JP4108013B2 - 硬化コンクリート調査方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、土木・建築等における鉄筋腐食の判定のための、硬化コンクリート中に含まれる塩分量測定方法、及び測定に先立つ試料採取方法、からなる硬化コンクリート調査方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
硬化コンクリート中の塩分量(kg/m3)を測定する方法としては、日本コンクリート工学協会(JCI)に準拠した塩分量分析法(JCI−SC4)があり、JCI−SC8に従って採取したコンクリートコアを切断、粉砕し、JIS Z8801(標準ふるい)の149μmを全通させるように粉砕したものに硝酸溶液(2N)を加え、溶液のpHを3以下とし、加熱煮沸して全塩分を溶解させ、この溶液に塩化物イオン選択性電極を用いて電位差滴定法によって定量することが一般的である。
【0003】
しかし、コンクリートコアを採取する場合、コアの直径が約100mmと大きく、断面欠損が大きいため、コンクリート躯体の構造に与える被害が大きく、また補修も大掛かりになるという問題がある。また、コア抜き作業において、多量の水を要するので、その際に硬化コンクリートに含まれる塩分が流出してしまい、正確な塩分量を測定できない虞もある。
【0004】
これら問題に対し、従来、コンクリートコアを採取する方法に替えて、携帯型ドリルハンマーによって水を使用することなく乾式で削孔し、この削孔の際に生じた削孔粉を分析試料として、電極電流法により可溶性塩化物イオン量を測定し、硬化コンクリート中に含まれる可溶性塩分量を測定する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】
湯浅昇、他2名、「ドリル削孔粉を用いたコンクリート中の塩化物イオン量の現場試験方法の提案」、1999年7月、日本コンクリート工学協会、コンクリート工学年次論文集、第21巻、第2号、P.1302−1308
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、塩分量の測定方法として電位差滴定法による場合、測定精度は高いが、現場作業に時間を要し、分析操作が煩雑であり、試験費用がかかるという問題点がある。
【0006】
一方、削孔粉を用いて電極電流法により塩分量を測定する方法では、コンクリート躯体の構造に与える影響が少ないが、専用の測定器を用意する必要があり、試験コストが高くなる。また、この方法では、可溶性塩化物イオン量を測定して硬化コンクリート中に含まれる可溶性塩分量を測定するが、この可溶性塩化物イオン量の測定には、可溶性塩化物イオン以外にもセメント水和物として固定されている塩化物イオンが抽出されてしまう場合もあり、分析値の意味が不明確になってしまうという虞もある。
【0007】
そこで、本発明の主たる課題は、コンクリート躯体の構造上の影響を抑えて測定試料を採取し、かつ分析値の意味が明確な全塩化物イオン量の計測により、全塩分量(kg/m3)を簡易・ローコストで測定する、硬化コンクリート調査法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決した本発明は、次のとおりである。
<請求項1記載の発明>
請求項1記載の発明は、ドリルビットと、このドリルビットに回転、打撃駆動することにより硬化コンクリートを削孔するドリルハンマー本体とを備え;
前記ドリルハンマー本体に吸引装置が内蔵され、かつ、集塵容器が連結され;
前記ドリルビットによる削孔の際に生じた削孔粉を、前記ドリルビットの内部に形成された吸引孔を通して前記集塵容器内に導く吸引経路と、前記集塵容器内と前記吸引装置の吸引側との間を繋ぐ吸引装置連結路と、前記吸引装置の排気側と前記集塵容器内とを繋ぐ排気経路とが設けられ、
前記集塵容器は、前記削孔粉を導くケーシング、前記ケーシングの一端側に着脱自在に連接されている試料容器、及び、ケーシングの他端側に設けられた蓋体を有し、
前記蓋体の周壁部には外気と連通する蓋体には第1の周壁口、及び前記排気経路の一部を形成する第2の周壁口が形成され、
前記蓋体の周壁部には、その内周に回動自在の蓋部が設けられ、前記蓋部には前記集塵容器内と前記蓋部の外周面とを繋ぐ第1の連絡孔、前記蓋部の外周面の一部と他部とを繋ぐ第2の連絡孔が形成され:
削孔粉の採取時には、前記蓋部の回動により、前記第1の連絡孔を吸引装置連結路に位置させ、かつ、前記第2の連絡孔を第1の周壁口及び第2の周壁口に連通させ、前記吸引装置の作動によって前記集塵容器内を負圧にし、前記ドリルビットによる削孔の際に生じた削孔粉を、前記ドリルビットの内部に形成された吸引孔を通して前記集塵容器内に導き;
ケーシングの掃除時には、前記蓋部の回動により、前記第1の連絡孔を排気経路に位置させ、かつ、前記第2の連絡孔を第1の周壁口及び吸引装置連結路に連通させ、前記吸引装置の作動によって前記第1の周壁口及び前記第2の連絡孔を通して外気を吸引し、この前記吸引装置の吸気を、前記第2の周壁口及び前記第1の連絡孔を通して前記ケーシング内に流入させて掃除を行い;
採取した削孔粉を試料として吸光光度法により前記硬化コンクリート中に含まれる塩分量を測定する、
ことを特徴とする硬化コンクリート調査方法である。
【0009】
(作用効果)
本発明において、硬化コンクリートをドリルハンマーにより削孔した際に生じる削孔粉を分析試料としているので、コンクリート躯体をコア抜きすることがないため、コンクリート躯体の構造上の影響を最小限に抑えることができ、採取後の補修も容易である。第2に、一般的なドリルハンマーを用いることにより、コア抜きのための大掛かりなコアドリルやカッター機を必要としないため、試験設備及び試験費用は安価である。第3に、試料採取作業において、水を必要とすることなく乾式で採取することが可能なため、正確な塩分量(kg/m3)を測定することができる。第4に、コア抜きでは直径100mmのコアを採取しなければならないので、鉄筋近傍の試料を採取することが非常に困難であるが、ドリルハンマーによる削孔では、鉄筋近傍の試料を容易に採取することができるため、より精度の高い鉄筋腐食の判定を行うことができる。第5に、吸引装置のスイッチの入切操作により、表面に化粧タイル等の仕上げがなされている硬化コンクリートの構造体でも、仕上げ部分を除いた躯体部分のみの削孔粉を選択的に採取することが可能である。
【0010】
また、塩分量の測定にあたり、市販の吸光光度法を用いた比較的安価な機器を採用しているため、電位差滴定法等よりも試験時間が短く、簡易な分析操作で、試験費用が安価であると共に、しかも電位差滴定法と略同じ測定精度を得ることができる。
【0011】
ここで、吸光光度法の原理を簡単に説明しておく。試料に発色剤等の試薬を加え、適切な条件で目的物質と化学反応させると発色し、その呈色の強さは、目的物質の濃度に比例する。そして、呈色の余色の光(単色光)がセルの呈色液を通った場合、光が吸収される度合(吸光度)は、目的物質の濃度に比例するため、吸光度を測定すれば目的物質の濃度を算出できる、というものである。なお、この吸光度を測定する計器が吸光分光光度計である。
【0012】
さらに詳しくは、試料と呈色液との反応によって、呈色化合物溶液に光(可視領域を中心に約350〜800nm)を当て、分子起動電子の励起に基づく呈色化学種の吸収を、その吸収極大波長で測定し、その強度から定量分析を行うものである。Lambert-Beerの法則により、強さloの単色光が濃度c、長さLの液層を通過した後、ltに減光したとすると、次式が成り立つ。
lt/lo=10−ε・c・L=t …(1)
ε:吸光係数
t:透過度
(1)式の透過度tの逆数の対数を取ると、
log(1/t)= ε・c・L=E …(2)
E:吸光度
と展開でき、この吸光度Eを測定することにより、吸光係数(ε)既知の溶液中の濃度cが求められる。
【0014】
また、吸引装置と、当該吸引装置により吸引された前記削孔粉が収納される集塵容器とを備えたドリルハンマーにより、硬化コンクリートを削孔するので、採取された削孔粉と大気との接触を最小限に抑えることができる。したがって、測定対象となるコンクリート構造体が海岸付近等に存在する場合でも、試料採取作業の際に、風によって運ばれた海塩粒子等が測定試料に付着することが少なく、海塩粒子等の塩化物まで含めて測定してしまう虞がないので、精度のより高い測定を行うことが可能である。同様に、集塵容器内が気密であることにより、採取した削孔粉が風により飛ばされることがない。
【0015】
第2に、集塵容器内が気密であることにより、ドリルハンマーを垂直方向に向けても、採取した削孔粉がこぼれ落ちることがないため、方向性や採取対象面に限定がなく、硬化コンクリートのあらゆる方向・面でも採取可能である。
【0016】
第3に、ドリルハンマーと集塵容器が連設されている場合、ドリルハンマーを操作作業員一人で削孔及び採取作業を行うことが可能である。
【0017】
<請求項2記載の発明>
請求項2記載の発明は、塩分量の測定にあたり全塩分量を測定する請求項1記載の硬化コンクリート調査方法である。
【0018】
(作用効果)
可溶性塩分量(kg/m3)ではなく全塩分量(kg/m3)を測定するので、可溶性塩分量を求めることに比して、簡易でかつ試験コストを抑えることができ、かつ分析値の意味も明確である。
【0019】
また、可溶性塩分量を求める場合に、試料を50℃に温め、50度の温水を加えて保温し、30分浸透させて可溶性塩分を抽出する必要があるが、全塩分量を測定するため、このような手順を踏む必要がなく、試験時間が短縮できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を一実施例に基づいて説明する。
<第1の手順について>
第1の手順について図1乃至図3に基づいて説明する。なお、図1(1)は、本発明に係る試料採取方法で用いられる、集塵容器付きドリルハンマーの正面図を示しており、図1(2)は集塵容器付きドリルハンマーのうちの集塵容器の正面断面図を示している。
【0021】
集塵容器付きドリルハンマー1は、ドリルハンマー本体2、集塵容器3、ドリルビット4、吸引ホース5、連結具6、及び排気ホース7を備えている。
【0022】
ドリルハンマー本体2には、図示しないコンプレッサーや吸引ファン等の吸引装置が内蔵されている。また、ドリルハンマー本体2のドリルビット4の直径は約20mm程度であり、ドリルビット4の内部には、削孔した際に生じる削孔粉を吸引し、連結具8を介して後述する吸引ホース5内に流入させるための吸引孔(図示せず)が、ドリルビット4の先端から連結具8にかけて連通するように穿設されている。このドリルハンマー本体2は、図示しない電源にプラグ10を差し込み、内蔵した電動モーターを駆動させて、チャック部9に保持したドリルビット4を回転、打撃駆動することにより、硬化コンクリートに対して削孔を行うと共に、削孔の際に生じた削孔粉を吸引装置により吸引し、採取できるような構成となっている。
【0023】
ドリルハンマー本体2には、内部に吸引装置連結口15を有する連結具6による螺着等により集塵容器3が連設されており、この集塵容器3は、ケーシング11、試料容器12及び蓋体20を備えている。
【0024】
集塵容器3のケーシング11は、円筒状の胴部18とそれに続く漏斗状の肩部17及び口頸部16からなっており、透明プラスチック等の合成樹脂材により一体成形されている。このケーシング11の口頸部16には、同一断面形状を有し、この口頸部16を被覆し得る着脱可能な試料容器12が嵌合されている。また、ケーシング11の胴部18と蓋体20とは、胴部18の端縁と蓋体20の周壁部23の端縁において、螺合若しくは嵌合等により着脱自在に連接されており、蓋体20の装着時には、ケーシング11や試料容器12内部は気密状態になっている。
【0025】
集塵容器3の蓋体20は、円柱状の蓋部21と、この蓋部21の外周を取り巻き、植込みボルトなどにより蓋部21に螺着された、リング状のグリップ部22と、蓋部21を被覆するように嵌合された周壁部23を備えている。蓋体20の周壁部23には、吸引ホース5と同一断面を有しこの吸引ホース5を連結させる吸引ホース連結口13と、ドリルハンマー本体2の吸引装置とケーシング11内部とを連通させるための吸引装置連結口15と、後述する第1の周壁口26及び第2の周壁口27が形成されている。
【0026】
蓋体20の蓋部21は、周壁部23の内周に摺動しながら回動可能に構成されている。この蓋部21は、一端をノズル14と連接し、かつ蓋部21の回動により、他端を周壁部23に形成された吸引装置連結口15若しくは第2の周壁口(排気ホース連結口)27と連通可能なエルボ管状の第1の連絡孔24を有している。同様に、蓋部21の回動により、一端を周壁部23に形成された第1の周壁口26と連接し、他端を第2の周壁口(排気ホース連結口)27若しくは吸引装置連結口15と連通可能な直管状の第2の連絡孔25を蓋部21は有している。
【0027】
次に、図2及び図3に基づいて、本発明に関わる集塵容器付きドリルハンマーの動作について説明する。なお、図2(1)は、採取時の蓋体20の上面を見た図であり、図3(1)は、その際の外気(空気)の流れを説明するための図である。また、図2(2)は、掃除時の蓋体20の上面を見た図であり、図3(2)その際の外気(空気)の流れを説明するための図である。また、図3(1),(2)中の矢印は外気(空気)の流通方向を示している。
【0028】
蓋体20のグリップ部22の上面には、採取モードと掃除モードのしるしが蓋体20の円中心を中心として120度の間隔で刻印されており、グリップ部22を矢印X方向に回動させると、蓋部21も連動して回動し、採取モードから掃除モードに切り替わるようになっている。なお、掃除モードから採取モードの切り替えについては、当然のことながら逆方向に回動させればよい。
【0029】
採取モードでは、蓋部21に形成されたエルボ管状の第1の連絡孔24は、一端をノズル14と連接され、他端を吸引装置連結口15に連接された状態となっている。また、蓋部21に形成された直管状の第2の連絡孔25は、一端を第1の周壁口26と連接され、他端を第2の周壁口(排気ホース連結口)27と連接された状態になっている。この状態では、ドリルハンマーに内蔵されたコンプレッサーや吸引ファン等の吸引装置によりケーシング11内が負圧になるため、それに伴って、外気と共に削孔粉がドリルビット4の先端から吸引され、ドリルビット4内部に穿設された吸引孔内に流入し、連結具8、吸引ホース5、吸引ホース連結口13を介して、ケーシング11内部に外気と削孔粉が流入する。この際、削孔粉は自重によりケーシング11内部や試料容器12内部に留まり、外気のみがノズル14、エルボ管状の第1の連絡孔24、吸引装置連結口15を介して吸引され、吸引された外気は、排気ホース7から第2の周壁口(排気ホース連結口)27、直管状の第2の連絡孔25内を流通し、第1の周壁口26から排出される。ここで、所望の量の削孔粉を採取したら、吸引装置等の動作を止め、試料容器12内に削孔粉を溜めた状態で、試料容器12をケーシング11から外し、削孔粉を採取する。
【0030】
上記の採取では、ケーシング11や試料容器12内部は気密状態になっていることにより、大気に開放された凹状の容器や皿等による試料採取に比べて、採取された削孔粉と大気との接触を最小限に抑えることができるので、測定対象となるコンクリート構造体が海岸付近等に存在する場合でも、試料採取作業の際に、風によって運ばれた海塩粒子等が測定試料に付着することが少なく、海塩粒子等の塩化物まで含めて測定してしまう虞がないので、精度のより高い測定を行うことが可能である。第2に、ケーシング11や試料容器12内部が気密であることにより、ドリルハンマー本体2を垂直方向に向けても、採取した削孔粉がこぼれ落ちることがないため、方向性や採取対象面に限定がなく、硬化コンクリートのあらゆる方向・面でも採取可能である。第3に、ドリルハンマー本体2と集塵容器3が連結具6を介して連設されているため、ドリルハンマーを操作作業員一人で削孔及び採取作業を行うことが可能である。
【0031】
掃除モードでは、蓋部21に形成されたエルボ管状の孔24は、一端をノズル14と連接され、他端を第2の周壁口(排気ホース連結口)27に連接された状態となっている。また、蓋部21に形成された直管状の第2の連絡孔25は、一端を第1の周壁口26と連接され、他端を吸引装置連結口15と連接された状態になっている。この状態では、ドリルハンマーに内蔵されたコンプレッサーや吸引ファン等の吸引装置により、第1の周壁口26から外気のみが吸引され、直管状の第2の連絡孔25及び吸引装置連結口15内に外気が流入する。そして、吸引された外気は、排気ホース7、第2の周壁口(排気ホース連結口)27、エルボ管状の第1の連絡孔24、ノズル14内を流通し、ケーシング11内部に外気が流入する。この際、試料容器12をケーシング11から外しておくと、肩部17や口頸部16内部に付着した試料を外部に飛ばすことができ、内部の掃除がなされることになる。試料の採取は、複数回行われることから、一回ごとの掃除が簡易なほど、採取時間の短縮化に繋がるので、この掃除モードがあることにより、試験時間全体の短縮化に効果がある。なお、この掃除モードによる掃除に加えて、ケーシング11を蓋体20から外し、ケーシング11内部に付着した試料をウェス等により確実に拭き取ることが望ましい。
【0032】
<第2の手順について>
まず、測定試料の取扱いについてであるが、まず、第1の手順で採取した約10g程の削孔粉を乳鉢に入れ、粉砕する(この間は約5分間)。次に、この粉砕された試料のうち細かく砕かれた部分(粒径約149μm未満)を、電子はかりや天秤等の計測機器(図示せず)により2g計りとり、これを加熱分解瓶(図示せず)に投入する。この加熱分解瓶に、硝酸溶液(2N)10mgを瓶の縁から加える。そして、サーモヒーター等の加熱装置(図示せず)により148℃の温度で、約15分間加熱して試料を溶解させ、全塩分を溶出させる。全塩分を溶出させた溶液をメスフラスコ(図示せず)に移し、蒸留水を加えて100mlにする。そして、漏斗(図示せず)と、ろ紙5種(5C,150mm)を用いてビーカー(図示せず)に60〜80ml溜まるまでろ過する。この溜まった溶液を、吸光度測定の前処理(発色処理)のための塩化物測定用試薬としてチオシアン酸水銀(II)(Hg(SCN)2)を含む呈色液が入った吸収セル41内に入れ、蓋を閉める。
【0033】
その後、この呈色化合物溶液を、図4に示した市販の吸光光度法を用いた吸光分光光度計40の挿入口42に挿入する。そして操作パネル44の操作ボタンで操作して測定を行うと、測定結果は、硬化コンクリートに含まれる全塩分量(kg/m3)としてモニター43上に表示される。
【0034】
ここで、吸光光度法を用いた吸光分光光度計を用いるメリットについてであるが、第1に、電位差滴定法との比較において、試験設備が小さいため持ち運びが楽であり、また試験時間や試験費用が安価であることである。
【0035】
第2に、電極電流法との比較では、電極電流法に用いられる測定機器は、もともと生コンクリートの塩分測定に用いられるもの(例えば、ソルターC−6型、吉川産業)であるため、可溶性塩分量(kg/m3)のみしか測定できないのに対して、吸光光度法では、全塩分量(kg/m3)を測定することができることである。前述したように、可溶性塩化物イオン量の測定には、分析操作が煩雑で熟練を要し、かつ可溶性塩化物イオン以外にもセメント水和物として固定されている塩化物イオンが抽出されてしまう場合もあり、分析値の意味が不明確になってしまうという虞がある。しかし、吸光光度法では、可溶性塩分量(kg/m3)ではなく全塩分量(kg/m3)を測定することができるので、可溶性塩分量を求めることに比して、簡易でかつ試験コストを抑えることができ、かつ分析値の意味も明確である。
【0036】
第3に、可溶性塩分量を求める場合に、試料を50℃に温め、50度の温水を加えて保温し、30分浸透させて可溶性塩分を抽出する必要があるが、全塩分量(kg/m3)を測定するため、このような手順を踏む必要がなく、試験時間が短縮できることである。
【0037】
【実施例】
以下に、本発明に関わる一実施例と、試料を削孔粉とし全塩分量(kg/m3)を電位差滴定法により求めた従来例との比較を行った。
【0038】
実施例の硬化コンクリートの削孔については、集塵ユニット付きのハンマードリル(Bosch Type GAH 500 DSR,proceq社)を用いた。このハンマードリルのドリルの刃はφ20mmとした。従来例では、JCI−SC8に従い直径100mmのコンクリートコア採取を行った。
【0039】
また、実施例及び従来例ともに、試料採取は、構造物の地表面若しくは海面から1.0〜1.5mの高さで行った。なお、ドリル削孔の位置については、コア抜き箇所と高さが同じで、コア抜き箇所から左右どちらかに20cm以内の距離で行った。また、実施例のドリル削孔による試料は、コンクリート表面から深さ方向に40mmまでは10mmピッチで、40mm以深では、20mmピッチで採取した。
【0040】
実施例においては、前述のように、採取された削孔粉を乳鉢に入れ、粉砕した(この間は約5分間)。次に、この粉砕された試料のうち細かく砕かれた部分(粒径約149μm未満)を、電子はかりや天秤等の計測機器により2g計りとり、これを加熱分解瓶に投入した。この加熱分解瓶に、硝酸溶液(2N)10mgを瓶の縁から加えた。そして、サーモヒーター等の加熱装置により148℃の温度で、約15分間加熱して試料を溶解させ、全塩分を溶出させ、この全塩分を溶出させた溶液をメスフラスコに移し、蒸留水を加えて100mlにした。そして、漏斗と、ろ紙5種(5C,150mm)を用いてビーカーに60〜80ml溜まるまでろ過した。この溜まった溶液を、吸光光度法を用いた市販の水質測定に用いられる吸光分光光度計(LASA 30,DR.LANGE社)付属の、呈色液としてチオシアン酸水銀(II)が入った吸収セルに入れ、吸収セルを吸光分光光度計の挿入孔に挿入し、この呈色化合物溶液の吸光度を測定することにより、全塩分量(kg/m3)を求めた。なお予め、空試験として、チオシアン酸水銀(II)が入った別の吸収セルに10ppm程度の塩分を入れたものを、測定器に挿入して吸光度を測っておき、試料液の吸光度を補正した。測定試料の取扱い等その他については、JCI−SC4に従った。
表1に、吸光分光光度計(LASA 30,DR.LANGE社)の仕様の一部を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
従来例では、日本コンクリート工学協会(JCI)に準拠した塩分量分析法(JCI−SC4)に従って、採取したコンクリートコアを切断、粉砕し、JIS Z8801(標準ふるい)の149μmを全通させるように粉砕したものに硝酸溶液(2N)を加え、溶液のpHを3以下とし、加熱煮沸して全塩分を溶解させ、この溶液に塩化物イオン選択性電極を用いて電位差的定法により全塩分量(kg/m3)を求めた。
表2に、実施例と従来例とにより、調査した箇所を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
図5乃至10には、試料採取した箇所ごとに、実施例と従来例との全塩分量(kg/m3)の比較を示した。
【0045】
結果としては、吸光光度法を用いた実施例と、電位差的定法による従来例との測定された全塩分量(kg/m3)比較において、図11に示すように、かなり高い相関が得られた。
【0046】
また、削孔粉を採取してから、測定結果が出るまでの時間は、1試料当たり約20〜30分であり、電位差的定法では1時間〜数時間かかることに比して、試験時間が大幅に短かった。
【0047】
従って、実施例からの考察では、本発明によれば、測定精度が高い上に、試験時間も短縮化できる、といえる。
【0048】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明によれば、コンクリート躯体の構造上の影響を抑えて測定試料を採取し、かつ分析値の意味が明確な全塩化物イオン量の計測により、全塩分量(kg/m3)を簡易・ローコストで測定できる等の利点がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1の手順で用いられる集塵容器付きドリルハンマーの一実施例の正面図及び集塵容器の正面断面図を示すものである。
【図2】 採取モード及び掃除モードを説明するための集塵容器の蓋体の上面図である。
【図3】 採取モード及び掃除モード時の外気の流れを説明するための図である。
【図4】 第2の手順で用いられる吸光分光光度計の一実施例を示す斜視図である。
【図5】 実施例1及び従来例1との全塩分量(kg/m3)比較データを示すグラフである。
【図6】 実施例2及び従来例2との全塩分量(kg/m3)比較データを示すグラフである。
【図7】 実施例3及び従来例3との全塩分量(kg/m3)比較データを示すグラフである。
【図8】 実施例4及び従来例4との全塩分量(kg/m3)比較データを示すグラフである。
【図9】 実施例5及び従来例5との全塩分量(kg/m3)比較データを示すグラフである。
【図10】 実施例6及び従来例6との全塩分量(kg/m3)比較データを示すグラフである。
【図11】 実施例と従来例における全塩分量(kg/m3)の相関比較を示すグラフである。
【符号の説明】
1…集塵容器付きドリルハンマー、2…ドリルハンマー本体、3…集塵容器、4…ドリルビット、5…吸引ホース、6…連結具、7…排気ホース、8…連結具、9…チャック部、10…プラグ、11…ケーシング、12…試料容器、13…吸引ホース連結口、14…ノズル、15…吸引装置連結口、16…口頸部、17…肩部、18…胴部、20…蓋体、21…蓋部、22…グリップ部、23…周壁部、24…エルボ管状の孔、25…直管状の孔、26…第1の周壁口、27…第2の周壁口(排気ホース連結口)、40…吸光分光光度計、41…吸収セル、42…挿入口、43…モニター、44…操作パネル。
Claims (2)
- ドリルビットと、このドリルビットに回転、打撃駆動することにより硬化コンクリートを削孔するドリルハンマー本体とを備え;
前記ドリルハンマー本体に吸引装置が内蔵され、かつ、集塵容器が連結され;
前記ドリルビットによる削孔の際に生じた削孔粉を、前記ドリルビットの内部に形成された吸引孔を通して前記集塵容器内に導く吸引経路と、前記集塵容器内と前記吸引装置の吸引側との間を繋ぐ吸引装置連結路と、前記吸引装置の排気側と前記集塵容器内とを繋ぐ排気経路とが設けられ、
前記集塵容器は、前記削孔粉を導くケーシング、前記ケーシングの一端側に着脱自在に連接されている試料容器、及び、ケーシングの他端側に設けられた蓋体を有し、
前記蓋体の周壁部には外気と連通する蓋体には第1の周壁口、及び前記排気経路の一部を形成する第2の周壁口が形成され、
前記蓋体の周壁部には、その内周に回動自在の蓋部が設けられ、前記蓋部には前記集塵容器内と前記蓋部の外周面とを繋ぐ第1の連絡孔、前記蓋部の外周面の一部と他部とを繋ぐ第2の連絡孔が形成され:
削孔粉の採取時には、前記蓋部の回動により、前記第1の連絡孔を吸引装置連結路に位置させ、かつ、前記第2の連絡孔を第1の周壁口及び第2の周壁口に連通させ、前記吸引装置の作動によって前記集塵容器内を負圧にし、前記ドリルビットによる削孔の際に生じた削孔粉を、前記ドリルビットの内部に形成された吸引孔を通して前記集塵容器内に導き;
ケーシングの掃除時には、前記蓋部の回動により、前記第1の連絡孔を排気経路に位置させ、かつ、前記第2の連絡孔を第1の周壁口及び吸引装置連結路に連通させ、前記吸引装置の作動によって前記第1の周壁口及び前記第2の連絡孔を通して外気を吸引し、この前記吸引装置の吸気を、前記第2の周壁口及び前記第1の連絡孔を通して前記ケーシング内に流入させて掃除を行い;
採取した削孔粉を試料として吸光光度法により前記硬化コンクリート中に含まれる塩分量を測定する、
ことを特徴とする硬化コンクリート調査方法。 - 塩分量の測定にあたり全塩分量を測定する請求項1記載の硬化コンクリート調査方法。
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