JP4117341B2 - 温水循環式顕微培養チャンバー - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、温水循環式顕微培養チャンバーに関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、一般的な正立型顕微鏡システムに適用可能であり、細胞培養液交換を簡便に行うことが可能な温水循環式顕微培養チャンバーに関するものである。
【0002】
【従来の技術と発明の課題】
従来の顕微鏡用細胞培養システムにおいては、ほとんどのものが、倒立型顕微鏡を必要とし、観察ステージ全体あるいは顕微鏡全体を保温チャンバーで覆うような構成となっていた。このような構成をもつ顕微鏡用細胞培養システムは、大型であり、また、構成や形状が標準化されていないために異なるメーカー間での互換性が無く、一度設置してしまうと他の顕微鏡システムへの付け替えが困難であるといった問題があった。また、これらの顕微鏡用細胞培養システムにおいては、細胞培養液を交換するための機構が備えられておらず、観察中に細胞培養液の交換を行うためには、別途に専用のシステムを取り付ける必要があった。
【0003】
現在、正立型顕微鏡および倒立型顕微鏡の両方に設置可能な培養チャンバーとして、米国ワーナー社による製品が、販売されている。これは、観察チャンバー内へ、観察チャンバー外部にプールしてある細胞培養液を灌流させるもので、灌流チューブの途中に組み込まれたヒーターにより細胞培養液の温度を制御している。細胞培養液の交換は可能であるが、細胞培養液にヒーターの熱を直接的に作用させるため、培養液添加物などの熱変性に十分注意する必要がある。また、チャンバー内の温度が計測されていないことから、細胞の実際の環境温度が不明な状態での観察が行われていた。
【0004】
動物培養細胞を生きた状態で蛍光顕微鏡観察するためには、顕微鏡に培養チャンバーを設置し、温度環境を厳密にコントロールする必要がある。特に、化学的刺激を与えた際の反応を見るためには、細胞培養液の交換が観察視野を動かすことなく実施可能であることが必要である。
【0005】
このような要件を満たし、且つ、蛍光顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、微分干渉顕微鏡、冷却CCDカメラなどの様々な顕微鏡システムに対応するために、一般的な正立型顕微鏡に設置可能な構成を持った顕微培養チャンバーの開発が求められていた。
【0006】
そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、一般的な正立型顕微鏡に対応し、細胞培養液の交換が簡便に行える新しい顕微培養チャンバーを提供することを課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するものとして、この出願の発明においては、第1に、下層に配置される温水循環室と上層に配置される細胞培養室との2層構造を有する顕微培養チャンバーであって、温水循環室が、対向する2枚の光学ガラスと、2枚の光学ガラスの間に温水を循環するための第1の閉空間が形成されるように2枚の光学ガラスを固定する光学ガラス固定手段と、前記第1の閉空間に温水を流入する温水流入口と、前記第1の閉空間に温水を流出する温水流出口と、からなり、細胞培養室が、細胞を培養するカバーガラスと、前記温水循環室の光学ガラスの表面と前記カバーガラスの表面との間に細胞を培養するための第2の閉空間が形成されるようにカバーガラスを固定するカバーガラス固定手段と、前記第2の閉空間の細胞培養液を交換するための培養液交換口と、からなることを特徴とする顕微培養チャンバーを提供する。
【0008】
また、この出願の発明は、第2の発明の態様として、温水循環室に温水を循環する温水循環手段が、温水流入口および温水流出口に接続されていることをことを、第3の発明の態様として、温水循環室に温水を循環する温水循環手段が、温水中の気泡を除去する気泡除去手段を介して、温水流入口および温水流出口に接続されていることを、第4の発明の態様として、細胞培養室内の温度を計測するための温度計測手段を備えることを、第5の発明の態様として、温度計測手段が直径0.5mm以下の微細熱電対であることを、第6の発明の態様として、温度計測手段が測定温度に応じて出力する信号を読みとり、温水の温度をPID制御する温水温度制御手段を備えることを、第7の発明の態様として、細胞培養室に細胞培養液を導入あるいは導出するための培養液交換手段が、培養液交換口に接続されていることを、それぞれ特徴とする上記の顕微培養チャンバーを提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は、上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に、その実施の形態について説明する。
図1は、この出願の発明である顕微培養チャンバーの構成について示した概要図である。図1に示したとおり、この出願の発明である顕微培養チャンバーは、下層に配置される温水循環室(1)と上層に配置される細胞培養室(2)との2層構造を有する。
【0010】
下層の温水循環室(1)においては、対向する2枚の光学ガラス(3)が、温水を循環するための第1の閉空間(4)を間に形成するように配置されている。2枚の光学ガラス(3)は光学ガラス固定手段(5)によって固定されている。また、光学ガラス固定手段(5)には、第1の閉空間(4)に温水を流入する温水流入口(6)と、前記第1の閉空間(4)に温水を流出する温水流出口(7)が備えられている。顕微培養チャンバー下部の光学ガラス(3)が、顕微培養チャンバーの設置面と接触しないように、摩擦防止台(8)を配置することが好適である。
【0011】
上層の細胞培養室(2)においては、細胞(9)を培養するカバーガラス(10)が、温水循環室(1)における光学ガラス(2)の上部表面との間に第2の閉空間(11)が形成されるように固定されている。カバーガラス(10)は、カバーガラス固定手段(12)により固定される。カバーガラス固定手段(12)には、第2の閉空間(11)中の細胞培養液を交換するための培養液交換口(13)を備えられている。
【0012】
図2は、この出願の発明である顕微培養チャンバーを細胞培養システムとして作用させる際のシステム全体の構成について示した概要図である。
【0013】
温水循環室(21)における温水流入口(22)および温水流出口(23)には、温水を循環する温水循環手段(24)が接続されており、温水循環室(21)の内部に温水を循環する。この温水循環手段(24)は、温水中に混在する気泡を除去するための気泡除去手段(25)を介して、温水流入口(22)および温水流出口(23)に接続されていることが好ましい。温水循環手段(24)としては、チューブポンプなどの各種ポンプが適宜選択され利用される。
【0014】
気泡除去手段(25)としては、例えば、図3に示すように、温水流入口(35)が、温水流出口(36)より上方に位置する容器(37)が用いられる。温水流入口(35)より容器(37)内へ流入した温水中の気泡は、容器(37)の上部へ分離され、温水は、気泡が除去された状態で温水流出口(36)より流出する。容器(37)の上部には、ガス抜き口(38)が開口されており、ガス抜き口(38)にはチューブ(39)が接続されている。チューブ(39)には、テフロンチューブなどが用いられる。チューブ(39)の先端には、ピンチコック(40)が取り付けられており、気泡が容器(37)内にたまった状態になったら、ピンチコック(40)を解放することで、容器(37)の外部へガスを放出する。
【0015】
また、この出願の発明である顕微培養チャンバーにおいては、図2に示したとおり、細胞培養室の温度を計測するための温度計測手段(26)を備えている。具体的には、温度計測手段(26)には、直径0.5mm以下の微細熱電対などが用いられる。温度計測手段(26)が、その測定温度に応じて出力する信号は、温水循環手段に接続された温水温度制御手段(27)に入力され、温水温度制御手段(27)においては、入力された信号に応じて、温水の温度を適温に調整するためのPID制御が実施される。
【0016】
具体的には、温水温度制御手段(27)は、温度計測手段(26)に対応しソリッドステートリレー用の信号出力が可能なPID温度制御装置(28)と、ソリッドステートリレー(29)と、ヒーター(30)とから構成される。温度計測手段(26)からの信号がPID温度制御装置(28)に入力され、PID制御理論に基づきソリッドステートリレー(29)が制御され、ヒーター(30)への電力が供給される。ヒーター(30)は、温水循環用のチューブに接続された温水瓶の周囲に巻き付けられている。ヒーター(30)には、例えば、シリコンラバーヒーターが用いられる。このとき、温水瓶内の温度が均一になるように、マグネティックスターラー(31)上に設置され、瓶内の温水が攪拌されるようにすることが好ましい。
【0017】
細胞培養室(32)における培養液交換口(33)には、細胞培養液を導入あるいは導出するための培養液交換手段(34)が、接続されている。培養液交換手段(34)は、図4に示すように、細胞培養液が貯蔵された2本の培養液貯蔵管(41)と、ピストン部(42)が貼り付けられており連動するように構成された注射筒(43)と、から構成される。注射筒(43)により細胞培養室(44)に注入される細胞培養液の量と吸引される細胞培養液の量とが等しくなる。
【0018】
以上は、この出願の発明である顕微培養チャンバーにおける態様の一例であり、この出願の発明が以上で示した形態に限定されることはなく、その細部について、様々な形態をとりうることが考慮されるべきであることは言うまでもない。
【0019】
この出願の発明である顕微培養チャンバーにおいては、細胞培養室内温度をリアルタイムで計測し、計測値に基づき循環する温水の温度をPID制御することによりにより、細胞培養室における細胞培養液の温度を精密に制御することができる。細胞培養液の交換後においても、数秒間という短時間で設定温度に液温を戻すことができ、ハンチングの全くない安定した温度制御が実現できる。温水による間接的な加熱であるために、細胞培養液における添加物の化学的変性も発生しにくい。
【0020】
温水循環においては、温水循環手段であるポンプ内部の圧力差によって気泡が発生するが、顕微培養チャンバーへ流入する直前に気泡除去手段を介在することにより、温水循環室への気泡の混入を完全に防止することができる。
【0021】
細胞培養室の下部には、温水循環室の光学ガラスと温水が存在するだけであるから、明視野照明が乱されることはなく、明瞭なノマルスキー微分干渉像が撮影できる。この出願の発明である顕微培養チャンバーは、通常の蛍光タイムラプス解析、および、微分干渉や位相差などの明視野タイムラプス解析を行うのに十分な特性を備えている。
【0022】
従来、科学機器メーカーらが提供している顕微鏡用細胞培養システムはいずれも高価であり、また、大がかりな構成であるため、一台の顕微鏡システムを培養細胞用に占有してしまうといった問題があった。この出願の発明である顕微培養チャンバーにおいては、簡単な構成であることから十分なコストダウンも可能であり、また、全体の構成もコンパクトであり、かつ、設置も簡便に行えることから、一時的な利用も可能であるといった様々な利点を持つものである。また、従来の顕微鏡用細胞培養システムとは異なり、正立型の顕微鏡にも適用可能であり、さらには、通常の明視野顕微鏡システムに加え、落射蛍光装置、レーザー共焦点システム、微分干渉光学系、および位相差光学系など、様々な顕微鏡技術に適用可能である。
【0023】
【発明の効果】
この出願の発明によって、以上詳しく説明したとおり、一般的な正立型顕微鏡に対応し、細胞培養液の交換が簡便に行える新しい顕微培養チャンバーが提供される。この出願の発明である顕微培養チャンバーは、設置が容易であり、かつ、細胞の培養も簡便に行うことが可能であり、さらには、多くの顕微鏡に適用可能であることから、より高い汎用性をもつ培養細胞観察技術として実用化が期待される
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明である顕微培養チャンバーの構成について示した概要図である。
【図2】この出願の発明である顕微培養チャンバーの構成について示した概要図である。
【図3】この出願の発明である顕微培養チャンバーにおける気泡除去手段の構成について示した概要図である。
【図4】この出願の発明である顕微培養チャンバーにおける培養液交換手段の構成について示した概要図である。
【符号の説明】
1 温水循環室
2 細胞培養室
3 光学ガラス
4 第1の閉空間
5 光学ガラス固定手段
6 温水流入口
7 温水流出口
8 摩擦防止台
9 細胞
10 カバーガラス
11 第2の閉空間
12 カバーガラス固定手段
13 培養液交換口
21 温水循環室
22 温水流入口
23 温水流出口
24 温水循環手段
25 気泡除去手段
26 温度計測手段
27 温水温度制御手段
28 PID温度制御装置
29 ソリッドステートリレー
30 ヒーター
31 マグネティックスターラー
32 細胞培養室
33 培養液交換口
34 培養液交換手段
35 温水流入口
36 温水流出口
37 容器
38 ガス抜き口
39 チューブ
40 ピンチコック
41 培養液貯蔵管
42 ピストン部
43 注射筒
44 細胞培養室

Claims (7)

  1. 下層に配置される温水循環室と上層に配置される細胞培養室との2層構造を有する顕微培養チャンバーであって、
    温水循環室が、対向する2枚の光学ガラスと、2枚の光学ガラスの間に温水を循環するための第1の閉空間が形成されるように2枚の光学ガラスを固定する光学ガラス固定手段と、前記第1の閉空間に温水を流入する温水流入口と、前記第1の閉空間に温水を流出する温水流出口と、からなり、
    細胞培養室が、細胞を培養するカバーガラスと、前記温水循環室の光学ガラスの表面と前記カバーガラスの表面との間に細胞を培養するための第2の閉空間が形成されるようにカバーガラスを固定するカバーガラス固定手段と、前記第2の閉空間の細胞培養液を交換するための培養液交換口と、からなる
    ことを特徴とする顕微培養チャンバー。
  2. 温水循環室に温水を循環する温水循環手段が、温水流入口および温水流出口に接続されていることを特徴とする請求項1記載の顕微培養チャンバー。
  3. 温水循環室に温水を循環する温水循環手段が、温水中の気泡を除去する気泡除去手段を介して、温水流入口および温水流出口に接続されていることを特徴とする請求項1または2の顕微培養チャンバー。
  4. 細胞培養室内の温度を計測するための温度計測手段を備えることを特徴とする請求項2または3の顕微培養チャンバー。
  5. 温度計測手段が直径0.5mm以下の微細熱電対であることを特徴とする請求項4記載の顕微培養チャンバー。
  6. 温度計測手段が測定温度に応じて出力する信号を読みとり、温水の温度をPID制御する温水温度制御手段を備えることを特徴とする請求項4または5の顕微培養チャンバー。
  7. 細胞培養室に細胞培養液を導入あるいは導出するための培養液交換手段が、培養液交換口に接続されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの顕微培養チャンバー。
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