JP4281389B2 - リン酸化ペプチドの単離方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リン酸化ペプチドの単離方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
リン酸化ペプチドの解析は生命現象において細胞内情報伝達等の制御の解明に重要であり、創薬におけるスクリーニング法などで利用されている。
【0003】
真核生物ではSer、Thr、Tyr等でリン酸化が生じるが、遺伝子配列から推定されるアミノ酸配列では、リン酸化の有無やリン酸化部位の特定はできないため、リン酸化ペプチドの直接的な解析が必要である。
【0004】
複雑な混合試料からリン酸化ペプチドを単離する方法として、例えば、金属固定化アフィニティークロマトグラフィー法(Ficarroら:Nat.Biotechnol.20(2002)301〜305貢)、特異的化学修飾による精製法(小田ら:Nat.Biotechol.19(2001)379〜382貢)などが知られている。
【0005】
金属固定化アフィニティークロマトグラフィー法では、3価の鉄イオンもしくはガリウムイオンを使用し、それをキレート担体に固定化した金属イオン固定化アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)カラムを用いる。3価の鉄イオンあるいはガリウムイオンにリン酸基が結合する性質があるため、この性質を利用してIMACカラムにリン酸化ペプチドを結合させて精製する。しかしながら、金属固定化担体の安定性の問題やキレート担体自身に非特異的に結合するペプチドがあることなどが問題であった。
【0006】
一方、特異的化学修飾を用いる方法では処理工程が多いなどの問題があり、簡便かつ効率的にリン酸化ペプチドを単離する方法が必要であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の解決しようとする課題は、リン酸化ペプチドを簡便かつ効率的に単離する方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、リン酸化ペプチドの単離方法について鋭意研究を行った結果、特定の合金にリン酸化ペプチドが吸着されること、及び吸着されたリン酸化ペプチドに特定の処理を施すことにより回収できることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、(1)鉄を主として含有しさらに少なくともクロムを含有する合金に、リン酸化ペプチド含有液を接触させる工程、(2)接触処理済液相を除去する工程、(3)該接触処理済合金にアンモニア水を処理する工程及び
(4)アンモニア処理済合金を除去し、水相を取得する工程を含むことを特徴とするリン酸化ペプチドの単離方法に関するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、ペプチドとは、2個以上のα−アミノ酸がペプチド結合により結合した高分子化合物を言い、蛋白質も含む。リン酸化ペプチドとは、ペプチドを構成するセリン、スレオニン、またはチロシン残基のヒドロキシル基の少なくとも1個にリン酸がエステル結合しているペプチドを言う。
【0010】
リン酸化ペプチド含有液は、通常、1種のリン酸化ペプチドまたは2種以上のペプチド/リン酸化ペプチドからなり少なくとも1種のリン酸化ペプチドを含有する混合物を水、酢酸水溶液、トリフルオロ酢酸水溶液、ギ酸水溶液、グリシン−塩酸水溶液等に溶解することにより調製される。リン酸化ペプチド含有液におけるペプチド/リン酸化ペプチドの全濃度は使用するペプチドを分離可能な手段により変わるが、通常は0.01mg/ml〜10mg/ml、好ましくは0.1mg/ml〜1mg/mlである。
【0011】
また、リン酸化ペプチド含有液のpHは、含有されるペプチド/リン酸化ペプチドが変性されない状態であれば特に限定されないが、どちらかといえば酸性の方が好ましく、例えばpH2〜5が好ましく、更には好ましくは2〜3である。
【0012】
本発明において、鉄を主として含有し、さらに少なくともクロムを含有する合金(以下、本合金と記す。)は、合金中の金属総量に対し、通常は、鉄を50%〜87%、クロムを13%〜35%含有する。本合金は、鉄及びクロムの他に、ニッケル、モリブデン、銅、ニオブ等の金属を含むものであってもよいし、かかる金属の他、炭素を含んでいてもよい。
【0013】
本合金として、好ましくはステンレス鋼を挙げることができる。ステンレス鋼は一般に、表面に不動態皮膜を形成してさびにくさを維持する合金であり、クロムを約12〜32%程度含有する鉄系の合金と定義される。また、不動態皮膜は、非常に薄い鉄とクロムを含む酸化物(水酸化物)であり、その厚さは通常数十オングストロームと言われている。かかるステンレス鋼としては、例えばSUS304(18%Cr、8%Ni含有)、SUS316L(18%Cr、12%Ni、2%Mo含有)等のオーステナイト・ステンレス、SUS430(18%Cr含有)等のフェライト・ステンレス鋼、SUS410(0.1%C、13%Cr含有)等のマルテンサイト・ステンレス鋼を挙げることができ、好ましくはオーステナイト・ステンレス鋼を挙げることができ、オーステナイト・ステンレス鋼の中でもクロムを18%以上、ニッケルを8%以上含有するものが好ましい。またSUS304は、これを使用した器具、材料、例えばステンレス針付きシリンジ、ステンレス粒等として広く市販されており、かかる器具、材料を使用することは、その入手性、使用時の簡便性の点でさらに好ましい。
【0014】
本合金は、合金単独で使用することもできるし、例えば鉄、他の金属、合成樹脂等の表面を本合金で被覆した形態で使用することもできる。
本発明において、リン酸化ペプチド含有液と本合金との接触は、リン酸化ペプチド含有液中のペプチド/リン酸化ペプチドと本合金とが接触できる方法であれば特に限定されない。例えば、リン酸化ペプチド含有液とステンレス粉または粒子とを混合することにより接触する方法、ステンレス製の針が付いたシリンジにリン酸化ペプチド含有液を該針を介して吸引することにより接触する方法、カラムにステンレス粒子または粉を充填し、リン酸化ペプチド含有液を通過させることにより接触する方法、ステンレス鋼微細管にペプチド含有液を通過させることにより接触する方法等が挙げられる。
【0015】
リン酸化ペプチド含有液と本合金との接触における温度は、リン酸化ペプチド含有液が液体の状態を保持でき、ペプチド/リン酸化ペプチドが変性しない温度であれば許容できるので、通常は特に加熱または冷却を要しない室温条件で行うことができる。
【0016】
接触時間は特に制限されず、リン酸化ペプチド含有液を本合金と瞬間的に触れさせるだけでもよく、長時間接触させても良い。
【0017】
接触処理後、液相を除去することにより接触処理済合金が得られる。例えばリン酸化ペプチド含有液とステンレス粉または粒子とを混合することにより接触する方法の場合には濾過、デカンテーション等により液相を除去することができ、ステンレス製の針が付いたシリンジにリン酸化ペプチド含有液を該針を介して吸引することにより接触する方法の場合には、単に液を排出することにより液相の除去を行うことができ、また、カラムにステンレス粒子または粉を充填し、リン酸化ペプチド含有液を通過させることにより接触する方法の場合には液相を通過させてしまうことにより液相の除去を行うことができる。いずれの場合にも、液相除去の効率を高めるために、必要により得られる合金をさらに水、ギ酸水溶液等により洗浄することもできる。
【0018】
このようにして単離された接触済合金にアンモニア水処理を施すことにより該接触済合金に吸着されたリン酸化ペプチドを水相中に回収することができる。
アンモニア水の濃度は、通常約2〜28%(v/v)であり、好ましくは5〜28%(v/v)である。
【0019】
アンモニア水処理は通常、接触済合金とアンモニア水とを接触させることにより行うことができる。
【0020】
具体的には、例えば接触済合金がステンレス粉または粒子の場合にはアンモニア水と混合することにより行うことができ、ステンレス製の針が付いたシリンジの場合には、アンモニア水をシリンジ中に吸入することにより行うことができ、カラムに充填されたステンレス粒子または粉の場合には、アンモニア水が該カラム中を通過することにより行うことができる。
【0021】
アンモニア水処理における温度は、特に制限はなく、通常は特に加熱または冷却を要しない室温条件で行うことができる。
【0022】
接触時間は特に制限されず、合金とアンモニア水とを数秒から数分程度接触させるだけでもよく、長時間接触させても良い。
【0023】
アンモニア水処理後、合金を除去することにより水相が得られる。
合金の除去は、その形態により、濾過、デカンテーション、シリンジからの排出、カラムからの排出等により行うことができる。
【0024】
得られる水相から、アンモニア及び水を除去することによりリン酸化ペプチドを単離することができる。アンモニア及び水の除去は、例えば自然乾固、加熱による乾固等により乾燥することにより行うことができる。
【0025】
単離されたリン酸化ペプチドは、例えばSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動やHPLC、質量分析法などにより分析することができる。
【0026】
また、単離されたリン酸化ペプチドは、質量分析法により、ペプチドのフラグメントイオン質量スペクトル(MS/MSスペクトル)を取得することによって、そのアミノ酸配列およびリン酸化部位を決定することができる。アミノ酸配列の決定方法としては、例えば、Methods in Enzymology,193(1990)に記載の方法によりMS/MSスペクトル上で質量の順にたどり、その質量差からアミノ酸の特定およびその配列順序を解析する方法を挙げることができる。
【0027】
MS/MSスペクトルの取得の方法としては、ペプチドを主鎖部分で開裂させた質量スペクトルを分析できる方法であればよく、質量分析装置の種類やイオン化法は特に限定されない。例えば、イオントラップ質量分析装置や四重極−飛行時間型の質量分析装置を用いてESIイオン化法にて分析することができる。また、MALDIイオン化法を用いた飛行時間型質量分析装置にて分析することもできる。
【0028】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
(1) リン酸化ペプチドを含むペプチド混合物試料(ベータカゼインのトリプシン消化物)の調製
リン酸化ペプチド混合試料としてベータカゼイン(シグマ社製)のトリプシン消化物を用いた。ベータカゼイン200μgを1%炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH7.9)200μlに溶解し、トリプシンを4μg添加して、37℃で24時間反応させた。これによってリン酸基を持つベータカゼインはトリプシンによってリン酸化ペプチドを含むペプチド混合物試料となった。
【0029】
(2) リン酸化ペプチドを含むペプチド混合物水溶液の調製
上記(1)の試料のうち1μlを99μlの0.1%蟻酸水溶液と混和した。これを試料▲1▼とした。
【0030】
(3) ステンレス鋼への吸着
ステンレス鋼(SUS304)製のニードルを装着したシリンジを用いた。上記試料▲1▼のうち2μlをシリンジで吸引し、吐き出した。
【0031】
(4) ステンレス鋼の洗い
上記で用いたシリンジを0.1%蟻酸水40μl中でポンピングさせ洗った。
【0032】
(5) ステンレス鋼からの回収
上記で洗ったシリンジを28%アンモニア水20μl中で1分間ポンピングさせた。得られるアンモニア水相を試料▲2▼とした。
【0033】
(6)アンモニアの除去
前記の試料▲2▼をSpeedVac濃縮器(Servant社製)にて乾固してアンモニア及び水を除去した。
【0034】
(7)質量スペクトルの解析
前記で乾固した試料を0.1%蟻酸含有するアセトニトリル/水(1/1(v/v))溶液に溶解し、四重極−飛行時間型の質量分析装置を用いてESIイオン化法にて質量スペクトルを取得すると、2価イオンのピークm/z=1031が特異的に検出された。m/z=1031のリン酸化ペプチドを取得できた(図2)。
【0035】
(7) MS/MSスペクトルの解析
前記で検出したリン酸化ペプチドのピークm/z=1031に関して、再度、四重極−飛行時間型の質量分析装置を用いてESIイオン化法にてMS/MSスペクトルを取得し、アミノ酸配列を決定したところ、本ペプチドは、ベータカゼインの48番目から64番目のアミノ酸配列を有するペプチド(アミノ酸配列:FQSEEQQQTEEDELQDK)であり、さらに、50番目のセリンがリン酸化されていることがわかった。
【0036】
実施例2
(1)リン酸化ポリペプチドの調製
リン酸化ポリペプチドであるベータカゼイン100μg(Sigma社製)を0.1%酢酸水溶液1mlに溶解した。これを試料▲3▼とした。
【0037】
(2)本合金への吸着
ステンレス鋼(SUS304)製の球(1/16インチ径)20粒を1.5mlチューブに入れた。上記試料▲3▼100μlをチューブに入れ、室温下で球と10分間混合して接触させた後、試料溶液のみを回収した。回収した試料を試料▲4▼とした。
【0038】
(3)ステンレス鋼製の洗い
上記で処理したステンレス鋼製の球を0.1%酢酸100μlと接触させて洗った。洗いに使用したこの溶液を試料▲5▼とした。
【0039】
(4)ステンレス鋼からの回収
洗浄後のステンレス鋼製の球を入れたチューブに、28% ンモニア水100μlを入れ、室温下で球と10分間混合して接触させた後、溶液のみを回収した。得られた水相を試料▲6▼とした。
【0040】
(5)SDS−PAGEサンプル処理
上記試料▲3▼100μl、試料▲4▼、試料▲5▼及び試料▲6▼の全量をSpeedVac濃縮乾燥器(Servant社)にて乾固した後、それぞれ水5μlに再溶解した。さらにそれぞれにサンプル処理液(第一化学薬品)を5μl加えて、100℃で煮沸した後、冷却した。これらをSDS−PAGEサンプルとした。
【0041】
(6)SDS−PAGE
ゲルに10−20%密度勾配のついたSDS−ポリアクリルアミドゲル(第一化学薬品社製)を使用し、トリス−グリシン緩衝液中、40mAの定常電流で1時間電気泳動を行った。電気泳動終了後、ゲルをクーマシーブリリアントブルー染色キットQuickCBB(和光純薬工業社製)に30分浸した後、水で洗った。
【0042】
(7)SDS−PAGEの結果の解析
電気泳動結果(図3)を見るとベータカゼインは試料▲3▼と試料▲6▼にしか存在しなかった。つまり、本合金に吸着しているリン酸化ポリペプチドのベータカゼインはアンモニア水によって回収されている。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、リン酸化ペプチドを効率的に且つ簡便に単離することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】試料▲1▼の質量スペクトルを示す図である。
【図2】試料▲2▼の質量スペクトルを示す図である。
【図3】試料▲3▼、試料▲4▼、試料▲5▼及び試料▲6▼のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動結果を示す図でる。
【符号の説明】
○:m/z = 1031のピークを示すための印である。
Claims (3)
- (1)鉄を主として含有しさらに少なくともクロムを含有する合金に、リン酸化ペプチド含有液を接触させる工程、
(2)接触処理済液相を除去する工程、
(3)該接触処理済合金にアンモニア水を処理する工程及び
(4)アンモニア処理済合金を除去し、水相を取得する工程
を含むことを特徴とするリン酸化ペプチドの単離方法。 - 鉄を主として含有し、少なくともクロムを含有する合金が、鉄を50%〜87%、クロムを13%〜35%含有する合金である請求項1に記載の方法。
- 鉄を主として含有しさらに少なくともクロムを含有する合金がステンレス鋼である請求項1に記載の方法。
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