JP4109033B2 - 温度感応型流体式カップリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に車両用内燃機関に適用される冷却フアンの作動を周囲の温度条件に応じて自動制御する機能を備えた温度感応型流体式カップリング装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の温度感応型流体式カップリング装置は、例えば本出願人による先願の実開平1−102526号公報に記載されており、その典型的構造では、先端に駆動ディスク(ホイール)を固着した回転駆動軸上に軸受を介して密封ケースが相対回転可能に支持され、密封ケース内部が仕切板によって油溜り室とトルク伝達室とに区画されている。外周に冷却フアンを取付けた密封ケースは、カバーと軸受を保持するボディとで組立てられている。そして密封ケースのカバー側外部に配置されたバイメタルから成る感温体が温度変化を受けて湾曲変形し、これに連動してピストン杆に当接する弁部材が仕切板に設けられた流出調整孔を開閉し、油溜り室からトルク伝達室へと油が流れ込むことによりトルクを伝達するようになっている。
感温体が検知する温度は一般にラジエータ通過後の空気の温度であり、例えば60℃以下の低温ではバイメタルが略平坦になっていて弁部材が流出調整孔を閉鎖しカップリングがOFFの状態にあり、60℃以上の高温ではバイメタルが湾曲し弁部材が離れて流出調整孔を開放しカップリングがONになるように設定されている。
【0003】
かかる従来例において、弁部材は帯板状の平板部材から成り、その自由端が軸線方向に動いて仕切板に設けられた流出調整孔を開閉するようになっている。しかしながら、このような軸線方向の接触と離間とは必ずしも安定した動作とならず、流路が狭くなった瞬間に弁部材の吸い付き現象を起こしたり、逆に急激に隙間が拡大したりして、いわゆる「ハンチング」現象を起こすことが知られていた。
そこで本発明者等は特開平4−54317号(特許第2888931号)に記載したように、弁部材の自由端が装置の軸線方向と平行な壁面を摺動することによって流出調整孔を開閉する弁部材を提案した。しかしながら、かかる構造では弁部材の動作距離が小さくなって流出調整孔の開口面積が小さくなり、制御装置の感度が上がらない(感温特性が向上しない)という問題点があった。本発明はこの点を改良することを意図している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ハンチング現象を起こさせることなく確実に流出調整孔を開閉させると共に、温度変化に敏感で制御範囲を大きくとることが可能な温度感応型流体式カップリング装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、高速で回転する部分を軽量化し、ON−OFF間の応答速度の向上とコストの低減を図ることにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の前述した目的は、従来の温度感応型流体式カップリング装置と同様の基本構造を有しながら、感温体が金属よりも熱膨張率が大きい合成樹脂で作られ、ピストン杆が仕切板の面と平行に運動するように配置され、弁部材(板ばね)の一端がピストン杆と可動式に連結され、かつその他端が自己のばね力に付勢されて流出調整孔を設けた仕切板の表面と接触を保つようになっており、さらに弁部材の途中部分が仕切板又はカバーに設けられた突起上で仕切板の面と平行に回動できるように支持されており、合成樹脂製の感温体の温度変化による膨張収縮に連動してピストン杆が仕切板の面と平行に移動し、これにより弁部材の他端が仕切板の面に接触しながらその面と平行に揺動して流出調整孔の開口面積を変化させ、油溜り室からトルク伝達室へと流入流出する油の量(流量)を制御するようになっている温度感応型流体式カップリング装置によって達成される。
【0006】
【作用】
かかる構成に基づき、本発明によれば、板ばね式の弁部材は従来のように装置の軸線方向に接触・離間を繰り返すのではなく、仕切板の面に沿って摺動しながら流出調整孔を開閉するので、その開閉動作が安定し、ハンチングを起こすことがない。また、弁部材の途中部分が仕切板又はカバーに設けられた突起上で仕切板の面と平行に回動できるように支持されているので、リンクの比率を大きくとることが可能になり、温度変化に敏感な制御が可能になる。
また、高速で回転する感温体部分をバイメタルなどの金属から合成樹脂に置き換えることにより軽量化が達成され、ON−OFF間の応答速度の向上とコストの低減を図ることができる。
仕切板の面に沿って摺動しながら流出調整孔を開閉するタイプとしては、渦巻状の感温体を用いた例、例えば特公昭55−616号「感温作動流体継手」があるが、内燃機関の振動を受けて渦巻状の感温体全体が振動し、その動作が不安定になるという大きな問題が発生している。
【0007】
かくして、本発明によれば、ハンチング現象を起こさせることなく確実に流出調整孔を開閉させると共に、温度変化に敏感で制御範囲を大きくとることが可能な温度感応型流体式カップリング装置が実現されることになる。
以下、添付図面の実施例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。
【0008】
【発明の実施の形態】
図1は本発明による温度感応型流体式カップリング装置10の非作動時(OFF時)を断面で表わしており、図2は温度感応機構の動作を表している。
このカップリング装置10は、その先端に駆動ディスク2を固着した回転駆動軸1上に軸受3を介して相対回転可能に支持されたカバー4とボディ5とから成る密封ケース6と、この密封ケースの内部をトルク伝達室9と油溜り室8とに区画する仕切板7と、この仕切板の外周付近に設けられた流出調整孔12を開閉する弁部材13と、密封ケース6のカバー側外部に配置された感温体組立体20と、この感温体組立体に一端が当接され前記カバーに設けられた軸孔16を貫通して他端が弁部材13に連結されているピストン杆11とを備えている。仕切板7の中央付近にはトルク伝達室9と油溜り室8との間で油の流入流出をスムーズにするための流通孔15が設けられている。密封ケース6の前後面側には冷却用のフィン18が設けられている。密封ケース6の外部には冷却用のファン19が取り付けられる。
【0009】
トルク伝達室9内の円周上に少なくとも1個所設けられるダム22は、周知の如く駆動ディスク2の最外周付近に集溜する油を集めて循環路23へ圧送して油溜り室8内へ貯溜する。この油を弁部材13が開閉することにより流量制御しながらトルク伝達室9へと送給し循環させる仕組みになっている。
【0010】
図2A,Bに示すように、ピストン杆11はカバー4に設けられた軸孔16を貫通して延伸し、仕切板7の面と平行に運動するように配置されている。弁部材13はその一端が連結部24においてピストン杆11と可動式(ピン挿入式)に連結され、かつその他端が自己のばね力に付勢されて流出調整孔12の面と接触を保つようになっており、さらに弁部材13の途中部分が仕切板7に設けられた突起14上で仕切板7の面と平行に回動できるように支持されている。突起14上ではリベット頭部26が支点として作用するようになっている。
【0011】
かくして、感温体組立体20の温度変化による膨張収縮に連動してピストン杆11が仕切板7の面と平行に運動し、これを受けて弁部材13の他端が仕切板7の面に接触しながらその面と平行に揺動(摺動)して流出調整孔12の開口面積を変化させ、このとき遠心力を受けて油溜り室8からトルク伝達室9へと流入流出する油の量を制御するようになっている。
最終的には、この油の粘性抵抗によって駆動ディスク2から密封ケース6の側へとトルクを伝達し、流体式カップリング装置10の外周に取り付けられているフアン19を回転させることになる。
【0012】
図2A〜Dは温度感応機構の構造と動作を表しており、図2Aは弁部材13が流出調整孔12を閉鎖してカップリングがOFFの状態、図2Bは弁部材13が流出調整孔12を開放してカップリングがONの状態、図2Cは図2Aの状態を側面から見た図、図2Dは感温体組立体20の断面図である。これらの図において、感温体組立体20の一端はカバー4に固着されたブラケット17に可動に保持されている。
【0013】
感温体組立体20は、図2Dに示すように、金属よりも熱膨張率が大きい合成樹脂製の筒形感温体30と、その軸線方向両端に取り付けられたカバー32,34と、感温体30の中心貫通穴31の一端に挿入固定されたフック36とを包含している。中心貫通穴31の他端には、図2Aに示すように、ピストン杆11の一端が挿入固定される。
ピストン杆11の他端はカバー4の軸孔16を貫通してカップリング装置10の内部へと延伸し、ピストン杆11の内側端部には弁部材13との連結部24が設けられている。弁部材13の一端は連結部24においてピストン杆11と可動式に連結され、かつその他端が自己のばね力に付勢されて流出調整孔12の面と接触を保つようになっている。さらに弁部材13の途中部分が仕切板7に設けられた突起14上にリベット26で保持され、弁部材13は仕切板7の面と摺動しながら平行に回動できるように支持されている。
【0014】
図2Aでは感温体20が感知する外気温、すなわちラジエータ通過後の空気の温度が例えば60℃以下の低温であり、合成樹脂製の感温体30が縮小した状態(長さ:m1)で、弁部材13が流出調整孔12を閉鎖しカップリングがOFFの状態にある。図2Bでは外気温が60℃以上の高温であり、感温体30が膨張した状態(長さ:m2)で、弁部材13が支点26を中心にして矢印L方向に回動し、弁部材13が揺動して流出調整孔12を開放しカップリングがONの状態になっている。
【0015】
図3は図1に示した温度感応型流体式カップリング装置10を左側面から見た正面図であり、一部は省略されている。正面から見ると、カバー4の外部に多数の冷却用フィン18が放射状に配置されている。ピストン杆11はカバー4の中央付近に沿って左右に運動できるように配置されている。
【0016】
図4は図1の装置を変形した温度感応型流体式カップリング装置40の正面図であり、一部は省略されている。この例では、弁部材43の中央部分を延長し、感温体組立体20に連結されたピストン杆11と弁部材43との連結部24の位置をカバー4の中心から距離Sだけオフセットさせ、弁部材43をL方向に回動させて流出調整孔12を開閉させるためのリンク比を大きくしている。これにより、流体式カップリング装置の感度を増幅させるようにしていると共に、偏芯量が大きくなるので合成樹脂製感温体と空気との相対速度を高めて速い応答特性が得られる。
【0017】
図5A〜Hは合成樹脂製感温体の各種の変形例30a〜30hを表している。図5Aの感温体30aは図2に示したものと同じく中空円筒形で軸線方向に円形穴31が貫通しているタイプで、図5Bの感温体30bは中実の円柱形に作られている。図5C,D,Eの感温体30c,30d,30eは、それぞれ中空円筒形で側面から三角形,円形,四角形の複数の空気孔45,46,47が貫通しており、カップリング装置が遠心力を受けた際にこれらの孔を空気が流れて温度応答性が向上するようになっている。図5Fの感温体30fは合成樹脂をスプリング状に巻いて温度上昇に対する応答性を向上させたタイプ、図5G,Hの感温体30g,30hはそれぞれ中央に三角形,四角形の貫通穴を有する三角柱,四角柱に作られている。これら以外に多角形の柱状に形成することもできる。
【0018】
合成樹脂の素材としては、一定の耐熱性を有するPP(ポリプロピレン),PPG(ガラス繊維強化ポリプロピレン),N6(ナイロン6),N6G(ガラス繊維強化ナイロン6),PE(ポリエチレン)などが好適であるが、さらに多くの素材から自由に選択することができる。
【0019】
図6A〜Dは、感温体と弁部材との連結部分に戻りばねを設けて弁部材が自由に振動するのを抑制した変形例を表している。図6Aは一部を断面とした正面図、図6Bは図6Aの線B−Bに沿う縦断面図、図6Cは図6Aの線C−Cに沿う横断面図、図6Dは図6Cの線D−Dに沿う部分断面図である。
この例では、板ばね式の弁部材53の根元側に揺動アーム54を取り付け、揺動アーム54がピストン杆11に押されて後退するときに後方から支える戻りばね(リターンスプリング)55を設けた点に特徴を有する。さらに、この例では、弁部材53はカバー4に設けられた突起58上で仕切板7の面と平行に回動できるように支持されている。
【0020】
従来はこのような戻りばねが設けられていなかったため、弁部材53が振動を受けて前後に揺動し、流出調整孔56を開閉する際にハンチング現象を起こすおそれがあったが、この例では戻りばね55の力で弁部材53が保持されるため、そのような不具合を解消することが可能になる。
【0021】
【発明の効果】
以上詳細に説明した如く、本発明の温度感応型流体式カップリング装置によれば、弁部材は従来のように装置の軸線方向に接触・離間を繰り返すのではなく、仕切板の面に沿って摺動しながら流出調整孔を開閉するので、その開閉動作が安定し、ハンチングを起こすことがない。また、弁部材の途中部分が仕切板又はカバーに設けられた突起上で仕切板の面と平行に回動できるように支持されているので、リンクの比率を大きくとることが可能になり、温度変化に敏感な制御が可能になり、熱膨張率の大きさからON−OFF間の応答速度が向上し、合成樹脂による軽量化とコスト低減が図られる等、その技術的効果には極めて顕著なものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による温度感応型流体式カップリング装置の縦断面図である。
【図2】弁部材の動作を表すために一部を破断した正面図・側面図・断面図である。
【図3】装置を左側面から見た装置の正面図であり、一部は省略されている。
【図4】図3の装置の変形例の正面図であり、一部は省略されている。
【図5】合成樹脂製感温体の各種変形例を表す概略斜視図・概略正面図である。
【図6】連結部に戻りばねを設けた変形例を表す一部破断断面図である。
【符号の説明】
1 駆動軸
2 駆動ディスク
3 軸受
4 カバー
5 ボディ
6 密封ケース
7 仕切板
8 油溜り室
9 トルク伝達室
10,40 温度感応型流体式カツプリング装置
11 ピストン杆
12 流出調整孔
13,43,53 弁部材
14 突起
16 軸孔
20 感温体組立体
30 合成樹脂製感温体
Claims (1)
- 先端に駆動ディスクを固着した回転駆動軸上に相対回転可能に支持されたボディとカバーとから成る密封ケースと、この密封ケースの内部をトルク伝達室と油溜り室とに区画する仕切板と、この仕切板の外周付近に設けられた流出調整孔を開閉する弁部材と、前記密封ケースのカバー側外部に配置された感温体と、この感温体に一端が当接され前記カバーに設けられた軸孔を貫通して他端が前記弁部材に連結されているピストン杆とを備え、
前記感温体は金属よりも熱膨張率が大きい合成樹脂で作られ、
前記ピストン杆は前記仕切板の面と平行に運動するように配置され、
前記弁部材はその一端が前記ピストン杆と可動式に連結され、かつその他端が自己のばね力に付勢されて前記流出調整孔を設けた仕切板の表面と接触を保つようになっており、さらに前記弁部材の途中部分が前記仕切板又は前記カバーに設けられた突起上で前記仕切板の面と平行に回動できるように支持されており、
前記感温体の温度変化による膨張収縮に連動して前記ピストン杆が前記仕切板の面と平行に移動し、これにより前記弁部材の他端が前記仕切板の面に接触しながらその面と平行に揺動して前記流出調整孔の開口面積を変化させ、油溜り室からトルク伝達室へと流入流出する油の量を制御するようになっていることを特徴とする温度感応型流体式カップリング装置。
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