JP4178134B2 - 鉄系合金部材とアルミニウム系合金部材の接合方法 - Google Patents

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本発明は、鉄系合金部材とアルミニウム系合金部材を溶接により接合して得られる接合体の製造方法に関し、特にその溶接部の接合強度に優れた異種金属溶接接合体の接合方法に関するものである。
近年、排ガス規制など地球環境改善のため、車の軽量化による燃費改善が強く求められている。
アルミニウム(以下、アルミと略称することがある)は鋼と比べて比重が約三分の一と軽く、耐食性がよく、複雑形状の素材でも押出工法により比較的簡単に得られることと、アルミの材料特性とが相まってクラッシャブル性に優れているなどの特長を有しているため、車の軽量化に望ましい金属である。反面、鋼と比べてアルミは剛性および強度と材料コスト面で劣る。
従って、車の構成部品を鋼とアルミの各々の利点を活して使い分けてハイブリット化できれば、車の軽量化だけでなくリサイクル性、車の安全性向上にもつながる。
この鋼とアルミを併用するハイブリット化に当たっては、鋼とアルミの部品毎の具体的な使い分けやそれらの材料設計が重要となることはもちろんだが、両材料の接合技術が必須となる。
ところが、鉄系合金とアルミ系合金を溶接により溶解にして直接接合すると脆い金属間化合物が生成し、そのため十分な接合強度が得られず、実用化が極めて難しかった。このためこの溶接法に代えてカニカル接合法、ロー付け法、摩擦圧接法及びインサート材による接合工法が実用化されてきた。
しかし、これらの接合技術はいずれも一長一短があり、特に以下のような不利や問題を有しており、いまだ十分に満足できる接合法とはいえない状況にある。
(メカニカル接合法)
ボルト接合、リベット接合、ネジ接合、メカニカルクリンチ、ヘミング、メカニカル成形接合など、部材同士を機械的に接合する方法である。しかし、この方法は、接合部品の形状制約、接合精度、生産性、及び汎用性などの面で同質材料(鋼同士など)の溶接より一般的に劣る。
(ロー付け法)
部材同士を媒介となるロー材を溶かして接合する方法である。この方法は鋼とアルミの接合法としても提案(特許文献1など)されてはいるが、フラックスにより鋼、アルミの酸化皮膜を除去し、母材を溶解することなく、両金属の活性面とロー材とで適切な化合物を生成することが必要になる。この適切な化合物を得るためロー材の材料、接合品の材質・形状、接合強度、接合品質の信頼性に制約が付される。従って、接合の作業性、生産性、汎用性はやはり、同質材料(鋼同士など)の溶接より一般的に不利を伴う。
(摩擦圧接法)
部材同志を加圧しながら回転させ、その際の摺動に伴う摩擦熱を利用した固相接合である。しかし、この方法は加圧回転が必要なことから接合部品に形状制約があり、接合で生じるバリの処理が必要なこと、ビート゛溶接のような長手方向の溶接が難しいことやMg含有合金(5000系)の場合は酸化物(MgO)の発生により溶接が困難になるなど作業性、汎用性、生産性の面でやはり同質材料(鋼同士など)の溶接より一般的に劣る。
(インサート材接合法)
部材同志間にクラッド材をインサートしてスポット溶接などによって接合する方法である。しかし、この方法はクラッド材のインサートに伴う部品形状に制約が付されることと、作業性に劣ることおよびコスト面の課題を有し、やはり同質材料(鋼同士など)の溶接より一般的に劣るものである。
特開平5−111757号
本発明は、上述した従来の鋼とアルミニウムなど鉄系合金部材とアルミニウム系合金部材の接合技術の背景に鑑み、これらの不利や問題点を全面的に解消し、同質部材同志の溶接と実質的に変わらない優れた接合強度と高い生産性などの利点を享受し得る画期的な異種金属接合体ならびにその接合技術の開発と実用化をその課題としてなされたものである。
本発明はこのような課題の解決のために完成されたものであって、その要旨とする特徴は以下の通りである。
パイプ状の鉄系合金部材とパイプ状または棒状のアルミニウム系合金部材とを溶接により接合して異種金属接合体を製造する方法において、前記鉄系合金部材の内側に前記アルミニウム系合金部材を圧入した状態で、鉄系合金部材側から10 W/cm 以上の入熱密度のレーザーを照射、入熱して鉄系合金部材を溶解させるとともにその一部をアルミニウム系合金部材に喰い込ませるようにしてアルミニウム系合金部材を溶解して両者を溶接した後、10K/s以上の冷却速度で急冷凝固させ、これによって鉄系合金部材の再凝固相(A)とアルミニウム系合金部材の再凝固相(B)の境界相として形成される溶接接合部(C)が鉄にアルミニウムが4〜50原子%過飽和に固溶した組織とする異種金属接合体を得ることを特徴とする鉄系合金部材とアルミニウム系合金部材の接合方法。
本発明によれば、優れた接合強度を備えた鉄系合金部材とアルミニウム系合金部材の異種金属接合体を提供することができ、しかもレーザー溶接などの溶接法により直接接合することが可能なため高い生産性を実現でき、その実用性においても有利であるなど顕著な効果を奏するものである。
本発明者らは異種の金属である鋼(鉄系合金部材の例して代表させる)とアルミ(アルミニウム系合金部材例して代表させる)の接合について、従来困難が故に断念されている溶接法を見直し、その実現の可能性がないかどうか改めて検討を試みることにした。
溶接法による接合の大きな障害は前述の通り、その接合部にFeAl3、Fe2Al5などのアルミリッチな金属間化合物が発生し、これが接合強度を大幅に低下させてしまうことにある。
そこで、本発明者らは、この有害な金属間化合物の発生を阻止することを最大の命題として、種々の観点から研究、実験を積み重ねた結果、その極めて有効な解決策として次のような考え方に到達し、溶接法によっても接合部の強度に優れた鋼とアルミの接合体が得られると確信した。
(1)過飽和の固溶体相
本発明においては接合部の組織として、鉄中にアルミをその固溶限を超えて過飽和に固溶させた固溶体相を含むものとする。以下、この組織をFe−Al過飽和固溶体組織あるいは単に過飽和固溶体組織と言う。これによって、前述の脆い、鉄とアルミの金属間化合物の発生がなくなり、優れた接合強度がもたらされる。勿論、FeAlやFe3Alなどの鉄リッチな金属間化合物は後述する急冷凝固によりその強度低下を防止できるためこの組織中での存在を許容する。
そして、アルミニウムの母相に含まれる過飽和固溶体相は具体的には鉄にアルミニウムが4〜50%原子%固溶した状態が好ましい。これは、4原子%未満の固溶では上記の有害な金属間化合物が接合部の組織に一部混在して接合強度を低下させる恐れがあり、また50原子%を超えて固溶させることは技術的に困難であり、且つこれ以下の固溶量で十分な接合強度を保持できるからである。
(2)急冷凝固
接合部の組織を上記の過飽和の固溶体相として形成させるためには、接合部が急冷凝固される状態を作ることが重要となる。この急冷凝固により、上記金属間化合物が冷却過程で析出する余裕がなく、鉄中にアルミが過飽和に取り込まれたままで凝固することになる。しかも、この急冷凝固によって接合部の組織は母相のアルミ並びに前記過飽和固溶体相の結晶粒度が微細化された所謂急冷凝固組織となり、前記過飽和固溶体相組織と相俟ってさらに強度の高い接合部が得られることになる。
(3)レーザ溶接
前記過飽和固溶体相並びに急冷凝固組織を達成するのに好ましい溶接方法としてレーザー溶接法を採用する。このレーザー溶接法はアーク溶接法などと異なり、入熱密度(106W/cm2以上)が非常に高く、アスペクト比(溶け込み深さ/溶け込み幅)が極めて高い溶接ビードが得られる特徴がある。従って、鋼とアルミの接合部の溶け込み幅を小さくした状態で溶解接合に十分な入熱を瞬時に行うことができるため、入熱後の冷却が急速に進行し、接合部を急冷凝固させることができ、これにより接合部を急冷凝固組織とすることができると同時に過飽和固溶体相を得ることができるのである。また、レーザー溶接によって鋼とアルミを溶接する場合は、その入熱を鋼側から行うことが好ましい。
本発明を、以下に代表的な実験例を基にさらに詳述して行くことにする。
(実験例1)
図1に示すとおり、JIS316Lステンレスパイプ(鉄)1(12Φ×1.0t×40L)にJIS3003のアルミ棒材2を圧入したサンプルを炭酸ガスレーザー溶接機4(松下溶接システム製YB-L150A8、ノズル径:5Φ、溶接速度:400mm/分、出力:700Wm、出力形態:CW)を用いてステンレスパイプ側(上方)からレーザーを照射、入熱して接合した。なお、図において5は溶接ビードを示す。そして、接合後、試作品2本を引張試験を行ったところ、いずれもアルミ側で母材破断し、優れた接合強度を有することを確認した。
そこで、本発明者らは、かかる優れた接合強度を有する接合体が溶接法により得られた理由を解明するために種々の調査、解析を行った。
先ず、接合体の溶接部断面を顕微鏡(×10)にてマクロ観察を行った。図2は顕微鏡写真の模式図である。図1よりステンレスパイプ1の溶接をされた領域にはワイングラス状を呈したステンレス再凝固相A(以下、単に鉄再凝固相ということがある)が生成されており、その下部は砲弾状をなしてアルミ棒材2の中に没入した食込み部aとなっていることが分かる。そして、このステンレス鋼の食込み部aとアルミ棒材2の境界に両者の接合部Cが形成されている。Bはアルミ再凝固相を示している。
さらに、この接合体断面を顕微鏡(×100)によりミクロ観察を行った顕微鏡写真の模式図が図3である。図3から接合部Cはその両側の鉄再凝固相Aとアルミ再凝固相Bに複雑に絡み合った独立した境界相となっていることが知れる。
次に、鉄再凝固相A、アルミ再凝固相B及びこの接合部(接合境界相)Cを電子線マイクロアナライザー(島津製EPMA−1400)で面分析と線分析を行った。図4は面分析観察の結果で、黒色が100%鉄、白色が100%アルミで、この間の組成を濃淡で示したものであり、同図下欄の数値はAl%でこれに相当す部分を引き出し腺で示した。これより、接合境界相はアルミを10〜50原子%含んでいることが判明した。また、図5は鋼再凝固相からアルミ再凝固相(アルミの地)の部位まで線分析により図3の矢印Xに沿って測定した結果である。図5より前記食込み部a(図2)を形成している鉄再凝固相Aはアルミを4原子%以上含み、接合部Cではアルミ再凝固相側に向かって鉄(Fe)が減少すると共にアルミ(Al)が増加し、鉄対アルミが等量からなる点を経て、アルミ量が急上昇してアルミ100原子%のアルミ再凝固相に至ることが分る。ニッケル(Ni)も鉄(Fe)と同様な変化を示している。
また、この接合部をオージェ電子分光分析(AES)により、鉄再凝固相側、中間部及びアルミ再凝固相側の3箇所について組成分析を行った。表1がその結果を示すものである。
Figure 0004178134
表1の結果から接合部Cでは20〜29原子%のAlが存在していることが知れる。
また、同接合部CをSEM分析で組織観察した結果、数ミクロンから十数ミクロンの大きさの急冷凝固組織が認められた。
発明者らは、次にこの接合部Cに問題の金属間化合物が存在するかどうかを調査することにした。図6はX腺回折装置(理学電機製 RINT1500)を用いて接合部断面研磨面で測定を行ったX回折図形である。図から、検出されたピークはAl、Fe及びFe−Cr−Niに相当するものでFe−Alの化合物に相当するピークは一切検出されなかった
これらの結果から、接合部の組織は鉄に対するアルミの固溶限(0.15%)を大幅に超えた状態になっており、しかもFe−Al金属間化合物が検出できなかったことから、結局Fe−Alの過飽和固溶体相として存在しているとの確信を得た。
また、この接合部に隣接している鉄再凝固相の砲弾状の食込み部aについてもAlがその固溶限を超える4%以上含有されていることから、やはりFe−Alの過飽和固溶体相であることが知れる。この食込み部aにおける過飽和に固溶したAlは、レーザー溶接時に高温となって発生したアルミ蒸気が溶融鉄内に分散して凝固したためである。
そして、上記接合部における過飽和固溶体相は前述の如く急冷凝固によって得られたものであり、特にレーザー溶接が溶接法のなかで接合部が最も急冷される方式であること、鉄とアルミの融点差が1000℃以上あること、さらにアルミの熱伝導特性が極めて高いことなどにより、急冷凝固が容易に実現されたものといえる。ここで言う、急冷凝固に必要な冷却速度は10K/s以上であれば足り、好ましくは100K/s以上である。これによって、数μ〜10μ以下の微細な凝固組織が得られる。
次に本発明接合体の好ましい溶接条件などについて述べる。
十分な接合強度が得られるレーザー溶接条件は基本的には高エネルギー密度で鉄側から安定的に入熱し、溶解した鉄を短時間にアルミに適量砲弾状に食い込ませることを可能にすることである。この条件を満たすために、図7に示すように、まず、鉄(1)側からレーザー光(R)を照射して入熱を行い、溶融鉄(M)の内側に生成されたキーホール(K)内に金属蒸気(V)が封じ込められない様にし、この蒸気(V)による突沸を防ぐことが必要になる。また溶融鉄(M)が飛び散らないよう入熱を調整する必要がある。溶融鉄(M)がアルミ(2)に差し込むことにより凝固後鉄側表面に引けによる凹みが発生し易い。凝固表面の過度な凹み発生を防ぐためには、入熱は溶接深さ方向だけでなく、凝固時に入熱周辺から溶融鉄(M)量を補充するため、幅方向にも行う必要がある。この幅方向の入熱はキーホール(K)生成に伴って得られる金属蒸気(V)を鉄表面上すなわちキーホール(K)の上方近傍でプラズマ発光させて、ここに発生したプラズマ雲(P)継続的に維持させることが重要となる。
このような状況を達成するための具体的な条件としては、レーザー出力は650〜850W(特に700〜750W)とし、溶接速度は375〜400mm/分とすることが好ましい。
以下に、実施例として複数の実験例を挙げて本発明の効果を明確にする。
(実施例)
SUS304規格パイプとアルミ棒材、パイプをそれぞれ圧入した状態で、レーザー溶接機(松下溶接システム製YB−L150A8;アルゴンシール、ノズル径5φ)により溶接条件を変化させて接合試験を行った。その結果を表2に示す。No1〜No3は本発明の実施例(No1は前述の実験例と同じ)、No4〜No8は比較例である。SUSパイプは、No1〜5は12φ×1.0t×45L、No6〜7は12φ×1.0t×45Lの寸法のものを用いた。またアルミは、No1〜2は10φ×60L、No3〜5及びNo8は10φ×1.4t×60L,No6は14φ×40L、No7は17.3φ×2.0t×40Lの寸法のものを用いた。
Figure 0004178134
表2から明かなように、本発明の実施例によれば何れも比較例に比べて著しく高い接合強度を有する鉄(SUS)とアルミの接合体が得られており、本発明の優れた効果を実証するものである。
実験例1におけるステンレスパイプとアルミ棒材のレーザー接合(溶接)の概要を示す斜視図。 実験例1においてレーザー接合された接合(断面)の顕微鏡(×10)観察結果に基づく模式図。 実験例1においてレーザー接合された接合(断面)の顕微鏡(×100)観察結果に基づく模式図。 実験例1においてレーザー接合された接合(断面)の面分析結果を示すAl組成分布図。 実験例1においてレーザー接合された接合(断面)の腺分析結果を示す図。 実験例1においてレーザー接合された接合部(断面)のX線回折図。 本発明におけるレーザー溶接による鉄とアルミの接合時の状態を示す模式図。
符号の説明
1:ステンレスパイプ 2:アルミ棒
A:鉄(ステンレス鋼)再凝固相 B:アルミ再凝固相 C:接合部
a:食込み部 4:レーザー溶接機 5:溶接ビード
R:レーザー光 M:溶融鉄 K:キーホール V:金属蒸気
P:プラズマ雲

Claims (1)

  1. パイプ状の鉄系合金部材とパイプ状または棒状のアルミニウム系合金部材とを溶接により接合して異種金属接合体を製造する方法において、前記鉄系合金部材の内側に前記アルミニウム系合金部材を圧入した状態で、鉄系合金部材側から10 W/cm 以上の入熱密度のレーザーを照射、入熱して鉄系合金部材を溶解させるとともにその一部をアルミニウム系合金部材に喰い込ませるようにしてアルミニウム系合金部材を溶解して両者を溶接した後、10K/s以上の冷却速度で急冷凝固させ、これによって鉄系合金部材の再凝固相(A)とアルミニウム系合金部材の再凝固相(B)の境界相として形成される溶接接合部(C)が鉄にアルミニウムが4〜50原子%過飽和に固溶した組織とする異種金属接合体を得ることを特徴とする鉄系合金部材とアルミニウム系合金部材の接合方法。
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