JP4285785B2 - 細胞質遺伝雄性不稔大豆及び雑種大豆を生産する方法 - Google Patents
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Description
本発明は植物育種に関し、特に、細胞質雄性不稔大豆、及び望ましい大豆植物の開発におけるその利用に関する。
発明の背景
植物育種の目的は、親系統の様々な望ましい形質(trait)を一つの品種または一つの雑種に結合させることである。農作物に対して、これらの形質には、抗病、抗虫、耐熱、耐早(旱魃に耐える形質)、早熟、多収穫、全般的な農業品質の改善等の形質が含まれる。多くの作物が機械によって収穫されるので、発芽、成育、成長速度、成熟、及び果実サイズ等の植物特性の一様性が重要視されている。植物育種は、最初に、現在使用されている生殖質の問題と欠点を分析確定し、育種計画の目標を設定し、かつ具体的な育種目的を確定する。次に、その育種計画の目標を満たす形質を有する生殖質を選別し、その目標形質を再現させるために育種を行う。
農作物は、植物受粉法を利用する技術によって育成される。植物は、その一つの花の花粉が当該植物の同一の花、或いは他の花に移される場合、その植物は自花受粉に属する。また、花粉が異なる植物の花からもたらされる場合、その植物は他花受粉に属する。例えば、大豆及び綿花等の自花受粉種において、その雄性器官と雌性器官は解剖学上、近位的である。自然受粉の間に、ある花の雄性生殖器官はその同一の花の雌性生殖器官に受粉する。トウモロコシは、自花受粉・他花受粉の両者が可能である。アブラナ属の植物は、通常、自花不稔で、他花受粉しかできない。
大豆植物は、分類学上、グリシン亜属とソジャ(Soja)亜属を含むダイズ(Glycine)属に分類されている。また、Soja亜属の下には、栽培種であるダイズ(Glycine max)と、野生種であるツルマメ(Glycine soja)との二つの種がある。
大豆植物は、天然自花受粉植物であると認められている一方で、他花受粉を行なうこともできるが、自然界ではめったに発生しない。研究者によれば、昆虫が花粉を一株の大豆植物から他の一株の大豆植物に運ぶことが報告されているが、一般的には、オープン栽培の場合に形成される大豆の種子の1%未満が、他花受粉によると推定されている。言い換えれば、オープン栽培の場合に形成される大豆の種子がF1雑種大豆植物を生産できるのは、その1%未満である(Jaycox,「蜂蜜と大豆の生態関係」アメリカンビージャーナル、110(8)巻306〜307頁(1970年8月)を参照(”Ecological Relationships between Honey Bees and Soybeans”,American Bee Journal,Vol.110(8):306-307(1997/8)))。この引例及び他の全ての引例は、ここでは、参考として併せて引用される。従って、受粉制御操作が優良品種の選別育成にとっては極めて重要である。
植物育種の最重要点の一つは、様々な望ましい形質が備わる親系統を意図的に交雑させ、その同じ形質を後代に提供するために、受粉過程を制御する能力である。
現在、大規模に商業化されている雑種生産では、雄性の稔性を制御する若しくは抑制する何らかの形態の雄性不稔システムを用いる必要がある。また、植物における雄性の稔性を確実に制御する方法は、植物育種を改良する機会も提供する。このことは、特に、(ある種の)雄性不稔システムに依存するトウモロコシの雑種の開発に適用される。育種者にとっては、雄性の稔性を制御するためにいくつかのオプションがある。例えば、手作業又は機械による除雄(トウモロコシの雄穂除去)、細胞質雄性不稔、遺伝子雄性不稔、及び生殖体撲滅薬等である。雄性不稔性における多くの進展がトウモロコシの生産に反映されている。
雑種トウモロコシの種子は、通例、手作業又は機械除雄の雄性不稔システムによって生産される。トウモロコシの二つの系統品種が畑で交錯して栽培され、花粉を有する雄穂が花粉が撒かれる前に、系統品種(雌)の一つから取り除かれる。他所のトウモロコシ花粉源から十分に隔離されるという条件で、その除雄された系統品種の雌穂が、他の系統品種(雄)からのみ受精されるので、生産された種子が雑種種子であり、雑種植物になる。
細胞質雄性不稔(CMS)同系繁殖体を用いることによって、面倒かつ時には不確実な除雄過程を避けることができる。CMS同系繁殖体の植物が雄性不稔となる原因は、核ゲノムではなく、細胞質のゲノムである。従って、この特徴は、雌だけが受精された種子に細胞質を提供するので、トウモロコシ植物において専ら雌親から遺伝される。CMS植物は、雄性不稔ではないもう一つの同系繁殖体の花粉によって受精され、この第2の同系繁殖体の花粉は、雑種植物を雄性稔性にさせる遺伝子を提供してもよいし、或いは、提供しなくてもよい。雑種植物が栽培される時に、受精に十分な花粉量を確保するように、通常、除雄された稔性トウモロコシの種子とCMSによって生産された同一雑種の種子とは混合される。
従来より、遺伝子雄性不稔性を利用する他の方法が数多くあるが、それぞれ長所と短所がある。これらの方法の取り組み方は多岐に亘る。例えば、雄性組織特異促進因子と連結する細胞毒素物質を符号化した遺伝子を植物に導入することや、稔性に重要な遺伝子を識別してその遺伝子のアンチセンス(antisense)を植物に挿入するアンチセンスシステムを利用すること等である(Fabinjanski.et al.,EPO 89/3010 153.8.公開番号329,308、PCT出願番号PCT/CA90/00037、公開番号WO90/08828を参照)。
雄性稔性を制御する上で役立つもう一つのシステムは、生殖体撲滅薬を用いることである。生殖体撲滅薬は遺伝システムではなく、むしろ化学物質の局所的な適用である。これらの化学物質は、雄性稔性にとって重要な細胞に影響を及ぼす。これらの化学物質は、植物の成長期に使われ、かつ成長期にのみ植物の稔性に影響を及ぼす(Carlson,Glenn R.,米国特許番号:4,936,904を参照)。生殖体撲滅薬の適用、適用の時期、及び遺伝子型の特異性により、この方法の有益性がしばしば制限される。
雄性不稔は、植物界での普遍現象である。Duvick(1966)は、全ての植物種が少なくとも一つの雄性不稔核遺伝子を有しているに違いないと提案した。Laser et al.(1972)は、約140種に細胞質雄性不稔(CMS)が存在しているという公表されたレポートがあることを指摘した。Kaulが1998年に再調査を発表するまでに、CMSが発見された種の数が大幅に増加した。
現在、いくつかの類型の雄性不稔大豆が確認されている(Palmer et al.1987)。例えば、劣性単遺伝子に制御されている遺伝子雄性不稔(GMS)は、集中的に研究かつ調査されている(Graybosch et al.1988,Palmer et al.1992)。それらの材料は、遺伝研究、及び循環選択等の育種計画に用いられている。
雄性不稔植物の純粋株立本数を得るのが困難で、かつ、安価な受粉手段を見つけるのも困難なため、GMSによる雑種大豆の種子生産がまだ広範囲に実施されていない。しかし、CMSシステムは、トウモロコシ、モロコシ類、米を含む複数の重要な作物において、雑種の種子生産に有効であると既に証明されている。大豆における細胞質雄性不稔及び回復遺伝子が報告されている。Davis(米国特許番号第4,545,146号,米国特許番号第4,763,441号,及び米国特許番号第4,648,204号)は、雄性不稔細胞質と雄性不稔を保持する二対の劣性遺伝子r1r1、r2r2とを有する複数の栽培品種を開示している。このCMSシステムは、通常、双遺伝子胞子体システムと呼ばれている。この双遺伝子胞子体システムでは、CMS細胞質が存在している場合であっても、稔性回復遺伝子の各対R1R1又はR2R2に優性を呈する少なくとも一つの対立遺伝子を有する品種が、生育可能な花粉を生産する。ここまでのところ、独自でこのシステムを立証する報告は行われていない。例えば、種子株が利用可能な条件で、必要な不正常のCMS細胞質及び劣性回復遺伝子が存在する場合であっても、不稔性が表れない。Davisの米国特許第4545146号において、双遺伝子胞子体不稔システムが記載されている第7コラムの第30行から第9コラムの第63行までの記載箇所を参照せよ。
細胞質雄性不稔系の中の回復胞子体システムにおいて、正常花粉を生産するかどうかを決定するのは、植物(胞子体)の遺伝子型である。従って、回復遺伝子座位にヘテロ接合である胞子体植物は、花粉粒の四分の一だけが二つの優性対立遺伝子を携帯しても、全ての正常の花粉を生産する。配偶体システムにおいて、花粉粒が正常又は非正常を決定するのは、花粉粒(配偶体)自身の遺伝子型である。従って、回復遺伝子の座位がヘテロ接合であるこのような植物は、優性対立遺伝子又は劣性対立遺伝子の有無に依存して、正常花粉粒と不稔(aborted)花粉粒をそれぞれ、半分ずつ生産する。これは、通常、「半不稔性」と呼ばれている。
ここに記載の発明は、配偶体の、細胞質雄性不稔大豆系に関するものである。さらに、Davisのシステムと異なり、この発明は、二つではなく、一つだけの回復遺伝子を操作すればよいので、育種に用いられるのが容易になる。
発明の概要
本発明は、上述CMS大豆システムにおいて提示された問題を解決するために、大豆雑種の生産に比較的容易に用いられる、連続的に繁殖可能な雄性不稔系を提供する。また、本発明は、不稔性を保持するために、現在記載された不稔細胞質とその劣性核回復遺伝子とを含有する系を、稔性細胞質とその対応する、CMS系の中と同じような劣性核回復遺伝子とを含有する第2の品種と交雑させる方法を提供する。
従って、本発明の一つの目的は、配偶体細胞質雄性不稔システムを有する大豆系を提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、不稔性を制御するために一つの単遺伝子を操作することが可能な細胞質雄性不稔大豆系を提供することにある。また、本発明のもう一つの目的は、上述の細胞質雄性不稔系のための回復大豆系を提供することにある。
本発明の更なる目的は、配偶体細胞質雄性不稔植物を雌親として用い、雄性稔性親大豆植物と他花受粉させることによって大豆雑種を生産することにある。雌親大豆植物は、不稔細胞質成分と、その細胞質雄性不稔遺伝成分に対して特異性を有する核回復遺伝子に劣性対立遺伝子とを含有する。ここに記載の雄親は、雌親の細胞質雄性不稔遺伝成分に対して特異性を有する核回復遺伝子に、少なくとも一つの優性回復対立遺伝子を有する。その雑種大豆の種子は、この交雑における雌親から収穫される。
本発明の上記以外の目的、特徴、及び利点を、後述する発明の詳細部分で明らかにする。しかし、本発明の精神及び範囲内の様々な変更と修正は、発明の詳細な記載部分から、当該技術分野の一般技術者にとって明らかになるので、詳細な記載部分と具体的な実施例は、本発明の好ましい実施方案が理解しやすいために、例示的な方法によってのみ示されている。
詳細な記載
大豆は世界的に植物油とタンパク質食物の主な生産原料である。大豆から抽出される油が調理用油、マーガリン、サラダドレッシング(等)に用いられる。大豆油は、飽和脂肪酸と、単不飽和脂肪酸と、多価不飽和脂肪酸とから構成される。大豆油の典型的な組成は、パルミチン酸11%、ステアリン酸4%、オレイン酸25%、リノール酸50%、リノール脂肪酸9%となっている(「改良大豆形質の経済的関わりに関する要約報告書」”Economic Implications of Modified Soybean Traits Summary Report”,Iowa Soybean Promotion Board & American Soybean Association Special Report 92S,May 1990)。酸化安定性及び栄養価を高めるための脂肪酸組成の変更は、絶えず研究されている。更なる加工が施される大豆油は、工業上、塗料、プラスチック、繊維、洗剤、化粧品、潤滑剤等の成分として用いられる。大豆油は、裂け(split)、インター・エステル化、硫化、エポキシ化、重合、エトキシル化、又は開裂(cleaved)されてもよい。改良された機能や総合化学品質(oliochemistry)を備えた大豆油派生物を設計及び生産する分野は、著しく成長しつつある。典型的なトリグリセリドの混合物は、通常、分割されて純脂肪酸に分離された後、石油派生物としてのアルコール、酸、窒素、スルホン酸エステル、又は塩素に、或いは、油脂派生物としての脂肪アルコールに、化合される。
大豆は、人間及び動物の食料源としても用いられている。また、大豆は、家畜、豚及び牛等の動物の飼料のたんぱく質源として幅広く利用されている。大豆の加工過程では、繊維が含まれる外皮を取り除き、油を抽出する。残りの大豆粕は、炭水化合物と、約50%のたんぱく質との混合物である。
人間及び動物の消費用として、大豆粕から、大豆粉が作られ、その大豆粉は、肉類の代用品又はペット食品用の濃縮タンパク質に加工される。大豆から食用たんぱく質成分の生産は、肉、乳製品に含まれる動物性タンパクに匹敵する健康に良い、かつ廉価な代用品を提供している。
本発明は、雄性不稔大豆系に関する。この雄性不稔大豆系は、細胞質雄性不稔であるので、同系繁殖体として望ましい経済形質を一貫して表すことができ、或いは、雑種の生産のために親系統として用いることができる。また、本発明は、その記載された回復系にも関する。
本発明は、大豆植物を生産する方法にも関する。この方法では、本発明の雄性不稔親大豆植物が第二の親大豆植物と交配させられる。その第二の親大豆植物は、その不稔細胞質に対して特異性を有するホモ接合優性又はヘテロ接合核回復遺伝子を備えて記述される系の大豆植物である。従って、本発明の雄性不稔大豆系又は回復系を使用するかかる方法が、この発明の一部となっており、例えば、自配、戻し交雑、雑種生産、個体群交雑等も、それに該当する。本発明の大豆品種又はその優性回復系を親として用いることによって生産された全ての植物は、本発明の範囲内になっている。利点として、大豆品種は、他の異なる大豆植物との交雑に用いられることによって、第1世代(F1)の大豆雑種の種子及び優良な特徴を備える植物を生産することができる。本発明の品種は、形質転換にも用いられる。即ち、外生遺伝子が導入されて本発明の品種によって表される。本発明の雄性不稔品種を用いる伝統的な育種方法によって生産された遺伝子変異体、或いは、当該技術分野の技術者に知られている如何なるプロトコルを使って本発明の雄性不稔品種の形質転換によって生産された遺伝子変異体が本発明の範囲に帰するものと見なされる。
形質転換によって遺伝的に改良された植物組織の生産は、本発明に開示された理論と、様々な従来技術及び応急手段とを結合させるものである。殆どの場合、互いに異なる応急手段は、全過程の各段階に存在している。応急手段の選択が、例えば、特殊な構造遺伝子、プロモーター要素、使用された上流要素だけでなく、クローン及び望ましい組換えDNAの導入のために選ばれたプラスミド・ベクターシステム等の様々な変数に依存している。必要な構造遺伝子及び栽培細胞を表す栽培条件が従来より知られている。また、従来技術で知られているように、大豆は、形質転換可能及び再生可能であるので、調節制御の下で、必要な遺伝子を含有し且つ表す全植物が得られる。植物表現ベクター、レポーター遺伝子、及び形質転換プロトコルに関する一般的な説明は、Gruber,et al.,“植物形質転換のためのベクター(”Vectors for Plant Transformation”)”、Glich et al.,“Methods in Plant Molecular Biology & Biotechnology”(Eds.pp.89頁〜119頁,CRC Press,1993)に見られる。更に、ここでは、GUS遺伝子の表現ベクター及びGUS遺伝子カセットが、Clone Tech Laboratories,Inc.,(Palo Alto,California)から入手できる。ルシフェラーゼ表現ベクター及びルシフェラーゼ遺伝子カセットが、Pro Mega Corp.(Madison,Wisconsin)から入手できる。植物組織を栽培する一般的な方法は、Glich et al.,「植物分子生物学及び生物工学における方法」“Methods in Plant Molecular Biology & Biotechnology”(Eds.pp.67頁〜88頁,CRC Press,1993)に掲載されたMaki et al.の文献「外来のDNAを植物に導入する手法」(“Procedures for Introducing Foreign DNA into Plants”)に記載されており、また、Sprague et al.に編集された“Corn & Corn Improvement”第3版の345頁〜387頁、American Society of Agronomy Inc.,1988に掲載されたPhillips et al.の文献“Cell-Tissue Culture and In-Vitro Manipulation”に記載されている。
表現ベクターを植物組織に導入する方法は、直接感染、若しくは、アグロバクテリウム腫脹(Agrobacterium tumefaciens)と植物細胞との共同栽培を含む。Horsch et al.Science,227:1229(1985)を参照されたい。
アグロバクテリウム・ベクターシステム及びアグロバクテリウム介在遺伝子移転方法に関する説明は、上記のGruber,et al.でなされている。
表現ベクターを植物組織に導入する有益な方法は、例えば、微噴出媒介運搬(microprojectile-mediated delivery)、DNA注射、電気穿孔法などの直接遺伝子移転を含んでいるが、それに限定されない。表現ベクターを植物組織に導入する更に好ましい方法が、バイオリスティック(biolistic)装置による微噴出媒介運搬法である。このような例は、欧州特許第30,749号に開示されている。本発明の原形質を利用して得られた形質転換植物は、本発明の範囲に属するものと見なされる。
ここで使用されている用語「植物」とは、植物細胞と、植物原形質体と、大豆植物を再生することができる植物細胞組織培養と、植物癒傷組織(カルス)と、植物クランプ(clumps)と、植物の中の無傷の細胞、又は胚、花粉、胚珠、花、莢(さや)、葉、根、根の先端、葯等の植物の一部等、を含む。
品種の更なる繁殖は、組織栽培及び再生によって発生できる。大豆の様々な組織の組織栽培およびそれからの植物の再生は、よく知られかつ広く発表されている。例えば、参考になる文献は以下の通りである。Komatsuda,T.et al.,大豆における体性胚形成のための遺伝子型Xスクロース相互作用(”Genotype X Sucrose Interactions for Somatic Embryogensis in Soybean,”)Corp Sci.31:333-337(1991);Stephens,P.A.et al.,組織栽培派生大豆植物の農業評価”Agronomic Evaluation of Tissue-Culture-Derived Soybean Plants,”.Theor.Appl.Genet.82:633-635(1991);Komatsuda,T.et al.スクロースに生息された時の体性胚の成熟と発芽、及び、大豆グリシン薄いスクボルツ及びダイズ(L)メルに植物の成長規則(”Maturation and Germination of Somatic Embryos as Affected by Sucrose and Plant Growth Regulators in Soybeans Glycine gracilis Skvortz and Glycine max(L.)Merr.,”)Plant Cell,Tissue and Organ Culture,28:103-113(1992);Dhir,S.et al.,大豆(Glycine max L.Merr.)の原形質からの稔性植物の再生:栽培反応に遺伝子型差異(”Regeneration of Fertile Plants from Protoplasts of Soybean(Glycine max L.Merr.):Genotypic Differences in Culture Response”),Plant Cell Reports 11:285-289(1992);Pandey,P.et al.,Glycine wightii(W.and A.)VERDC.Var longicaudaの葉及び胚軸外植からの植物再生(”Plant Regeneration From Leaf and Hypocotyl Explants of Glycine wightii(W.and A.)VERDC.Var longicauda”),Japan J.Breed.42:1-5(1992);及び、Shetty,K.,et al.,アラントイン及びアミドによりダイズ(Merrill.)にインビトロシュート器官形成の刺激作用(”Stimulation of In Vitro Shoot Organogenesis in Glycine max(Merrill.)by Allantoin and Amides,)”Plant Science 81:245-251(1992);また、1991年6月18日にCollins等に付与された米国特許第5,024,944号及び1991年4月16日にRanch等に付与された米国特許第5,008,200号。上記文献の記載を参考文献とする。
周知のように、大豆を含めて数多くの植物において、細胞質遺伝が雌親からのみ伝えられる。これらの植物において、花粉が細胞質成分を伝えない。本発明は、不稔細胞質を有する雄性不稔大豆植物を提供する。そこで、細胞質遺伝成分は不稔細胞質(S)用である。この雄性不稔大豆植物は、更に、その細胞質に対して特異性を有する核回復遺伝子座位において、劣性対立遺伝子(rfxrfx)を有する。細胞質(S)と回復遺伝子の遺伝子型(rfxrfx)とを結合させることは、植物に雄性不稔表現型を与える。この雄性不稔表現型は、維持可能であり、かつ、F1雑種大豆の種子を生産する時に更に利用可能である。
ここに記載された、細胞質遺伝子型(S)及び核回復遺伝子型(rfxrfx)を有する雄性不稔大豆系は、稔性又は正常の細胞質遺伝子型(F)及び核回復遺伝子型(rfxrfx)を有する記載された雄性稔性アイソライン(isoline)(維持系)との他花受粉によって維持可能である。雌親(雄性不稔系)はA-系、雄親はB-系又は維持系と呼ばれている。雌親から収穫されたこの種子は雌親からの細胞質遺伝子型(S)を伝える。その遺伝子型の残る部分では、雌親と雄親が本質的に同様であり、従って、雌親植物から収穫された種子は、細胞質雄性不稔性を含めて、遺伝上雌親植物自身と同様である。
本発明において、回復のモードは配偶体である。言い換えれば、花粉が正常か不正常かを決めるのは、花粉粒の遺伝子型又は配偶体である。回復遺伝子座位での遺伝子型(Rfxrfx)は、不稔細胞質(S)が存在する条件で、稔性花粉と不稔ないし不受精花粉とを、それぞれ50%ずつ生産する。(Buchert,J.G.,細胞質花粉不稔トウモロコシに稔性回復におけるゲノム・プラズマ相互作用の状況”The state of genome-plasmon interaction in the restoration of fertility to cytoplasmically pollen-sterile maize”,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 47:1426-1440(1996)を参照)
本発明は、更に、ここに記載された雄性不稔大豆植物を雌親として、少なくとも一つの優性回復対立遺伝子を有する上記系を雄親として用いる他花受粉によって雑種大豆を生産する方法を提供する。種子が雌親から収穫され、かつF1雑種大豆植物を栽培するのに用いられる。
本発明の好ましい実施例において、細胞質雄性不稔植物は、雌親としてのダイズ(Glycine max)、系167と、雄親としてのツルマメ(Glycine soja)系035との交雑によって生産される。特殊な不稔細胞質(S)遺伝成分を備えるダイズ(Glycine max)系167は、その不稔細胞質遺伝成分に対して特異性を持つ核回復座位での優性稔性対立遺伝子(RfxRfx)によって稔性を回復する。ツルマメ(Glycine soja)、系035は、稔性細胞質(F)を有し、かつ系167が有する細胞質に特異性を持つ核回復座位において劣性対立遺伝子(rfxrfx)を有している。なお、ツルマメ(Glycine soja)、系035は、ホモ接合転座(T/T)を含有することで、後代において花粉不稔率が期待された不稔率より高いという結果となっている。種子は、F2個体群を生産するために、雌植物から収穫され、栽培されて成熟したら、自花受粉される。このF2個体群から、(rfxrfx)遺伝子型を有している植物が選ばれ、ツルマメ(Glycine soja)、系035との一連の戻し交雑において雌親として用いられる。その戻し交雑後代から、高いパーセンテージの不稔花粉粒及び相互転座された染色体(T/T)を備える後代が選ばれる。得られた細胞形質に対する遺伝子型は細胞核がS:(rfxrfx)(T/T)である。少なくとも五回の戻し交雑が行われた。選ばれた後代は、雑種生産用の種子源を維持するB-系か、上記記載された如何なる回復大豆系と交雑させられる。なお、例えば、花の色又は軟毛の色のような回復遺伝子と密接な関連がある遺伝形質の利用は、畑において表現型標識としての役割を務める。当然、ツルマメ(G.Soja)表現型は、その農業形質が良くないので直接に雑種生産に用いられないが、大豆の栽培型と交雑しやすいことで、十分な戻し交雑の後、望ましい親系列を生産することができる。
雑種大豆系を生産する場合には、手作業の他家受粉と昆虫介在の他家受粉とのいずれも利用可能であることは強調されるべきである。手作業の他家受粉は、困難かつ時間がかかるので、商業化生産に適用ではない。昆虫介在の他家受粉、例えば、蜂蜜を利用する他家受粉は、商業化生産に有利である。本発明の雄性不稔植物は雌親として、回復系は雄親として用いられている。昆虫は花粉を雄親植物から雌親植物に伝えることによって植物を他家受粉させる。その種子は雌親から収穫される。当該技術分野において蜂蜜に対する開花大豆植物の誘引性を高める方法がいくつか知られている。例えば、ネクターの流れを増加させるために開花期に雨量又は潅水を制限することや、花の大きな植物を又は蜂蜜フェロモンのような昆虫を誘引できる匂いを発散する植物を選ぶこと等である。
ここに述べた本発明の思想は、雑種大豆を制御しながら成長させることにある。これらの雑種は、収穫量の増加につながり、かつ高められた雑種強勢及び雑種活力の他の利益を引き出せる。
例1
材料及び方法
実験は、最初に、ツルマメ(G.Soja)の染色体転座頻度を研究し、雄性不稔細胞質と不稔維持遺伝子との相互作用を示す可能な組合せを同定した。中国の吉林省公主嶺、河南省の鄭州、江蘇省の徐州、浙江省杭州、湖南省の長沙、及び福建省泉州に設けられた六つの実験地が、実験材料を栽培するために選ばれた。北緯25度〜44度の地帯をカバーするこれらの実験地の広い地理分布は、広い遺伝基礎上に実験試料を選ぶ機会を提供した。133品種のダイズ(G.max)と213品種のツルマメ(G.soja)は、異なる成熟グループから選ばれ、かつ上記六つの実験地の一つにおいて正常に成熟できた。これらの品種は、交雑において、それぞれ雌親と雄親として用いられた。
ダイズ(G.max)及びツルマメ(G.soja)の遺伝子型は、最大の遺伝多様性を示すようにふるい分けられ選ばれた。例えば、雌栽培された親は、地方品種だけではなく、現代栽培品種もあった。雄親には、典型的な一年生野生大豆及び半野生大豆が含まれていた。
実験期間中に、ダイズ×ツルマメの交雑組合せが376回行われた。大部分の組合せから生産されたF1種子が吉林省公主嶺に設けられた光調節で栽培されており、一部が河南省の鄭州で栽培された。F1植物の花粉粒の稔性がI2-KI染色(法)によってチェックされ、不稔花粉粒のパーセンテージ数が計算された。莢(さや)の中の重さ28ミリグラム未満の発育不全胚子は、発育不全胚珠又は早期種子発育不全と見なされた。
結果と討論
ダイズとツルマメとの交雑からのF1花粉粒の半不稔が、ツルマメにおける染色体転座のためであったとPalmer等(1976,1984)が確認した。ダイズおける自発転座(translocation)が殆ど発見されなかった。ダイズは無転座の共同親として使われ、本研究に用いられたダイズ×ツルマメの213組合せのうち、高くも59.6%の組合せが転座された染色体を含有する。この結果は意外ではない。Delannay等(1982)が、中国からのツルマメのコレクションの19試料に対して転座頻度のチェックを行った結果、うちの16(即ち、84%)は疑わしい転座があったことが分かった。
ある特殊な交雑:ダイズ汝南天鵝蛋(本発明に167と呼ばれ)×ツルマメ5090035(本発明に035と呼ばれ)がF1植物において88.1%という極めて高い花粉粒不稔率を有することが見出された。実験誤差又は不利な生長条件等の偶然要素による可能性を排除するために、正逆交雑を含めての2回追加交雑が行われた。その花粉稔性チェックの結果は、表1に示されている。
表1のデータは、親167及び035の花粉稔性が正常であったことを示している。167×035のF1植物に発見された高度な花粉不稔性は、異なる年に、異なる生長条件で、重複可能であった。不稔花粉粒の平均率が3年間89.69%で、最高値と最低値との差がわずか4.69%であった。これは、遺伝が不稔の原因であったことを明瞭に証明した。
交雑035×167におけるF1植物の半不稔性は、二つの親の何れかにおける染色体転座によって生じたと考えられる。ツルマメにおける転座の高い頻度を考えれば、系035は一つの染色体を転座させたと思われた。この推測をテストし且つ証明するために、無転座を示す現代大豆栽培品種鄭州64-1は167及び035とそれぞれ交雑するように共同親として選ばれた。表2の結果は、F1植物の花粉粒の半不稔性が、系035が含まれる正逆交雑の組合せに現われており、親としての系167を有する交雑に現われていなかった。従って、167における染色体転座の可能性は排除できた。
染色体転座のためのヘテロ接合が半発育不全胚珠をも引き起こす。鄭州64-1×035及び035×鄭州64-1のF1植物における不稔胚珠のパーセンテージ数は、167と035におけるそれぞれ7.03%と6.74%の不稔胚珠のパーセンテージ数と比べ、それぞれ43%と35.78%であった。スチゾロビウム(Stizolobium sp.)に全ての胚珠が不稔である莢は自然に脱落するとBeiling(1995)が主張した。同様な現象は大豆において発生する。もし、自然に脱落したかも知れない莢内のそれらの不稔胚珠はその観察された不稔胚珠に追加されれば、不稔胚珠のパーセンテージ数は50%近くになったであろう。035を含む交雑のF1における半不稔花粉と半不稔胚珠は共に、ツルマメ系035における転座の存在を確かめた。
正逆交雑はF1植物に異なる不稔花粉率をもたらした。正交雑167×035の花粉不稔率が、逆交雑035×167の花粉不稔率により、32.26%高い(表1を参照)。F1植物の可稔性に対する167細胞質の影響は明らかにされており、かつ、このような影響は系035核ゲノムが167細胞質にあった時にのみ生じることが分かった。167細胞質と035核遺伝子との相互作用は、細胞質核雄性不稔系を得られる可能性を予測している。核置換戻し交雑が1990年から始まった。3株のBC1F1植物が1991年に得られた。各BC1F1植物の花粉不稔率はそれぞれ99.93%、93.53%、99.27%であった。二番目の戻し交雑は行われ、0、1、10のBC2F1種子がその3株のBC1F1植物からそれぞれ収穫された。全てのBC2F1種子は1991年の冬に温室で栽培され、かつ同一のBC1F1植物から得られたBC2F1植物が4株得られた。別のBC1F1植物から収穫された唯一のBC2F1種子が発芽に失敗した。戻し交雑の全過程を以下に示す。
連続戻し交雑は9年目の夏に終わった。高度雄性不稔植物、CMS A-系、及びその維持系統、雄性稔性B-系が得られた。本発明において、ここで得られたツルマメ表現型を有するCMS A-系及びB-系は、本発明の以下でそれぞれOA及びOBと呼ぶ。
OAのいくつかの重要な特性を以下に説明する。
形態形質:OA及びOBは、典型的な一年生野生大豆の表現型を有した。即ち、つる性の茎、小さい葉、黒い種子、100粒当り2.5グラムである種子である。OA及びOBは、無限形茎成端(an indeterminate type of stem termination)、灰色軽毛(pubescence)、及び紫喉を備える白い花を有する。OAは、形態上,その維持系統であるOBに似ており、但しそのOAは、成熟期に、葉の老化が遅れ、結莢が少なく、成熟植物上に大量の長さ0.5-1.0cmの小さな未受精莢があった。
花粉粒の顕微形質:光学顕微鏡試験は、OAの花粉粒が小さく、その直径が17.15μmで、OBの正常花粉の直径が21.73μmであったことを示した。花粉の外壁は発育が良好であることに見えるが、その内容が萎縮していた。その花粉は12-K1によって染色できず、かつ淡い褐色を呈した。
雄性不稔安定性:BC4F1植物は、光周期及び温度の異なる処理を備える三つの条件の下で栽培された。雄性不稔性は安定で、かつ高いレベルで安定であった。その栽培条件は以下のようであった。
8年目の冬:その植物は公主嶺に設けられた温室で栽培された。24時間の光照射を2週間与え続けられ、その後13.5時間に減少されて開花まで光照射を与え続けられた。暖房装置の不安定により温度は変化していた。不稔花粉率は97.95%であった。
9年目の夏:その植物は鄭州の畑で栽培された。6月上旬に植えられて、8月上旬に開花した。温度は全成長期にわたって高く維持された。花粉の不稔率は99.93%であった。
9年目の夏:植物は公主嶺に設けられた光制御室で栽培された。光は出芽から完全結莢まで14時間で与えられた。温度は5月上旬の植え期に低く、7月上旬の開花期に高く設定された。不稔花粉率は99.94%であった。
上記データで、激しく変化する環境の中でCMS植物の不稔花粉粒率が、殆ど変化していなかったことを示し、また雄性不稔性が非常に安定していたことが明かになった。
雌性稔性:167は共同親として、同時にOA及びOBと交雑することに用いられた。その交雑の成功率(即ち、結莢率)は雄性稔率を推測するために用いられた。その平行交雑(parallel crosses)は、人工実験の誤差を最低限に減少するように、同一の人によって行われた。その結果は表3に示されている。
OA上の結莢率は、OB上の結莢率より僅か1.64%低かった。その顕著性テストにより、0.01レベルで、両者の間に差がないことが明らかになった。OAの雌性部分は正常の通りであった。
167×035及び035×167の正逆交雑の間にF1sの雄性不稔性の相違が大きく、かつ、連続核置換戻し交雑後に高度な雄性不稔を維持することとは、細胞質核雄性不稔システムのみによって説明可能であった。理論上の制限を避けるために、仮に、系167の中の不稔細胞質Sと系035の中の一対の劣性回復遺伝子rfxrfxとの組合せ(即ち、S(rfxrfx))は、CMS OAの中に雄性不稔性を引き起こした。OB及び系167の中に遺伝子制御のモードがそれぞれN(rfxrfx)及びS(RfxRfx))であったと考えられる。しかし、167×035のF1に高度な雄性不稔性について説明する必要がある。一つの説明は、理論上の制限を避けるために、系035の中に染色体転座とのかかわりが、167×035のF1の中にヘテロ接合転座による半不稔性を引き起こしたかもしれないことである。しかし、ヘテロ接合転座を備える植物の比率がBC5個体群に1/32までに減少されると期待された。或いは、回復遺伝子Rfxがrfxに対して不完全優性であってもよい。このような現象は、他種の中のCMSシステムで見出された。別の可能性としては、このCMSシステムが配偶体型であり、そこでヘテロ接合Rfxrfxが半不稔花粉粒を生産したこと、また、最後に、雄性不稔を制御する核遺伝子が優性であったことである。これらの可能な解釈(染色体転座を除く)は、より正確な遺伝研究によって確認可能であるが、再び言いたいのは、発明者が理論によって制限されることを意図しないことである。
CMS OA及びOBは、反復戻し交雑に核ゲノムを提供したツルマメの表現型を有する。前述のように、ツルマメはその農業形質が良くないので雑種大豆の生産に直接に利用できなかったであろう。しかし、CMS雄性不稔システムは大豆の栽培型に容易に転換できる。重要なポイントは、ツルマメとダイズ等が密接な親戚関係の種であり、その間の遺伝子流動にとっては障害が実質的にないことである。実際に、一方から他方への遺伝子流動は、従来の育種計画において、如何なる障害とならずに、頻繁に実施されていた。
例2
ツルマメはダイズの先祖と考えられるが、その殆どの農業形質は現代農業には受け入れられない。従って、本発明に記載されたツルマメの表現型を有する細胞質雄性不稔系OAを、雑種大豆生産に直接に用いることはできない。上述したように、ツルマメとダイズとの間に種の障害がなく、その間に何らかの形の交配を行うことができる。当該技術分野において、ツルマメ系OAに存在している細胞質雄性不稔遺伝子成分をダイズに伝える方法は、いくつか知られている。その一つは、ツルマメ系OBの中の核ゲノムに有する細胞質雄性不稔成分を、ダイズ大豆(G.max soybean)の中から選び出すテスト交雑である。言い換えれば、そのテスト交雑は、OAの雄性不稔性を維持できる、OBの核回復座位での劣性遺伝子rfxrfxをダイズから選び出すことに用いられる。
本発明の例1には、(167×035)×035の戻し交雑BC3F1(以下、OABC3という)は、8年目に得られた。その不稔花粉粒率は99.93%の高さであった。そのテスト交雑は、OABC3を雌親にして複数のダイズを雄親にして行われた。以下は、ある大豆品種の伊川緑大豆(Yi Chuan Lu Da Dou)を雄親としてのテスト交雑及び戻し交雑の過程である。
ある新しいCMS A-系は、OABC3を伊川緑大豆と連続的に戻し交雑させることによって得られた。以下に、この新しいCMS A-系はYAといい、その維持系統B-系としての伊川緑大豆はYBという。YA及びYBは共に、典型的な栽培大豆表現型を有する。ツルマメOA及びOBの中の染色体転座は、5回の戻し交雑を経てYA及びYBの中に消された。
例3
四つの三系テスト交雑の個体群に対して測定した花粉稔性の結果を表4に示す。S.P.G.は測定された不稔花粉率を示す。F、SS、Sはそれぞれ稔性、半不稔、不稔を示す。雌親は左側に、雄親は右側にある。全てのデータが試料の原産地である河南省で収集された。
YAはダイズであり、その細胞質が雄性不稔であり、その核回復遺伝子(S-rfxrfx)が対立遺伝子を備える。YBはダイズ系であり、同一の核回復遺伝子(F-rfxrfx)に対立遺伝子を備える稔性細胞質を有する。系167は、不稔細胞質遺伝成分を有し、その核回復遺伝子(S-RfxRfx)のホモ接合優性対立遺伝子によって、稔性に回復された。
一列目において、YAが系167×YBという交雑から得られたF1と交雑された結果が示されている。遺伝型は、S-rfxrfx(YA)とS-Rfxrfx(167×YB)との交雑であると期待される。注意すべきことは、この場合の雄性には、系167から細胞質の存在のために、Rf有する花粉粒だけが生育可能である。この交雑の結果は、後代が遺伝型S-Rfxrfxを備え、50%の不稔性を示している。また、注意すべきことは、系167が胞子体細胞質不稔性ではなく、配偶体細胞質不稔性を有するので、167×YBF1からの、劣性回復対立遺伝子を有している花粉粒は、生育不能である。これは、なぜ不稔率が50%であるかを説明している。この列の下に示されたように、稔性後代対半不稔後代対不稔後代の比は0:10:1である。その一個の不稔植物は、よく文献に記載された例で、劣性回復対立遺伝子を伝達させられる細胞質の稔性への復帰によって生じたと考えられる。これらの例には、稔性復帰は、劣性rf対立遺伝子を有する花粉粒の発育によって表わされている。このような現象が発生するとき、完全雄性不稔の後代植物(S-rfxrfx)が得られる。トウモロコシには、この現象の発生頻度が遺伝子型に依存している。Gabay−Laughnan,S.,G.Zabala,J.R.トウモロコシの中のS-型細胞質雄性不稔性”S-Type Cytoplasmic Male Sterility in Maize”,pp.395-432.Ch.S.Levings III及びI.K.Vasilに編集された「植物糸粒体の分子生物学」”The Molecular Biology of Plant Mitochondria”,Kuwar Academic Publishers,Netherlands(1995)を参照せよ。
二列目において、YAが(YB×167)F1と交雑された結果が示されている。この結果は、遺伝型上、S-rfxrfxとF-Rfxrfxとの交雑で、その後代が比例1:1のS-rfxrfxとS-Rfxrfxの遺伝型を有する。この場合には、オリジナルF1が稔性細胞質を有していたので、Rfx対立遺伝子とrfx対立遺伝子は共に伝達される。表4に示されたように、稔性後代数対半不稔後代数対不稔後代数の比が0:19:16であり、従って、この比は、予想されていた1:1の半不稔後代植物対不稔後代植物の比を反映している。
三列目において、F1がYA×167によって生産され、その遺伝型がS-Rfxrfxである。F1はYBとの交雑に雌親として用いられる。Rfx対立遺伝子及びrfx対立遺伝子が雌を通じて共に生育可能である時、後代は半不稔植物:不稔植物=1:1に分離すると再び期待される。その2株の稔性植物は、上述した細胞質稔性復帰の例によって説明することができる。
四列目において、系167とYBとの交雑によるF1と、YBとの交雑は、半不稔後代:不稔後代=1:1という分離比をもたらすべきであった。観察された比によれば、半不稔後代対不稔後代の比は実際に約2:1である。これらの結果を、Gabay-Laughnan,Zabala,及びLaughnan(1995)に観察されたトウモロコシにある類似の現象を検査することによって説明しても良い。これらの著者は、生産された花粉が、外観及び染色が正常であるが実際に無機能である現象を観察した。その公開されたデータによれば、彼らは、四つの異なる近交系の中に、この七つの独立事例を観察した。従って、その大豆の例において、明かな半不稔植物は、正常な花粉粒染色を示していても、実際に機能上、不稔植物であるかもしれない。もし、このような現象がなければ、これらの植物は、全て不稔植物として分類されたであろう。
二つのF2個体群の中の花粉稔性も測定された。その結果は表5に示されている。一回目がYAと系167との交雑、二回目が系167とYBとの交雑である。これらの交雑の結果は、係わった遺伝学も反映している。YA×167F2個体群の中に、遺伝学上、S-rfxrfxとS-RfxRfxとの交雑がS-Rfxrfxという結果になる。そのF2世代が1:1という稔性(S-RfxRfx)、半不稔(S-rfxRfx)に半分ずつ分離する。その二回目の交雑167×YBにおいて、その結果は、F1がS-Rfxrfxであり、F2が、一回目と同じように、稔性(S-RfxRfx):半不稔(S-Rfxrfx)=1:1のように分離すると予想されている。ここで、その一回目交雑での6不稔後代及び二回目交雑での7不稔後代は、その遺伝構造が係わっても、前述した細胞質復帰変異によって説明可能である。二つの既知の遺伝系の間の交雑から実際に得られた結果には、沢山の要因が入っている。環境はその一つの要因である。上述した様々な異常現象は、配偶体システムの中に発生し、劣性対立遺伝子が雌によって伝達される。これらの実際の状況を考慮すれば、ここでのデータは、単遺伝子配偶体システムが存在していることを確実に示している。理論の制限を避けるために、発明者が強調したいのは、いくつかの遺伝学的材料の中に変更遺伝子が存在する可能性を否定しないが、それでもこれらの変更遺伝子はここで記載された配偶体単遺伝子システムと一致していることである。
これは、そのシステムがDavisの胞子体双遺伝子システムと異なり、配偶体単遺伝子によって操作されることを確かめる。注意されるべきは、大豆が二倍体された多倍体でありかつ複数の遺伝子が一つの特別な形質に係わっており、しかし、これらの遺伝子は典型的に静止性遺伝子である。とにかく、本発明において、不稔性に影響を与えるために、一つの核遺伝子だけが必要となる。これで交雑、戻し交雑等による遺伝操作がかなり簡単になることは、当該技術分野の一般技術者にとって明白である。
例4
本発明における不稔性の形質が、テストされた温度及び光周期の変化の中でも、安定している。表6が、変化している光周期の中で、不稔花粉粒のパーセンテージ数を示している。
温度は表7に示すように変化されていた。その表7において、三つの変化が示されており、ハイフン(−)前の数字が昼の温度、ハイフン後ろの数字が夜の温度である。その実験のデータによれば、大幅な変化であっても、その不稔性は非常に安定していた。
寄託
系A(OA)、B(OB)及び167のおよそ2500個種子が、ブタペスト条約に指定されている中国典型培養物寄託センター(CCTCC、武漢、湖北、430072)に寄託された。
なお、出願人は、その寄託物を提出するとき、サンプルの生存報告を提出することを含めて37 C.F.R1.801-1.809の要求を満たすだろう。この寄託物は公開寄託センターのCCTCCに30年寄託され、又は満期前に寄託物サンプル提供の請求を受けた後に寄託期間は5年延長される。この期間中に寄託物は、その生存力を失ったら、取り替えられる。寄託物の提供が許されるときに、出願人は、CCTCCが上記寄託材料を外に提供することに対して制限を与えない。しかし、出願人は、生物材料の移転又は商業上の運輸に対して法律上の制限を放棄する権利がない。出願人は、本特許又は植物品種保護条例に基づいて与えられる権利を侵害する行為に対して追究を放棄しない。
本発明を明確しかつ理解できるために、図表及び例によって詳細に説明した。しかし、例えば、単遺伝子の修飾及び変異、ソモクローン(somoclonal)突然変異株、インスタント同系繁殖体の植物の大量の個体群から選ばれた変異個体等のような変更及び修正は、明かに本発明の範囲内になっており、添付されたクレームの範囲にのみ制限される。
ここで引用された全ての文献は、参考文献リストにまとめられている。
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本発明は、好ましい実施例によって説明されたが、当該技術分野の技術者にとって明かな変更及び修正を行なうことは理解されるべきである。これらの変更及び修正は添付された特許請求の範囲内に入ってると考えられるべきある。
Claims (5)
- ダイズ系汝南天鵝蛋(寄託番号CCTCC No.P 97004)とツルマメ系5090035(寄託番号CCTCC No.P 97003)との交雑による後代F1を、そのツルマメ系5090035と繰り返しに戻し交雑させることによって、生産された細胞質雄性不稔大豆植物。
- ダイズ系汝南天鵝蛋(寄託番号CCTCC No.P 97004)に見出される細胞質雄性不稔遺伝成分と、一個の核回復遺伝子とを含む雄性稔性大豆植物。
- ダイズ系汝南天鵝蛋(寄託番号CCTCC No.P 97004)とツルマメ系5090035(寄託番号CCTCC No.P 97003)との交雑による後代F1を、そのツルマメ系5090035と繰り返しに戻し交雑させることよりなる、細胞質雄性不稔大豆植物を生産する方法。
- 請求項1に記載の細胞質雄性不稔大豆植物であって、その種子の寄託番号がCCTCC No.P 97002である大豆植物。
- 請求項1に記載の細胞質雄性不稔大豆を雌として、核回復座位に優性対立遺伝子を有する大豆と交雑させ、雑種F1種子をその雌親から収穫して生産することを特徴とする雑種大豆を生産する方法。
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