JP4224577B2 - 金属表面に吸着した分子等の物性値等の解析方法及び装置 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
本発明は、金属表面上に吸着した分子や分子集合体の物性値及び安定構造の解析に関するもので、金属表面上での分子配列制御や分子デバイス設計に利用可能なものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、走査トンネル顕微鏡の発展等に伴い、金属表面上で分子配列制御を利用した分子デバイス開発の研究が盛んである。その際、現象解明や分子設計のために、計算機シミュレーションによる解析の重要性が認識されつつある。従来の方法では、量子力学の基本式であるシュレジンガー方程式をそのまま取り扱う量子化学計算により、小さい分子の少数原子数からなる金属クラスターへの吸着状態の解析がなされてきた。しかし、この方法では、固体表面の一部を取り出した表面原子クラスター上での吸着物としてモデル化したとしても計算負荷があまりに大きく、実用的ではない問題がある。
【0003】
他方、吸着物と固体表面の相互作用を経験的解析ポテンシャル関数及び古典電磁気学に基づくラプラスーポアソン方程式を用いて記述する方法が提案されている(特許願 第006251号)。この方法は、吸着物と固体表面の相互作用についての実用的な計算を可能にした。しかしながら、この方法には、吸着物自身の電子状態を考慮していないという欠点がある。そのため、吸着物同士の相互作用のエネルギー等の物性値を求めることができないだけでなく、固体表面と吸着物の相互作用が、吸着物の安定構造や物性値あるいは吸着分子同士の相互作用に与える影響を解析することができない。ここで、物性値とは、分子や分子集合体の性質を表す値で、種類は特に限定されないが具体例を挙げると、例えば、エネルギー、エネルギーの任意の座標による一次、二次微分、ダイポールモーメント、分極率、超分極率、エンタルピー、エントロピー、自由エネルギー、基準振動数等を挙げることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、上記従来の問題点を解決すべく、金属表面に吸着した分子または分子集合体の物性値等及び安定構造を明らかにすることのできる、実用性を持たせた、コンピューター(計算機)による解析方法及び装置の提供をその課題とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本願発明では、コンピューターに、少なくとも、入力手段から量子化学計算において用いる計算条件と、吸着物及び表面の構造に係る原子座標データとを量子化学計算入力データとして入力する工程、量子化学計算入力データ記録手段が、前記量子化学計算入力データを記録する工程、原子電荷決定手段が、前記量子化学計算入力データ記録手段から前記量子化学計算入力データを読み出し、表面との反発、分散及び誘起相互作用のいずれも考慮しない場合の吸着物に対して所定の量子化学計算式に基づいて吸着物の各原子核上においた点電荷を演算部で算出し、原子電荷データを得る工程、原子電荷データ記録手段が、前記原子電荷データを記録する工程、鏡像電荷配置決定手段が、前記原子電荷データ記録手段から前記原子電荷データを読み出し、金属と吸着分子周辺の真空な領域との境界面に対して鏡像の位置に符号の異なる点電荷を配置し、鏡像電荷配置データを得る工程、鏡像電荷配置記録手段が、前記鏡像電荷配置データを記録する工程、複合計算入力データ作成手段が、前記量子化学計算入力データと前記鏡像電荷配置データとから複合計算入力データを作成する工程、複合計算入力データ記録手段が、前記複合計算入力データを記録する工程、複合計算手段が、前記複合計算入力データ記録手段から前記複合計算入力データを読み出し、鏡像電荷存在下での吸着物と金属表面との反発、分散及び誘起相互作用を考慮した物性値の計算を、量子化学計算及び経験的原子間解析ポテンシャルの計算によって前記演算部で行う工程、結果出力手段が、その結果を記録若しくは出力する工程を有することを特徴とする金属表面上に吸着した分子若しくは分子集合体の物性値を求めることを実行させるためのプログラムと、該工程を実行する各手段を備えたコンピュータ装置を提供する。
ここで、吸着物の構造の入力は、NMR等により測定された空間座標データを入力して行う。上記発明により、特定の表面における吸着物の構造等の予測を行うことが出来る。
【0006】
また、その改良例としてコンピューターに、前記複合計算手段により算出した結果において、収束条件判断手段が、収束条件を満たしているか否か前記演算部で判断する工程、計算終了手段が、前記収束条件を満たしている場合に計算を終了する工程、新規構造算出手段が、前記収束条件を満たしていない場合にニュートン法若しくは擬ニュートン法(準ニュートン法)により新しい構造を算出する工程、新規計算指令手段が、前記新規構造算出手段によって算出された新規構造を前記量子化学計算入力データの内容として与えて【0005】記載の工程を行わせる工程を有する金属表面上に吸着した分子や分子集合体の安定構造を計算することを実行させるためのプログラムと、該工程を実行する各手段を備えたコンピュータ装置を提供する。
本発明では、請求項1又は3記載の発明から得られた構造を最安定の構造を算出するために、収束させて求めることを特徴とする。
【0007】
【発明の実施の形態】
この課題は、吸着物と金属表面との相互作用をモデル化し、このモデルに量子化学計算手法を組み合わせた複合計算手法の開発により達成可能である。分子や分子集合体と金属表面の相互作用は、一般に、反発、分散、誘起相互作用に分離され、全体の相互作用はこれらの和で表すことができる。ここで、反発相互作用は、吸着物と表面との電子雲の重なりに基づく電子交換により働く斥力的相互作用であり、分散相互作用は、吸着物と表面、双方に帰属される電子の運動による瞬間的な分極により生じる引力的相互作用であり、誘起相互作用は、吸着物の電子分布の偏りが表面に分極を起こさせることにより生じる引力的相互作用である(米澤貞次郎、永田親義、加藤博史、今村詮、諸熊圭治、「量子化学入門(下)」、化学同人、東京、1988.)。
【0008】
この内、反発及び分散相互作用は、表面原子と吸着原子間の距離の関数である経験的原子間解析ポテンシャル関数で記述できることが知られている(A.K.Rappe,C.J.Casewit, K.S.Colwell,W.A.Goddard III,and.M.Skiff,J.Am.Chem.Soc.1992, 114,10024-10035.)。この短距離相互作用の記述においては、通常、金属表面モデルとして吸着物の近傍の数十から数百個程度の表面金属原子を考慮すれば十分である。例えば、金(111)面上に吸着したベンゾニトリルの場合では、金(111)面の127個の正六角形を構成する表面層の原子を考慮すれば十分であることが見出されている(Y.Okuno,T.Yokoyama,S.Yokoyama,T.Kamikado,and.Mashiko,J.Am.Chem.Soc.Submitted for publication)。また、経験的原子間ポテンシャル関数としては、一般に数式(1)で示されるレナードジョーンズ型のポテンシャル関数が用いられており、そのパラメーターはRappe等の値を用いるなどすればよい。
【式1】
ここで、VaAは吸着原子aと金属原子A間の相互作用エネルギー、raAは吸着原子aと金属原子A間の距離、Daとxaはそれぞれ吸着原子aについてのパラメーター、DAとxAはそれぞれ金属原子Aについてのパラメーターである。このポテンシャル関数の計算は、後述するように、複合計算手段により行う。
【0009】
一方、誘起相互作用は、経験的原子間解析ポテンシャル関数での記述は困難である。しかし、金属表面に電荷分布の偏った分子等が吸着した場合、電子分布の再配置により金属中に鏡像電荷が現れることが知られている(図1)。ここで、鏡像電荷とは、導体表面近傍に点電荷q(ここで、点電荷とは、空間の一点に集中した電荷である)を置いた場合において、導体表面が等電位面になるように、導体の領域に仮想的に置いた点電荷q'である。点電荷qが導体から受ける力は、鏡像電荷q'から受ける力すなわち鏡像力に等しい。このことを利用すれば、鏡像電荷が金属中に現れた条件下で吸着物に対する計算を実施することで、誘起相互作用(=鏡像相互作用)を考慮した計算が可能となる。
【0010】
その際の鏡像電荷の決定する方法について説明する。電荷が有限の大きさの領域に広がって分布している場合でも、その領域が着目している系の大きさに比べて十分小さいならば、領域の大きさを無視して点電荷とみなす近似は良い近似であり、そのため、分子等の周りの静電ポテンシャルは、分子等を構成する原子核上の点電荷で近似的に記述できるという一般的知見( G. C. Hall and C. M. Smith, Int. J. Quantum Chem. 1994, 24, 881.)を利用する。ここで、空間内のある点xの静電ポテンシャルとは、基準点(通常は無限遠点にとる)から単位電荷を点xまでゆっくり運ぶときに必要な仕事である。従って、鏡像電荷の決定の決定には、まず、表面との反発、分散及び誘起相互作用のいずれも考慮しない場合の吸着物に対して量子化学計算を実施して、吸着物のまわりに静電ポテンシャルを再現するように、吸着物の各原子核上においた点電荷を決定する。このようにすることで、次いで金属と真空の境界面に対して鏡像の位置に符号の異なる点電荷を置くことによって、鏡像点電荷を決定することが可能となる。
【0011】
静電ポテンシャルを再現する原子電荷の決定には、例えば、BrenemanとWibergの方法を用いればよい。その他にも、Mulliken法、Chirlian-Francl法、Besler-Merz-Kollman法等があり(C. M. Breneman and K. B. Wiberg, J. Comp. Chem. 1990, 11, 361.)、これらのいずれかを用いてもよい。なお、吸着分子の大きさを念頭に置けば、吸着分子の周辺はほぼ真空とみなすことができ、また、金属は当然に結晶構造を有することから、この結晶 構造で金属表面をモデル化することができると考えられる。そこで、この金属と真空の境界は、2次元の表面原子層(金属表面第1層)と、該表面原子層から平行で最も近い層(金属内第2層)との距離から隣接している金属原子同士の間の距離の半分だけ引いた距離だけ、表面原子層より真空方向に離れた2次元平面として定義する。この定義は、幾分荒っぽい近似であるが、吸着物の各原子がキャップ型の吸着(吸着物の原子と複数の表面原子との距離が等距離になるような吸着)をする場合、合理的なものであるし、吸着物と金属表面の距離が3Å程度である物理吸着の場合には許容範囲の近似であると考えられる(Y. Okuno, T. Yokoyama, S. Yokoyama, T. Kamikado, and S. Mashiko, J. Am. Chem. Soc. submitted for publication.)。
【0012】
以上の知見及びモデル及び、分子や分子集合体のエネルギー等の物性値は量子化学計算によって高精度に算出できるという知見を利用して、鏡像電荷存在下での吸着物に対する量子化学計算と経験的原子間解析ポテンシャルの計算を組み合わせた複合計算を実施することで、吸着系全体のエネルギーや吸着物の物性値を求めることが可能となる。すなわち、数式(2)で示されるシュレジンガー方程式を通常の量子化学計算手法により解けばよく、鏡像電荷存在下での吸着物に対する量子化学計算と経験的原子間解析ポテンシャル関数の計算で求めたエネルギーやエネルギーに関連する物理量について、それぞれの和をとることで吸着系全体のエネルギー等を求めることができる。
すなわち、式2を解くということは鏡像電荷存在下での吸着物に対する量子化学計算と経験的原子間解析ポテンシャル関数の計算で求めたエネルギーやエネルギーに関連する物理量について、それぞれの和をとることに相当している。
【式2】
ここで、Yは電子波動関数、Eはエネルギー、riはi番目の電子の位置ベクトル、Raはa番目の原子核の位置ベクトル、Hは数式(3)で表されるハミルトニアンである。
【式3】
ここで、H0は、孤立した吸着物に関するハミルトニアンで、Hintは、吸着物と金属間の相互作用に関するハミルトニアンであり、それぞれ、数式(4)及び(5)で表される。
【式4】
【式5】
ここで、Neは電子数、mは電子の質量、▽ i 2はi番目の電子の座標に関するラプラシアン演算子、eは電気素量、Naは原子数、Zaはa番目の原子核の電荷、qs'はs番目の鏡像点電荷の値、Rs'はs番目の鏡像点電荷の位置ベクトル、Nmは金属表面モデルで考慮された原子の数、VaAはa番目の吸着原子とA番目の金属原子の反発及び分散相互作用エネルギーである。なお、VaAはレナードジョーンズ型の関数を用いる場合は数式(1)で表される。
【0013】
また、吸着体の安定構造解析も、ニュートン法等の最適化計算手法の利用により可能となる。ここで、安定構造とは、原子核座標の関数である(電子基底状態での)断熱ポテンシャルエネルギーが、極小になっている構造をいう(断熱ポテンシャルエネルギーとは、原子核座標の関数として記述される、Born-Oppenheimer近似下での、ポテンシャルエネルギーである)。
【0014】
上述の複合計算により、任意に与えられた構造での、吸着物の構成原子のデカルト座標によるエネルギーの一次及び二次微分を求め、ニュートン法等により新しい構造を求め、得られた新規構造に対して、再び、原子電荷を決定し、前段落の計算を行う、という手続きを収束する迄繰り返すことによって求めることができる。本アルゴリズムでは、構造変化に伴う吸着分子の電荷分布の変化を最適化の繰り返し計算ごとに原子電荷を計算することで取りこんでいることになる。収束条件としては、全ての一次微分の絶対値がある値以下になるという条件とそれらの二乗平均値がある値以下になるという条件を用いるのが一般的である。なお、通常なされているように、表面原子の座標は、吸着物との相互作用による影響で変化しないものと仮定し、構造最適化の間、固定しておく。
【0015】
本発明において実施する量子化学計算は、GAUSSIAN98プログラム(Frisch, M. J.; Trucks, G. W.; Schlegel, H. B.; Scuseria, G. E.;Robb, M. A.; Cheeseman, J. R.; Zakrzewski, V. G.; Montgomery, Jr., J. A.;Stratmann, R. E.; Burant, J. C.; Dapprich, S.; Millam, J. M.; Daniels, A. D.;Kudin, K. N.; Strain, M. C.; Farkas, O.; Tomasi, J.; Barone, V.; Cossi, M.;Cammi, R.; Mennucci, B.; Pomelli, C.; Adamo, C.; Clifford, S.; Ochterski, J.;Petersson, G. A.; Ayala, P. Y.; Cui, Q.; Morokuma, K.; Malick, D. K.; Rabuck,A. D.; Raghavachari, K.; Foresman, J. B.; Cioslowski, J.; Ortiz, J. V.; Baboul,A. G.; Stefanov, B. B.; Liu, G.; Liashenko, A.; Piskorz, P.; Komaromi, I.;Gomperts, R.; Martin, R. L.; Fox, D. J.; Keith, T.; Al-Laham, M. A.; Peng, C.Y.; Nanayakkara, A.; Gonzalez, C.; Challacombe, M.; Gill, P. M. W.; Johnson,B.; Chen, W.; Wong, M. W.; Andres, J. L.; Gonzalez, C.; Head-Gordon, M.;Replogle, E. S.; Pople, J. A. Gaussian 98, Revision A.7, Gaussian, Inc.,
Pittsburgh PA, 1998.)等(他には、例えばHONDO、GAMESS等がある)の既成のプログラムを利用するのが最も簡単である。なお、計算の際に、理論レベル、基底関数、全電荷、スピン多重度、計算オプションを量子化学計算の条件として入力する必要があるが、理論レベルと基底関数は、計算に必要な精度に応じて決定し、全電荷とスピン多重度は、計算したい吸着物の性質によって決定し、計算オプションは計算したい物理量に応じて指定する。
【0016】
【実施例】
図2は、当該実施例における本装置のシステム構成図であり、図3は、請求項1の発明に関する処理方法のフロー図であり、これらの図に従って実施例を説明する。まず、キーボード等の入力装置から吸着物の構造及び量子化学計算の計算条件(量子化学計算の理論レベル、基底関数、全電荷、スピン多重度、計算オプション)が入力される。中央処理装置(CPU、演算部、以下同じ)は、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、吸着物の構造と計算条件をデータとする量子化学計算入力ファイルを作成する。さらに、中央処理装置は、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、量子化学計算入力ファイルを読み出して量子化学計算を実施し、静電ポテンシャルを再現する原子電荷を算出し、その結果を原子電荷データファイルに記録する。中央処理装置は、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、原子電荷データファイルを読み出し、鏡像点電荷の配置等を決定し、それを鏡像電荷データファイルに記録する。中央処理装置は、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、上記量子化学計算入力ファイル及び鏡像電荷データファイル及びあらかじめ作っておいた金属表面原子座標データを読み込み、これらのデータの情報全てを含む複合計算入力ファイルを作成する。
さらに、中央処理装置は、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、複合計算入力ファイルを読み出し、複合計算を実施し、その結果を複合計算出力ファイルに記録するか若しくは計算結果を出力装置により出力する。
【0017】
図4は、請求項2の発明に関する処理方法のフロー図であり、この図に従って実施の形態を説明する。(1)まず、キーボード等の入力装置から吸着物の試行初期構造及び量子化学計算の計算条件(量子化学計算の理論レベル、基底関数、全電荷、スピン多重度、計算オプション)が入力される。(2)中央処理装置は、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、量子化学計算入力ファイルを作成する。(3)さらに、中央処理装置は、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、量子化学計算入力ファイルを読み出して量子化学計算を実施し、静電ポテンシャルを再現する原子電荷を算出し、その結果を原子電荷データファイルに記録する。(4)中央処理装置は、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、原子電荷データファイルを読み出し、鏡像点電荷の配置等を決定し、それを鏡像電荷データファイルに記録する。(5)中央処理装置は、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、上記量子化学計算入力ファイル及び鏡像電荷データファイル及びあらかじめ作っておいた金属表面原子座標データを読み込み、複合計算入力ファイルを作成する。(6)さらに、中央処理装置は、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、複合計算入力ファイルを読み出し、複合計算を実施し、その結果を複合計算出力ファイルに記録する。(7)中央処理装置は、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、複合計算出力ファイルを読み出し、吸着物の原子のデカルト座標によるエネルギーの一次微分から収束条件を満たすか否かを判断し、満たす場合には、全処理を終える。満たさない場合には、エネルギーの一次及び二次微分を用いてニュートン法により新しい構造を算出し、その構造での量子化学計算入力ファイルを作成し、上記(3)のステップにもどる。
【0018】
次に具体的な吸着分子と金属表面の物性値及び安定構造の計算例を挙げて、本実施例について説明する。請求項2の発明によって、金(111)面に吸着したベンゾニトリル及びベンゾニトリルクラスターの安定構造解析を行ない、得られた安定構造での物性値を、請求項1の発明によって求めた実施例(文献4)を以下に示す。金(111)面は、127個の金原子からなる正六角形を構成する表面原子層としてモデル化した。吸着物と金表面との反発及び分散相互作用としては、Rappe等のパラメーター(文献3)を用いた数式(1)のレナードジョーンズ型ポテンシャル関数で記述した。原子電荷決定には、BrenemanとWibergの方法(C.M. Breneman and K. B. Wiberg, J. Comp. Chem.1990, 11,361.)を用いた。量子化学計算は、B3LYP/6-31G*計算レベルで行なった。
【0019】
以上のモデルにおいて、請求項2に記載の発明によって得られた、金(111)面に吸着したベンゾニトリル2量体及び3量体の安定構造を図5及び図6に示す。
この構造は、走査トンネル顕微鏡で観察されたシアノフェニルポルフィリン2量体及び3量体の推定安定構造に類似していることが見出された。このことより、シアノフェニルポルフィリンのクラスター形成が、シアノフェニル基間の相互作用に基因することが明らかとなった。
【0020】
また、請求項1に記載の発明によって、金(111)面に吸着したベンゾニトリル及びベンゾニトリルクラスターの安定構造に関して熱力学エネルギーを求めた。
自由エネルギーの比較から、3量体が2量体よりも安定であり、さらに2量体がモノマーよりも安定であることが見出された。この結果は、シアノフェニルポルフィリンクラスターに関する走査トンネル顕微鏡観察での観察結果と一致し、金(111)面上では、モノマーよりもクラスター構造が安定であるとの結論を得た。
【0021】
【発明の効果】
経験的原子間解析ポテンシャル関数を用いることで反発及び分散相互作用が記述可能となり、鏡像点電荷を金属中に置き、その存在下での量子化学計算を実施することで、吸着物―金属表面間の誘起相互作用が記述可能となり、これらの計算を組み合わせることで、吸着系全体のエネルギーのみならず、安定構造や吸着物の各種物性値が算出可能となる。以上のように、この発明によれば、吸着物と金属表面の相互作用をモデル化し、そのモデルを吸着物に対する量子化学計算と組み合わせることで、吸着系全体の計算を実用的にしたものであるから、従来の方法では算出困難であった吸着物自身のエネルギーなどの物性値が得られ、また、吸着体の安定構造が得られるという効果がある。
【0022】
【図面の簡単な説明】
【図1】 分子の金属表面への吸着により発生する鏡像電荷の説明図。
【図2】 本発明のシステム構成図を示す説明図。
【図3】 請求項1発明の吸着解析方法の処理手順説明図。
【図4】 請求項2の発明の吸着解析方法の処理手順説明図である。
【図5】 請求項2の発明によって得られた、金(111)面に吸着したベンゾニトリル2量体の安定構造を示す。
【図6】 請求項2の発明によって得られた、金(111)面に吸着したベンゾニトリル3量体の安定構造を示す。
Claims (4)
- コンピューターに、少なくとも、
入力手段から量子化学計算において用いる計算条件と、吸着物及び表面の構造に係る原子座標データとを量子化学計算入力データとして入力する工程、
量子化学計算入力データ記録手段が、前記量子化学計算入力データを記録する工程、
原子電荷決定手段が、前記量子化学計算入力データ記録手段から前記量子化学計算入力データを読み出し、表面との反発、分散及び誘起相互作用のいずれも考慮しない場合の吸着物に対して所定の量子化学計算式に基づいて吸着物の各原子核上においた点電荷を演算部で算出し、原子電荷データを得る工程、
原子電荷データ記録手段が、前記原子電荷データを記録する工程、
鏡像電荷配置決定手段が、前記原子電荷データ記録手段から前記原子電荷データを読み出し、金属と吸着分子周辺の真空な領域との境界面に対して鏡像の位置に符号の異なる点電荷を配置し、鏡像電荷配置データを得る工程、
鏡像電荷配置記録手段が、前記鏡像電荷配置データを記録する工程、
複合計算入力データ作成手段が、前記量子化学計算入力データと前記鏡像電荷配置データとから複合計算入力データを作成する工程、
複合計算入力データ記録手段が、前記複合計算入力データを記録する工程、
複合計算手段が、前記複合計算入力データ記録手段から前記複合計算入力データを読み出し、鏡像電荷存在下での吸着物と金属表面との反発、分散及び誘起相互作用を考慮した物性値の計算を、量子化学計算及び経験的原子間解析ポテンシャルの計算によって前記演算部で行う工程、
結果出力手段が、その結果を記録若しくは出力する工程
を有することを特徴とする金属表面上に吸着した分子若しくは分子集合体の物性値を求めることを実行させるためのプログラム。 - コンピューターに、
前記複合計算手段により算出した結果において、
収束条件判断手段が、収束条件を満たしているか否か前記演算部で判断する工程、
計算終了手段が、前記収束条件を満たしている場合に計算を終了する工程、
新規構造算出手段が、前記収束条件を満たしていない場合にニュートン法若しくは擬ニュートン法(準ニュートン法)により新しい構造を算出する工程、
新規計算指令手段が、前記新規構造算出手段によって算出された新規構造を前記量子化学計算入力データの内容として与えて請求項1記載の工程を行わせる工程
を有する金属表面上に吸着した分子や分子集合体の安定構造を計算することを実行させるための請求項1記載のプログラム。 - コンピューターに、少なくとも、
量子化学計算において用いる計算条件と、吸着物及び表面の構造に係る表面原子座標データとを量子化学計算入力データとして入力する入力手段、
前記量子化学計算入力データを記録する量子化学計算入力データ記録手段、
前記量子化学計算入力データ記録手段から前記量子化学計算入力データを読み出し、
表面との反発、分散及び誘起相互作用のいずれも考慮しない場合の吸着物に対して所定の量子化学計算式に基づいて吸着物の各原子核上においた点電荷を演算部で算出し、原子電荷データを得る原子電荷決定手段、
前記原子電荷データを記録する原子電荷データ記録手段、
前記原子電荷データ記録手段から前記原子電荷データを読み出し、金属と吸着分子周辺の真空な領域との境界面に対して鏡像の位置に符号の異なる点電荷を配置し、鏡像電荷配置データを得る鏡像電荷配置決定手段、
前記鏡像電荷配置データを記録する鏡像電荷配置記録手段、
前記量子化学計算入力データと前記鏡像電荷配置データとから複合計算入力データを作成する複合計算入力データ作成手段
前記複合計算入力データを記録する複合計算入力データ記録手段、
前記複合計算入力データ記録手段から前記複合計算入力データを読み出し、鏡像電荷存在下での吸着物と金属表面との反発、分散及び誘起相互作用を考慮した物性値の計算を、量子化学計算及び経験的原子間解析ポテンシャルの計算によって前記演算部で行う複合計算手段、
その結果を記録若しくは出力する結果出力手段、
を有することを特徴とする金属表面上に吸着した分子若しくは分子集合体の物性値を求めるコンピューター装置。 - コンピューターに、
前記複合計算手段により算出した結果が、
収束条件を満たしているか否か前記演算部で判断する収束条件判断手段、
前記収束条件を満たしている場合に計算を終了する計算終了手段、
前記収束条件を満たしていない場合にニュートン法若しくは擬ニュートン法(準ニュートン法)により、新しい構造を算出する新規構造算出手段、
前記新規構造算出手段によって算出された新規構造を前記量子化学計算入力データの内容として与えて請求項3記載の手段を用いた計算を行わせる新規計算指令手段
を有する金属表面上に吸着した分子や分子集合体の安定構造を計算する請求項3記載のコンピューター装置。
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US8288393B2 (en) | 2007-08-10 | 2012-10-16 | Nippon Soda Co., Ltd. | Nitrogen-containing heterocyclic compound and pest control agent |
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JP2003114880A (ja) | 2003-04-18 |
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