JP4163796B2 - ピログルタミン酸量の測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、蛋白質またはペプチド中のピログルタミン酸量を測定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
蛋白質のアミノ酸組成を調べる方法としては、例えば種々の特異的ペプチダーゼを用いた加水分解処理や、特定の部位を切断する化学試薬による切断によってアミノ酸を分解し、生じたアミノ酸を高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」という)にて分析するのが一般的である。例えば、Association of Official Agricultural Chemists (AOAC)の定める方法("Official Methods of Analysis of AOAC International", AOAC INternational, MA, USA)は、過ギ酸によりシスチン、メチオニンをそれぞれシステイン、メチオニンスルホン酸とした後、塩酸で加水分解を行い、生じた遊離アミノ酸をアミノ酸分析計にて分析することによりアミノ酸の組成を調べる方法として一般的に用いられている。
ところが、こうした従来の加水分解による方法では、蛋白質またはペプチドのN末端に存在するグルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、ピログルタミン酸(pGlu)は全てGlu として遊離し、分析されるので、これら3種のアミノ酸を個々に分析することはできない。
【0003】
上記のアミノ酸のうち、Glnは、Gluと同様に非必須アミノ酸に分類され、上記のように加水分解法では両者いっしょに分析されていたが、その後の生理学的な研究の進歩の結果、Glnは条件的(conditionally)必須アミノ酸であることが明らかとなった。そこで、蛋白質やペプチド中のGln については、温和な酸性条件下で処理することにより生じたアンモニアを滴定してその変化によりGln量を推定する方法、加水分解前にビス(1,1-トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼンにて処理し、Gln、Asnをそれぞれ安定な誘導体であるジアミノ酪酸、ジアミノプロピオン酸に変換して測定する方法(Kuhn,K.S.ら、J.Agric.Food.Chem., 44,1808-1811 (1996))など、GlnのみをGluやpGluと区別して分析する方法が確立されている。
【0004】
一方、pGluは蛋白質またはペプチドのN末端がGln またはGluであった場合に、そのGlnまたはGlu中のα−アミノ基とγ−アミド基(あるいはカルボキシル基)とが縮合・環化して生じる分子内ラクタムである。pGluを含有する蛋白質またはペプチドとして甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TSH releasing hormone:TRH)やガストリン等のホルモンが知られているが、その量は天然の蛋白質中では非常に小さく、組成としては無視できる程度である。ところが最近になって、食品原料として工業的に調製されたペプチド中には比較的多量のpGluが含有されることが明らかとなってきた (Sato, K. et al, J. Agric. Food. Chem, 46,3403-3405(1998))。しかしながら、pGluについては、pGluのみをGlnやGluと区別して分析する方法がなく、その栄養学的な価値は未だ確定していないのが現状である。一方、このpGluに関する酵素としては、ピログルタミン酸アミノペプチダーゼ(以下、「pGlu−アミノペプチダーゼ」という)が知られている。
【0005】
pGlu−アミノペプチダーゼは動植物界に普遍的に存在する酵素であり、動物由来、微生物由来のものが工業的規模で製造され販売されている。微生物の中には生産した該酵素を培地中に分泌するものがあり、例えば、ピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)、バシラス・アミロリクファシエンス(Bacillus amy loliquefaciens) 、シュードモナス・フローレスンス(Pseudomonas fluorescens)、バシラス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、クレブシエラ・クロアカエ(Klebsiella cloacae)、ストレプトコッカス・ファエキウム(Strptococcus faecium)等が知られている。中でもピロコッカス・フリオサス、バシラス・アミロリクファシエンス由来のpGlu−アミノペプチダーゼは動物由来の該酵素よりも空気酸化、凍結乾燥、重金属等の障害に対する安定性に優れていることが知られている。しかしながら、このpGlu−アミノペプチダーゼを蛋白質またはペプチド中のpGlu量を測定する方法に用いることについては何ら検討されていない。
【0006】
従って、pGluの栄養学的な価値をはじめとする諸機能を解明する上で、蛋白質またはペプチド中の pGlu 量のみをGluやGlnと区別して簡便に測定する方法が望まれるところである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の課題は、蛋白質またはペプチド中のpGlu量を測定する方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは、ピロコッカス属に属する微生物由来のpGlu−アミノペプチダーゼが広い分子量範囲の蛋白質またはペプチドに対して安定した活性を示すことに着目し、これを利用して高分子量で複雑な組成を持った蛋白質またはペプチド中のN末端に存在するpGluの量のみを簡便に測定する方法を開発するに至った。
すなわち、本発明は、pGluを含有する蛋白質またはペプチドに、ピロコッカス属に属する微生物由来のpGlu−アミノペプチダーゼを作用させ、遊離するpGlu量を測定することを特徴とする、ピログルタミン酸量の測定方法である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の測定対象であるpGluを含有をする蛋白質またはペプチド(pGlu含有試料)としては、そのN末端にpGluを有し、かつその分子量が5,000以下である蛋白質またはペプチドであればいかなるものでもよく、例えば、ボンベシン、ガストリン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RH)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)等のホルモンペプチドの他、食品、飼料、医薬品等に使用される蛋白質またはペプチドでもよい。
【0010】
本発明において、上記pGlu含有試料に作用させるpGlu−アミノペプチダーゼは、ピロコッカス属に属する微生物由来のものであれば限定されないが、特にピロコッカス・フリオサス由来のpGlu−アミノペプチダーゼを使用することが好ましい。ピロコッカス・フリオサス由来のpGluアミノペプチダーゼは、具体的には、商品名「Pfu ピログルタメートアミノペプチダーゼ(Code.7334)」(寶酒造製)等の市販品を用いることができる。
【0011】
また、pGlu含有試料に作用させるpGlu−アミノペプチダーゼの量は、該試料中に含まれるpGlu含有量、酵素反応条件等により適宜選択されるが、例えば通常は、pGluアミノペプチダーゼを最終濃度 0.5〜50 mU/mlとなるように添加する。
以下に、本発明の、pGlu−アミノペプチダーゼを用いて蛋白質またはペプチド中のpGlu量を測定する好適な方法を具体的に説明する。
【0012】
基質となる蛋白質またはペプチドの溶液と水、及び緩衝液を混合し、これを500μl容のPCRチューブに入れ、pGlu−アミノペプチダーゼを 0.5〜50 mU/ml、好ましくは1.0〜10 mU/mlとなるように添加した後、直ちにサーマルサイクラーを用いてpH 5.0〜9.0、35〜75℃で 10〜240分間酵素反応させる。
反応終了後PCRチューブを氷上にて10℃まで冷却し、該チューブに1.5%の5-スルホサリチル酸を加えよく混和して蛋白質を凝固させ、0.22μmのメンブランフィルターで凝固した蛋白質をろ過することにより除蛋白操作を行なう。
これにより得られるろ液(サンプル液)中のpGlu量をHPLCにより分析する。この時、該ろ液(サンプル液)は測定直前まで−80℃で凍結保存しておく。
【0013】
本発明の方法において遊離pGlu量を分析するためのHPLCは、通常の同一の移動相を用いるHPLC(以下、単に「通常のHPLC」という)でもよいが、不要な成分の溶出時間を省いて1サンプルあたりの分析時間を短縮する観点から、以下に説明する改良HPLCで行なうことが好ましい。
本発明において改良HPLCとは、カラムスイッチ法を応用した方法で、インジェクターより導入された試料を予備カラムにて分離し、予備カラムの下流に設置されたスイッチにより流路を変更することによりpGluを含むフラクションのみを分析カラムに導入して精密に分離するという方法をいう。
【0014】
【実施例】
以下、参考例、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔参考例1〕 (Glu、GlnからpGluへの変換)
酵素反応に使用する緩衝液中でのGlu、GlnのpGluへの変換率を調べた。緩衝液は10mM 2-メルカプトエタノール、5mM EDTA/50mM Tris・HCl[(pH7.5;トリズマ塩基(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン;シグマ社製)121.1gを純水に溶解し、塩酸を用いてpHを7.5に調製した後、純水を加えて全量を1リットルとしたもの)]の水溶液とし、この10倍濃度のもの(以下、「10×緩衝液」という)を調製して使用した。
【0015】
500μl容PCRチューブに10×緩衝液 25μl、水 100μl、100 mMのGln(シグマ社製)またはGlu(関東化学製) 125μlを入れ、表1に示す反応条件下で各々処理した後、溶液中のpGlu量を下記の通常のHPLCの測定条件にて測定し、理論値に対する変換率を求めた。結果を表1および図1に示す。
【0016】
通常のHPLCの測定条件
分析カラム: Shodex Rspack C-811
溶出液: 3 mM HClO4
流量: 1 ml/分
検出波長: 220 nm
【0017】
【表1】
【0018】
図1より、Glnは温度・時間依存的に水溶液中で閉環し、pGluへ変換されることがわかる。また表1より、121℃、30分処理した場合には、Gln、GluのpGluへの変換率はそれぞれ93.8%、1.2%であることがわかる。
【0019】
〔実施例1〕(ピロコッカス・フリオサス由来のpGlu−アミノペプチダーゼを用いたpGlu量の測定)
(1)酵素反応
緩衝液は参考例1と同様のものを使用した。基質となるペプチドはヒトLH-RH(分子量1182.3;0.805 nmole/ ml)(シグマ社製)またはボンベシン(分子量 1619.9;0.576 nmole/ ml)(シグマ社製)を用い、酵素はピロコッカス・フリオサス由来のpGlu−アミノペプチダーゼ(商品名「Pfu ピログルタメートアミノペプチダーゼ(Code.7334)」;寶酒造製)0.5 mUを用いた。
【0020】
500 μl容のPCRチューブに各溶液(10×緩衝液 10 μl、水 30 μl、基質溶液 50 μl:計 90 μl)を入れ、Pfu pGlu−アミノペプチダーゼ 10 μlを添加後直ちにサーマルサイクラーを用いて、50℃で30, 60, 90, 120分間反応させた。反応終了後PCRチューブを氷上にて5分間冷却し、10μlの1.5% 5-スルホサリチル酸を加え20分間よく混和して蛋白質を凝固させ、これを0.22μmのメンブランフィルターで濾過することにより除蛋白操作を行った。
【0021】
(2)改良HPLCによる測定
(1)で得られたろ過液(以後、サンプル液という)を測定直前まで-80℃で凍結して保存した後、分析カラムの前に予備カラム(分析カラムと同じ充填剤を充填した予備カラム)2本を直列に繋ぎ、更に予備カラムと分析カラムの間にインジェクターを設けた改良HPLC(図2)に供した。サンプルを注入後、必要なピーク(pGlu)が予備カラムから溶出する3.0〜4.5分までの溶出液を、インジェクターにより流路をスイッチし、分析カラムへ送った。下記に示す改良HPLCの測定条件にてサンプル中のpGlu量を測定し、理論値に対する回収率を求めた。
【0022】
改良HPLCの測定条件
予備カラム: Shodex Rspack KC-LG(昭和電工)×2本
分析カラム: Shodex Rspack C-811(昭和電工)
流路スイッチ:インジェクター(Rheodyne社)
溶出液: 3 mM HClO4
流量:ポンプ1、ポンプ2とも1 ml/mim
検出波長: 220 nm
【0023】
(3)バシラス・アミロリクファシエンス由来のpGlu−アミノペプチダーゼを用いたpGlu量の測定
酵素としてバシラス・アミロリクファシエンス由来のpGlu−アミノペプチダーゼ(商品名「ピログルタメートアミノペプチダーゼ」;シグマ社製)10Uを用いる以外は上記(1)に従って酵素反応を行った後、上記(2)と同様に改良HPLCにてペプチド中のpGlu量を測定し、その回収率を算出した。
以上の結果をあわせて表2及び図3に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
表2及び図3に示されるように、ピロコッカス・フリオサス由来のpGlu−アミノペプチダーゼを用いた場合は、反応時間が60分以上の場合では、LH-RH、ボンベシンのどちらを基質にした場合でも回収率が85%以上であった。
更にボンベシンについては、60分以降にpGluが更に上昇し120分では回収率は125%であった。これは、ボンベシンの場合、そのN末端のアミノ酸配列が「pGlu-Gln-.....」であるため、酵素によってpGluを切り出した後に新たにGlnがN末に生じてしまい、それがpGluに変化して更に酵素によって切り出されているためと考えられる。
【0026】
以上の結果から、回収率が85%以上という高率が達成され、更にN末端から2番目のアミノ酸がGlnであってもその影響を受けないということから、ピロコッカス・フリオサス由来の pGlu−アミノペプチダーゼを用いるpGlu量測定方法において充分な結果の得られる反応時間は60分であることがわかる。
また、図3より、バシラス・アミロリクファシエンス由来のpGlu−アミノペプチダーゼを用いた場合は、60分間反応させた時点では、LH-RHの場合には回収率64.0%のpGluを切り出すものの、ボンベシンの場合には回収率は22.2%しかなかった。また、反応時間を120分とした場合でも、LH-RH、ボンベシンの回収率はそれぞれ78.4%、35.2%であった。
【0027】
このことから、バシラス・アミロリクファシエンス由来のpGlu−アミノペプチダーゼの反応性は、基質となるペプチドの分子量によって大きく異なることが明らかとなった。よってピロコッカス・フリオサス由来のpGlu−アミノペプチダーゼを使用することが好ましいことがわかる。
〔実施例2〕(ピロコッカス・フリオサス由来の pGlu−アミノペプチダーゼの作用特性) 基質として以下の表3に示す6種のペプチド溶液を用いる以外は実施例1と同様の操作を行ない、種々の分子量を有する各ペプチドからのpGlu量を測定して、理論値に対する回収率(%)を算出した。結果を表4に示す。
【0028】
【表3】
【0029】
【表4】
【0030】
この結果から、ピロコッカス・フリオサス由来の pGlu−アミノペプチダーゼの作用により、いずれの基質の場合でも回収率が85%以上であることが明らかである。
〔参考例2〕(改良HPLCと通常のHPLCによる測定結果の比較)
予めピロコッカス・フリオサス由来のpGlu−アミノペプチダーゼにより遊離させたpGluを含むモデルサンプル液(10×緩衝液 10μl、水30μl、10 mM pGlu 50μl、1.5% 5−アミノサリチル酸 10μl;計110μl)を用いる以外は実施例1と同様に改良HPLCにてサンプル中のpGlu測定を行った。遊離pGluのチャートを図4に示す。
【0031】
図4より、pGluは保持時間約21.5分のピークとして観測され、1サンプルの分析時間は26分で充分であることがわかった。
比較として、通常のHPLC測定条件(参考例1に記載)にて上記のモデルサンプル液の測定を行った場合の遊離pGluのチャートを図5に示す。
図5より、pGluは保持時間約18.6分のピークとして観測されるが、その後105分まで無関係のピークが出現し続け、1サンプルの分析には120分を要することがわかった。
【0032】
【発明の効果】
本発明の測定方法により、比較的広い範囲の分子量を有するpGlu含有蛋白質またはペプチド中のpGlu量を簡便にかつ短時間で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Gln、GluからpGluへの変換率の経時変化を示す。
【図2】改良HPLCの概略図を示す。
【図3】2種の酵素(ピロコッカス・フリオサス由来のpGlu−アミノペプチダーゼおよびバシラス・アミロリクファシエンス由来のpGlu−アミノペプチダーゼ)を用いた場合のペプチドからのpGlu回収率を示す。
【図4】改良HPLCによる遊離pGluのチャートを示す。
【図5】通常のHPLCによる遊離pGluのチャートを示す。
Claims (1)
- ピログルタミン酸を含有する蛋白質またはペプチドに、耐熱性細菌ピロコッカス・フリオサス (Pyrococcus furiosus)由来のピログルタミン酸アミノペプチダーゼを作用させ、遊離するピログルタミン酸量を測定することを特徴とする、ピログルタミン酸量の測定方法。
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