JP4150792B2 - 血液脳関門におけるキノリン酸の輸送を評価する方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、条件的不死化脳毛細血管内皮細胞を用いて、血液脳関門におけるキノリン酸の輸送を評価する方法に関する。本発明の方法は、キノリン酸の蓄積に由来する神経疾患の治療薬をスクリーニングする目的にも有用である。
【0002】
キノリン酸は、必須アミノ酸であるトリプトファンからニコチンアデニンジヌクレオチド(nicotine adenine dinucleotide; NAD)を生成する代謝経路(トリプトファン−キヌレニン経路:図1)における中間体の一つである。キノリン酸は尿毒症時に体内蓄積量が増加する尿毒症物質の1つであり、強い神経毒性も有するために、キノリン酸の生成と代謝・消失は、正常時においては厳密にコントロールされている。中枢におけるキノリン酸濃度は低濃度に保たれているが、てんかん、アルツハイマー病、エイズ脳症などの病態時には脳内キノリン酸量が増加する。そのために、中枢神経系に蓄積したキノリン酸によってこれらの病態時における神経変性が誘発されるという、「キノリン酸仮説」がSchwarczらにより提唱されている(非特許文献1)。
【0003】
そのようなキノリン酸仮説から考えると、キノリン酸を効率的に脳から除去する薬剤が開発され、脳におけるキノリン酸の濃度を下げることができたら、中枢神経疾患を治療するための有効な手段となると考えられる。これまでに、キノリン酸を脳から排除する系が存在することは知られていたが、脳においてキノリン酸を排除して輸送する系の機構についてその詳細は知られていなかった。そのために、キノリン酸排除機構を利用して中枢神経疾患を治療する手段は、これまでは知られていなかった。
【0004】
【非特許文献1】
Schwarcz R. et al., Adv Exp Med Biol,(1986),203:697-707
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の課題は、中枢神経系におけるキノリン酸排除機構について検討を行い、更にはその検討によって得られた知見を利用して、血液脳関門におけるキノリン酸排除輸送を再現するインビトロの実験系を構築することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく本発明者らは、中枢神経系におけるキノリン酸の排除機構を鋭意検討したところ、中枢神経系の血液脳関門を構成する内皮細胞にキノリン酸を排出する輸送系が存在することが示された。その輸送系を用いて、キノリン酸を脳から排出を評価する系を構築することが可能であり、本発明はそのような評価系を提供するものである。そのような評価系は、血液脳関門における中枢神経疾患の治療薬の開発に大いに役立つものと考えられる。
【0007】
【発明の実施の形態】
ところで、脳からキノリン酸が消失する際に関与する機構としては、キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(QPRTase)などによる酵素的な除去機構に加え、血液脳関門(Blood-brain barrier:BBB)や血液脳脊髄液関門(Blood-cerebrospinal fluid barrier:BCSFB)などを介した除去機構が考えられる。しかし脳におけるQPRTaseの活性は低く、BCSFBを介した積極的な排出機構は認められないために、in vivoにおいては主としてBBBを介した経路によりキノリン酸が排出されていると考えられる。
【0008】
上記で述べたBBBは循環血液と脳との間の物質移行を制御し、神経細胞の高次機能を担う脳内環境を常に最適な状態に維持する上で重要な役割を果たしており、そのようなBBBの実態は脳毛細血管内皮細胞である。ところで、脳毛細血管細胞の特徴は、内皮細胞同士が密接結合により接合して血管管腔を形成していることである。このため、通常は循環血液と脳との間で細胞間隙経路を介した物質の移動が起こらず、イオンや水溶性物質の非特異的な透過が顕著に制限されている。一方、脳の活動に不可欠な栄養物質はBBBを介して脳内に取り込まれており、この選択的透過には脳毛細血管内皮細胞膜上に存在する輸送担体が重要な役割を果たしている。
【0009】
これまでのBBBにおける物質輸送の研究は、栄養物質や各種薬物の、循環血液から脳への移行という視点から進められてきた。一方、脳内に異物が入らないように不必要な化合物を脳から締め出し、更には中枢神経系で産生された有害物質を選択的に除去するという、解毒機構にもBBB が関与していることが示唆されるようになってきた。以上のことから、BBBにおける物質輸送の研究において、これまでの脳への栄養物移行過程の研究に加え、脳から血液への有害物排出過程を研究する重要性が提唱されるようになった。
【0010】
本発明の評価系は、条件的不死化脳毛細血管内皮細胞を用いて、血液脳関門におけるキノリン酸の排出を評価することを可能とするものである。なお本願明細書において「条件的不死化脳毛細血管内皮細胞」とは、温度感受性SV40T抗原遺伝子を導入したトランスジェニック動物から樹立された脳毛細血管内皮細胞を意味する。このような細胞は、下記の理由により、完全に不死化している訳ではないが、ある条件下においては不死化しているという特徴を有する。
【0011】
上記のSV40-T抗原遺伝子は温度感受性の遺伝子であり、ある温度を境にしてこの遺伝子の産物である蛋白質は活性型と不活性型に変化する。SV40-T抗原遺伝子はウイルス遺伝子であって、活性型のSV40-T蛋白質は細胞の細胞周期メカニズムに作用して細胞を不死化する。SV40T抗原遺伝子は33℃では活性型であり、37℃では不活性型である。よって当該遺伝子は動物の中では不活性型であるが、細胞を単離して33℃で培養することによって容易に不死化させることができる。
【0012】
下記の実施例においては、条件的不死化脳毛細血管内皮細胞として、ラット由来のTR-BBB13細胞を使用している。TR-BBB13細胞は本発明者らにより樹立された細胞株であり、当該細胞は1999年9月22日に、細胞寄託機関である産業技術総合研究所の特許生物寄託センターにFERM BP-6873として寄託されている。
【0013】
このTR-BBB13細胞は、紡錘状構造を呈し、フォン・ビルブラント因子が発現し、更にアセチルLDLの取り込み活性があるなど、内皮細胞としての特徴を有する。また、BBBのマーカーであるγ-GTPやALPの酵素活性を有し、グルコースの輸送体であるGLUT4、P糖蛋白遺伝子mdr1a,1bおよびタイトジャンクション関連遺伝子の発現が確認されており、脳毛細血管内皮細胞としての特徴を良く保持している。従来においては、類似の不死化細胞を作製しても生体内で見られた機能が落ちてしまうという欠点があったが、TR-BBB13細胞にはその様な現象が認められないので、TR-BBB13細胞を用いることは本発明において最も好適な態様である。
【0014】
しかし本発明で使用する条件的不死化脳毛細血管内皮細胞はTR-BBB13細胞に限定されるものではなく、他の条件的不死化脳毛細血管内皮細胞もまた使用することが可能である。例えば、これらに限定されるものではないが、他のTR-BBB系列の細胞であるTR-BBB1細胞, TR-BBB5細胞, TR-BBB6細胞, TR-BBB11細胞なども本発明の目的で使用することが可能であると考えられる。
【0015】
上記の条件的不死化脳毛細血管内皮細胞を使用して、キノリン酸の輸送を評価するためのアッセイ系を構築することが可能である。本アッセイ系はキノリン酸の輸送を変化させる化合物のスクリーニングなどに特に有用であり、本発明のアッセイ系を、例えば以下のようにして構築することができる。
【0016】
24ウェルプレート等の適切な培養容器にTR-BBB13細胞を播種し、ウェル上に細胞を増殖させてコンフルエントにする。上記培養細胞にトリチウムなどで放射標識されたキノリン酸を添加し、更に一定時間インキュベーションすることにより細胞内にキノリン酸を取り込ませる。そして、キノリン酸の放射活性を基にして、細胞内に取り込まれたキノリン酸の量を評価することができる。なお、キノリン酸の添加と同時に、あるいはキノリン酸を添加する前に、試験しようとする化合物を添加することにより、様々な化合物がキノリン酸の取り込みに与える影響を評価することができる。多数の化合物を同時に処理する必要が有る場合には、96ウェルプレートを使用することも、本発明において好適な態様である。
【0017】
細胞内でキノリン酸の取り込みを上昇させる化合物は、脳からのキノリン酸排出を促進する効果を有すると考えられる。その結果、脳内のキノリン酸の蓄積が防止され、中枢におけるキノリン酸蓄積に起因する疾患を治療・予防する目的において有用であり、キノリン酸の蓄積に起因する中枢神経系疾患の治療薬の候補と成り得るであろう。一方、脳からのキノリン酸排出を抑制する物質は、中枢においてキノリン酸を蓄積するので、治療薬としての意義は低いものと思われる。しかしその様な化合物も、キノリン酸輸送の新たなメカニズムを解析するための良いツールとなり得ると考えられる。
【0018】
下記の実施例において、Brain Efflux Index(BEI)法を用いて、キノリン酸排出の機構について検討を行った。なおBEI法は、脳内に投与した物質がBBBを介して脳から循環血液中への排出される過程をインビボで解析するのに適している。 [3H]標識薬物およびBBB非透過性マーカーである[14C]イヌリンをラットの大脳皮質に投与し、一定時間後に薬物残存量を測定することにより、当該薬物のBBBを介した消失を検討した。下記の実施例においては、ラット大脳皮質のParietal Cortex Area 2 (Par2)領域に薬物の投与を行っている。これまでの報告から、投与した標識化合物の脳脊髄液関門を介した消失をほとんど無視することが可能であることが知られており、BBBを介した標識化合物の消失過程のみを選択的に解析することが可能である。
【0019】
一方、インビボの実験系は生理的条件を反映した測定値が得られるという長所があるが、輸送機構の詳細な検討には適していない。これに対して、脳毛細血管内皮細胞株であるTR-BBB13細胞を用いたインビトロの解析は、BBBの機能解析を安定かつ簡便に行うことが可能であるという利点がある。またインビトロの実験系を使用すれば、速度論パラメーターの一つであるミカエリス定数 (Km) を正確に算出することができる。下記の実施例において、TR-BBB13細胞をインビトロにおけるBBBモデルとして用いて、種々の化合物がキノリン酸の取り込みに及ぼす影響を検討した。その結果、TR-BBB13細胞を用いた評価系を用いて、キノリン酸の輸送機構を詳細に検討することが可能であった。
【0020】
【実施例】
以下の実施例において本発明を更に詳細に説明するが、如何なる意味においても本発明の範囲を限定するものではない。
【0021】
(実施例1)Brain Efflux Index(BEI)法による輸送実験
(実験動物)
実験動物としては、7週齢の雄性ウィスター系ラット (チャールズリバー, 横浜, 日本)を使用した。
【0022】
(BEI法の実験操作)
ケタミンキシラジン液麻酔下で、電気メスを用いてラット頭部後方に脳脊髄液採取用の穴を開けた。次に脳固定装置にラット頭部を固定して頭蓋骨を露出させ、BBB 非透過性マーカーである[14C]イヌリンと[3H]キノリン酸をラット左大脳のPar2 領域に投与した。所定の時間でラットを断頭し、左大脳を摘出した。摘出した脳サンプルを可溶化し、脳サンプルにシンチレーターを加え、液体シンチレーションカウンターで [3H] と [14C] の放射活性比を測定した。
【0023】
(BEI法を用いたBBB排出過程の評価方法)
BEI 法による脳排出動態の評価薬物の脳からの排出率を BEI 値とすると、BEI値は式1により定義される。
【式1】
BEI(%)=(BBBを介して脳から排出された薬物量)/(脳内に投与した薬物量)×100
【0024】
更に脳内残存率(100-BEI)の値は下記により現すことができる(式2)。
【式2】
100 - BEI(%) = (Xbr,drug/Xbr,ref)/(Cinj,drug/Cinj,ref) ×100
ただし、式2において、Xbr,drug および Xbr,ref はそれぞれ投与側の大脳内残存薬物量および脳内残存標準物質量を、Cinj,drug およびCinj,ref はそれぞれ投与液中薬物濃度および投与液中標準物質濃度を表す。投与経過時間に対して薬物の脳内残存率 (100-BEI) を片対数プロットし、得られた直線の傾きから BBB 排出速度定数 (Keff) を算出した。
【0025】
図2は、[14C]の存在下に、[3H]キノリン酸を投与した後における脳内残存率を、経時的に示したグラフである。 放射活性は投与して2分、20分、40分、60分後に測定した。[3H]キノリン酸は経時的に脳から消失し、見かけの排出速度定数(Keff)は2.93×10-3 (分-1)、半減期(T1/2)は237 (分)であった。BEI 法により得られた結果は、キノリン酸はBBBを介して脳から循環血液中に排出されることを示すものである。
【0026】
(実施例2)[3H]キノリン酸の細胞内取り込み
(細胞培養)
上記で述べた条件的不死化ラット脳毛細血管内皮細胞であるTR-BBB13細胞を用いてインビトロの検討を行った。20 mM 重炭酸ナトリウム, 15μg/ml ECGF、100 U/ml ペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシンおよび10% FBSを含むDMEMを培地とし、加湿された5% CO2の雰囲気の下、33℃でTR-BBB13細胞の培養を行った。
【0027】
(取り込み実験に用いた細胞)
TR-BBB13細胞を1.0X105細胞/1 ml/ウェルの割合で24ウェルコラーゲンコートプレートに播種し、33°Cで48時間培養し、サブコンフルエントの状態に達したものを実験に用いた。
【0028】
(トレーサー液の調製)
[3H]標識体化合物及び [14C]イヌリン(付着水の指標)を使用し、細胞内取り込み実験をダブルトレーサーで行った。窒素ガスを用いて溶解水溶液を除去した[3H]化合物及び固体[14C]イヌリンを緩衝液に溶解した。キノリン酸の放射活性を測定するために、10.0μCi/mlの[3H] キノリン酸及び1.0μCi/mlの[14C]イヌリンを含む溶液を調製した。[14C]ニコチン酸を基質として取り込み実験を行う場合には、別に[14C]イヌリンのみを溶解したトレーサー液を調整して同様の操作を行い、付着水の影響が十分小さいことを確認して、付着水による取り込み量の補正を行わなかった。
【0029】
(取り込み実験)
細胞を培養した24ウェルプレートを37℃に維持し、培地を除去した後、細胞を3回洗浄した。阻害剤の存在下、非存在下においてトレーサー緩衝液を加え、一定時間インキュベートした後にトレーサー緩衝液を取り除き、速やかに4℃の緩衝液で細胞を洗浄した。
【0030】
(細胞内取り込みの評価)
トレーサー液との反応が終了した後に5N NaOHを加え、室温で一晩細胞を可溶化した。細胞可溶化液に5N HClを加えて中和し、更に液体シンチレーターを加え、少なくとも3時間経過後、液体シンチレーションカウンターで放射活性を測定した。残りの細胞可溶化液を用いて蛋白質量の定量を行った。
【0031】
得られた放射活性及び蛋白量から、細胞内取り込みをcell to medium ratio (C/M ratio)で表した(式3)。
【式3】
C/M ratio=細胞中の[3H]標識体濃度(dpm/mg蛋白質)/培地中の[3H]標識体濃度(dpm/μL)
−細胞中の[14C]イヌリン濃度(dpm/mg蛋白質)/培地中の[14C]イヌリン濃度(dpm/μL)
【0032】
図4に、TR-BBB13細胞で[3H] キノリン酸の取り込みの経時変化を測定した結果を示す。TR-BBB13細胞への[3H] キノリン酸の取り込みは、30分まで経時的に増加した。初期の取り込み速度は、5.96×10-2μL/(分・mg蛋白質)であった。
【0033】
更に、キノリン酸濃度が及ぼす影響を検討した(図5)。キノリン酸の細胞内取り込み速度は濃度依存性を示し、Km値は102±13 (μM)、Vmax値は93.0 ±3.1 (pmol/(30分・mg蛋白質))であった。このことから、キノリン酸は担体介在型輸送によってTR-BBB13細胞に取り込まれることが明らかとなった。
【0034】
(有機アニオン化合物による影響)
oatpファミリーの基質であるタウロコール酸、MCTファミリーの基質である乳酸、酸性アミノ酸であるL-アスパラギン酸、有機アニオン輸送系の阻害剤であるプロベネシドを用いて、それらの化合物による阻害効果を検討した(表1)。なお表1におけるアスタリスクマーク(*)は、p<0.05における有意差を示す。TR-BBB13細胞におけるキノリン酸の取り込みは、30℃で30分間インキュベートをした後に測定した。それぞれの化合物(1mM)の存在下で[3H]キノリン酸取り込みを測定したところ、コントロールに対して118%、82.7%、141%、119%であり、それらの化合物によるキノリン酸の取り込みの阻害は認められなかった。一方、尿毒症物質であるインドール酢酸の存在下では、[3H]キノリン酸取り込みの値はコントロールに対して51.2%であり、[3H] キノリン酸取り込みが有意に阻害された。
【0035】
【表1】
Figure 0004150792
【0036】
(トリプトファン代謝物による影響)
更にその他の化合物が、TR-BBB13細胞におけるキノリン酸の取り込みに及ぼす影響を表2に示す。なお表2におけるアスタリスクマーク(**)は、p<0.01における有意差を示す。トリプトファン代謝物であるL-キヌレニン、キヌレン酸、アントラニル酸、キサンツレン酸、3-ヒドロキシ-キヌレニン、3-ヒドロキシ-アントラニル酸の共存下において、[3H]キノリン酸の取り込みは、コントロールに対してそれぞれ9.44%、21.2%、97.6%、58.5%、8.81%、41.1%であった。アントラニル酸以外のトリプトファン代謝物により、[3H] キノリン酸取り込みは有意に阻害された。
【0037】
【表2】
Figure 0004150792
【0038】
(ビタミンB6による影響)
キノリン酸と同様のピリジン環を持つビタミンB6群について、TR-BBB13細胞におけるキノリン酸取り込みの阻害効果を検討した。表2に示すように、[3H] キノリン酸の取り込みはピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン(各1mM)の存在下において、コントロールに対しそれぞれ50.1%、6.30%、49.55%であり(表3)、[3H]キノリン酸取り込みを有意に阻害した。
【0039】
(NMDA受容体アゴニストによる影響)
MK801とケタミン(各1mM)の存在下において、TR-BBB13細胞におけるキノリン酸の取り込みは、コントロールに対してそれぞれ94.7、83.8%(表2)であり、[3H]キノリン酸取り込みを阻害しなかった。
【0040】
ところでニコチン酸は、キノリン酸の2位のカルボキシル基が除かれることにより得られる代謝産物である(図1)。そこで、キノリン酸と類似した構造を有するニコチン酸を阻害剤として、[3H] キノリン酸のTR-BBB13細胞への取り込み阻害実験を行ったところ、[3H] キノリン酸の取り込みを有意に(阻害率84.2%)阻害した(表3)。ニコチン酸は小腸上皮細胞刷子縁膜におけるpH依存性のアニオン逆輸送とプロトン共輸送の、2つの輸送系の基質になることが報告されている。そこで既知のニコチン酸取り込み機構と、これまでに示されたキノリン酸の取り込み機構が同一であるか検討を行った。
【0041】
そこで、[14C] ニコチン酸を基質としてTR-BBB13細胞における取り込み実験を行い、その取り込みに対するキノリン酸の阻害効果を解析した(図6)。[14C] ニコチン酸はTR-BBB13細胞に時間依存的に取り込まれたが、30分後における[14C] ニコチン酸の取り込みに対してキノリン酸は阻害効果を示さなかった。このことから、TR-BBB13細胞におけるキノリン酸輸送機構は、既報のニコチン酸輸送機構と異なるものであることが示唆された。
【0042】
【発明の効果】
本発明により、中枢神経系の血液脳関門にキノリン酸を排出する輸送系が存在していることが示された。更にその輸送系を用いて、キノリン酸を脳から排出を評価することができる新規な実験系が本発明により提供された。条件的不死化脳毛細血管内皮細胞であるTR-BBB13細胞を用いた評価系は、種々の化合物がキノリン酸の取り込みに及ぼす影響を検討する手段として優れている。よって本発明は、中枢神経系においてキノリン酸排出に影響する薬物のスクリーニングに有用な評価系を新たに与えるものであり、本発明の評価系は、血液脳関門における中枢神経疾患の治療薬の開発に大いに役立つものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、トリプトファン代謝におけるキヌレニン経路を示す図である。
【図2】 図2は、キノリン酸を投与した後の脳内残存率の経時変化を示したグラフである。
【図3】 図3は、実験に用いた種々の化合物の構造を示す図である。
【図4】 図4は、TR-BBB13細胞におけるキノリン酸取り込みの経時変化を示すグラフである。
【図5】 図5は、TR-BBB13細胞におけるキノリン酸取り込みの濃度依存性を示すグラフである。
【図6】 図6は、TR-BBB13細胞におけるニコチン酸取り込みの経時変化と、それに対するキノリン酸添加の影響を示すグラフである。

Claims (5)

  1. ラット由来の TR-BBB 細胞である条件的不死化脳毛細血管内皮細胞を用いて、当該内皮細胞へのキノリン酸の取り込みを評価することによって、血液脳関門を介した脳からのキノリン酸の排除を評価する方法。
  2. 前記TR-BBB細胞がラット由来のTR-BBB13細胞である、請求項記載の方法。
  3. ラット由来の TR-BBB 細胞である条件的不死化脳毛細血管内皮細胞を用いて、当該内皮細胞へのキノリン酸の取り込みを評価することによって、血液脳関門を介した脳からのキノリン酸の排除を変化させる化合物をスクリーニングする方法。
  4. 前記血液脳関門を介した脳からのキノリン酸の排除を変化させる前記化合物が、キノリン酸の蓄積に由来する神経疾患の治療薬である、請求項記載の方法。
  5. 前記TR-BBB細胞がラット由来のTR-BBB13細胞である、請求項記載の方法。
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