JP4256271B2 - レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入方法 - Google Patents

レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入方法 Download PDF

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本発明は、医学、細胞工学、遺伝子工学、発生工学などの分野において標的細胞への遺伝子導入効率を向上させ、標的細胞の形質転換を効率良く行うことを可能にする方法およびそれに関連する一連の技術に関する。
多数のヒト疾病についてその機構が解明され、また、組換えDNA技術、および細胞への遺伝子導入技術が急速に進歩したことより、近年、重篤な遺伝病を治療するための体細胞遺伝子治療法のプロトコールの開発が進められている。また、最近では遺伝病のみならずAIDSのようなウイルス感染症やガンの治療にも遺伝子治療を適用しようという試みがなされている。
これまでに米国食品医薬品局(FDA)が承認したヒトでの遺伝子導入試験の大部分は組換えレトロウイルスベクターを用いて細胞への遺伝子導入を行うものである。レトロウイルスベクターは目的の外来遺伝子を細胞内に効率的に導入し、その染色体DNA中に安定に組み込むので、特に長期にわたる遺伝子発現が望まれる遺伝子治療にとって好ましい遺伝子導入手段である。該ベクターは遺伝子導入された生物に悪影響を与えないように様々な工夫が施されている。例えば、遺伝子導入に用いられたベクター自体が細胞内で複製を行い、無制限な感染(遺伝子導入)を繰り返さないよう、ベクター中の複製機能は欠損させてある。これらのベクター(複製能欠損レトロウイルスベクター)は自己複製できないため、一般的にはレトロウイルス産生細胞(パッケージング細胞)を使用してウイルス粒子に包まれたレトロウイルスベクターを調製する。
一方、骨髄細胞はイン−ビトロ(in vitro)での取り扱いが可能なこと、および自己複製能を有する造血幹細胞を含有していることから、体細胞遺伝子治療法の良好な標的細胞である。また、臍帯血液も造血幹細胞を含む多数の原始前駆細胞を含有していることがこれまでに証明されている。これらの標的細胞に遺伝子を導入して生体に移植する遺伝子治療を行うことにより、導入された遺伝子が血液細胞中で長期にわたり発現され、疾病を生涯治癒することができる。
しかし、多数のグループによって研究が進められているにもかかわらず、造血幹細胞は高効率の遺伝子導入の難しい細胞の一つである。これまで、マウスやその他の動物の造血幹細胞に関して最も効率の良い遺伝子導入のプロトコールは、造血幹細胞をレトロウイルス産生細胞とともに共培養するという方法であったが、安全性についての懸念から、ヒトにおける臨床的な遺伝子治療法には、レトロウイルス産生細胞の混入の危険性の低い無細胞系での遺伝子導入が望まれている。残念ながら、レトロウイルス産生細胞との共培養を行わずに造血幹細胞に効率的に遺伝子を導入することは容易ではない。
最近、細胞外マトリックスの成分であるフィブロネクチンや、そのフラグメントが、単独でレトロウイルスによる細胞への遺伝子導入効率を向上させることが報告されている(J. Clin. Invest.、第93巻、第1451〜1457頁、1994年(非特許文献1)、Blood、第88巻、第855〜862頁、1996年(非特許文献2))。また、遺伝子工学的に生産されたフィブロネクチンフラグメントも同様の性質を有しており、これを利用して造血幹細胞に効率よく外来遺伝子を導入させることが可能であることも示された(WO95/26200号(特許文献1))。こうしたフィブロネクチンによる遺伝子導入効率の向上には、フィブロネクチン中のヘパリン結合領域と、レトロウイルスとの結合が関与していることが示唆されている。これらのフィブロネクチンや、フィブロネクチンフラグメントを利用した方法は、全てフィブロネクチンや、そのフラグメントを固定化したプレート中で細胞にレトロウイルスベクターを感染させるものである。
上記のフィブロネクチンや、フィブロネクチンフラグメントを利用した遺伝子導入法は、レトロウイルス結合部位と標的細胞部位を同一の分子上に有するフィブロネクチンあるいはそのフラグメント分子によって達成されると考えられている(Nature Medicine、第2巻、第876〜872頁、1996年(非特許文献3))。したがって、上記の方法を応用して種々の標的細胞に効率良く遺伝子を導入するためには、細胞に応じて一つの分子上にウイルスと細胞の結合部位を有する機能性物質を作製する必要があり、普遍的な遺伝子導入法として利用するためには、なお問題を有している。
また、上記の方法は、レトロウイルス感染時に標的細胞の培養に使用するプレートの表面にフィブロネクチンあるいはフィブロネクチンフラグメントを固定化することによって達成されているが、プレートへの固定化は煩雑な操作を要し、簡便な遺伝子導入法とは言えない。
さらに、上記の方法に使用される機能性物質は、レトロウイルス結合部位としてフィブロネクチン由来のヘパリン結合領域を含むものに限られている。このため、これ以外のレトロウイルス結合物質を見いだすことにより、さらに優れた遺伝子導入方法を開発する可能性がある。
WO95/26200号 J. Clin. Invest.、第93巻、第1451〜1457頁、1994年 Blood、第88巻、第855〜862頁、1996年 Nature Medicine、第2巻、第876〜872頁、1996年
本発明は、このような問題を解決し、より簡便かつ効率のよい遺伝子導入法を提供すべくなされたものである。
本発明者らは、フィブロネクチンあるいはそのフラグメントに代表される機能性物質によるレトロウイルス感染促進作用が、レトロウイルス結合部位を有する領域と、細胞結合部位を有する領域とが同一分子上に存在しない場合においても認められることを見いだした。すなわち、レトロウイルス結合部位を有する有効量の機能性物質と、遺伝子導入の標的細胞への結合部位を有する機能性物質とを混合して使用することにより、標的細胞へのレトロウイルスによる遺伝子導入効率を向上させることができることを見いだした。
また、本発明者らは、機能性物質によるレトロウイルス感染促進作用が、機能性物質をプレートの表面に固定化しない状態であっても認められることも見いだした。また、機能性物質を固定化したビーズの存在下にレトロウイルスを標的細胞に接触させた場合にも、標的細胞への遺伝子導入効率が向上されることを見いだした。
本発明者らは、また、フィブロネクチン由来のヘパリン結合領域を含まないレトロウイルス結合性物質を見いだし、該物質およびそれらの誘導体がレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入に有用であることも見いだした。さらに、本発明者らは、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入に有用な機能性物質を創成することに成功し、本発明を完成させるに至った。
かくして、本発明の第1の発明はレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させる方法に関し、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入において、レトロウイルス結合部位を有する有効量の機能性物質と、標的細胞結合部位を有する他の有効量の機能性物質との混合物の存在下で、標的細胞をレトロウイルスで感染させることを特徴とする。
本発明の第1の発明のレトロウイルス結合部位を有する機能性物質は特に限定するものではなく、例えば、フィブロネクチンのヘパリン−II結合領域、線維芽細胞増殖因子、コラーゲン、ポリリジンまたはそれらと機能的な同等物から選択される機能性物質である。また、標的細胞結合部位を有する機能性物質とは、標的細胞に結合するリガンドを含有する物質であればよい。当該リガンドとしては、細胞接着性のタンパク質、ホルモン、サイトカイン、抗体、糖鎖、炭水化物または標的細胞の代謝物等があり、細胞接着性のタンパク質としては、例えば、フィブロネクチンの細胞結合領域ポリペプチドがある。当該フィブロネクチンの細胞結合領域としては、VLA−5および/またはVLA−4への結合領域ポリペプチドがある。また、他のリガンドとしてはエリスロポエチンが挙げられる。
第1の発明に使用する機能性物質は非固定化でも、固定化されていてもよく、特にビーズに固定化することにより、簡便に使用できる。また、標的細胞に結合部位を有する機能性物質として、標的細胞に特異的なリガンドを選択することにより、第1の発明により、簡便に標的細胞への遺伝子導入のターゲッテングが可能になる。
上記のごとく、従来のWO95/26200号や、Nature Medicineに開示される方法においては、レトロウイルスと標的細胞が、レトロウイルス結合部位と標的細胞結合部位とを同一分子上に有する機能性物質上で共配置することが、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させる機構において必須とされている。しかしながら、本発明により、レトロウイルス結合部位を有する有効量の機能性物質と、標的細胞結合部位を有する他の有効量の機能性物質との混合物の存在下でレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入を行うと、遺伝子導入効率が向上する。
本発明の第2の発明は、レトロウイルス結合部位を有する有効量の機能性物質と、標的細胞結合部位を有する他の有効量の機能性物質との混合物を含有するレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入に使用する標的細胞の培養培地に関する。
第2の発明の培地を使用することにより、第1の発明が簡便に実施することができる。
本発明の第3の発明はレトロウイルスの配置方法に関し、レトロウイルス結合部位を有する有効量の機能性物質と、標的細胞結合部位を有する他の有効量の機能性物質との混合物と接触したレトロウイルスを含有する培地を、インキュベートすることを特徴とする。
本発明の第4の発明は、標的細胞内へのレトロウイルス介在遺伝子導入の実施に使用するためのキットであって、
(a)レトロウイルス結合部位を有する有効量の機能性物質および/または標的細胞結合部位を有する他の有効量の機能性物質、
(b)レトロウイルスと接触した標的細胞をインキュベートするための人工基質、および
(c)上記標的細胞を予備刺激するための標的細胞増殖因子、
を含んでなることを特徴とするキットに関する。
第4の発明のキットを使用することにより、第1および第3の態様をそれぞれ簡便に行うことができる。
本発明の第5の発明は、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させる方法に関し、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入に際し、標的細胞結合部位と、線維芽細胞増殖因子、コラーゲンまたはポリリジン由来のレトロウイルス結合部位またはそれらと機能的な同等物とを同一分子上に有する有効量の機能性物質の存在下で、標的細胞をレトロウイルスで感染させることを特徴とするレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入を向上させる方法である。
上記のWO95/26200号公報およびNature Medicineに記載される従来の方法においては、最も効率よく、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入を向上させる方法に使用できる物質として、フィブロネクチンのフラグメントが開示されている。しかしながら、フィブロネクチンフラグメント以外の機能性物質でどのような機能性物質が効率よくレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入を向上させる方法に使用できるかについては、具体的な開示はない。特に、この従来の方法において、レトロウイルス結合部位とは、フィブロネクチンのリピート12−14が開示されているのみである。
本発明者らは、このフィブロネクチンのリピート12−14とは、構造的相関の全くない、線維芽細胞増殖因子、コラーゲン、ポリリジン等が、意外にも、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入を向上させる方法において有効に使用できることを見いだした。したがって、これらの物質と機能的な同等物、すなわち、これらの物質と機能的に同等のレトロウイルス結合部位を有し、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させる能力を有する物質は、いずれも第5の発明において使用することができる。
第5の発明において、標的細胞結合部位には、標的細胞に結合するリガンドを含有する物質が使用でき、これはレトロウイルス結合部位と結合している。
当該リガンドとしては、例えば、細胞接着性のタンパク質、ホルモン、サイトカイン、抗体、糖鎖、炭水化物または標的細胞の代謝物等が挙げられる。細胞接着性のタンパク質の一例としては、フィブロネクチンの細胞結合領域ポリペプチドが挙げられ、例えば、VLA−5および/またはVLA−4への結合領域ポリペプチドが使用できる。他のリガンドとしては、エリスロポエチンが挙げられる。
第5の発明において、レトロウイルス結合部位として供される線維芽細胞増殖因子としては、例えば、配列表の配列番号3で表される線維芽細胞増殖因子、該因子の機能的同等物や、該因子または該因子の機能的同等物を含有するポリペプチドから選択される線維芽細胞増殖因子がある。
これらの機能性物質としては、例えば、配列表の配列番号4または5で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。
第5の発明において、レトロウイルス結合部位として供されるコラーゲンとしては、例えば、V型コラーゲン由来のインスリン結合部位を含有するフラグメント、該フラグメントの機能的同等物や、該フラグメントまたは該フラグメントの機能的同等物を含有するポリペプチドから選択されるコラーゲンがある。また、当該フラグメントとしては、例えば、配列表の配列番号6で表されるアミノ酸配列を含有するフラグメントが挙げられる。
これらの機能性物質としては、配列表の配列番号7または8で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。
第5の発明において、レトロウイルス結合部位として供されるポリリジン(polylysine)とはL−リジン(lysine)の重合体であって、例えば、市販のポリリジンより適当な重合度のポリリジンを選択し使用することができる。
線維芽細胞増殖因子、コラーゲン、またはポリリジン由来のレトロウイルス結合部位が同時に標的細胞結合部位を有する場合においては、この線維芽細胞増殖因子、コラーゲンまたはポリリジン由来のレトロウイルス結合部位を有する有効量の機能性物質の存在下で、標的細胞をレトロウイルスで感染させることによって、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させることができる。また、標的細胞が接着性細胞の場合には、該機能性物質にレトロウイルスと標的細胞とがそれぞれ結合、接着し、この線維芽細胞増殖因子、コラーゲンまたはポリリジン由来のレトロウイルス結合部位を有する有効量の機能性物質の存在下で、標的細胞をレトロウイルスで感染させることによって、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させることができる。
なお、配列表の配列番号1で表されるポリペプチド(以下、H−271と称す)が同時に標的細胞結合部位を有する場合、すなわち、標的細胞が該ポリペプチド、H−271、に結合性を有する場合においても、有効量のこのポリペプチドの存在下で、標的細胞をレトロウイルスで感染させることによって、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させることができることも見いだした。
すなわち、上記Nature Medicineによれば、フィブロネクチンのリピート12−14がレトロウイルス結合部位と開示されているが、本発明者らは、意外にも、このH−271が標的細胞の種類によっては、標的細胞結合部位として、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率の向上に有効に機能することを見いだした。また、標的細胞が接着性細胞の場合にも、このポリペプチドにレトロウイルス、標的細胞がそれぞれ結合、接着し、有効量のこのポリペプチドの存在下で、標的細胞をレトロウイルスで感染させることによって、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させることができることも見いだした。
第5の発明において当該機能性物質は固定化されていてもよく、固定化されていなくてもよいが、標的細胞が接着性細胞の場合は、固定化して用いるのが効率の良い方法である。
本発明の第6の発明は、標的細胞結合部位と、線維芽細胞増殖因子、コラーゲンまたはポリリジン由来のレトロウイルス結合部位またはそれらと機能的な同等物とを同一分子上に有する有効量の機能性物を含有するレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入に使用する標的細胞の培養培地に関する。
本発明の第7の発明は、上記した線維芽細胞増殖因子、コラーゲンまたはポリリジン由来のレトロウイルス結合部位を有する有効量の機能性物質と接触したレトロウイルスを含有する培地をインキュベートするレトロウイルスの配置方法に関する。これらの機能性物質は、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入を向上させる方法において、レトロウイルスの配置に有効に使用できる。
また、本発明のレトロウイルスの配置方法では、標的細胞結合部位と線維芽細胞増殖因子、コラーゲンまたはポリリジン由来のレトロウイルス結合部位またはそれらと機能的な同等物とを同一分子上に有する有効量の機能性物質と接触したレトロウイルスを含有する培地をインキュベートすることも包含する。
本発明の第8の発明は、標的細胞内へのレトロウイルス介在遺伝子導入の実施に使用するためのキットであって、
(a)標的細胞結合部位と、線維芽細胞増殖因子、コラーゲンまたはポリリジン由来のレトロウイルス結合部位またはそれらと機能的な同等物とを同一分子上に有する有効量の機能性物質、
(b)レトロウイルスと接触した標的細胞をインキュベートするための人工基質、および
(c)上記標的細胞を予備刺激するための標的細胞増殖因子、
を含んでなることを特徴とするキットに関する。
これらの第1および第5の方法の発明、第2および第6の培地の発明、第3および第7の方法の発明ならびに第4および第8のキットの発明、いずれにおいても、機能性物質のビーズ固定化物が好適に使用できる。
本発明の第9の発明は、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させる方法に関し、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入において、実質的に純粋なフィブロネクチン、実質的に純粋なフィブロネクチンフラグメントおよびそれらの混合物より選択される有効量のビーズに固定化された機能性物質の存在下で、標的細胞をレトロウイルスで感染させることを特徴とする。
本発明の第10の発明もレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させる方法に関し、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入において、実質的に純粋なフィブロネクチン、実質的に純粋なフィブロネクチンフラグメントおよびそれらの混合物より選択される有効量の固定化されていない機能性物質の存在下で、標的細胞をレトロウイルスで感染させることを特徴とする。
上記のWO95/26200号およびNature Medicineの方法においては、レトロウイルスと標的細胞が、レトロウイルス結合部位と標的細胞結合部位を同一分子上に有する機能性物質上で共配置することが、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させる機構において必須である。この方法において、レトロウイルスと標的細胞を、レトロウイルス結合部位と標的細胞結合部位を同一分子上に有する機能性物質上に共配置させるには、レトロウイルス結合部位と標的細胞結合部位を同一分子上に有する機能性物質を培養基に固定化させることによりはじめて可能になる。
しかしながら、本発明によれば、これらの実質的に純粋なフィブロネクチン、実質的に純粋なフィブロネクチンフラグメントおよびそれらの混合物を用いる場合においても、意外にも、上記レトロウイルス結合部位と標的細胞結合部位を同一分子上に有する機能性物質上が培養基に固定化された状態でなくても、効率よく、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率が向上する。
第1、第5、第9および第10の発明において、標的細胞としては、例えば、幹細胞(stem cells)、造血細胞、非接着性低密度単核細胞、接着性細胞、骨髄細胞、造血幹細胞、末梢血幹細胞、臍帯血液細胞、胎児性造血幹細胞、胚形成幹細胞、胚細胞、プライモディアル・ジャーム・セル(primordial germ cell)、卵母細胞、卵原細胞、卵子、精母細胞、精子、CD34+細胞、C−kit+細胞、多能性造血前駆細胞、単能性造血前駆細胞、赤血球系前駆細胞、リンパ球母細胞、成熟血球、リンパ球、B細胞、T細胞、線維芽細胞、神経芽細胞、神経細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝細胞、筋芽細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、ガン細胞、骨髄腫細胞および白血病細胞から選択される細胞が使用できる。
第1、第3、第5、第7、第9および第10の発明において、レトロウイルスとしては、外来遺伝子を含有するレトロウイルスを使用することができ、また、レトロウイルスとしては、例えば、組換え体レトロウイルスベクターが使用できる。さらに、レトロウイルスとしては、例えば、複製能を欠損した組換え体レトロウイルスベクターを使用することができる。
本発明の第11の発明は、上記の第1、第5、第9および第10の発明で得られる遺伝子導入細胞に関する。
本発明の第12の発明は、第11の発明の遺伝子導入細胞を脊椎動物に移植する細胞移植方法に関する。
本発明の第13の発明は、配列表の配列番号13で表されるレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させるポリペプチドまたはその機能的同等物に関する。
本発明の第14の発明は、第13の発明のポリペプチドをコードする遺伝子に関する。かかる遺伝子の例としては、配列表の配列番号17で表される遺伝子または厳密な条件下で該遺伝子にハイブリダイズし、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させるポリペプチドをコードする遺伝子が挙げられる。
上記WO95/26200号およびNature Medicineの方法において、最も効率よく遺伝子導入に使用できるのはCH−296である。一方、本発明者らは、VLA−5結合部位、VLA−4結合部位を有さない、上記ポリペプチドが意外にも、本発明に使用できることを見いだした。
本発明の第15の発明は、配列表の配列番号30で表されるレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させるポリペプチドまたはその機能的同等物に関する。
本発明の第16の発明は、第15の発明のポリペプチドをコードする遺伝子に関する。かかる遺伝子の例としては、配列表の配列番号33で表される遺伝子または厳密な条件下で該遺伝子にハイブリダイズし、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させるポリペプチドをコードする遺伝子が挙げられる。
本発明の第17の発明は配列表の配列番号5で表されるレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させるポリペプチドまたはその機能的同等物に関する。
本発明の第18の発明は、第17の発明のポリペプチドをコードする遺伝子に関する。かかる遺伝子の例としては、配列表の配列番号26で表される遺伝子または厳密な条件下で該遺伝子にハイブリダイズし、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させるポリペプチドをコードする遺伝子がある。
本発明により、レトロウイルスを用いて標的細胞に効率よく遺伝子導入する方法が提供される。目的とする標的細胞に適した細胞結合性の物質を選択して本発明の方法を実施することにより、特殊なレトロウイルスベクターを必要とせず、簡便かつ高効率で遺伝子導入された標的細胞を取得することができる。遺伝子導入された細胞の脊椎動物への移植により、形質転換動物が簡便に作製され、本発明の方法は医療的分野、細胞工学的分野、遺伝子工学的分野、発生工学的分野等において有用である。また本発明の機能性物質、およびその混合物を含有する培地、標的細胞へのレトロウイルス介在遺伝子導入を行うためのキットも提供され、これらの培地、キットを用いることにより、レトロウイルスの配置、標的細胞への外来遺伝子の導入などを簡便に効率よく行うことができる。
本発明の遺伝子導入方法には、通常、組換えレトロウイルスベクターが使用され、特に、複製能欠損組換えレトロウイルスベクターが好適である。該ベクターは感染した細胞中で自己複製できないように複製能を欠損させてあり、非病原性である。これらのベクターは脊椎動物細胞、特に、哺乳動物細胞のような宿主細胞に侵入し、その染色体DNA中にベクターに挿入された外来遺伝子を安定に組み込むことができる。
本発明では、細胞に導入しようとする外来遺伝子は適当なプロモーター、例えば、レトロウイルスベクター中に存在するLTRのプロモーターや外来プロモーターの制御下に、組換えレトロウイルスベクター内に挿入して使用することができる。また、外来遺伝子の転写を達成するためにはプロモーターおよび転写開始部位と共同する他の調節要素、例えば、エンハンサー配列がベクター内に存在していてもよい。さらに、好ましくは、導入された遺伝子はその下流にターミネーター配列を含有することができる。導入される外来遺伝子は天然のものでも、または人工的に作製されたものでもよく、あるいは起源を異にするDNA分子が、ライゲーションや当該技術分野で公知の他の手段によって結合されたものであってもよい。
レトロウイルスベクターに挿入される外来遺伝子は、細胞中に導入することが望まれる任意の遺伝子を選ぶことができる。例えば、外来遺伝子は、治療の対象となる疾患に関連している酵素や、タンパク質、アンチセンス核酸もしくはリボザイムまたはフォルスプライマー(例えば、WO90/13641号参照)、細胞内抗体(例えば、WO94/02610号参照)、増殖因子等をコードするものを使用することができる。
本発明で用いるレトロウイルスベクターは、遺伝子導入された細胞の選択を可能にする適当なマーカー遺伝子を有していてもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、細胞に抗生物質に対する耐性を付与する薬剤耐性遺伝子や、酵素活性の検出によって遺伝子導入された細胞を見分けることができるレポーター遺伝子が利用できる。
使用できるベクターには、例えば、公知のMFGベクター(ATCC No.68754)やα−SGC(ATCC No.68755)等のレトロウイルスベクターがある。また、本願明細書の下記の実施例において使用したN2/ZipTKNEOベクター(TKNEO、Blood、第78巻、第310〜317頁、1991年)およびPM5neoベクター(Exp. Hematol.、第23巻、第630〜638頁、1995年)は、いずれもマーカー遺伝子としてネオマイシン耐性遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子)を含有している。したがって、これらのベクターによって遺伝子導入された細胞は該遺伝子産物により不活化される抗生物質(ネオマイシン、G418等)に対する耐性を有する細胞として確認することができる。また、これらのベクターは公知のパッケージング細胞株、例えば、公知のPG13(ATCC CRL−10686)、PG13/LNc8(ATCC CRL−10685)、PM317(ATCC CRL−9078)や米国特許5,278,056号に記載の細胞株、GP+E−86(ATCC CRL9642)やGP+envAm−12(ATCC CRL9641)等の細胞株を使用することにより、該ベクターがパッケージングされたウイルス粒子として調製することができる。
本明細書において、機能性物質の有効量とは、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入により、標的細胞の形質転換が生じるのに有効な量であり、用いる機能性物質、レトロウイルスおよび標的細胞の種類により、本明細書記載の方法により、選定することができる。また、遺伝子導入効率とは、形質転換効率を意味する。
レトロウイルスと結合し、その結果、本発明で有効に役立つ機能性物質の能力は、下記実施例に記載したような、定型的な方法を使用して確認することができる。
これらのアッセイは、レトロウイルス粒子がマトリックス上に固定された本発明に使用できる機能性物質と結合して、その結果、レトロウイルスがマトリックスからの洗い流しに抵抗する程度を測定する。簡単に言えば、例えば、ウイルス含有上清液を、レトロウイルス結合部位を有する機能性物質の固定物を含有するウエル中でインキュベートする。ついで、このウエルを生理的食塩緩衝液で徹底的に洗浄し、その後、標的細胞をウエル内でインキュベートしてウエル内に残存しているウイルスの感染活性値を測定する。最初にウエルに添加されたウイルス上清液と比較して、感染活性または力価の減少を評価し、類似する対照実施(例えば、BSA固定化ウエルを使用して)と比較する。対照ウエルと比較して、本発明の機能性物質を固定化したウエル内の残存力価が顕著に高いことは、当該物質が本発明のレトロウイルス結合部位を有する機能性物質として用いることができることを意味する。
このスクリーニング方法を促進するために、ウイルスベクターは選択可能なマーカー遺伝子を含有することができる。
この方法により、本発明で使用するレトロウイルス結合部位を有する機能性物質のスクリーニングを行うことができる。
このようなレトロウイルス結合部位を有する機能性物質としては、フィブロネクチンのヘパリン−II結合領域、線維芽細胞増殖因子、コラーゲンまたはポリリジン由来のレトロウイルス結合部位を有する機能性物質が挙げられる。
本発明で使用される機能性物質の細胞結合部位、すなわち、標的細胞結合性のリガンドを含有する物質と、細胞との結合は慣用の方法を使用して同様にアッセイすることができる。例えば、このような方法には、Nature 352:438〜441(1991年)に記載された方法が含まれる。
簡単に言えば、細胞結合部位を有する機能性物質を培養プレート上に固定化し、アッセイすべき細胞集団は培地に重層して30分から2時間置く。このインキュベーション期間後に、機能性物質に接着していない細胞を回収し、計数し、生存性についてアッセイする。機能性物質と接着した細胞もトリプシンまたは細胞解離緩衝液(例えば、Gibco)を使用して回収し、計数し、そして生存性を試験する。場合によっては、例えば、造血コロニー形成細胞では、細胞をさらに12〜14日間培養して細胞のコロニー形成特性を確認する。ついで、接着細胞の割合を計算し、ウシ血清アルブミン(BSA)を固定化した培養プレートのような標準ないし標準対照と比較する。標的細胞とアッセイした機能性物質の実質的な結合によって、機能性物質/細胞の組合せが本発明に適しており、この標的細胞結合部位を有する機能性物質を、レトロウイルス結合部位を有する機能性物質と結合または共存させて、ウイルスベクターによる標的細胞の感染を測定することによって、本発明に使用する機能性物質を構築することができる。
本発明に使用できるレトロウイルス結合部位を有する機能性物質としては、上記のように、線維芽細胞増殖因子、コラーゲンまたはポリリジン由来のレトロウイルス結合部位が選択できるが、これらの物質と同等のレトロウイルス結合活性を有し、標的細胞結合部位を有するリガンドとの結合または共存において、レトロウイルスによる標的細胞の遺伝子導入効率を向上させる物質は全て、線維芽細胞増殖因子、コラーゲンまたはポリリジン由来のレトロウイルス結合部位と機能的な同等物に包含される。
上記方法により、選定されたレトロウイルス結合部位を有する機能性物質と、標的細胞結合部位を有する機能性物質との結合または共存下において、本発明の遺伝子導入方法に使用する標的細胞、レトロウイルスを使用し、その遺伝子導入効率の向上性を測定することにより本発明に使用する機能性物質の有効量が決定できる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の1つの態様は、レトロウイルスベクターによる標的細胞への遺伝子導入効率を高める方法である。この方法は、レトロウイルスベクターによる細胞への遺伝子導入効率を高めるのに有効な、レトロウイルス結合部位を有する機能性物質と、標的細胞結合部位を有する他の機能性物質との混合物の共存下にレトロウイルスベクターを生存可能な標的細胞に感染させることを特徴とする。
この方法は、レトロウイルスベクターによって遺伝子導入された遺伝子導入細胞を得る方法として使用でき、該細胞を生物個体に移植することによる生物個体への遺伝子導入を可能にする。
用いるレトロウイルス結合部位を有する機能性物質としては、特に限定はなく、例えば、フィブロネクチンのヘパリン−II結合領域、線維芽細胞増殖因子、コラーゲン、ポリリジン等があり、またこれらの機能性物質と機能的に同等な物質、例えば、ヘパリン結合性部位を有する機能性物質も使用することができる。また、該機能性物質の混合物、該機能性物質を含有するポリペプチド、該機能性物質の重合体、該機能性物質の誘導体等を使用することができる。これらの機能性物質は、天然起源の物質から得ることができ、また、人為的に作製する(例えば、遺伝子組換え技術や化学合成技術によって作製する)ことができ、さらに、天然起源の物質と人為的に作製された物質との組合せにより作製することもできる。
なお、用いる機能性物質は、本明細書中に示される高効率での遺伝子導入の達成が可能なレトロウイルス結合部位および/または標的細胞結合部位を有している範囲においては、天然起源のポリペプチドのアミノ酸配列に変異が生じたものであってもよい。本明細書においては天然起源のポリペプチドのアミノ酸配列中の1あるいは、例えば、数個までの複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されていても、所望のレトロウイルス結合部位および/または標的細胞結合部位を有する限り、そのポリペプチドを天然アミノ酸配列を有するポリペプチドの機能的同等物と呼ぶ。これらの機能的同等物は、該機能的同等物をコードする遺伝子を作製、使用して当該機能的同等物を作製したうえ、その生物活性を確認することにより得ることができる。
この点に関して、関連バイオテクノロジー技術は、対象の機能的領域中のアミノ酸の欠失、置換、付加または他の修飾を定型的に実施することができる状態にまで進歩している。つぎに、得られたアミノ酸配列は、所望の細胞結合活性またはウイルス結合活性について定型的に上記のスクリーニングに付すことができる。
また、該機能性同等物をコードする遺伝子は、上記の機能性物質をコードする遺伝子にハイブリダイズする遺伝子を検索することにより、得ることができる。
すなわち、上記の機能性物質をコードする遺伝子またはその塩基配列の一部をハイブリダイゼーションのプローブまたはPCR等の遺伝子増幅法のプライマーに用いることにより、本酵素類似の活性を有するタンパクをコードする遺伝子をスクリーニングすることができる。なお、該方法では目的の遺伝子の一部のみを含むDNA断片が得られることがあるが、その際には、得られたDNA断片の塩基配列を調べてそれが目的の遺伝子の一部であることを確かめた上、該DNA断片またはその一部をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うか、または該DNA断片の塩基配列に基づいて合成されたプライマーを用いてPCRを行うことにより、目的の遺伝子全体を取得することができる。
上記のハイブリダイゼーションは、例えば、以下の条件で行うことができる。
すなわち、DNAを固定したメンブレンを0.5% SDS、0.1% ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1% ポリビニルピロリドン、0.1% フィコール400、0.01% 変性サケ精子DNAを含む6×SSC(1×SSCは0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0を示す)中で、50℃にて12〜20時間、プローブとともにインキュベートする。インキュベーション終了後、0.5% SDSを含む2×SSC中、37℃での洗浄から始めて、SSC濃度は0.1×までの範囲で、また、温度は50℃までの範囲で変化させ、固定されたDNA由来のシグナルがバックグラウンドと区別できるようになるまでメンブレンを洗浄する。
また、こうして得られた新たな遺伝子について、そこにコードされているタンパクの有する活性を、上記と同様の方法によって調べることにより、得られた遺伝子が目的とするものであるかどうかを確認することができる。
上記WO95/26200号に記載のように、フィブロネクチンのヘパリン−II結合領域はレトロウイルス結合部位を有するポリペプチドである。繊維芽細胞増殖因子、コラーゲン、ポリリジンはフィブロネクチンのヘパリン−II結合領域との間に構造的な類似(例えば、アミノ酸配列上の類似性)が見られる物質ではないが、本発明者らは、これらの物質がレトロウイルス結合部位を有していることを見いだした。
本発明に使用される標的細胞結合部位を有する機能性物質も、特に限定はないが、標的細胞に結合するリガンドを有する物質であり、該リガンドとしては細胞接着性のタンパク質、ホルモンやサイトカイン、細胞表面の抗原に対する抗体、多糖類や糖タンパク、糖脂質中の糖鎖、あるいは標的細胞の代謝物などが挙げられる。また、該機能性物質を含有するポリペプチド、該機能性物質の重合体、該機能性物質の誘導体、該機能性物質の機能的同等物等を使用することもできる。これらの機能性物質は天然起源の物質から得ることができ、また、人為的に作製する(例えば、遺伝子組換え技術や化学合成技術によって作製する)ことができ、さらに、天然起源の物質と人為的に作製された物質との組合せにより作製することもできる。
使用される細胞接着タンパク質としては、フィブロネクチンやそのフラグメントがある。例えば、米国特許第5,198,423号に記載の、Pro1239−Ser1515に対応するヒトフィブロネクチンの細胞結合ドメインは、本明細書に記載のポリペプチドC−274と同等の機能を有しており、BHKおよびB16−F10細胞等と結合することが示されている(J.Biochem.、第110巻、第285〜291頁、1991年)。これらのポリペプチド中に存在するRGDSの4アミノ酸からなる配列はVLA−5レセプターのリガンドである。VLA−5レセプターの発現は広範な細胞において見られるが、分化した細胞よりも未分化なものによく発現している。また、フィブロネクチン中のCS−1領域はVLA−4レセプターのリガンドとして知られており、該レセプターを発現している細胞(T細胞、B細胞、単球、NK細胞、好酸球、好塩基球、胸腺細胞、骨髄単球系細胞、赤芽球系前駆細胞、リンパ球系前駆細胞、メラノーマ、筋細胞等)に結合する。特開平3−284700号に記載のポリペプチドで、配列表の配列番号29で表されるポリペプチド(以下C277−CS1と称す)は上記のVLA−5、およびVLA−4レセプターのリガンドの両方を含有するポリペプチドであり、本発明の方法において、これらのレセプターを有する細胞への遺伝子導入に使用することができる。さらに、ヘパリン−II領域は繊維芽細胞、内皮細胞および腫瘍細胞と結合することが示されている。ヘパリン−II領域の細胞結合部位ポリペプチド配列はレトロウイルス結合部位を有する機能性物質のポリペプチドの存在下で、レトロウイルスベクターの感染を予め定められた細胞に向けるうえで有用である。
細胞特異的な作用を有するホルモンやサイトカイン類は本発明の方法に使用される細胞結合部位を有する機能性物質として適している。例えば、造血系のサイトカインであるエリスロポエチンを使用することにより、赤血球系の細胞への遺伝子導入を行うことができる。エリスロポエチンは公知の方法にて作製し、使用することができる。また、該エリスロポエチンの機能的同等物およびエリスロポエチンまたは該エリスロポエチンの機能的同等物を含有するポリペプチドも使用することができる。
下記実施例に示されるように、レトロウイルス結合活性を有する機能性物質(例えば、H−271や繊維芽細胞増殖因子)をフィブロネクチン由来の細胞結合活性を有するポリペプチドC−274等との混合物で使用した場合には高い遺伝子導入効率を得ることができる。これらの実験に用いたNIH/3T3細胞はC−274と結合可能なVLA−5レセプターを発現しており、この両者の相互作用が遺伝子導入効率の向上に寄与している。
さらに、同様な現象はエリスロポエチンレセプターを発現するTF−I細胞(Blood、第73巻、第375〜380頁、1989年)への遺伝子導入にエリスロポエチン誘導体を共存させた場合にも観察される。しかも、この効果はエリスロポエチンレセプターを有していない細胞では認められない。
これらの結果より、レトロウイルス結合部位を有する機能性物質と細胞結合部位を有する他の機能性物質との共存による細胞特異的な遺伝子導入効率の上昇が起こることが明らかにされた。
本発明のこの態様においては、レトロウイルス結合部位を有する機能性物質を、他の標的細胞との結合部位を有する機能性物質との混合物として使用する。これによって、当該機能性物質に親和性を有する標的細胞へのレトロウイルスベクターによる遺伝子導入の効率を顕著に高めることができる。こうして、遺伝子導入効率が向上することにより、ウイルス産生細胞との共培養の回避が可能となることは、本発明の1つの利点である。
目的とする細胞に選択的に遺伝子を導入する手段は利用価値が高く、これまでにも様々な方法が研究されており、例えば、目的細胞の表面に存在するレセプターに結合する物質とDNA結合性物質とを結合させた非ウイルスベクター(molecular conjugation vector)がある。該ベクターを利用した遺伝子導入の例としては、アシアロ糖タンパクを用いた肝ガン細胞への導入(J. Biol. Chem.、第262巻、第4429〜4432頁、1987年)、トランスフェリンを用いたリンパ芽球細胞への導入(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第89巻、第6099〜6103頁、1992年)、抗EGFレセプター抗体を用いたガン細胞への導入(FEBS Letters、第338巻、第167〜169頁、1994年)等が知られている。このような非ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法は、導入された遺伝子が細胞の染色体DNA上に組み込まれないため、導入された遺伝子の長期にわたる発現が望まれる場合には好ましい方法ではない。染色体上への遺伝子組み込みが可能なベクターとして繁用されるレトロウイルスベクターを用い、これを特定の細胞に感染させようとする試みも行われており、例えば、レトロウイルス粒子を直接化学修飾してラクトースを結合させることによる肝細胞への遺伝子導入(J. Biol. Chem.、第266巻、第14143〜14146頁、1991年)、エリスロポエチンとの融合タンパクとしたエンベロープタンパクを有する組換えウイルス粒子を利用したエリスロポエチンレセプター発現細胞への遺伝子導入(Science、第266巻、第1373〜1376頁、1994年)等が開発されている。しかし、この目的のためには標的細胞に応じて特別なウイルス粒子の調製を要する。さらに、ウイルス粒子の化学修飾は煩雑な操作を必要とする上に、ウイルスの不活化を招くおそれがあり、また、遺伝子工学的に改変したウイルスエンベロープについては、必ずしも必要な機能(標的細胞への結合、およびウイルス粒子の構築)を有するものが得られるとは限らない。
上記WO95/26200号には、細胞結合活性を有する適当なリガンドを共有結合させたフィブロネクチンのフラグメント共存下においては、特別な修飾をしていないレトロウイルスベクターを目的とする細胞に導入することが可能であることが示唆されている。しかし、該方法ではウイルス結合活性と細胞への結合活性の両方を有する機能性分子を用いるため、標的細胞ごとに個別の機能性物質を作製しなければならない。また、作製された機能性物質に両活性が保持されているかどうかは明らかでない。
本発明によるレトロウイルス結合部位を有する機能性物質と、標的細胞との結合部位を有する他の機能性物質との組み合わせは、広範囲の細胞種に対してレトロウイルスベクターを用いた遺伝子の送達系が提供できる。この目的のためには、レトロウイルス結合部位を有する機能性物質と、標的細胞との結合部位を有する機能性物質とが共有結合によって結合されている必要はない。したがって、標的となる細胞ごとに、レトロウイルス結合部位を有する機能性物質と、標的細胞との結合部位を有する機能性物質とが共有結合によって結合された、特定の機能性物質を作製する必要がなく、目的の細胞への遺伝子導入を簡便、かつ効率よく行うことができる。
本発明の方法を用いた標的細胞への遺伝子導入の例としては、造血系の細胞への遺伝子導入が挙げられる。上記のフィブロネクチンのCS−1細胞接着領域は造血幹細胞への遺伝子導入に有用なことが知られている。また、造血系の細胞の分化には上記のエリスロポエチンの他にも多数の細胞特異的なサイトカインが関与していることが知られており、これらを利用することによって目的とする細胞(細胞系)に特異的に遺伝子を導入できる。例えば、G−CSFを用いた場合には巨芽球、および顆粒球前駆細胞を標的とすることが可能である。
細胞結合活部位を有する機能性物質として、悪性細胞と、特異的または優先的に結合する物質を用いることにより、これらの細胞を標的として遺伝子導入を行うこともできる。
例えば、ある種の肺癌細胞においてはHER−2、HER−4というレセプターが過剰発現していることが知られている(Proc. Nat. Acad. Sci. USA、第92巻、第9747〜9751頁、1995年)。したがって、該レセプターに対するリガンドのヘリグリン(heregulin)をレトロウイルス結合部位を含有する機能性物質と組み合わせることにより、肺癌細胞の増殖を制御することが可能となる。
また、例えば、甲状腺(癌)細胞に対してはヨウ素を有する機能性物質を、また、肝臓(癌)細胞は高密度リポタンパク質(High-density lipoprotein、HDL)やアシアロ糖タンパク質またはこれらの一部を含有する機能性物質を使用することによって遺伝子導入の標的とすることができる。
さらに、標的細胞の表面に存在する抗原に対する抗体、好適にはモノクローナル抗体を、細胞結合活性を有する機能性物質として使用することにより、抗体が入手できる任意の細胞を標的とすることが可能となる。こうして、本発明により開示されるレトロウイルスベクターと標的細胞との配置方法を使用することにより、広範囲の種類の細胞を標的とすることができる。
特に、好ましい態様は、レトロウイルスベクターによる標的細胞への遺伝子導入効率を高める方法において、新規な機能性物質を用いて遺伝子導入を行う。
これまでレトロウイルスによる細胞への遺伝子導入に有効とされたレトロウイルス結合部位を有する機能性物質はフィブロネクチンのヘパリン−II領域のみである。
上記のように該領域は、それ自体特定の細胞に対して結合部位を有しており、標的細胞によってはこの活性が望ましくない場合がある。このような場合には、この結合部位を他の標的細胞結合部位に置き換えることにより、目的を達成することが可能となる。このように、性質の異なる複数の機能性物質が使用可能なことは、本発明による遺伝子治療の適用範囲を広げることにつながり、目的の標的細胞へのターゲッテングも容易に行うことができる。
本発明により提供される、新規なレトロウイルス結合部位を有する機能性物質としては、線維芽細胞増殖因子、該因子を含有するポリペプチド、コラーゲンのフラグメント、該フラグメントの混合物、該フラグメントを含有するポリペプチド、該機能性物質の重合体等が挙げられる。また、ポリリジンも本発明の目的に使用することができる。これらの機能性物質は、天然起源の物質から得ることができ、また、人為的に作製する(例えば、遺伝子組換え技術または化学合成技術によって作製する)ことができ、さらに、天然起源の物質と化学的に合成された物質との組合せにより作製することもできる。該機能性物質は、本発明の第1の発明の遺伝子導入方法にも使用でき、また、該機能性物質と細胞結合活性を有する機能性物質とのキメラ分子も細胞への遺伝子導入に有用である。
上記の新規な機能性物質はいずれもレトロウイルス結合活性を有している。しかしながら、これらの物質は上記WO95/26200号に記載の、ヒトフィブロネクチンのヘパリン−II結合領域またはそれに類似したアミノ酸配列を有するポリペプチドを含有するものではない。
本発明に使用される線維芽細胞増殖因子としては、実質的に純化された天然物を使用しても良く、また、遺伝子工学的に作製されたものを使用しても良い。本発明には、配列表の配列番号3で表される線維芽細胞増殖因子を使用することができ、さらに、これらのポリペプチドの機能を損なうことなく改変された誘導体も使用することができる。線維芽細胞増殖因子誘導体の例としては、配列表の配列番号4で表されるポリペプチド(以下、C−FGF・Aと称する)がある。これは配列番号3で表される線維芽細胞増殖因子のN末端にフィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチドが結合したポリペプチドであり、米国特許第5,302,701号に記載の方法により遺伝子工学的に製造することができる。該ポリペプチドは該米国特許にFERM P−12637として記載され、現在はブタペスト条約の下、FERM BP−5278の受託番号で茨城県つくば市東1丁目1番3号の通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(NIBH)に寄託されている大腸菌(原寄託日:平成3年12月9日)を使用することによって得ることができる。
また、配列番号5で表される、フィブロネクチン由来のCS−1細胞接着領域を有する上記のC−FGF・Aの誘導体ポリペプチド(以下、C−FGF−CS1と称する)は、上記の茨城県つくば市東1丁目1番3号の通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に、ブタペスト条約の下、FERM BP−5654の受託番号で寄託されている大腸菌(原寄託日:平成8年9月6日)を使用し、本願明細書に記載の方法で得ることができる。このC−FGF−CS1はCS−1結合性を有する標的細胞、特に造血幹細胞への遺伝子導入において特に有用である。
コラーゲンのフラグメントとしては、天然型のコラーゲンを酵素学的、化学的に分解し、実質的に純化したフラグメントを使用しても良く、また、遺伝子工学的に作製されたものを使用しても良い。さらに、これらのフラグメントの機能を損なうことなく改変されたものも使用することができる。コラーゲンの中で、ヒトV型コラーゲンは強いインスリン結合活性を有し(特開平2−209899号)、インスリン結合部位を含有するポリペプチドとしては配列表の配列番号28で表されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドがあり(特開平5−97698号)、その例としては、配列表の配列番号6で表されるポリペプチド(以下、ColVと称する)が挙げられる。ColVは本願明細書実施例に開示の方法で作製することができる。ColVを含有するポリペプチドであって、配列番号7で表されるポリペプチド(以下、C277−ColVと称する)は、ColVのN末端にフィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチドが結合したポリペプチドであり、上記特開平5−97698号に記載されているように遺伝子工学的に製造することができる。C277−ColVは該公開公報にFERM P−12560として記載され、現在はブタペスト条約の下、FERM BP−5277の受託番号で茨城県つくば市東1丁目1番3号の通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている大腸菌(原寄託日:平成3年10月7日)を使用することによって得ることができる。
配列番号8で表される、フィブロネクチン由来のCS−1細胞接着領域を有する上記のC277−ColVの誘導体ポリペプチド(以下、C−ColV−CS1と称する)は以下に示す方法によって作製することができる。ブタペスト条約の下、FERM BP−2800の受託番号で茨城県つくば市東1丁目1番3号の通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている大腸菌(原寄託日:平成1年5月12日)より調製されるプラスミドpCH102を鋳型とし、プライマーCS1−S(配列表の配列番号9にその塩基配列を示す)およびM4を用いたPCR反応により増幅されるDNA断片を制限酵素NheI、SalIで消化した後に単離する。
一方、上記C277−ColVをコードする遺伝子を含み、上記大腸菌FERM BP−5277より調製されるプラスミドpTF7520ColVを鋳型とし、プライマーCF、およびCNRを用いたPCR反応により増幅されるDNA断片を制限酵素AccIII、NheIで消化した後に単離する。配列表の配列番号10および12にCFおよびCNRのそれぞれの塩基配列を示す。上記の2つのDNA断片を、プラスミドpTF7520ColVを制限酵素AccIII、SalIで消化して得られる約4.4kbのDNA断片と混合し、ライゲーションを行って得られる組換えプラスミドはC277−ColVのC末端側にCS−1細胞接着領域を有し、ColVのC末端より2番目のグルタミン酸がアラニンに、C末端のスレオニンがセリンにそれぞれ置換されたポリペプチド、C−ColV−CS1をコードしている。このプラスミドで形質転換された大腸菌を培養した後、培養物より目的のポリペプチドを取得することができる。このC−ColV−CS1はCS−1結合性を有する標的細胞、特に幹細胞への遺伝子導入において特に有用である。
ポリリジンとしては、上記のごとく、市販のポリリジンより適当な重合度のポリリジンを選択し、使用することができる。
本発明で使用する機能性物質としては、上記の機能性物質の誘導体も使用することができる。上記のC−FGF−CS1またはその機能的同等物、C−ColV−CS1またはその機能的同等物はその例である。また、これらの機能性物質を複数の分子結合させた重合体や、機能性物質を公知方法により修飾したもの(糖鎖の付加等)も本発明に使用することができる。これら誘導体および該誘導体の機能的同等物は、該誘導体をコードする遺伝子および該誘導体の機能的同等物をコードする遺伝子を用いて遺伝子工学的に製造することもできる。さらに、これらの機能性物質のアミノ酸配列中にシステインを付加、挿入、置換することにより、機能性物質の誘導体の作製に有用なシステイン化機能性物質を作製することができる。また、システイン化機能性物質であって、レトロウイルス結合部位を有する分子と、システイン化機能性物質であって標的細胞結合部位を有する他の分子とを結合させることも容易である。さらに、システイン化機能性物質のシステイン残基の反応性を利用して他の機能性物質との結合体を作製することができる。
別の好ましい態様では、レトロウイルスベクターによる標的細胞への遺伝子導入効率を高めるフィブロネクチンのレトロウイルス結合部位ポリペプチドの重合体を用いて遺伝子導入を行う。
該機能性物質は上記WO95/26200号に記載の、ヒトフィブロネクチンのヘパリン−II結合領域を一分子内に複数個有するポリペプチド、および該ポリペプチドの誘導体である。なお、本発明に使用する機能性物質としては、該機能性物質と同等の活性を有する範囲内で、天然起源のポリペプチドとはそのアミノ酸配列が一部異なっている機能的同等物を含むことができる。
用いる機能性物質の重合体としては上記のフィブロネクチン由来のポリペプチドを酵素学的または化学的に重合させたものや、遺伝子工学的に作製されたものがある。フィブロネクチンのヘパリン−II結合領域を一分子内に2個有するポリペプチドとしては配列表の配列番号13にアミノ酸配列を示すポリペプチド(以下、H2−547と称す)が挙げられる。H2−547はブタペスト条約の下、FERM BP−5656の受託番号で茨城県つくば市東1丁目1番3号の通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている大腸菌(原寄託日:平成8年9月6日)を使用し、本明細書に記載の方法によって取得することができる。また、配列表の配列番号14にアミノ酸配列を示すポリペプチドは、H2−547のN末端にフィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチドが結合した誘導体ポリペプチド(以下、CH2−826と称す)である。該ポリペプチドは本明細書に記載の方法にしたがって取得することができる。さらに、配列表の配列番号30にアミノ酸配列を示すポリペプチドは、H2−547のC末端にフィブロネクチンのCS−1細胞接着領域を結合した誘導体ポリペプチド(以下、H2S−573と称す)である。該ポリペプチドはブタペスト条約の下、FERM BP−5655の受託番号で茨城県つくば市東1丁目1番3号の通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている大腸菌(原寄託日:平成8年9月6日)を使用し、本明細書に記載の方法によって取得することができる。CS−1細胞接着領域を有するH2S−573は造血幹細胞への遺伝子導入に有用である。
また、別の好ましい態様においては、、レトロウイルスベクターによる標的細胞への遺伝子導入において、レトロウイルスベクターによる細胞への遺伝子導入効率を向上させるのに有効な、ビーズ上に固定された機能性物質との共存下に複製能欠損組換えレトロウイルスベクターを生存可能な標的細胞に感染させる。
従来の、上記のWO95/26200号およびNature Medicineに記載の機能性物質を用いてレトロウイルスベクターによる標的細胞への遺伝子導入効率を向上させる方法は、これまではウイルスを細胞に感染させる際に使用する容器(細胞培養用のプレート)の表面に該機能性物質を固定化することにより実施されてきた。この方法では、プレートを機能性物質を含有する溶液で処理した後、さらに余分の機能性物質を洗い流すなど、煩雑な操作を要する。
このように、機能性物質が固定化されたプレートを使用する遺伝子導入方法は簡便な方法とは言い難い。これに対して、機能性物質をビーズ上に固定して使用する方法はつぎのような利点を有している。
機能性物質をビーズに固定する操作はプレートの場合に比べて小さなスペースで行うことができ、また、ビーズを密閉可能な容器中で取り扱える。機能性物質が固定化されたプレートはその表面が空気にさらされるため、安定性の低い機能性物質の場合には保存中の乾燥による機能性物質の変質等に気を配る必要があるが、ビーズは溶液中に懸濁して保存することができるため、乾燥の危険はない。さらにビーズの使用は機能性物質の存在する表面積を大きくすることから、プレート使用に比べて高い遺伝子導入効率を得ることも可能となる。
機能性物質の固定化は常法により行えばよく、例えば、標的細胞培養容器に固定化しても良く、例えば、細胞培養用のビーズに固定化しても良い。ビーズの素材、材質等は使用する目的によって選択することができる。ビーズとしては、例えば、中心の丸い、または球状の核を持ち、核の表面は親水性のポリマーで被覆されているものでもよい。この核やポリマーの素材としては、例えば、特表平8−501092号に記載のものが例示される。例えば、生分解性ビーズを使用し、これらの機能性物質が固定化されたビーズを生体内に投与することもできる。また、レトロウイルス結合部位を有する分子が固定化されたビーズと、標的細胞結合部位を有する他の分子が固定化されたビーズとを混合して使用するのも効率の良い方法である。
これらの機能性物質を固定化せずに使用する場合は、例えば、標的細胞培養容器を、予め、該機能性物質の吸着を防止する物質、例えば、牛血清アルブミン(BSA)で前処理し、これらの機能性物質の非特異的吸着を防止して使用すればよい。
本発明によれば、このような非固定の系においても、本発明に使用する機能性物質により、遺伝子導入が効率良く達成される。
また、後に説明する、本発明の方法の実施用に設計されたキットは、細胞への遺伝子導入を極めて簡便に実施することを可能にする。
上記のごとく、本発明の方法によって遺伝子を導入された細胞は生体に移植することが可能であり、これによって生体内で外来遺伝子を発現させる遺伝子治療を行うことができる。
例えば、造血幹細胞を標的細胞とした遺伝子治療は以下のような操作によって実施することができる。まず、ドナーより造血幹細胞を含有する材料、例えば、骨髄組織、末梢血液、臍帯血液等を採取する。これらの材料はそのまま遺伝子導入操作に用いることも可能であるが、通常は、密度勾配遠心分離等の方法により造血幹細胞が含まれる単核細胞画分を調製するか、さらに、CD34および/またはC−kitといった細胞表面のマーカー分子を利用した造血幹細胞の精製を行う。これらの造血幹細胞を含有する材料について、必要に応じて適当な細胞増殖因子等を用いた予備刺激を行った後、本発明の方法、とりわけ、造血幹細胞への結合活性を有する機能性物質の存在下に、目的とする遺伝子を挿入された組換えレトロウイルスベクターを感染させる。こうして得られた遺伝子導入された細胞は、例えば、静脈内投与によってレシピエントに移植することができる。レシピエントは、好ましくはドナー自身であるが、同種異系移植を行うことも可能であり、例えば、臍帯血液を材料とした場合には同種異系移植が行われる。
造血幹細胞を標的とした遺伝子治療としては、患者において欠損しているか、異常が見られる遺伝子を補完するものがあり、例えば、ADA欠損症やゴーシェ病の遺伝子治療がこれにあたる。この他、例えば、ガンや白血病の治療に使用される化学療法剤による造血細胞の障害を緩和するために、造血幹細胞への薬剤耐性遺伝子の導入が行われることがある。
造血幹細胞はVLA−4レセプターを発現していることが知られており、本発明により開示されたCS−1細胞接着領域を有する機能性物質を利用して効率よく遺伝子導入を行うことが可能である。また、造血幹細胞表面には上記のようにCD34、C−kitといった分子も発現されており、これらの分子に対する抗体やC−kitのリガンドである幹細胞因子(stem cell factor)をレトロウイルス結合部位を有する機能性物質と組み合わせることによっても、遺伝子導入効率を向上させることができる。
また、癌の遺伝子治療法としては、癌細胞にサイトカイン類の遺伝子を導入した後にその増殖能力を奪って患者の体内に戻し、腫瘍免疫を増強させる腫瘍ワクチン療法が研究されている(Human Gene Therapy、第5巻、第153〜164頁、1994年)。癌細胞に高い親和性を有する機能性物質を用いて本発明の方法を適用することにより、このような遺伝子治療も、より効果の高いものとなる。
また、AIDSを遺伝子治療法によって治療しようという試みも行われている。この場合には、AIDSの原因であるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染するT細胞に、HIVの複製や遺伝子発現を妨げるような核酸分子(アンチセンス核酸やリボザイム等)をコードする遺伝子を導入することが考えられている(例えば、J. Virol.、第69巻、第4045〜4052頁、1995年)。T細胞への遺伝子導入は、T細胞表面に存在する分子に結合する機能性物質、例えば抗CD4抗体等を利用し、本発明の方法により達成することができる。
このように、遺伝子導入される標的細胞としては、上記した本発明の態様に従って、該標的細胞結合部位を有する機能性物質が入手、あるいは作製可能な範囲の任意の細胞を使用することができる。
また、本発明の方法は標的細胞をレトロウイルス産生細胞の存在下で共培養する必要のないこと、およびヒトにおいては臨床での使用に問題のあるヘキサジメトリン・ブロミドを使用しないこと等の点から、臨床における遺伝子治療のプロトコールとしても適したものといえる。
さらに、遺伝子治療以外の分野への本発明の適用として、例えば、標的細胞として胚形成幹細胞、プライモディアル・ジャーム・セル、卵母細胞、卵原細胞、卵子、精母細胞、精子等を使用した、トランスジェニック脊椎動物の簡便な作成を挙げることができる。
すなわち、本発明は、その1つの態様として、本発明の方法で得られる形質転換細胞を脊椎動物に移植する細胞移植方法も提供する。形質転換細胞が移植される脊椎動物としては、哺乳類(例、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、サル、チンパンジー、ヒト等)、鳥類(例、ニワトリ、七面鳥、ウズラ、アヒル、カモ等)、爬虫類(例、ヘビ、ワニ、カメ等)、両生類(例、カエル、サンショウウオ、イモリ等)、魚類(例、アジ、サバ、スズキ、タイ、ハタ、ブリ、マグロ、サケ、マス、コイ、アユ、ウナギ、ヒラメ、サメ、エイ、チョウザメ等)が挙げられる。
かくして、本発明のこの態様によれば、実質的に純粋なフィブロネクチン、実質的に純粋なフィブロネクチンフラグメントまたはそれらの混合物と同様に、本発明に使用する機能性物質のレトロウイルス結合部位と標的細胞結合部位により、レトロウイルスによる遺伝子導入が効率良く行われる。それにより、従来の方法の限界を有していない、遺伝子材料の脊椎動物細胞内への効率的な導入可能な技術が提供できる。
本発明のさらなる別の態様においては、レトロウイルス結合部位と、標的細胞結合部位とを同一分子中に有する、実質的に純粋なフィブロネクチン、実質的に純粋なフィブロネクチンフラグメントまたはそれらの混合物と同等の機能を有する物質の有効量を機能性物質として使用する。
かかる機能性物質としては、フィブロネクチン、フィブロネクチンフラグメントまたはそれらの混合物と同等の効率で遺伝子導入を行う物質であり、典型的には、上記した本発明による新規なレトロウイルス結合部位と標的細胞結合部位とを同一分子中に有する機能性物質が挙げられる。これらの機能性物質を使用する場合は、少なくとも1以上の機能性物質にレトロウイルスと標的細胞とが結合すると考えられる。
上記したレトロウイルス結合部位と、標的細胞結合部位とを同一分子中に有する機能性物質は、例えば、配列表の配列番号21および22で表されるポリペプチド(以下、各々、CHV−181およびCHV−179と称する)が包含される。
これらのペプチドはH−271中に含まれるIII型類似配列(III−12、III−13 、III−14)を含むものであり、CHV−181はIII−12、III−13配列が、また、CHV−179はIII−13 、III−14配列がそれぞれフィブロネクチンの細胞接着ポリペプチド(Pro1239−Ser1515)のC末端にメチオニンを介して付加されたものである。
ポリペプチドCHV−181を発現するためのプラスミドは、例えば、以下に示す方法によって構築することができる。
まず、フィブロネクチンのヘパリン結合ポリペプチド(H−271)をコードするDNA断片を含有するプラスミドpHD101を エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101/pHD101(FERM BP−2264)より調製する。このプラスミド上のIII−13配列のC末端をコードする領域に部位特異的変異導入方法によってHindIIIサイトを導入した後、これをNcoI、HindIIIで消化し、III−12、III−13配列をコードするDNA断片を得る。一方、プラスミドベクターpINIII−ompA1をHindIII、SalIで消化し、リポプロテインターミネーター領域をコードするDNA断片を得る。
つぎに、フィブロネクチンの細胞接着ポリペプチド(C−279)をコードするDNA断片を含有するプラスミドpTF7021を エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)JM109/pTF7021(FERM BP−1941)より調製し、このプラスミド上のC−279の停止コドンの直前に部位特異的変異導入方法によってNcoIサイトを導入したプラスミドpTF7520を作製する。このプラスミドをNcoI、SalIで消化した後、上記のIII−12、III−13配列をコードするDNA断片、およびリポプロテインターミネーター領域をコードするDNA断片と混合してライゲーションを行うことにより、ポリペプチドCHV−181を発現するためのプラスミドpCHV181を得ることができる。配列表の配列番号27にプラスミドpCHV181上のポリペプチドCHV−181をコードする領域の塩基配列を示す。
また、ポリペプチドCHV−179を発現するためのプラスミドは、例えば、以下に示す方法によって構築することができる。
まず、上記のプラスミドpHD101上のIII−13配列のN末端をコードする領域に部位特異的変異導入方法によってNcoIサイトを導入した後、これをNcoI、HindIIIで消化し、III−13、III−14配列をコードするDNA断片を得る。これと、上記のリポプロテインターミネーター領域をコードするDNA断片と、NcoIおよびSalIで消化したプラスミドpTF7520とを混合してライゲーションを行うことにより、ポリペプチドCHV−179を発現するためのプラスミドpCHV179を得ることができる。
CHV−181およびCHV−179はそれぞれ上記のプラスミドで形質転換された大腸菌を培養した後、得られた培養物より精製を行って取得することができる。
これらの機能性物質も、非固定でも、上記と同様に、例えば、ビーズに固定しても使用できる。
さらに別の態様では、本発明は、(1)上記のレトロウイルス結合部位を有する有効量の機能性物質と、標的細胞結合部位を有する他の有効量の機能性物質の混合物または(2)上記の本発明の新規なレトロウイルス結合部位および標的細胞結合部位の有効量を同一分子中に有する機能性物質を含有するレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入に使用する標的細胞の培養培地を提供するもので、機能性物質は非固定でも、固定化されていてもよい。
本発明の培養培地の他の成分は、標的細胞の培養に使用できるものであれば特に制限はなく、市販の細胞培養用培地を使用してもよい。また、本発明の培地は、血清や標的細胞の生育に必要な細胞増殖因子、微生物などによる汚染を防ぐための抗生物質等を含むことができる。例えば、NIH/3T3細胞の場合には、10%ウシ胎児血清(ギブコ社製)と、50単位/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン(共にギブコ社製)とを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、JRHバイオサイエンス社製)を培養培地に用いることができる。
さらに別の態様では、本発明は、(1)上記したレトロウイルス結合部位を有する分子と、標的細胞結合部位を有する他の分子との混合物、(2)上記した本発明による新規なレトロウイルス結合部位と、標的細胞結合部位とを同一分子中に有する機能性物質、または(3)上記したレトロウイルス結合部位を有する機能性物質と接触したレトロウイルスを含有する培地をインキュベートすることを特徴とするレトロウイルスの配置方法を提供する。
該機能性物質は、非固定でも、上記のごとく、固定化されていてもよい。インキュベーションは、常法に従って行うことができ、例えば、37℃、CO濃度5%、湿度99.5%の条件で行うことができる。この条件は、使用する標的細胞に応じて適宜調整し、また、培養時間も細胞や目的に応じて変更することができる。
本発明の方法を使用すれば、例えば、標的細胞にウイルスを送達する広範囲の構築物中にウイルス粒子を配置させることができる。
本発明の別の態様では、標的細胞内へのレトロウイルス介在遺伝子導入の実施に使用するためのキットを提供する。
該キットは、
(a)有効量の、(1)上記したレトロウイルス結合部位を有する分子と、標的細胞結合部位を有する他の分子との混合物または(2)上記した本発明による新規なレトロウイルス結合部位と、標的細胞結合部位とを同一分子中に有する機能性物質、
(b)標的細胞と接触したレトロウイルスをインキュベートするための人工基質、および
(c)上記標的細胞を予備刺激するための標的細胞増殖因子、
を含んでなるキットを提供するもので、(a)の機能性物質は、非固定でも、固定化されていてもよく、このキットは、さらに、遺伝子導入に使用する組換えレトロウイルスベクターや、必要な緩衝剤等を含有していてもよい。
人工基質としては、細胞培養用のプレート、ペトリ皿、フラスコ等を用いることができ、例えば、ポリスチレン製のものを使用できる。
標的細胞がG0期の細胞である場合には、レトロウイルスが感染しないため、予備刺激によって細胞周期に誘導することが好ましく、この目的で、レトロウイルスの感染に先立って、標的細胞を適当な標的細胞増殖因子の存在下で培養する。例えば、骨髄細胞や造血幹細胞に遺伝子導入を行う場合の予備刺激には、インターロイキン−6および幹細胞因子のような標的細胞増殖因子が使用される。
キットの各構成成分は、各々、自体公知の方法により、水溶液の他、凍結乾燥物、顆粒、錠剤等の剤形とすることができ、
本発明のキットを使用することにより、例えば、形質転換された生存可能な標的細胞培養物を得ることができ、標的細胞内へのレトロウイルス介在の遺伝子導入を簡便に実施することができる。
本発明はまた、実質的に純粋なフィブロネクチン、実質的に純粋なフィブロネクチンフラグメントおよびそれらの混合物より選択される機能性物質またはその重合体の有効量の非固定化物またはビーズ固定化物を使用する、レトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入も包含する。
本発明は、上記のCH2−826およびその機能的同等物を包含する。また、本発明は、CH2−826をコードする遺伝子を提供し、配列表の配列番号20で表される遺伝子がその1例である。本発明はこれらの遺伝子の機能的同等物も包含する。
さらに、本発明は、上記のCHV−181を提供し、本発明はその機能的同等物を包含する。また、CHV−181をコードする遺伝子を提供し、配列表の配列番号27で表される遺伝子がその1例である。本発明はこの遺伝子の機能的同等物を包含する。
本発明はまた、レトロウイルス結合部位の重合体および/または標的細胞結合部位の重合体を含有する重合体を提供することができる。重合体の具体例としては線維芽細胞増殖因子の重合体、V型コラーゲン由来のインスリン結合部位を有するポリペプチドの重合体が例示される。これらの重合体をコードする遺伝子も提供する。
以下に考察するように、本発明は特定の理論によって限定されるものではないが、レトロウイルスと細胞とをそれぞれの機能領域部位に結合させることによって、レトロウイルスによる細胞への遺伝子導入、すなわち形質転換が促進される。
レトロウイルスと結合し、その結果、本発明で有効に役立つ機能性物質としては、実質的に純粋なフィブロネクチン、実質的に純粋なフィブロネクチンフラグメントまたはそれらの混合物があるが、本発明者らは、上記したような、これらと実質的に同等な機能を有する本発明の機能性物質が標的細胞のレトロウイルスによる遺伝子導入効率、すなわち形質転換効率を向上させることを見出したのである。
本明細書中に記載のフィブロネクチンのフラグメントは天然または合成起源のものであることができ、例えば、ルオスラチ(Ruoslahti)ら(1981年)、J. Biol. Chem. 256:7277;パテル(Patel)およびロディッシュ(Lodish)(1986年)、J. Cell. Biol. 102:449;およびベルナルディ(Bernardi)等(1987年)、J. Cell. Biol. 105:489 によって既に記載されたようにして、天然起源の物質から実質的に純粋な形態で製造することができる。この点に関して、本明細書で実質的に純粋なフィブロネクチンまたはフィブロネクチンフラグメントと称しているのは、これらが天然においてフィブロネクチンと一緒に存在する他のタンパク質を本質的に含有していないことを意味する。
本明細書中に記載の実質的に純粋なフィブロネクチンまたはフィブロネクチンフラグメントは、例えば、米国特許第5,198,423号に一般的に記載されているようにして、遺伝子組換え体より製造することもできる。特に、下記実施例でH−271、H−296、CH−271(配列番号23)およびCH−296(配列番号24)として同定された組換え体フラグメントならびにこれらを取得する方法はこの特許に詳細に記載されている。下記実施例で使用したC−274フラグメントは米国特許第5,102,988号に記載されているようにして得た。これらフラグメントまたはこれらフラグメントから定型的に誘導できるフラグメントは、米国特許第5,198,423号にも記載されているように、ブタペスト条約の下、茨城県つくば市東1丁目1番3号の工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−10721(H−296)(原寄託日:平成1年5月12日)、FERM BP−2799(メチオニンを介してH−271と結合したC−277、すなわち、CH−271)(原寄託日:平成1年5月12日)、FERM BP−2800(メチオニンを介してH−296と結合したC−277、すなわち、CH−296)(原寄託日:平成1年5月12日)およびFERM BP−2264(H−271)(原寄託日:平成1年1月30日)の受託番号のもとで寄託された大腸菌を培養することによって入手することができる。
さらに、本明細書で使用できるフィブロネクチンフラグメントまたはこのようなフラグメントの出発物質に関する有用な情報は、キミヅカ(Kimizuka)ら、J. Biochem. 110、284〜291(1991年)(これは上記した組換体フラグメントに関してさらに報告している);EMBO J.、4、1755〜1759(1985年)(これはヒトフィブロネクチン遺伝子の構造を報告している); およびBiochemistry、25、4936〜4941(1986年)(これはヒトフィブロネクチンのヘパリン−II結合領域について報告している)中に見ることができる。例えば、下記実施例に報告されているような種々の組換え体フラグメント中に含まれるようなCS−1細胞接着領域とヘパリン−II結合領域との両方を有するフィブロネクチンフラグメントは、これまでの研究で造血細胞内への遺伝子導入効率を顕著に高めることが分かっている。
かくして、本明細書中に記載のフィブロネクチン関連ポリペプチドは、フィブロネクチンのCS−1細胞接着領域の細胞結合活性を提供するアミノ酸配列ならびにウイルスと結合するフィブロネクチンのヘパリン−II結合領域のアミノ酸配列を提供する。
なお、上記WO95/26200号に記載の、レトロウイルスベクターによる形質転換を高めるために使用されるウイルス結合ポリペプチドは
(i)ヒトフィブロネクチンのヘパリン−II結合領域のAla1690−Thr1960に相当する、下記の式(配列番号1)で表される第1のアミノ酸配列:

Ala Ile Pro Ala Pro Thr Asp Leu Lys Phe Thr Gln Val Thr Pro Thr Ser
Leu Ser Ala Gln Trp Thr Pro Pro Asn Val Gln Leu Thr Gly Tyr Arg Val
Arg Val Thr Pro Lys Glu Lys Thr Gly Pro Met Lys Glu Ile Asn Leu Ala
Pro Asp Ser Ser Ser Val Val VAl Ser Gly Leu Met Val Ala Thr Lys Tyr
Glu Val Ser val Tyr Ala Leu Lys Asp Thr Leu Thr Ser Arg Pro Ala Gln
Gly Val Val Thr Thr Leu Glu Asn Val Ser Pro Pro Arg Arg Ala Arg Val
Thr Asp Ala Thr Glu Thr Thr Ile Thr Ile Ser Trp Arg Thr Lys Thr Glu
Thr Ile Thr Gly Phe Gln Val Asp Ala Val Pro Ala Asn Gly Gln Thr Pro
Ile Gln Arg Thr Ile Cys Pro Asp VAl Arg Ser Tyr Thr Ile Thr Gly Leu
Gln Pro Gly Thr Asp Tyr Lys Ile Tyr Leu Tyr Thr Leu Asn Asp Asn Ala
Arg Ser Ser Pro Val Val Ile Asp Ala Ser Thr Ala Ile Asp Ala Pro Ser
Asn Leu Arg Phe Leu Ala Thr Thr Pro Asn Ser Leu Leu Val Ser Trp Gln
Pro Pro Arg Ala Arg Ile Thr Gly Tyr Ile Ile Lys Tyr Glu Cys Pro Gly
Ser Pro Pro Arg Glu Val Val Pro Arg Pro Arg Pro Gly Val Thr Glu Ala
Thr Ile Thr Gly Leu Glu Pro Gly Thr Glu Tyr Thr Ile Tyr Val Ile Ala
Leu Lys Asn Asn Gln Lys Ser Glu Pro Leu Ile Gly Arg Lys Lys Thr;

またはレトロウイルスと結合する能力を有し、上記の配列に十分類似したアミノ酸配列および(ii)ヒトフィブロネクチンのIIICS結合ドメインの1部分に相当する、下記の式(配列番号2)で表される第2のアミノ酸配列(CS−1):

Asp Glu Leu Pro Gln Leu Val Thr Leu Pro His Pro Asn Leu His Gly
Pro Glu Ile Leu Asp Val Pro Ser Thr;

または原始前駆細胞および/または長期再定住(幹)細胞のような造血細胞と結合する能力を有し、上記の配列に十分類似したアミノ酸配列を含む。
なお、上記の配列表の配列番号1で表されるポリペプチド(H−271)のレトロウイルス結合活性は濃度依存性を示し、実施例8に示すように高濃度下においては、CH−271と実質的に同等の活性を示す。すなわち、高濃度の有効量のH−271の存在下ではじめてレトロウイルスと標的細胞とは、少なくとも1分子以上のH−271に結合することが本発明により見い出された。
本発明で使用する機能性物質中のレトロウイルス結合部位とレトロウイルスとの強力な結合は、広範囲の細胞種においてウイルスを用いた治療法のための送達系を構築するために使用することができる。この目的のために、本発明で使用する機能性物質のレトロウイルス結合部位を含むポリペプチドは、構築物として標的細胞特異性を与える任意の細胞結合部位を含む物質と結合させる場合もあり、またはその細胞接着部位を含む物質と共存させる場合もある。すなわち、レトロウイルス結合部位を有する機能性物質性と、細胞結合部位を有する機能性物質性物質は結合していても良く、また異なる分子として共存していても良い。
この方法は、各標的細胞用に特別のレトロウイルス細胞株を構築するこれまでの必要性を回避することができ、目的の標的細胞の種類により、最適の標的細胞結合部位を有する機能性物質の選択が容易になる。したがって、本発明の機能性物質を使用することにより、使用する標的細胞に特異的なターゲティングが容易に実施され、特にレトロウイルス結合部位を有する機能性物質性と、細胞結合部位を有する機能性物質性物質の混合物を使用する本発明の方法は、目的の標的細胞への目的の遺伝子導入効率の向上に、極めて有用である。また本発明が提供する新規機能性物質はレトロウイルスによる標的細胞への遺伝子導入効率の向上させる方法および関連の技術において、極めて有用である。
以下に実施例を挙げて、さらに詳しく本発明を説明するが、本発明は下記実施例の範囲のみに限定されるものではない。
実施例1
(1)ウイルス上清液の調製
レトロウイルスプラスミド、PM5neoベクター(Exp. Hematol.、第23巻、第630〜638頁、1995年)を含有するGP+E−86細胞(ATCC CRL−9642)は10% ウシ胎児血清(FCS、ギブコ社製)ならびに50単位/mlのペニシリンおよび50μg/mlのストレプトマイシン(共にギブコ社製)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、JRHバイオサイエンス社製)中で培養した。なお、以降の操作に使用したDMEMはすべて50単位/mlのペニシリンおよび50μg/mlのストレプトマイシンを含んだものである。PM5neoウイルス含有上清液は上記産生細胞をセミコンフルエントに生育させたプレート(10cm径のゼラチンコート細胞培養用ディシュ、岩城硝子社製)に10% FCSを含有する4mlのDMEMを添加し、一夜培養した後に採集して調製した。採集した培地上清を0.45ミクロンのフィルター(ミリポア社製)でろ過してウイルス上清液ストックとし、使用するまでは−80℃で保存した。
また、レトロウイルスプラスミド、TKNEOベクター(Blood、第78巻、第310〜317頁、1991年)についてはGP+envAm−12細胞(ATCC CRL−9641)を使用し、上記同様の操作を行ってTKNEOウイルス上清液を調製した。
(2)上清液のウイルス力価の測定
上清液のウイルス力価はNIH/3T3 細胞を使用して標準的な方法(J. Virol.、第62巻、第1120〜1124頁、1988年)に従って測定した。すなわち、6ウエルの組織培養プレートの1ウエルあたりに2000個のNIH/3T3細胞(ATCC CRL−1658)を含むDMEMを添加し、一夜培養した後、系列希釈したウイルス上清液と終濃度7.5μg/mlのヘキサジメトリン・ブロミド(ポリブレン:アルドリッチ社製)とを各ウエルに加えた。これを37℃で24時間インキュベートした後、培地を終濃度0.75mg/mlのG418(ギブコ社製)を含有するものと交換してさらにインキュベートを続けた。10〜12日後に生育したG418耐性(G418r)コロニーをクリスタルバイオレットで染色しその数を記録した。ウエルあたりのコロニー数にウイルス上清液の希釈倍率を乗じた値より、上清1ml当たりに含まれる感染性粒子数(cfu/ml)を算出し、これを上清液の力価として以降の実験におけるウイルス上清液の添加量を決定した。
実施例2
(1)フィブロネクチン由来ポリペプチドの調製
ヒトフィブロネクチン由来のポリペプチド、H−271(配列表の配列番号1にそのアミノ酸配列を示す)は該ポリペプチドをコードするDNAを含む組換えプラスミド、pHD101を含有する大腸菌、Escherichia coli HB101/pHD101(FERM BP−2264)より、米国特許第5,198,423号公報に記載の方法により調製した。
また、ポリペプチドCH−271(配列表の配列番号23にそのアミノ酸配列を示す)は以下に示す方法により調製した。すなわち、大腸菌、Escherichia coli HB101/pCH101(FERM BP−2799)を用い、これを上記の公報に記載の方法で培養し、該培養物よりCH−271を得た。
また、ポリペプチドCH−296(配列表の配列番号24にそのアミノ酸配列を示す)は以下に示す方法により調製した。すなわち、大腸菌、Escherichia coli HB101/pCH102(FERM BP−2800)を用い、これを上記の公報に記載の方法で培養し、該培養物よりCH−296を得た。
ポリペプチドC−274(配列表の配列番号25にそのアミノ酸配列を示す)は以下に示す方法により調製した。すなわち、大腸菌、Escherichia coli JM109/pTF7221(FERM BP−1915)を用い、これを米国特許第5,102,988号公報に記載の方法で培養し、該培養物よりC−274を得た。
さらに、ポリペプチドC277−CS1(配列表の配列番号29にそのアミノ酸配列を示す)は以下に示す方法により調製した。すなわち、特開平3−284700号公報にFERM P−11339として記載され、現在はブタペスト条約の下、上記の茨城県つくば市東1丁目1番3号の通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM BP−5723として寄託されている大腸菌、Escherichia coli HB101/pCS25(原寄託日;平成2年3月5日)を用い、これを上記公報に記載の方法で培養し、該培養物よりC277−CS1を得た。
(2)C−FGF・Aの調製
ポリペプチドC−FGF・A(配列表の配列番号4にそのアミノ酸配列を示す)は以下に示す方法に従って調製した。すなわち、上記ポリペプチドをコードするDNAを含有する組み換えプラスミド、pYMH−CF・Aを含む大腸菌、Escherichia coli JM109/pYMH−CF・A(FERM BP−5278)を100μg/mlのアンピシリンを含む5mlのLB培地中、37℃で8時間培養した。この前培養液を100μg/mlのアンピシリン、1mMのIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を含むLB培地500mlに接種し、37℃で一夜培養した後集菌した。得られた菌体を1mM PMSF(フェニルメタンスルホニウムフルオリド)、0.05% ノニデットP−40を含む10mlのPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に懸濁し、超音波処理を行って菌体を破砕した後、遠心分離を行って上清を得た。この上清の260nmにおける吸光度を測定して、これに上清の液量(ml)を乗じた値を算出し、この値4000に対して1mlの割合で5%ポリエチレンイミンを加えた後、遠心分離して上清を得た。この上清をあらかじめPBSで平衡化したハイトラップ−ヘパリンカラム(ファルマシア社製)にかけ、PBSで非吸着の画分を洗浄した後、0.5Mから2MのNaCl濃度勾配を持つPBSで吸着画分の溶出を行った。溶出液をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により分析すると約47kdのポリペプチドを含む2つの画分が存在していたが、このうちの高NaCl濃度で溶出された方の画分を集めて1.5M NaClを含むPBSで平衡化したスーパーロース6カラム(ファルマシア社製)にかけた。溶出液をSDS−PAGEにより分析し、約47kdのポリペプチドを含む画分を集めて精製C−FGF・Aを調製し、以下の操作に使用した。
(3)C−FGF−CS1の調製
まず、ポリペプチドC−FGF−CS1(配列表の配列番号5にそのアミノ酸配列を示す)を大腸菌を宿主として発現させるためのプラスミドを構築した。
Escherichia coli HB101/pCH102(FERM BP−2800)を培養し、得られた菌体よりアルカリ−SDS法によってプラスミドpCH102を調製した。このプラスミドを鋳型とし、プライマーM4(宝酒造社製)及び配列表の配列番号9に塩基配列を示すプライマーCS1−Sを用いたPCR反応を行った後、エタノール沈殿によって反応液中の増幅DNA断片を回収した。得られたDNA断片をNheI、SalI(ともに宝酒造社製)で消化した後、アガロースゲル電気泳動を行い約970bpのDNA断片をゲルより回収した。
次にEscherichia coli JM109/pYMH−CF・A(FERM BP−5278)を培養し、得られた菌体よりアルカリ−SDS法によってプラスミドpYMH−CF・Aを調製した。このプラスミドを鋳型とし、配列番号10に塩基配列を示すプライマーCF及び配列表の配列番号11に塩基配列を示すプライマーFNRを用いたPCR反応を行った後、エタノール沈殿によって反応液中の増幅DNA断片を回収した。得られたDNA断片をEco52I(宝酒造社製)、NheIで消化した後、アガロースゲル電気泳動を行い約320bpのDNA断片をゲルより回収した。
上記のプラスミドpYMH−CF・AをEco52I、SalIで消化した後にアガロースゲル電気泳動を行って単離される約4.1kbのDNA断片を上記の約970bpのDNA断片及び約320bpのDNA断片と混合し、ライゲーションを行って得られる組換えプラスミドを大腸菌JM109に導入した。得られた形質転換体よりプラスミドを調製し、上記の3つのDNA断片が1分子ずつ含まれたものを選んでプラスミドpCFS100と命名した。また、プラスミドpCFS100で形質転換された大腸菌JM109を Escherichia coli JM109/pCFS100と命名した。プラスミドpCFS100はC−FGF・AのC末端側にフィブロネクチン由来のCS−1細胞接着領域を有し、FGFのC末端より2番目のリジンがアラニンに置換されたポリペプチド、C−FGF−CS1をコードしている。
ポリペプチドC−FGF−CS1は以下に示す方法に従って調製した。すなわち、上記の大腸菌、Escherichia coli JM109/pCFS100を100μg/mlのアンピシリンを含む5mlのLB培地中、37℃で8時間培養した。この前培養液を100μg/mlのアンピシリン、1mMのIPTGを含むLB培地500mlに接種し、37℃で一夜培養した後集菌した。得られた菌体を0.5M NaCl、1mM PMSF、0.05% ノニデットP−40を含む10mlのPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に懸濁し、超音波処理を行って菌体を破砕した後、遠心分離を行って上清を得た。この上清をあらかじめ0.5M NaClを含むPBSで平衡化したハイトラップ−ヘパリンカラムにかけ、0.5M NaClを含むPBSで非吸着の画分を洗浄した後、0.5Mから2MのNaCl濃度勾配を持つPBSで吸着画分の溶出を行った。溶出液をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析し、約50kdのポリペプチドを含む画分を集めて精製C−FGF−CS1を調製し、以下の操作に使用した。
こうして得られた精製C−FGF−CS1のN末端から5番目までのアミノ酸配列を調べたところ、配列表の配列番号5に示されたアミノ酸配列のものと一致した。また、質量分析法によって測定された精製C−FGF−CS1の分子量も上記のアミノ酸配列から予想されるものと一致した。
(4)C277−ColVの調製
ポリペプチドC277−ColV(配列表の配列番号6にそのアミノ酸配列を示す)は以下に示す操作によって精製した。すなわち、上記ポリペプチドをコードするDNAを含有する組み換えプラスミド、pTF7520ColVを含む大腸菌、Escherichia coli JM109/pTF7520ColV(FERM BP−5277)を100μg/mlのアンピシリンを含む5mlのLB培地中、37℃で6.5時間培養した。この前培養液を100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地500mlに接種し、37℃で培養した。660nmにおける吸光度が0.6に達した時点でIPTGを終濃度1mMになるように添加して一夜培養した後に集菌した。得られた菌体を1mM EDTA、0.05% ノニデットP−40、2mM PMSFを含む10mlのPBSに懸濁し、超音波処理を10分間行って菌体を破砕した。この菌体破砕液を遠心分離して得た上清をPBSで平衡化したリソースQカラム(ファルマシア社製)にかけ、目的のポリペプチドを含む非吸着画分を得た。この画分をPBSで平衡化したハイトラップ−ヘパリンカラムにかけ、PBSで非吸着の画分を洗浄した後、0Mから0.5MのNaCl濃度勾配を持つPBSで吸着画分の溶出を行った。溶出液をSDS−PAGEにより分析し、48kdのポリペプチドを含む画分を集めて精製C277−ColVを調製し、以下の操作に使用した。
(5)ColVの調製
まず、ポリペプチドColV(配列表の配列番号6にそのアミノ酸配列を示す)を大腸菌を宿主として発現させるためのプラスミドを構築した。
Escherichia coli HB101/pTF7520ColV(FERM BP−5277)を培養し、得られた菌体よりアルカリ−SDS法によってプラスミドpTF7520ColVを調製した。このプラスミドをNcoI、BamHI(ともに宝酒造社製)で消化後、アガロースゲル電気泳動を行い、約0.58kbのDNA断片をゲルより回収した。これをあらかじめNcoIとBamHIで消化しておいたプラスミドベクターpET8C(ノバジェン社製)と混合してライゲーションを行った。得られた組換えプラスミドを大腸菌BL21に導入して得られた形質転換体よりプラスミドを調製し、上記の約0.58kbDNA断片1分子のみが含まれたものを選び、これをプラスミドpETColVと命名した。
上記のプラスミドpETColVで形質転換された大腸菌BL21、Escherichia coli BL−21/pETColVを50μg/mlのアンピシリンを含む10mlのLB培地中、37℃で一夜培養した。この前培養液0.2mlを50μg/mlのアンピシリン、を含むLB培地100mlに接種し、37℃で培養した。600nmの吸光度が0.4に達した時点でIPTGを終濃度1mMとなるように添加し、一夜培養した後に集菌した。得られた菌体を1mM EDTA、0.05% ノニデットP−40、10μg/ml アプロチニン(aprotinin)、10μg/ml ロイペプチン(leupeptin)、2mM PMSFを含む5mlのPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に懸濁し、超音波処理を行って菌体を破砕した後、遠心分離を行って上清を得た。この上清をPBSで平衡化したハイトラップ−ヘパリンカラムにかけ、PBSで非吸着の画分を洗浄した後、0.5MのNaClを含むPBSで吸着画分の溶出を行った。溶出液をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した結果、ほぼ単一な約18kdのポリペプチドが確認された。こうして得られた精製ColVを以下の操作に使用した。
(6)H2−547の調製
ポリペプチドH2−547(配列表の配列番号13にそのアミノ酸配列を示す)を発現させるためのプラスミドは以下に示す操作に従って構築した。Escherichia coli HB101/pCH102(FERM BP−2800)を培養し、得られた菌体よりアルカリ−SDS法によってプラスミドpCH102を調製した。このプラスミドを鋳型とし、配列表の配列番号15に塩基配列を示すプライマー12Sと配列表の配列番号16に塩基配列を示すプライマー14Aとを用いたPCR反応の後、アガロースゲル電気泳動を行い、フィブロネクチンのヘパリン結合ポリペプチドをコードする約0.8kbのDNA断片をゲルより回収した。得られたDNA断片をNcoI、BamHI(ともに宝酒造社製)で消化した後、NcoI、BamHIで消化したpTV118N(宝酒造社製)と混合してライゲーションを行い、大腸菌JM109に導入した。得られた形質転換体よりプラスミドを調製し、上記のDNA断片を含むプラスミドを選んでこれをプラスミドpRH1とした。
プラスミドベクターpINIII−ompA1(The EMBO Journal、第3巻、第2437〜2442頁、1984年)をBamHIとHincII(宝酒造社製)とで消化し、リポプロテインターミネーター領域を含む約0.9kbのDNA断片を回収した。これをBamHIとHincIIで消化した上記のプラスミドpRH1と混合してライゲーションを行い、lacプロモーター、ヘパリン結合ポリペプチドをコードするDNA断片およびリポプロテインターミネーターをこの順に含むプラスミドpRH1−Tを得た。
プラスミドpRH1−TをNheIとScaI(ともに宝酒造社製)で消化して得られる約3.1kbのDNA断片と、SpeI(宝酒造社製)とScaIで消化して得られる約2.5kbのDNA断片をそれぞれ調製し、この2つをライゲーションさせることによってlacプロモーター、ヘパリン結合ポリペプチドが2個タンデムに連結されたポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム、およびリポプロテインターミネーターをこの順に含むプラスミドpRH2−Tを得た。上記のオープンリーディングフレームの塩基配列を配列表の配列番号17に示す。
ポリペプチドH2−547は以下の方法により調製した。100μg/mlのアンピシリンを含む120mlのLB培地を入れた500mlバッフル付き三角フラスコを4本用意し、これに上記のプラスミドpRH2−Tで形質転換された大腸菌HB101、Escherichia coli HB101/pRH2−Tを接種して37℃で1晩培養した。培養液より遠心分離によって菌体を集め、40mlの破砕用緩衝液(50mM トリス−HCl、1mM EDTA、150mM NaCl、1mM DTT、1mM PMSF、pH7.5)に懸濁し、超音波処理を行って菌体を破砕した。遠心分離を行って得られた上清を精製用緩衝液(50mM トリス−HCl、pH7.5)で平衡化されたハイトラップ−ヘパリンカラム(ファルマシア社製)にかけた。同緩衝液でカラム内の非吸着画分を洗浄した後、0〜1M NaCl濃度勾配を持つ精製用緩衝液で溶出を行った。溶出液をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析し、分子量約6万のポリペプチドを含む画分を集めて精製H2−547標品を得た。得られた標品の蛋白量をBCAプロテインアッセイリエージェント(ピアス社製)により、ウシ血清アルブミンをスタンダードとして測定したところ、約10mgのH2−547が得られていた。
こうして得られた精製H2−547のN末端から5残基までののアミノ酸配列を調べたところ、配列表の配列番号17に示される塩基配列から予想されるH2−547のアミノ酸配列よりN末端のメチオニンが除去されたもの(配列表の配列番号13にその配列を示す)と一致した。また、質量分析法によって測定された精製H2−547の分子量は配列表の配列番号13に示されるアミノ酸配列から予想されるものと一致した。
(7)CH2−826の調製
ポリペプチドCH2−826(配列表の配列番号14にそのアミノ酸配列を示す)を発現させるためのプラスミドは以下に示す操作に従って構築した。上記のプラスミドpCH102を鋳型とし、配列表の配列番号18に塩基配列を示すプライマーCLSと配列表の配列番号19に塩基配列を示すプライマーCLAとを用いたPCR反応の後、アガロースゲル電気泳動を行い、フィブロネクチンの細胞接着ポリペプチドをコードする約0.8kbのDNA断片をゲルより回収した。得られたDNA断片をNcoI、BglII(宝酒造社製)で消化した後、NcoI、BamHIで消化したpTV118Nと混合してライゲーションを行い、大腸菌JM109に導入した。得られた形質転換体よりプラスミドを調製し、上記のDNA断片を含むプラスミドを選んでこれをプラスミドpRC1とした。このプラスミドpRC1をSpeIとScaIで消化して得られる約2.5kbのDNA断片と、上記のプラスミドpRH2−TをNheIとScaIで消化して得られる約3.9kbのDNA断片とを混合してライゲーションを行い、細胞接着ポリペプチドのC末端にヘパリン結合ポリペプチドが2個タンデムに連結されたポリペプチドをコードするプラスミドpRCH2−Tを得た。このポリペプチドをコードするプラスミドpRCH2−T上のオープンリーディングフレームの塩基配列を配列表の配列番号20に示す。
ポリペプチドCH2−826は実施例2−(6)に記載のポリペプチドH2−547について用いられたものと同様の方法により調製した。ハイトラップヘパリンカラムの溶出液のうち分子量約9万のポリペプチドを含む画分を集めて精製CH2−826標品を得た。
(8)H2S−537の調製
ポリペプチドH2S−537(配列表の配列番号30にそのアミノ酸配列を示す)を発現させるためのプラスミドは以下に示す操作に従って構築した。上記のプラスミドpCH102を鋳型とし、配列表の配列番号31に塩基配列を示すプライマーCS1Sと、配列表の配列番号32に塩基配列を示すプライマーCS1Aとを用いたPCR反応の後、アガロースゲル電気泳動を行ってフィブロネクチンのCS−1細胞接着領域をコードする約0.1kbのDNA断片をゲルより回収した。得られたDNA断片をNcoI、BamHIで消化した後、NcoI、BamHIで消化したプラスミドベクターpTV118Nと混合してライゲーションを行い、大腸菌JM109に導入した。得られた形質転換体よりプラスミドを調製し、上記のDNA断片を含むプラスミドを選んでこれをプラスミドpRS1とした。
プラスミドベクターpINIII−ompA1をBamHIとHincIIとで消化し、リポプロテインターミネーター領域を含む約0.9kbのDNA断片を回収した。これをBamHIとHincIIとで消化した上記のプラスミドpRS1と混合してライゲーションを行い、lacプロモーター、CS−1領域ポリペプチドをコードするDNA断片及びリポプロテインターミネーターをこの順に含むプラスミドpRS1−Tを得た。
プラスミドpRS1−TをNheIとScaIで消化して得られる約2.4kbのDNA断片と、プラスミドpRH2−TをSpeI、ScaI、PstI(宝酒造社製)で消化して得られる約3.3kbのDNA断片をそれぞれ調製し、この2つをライゲーションさせることによってlacプロモーター、タンデムに並んだ2個のヘパリン結合ポリペプチドのC末端側にさらにCS−1領域が連結された構造のポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム、及びリポプロテインターミネーターをこの順に含むプラスミドpRH2S−Tを得た。上記のオープンリーディングフレームの塩基配列を配列表の配列番号32に示す。
ポリペプチドH2S−573は実施例2−(6)に記載のポリペプチドH2−547について用いられたものと同様の方法により調製した。ハイトラップヘパリンカラムの溶出液のうち分子量約6万のポリペプチドを含む画分を集めて精製H2S−573標品を得た。
(9)機能性物質のプレートへの固定化
機能性物質を固定化されたプレート(6ウエルの組織培養プレート、ファルコン社製)をレトロウイルスの細胞への感染実験に使用する場合には、以下に示す操作にしたがって固定化操作を行った。すなわち、上記の実施例に記載の各種機能性物質を適当な濃度となるようにPBSに溶解した溶液を1ウエル(底面積9.6cm2)あたり2ml添加し、紫外線の照射下においてプレートのふたを開けて1時間、さらにふたを閉めて1時間、室温でインキュベートした。次に機能性物質溶液を2%のウシ血清アルブミン(BSA、ベーリンガー・マンハイム社製)を含むPBS 2mlに交換してさらに30分間、室温でインキュベートした後、25mM ヘペス(HEPES)を含むPBSでプレートを洗浄した。BSAを固定化した対照プレートは、上記の操作のうちポリペプチド溶液とのインキュベーションを省略して作製した。
なお、以降に示す実施例での遺伝子導入(ウイルス感染)実験においては、特に断らない限り上記の6ウエルの組織培養プレートを使用し、プレートへの固定化に使用した機能性物質の濃度を示す場合には、ウエルの単位底面積あたりの機能性物質量をpmol/cm2(およびμg/cm2)を単位として記載する。たとえば上記のプレート(底面積9.6cm2)について48μg/mlのH−271溶液2mlを用いて固定化を行った場合には、「333pmol/cm2(10μg/cm2)のH−271を用いて固定化した」と記載する。また、遺伝子導入後の浮遊細胞(TF−1、HL−60)を培養する際に用いるCH−296を固定化したプレートは、48pmol/cm2(3μg/cm2)のCH−296溶液を用い、上記の操作によって固定化を行ったものである。以降の実施例において、標的細胞へのウイルス感染はすべてポリブレンを含有しない培地中で行った。また、使用するウイルス、細胞、培地等の量を示す場合には特に断らない限り1ウエルあたりの量を記載する。
実施例3
(1)機能性物質の混合物を用いた遺伝子導入
細胞に結合する物質と、レトロウイルスに結合する物質とを混合してプレートに固定化した場合の遺伝子導入効率への影響を調べるために以下に示す実験を行った。まず、実施例2−(9)に記載の方法に従って32pmol/cm2(1.5μg/cm2)のC−FGF・A、32pmol/cm2(1μg/cm2)のC−274と32pmol/cm2(0.5μg/cm2)のFGFとの混合物、および32pmol/cm2(0.5μg/cm2)のFGF(ベクトン・ディッキンソン社製)のそれぞれを用い、各ポリペプチドをプレートに固定化した。これらのプレート、およびBSAを固定化した対照プレートのそれぞれに1000cfuのPM5neoウイルスを含む2mlのウイルス上清液を加えて37℃、30分間プレインキュベーションした後、PBSを用いてプレートを徹底的に洗浄した。このプレートに2000個のNIH/3T3細胞を含む2mlのDMEM培地を加え、ポリブレンの非存在下に37℃、2時間インキュベーションした後、非付着細胞はデカンテーションによって、またプレートに付着した細胞はトリプシン処理の後にプレートから剥がすことによってそれぞれ採取し、これらを合わせた。得られた細胞懸濁液を二分して一方をDMEM、もう一方を終濃度0.75mg/mlのG418を含むDMEMとともに37℃で10日間培養し、出現したコロニー数を数えた。G418を含まない培地で得られたコロニー数に対するG418耐性コロニー数の割合を遺伝子導入効率とし、その結果を図1に示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率をそれぞれ示す。
図1に示されるように、レトロウイルスの感染時間を2時間とした場合にはFGF単独ではC−FGF・Aに比べて低い遺伝子導入効率しか得られないが、C−274とFGFの混合物を固定化したプレートを用いた場合には、この2つのポリペプチドが共有結合したC−FGF・Aを用いた場合と同様の効率でG418耐性コロニーが得られた。
詳細な検討を行うために、C−274のみ、およびFGFのみを固定化した場合とこれらの混合物を固定化した場合との比較を行った。すなわち32pmol/cm2(1μg/cm2)のC−274、32pmol/cm2(0.5μg/cm2)のFGF、および32pmol/cm2のC−274と32pmol/cm2のFGFとの混合物のそれぞれを用いて実施例2−(9)に記載の方法によってプレートへの固定化を行い、これらのプレートを用いて上記同様の操作でレトロウイルス感染への効果を調べた。得られた結果を図2に示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率をそれぞれ示す。
図2に示されるようにC−274とFGFとの混合物を固定化したプレートを用いた場合にはFGFのみを固定化したものに比べて高い遺伝子導入効率を示した。またレトロウイルス結合部位を有しないC−274のみを固定化したプレートではG418耐性コロニーは得られなかった。以上の実験結果より、レトロウイルス結合部位を有するFGFに細胞結合部位を有するC−274を組み合わせることによってFGF単独で使用した場合に比べて高い感染効率が得られること、およびこのようなポリペプチドの組み合わせによる効果の発現には必ずしもポリペプチド鎖が共有結合で結ばれている必要がないことが示された。
(2)機能性物質の混合物を用いた遺伝子導入
レトロウイルス結合部位を有するポリペプチドをColVに置き換えて、実施例3−(1)同様の実験を行った。本実験においてはC−274とColVとを種々のモル比で混合した場合を比較した。すなわち、330pmol/cm2(6μg/cm2)のColV、330pmol/cm2(10μg/cm2)のC−274と330pmol/cm2のColVとの混合物(C−274とColVのモル比は10:10)、100pmol/cm2(3μg/cm2)のC−274と330pmol/cm2のColVとの混合物(3:10)、33pmol/cm2(1μg/cm2)のC−274と330pmol/cm2のColVとの混合物(1:10)、330pmol/cm2(16μg/cm2)のC277−ColV、および330pmol/cm2(10μg/cm2)のC−274のそれぞれを用いて実施例2−(9)に記載の方法によってプレートへの固定化を行い、作製されたプレートを用いて上記同様の操作でレトロウイルス感染への効果を調べた。得られた結果を図3に示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率をそれぞれ示す。
図3に示されるように感染時間を2時間とした場合にはColVを固定化したプレート上での感染効率はC277−ColV固定化プレートの1/2以下であるが、ColVとその1/10量(分子数として)のC274の混合物を固定化したプレートを用いた場合にはC277−ColVと同等の感染効率が得られており、FGFの場合同様にC−274分子のレトロウイルス感染の促進効果が確かめられた。なお、ColV分子に対するC−274分子の割合が上昇した場合にはこの効果はむしろ低下し、等量のColV、C−274を含む混合物を固定化した場合にはColVのみを固定化した場合とほとんど差はみられない。
(3)機能性物質の混合物を用いた遺伝子導入
細胞結合部位を有する物質と、レトロウイルス結合部位を有する物質とを混合してプレートへの固定化を行った場合の遺伝子導入効率への影響を調べるために以下に示す実験を行った。まず、実施例2−(9)に記載の方法に従い、32pmol/cm2(1μg/cm2)のC−274、333pmol/cm2(10μg/cm2)のH−271、および32pmol/cm2(1μg/cm2)のC−274と333pmol/cm2(10μg/cm2)のH−271との混合物のそれぞれを用いてプレートへの固定化を行った。これらのプレートそれぞれに1000cfuのPM5neoウイルスを含む2mlのウイルス上清液を加え、37℃、30分間プレインキュベーションした後、PBSを用いてプレートを徹底的に洗浄した。このプレートに2000個のNIH/3T3細胞を含む2mlのDMEM培地を加えて37℃、2時間インキュベーションした後、非付着細胞はデカンテーションによって、またプレートに付着した細胞はトリプシン処理の後にプレートから剥がすことによってそれぞれ採取し、これらを合わせた。得られた細胞懸濁液を二分して一方をDMEM、もう一方を終濃度0.75mg/mlのG418を含むDMEMとともに37℃で10日間培養し、出現したコロニー数を数えた。G418を含まない培地で得られたコロニー数に対するG418耐性コロニー数の割合を遺伝子導入効率とし、その結果を図4に示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率をそれぞれ示す。
図4に示されるように、C−274とH−271の混合物(モル比1:10)を固定化したプレートを用いた場合にはH−271のみを固定化したものに比べて感染効率が大きく上昇した。なお、C−274のみを固定化したプレートでは遺伝子導入は見られなかった。
(4)C277−CS1を用いた遺伝子導入
細胞結合部位を有する物質としてC277−CS1を用い、これとレトロウイルスに結合部位を有する物質とを混合してプレートへの固定化を行った場合の感染効率への影響を調べるために以下に示す実験を行った。レトロウイルスに結合する物質としてはポリリジン[(Lys)n、ポリ−L−リジン臭化水素酸塩、分子量5万〜10万、和光純薬社製]、およびH−271の2種を用い、また細胞には浮遊細胞であるTF−1細胞(ATCC CRL−2003)を用いた。まず、実施例2−(9)に記載の方法に従い、以下に示す溶液でプレートへの固定化を行った。33pmol/cm2(1.1μg/cm2)のC277−CS1、133pmol/cm2(10μg/cm2)のポリリジン、33pmol/cm2のC277−CS1と133pmol/cm2のポリリジンとの混合物、333pmol/cm2(10μg/cm2)のH−271、33pmol/cm2のC277−CS1と333pmol/cm2のH−271との混合物、および33pmol/cm2(2.1μg/cm2)のCH−296。これらのプレートそれぞれに1×104cfu/のTKNEOウイルス、1×104個のTF−1細胞を含むRPMI1640培地[5ng/ml GM−CFS(ペトロ テック社製)、50単位/ml ペニシリン、50μg/mlストレプトマイシンを含むもの]を加えて37℃で24時間インキュベーションした。インキュベーション終了後、非付着細胞はデカンテーションによって、またプレートに付着した細胞はトリプシン処理を行ってそれぞれ採取し、これらを合わせた。得られた細胞懸濁液のうちの1/5づつをCH−296を固定化したプレート2枚に移して24時間インキュベートした後、培地を一方は上記の培地、またもう一方は終濃度0.75mg/mlのG418を含む上記の培地に交換して37℃で8日間培養し、出現したコロニー数を数えた。G418の存在下、非存在下に出現したコロニー数よりG418耐性コロニーの出現率(遺伝子導入効率)を算出した。
図5に得られた結果を示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率をそれぞれ示す。なお図5の(a)はレトロウイルス結合性物質としてポリリジンを用いた場合、(b)はH−271を用いた場合である。細胞へ結合部位を有するC277−CS1をポリリジン、あるいはH−271と併用することにより、遺伝子導入効率はこれらのレトロウイルス結合性物質のみを固定化したプレートに比べて著しく上昇することが示された。
(5)エリスロポエチン誘導体ポリペプチドの調製
エリスロポエチンに対するレセプターを有する細胞への遺伝子導入に使用するために、エリスロポエチンをグルタチオン−S−トランスフェラーゼとの融合ポリペプチドとした誘導体ポリペプチド、GST−Epoを調製した。配列表の配列番号34にGST−Epoのアミノ酸配列を示す。該配列中233番目〜398番目のアミノ酸配列がエリスロポエチンに相当する。
まず、GST−Epoを発現させるためのプラスミドを以下に示す操作に従って構築した。ヒト胎児肝臓由来のcDNAライブラリー(クロンテック社製)を鋳型とし、プライマーEPF1、EPR1(配列表の配列番号35、36にそれぞれプライマーEPF1、EPR1の塩基配列を示す)を用いたPCRを行った。この反応液の一部をとってこれを鋳型とし、プライマーEPF2、EPR2(配列表の配列番号37、38にそれぞれプライマーEPF2、EPR2の塩基配列を示す)を用いて再度PCRを行った。この反応液より増幅DNA断片を回収し、これをEcoRI、BamHI(ともに宝酒造社製)で消化した後、アガロースゲル電気泳動を行ってエリスロポエチンをコードする領域を含む約520bpのDNA断片を回収した。得られた断片をEcoRI(宝酒造社製)、BamHIで消化したプラスミドベクターpTV118N(宝酒造社製)と混合してライゲーションを行った後、大腸菌JM109に導入した。得られた形質転換体より上記のDNA断片を含むプラスミドを保持するものを選択し、プラスミドを調製してこれをプラスミドpEPOと命名した。次に、こうして得られたプラスミドpEPOをEcoRI、SalI(宝酒造社製)で消化した後、アガロースゲル電気泳動を行って約0.5kpのDNA断片を回収した。この断片をEcoRI、SalIで消化したプラスミドベクターpGEX5X−3(ファルマシア社製)と混合してライゲーションを行った後、大腸菌JM109に導入した。得られた形質転換体より上記のDNA断片を含むプラスミドを保持するものを選択し、このプラスミドを調製してこれをプラスミドpGSTEPOと命名した。該プラスミドにはベクター由来のグルタチオン−S−トランスフェラーゼのC末端部分にエリスロポエチンのアミノ酸配列が挿入された融合ポリペプチド、GST−Epoがコードされている。プラスミドpGSTEPO上のGST−EPOをコードする塩基配列を配列表の配列番号39に示す。
ポリペプチドGST−Epoは以下に示す操作によって調製した。100μg/mlのアンピシリンを含む5mlのLB培地を7本準備し、それぞれに上記のプラスミドpGSTEPOで形質転換された大腸菌JM109、Escherichia coli JM109/pGSTEPOを接種して37℃で1晩培養した。次に、同様の培地500mlずつを入れた2リットル容三角フラスコを7本用意し、これに上記の培養液5mlずつを接種して37℃で培養した。培養開始より3.5時間後に終濃度1mMとなるようにIPTGを添加し、さらに3.5時間培養した。培養終了後、遠心分離を行って培養液より菌体を回収し、これを1mM PMSFおよび1mM EDTAを含む100mlのPBSに懸濁し、超音波処理を行って菌体を破砕した。得られた破砕液に1mM PMSF、1mM EDTAおよび2%のTriton X−100を含む100mlのPBSを加え、氷上に30分間静置した後に遠心分離を行って上清を集めた。得られた上清を0.45μmのフィルター(ミリポア社製)でろ過した後、PBSで平衡化したグルタチオン−セファロース4Bカラム(ファルマシア社製、3ml)にアプライした。カラムをPBSで洗浄後、10mM グルタチオンを含む50mM トリス−HCl、pH8.0を用いて溶出を行った。溶出液をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析し、分子量約4.4万のポリペプチドを含む画分を集めてこれをPBSに対して透析した。透析後の試料をPBSで平衡化したリソースQカラム(ファルマシア社製、6ml)にアプライし、カラムをPBSで洗浄後、0〜0.6M NaCl濃度勾配を持つPBSにより溶出を行った。上記同様にグルタチオンを含む50mM トリス−HCl、pH8.0を用いて溶出を行った。分子量約4.4万のポリペプチドを含む画分を集め、これをセントリコン10(アミコン社製)を用いた限外ろ過によって約50μlまで濃縮し、さらにウルトラフリーC3GVSTRL(ミリポア社製)を用いてろ過した後、ろ液をスーパーデックス200カラム(ファルマシア社製、PBSにて平衡化)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供した。分子量約4.4万のポリペプチドを含む溶出画分を集め、これをGST−Epoポリペプチド溶液として以降の実験に使用した。このGST−Epo溶液中には総タンパクの約50%のGST−Epoが含まれていた。
(6)エリスロポエチンレセプター発現細胞への遺伝子導入
細胞結合活性を有する機能性物質としてエリスロポエチンを使用した場合の遺伝子導入への効果を、エリスロポエチンのレセプターを発現するTF−1、およびエリスロポエチンのレセプターを発現しないHL−60(ATCC CCL−240)の2種の細胞を用いて調べた。なお、エリスロポエチンとしては上記のエリスロポエチン誘導体ポリペプチド(GST−Epo)を、また、レトロウイルスに結合する物質としてポリリジンをそれぞれ使用した。まず、実施例2−(9)に記載の方法に従って34pmol/cm2(1.5μg/cm2)相当のGST−Epo、133pmol/cm2(10μg/cm2)のポリリジンおよび34pmol/cm2のGST−Epoと133pmol/cm2のポリリジンとの混合物のそれぞれを用いてプレートへの固定化を行った。これらのプレートそれぞれに1×104cfu/のTKNEOウイルス、および1×104個の細胞を含む培地を加えて37℃で24時間インキュベーションした。なお培地としては、TF−1についてはRPMI1640培地(5ng/ml GM−CFS、50単位/ml ペニシリン、50μg/mlストレプトマイシンを添加したもの)、HL−60にはRPMI培地(ニッスイ社製、10% FCS、50単位/ml ペニシリン、50μg/ml ストレプトマイシンを添加したもの)をそれぞれ使用した。インキュベーション終了後、非付着細胞はデカンテーションによって、またプレートに付着した細胞はトリプシン処理を行ってそれぞれ採取し、これらを合わせた。各プレートより得られた細胞懸濁液のうちの1/5づつをCH−296を固定化したプレート2枚に移して24時間インキュベートした後、培地を一方は上記の培地、またもう一方は終濃度0.75mg/mlのG418を含む上記の培地に交換して37℃で8日間培養し、出現したコロニー数を数えた。G418の存在下、非存在下に出現したコロニー数よりG418耐性コロニーの出現率(遺伝子導入効率)を算出した。
図6に結果を示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率をそれぞれ示す。図6(a)に示したTF−1細胞の場合、ポリリジンのみを固定化したプレートにおいてもある程度の遺伝子導入が起こっているが、GST−Epoが共存する場合にはこれよりも高い遺伝子導入効率が得られた。一方、図6(b)に示したHL−60細胞では、GST−Epoの共存による遺伝子導入効率の上昇は見られなかった。以上の結果より、エリスロポエチンを利用することにより、標的とする細胞に特異的な遺伝子導入が可能なことが示された。
さらに、レトロウイルス結合部位を有する物質をH2−547にかえてTF−1細胞への遺伝子導入実験を行った。実施例2−(9)に記載の方法に従って333pmol/cm2(20μg/cm2)のH2−547、34pmol/cm2(1.5μg/cm2)相当のGST−Epo、および34pmol/cm2のGST−Epoと333pmol/cm2(20μg/cm2)のH2−547との混合物のそれぞれを用いてプレートへの固定化を行った。同時にBSAを固定化したプレートを使用した対照実験も行った。図7に得られた結果を示す。図中、横軸はプレートに固定化された機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率をそれぞれ示す。図に示されるようにH2−547を使用した場合にもGST−Epoの共存によってTF−1細胞への遺伝子導入効率が向上することが示された。
(7)機能性物質の混合物を固定化したビーズを用いた遺伝子導入
細胞結合部位を有する物質とレトロウイルス結合部位を有する物質の両者を固定化したビーズを用いて、レトロウイルス感染効率を上げることが可能かどうかを調べた。
ポリペプチドを固定化したビーズは以下に示す方法により調製した。ビーズには粒子径1.14μmのポリスチレンビーズ(ポリビーズ ポリスチレン ミクロスフェア、ポリサイエンス社製)を用いた。上記ビーズの2.5%懸濁液20μlにエタノール80μl、および各種ポリペプチドのPBS溶液 2mlを加えて4℃で一夜静置した後、BSAおよびPBSを加えて4mlの1%BSA/PBS懸濁液とした。この懸濁液より遠心分離によって回収したビーズを再度5mlの1%BSA/PBSに懸濁し、室温で1時間静置してポリペプチド固定化ビーズの懸濁液を得た。ポリペプチド溶液としては100μg/ml C−274、100μg/ml H−271、100μg/ml CH−271、100μg/ml CH−296、および100μg/ml H−271と10μg/ml C−274の混合物を用い、また対照として2%BSA溶液を使用して固定化を行ったビーズも同様に調製した。
調製されたポリペプチド固定化ビーズのうち1/10量を上記の懸濁液より回収し、それぞれを2000個のTF−1細胞、1000cfuのTKNEOウイルス上清液とともに37℃で一晩培養した。細胞を回収し、0.3% Bacto Agar(ディフコ社製)を含むRPMI培地[10%FCS、5ng/ml GM−CFS(ペトロ テック社製)、50単位/ml ペニシリン、50μg/mlストレプトマイシンを含むもの]に懸濁し、これを予め0.5% Bacto Agarを含む上記のRPMI培地で作製した35mm プレート上にまいた。なお、培地は0.75mg/ml G418を含むもの、含まないものの2通りを使用した。プレートを5% CO中、37℃で14日間インキュベーションした後、G418の存在下、非存在下に出現したコロニーを計数し、G418耐性コロニーの出現率(遺伝子導入効率)を算出した。
図8に結果を示す。図中、横軸はビーズに固定化された機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率をそれぞれ示す。H−271とC−274の混合物を固定化したビーズを使用した場合には、H−271のみを固定化されたビーズ、同一分子中にレトロウイルス結合部位と細胞結合部位の両方を有するCH−271やCH−296がそれぞれ固定化されたビーズを用いた場合に比べても高い遺伝子導入効率が得られた。
実施例4
(1)FGF、C−FGF・Aを用いた遺伝子導入
FGF(ベクトン・ディッキンソン社製)、および配列表の配列番号4で表されるポリペプチド(C−FGF・A)のレトロウイルス感染に対する影響をNIH/3T3細胞コロニー形成アッセイによって調べた。すなわち、実施例2−(9)に記載の方法により132pmol/cm2(2.25μg/cm2)のFGF、および133pmol/cm2(6.3μg/cm2)のC−FGF・Aのそれぞれを用いて固定化を行ったプレート、およびBSAを固定化した対照プレートのそれぞれに1000cfuのPM5neoウイルスを含む2mlのウイルス上清液を加えて37℃、30分間プレインキュベーションした後、PBSを用いてプレートを徹底的に洗浄した。このプレートに2000個のNIH/3T3細胞を含む2mlのDMEM培地を加えて37℃、24時間インキュベーションし、その後0.75mg/mlのG418を含む選択培地中で10日間増殖させ、それに続いてコロニーを染色し、計数した。図9に得られた結果を示す。図中、横軸はプレートに固定化された機能性物質、縦軸は出現したG418耐性コロニー数をそれぞれ示す。
図9に示されるように、対照として使用したBSA固定化プレートではコロニーが出現しなかったのに対し、FGF、およびC−FGF・Aを固定化したプレートを用いた場合にはG418耐性コロニーの出現が確認された。この結果よりFGF、C−FGF・Aがレトロウイルス結合部位を有していること、および、フィブロネクチンの細胞結合部位ポリペプチドが付加されたC−FGF・Aは遺伝子導入においてFGFより優れた効果を有することが示された。
(2)プレートへの固定化に使用したC−FGF・A濃度と遺伝子導入効率との関係
種々の濃度のC−FGF・Aで固定化を行ったプレートでの遺伝子導入効率の比較を行った。すなわち実施例2−(9)に記載の方法に従い、0.521pmol/cm2(0.0247μg/cm2)〜5.21pmol/cm2(0.247μg/cm2)のC−FGF・Aを用いて固定化を行ったプレート、およびBSA固定化プレート(対照プレート)を用い、実施例4−(1)と同様の操作でレトロウイルスの感染を行った。ウイルス感染処理後、非付着細胞はデカンテーションによって、またプレートに付着した細胞はトリプシン処理によってプレートから剥がすことによってそれぞれ採取し、両者を合わせた。得られた細胞懸濁液を2等分して一方をDMEM、他方を終濃度0.75mg/mlのG418を含むDMEMとともに37℃で10日間培養した後、出現したコロニー数を数え、G418を含まない培地で得られたコロニー数に対するG418耐性コロニー数の割合を遺伝子導入効率とした。
得られた結果を図10に示す。図中、横軸はプレートの固定化操作に使用されたC−FGF・Aの濃度、縦軸は遺伝子導入効率をそれぞれ示す。なお、対照プレートでの実験結果はポリペプチド濃度0μmol/cm2としてプロットした。図10に示されるように、固定化に使用したC−FGF・Aの濃度依存的に遺伝子導入効率の上昇が見られた。
(3)HL−60細胞への遺伝子導入
浮遊細胞であるHL−60細胞(ATCC CCL−240)へのレトロウイルスの感染に関して、各種のポリペプチドの存在の効果を以下に示す操作によって調べた。すなわち、100pmol/cm2のC−FGF・A(4.8μg/cm2)、およびC−FGF−CS1(5.1μg/cm2)を用いて実施例2−(9)に記載の方法で固定化を行ったプレート、およびBSAを固定化した対照プレートのそれぞれに1×104cfu/のTKNEOウイルス、2000個のHL−60細胞を含む2mlのRPMI培地(10% FCS、50単位/mlのペニシリンおよび50μg/mlのストレプトマイシンを添加して使用)を加えて37℃で24時間インキュベーションした。インキュベーション終了後、非付着細胞はデカンテーションによって、またプレートに付着した細胞はピペッティングによってそれぞれ採取し、これらを合わせた。得られた細胞懸濁液のうちの1/2づつをCH−296固定化プレートに移して24時間インキュベートした後、培地を終濃度0.75mg/mlのG418を含む上記のRPMI培地に交換し、37℃で12日間培養し、出現したコロニー数を数えた。各ポリペプチドを使用して得られたG418耐性コロニー数を図11に示す。図中、横軸はプレートに固定化された機能性物質、縦軸は出現したG418耐性コロニー数をそれぞれ示す。
図11に示されるように、BSA固定化プレートに比較してC−FGF・AおよびC−FGF−CS1を固定化したプレートではG418耐性コロニー数が著しく上昇しており、これらのポリペプチドがHL−60細胞へのレトロウイルスの感染を促進していることが示された。
(4)マウス骨髄細胞への遺伝子導入
骨髄細胞へのレトロウイルス感染に対するFGF、C−FGF・AおよびC−FGF−CS1の効果を調べるため、以下に示す実験を行った。
6〜8週齢のマウス(C3H/HeJ)に150mg/Kgの5−フルオロウラシル(5−FU、アムレスコ社製)を腹腔内投与し、その2日後に大腿骨および脛骨を摘出して骨髄を採取した。得られた骨髄をフィコール−ハイパク(密度 1.0875g/ml、ファルマシア社製)を用いた密度勾配遠心分離に供し、低密度単核細胞画分を調製してこれをマウス骨髄細胞とした。
マウス骨髄細胞はルスキー(Luskey)等の方法(Blood、第80巻、第396〜402頁、1992年)に従い、レトロウイルス感染前に予備刺激を行った。すなわち、20% FCS、100単位/ml 組換えヒトインターロイキン−6(rhIL−6、アムジェン社製)、100ng/ml 組換えマウス幹細胞因子(rmSCF、アムジェン社製)、50単位/mlのペニシリンおよび50μg/mlのストレプトマイシンを含有するα−MEM(ギブコ社製)中に1×106cells/mlの細胞密度で上記のマウス骨髄細胞を添加し、5% CO中、37℃で48時間インキュベートした。予備刺激した細胞は容器に付着したものを含め、ピペットを用いて吸引、採集した。
実施例2−(9)に記載の方法に従って236μmol/cm2(4μg/cm2)のFGF、169pmol/cm2(8μg/cm2)のC−FGF・A、あるいは159μmol/cm2(8μg/cm2)のC−FGF−CS1を用いて固定化を行ったプレート、およびBSA固定化プレート(対照プレート)に1×106個の予備刺激した細胞と1×104cfuのPM5neoウイルスとを含む上記の予備刺激に用いられた培地 2mlを添加して37℃でインキュベートした。2時間後に同量のウイルスを含む同様の培地(2ml)を新たにプレートに追加し、さらに22時間インキュベートを続けた。インキュベート終了後、非接着細胞はデカンテーションによって、またプレートに接着した細胞は細胞解離緩衝液(CDB、酵素を含まないもの、ギブコ社製)を使用してそれぞれ採集し、これらを合わせて同緩衝液で2回洗浄した後、細胞数を計数した。採集した細胞はHPP−CFC(High Proliferative Potential-Colony Forming Cells、高増殖能コロニー形成細胞)アッセイに供した。
HPP−CFCアッセイはブラッドレー(Bradley)等の方法(Aust. J. Exp. Biol. Med. Sci.、第44巻、第287〜293頁、1966年)に従って行った。培地には1%/0.66%重層軟寒天培地を使用し、終濃度1.5mg/mlのG418を含むもの、および含まないものの2通りを用いた。1ウエルあたりに1×104個の感染細胞を添加し、10% CO中、37℃で13日間インキュベートした。インキュベーション終了後、出現したコロニーを倒立顕微鏡で観察し、HPP−CFC由来の高密度コロニー(径0.5mm以上)を計数してG418耐性コロニーの出現率(遺伝子導入効率)を算出した。得られた結果を図12に示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率を示す。
図12に示されるように、対照として使用したBSA固定化プレートではG418耐性コロニーは出現していないのに対し、上記の各ポリペプチドを固定化したプレートを使用した場合にはG418耐性コロニーが得られている。また、遺伝子導入効率はFGF、C−FGF・A、C−FGF−CS1の順に高くなっており、細胞への結合活性を持つフィブロネクチン由来の細胞結合部位ポリペプチド、およびCS−1ポリペプチド部分の存在が骨髄細胞へのレトロウイルスの感染効率を高めた。
(5)プレートの固定化に使用したC277−ColV濃度と遺伝子導入効率との関係
種々の濃度のC277−ColVを用いて固定化を行ったプレートでの遺伝子導入効率の比較を以下に示す操作により行った。0.1pmol/cm2(0.1μg/cm2)〜416pmol/cm2(20μg/cm2)のC277−ColVを用い、実施例2−(9)に記載の方法によってプレートへの固定化を行った。これらのプレートのそれぞれに1000cfuのPM5neoウイルスを含む2mlのウイルス上清液を加えて37℃、30分間プレインキュベーションした後、PBSを用いてプレートを徹底的に洗浄した。このプレートに2000個のNIH/3T3細胞を含む2mlのDMEM培地を加えて37℃、24時間インキュベーションした後、非付着細胞はデカンテーションによって、またプレートに付着した細胞はトリプシン処理の後にプレートから剥がすことによってそれぞれ採取し、これらを合わせた。得られた細胞懸濁液を二分し、一方にはDMEM、もう一方には終濃度0.75mg/mlのG418を含むDMEMを加えて37℃で10日間培養し、出現したコロニー数を数えた。G418を含まない培地で得られたコロニー数に対するG418耐性コロニー数の割合を遺伝子導入効率とし、その結果を図13に示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率を示す。
図13に示されるようにC277−ColVを固定化したプレートを用いた場合、固定化に使用したC277−ColVの濃度依存的に遺伝子導入効率が上昇した。
(6)ポリリジンを用いた遺伝子導入
ポリリジン[(Lys)n ]とレトロウイルスとの結合を以下に示す操作により調べた。ポリリジンとしてはポリ−L−リジン臭化水素酸塩(分子量5万〜10万、和光純薬社製)を使用した。まず、133pmol/cm2(10μg/cm2)のPBS溶液としたポリリジンを用い、実施例2−(9)に記載の方法によってプレートへの固定化を行った。このプレート、およびBSAを固定化した対照プレートのそれぞれについて実施例4−(2)に記載の方法で遺伝子導入効率を評価した。その結果を図14に示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率を示す。
図14に示されるようにBSAを用いた対照プレートではコロニーが見られなかったのに対し、ポリリジンを固定化したプレートではG418耐性コロニーの出現が確認された。このことはレトロウイルスがプレートに固定化されたポリリジンに結合するために、洗浄後のプレート上にレトロウイルスが残存していることを示している。
実施例5
(1)ポリペプチドの重合体を用いた遺伝子導入
ポリペプチドの重合体を用いた遺伝子導入は、各ポリペプチドをプレート上に固定しない状態で使用し、実施した。実施例2−(9)に記載の方法であらかじめBSAを固定化しておいたプレートに1000pfuのPM5neoウイルス、2000個のNIH/3T3細胞、および終濃度0.63nmol/mlの各ポリペプチド(H−271、CH−271、H2−547、CH2−826)を含む2mlのDMEM培地を加えて37℃、24時間インキュベートした後、非付着細胞はデカンテーションによって、またプレートに付着した細胞はトリプシン処理によってプレートから剥がすことによってそれぞれ採取し、両者を合わせた。また、対照としてポリペプチドを添加しないものについても同様の操作で導入実験を行った。得られた細胞懸濁液を2等分して一方をDMEM、他方を終濃度0.75mg/mlのG418を含むDMEMとともに37℃で10日間培養し、出現したコロニー数を数えた。G418を含まない培地で得られたコロニー数に対するG418耐性コロニー数の割合を遺伝子導入効率とし、その結果を図15に示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率を示す。
図15に示されるように、H2−547存在下での遺伝子導入効率はCH−271存在下に比べて著しく高く、またCH2−826でもCH−271と同等あるいはそれ以上の遺伝子導入効率が得られた。
さらに詳細な検討を行った。ポリペプチドとしてCH−271、CH−296、H2−547を使用し、それぞれプレートあたり0.126nmol(終濃度0.063nmol/ml)、1.26nmol(終濃度0.63nmol/ml)の2通りの量で用いた他は上記と同様に操作した。図16に得られた結果を示す。図中、横軸は使用した機能性物質とその量、縦軸は遺伝子導入効率を示す。
図16に示されるようにH2−547を用いた場合には、用いた2通りのポリペプチド量のどちらでもCH−271、CH−296に比べて有意に高い遺伝子導入効率が得られた。
(2)H2S−573を用いたマウス骨髄細胞への遺伝子導入
骨髄細胞へのレトロウイルス感染に対するH2S−573の効果を調べるため、実施例4−(4)に記載の方法でマウス骨髄細胞への遺伝子導入を実験を行った。
マウス骨髄細胞は上記実施例に記載の方法に従って調製し、予備刺激を行った。なお、レトロウイルス感染時のプレートにはH2S−573[160pmol/cm2(10μg/cm2)]を固定化したものの他、CH−296[132pmol/cm2(8.3μg/cm2)]を固定化したもの、および対照としてBSAを固定化したものを用いた。HPP−CFCアッセイにより得られた結果を図17に示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率を示す。
図17に示されるように、対照として使用したBSA固定化プレートではG418耐性の高密度コロニーの出現は見られない。CH−296固定化プレートでは約50%の遺伝子導入効率が得られているが、H2S−573固定化プレートを用いた場合にはこれよりも高い効率でG418耐性の高密度コロニーが得られた。
実施例6
(1)非固定の機能性物質を用いた遺伝子導入
ポリペプチドがプレート上に固定されない状態で共存する場合にレトロウイルスの感染効率に与える影響について以下のようにして調べた。すなわち、実施例2−(9)に記載の方法によりあらかじめBSAを固定化しておいたプレートに100cfuのPM5neoウイルス、2000個のNIH/3T3細胞、および終濃度10、40、250μg/ml(それぞれ0.158、0.632、3.950nmol/mlに相当)のCH−296を含む2mlのDMEM培地を加えて24時間インキュベーションした後、非付着細胞はデカンテーションによって、またプレートに付着した細胞はトリプシン処理の後にプレートから剥がすことによってそれぞれ採取し、両者を合わせた。得られた細胞懸濁液を10cm細胞培養用プレートに移して24時間インキュベートした後、培地を終濃度0.75mg/mlのG418を含むDMEMに交換してさらに10日間培養した。また、対照としてCH−296を添加しないもの、および32pmol/cm2(2μg/cm2)、127pmol/cm2(8μg/cm2)のCH−296を固定化したプレートを用いてこれにウイルス上清液と細胞を加えたものについて上記同様に操作した。こうして得られたG418耐性コロニーの数を数え、結果を表1にまとめた。
Figure 0004256271
表1に示されるように溶液中に細胞、ウイルス、CH−296が共存する場合にはCH−296非存在下に比べてG418耐性コロニー数が大幅に増加した。また、その数はCH−296を固定化したプレートを用いた場合と同等か、もしくはそれよりも多かった。なお、BSA固定化プレートに上記の各濃度のCH−296溶液を添加してしばらく放置した後にプレートを洗浄してウイルス感染実験に用いた場合には、上記のCH−296を添加しない場合と同程度のG418耐性コロニーしか得られないことから、BSA固定化プレートにはCH−296が結合しないことがわかる。従って上記のCH−296によるレトロウイルス感染促進効果はインキュベート中に溶液中のCH−296がプレートに結合してもたらされたものではないと考えられる。
(2)非固定の機能性物質を用いた遺伝子導入
ポリペプチドがプレート上に固定されない状態で共存する場合にレトロウイルスの感染効率に与える影響について以下のようにして調べた。すなわち、実施例2−(9)に記載の方法によりあらかじめBSAを固定化しておいたプレートに1000cfuのPM5neoウイルス、2000個のNIH/3T3細胞、および終濃度1.67nmol/mlのC−FGF・A、ColV、C277−ColVをそれぞれ含む2mlのDMEM培地を加えて37℃、24時間インキュベーションした後、非付着細胞はデカンテーションによって、またプレートに付着した細胞はトリプシン処理の後にプレートから剥がすことによってそれぞれ採取し、両者を合わせた。得られた細胞懸濁液を二分して一方をDMEM、もう一方を終濃度0.75mg/mlのG418を含むDMEMとともに37℃で10日間培養し、出現したコロニー数を数えた。G418を含まない培地で得られたコロニー数に対するG418耐性コロニー数の割合を遺伝子導入効率とし、その結果を図18に示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率を示す。
図18に示されるように、各ポリペプチドがウイルス感染時に共存する場合には高い遺伝子導入効率が得られており、これらのポリペプチドがプレート上に固定されない状態でもレトロウイルス感染の促進効果を有することが明らかとなった。
(3)非固定の機能性物質を用いた浮遊細胞への遺伝子導入
非固定のポリペプチドが浮遊細胞への遺伝子導入効率に与える影響について以下のようにして調べた。すなわち、実施例2−(9)に記載の方法により333pmol/cm2(10μg/cm2)のH−271を固定化したプレート、およびBSAを固定化したプレートのそれぞれに1×104cfu/のTKNEOウイルス、1×104個のTF−1細胞を含む2mlのRPMI1640培地[5ng/ml GM−CFS、50単位/ml ペニシリン、50μg/mlストレプトマイシンを含むもの]を加え、さらにBSAを固定化したプレートには終濃度50μg/ml(1.67nmol/ml)のH−271を加えて37℃で24時間インキュベーションした。インキュベーション終了後、非付着細胞はデカンテーションによって、またプレートに付着した細胞はトリプシン処理を行ってそれぞれ採取し、これらを合わせた。得られた細胞懸濁液のうちの1/5づつをCH−296を固定化したプレート2枚に移して24時間インキュベートした後、培地を一方は上記の培地、またもう一方は終濃度0.75mg/mlのG418を含む上記の培地に交換して37℃で8日間培養し、出現したコロニー数を数えた。G418の存在下、非存在下に出現したコロニー数よりG418耐性コロニーの出現率(遺伝子導入効率)を算出した。得られた結果を図19に示す。図中、横軸は使用した機能性物質とその使用形態、縦軸は遺伝子導入効率を示す。
図19に示されるように、非固定のH−271を使用した場合にはH−271を固定化したプレートよりも高い遺伝子導入効率が得られており、TF−1細胞への遺伝子導入にH−271を使用する際には、非固定の状態の方が好ましいことが示された。
(4)ポリペプチドによるレトロウイルス感染促進の機構の解明
上記実施例に示された、非固定のポリペプチドによる細胞へのレトロウイルス感染の促進が細胞とポリペプチドとの結合、およびポリペプチドとレトロウイルスとの結合を介して起こっていることを確かめるために以下に示すような実験を行った。まず実施例2−(9)に記載の方法で調製したBSA固定化プレートに1000個のNIH/3T3細胞を含む2mlのDMEMを加え、37℃で24時間生育させた。このプレートより培地を除き、それぞれ2mlの1.67nmol/mlのH−271、CH−271、C−FGF・Aおよび対照としてPBSを加えて37℃、2.5時間インキュベートした後、25mMヘペス(HEPES)を含むハンクス平衡塩類溶液(HBSS、Gibco社製)でプレートを洗浄した。次に1000cfuのPM5neoウイルスを含む2mlのウイルス上清液をプレートに加えて37℃、30分間インキュベートした後、PBSでプレートを洗浄した。このプレートに2mlのDMEMを加えて37℃、24時間インキュベートした後に非付着細胞はデカンテーションによって、またプレートに付着した細胞はトリプシン処理の後にプレートから剥がすことによってそれぞれ採取し、両者を合わせた。得られた細胞懸濁液を二分して一方をDMEM、もう一方を終濃度0.75mg/mlのG418を含むDMEMとともに37℃で10日間培養し、出現したコロニー数を数えた。G418を含まない培地で得られたコロニー数に対するG418耐性コロニー数の割合を遺伝子導入効率とし、その結果を図20に示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率を示す。
図20に示されるようにプレート上の細胞を上記のポリペプチド溶液で処理した後にウイルス感染を行った場合には著しい感染効率の上昇が見られた。このことは細胞にポリペプチドが結合し、さらに細胞上のポリペプチドにレトロウイルスが結合することによってレトロウイルスの感染効率の上昇が起こることを示唆している。
さらに、添加するポリペプチドを、0.29nmol/mlのC−FGF・A、および0.79nmol/mlのCH−296に変更し、上記同様の実験を行った。図21にその結果を示す。図中、横軸は使用した機能性物質、縦軸は遺伝子導入効率を示す。図21に示されるようにC−FGF・A、およびCH−296を添加した場合には遺伝子導入効率の上昇が見られており、C−FGF・Aについて上記の活性が確認されるとともに、CH−296も同じ機構でレトロウイルスの感染を促進する活性を有することが示された。
実施例7
(1)機能性物質を固定化したビーズを用いた遺伝子導入
機能性物質を固定化したビーズを用いてレトロウイルス感染効率を上げることが可能かどうかを以下に示す操作によって調べた。ビーズには粒子径1.14μmのポリスチレンビーズ(ポリビーズ ポリスチレン ミクロスフェア、ポリサイエンス社製)を用いた。上記ビーズの2.5%懸濁液20μlにエタノール80μl、および40μg/mlのCH−296溶液 2mlを加えて4℃で一夜静置した後、BSAおよびPBSを加えて4mlの1%BSA/PBS懸濁液とした。この懸濁液より遠心分離によって回収したビーズを再度5mlの1%BSA/PBSに懸濁し、室温で1時間静置してCH−296固定化ビーズの懸濁液を得た。なお対照としてCH−296溶液のかわりに2%BSAを使用して固定化操作を行ったビーズも同様に調製した。
上記のビーズ懸濁液のうち1/10量(0.5ml)をとり、これより遠心分離によってビーズを回収した後、これに1000cfuのPM5neoウイルスを含むDMEMを加えて37℃、30分間インキュベートした。ビーズを1%BSA/PBSで2回洗浄後、2mlのDMEMに懸濁して1mlをプレートに移し、3×105個のNIH/3T3細胞を含む1mlのDMEMを加え、COインキュベーター中、37℃で24時間インキュベートした。その後、培地を終濃度0.75mg/mlのG418を含むDMEMに交換し、さらに10日間培養し、出現したコロニーを染色、計数した。表2にその結果を示す。
表2に示されるようにCH−296を固定化したビーズを使用した場合には264個のG418耐性コロニーが出現したのに対し、対照として用いたBSA固定化ビーズではまったく耐性コロニーは得られなかった。このことはCH−296をビーズ上に固定化した場合でもプレートの場合同様にレトロウイルスの感染効率を上げる効果を持つことを示している。
Figure 0004256271
(2)機能性物質を固定化したビーズを用いたマウス骨髄細胞への遺伝子導入
機能性物質を固定化したビーズを用いてマウス骨髄細胞へのレトロウイルス感染効率を上げることが可能かどうかを以下に示す操作によって調べた。
マウス骨髄細胞は実施例4−(4)に記載の方法に従って調製し、予備刺激を行った。
実施例2−(9)に記載の方法に従ってBSAを固定化したプレート、これに実施例7−(1)に記載の方法で調製したCH−296固定化ビーズのうち1/10量を添加したもののそれぞれに1×106個の予備刺激した骨髄細胞と1×104cfuのPM5neoウイルスとを含む上記の予備刺激に用いられた培地 2mlを添加して37℃でインキュベートした。2時間後に同量のウイルスを含む同様の培地(2ml)を新たにプレートに追加し、さらに22時間インキュベートを続けた。インキュベート終了後、非接着細胞はデカンテーションによって、またプレートに接着した細胞は細胞解離緩衝液(CDB、酵素を含まない、ギブコ社製)を使用してそれぞれ採集し、これらを合わせて同緩衝液で2回洗浄した後、細胞数を計数した。採集した細胞は実施例4−(4)に記載の方法に従いHPP−CFCアッセイに供した。
結果を図22に示す。図中、横軸は使用された機能性物質とその使用形態、縦軸は遺伝子導入効率を示す。この結果より、CH−296固定化ビーズを用いた場合でもマウス骨髄細胞へのレトロウイルス感染効率を上げることが可能であることがわかった。
実施例8
(1)H−271、およびCH−271を用いた遺伝子導入
H−271のレトロウイルス感染に対する影響を、H−271、およびレトロウイルス感染の促進を示すことが知られているCH−271を固定化したプレート中でウイルス上清液をプレインキュベーションした後、プレートを徹底的に洗浄し、そこに残存するウイルスの量をNIH/3T3細胞コロニー形成アッセイで測定し、両者の結果を比較することにより評価した。すなわち、実施例2−(9)記載の方法により種々の濃度のH−271[67pmol/cm2(2μg/cm2)〜333pmol/cm2(10μg/cm2)]、およびCH−271[67pmol/cm2(4μg/cm2)〜333pmol/cm2(20μg/cm2)]を用いて固定化操作を行ったプレートのそれぞれに1000cfuのPM5neoウイルスを含む2mlのウイルス上清液を加えて37℃、30分間プレインキュベーションした後、PBSを用いてプレートを徹底的に洗浄した。このプレートに2000個のNIH/3T3細胞を含む2mlのDMEM培地を加えて37℃、24時間インキュベーションし、その後0.75mg/mlのG418を含む選択培地中で10日間増殖させ、それに続いてコロニーを染色し、計数した。その結果を図23に示す。図23は機能性物質と遺伝子導入効率の関係を示す図であり、横軸はポリペプチドの使用量、縦軸はG418耐性コロニー数を示す。
図23に示されるように、CH−271を用いた場合には固定化操作に用いたポリペプチド濃度にかかわらずほぼ同程度のG418耐性コロニーが出現した。これに対し、H−271では固定化の際のポリペプチド濃度を上げることにより濃度依存的に出現コロニー数が増加しており、333pmol/cm2で固定化を行ったものではCH−271と同程度のG418耐性コロニーが得られた。このことは十分量のH−271を用いてプレートの固定化を行うことにより、CH−271と実質上同等のウイルス感染効率が得られることを示している。
(2)C−FGF・Aを用いた遺伝子導入
C−FGF・Aポリペプチドのレトロウイルス感染に対する影響をNIH/3T3細胞コロニー形成アッセイによって調べた。すなわち、実施例2−(9)に記載の方法により127pmol/cm2(6μg/cm2)のC−FGF・Aで固定化を行ったプレート、127pmol/cm2(7.6μg/cm2)のCH−271で固定化を行ったプレート、127pmol/cm2(8μg/cm2)のCH−296で固定化を行ったプレート、およびBSAを固定化した対照プレートを使用した他は実施例8−(1)と全く同じ方法で評価した。その結果を図24に示す。図24は機能性物質と遺伝子導入効率の関係を示す図であり、横軸に使用した機能性物質およびBSAを、縦軸にG418耐性コロニー数を示す。
図24に示されるように、対照として使用したBSAを固定化したプレートではコロニーが出現しなかった。一方、C−FGF・Aを固定化したプレートを用いた場合にはG418耐性コロニーの出現が確認され、その数はCH−271、およびCH−296を用いたものと同程度であった。このことはFGF分子上にCH−271、およびCH−296と実質的に同等の機能を有するレトロウイルス結合部位が存在していることを示している。
(3)C−FGF−CS1を用いた遺伝子導入
C−FGF−CS1ポリペプチドのレトロウイルス感染に対する影響を以下に示す操作によって調べた。すなわち、それぞれ133pmol/cm2のC−FGF−CS1(6.7μg/cm2)、C−FGF・A(6.3μg/cm2)、CH−271(8μg/cm2)、CH−296(8.4μg/cm2)を用いて実施例2−(9)に記載の方法でプレートの固定化を行い、これを用いて実施例8−(1)同様のNIH/3T3細胞コロニー形成アッセイを行った。その結果を図25に示す。図25は機能性物質と遺伝子導入効率の関係を示す図であり、横軸に使用した機能性物質を、縦軸にG418耐性コロニー数を示す。
図25に示されるように、これら4種のポリペプチドを固定化したプレートではほぼ同数のG418耐性コロニーが出現しており、C−FGF−CS1分子も他のポリペプチドと実質的に同等のレトロウイルス結合活性を有していることを示している。
(4)C277−ColVを用いた遺伝子導入
C277−ColVポリペプチドのレトロウイルス感染に対する影響を、124pmol/cm2(6.4μg/cm2)のC277−ColVで固定化を行ったプレート、およびBSAを固定化した対照プレートを用いて実施例8−(1)と同様の方法で評価した。その結果を図26に示す。図26は機能性物質と遺伝子導入効率の関係を示す図であり、横軸に使用した機能性物質およびBSAを、縦軸にG418耐性コロニー数を示す。
図26に示されるようにBSAを用いた対照プレートではコロニーが見られなかったのに対し、C277−ColVを固定化したプレートではG418耐性コロニーの出現が確認された。このことはColV分子上にレトロウイルス結合部位が存在しているために洗浄後のプレート上にレトロウイルスが残存していることを示している。
以上記載したごとく、本発明により、レトロウイルスを用いて標的細胞に効率よく遺伝子導入する方法が提供される。目的とする標的細胞に適した細胞結合性の物質を選択して本発明の方法を実施することにより、特殊なレトロウイルスベクターを必要とせず、簡便かつ高効率で遺伝子導入された標的細胞を取得することができる。遺伝子導入された細胞の脊椎動物への移植により、形質転換動物が簡便に作製され、本発明の方法は医療的分野、細胞工学的分野、遺伝子工学的分野、発生工学的分野等において有用である。また本発明の機能性物質、およびその混合物を含有する培地、標的細胞へのレトロウイルス介在遺伝子導入を行うためのキットも提供され、これらの培地、キットを用いることにより、レトロウイルスの配置、標的細胞への外来遺伝子の導入などを簡便に効率よく行うことができる。
線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子を含有する機能性物質、および線維芽細胞増殖因子とフィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチドの混合物による標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子とフィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチドの混合物、およびフィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチドによる標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 コラーゲンフラグメント、フィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチドとコラーゲンフラグメントの混合物、コラーゲンフラグメントを含有する機能性物質、およびフィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチドによる標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 フィブロネクチンフラグメント、およびフィブロネクチンフラグメントとフィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチドの混合物による標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 フィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチド、ポリリジン、ポリリジンとフィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチドの混合物、フィブロネクチンフラグメント、およびフィブロネクチンフラグメントとフィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチドの混合物による標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 エリスロポエチン誘導体、ポリリジン、およびエリスロポエチン誘導体とポリリジンの混合物による標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 エリスロポエチン誘導体、フィブロネクチンフラグメント重合体、およびエリスロポエチン誘導体とフィブロネクチンフラグメント重合体の混合物による標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 フィブロネクチンフラグメント固定化ビーズ、フィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチド固定化ビーズ、およびフィブロネクチンフラグメントとフィブロネクチンの細胞接着部位ポリペプチドの混合物を固定化したビーズによる標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 線維芽細胞増殖因子、および線維芽細胞増殖因子を含有する機能性物質による標的細胞への遺伝子導入を示すグラフである。 線維芽細胞増殖因子を含有する機能性物質の使用量と、標的細胞への遺伝子導入の関係を示すグラフである。 線維芽細胞増殖因子を含有する機能性物質による標的細胞への遺伝子導入を示すグラフである。 線維芽細胞増殖因子を含有する機能性物質による標的細胞への遺伝子導入効率を示すもう一つのグラフである。 コラーゲンフラグメントを含有する機能性物質の使用量と、標的細胞への遺伝子導入の関係を示すグラフである。 ポリリジンによる標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 フィブロネクチンフラグメントおよびフィブロネクチンフラグメント重合体による標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 フィブロネクチンフラグメントおよびフィブロネクチンフラグメント重合体による標的細胞への遺伝子導入効率を示すもうひとつのグラフである。 フィブロネクチンフラグメントおよびフィブロネクチンフラグメント重合体による標的細胞への遺伝子導入効率を示すさらにもうひとつのグラフである。 線維芽細胞増殖因子を含有する機能性物質、コラーゲンフラグメント、およびコラーゲンフラグメントを含有する機能性物質による標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 フィブロネクチンフラグメントによる標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 フィブロネクチンフラグメントおよび線維芽細胞増殖因子を含有する機能性物質による標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 線維芽細胞増殖因子を含有する機能性物質およびフィブロネクチンフラグメントによる標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 フィブロネクチンフラグメント固定化ビーズによる標的細胞への遺伝子導入効率を示すグラフである。 フィブロネクチンフラグメント使用量と、標的細胞への遺伝子導入の関係を示すグラフである。 線維芽細胞増殖因子を含有する機能性物質およびフィブロネクチンフラグメントによる標的細胞への遺伝子導入を示すグラフである。 線維芽細胞増殖因子を含有する機能性物質およびフィブロネクチンフラグメントによる標的細胞への遺伝子導入を示すもう1つのグラフである。 コラーゲンフラグメントを含有する機能性物質による標的細胞への遺伝子導入を示すグラフである。
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Claims (6)

  1. 配列表の配列番号13で表されるポリペプチド、または該配列に1または数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加がなされたアミノ酸配列を有し、かつレトロウイルス結合活性を有するポリペプチド。
  2. 請求項1記載のポリペプチドをコードする遺伝子。
  3. 配列表の配列番号17で表される請求項2記載の遺伝子。
  4. 配列表の配列番号30で表されるポリペプチド、または該配列に1または数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加がなされたアミノ酸配列を有し、かつレトロウイルス結合活性を有するポリペプチド。
  5. 請求項4記載のポリペプチドをコードする遺伝子。
  6. 配列表の配列番号33で表される請求項5記載の遺伝子。
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