフレークカーボンチューブの空間部(ナノフレークカーボンチューブの炭素壁で囲まれた空間)への炭化鉄又は鉄の充填率が10〜80%の範囲の種々の充填率を有する鉄−炭素複合体が混在していた。
【0141】
TEM観察の結果から、本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料において、ナノフレークカーボンチューブ内空間部への炭化鉄又は鉄の平均充填率は30%(炭素質材料としての平均値)であった。また、製造例1と同様にしてX線回折から算出されたR値は、0.42であった。
【0142】
本製造例で得られた鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブの形状は、円筒状であり、その長手方向にほぼ垂直な断面のTEM写真において観察されるグラフェンシート像は、閉じた環状ではなく、不連続点を多数有する不連続な環状であった。
【0143】
また、本発明の鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブをTEM観察した場合において、その長手方向に配向している多数の略直線状のグラフェンシート像に関し、個々のグラフェンシート像の長さは、概ね2〜30nmの範囲であった(図7)。
【0144】
製造例3〜6
下記表1に記載のようにFeCl3投入量を変更する以外は上記製造例1と同様にして、下記表1のナノフレークカーボンチューブに炭化鉄が部分的に内包されている鉄−炭素複合体を得た。各々の鉄―炭素複合体の炭化鉄充填率及び飽和磁化を表1に併記する。
【0145】
これら製造例3〜6で得られた鉄−炭素複合体S1、S3−S5は、SEM観察の結果から、外径15〜40nm、長さ2〜3ミクロンで直線性の高いものであった。また、炭素からなる壁部の厚さは、2〜10nmであり、全長に亘って実質的に均一であった。また、該壁部は、TEM観察及びX線回折法から炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有する製造例1で得られた鉄−炭素複合体S2と同様のナノフレークカーボンチューブであることを確認した。
【0146】
また、X線回折、EDXにより、鉄−炭素複合体S1、S3〜S5には炭化鉄が内包されていることを確認した。
【0147】
得られた炭素質材料を構成する多数の鉄−炭素複合体を電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、ナノフレークカーボンチューブの空間部(即ち、ナノフレークカーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)への炭化鉄の充填率が10〜90%の範囲の種々の充填率を有する鉄−炭素複合体が混在していた。
【0148】
ちなみに、該多数の鉄−炭素複合体のナノフレークカーボンチューブあるいはカーボンナノチューブ内空間部への炭化鉄の平均充填率(透過型電子顕微鏡で観察した視野から出した平均値)は下記表1に記載の通りであった。
【0149】
【表1】
Figure 0004317982
【0150】
また、上記で合成した鉄−炭素複合体S2(即ち、炭化鉄内包ナノフレークカーボンチューブS2)の磁化特性(10kOeの磁場をかけたときの磁化曲線)を東英工業株式会社製振動試料型磁化計VSM-P7-15により求めた結果を、図10に示す。図10から、鉄−炭素複合体S2の飽和磁化が30emu/gであることが判る。
【0151】
以下に、本発明の強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブを含有する磁性流体についての実施例を掲げ、更に比較例を掲げる。
【0152】
なお、下記の実施例及び比較例において使用した成分は、次の通りである。
(1) パーフルオロポリエーテル:
化学名:パーフルオロポリエーテル(フッ素油、パーフルオロポリメチルイソプロピル、商品名:フォンブリンY‐LVAC25/6、アウジモント株式会社製)
(2) アルキル硫酸ナトリウム:
アルキル基がC1224であるもの。
(3) アルキル硫酸トリエタノールアミン:
アルキル基がC1224であるもの。
(4) ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム:
アルキル基がC1122であるもの。
(5) アルキルアミンアセテート:
アルキルがC1224であるもの。
(6) ポリメチルフェニルシロキサン:
25℃での粘度が100mPa・sであるもの。
(7) ポリジメチルシロキサン:
25℃での粘度が100mPa・sであるもの。
【0153】
実施例1〜6
上記製造例1又は4で得られた鉄−炭素複合体S2又はS3(25重量部)、下記表2に記載の担体用液体100重量部及び表2に記載の界面活性剤2重量部を使用し、これらを混合装置としてフリッチェジャパン製の遊星ミルを用いて400rpmで1時間混合して均一混合物とし、本発明の磁性流体を得た。得られた磁性流体の飽和磁化及び粘度を測定した。表2から、どの界面活性剤でも均一に分散することがわかった。
【0154】
なお、磁性流体の飽和磁化は、振動試料型磁化計(東英工業株式会社製振動試料型磁化計VSM-P7-15)を用いて測定し、磁性流体の粘度はE型粘度計を用いて測定した。
【0155】
【0156】
【表2】
Figure 0004317982
【0157】
上記表2から、界面活性剤を使用した組成は、下記の界面活性剤を使用していない組成(下記表3)に比し、粘度が低いので、担体用液体の含有量を減らすことが可能であることが判る。
【0158】
実施例7〜15
さらに、表3に記載の組成において、界面活性剤の無添加条件で、前記表1に記載の鉄−炭素複合体S3またはS4のパーフルオロポリエーテルへの分散性を調べた。これらのサンプルは磁性流体として動作した。
【0159】
【表3】
Figure 0004317982
【0160】
実施例16〜18及び比較例1及び2及び3
次に、鉄−炭素複合体S2(実施例16〜18)と炭化鉄(比較例1及び2)のパーフルオロポリエーテルへの分散性を比較した。下記表4に記載の各成分からなる混合物について、24時間の超音波照射による分散処理を行なって磁性流体を得た。次いで、得られた磁性流体を遠心分離処理(10000G、30分間)に供して、遠心分離前後の飽和磁化の減少を測定することにより、強磁性成分の分散性を評価した。また、遠心分離後の磁性流体の粘度をE型粘度計により測定した。結果を表4に併記する。
【0161】
【表4】
Figure 0004317982
【0162】
遠心分離後に50gauss以上の減少量があった磁性流体サンプルは、比較例1であった。
【0163】
比較例3では10重量部を超す12重量部の界面活性剤を添加したため、界面活性剤の添加量が10重量部以下の実施例16〜18に比べて粘度の変化はないが、10重量部を越す界面活性剤のため強磁性成分が相対的に減少し、飽和磁化が小さくなる。
【0164】
一方、炭化鉄の場合、パーフルオロポリエーテルへの分散性が悪いため比較例1では遠心分離により大半の炭化鉄が分離してしまい、20 gaussしか示さない磁性流体が得られるのみであった。比較例2では、10重量部を越す界面活性剤のため強磁性成分が相対的に減少し、飽和磁化が小さくなる。
【0165】
試験例1
表5に示す磁性流体(実施例16〜18及び実施例7〜9の磁性流体)について、25℃における界面活性剤の蒸気圧を調べた。界面活性剤を添加していない組成(実施例7〜9)では、蒸気圧が非常に低いので、界面活性剤を使用した組成(実施例16〜18)に比し、高真空でのシールが期待できる。
【0166】
なお、蒸気圧の測定は、10―10Paまでの真空排気能力のある真空チャンバーにそれぞれの磁性流体サンプルを入れ、排気バルブを閉じたときのチャンバー内の圧力を測定することにより行った。
【0167】
【表5】
Figure 0004317982
【0168】
実施例19
鉄−炭素複合体S2と炭化鉄を空気中で400℃で30分間加熱することによる飽和磁化の減少率を測定した。前者が約30%の減少率に対して、後者は約50%もあった。
【0169】
このことから、本発明で使用する炭化鉄内包ナノフレークカーボンチューブ等の強磁性物質内包ナノスケールカーボンチューブは、炭化鉄に比し、磁性流体用の強磁性物質として安定であり、過酷な条件下でも使用できることが判る。
【0170】
【発明の効果】
本発明で使用する強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブは、分散性が優れているので、界面活性剤を使用しなくても、担体用液体に分散でき、そのため、得られる磁性流体は蒸気圧が低く、高真空でのシールに適している。
【0171】
また、界面活性剤を前記所定量範囲内で更に含有させると、強磁性物質内包ナノスケールカーボンチューブの分散性が一段と向上し、その含有量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法を行うための製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】製造例1で得られた炭素質材料を構成する鉄−炭素複合体1本の電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】製造例1で得られた炭素質材料における鉄−炭素複合体の存在状態を示す電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図4】製造例1で得られた鉄−炭素複合体1本の電子線回折図である。
【図5】製造例1で得られた鉄−炭素複合体を含む炭素質材料(鉄−炭素複合体の集合物)のX線回折図である。
【図6】製造例1で得られた鉄−炭素複合体1本を輪切状にした電子顕微鏡(TEM)写真である。尚、図6の写真中に示されている黒三角(▲)は、組成分析のためのEDX測定ポイントを示している。
【図7】製造例2で得られた炭素質材料を構成する鉄−炭素複合体1本の電子顕微鏡(TEM)写真を示す。
【図8】製造例2で得られた鉄−炭素複合体の電子線回折図を示す。
【図9】カーボンチューブのTEM像の模式図を示し、(a-1)は、円柱状のナノフレークカーボンチューブのTEM像の模式図であり、(a-2)は入れ子構造の多層カーボンナノチューブのTEM像の模式図である。
【図10】鉄−炭素複合体S2に、10kOeの磁場をかけたときの磁化曲線を示す。
【符号の説明】
1 反応炉
2 加熱装置
100 ナノフレークカーボンチューブの長手方向のTEM像
110 略直線状のグラフェンシート像
200 ナノフレークカーボンチューブの長手方向にほぼ垂直な断面のTEM像
210 弧状グラフェンシート像
300 入れ子構造の多層カーボンナノチューブの長手方向のTEM像
310 入れ子構造の多層カーボンナノチューブの長手方向の全長にわたって連続する直線状グラフェンシート像
400 入れ子構造の多層カーボンナノチューブの長手方向に垂直な断面のTEM像

Claims (7)

  1. (A)強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブ及び
    (B)炭化水素系オイル、エステル系オイル、フッ化炭素系オイル及びシリコーン系オイルからなる群から選択される担体用液体を含有し、
    強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブが、
    (a) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと、(b)鉄、ニッケル、コバルト及びこれら金属の合金からなる群から選ばれる強磁性物質とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の30〜90%の範囲に、強磁性物質(b)が充填されている強磁性物質−炭素複合体
    であることを特徴とする磁性流体。
  2. カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の40〜70%の範囲に、強磁性物質(b)が充填されている請求項1に記載の磁性流体。
  3. 強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブの飽和磁化が1〜100emu/gである請求項1又は2のいずれかに記載の磁性流体。
  4. (A)強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブ、
    (B)炭化水素系オイル、エステル系オイル、フッ化炭素系オイル及びシリコーン系オイルからなる群から選択される担体用液体および
    (C)陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤からなる群から選択される界面活性剤
    を含有し、強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブが、
    (a) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと、(b)鉄、ニッケル、コバルト及びこれら金属の合金からなる群から選ばれる強磁性物質とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の30〜90%の範囲に、強磁性物質(b)が充填されている強磁性物質−炭素複合体
    であることを特徴とする磁性流体。
  5. カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の40〜70%の範囲に、強磁性物質(b)が充填されている請求項4に記載の磁性流体。
  6. 強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブの飽和磁化が1〜100emu/gである請求項4又は5に記載の磁性流体。
  7. 担体用液体100重量部に対して、強磁性物質をチューブ内空間部に内包するナノスケールカーボンチューブ5〜70重量部、及び界面活性剤0.1〜10重量部を含有する請求項4〜6のいずれかに記載の磁性流体。
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