JP4214658B2 - 金属鉄の製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は金属鉄の製法に関し、特に、炭素質還元剤(コークス粉など:以下、炭材ということがある)と鉄鉱石等の酸化鉄源を含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床耐火物上に供給して加熱し酸化鉄を還元溶融した後、該還元鉄を冷却して粒状の金属鉄を製造する際に、炉床耐火物の損傷を可及的に抑制し、あるいは損傷した炉床部を操業工程で自己修復しつつ、安定して連続操業し得る様に改善された金属鉄の製法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば本件出願人が特開平9−256017号公報として開示した如く、回転炉やストレートグレートの如き移動床型還元溶融炉における上流側の炉床耐火物上に炭素質還元剤と酸化鉄源を含む塊成物を連続的に供給し、炉床を連続的に移動させつつ該塊成物を炉床耐火物上で加熱して酸化鉄を固体状態で還元し、生成する還元鉄を引き続いて浸炭・溶融・凝集させてから冷却し、粒状の金属鉄として前記炉外へ排出することにより、金属鉄を得る方法は公知である。
【0003】
その際、酸化鉄の還元は、移動炉床の耐火物上で前記塊成物を加熱することによって進められる。そして還元の後、還元性雰囲気下で更に加熱することにより還元鉄の浸炭を進めて低融点化することにより溶融・凝集させ、次いで冷却して凝固した粒状の金属鉄を、スクリュー機構など任意の排出手段によって炉床耐火物上から炉外へ排出する。
【0004】
この還元溶融工程では、酸化鉄源として使用する鉄鉱石などに含まれる脈石成分などに由来して相当量の溶融スラグが生成するが、この溶融スラグは炉床耐火物を溶損(浸潤・侵食)させる大きな原因となる。特に該溶融スラグ中に未還元のFeO溶融物が混入すると、上記浸潤・侵食による溶損は更に顕著となり、炉床耐火物の寿命を著しく短縮する。ところが従来技術では、こうした溶融スラグに起因する炉床耐火物の溶損を防止する具体的な手段についての研究は殆どなされていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、炉床耐火物の前記溶融スラグに起因する炉床耐火物の溶損(浸潤・溶損)を可及的に抑制すると共に、たとえ溶損を受けたとしても、操業過程で該溶損部を自己補修できる様にし、炉床耐火物の寿命を延長して連続操業性を高めることのできる技術を確立することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る金属鉄の製法とは、炭素質還元剤と酸化鉄を含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床耐火物上に供給して加熱し酸化鉄を還元溶融した後、得られる金属鉄を冷却してから前記炉外へ排出して回収する金属鉄の製法であって、上記還元溶融過程で生成するスラグを含む堆積物層を前記炉床耐火物上に形成することにより、炉床耐火物を保護しつつ金属鉄を製造するところに要旨を有している。
【0007】
この方法を実施するに当たっては、スクリューやスクレーパなどの排出装置により、前記堆積物層の全部または一部が、該堆積物層中に残存する金属鉄等と共に定期的もしくは連続的に除去されるが、該排出装置の刃先部と前記炉床耐火物表面との間隔を調整することによって前記堆積物層の厚さを調整し、或いは該堆積物層の除去厚さを調整する方法が好ましく採用される。
【0008】
この方法を実施するに当たっては、前記堆積物層の表層部に、例えばアルミナやマグネシアの如き堆積物の融点調整用添加剤(通常は融点上昇用添加剤)を定期的もしくは連続的に供給して該堆積物層表面の融点を高めれば、生成する金属鉄が該堆積物層内へ潜り込むのを抑えることができるので、連続操業を一層円滑に遂行可能となる。同様の趣旨で、上記還元溶融炉の適所で炉床下部を強制冷却することにより前記堆積物層の凝固・形成を促進し、該堆積物層を金属鉄が潜り込まない程度の硬さに調整することも有効である。
【0009】
また該堆積物層を除去する際には、該堆積物層を炉床下方からの強制冷却や冷却用ガスの吹き付け等によって冷却し、固液共存状態のシャーベット状にしてから除去する方法を採用すれば、堆積物層の除去を円滑に行ない得ると共に、除去後の堆積物層表面をより平滑にすることができるので好ましい。
【0010】
更に本発明を実施するに当たっては、前記還元溶融炉の操業開始期(操業中断後の再稼動時を含む)に、前記炉床耐火物上に予め初期保護層を形成しておけば、還元溶融時に生成(副生)する溶融スラグが炉床耐火物に直接接触することがなくなり、炉床耐火物の溶損をより効果的に防止できるので好ましい。該初期保護層としては、溶融スラグに対して溶損を受け難いアルミナ主体の酸化物が最も好ましいが、この他、前記還元時に生成するスラグと略同一組成となる様に予め成分調整した鉱石混合物やリサイクルスラグを使用することも有効である。
【0011】
そして本発明の方法を採用すれば、還元溶融炉の操業中に生じた上記堆積物層表面のへこみ部や窪み部も、前記還元時に生成するスラグ或いはこれと略同一組成となる様に予め成分調整した鉱石混合物もしくはリサイクルスラグで充填することにより簡単に補修することができる。
【0012】
また本発明を実施するに当たっては、前記塊成物を装入するに先立って、前記初期保護層もしくはスラグ堆積物層の上に粉状炭素物質を適当な厚さで層状に敷き詰めておけば、該粉状炭素物質によって初期保護層や堆積物層表面への粒状金属鉄の融着が抑えられ、粒状金属鉄の排出がより容易になると共に、微細粒鉄の初期保護層や堆積物層表面への埋没も抑えられるので好ましい。このとき、上記粉状炭素物質中に前記融点調整用添加剤を適量配合しておけば、当該堆積層内への金属鉄の埋没も一層効果的に抑えられるので好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態および実施例】
以下、本発明の実施形態を具体例を示す実施例を参照しながら詳細に説明していくが、それらは飽くまで代表例であって、本発明は図示例に限定されるものではない。
【0014】
図1〜3は本発明が適用される本発明者ら自身が開発した移動床型還元溶融炉の一例を示す該略説明図で、ドーナツ状の回転移動床を有するドーム型構造のものを示しており、図1は概略見取図、図2は図1におけるA−A線断面相当図、図3は、理解の便のため図1における回転移動床の回転移動方向に展開して示す概略断面説明図であり、図中1は回転炉床、2は該回転炉床をカバーする炉体であり、回転炉床1は、図示しない駆動装置により適当な速度で回転駆動できる様に構成されている。
【0015】
炉体2の壁面適所には複数の燃焼バーナ3が設けられており、該燃焼バーナ3の燃焼熱およびその輻射熱を回転炉床1上の原料塊成物に伝えることにより、該塊成物の加熱還元が行われる。図示する炉体2は好ましい例を示したもので、炉体2内部は1枚の仕切壁Kで還元溶融ゾーンZ1と冷却ゾーンZ2に仕切られており、該炉体2の回転方向最上流側には回転炉床1を臨んで原料および副原料装入手段4が配置されると共に、回転方向最下流側(回転構造であるため、実際には装入手段4の直上流側にもなる)には排出手段6が設けられている。
【0016】
この還元溶融炉を稼動するに当たっては、回転炉床1を所定の速度で回転させておき、該回転炉床1上に、炭素質還元剤と酸化鉄を含む塊成物を装入装置4から適当な厚さとなる様に供給していく。炉床1上に装入された原料塊成物は、還元溶融ゾーンZ1を移動する過程で燃焼バーナ3による燃焼熱及び輻射熱を受け、塊成物内に含まれる酸化鉄と炭素質還元剤との反応で生成する一酸化炭素により酸化鉄は還元され、ほぼ完全に還元されて生成した還元鉄は、更に炭素リッチ雰囲気下で加熱されることにより浸炭して溶融し、副生するスラグと分離しながら凝集して粒状の溶融金属鉄となった後、冷却ゾーンZ2で任意の冷却手段Cで冷却されて固化し、その下流側に設けられた排出手段6によって順次掻き出される。この時、副生したスラグも同時に排出されるが、これらはホッパーHを経た後、任意の分離手段(篩目や磁選装置など)により粒状の金属鉄とスラグの分離が行われ、最終的に鉄分純度が95%程度以上、より好ましくは98%程度以上でスラグ成分含量の極めて少ない粒状の金属鉄として得ることができる。
【0017】
本発明では、この様な移動床型還元溶融炉を用いて高純度の粒状金属鉄を製造する際に、特に回転炉床1を構成する炉床耐火物の保護に主眼を置く発明であるから、以下、炉床耐火物の損傷状況とその補修、更新を主体にして説明する。しかし本発明が適用される移動床型還元溶融炉の構成は勿論図1〜3に示した様な形状・構造のものに限定される訳ではなく、構成要素として移動タイプの炉床を含むものであれば、例えばストレートグレートタイプの如き他の全ゆる構造の移動床型還元溶融炉にも有効に活用できる。
【0018】
本発明では、上記の様に鉄源として酸化鉄を含み、該酸化鉄の還元剤として作用する炭素質還元剤を含む塊成物を移動炉床上で加熱し、酸化鉄を固体状態で還元し、生成する還元鉄を引き続いて浸炭・溶融・凝集させてから冷却し、粒状の金属鉄として炉外へ排出させる金属鉄製造設備において、これら固体還元と浸炭・溶融・凝集が連続的に行われる際の支持層となる炉床耐火物を保護および自己修復可能にし、それにより炉床耐火物の寿命を大幅に延長可能にしたもので、その基本的構成は下記の通りである。
【0019】
まず図4は、本発明の好ましい実施形態を示す概略断面説明図であり、操業開始時には移動床型還元溶融炉の炉床耐火物7上に、アルミナ主体の酸化物[もしくは還元溶融工程で副生するスラグに近似した成分組成の鉱石混合物(もしくはリサイクルスラグ)]からなる初期保護層8を形成しておき、炉床を回転させながらその上に原料塊成物Gを連続的に供給していく[図4(A)]。
【0020】
この原料塊成物Gは、前記図1〜3で説明した如く還元溶融炉の還元溶融ゾーンZ1を移動する過程でバーナからの熱および輻射熱を受け、該塊成物中の酸化鉄は固体還元を受けて還元鉄となった後、更なる加熱を受けて浸炭され低融点化して溶融すると共に、該溶融鉄は副生するスラグと分離しながら相互に付着し合って凝集・成長し比較的大きな粒状の金属鉄Feとなり、副生スラグSgも凝集して両者は分離する[図4(B)の状態]。
【0021】
そしてこれを、前述した様な排出装置の直上流側位置で冷却してから排出装置の設置位置まで移動させ、凝固した粒状の金属鉄FeとスラグSgを該排出装置により炉床表面から掻き出す[図示せず]。
【0022】
このとき、前記還元溶融過程で副生したスラグの溶融物は、前記初期保護層8と合体してスラグ堆積物層Tを形成していくが、上記溶融・凝固過程では、十分に凝集・成長していない微細な粒状金属鉄(微細粒鉄ということがある)Fesや高融点スラグSgsも相当量生成しており、これらは、前記図1〜3に示した様な排出装置6と堆積物層T表面との間を掻い潜ってスラグ堆積物層Tの表面に残存したり、一部は該排出装置6との間に挟まって該堆積物層T内に強引に埋め込まれた状態となる[図4(C)参照]。
【0023】
この状態で連続操業を続けると、該スラグ堆積物層T表面に残存し或いは埋め込まれた微細粒鉄Fes等が徐々に堆積して肥大化し、排出できなくなることがある。
【0024】
そこで本発明では、上記微細粒鉄Fes等の堆積による前記障害を回避するため、スラグ堆積物層T表面及び内部に微細粒鉄Fes等がある程度溜まった時点で、これらを該堆積物層Tの一部もしくは全部と共に削り取る。そうすると、図4(D)に示す如く炉床上の堆積物層T表面は平滑にならされ、操業開始当初に形成した初期保護層8とその上に薄く堆積物層Tが被覆された平滑な状態となる。
【0025】
この状態で更に操業を続け、再びスラグ堆積物層Tがある程度付着・堆積した時点で、該堆積物層T(又はこれと前記保護層8の一部)を微細粒鉄Fes等と共に間欠的もしくは連続的に除去し、この作業を適当な周期で繰り返し実施すると、最初に形成した初期保護層8の上層側は徐々にスラグ堆積層Tによって更新され、最終的には初期保護層8の殆どがスラグ堆積物層Tにより入れ替わって図4(E)の状態となり、炉床の表面はこの状態で安定化する。このとき初期保護層8の一部は、操業開始後相当期間に亘って炉床耐火物7の表面に残存し、スラグ堆積物層Tの掻き出し条件によっては少量の初期保護層8が常時残存した状態になることもある。
【0026】
そしてこの状態で操業を継続すれば、該堆積物層Tの表層側では堆積物層Tが還元溶融過程で副生するスラグによって順次更新されるだけで、結果的に炉床耐火物7には全く損傷を与えることなく炉床表面を常に平滑な状態に維持することができる。
【0027】
尚上記においてスラグ堆積物層Tの厚みは、該堆積物層T除去手段(これは、前記排出装置6を兼用してもよく、あるいは排出装置6とは個別に設けても構わない)の上下移動により炉床表面間の間隔を調整することによって行なえばよく、具体的には、操業開始後は該除去手段の刃先部を少しづつ上昇させて堆積物層T表面との上記間隔を広げていくことによって堆積物層Tが徐々に厚くなる様に制御し、該堆積物層Tの表面や内部への微細粒鉄Fes等の付着・堆積量が増大した時点で、該除去手段の刃先部を堆積物層Tの除去したい深さ位置まで降下させ、それにより堆積物層Tの除去厚さや残存厚さを任意に調整すればよい。この上下作動を適当な周期で間欠的に繰り返し、或いは連続的に繰り返すことにより、堆積物層Tへの微細粒鉄Fesの過度の堆積を防止しつつ、その表面を常時平滑に維持することが可能となる。
【0028】
図5はこの状態を示す概略説明図であり、図5(A)は、排出装置6の刃先部を少しずつ上昇させて堆積物層Tを厚くしている状態、図5(B)は、堆積物層Tの表面に残存し或いは内部に埋め込まれた微細粒鉄Fes等の堆積量が増大した時点で、排出装置6の刃先部を下げてその先端を堆積物層Tの除去深さ位置まで降下させ、堆積物層Tを微細粒鉄Fes等と共に排出している状況を示している。
【0029】
なお上記では、排出装置6の刃先部を少しずつ上昇させてスラグ堆積物層Tを徐々に厚くし、微細粒鉄Fesの付着・堆積量がある程度増大した時点で、排出装置6の刃先部を下げてその先端を一気に堆積物層Tの除去深さ位置まで降下させ、堆積物層Tの表層部を所定厚さに除去する例を示したが、この他、操業開始期に操業しようとするレベルを予め決めておき、その位置に排出装置6の掻取り刃のレベルを設定して当該レベルまで初期保護層8を堆積させ、該初期保護層8の浸潤・侵食と微細粒鉄の堆積がある程度進行した時点で、該掻取り刃のレベルを一気に下げて堆積物層Tの表層部を除去することも可能である。
【0030】
尚、上記スラグ堆積物層Tの除去手段が、製品金属鉄Fe排出手段との兼用、もしくは個別の除去手段であってもよいことは先に述べた通りであるが、除去手段の具体的な機構や構成も特に制限されるものではなく、例えばスクリュータイプ、スクレーパタイプなど、要は堆積物層Tの一部もしくは全部を効率よく平滑に除去する機能を備えたものであれば、どの様な除去手段を採用しても構わない。またその刃先部の上下作動を行なう具体的な手段にも格別の制限はなく、公知の昇降手段を任意に選択して適用できる。
【0031】
即ち本発明によれば、炉床耐火物の表面は操業当初に形成した初期保護層8およびその後の操業過程で副生するスラグの堆積によって形成される堆積物層Tにより常に保護され、炉床表面に付着・堆積する微細粒鉄は、定期的もしくは連続的に行なわれる上記スラグ堆積物層T表層部の除去に伴って逐次炉床表面から排出されるので、微細粒鉄の過度の堆積による障害は起こらない。
【0032】
また、仮に該スラグ堆積物層Tの表面が多少損傷を受けたとしても、その損傷部は操業過程で副生するスラグの堆積により自己修復されるので、炉床表面は特別の事故がない限り半永久的に平滑な表面状態を維持することが可能となる。ちなみに図6は、スラグ堆積物層T表面に窪みができた時の自己修復状況を例示する概略断面説明図であり、該堆積物層T表面に窪みQができても[図6(A)]、次サイクルの還元溶融工程で該窪み部Qに副生スラグSgが微細粒鉄Fesなどと共に堆積し[図6(B)]、その下流側でこれらスラグSgや微細粒鉄Fesを含む堆積層Tの表層部を除去すれば、炉床表面は平滑に均される[図6(C)]。また場合によっては、図7(A)〜(C)に示す如く、該窪み部Qに副生スラグと略同一組成となる様に成分調整した鉱石混合物O(またはリサイクルスラグ)を別途供給することによっても、同様に修復することができる。
【0033】
尚、こうした副生スラグによる自己修復機能によって炉床表面を常時平滑に維持するには、該スラグ堆積物層Tの厚さを適正な範囲、好ましくは数mm乃至数十mmの範囲に制御することが望ましい。
【0034】
初期保護層8の構成素材としては、通常の溶融スラグに対して耐溶損性に優れたアルミナ主体の酸化物が最も好ましいが、本発明では上記の様に操業過程で副生するスラグの堆積を利用する方法であるから、初期保護層8の構成素材として、当該操業時に副生するスラグに近似した組成の鉱物質を使用したり、或いはリサイクルスラグを利用することも可能である。また、該堆積物層Tは操業開始の初期段階から炉床耐火物表面に徐々に形成されるので、最初は炉床耐火物保護に必要な最小限の初期保護層8を形成しておき、その上に副生スラグを逐次堆積させることによって十分な炉床耐火物保護効果を得ることができる。特に長期連続操業を行なう際には、操業開始期に形成した初期保護層8が副生スラグの堆積物層Tによって実質的に全てが置き換わることも多いが、それでも炉床耐火物保護効果は十分有効に発揮される。
【0035】
ところで前記スラグ堆積物層Tは、前述の如く還元溶融過程で副生する溶融状態乃至半溶融状態のスラグによって逐次更新されていくが、該スラグ堆積物層Tの表層部の融点が低すぎると、生成する高比重の粒状金属鉄が該堆積物層T内に埋り込んでその排出が困難になるので、該堆積物層Tは粒状金属鉄が埋り込まない程度の硬さに維持することが望ましい。その為の手段としては、原料塊成物を調製する段階で、その中に含まれるスラグ形成成分の組成を調整し、適度の融点のスラグが副生する様に制御することも可能であるが、副生スラグの融点が高くなり過ぎると、固体還元によって生成した金属鉄と副生スラグの溶融分離が進み難くなり、製品金属鉄の純度が低下する大きな原因となる。
【0036】
そこで、副生スラグの融点を低レベルに維持しつつ、しかも更新されていくスラグ堆積物層Tの融点を高めて金属鉄の埋り込みを可及的に抑制すべく研究を行なったところ、上記スラグ堆積物層Tの表層部に、該堆積物に対して融点上昇作用を示す融点調整用添加剤を添加すればよいことを知った。即ち前記堆積物層T上に、任意の場所で間欠的もしくは連続的に該融点調整用添加剤を混入させると、副生スラグが低融点のものであっても、該融点調整用添加剤の混入によりスラグ堆積物層Tの融点が上昇して硬質化し、該堆積層内への粒状金属鉄の埋り込みを可及的に防止できるのである。
【0037】
該融点調整用添加剤の種類は、副生スラグの成分組成によって異なるが、好ましいものとしては、アルミナを含む酸化物およびマグネシアを含む酸化物などが例示され、これらは単独で使用し得る他、必要により2種以上を併用できる。
【0038】
これら融点調整用添加剤の添加量は、副生スラグの成分組成に応じて適宜設定すれば良く、またその添加位置も特に制限されないが、通常は、原料塊成物装入位置の前後もしくは還元溶融ゾーンの適所でスラグ堆積物層T上に定期的もしくは連続的に装入すればよい。
【0039】
また同様の趣旨で、炉床の下部から水冷ジャケットや冷却用ガスの吹き付けなどによってスラグ堆積物層Tを冷却し、該堆積物層Tの固化を進めることによって金属鉄が埋り込まない程度の硬さに調整することも有効である。なお該堆積物層Tの凝固促進に炉床下部からの冷却を採用するのは、該冷却によって酸化鉄の加熱還元が阻害されるのを抑えるためである。ちなみに酸化鉄の加熱・還元は、前述の如く還元溶融炉本体の壁面に設けた燃焼バーナからの燃焼熱と輻射熱による炉床上方側からの熱によって行われるので、該還元工程で炉床表面のスラグ堆積物層Tを炉床下部から強制冷却しても、還元・溶融効率には実質的な悪影響を及ぼす恐れはない。
【0040】
ところで、上記スラグ堆積物層Tの除去は、前述の如く製品となる粒状金属鉄の排出と兼用した排出手段あるいは堆積物層Tの除去専用に設けた除去手段によって行われるが、これら除去手段にかかる負荷を可及的に低減すると共に、除去後の表面をできるだけ平滑にするには、掻き取り除去時点でのスラグ堆積物層Tが固液共存状態のシャーベット状となる様な温度に制御することが望ましく、その為の手段としては、炉床下面から水冷ジャケットにより冷却する方法や冷却用ガスの吹き付けなどが例示される。
【0041】
尚、スラグ堆積物層Tからの掻き出し物中には、スラグ成分と共に相当量の微細粒鉄が含まれており、これらの微細粒鉄も高レベルの鉄含有率を有しているので、該排出物は磁選など任意の手段で選別し、微細粒鉄も製品金属鉄と共に回収することが好ましい。
【0042】
また本発明の更に他の実施形態として、前記保護層8上あるいはスラグ堆積物層T上に原料塊成物を装入するに先立って粉状炭素物質を薄く敷き延べておくことも有効である。即ち加熱により固体還元を効率よく進めると共に、加熱のための燃焼によって生成する酸化性ガス(CO2やH2O)による還元鉄の再酸化を防止するには、炉内の特に原料塊成物近傍の還元ポテンシャルを高めることが有効であり、上記の様に炉床面に予め粉状炭素物質を敷き延べておけば、これら粉状炭素物質により炉内の還元ポテンシャルがより高度に維持され、還元・溶融をより効率よく進めると共に還元鉄の再酸化を防止することができる。しかも該粉状炭素物質は、スラグ堆積物層Tへの金属鉄の付着を抑える作用も発揮し、粒状金属鉄の炉床面からの離脱を容易にしてその排出をより円滑にする。
【0043】
ちなみに図8(A)〜(E)は、上記粉状炭素物質の敷き延べを採用した場合の還元・溶融と炉床自己修復状況を示す概略断面説明図であり、スラグ堆積層T表面に粉状炭素物質層CLを形成してこの上に原料塊成物Gを供給する他は、前記図4(A)〜(E)に示した例と実質的に変わらない。
【0044】
図9は、粉状炭素物質CLの敷き延べを採用した場合の炉床修復状況を示す概略断面説明図であり、スラグ堆積物層T上に粉状炭素物質CLを敷き延べてからその上に原料塊成物Gを装入して該原料塊成物Gの還元溶融を行ない[図9(A)]、スラグ堆積物層Tおよび粉状炭素物質層CL内における微細粒鉄Fes等の堆積量が増大したときに、図9(B)に示す如く該刃先を降下させ、微細粒鉄Fes等が溜まったスラグ堆積物層Tの表層部を粉状炭素物質CLと共に除去してスラグ堆積物層Tを水平にならす。そして、炉床が旋回して原料塊成物Gの装入位置に至る前に、副原料装入装置9から粉状炭素物質CLを所定厚さレベルまで装入し、その上に原料塊成物Gを装入することによって連続操業を行なえばよい。
【0045】
なお、粉状炭素物質CLの敷延べ厚さは特に制限されないが、原料塊成物近傍の還元ポテンシャルを高め、或いは粒状金属鉄の炉床面からの離脱を容易にするという作用を有効に発揮させる上ではごく薄く敷いておくだけでよく、通常は1〜10mm程度以下でも十分に目的を果たすことができる。また、該粉状炭素物質CLに前述した融点調整用添加剤を適量配合しておき、該融点調整用添加剤によるスラグ堆積物層Tの融点上昇を併せて行なうことは、実操業上も簡単で有効な方法として推奨される。
【0046】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、移動床型還元溶融炉の炉床耐火物を、操業時に原料塊成物から生成するスラグ成分の堆積と、その定期的もしくは連続的除去によって、連続操業時におけるスラグ堆積物層上への微細金属鉄の付着・堆積を防止しつつ、該堆積物層表面の損傷部の自己補修作用によって炉床面を常時平滑に維持することができ、元々の炉床耐火物を実質的に殆ど損傷することなく連続操業を行なうことができ、炉床補修の周期を大幅に延長して連続操業効率を飛躍的に高めることができる。しかもこの炉床補修は、操業工程で生成するスラグをそのまま有効に活用する自己補修作用によって行なうもので、操業開始期に使用する初期保護層形成用素材を除けば、その後は補修材を外部供給する必要もないので、極めて経済的な方法である。また、上記初期保護層形成用材料としてリサイクルスラグを使用すれば更に経済的となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用される円形移動床型還元溶融炉を例示する概略説明図である。
【図2】図1におけるA−A線断面相当図である。
【図3】図1における移動床回転方向に展開して示す断面説明図である。
【図4】本発明を採用した時のスラグ堆積物層の形成状況を例示する概念図である。
【図5】本発明の他の実施例にかかる修復状況を示す概念図である。
【図6】本発明の更に他の実施例にかかる炉床補修状況を示す概念図である。
【図7】本発明の更に他の実施例にかかる炉床補修状況を示す概念図である。
【図8】粉状炭素物質の上敷を採用した時の炉床修復状況を示す概念図である。
【図9】粉状炭素物質の上敷を採用した他の炉床修復状況を示す概念図である。
【符号の説明】
1 移動炉床
2 炉体
3 燃焼バーナ
4 原料(及び副原料)装入装置
6 排出装置
7 炉床耐火物
8 初期保護層
T スラグ堆積物層
G 原料塊成物
Fe 金属鉄(粒状鉄)
Fes 微細粒鉄(残留鉄分)
Sg スラグ
Sgs 残留スラグ
CL 粉状炭素物質
K 仕切り板
C 冷却部材
Claims (10)
- 炭素質還元剤と酸化鉄を含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床耐火物上に供給して加熱し酸化鉄を還元溶融した後、得られる金属鉄を冷却してから前記炉外へ排出して回収する金属鉄の製法であって、上記還元溶融過程で生成するスラグを含む堆積物層を前記炉床耐火物上に形成することにより、炉床耐火物を保護しつつ金属鉄を製造するものであり、
排出装置により、前記堆積物層の全部または一部を、該堆積物層中に残存する金属鉄と共に除去する工程を含み、
前記排出装置の刃先部と前記炉床耐火物表面との間隔を調整することにより、前記堆積物層の厚さを調整する
ことを特徴とする金属鉄の製法。 - 前記堆積物層の表層部に、該堆積物の融点調整用添加剤を定期的もしくは連続的に供給する請求項1に記載の製法。
- 前記堆積物層を固液共存状態にしてから除去する請求項1または2に記載の製法。
- 前記還元溶融炉の炉床下部を強制冷却することにより、前記堆積物層の凝固・形成を促進する請求項1〜3のいずれかに記載の製法。
- 前記還元溶融炉の操業開始期に、前記炉床耐火物上に予め初期保護層を形成しておく請求項1〜4のいずれかに記載の製法。
- 前記初期保護層がアルミナを含む酸化物である請求項5に記載の製法。
- 前記初期保護層が、前記還元時に生成するスラグと略同一組成となる様に予め成分調整した鉱石混合物もしくはリサイクルスラグである請求項5に記載の製法。
- 前記還元溶融炉の操業中に生じた前記堆積物層表面の窪みを、前記還元時に生成するスラグと略同一組成となる様に予め成分調整した鉱石混合物もしくはリサイクルスラグで充填して補修する請求項1〜7のいずれかに記載の製法。
- 前記塊成物を装入するに先立って、予め粉状炭素物質を層状に敷き詰める請求項1〜8のいずれかに記載の製法。
- 前記粉状炭素物質中に、前記融点調整用添加剤を配合しておく請求項9に記載の製法。
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