本発明は、拍動する心臓を安定させる外科用装置および該装置の使用方法である。拍動する心臓を安定させる手段は、心臓の表面に係合して、拍動する心臓を冠状動脈手術時に安定させる少なくとも1つの構成要素を有する複数の異なる構造を具える。これらの装置は、心臓に安定化手段の構成要素を接触させ、外科的処置の継続時間にわたって安定化手段の位置を機能的に固定することにより、心臓に対して安定化力を加えかつ維持する機能を果たす。
本発明の装置および方法は、たとえば迂回用移植片を取り付けることまたは源動脈を接続することにより、心停止法または線維攣縮等の心停止を必要とせずかつ心肺迂回(CPB)を用いることなしに吻合を容易に完成させるために特別に開発された、侵入を最小限に抑えた冠状動脈迂回(CABG)手術を標的冠状動脈に対して行なう際に心臓を安定させるのに用いられることが好適である。拍動する心臓を安定させる手段は、さまざまな外科的処置に適用されうるが、本明細書で説明される装置は、侵入を最小限に抑えた切開部が胸部に1ヵ所または2ヵ所だけ形成されるCABG法に用いるのが最も有利である。本発明の安定化手段の完全な構造は、侵入を最小限に抑えた外科的処置が実施されている時に拍動する心臓を安定させておく複数の実施例の構造のいずれで達成されるものであってもよい。安定化手段の別個の構成要素は、牽引子と、閉塞装置と、外科用送風器または吸引装置と、LIMA保持装置等の源動脈を保持する装置と、外科医がより効率的に吻合を完成させることを可能にするその他の同様の別個のまたは一体的な外科用機器または装置とを内蔵する多部品装置においても有利に機能しうる。本明細書に開示されるいずれの装置も、機械的な手段を用いて拍動する心臓を安定させるものであるが、一部の実施例は心臓全体に作用するように設計される一方で、その他の実施例は、より局所的な効果を有しており、吻合部の標的動脈等の構造に直接隣接する部位に適用されうる。いずれの場合も、拍動する心臓は、外科的処置が実施される部位で効果的に安定化される。
拍動する心臓への手術路は、従来の心臓迂回手術用に開発された複数の慣例の外科的処置によって実現され得、そのために、外科医は、拍動する心臓に迂回路を取り付けるいかなる処置の場合も、心臓への接近路を確保する外科的方法にかかわりなく、本発明が提供する利点を得ることができる。外科医は、さらに他の方策により胸腔内で心臓全体の動きを抑制して、本明細書に開示される特定の実施例を用いて拍動する心臓を位置決めまたは配向することが好ましい。たとえば、膨張可能な緩衝体または細紐を取り付けられて有する調節可能な帯を心臓の下または周囲に挿入してもよい。拍動する心臓への接近路が胸骨切開術によって実現される場合は、胸骨の全長の少なくとも一部分を分断して心臓の表面を露出させる。また、心膜を利用することができる場合は、心膜を切開して、拍動する心臓を位置決めするのに利用してもよい。利用可能は場合には、外科医は、心膜を利用して拍動する心臓を胸腔内で持ち上げて回転させ、心膜を切開部の周縁部に縫合することによってその位置を維持することができる。
好適な実施例では、拍動する心臓への、侵入を最小限に抑えた接近路は、通常的に胸部左側で肋骨間に小さめの切開部を形成することにより開胸部を創出した後に、肋骨間に牽引子を挿入して肋骨を開かせ、牽引子を開位置に固定して源血管および標的冠状動脈への接近路を得ることによって実現される。上記のように心膜を利用して拍動する心臓を位置決めすることは、侵入が軽減された開胸術を用いて心臓への接近路を得る場合に特に有利である。この処置では、心膜に切開部が創出されて、次に心膜が開胸部の周縁部に縫合される。この状態で、心膜は拘束袋の働きをして、拍動する心臓を、吻合を達成する上で望ましい配向に維持する。
一旦心臓への接近路が実現され、必要に応じて心臓が位置決めされると、拍動する心臓を安定させる手段を、開胸術により創出された開口を通して導入して、本発明の安定化装置の少なくとも1つの構成要素を拍動する心臓に接触させる。次に、外科医は、安定化手段により、拍動する心臓に安定化力を加え、その後、安定化装置を固定支持体に取り付けることにより位置固定することができる。肋骨牽引子または牽引台を開位置に固定して心臓を露出させる場合には、牽引子台もまた、安定化装置を固定する安定な支持構造体となりうる。安定化手段の位置を安定支持体または牽引子台に取り付けることにより固定すると、安定化力が処置の継続時間にわたって維持される。
特定の源血管と標的動脈との吻合は臨床的に判断されるが、拍動する心臓に対する侵入を最小限に抑えた通常的な迂回処置として、源動脈としての左内胸動脈(LIMA)と標的動脈としての左前室間枝(LAD)との間に接続部を形成させる吻合があげられる。本明細書ではLIMAとLADとの吻合を例にとるが、本明細書で説明される技術および装置は、臨床的診断に応じてその他の処置にも、また患者の解剖にも適用されうることが容易に理解される。吻合を完成させるためには、外科医は、LIMAの一部分を胸腔内部から取り出すことにより切除しなければならない。一旦LIMAの切除が達成されると、外科医は、切除されたLIMAを標的冠状動脈であるLADに取り付けることができる。本例においては、本発明の安定化手段は、少なくとも前記処置の一環として外科医がLIMAとLADとの吻合を完成させる時に、拍動する心臓を安定させるのに用いられる。
心臓に接触する安定化装置の一部分の構造には、吻合部位に隣接する位置で心臓に安定化力を加える1つ以上の接触部材が含まれうる。1対の接触部材は、吻合部位において標的冠状動脈の両側に配置されかつ摩擦手段または組織伸張または収縮手段を付随して有しうる板または矩形部材であってもよい。これらの接触部材は、さらにまた、実質的に平面状であるかまたは心臓の表面に整合的に密着する外形を有する台であってもよい。また、安定化手段に、複数の異なる実施例を持つ軸手段を含ませて、装置の位置および配向を調節しやすくすることもできる。たとえば、この軸手段は、調節可能な長さを有していてもよく、軸手段の軸は、その全長内に配設されて接触部材または安定支持体等のその他の構造体に対する軸手段の配向を連続的に変化させうるような少なくとも1つの玉継手を有しうる。複数の実施例の説明から明らかなように、本明細書で説明されかつ図示される個別の実施例の各々は、本発明の範囲または精神から外れることなしに、その他の複数の実施例のいずれの特徴とも容易に切り離されることまたは組み合わされることができる別個の構成要素および特徴を有する。
図1を参照すると、拍動する心臓を安定させる手段は、2つであることが好適な1つ以上の接触部材1を具えており、これらの接触部材は、剛性または半剛性の接続軸2に取り付けられ、この接続軸はさらに軸手段3に接続される。接触部材1は、実質的に平面状であってもよく、心臓の形状に整合するように若干湾曲していてもよく、または接触部材1の単なる一部分と拍動する心臓との間で接触が確立される非整合曲面であってもよい。接触部材1は、円筒部材、U字形に形成される部材を含む複数の異なる形状のいずれを有していてもよく、または互いに離間して標的動脈が接触部材間に配置されうるようにする1対の実質的に平行な部材を具えていてもよい。接触部材の形状は、外科医による臨床検査、安定化手段のその他の特徴の設計または吻合を完成させるのに用いられるその他の装置の設計に応じて変化しうる。一部の実施例では、本明細書で説明されるように、接触部材1は、縫合糸またはその他の装置との接続を容易にして、所要の安定化、標的血管の閉塞または標的血管の露出を達成する孔部、開口または付属物を有しうる。好適な実施例では、1対の実質的に平面状の矩形接触部材1が、一方の端部で連続的な接続軸2に取り付けられ、実質的に平行な態様に配向されて、安定化手段を心臓に係合させた時に標的心臓動脈が両者間に配置され、より長い接触部材1に沿って延在するようになっている。図164〜図166を参照されたい。接続軸2は、動脈に接触することなしに接触部材1を相互接続する連続軸であってもよく、または図98〜図103に示されるように接触部材1間に配置される標的動脈に接触して、標的動脈を通る血液の通路を閉塞させる働きをしうるさらに他の部材を含んでいてもよい。接触部材1、接続軸2および軸手段3は、軸手段3が操作されるかまたは固定されることで接触部材が拍動する心臓に対して安定化力を加えることにより心臓に加えられる安定化力に耐えうるだけの十分な引張り強度を有する生体適合性プラスチックまたはステンレス鋼等のいかなる非毒性材料により構成されてもよい。さらにまた、接触部材1の各々は一方の端部で接続軸2に接続され、この接続軸2は軸手段3に動作可能に取り付けられるが、本明細書で説明されかつ図示される接触部材の個別の実施例の各々は、当業者が異なる設計の軸手段等のその他の複数の実施例または本発明のその他の構成要素のいずれの特徴とも容易に切り離すことまたは組み合わせることが可能な別個の特徴を有する。
軸手段3は、単純な剛性柱であってもよく、またはその全長沿いの少なくとも1地点で長さおよび配向を調節できるように設計される多部品システムを具えていてもよい。このようにすると、外科医は、軸手段3の長さと、軸手段3の遠位(下側)端部にある接触部材1の配向とを変化させることができる。接触部材1に対する軸手段3の長さおよび配向は、軸手段3の近位(上側)端部に配設される調節部により調節されうることが好ましい。(「遠位」という用語は、本明細書で使用される場合には、心臓に最も隣接する装置部分を表わす一方で、近位という用語は、切開部の外側に延在し得かつ大抵の場合に外科医が容易に操作しうる反対側部分を表わす。)この設計は、外科医が接触部材を心臓の表面上に配置することにより安定化手段を拍動する心臓に導入し、次に安定化力を加えることと接触手段1を軸手段3に対して位置固定することとを組み合わせて行なうことができるという利点を提供する。さらにまた、外科医は、その後、軸手段を牽引子などの安定支持体に取り付けることにより固定位置に固定して、以て処置の継続時間にわたって安定化力を維持することができる。ある実施例では、軸手段3は、ハウジング11を有しており、このハウジングの全体としての長さは、ハウジングのまわりで締め付けられる環状のつまみ8により操作される入れ子状解放装置によって調節される。軸手段3に対する接触部材1の位置および配向は、接続軸2の間に介在しかつ軸手段3の遠位端に配置される固定用玉継手5によって調節されうる。この固定用玉継手5は、軸手段3の位置を接触部材1に対して3つの自由度で位置決め可能にする。
再び図1を参照すると、固定用玉継手5は、玉継手5に整合的に接触して玉継手5の位置を固定するブロック6を軸手段3内に含めることによって得られる。ブロック6は、長尺の入れ子状スプライン付き軸と軸収容体とを組み合わせたもの9に接続されるねじ付き押しブロック7を軸手段3の上端にあるつまみ8等の手段により作動させると、玉継手5に押し付けられる。操作時には、最上部のつまみ8を回転させることにより、下側玉継手5が緩められて、接触手段1に対して軸手段3を連続的に位置決めすることができ、逆回転により玉継手5は位置固定されて、接触部材1の位置が軸手段3に対して固定される。
軸手段3の上端にも上側玉継手13を付随して設けて、軸手段3が牽引子等の固定支持体(図示せず)に対して4つの自由度で配向されうるようにしてもよい。軸手段3の位置および配向は、上側玉継手13の移動を防止する固定用ラッチ14またはその他の従来式機構により、このように安定支持体に対して固定されうる。軸手段3または牽引子のいずれに上側玉継手13を取り巻く固定用ラッチ14または何らかの同様の固定具を内蔵させて、軸手段3を、たとえば牽引子(図示せず)から延在する係止部分15である安定支持体に堅固に取り付けてもよい。
図3〜図8を参照すると、接触部材1は、該接触部材の底面4に付随する摩擦手段を有しており、安定化力が軸手段3に加えられた時に接触部材1が、拍動する心臓に、より確実に係合するようになっていることが好ましい。この摩擦手段は、接触部材1の底面4を覆う凹凸加工面を具えることが好ましく、凹凸加工されたゴムや凹凸加工または中高加工されたアルミ、ステンレス鋼等の複数の生体適合性物質で構成されうる。
摩擦手段は、さらにまた接触部材1の底面4と拍動する心臓の表面との間に配置される部材に固定されるかまたは該部材を具えうる。これらの実施例では、摩擦手段は、接触部材1と拍動する心臓との間の緊密かつ整合的な接触を維持し、かつ安定化を達成するために拍動する心臓の外部に加えることが必要な力の量を軽減することにより、拍動する心臓を安定させやすくするために設けられる。図3および図5〜図8を参照すると、摩擦手段は、何個の異なる形状を有していてもよく、ダイヤモンドプレート状、顆粒状、爪床状、滑り止め状、開放泡沫状またはその他の摩擦を生じる形状の凹凸加工面を有しうる。一方の面が接触部材1に固定される前記面の幾何学的形状は、偏平、三角形、矩形、方形または円形とされうる。これに代わる方法として、摩擦付着力を生じる面は、ヒドロゲル、フィブロゲン、コラーゲン、ヒドロキシアパタイトまたはその他の生体適合性材料を用いて得られ得、化学的にエッチされるか、機械的にスコーリングされるか、または電気的に活性化されうる。
図9を参照すると、摩擦手段を得るための1つの実際的な方法は、嵌着部材16を接触部材1の底面4に取り外し可能に取り付ける手段17を有する嵌着部材16を具えた別個の部材を接触部材1の底面4に固定することである。この取り外し可能な取付け機能は、各々の嵌着部材16に固定されかつ接触部材1の本体内に形成されるポート19に係合的に嵌入する突起18またはその他の同様の構成によって容易に達成されうる。この実施例は、特に接触部材1の底面4に別個に付着部材または摩擦を生じる部材を設けることが望まれる場合および特に摩擦部材または付着部材が接触部材1の本体と異なる材料で形成される場合に、使い捨て可能かつ製造容易であるという点で複数の利点を提供する。嵌着部材16の底面4は、上述されたいずれの形状を有してもよい(図3および図5〜図8参照)。
心外膜組織が傷つきやすいことと、心臓は、心拍動式心臓迂回処置の間中、拍動しているために、心臓を損傷する可能性を防ぐことおよび安定化手段がずれる可能性を防ぐことが望まれることとを考えると、本発明の接触部材1は、接触部材1の下面である底面4に摩擦を生じかつ/または緩衝作用を持つ材料を備えることで、接触部材1が拍動する心臓に係合する地点で緩衝作用を発揮しうる。たとえば、図10に、接触部材1の底面である下面4に固定されて、心臓組織の損傷を防ぎかつずれを最小限に抑える凹凸加工された軟質ゴムまたは流体充填材料を具えた材料20の例が示されている。
上述されたように、本発明の基本的な要素は、一部の実施例で吻合部位に隣接する位置で拍動する心臓の表面に係合して、拍動する心臓に安定化力を直接加える接触部材である。この接触部材の実際の形状、寸法、構成および相対的配向は、本発明の精神から逸脱することなしに変更されうる。たとえば、図11および図12を参照すると、拍動する心臓の表面に係合する接触部材1は、付加的な重さを付与することで、本発明の安定化手段を用いて拍動する心臓に接触することにより達成される安定効果を高める緻密な金属であることが好適な無垢構造体21により得られうる。この実施例は、本実施例では吻合部位である、接触部材と拍動する心臓との接触部位に付加的な重さを直接加えることによって拍動する心臓の動きの抑制と安定化とを容易にする。図11の線A−Aにおける図12からわかるように、この実施例では、2つの接触部材1a、1bは、拍動する心臓に該部材の下面である底面4で係合し、該部材の外縁部でより大きい厚さを有し、両者間に位置する開口22を有しており、この開口は接触部材1a、1b間の空間全体にわたって設けられて、血管が両者間に配置されうるようになっている。
図13に、手術台または手術時に牽引を行なう牽引子台等の安定支持体に固定されることが好適な重心27上に取り付けられた軸26の対向端部に配設される調節可能な重り24および釣合重り25がもたらす平衡作用により、接触部材1を拍動する心臓の表面に有利に適用しうる一体型装置が示されている。調節可能な重り24を操作することによって、さまざまな大きさの安定化力を軸手段3および接触部材1を介して拍動する心臓に加えることができる。この実施例では、重り24、25の位置と、重心点27のまわりにおける軸26の回転とにより、連続的に変化する大きさの下向きの安定化力が得られる。このため、使用時に、外科医は、最小限の力が加えられる状態で接触部材1を拍動する心臓の表面上に載置して、調節可能な重り24を重心から離れる方向に移動させることにより、軸手段3と接触部材1とを介して拍動する心臓の表面に付加的な力を加えることができる。
接触部材を拍動する心臓の表面で位置決めして所要の安定度を得ることは、拍動する心臓の表面に整合する態様で載置される接触部材に物理的な力を加えて非外傷性の態様で動きを実質的に拘束するように設計される複数の技術により達成されうる。図14に示される装置は、上述の実施例のように実質的に平行な態様で配置される1対の接触部材1a、1bを有する。しかしながら、この装置は、さらにまた逆向きの接触部材をも有しており、この逆向き接触部材も拍動する心臓の表面に係合するが、その係合地点は、吻合部位に配置されることが好適なその他の接触部材1a、1bの係合地点から若干離れた地点である。さらにまた、軸手段3は、若干隆起した接続軸2上の地点であることが好適な、接触部材1a、1bと逆向き部材28との間に位置する地点29に取り付けられかつ該地点のまわりで回転しうる。軸手段3は、たとえば玉継手30により、接触地点29のまわりで回転し得、以て接触部材1を拍動する心臓の表面に自然に沿わせかつ係合的に整合させることが好ましい。さらに、この実施例では、安定化力を拍動する心臓の表面に加えても、軸手段3の長さに沿った下向きの力が吻合部位の上に集中することはない。逆向き接触部材28は、標的血管31を閉塞させるように構成されてもよい。本明細書に開示されるその他の実施例の場合と同様に、外科医は、特定の臨床学的適応、ある患者の特定の生理状態および/またはたとえば胸骨切開術、開胸術または穿刺切開といったような、心臓への接近路を得るのに用いられる接近方法によって定められる手術環境に応じて、図14のタイプの実施例を選択することができる。
このように、外科的接近方法の相違、標的血管の相違および個々の患者間の相違により、一般的に外科医の自由裁量で本発明の異なる実施例を用いることが必要となりうる。こうした理由から、連続的に調節可能な接触部材は、一部の臨床学的適応に特に好適となりうる。たとえば、図15および図16に、実質的に可撓性の1本または複数本の管状構造体33内に配置される複数個の粒状体またはビード32を有し、真空管腔(図示せず)を内部に設けられて有することで形状および位置を調節可能な接触部材1となりうる本発明の実施例が示されている。この可撓性管状構造体33は、その長手に沿って配置されて形状記憶機能と引張り強度の向上とをもたらすワイヤなどの可鍛部材34を有することが好ましい。図15の実施例では、可撓管33は、一般的にU字形に折り曲げられて心臓の表面に係合し得、かつ可鍛部材34に沿って配置される複数個の円盤35を有しうる単一一体構造である。また、図16に図示されているように、安定化手段は、本明細書で説明されるその他の実施例のように、複数個の接触部材1a、1bにであってもよい。図15の単一の単体構造の場合と同様に、複数個の可撓性接触部材1a、1bは、複数個のビードまたは粒状体32を内部に配置されて備え、さらにまた接触部材1の位置を調節または固定するために選択的に膨張または選択的に収縮される特性をも有しうる。吸引用管腔を介して吸引力を加えると、粒状体32は大気圧により圧縮されて、管状構造体33が剛性となり、以て接触部材1の上方が固定される。
上述された実施例のように、接触部材の配置を調節しうることは、侵入を最小限に抑えた処置には特に有用となりうる。軸に着脱可能に接触するかまたは着脱可能に取り付けられる接触部材は、独立して導入され操作され取り出されうる接触部材と1本または複数本の軸とを別々に挿入することにより展開され得、吻合処置が行われている間、軸に加えられる圧力によって正位置に保持される安定化装置となり、処置完了時点で接触部材と軸とが非外傷性の態様で取り出される。図17および図18を参照すると、単体形接触部材1は、軸手段3の遠位端37を受けるようになっている複数個の凹状ポート36を有しており、遠位端37は、この凹状ポート36内に整合的に嵌合する形状とされ、軸手段3は、接触部材1に取外し可能に取り付けられうる。図18からわかるように、この実施例は、軸手段3を複数個の非常に小さい切開部を通して導入して、複数本の軸手段3の遠位端37を受ける凹状ポート36が接触部材1に形成された接触部材1の周縁部のまわりの複数の地点で、複数の軸手段3を接触部材1と取外し可能に係合させうるようにすることができるという利点を提供する。
図19に、前述の接触部材1のいずれの実施例とも併用されうる別個の取り外し可能な軸手段3aが図示されている。図19において、この別個の軸手段3aは、別途に導入され、接触部材1内にある同等の配向および間隔のポート36に係合する1対の遠位端37を有しており、遠位端37がポート36に係合している時に別個の軸手段3aを操作することによって、付加的な位置決めおよび安定化の機能が得られる。
図20に、別個の軸手段3aの遠位部分38で形成される一体形接触部材1を有する別々の軸手段3aの簡単な使用方法が示されている。この実施例では、別個の軸手段3aは、侵入を最小限に抑えた穿刺切開部を通して手術野に別途に導入され、別々の軸3aの各々の遠位部分38が心臓の表面と接触する位置に別々に配置される。図21を参照すると、これらの別々の軸3aは、最遠位端において、別々の軸手段3aのいずれの最遠位端37をも受けるように構成された開口40を有する別個の相互接続部材39により連結される。
図22に、通常的に、接触部材1の周縁部のまわりの1地点に取り付けられる軸手段3に対して回転可能な環状構造体41を具えた本発明の接触部材1のまた他の実施例が示されている。この実施例では、環状部分41の底面4の一部分は、吻合の標的部位に隣接する部位で拍動する心臓に接触する。接触部材1の環状部分41は、軸手段3が環状構造体41に接触する位置で軸43の遠位端に係合して、軸を位置固定する固定可能な固定具42を備えうる。これに代わる方法として、軸手段3は、接触部材1の環状部分41の周縁部のまわりで自由に回転してもよい。環状接触部材41の一部分に、標的血管45が環状接触部材41の下を通る位置に環状接触部材41の底面4を通って形成される通路44を設けることが好ましい。さらにまた、環状接触部材41は、環状接触部材41の底面4と略共平面をなしかつ標的血管45に接近するための矩形開口を有する実質的に平面状の面46を有しうる。これらの平面状の面46は、吻合部に隣接する組織で安定化を達成するのを補助し得、さらにまた標的血管45を環状接触部材41に対して位置決めするのをも補助する。
本発明の接触部材は、従来の外科的処置に通常的に用いられるその他の関連装置および固定具をも備えうる。このような構造または固定具は、軸手段3の本体、相互接続軸2または接触部材1に操作可能に付随されうる。
図23〜図27を参照すると、吸引(負)圧または送風(正)圧は、明瞭で乾燥した吻合部位を維持するのに有用である。正または負の圧力は、接触部材の本体内に形成される複数個のポート47により、接触部材に供給されうる。各々のポートは、管腔48と連通しており、該管腔はさらに吸引圧源または正圧源に接続される。このため、正または負のいずれかの圧力を管腔48に加えることにより、吸引圧または正圧が吻合部位にポート47を介して付与される。図23では、ポート47は、接触部材1の上面に設けられ、吻合部位の方向に整列した開口を有する。
図24に示されるように、接触部材1に固定されかつ該接触部材の全長に沿って長手方向に延在する別個の管腔48に複数個のポート47を設けてもよい。この構成の場合は、複数個のポート47を管腔48の1つの面に沿って線形の構成で設けて、接触部材1の表面のまわりに負の吸引圧または正の送風圧を加えることが好ましい。
図25を参照すると、上述のように、複数個のポート47と管腔48とをマニホルド状の態様で設けて、複数個のポート47の開口が、各々のポート47と連通する管腔48と同じく接触部材1の本体に形成されてもよい。複数個のポート47に代わるものとして、単一のスロットが管腔48により形成されて、図26に示されるように、該スロットが接触部材1のより長い範囲に沿って延在するようにしてもよい。
図27を参照すると、図24の実施例を変化させた形態において、管腔48は、前記管腔48の可鍛部分49に沿って接触部材1から分離可能な可鍛管として設けられうる。この構成では、管腔48の可鍛管部分49を操作することにより、ポート47は、接触部材1に隣接するいかなる地点にも選択的に配置されうる。
図28を参照すると、図25に示されたものと同様のマニホルドは、ポート47が相互接続軸2または軸手段3にさらに厳密に付随する構成で、接触部材1の本体内に設けられうる。図25の実施例のように、ポート47は、軸手段3の全長にわたって延在して複数個のポート47で終端する管腔48と連通する。図28に示されているように、複数個のポート47は、個別の接触部材1を連結する相互接続軸2の部分から正または負の圧力を付与しうる。
次に図29を参照すると、図27のように、可鍛部分49を有する管腔48を設けて、管腔48の可鍛部分49の位置を操作してポート47を選択的に配置することにより、本発明の安定化手段に隣接するいかなる地点でも、正または負の圧力を選択的に位置決めして付与することができる。
図23〜図29のものと同様の構造の構成において、図30では、開口またはレンズを有する軸手段3内に光源を配置することにより、接触部材1に隣接する位置に白熱光源または光ファイバ光源48aが設けられて、安定化部位に光が供給される。
本発明の安定化手段に有利に適用されうるさらに他の従来式外科用装置は、乾燥した無菌野を得るのに役立ちかつ処置時に吻合部位を視覚的に隔離することにより外科医を補助する選択的に配置可能な外科用覆いである。図31に、軸手段3を取り巻く引込可能かつ展開可能な覆いが示されている。図31に破線で示されている引込状態51では、引込可能な覆いは、軸手段3に厳密に整合して、邪魔にならない。覆い50は、下方に移動して覆い50を展開させる座金要素52により軸手段3に固定されうる。座金要素52が最下位置に達すると、引込可能な覆い50は、2つに折り畳まれて、手術部位を取り巻きかつ通常的に接触部材1が拍動する心臓の表面に当接する部分の反対側に位置する部分円形の覆いを形成する。図32に示されるまた他の実施例は、各々の接触部材1a、1bに固定される外科用覆い50を有する。この構成は、引込可能ではないが、図32に示される外科用覆い50は、外科用覆い50に引張り強度と形状とを付与しかつ拍動する心臓に接触部材1a、1bの周縁部のまわりで接触することによって補助的な安定化力を付与しうる構造的支持部材53を備えうる。接触部材1に固定される外科用覆い50のさらに他の構成が、図33に示されており、この構成では、複数個の覆い支持体が、接触部材1a、1bの周縁部のまわりの複数の地点から半径方向に突出して、その最遠位部分にある覆い締結手段54aで終端する。覆い50の一部分は、各々の覆い締結手段54aに取り付けられて、覆いを手術部位の上に広げ、接触部材1より外側のあらゆる方向にわたる被覆を提供しうる。
図34を参照すると、吻合を完成させやすくする機械的な固定具を接触部材1に直接取り付けることができる。吻合を完成させやすくする別個の装置は、通常的に、内胸動脈の遠位端または静脈あるいは動脈移植片の遠位端等の源血管を標的血管56に隣接する位置に選択的に配置することができる蝶番式または回転式の血管支持部材55を具える。この血管支持部材55は、接触部材1上で、源血管を接触部材間に配置される標的血管56に形成される動脈切開部と直接整合させるように配向される。吻合を完成させやすくするために、血管受け部材57が、接触部材1に厳密に付随しており、通常的に標的血管56内の動脈切開部を取り巻く。血管支持部材55は、源血管の遠位端に取り付けられるとともに血管受け部材57と係合する形状とされる吻合部結合用固定具58を有する。この吻合部結合用固定具58は、IMAまたは移植片の周縁部に取り付けられて、血管支持部材55が動脈切開部に隣接して配置されると、血管受け部材57と吻合部結合用固定具58とが整合するようになっており、吻合の完成と同時に源血管59と標的血管56との間で流体の流通が確立されるようになる。吻合の完成は、縫合糸を引き締めて2つの血管を連結する自動縫合固定機構60またはその他の同様の装置によって促進される。血管受け部材57と吻合部結合用固定具58とは、標的血管56に形成される動脈切開部の周縁部を貫通して標的血管56の周縁部を源血管59の周縁部に接続する複数本の縫合糸61と操作可能に関連することが好ましい。これにより、血管支持部材55を同時に作動させながら、自動縫合装置60が血管を厳密に整合させて吻合処置を完了して、源血管59と標的血管56との間で流体の流通を確立させる。
図35を参照すると、源血管を保持するのに便利な別個の部材は、吻合を完成させる専用装置を用いなくても得られうる。可鍛ワイヤ62は、軸手段3または接触部材(図示せず)に操作可能に固定されており、外科医が吻合を完成させる準備を整えるまで、源血管64を標的血管56から離れた地点に用意しかつ便宜的に保持しておくことができるようになっている。この源血管保持手段63は、源血管64の最遠位部分にある組織を分離するかまたは広げて、源血管64の遠位端の完全性と開通性とを維持することにより、吻合が完成されるまで源血管を把持して好適な形態に保つ把持装置を具えることが好ましい。
上述されたように、本発明の装置は、最小限の開胸部が拍動する心臓への接近路となる、侵入を最小限に抑えた迂回移植処置に用いられることが特に好適である。最小限の開胸部は、肋骨間に設けられる小さい手術穴であり、可能な限り、吻合が形成される拍動する心臓の標的動脈に隣接する位置に形成される。最小限の開胸部により拍動する心臓への接近路を得るには、カニューレを肋骨間に配置して、拍動する心臓への接近路とすることができる。図36〜図40を参照すると、隣接する肋骨間に配置されるカニューレの異なる構成が示されている。図36の実施例は、複数個の穴を有するカニューレ支持ブラケット67を有しており、これらの穴にねじ66を通して、これらのねじを隣接する肋骨69a、69bに配置することにより、この組立体を胸部に取り付ける手段とすることができる。このカニューレ受入れ用組立体67は、ねじ66の1つがその内部で摺動して、隣接する肋骨69a、69bを互いに引き離しうるような1つのスロット65を形成されて有する。カニューレ受入れ用組立体67は、隣接する肋骨69aおよび69b間に開口を生じさせて、カニューレ68を該開口に挿入しうるようにする。図37を参照すると、また別の実施例において、カニューレ受入れ用組立体67は、大ねじ手段70により取り巻かれるカニューレ68に置き換えられる。カニューレ68の遠位端68は、肋骨間に挿入されて回転され、ねじ手段70がカニューレ68を隣接する肋骨69a、69b間で前進させて、ねじ手段70の直径が増大することによって、カニューレ68が隣接する肋骨69a、69bに配置されている間は該肋骨が引き離されるようにする。図38のさらにまた他の実施例では、対向するブレード73と噛み合い部材72とを具えた爪機構を有するカニューレ組立体75が提供される。隣接する肋骨69a、69bは、対向するブレード73と係合し、図39および図40に示されるように、カニューレ68を下方に付勢することにより、対向するブレード73が外方に回転して、最終的に固定部材72が対向するブレード73の位置を固定されかつ対向する関係に固定する。このため、カニューレ68を下方に付勢することにより、隣接する肋骨69aおよび69bが対向するブレード73によって引き離され、カニューレ組立体75は、固定部材72により位置固定されて、カニューレ68は、拍動する心臓への接近路となる位置に配置されるようになる。
垂直方向の高さが延長された改良形の大径カニューレは、侵入を最小限に抑えたCABG処置において複数の機能を果たしうる。たとえば、図41を参照すると、大型カニューレ74は、大径の近位側大開口76と、小径の遠位側開口75とを有する逆円錐構造の形で提供され得、前記遠位側開口75が前記拍動する心臓の表面に当接する。この逆円錐形の大型カニューレ74に下向きの力を加えることにより、カニューレ74の逆円錐形が隣接する肋骨69a、69bを押し開いて、遠位部分75が拍動する心臓の表面に接触している時に安定化力を付与する。安定された心臓への手術路は、近位側大開口76を通して得られる。
図42および図43に、従来のカニューレと一緒に用いられる本発明の実施例が示されている。図42において、従来のカニューレ77は、胸壁80の穿刺切開部を通して挿入される。安定化手段78(下記の図86および図87と同様のもの)の遠位端は、閉じた状態でカニューレ77を通して導入されて、その遠位端が拍動する心臓79の表面に接触する。図43を参照すると、本発明の安定化装置は、カニューレ77を通して完全に挿入されて、接触部材1を拍動する心臓79の表面に接触させるように操作される。安定化手段のハンドル81を操作することにより、接触部材1は、拍動する心臓の表面で互いに引き離されて、外科的処置の際に安定化機能を果たす。
侵入を最小限に抑えた処置を行なう場合には、本発明の拍動する心臓を安定させる手段は、拍動する心臓の表面に係合する接触部材1が寸法的に縮小された形となる位置または状態で手術野に挿入および除去される実施形態、すなわち胸腔に挿入および除去される時に縮小された有効直径を有する実施形態で提供されることが好ましい。たとえば、これらの実施例は、手術が複数個の穿刺切開部を通して行われる場合に特に有用である。
図44〜図48の実施例では、1対の矩形かつ実質的に平面状の接触部材1a、1bが、略円筒状の主軸82内に配設される。図44に示される引込状態では、各々の接触部材1a、1bは、屈従した環状の形状に巻かれて、装置が切開部を通して挿入される時に接触部材1a、1bが軸82内に保たれることにより、装置の有効直径が縮小される。この状態において、各々の接触部材1a、1bは、接触部材1a、1bが本来収容されている実質的に円筒状の主軸82から中央軸83が延ばされた時に各々の接触部材1a、1bを展開させる緊張ワイヤ84またはばねを接続軸2と中央軸83とに取り付けられて有する接続軸2により、中央軸83に取り付けられる。このため、使用時には、接触部材1a、1bは、中央軸83が下方に延ばされて、接触部材1a、1bが主軸82の下で展開されることにより、図45〜図48に示されるように手術野内で展開されるまで、図44の引き込まれた環状の形状に保たれる。接触部材1a、1bは、環状の形状から巻きもどされて、図46に示されるような実質的に平面状の形状に展開される。接触部材1a、1bは、図47および図48に示されるように、接続軸2に作用して接触部材1a、1bを実質的に互いに平行なかつ拍動する心臓の表面と実質的に共平面をなす位置に固定するように配設されることが好適なワイヤまたはばね84の張力により、中央軸83に対して正位置まで回転される。
このように、図44は、屈従または引込位置にある接触部材1a、1bの図である。図45は、中央軸83が主軸82の底部から延ばされるのに伴って展開されていく過程にある接触部材の図である。図47および図48は、接触部材1a、1bを手術に用いる上で所望の位置に再配置する引張ワイヤ84の図である。図46は、中央軸83が主軸82の本体底部から完全に延ばされて、接触部材1a、1bが拍動する心臓を安定させる上で所望の形状に展開された状態を示す図である。
個別の接触部材1a、1bを連結する接続軸2に蝶番を設けて、吻合が完成されるのと同時に中央軸83を主軸82に対して上方に引いて装置本体内に引き込むことにより、接触部材1a、1bを引き込んで、以て接触部材1a、1bを再び小型の形状に戻しうるようにすることが好ましい。
図49〜図52を参照すると、図44〜図48に示されたものと同様の考え方が用いられており、よって1対の接触部材1a、1bは、装置本体87の中空部分内にある主軸86により展開される。図49〜図52に示される実施例では、1対の非可撓性接触部材1a、1bが、侵入を最小限に抑えた切開部を通して挿入される本体であるハウジング87内に内蔵されることにより、これらの接触部材1a、1bを用いて心臓を安定させることができる。この実施例では、接触部材1a、1bは、接触部材1a、1bの端部を中央軸88に固定するピンまたは蝶番88により中央軸に取り付けられており、接触部材1a、1bは、軸86が装置の本体87から下方に延ばされた時に該ピンまたは蝶番88のまわりで回転することによって展開されうるようになっている。接触部材1a、1bの反対側部分(蝶番から最も遠い部分)は、接触部材1a、1bを展開させるまで所望の形状のままにしておく、中央軸86に同心的に付随する案内固定具89内に嵌入しうる。使用時には、中央軸86が本体であるハウジング87の遠位端にある開口から少なくとも接触部材1a、1bの全長と同じ距離だけ押し出され、その時点で接触部材1a、1bが展開されて、たとえば図49および図51に示されるように軸に実質的に垂直な配向で正位置に固定されうる。図51に示されるような固定機構90により一旦正位置に固定されると、中央軸86は、下方に配置されて接触部材1a、1bに係合する案内固定具89を用いて回転されうる。このように、案内固定具89は、接触部材1a、1b、ピン88または固定機構90に係合し、物理的な力を加えることによって、接触部材1a、1bの位置を調節することができる。除去時には、中央軸86は、装置本体87内に引き込まれる。これに代わる方法として、ハウジング87が固定機構90を案内固定具89から係合解除させて接触部材1a、1bの位置を解放し、以て接触部材1a、1bを、接触部材1a、1bが装置本体87内に引き込まれて侵入を最小限に抑えながら容易に除去されうる本来の形状またはその他の形状に戻してもよい。
図53〜図56は、侵入を最小限に抑えた切開部を通して挿入するのに適した非展開形状のままに保たれる接触部材1a、1bを有する類似の実施例の図である。図53および図54に示されているように、接触部材1a、1bは、接触部材1a、1bの長手方向が中央軸92に対して実質的に平行となるような引込位置に維持されうる。各々の接触部材1a、1bの近位端は、案内固定具93に固定される一方で、遠位端(中央部分91にある蝶番より下)は、底面4を形成されて有しており、中央軸92の遠位端に固定される。図55を参照すると、接触部材1a、1bは、案内固定具93の下方移動によって展開されて、接触部材1a、1bが中央軸91のまわりで折り畳まれるようになる。案内固定具93が下方に完全に延ばされると、接触部材1a、1bは、下側構造部が底面4を含む1対の2部分構造により形成される。
図57および図58に、折畳み可能な接触部材1a、1bを有するまた他の実施例が示されており、この実施例では、中央軸94は、蝶番を有する中央部分96を挟んで接触部材1a、1bの対向端部に接続される複数本の蝶番付き支柱95に固定される。中央軸94が下方に延ばされると、蝶番付き支柱95は、外方に展開する。図57に示されるように、個別の接触部材1a、1bは、蝶番を有する中央部分96で折り畳まれて、装置の全体としての外形寸法が縮小され、侵入を最小限に抑えながら挿入または除去される。前記支柱が完全に展開されると(図58)、接触部材1a、1bは、本明細書に開示されるその他の実施例の場合のように、実質的に平面的な形状に伸張されうる。
図59〜図63に、接触部材を侵入を最小限に抑えながら挿入および除去される位置につけるさらに他の構成の中央軸97と接触部材1a、1bとが示されている。図59を参照すると、第1の蝶番98は、接続軸2に配設されて、接触部材1a、1bは、該接触部材が共平面をなす状態から約90度回転されうるようになっている。第2の蝶番99は、軸手段3と接続軸2との間に配設されて、接触部材1a、1bの遠位端を、図61に示されるように下方に傾斜させる。図62および図63の実施例は、2つの相互接続軸2a、2bが接触部材1a、1bを若干離間させたままで平行位置および垂直位置に保つように改良されている。垂直な回転軸を有する単一の蝶番100により、接触部材を厳密に整合させた後に下方に傾斜させることができる。
図64〜図66には、侵入を最小限に抑えた切開部を通して挿入されるのに理想的なハウジングまたは本体102内から展開されうる単一の連続ワイヤ101を具えた接触部材を有する本発明の展開可能な安定化装置が示されている。図64に示されるように、単一の連続ワイヤ101を輪状に巻いてハウジング102内に内蔵させて、安定化装置の外形寸法が挿入時に最小限に抑えられるようにすることができる。この実施例の接触部材を形成するワイヤ101は、円滑な丸ワイヤであることが好ましく、折畳み可能かつ所定の形状に展開可能なニチノール等の材料で形成されうる。図65からわかるように、挿入後には、ワイヤ101は、装置本体102から延ばされて、少なくとも1つの輪103を形成し、この輪103の少なくとも一方の側部104が心臓の表面に接触する。少なくとも2つの輪103が装置本体102から延ばされかつ単一のワイヤ101で形成されることが好ましい。この構成において、最大限の安定化は、両方の輪103の側部104の実質的な部分が拍動する心臓に標的血管に隣接する位置で接触する場合に達成される。前述の実施例と同様に、非常に小さい切開部を通して安定化装置を挿入および除去する時、最も外傷を与えにくいのは、引き込まれた状態にある接触部材の外形寸法または有効直径が装置本体の外形寸法または直径を実質的に上回らない場合である。したがって、図66からわかるように、図64〜図66の実施例の接触部材は、ワイヤ101に力を加えることにより上方に引き上げられ、輪103を具えた接触部材は引き上げられることで装置本体102と整合する形状となって、患者に対する余分な外傷を最小限に抑えれながら穿刺切開部を通して該接触部材を除去することができるようになっている。
単一の連続ワイヤ101の他にも、接触部材は、図67〜図69に示されるように、渦巻き状巻線105で形成されうる。前述の実施例の場合のように、接触部材1a、1bは、管状中央軸106を装置の本体またはハウジング107を通して延ばして接触部材1a、1bを展開させることにより、展開される。中央軸106の下方移動は、停止部109と本体107の遠位端とが接触することによって停止される。接触部材1a、1bは、外科的処置の完了と同時に、中央軸106を装置本体107を介して垂直に引くことにより、装置本体107内に引き込まれる。渦巻き状巻線105の所定の湾曲は、渦巻き状巻線105の個別の輪105aおよび105b間に離間手段108を配置することによって得られうる。中央の固定ワイヤまたはケーブルを展開と同時に緊張させて、構造の剛性を高めることができる。
侵入を最小限に抑えて挿入および除去を行なうさらにまた他の構成が、図70および図71に示されており、この構成では、接触部材1a、1bは、何らかの所望の形状の接触部材1a、1bとなるように予め整形された膨張可能な風船で形成される。図70に、膨張状態にある、予め整形された膨張可能な風船がハウジング111から延ばされた様子が示されている。膨張は、中央軸111内に設けられる中心管腔112により達成される。図71には、挿入および除去のために収縮された状態にある膨張可能な風船111が示されている。
図72および図73を参照すると、膨張可能な接触部材は、さらにまた環状帯113を備えていてもよく、この環状帯は、環状帯113の周が、その周縁部で拍動する心臓に接触するように配置される。最大限の安定化を達成するためには、標的血管114は、環状帯113を2等分する位置に配置されることが好ましい。さらにまた、図73を参照すると、本明細書ですでに説明されたように別々の接触部材1a、1bは、接触部材1a、1bを環状帯113の壁に取り付けて該環状帯の内部に延在させることにより、環状帯113と一体的に形成されうる。
図74および図75に、装置が極めて小さい切開部を通して挿入されうるような極めて制限された断面を有するハウジング115を持つ装置内に単純な安定化手段を内蔵させることにより、安定化手段の挿入および除去時に患者に与える外傷を最小限に抑える本発明の実施例が図示されている。この実施例では、安定化手段全体は、中空ハウジング115内に内蔵されており、最遠位端で連結された1対の接触部材1a、1bを具える。図75からわかるように、接触部材1a、1bは、遠位端に分割部分117を有する単体軸116で形成されており、装置のハウジング115から展開されると同時に、この分割部分117が、最遠位端118で連結された2つの接触部材1a、1bに分かれ、これらの接触部材が、単体軸116の分割部分117に沿って拍動する心臓に接触されうるようになっている。
上記の図3から図8および図10で説明された摩擦手段または緩衝部材に加えて、縫合糸を用いて心外膜組織を接触部材1に対して取り付けるかまたは位置決めして、本発明の安定機能を高めることおよび吻合部の心外膜組織または標的血管を位置決めすることができる。図76、図77および図78に、心外膜の位置を固定する手段が、接触部材1a、1bと組み合わせて用いられて、吻合部位を取り巻く組織と標的心臓動脈との安定化および位置決めを行なう縫合糸119を具えた実施例が示されている。図76において、一連の縫合糸119は、心外膜組織(図示せず)を貫通して配置され、接触部材1a、1bのまわりに輪状に巻き付けられて、拍動する心臓の表面上の複数の地点を接触部材1a、1bに対して固定された関係に効果的に位置決めする。図77では、接触部材1a、1bおよび任意で該接触部材に付随する軸手段3は、縫合糸119を挿通しうる通路120を内部に形成されて有する。図77の特定の実施例においては、単一の縫合糸119が軸3の本体に挿通され、第1の接触部材1a内から該接触部材内に形成された通路120を通って脱出し、標的血管121の下を通って、標的血管121の反対側から抜け出して、第1の接触部材1aに接続軸2により連結される反対側の接触部材内の通路120に侵入する。縫合糸119は、反対側の接触部材1bを脱出し、再び標的血管121の下を通って、第1の接触部材1aの別の通路120に再侵入し、第1の接触部材1aの本体を通り抜けて軸手段3内へと通される。この構成では、外科医は、縫合糸119を引き締めることにより、縫合糸を胸部切開部の外側等の遠隔位置から操作して、血管を遠隔的に位置決めすることができる。図78に図77のものと同様の縫合糸119の構成が示されているが、図78では、接触部材1の本体を貫通する通路120を設けるのではなしに、接触部材1の本体にある孔部122を用いて縫合糸119の方向が選択される。また、この実施例またはその他の実施例において、縫合糸119が一纏めになって挿通される別個の摺動軸123を設けてもよい。縫合糸119を引き締める段階は、摺動軸123を前進させて接触部材1に当接させ、摺動軸123に軽い下向きの力を加えながら縫合糸119に上向きの力を加えて引き締めることにより、容易に行われる。摺動軸123に対して下向きの力を維持することにより、縫合糸119に加えられる上向きの力が摺動軸123に加えられる下向きの力と対立するため、標的血管121が持ち上げられる一方で、接触部材1が変位する確率は最小限に抑えられる。
図79および図80を参照すると、本発明の接触部材1を改良したものは、軸手段3の遠位端に形成される構造部によって得られ得、この構造部は、標的血管に形成された動脈切開部124内に直接挿入される。この血管内安定化手段126は、標的血管の内面のまわりに整合的に合致するように設計された本体を有しており、軸手段3の中空部分と連通しうる(流体の流通を含む)。血管内安定化手段の本体126は、図80に示されるように実質的に円筒状の管腔であってもよく、動脈切開部125を形成する切開部の長さを超える全長を有するべきである。さらにまた、図80の実施例において、血管内安定化手段126は、軸手段3に対して垂直とされ得、本体126の遠位端に、標的血管の内面と整合的に係合する環状帯127を有する。図79および図80のいずれにも図示されているように、この本発明の安定化手段の実施例は、標的血管の縁部を動脈切開部125の外周のまわりで貫通する複数本の縫合糸128と接続されて用いられることが好ましい。軸手段3および複数本の縫合糸128に圧力を加えることにより、標的血管を安定させ、その位置を操作して、容易に吻合を完成させることができる。
吻合部の標的血管に隣接する位置で拍動する心臓を安定させることに加えて、心臓の外表面にある心外膜を把持する手段を用いることにより、接触部材1に付随するさらに他の固定具、構造部または要素を用いて、標的血管および吻合部位に隣接する位置で心外膜を押し退けることまたは固定することができる。この把持手段は、複数の異なる実施例で得られうる。たとえば、図81に、接触部材1の長手中央に長手方向に設けられた折目129を有するかしめ式接触部材1により形成される機能的クリップ128が示されている。折目129と反対側の接触部材1の両側部に力を加えると、接触部材1のかしめ動作により、心臓表面131の心外膜組織130が把持されて、折り畳まれた接触部材132内に内包される。また別の実施例では、図82に示されるように、複数個の開放通路133が、接触部材1内に形成されるスロット135内に摺動可能な部材134を配設されて有する接触部材1に設けられる。軸3に下方向に十分な力が加えられて、心外膜組織130が開放通路133に押し込まれると、次に摺動可能な部材134を作動させて、開放通路133内に内包されている組織130を把持させることができる。心外膜組織130の一部分を把持することにより、組織が押し退けられて、吻合の標的血管136をさらに容易に露出させることができる。
同様の機能は、図83および図84に示されるように、標的血管136の方向に対して長手方向に平行に配置される円形ローラ137で形成された1対の接触部材1によって得られる。これらの接触部材1は、各々の接触部材1に専用される軸138のまわりで独立回転して、ローラ137のそれぞれの回転方向に応じて心臓の表面で心外膜組織130を希望どおりに寄せ集めるかまたは押し退けるようにする可動ローラ137、ベルトまたは旋回面を具えうる。当業者には明らかなように、これらの実施例の各々は、本明細書で説明されかつ図示されるような平行な構成、V字形構成またはその他の調節可能な構成で独立して移動可能な接触部材1を備えていてもよい。
図85を参照すると、接触部材1は、さらに標的動脈に隣接する組織に係合するピンまたは付随する摩擦手段4を接触部材1a、1bの底面4に有しうる可動フレーム延長部140を有するばね付きフレーム139を具えうる。フレーム延長部140の移動は、フレーム延長部140が組織に係合する位置に手動で配置された後にフレーム延長部140を接触部材1の方へと引くばね手段141の張力によってもたらされる。この本発明の実施例の使用方法は、本明細書でその他の実施例に関して説明された使用方法と同じであり、フレーム延長部140は、心外膜組織を押し退けることによって、標的動脈の露出度を高める。その他の実施例の場合のように、接触部材1は、前記のように軸手段3に取り付けられる接続軸2に一方の端部で取り付けられうる。これらの接続軸2は、さらにまた位置決めつまみ143を有する従来式ねじ付き柱142により互いに相対的に配置されうる。
図86および図87を参照すると、安定化手段は、各々の接触部材1に接続される単一の軸手段を具えていてもよい。好適な実施例では、これらの軸手段3は、接触部材1を互いに平行な態様で連続的に位置決め可能にする中間旋回点144で相互接続される。個別の軸手段3の近位(上側)部分は、手で握持されるようになっている握り部を有していてもよく、または牽引子またはその他の固定支持体に取り付けられる係止部分145を有していてもよい。本明細書で説明されるその他の実施例の場合のように、軸手段3の長さは、従来式の入れ子構成により調節可能とされうる。このような構成において、第1の軸148は、第2の軸148の相補的な部分を受けるようにしてある部分的に中空の区画147を有する。第1の軸147または第2の軸148はいずれも接触部材1に接続され得、該軸の各々は、軸を相対的な位置に固定する従来式連動機構151を有しうる。軸手段3は、さらにまた、接触部材1に固定される軸手段3の部分と軸手段3の残りの部分との間で変位する軸149を有する付勢ばね機構150を有しうる。この構成では、接触部材1は、軸手段3の近位端が安定支持体に固定されている時には、吻合部位に隣接する位置で心臓に対して付勢されたままとなる。この実施例は、さらに各々の接触部材1の底面4に固定される前記のような摩擦手段を有することが好ましい。この実施例のさらなる利点は、接触部材1を平行な状態で互いに離れる方向に移動させうることによって得られる。このために、接触部材1を最初に心臓の表面の組織に係合する位置に配置し、次に安定化力を加えながら軸手段の近位(上)端を押し開くことまたは結合させることができる。安定化力を加えることにより、標的動脈の両側の組織が伸張または圧縮されて、心臓が安定する。このため、同時に軸手段3の近位部分を押し開くかまたは結合させることによって、接触部材1と係合している心外膜組織が伸張または圧縮されて、安定化が達成されるとともに、標的冠状動脈の露出度と位置決め度とが高められる。
図88〜図90を参照すると、接触部材1は、特に吻合部位に近接する組織である、心臓の表面またはその周囲の心外膜組織を位置決めするかまたは押し退ける役割を果たすさらに他の構造を付随して有しうる。外科医は、標的血管の近くの心外膜組織を押し退けて、吻合が行われる血管の露出度を高めたいと望むことがよくある。また、これらの付随構造は、心臓の外層部の組織を実際に貫通して、この組織を接触部材と厳密に整合させて保持することによって、安定度をさらに高める。
図88を参照すると、心外膜組織牽引子は、通常的に各々の接触部材1の底部に取り付けられかつ単一のピン152に専用される案内部153により、一方の接触部材1aからもう一方の接触部材1bまで延在する一連の湾曲ピンによって得られる。この実施例では、複数個のピン152は、互いに実質的に平行であり、吻合が行われる血管の下を通過するように挿入配置される。このようにすると、外科医は、組織とピン152および接触部材1とをいずれかの方向に係合させることにより、血管を位置決めすることができる。この実施例は、軸手段3に対して垂直な方向である縦方向に組織を変位させるのに特に有用である。
さらに他の実施例が図89に示されており、この場合は、複数個の短尺ピン154が、接触部材1の底面4から下方に延在して心外膜に侵入する。これらの短尺ピン154は、組織の表面および接触部材1の底面4に対して実質的に垂直な方向に延在していてもよく、または外方に角度をなして組織に係合してもよい。この実施例の利点が最も活かされるのは、個別の接触部材1a、1bを選択的に位置決めして、個別の接触部材間の距離を変化させるようにしうる安定化手段に用いた場合である。すなわち、接触部材1a、1bを拍動する心臓の表面に接触させ、次に接触部材1a、1bを互いに離れる方向に押し開いて、心外膜組織を押し退けかつ押し開くことができる。このことは、単一の軸手段が各々の接触部材1a、1bにそれぞれ専用され、個別の軸が中間旋回点155により連結される図89の実施例で容易に達成される。
同様の実施例が図90に示されているが、この実施例では、各々の接触部材1a、1bは専用軸を有する一方で、第1の接触部材1aの専用軸156は、第2の接触部材1bに専用される中空軸157内に配置されている。この構成では、各々の軸156、157は、互いのまわりを個別に回転して、心外膜をV字形に押し退ける。この実施例において、心外膜牽引ピン154は、図89の実施例のものと同様の構造および配向であることが好ましい。また、いずれの構成においても、これらのピンを湾曲させるかまたは内方に傾斜させ、接触部材1を互いに近づく方向に移動させて、心外膜を圧縮して組織の安定化と吻合部の最適な露出とを達成することができる。この動作は、冠状動脈内の血流を閉塞させて、血液の損失と視野の妨害とを最小限に抑える役割をも果たしうる。
図91および図92を参照すると、安定化手段は、軸手段3によって安定支持体に取り付けられ、てこ部材158と一緒に用いられて、吻合が完成するまでの間、標的動脈の露出度を高めうる少なくとも1つの安定化板を具えうる。この実施例では、拍動する心臓を安定させる手段は、吻合部位にある標的動脈の両側で心外膜組織に下向きの力を加えるように配向されており、実質的に平面状または心臓の表面に沿う湾曲状とされうる左右の安定化板159、160を具える。安定化板159、160の一方または両方に、その長手に沿って下方に偏向する縁部161を設けて、この縁部1621により動脈に隣接する組織が圧下されて、吻合が完成するまでの間、動脈の露出度が高められるようにしてもよい。安定化板159、160の縁部161は、動脈に対して実質的に平行に該動脈の両側に延在する別個のてこ部材158を有することが好ましい。各々のてこ部材158の上部分は、安定化板169、160の裏側と接触する。この実施例では、てこ部材158は、実質的に円筒状であり、自身の長手に沿って安定化板を横断し、安定化板159、160の縁部161に対して平行になるように配向される。てこ部材158は、位置固定され、縫合糸により心臓に固定されうる。このような構成において、てこ部材158および該てこ部材の長手に沿って接触する各々の安定化板159、160は、縁部161が標的冠状動脈の両側の組織を圧下して、拍動する心臓の動きを抑制するように心臓と接触する。安定化板159、160は、希望に応じて互いに連結されるかまたは独立して移動されうる。
縁部162と反対側において、てこ部材158から離れた地点で、安定化板159、160は軸手段3に接続され、この軸手段は、安定化板159、160を一定の位置に保持するとともに、てこ部材158に対して相対的に操作されることで縁部161を心臓に係合させうる。軸手段3は、各々の安定化板159、160に縁部161と反対側の地点で固定されかつ該地点から除去されることが好ましく、てこ部材158は、安定化板159、160が軸手段3の取付け地点で引き上げられた時にてこ比が最大限となる位置で安定化板159、160に接触する。軸手段3は、本明細書の他のどの部分に記載されているように構成されてもよく、外科医が軸手段3を容易に操作できるだけの十分な長さを有するべきである。上述のように、軸手段を処置時に牽引子に取り付けて、安定化板159、160の動きを固定してもよい。
好適な実施例では、軸手段3の長さは、牽引子またはその他の安定支持体に対して調節可能である。たとえば、軸手段3は、上述されたように入れ子状であってもよく、または剛性軸164を受ける中空柱163を具えていて、この剛性軸がさらに牽引子に固定されてもよい。この剛性軸164もまた実質的に中空であってもよく、中空柱163の全長にわたって通される縫合糸またはその他の線状体165を自身にも挿通されて有してもよい。この構成において、縫合糸または線状体165の一方の端部は、安定化板159、160に取り付けられ、もう一方の端部は、中空柱163または剛性軸164を通って、外科医が操作しうる位置まで延在する。これにより、安定化板159、160の位置を遠隔操作することができる。縫合糸または線状体165を引き締めることによって、安定化板159、160は、てこ部材158のまわりで旋回し、安定化板159、160の縁部162が、標的動脈の両側の組織を圧下する。
図93〜図96を参照すると、蝶番ピン179を手段として支持部材178のまわりで回転するブロック177の縁部に沿って形成される可動縁部により、標的血管の両側の組織を圧下する固定可能な機構が得られうる。支持部材178は、本明細書で説明されたように接触部材の上面に固定されてもよく、または該支持部材自体が接触部材を具えていてもよい。使用時には、図94に示されるように、ブロック177は、可動縁部176が標的血管180に対して平行に心臓の表面に接触するまで、蝶番ピン179を用いて支持部材178のまわりで回転される(図95)。固定部材181を圧下して、相互接続部材182により、ブロック177および縁部176が突き出されて、標的血管180に隣接する組織が全面的に圧下されるまでブロック177を回転させることにより、可動縁部176およびブロック177が位置固定される。図96に示される前記地点で、固定部材181は、相互接続部材182を突出位置に固定し、固定部材もその位置に固定される。ブロック177の位置は、固定部材181を作動させて相互接続部材182を解放することによって解放されうる。
心臓は本明細書に記載のCABG処置中も拍動し続けるため、標的血管を操作しかつ該血管内の血流を抑制する機能を果たす本発明の特徴により、吻合を効率よく完成させることを非常に容易にすることができる。たとえば、接触部材1に付随するさらに他の構成要素を用いて、吻合処置時に標的血管を閉塞させることができる。さまざまな固定具のいずれを本発明の接触部材と関連させて操作して、吻合部の標的血管を閉塞させてもよい。
図97を参照すると、安定化手段166は、吻合部の標的動脈が長手方向に配置されて通される中央開口168を有した実質的に剛性面167を有する実質的に平面状の接触部材を具える。中央開口168のいずれか一方または両方の端部で、閉塞装置169が面167より下に延在し、標的動脈に係合して、該動脈を通る血流を実質的に減少させるかまたは皆無とする。この閉塞装置169は、組織を傷つけることなしに標的動脈と調節可能に接触して該動脈を圧下する円滑な外面を有した変形可能な部材である。安定化手段の平面状の面167は、さらにまた、この平面状の面167を全幅にわたって横断する開口を具えた孔部170を有しており、吻合を完成させる時に移植片をこの孔部170から通すことができるようになっている。平面状の面167は、この平面状の面に一方の端部で取り付けられるとともに、もう一方の端部に吻合部位に隣接する組織と係合して該組織を押し退けて標的動脈の露出度を高めるフックまたはピン173を有するコイルばね172を具えたばね付き組織牽引子171の取付け面にもなりうる。平面状の面167は、肋骨牽引子等の安定支持体に取り付けられうる柱状体174に取り付けられる。平面状の面167は、さらにまた縫合糸を受ける少なくとも1つのポートをも有しうる。
図98を参照すると、安定化手段は、接触部材1または接続軸2に取り付けられることが好適な動脈閉塞装置183を操作可能に付随して有しうる。この動脈閉塞装置183は、鈍い部分184を有する半剛性部材を具え得、この鈍い部分は、鈍い部分184が標的動脈185に係合し、標的動脈185を1点で圧縮して、該動脈を通る血流が実質的に減少するかまたは皆無となるように接触部材1間を通る標的動脈185を閉塞させるように配置されうる。閉塞装置183は、接続軸2と交差する軸部分186を有しており、閉塞装置の鈍い部分184が標的血管185の面より上から、該血管を通る血流が閉塞される程度に本来の血管の面より下の地点まで移動しうるようになっていることが好ましい。
図99を参照すると、同心的に移動可能な軸187は、接触部材1が接続される軸手段3内に配設される。この実施例では、標的血管188は、接触部材1間に、該接触部材1の全長または全長を上回る長さに対して平行に直接配置される。このように配置されている時に、主軸手段3内の同心軸187を下方に押圧して、同心軸187の遠位端189が血管188に当接して該血管を圧縮し、以て血管188が閉塞されて該血管を通る血流が実質的に防がれるようにすることができる。この実施例は、付与される力と、同心軸187が軸手段3に対して圧下される距離とを変化させることにより、閉塞の程度を連続的に変化させうるという利点を有する。図100に、本発明の同様の実施例が示されており、この実施例では、血管を閉塞させる手段は、接触部材1に直接隣接して固定される。図100の実施例では、対向する接触部材1を連結する接続軸2上に押しボルト190が設けられており、通常的には該接続軸の隆起部分に配置されて、押しボルト190が下方に押し出されていない時には、血管は接触部材1間に配向された時の本来の位置に保たれるようになっている。血管188の閉塞は、血管188が接触部材1間に配置されている時に、押しボルト190を下側部分191が血管188に係合するまで下方に押圧することにより達成される。この実施例では、吻合部位において標的血管188の動脈切開部191の近位側および遠位側のいずれをも閉塞させることが可能になる。図101を参照すると、同様の実施例は、たとえば選択的に移動されうる蝶番194により一方または両方の接触部材1に固定されて、動脈切開部の近位側または遠位側のどちらか一方あるいは両方の地点で標的血管188に接触するローラ192またはクリップ機構193によって得られる。
上記の図76〜図78に示されたように吻合を行なうために標的血管を位置決めすることに加えて、安定化手段に付随する縫合糸は、血管を閉塞させて非観血的手術野で吻合を行なうのにも利用されうる。図102および図103を参照すると、本発明の実施例は、接触部材1から突出するフランジ195を有しており、シラスティック製血管ループまたは縫合糸196を標的血管197およびフランジ195のまわりに掛けることができる。血管197を閉塞させるためには、縫合糸196を血管197のまわりに通し、フランジ195のまわりできつく引き締める。血管の閉塞を容易にするために、縫合糸196を取り巻く摺動軸198を用いて、縫合糸196が該摺動軸198の全長にわたって挿通され、底部から脱出延在して血管197を取り巻くようにしてもよい。ある実施例では、図103に示されるように、安定化手段の軸3は、縫合糸案内部199を内設されるかまたは付随して有する可動棒198を有しており、縫合糸の張力が調節される。この可動棒198を軸手段3内に同心的に配置して、軸手段に対する下向きの圧力と摺動軸196に対する上向きの圧力とにより、縫合糸196が引き締められて、血管197が閉塞されるようにしてもよい。
図104に、本発明の接触部材1a、1bの上面に改良を加えたものが示されており、固定具201は、鋏202、ピンセット203または縫合糸および縫合針204等のその他の外科用装置の置き場所または取付け地点が得られるようになっている。固定具201は、磁性を有していて、金属製の外科用装置が接触部材1の上面と整合的に接触する状態で容易に保持されることが好ましい。
図105を参照すると、本発明の接触部材1および/または接触部材1が取り付けられる軸手段3は、接触部材1または軸手段3のいずれもを1つの軸のまわりで位置決め可能にする1つ以上のたわみ継手205を備えうる。このたわみ継手205は、軸3が接触部材1に係合する地点または接続軸2が軸手段3に係合する地点または接続軸2が接触部材1に取り付けられる地点に設けられることが好ましい。
このように、図105の実施例において、接続軸2が各々の接触部材1に取り付けられる地点に設けられるたわみ継手205は、接続軸2と軸手段3とを標的血管に対して垂直な軸のまわりで傾斜可能にする。軸手段3が接続軸2に取り付けられる地点に設けられるたわみ継手205は、軸手段3を接続軸2に対して左右に傾斜可能にする。図105の実施例、または蝶番またはたわみ継手を有する本明細書に記載の実施例において、これらの蝶番またはたわみ継手は、図106に示されるように、ピンセット207を用いる等の機械的な方法で選択的に固定または固定解除される従来式の固定可能な継手206に置き換えられうる。
理解されるように、このような閉塞装置は、本明細書で説明されている他の幾つかの実施例における安定用接触部材1と同様であり、拍動する心臓の有為な安定化を達成することが予想されうる。これらの閉塞装置は、その他の安定化手段と併せてまたは独立して使用されうる。所望の場合には、これらの閉塞装置を冠状動脈の上ではなしに横に配置して、閉塞させることなく安定化を達成することもできる。同様の態様で、その他の実施例の接触部材1のほとんどは、標的血管の横ではなく上に配置された場合には、血流のある程度の閉塞をもたらす。
個別の実施例に関して以下に説明するように、軸手段3は、接触部材を心臓に当接させて配置し、その後、一旦安定化力が加えられると、安定化手段を正位置に固定するのに用いられる整合可能なアームに取り付けられるか、または該アームを具えうる。この整合可能なアームは、可撓性かつ固定可能であり、連続配置される複数個の連結体、分節または自在継手を含みかつ連結体の内側を通されるケーブル固定具を有する複数の構成を有し得、このケーブル固定具を締めることによって整合可能なアーム全体が剛性となる。さらにまた、この整合可能なアームは、整合可能な円筒状ハウジング内に内包されており、市販のダイマックス183−M等の、光または熱にさらされると剛性となる合成ゲルまたはポリマーを具えうる。軸手段3がさらに整合可能なアームを具える場合は、この整合可能なアームを接続軸2または接触部材1に直接取り付けてもよい。
図107を参照すると、この本発明の実施例は、拍動する心臓を安定させる手段であり、軸手段は、複数個の相互接続用連結体209を有する固定可能な可撓性アーム208を具え、これらの相互接続用連結体は、可撓性アーム208をいかなる方向にも配置可能にして最終的に所望の配置を達成させ、その時点で可撓性アーム208は、相互接続用連結体209を通って軸方向に延在するケーブル210に取り付けられるケーブル固定具(図示せず)を締めることにより、固定状体に固定されうる。各々の相互接続用連結体は、玉部分211と受け部分212とを具えており、玉部分211が受け部分212内に整合的に嵌入するようになっている。固定可能な可撓性アーム208の近位(最上)端は、安定支持体または牽引子に取り付けられうる。好適な実施例では、固定可能な可撓性アーム208は、各々の相互接続用連結体209の中心を通って延在するケーブル210を有する一連の相互接続用連結体209であり、ケーブル210に張力を加えると、固定可能な可撓性アーム208が剛性位置に固定されるようになっている。図107には、さらにまた、接触部材1が、心臓の表面に固定される単純な差込式固定具213を受けるように配置される1対の実質的に平行な要素1a、1bを具える本発明の実施例が示されている。この実施例において、差込式固定具213は、接触部材1の2つの平行な要素1a、1bの間に配置されて、心臓の組織の位置を接触部材1に対して固定する。上記の実施例のように、接触部材1は、吻合標的動脈がその間を通る実質的に平行な態様で配向されることが好ましい。差込式固定具213は、縫合糸によって心臓に固定され、この縫合糸214は、さらに縫合糸214を固定する1方向固定機構を形成しうる切欠部を介して接触部材1に取り付けられるか、または接触部材1の本体に設けられる円柱に取り付けられうる(図示せず)。その後、この縫合糸214は、前記切欠部または接触部材1の前記円柱から接触部材1a、1bまたは接続軸2に結び付けられて、心臓が接触部材1によりしっかりと固定される。この実施例のさらなる利点は、安定化手段が縫合糸214により心臓組織に実際に固定されて、心臓が側方または下方に移動しても安定化の標的となる動脈は不動状態に保たれ、かつ心臓の表面を軸手段3を用いて持ち上げることができるようになるという点である。
図108に、牽引子に取り付けられる固定可能な可撓性アーム208のさらに他の実施例が示されており、この可撓性アームは、玉継手215と円筒管216とを具えた一連の相互接続用連結体を有し、図107の構成のように固定可能な可撓性アームの全長にわたる引張ケーブルを有しうる。また、これらの実施例は、膨張して連結体の内面に当接することで個別の連結体を移動不能にし、以てアーム208全体を固定位置に固定する膨張可能な内部風船217等のその他の緊張手段を有してもよい。
また、固定可能な可撓性アーム208は、図109に示されるように、内部引張ケーブル210またはその他の緊張手段により相互接続される複数個の湾曲または屈曲管体218により得られうる。図109の実施例において、湾曲または屈曲管体218は、歯220を有する接合面219を有しており、互いに整合されると、歯220が互いに噛み合うことにより湾曲管体218の相対的な回転が防がれるようになっている。図110を参照されたい。上述のように、固定可能な可撓性アーム208は、中心に配置される引張ケーブル210またはばね負荷ロッドやボルト、ワイヤ等のその他の緊張手段を介して張力を加えることによって位置固定される。隣接する管体218間の相互接続は、ワイヤ210のまわりに設けられかつ接合面219の凹部222内に嵌入する形状とされるブシュ221により容易に行われうる。
図111を参照すると、連続的な可撓性を有する固定可能なアーム208は、さまざまな方法で半剛化または剛化されうる材料224を内包して有する中空可撓軸223によって得られる。使用時には、接触部材1を拍動する心臓に対して所望の配向に配置し、可撓軸223の内部の材料224を剛化または半剛化させる。可撓軸223内に内包される材料224は、エポキシ系の糊、低温溶融金属とその中に配置される電熱線、微粒状材料または光、熱または化学的手段にさらされると同時に半固化される周知の化学物質であってもよい。微粒状材料を用いる場合は、機械的圧縮器具226または真空吸引装置を配設して、材料を圧縮224して軸208を剛化させることができる。
図112を参照すると、可撓軸223内に、さらに実質的に平行でありかつ可撓軸223の内面に係合する複数個の相互接続された円盤227を配置することができる。上述の実施例の場合のように、これらの円盤227は、軸の全長にわたって延在するワイヤ210により相互接続されうる。複数個の円盤227は、可撓軸223を横切る方向の剪断力を軽減し、可撓軸を長手に沿って選択的に剛化させることができる個別作動区画となりうる。当業者には明らかなように、固定可能な可撓軸は、本明細書に記載されるさまざまな実施例を組み合わせて、軸の選択的な部分の可撓性を希望に応じて増減させうるようにすることによって得られうる。
図113を参照すると、調節可能な軸手段3は、さらにまた該軸手段3に接続されるかまたは該軸手段を構成する複数個の調節可能な連結体228によって得られうる。これらの調節可能な連結体228は、軸手段3の遠位端に配置され、接続軸2に接続されるかまたは接触部材1に直接接続されることが好ましい。図113を参照すると、少なくとも3個であることが好適な複数個の湾曲または屈曲連結体が用いられており、これらの連結体は独立して調節可能であるため、回転により多数の調節位置が得られる。複数個の調節可能な連結体228は、接触部材1を幅広い動作範囲で位置決めする小型機構となる。
図114を参照すると、これらの連結体は、軸手段3および接触部材1の端部を接続する軸2に対してかつ互いに他の連結体に対して独立回転されうる。複数個の接続された連結体で形成される組立体は、エラストマー液または気体粉砕エラストマーゴム、顆粒状プラスチックまたはゴムおよび金属の小球を含有する液圧媒体を連結体228の本体に内包させることによって固定可能となりうる。
再び図113を参照すると、ゴム弾性液圧媒体229は、調節可能な連結体内に内包される。調節可能な連結体間の相互接続地点に、内側または外側保持環と、調節可能な連結体228の内面に操作可能に付随する、ゴム弾性液圧媒体229を圧縮する手段とを配設して、媒体229に力を加えて該媒体を加圧して、各々の連結体228を保持環230a、230bに当接させて固定することで、各々の調節可能な連結体228の位置が隣接する連結体に対して固定され、以て軸手段3の組立体全体が正位置に固定されうるようにすることができる。
図115を参照すると、ゴム弾性液圧媒体を圧縮する手段は、自身の遠位端で前記媒体に接する押し棒231によって得られ得、この押し棒は、軸手段3の近位端でねじ232に取り付けられるハンドル233によって作動されうる。このハンドル233は、媒体229に対して一定の低い力を維持するばね234をピストンのまわりに配設されて有する。軸3の近位端にある圧縮ばね234は、ハンドルが押し棒をねじ232と係合させる時と同じ方向の最小限の予負荷力を押し棒231に付与する。ばね234が付与する力により、接触部材1は非固定状態で再配置される。また、ハンドル233はハウジング236内へと螺入され、該ハウジングはさらに軸3上に螺合する。ねじを有する軸3上でハウジング233を回転させることにより、軸の長さが調節され、それによって前記ばねが維持している予負荷力とハンドル233の軸方向の位置とが調節されることになる。
さらにまた、可撓軸は、外側可撓軸240内に複数本の実質的に伸長不能なストランド239を内蔵して有する図116の実施例によって得られ得、この外側可撓軸は、ストランド239を近位端で圧縮することによって可撓軸の位置を固定する把持装置241を具えた固定手段を近位端に有する。このため、把持装置241を具えた固定手段を作動させることによって、可撓軸240内のストランド239が互いに圧縮されて、個別のストランドの相対的な摺動が防がれ、以て複数本のストランド239の位置が固定されるとともに、接触部材1が位置固定される。
可撓軸240の内側に、化学的または機械的な手段で固化されうる複数の可撓性物質を内包させてもよく、または可撓軸240を剛化または半剛化させる密封部分を設けてもよい。たとえば、図117には、自身の全長に沿って延在するケーブル210と、自身内に設けられる複数の流体充填用管腔とを有する可撓軸240が示されている。これらの管腔242が密封されていない時は、接触部材1を連続的に位置決めすることができ、可撓軸240はいかなる形状にも設定されうる。接触部材1の所望の配向が達成されると、管腔242は密封されて、可撓軸240の位置が固定される。さらに、これらの管腔242に異なる加圧または減圧を加えて、接触部材1の位置を調節することができる。
図118を参照すると、微調節機構は、軸手段3の近位部分243のねじ付きポート244を横断して該軸の末端部材245の周縁部のまわりに設けられる複数本のねじ付き位置決めケーブル248によって得られる。軸3の末端部材245は、複数個のポート244の各々でねじ付きケーブル246を回転させることにより位置決めされる。つまみ247によりケーブルを回転させることによって、軸の末端部材245の部分は、その本来の位置に対して上方または下方のいずれにも移動される。
図119には、内側軸251の近位端の垂直方向の動きを減衰させるばね機構249を近位部分に有する本発明の軸手段3の内部が示されている。ばね252は、外側軸254の近位部分の内部に取り付けられており、接触部材1を拍動する心臓まで下降させると、内側軸251の近位端250がばね252を軽く圧縮するようになっている。外側軸254は、拍動する心臓の適正な安定化が達成される抵抗点に達するまで下方に移動されうる。前記抵抗点に達した時点で、外側軸250は、牽引子またはその他の安定支持体255に取り付けられることにより位置固定されうる一方で、内側軸251は、垂直方向に上下移動しうる。内側軸251の振動は、外側軸254の近位部分253内に設けられるばね255によって減衰されるか、または外側軸254を拍動する心臓の表面に対してさらに下方に配置することによって不動化される。
図119に示されたように、ばね機構249は、軸手段3の遠位端に取り付けられてもよく、ばね252は、中央軸256の外側にあってもよい。垂直方向の動きを減衰させるまた他の構成は、シール260と、内部で移動するプランジャ258とを有するチャンバ257で構成された流体制動機構によって得られ、前記プランジャは、チャンバ257の内側部分に係合して流体の通路を実質的に密封するゴム製Oリングシール等の環状シール261aを自身のまわりに有したピストン261を有する。ピストン261は、1つ以上のオリフィス269を有しており、該ピストンを通る流体の流れが抑制される。また、プランジャ258の内側には、迂回通路258b内のばね付きボール258a等の1方向弁がある。上向きの垂直な力が中央軸250に加えられると、流体制動機構は、中央軸250が上方に移動しようとするのを抑制するが、該軸の下方への移動は、迂回通路258bを通って流体が流れるために、相対的に抑制されない。
図121を参照すると、図示されている軸手段3は、中央軸263のねじ付き部分のまわりで回転可能なつまみ264により微調節機能が得られる調節可能な中央軸263を有しており、この中央軸は最遠位端で接触部材1に接続される。中央軸263の独立回転は、停止部268によって防止される。図1の場合のように、この実施例の軸は、該軸をボールソケット形軸継手267に通すことによって、牽引子または安定支持体266の一部分に回転可能に取り付けられうる。
図122を参照すると、接触部材1は、複数本のスプライン271を外面まわりに有する第2の軸270に係合するように延在する外側スリーブ269を具えた軸手段3の一部分に取り付けられる。第1の内側軸272は、接触部材1に操作可能に接続される玉継手273に取り付けられる。この第1の内側軸272は、外側スリーブ269および第2の軸270のいずれも内側に配置されており、ハンドル275(取外し可能であってもよい)による調節を可能にするねじ部274を有する。ねじ付き内側軸272の端部において、玉継手273は、接触部材1を軸手段3の基部で回転させる。第2の軸270は、外側スリーブ269の全長にわたってスプライン271により係合して、玉継手273が回転するのを防ぐ。円形クリップ275は、外側スリーブ260を貫通して玉継手273を固定位置に維持する内側突起276を有する。
図123を参照すると、本発明の接触部材1の連続的かつ調節可能な位置決めを達成する方法は、摺動し得かつ手で成形されうる可鍛軸277を接触部材1に取り付けることによって容易に実現されうる。特に、この可鍛軸277は、外科的切開部を開かせるのに用いられる牽引子ブレード279等の安定支持体に取り付けられる固定具278を通って摺動しうる。装置の垂直方向の位置決めは、切開部の外側から操作されて柔軟軸277の垂直部分281を固定具278を通して摺動させるハンドル280により行なわれうる。
図124を参照すると、本発明の軸手段3の実施例は、隣接する連結部材282に蝶番283により接続される複数個の各連結部材282と、各々の蝶番に接続されており、好ましくは蝶番283に隣接する取付け点285で各々の連結部材282に接続されるケーブル284により相互接続されるねじりばね(図示せず)とを有して図示されている。複数個の別個の相互接続された弓形連結部材282を用いることおよび相互接続ケーブル284を用いることにより、湾曲軸手段3は、ケーブル284に対する張力の付与、解除または反転に伴ってコイル状に巻かれたり巻き戻されたりすることができるようになる。最遠位側連結部材282およびケーブル284の端部は、前述の複数の実施例のいずれかの接触部材に固定されることが好ましい。
本発明によって可能になる、侵入を最小限に抑えた処置を活用する上で、軸手段3の形状を操作することによる接触部材1の位置決めは、軸手段3に取り付けられかつ操作可能に付随するさまざまな機構のいずれかによって、切開部の外側から遠隔的に行なわれうる。図125〜図127を参照すると、接触部材1の位置の遠隔操作は、接触部材1または接続軸2に接続される玉継手286を自身の遠位端に有する軸手段3によって実現されうる。玉継手286の連続的な位置決めは、玉継手286の外面上の対向する地点288で玉継手に固定される複数本のケーブル287によって実現されうる。玉継手286は、軸手段3の遠位端でソケット289内に維持されている。軸手段3そのものは、剛性または可撓性であってもよく、または外科医により臨床的環境に応じて所定の位置に固定されてもよい。さらにまた、軸手段3は、剛性軸291内に内蔵される内側可撓軸290を含む複数本の軸を具えていてもよく、可撓軸290は、剛性部分より上に延在して、位置決めハンドル292で終端する。接触部材1は、玉継手286に取り付けられる複数本のケーブル287を手段として位置決めされる。これらの複数本のケーブル287は、玉継手286から軸手段の全長を通って延在して、軸手段3の近位端にある位置決めハンドル292で終端する。軸3は、いかなる適当な長さであってもよいが、位置決めハンドル292が切開部から十分に離れた地点まで延在して、外科医が手術部位を見ながら接触部材1の位置を操作することができる程度の長さであることが好ましい。このように、各々のケーブル287は、玉継手280に固定される遠位部分と、これらのケーブルを取り付けられて有する位置決めハンドル292に固定される近位部分とを有する。ある構成では、複数本の位置決めケーブル287は、複数個の取付け点293のまわりでそれぞれ位置決めハンドル292に固定される。
図126および図127の実施例では、位置決めハンドル292は、底面に設けられる凹部295と、この凹部295に配置される柱294とを有しており、該凹部のまわりには、ケーブル287が複数の地点で固定される。位置決めハンドル292の最近位部分は、手で把持されるようになっており、柱294のまわりで回転されることでケーブル287に選択的な張力が付与されて、以て接触部材1が軸手段3の遠位端で再配置されうる。
前記説明から明らかなように、軸手段の重要な機能は、接触部材を拍動する心臓上の適切な部位に選択的に配置する一方で、臨床的状況の相違および外科的接近技術の相違に応じた十分な可撓性と位置調節能力とを提供することである。また、この軸は、一般的に近位端でかつ一般的には患者の胸部の外側の地点で安定支持体に載置されるかまたは取り付けられる。このように、特に拍動する心臓への接近路を得るのに用いられる外科用牽引子または牽引台等の安定支持体に対して複数の配置で位置決めされうる軸手段が得られると有利である。
図128および図129を参照すると、外科医が利用できる接近路および作業空間は限られている場合があるため、本発明の特定の実施例は、実質的に胸腔内に内包されうる。このような安定化手段は、肋骨牽引子に接続され、肋骨牽引子を用いて押し開くことにより創出される開口の片側または両側に固定されうることが好ましい。
図128を参照すると、肋骨牽引子296は、ブレード297が肋骨に係合して該肋骨を押し開く開位置において図示されている。従来式ラチェット手段299を端部に取り付けられて有する1対の安定化棒298は、牽引子の下に配置されている。このラチェット手段299は、安定化棒298上の複数個の歯300と、安定化棒298を解除機構により解除しない限り1方向に移動させる歯止め孔部301とを具える。安定化棒298は、下方に湾曲しており、該棒がラチェット手段299を通って前進されると、安定化棒298の最下部分が吻合部位に隣接する位置で拍動する心臓301aに係合するようになっている。
図129を参照すると、心臓に係合する安定化手段の部分の肋骨牽引子296に対する配向は、図128に示された実施例のものと同様である。この実施例では、接触部材1は、対向端部で少なくとも2つの可鍛支持部302に取り付けられ、該可鍛支持部は、さらに肋骨牽引子296に取り付けられる。これらの可鍛支持部302は、網状に織られるかまたは反復的なジグザグ構成を有していて、胸腔内に実質的に延長されうるステンレス鋼の帯で作られることが好ましい。この構成により、吻合部位で安定化力を維持しうるだけの十分な引張り強度を有すると同時に、外科医が可鍛支持部302を胸腔内で操作して拍動する心臓に対する所望の配向を達成することができる可鍛支持部302が得られる。
上述されたように、軸手段3の上端部において、軸手段3は、拍動する心臓と一緒には動かないいかなる面または構造体であってもよい固定支持体に取り付けられうる。たとえば、軸手段3は、肋骨を押し開いて心臓への接近路を得るのに用いられる牽引システム上の固定具に取り付けられてもよく、または患者に接続されない手術台またはそれに付随する孔部等の固定構造体に取り付けられてもよい。好適な実施例においては、軸手段3は、軸手段3を受けて処置中に軸手段3の位置および配向を維持するように設計された牽引システムの構成要素に直接取り付けられる。
図130および図131を参照すると、調節可能な摺動機構が軸手段3に設けられて、軸手段を牽引子に対して連続的に位置決めすることができるようになっている。たとえば、図130では、湾曲軸303は、調節可能なアーム305の端部に配設される玉継手304に挿通されており、この調節可能なアームは、軸手段を牽引子306に接続するとともに、牽引子306に対して固定されうる。湾曲軸303は、すでに述べたように玉継手304に挿通されており、軸303を玉継手304に対して摺動させることにより位置決めされて、接触部材1を可撓軸303によって限定される一定の円弧上のいかなる地点にも配置することが可能になっている。さらにまた、調節可能な軸305を用いて、湾曲軸303全体を牽引子ブレード307の長手に対して垂直方向に離間させて位置決めすることもできる。図131に、調節可能アーム305のAーAにおける平面図が示されており、調節可能アームは、その本体内にスロットまたは溝を形成されて有していて、該アームが固定機構308により位置固定されるまで連続的に位置決め可能とされてもよい。つまみ312cは、玉継手304の位置を位置固定する。
図132において、軸手段3は、牽引子313に固定される締付機構312内に配設された心棒311のまわりを摺動する1対の平行軸309および310を具える。牽引子313に対する軸手段3の位置は、軸手段3を心棒311に沿って摺動させることによって調節されうる。移動ハンドル311aは、接触部材1を相応に移動させる。締付つまみ312cは、把持部材312a、312bをポート312dおよび軸309、310上で同時に固定する。
図134を参照すると、牽引子またはその他の安定支持体と本発明の心臓を安定させる手段との間の距離を連続的に調節する調節可能なアームが得られうる。この調節可能なアームの一方の端部で、軸手段3は、調節可能なアームの本体内に形成されるソケット315内に内包された玉継手314に挿通される。玉継手314の締付けは、ソケット315に設けられかつ調節可能なアームの本体318を貫通する軸316を締め付けることによって調節されうる。この締付け軸316は、さらに回転つまみ319に接続されており、この回転つまみにより、締付け軸316を介してソケット315を締め付けることによって玉継手314を締めたり緩めたりすることができる。軸手段3と玉継手314との間の距離もまた、調節可能なアームの本体内にスリットまたは溝321を形成することにより、安定支持部320に対して調節されうる。固定機構322は、この溝321内に配設されており、固定ハンドル323を作動させると、固定機構322が溝321のまわりで締め付けられることによって調節可能なアームの位置が固定されるようになる。
図135、図136および図137には、調節可能な位置決めを可能にする異なる構成を有した複数部分からなる軸手段3が示されている。図135のものは、上側および下側の二重軸部材325a、325bおよび326a、326bを取り付ける蝶番を持つエルボ継手324を有しており、上側および下側の軸部材は、牽引子またはその他の安定支持体327に対して連続的に位置決めされるようになっている。この組立体は、牽引子に取り付けられ得、下側の二重ブレード軸部材326a、326bは、回転継手328により接触部材に取り付けられる一方で、上側の二重軸部材325a、325bは、第2の回転継手329により支持体に取り付けられる。図136のものは、牽引子ブレード330の下から延在することおよび第1および第2の軸332および333の間に設けられる少なくとも1つの円形継手のまわりで回転することによって水平面上に広がる位置に配置される2本の軸を有する。第2の軸333の端部において、玉継手335を近位端に設けられて有する第3の垂直軸334を接触部材1に配設することができ、この第3の軸は、第2の軸部材333に固定される。
本発明の軸手段の特に有用な特徴の1つは、軸手段の遠位端を連続的な態様または入れ子状の態様で延ばして、牽引子またはその他の安定支持体に取り付けられる軸手段の近位端に対して接触部材が下方に連続的に位置決めされうるようにすることができるという点である。下方への延長は、複数の機械的な実施形態で得られうる。図137には、上軸338内に同心的に配向される下軸337と、この下軸337の位置を上軸338に対して固定する固定手段339とを有する入れ子状軸部材336が示されている。さらに、接触部材1は、下軸337の遠位端にある旋回軸339により位置決めされうる。上軸338は、さらにまた上軸338の牽引子ブレード330に対する角度を調節する傾斜機構340によって、牽引子ブレード330に対して位置決めされうる。
図138、図139および図140を参照すると、本発明の安定化手段は、1本または複数本の軸の近位端を牽引子に固定する複数個の調節可能な取付け部によって得られうる。たとえば、図138では、複数本の入れ子状軸手段341は、複数の旋回軸継手342または牽引子ブレード343上の蝶番に固定されて、接触部材1は、切開部の一方の縁部を把持する牽引子ブレード343に対して3次元的に連続的に位置決めされうるようになっている。引き込まれた時には、接触部材1は、牽引子ブレード343に形成される凹状ハウジング343a内に完全に収容される。
図139の実施例では、第1の蝶番345により固定または固定解除されることで垂直方向に位置決めされるとともに、第2の蝶番346のまわりを揺動または回転しうる固定可能な回転式アーム344が用いられており、いずれの蝶番も牽引子アームまたは牽引子ブレード343に取り付けられる。
図140では、軸手段は、牽引子アーム349または牽引子ブレード343に沿った地点で入れ子状軸手段348の近位端に固定される調節つまみ347を有する。この調節つまみ347を緩めることによって、入れ子状軸手段348は、牽引子アーム349および牽引子ブレード343に対して伸縮され得、以て接触部材1を正位置に揺動させて拍動する心臓に接触させることができる。
図141の実施例において、最近位端にハンドル351を有する可撓性中央軸350は、一連の軸案内部352、353および354であることが好適な少なくとも1つの軸案内部352内に配設される。ハンドル351は、手で保持されるようになっており、可撓性中央軸350を回転させることおよびハンドル351の伸縮により接触部材1を位置決めすることをいずれも可能にする。一連の軸案内部352、353および354のいずれかを直線状にするかまたは所定の湾曲を持つ形状にして中央軸350の方向を変化させてもよい。近位側軸案内部354は、外科的切開部を開かせるのに用いられる牽引子355と一体化されうる。図141の特に好適な小型の実施例は、牽引子ブレード357のアームを互いに接続する横部材356に一体的に付随する軸案内部354を有する。中央軸350の遠位端にある軸手段3は、希望に応じて直線状または湾曲状かつ剛性または可撓性とされうる。中央軸350の位置を固定するために、固定機構358が、好ましくは中央軸350の近位部分に設けられて、中央軸の位置を軸案内部352、353および354に対して固定する。
図142を参照すると、上述したように、肋骨牽引子に取り付けることは、安定化手段の位置および配向を固定する好適な技術である。したがって、本発明の安定化手段は、肋骨牽引子359に取り付けられる固定具に取り付けられうるか、または肋骨牽引子359の一部分の本体に直接組み込まれるように構成されうることが有利である。外科用肋骨牽引子359は、通常的に、ブレード361を取り付けられて有する本体360を具えており、これらのブレードは肋骨に係合して、牽引子359を動作させてブレード361を互いに離れる方向に移動させると、肋骨が押し開かれる。後退したブレード361によって創出される空間は、心臓への接近路となる。このため、一旦牽引子359が開位置に固定されると、安定化手段を心臓に適用して、軸手段3の位置および配向を肋骨牽引子359に対して固定することにより、吻合部位で安定化力を維持することができる。再び図142を参照すると、軸手段3は、牽引子359の本体360を全幅にわたって横断し得、軸手段3が挿通される円形開口365を有する上板362および下板363により正位置に保持されており、この円形開口は、上板362と下板363との間に配置される球体365の位置を維持する。開口364の大きさは、軸手段3の直径より大きいが、球体365の最大直径より小さい。このため、軸手段3は、球体365を貫通し、球体365の略中心に位置する地点のまわりで旋回しうる。
図143を参照すると、本発明の安定化手段は、外科用牽引子の個別のアーム367を接続する横アーム366から延在する軸手段3によって得られ得、軸手段3が牽引子ブレード368に取り付けられるアーム367間でかつ牽引子ブレード368の位置より下に延在して、接触部材1と別個の軸369とが牽引子ブレード368の位置より下に配置されかつ通常的に胸腔内に内包されるようにすることができる。この実施例は、小型の設計であり、軸手段3の一部分は、胸腔内まで延在し、その遠位端370から延在する第2の実質的に水平な軸369を有する。
図144を参照すると、本発明の安定化手段は、肋骨372のいずれの側にも固定されて、軸手段3に対する安定支持体を形成する肋骨固定機構371を備えうることが有利であり、軸手段3は、この肋骨固定機構371から胸腔内へと延在する。肋骨固定機構371は、好ましくは該肋骨固定機構371の本体内に形成されるスロット376内に配設されかつ2本の隣接する肋骨372、373の間に配置される調節可能な柱373と、切開部に最も隣接した肋骨372の反対側に固定されるブレード374とを具える。ブレード374の位置は、機構371をスロット376に沿って摺動させて、固定用ラッチ373を用いて位置固定することにより、柱373に対して調節されうる。
本明細書で言及されているように、本発明の安定化手段の実施例は、心臓を位置決めして、迂回手術または拍動する心臓の位置が調節されうるその他の何らかの心臓手術を行ないやすくするのにも用いられうる。図145を参照すると、希望に応じて図144の実施例を改良して、同一または同等の肋骨固定機構371aに固定される軸手段3と、接触部材1とに、接触部材1を拍動する心臓の周縁部のまわりのある位置に維持しるような長さと引張り強度とを持たせるだけで、心臓位置決め装置として用いることができる。
本明細書ですでに説明された接触部材および該接触部材に関連ある特徴に関する複数の設計との組合せで、接触部材に取り付けられる要素、主として軸手段の形状および構造は、部分的に接触部材を具えていてもよく、本発明の精神から逸脱することなしに複数の異なる設計で提供されうる。すでに示されたように、特定の形態は、特定の処置に関する外科的要求による場合があり、拍動する心臓に接近するのに用いられる外科的切開部の性質による。たとえば、本発明の一部の実施例は、侵入を最小限に抑えた切開部が創出される場合に特に有用であり、処置は、心臓への接近路となるカニューレまたは中空軸を通して装置を導入することによって行われる。図146〜図149に、拍動する心臓を安定させる手段が、吻合部位のまわりに手術野を限定する中空軸386に一体化されるかまたは厳密に付随して設けられる本発明の実施例が示されている。図146では、標的血管389を吻合するための手術野を限定する2つの半円筒状部分388および388bに分割される下側円筒状部分387を有する中空軸386が用いられている。
底面390は、血管389を通す開口391を有していて、血管が開口391内かつ中空軸386の分割により創出されて手術野を創出する大空間内に配置されるようになっていることが好ましい。この実施例では、この装置の中空軸部分386または外軸の下側部分387の分割部分のいずれを介して装置を導入して、安定化と血管389への接近とを達成することもできる。軸の下側部分387の開放動作は、回転されたときに下側部分387を半円筒状部分388aおよび388bに分割する回転式軸手段3によって達成されうる。
図147を参照すると、拍動する心臓に底面390のまわりで接触して安定化機能を果たすとともに、複数個の開口393を本体394に設けられて有する単体の中空軸392を用いることができる。底面390に少なくとも1つの通路395を設けて、標的血管389をこの通路395内に配置しうるようにすることが好ましい。第2の通路396を、単体の中空軸392の底面390の好ましくは対向端部に設けて、血管が開口395、396を通り抜けられるようにしてもよく、または単一の開口が設けられる場合(図示せず)は、開口395に対向する底面縁部が閉塞装置の働きをする。単体軸392の本体により大きい開口397を設けて、外科医が標的血管389に単体軸392の本体を通じて接近しうるようにしてもよい。
図148に、すでに説明されたものと同じタイプではあるが、1対の接触部材1を形成されて有する中空軸要素398が示されているが、これらの接触部材は、軸要素399の下側部分401に設けられる蝶番または旋回軸400により、軸の本体399から広げ出される。外科的切開部を通して軸要素398が挿入される時には該軸要素と実質的に一体化して維持される接触部材1を広げ出すことにより、接触部材1は、拍動する心臓の表面に係合し、安定化機能を果たす。外科医は、軸要素398の中空部分またはそれ以外の方向から装置を導入して、吻合を行なうことができる。
図149を参照すると、安定化力は、軸要素398により創出される手術野の真下に加えられる必要がある。図149の実施例は、軸要素398の底部391に形成される環状リング402を有しており、このリングは、軸要素398の壁を貫通しかつ環状リング402に固定されるロッド403または軸手段3により与えられる軸のまわりで回転されうる。ロッド403を回転させることにより、環状リング402は回転して軸要素398の底部391から脱出し、軸要素398に隣接しかつ正接する位置で接触する輪のような態様で、拍動する心臓に接する位置に配置されうる。本明細書で説明されるその他の実施例のように、安定化力を加える環状リング構造402は、少なくとも1つの通路464を底面に形成されて有していて、血管389が該通路内に配置されうるようになっていてもよい。通路464は、リング402全体を通り抜けて、該リングを、移植片が心臓に締結される吻合部が形成された後に手術野から容易に除去されうる「C」または「V」形の接触部材(図示せず)とするものであってもよい。これに代わる方法として、リング構造402は、必要な場合には切断または分解されて除去されてもよい。
図150を参照すると、この実施例の安定化手段は、心臓のまわりに帯状に巻き付いて心臓の動きを抑制する細長鞘部材405を具える。この実施例は、外科的接近路を得る開胸術と併せて用いられうるが、拍動する心臓への接近路が胸骨切開術によって得られる場合に特に有用である。この鞘部材405は、心臓を取り巻く位置に配置され、鞘部材405の各々の端部が胸骨切開部を通って胸腔の外に延在するように操作される。所望の場合には、各々の鞘部材405の少なくとも一方の端部を牽引子406に取り付けて、鞘部材405の位置を固定する。鞘部材405は、心臓の外面に係合して心臓を正位置に保持する複数個の支持用付属物407を有しうる。支持用付属物407が心臓の表面に接触する地点において、支持用付属物407は、心臓と直接接触する表面に取り付けられる摩擦手段4(図示せず)を有していてもよい。支持用付属物407は、心臓と鞘部材405との間の緩衝体となって、心臓の動きを吸収しながら心臓を安定させる流体充填部材408を有するかまたは具えていてもよい。鞘部材405が1つ以上の流体充填部材408を有する場合は、鞘部材405は、さらにまた空気または生体適合性流体を膨張可能な部材408に導入する少なくとも1つの管腔409を有していてもよく、これらの膨張可能な部材は別々にまたは同時に膨張されうる。前者の場合には、各々の膨張可能な部材408に関して別々の管腔409が設けられる。鞘部材409の胸腔内への挿入は、膨張可能な部材408が収縮されている時に行なわれ得、手動でまたは従来式案内装置および/または案内ワイヤにより達成される。各々の支持用付属物407は、鞘部材405に永久的に取り付けられてもよく、または鞘部材405の長手に沿って摺動してもよい。これに代わる方法として、膨張可能な部材408を単独でまたは他の膨張可能な部材と組み合わせて、標的冠状動脈に直接隣接する位置に配置することで、より局所的な安定化を達成することができる。このように、本発明の膨張可能な部材は、心臓の冠状動脈の横または周囲に配置され得、外科的処置を行なうための開口または孔部を本体に設けられて有しうる。膨張可能な部材408が、心臓と囲心嚢または肋骨の裏側等の外囲構造との間の空間を満たすと、さらなる安定化力が加えられうる。膨張可能な部材408を適切に膨張させると、標的動脈の部位は、接触部材1や外科的切開部の縁部裏側等の隣接する安定化構造に押し付けられうる。さらにまた、流体充填式または膨張式の緩衝手段または安定化手段または位置決め手段は、剛性、可鍛性、変形可能または取外し可能の軸、ハンドル、取り付け部または膨張手段により適用されうる。
同様に、図151を参照すると、対向する牽引子ブレード411の上を通って心臓の下を通過するように配置されかつ両端部で帯411を選択的に移動させるクランク412に取り付けられうる帯410を用いることができる。クランク412を回転させるか、またはその他の方法で帯411の位置を操作することによって、心臓を回転させて選択的に位置決めすることまたは心臓のさまざまな部分に接近可能にすることができる。クランク412は、侵入を最小限に抑えた開胸術において肋骨を押し開いておくのに用いられる牽引子に取り付けられると有利である。
上述されたように、拍動する心臓の安定化に加えて、本発明の装置および方法は、図150および図151に示されるように心臓を選択的に位置決めするのにも用いられうる。また、図152〜図154に示されるように、連続的な帯411に代わるものが、図152、図153および図154に示されており、心臓の下に配置される実質的に偏平な可撓シート413を具える。このシート413の一方の面にヒドロゲル414のコーティングまたは心外膜表面に付着する同様の材料のコーティングを施してもよい。シート413のもう一方の面は平滑であることが好ましい。好適な実施例では、2枚のシート413がそれぞれの縁部で連結されて、両者間に介在空間(図示せず)が形成される。この介在空間が流体で灌流されることにより、ヒドロゲル414が軟化して、シート413を容易に再配置または除去することができる。
外科的処置の性質によっては、接触部材1の位置を手術野から遠く離れた地点から操作することにより、該接触部材を正位置に固定することが望ましい場合がある。図155の実施例では、接触部材1と自身の最遠位端で係合する複数本の入れ子軸415が用いられている。各々の入れ子軸415は、牽引子ブレード416上の地点に固定されて、以て入れ子軸258を集合的に調節して、接触部材1を手術野内で入れ子軸415の移動範囲内のいかなる地点にも位置決めしうることが好ましい。各々の入れ子軸258の最近位端で、該軸は、各々の入れ子軸415の配向を牽引子ブレード416に対して固定する液圧アクチュエータ417により、牽引子ブレード416に固定される。各々の液圧アクチュエータ417は、非膨張形液圧ホース419を介してロック弁418に取り付けられる。一般的に、このロック弁は、液溜め420と、ロック弁418を閉鎖して液圧アクチュエータ417を位置固定する手動スイッチ421とを具える。いかなる本数の入れ子軸415を用いてもよいが、複数の取付け点を牽引子ブレード418上のさまざまな位置に設けて、外科医が、少なくとも3本であることが好適な複数の入れ子軸415を、各々の外科的処置に最も適した位置で牽引子ブレード416に個別に取り付けうるようにすることが好ましい。
図156〜図157の実施例を参照すると、接触部材が拍動する心臓の動きによって上方に変位する時に継手と調節可能なアームとを一定の構成に固定する選択的に配置された摩擦面を付随して有する継手により接続される複数本のアームを具えた安定化手段が用いられている。図157を参照すると、牽引子ブレード416は、第1の湾曲重ね板ばね422cを伸張させて第1の軸424の位置を牽引子ブレードに対して固定するハンドル422bにより作動する内側カム軸422aを備えた固定機構422を有する。図156に示されるように、第1の軸424は、第1の摩擦継手425に取り付けられており、前記継手は第1の軸424に対して垂直な軸のまわりで回転しうる。図158を参照すると、摩擦継手425は、第1の軸424に固定される下側ハウジング426と、第2の軸428に固定される上側ハウジング427とを具え、この第2の軸は、第1の軸のように別個の円筒軸であってもよく、または摩擦継手425のハウジングの延長部分であってもよい。上側ハウジング427と下側ハウジング426との間に、玉ピボット429が配置されて、個別のハウジングを互いに回転させる。上側ハウジング427または下側ハウジング426のいずれか一方は、摩擦面430を内部に設けられて有しており、反対側のハウジングは431等の摩擦係合手段を有する。いずれかのハウジングが玉ピボット429のまわりで傾斜することにより変位しても、摩擦面430が摩擦係合手段431に接触して、摩擦継手425の位置が固定される。第2の軸は、第1の摩擦継手と同等の構造を有する第2の摩擦継手に接続されてもよい。
図156および図159を参照すると、回転可能な軸手段433は、歯止め機構を有するハウジング438内に配設される中央ロッド434を具えており、この歯止め機構は、前記中央ロッド434のまわりの歯に係合して回転可能な軸手段433の回転位置を固定する舌435で形成される。回転可能な軸手段433は、たとえば歯(図示せず)が成形舌437と係合することによって回転に抵抗する軸439を有した蝶番436により、接触部材1に接続される。
図160〜図163の実施例では、牽引子ブレード440は、クリップを受けるようになっており、このクリップに、自身の遠位端にある伸縮可能な軸手段と該伸縮可能な軸を伸長させる手段とを有する可撓スライドが挿入される。図162を参照すると、この組立体は、安定化手段を牽引子ブレードに取り付けるC形クリップ441を含む。このクリップは、牽引子ブレード440に形成される案内部443内に嵌入するようになっている少なくとも1つの溝442を有する。クリップ441の本体は、さらにまた、図160および図161と図162の点線とに示されるように、湾曲部分の外側まわりに可撓スライド445が挿入されるスロット444を有する。図163に、クリップ441に形成されたスロット444の内側に嵌入する可撓スライド445が示されており、この可撓スライドは、スロット444を通ってクリップ441に侵入し、クリップ441の形状に沿って該クリップのまわりで湾曲するようになっている。ブロック446は、可撓スライド445の遠位端に取り付けられる。
伸縮可能な軸手段447は、このブロック446に取り付けられており、注射器449またはその他の同様の流体内包装置と流体接続されて、管448を介して液圧を加えて軸手段447を伸長させる膨張不能な液圧管448を有する。注射器には、逃がし弁451を備えた1方向弁450を設けて、液圧を加えて伸縮可能な軸手段447を漸進的に前進させる一方で、1方向弁450により伸縮可能な軸手段447の収縮が防がれるようにすることが好ましい。処置が完了すると、液圧は、逃がし弁45を作動させることによって解除される。
図160を参照すると、外科医は、最初にクリップ441を牽引子ブレード440に挿入してから可撓スライド445をスロット444に挿入する。そして、可撓スライド445をクリップ441の最上部から最下部まで前進させて、最終的に伸縮可能な軸手段447を正位置につけ、この軸手段を伸長させることで接触部材1を心臓と整合的に係合させることができるようにする。片手で注射器449を用いて流体を伸縮可能な軸447に注入して、接触部材1を心臓に係合させる。牽引子ブレード440内の案内部443をブレード440の全長に延在させて、クリップ441をブレード440に沿って選択的に位置決めすることができるようにしうることにも注意されたい。
図164を参照すると、本発明の拍動する心臓を安定させる手段が、肋骨牽引子452および心拍動式CABG処置に用いられうるさらに他の装置453、454と一緒に用いられている様子が示されている。使用時には、牽引子のブレード455は、肋骨を引き離して、以て本発明の安定化手段を含む外科用装置を導入する接近路となる空間を作り出す。こうして、安定化手段を心臓に接触させて、接触部材1を標的動脈456に隣接させるようにする。安定化手段を好ましくは肋骨牽引子452に取り付けることにより正位置に固定することを含めて、拍動する心臓の動きを最小限に抑えうる程度の大きさの安定化力を加える。
図165を参照すると、安定化手段は、1対の実質的に平面状の矩形接触部材1を具えており、これらの接触部材は、標的動脈456に隣接して配置される。軸手段3は、肋骨牽引子452に手軽に取り付けられうるように変形可能となっている。図165に示されているように、外科医は、接続軸2および接触部材1の配向と位置とを軸手段3に対して容易に調節しながら、装置の近位端にあるつまみ457を操作することにより、安定化手段を心臓と連続的に接触させることができる。図166に、処置のその後の段階として、標的動脈456を縫合することにより吻合が完成されている様子が示されている。このように、安定化手段は、処置の継続時間にわたって吻合部位で安定化力を維持する。
上記で本発明の複数の実施例に関して述べたように、安定化手段は、心臓手術の前段階で肋骨を押し開くのに用いられる牽引子等の関連ある外科用装置と一体化されうることが有利である。図167には、侵入を最小限に抑えた手術において、肋骨を押し開くのに適した牽引子459のアームと一体化される1対の軸手段3を有する本発明の実施例が示されている。安定化手段は、接触部材1を位置決めするのに用いられる前述のような調節可能な連結部459を有する軸を具える。さらにまた、軸手段3は、牽引子ブレードのアーム458に直接固定される玉継手460に挿通されており、軸手段3および接触部材1の位置を正位置に固定する調節可能なハンドル460で終端する。
すでに述べたように、本発明の目的は、拍動する心臓に対する侵入を最小限に抑えたCABG処置を行ないやすくする装置または1揃いの装置を提供することにある。したがって、本明細書に開示された各々の装置は、複数の個別の装置が一纏めに包装されて、外科医が拍動する心臓に対して縫合を行なうのに必要な各々の装置を利用することができる総合キットとして提供されることが好ましい。本明細書で説明された拍動する心臓を安定させる手段は、胸腔内に直接導入され、拍動する心臓と直接物理的に接触するため、本明細書で開示された各々の装置は、その他の外科用装置に適した滅菌処理を受ける必要がある。本明細書で説明された装置の実質的な部分は、生体適合性を有する滅菌処理可能なプラスチックで形成されかつ装置を完全に密閉する滅菌容器内に維持されており、この容器が微生物に対する防護体となり、本発明の安定化手段およびこれらの装置が一括包装される容器が滅菌されることが特に好ましい。容器および容器内に入れられる装置の滅菌は、ETOガス、高温高圧またはガンマ線照射等の従来式滅菌方法により達成されうる。容器は、本発明の装置が入れられて密封される前または後のいずれの時点でも滅菌可能な密封式可撓袋であることが好ましい。
本明細書に記載された特定の例は、説明を目的としており、当業者が本発明を適用しうる用途を制限するものと解釈されるべきではない。当業者は、特許請求の範囲に示される精神および範囲内に含まれる改変およびその他の使用方法を行なうことができる。
1 接触部材、2 接続軸、3 軸手段、5 固定用玉継手、6 ブロック、7 ねじ付き押しブロック、8 つまみ、11 ハウジング、15 係止部分。