JP4225082B2 - 延性および耐疲労特性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、高張力溶融亜鉛めっき鋼板、とくに連続溶融亜鉛めっきラインで製造される高張力溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境の保全という観点から、自動車の燃費改善が要求されて、さらに衝突時に乗員を保護するため、自動車車体の安全性の向上も併せて要求されている。このようなことから、自動車車体の軽量化および自動車車体の強化が積極的に進められている。自動車車体の軽量化と強化を同時に満足させるためには、部品素材を高強度化することが有効であるところから、自動車部品に高張力鋼板が積極的に使用されている。
【0003】
そして、鋼板を素材とする自動車部品の多くは、プレス加工によって成形されるため、自動車部品用鋼板には優れたプレス成形性が要求される。優れたプレス成形性を実現するには、高い延性を確保することが肝要であり、従って自動車部品用高張力鋼板には延性の高いことが強く求められている。
【0004】
延性に優れる高張力鋼板としては、フェライトおよび低温変態相の複合組織からなる組織強化型鋼板が提案されている。この組織強化型鋼板としては、フェライトとマルテンサイトの複合組織を有する二相組織鋼板が代表的である。また、最近では、残留オーステナイトに起因する変態誘起塑性を利用した高延性鋼板も実用化の段階に至っている。
【0005】
一方、自動車部品には、適用部位によって高い耐食性も要求されることがある。このような部位に適用される部品の素材には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を典型例とする溶融亜鉛めっき鋼板が好適である。
従って、自動車車体の軽量化および強化をより一層推進するためには、耐食性に優れ、しかも延性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板が、素材として必要不可欠である。
【0006】
ここで、溶融亜鉛めっき鋼板の多くは、連続溶融亜鉛めっきラインで製造されている。この連続溶融亜鉛めっきラインは、焼鈍設備とめっき設備とを連続化して設置していることが多く、焼鈍後にめっき処理を行うために、焼鈍後の冷却がめっき処理にて中断されている。このため、工程全体での平均冷却速度を大きくすることが困難となっている。
【0007】
すなわち、連続溶融亜鉛めっきラインで製造される高張力溶融亜鉛めっき鋼板では、一般に冷却速度の大きい冷却条件下で生成するマルテンサイトや残留オーステナイトをめっき処理後の鋼板中に含有させることが難しいのである。
【0008】
連続溶融亜鉛めっきラインにおいて、組織強化型高張力溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法としては、CrやMoといった焼き入れ性を高める合金元素を多量に添加し、マルテンサイト等の低温変態相の生成を容易にすることが知られている。しかしながら、合金元素の多量添加は、製造コストの上昇を招くという問題がある。
【0009】
一方、特許文献1には、C:0.05〜0.20質量%、Mn:1.0 〜3.0 質量%およびSi:0.3 〜1.8 質量%を含有する鋼板に、一次熱処理後Ms点以下まで急冷する一次工程と、二次熱処理後急冷する二次工程とを施した後、溶融亜鉛めっき処理を施し急冷する三次工程により、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイトおよびフェライトと低温変態相とからなる複合組織とし、延性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板を製造する、方法が提案されている。しかしながら、特許文献1に記載された技術では、延性に優れるものを得ることはできるが、得られる鋼板は耐疲労特性の点で問題を残していた。
【0010】
【特許文献1】
特開2001−3150号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記した従来技術の問題を解決し、自動車部品用素材として十分な延性を有し、かつ耐疲労特性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について提案することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記した課題を解決し、連続溶融亜鉛めっきラインを用いて高延性高張力溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための手法について、鋼板の組成およびミクロ組織の観点から鋭意研究を重ねた。その結果、まず素材となる熱延板の化学成分および組織を規制し、冷間圧延および熱処理、さらに溶融亜鉛めっき処理後に得られる高張力溶融亜鉛めっき鋼板を、焼き戻しマルテンサイトおよび残留オーステナイトを含み、残部がフェライトと低温変態相とからなる複合組織とすることにより、鋼板に優れた延性および耐疲労特性を発現せしめることを、知見するに到った。
【0013】
また、鋼板の組織を焼き戻しマルテンサイトおよび残留オーステナイトを含み、残部がフェライトと低温変態相とからなる複合組織は、化学成分および組織を調整した熱延板を素材として、まずラス状マルテンサイトを含む組織とし、さらに連続溶融亜鉛めっきラインにて所定の条件下で再加熱処理およびめっき処理を施せば得られることを知見した。
【0014】
さらに、最初にラス状マルテンサイトを含む組織とすることにより、その後の焼き戻し処理時に生成するオーステナイトを微細に分散させることができ、オーステナイト中へのCの濃化を容易にし、かつ微細化によるオーステナイトの安定化により、得られる残留γ量が増加し、極めて延性および耐疲労特性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板とすることが可能であるという知見も得られた。
この発明は、上記した知見に基づいて成されたものである。
【0015】
すなわち、この発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1) C:0.05〜0.20質量%、Si:0.3 〜1.8 質量%およびMn:1.0 〜3.0 質量%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成と、フェライトの主相および第2相からなる複合組織とを有し、第2相はベイナイト:80 vol%以上を含み残部がマルテンサイト、残留オーステナイトおよびパーライトのいずれか1種または2種以上からなり、該第2相の圧延方向の平均長さに対する板厚方向の平均長さの比が0.7 以上である、熱延板を素材として、該熱延板を冷間圧延し、次いでAc1 変態点以上の温度域にて5s以上保持する、一次加熱処理を施した後、10℃/s以上の冷却速度でMs点以下の温度まで冷却し、さらにAc1 変態点〜一次加熱温度の温度域にて5〜120 秒間保持する二次加熱処理を施した後、5℃/s以上の冷却速度で500 ℃以下の温度まで冷却し、その後溶融亜鉛めっき処理を施してから、5℃/s以上の冷却速度で300 ℃まで冷却することを特徴とする延性および耐疲労特性に優れた高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0016】
(2)C:0.05〜0.20質量%、Si:0.3 〜1.8 質量%およびMn:1.0 〜3.0 質量%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する、鋼素材を、加熱後に熱間圧延を施し、引き続き10℃/s以上の冷却速度にて冷却したのち、300 ℃以上550 ℃以下の温度にて巻取り、その後冷間圧延を施し、次いでAc1 変態点以上の温度域にて5s以上保持する、一次加熱処理を施した後、10℃/s以上の冷却速度でMs点以下の温度まで冷却し、さらにAc1 変態点〜一次加熱温度の温度域にて5〜120 秒間保持する二次加熱処理を施した後、5℃/s以上の冷却速度で500 ℃以下の温度まで冷却し、その後溶融亜鉛めっき処理を施してから、5℃/s以上の冷却速度で300 ℃まで冷却することを特徴とする延性および耐疲労特性に優れた高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0017】
(3) 上記(1) または(2) において、溶融亜鉛めっき処理にて溶融亜鉛めっき被膜を形成した後、400 ℃〜550 ℃の温度域まで再加熱して溶融亜鉛めっき被膜を合金化することを特徴とする延性および耐疲労特性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0018】
(4) 上記(1) 、(2) または(3) において、鋼素材は、さらに下記(a)〜(e)のいずれか1または2以上から選ばれた成分を含有する、組成を有することを特徴とする延性および耐疲労特性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
記
(a)Al:0.2 〜1.5 質量%
(b)CrおよびMoのいずれか1種または2種を合計で0.05〜1.0 質量%
(c)B:0.003 質量%以下
(d)Ti、NbおよびVのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で0.01〜0.3 質量%
(e)CaおよびREM のいずれか1種または2種を合計で0.01質量%以下
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の製造方法について、各工程毎に順に説明する。
まず、素材となる鋼板の成分組成の限定理由について説明する。
C:0.05〜0.20質量%
Cは、鋼板の高強度化に必須の元素であり、さらに残留オーステナイトや低温変態相の生成に効果があり、不可欠の元素である。しかし、C含有量が0.05質量%未満では所望の高強度化が得られず、一方0.20質量%を越えると、溶接性の劣化を招くため、Cは0.05〜0.20質量%の範囲に限定した。
【0020】
Mn:1.0 〜3.0 質量%
Mnは、固溶強化により鋼を強化するとともに、鋼の焼き入れ性を向上し、さらに残留オーステナイトや低温変態相の生成を促進する作用を有する。このような作用は、Mn含有量が1.0 質量%以上で認められる。一方、3.0 質量%を越えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなりコストの上昇を招く。従って、Mnは1.0 〜3.0 質量%の範囲に限定した。
【0021】
Si:0.3 〜1.8 質量%
Siは、固溶強化により鋼を強化するとともに、炭化物の生成を抑え残留オーステナイト相の生成を促進する作用を有する。このような作用は、Si含有量が0.3質量%以上で認められる。一方、1.8 質量%を越えて含有すると、めっき性が顕著に劣化する。従って、Siは0.3 〜1.8 質量%の範囲に限定した。
【0022】
さらに、この発明では、必要に応じて、上記した化学成分に加え、下記(a)〜(e)のいずれか1または2以上から選ばれる成分をさらに添加することが可能である。
(a):Al:0.2 〜1.5 質量%
Alは、Siと同様に炭化物の生成を抑え、残留オーステナイト相の生成を促進する作用を有する。このような作用は、Al含有量が0.2 質量%以上で認められる。一方、1.5 質量%を越えて含有すると、鋼中の介在物の量が増加し延性を低下させる。従って、Alの含有量は0.2 〜1.5 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0023】
(b):CrおよびMoのいずれか1種または2種を合計で0.05〜1.0 質量%
CrおよびMoは、鋼の焼き入れ性を向上し、低温変態相の生成を促進する作用を有する元素である。このような作用は、CrおよびMoのうちの1種または2種を合計で0.05質量%以上含有して認められる。一方、単独または合計で1.0 質量%を越えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果を期待できず、経済的に不利となる。従って、CrおよびMoのいずれか1種または2種を合計で0.05〜1.0 質量%の範囲に限定するのが望ましい。
【0024】
(c):B:0.003 質量%以下
Bは、鋼の焼き入れ性を向上する作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。しかし、B含有量が0.003 質量%を越えると効果が飽和するため、Bは0.003 質量%以下に限定するのが好ましい。より好ましくは、0.001 〜0.002 質量%の範囲で添加する。
【0025】
(d):Ti、NbおよびVのいずれか1種または2種以上を合計で0.01〜0.3 質量%
Ti、NbおよびVは、炭窒化物を形成し、鋼を析出強化により高強度化する作用を有しており、必要に応じて添加できる。このような作用は、Ti、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で0.01質量%以上で認められる。一方、単独または合計で0.3 質量%を越えて含有しても、過度に高強度化し、延性が低下する。このため、Ti、NbおよびVのうちの1種または2種以上の含有量は、0.01〜0.3 質量%の範囲に限定するのが好ましい。
【0026】
(e):CaおよびREM のいずれか1種または2種を合計で0.01質量%以下
CaおよびREM は、硫化物系介在物の形態を制御する作用を有し、これにより、鋼板の伸びフランジ性を向上させる効果を有する。このような効果はCaおよびREM のうちから選ばれた1種または2種の合計が0.01質量%を越えると飽和する。このため、CaおよびREM のいずれか1種または2種以上の含有量は0.01質量%以下に限定するのが望ましい。より好ましくは、0.001 〜0.005 質量%の範囲で添加する。
【0027】
なお、上記した化学成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。この不可避的不純物としては、P:0.05質量%以下およびS:0.02質量%以下が許容できる。
【0028】
次に、鋼板の組織について、詳しく説明する。
〔熱延板の組織〕
フェライトの主相および第2相からなる複合組織であり、第2相はベイナイト:80 vol%以上を含み残部がマルテンサイト、残留オーステナイトおよびパーライトのいずれか1種または2種以上からなる。
素材となる熱延板の組織における、第2相をベイナイトとすることにより、その後の冷間圧延で第2相の分断が起こり易くなり、最終的な組織の微細化による残留γの増加、それに伴う延性の向上に有効に働く。第2相中におけるベイナイトが80 vol%未満になってマルテンサイトが増加すると、冷間圧延時に第2相が分断されにくく、最終的に得られる第2相が粗大になり延性が低下する。また、パーライトが増加すると、一次加熱処理時にセメンタイトが再固溶せずに溶け残り、Cがセメンタイトとして消費されるため、残留γ量が減少し、延性が低下する。なお、主相とは、50 vol%以上含有される相のことをいう。
【0029】
第2相の平均長さに対する板厚方向の平均長さの比(以下、アスペクト比と示す)が0.7 以上
熱延板組織の第2相は、そのアスペクト比が0.7 より小さく、つまり伸展した形状になると、最終的に得られる第2相も元の第2相に沿った位置に列状に生成し、その結果疲労亀裂の伝播に不利となり、耐疲労特性が低下する。そこで、第2相のアスペクト比を0.7 以上とする。なお、アスペクト比の上限値については、特に規定しないが、第2相の圧延方向の平均長さが、板厚方向の平均長さよりも小さくなることは、実際には起こりずらいので、アスペクト比の上限は実質的に1.0 である。
【0030】
〔最終組織〕
この発明では、上記の成分組成並びに組織を有する熱延板を素材として、冷間圧延、熱処理そしてめっき処理を施して、所望の最終組織を有する溶融亜鉛めっき鋼板を製造するところに特徴がある。
この最終組織としては、焼き戻しマルテンサイト、残留オーステナイト、フェライトおよび低温変態相からなる複合組織とすることが肝要である。
この焼き戻しマルテンサイトは、焼き戻し前のラス状マルテンサイトの形態を引き継いだ、均一微細な構造を有する相である。焼き戻しマルテンサイトは、焼き戻しによって軟質化しており十分な塑性変形能を有するため、高張力鋼板の延性向上に有効な相である。
【0031】
この発明の製造方法に従って得られる溶融亜鉛めっき鋼板は、このような焼戻しマルテンサイト相を、20 vol%以上含有する必要がある。なぜなら、焼戻しマルテンサイト量が20 vol%未満では、顕著な延性向上効果が期待できない。
【0032】
さらに、残留オーステナイトは、加工時にマルテンサイトに歪誘起変態し、局所的に加えられた加工歪を広く分散させ、鋼板の延性を向上する作用を有する。この発明の製造方法に従って得られた鋼板では、このような残留オーステナイトを3 vol%以上含有する必要がある。すなわち、残留オーステナイト量が3 vol%未満では、顕著な延性の向上が期待できない。
【0033】
また、最終複合組織における、上記焼き戻しマルテンサイトと残留オーステナイト以外の相は、フェライトおよび低温変態相である。
フェライトは、炭化物を含まない軟質な相であり、高い変形能を有し、鋼板の延性を向上させる。このため、最終複合組織におけるフェライトは、30 vol%以上であることが好ましい。一方、この発明でいう低温変態相とは、焼き戻しされていないマルテンサイトあるいはベイナイトを指す。マルテンサイト、ベイナイトともに硬質相であり、鋼板強度を上昇させる。軟質相であるフェライトと硬質相である低温変態相とが、焼き戻しマルテンサイト、残留オーステナイトとともに複合組織を構成することにより、軟質相から硬質相まで混在する微細組織となって、鋼板の高延性化や低降伏比が実現する結果、鋼板の成形性が著しく向上する。
【0034】
なお、溶融亜鉛めっき層の目付量は、その使用目的に応じた耐食性要求等により適宜決定すれば良く、特に規定する必要はない。例えば、自動車の構造部品に使用される鋼板では、溶融亜鉛めっき層の厚さ(目付量)は30〜60g/m2とすることが好ましい。
【0035】
次に、上記の成分組成並びに組織を有する熱延板を素材として、上記最終組織を有する、溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法について、各工程毎に詳しく説明する。
まず、上記した成分組成を有する溶鋼を溶製し、連続鋳造等にてスラブ等に鋳造し、圧延用鋼素材とする。
次いで、この鋼素材を、この種鋼板の一般に従って加熱し、粗圧延してシートバーとし、さらに仕上圧延して所望の板厚を有する熱延板としたのち巻取る、熱間圧延を施す。この熱間圧延工程において、圧延後に10℃/s以上の冷却速度で冷却し、300 ℃以上550 ℃以下の温度で巻取ることによって、熱延板を上記した組織とすることができる。
【0036】
すなわち、この発明で対象とする、Mnなどの合金成分を高い比率で含む成分系では、鋳造時にこれら合金元素の偏析が起こる。そして、10℃/sより小さい冷却速度や550 ℃を越える巻取り温度になると、フェライトがこれら偏析部を避けて生成しやすくなるため、偏析部が第2相として残ることとなる。その結果、熱延板の第2相が伸展した形となり、最終的に得られる第2相も元の第2相に沿った位置に列状に生成し、その結果疲労亀裂が伝播し易くなり、耐疲労特性が低下する。また、巻取り温度が300 ℃よりも低いと、熱延板の第2相中のマルテンサイトが増加し、冷間圧延時に第2相が分断されにくく、最終的に得られる第2相が粗大になり延性が低下する。このため冷却速度を10℃/s以上、巻取り温度を300 ℃以上550 ℃以下の範囲に限定した。
【0037】
上記の熱間圧延後は、冷間圧延を施して、冷延鋼板とする。また、必要に応じて、酸洗あるいは焼鈍等を行うことができる。その後、鋼板に、一次熱処理後冷却しマルテンサイトを含有する組織とする、一次工程と、連続溶融亜鉛めっきラインにて二次加熱処理を施し、一次工程で形成されたマルテンサイトの焼き戻しと、残留オーステナイトおよび低温変態相の生成を図る、二次工程とを施し、しかるのち亜鉛めっき処理をする三次工程を施し、延性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板を得る。以下に、この3工程について、詳述する。
【0038】
〔一次工程〕
一次工程では、鋼板にAc1 変態点以上の温度域にて少なくとも5s以上保持する、一次加熱処理を施した後、Ms点以下の温度まで10℃/s以上の温度で急冷する。この一次工程により、鋼板中にラス状マルテンサイトが20 vol%以上生成される。すなわち、均一微細な焼き戻しマルテンサイトを得るためには、前組織としてラス状マルテンサイトを含む組織とすることが必要である。
【0039】
ここで、一次加熱処理の加熱保持温度、すなわち一次加熱温度がAc1 未満あるいは保持時間が5s未満では、加熱保持中に生成するオーステナイト量が少なく、冷却後に得られるラス状マルテンサイト量が不足する。なお、一次加熱温度が950 ℃を超えると結晶粒が粗大化しやすくなるため、一次加熱温度は950 ℃以下とすることが好ましい。さらに、一次加熱処理後の冷却速度が10℃/s未満では、冷却後の鋼板組織をラス状マルテンサイトを含む組織とすることができない。なお、一次加熱処理後の冷却速度の上限は、鋼板の形状を良好に保つためには100 ℃/s以下とすることが好ましい。また、保持時間は5s以上120 s以下とすることが好ましい。
【0040】
〔二次工程〕
二次工程では、一次工程により20 vol%以上のラス状マルテンサイトを生成させた鋼板に、さらにAc1 変態点〜一次加熱温度の温度域にて5〜120 s間保持する2次加熱処理を施した後、5℃/s以上の冷却速度で500 ℃以下の温度まで冷却する。この二次工程により、一次工程により生成したラス状マルテンサイトを焼き戻しマルテンサイトとするとともに、最終的に残留オーステナイトおよび低温変態相を生成させるための鋼板組織の一部再オーステナイト化を図る。
【0041】
ここで、二次加熱処理の加熱保持温度、すなわち二次加熱温度がAc1 変態点未満では、再オーステナイト化が起こらない。一方、二次加熱温度が一次加熱温度を超えると、一次工程で生成した微細な組織が粗大化し、伸びが低下することになる。
【0042】
また、二次加熱処理における加熱保持時間が5s未満では再オーステナイト化が不十分であるため、残留オーステナイトが得られない。また、120 sを越えると再オーステナイト化が進行し、必要量の焼き戻しマルテンサイトを得ることが困難となる。
【0043】
さらに、二次加熱処理後の冷却速度が5℃/s未満では、冷却速度が遅く二次加熱処理で生成したオーステナイトがフェライトやパーライト等に変態し、残留オーステナイトや低温変態相とならない。なお、二次加熱処理後の冷却速度は50℃/s以下とすることが、鋼板の形状を良好に保つために好ましい。
【0044】
ちなみに、この二次工程は、焼鈍設備と溶融亜鉛めっき設備を兼ね備えた連続溶融亜鉛めっきラインで行うのが好ましい。なぜなら、連続溶融亜鉛めっきラインで行うことにより、二次工程後直ちに三次工程に移行でき、生産性が向上するからである。
【0045】
〔三次工程〕
三次工程では、二次工程を施された鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、5℃/s以上の冷却速度で300 ℃まで冷却する。溶融亜鉛めっき処理は、通常、連続溶融亜鉛めっきラインで行われている処理条件で良く、特に限定する必要はない。しかし、極端な高温でのめっき処理は、必要な残留オーステナイト量の確保が困難となる。このため500 ℃以下でのめっき処理とするのが好ましい。また、めっき後の冷却速度が極端に小さいときは、残留オーステナイトの確保が困難となる。このため、めっき処理後から300 ℃までの温度範囲における冷却速度は5℃/s以上に限定することが好ましい。この冷却速度の上限は、50℃/sとすることが好ましい。なお、めっき処理後、必要に応じて目付量調整のためのワイピングを行っても良いことは言うまでもない。
【0046】
さらに、溶融亜鉛めっき処理後、合金化処理を施してもよい。合金化処理は、溶融亜鉛めっき処理後、450 〜550 ℃の温度域まで再加熱し溶融亜鉛めっき被膜の合金化を行う。合金化処理後は、5℃/s以上の冷却速度で300 ℃まで冷却することが好ましい。高温での合金化は、必要な残留オーステナイト量の確保が困難となり、鋼板の延性が低下する。このため、合金化温度の上限は550 ℃に限定するのが好ましい。また、合金化温度が450 ℃未満では、合金化の進行が遅く、生産性が低下する。また、合金化処理後の冷却速度が極端に低い場合には、必要な残留オーステナイトの確保が困難になる。このため、合金化処理後から300 ℃までの温度範囲における冷却速度を5℃/s以上に限定するのが好ましい。
【0047】
また、めっき処理後あるいは合金化処理後の鋼板に、形状矯正や表面粗さ等の調整のための調質圧延を加えてもよい。さらに、めっき後鋼板の表面に、樹脂あるいは油脂コーティング、各種塗装等の処理を施しても何ら不都合はない。
【0048】
なお、以上の説明では、焼鈍設備とめっき設備、さらには合金化処理設備とを連続した溶融亜鉛めっきラインにおいて、鋼板の二次加熱と溶融亜鉛めっき、さらには合金化処理を行うこととしたが、各工程を独立した設備あるいは工程において実施することも可能である。
【0049】
【実施例】
表1に示す成分組成の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋳片とした。得られた鋳片を、表2および表3に示す条件で板厚2.6mm まで熱間圧延し、その後酸洗したのち、冷間圧延により板厚1.0mm の鋼板を得た。ここで、熱間圧延後の組織は、50〜90 vol%のフェライト(主相)と第2相とからなっており、第2相中のベイナイトの体積率、第2相のアスペクト比は、光学顕微鏡による組織観察結果から、表4および表5に示す通りであることを確認した。
次いで、これら冷延鋼板に、連続焼鈍ラインにおいて、表2および表3に示す一次工程の条件に従って、加熱そして冷却を施した。さらに、一次工程を経た鋼板に、連続溶融亜鉛めっきラインにて、表2および表3に示す二次工程の条件に従って、加熱、冷却そして等温保持を行った後、引き続き溶融亜鉛めっき処理を施し、その後一部については溶融亜鉛めっき処理後に再加熱する溶融亜鉛めっき被膜の合金化処理を行ったのち冷却を行う、三次工程を施した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
ここで、溶融亜鉛めっき処理は、浴温475 ℃のめっき槽に鋼板を浸漬したのち、引き上げて片面あたりの目付量が50g/m2となるようにガスワイピング処理を施し、次いで10℃/sの加熱速度で500 ℃まで昇温し、合金化処理した。合金化処理時の保持時間は、めっき被膜中の鉄含有率が9〜11質量%となるように調整した。
【0054】
かくして得られた溶融亜鉛めっき鋼板について、機械的特性および組織について調査した結果を、表4および表5に示す。
なお、表4および表5における残留オーステナイト量は、鋼板より採取した試片を板厚方向の中心面まで研削し、板厚中心面での回折X線強度測定により求めた。入射X線にはMoKα線を使用し、フェライトの(200)(211)各面の回折X線強度と、オーステナイトの(200)(220)各面の回折X線強度とを求め、フェライト(マルテンサイトを含む)の(200)(211)の積分強度とオーステナイトの(200)(220)の積分強度との比を求め、これを残留オーステナイトの体積率とした。
【0055】
また、機械的特性は、鋼板から圧延直角方向に採取したJIS 5号引張試験片を用いて、降伏強さ(YP)、引張強さ(TS)、伸び(El)を測定した。
疲労試験は、周波数20Hzの両振り平面曲げ試験法により疲労限(FL)を測定した。
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】
【発明の効果】
この発明によれば、自動車部品用素材として十分な延性を有し、かつ耐疲労特性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
Claims (4)
- C:0.05〜0.20質量%、Si:0.3 〜1.8 質量%およびMn:1.0 〜3.0 質量%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成と、フェライトの主相および第2相からなる複合組織とを有し、第2相はベイナイト:80 vol%以上を含み残部がマルテンサイト、残留オーステナイトおよびパーライトのいずれか1種または2種以上からなり、該第2相の圧延方向の平均長さに対する板厚方向の平均長さの比が0.7 以上である、熱延板を素材として、該熱延板を冷間圧延し、次いでAc1 変態点以上の温度域にて5s以上保持する、一次加熱処理を施した後、10℃/s以上の冷却速度でMs点以下の温度まで冷却し、さらにAc1 変態点〜一次加熱温度の温度域にて5〜120 秒間保持する二次加熱処理を施した後、5℃/s以上の冷却速度で500 ℃以下の温度まで冷却し、その後溶融亜鉛めっき処理を施してから、5℃/s以上の冷却速度で300 ℃まで冷却することを特徴とする延性および耐疲労特性に優れた高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- C:0.05〜0.20質量%、Si:0.3 〜1.8 質量%およびMn:1.0 〜3.0 質量%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する、鋼素材を、加熱後に熱間圧延を施し、引き続き10℃/s以上の冷却速度にて冷却したのち、300 ℃以上550 ℃以下の温度にて巻取り、その後冷間圧延を施し、次いでAc1 変態点以上の温度域にて5s以上保持する、一次加熱処理を施した後、10℃/s以上の冷却速度でMs点以下の温度まで冷却し、さらにAc1 変態点〜一次加熱温度の温度域にて5〜120 秒間保持する二次加熱処理を施した後、5℃/s以上の冷却速度で500 ℃以下の温度まで冷却し、その後溶融亜鉛めっき処理を施してから、5℃/s以上の冷却速度で300 ℃まで冷却することを特徴とする延性および耐疲労特性に優れた高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 請求項1または2において、溶融亜鉛めっき処理にて溶融亜鉛めっき被膜を形成した後、400 ℃〜550 ℃の温度域まで再加熱して溶融亜鉛めっき被膜を合金化することを特徴とする延性および耐疲労特性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 請求項1、2または3において、鋼素材は、さらに下記(a)〜(e)のいずれか1または2以上から選ばれる成分を含有する、組成を有することを特徴とする延性および耐疲労特性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
記
(a)Al:0.2 〜1.5 質量%
(b)CrおよびMoのいずれか1種または2種を合計で0.05〜1.0 質量%
(c)B:0.003 質量%以下
(d)Ti、NbおよびVのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で0.01〜0.3 質量%
(e)CaおよびREM のいずれか1種または2種を合計で0.01質量%以下
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