JP4300876B2 - 摺動部材及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、摺動部材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
トライボロジーコーティング材として注目を集めているDLC(ダイヤモンドライクカーボン)に代表される硬質炭素膜は、非常に平滑に形成でき且つ自己潤滑性を有することにより摩擦係数が小さく、しかも硬度が非常に高いゆえに耐摩耗性を有する。従って、こうした硬質炭素膜を軸受等の摺動部材に適用することが研究されている。
【0003】
硬質炭素膜は、PVD法(物理気相蒸着法)やCVD法(化学気相蒸着法)を用いることによって、真空容器内に設置された基材上に形成することが可能である。
【0004】
前記したように硬質炭素膜は、摺動部材の被膜として非常に優れた性質を有るものであるが、この硬質炭素膜の性能を有効に活用するためには、この硬質炭素膜が、鉄鋼やその他の合金材料等からなる軸受等の基材に対して高い密着性を有して強固に固定できる必要がある。
【0005】
上記硬質炭素膜の密着性の問題を解決するために、従来より様々な研究が行われている。なかでも、イオン注入技術を利用した方法は、被膜/基材界面において、被膜中の原子、注入した原子、基材を構成する原子の混合層を形成できることにより、密着性改善の有力な方法の一つと考えられている。
【0006】
上記イオン注入法の1つとして、出願人は、基板の表面に、硬質炭素膜を形成しつつイオンを注入することにより、1×1016/cm2以上のイオンが基材内部に注入されるようにして、基材内部に被膜中の原子と注入した原子と基材を構成する原子の混合層を形成した後、混合層の上面に硬質炭素膜を形成する方法を提案した(特許文献1参照)。
【0007】
また、基板上に硬質炭素膜を形成する際に、熱的に安定な炭素、珪素、クロムまたはモリブデン等の水素化物を形成しない元素をイオン注入した後、硬質炭素膜をこの基板上に形成するようにした硬質炭素膜の成形方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、基板と硬質炭素膜の間に中間膜を挿入する方法がある(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
【特許文献1】
特開2002−167660号公報
【特許文献2】
特開平08−193259号公報
【特許文献3】
特開平05−221691号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
前記特許文献1では、硬質炭素膜を形成しつつイオンを注入する場合を示しており、この手法によって、ニッケル系合金(ニッケル・クロム・鉄合金=インコネル相当材)や、各種ステンレス鋼(SUS304,SUS420J2,SUS630他)に対して硬質炭素膜を高い密着強度で一体化できることを確認できている。しかし、炭素鋼やクロム・モリブデン鋼等合金添加量の比較的少ない材料に関しては、前述の材料の場合に比して硬質炭素膜の密着強度が低減することが判明した。その結果、油中に混入した硬い異物が硬質炭素膜に大きな加圧力で作用した場合や、非常に高い面圧で摩擦される摺動部品等に用いた場合には、局部的な応力によって硬質炭素膜が剥離することが懸念される。
【0011】
従って、鋼の基材に対しても前記硬質炭素膜を高い密着強度で一体化できる硬質炭素膜の形成技術が待望されている。
【0012】
また、前記特許文献2では、炭素、珪素、クロムまたはモリブデン等の元素を基材表面にイオン注入した後、この基板上に硬質炭素膜を形成する方法であるが、次のような種々の問題を有している。即ち、前記特許文献2で例を挙げているイオンは、イオンの発生方法を考慮すれば、全て質量分離を行う必要がある。その場合、装置の大型化・複雑化が避けられず、プロセス的に高価な方法となってしまう。また、この手法で達成された密着性では、前述した局部的な応力による膜の剥離が生じる場合があった。
【0013】
また、前記特許文献3には広く一般に用いられている、中間膜を挿入する方法が記載されている。この手法では前述した炭素鋼やクロム・モリブデン鋼等への密着性が不十分であり、発明者らの実験によると、前述した過酷な摩擦環境で生じる局部的な応力による膜の剥離が認められる場合があった。
【0014】
更に、前記特許文献3と前記特許文献1を複合化した手法、即ち、中間膜を形成しつつイオンを注入する手法によって、中間膜の密着強度を高める試みを行ったが、密着強度の大幅な向上は認められなかった。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みてなしたものであり、イオン注入法を用いた硬質炭素膜の形成において、特に鋼の基材に対しても硬質炭素膜の付着性を確実に高めることができるようにした摺動部材及びその製造方法に関するものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基材の表面に形成したSi含有炭素膜に対してイオン注入を行い基材との界面にミキシング部を形成させた中間層と、該中間層の表面に所定の膜厚で形成した硬質炭素膜とからなることを特徴とする摺動部材、に係るものである。
【0017】
上記手段において、前記中間層と硬質炭素膜との間に、中間層から硬質炭素膜に向かってSi量が順次減少し炭素量が順次増加する組成傾斜部を形成してもよい。
【0018】
また、前記基材は鋼であってもよい。
【0019】
本発明は、基材の表面にSi含有炭素原料を用いてCVD法によりSi含有炭素膜による中間層を形成する中間層形成工程と、中間層を貫通するイオン注入により基材と中間層との界面のミキシングを行うミキシング工程との組合わせを少なくとも1回以上行った後、前記中間層の表面に硬質炭素膜用原料を用いてCVD法により所定の膜厚で硬質炭素膜を形成することを特徴とする摺動部材の製造方法、に係るものである。
【0020】
上記手段において、前記中間層の表面に、該表面から離反するに従ってSi量が減少するようにSi含有炭素原料と硬質炭素膜用原料の割合を順次変化させてCVD法により組成傾斜部を形成し、該組成傾斜部の表面に前記硬質炭素膜を形成するようにしてもよい。
【0021】
また、前記基材は鋼であってもよい。
【0022】
更に、前記Si含有炭素原料には、トリメチルシランを用いることができ、また、テトラメチルシランを用いることができ、また、シロキ酸を用いることができる。
【0023】
また、前記硬質炭素膜用原料には、炭化水素ガスを用いることができる。
【0024】
上記手段によれば、以下の如く作用する。
【0025】
トリメチルシラン、テトラメチルシラン、シロキ酸等のSi含有炭素原料を用いて、CVD法により基材の表面にSi含有炭素膜による中間層を形成する中間層形成工程と、この中間層を貫通するイオン注入により基材と中間層との界面のミキシングを行うミキシング工程との組合わせを少なくとも1回以上行った後、前記中間層の表面に炭化水素ガスによる硬質炭素膜用原料を用いてCVD法により所定の膜厚で硬質炭素膜を形成する。このように、基材表面にSi含有炭素膜による中間層を形成し、この中間層をイオン注入して基材と中間層との界面のミキシングを行っているので、イオン注入によってSi含有炭素膜の炭素原子が基材に注入されるときにSi原子がこれに伴われて基材中に取り込まれてミキシングされることになり、これによって基材と中間層との密着強度が高められる。一方Si含有炭素膜からなる中間層に対する硬質炭素膜の密着強度は元々高いので、基材に対する硬質炭素膜の密着強度は高く保持される。
【0026】
従って、鋼の基材に対しても硬質炭素膜の密着強度を大幅に高めることができるので、一般に用いられている鋼製の軸受等の耐摩擦、耐摩耗、潤滑性を維持しつつ大幅な寿命延長が図れる。
【0027】
また、前記中間層の表面に、中間層から離反するに従ってSi量が順次減少するようにSi含有炭素原料と硬質炭素膜用原料の供給割合を順次変化させて組成傾斜部を形成した後に、この組成傾斜部の表面に前記硬質炭素膜を形成したので、中間層と硬質炭素膜との間の密着強度が更に高まり、よって基材に対する硬質炭素膜の密着強度は更に高められる。また、前記組成傾斜部の形成は、Si含有炭素原料ガスと硬質炭素膜用原料ガスの供給割合を調整するのみで行えるので作業が非常に容易である。
【0028】
また、前記中間層の形成、イオン注入、硬質炭素膜の形成のすべての操作を1つの装置で行えるので、装置設備がコンパクトにできる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
図7は、本発明の摺動部材の製造に用いられる製造装置の一例を示したものであり、真空チャンバ2の内部に、基材1を支持する支持装置3が設けられており、支持装置3は基材1を支持した状態で回転するようにした場合を示している。
【0031】
真空チャンバ2には、磁場とマイクロ波を利用した電子サイクロトロン共鳴法によりプラズマを発生させてCVD法を実施するためのプラズマ源4と、イオン源から静電的に引き出したイオンビームを基材1に照射するイオン照射装置5が設けられている。イオン照射装置5によってイオン注入するイオン種としては、本件特許出願人が先に出願を行った前記特許文献1に記載されているように、炭素イオン(C )或いはネオン(Ne )などを用いることができる。図7では、イオンビームを用いたイオン注入法の場合を示しているが、イオン注入法にはこの他、プラズマ中に置かれた基材に負のパルス電圧を印加することで基材へイオンを注入するようにしたプラズマイオン注入法等があり、種々のイオン注入法を用いることができる。
【0032】
更に、前記真空チャンバ2には、Si含有炭素原料供給装置6が弁7を備えた配管により接続されており、弁7を操作することによって、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、シロキ酸等のSi含有炭素原料8を真空チャンバ2に供給できるようになっている。また、前記真空チャンバ2には、硬質炭素膜用原料供給装置9が弁10を備えた配管により接続されており、弁10を操作することによって、メタン、エチレン、ベンゼン、アセチレン、トルエン等の炭化水素ガスからなる硬質炭素膜用原料11を真空チャンバ2に供給できるようになっている。
【0033】
図1は図7の製造装置を用いて製造した摺動部材の構成の一例を示すもので、この摺動部材12は、鋼からなる基材1と、該基材1の表面にSi含有炭素膜13aを形成してこのSi含有炭素膜13aを貫通するようにイオン注入させることで基材1とSi含有炭素膜13aとの界面にミキシング部14を形成した中間層13と、該中間層13の表面に所定の膜厚で形成した硬質炭素膜15とから構成されている。
【0034】
次に、図7の製造装置を用いて図1の摺動部材12を製造する手順について図2を参照して説明する。
【0035】
図7の製造装置における弁7を開けて、Si含有炭素原料供給装置6によりSi含有炭素原料8を真空チャンバ2に供給する。このとき、Si含有炭素原料8としては、ガス状のトリメチルシラン、テトラメチルシラン、シロキ酸のいずれかを用いることができる。
【0036】
上記したように、真空チャンバ2にSi含有炭素原料8が供給された状態で、図2(A)に示す如く、プラズマ源4を用いたCVD法を実施することにより、基材1上にSi含有炭素膜13aを形成する中間層形成工程Iを実施する。このとき、トリメチルシランを用いて形成したSi含有炭素膜13aは、炭素に対しておよそ25%のSiを含み、テトラメチルシランを用いて形成したSi含有炭素膜13aは、炭素に対しておよそ20%のSiを含むことになる。
【0037】
次に、イオン照射装置5によるイオンビームの照射を行い、図2(B)に示す如く、Si含有炭素膜13aによる中間層13を貫通するようにイオン注入を行い、基材1と中間層13との界面をミキシングさせてミキシング部14を形成するミキシング工程IIを実施する。
【0038】
本発明者らは、上記したように、炭素とSiを有するSi含有炭素膜13aを基材1の表面に形成し、このSi含有炭素膜13aを貫通するようにイオン注入すれば、イオン注入によってSi含有炭素膜の炭素原子が基材に注入されるときにSi原子がこれに伴われて基材1中に取り込まれてミキシングされ、これによって基材1と中間層13との密着強度が高められるのではないかと考えた。
【0039】
そして、上記したように基材1上に形成したSi含有炭素膜13aをイオン注入した際の、中間層13と基材1との界面に形成されたミキシング部14について組成分析試験を実施したところ、図3に示す結果を得た。図3では、鉄Feに対して炭素Cと珪素Siが相互に入り込んだ良好なミキシングが行われていることを表わしており、これによって本発明者らによる考えが正しかったことが立証された。
【0040】
また、前記中間層形成工程Iとミキシング工程IIとは、それを組合わせて少なくとも1回以上行うようにしている。上記組合わせの工程を複数回行うと、ミキシング部14と最外側のSi含有炭素膜13aとの間でのSi原子の濃度の変化がなだらかな組成傾斜となるので、基材1と中間層13との密着強度が更に高められて好都合である。
【0041】
続いて、図7の製造装置における弁7を閉めて、弁10を開け、硬質炭素膜用原料供給装置9により硬質炭素膜用原料11を真空チャンバ2に供給する。このとき、硬質炭素膜用原料11としては、メタン、エチレン、ベンゼン、アセチレン、トルエン等の炭化水素ガスのいずれかを用いることができる。
【0042】
上記したように、真空チャンバ2に硬質炭素膜用原料11を供給した状態で、図2(C)に示す如く、中間層13の表面にCVD法により硬質炭素膜15を形成する硬質炭素膜形成工程IIIを実施する。この工程IIIによって所定の膜厚の硬質炭素膜15を形成することにより、図1の摺動部材12を得る。このとき、炭素を多く含んだSi含有炭素膜13aからなる中間層13とその上に形成され硬質炭素膜15とは元々密着強度が高いので、中間層13の上に直接硬質炭素膜15を形成しても、基材1に対する硬質炭素膜15の密着強度は高く保持できる。
【0043】
図1に示した本発明の摺動部材と、比較例1及び比較例2について、ボールオンディスク摩擦試験を実施した。上記比較例1は、鋼の基材表面にCVD法によりSi含有炭素膜を形成し、イオン注入によるミキシングを行うことなしに、前記Si含有炭素膜13aの表面にCVD法にて硬質炭素膜を形成した場合である。比較例2は、鋼の基材表面にスパッタリング法によりSiを注入したSi中間層を形成し、そのSi中間層の表面にCVD法により硬質炭素膜を形成した場合である。尚、上記摩擦試験では、直径9.5mmのSiCボールに100Nという非常に大きな負荷を掛けて実施した。上記摩擦試験による摩擦回数と摩擦係数の関係を図4に示した。
【0044】
図4に示す如く、比較例1では、試験の開始早々に硬質炭素膜が剥離し、使用に耐えることができなかった。
【0045】
また、比較例2では、摩擦係数が不安定に変動し、更に約38000回の手前の摩擦回数で硬質炭素膜が完全に剥離した。このように摩擦中に摩擦係数が大きく変動する場合の多くは、摺動面の一部において被膜が剥離したことに起因しており、被膜の密着強度の改善が必要である。
【0046】
これに対し、本発明では、摩擦係数は約0.015〜0.02前後と小さく、しかも殆ど変動することなく安定している。また約42000回の摩擦回数でも摩擦係数が僅かに増加したのみであり、その場合でも比較例2より低い値を示している。尚、図4において本発明が42500回前後の摩擦回数で摩擦係数が急激に増加したが、これは硬質炭素膜が剥離したことによるものではなく、硬質炭素膜が損耗したことによるものであった。従って、前記硬質炭素膜の膜厚を大きくすることによって、摩擦係数を低く安定させた状態で更に大きな摩擦回数まで耐えることが可能となり、よって大幅な寿命延長が可能であることが判明した。
【0047】
図5は、図7の製造装置を用いて製造した摺動部材の構成の他の例を示すもので、この摺動部材16は、図1の摺動部材12における中間層13と該中間層13上に形成される硬質炭素膜15との間に、中間層13の表面から離反するに従ってSi量が順次減少し炭素量が順次増加するようにした組成傾斜部17を形成した場合を示している。
【0048】
次に、図7の製造装置を用いて図5の摺動部材16を製造する手順について図6を参照して説明する。
【0049】
図6(A)、(B)に示すように、中間層形成工程Iとミキシング工程IIとを組合わせて少なくとも1回以上行うことによって中間層13を形成する作業は図2の場合と同様である。
【0050】
次に、図7の製造装置のプラズマ源4を用いて図6(C)のCVD法を実施する際に、弁7を開けた状態から徐々に絞ることによってSi含有炭素原料供給装置6から真空チャンバ2に供給するSi含有炭素原料8の供給量を順次減少させる操作と、弁10を徐々に開いて硬質炭素膜用原料供給装置9から真空チャンバ2に供給する硬質炭素膜用原料11の供給量を順次増加させる操作とを同時に行い、これによって、中間層13の表面から離反するに従ってSi量が順次減少して最終的にはなくなる組成傾斜部17を形成する組成傾斜部形成工程IVを実施する。
【0051】
その後、弁7が閉じられ、弁10のみが開けられて真空チャンバ2に硬質炭素膜用原料11が供給された状態において、図6(D)に示す如く、前記中間層13の表面にCVD法により硬質炭素膜15を形成する硬質炭素膜形成工程IIIを実施する。この工程IIIによって所定の膜厚の硬質炭素膜15を形成することにより、図5の摺動部材16を得る。このように、Si含有炭素膜13aからなる中間層13の上部に、中間層13の表面から離反するに従ってSi量が順次減少して最終的に炭素100%の硬質炭素膜15となる組成傾斜部17を形成したことにより、図1の摺動部材12に比して、中間層13と直接硬質炭素膜15との密着強度が更に高められ、これによって基材1に対する硬質炭素膜15の密着強度が更に高められる。
【0052】
上記したように、鋼の基材1に対する硬質炭素膜15の密着強度を高めることができるので、一般的に用いられている鋼からなる軸受等の耐摩擦、耐摩耗、潤滑性の性能を維持して大幅な長寿命化が達成できるようになる。
【0053】
上記形態例においては、基材が鋼である場合について説明したが、ニッケル系合金或いはその他の種々の基材に対しても同様に硬質炭素膜を高い密着強度で固定することができる。
【0054】
更に、本発明は、上記形態例に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0055】
【発明の効果】
請求項1及び4の発明によれば、Si含有炭素原料を用いてSi含有炭素膜からなる中間層を形成し、この中間層をイオン注入して基材と中間層との界面のミキシングを行っているので、イオン注入によってSi含有炭素膜の炭素原子が基材に注入されるときにSi原子がこれに伴われて基材中に取り込まれてミキシングされることになり、これによって基材と中間層との密着強度が高められる。一方Si含有炭素膜からなる中間層に対する硬質炭素膜の密着強度は元々高いので、基材に対する硬質炭素膜の密着強度は高く保持される。
【0056】
従って、鋼の基材に対しても硬質炭素膜の密着強度を大幅に高めることができるので、一般に用いられている鋼製の軸受等の耐摩擦、耐摩耗、潤滑性を維持しつつ大幅な寿命延長が図れる。
【0057】
請求項2及び5の発明によれば、また、前記中間層の表面に、中間層から離反するに従ってSi量が順次減少するようにSi含有炭素原料と硬質炭素膜用原料の供給割合を順次変化させて組成傾斜部を形成した後に、この組成傾斜部の表面に前記硬質炭素膜を形成したので、中間層と硬質炭素膜との間の密着強度が更に高まり、よって基材に対する硬質炭素膜の密着強度は更に高められる。また、前記組成傾斜部の形成は、Si含有炭素原料ガスと硬質炭素膜用原料ガスの供給割合を調整するのみで行えるので作業が非常に容易である。
【0058】
また、前記中間層の形成、イオン注入、硬質炭素膜の形成のすべての操作を1つの装置で行えるので、装置設備がコンパクトにできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における摺動部材の一例を示す概略図である。
【図2】(A)、(B)、(C)は図1の摺動部材を製造する手順を示す工程説明図である。
【図3】イオン注入によってSi含有炭素膜と基材との界面に形成されたミキシング部の組成を分析した結果の組成線図である。
【図4】本発明による摺動部材と従来の比較例1及び比較例2とを摩擦試験した際の摩擦回数と摩擦係数の関係を表わす線図である。
【図5】本発明における摺動部材の他の例を示す概略図である。
【図6】(A)、(B)、(C)、(D)は図5の摺動部材を製造する手順を示す工程説明図である。
【図7】本発明の摺動部材の製造に用いられる製造装置の一例の概略を示す断面図である。
【符号の説明】
1 基材
4 プラズマ源
5 イオン照射装置
8 Si含有炭素原料
11 硬質炭素膜用原料
12 摺動部材
13 中間層
13a Si含有炭素膜
14 ミキシング部
15 硬質炭素膜
16 摺動部材
17 組成傾斜部
I 中間層形成工程
II ミキシング工程
III 硬質炭素膜形成工程
IV 組成傾斜部形成工程

Claims (10)

  1. 基材の表面に形成したSi含有炭素膜に対してイオン注入を行い基材との界面にミキシング部を形成させた中間層と、該中間層の表面に所定の膜厚で形成した硬質炭素膜とからなることを特徴とする摺動部材。
  2. 前記中間層と硬質炭素膜との間に、中間層から硬質炭素膜に向かってSi量が順次減少し炭素量が順次増加する組成傾斜部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
  3. 前記基材が鋼であることを特徴とする請求項1または2に記載の摺動部材。
  4. 基材の表面にSi含有炭素原料を用いてCVD法によりSi含有炭素膜による中間層を形成する中間層形成工程と、中間層を貫通するイオン注入により基材と中間層との界面のミキシングを行うミキシング工程との組合わせを少なくとも1回以上行った後、前記中間層の表面に硬質炭素膜用原料を用いてCVD法により所定の膜厚で硬質炭素膜を形成することを特徴とする摺動部材の製造方法。
  5. 前記中間層の表面に、該表面から離反するに従ってSi量が減少するようにSi含有炭素原料と硬質炭素膜用原料の割合を順次変化させてCVD法により組成傾斜部を形成し、該組成傾斜部の表面に前記硬質炭素膜を形成することを特徴とする請求項4に記載の摺動部材の製造方法。
  6. 前記基材が鋼であることを特徴とする請求項4または5に記載の摺動部材の製造方法。
  7. 前記Si含有炭素原料が、トリメチルシランであることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1つに記載の摺動部材の製造方法。
  8. 前記Si含有炭素原料が、テトラメチルシランであることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1つに記載の摺動部材の製造方法。
  9. 前記Si含有炭素原料が、シロキ酸であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1つに記載の摺動部材の製造方法。
  10. 前記硬質炭素膜用原料が、炭化水素ガスであることを特徴とする請求項4〜9のいずれか1つに記載の摺動部材の製造方法。
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