JP4263861B2 - X線管およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明はX線管およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
X線管はX線を放出する電子管で、その用途に応じていろいろな種類のものが実用化されている。たとえば歯科用撮影装置には固定陽極型のX線管が使用されている。
【0003】
ここで、従来のX線管について、固定陽極型X線管を例にとり図4を参照して説明する。符号41は真空容器で、その主要部分はガラスなどの絶縁物で形成されている。真空容器41内の一方の側に陽極42が配置され、陽極42の前面にX線を放出するターゲット領域43が設けられている。真空容器41内の他方の側に、陰極44が配置されている。陰極44はフィラメントカップ44aおよびフィラメント44bなどから構成され、これらはリード端子45と電気的に接続されている。
【0004】
上記した構成において、フィラメント44bから発生した電子ビーム46が矢印Y方向に進んでターゲット領域43に衝突し、ターゲット領域43からX線47が放出する。放出したX線47は真空容器41に設けたX線窓41aを通して外に取り出される。
【0005】
X線管はいくつかの工程を経て製造される。その製造工程の1つに耐電圧を高めるためのエージング工程がある。ここでエージング工程の一例について図5を参照して説明する。
【0006】
まず、管内を排気し(ステップS1)する。次に、陽極42と陰極44間に直流電圧を印加するスポットノッキング(ステップS2)を行い、その後、陰極44から電子ビームを照射する負荷エージング(ステップS3)を行う。そして最終的に、良品か不良品かの判定試験が行われる(ステップS4)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来のX線管は、動作時、陽極42および陰極44間に数10kVから200kVの範囲の高電圧が印加される。したがって、高電圧に対して十分な耐電圧が必要とされ、その条件に合わせて電極間の距離や電極形状が決められる。また、放電を防止するために、製造時、管内を高真空に維持し、微細な突起などが残らないように加工される。
【0008】
ところで、X線管は、電子ビームを照射しない状態での耐電圧は比較的容易に確保される。しかし、電子ビームを照射しX線を放出する状態になると、絶縁物製の真空容器と陰極間に放電が発生しやすくなる。
【0009】
たとえば、電子ビーム46がターゲット領域43に衝突すると、ターゲット領域43から反跳電子が発生する。反跳電子は真空容器41の内面に入射し、入射する電子よりも多い2次電子が真空容器41から放出する。このとき、真空容器41の内面たとえば電子の入射した部分がプラスに帯電し、真空容器41と陰極44間の電位勾配が大きくなり、放電が発生しやすくなる。
【0010】
電子はプラスに帯電した部分に多く集まる。そのため、帯電の程度がわずかでも、反跳電子や近傍から放射した2次電子が帯電した部分に集まり、2次電子の放出が繰り返され、帯電の程度が部分的に強くなる。その結果、真空容器41の一部にプラスの強い帯電領域が形成され、そこに向かって陰極44から電子が放出し、大電流を伴う放電が発生する。
【0011】
従来のX線管は、真空容器41のプラス帯電による放電を防止するために、たとえば真空容器41および陰極44間の距離を長くし、電位勾配を緩やかにする方法が採用されている。しかし、この方法は放電を十分に防止できない。また、長時間のエージングが必要となり、不良率が高くなるという問題がある。
【0012】
本発明は、上記した欠点を解決し、放電の発生を少なくしたX線管およびその製造方法を提供することを目的とする
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、電子ビームを発生する陰極と、前記電子ビームの照射によりX線を放出するターゲット領域を有する陽極と、前記陰極および前記陽極を収納し、主要部分が絶縁物で形成された真空容器とを具備したX線管において、前記陽極はターゲット領域を囲み陰極方向に伸びる遮蔽体を有し、前記陰極および陰極の前後の空間部分を囲む、前記真空容器部分の内面の環状領域の少なくとも一部に電極とは絶縁され、前記ターゲット領域を形成する材料を蒸着で成膜した導電性部材を配置したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、電子ビームを発生する陰極と、前記電子ビームの照射によりX線を放出するターゲット領域を有する陽極と、前記陰極および前記陽極を収納し、その主要部分が絶縁物で形成された真空容器とを具備したX線管の製造方法において、前記ターゲット領域を囲み陰極方向に伸びる遮蔽体を有する陽極の前記ターゲット領域を形成する材料を加熱して溶解させ、前記陰極および陰極の前後の空間部分を囲む少なくとも一部の前記真空容器の内面に付着させるターゲット溶解工程をもつことを特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態について、固定陽極型X線管を例にとり図1を参照して説明する。符号11は真空容器で、その主要部分はガラスなどの絶縁物で形成されている。真空容器11の一部にX線を取り出すX線窓11aが設けられ、その内面の一部に導電性部材たとえば金属膜12がたとえば管軸mを囲むように環状に形成されている。
【0016】
真空容器11内の一方の側に陽極13が配置され、陽極13の前面にターゲット領域14が設けられている。また、陽極13のたとえばターゲット領域14を囲んで、管軸m方向に前方に伸びるたとえば筒状の陽極遮蔽体15が配置されている。陽極遮蔽体15のX線窓11aと対向する位置に、ターゲット領域14から放出したX線が通るための開口15aが設けられている。
【0017】
真空容器11内の他方の側に、陽極13に対向して陰極16が配置されている。陰極16はフィラメントカップ16aやフィラメント16bなどから構成され、これらは複数のリード端子17と電気的に接続されている。
【0018】
上記した構成において、リード端子17を通してフィラメント16bに電源電圧が印加され電子ビーム18を発生する。電子ビーム18は矢印Yで示すようにターゲット領域14に衝突し、ターゲット領域14からX線19が放出する。放出したX線19は、陽極遮蔽体15の開口15aおよびX線窓11aを通して外に取り出される。
【0019】
なお、真空容器11の内面に形成する金属膜12は、たとえばX線管の通常の動作時よりも高いエネルギーの電子ビーム18をターゲット領域14に照射し、ターゲット領域14の表面を溶融温度まで加熱し、ターゲット領域14の材料たとえばタングステンなどの金属を真空蒸着によって成膜する。このとき、ターゲット材料は点線Dで示すように飛散し、陽極遮蔽体15や陰極16の陰にならない領域、たとえば陰極16のフィラメントカップ16aを囲む環状領域および陰極16の陽極13側前方の一部空間を囲む環状領域に成膜する。なお、金属膜12の陽極13側端部は陽極遮蔽体15に接近しないようにし、たとえば陽極遮蔽体15を囲む部分には成膜しない。また、金属膜12は陰極16に対しても電気的に絶縁するように成膜する。
【0020】
上記した構成によれば、真空容器11の内面に導電性の金属膜12が形成されている。したがって、動作時、電子ビーム18の照射によってターゲット領域14から発生した反跳電子は金属膜12の部分に入射する。このとき、2次電子の放出で金属膜12が帯電しても、電荷が金属膜12全体に分散し、部分的に強く帯電するようなことがない。また、2次電子の放出特性が真空容器11を形成するガラスと相違し、電位の上昇も抑えられる。その結果、電位勾配の上昇がゆるくなり放電が防止される。また、電極間の距離を長くする必要もなくなり、小型で高耐電圧のX線管が実現される。
【0021】
また、ターゲット領域14の周囲に陰極16方向に伸びる筒状の陽極遮蔽体15を配置し、陽極13の近傍たとえばX線窓11aの周辺に金属膜12を形成しないようにしている。金属膜12は、真空容器11内面に他の電極と絶縁状態いわゆる電気的に接続しない状態で成膜される。そのため、金属膜12が陽極13近傍にあると、陽極13の電位の影響を受けて金属膜12がプラス側に帯電し、放電防止効果が小さくなる。
【0022】
また、金属膜12は、導電性が良くなるように厚く成膜した方が効果が大きい。しかし、僅かに変色が見られる程度の薄い膜の場合でも効果が得られる。
【0023】
ここで、上記したX線管の製造方法について、そのエージング工程を図2で説明する。
【0024】
真空容器内に陽極13や陰極16などを収納したX線管は、まず、管内の排気が行われる(ステップS1)。次に、X線管に過入力を瞬時に投入しターゲット領域14を形成するターゲット材料たとえばタングステンなどを溶解する(ステップS2)。このとき、ターゲット材料が蒸発し、陰極16のフィラメントカップ16aやその近傍を囲んでたとえば環状の帯になって真空容器11の内面に付着し、たとえば目視で確認できない程度に薄膜状にコーティングされる。
【0025】
次に、陽極13および陰極16間に直流電圧を印加して大電流を流し、部分的に放電を発生させ、電極の突起部分を除去するスポットノッキングを行う(ステップS3)。
【0026】
次に、陽極13および陰極16間に直流電圧を印加した状態で、電子ビームをターゲット領域14の照射する負荷エージングを行う(ステップS4)。
【0027】
そして最終的に、放電の有無を確認し、良品か不良品かの判定試験が行われる(ステップS5)。
【0028】
ここで、本発明の他の実施形態について、もう1つのエージング工程を図3で説明する。図3は図2に対応する部分には同じ符号を付し重複する説明は一部省略する。
【0029】
この実施形態は、排気(ステップS1)とTG溶解(ステップS2)の間に、ACエージング(ステップS31)が行われる。
【0030】
ACエージングは陽極13および陰極16間に交流電圧を印加する方法で、交流電圧はたとえば小さな値から大きな値まで変化させる。ACエージングの場合、陽極13や陰極16に印加する電圧の極性が変わるため、大きな放電が発生せず放電しやすい箇所が放電し、電極の突起部分が除去される。また、管球内の状態たとえばエミッションや電子軌道などが安定化し、その後に行うTG溶解(ステップS2)において、ターゲット材料が真空容器の内面に均一にコーティングされる。したがって、真空容器の帯電が抑えられ、放電をより確実に防止できる効果がある。
【0031】
実験によれば、最終の負荷試験で良品と判定される率が大幅に改善するという結果が得られている。この場合、エージングを繰り返し行うX線管の数も少なくなり、コストが軽減する。
【0032】
上記の実施形態は、ターゲット材料を溶解して金属膜を形成している。しかし、たとえば筒状の金属部材を真空容器内側たとえばその内面など必要な領域に配置する構造にすることもできる。また、この発明は、固定陽極型X線管に限らず、回転型陽極X線管にも適用できる。
【0033】
また、放電を防止する金属膜や金属部材などの導電性部材は、陰極近傍を囲むように環状に設けることが望ましい。しかし、必ずしも環状である必要はなく、部分的に設ける構造であってもよい。
【0034】
上記した構成によれば、X線管の動作時に、真空容器への部分的なプラスへの帯電が抑えられる。その結果、放電の発生が防止され、小型で耐電圧特性のよいX線管およびその製造方法が提供される。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、放電の発生を少なくしたX線管およびその製造方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を説明するための概略の構造図である。
【図2】本発明の製造方法を説明するためのフロー図である。
【図3】本発明の他の製造方法を説明するためのフロー図である。
【図4】従来例を説明するための概略の構造図である。
【図5】従来例の製造方法を説明するためのフロー図である。
【符号の説明】
11…真空容器
11a…X線窓
12…金属膜
13…陽極
14…ターゲット領域
15…陽極遮蔽体
15a…陽極遮蔽体の開口
16…陰極
16a…陰極のフィラメントカップ
16b…陰極のフィラメント
17…リード端子
18…電子ビーム
19…X線
m…管軸
Claims (3)
- 電子ビームを発生する陰極と、前記電子ビームの照射によりX線を放出するターゲット領域を有する陽極と、前記陰極および前記陽極を収納し、主要部分が絶縁物で形成された真空容器とを具備したX線管において、前記陽極はターゲット領域を囲み陰極方向に伸びる遮蔽体を有し、前記陰極および陰極の前後の空間部分を囲む、前記真空容器部分の内面の環状領域の少なくとも一部に電極とは絶縁され、前記ターゲット領域を形成する材料を蒸着で成膜した導電性部材を配置したことを特徴とするX線管。
- 電子ビームを発生する陰極と、前記電子ビームの照射によりX線を放出するターゲット領域を有する陽極と、前記陰極および前記陽極を収納し、その主要部分が絶縁物で形成された真空容器とを具備したX線管の製造方法において、前記ターゲット領域を囲み陰極方向に伸びる遮蔽体を有する陽極のターゲット領域を形成する材料を加熱して溶解させ、前記陰極および陰極の前後の空間部分を囲む少なくとも一部の前記真空容器の内面に付着させるターゲット溶解工程をもつことを特徴とするX線管の製造方法。
- ターゲット溶解工程の前に、陰極および陽極間に交流電圧を印加するACエージング工程をもつ請求項2記載のX線管の製造方法。
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