JP4139211B2 - 分析用部材、分析装置、および分析方法 - Google Patents

分析用部材、分析装置、および分析方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、錯体あるいはイオン対を利用する金属イオンの分析方法、それに用いる分析用部材および分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
水溶液中の微量金属イオンを分析する方法としては、金属イオンと配位子とが反応して錯体あるいはイオン対を生成する現象を利用する化学分析、例えばキレート滴定、吸光分析法、蛍光分析法、あるいは化学発光分析法が古くから広範に研究・利用されている。これらの化学分析は、簡単に説明すると、試料である水溶液に分析試薬および緩衝溶液を添加して測定するという手順で行われる。化学分析に用いられる配位子は多数有り、それらを全てここに記すことは不可能であるが、一般的なものとしては、アルミニウムイオン(A13+)などの分析に用いられる8−キノリノール、あるいは鉛イオン(Pb2+)などの分析に用いられるジチゾンなどがある。
【0003】
また、これらの配位子のモル吸光係数は数万程度であるが、モル吸光係数が数十万にも及ぶ配位子としてポルフィリンが知られており、その分析化学的応用が本発明者の一人である五十嵐によって精力的に研究されている。ポルフィリンはモル吸光係数が大きいので、金属イオンの含有量がppbからppt単位の超微量であっても分析が可能となる。しかし、ポルフィリンを金属イオンの比色試薬として利用する場合、ポルフィリンとその金属錯体の吸収スペクトルの分離が悪く、実質的な吸光度変化を大きくできないことが問題であった。そこで、ポルフィリンの鉛(II)錯体の吸収スペクトルがポルフィリンのそれと比較的分離していることを利用して亜鉛イオンを分析する方法が、本発明者の一人である五十嵐らによって発表されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
また、ポルフィリンを用いた分析としては、生物マトリックス中の鉛イオンを分光光度計により測定する方法も報告されている(例えば、特許文献1参照。)。更に、カチオン性ポルフィリンである5,10,15,20−テトラキス(4−トリメチルアミノフェニル)ポルフィンを、スルホン化したポリスチレンに静電的に結合させたオプティカルpHセンサーが本発明者の一人である五十嵐らにより報告されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0005】
このような化学分析法や、または原子吸光法、ICP発光分析法、あるいはICP−質量分析法などの機器分析法は、一試料を測定だけするのに数秒〜数分を要し、しかもこのような機器分析装置は大型かつ高価であり、さらに排気設備も必要であるという問題があった。また、代表的な多検体分析法であるフローインジェクション(FIA)でさえも、一試料を測定だけするのに数分〜数10分を要していた。
【0006】
一方、生体関連物質(生化学検査)では、マイクロプレートという多数のウェル(窪み)があるポリスチレン製の部材に測定溶液と試薬とを入れ、これをマイクロプレートリーダーという装置で分光(吸光、蛍光、化学発光)分析する装置が常用されている。この装置は1枚のマイクロプレートを数秒で測定することができる。例えば、96個のウェルのあるマイクロプレートの場合、最大96試料の分析が数秒で可能である。ポリスチレン製マイクロプレートは、エンザイムイムノアッセイにおいて抗体あるいは抗原などをウェル表面に固定化させて使用する酵素標識固相免疫測定(ELISA)法のために開発されたものである。マイクロプレートのウェルは一つ一つ独立したもので反応容器と比色セルを兼ね備えている。そのウェル容量はおよそ0.3mlである。一度に多検体の測定ができるほか、貴重な試料や高価な試薬の少量化が可能である。また、マイクロプレートの測定を行うマイクロプレートリーダーは、一般的な機器分析装置に比べ安価で、小型であるため広いスペースを必要としないなどの利点を有している。そこで、マイクロプレートを用いて金属イオンを分析する方法も報告されている(例えば、非特許文献3参照。)。
【0007】
【非特許文献1】
五十嵐他、「日本化学会誌」、1979年、第5巻、p.602−606
【特許文献1】
特開平10−62425号公報
【非特許文献2】
五十嵐他、「アナリティカル サイエンス(ANALYTICAL SCIENCES )」、(日本)、1994年、第10巻、p.821−822
【非特許文献3】
牧野他、「日本臨床検査自動化学会会誌」、1989年、第14巻、p.451
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、マイクロプレートを用いた分光分析では、試料に光が当たっている距離(光路長)が短いので、ライトパスすなわち液高に依存して感度が低下してしまうなどの問題があった。よって、金属イオンの微量分析にそのまま用いることは難しく、まだ実用化に至っていない。また、化学分析法による金属イオンの分析および生体関連物質の分析のどちらにおいても、一試料の分析毎に検出試薬を毎回添加しなければならないという問題もあった。例えば、アルミニウムイオンを分析する際には、検出試薬である8−キノリノールを一つ一つの試料に毎回添加する必要があった。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、短時間で簡単に金属イオンの微量分析をすることができる分析用部材、分析装置、および分析方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明による分析用部材は、分析試料を保持するための複数のウェルを有する保持体を備え、そのウェルの少なくとも一部に、金属イオンと錯体あるいはイオン対を形成し得る化合物、吸着あるいは結合されているものである。
【0011】
本発明による分析用部材では、ウェルに吸着あるいは結合された化合物が金属イオンと錯体あるいはイオン対を形成することにより、分析試料に含まれる金属イオンを検出する。
【0012】
なお、化合物とウェルとは静電的に結合していてもよく、化合物はカチオン性あるいはアニオン性のどちらを有していてもよい。化合物としては、ポルフィリンを含むことが好ましく、特に、5,10,15,20−テトラキス(1−メチルピリジニウム−2−イル)ポルフィン、5,10,15,20−テトラキス(1−メチルピリジニウム−3−イル)ポルフィン、および5,10,15,20−テトラキス(1−メチルピリジニウム−4−イル)ポルフィンのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。また、ウェルはアニオン性あるいはカチオン性のどちらを有していてもよく、高分子材料またはガラスよりなることが好ましい。
【0013】
本発明による分析装置は、分析試料に含まれる金属イオンを固定する上述の分析用部材と、この分析用部材に対して光を照射する照射部と、金属イオンを固定した分析用部材による前記光の変化を検出する検出部とを備えるものである。
【0014】
本発明による分析装置では、本発明の分析用部材に固定した金属イオンを、照射した光の変化により検出する。
【0015】
本発明による分析方法は、上述の分析用部材を用い、分析試料に含まれる金属イオンを検出するものである。
【0016】
分析に際しては、分析用部材に固定した金属イオンを、照射した光の変化により検出するようにしてもよい。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
(一実施の形態)
図1は本発明の一実施の形態に係る分析用部材10の構成を表すものである。分析用部材10は、いわゆるマイクロプレートと言われるものであり、分析試料を保持する保持体11を有している。保持体11には、分析試料を入れる複数のウェル12が設けられており、複数の分析試料を同時に分析することができるようになっている。
【0019】
図2はウェル12の構成を概念的に表すものである。ウェル12の内壁面12Aおよび底面12Bには、金属イオンと錯体あるいはイオン対を形成し得る化合物13が吸着あるいは結合している。化合物13は、目的とする金属イオンを錯体あるいはイオン対の形成により固定し、それによる光学的特性の変化から目的とする金属イオンを検出可能とする検出試薬である。化合物13は、内壁面12Aおよび底面12Bの全面に吸着あるいは結合していてもよいが、その一部に吸着あるいは結合していてもよい。例えば、底面12Bの少なくとも一部のみに吸着あるいは結合していてもよく、底面12Bと内壁面12Aの一部に吸着あるいは結合していてもよい。
【0020】
なお、ウェル12の内壁面12Aおよび底面12Bには、レーザ、紫外線、スパッターあるいは化学エッチングなどにより、表面積を大きくするための粗さ加工がされていてもよい。化合物13を多く吸着あるいは結合させることができ、感度を向上させることができるからである。
【0021】
保持体11と化合物13とは、静電的に結合していることが好ましく、例えば、保持体11をアニオン性、化合物13をカチオン性のものにより構成するか、または保持体11をカチオン性、化合物13をアニオン性のものにより構成することが好ましい。保持体11の表面に化合物13を強く吸着あるいは結合させることができるので、高い分析精度を得ることができると共に、複数回にわたって繰り返し使用することができるからである。なお、保持体11は全体がアニオン性あるいはカチオン性を有していてもよいが、少なくとも化合物13を吸着あるいは結合させる部分、例えばウェル12の内壁面12Aおよび底面12Bがアニオン性あるいはカチオン性を有していればよい。
【0022】
保持体11を構成する材料としては、化合物13と目的とする金属イオンとの錯体あるいはイオン対の吸収スペクトル、蛍光スペクトル、あるいは発光スペクトル付近に吸収スペクトル、蛍光スペクトルあるいは発光スペクトルを有さないものであればいずれでもよい。具体的には、高分子材料あるいはガラスなどが挙げられる。なお、ガラスは表面にヒドロキシ基(−OH基)が存在するのでアニオン性となる。
【0023】
アニオン性を有する高分子材料としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルポリマ、塩化ビニル、あるいはポリカーボネートなどに、スルホ基(−SO3 H基)、カルボキシ基(−COOH基)、あるいはヒドロキシ基を導入したものが挙げられる。化1にポリスチレンをスルホン化した高分子材料の構造を示す。アニオン性を有する高分子材料としては、また、Nafion (登録商標)のようなスルホ基を有するフッ素系の材料なども挙げられる。
【0024】
【化1】
Figure 0004139211
【0025】
カチオン性の高分子材料としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルポリマ、塩化ビニル、ポリカーボネート、あるいはスチレン−ジビニルベンゼン共重合体に第4級アンモニウム基を結合させたもの、またはこれらをホスホニウム塩化したものが挙げられる。化2および化3に第4級アンモニウム基を結合させたものの一例を示すと共に、化4にホスホニウム塩化したものの一例を示す。
【0026】
【化2】
Figure 0004139211
【0027】
【化3】
Figure 0004139211
【0028】
【化4】
Figure 0004139211
【0029】
化合物13は目的とする金属イオンと錯体あるいはイオン対を形成するものであればいずれでもよいが、モル吸光係数εが大きいものの方が微量の金属イオンについても高い精度で分析することができるので好ましい。中でも、ポルフィリンおよびその錯体は、400nm〜500nm付近にモル吸光係数εが2×105 dm3 /mol・cm〜6×105 dm3 /mol・cmのソーレー帯と呼ばれる吸収を持っているので好ましい。
【0030】
なお、ポルフィリンというのは、化5に示したポルフィンおよびその誘導体の総称である。ポルフィリンは、例えば化6に示したように、金属イオンM+ ,M2+,M3+,M4+がポルフィン核の窒素に配位することにより錯体を形成する。なお、化6では金属イオンM2+が配位している場合を示している。ポルフィリンと錯体を形成する金属イオンとしては、銀イオン(Ag+ )、リチウムイオン(Li+ )、鉄イオン(Fe2+,Fe3+)、カドミウムイオン(Cd2+)、コバルトイオン(Co2+,Co3+)、銅イオン(Cu2+)、鉛イオン(Pb2+)、パラジウムイオン(Pd2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、クロムイオン(Cr3+)、マンガンイオン(Mn3+)、およびスズイオン(Sn4+)などが知られている(例えば、五十嵐他、「ケミストリ レターズ(Chemistry Letters )」、第11巻、1984年、p.1871−1874(以下、非特許文献4という)参照。)。
【0031】
【化5】
Figure 0004139211
【0032】
【化6】
Figure 0004139211
【0033】
カチオン性のポルフィリンとしては、例えば、化7に示した構造のR1,R2,R3およびR4が化8に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(1−メチルピリジニウム−4−イル)ポルフィン(以下、T(4−MPy)Pと言う)、化9に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(1−メチルピリジニウム−3−イル)ポルフィン(以下、T(3−MPy)Pと言う)、化10に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(1−メチルピリジニウム−2−イル)ポルフィン(以下、T(2−MPy)Pと言う)、化11に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(4−トリメチルアミノフェニル)ポルフィン、あるいは化12に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(4−ピリジル)ポルフィンが挙げられる。
【0034】
【化7】
Figure 0004139211
【0035】
【化8】
Figure 0004139211
【0036】
【化9】
Figure 0004139211
【0037】
【化10】
Figure 0004139211
【0038】
【化11】
Figure 0004139211
【0039】
【化12】
Figure 0004139211
【0040】
中でも、化7および化8に示したT(4−MPy)Pは、カドミウムイオン(Cd2+)、コバルトイオン(Co2+)、銅イオン(Cu2+)、鉛イオン(Pb2+)、パラジウムイオン(Pd2+)、および亜鉛イオン(Zn2+)と錯体を形成することが知られている(例えば、非特許文献4参照。)。また、化7および化9に示したT(3−MPy)Pは、カドミウムイオン(Cd2+)、銅イオン(Cu2+)、および水銀イオン(Hg2+)と錯体を形成することが知られている(例えば、イシイ(ISHII )他、「タランタ(Talanta )」、(オランダ)、第29巻、1982年、p545−550(以下、非特許文献5という)参照。)。更に、化7および化10に示したT(2−MPy)Pは、これら2つのポルフィリンと構造が近似しており、同様に金属イオンと錯体を形成するものと考えられる。
【0041】
アニオン性のポルフィリンとしては、例えば、化7に示した構造のR1,R2,R3およびR4が化13に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(4−スルホフェニル)ポルフィン(以下、T(4−SP)Pと言う)、化14に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(4−カルボキシフェニル)ポルフィン、化15に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ポルフィン、化16に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(スルホナフチル)ポルフィン、化17に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(5−スルホ−2−チエニル)ポルフィン、あるいは化18に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(4−スルホテトラフルオロフェニル)ポルフィンが挙げられる。
【0042】
【化13】
Figure 0004139211
【0043】
【化14】
Figure 0004139211
【0044】
【化15】
Figure 0004139211
【0045】
【化16】
Figure 0004139211
【0046】
【化17】
Figure 0004139211
【0047】
【化18】
Figure 0004139211
【0048】
また、非対称性のものでもよく、例えば、化7に示した構造のR1が化19に示した基で表され、R2,R3およびR4が化20に示した基で表されるもの、化21に示した5,10,15,20−テトラキス(4−スルホナトフェニル)−21−メチル−23H−ポルフィン、あるいは化22に示したコプロポルフィリンIII (CoproIII )も挙げられる。
【0049】
【化19】
Figure 0004139211
【0050】
【化20】
Figure 0004139211
【0051】
【化21】
Figure 0004139211
【0052】
【化22】
Figure 0004139211
【0053】
更に、両性のポルフィリンとしては、例えば、化7に示した構造のR1,R2,R3およびR4が化23に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(1−スルホエチルピリジウム−4−イル)ポルフィン(以下、T(4−SEPy)Pと言う)、あるいは化7に示した構造のR1,R2,R3およびR4が化24に示した基で表される5,10,15,20−テトラキス(1−カルボキシメチルピリジウム−4−イル)ポルフィンが挙げられる。これら両性のものは、カチオン性を有するものとして利用することも、アニオン性を有するものとして利用することも可能である。
【0054】
【化23】
Figure 0004139211
【0055】
【化24】
Figure 0004139211
【0056】
保持体11と化合物13との結合状態を、保持体11がスルホン化したポリスチレン、化合物13が化7および化8に示したT(4−MPy)Pである場合について、化25に代表して示す。
【0057】
【化25】
Figure 0004139211
【0058】
化合物13としては、また、ポルフィリンほどのモル吸光係数εは大きくないが、ビスアゾクロモトロープ酸誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ピリジルアゾ化合物、あるいはメチレンブルーなども好ましく挙げられる。
【0059】
ビスアゾクロモトロープ酸誘導体には、ウランイオン(U4+)、トリウムイオン(Th4+)、ジルコニウムイオン(Zr4+)、サマリウムイオン(Sm3+)、カルシウムイオン(Ca2+)、ランタンイオン(La3+)、あるいはネオジムイオン(Nd3+)などと錯体を形成するものが知られている(例えば、四ツ柳他、「化学の領域」、1977年、31−2、p146−153(以下、非特許文献6という)参照。)。例えば、化26に示したアルセナゾIII は、例えば化27に示したようにUO2 2+ と錯体を形成すると共に、スルホ基の少なくとも一方がカチオン性の保持体11に吸着あるいは結合する。化27に示したアルセナゾIII のUO2 2+ 錯体のモル吸光係数εは5.3×104 dm3 /mol・cm程度、吸収波長は665nmである。
【0060】
【化26】
Figure 0004139211
【0061】
【化27】
Figure 0004139211
【0062】
トリフェニルメタン誘導体には、アルミニウムイオン(Al3+)、鉄イオン(Fe3+)、パラジウムイオン(Pd2+)、あるいは希土類イオンなどと錯体を形成するものが知られている(例えば、非特許文献6参照。)。例えば、化28に示したクロムアズロールSは、例えば化29に示したようにアルミニウムイオンと錯体を形成すると共に、スルホ基がカチオン性の保持体11に吸着あるいは結合する。化29に示したクロムアズロールSのアルミニウムイオン錯体のモル吸光係数εは5.1×104 dm3 /mol・cm程度、吸収波長は585nmである。
【0063】
【化28】
Figure 0004139211
【0064】
【化29】
Figure 0004139211
【0065】
ビリジルアゾ化合物には、ガリウムイオン(Ga3+)、ロジウムイオン(Rh3+)、コバルトイオン(Co3+)、銅イオン(Cu2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、ビスマスイオン(Bi3+)、あるいはインジウムイオン(In3+)などと錯体を形成するものが知られている(例えば、非特許文献6参照。)。例えば、化30に示した5−Br−PAPSは、例えば化31に示したように亜鉛イオンと錯体を形成すると共に、スルホ基がカチオン性の保持体11に吸着あるいは結合する。化31に示した5−Br−PAPSの亜鉛イオン錯体のモル吸光係数εは1.33×105 dm3 /mol・cm程度、吸収波長は552nmである。
【0066】
【化30】
Figure 0004139211
【0067】
【化31】
Figure 0004139211
【0068】
メチレンブルーは化32に示した構造を有し、化33に示したようにReO4-(Reはレニウム元素を表す)とイオン対を形成すると共に、アニオン性の保持体11に吸着あるいは結合する。化33においてMB+ はメチレンブルーを表す。メチレンブルーとReO4-とのイオン対のモル吸光係数εは1.1×105 dm3 /mol・cm程度である。
【0069】
【化32】
Figure 0004139211
【0070】
【化33】
Figure 0004139211
【0071】
なお、化合物13は1種類を用いるようにしてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。その場合、例えば、ポルフィリンを複数種用いてもよく、ポルフィリンと他の配位子とを混合して用いてもよい。
【0072】
図3は図1および図2に示した分析用部材10の一製造方法を表すものである。まず、保持体11を成形し(ステップS101)、必要に応じて、例えばウェル12の内壁面12Aおよび底面12Bをアニオン性あるいはカチオン性とする処理を行う(ステップS102)。この処理は、保持体11をガラスあるいはスルホ基を有するフッ素系の材料などのアニオン性あるいはカチオン性を有する材料により構成する場合には必要ないが、アニオン性あるいはカチオン性を有さない高分子材料により構成した場合には行う必要がある。
【0073】
例えば、保持体11を高分子材料により構成し、その表面にスルホ基を導入する場合には、濃硫酸をウェル12に入れ、室温あるいは加熱した状態で数時間保持する。ヒドロキシ基を導入する場合には、例えば、上述したようにしてスルホン化したのち、水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウムで処理し、塩酸で中和する。カルボキシ基を導入する場合には、例えば、上述したようにしてヒドロキシ基を導入したのち、二酸化炭素と反応させる。なお、ヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を導入する場合には、保持体11に大気中で紫外線照射、レーザ照射、あるいは放射線照射などの処理を行うようにしてもよい。更に、保持体11をポリエチレンあるいはポリプロピレンなどのオレフィンにより構成する場合には、三酸化クロムと水と硫酸との混合液で処理したのちに硝酸で処理することにより、ヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を導入するようにしてもよい。また、第4級アンモニウム基あるいはホスホニウム基を導入する場合には、例えば、高分子材料をクロロメチル化したのちに第4級アンモニウム塩あるいはホスホニウム塩と反応させる。
【0074】
次いで、保持体11を蒸留水で洗浄したのち(ステップS103)、ウェル12に化合物13を含む水溶液を入れて例えば室温で数分間〜数時間保持し、内壁面12Aおよび底面12Bに化合物13を吸着あるいは結合させる(ステップS104)。これにより、図1および図2に示した分析用部材10が得られる。
【0075】
図4は図1に示した分析用部材10を用いた本発明の一実施の形態に係る分析装置の構成を表すものである。この分析装置は、分析用部材10と、分析用部材10にレーザー光などの光を照射する照射部20と、照射部20から照射された光の分析用部材10による変化を検出する検出部30と、検出部30で検出した結果を処理し表示する処理部40と、操作を制御する制御部50とを備えている。また、照射部20と分析用部材10と検出部30とは、外来光が入らないように遮光板により囲まれた測光室60の内部に設けられている。
【0076】
照射部20は、複数の波長のレーザー光などを選択的に照射することができる光源21を有している。光源21は1つでもよいが、分析用部材10のウェル12に合わせて複数設けられていてもよい。その場合、全てのウェル12に対応して設けられていてもよいが、例えば列に対応して設けられており、同一列のウェル12に同時に光を照射しつつ、光源21あるいは分析用部材10を移動させて全てのウェル12に光を照射するようにしてもよい。光源21には例えば制御部50が接続されており、制御部50から指示により波長が選択される。光源21から出射された光は、プリズム22で調整されたのち、レンズ23で集光されて分析用部材10に照射されるようになっている。なお、特定の金属イオンの分析のみを目的とする場合には、その測定に用いる特定の波長のみを照射する光源21を用いてもよい。
【0077】
検出部30は、照射部20から照射された光の変化として、金属イオンが固定された分析用部材10の吸収スペクトルを検出するようにしてもよく、また蛍光スペクトルを検出するようにしてもよく、さらに発光スペクトルを検出するようにしてもよい。検出部30は、例えば、金属イオンを固定した分析用部材10を透過した光あるいは金属イオンを固定した分析用部材10で発生した光を集光する対物レンズ31と、対物レンズ31で集められた光をフィルタ32を介して受光する受光器33とを有している。受光器33は例えばフォトダイオードにより構成されており、例えば光源21が複数設けられている場合には、それに対応して複数設けられている。受光器33は、複数の波長を検出できるものでもよく、特定の金属イオンの分析のみを目的とする場合には、その測定に用いる特定の波長のみを検出するものでもよい。なお、図4では、検出部30を分析用部材10を介して照射部20と対向する位置に配置するようにしたが、蛍光あるいは発光を検出する場合には、それらを測定可能な他の位置に配置するようにしてもよい。また、吸収を検出する場合でも、図示しない反射板などを用い、検出部30を他の位置に配置するようにしてもよい。
【0078】
処理部40は、検出部30からの出力信号を増幅し、波形整形あるいはパルス信号への変換などを行う変換部41と、変換部41から出力された検出結果を表示するディスプレイあるいはプリンタなどの表示部42とを有している。更に、所定の波長における標準試料の吸収強度、蛍光強度あるいは発光強度を記憶しておき、その波長における分析試料の強度と比較して、分析試料に含まれる特定の金属イオンの濃度を算出する算出部43を有していてもよい。
【0079】
図5は図4に示した分析装置を用いた本発明の一実施の形態に係る金属イオンの分析方法である。ここでは、化合物13として化7および化8に示したT(4−MPy)Pを用い、鉛イオン(Pb2+)を測定する場合について具体的に説明する。
【0080】
まず、分析用部材10のウェル12にpH緩衝溶液として四ホウ酸ナトリウム水溶液を入れ、pHが8以上となるように調整する(ステップS201)。T(4−MPy)Pと鉛イオン(Pb2+)との反応はpH8以上において安定して進行するからである。次いで、ウェル12に分析試料を入れる(ステップS202)。
【0081】
続いて、必要に応じて、ウェル12に妨害金属イオンを除去するためのマスクキング剤を入れる(ステップS203)。例えば、カドミウムイオン(Cd2+)を除去する場合にはビス(2−ヒドロキシエチル)ジチオカルバミン酸塩を用い、銅イオン(Cu2+)およびニッケルイオン(Ni2+)を除去する場合にはチオシアン酸カリウムを用い、鉄イオン(Fe2+,Fe3+)を除去する場合にはクエン酸ナトリウムを用いる。
【0082】
そののち、分析用部材10を例えばウォータバスなどで60℃程度に加熱し、T(4−MPy)Pと鉛イオン(Pb2+)とを反応させ、鉛イオン(Pb2+)を保持体11に固定する(ステップS204)。その際、加熱しなくても反応は進行するが、加熱した方が短時間で反応するので好ましい。鉛イオン(Pb2+)を保持体11に固定したのち、分析試料が白濁している場合などには、必要に応じて、ウェル12内の分析試料を蒸留水により洗浄除去する(ステップS205)。本実施の形態では、分析対象である鉛イオン(Pb2+)は保持体11に固定されるので、それにより鉛イオン(Pb2+)が存在しなくなった分析試料は除去しても問題がないからである。なお、分析試料をウェル12に入れる前に、前処理を行い沈殿物をろ過により除去するようにしてもよい。
【0083】
必要に応じて分析試料を除去したのち、ウェル12に照射部20から光を照射して、検出部30により鉛イオン(Pb2+)を固定した保持体11の吸収スペクトル、蛍光スペクトル、あるいは発光スペクトルを検出する(ステップS206)。その際、ステップS206の測定に要する時間は数秒程度であり、ステップS201〜ステップS206までに要する時間は数分〜30分程度と極めて短時間である。
【0084】
図6にT(4−MPy)Pの吸光スペクトルおよびT(4−MPy)Pの鉛錯体の吸収スペクトルを示す。図6に示したように、T(4−MPy)Pの吸収スペクトルは423nm、その鉛錯体の吸収スペクトルは478nmと比較的分離している。よって、鉛錯体の吸収スペクトルを測定することにより、容易に鉛イオン(Pb2+)の含有量が求められる。鉛イオン(Pb2+)の含有量は、鉛錯体の吸収スペクトルの強度から算出部43により算出するようにしてもよく、表示部42に表示された鉛錯体の吸収スペクトルの強度から、予め求めておいた検量線に基づき算出するようにしてもよい。
【0085】
鉛イオン(Pb2+)の測定が終了したのち、分析用部材10を例えば塩酸および蒸留水で洗浄する(ステップS207)。これにより、鉛イオン(Pb2+)は保持体11から離れ、洗い流される。なお、化合物13は保持体11に吸着あるいは結合した状態で保持される。よって、ステップS201〜ステップS207を繰り返すことにより、同一の分析用部材10を用い、新しい分析試料について順次分析が行える。
【0086】
なお、カドミウムイオン(Cd2+)、コバルトイオン(Co2+)、銅イオン(Cu2+)、パラジウムイオン(Pd2+)、および亜鉛イオン(Zn2+)などの他の金属イオンを分析する場合にも、同様にして分析することができる。但し、これらの錯体は、鉛錯体ほど吸収スペクトルがT(4−MPy)Pと分離していないので、遊離のT(4−MPy)Pを鉛錯体として吸収スペクトルを分離するようにしてもよい(例えば、非特許文献1参照。)。
【0087】
また、化合物13として他のポルフィリンまたは他の配位子を用る場合についても、同様にしてウェル12に分析試料を入れ、金属イオンを固定させて、その吸収スペクトル、蛍光スペクトル、あるいは発光スペクトルを検出することにより、それらと錯体あるいはイオン対を形成する金属イオンの測定をすることができる。
【0088】
次に、本分析方法を用いたセラミックスの製造方法について説明する。まず、原料粉末を混合してセラミックスを焼成する。セラミックスとしては、例えば、チタン酸バリウムを含むもの、あるいはフェライトが挙げられるが、これ以外のセラミックスについても広く適用可能である。また、必要に応じて、仮焼成工程、粉砕・造粒工程、あるいは成形工程などを行うようにしてもよい。
【0089】
次いで、焼成したセラミックスの少なくとも一部を溶液に溶解して分析試料を作製する。その際、焼成したセラミックスの1個体ごとに分析試料を作製してもよいが、複数の個体ごとに1個の割合で抜き出して一定の割合で間欠的に分析試料を作製するようにしてもよい。
【0090】
続いて、必要に応じて分析試料について前処理を行い、妨害イオンを除去する。例えば、チタン酸バリウムを含むセラミックスの分析を行う際には、このセラミックス1gに塩酸25mlと過酸化水素水8mlとを加え、60℃で30分間加熱して溶解させたのち、100mlとなるまで蒸留水を加えたものを分析試料とするが、本分析方法では測定時のpHを8以上とするので、チタンイオンが沈殿する場合がある。そこで、チタンイオンの沈殿を防止するために、過酸化水素水の量を増加したり、フッ化物イオン(F- )を添加するなどの処理を行ってもよい。
【0091】
そののち、図5に示したステップS201〜ステップS206に従って、分析試料に含まれる特定の金属イオンの含有量を分析し、セラミックスに含まれる特定の金属の含有量を測定する。その結果、特定の金属の含有量が基準値以下であれば良と判断し、基準値を超えれば不良と判断して、分別する。
【0092】
このように本実施の形態によれば、金属イオンと錯体あるいはイオン対を形成し得る化合物13を保持体11に吸着あるいは結合させた分析用部材10を用いるようにしたので、ウェル12に分析試料などを入れ、錯体あるいはイオン対を形成させることにより、金属イオンを分析用部材10に容易に固定させることができる。よって、例えば、金属イオンを固定した分析用部材10に光を照射し、その光の変化を検出することにより、短時間で容易に金属イオンを分析することができる。また、検出試薬である化合物13を一つ一つの分析試料ごとに毎回添加する必要がなくなり、簡単に分析することができる。更に、検出試薬である化合物13を消費しないので、1つの分析用部材10を新しい分析試料の測定に繰り返し用いることができる。
【0093】
特に、複数のウェル12が設けられたマイクロプレートを用いるようにすれば、96個のウェル12があるマイクロプレートの場合には最大96試料の測定を数秒で行うことができ、384個のウェル12があるマイクロプレートの場合には最大384試料の測定を数秒で行うことができる。また、マイクロプレートの測定を行う分析装置は安価であり、排気設備も不要であるので、簡単に安い費用でどこでも分析することができる。
【0094】
また、化合物13としてポルフィリンを用いるようにすれば、モル吸光係数εが大きいので、数ppbから数百ppbの微量金属イオンを高い精度で検出することができる。
【0095】
(変形例)
上記実施の形態では、分析用部材10をいわゆるマイクロプレートにより構成する場合について説明したが、例えば、薄板状などの他の形状を有するようにしてもよい。例えば、薄板状とする場合には、分析用部材の少なくとも一部に化合物13を吸着あるいは結合させておき、その部分を分析試料の中に浸漬させることにより、金属イオンを固定させるようにすれば、同様にして分析することができる。
【0096】
【実施例】
更に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0097】
(実施例1)
まず、保持体11として市販されている図1に示したようなポリスチレン製のマイクロプレートを用意し(ステップS101;図3参照)、ウェル12に濃硫酸0.2mlを入れ、70℃で4時間保持して内壁面12Aおよび底面12Bのスルホン化を行った(ステップS102;図3参照)。次いで、蒸留水でよく洗浄した(ステップS103;図3参照)。続いて、ウェル12に化7および化8に示したT(4−MPy)Pの1.0×10-4mol/l水溶液を0.2ml入れ、室温で30分間放置して、検出試薬である化合物13としてT(4−MPy)Pを吸着あるいは結合させた(ステップS104;図3参照)。そののち、蒸留水で良く洗浄し(ステップS105;図3参照)、分析用部材10とした。
【0098】
また、鉛イオン(Pb2+)の分析試料として、市販されている原子吸光測定用の標準溶液(Pb2+:1000質量ppm)に硝酸を加え、それを水道水で1.0質量ppmに希釈したものを用意した。
【0099】
次いで、分析用部材10の20個のウェル12それぞれに、pH緩衝溶液として0.1mol/lの四ホウ酸ナトリウム水溶液0.05mlを入れたのち(ステップS201;図5参照)、用意した分析試料0.05ml、および鉄イオン(Fe2+,Fe3+)のマスキング剤として0.1mol/lのクエン酸ナトリウム水溶液0.05mlを添加した(ステップS202,S203;図5参照)。続いて、分析試料を入れた分析用部材10をウォーターバスにより約60℃で5分間加熱し、分析試料に含まれる鉛イオン(Pb2+)を固定した(ステップS204;図5参照)。
【0100】
そののち、鉛イオン(Pb2+)を固定した分析用部材10について、コロナ電気株式会社製のマイクロプレートリーダー「MTP−500」を用い、波長480nmの吸光度を測定して、鉛イオン(Pb2+)の濃度を求めた(ステップS206;図5参照)。表1にその結果を示す。なお、ステップS206において分析装置により20個の分析試料を測定するのに要した時間は5秒であり、ステップS201〜ステップS206における分析試料のサンプリングから測定までに要した時間は20分であった。
【0101】
【表1】
Figure 0004139211
【0102】
本実施例に対する比較例1として、実施例1と同一の分析試料を20個用意し、原子吸光分析法で鉛イオン(Pb2+)の濃度を分析した。その結果を表1に合わせて示す。なお、20個の分析試料を原子吸光分析法で測定するのに要した時間は5分であり、サンプリングから測定までに要した時間は2時間であった。
【0103】
本実施例に対する比較例2として、実施例1と同一の分析試料を20個用意し、非特許文献4に従い、化7および化23に示したT(4−SEPy)Pを検出試薬として用いて、フローインジェクション分析法により鉛イオン(Pb2+)の濃度を分析した。その結果も表1に合わせて示す。なお、20個の分析試料をフローインジェクション分析法で測定するのに要した時間は1時間であり、サンプリングから測定までに要した時間は3時間であった。
【0104】
表1から分かるように、実施例1によれば、比較例1,2と同様にばらつきの小さい良好な結果が得られ、かつ比較例1,2に比べて分析に要する時間が大幅に短かった。すなわち、本発明の分析用部材10を用いるようにすれば、金属イオンを高い精度で分析することができると共に、分析時間を大幅に短縮できることが分かった。
【0105】
(実施例2)
実施例1と同様の標準溶液を希釈して、鉛イオン(Pb2+)の濃度を変化させた7個の分析試料を作製した。作製した分析試料について、実施例1と同様の分析用部材10を用い、実施例1と同様にして鉛イオン(Pb2+)の濃度を求めた。その結果を図7に示す。
【0106】
図7に示したように、7.5×10-7mol/l(155質量ppb)〜1.0×10-4mol/l(21質量ppm)の範囲で良好な直線関係が得られた。その相関係数は0.99であった。検出限界はブランク値の3σn-1 とし、その値は5.0×10-7mol/l(104質量ppb)であった。
【0107】
また、得られた検量線の中央値の濃度に調整した96個の分析試料を用意し、同様にして鉛イオン(Pb2+)の濃度を求めたところ、その相対標準偏差は4.04%と十分に小さかった。なお、分析装置により96個の分析試料を測定するのに要した時間は、実施例1と同様にわずか5秒であり、分析試料のサンプリングから測定までに要した時間も20分であった。
【0108】
すなわち、ポルフィリンを保持体11に吸着あるいは結合させた分析用部材10を用いるようにすれば、100ppb程度の微量金属イオンについても、高い精度でかつ短い時間で簡単に分析できることが分かった。
【0109】
(実施例3)
1つの分析用部材10で何回まで鉛イオン(Pb2+)の定量が可能かを検討した。分析用部材10には実施例1と同様のものを用い、分析試料には実施例1と同様の標準溶液に硝酸を加えて鉛イオン(Pb2+)の濃度を1.0×10-4mol/lに希釈したものを用いた。実験は、分析用部材10のウェル12に0.1mol/lの四ホウ酸ナトリウム水溶液0.05mlおよび分析試料0.05mlを入れ、約60℃で10分間加熱し、実施例1と同様にしてマイクロプレートリーダーで吸光度を測定したのち、0.1mol/lの塩酸および蒸留水で洗浄するという工程を10回繰り返した。すなわち、図5に示したステップS201〜ステップS207を10回繰り返した。その結果を表2に示す。
【0110】
【表2】
Figure 0004139211
【0111】
表2から分かるように、鉛イオン(Pb2+)の濃度は10回の測定までほぼ一定であった。すなわち、化合物13を保持体11吸着あるいは結合させた分析用部材10は、検出試薬である化合物13を添加しなくても、繰り返し用いることができることが分かった。
【0112】
(実施例4)
化合物13としてカチオン性のポルフィリンである化7および化9に示したT(3−MPy)Pを用い、カドミウムイオン(Cd2+)の分析を行った。分析用部材10は、化合物13をT(3−MPy)Pとしたことを除き、実施例1と同様にして作製した。カドミウムイオン(Cd2+)の分析試料は、市販されている原子吸光測定用の標準溶液(Cd2+:1000質量ppm)に硝酸を加え、それを水道水で1.0質量ppmに希釈したものを用意した。作製した分析試料について、作製した分析用部材10を用い、吸光度の測定波長を441nmとしたことを除き、実施例1と同様にしてカドミウムイオン(Cd2+)の濃度を求めた。その結果を実施例1の結果と共に表3に示す。
【0113】
【表3】
Figure 0004139211
【0114】
表3から分かるように、実施例4によれば、実施例1と同様にばらつきの小さい良好な結果が得られ、かつ分析に要する時間も短かった。すなわち、本発明の分析用部材10を用いるようにすれば、鉛イオン(Pb2+)以外の他の金属イオンについても、高い精度でかつ短時間で簡単に分析できることが分かった。
【0115】
(実施例5〜7)
保持体11の構成材料を変えたことを除き、実施例1と同様にして鉛イオン(Pb2+)の分析を行った。保持体11には、実施例5では市販されているガラス製のマイクロプレートを用い、実施例6では市販されているポリプロピレン製のマイクロプレートを用い、実施例7では試作したポリカーボネート製のマイクロプレートを用いた。なお、実施例5ではウェル12をアニオン性とする処理を行う必要がないので、その処理を省略した。表4に実施例5〜7の結果を実施例1の結果と共に示す。
【0116】
【表4】
Figure 0004139211
【0117】
表4から分かるように、実施例5〜7についても、実施例1と同様にばらつきの小さい良好な結果が得られ、かつ分析に要する時間も短かった。すなわち、保持体11を他の材料で構成しても、同様に高い精度でかつ短時間で簡単に分析できることが分かった。
【0118】
(実施例8,9)
保持体11がカチオン性を有し、化合物13がアニオン性を有する材料で分析用部材10を作製したことを除き、実施例1と同様にして鉛イオン(Pb2+)の分析を行った。実施例8では、ポリスチレンに第4級アンモニウム基を結合させたアニオン交換樹脂により保持体11を作製し、ウェル12に化7および化13に示したT(4−SP)Pの1.0×10-4mol/l水溶液を0.2ml入れ、室温で30分間放置して化合物13であるT(4−SP)Pを吸着あるいは結合させたのち、蒸留水で良く洗浄することにより分析用部材10を作製した。実施例9では、ポリスチレン製のマイクロプレートをホスホニウム塩化したものを保持体11としたことを除き、実施例8と同様にして分析用部材10を作製した。測定波長は実施例8,9共に464nmとした。表5に実施例8,9の結果を実施例1の結果と共に示す。
【0119】
【表5】
Figure 0004139211
【0120】
表5から分かるように、実施例8,9についても、実施例1と同様にばらつきの小さい良好な結果が得られ、かつ分析に要する時間も短かった。すなわち、保持体11をカチオン性を有し、化合物13をアニオン性としても、同様に高い精度でかつ短時間で簡単に分析できることが分かった。
【0121】
(実施例10)
実施例1と同様の分析用部材10を用い、白濁した分析試料について鉛イオン(Pb2+)の分析を行った。分析試料には、実施例1と同様の標準溶液に硝酸を加え、それを牛乳で希釈し、鉛イオン(Pb2+)の濃度を1.0質量ppmとしたものを用いた。この分析試料を実施例1と同様にしてウェル12に入れ、分析試料に含まれる鉛イオン(Pb2+)を固定させたのち、ウェル12内の分析試料を捨てて水で洗浄し(ステップS205;図5参照)、実施例1と同様にして吸光度を測定した。表6に実施例10の結果を実施例1の結果と共に示す。
【0122】
【表6】
Figure 0004139211
【0123】
表6から分かるように、実施例10によれば、実施例1と同様にばらつきの小さい良好な結果が得られ、かつ分析に要する時間も短かった。すなわち、本発明の分析用部材10を用いるようにすれば、白濁した分析試料についても、高い精度でかつ短時間で簡単に分析できることが分かった。
【0124】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は、上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形することができる。例えば、上記実施の形態および実施例では、保持体11および化合物13を構成する材料について具体的に例を挙げて説明したが、保持体11の少なくとも一部に化合物13を吸着あるいは結合させることができれば、他の材料を用いてもよい。
【0125】
また、上記実施の形態および実施例では、分析用部材10の形状、および分析装置の構成について具体的に例を挙げて説明したが、他の形状および構成を有するようにしてもよい。
【0126】
更に、上記実施の形態および実施例では、金属イオンの分析方法について具体的に例を挙げて説明したが、必ずしも全ての工程を含む必要はなく、また、他の工程を含んでいてもよい。加えて、上記実施の形態では、本発明の分析方法をセラミックスの製造方法に用いる場合について説明したが、他の材料の製造方法、例えば、希土類磁石材料あるいは磁歪材料などの金属材料の製造方法についても適用することができる。
【0127】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明による分析用部材、または分析装置、または分析方法によれば、金属イオンと錯体あるいはイオン対を形成し得る化合物を保持体が有する複数のウェルに吸着あるいは結合させるようにしたので、分析試料に含まれる金属イオンを、錯体あるいはイオン対の形成により分析用部材に容易に固定させることができる。よって、例えば、金属イオンを固定した分析用部材に光を照射し、その光の変化を検出することにより、短時間で容易に金属イオンを分析することができる。また、検出試薬である化合物を一つ一つの分析試料ごとに毎回添加する必要がなくなり、簡単に分析することができる。更に、検出試薬である化合物を消費しないので、1つの分析用部材を新しい分析試料の測定に繰り返し用いることができる。
【0128】
特に、この化合物としてポルフィリンを用いた上述の分析用部材、または分析装置、または分析方法によれば、モル吸光係数εを大きくすることができ、数ppbから数百ppbの微量金属イオンを高い精度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る分析用部材の構成を表す部分断面斜視図である。
【図2】図1に示した分析用部材のウェルの構成を表す断面図である。
【図3】図1に示した分析用部材の一製造方法を表す流れ図である。
【図4】図1に示した分析用部材を用いた本発明の一実施の形態に係る分析装置を表す構成図である。
【図5】図4に示した分析装置を用いた金属イオンの分析方法を表す流れ図である。
【図6】T(4−MPy)Pの吸光スペクトルおよびT(4−MPy)Pの鉛錯体の吸収スペクトルを表す特性図である。
【図7】T(4−MPy)Pを用いた鉛イオンの濃度と波長480nmにおける吸光度との関係を表す特性図である。
【符号の説明】
10…分析用部材、11…保持体、12…ウェル、12A…内壁面、12B…底面、13…化合物、20…照射部、21…光源、22…プリズム、23…レンズ、30…検出部、31…対物レンズ、32…フィルタ、33…受光器、40…処理部、41…変換部、42…表示部、43…算出部、50…制御部、60…測光室。

Claims (12)

  1. 分析試料を保持するための複数のウェルを有する保持体を備え
    前記ウェルの少なくとも一部に、金属イオンと錯体あるいはイオン対を形成し得る化合物、吸着あるいは結合されている
    ことを特徴とする分析用部材。
  2. 前記化合物は、前記ウェルの内壁面および底面の全面に吸着あるいは結合されている
    ことを特徴とする請求項1記載の分析用部材。
  3. 前記ウェルの内壁面および底面は、粗さ加工されている
    ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の分析用部材。
  4. 前記化合物と前記ウェルとは静電的に結合している
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の分析用部材。
  5. 前記化合物は、カチオン性あるいはアニオン性を有する
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の分析用部材。
  6. 前記化合物は、ポルフィリンを含む
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の分析用部材。
  7. 前記化合物は、5,10,15,20−テトラキス(1−メチルピリジニウム−2−イル)ポルフィン、5,10,15,20−テトラキス(1−メチルピリジニウム−3−イル)ポルフィン、および5,10,15,20−テトラキス(1−メチルピリジニウム−4−イル)ポルフィンのうちの少なくとも1種を含む
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の分析用部材。
  8. 前記ウェルは、少なくとも一部にアニオン性あるいはカチオン性を有する
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の分析用部材。
  9. 前記ウェルは、高分子材料またはガラスよりなることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の分析用部材。
  10. 分析試料に含まれる金属イオンを固定する請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の分析用部材と、
    この分析用部材に対して光を照射する照射部と、
    前記金属イオンを固定した分析用部材による前記光の変化を検出する検出部と
    を備えたことを特徴とする分析装置。
  11. 請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の分析用部材を用い、分析試料に含まれる金属イオンを検出することを特徴とする分析方法。
  12. 分析試料に含まれる金属イオンを前記分析用部材に固定する工程と、
    前記金属イオンを固定した分析用部材に光を照射し、その光の変化を検出することにより、金属イオンの含有量を測定する工程と
    を含むことを特徴とする請求項11記載の分析方法。
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