JP4120456B2 - 高速切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、硬質被覆層が一段とすぐれた高温硬さと耐熱性を有し、かつ高温強度にもすぐれ、したがって例えば粘性の高い各種のステンレス鋼や軟鋼などの難削材の切削加工を、特に高い発熱を伴う高速加工条件で行なった場合に、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具(以下、被覆超硬工具という)およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、被覆超硬工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
【0003】
また、被覆超硬工具として、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金の超硬基体または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットの超硬基体(以下、これらの超硬基体を総称して「超硬基体」という)の表面に、
組成式:[Ti1-(Y+Z)AlYZrZ)N](ただし、原子比で、Yは0.35〜0.60、Zは0.01〜0.10を示す)を満足するTiとAlとZrの複合窒化物[以下、(Ti,Al,Zr)Nで示す]層からなる硬質被覆層を1〜15μmの平均層厚で物理蒸着してなる被覆超硬工具が提案され、かかる被覆超硬工具が、硬質被覆層を構成する前記(Ti,Al,Zr)N層がAl成分による高温硬さと耐熱性、およびTi成分による高温強度を有し、さらにZr成分による一段の高温強度向上効果と相俟って、各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削加工に用いられることも知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
さらに、上記の被覆超硬工具が、例えば図2に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の超硬基体を装入し、ヒータで装置内を、例えば500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成を有するTi−Al−Zr合金がセットされたカソード電極(蒸発源)との間に、例えば電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方上記超硬基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記超硬基体の表面に、上記(Ti,Al,Zr)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより製造されることも良く知られるところである。(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平9−104966号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、一段と高速化した条件での切削加工を強いられる傾向にあるが、上記の従来被覆超硬工具においては、これを例えば粘性の高い各種のステンレス鋼や軟鋼などの難削材の切削加工を、特に高い発熱を伴う高速条件で行なうのに用いた場合、硬質被覆層である(Ti,Al,Zr)N層が、すぐれた高温強度を有するものの、十分な高温硬さおよび耐熱性を具備するものでないために、前記硬質被覆層の摩耗進行が一段と促進されるようになることから、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に上記の従来被覆超硬工具の硬質被覆層に着目し、特に粘性の高い各種のステンレス鋼や軟鋼などの難削材の高速切削で、すぐれた耐摩耗性を発揮する硬質被覆層を開発すべく、研究を行った結果、
(a)例えば図1(a)に概略平面図で、同(b)に概略正面図で示される構造の物理蒸着装置に属するアークイオンプレーティング装置、すなわち装置中央部に超硬基体装着用回転テーブルを設け、前記回転テーブルを挟んで、一方側に相対的にAl含有割合の高いAl−Ti−Zr合金、他方側に相対的にTi含有割合の高いTi−Al−Zr合金をいずれもカソード電極(蒸発源)として対向配置し、さらにいずれも前記Al−Ti−Zr合金に比してAl含有割合が低く、かつ前記Ti−Al−Zr合金に比してTi含有割合が低い中間Al/Ti/Zr合金と中間Ti/Al/Zr合金を同じくカソード電極(蒸発源)として対向配置したアークイオンプレーティング装置を用い、
この装置の前記回転テーブル上に、前記回転テーブルの中心軸から半径方向に離れた位置に偏心して前記超硬基体を装着し、
この状態で装置内の反応雰囲気を酸素と窒素の混合雰囲気とするが、前記酸素と窒素の装置内への相対導入割合を上記超硬基体の回転移動位置に対応して調整して、前記超硬基体が上記の相対的にAl含有割合の高いAl−Ti−Zr合金のカソード電極に最も接近した時点での反応雰囲気を酸素導入割合が最も高く、窒素導入割合が最も低い、望ましくは酸素の相対導入割合が90〜97容量%で、残りが窒素からなる反応雰囲気とする一方、前記超硬基体が上記の相対的にTi含有割合の高いTi−Al−Zr合金のカソード電極に最も接近した時点での反応雰囲気を窒素導入割合が最も高く、酸素導入割合が最も低い、望ましくは窒素の相対導入割合が90〜97容量%で、残りが酸素からなる反応雰囲気とすると共に、前記超硬基体が前記Al−Ti−Zr合金のカソード電極最接近位置から上記中間Al/Ti/Zr合金のカソード電極最接近位置を経て前記Ti−Al−Zr合金のカソード電極最接近位置に回転移動する間の反応雰囲気を、酸素の導入割合を連続的に減少させ、これに対応して窒素の導入割合を連続的に増加させる連続変化雰囲気とし、一方前記超硬基体が前記Ti−Al−Zr合金のカソード電極最接近位置から上記中間Ti/Al/Zr合金のカソード電極最接近位置を経て前記Al−Ti−Zr合金のカソード電極最接近位置に回転移動する間の反応雰囲気を、窒素の導入割合を連続的に減少させ、これに対応して酸素の導入割合を連続的に増加させる連続変化雰囲気とし、
上記回転テーブルを回転させると共に、蒸着形成される硬質被覆層の層厚均一化を図る目的で前記超硬基体自体も自転させながら、前記のそれぞれのカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にアーク放電を発生させる条件で、
AlとTiとZrの複合酸窒化物(以下、Al−Ti−Zr酸窒化物という)層を形成すると、
上記超硬基体の表面には、回転テーブル上の中心軸から半径方向に離れた位置に偏心して配置された前記超硬基体が上記の一方側の相対的にAl含有量の高いAl−Ti−Zr合金のカソード電極(蒸発源)に最も接近した時点で層中にAlおよび酸素の最高含有点が形成され、また前記前記超硬基体が上記の他方側の相対的にTi含有量の高いTi−Al−Zr合金のカソード電極に最も接近した時点で層中にTiおよび窒素の最高含有点が形成されることから、上記回転テーブルの回転によって層中には厚さ方向にそって前記Alおよび酸素の最高含有点とTiおよび窒素の最高含有点が所定間隔をもって交互に繰り返し現れると共に、前記Alおよび酸素の最高含有点から前記Tiおよび窒素の最高含有点、前記Tiおよび窒素の最高含有点から前記Alおよび酸素の最高含有点へAlと酸素およびTiと窒素の含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造をもったAl−Ti−Zr酸窒化物層からなる硬質被覆層が形成されるようになること。
【0008】
(b)上記(a)の繰り返し連続変化成分濃度分布構造のAl−Ti−Zr酸窒化物層の形成に際して、例えば対向配置のカソード電極(蒸発源)のそれぞれの組成、並びに装置内で連続変化する反応雰囲気の組成、すなわち酸素と窒素の相互導入割合を調製すると共に、超硬基体が装着されている回転テーブルの回転速度を制御して、
上記Alおよび酸素の最高含有点が、
組成式:(Al1-(X+Z)TiXZrZ)O1-DND(ただし、原子比で、Xは0.10〜0.25、Zは0.01〜0.10、Dは0.02〜0.10)、
上記Tiおよび窒素の最高含有点が、
組成式:(Ti1-(Y+Z)AlYZrZ)N1-EOE(ただし、原子比で、Yは0.35〜0.60、Zは0.01〜0.10、Eは0.02〜0.10)、
を満足し、かつ隣り合う上記Alおよび酸素の最高含有点と上記Tiおよび窒素の最高含有点の間隔を、0.01〜0.1μmとすると、
上記Alおよび酸素の最高含有点部分では、高含有のAlと酸素の作用で、一段とすぐれた高温硬さと耐熱性を示し、一方上記Tiおよび窒素の最高含有点部分では、上記の従来(Ti,Al,Zr)N層におけるTiおよび窒素の含有割合と同等の相対的に高含有のTiおよび窒素含有となることから、Zr成分による高温強度向上効果と相俟って、前記従来(Ti,Al,Zr)N層の具備する高温強度と同等の相対的にすぐれた高温強度が確保され、かつこれらAlおよび酸素の最高含有点と上記Tiおよび窒素の最高含有点の間隔をきわめて小さくしたことから、層全体の特性として一段とすぐれた高温硬さと耐熱性、さらにすぐれた高温強度も具備するようになり、また前記両点間でAlと酸素およびTiと窒素の含有割合がそれぞれ連続的に変化(成分濃度分布構造)することにより、硬質被覆層内には層界面が存在しないことになり、したがって、かかる構成のAl−Ti−Zr酸窒化物層を硬質被覆層として形成してなる被覆超硬工具は、特に粘性の高い各種のステンレス鋼や軟鋼などの難削材の高い発熱を伴なう高速切削で、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮するようになること。
以上(a)および(b)に示される研究結果を得たのである。
【0009】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)超硬基体の表面に、Al−Ti−Zr酸窒化物層からなる硬質被覆層を1〜15μmの平均層厚で物理蒸着してなる被覆超硬工具にして、前記硬質被覆層が、層厚方向にそって、Alおよび酸素の最高含有点とTiおよび窒素の最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Alおよび酸素の最高含有点から前記Tiおよび窒素の最高含有点、前記Tiおよび窒素の最高含有点から前記Alおよび酸素の最高含有点へAlと酸素およびTiと窒素の含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、
さらに、上記Alおよび酸素の最高含有点が、
組成式:(Al1-(X+Z)TiXZrZ)O1-DND(ただし、原子比で、Xは0.10〜0.25、Zは0.01〜0.10、Dは0.02〜0.10)、
上記Tiおよび窒素の最高含有点が、
組成式:(Ti1-(Y+Z)AlYZrZ)N1-EOE(ただし、原子比で、Yは0.35〜0.60、Zは0.01〜0.10、Eは0.02〜0.10)、
を満足し、かつ隣り合う上記Alおよび酸素の最高含有点と上記Tiおよび窒素の最高含有点の間隔が、0.01〜0.1μmである、
高速切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬工具。
(2)(a)アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上に、前記回転テーブルの中心軸から半径方向に離れた位置に偏心して超硬基体を自転自在に装着し、
(b)また、上記回転テーブルを挟んで、いずれもカソード電極(蒸発源)として、相対的にAl含有割合の高いAl−Ti−Zr合金と、相対的にTi含有割合の高いTi−Al−Zr合金を対向配置すると共に、それぞれ前記Al−Ti−Zr合金に比してAl含有割合が低く、かつ前記Ti−Al−Zr合金に比してTi含有割合が低い中間Al/Ti/Zr合金と中間Ti/Al/Zr合金を同じく対向配置し、
(c)上記回転テーブルを挟んで対向配置した上記のカソード電極と、前記カソード電極のそれぞれに並設されたアノード電極との間にアーク放電を発生させ、
(d)上記アークイオンプレーティング装置内の反応雰囲気を酸素と窒素の混合雰囲気とするが、前記装置内への酸素と窒素の相対導入割合を上記超硬基体の回転移動位置に対応して調整して、前記超硬基体が上記の相対的にAl含有割合の高いAl−Ti−Zr合金のカソード電極に最も接近した時点での反応雰囲気を酸素導入割合が最も高く、窒素導入割合が最も低い反応雰囲気とする一方、前記超硬基体が上記の相対的にTi含有割合の高いTi−Al−Zr合金のカソード電極に最も接近した時点での反応雰囲気を窒素導入割合が最も高く、酸素導入割合が最も低い反応雰囲気とすると共に、前記超硬基体が前記Al−Ti−Zr合金のカソード電極最接近位置から上記中間Al/Ti/Zr合金のカソード電極最接近位置を経て前記Ti−Al−Zr合金のカソード電極最接近位置に回転移動する間の反応雰囲気を、酸素導入割合が連続的に減少し、これに対応して窒素導入割合が連続的に増加する連続変化雰囲気とし、一方前記超硬基体が前記Ti−Al−Zr合金のカソード電極最接近位置から上記中間Ti/Al/Zr合金のカソード電極最接近位置を経て前記Al−Ti−Zr合金のカソード電極最接近位置に回転移動する間の反応雰囲気を、窒素導入割合が連続的に減少し、これに対応して酸素導入割合が連続的に増加する連続変化雰囲気とし、もって、上記回転テーブル上で自転しながら偏心回転する上記超硬基体の表面に、Al−Ti−Zr酸窒化物層からなる硬質被覆層を物理蒸着すること、
以上(a)〜(e)の工程により高速切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬工具を製造する方法。
以上(1)および(2)に特徴を有するものである。
【0010】
つぎに、この発明の被覆超硬工具において、硬質被覆層であるAl−Ti−Zr酸窒化物層の構成を上記の通りに限定した理由を説明する。
(a)Alおよび酸素の最高含有点
上記Al−Ti−Zr酸窒化物層において、Alおよび酸素の最高含有点部分では高含有のAlと酸素の作用で一段とすぐれた高温硬さと耐熱性を示し、一方Tiおよび窒素の最高含有点部分では、相対的に高い含有割合のTiと窒素の作用ですぐれた高温強度を示し、かつこの高温強度はZr成分の作用で一段の向上が図られ、したがってAlおよび酸素の最高含有点では、TiのAlおよびZrとの合量に占める含有割合を示すX値が、原子比で0.10未満になったり、窒素の酸素との合量に占める含有割合を示すD値が、同じく原子比で(以下、同じ)0.02未満になったりすると、Alや酸素の割合が多くなり過ぎて、すぐれた高温強度を有するTiと窒素の最高含有点が隣接して存在しても層自体の高温強度はきわめて低いものとなり、この結果チッピングなどが発生し易くなり、一方同X値が0.25を越えたり、同D値が0.10を越えたりすると、高温硬さおよび耐熱性が急激に低下し、摩耗促進の原因となり、またZr成分のAlとTiの合量に占める割合を示すZ値が0.01未満では所望の高温強度向上効果が得られず、同Z値が0.10を越えると高温硬さが低下するようになることから、Tiの含有割合を示すX値を0.10〜0.25、Zrの含有割合を示すZ値を0.01〜0.10、および窒素の含有割合を示すD値を0.02〜0.10と定めた。
【0011】
(b)Tiおよび窒素の最高含有点
上記の通りAlおよび酸素の最高含有点は相対的にすぐれた高温硬さと耐熱性を有するが、反面相対的に高温強度の低いものであるため、このAlおよび酸素の最高含有点の高温強度不足を補う目的で、相対的にすぐれた高温強度を有するTiおよび窒素の最高含有点を厚さ方向に交互に介在させるものである。しかし、AlのTiとZrの合量に占める含有割合を示すY値が0.35未満では、所望の高温硬さおよび耐熱性を確保することができず、この結果硬質被覆層の摩耗進行が一段と促進されるようになり、また同Y値が0.60を越えると、高温強度が急激に低下し、硬質被覆層にチッピングが発生し易くなり、一方酸素の窒素との合量に占める含有割合を示すE値が0.02未満になると、Tiおよび窒素の最高含有点の高温硬さおよび耐熱性が急激に低下し、これが摩耗促進の原因となり、また同E値が0.10を越えると、高温強度が急激に低下し、これがチッピング発生の原因となることから、Alの含有割合を示すY値を0.35〜0.60、酸素の含有割合を示すE値を0.02〜0.10と定めた。
また、Zr成分は上記のAlおよび酸素の最高含有点におけると同じく高温強度の一段の向上を図る目的で含有するものであり、したがって、その含有割合を示すZ値も同じ理由で0.01〜0.10と定めた。
【0012】
(c)Alおよび酸素の最高含有点とTiおよび窒素の最高含有点間の間隔
その間隔が0.01μm未満ではそれぞれの点を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果層に所望のすぐれた高温硬さおよび耐熱性、さらに高温強度を確保することができなくなり、またその間隔が0.1μmを越えるとそれぞれの点がもつ欠点、すなわちAlおよび酸素の最高含有点であれば高温強度不足、Tiおよび窒素の最高含有点であれば高温硬さおよび耐熱性不足が層内に局部的に現れ、これが原因で切刃部にチッピングが発生し易くなったり、摩耗進行が一段と促進されるようになることから、その間隔を0.01〜0.1μmと定めた。
【0013】
(d)硬質被覆層の平均層厚
その層厚が1μm未満では、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
【0014】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の被覆超硬工具およびその製造方法を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 C2 粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで60時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1420℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施すことにより、ISO規格・CNMG120412のチップ形状をもったWC基超硬合金製の超硬基体A−1〜A−10を形成した。
【0015】
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで60時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1520℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施すことにより、ISO規格・CNMG120412のチップ形状をもったTiCN系サーメット製の超硬基体B−1〜B−6を形成した。
【0016】
ついで、上記の超硬基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上に、前記回転テーブルの中心軸から半径方向に離れた位置に偏心して自転自在に装着し、いずれもカソード電極(蒸発源)として、種々の成分組成をもったAlおよび酸素最高含有点形成用Al−Ti−Zr合金と、同じく種々の成分組成をもったTiおよび窒素最高含有点形成用Ti−Al−Zr合金を前記回転テーブルを挟んで対向配置し、さらにそれぞれ前記Al−Ti−Zr合金に比してAl含有割合が低く、かつ前記Ti−Al−Zr合金に比してTi含有割合が低い中間Al/Ti/Zr合金と中間Ti/Al/Zr合金を同じく対向配置し、またボンバート洗浄用金属Tiも装着し、まず装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記金属Tiとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって超硬基体表面をTiボンバート洗浄し、ついで、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−30Vの直流バイアス電圧を印加し、かつそれぞれのカソード電極(前記Alおよび酸素最高含有点形成用Al−Ti−Zr合金、前記Tiおよび窒素最高含有点形成用Ti−Al−Zr合金、さらに前記中間Al/Ti/Zr合金および中間Ti/Al/Zr合金)とアノード電極との間に150Aの電流を流してアーク放電を発生させ、かつ装置内の反応雰囲気の圧力を3Paに保持しながら、前記超硬基体が上記の相対的にAl含有割合の高いAl−Ti−Zr合金のカソード電極(蒸発源)に最も接近した時点での反応雰囲気を酸素導入割合が最も高く、窒素導入割合が最も低い反応雰囲気とする一方、前記超硬基体が上記の相対的にTi含有割合の高いTi−Al−Zr合金のカソード電極に最も接近した時点での反応雰囲気を窒素導入割合が最も高く、酸素導入割合が最も低い反応雰囲気とすると共に、前記超硬基体が前記Al−Ti−Zr合金のカソード電極最接近位置から上記中間Al/Ti/Zr合金のカソード電極最接近位置を経て前記Ti−Al−Zr合金のカソード電極最接近位置に回転移動する間の反応雰囲気を、酸素導入割合が連続的に減少し、これに対応して窒素導入割合が連続的に増加する連続変化雰囲気とし、一方前記超硬基体が前記Ti−Al−Zr合金のカソード電極最接近位置から上記中間Ti/Al/Zr合金のカソード電極最接近位置を経て前記Al−Ti−Zr合金のカソード電極最接近位置に回転移動する間の反応雰囲気を、窒素導入割合が連続的に減少し、これに対応して酸素導入割合が連続的に増加する連続変化雰囲気とした条件で本発明法を実施し、もって前記超硬基体の表面に、厚さ方向に沿って表3,4に示される目標組成のAlおよび酸素最高含有点とTiおよび窒素最高含有点とが交互に、同じく表3,4に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Alおよび酸素最高含有点から前記Tiおよび窒素最高含有点、前記Tiおよび窒素最高含有点から前記Alおよび酸素最高含有点へAlと酸素およびTiと窒素の含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、かつ同じく表3,4に示される目標層厚の硬質被覆層を蒸着形成してなる本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
【0017】
また、比較の目的で、これら超硬基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図2に示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、カソード電極(蒸発源)として種々の成分組成をもったTi−Al−Zr合金を装着し、さらにボンバード洗浄用金属Tiも装着し、まず、装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記超硬基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記金属Tiとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させて超硬基体表面をTiボンバード洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、超硬基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、前記カソード電極のTi−Al−Zr合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させる条件で従来法を実施し、もって前記超硬基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6のそれぞれの表面に、表5に示される目標組成および目標層厚を有し、かつ層厚方向に沿って実質的に組成変化のない(Ti,Al,Zr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、従来被覆超硬チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
【0018】
つぎに、上記本発明法および従来法により得られた上記本発明被覆超硬チップ1〜16および従来被覆超硬チップ1〜16を工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度:240m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.15mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件でのステンレス鋼の乾式連続高速切削加工試験、
被削材:JIS・SUS316の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:200m/min.、
切り込み:0.12mm、
送り:0.20mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件でのステンレス鋼の乾式断続高速切削加工試験、さらに、
被削材:JIS・S15Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:330m/min.、
切り込み:1.8mm、
送り:0.30mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件での軟鋼の乾式断続高速切削加工試験を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
【表5】
【0024】
【表6】
【0025】
(実施例2)
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr3C2粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表7に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で60時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mm、13mm、および26mmの3種の超硬基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、表7に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法、並びにいずれもねじれ角:30度の4枚刃スクエア形状をもった超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8をそれぞれ製造した。
【0026】
ついで、これらの超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で本発明法を実施し、もって前記超硬基体(エンドミル)の表面に、厚さ方向に沿って表8に示される目標組成のAlおよび酸素最高含有点とTiおよび窒素最高含有点とが交互に、同じく表8に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Alおよび酸素最高含有点から前記Tiおよび窒素最高含有点、前記Tiおよび窒素最高含有点から前記Alおよび酸素最高含有点へAlと酸素およびTiと窒素の含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、かつ同じく表8に示される目標層厚の硬質被覆層を蒸着形成してなる本発明被覆超硬工具としての本発明被覆超硬エンドミル1〜8を製造した。
【0027】
また、比較の目的で、上記の超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で従来法を実施し、もって、表9に示される目標組成および目標層厚を有し、かつ層厚方向に沿って実質的に組成変化のない(Ti,Al,Zr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製エンドミル(以下、従来被覆超硬エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0028】
つぎに、上記本発明法および従来法により得られた上記本発明被覆超硬エンドミル1〜8および従来被覆超硬エンドミル1〜8のうち、本発明被覆超硬エンドミル1〜3および従来被覆超硬エンドミル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度:100m/min.、
軸方向切り込み:6mm、
径方向切り込み:0.6mm、
テーブル送り:300mm/分、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速側面切削加工試験、上記の本発明法および従来法により得られた本発明被覆超硬エンドミル4〜6および従来被覆超硬エンドミル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S15Cの板材、
切削速度:180m/min.、
軸方向切り込み:8mm、
径方向切り込み:1mm、
テーブル送り:540mm/分、
の条件での軟鋼の湿式高速側面切削加工試験、本発明法および従来法により得られた本発明被覆超硬エンドミル7,8および従来被覆超硬エンドミル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS316の板材、
切削速度:90m/min.、
軸方向切り込み:15mm、
径方向切り込み:2mm、
テーブル送り:270mm/分、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速側面切削加工試験をそれぞれ行い、いずれの湿式側面切削加工試験(水溶性切削油使用)でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削長を測定した。この測定結果を表8、9にそれぞれ示した。
【0029】
【表7】
【0030】
【表8】
【0031】
【表9】
【0032】
(実施例3)
上記の実施例2で製造した直径が8mm(超硬基体C−1〜C−3形成用)、13mm(超硬基体C−4〜C−6形成用)、および26mm(超硬基体C−7、C−8形成用)の3種の丸棒焼結体を用い、この3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ4mm×13mm(超硬基体D−1〜D−3)、8mm×22mm(超硬基体D−4〜D−6)、および16mm×45mm(超硬基体D−7、D−8)の寸法、並びにいずれもねじれ角:30度の2枚刃形状をもった超硬基体(ドリル)D−1〜D−8をそれぞれ製造した。
【0033】
ついで、これらの超硬基体(ドリル)D−1〜D−8の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で本発明法を実施し、もって前記超硬基体(ドリル)の表面に、厚さ方向に沿って表10に示される目標組成のAlおよび酸素最高含有点とTiおよび窒素最高含有点とが交互に同じく表10に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Alおよび酸素最高含有点から前記Tiおよび窒素最高含有点、前記Tiおよび窒素最高含有点から前記Alおよび酸素最高含有点へAlと酸素およびTiと窒素の含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、かつ同じく表10に示される目標層厚の硬質被覆層を蒸着形成してなる本発明被覆超硬工具としての本発明被覆超硬ドリル1〜8それぞれを製造した。
【0034】
また、比較の目的で、上記の超硬基体(ドリル)D−1〜D−8の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で従来法を実施し、もって、表11に示される目標組成および目標層厚を有し、かつ層厚方向に沿って実質的に組成変化のない(Ti,Al,Zr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製ドリル(以下、従来被覆超硬ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0035】
つぎに、上記本発明法および従来法により得られた上記本発明被覆超硬ドリル1〜8および従来被覆超硬ドリル1〜8のうち、本発明被覆超硬ドリル1〜3および従来被覆超硬ドリル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250、厚さ:50mmのJIS・S15Cの板材、
切削速度:160m/min.、
送り:0.12mm/rev、
穴深さ:8mm、
の条件での軟鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験、上記の本発明法および従来法により得られた本発明被覆超硬ドリル4〜6および従来被覆超硬ドリル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度:120m/min.、
送り:0.16mm/rev、
穴深さ:16mm、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験、本発明法および従来法により得られた本発明被覆超硬ドリル7,8および従来被覆超硬ドリル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S15Cの板材、
切削速度:120m/min.、
送り:0.24mm/rev、
穴深さ:24mm、
の条件での軟鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験、をそれぞれ行い、いずれの湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表10、11にそれぞれ示した。
【0036】
【表10】
【0037】
【表11】
【0038】
上記の本発明法で得られた本発明被覆超硬工具としての本発明被覆超硬チップ1〜16、本発明被覆超硬エンドミル1〜8、および本発明被覆超硬ドリル1〜8、並びに従来法で得られた従来被覆超硬工具としての従来被覆超硬チップ1〜16、従来被覆超硬エンドミル1〜8、および従来被覆超硬ドリル1〜8を構成する硬質被覆層について、厚さ方向に沿ってAl、Ti、Zr、酸素、および窒素の含有割合ををオージェ分光分析装置を用いて測定したところ、前記本発明被覆超硬工具の硬質被覆層では、Alおよび酸素の最高含有点とTiおよび窒素の最高含有点とがそれぞれ目標値と実質的に同じ組成および間隔で交互に繰り返し存在し、かつ前記Alおよび酸素の最高含有点から前記Tiおよび窒素の最高含有点、前記Tiおよび窒素の最高含有点から前記Alおよび酸素の最高含有点へAlと酸素およびTiと窒素の含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有することが確認され、さらに硬質被覆層の平均層厚も目標層厚と実質的に同じ値を示した。一方、前記従来被覆超硬工具の硬質被覆層では、目標組成と実質的に同じ組成および目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示すものの、厚さ方向に沿った組成変化は見られず、層全体に亘って均質な組成を示すものであった。
【0039】
【発明の効果】
表3〜11に示される結果から、上記本発明法で得られた、硬質被覆層が層厚方向に、相対的に一段とすぐれた高温硬さと耐熱性を有するAlおよび酸素の最高含有点と相対的にすぐれた高温強度を有するTiおよび窒素の最高含有点とが交互に所定間隔をおいて繰り返し存在し、かつ前記Alおよび酸素の最高含有点から前記Tiおよび窒素の最高含有点、前記Tiおよび窒素の最高含有点から前記Alおよび酸素の最高含有点へAlとTiおよび酸素と窒素の含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有するAl−Ti−Zr酸窒化物層からなる被覆超硬工具は、いずれも粘性の高い各種のステンレス鋼や軟鋼などの難削材の切削加工を、特に高い発熱を伴う高速条件で行なった場合にも、すぐれた耐摩耗性を示すのに対して、上記従来法で得られた、硬質被覆層が層厚方向に沿って実質的に組成変化のない(Ti,Al,Zr)N層からなる従来被覆超硬工具においては、前記の高速重切削条件では、前記硬質被覆層の高温硬さおよび耐熱性不足が原因で、硬質被覆層の摩耗進行が一段と促進されるようになることから、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の方法によれば、通常の条件での切削加工は勿論のこと、特に各種のステンレス鋼や軟鋼などの難削材の切削加工を、特に高い発熱を伴う高速条件で行なった場合にも、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示す被覆超硬工具を製造することができ、したがって、この結果の被覆超硬工具は切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の被覆超硬工具を構成する硬質被覆層を形成するのに用いたアークイオンプレーティング装置を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。
【図2】従来被覆超硬工具を構成する硬質被覆層を形成するのに用いた通常のアークイオンプレーティング装置の概略説明図である。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン系サーメットからなる超硬基体の表面に、AlとTiとZrの複合酸窒化物層からなる硬質被覆層を1〜15μmの平均層厚で物理蒸着してなる表面被覆超硬合金製切削工具にして、前記硬質被覆層が、層厚方向にそって、Alおよび酸素の最高含有点とTiおよび窒素の最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Alおよび酸素の最高含有点から前記Tiおよび窒素の最高含有点、前記Tiおよび窒素の最高含有点から前記Alおよび酸素の最高含有点へAlと酸素およびTiと窒素の含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、
さらに、上記Alおよび酸素の最高含有点が、
組成式:(Al1-(X+Z)TiXZrZ)O1-DND(ただし、原子比で、Xは0.10〜0.25、Zは0.01〜0.10、Dは0.02〜0.10)、
上記Tiおよび窒素の最高含有点が、
組成式:(Ti1-(Y+Z)AlYZrZ)N1-EOE(ただし、原子比で、Yは0.35〜0.60、Zは0.01〜0.10、Eは0.02〜0.10)、
を満足し、かつ隣り合う上記Alおよび酸素の最高含有点と上記Tiおよび窒素の最高含有点の間隔が、0.01〜0.1μmであること、
を特徴とする高速切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具。 - (a)アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上に、前記回転テーブルの中心軸から半径方向に離れた位置に偏心して炭化タングステン基超硬合金の超硬基体および/または炭窒化チタン系サーメットの超硬基体を自転自在に装着し、
(b)また、上記回転テーブルを挟んで、いずれもカソード電極(蒸発源)として、相対的にAl含有割合の高いAl−Ti−Zr合金と、相対的にTi含有割合の高いTi−Al−Zr合金を対向配置すると共に、それぞれ前記Al−Ti−Zr合金に比してAl含有割合が低く、かつ前記Ti−Al−Zr合金に比してTi含有割合が低い中間Al/Ti/Zr合金および中間Ti/Al/Zr合金を同じく対向配置し、
(c)上記回転テーブルを挟んで対向配置した上記のカソード電極と、前記カソード電極のそれぞれに並設されたアノード電極との間にアーク放電を発生させ、
(d)上記アークイオンプレーティング装置内の反応雰囲気を酸素と窒素の混合雰囲気とするが、前記装置内への酸素と窒素の相対導入割合を上記超硬基体の回転移動位置に対応して調整して、前記超硬基体が上記の相対的にAl含有量の高いAl−Ti−Zr合金のカソード電極に最も接近した時点での反応雰囲気を酸素導入割合が最も高く、窒素導入割合が最も低い反応雰囲気とする一方、前記超硬基体が上記の相対的にTi含有量の高いTi−Al−Zr合金のカソード電極に最も接近した時点での反応雰囲気を窒素導入割合が最も高く、酸素導入割合が最も低い反応雰囲気とすると共に、前記超硬基体が前記Al−Ti−Zr合金のカソード電極最接近位置から上記中間Al/Ti/Zr合金のカソード電極最接近位置を経て前記Ti−Al−Zr合金のカソード電極最接近位置に回転移動する間の反応雰囲気を、酸素導入割合が連続的に減少し、これに対応して窒素導入割合が連続的に増加する連続変化雰囲気とし、一方前記超硬基体が前記Ti−Al−Zr合金のカソード電極最接近位置から上記中間Ti/Al/Zr合金のカソード電極最接近位置を経て前記Al−Ti−Zr合金のカソード電極最接近位置に回転移動する間の反応雰囲気を、窒素導入割合が連続的に減少し、これに対応して酸素導入割合が連続的に増加する連続変化雰囲気とし、
(e)もって、上記回転テーブル上で自転しながら偏心回転する上記超硬基体の表面に、層厚方向にそって、Alおよび酸素の最高含有点とTiおよび窒素の最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Alおよび酸素の最高含有点から前記Tiおよび窒素の最高含有点、前記Tiおよび窒素の最高含有点から前記Alおよび酸素の最高含有点へAlと酸素およびTiと窒素の含有割合がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有するAlとTiとZrの複合酸窒化物層からなる硬質被覆層を物理蒸着すること、
以上(a)〜(e)からなることを特徴とする高速切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具の製造方法。
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