図5に示す高周波切替回路30では、アンテナを1つだけ動作させる状態と、2つのアンテナを動作させる状態とを切り換え制御するために、2つのスイッチ回路38,39が必要であった。高周波回路とアンテナとの間を通電する信号の損失は、高周波回路とアンテナとの間の信号経路上に設けられるスイッチの数に応じて増加するので、高周波切替回路30のように、2つのスイッチ回路が設けられている場合には、信号損失の低下が難しいという問題が生じる。また、2つのスイッチ回路を設けることによって、部品コストが掛かるので装置の低コスト化の妨げになるという問題や、回路の小型化が難しくなるという問題が生じる。
また、図5に示す高周波切替回路30は、上述したように、受信期間中と、送信期間中とでアンテナ35A,35Bの動作状態を切り換えるだけの構成のものであることから、例えば、何らかの原因によって、良好に無線通信を行うことができる信号送信方向や受信信号到来方向が変化したときに、その良好な無線通信方向の変化に応じてアンテナの指向性を切り換えること(つまり、ダイバーシチ制御)を行うことができない。
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的は、アンテナ指向性を切り換えるダイバーシチ制御を行うことができ、また、低仰角方向の通信感度の向上を図ることができ、さらに、スイッチ回路の設置数を削減して信号の低損失化や低コスト化や回路の小型化を図ることができるダイバーシチアンテナ装置およびそれを備えた無線通信機を提供することにある。
上記目的を達成するために、この発明は次に示す構成をもって前記課題を解決するための手段としている。すなわち、この発明のダイバーシチアンテナ装置は、間隔を介して配置される第1と第2の2つのアンテナと、無線通信用の高周波回路から供給される送信用の信号を第1と第2の各アンテナに分配供給する機能を備えた信号分配回路と、この信号分配回路から第1のアンテナへの信号経路上に設けられて第1のアンテナへの信号の供給と供給停止を切り換え制御するダイバーシチ制御用スイッチ部とを有し、ダイバーシチ制御用スイッチ部の切り換え動作により、第1と第2の2つのアンテナによる無線通信動作状態と、第2のアンテナだけによる無線通信動作状態とが切り換わり無線通信動作状態に応じてアンテナ指向性が切り換わる構成と成しており、第1と第2の2つのアンテナはそれぞれ等方性のアンテナにより構成され、前記信号分配回路から第1と第2の各アンテナにそれぞれ分配供給される信号の位相が等しくなるように、信号分配回路から第1のアンテナに至るまでの第1の信号通路の電気長と、信号分配回路から第2のアンテナに至るまでの第2の信号通路の電気長とがそれぞれ設定されており、第1と第2の2つのアンテナによる無線通信動作状態のときには、第1と第2の各アンテナから外部に送信された信号は同相合成される構成と成し、さらに、前記第1の信号通路は、前記信号分配回路からダイバーシチ制御用スイッチ部に至るまでの回路側通路と、ダイバーシチ制御用スイッチ部から第1のアンテナに至るまでのアンテナ側通路とを有して構成され、また、前記第2の信号通路の分岐部からダイバーシチ制御用スイッチ部に伸びる分岐通路が設けられており、前記ダイバーシチ制御用スイッチ部は、その分岐通路と、アンテナ側通路とのうちの何れか一方側を回路側通路に切り換え接続させる構成と成し、ダイバーシチ制御用スイッチ部の切り換え動作によって回路側通路が分岐通路に切り換え接続されている場合には、信号分配回路から回路側通路とダイバーシチ制御用スイッチ部を介して分岐通路に流れ込んだ信号と、第2の信号通路を通電している信号とが、第2の信号通路の分岐部で合成される構成と成しており、この分岐部で合成される2つの信号の位相が等しくなるように、信号分配回路から分岐部に至るまでの第2の信号通路部分の電気長と、信号分配回路から回路側通路とダイバーシチ制御用スイッチ部と分岐通路を通って分岐部に至るまでの信号通路の電気長とがそれぞれ設定されていることを特徴としている。
この発明によれば、第1と第2の2つのアンテナを設け、これら2つのアンテナを同時に動作させる状態と、第2のアンテナだけを動作させる状態とを切り換えることができる構成を備えている。また、この発明では、第1と第2の2つのアンテナが同時に動作しているときには、それら第1と第2の各アンテナからそれぞれ外部に送信された信号が同相合成される構成を備えている。このため、第1と第2の2つのアンテナが同時に動作しているときには、第1と第2の2つのアンテナが並設されている例えば基板の上方側から第1と第2の2つのアンテナを見たときの第1や第2のアンテナによるアンテナ指向性を前記基板上に投影したときのアンテナ指向性(以下、水平面内のアンテナ指向性と記す)は、第1と第2のアンテナの並び方向に略直交する方向となる。
また、この発明では、上記のように第1と第2の各アンテナからそれぞれ送信(放射)された信号を合成させ当該合成後の信号により無線通信を行うことができる程度の間隔をもって、第1と第2の2つのアンテナが並設されている。このため、この発明では、第1と第2の2つのアンテナはそれぞれ等方性のアンテナにより構成されているが、互いに影響し合って、第2のアンテナだけが動作しているときの水平面内のアンテナ指向性は、等方性ではなく、第1と第2のアンテナの並び方向に強い指向性となる。
したがって、第1と第2の2つのアンテナを同時に動作させる状態と、第2のアンテナだけを動作させる状態とを切り換えることによって、アンテナ指向性を切り換えることができて、ダイバーシチ制御を行うことができる。この発明では、ダイバーシチ制御によって、互いに直交する二方向のうちの選択された一方側にアンテナ指向性が切り換わるので、アンテナ指向性の切り換え変化を大きくすることができる。
また、第1と第2の2つのアンテナを同時に動作させているときのアンテナ指向性の強い方向は、第2のアンテナだけが動作しているときにアンテナ指向性が弱い方向である。また反対に、第2のアンテナだけが動作しているときのアンテナ指向性の強い方向は、第1と第2の2つのアンテナを同時に動作させているときにアンテナ指向性が弱い方向である。つまり、第1と第2の2つのアンテナが動作している状態と、第2のアンテナだけが動作している状態とは、互いにアンテナ指向性の弱い方向を補うようなアンテナ指向性を示すことから、ダイバーシチアンテナ装置全体で見ると、当該ダイバーシチアンテナ装置は水平面内においてヌル点がなく全方向に良好に無線通信を行うことができる。これにより、この発明において特有な構成を備えることによって、無線通信に対する信頼性の高いダイバーシチアンテナ装置およびそれを備えた無線通信機を提供することができる。
さらに、この発明では、2つのアンテナを設けたので、1つのアンテナだけが設けられている場合よりも次に示すようにアンテナ利得を向上させることができる。すなわち、2つのアンテナを動作させているときには、2つのアンテナの送信用の信号を合成させ、しかも、その合成は同相合成であるので、2つのアンテナの送信用の信号は同相合成により強め合うこととなり、1つのアンテナだけが設けられている場合よりも、アンテナ利得を向上させることができる。また、第2のアンテナだけを動作させている場合でも、第1と第2の2つのアンテナを並設したことにより、第2のアンテナは、第1と第2のアンテナの並び方向に強いアンテナ指向性を持つこととなり、そのアンテナ指向性の強い方向のアンテナ利得は、1つのアンテナだけが設けられている場合よりも向上する。よって、この発明では、2つのアンテナを同時に動作させているときはもちろんのこと、第2のアンテナだけが動作しているときでも、1つのアンテナだけが設けられている場合よりもアンテナ利得を向上させることができる。また、この発明の構成を備えることによって、低仰角方向のアンテナ利得を向上できることが本発明者の実験によって確認されている。
さらに、この発明では、ダイバーシチ制御用スイッチ部を1つ設けるだけでダイバーシチ制御が可能な構成であるので、2つのスイッチが必要な構成に比べて、信号の損失を小さく抑制できるし、また、部品コストを削減することができ、さらに、回路の小型化を図ることができる。これにより、無線通信感度が高く通信性能が良いのにも拘わらず、小型で安価なダイバーシチアンテナ装置およびそれを備える無線通信機を提供することができる。
無線通信用の周波数の信号波長をλとした場合に、第1と第2の2つのアンテナ間の間隔は、λ/3以上、かつ、λ/2以下の範囲内の間隔である構成を備えることにより、2つのアンテナが離れすぎて2つのアンテナの送信用の信号を合成させてもアンテナ利得を向上できないという問題や、2つのアンテナが近すぎて2つのアンテナ間で相互干渉が生じて送信用の信号を効率良く放射することができないという問題を回避できて、良好な無線通信状態を得ることができる。
さらに、この発明によれば、第1の信号通路は、信号分配回路からダイバーシチ制御用スイッチ部に至るまでの回路側通路と、ダイバーシチ制御用スイッチ部から第1のアンテナに至るまでのアンテナ側通路とを有して構成され、また、第2の信号通路の分岐部からダイバーシチ制御用スイッチ部に伸びる分岐通路が設けられており、ダイバーシチ制御用スイッチ部は、その分岐通路と、アンテナ側通路とのうちの何れか一方側を回路側通路に切り換え接続させるため、次に示すような効果を得ることができる。つまり、ダイバーシチ制御用スイッチ部の切り換え動作によって、第1のアンテナへの信号供給が停止されている場合でも、高周波回路から出力された送信用の信号は、信号分配回路でもって第1のアンテナ側と第2のアンテナ側とに分配されるが、その第1のアンテナ側に分配された信号を分岐通路を介して第2のアンテナ側に供給することができる。このため、第2のアンテナだけが動作しているときには、高周波回路から出力された送信用の信号のほぼ全てを損失少なく第2のアンテナに供給することが可能となる。これにより、第2のアンテナだけによる無線通信動作状態のときにも、第1と第2の2つのアンテナによる無線通信動作状態のときと同様のアンテナ利得でもって無線通信を行うことができる。
また、ダイバーシチ制御用スイッチ部の切り換え動作によって信号分配回路と第1のアンテナとの間が信号接続されているときに、第2の信号通路の分岐部から分岐通路を介してダイバーシチ制御用スイッチ部側をみたときに当該ダイバーシチ制御用スイッチ部側がオープンとなるインピーダンスを分岐通路に持たせる構成を備えることにより、第2の信号通路を通電している信号の一部が第2の信号通路から分岐通路に無用に流れ込む事態を防止することができる。これにより、信号損失を小さく抑制することができる。
なお、もちろん、この発明における信号分配回路や信号通路には、送信用の信号の導通経路とは逆向きの経路でもって、第1や第2のアンテナで受信された信号を導通させることができる。このため、本発明の構成を備えることによって、第1と第2の2つのアンテナが両方共に動作しているときに第1と第2の2つのアンテナでそれぞれ受信された信号は、それぞれ、信号分配回路に伝送され当該信号分配回路で同相合成される。この同相合成後の受信信号を無線通信用の高周波回路に供給することができる。
以下に、この発明に係る実施形態例を図面に基づいて説明する。
図1には本発明に係るダイバーシチアンテナ装置の一実施形態例の回路構成が示されている。このダイバーシチアンテナ装置1は、第1のアンテナ2と、第2のアンテナ3と、信号分配回路であるウィルキンソン型ハイブリッド回路4と、このハイブリッド回路4と第1のアンテナ2とを接続するための第1の信号通路5と、ハイブリッド回路4と第2のアンテナ3とを接続するための第2の信号通路6と、第1の信号通路5に介設されるダイバーシチ制御用スイッチ部7と、第2の信号通路6の分岐部Bからダイバーシチ制御用スイッチ部7に伸びる分岐通路8とを有して構成されている。
すなわち、この実施形態例では、第1と第2の2つのアンテナ2,3は、それぞれ、モノポールアンテナにより構成されており、それらアンテナ2,3は、互いに間隔を介し垂直偏波の電波を通信することができるように例えば基板に設置されている。この実施形態例では、それらアンテナ2,3間の間隔は、後述する無線通信動作状態において良好な無線通信を行うことができるように、アンテナ2,3が設置されている基板の形状等を考慮して、無線通信用の周波数の信号波長をλとした場合に、λ/3以上、かつ、λ/2以下の範囲内の適宜な間隔となっている。
なお、モノポールアンテナには、例えば、棒状の導体から成る構造のものや、誘電体基体にモノポールアンテナとして機能する放射電極が形成されて成る構造のもの等というように、様々な構成があり、ここでは、何れの構成のモノポールアンテナをもアンテナ2,3として設けてよく、アンテナ2,3は、モノポールアンテナであれば、その構成は特に限定されるものではない。
ウィルキンソン型ハイブリッド回路4は、図1に示されるような3つの信号入出力端子F,G,Hを有している。この実施形態例では、ハイブリッド回路4の端子Hは、無線通信機に設けられている無線通信用の高周波回路10に接続され、端子Gは第1の信号通路5に接続され、端子Fは第2の信号通路6に接続されている。
第1の信号通路5にはダイバーシチ制御用スイッチ部7が介設されており、この実施形態例では、第1の信号通路5において、ハイブリッド回路4の端子Gからダイバーシチ制御用スイッチ部7に至るまでの信号通路部分は回路側通路11と呼び、ダイバーシチ制御用スイッチ部7からアンテナ2に至るまでの信号通路部分はアンテナ側通路12と呼ぶ。
ダイバーシチ制御用スイッチ部7は、SPDT(Single-Pole-Double-Throw)スイッチにより構成されており、回路側通路11を、分岐通路8とアンテナ側通路12との何れか一方側に切り換え接続させる構成を備えている。換言すれば、ダイバーシチ制御用スイッチ部7は、ハイブリッド回路4からアンテナ2への信号の供給と供給停止を切り換え制御する構成を備えている。このダイバーシチ制御用スイッチ部7は、例えば、無線通信機に設けられている制御装置15により制御される。
この実施形態例では、ダイバーシチ制御用スイッチ部7の切り換え動作によって、回路側通路11とアンテナ側通路12が接続されている場合には、ダイバーシチアンテナ装置1は、次に述べるように2つのアンテナ2,3による無線通信動作状態となる。つまり、例えば、高周波回路10から送信用の信号が出力されると、その送信用の信号は端子Hからハイブリッド回路4内に流れ込み、当該ハイブリッド回路4によって、その送信用の信号は、端子G側と、端子F側とに、1/2ずつ分配される。そして、端子Gから第1の信号通路5(回路側通路11)に送信用の信号が分配供給されると共に、端子Fから第2の信号通路6に送信用の信号が分配供給される。そして、回路側通路11に供給された送信用の信号は、ダイバーシチ制御用スイッチ部7とアンテナ側通路12を通ってアンテナ2に伝達される。また、第2の信号通路6に供給された送信用の信号は、第2の信号通路6を通ってアンテナ3に伝達される。アンテナ2,3は、信号供給によって、それぞれ、励振して送信用の信号を放射する。
この実施形態例では、アンテナ2,3にそれぞれ供給される信号の位相が等しくなるように、ハイブリッド回路4の端子Gからアンテナ2に至るまでの第1の信号通路5の電気長と、ハイブリッド回路4の端子Fからアンテナ3に至るまでの第2の信号通路6の電気長とが、それぞれ、ハイブリッド回路4の端子Hから端子F,Gに至るまでの信号通路の電気長や、ダイバーシチ制御用スイッチ部7を考慮して、設定されている。これにより、この実施形態例では、アンテナ2,3からそれぞれ放射された送信用の信号は同相となり、それら送信用の信号は同相合成される。このため、送信用の信号は強め合って振幅が大きくなる。この同相合成後の送信用の信号によって無線通信が行われる。
このときのアンテナ2,3による水平面内のアンテナ指向性は、図2に示される実線Aに示されるような指向性となる。その図2の実線Aに示されるアンテナ指向性は、アンテナ2,3が図2に示すy方向に間隔を介して基板上に配置されている場合に当該アンテナ2,3を基板の上方側から見下ろしたときのアンテナ2,3によるアンテナ指向性を基板面上に投影した水平面内でのアンテナ指向性である。つまり、ダイバーシチアンテナ装置1は、2つのアンテナ2,3による無線通信動作状態であるときには、水平面内においてx方向(アンテナ2,3の並び方向に略直交する方向)に強い指向性を持つ。
アンテナ2,3が両方共に動作状態であるときに、例えば、無線通信の信号がアンテナ2,3に到来して各アンテナ2,3が励振して信号を受信すると、アンテナ2の受信信号は、アンテナ側通路12とダイバーシチ制御用スイッチ部7と回路側通路11を通ってハイブリッド回路4の端子Gに伝送される。また、アンテナ3の受信信号は、第2の信号通路6を通ってハイブリッド回路4の端子Fに伝送される。この実施形態例では、第1と第2の信号通路5,6の電気長は前述のように設定されているので、アンテナ2から端子Gに伝送された受信信号と、アンテナ3から端子Fに伝送された受信信号とは、ハイブリッド回路4内を送信用の信号の導通経路とは逆向きに通電して、同相合成される。これにより、受信信号を強めることができる。この同相合成後の受信信号は、ハイブリッド回路4の端子Hから高周波回路10に向けて出力され、当該高周波回路10でもって予め定められた信号処理が行われる。このような受信時のアンテナ2,3によるアンテナ指向性は、送信時と同様に、図2に示す実線Aに示されるようなx方向に強い指向性となっている。
なお、第1の信号通路5や第2の信号通路6には、必要に応じて、DCカット用のコンデンサが設けられる場合がある。この場合には、そのDCカット用のコンデンサを考慮して第1の信号通路5や第2の信号通路6の電気長の設計が行われるものである。
ところで、ダイバーシチ制御用スイッチ部7の切り換え動作によって、回路側通路11とアンテナ側通路12が接続されて(換言すれば、ハイブリッド回路4とアンテナ2が信号接続されて)第1と第2の2つのアンテナ2,3による無線通信動作状態となっているときに、第2の信号通路6を通電している信号の一部が分岐部Bから分岐通路8に流れ込んで信号損失が増加することが懸念される。このため、この実施形態例では、ダイバーシチ制御用スイッチ部7によって回路側通路11とアンテナ側通路12が接続されているときに、第2の信号通路6の分岐部Bから分岐通路8を通してダイバーシチ制御用スイッチ部7側を見たときに当該ダイバーシチ制御用スイッチ部7側がオープンとなるインピーダンスを分岐通路8に持たせている。
これにより、ダイバーシチ制御用スイッチ部7の切り換え動作によって、回路側通路11とアンテナ側通路12が接続されているときに、分岐通路8のスイッチ部側端部からダイバーシチ制御用スイッチ部7側を見たときのインピーダンスは、図3のスミスチャートに示す点PCで表されるインピーダンスであるのに対して、第2の信号通路6の分岐部Bから分岐通路8を通してダイバーシチ制御用スイッチ部7側を見たときのダイバーシチ制御用スイッチ部7側のインピーダンスは、図3のスミスチャートの点PBで表されるインピーダンスとなっている。つまり、分岐部Bから分岐通路8を通してダイバーシチ制御用スイッチ部7側を見たときに当該ダイバーシチ制御用スイッチ部7側はオープンとなっており、第2の信号通路6を通電している信号の一部が分岐部Bから分岐通路8側に流れ込む事態を防止することができて、信号損失の増加を抑制することができる。
この実施形態例では、ダイバーシチ制御用スイッチ部7の切り換え動作によって、回路側通路11が分岐通路8に接続されているときには、ダイバーシチアンテナ装置1は、次に述べるようなアンテナ3だけによる無線通信動作状態となる。つまり、例えば、高周波回路10から送信用の信号が出力されると、その送信用の信号は端子Hからハイブリッド回路4内に流れ込み、当該ハイブリッド回路4によって、その送信用の信号は、端子G側と、端子F側とに、1/2ずつ分配される。そして、端子Fから第2の信号通路6に送信用の信号が分配供給されると共に、端子Gから回路側通路11に送信用の信号が分配供給されるが、ダイバーシチ制御用スイッチ部7により回路側通路11は分岐通路8に接続されているので、回路側通路11に供給された送信用の信号は、ダイバーシチ制御用スイッチ部7と分岐通路8を通って第2の信号通路6の分岐部Bに至る。この分岐部Bにおいて、ハイブリッド回路4の端子Fから第2の信号通路6を通電してきた送信用の信号と、ハイブリッド回路4の端子Gから回路側通路11とダイバーシチ制御用スイッチ部7と分岐通路8を通ってきた送信用の信号とが合成される。
例えば、それら合成される信号が互いに逆相であると、打ち消し合って信号は減衰してしまうので、そのような事態を回避するために、この実施形態例では、分岐部Bで合成される信号が同相となるように、ハイブリッド回路4の端子Fから分岐部Bに至るまでの信号通路部分の電気長と、ハイブリッド回路4の端子Gから回路側通路11とダイバーシチ制御用スイッチ部7と分岐通路8を通って分岐部Bに至るまでの信号通路の電気長とが、それぞれ、ハイブリッド回路4の端子Hから端子F,Gに至るまでの信号通路の電気長を考慮して、設定されている。なお、その電気長を設定する際に、ハイブリッド回路4の端子Fから分岐部Bに至るまでの第2の信号通路6部分や、ハイブリッド回路4の端子Gから回路側通路11とダイバーシチ制御用スイッチ部7と分岐通路8を介して分岐部Bに至るまでの信号通路には、必要に応じて、DCカット用のコンデンサが設けられる場合がある。この場合には、もちろん、そのDCカット用のコンデンサを考慮して電気長が設定される。
上記のように電気長が設定されていることによって、分岐部Bにおいて、第2の信号通路6を通電している送信用の信号と、分岐通路8を流れてきた送信用の信号とは同相合成し、強め合って振幅が大きくなる。この合成後の信号がアンテナ3に供給されてアンテナ3が励振して送信用の信号が無線送信される。このとき、アンテナ2には送信用の信号は供給されないので、アンテナ2は休止状態である。
このように、ダイバーシチ制御用スイッチ部7によって回路側通路11が分岐通路8に接続されているときには、アンテナ3だけによる無線通信が行われる。アンテナ3は等方性のアンテナである。等方性のアンテナは、図2の点線Cに示されるような水平面内のアンテナ指向性を持つ。つまり、等方性のアンテナは、水平面内において無指向性となるものであるが、この実施形態例では、アンテナ2,3が、λ/3〜λ/2の範囲内の間隔をもって並設されているので、アンテナ3のみによる無線通信動作状態であっても、アンテナ2の影響を受けて、アンテナ3のアンテナ指向性は、図2の鎖線Bに示されるように、y方向(つまり、アンテナ2,3の並び方向)に強くなる。つまり、ダイバーシチ制御用スイッチ部7の切り換え動作により、アンテナ3だけによる無線通信動作状態であるときには、ダイバーシチアンテナ装置1のアンテナ指向性は、y方向となる。
また、ダイバーシチ制御用スイッチ部7の切り換え動作により回路側通路11が分岐通路8に接続されているときに、無線通信により信号がアンテナ3に到来しアンテナ3が励振して信号を受信すると、その受信信号はアンテナ3から出力され、分岐部Bで、第2の信号通路6を通ってハイブリッド回路4の端子Fに至る信号と、分岐通路8とダイバーシチ制御用スイッチ部7と回路側通路11を通ってハイブリッド回路4の端子Gに至る信号とに分流して、それぞれハイブリッド回路4に至る。そして、それら端子F,Gに達した受信信号は、ハイブリッド回路4内を、送信用の信号の導通経路とは逆向きに通電して合成される。この実施形態例では、ハイブリッド回路4の端子Fから分岐部Bに至るまでの第2の信号通路6部分の電気長と、ハイブリッド回路4の端子Gから回路側通路11とダイバーシチ制御用スイッチ部7と分岐通路8を通って分岐部Bに至るまでの信号通路の電気長とが前記の如く信号の同相合成ができるように設定されているので、端子Gからハイブリッド回路4内に流れ込んだ受信信号と、端子Fからハイブリッド回路4内に流れ込んだ受信信号とは同相合成され、強め合って振幅が大きくなる。この同相合成後の受信信号がハイブリッド回路4の端子Hから高周波回路10に向けて出力される。この受信時におけるダイバーシチアンテナ装置1のアンテナ指向性は、送信時と同様に、図2の鎖線Bに示されるようなy方向となる。
したがって、この実施形態例では、ダイバーシチ制御用スイッチ部7によってアンテナ2,3による無線通信動作状態となっているときには、ダイバーシチアンテナ装置1は図2に示すx方向に強いアンテナ指向性を示す。また、ダイバーシチ制御用スイッチ部7によってアンテナ3だけによる無線通信動作状態に切り換えられたときには、ダイバーシチアンテナ装置1のアンテナ指向性はy方向に切り換えられる。すなわち、この実施形態例のダイバーシチアンテナ装置1では、ダイバーシチ制御用スイッチ部7の切り換え動作によって、アンテナ指向性の良好な方向が90°切り換わるために、良好なダイバーシチを実現することができる。
また、この実施形態例では、アンテナ2,3は等方性のアンテナであるために、アンテナ2,3による無線通信動作状態と、アンテナ3だけによる無線通信動作状態との何れの場合であっても、アンテナ利得が大きく劣化する方向が無い上に、アンテナ2,3による無線通信動作状態中のアンテナ指向性と、アンテナ3だけによる無線通信動作状態中のアンテナ指向性とは、互いにアンテナ利得がやや落ちる方向を補うような指向性となっている。このため、この実施形態例のダイバーシチアンテナ装置1は、図2の実線Aと鎖線Bを合わせたアンテナ指向性を持つこととなり、当該ダイバーシチアンテナ装置1のアンテナ指向性は、ヌル点(利得が非常に低い点)が無いアンテナ指向性となっている。また、図2の実線Aと鎖線Bを合わせたアンテナ利得(つまり、ダイバーシチアンテナ装置1のアンテナ利得)は、図2の点線Cに示される等方性アンテナ単独のアンテナ利得に比べて、何れの方向においても、利得が向上している。このことは、本発明者の実験(シミュレーション)により確認されている。
ところで、特許文献2には、図4に示されるような回路構成が示されている。この図4に示される構成では、高周波レベル検出器20によって、アンテナ22の受信信号のレベルを検出し、当該検出された信号レベルが予め定められた規定値よりも小さい場合には、スイッチ23の切り換え動作によって、無線通信用の高周波回路24が、アンテナ端子25と合成器26とスイッチ23を介してアンテナ21に接続される。これにより、2つのアンテナ21,22が両方共に高周波回路24に接続されている状態となって、2つのアンテナ21,22を用いて無線通信を行うことによって通信信号のレベルを確保する。
また、高周波レベル検出器20によって検出されたアンテナ22の受信信号のレベルが予め定められた規定値以上であるときには、スイッチ23の切り換え動作によって、アンテナ21は高周波回路24から切り離され、アンテナ22のみによって無線通信が行われる状態となる。また、アンテナ22(高周波回路24)は、合成器26とスイッチ23を介して高周波終端器27に接続される。これにより、アンテナ22による通信信号の一部が高周波終端器27に流れて、アンテナ22による通信信号のレベルを適切なレベルまで下げることができる。
このように、図4に示される構成では、スイッチ23の切り換え動作によって、2つのアンテナ21,22によって無線通信が行われる状態と、アンテナ22だけで無線通信が行われる状態とを切り換えることができる。しかしながら、この構成では、アンテナ22による通信信号のレベルを予め定められた適切なレベルに調整するために、無線通信状態を切り換える構成であり、この実施形態例のようなダイバーシチを行うための構成ではない。
また、特許文献2には、2つのアンテナ21,22が両方共に無線通信を行う状態であるときに、各アンテナ21,22からそれぞれ送信される信号の位相に関する記載、および、アンテナ21,22のそれぞれで受信された信号が合成器26で合成されるときの信号の位相に関する記載は全くない。このため、アンテナ21の通信信号(送信信号や受信信号)と、アンテナ22の通信信号とが合成されるときに、互いに位相がずれていることが考えられ、この場合には、通信信号の一部あるいは全部が打ち消し合って通信信号が減衰する虞がある。これに対して、この実施形態例では、2つのアンテナの通信信号を同相合成する構成であり、同相合成により通信信号を強めることができる構成となっている。
さらに、図4に示される構成では、アンテナ22のみの無線通信状態であるときには、アンテナ22の通信信号の一部が高周波終端器27に流れ込んで受信信号のレベルを下げる構成であるので、例えば、遠距離の地点との無線通信のためにアンテナ利得を向上させたい場合には、その構成は大きな妨げとなる。これに対して、この実施形態例では、1つのアンテナ3だけで無線通信を行う場合には、高周波回路10から出力された送信用の信号のほぼ全てをアンテナ3に供給できるし、また、アンテナ3で受信した信号のほぼ全てを高周波回路10に伝送することができる構成であり、アンテナ利得向上が容易となっている。
このように、この実施形態例に示されるダイバーシチアンテナ装置1は、図4に示される構成とは全く異なるものである。
この実施形態例のダイバーシチアンテナ装置1は、上記のように構成されている。次に、この実施形態例のダイバーシチアンテナ装置1を組み込んだ無線通信機の一実施形態例を説明する。この無線通信機には、ダイバーシチアンテナ装置1が設けられると共に、無線通信用の高周波回路10および制御装置15が設けられている。その制御装置15にはダイバーシチ制御部(図示せず)が設けられている。例えば、ダイバーシチ制御部は、ダイバーシチアンテナ装置1のダイバーシチ制御用スイッチ部7の切り換え動作によってアンテナ2,3による無線通信動作状態であるときの受信信号と、アンテナ3だけによる無線通信動作状態であるときの受信信号とを高周波回路10を介して取り込む。
そして、ダイバーシチ制御部は、その取り込んだ受信信号に基づいて、アンテナ2,3による無線通信動作状態と、アンテナ3だけによる無線通信動作状態とを比較して、より良好に無線通信を行うことができるのはどちらであるかを選択する。この選択動作によって、アンテナ2,3による無線通信動作状態を選択した場合には、ダイバーシチ制御部は、回路側通路11がアンテナ側通路12に接続されるようにダイバーシチ制御用スイッチ部7の切り換え動作を制御する。また、ダイバーシチ制御部は、前記選択動作によって、アンテナ3だけによる無線通信動作状態を選択した場合には、回路側通路11が分岐通路8に接続されるように、ダイバーシチ制御用スイッチ部7の切り換え動作を制御する。このように、ダイバーシチ制御部は、より良好な無線通信状態が得られるように、ダイバーシチ制御用スイッチ部7の切り換え動作を制御する。
なお、上記以外の無線通信機の構成には様々な構成があり、ここでは、上記以外の無線通信機の構成は何れの構成をも採用してよく、その説明は省略する。
なお、本発明はこの実施形態例の形態に限定されるものではなく、様々な実施の形態を採り得る。例えば、この実施形態例では、アンテナ2,3は、モノポールアンテナにより構成されていたが、アンテナ2,3は等方性のアンテナであればよく、モノポールアンテナに限定されるものではなく、例えば、ダイポールアンテナであってもよい。
また、この実施形態例では、信号分配回路として、ウィルキンソン型ハイブリッド回路4が設けられていたが、例えば、そのウィルキンソン型ハイブリッド回路4に代えて、リング型の90°ハイブリッド回路などの他のハイブリッド回路を設けてもよい。なお、ウィルキンソン型のハイブリッド回路4では、端子F,Gからそれぞれ出力される送信用の信号の位相は同相であったが、例えば、90°ハイブリッド回路(信号分配回路)を設けた場合には、2つの端子からそれぞれ分配出力される送信用の信号の位相は互いに逆相となる。このような信号分配回路から出力される送信用の信号の位相を考慮して、信号分配回路から第1のアンテナ2に至るまでの信号通路の電気長や、信号分配回路から第2のアンテナ3に至るまでの信号通路の電気長がそれぞれ設定されることとなる。