JP4113753B2 - プレス成形用ガラス素材の製造方法、ガラスプレス成形品の製造方法、光学素子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はプレス成形品を作るためのガラス素材を溶融ガラスから作製し、この素材を用いて光学素子ブランクなどのガラスプレス成形品を製造する方法、ならびにガラスプレス成形品からレンズなどの光学素子を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶融ガラスを鋳型に流し込むなどしてガラス板を成形し、ガラス板をアニールした後、賽の目状に切断してカットピースを作り、これらにバレル研磨を施してプレス成形用素材を作製する方法がある。上記素材は再加熱、軟化された状態で成形型を使用していわゆるリヒートプレスを施され、レンズブランクなどの成形品となる。そしてさらに、レンズブランクに研削、研磨加工を施してレンズを作製することができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
レンズなどの材料となる光学ガラスのうち、ほとんどのガラスでは、上記リヒートプレス成形により、品質のよい光学素子ブランクが得られる。しかし、ガラスの種類によっては、透明なプレス成形用素材を使用しても、成形されたブランクが失透し、研削、研磨を施しても到底、光学素子としては使用できないケースがある。
しかるに従来、透明なプレス成形用素材が成形により失透するという現象が何故起こるのか分かっておらず、このような場合、対処のしようがなかったのが現状である。
【0004】
そこで本発明の目的は、リヒートプレス成形で失透しやすいガラスでも、透明な高品質のプレス成形品を製造できる、ガラス素材の製造方法、及びプレス成形品の製造方法を提供することにある。
さらに本発明は、ガラス素材が、リヒートプレス成形する際に失透しやすいガラスか否かを判定し、失透しやすいガラス素材の場合、失透が生じにくいガラス素材とし得る、ガラス素材の製造方法及びプレス成形品の製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明は以下のとおりである。
(請求項1)ガラス原料を溶融する工程、得られた溶融ガラスを成形する工程、及び成形されたガラスをアニールする工程を含むプレス成形用ガラス素材の製造方法であって、
前記ガラス素材はSiO2、TiO2及びNb2O5を含むガラスからなり、
前記製造方法に先立って、前記溶融ガラスが、(1)室温まで急冷すると波長400〜2500nmにおける散乱係数が0.005cm-1未満であるか、または体積分率で10-6未満の結晶を含むガラスとなり、かつ(2)ガラス転移温度より10℃高い温度に3時間保持し、104.5〜103.5 dPa・sの粘度を示す温度に10分間保持した後に室温まで急冷すると、波長400〜2500nmの少なくとも1波長における散乱係数が0.01cm-1以上であるか、または体積分率で10-5より多い結晶を含むガラスとなる性質を有するか否かを判定すること、及び前記溶融ガラスが前記(1)及び(2)のガラスとなる性質を有する場合、成形されたガラスのアニールをガラス転移温度未満の温度で行うことを特徴とするプレス成形用ガラス素材の製造方法(本発明の第2の方法)。
(請求項2)前記ガラス素材がSiO2、TiO2及びNb2O5を含み、かつTiO2とNb2O5の合量が35重量%以上であるガラスからなることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形用ガラス素材の製造方法。
(請求項3)請求項1または2に記載のプレス成形用ガラス素材を加熱、軟化してプレス成形することを特徴とするガラスプレス成形品の製造方法。
(請求項4)請求項3に記載の方法により、光学素子ブランクを成形し、前記ブランクを研削、研磨して光学素子を作製する光学素子の製造方法。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明は、次のような知見に基づきなされた。
通常のガラスは、ガラス転移温度(Tg)、核形成温度、結晶成長温度、溶融温度の関係は図1のようになっている。これに対し、上記問題を起こすガラスでは、図2のようになっているものと考えられる。
従来のガラス素材の製造方法においては、溶融ガラスから得られる成形ガラスは、Tgよりやや高い温度域でアニールされる。この場合、図1に示すガラス転移温度(Tg)及び核形成温度の関係を有するガラスでは、アニール時に核形成はほとんど生じない。しかし、図2に示すガラス転移温度(Tg)及び核形成温度の関係を有するガラスでは、Tgよりやや高い温度域でアニールすると、アニール温度が核形成温度域に入ってしまう。そのため、アニール中に核形成が起こる。しかし、核は微小であることからガラス自体は透明である。そして、アニールされたガラスは、冷間加工されるか、そのままプレス成形用ガラス素材になる。
【0007】
その後、上記ガラスは、リヒートプレスに供させる際に結晶成長温度領域まで加熱される。核形成が生じない図1に示すガラス転移温度(Tg)及び核形成温度の関係を有するガラスでは、リヒートプレスのための加熱によっても結晶成長は起こらず、内部が透明なプレス成形品が得られる。
しかし、図2に示すガラス転移温度(Tg)及び核形成温度の関係を有するガラスでは、上述のようにアニール時に核形成が起こるため、リヒートプレスのための再加熱によってガラスの結晶化が進み、失透してしまう。
【0008】
そこで第1の方法では、ガラス素材としようとしているガラスが、図2の性質を示すガラスである場合、アニール温度をガラス転移温度(Tg)未満に抑えることで、上記問題を解決した。また、本発明の第2の方法では、ガラス素材としようとしているガラスが、図2の性質を示すガラスであるかどうかを予め判定し、図2の性質を示すガラスである場合には、アニール温度をガラス転移温度(Tg)未満に抑えることで、上記問題を解決した。
【0009】
ガラス転移温度ではガラスの粘性はおおむね2x1013dPa・sである事が知られている。(「ガラス光学ハンドブック(朝倉書店、1999年)/p.356」)除歪のためのアニール処理は、ガラスが自重で変形するよりも高い粘性を持ち、かつ除歪が実用的に短時間で終了する温度で施されるのが通常である。粘度が4x1014dPa・sになる温度(ひずみ点)以下の温度では、ガラスの粘性流動はおこらず、どんなに長く保持しても除歪は不可能になってしまう。除歪アニール温度のひとつの目安として、徐冷点と呼ばれる温度がある。この温度でのガラスの粘度は1x1013dPa・sである。この温度に15分間保持すると内部歪が除去されるとされている。この温度はガラス組成に依存するが、Tgより高い温度、例えばTg+10〜50℃である。このような事情から、これまで、除歪のためのアニールは徐冷点を目安にTg以上の温度で施されるのが通常であった。
【0010】
それに対して、本発明の方法では、対象となるガラスが上記のような特殊な性質を有していることから、アニール温度をガラス転移温度未満にする。アニール温度をガラス転移温度未満のどの温度にするかは、各ガラスのガラス転移温度(Tg)及び核形成温度の関係を考慮して適宜決定することができる。例えば、アニール温度は、Tg−10℃以下とすることが好ましく、より好ましくはTg−15℃以下である。アニール温度が低ければそれだけ、アニールによる結晶の核形成を防止できるが、低くなりすぎると歪みが残留してしまうおそれがある。そのため、アニール時の最高温度をTg−35℃〜Tg−15℃の範囲にすることが特に好ましい。
【0011】
本発明の製造方法において、ガラス素材とするガラスは、(1)室温まで急冷すると波長400〜2500nmにおける散乱係数が0.005cm-1未満であるか、または体積分率で10-6未満の結晶を含むガラスとなり、かつ(2)ガラス転移温度より10℃高い温度に3時間保持し、104.5 〜103.5 dPa・sの粘度を示す温度に10分間保持した後に室温まで急冷すると、波長400〜2500nmの少なくとも1波長における散乱係数が0.01cm-1以上であるか、または体積分率で10-5より多い結晶を含むガラスとなる組成を有するガラスである。尚、上記(2)における散乱係数及び体積分率は、ガラス内部の散乱係数及び体積分率を用いることが好ましい。
【0012】
(1)の性質を示すガラスとは、実質的に結晶を含まないガラスであり、この性質は、実用に供される光学ガラス材料として必要不可欠なものである。室温まで急冷すると波長400〜2500nmにおける散乱係数が0.005cm-1以上であるか、または体積分率で10-6以上の結晶を含むガラスでは、光学ガラスとはなり得ない。なお、ここで急冷とは、溶融状態から(ガラス転移温度−100℃)までの10度/分(degree/分)以上の速度での冷却をいう。
さらに(2)の性質を示すガラスは、条件次第では、光学ガラスとはなり得るが、前記図2に示す関係を有するガラスである。
【0013】
ガラス素材とするガラスが前記図2に示す関係を有するガラスかどうかの判断法は、
実質的に結晶を含まないガラスを、
・ガラス転移温度より10℃高い温度に3時間保持し、
・さらに、このガラスが粘度104.5 〜103.5dPa・s(ポアズ)となる温度に1分から30分の選択された時間保持後急冷し、
・光学ガラスとして使用される波長域(400〜2500nm)の少なくとも1波長における散乱係数が0.01cm-1以上になるガラス、あるいは体積分率で10-5より多い結晶を含むガラスであるかを観察することにより行う。なお、ガラスが粘度104.5 〜103.5dPa・sとなる温度に保持する時間は、その後のリヒートプレス成型での熱負荷を考慮し、ガラスの耐結晶化特性を判断するのに必要で充分な時間を選定してやればよいが、10分程度を目安にすればよい。また、急冷とは、溶融状態から(ガラス転移温度−100℃)までの10度/分(degree/分)以上の速度での冷却をいう。
【0014】
この熱処理により、散乱係数が0.01cm-1以上になる、あるいは体積分率で10-5より多い結晶を含むガラスであれば、図2に示す関係を有するガラスであり、除歪のためのアニールを上記条件で行う。このようなガラスを従来のように、プレス成形前のアニール時に、ガラス転移温度より高温に曝すと結晶の核形成がおこり、プレス成形時の加熱によってプレス成形品が失透してしまう。
【0015】
なお、散乱損失係数は以下の方法で求める。あらかじめ熱処理前のガラス(厚さをd〔cm〕とする)の表面反射を除いた内部透過率 Ii を求めておく。次に 熱処理後のガラス(厚さ d〔cm〕)の表面反射を除いた内部透過率 Is を求める。次式によって、単位厚さあたりの散乱損失係数(単位:cm-1)を算出する。
【0016】
【数1】
【0017】
測定装置は市販の2光束型紫外可視分光光度計を利用することができる。
ただし、上記方法は、散乱による内部透過率の変化から単位厚さあたりの散乱損失係数を求める方法であるので、この要素を満たすものであれば、必ずしもこの手法に限定されない。
【0018】
図2に示す関係を有するガラスとしては、例えば、SiO2、TiO2、Nb2O5の3成分を含むガラスなどを例示できる。これらの成分が過剰に含有されるガラスの場合、特定の組成領域で上記成分が核形成材として作用するものと考えられる。特に、TiO2およびNb2O5の合量が35重量%以上のガラスにこの現象は顕著である。他の成分の含有量にもよるが、これら合量の上限は50重量%と考えられる。したがって、SiO2、TiO2、Nb2O5の3成分を含むガラス、特に、TiO2およびNb2O5の合量が35重量%以上、50重量%以下のガラスからプレス成形用ガラス素材を製造するには、本発明の方法は好適である。
【0019】
図2に示す関係を有するガラスであっても、本発明の製造方法により得られたガラスは、リヒートプレス成形しても、得られた成形品は透明であり、光学素子あるいは光学素子を作製するためのブランクとして好適である。本発明の製造方法において、ガラス原料を溶融する工程、得られた溶融ガラスを成形する工程、及び成形されたガラスをアニールする工程の条件や方法は、公知の条件及び方法をそのまま採用することができる。例えば、プレス成形用ガラス素材の製法例としては、溶融ガラスをノズルから受け型凹部に流下させて、ガラスゴブに成形する方法、さらにガラスゴブに粗面研磨加工を施す方法、溶融ガラスを鋳型に鋳込み板状に成形した後、必要形状に切断して、角やエッジを丸める加工を施す方法などを利用することができる。
【0020】
本発明は、上記製造方法により製造される、加熱軟化してプレス成形するためのプレス成形用ガラス素材を包含する。
このプレス成形用ガラス素材は、ガラス転移温度より10℃高い温度に3時間保持し、104.5〜103.5dPa・sの粘度を示す温度に10分間保持した後に室温まで急冷した場合には、波長400〜2500nmの少なくとも1波長における散乱係数が0.01cm-1以上であるか、または体積分率で10-5より多い結晶を含むガラスからなり、104.5〜103.5dPa・sの粘度を示す温度に10分間保持した後に室温まで急冷すると、波長400〜2500nmにおけるガラス内部の散乱係数が0.005cm-1未満であるか、または内部に含有する結晶の体積分率が10-6未満であることを特徴とする。
【0021】
ここで、ガラス内部の散乱係数とは、ガラスあるいはガラス素材の表面層を除いた内部の散乱係数を意味する。上記表面層は、次のいずれかによって定義することができる。
▲1▼ガラス素材を加熱軟化してプレス成形し、最終ガラス製品(例えば光学素子)のブランク(中間製品)を作製し、前記ブランクを研削、研磨して最終ガラス製品を作製する際、前記研削、研磨によって除去される表面層と同等の深さを有する表面近傍の領域。
▲2▼ガラスまたはガラス素材の表面から2mm以内の深さにある領域。
▲3▼ガラスまたはガラス素材の中心部。
【0022】
本発明において、光の散乱を増加させる原因となる結晶とは、ガラス内部に析出するものである。ガラス素材のプレス成形時にガラス表面に結合した水酸基や他の付着物質によると考えられる結晶化層が表面から数μm〜2mmまでの領域に発生することがある。しかし、この結晶化層はガラス内部における結晶化とは異なり、プレス成形品の表面に施される前記研削、研磨によって完全に除去されるため、使用上問題となることはない。したがって、ガラス素材が光学素子などの最終ガラス製品を構成する素材として好適なものかどうかは、ガラス内部の散乱係数を評価するだけで十分である。
結晶の体積分率についても同様であり、ガラス素材の上記表面層を除いた内部に含有する結晶の体積分率を考えれば、ガラス素材が光学素子などの最終ガラス製品を構成する素材として好適なものかどうか評価することができる。
【0023】
このようにして得られたプレス成形用ガラス素材は、必要時にプレス成形される。例えば、素材の表面に粉末状の離型剤を塗布して、加熱、軟化し、これを上型および下型を備えたプレス成形型でプレス成形する。
得られたプレス成形品は、アニールにより歪みが取除かれる。このときのアニール温度は、通常のアニール温度すなわちTg以上の適当な温度で差し支えない。
レンズや光学基板などのブランクが得られるプレス成形型を用いて、ガラス素材を成形し、アニール後に研削、研磨加工を施して目的とするレンズや光学基板、その他の光学素子を作ることができる。
このようにして透明な光学素子を作製することができる。
【0024】
【実施例】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
(ガラスの溶融)
表1に示した組成のガラスを作成した。出発原料には、SiO2、Na2CO3、CaCO3、BaCO3、TiO2、Nb2O5、ZrO2を用いた。所定量比に秤量され充分に混合された原料は白金製るつぼに投入され、予め1350℃に保持された電気炉内で2時間溶融、清澄、均質化された。
【0025】
【表1】
【0026】
550℃にあらかじめ加熱したグラファイト製の鋳型にガラス融液を流し込み急冷固化することで均質なガラスを得た。ガラスはすぐさま550℃に保持された炉内に投入され後の冷間加工に充分な程度の除歪のためにこの炉内にて徐冷された。このガラスの状態を状態Aとする。
【0027】
(ガラス転移温度、散乱係数、結晶の体積分率の測定)
上記状態Aの素材ガラスのガラス転移温度を測定した。測定は日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの熱膨張の測定方法」(JOGIS08−1975)を参考として実施した。用いた試料形状は長さ20.0mm−直径5mmである。この測定により得たガラスのガラス転移温度は610℃であった。
【0028】
ガラスを切り出し、平行研磨を実施して内部透過率測定を行った。可視域波長のほぼ中央に相当する波長588nmにおける10mm厚換算での内部透過率は99.5%以上あり、散乱係数は0.002cm-1以下であり、波長400〜2500nmにおいて散乱係数は0.005cm-1未満であった。一般には、400〜2500nmの広範囲な波長域にわたり内部透過率を測定し、散乱係数に換算するよりも、ガラス中に含まれる結晶の体積分率を測定するほうが容易であるので、ここでは、ガラス中の結晶の体積分率も測定した。内部観察によれば結晶は見当たらず、結晶の体積分率は、10-6よりはるかに小さく、紫外〜赤外透過限界波長において散乱損失が実質的に存在しないことが確認された。
【0029】
(熱処理、熱処理後の散乱係数、結晶の体積分率の測定)
このガラスを分割し、上記ガラス転移温度より10℃高い620℃に加熱し、この温度で3時間保持した。さらに、このガラスが粘度104.5〜103.5dPa・sを示す900℃において、10分間の加熱処理を施した後、室温まで急冷した。このガラスの内部透過率を上記の方法で測定した。内部透過率は95%であり散乱係数は0.052cm-1であることがわかった。また、このガラスの内部を顕微鏡で観察したところ、およそφ20μm−長さ200μm(体積はおよそ6.3x10-8ml)の結晶が1mlあたり200個以上析出し、このときの結晶体積分率は1x10-5以上であることが確認された。すなわち、このガラスはガラス転移温度Tg以上の温度でアニールを施すと耐結晶化安定性が著しく損なわれるガラスであることがわかった。
【0030】
(ガラスの成形とアニール)
上記ガラス融液を鋳型に流し込み、一定の厚みと幅を有するガラス板を成形し、ガラスの歪みを充分に除くため、以下のアニールを行った。Tg温度より低い585℃で3時間保持後、485℃まで毎時30度で降温し、以降は50〜100度/時(degree/時)の速度で室温まで冷却した。その後、ガラス板をおよそ20x30x30mmに賽の目状に切断し、カットピースと呼ばれるガラス片に加工した。上記アニールにより、ガラスの歪は充分取り除かれ、切断にあたってカケやワレの問題はなかった。これらのカットピースにバレル研磨を施し、プレス成形用ガラス素材に仕上げた。
【0031】
次に、同じガラス融液を流出パイプから連続して流出するとともに、流出パイプの下方に次々と運ばれる成形型の凹部で一定量のガラス融液を受けて、マーブル状のガラスゴブを成形し、上記と同様の条件でアニールを行った。アニール後、バレル研磨を施し、プレス成形用ガラス素材に仕上げた。この方法でも、ガラスの歪は充分取り除かれ、バレル研磨にあたってカケやワレの問題はなかった。
【0032】
このようにしてガラス融液からガラス成形体を成形し、アニールを行った後、機械加工(例えば、上記のような切断、バレル研磨などの加工)が施されたプレス成形用素材を104.5〜103.5dPa・sの粘度を示す温度に10分間保持した後に室温まで急冷し、波長400〜2500nmにおける散乱係数と素材中の結晶の体積分率を測定したところ、波長400〜2500nmにおけるガラス内部の散乱係数は0.005cm-1未満であり、素材内部には結晶が認められなかった。プレス成形用素材は、目的とするプレス成形品の重量と等しい重量を有し、形状はプレス成形に適するよう整えられている。例えば、マーブル状、球状、回転楕円体などの回転対称軸を有するものなどを例示することができる。
【0033】
次に、このようにして得られたプレス成形用ガラス素材を用い、図3に示す加熱スケジュールでリヒートプレスを施した。但し、室温から575℃までは約1時間で昇温し、575℃以降の昇温をこの加熱スケジュールに従った。リヒートプレス成形で作製したレンズブランクをアニールした後、内部観察を行ったところ結晶の析出は見られなかった。この成型されたガラスを研削、研磨加工して透明なレンズを作製した。
【0034】
(比較例)
実施例と同様にガラス融液を溶解・急冷固化後、引き続きこのガラスのTgよりわずかに高い615℃で徐歪のためにアニールを施した(615℃にて3時間保持後、500℃まで30度/時(degree/時)で降温。以降は50〜100度/時(degree/時)の速度で室温まで冷却)。
このガラスをおよそ20x30x30mmに切り出し、実施例と同様にリヒートプレスを施した。
【0035】
リヒートプレス成形で作製したガラス内部には多量の結晶が確認された。およそφ20μm−長さ100μm(体積はおよそ3.2x10-8cc)の結晶が1ccあたり200個以上析出し光学素子としての使用にかなうものではなかった。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば、失透しやすいガラスでも高品質なリヒートプレス成形品を成形できるプレス成形用ガラス素材、そしてこのガラス素材を用いたプレス成形品、ならびにこのようなプレス成形品を用いた光学素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】通常のガラスのガラス転移温度(Tg)、核形成温度、結晶成長温度、溶融温度の関係を示す。
【図2】問題を起こすと考えられるガラスのガラス転移温度(Tg)、核形成温度、結晶成長温度、溶融温度の関係を示す。
【図3】実施例におけるリヒートプレスで採用した加熱スケジュールを示す。但し、室温から575℃までは約1時間で昇温し、575℃以降の昇温をこの加熱スケジュールに従った。
Claims (4)
- ガラス原料を溶融する工程、得られた溶融ガラスを成形する工程、及び成形されたガラスをアニールする工程を含むプレス成形用ガラス素材の製造方法であって、
前記ガラス素材はSiO2、TiO2及びNb2O5を含むガラスからなり、
前記製造方法に先立って、前記溶融ガラスが、(1)室温まで急冷すると波長400〜2500nmにおける散乱係数が0.005cm-1未満であるか、または体積分率で10-6未満の結晶を含むガラスとなり、かつ(2)ガラス転移温度より10℃高い温度に3時間保持し、104.5 〜103.5 dPa・sの粘度を示す温度に10分間保持した後に室温まで急冷すると、波長400〜2500nmの少なくとも1波長における散乱係数が0.01cm-1以上であるか、または体積分率で10-5より多い結晶を含むガラスとなる性質を有するか否かを判定すること、及び前記溶融ガラスが前記(1)及び(2)のガラスとなる性質を有する場合、成形されたガラスのアニールをガラス転移温度未満の温度で行うことを特徴とするプレス成形用ガラス素材の製造方法。 - 前記ガラス素材がSiO2、TiO2及びNb2O5を含み、かつTiO2とNb2O5の合量が35重量%以上であるガラスからなることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形用ガラス素材の製造方法。
- 請求項1または2に記載のプレス成形用ガラス素材を加熱、軟化してプレス成形することを特徴とするガラスプレス成形品の製造方法。
- 請求項3に記載の方法により、光学素子ブランクを成形し、前記ブランクを研削、研磨して光学素子を作製する光学素子の製造方法。
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