以下、本発明に係るアダプティブアレーアンテナの好適な実施形態について、添付図面を用いて詳細に説明する。具体的な実施形態の説明に入る前に、図1を参照しながら本発明の基本概念を説明する。図1は、第1実施形態および第2実施形態の上位概念としてのアダプティブアレーアンテナの基本原理を説明するものである。
図1において、アダプティブアレーアンテナは、第1ないし第nのアンテナ素子111ないし11nと、これらアンテナ素子111ないし11nにより受信された受信信号を各々設定された移相量に応じて位相制御する第1ないし第nの移相手段121ないし12nと、これら移相手段121ないし12nにより位相制御された受信信号を合成する合成手段130と、この合成手段130により合成された受信信号の強度を検出する信号強度検出手段150と、この信号強度検出手段により検出された受信信号の強度に基づいて移相量を算出し、これら算出された移相量を前記移相手段の各々に設定する移相量制御手段160と、を備えている。合成手段130の出力は、通常復調器140により復調される。
前記移相量制御手段160は、前記信号強度検出手段150より出力される種々の信号強度および複数の移相量に基づいて前記複数の移相手段121ないし12nにおける移相量を複数サイクル演算して出力する移相量演算手段161と、前記複数の移相手段121ないし12nのそれぞれの初期値を記憶する初期値記憶手段162と、前記初期値記憶手段162に記憶されているそれぞれの前記初期値に基づいて前記移相量演算手段161により複数の移相手段121ないし12nの各々に設定すべきものとして演算された第1の移相量を記憶する第1の移相量記憶手段163と、前記第1の移相量を各々所定の角度Xだけ増加させるように前記演算手段161により演算された前記複数の移相手段における第2の移相量を記憶する第2の移相量記憶手段164と、前記第1の移相量を各々所定の角度Xだけ減少させるように前記演算手段により演算された前記複数の移相手段における第3の移相量を記憶する第3の移相量記憶手段165と、を備える。
前記位相量制御手段160は、さらに、前記第1ないし第3の移相量記憶手段163ないし165の何れか1つに格納された移相量に基づいて前記移相量演算手段161により演算された前記複数の移相手段の移相量をそれぞれ設定する第1ないし第nの移相量設定手段1661ないし166nと、前記複数の移相手段1661ないし166nに前記第2の移相量が設定された状態で前記信号強度検出手段150により検出された第1の信号強度を記憶する第1の信号強度記憶手段167と、前記複数の移相手段に前記第3の移相量が設定された状態で前記信号強度検出手段により検出された第2の信号強度を記憶する第2の信号強度記憶手段168と、を備えている。
前記移相量演算手段161は、前記第1の信号強度および第2の信号強度の差が入力されたときにその差に比例する値分だけ前記第1の移相量を増加させた新たな移相量を演算して前記第1の移相量に入力して、前記差がなくなるまで複数サイクルの演算を繰り返している。また、アダプティブアレーアンテナは、移相量制御手段160の動作を所定の条件に基づいて停止させる更新停止手段170を備えている。
上記信号強度検出手段150は、受信信号の信号強度をそのまま検出するように構成しても良いが、図1に破線で示すような参照信号生成手段151を設け、この参照信号との誤差を検出する減算器152より出力される誤差信号の信号強度を検出するように構成しても良い。この場合、詳細は第2実施形態において説明するが、第1および第2の信号強度記憶手段167および168は、それぞれ誤差信号強度検出手段として機能している。
この基本原理は、本発明の最上位の概念を纏めたものであり、以下の第1ないし第10実施形態の上位概念となるものであるが、中位の概念としては以下の第1および第2実施形態に係るアダプティブアレーアンテナが考えられる。以下に詳述する。
(第1実施形態)
図2は、本発明の第1実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの構成図である。図2において、11〜1nはアンテナ素子、21〜2nはアンテナ素子11〜1nにより受信された受信信号を各々増幅する増幅器、41〜4nはそれら増幅された受信信号を後述する移相量制御手段3により各々設定された移相量に応じて位相制御する可変移相器、5はそれら位相制御された受信信号を合成する合成器、6はその合成された受信信号を復調処理する復調器、71は合成器5により合成された受信信号の強度を検出する信号強度検出手段、3はその検出された受信信号の強度に基づいて、新たに設定する移相量を算出して、それら算出した移相量を各々可変移相器41〜4nに設定する移相量制御手段、8は移相量制御手段3の動作を所定の回数繰り返し行なった後その動作を停止する更新停止手段である。
341〜34nは可変移相器41〜4nに各々設定する移相量Φ1(k)〜Φn(k)(nはアンテナ素子数、kは移相量更新の回数)を各々格納する第1移相量記憶手段、351〜35nはそれら格納された位相量Φ1(k)〜Φn(k)を各々90度だけ増加させた移相量Φ1’(k)〜Φn’(k)を算出し、格納する第2の移相量記憶手段、361〜36nは第1の移相量記憶手段341〜34nにより格納された移相量Φ1(k)〜Φn(k)を各々90度だけ減少させた移相量Φ1”(k)〜Φn”(k)を算出し、格納する第3の移相量記憶手段、371〜37nはそれら第1の移相量記憶手段341〜34nまたは第2の移相量記憶手段351〜35nまたは第3の移相量記憶手段361〜36nの何れか1つに格納された移相量をそれぞれ可変移相器41〜4nに設定する移相量設定手段、311は可変移相器41〜4nに各々Φ1(k),Φ2(k),…,Φi−1(k),Φi’(k),Φi+1(k),…,Φn(k)(1≦i≦n)が設定された状態で、信号強度検出手段71により検出される受信信号の強度Pi’を格納する第1の信号強度記憶手段、321は可変移相器41〜4nに各々Φ1(k),Φ2(k),…,Φi−1(k),Φi”(k),Φi+1(k),…,Φn(k)が設定された状態で、信号強度検出手段71により検出される受信信号の強度Pi”を格納する第2の信号強度記憶手段、331はそれらPi’とPi”との差に比例する値分だけ第iの移相量記憶手段に格納されたΦi(k)を増加させた新たな移相量Φi(k+1)を算出し、第iの移相量記憶手段に入力する移相量演算手段、381〜38nは移相量の初期値Φ1(0)〜Φn(0)を各々格納し、移相量制御手段3が初めて動作するときに、それらΦ1(0)〜Φn(0)を各々第1の移相量記憶手段341〜34nのΦ1(k)〜Φn(k)に入力する初期値記憶手段である。
以上のように構成されたアダプティブアレーアンテナの動作を説明する。図3はアダプティブアレーアンテナの動作を示すフローチャートである。まず、初期値記憶手段381により格納された移相量Φ1(0)が第1の移相量記憶手段341に入力される。これに基づいて、移相量記憶手段341によりΦ1(0)が次のようにΦ1(k)に格納される(ステップS1)。
Φ1(k)=Φ1(0)
続いて、第1の移相量記憶手段341により格納された移相量Φ1(k)が第2の移相量記憶手段351に入力される。これに基づいて、第2の移相量記憶手段341によりΦ1’(k)が次のように求められる(ステップS2)。
Φ1’(k)=Φ1(k)+90
続いて、第1の移相量記憶手段341により格納された移相量Φ1(k)が第3の移相量記憶手段361に入力される。これに基づいて、第3の移相量記憶手段361によりΦ1”(k)が次のように求められる(ステップS3)。
Φ1”(k)=Φ1(k)−90
S2〜S3はS3→S2という順番で処理してもよい。続いて、第1の移相量記憶手段341により格納された移相量Φ1(k)が移相量設定手段371に入力される。この移相量を移相量設定手段371により可変移相器41に設定する(ステップS4)。続いて、初期値記憶手段382〜38nにより格納された移相量Φ2(0)〜Φn(0)についても同様に、移相量設定手段372〜37nにより可変移相器42〜4nに設定する。
移相量の初期値Φ1(0)〜Φn(0)は、例えば、所望波を同相合成する移相量にすればよい。次に、ステップS5でiがn以上であるか否かが判断され,iがn以上でなければステップS1ないしS4の処理を繰り返し、iがn以上であれば、ステップS6においてk=1が設定される。
時刻tのとき、アンテナ素子11〜1nにより受信され、増幅器21〜2nにより増幅された受信信号をS1(t)〜Sn(t)とする。これらの信号は可変移相器41〜4nにより位相制御され、合成器5により合成される。可変移相器41〜4nに設定されている移相量をΦ1(k)〜Φn(k)とすると、この合成された受信信号y(t)は、
と表される。この合成された受信信号y(t)は信号強度検出手段71に入力される。これに基づいて、信号強度検出手段71により検出される受信信号の強度Pは、
と表される。ただし、E[・]:期待値演算、*:複素共役である。期待値演算は実際には時間平均演算に置きかえられる。これは、信号強度検出手段71の時定数を十分大きい値に設定することで求めることができる。
この実施形態の特徴は、信号強度検出手段71によって検出される受信信号の信号強度の、各々可変移相器41〜4nに設定されている移相量に対する偏微分係数を、信号強度検出手段71により検出される受信信号の信号強度のみを用いて求めることができる点である。この偏微分係数に基づいて、移相量制御を行なう。可変移相器41〜4nに設定する移相量は1個ずつ移相量制御手段3により算出される。ここでは、可変移相器41の移相量を更新する方法を説明する。
第2の移相量記憶手段351により格納された移相量Φ’1(t)が移相量設定手段371に入力される。この移相量を移相量設定手段371により可変移相器41に設定する(ステップS8)。この設定の状態で、信号強度検出手段71により検出される受信信号の強度P1’が第1の信号強度記憶手段311に入力される(ステップS9)。続いて、第3の移相量記憶手段361により格納された移相量Φ”1(t)が移相量設定手段371に入力される。この移相量を移相量設定手段371により可変移相器41に設定する(ステップS10)。この設定の状態で、信号強度検出手段71により検出される受信信号の強度P1”が第2の信号強度記憶手段321に入力される(ステップS11)。S8〜S11はS10→S11→S8→S9という順番で処理してもよい。
続いて、第1の信号強度記憶手段311に格納された受信信号の強度P1’、第2の信号強度記憶手段321に格納された受信信号の強度P1および第1の移相量記憶手段341により格納された移相量Φ1(k)が移相量演算手段331に入力される。これらの入力に基づいて移相量演算手段331により新たな移相量Φ1(k+1)が次のように算出される(ステップS12)。
Φ1(k+1)=Φ1(k)+α(P1’−P1”)
但し、α:実数である。
続いて移相量演算手段331により算出された新たな移相量Φ1(k+1)が第1の移相量記憶手段341に入力される。これに基づいて、第1の移相量記憶手段341によりΦ1(k+1)が次のようにΦ1(k)に格納される(ステップS13)。
Φ1(k)=Φ1(k+1)
続いて、第1の移相量記憶手段341により格納された移相量Φ1(k)が第2の移相量記憶手段351に入力される。これに基づいて、第2の移相量記憶手段351によりΦ1’(k)が次のように求められる(ステップS14)。
Φ1’(k)=Φ1(k)+90
続いて、第1の移相量記憶手段341により格納された移相量Φ1(k)が第3の移相量記憶手段361に入力される。これに基づいて、第3の移相量記憶手段361によりΦ1”(k)が次のように求められる(ステップS15)。
Φ1”(k)=Φ1(k)−90
S14〜S15はS15→S14という順番で処理してもよい。これに続いて、第1の移相量記憶手段341により格納された移相量Φ1(k)が移相量設定手段371に入力される。この移相量を移相量設定手段371により可変移相器41に設定する(ステップS16)。
続いて、可変移相器42〜4nの移相量更新についても同様の手順で行なう。以上の移相量制御手段3による可変移相器41〜4nの移相量更新の動作をK回繰り返し行なった後、更新停止手段8によりその動作を停止する(ステップS17〜S18)。本発明においては、移相量更新の動作中は移相量が大きく変動するため、復調器6に入力される受信信号の強度も大きく変動し復調処理が困難となる。したがって、移相量更新の動作を所定の回数繰り返し行なった後、停止する必要がある。
このため、ステップS17でiがn以上であるか否かを判断し、iがn以上である場合には、ステップS18でkがK以下であるかを判断して、kがK以下である場合には1つ数値をインクリメントしてステップS7ないしS17の処理を繰り返し、kがK以下でない場合には更新処理を停止させている。
ここでは、移相量更新の繰り返し回数をカウントすることで動作を停止しているが、これに限られず、例えば、Pi’−Pi”が所定の値以下になったら動作を停止するという方法も考えられる。
Pi’−Pi”は、
と表される。但し、i:0≦i≦nを満たす整数、Im{}:虚部である。
一方、PのΦiによる偏微分δP/δΦiは、
と表される。
以上より、δP/δΦi=(Pi’−Pi”)/2が成り立つ。したがって、ステップS12の処理は、
と等価の処理を行なっていることになる。
実数αが負の値のときは、アダプティブアレーアンテナの出力信号強度を小さくするように可変移相器41〜4nの移相量が更新され、最終的にδP/δΦi=0となる移相量が設定されるので、干渉波のみが存在する場合は、これを抑圧することができる。このような移相量制御を、例えば、基地局の受信用アダプティブアレーアンテナに適用する場合は、通信を要求してきた端末局に通信チャネルを与える前に、可変移相器の移相量を制御して、同一チャネル干渉を抑圧する移相量を算出し、その後、前記通信チャネルを前記端末局に与え、前記同一チャネル干渉を抑圧する移相量を可変移相器41〜4nに設定して前記端末局が送信する信号を受信する方法が考えられる。
所望波と干渉波が同時に存在する場合は、一個以上の可変移相器の移相量を初期値に固定することで、所望波の抑圧を回避することができる。
一方、実数αが正の値のときは、アダプティブアレーアンテナの出力信号強度を大きくするように可変移相器41〜4nの移相量が設定されるので、所望波が存在する場合は、これを同相合成することができる。このような移相量制御を、例えば、基地局の受信用アダプティブアレーアンテナに適用する場合は、同一チャネル干渉が存在しない時、1端末局に信号を送信させ、可変移相器の移相量を制御して、同相合成する移相量を算出し、その後、前記端末局が通信を行なう際に、前記同相合成する移相量を可変移相器41〜4nに設定して前記端末局が送信する信号を受信することが考えられる。
本実施形態においては、移相量を90度増減させる場合について説明したが、移相量をX度増減させた場合にも同様の効果を得ることができる。
移相量をX度増減させた場合のPi’−Pi”は、
と表される。
これより、δP/δΦi=(Pi’−Pi”)/(2sin(X))が成り立つことになる。したがって、ステップS9の処理は、
と等価の処理を行なっていることになる。
特に、Xを90度としたときは、Pi’とPi”の差が最大となるので、高い精度でδP/δΦiを求めることができる。
以上のように、本発明の第1実施形態によれば、信号強度検出手段71により検出される信号強度のみを用いて、合成器5により合成された受信信号の強度の移相量に対する偏微分係数に基づいた移相量制御を行なうことができるため、従来技術のようにアンテナ素子ごとに信号を用いる場合に比べて、簡単な回路構成で実現することができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの構成図である。第1実施形態との相違は、参照信号生成手段と誤差検出手段と誤差信号強度検出手段と第1の誤差信号強度記憶手段と第2の誤差信号強度記憶手段と移相量演算手段を用いた点にある。
図4において、符号91は参照信号を生成する参照信号生成手段、符号92は合成器5により合成された受信信号と参照信号生成手段91により生成された参照信号との差を出力する誤差検出手段、符号72はその出力された誤差信号の強度を検出する誤差信号強度検出手段、符号312は可変移相器41〜4nに各々Φ1(k),Φ2(k),…,Φi−1(k),Φi’(k),Φi+1(k),…,Φn(k)(1<=i<=n)が設定された状態で誤差強度検出手段72により検出される受信信号の強度Qi’を格納する第1の誤差信号強度記憶手段、符号322は可変移相器41〜4nに各々Φ1(k),Φ2(k),…,Φi−1(k),Φi”(k),Φi+1(k),…,Φn(k)が設定された状態で信号強度検出手段72により検出される受信信号の強度Pi”を格納する第2の信号強度記憶手段、符号332はそれらQi’とQi”との差に比例する値分だけ第1の移相量記憶手段iに格納されたΦi(k)を増加させた新たな移相量Φi(k+1)を算出して第1の移相量記憶手段iに入力する移相量演算手段である。その他の構成は図2と同様なのでその重複する説明を省略する。
以上のように構成されたアダプティブアレーアンテナの動作について、より詳細に説明する。図6はアダプティブアレーアンテナの動作を示すフローチャートである。
まず、ステップS1〜S7を第1実施形態と同様の手順で行なう。時刻tのとき、アンテナ素子11〜1nにより受信され、増幅器21〜2nにより増幅された受信信号をS1(t)〜Sn(t)とする。これらの信号は可変移相器41〜4nにより位相制御され、合成器5により合成される。一方、参照信号生成手段91により生成された参照信号をD(t)とする。合成器5により合成された受信信号と参照信号生成手段91により生成された参照信号との差が誤差検出手段92により出力される。誤差検出手段92は、例えば図5に示すように、参照信号を180度移相する180度移相回路921と、その180度移相された参照信号と受信信号を合成する合成回路922と、により構成される。可変移相器41〜4nに設定されている移相量をΦ1(k)〜Φn(k)(nはアンテナ素子数、kは移相量更新の回数)とすると、この誤差検出手段92により出力された誤差信号E(t)は、
と表される。この出力された誤差信号E(t)は、誤差信号強度検出手段72に入力される。これに基づいて、誤差信号強度検出手段72により検出される誤差信号の強度Qは、
と表される。
本第2実施形態の特徴は、誤差信号強度検出手段72により検出される誤差信号の信号強度の、各々可変移相器41〜4nに設定されている移相量に対する偏微分係数を、誤差信号強度検出手段72により検出される誤差信号の信号強度のみを用いて求めることができる点である。この偏微分係数に基づいて、移相量制御を行なう。可変移相器41〜4nに設定する移相量は1個ずつ移相量制御手段3により算出される。ここでは、可変移相器41の移相量を更新する方法を説明する。
ステップS8を第1実施形態と同様の手順で行なう。この設定の状態で、誤差信号強度検出手段72により検出される誤差信号の強度Q1’が第1の誤差信号強度記憶手段312に入力される(ステップS101)。続いて、第3の移相量記憶手段361に格納された移相量Φ”1(t)が移相量設定主だ371に入力される。この移相量を移相量設定手段371により可変移相器41に設定する(ステップS102)。この設定の状態で、誤差信号強度検出手段72により検出される誤差信号の強度Q1”が第2の誤差信号強度記憶手段322に入力される(ステップS103)。
続いて、第1の誤差信号強度記憶手段312に格納された誤差信号強度Q1’、第2の誤差信号強度記憶手段322に記憶された誤差信号強度Q1”および第1の移相量記憶手段341に記憶された移相量Φ1(k)が移相量演算手段332に入力される。これらの入力に基づいて、移相量演算手段332により新たな移相量Φ1(k+1)が次のように算出される(ステップS104)。
但し、α:実数である。
続いて、ステップS13〜S16を第1実施形態と同様の手順で行なう。続いて、可変移相器42〜4nの移相量更新についても同様の手順で行なう。続いて、ステップS18を第1実施形態と同様の手順で行なう。
Qi’−Qi”は、
と表される。
一方、QのΦiによる偏微分δQ/δΦiは、
と表される。
以上より、δQ/δΦi=(Qi’−Qi”)/2が成り立つ。したがって、ステップS104の処理は、
と等価の処理を行なっていることになる。
実数αが負の値のときは、アダプティブアレーアンテナの出力と参照信号との誤差を小さくするように可変移相器41〜4nの移相量が更新され、最終的にδQ/δΦi=0となる移相量が設定されるので、所望波と干渉波が存在する場合は、干渉波を抑圧することができる。このような移相量制御を、例えば、基地局の受信用アダプティブアレーアンテナに適用する場合は、端末局が通信を開始する前に既知信号を送信し、基地局では、前記既知信号と同一の信号を参照信号として用いて、可変移相器の移相量を制御して、同一チャネル干渉を抑圧する移相量を演算し、その後、前記端末局が通信を開始して、基地局では、前記同一チャネル干渉を抑圧する移相量を可変移相器41〜4nに設定して前記端末局が送信する信号を受信する方法が考えられる。
本実施形態では、移相量を90度増減させる場合について説明したが、移相量をX度増減させた場合にも同様の効果を得ることができる。
移相量をX度増減させた場合のQi’−Qi”は、
と表される。
これより、δQ/δΦi=(Qi’−Qi”)/(2sin(X))が成り立つことになる。したがって、ステップS9の処理は、
と等価の処理を行なっていることになる。
特に、Xを90度としたときは、Qi’とQi”の差が最大になるので、高い精度でδQ/δΦiを求めることができる。
以上のように、本発明の第2実施形態によれば、合成器により合成された受信信号と参照信号との差の強度を評価関数として最小化を行なうアダプティブアレーアンテナにおいては、移相量制御を行なうために必要な評価関数の偏微分係数を、誤差信号強度検出手段72により検出される信号強度のみを用いて得ることができるため、従来技術のようにアンテナ素子ごとの信号を用いる場合に比べて、簡単な回路構成で実現することができる。
(第3実施形態)
図7は、本発明の第3実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの構成図である。 図7において、11〜1nはアンテナ素子、711〜71nはアンテナ素子により受信された受信信号を後述する信号選択手段75により各々入力された制御信号に応じて後段の回路へ通過または遮断する信号遮断手段、21〜2nはこれら信号遮断手段を通過した受信信号を各増幅する増幅器、41〜4nはこれら増幅された受信信号を後述する移相量制御手段3により各々設定された移相量に応じて位相制御する可変移相器、5はそれら位相制御された受信信号を合成する合成器、6はその合成された受信信号を復調処理する復調器、7は合成器5により合成された受信信号の強度を検出する信号強度検出手段、3はその検出された受信信号の強度に基づいて、移相量を算出し、それら算出した移相量を各々可変移相器41〜4nに設定する移相量制御手段である。
信号遮断手段711〜71nは、例えば、増幅器21〜2nの電源スイッチを用いることが考えられる。75は信号遮断手段1101〜110nの何れか2個を通過側に設定し、残りを遮断側に設定する信号選択手段、331は信号遮断手段711〜71nの何れか2個が通過側に設定され、他が遮断側に設定された状態で、信号強度検出手段7により検出される受信信号の強度Pに基づいて、そのPを最小にする移相量を算出する移相量演算手段、371〜37nはその算出された移相量を可変移相器41〜4nのうち信号選択手段75により通過側に設定された信号遮断手段i(1≦i≦n)に接続された可変移相器iに設定する移相量設定手段である。
以上のように構成された第3実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの動作を説明する。図8はアダプティブアレーアンテナの動作を示すフローチャートである。
新たに端末局が運用を開始する場合、あるいは既存の端末局がその位置を変更した後はじめて運用を再開する場合に、端末局が第1の制御信号を基地局に対して送信し、通信チャネルが空いている場合、基地局が第2の制御信号を用いてそれ以降の送受信を行なう1つないし複数の通信チャネルを指定し、端末局が、基地局により指定された通信チャネルで、一定の送信電力をもって送信を行なう(ステップS1001〜S1004)。
続いて、信号選択手段75により第1の信号遮断手段711を通過側、第2ないし第n信号遮断手段712〜71nを遮断側に設定する(ステップS1005)。
この第3実施形態の特徴は、信号強度検出手段7により検出される受信信号の信号強度に基づいて、第2ないし第nの可変移相器42〜4nにより位相制御された受信信号の位相が、第1の可変移相器41により位相制御された受信信号の位相と逆位相、すなわち、可変移相器2〜n(1042〜104n)により位相制御された受信信号の位相が同一関係になるように移相量制御を行なう点である。可変移相器2〜n(1042〜104n)に設定する移相量は1個ずつ移相量制御手段1003により算出される。ここでは、可変移相器2(1042)の移相量を設定する方法を説明する。
信号選択手段75により第2の信号遮断手段712を通過側に設定し、このように通過側に設定したことを移相量演算手段331に通知する(ステップS1006)。この状態で、信号強度検出手段7により検出される受信信号の強度Pが移相量演算手段331に入力される(ステップS1007)。これに基づいて、移相量演算手段331により強度Pを最小にする移相量Φ2が算出される(ステップS1008)。
信号強度Pを最小にする方法は、例えば、図3を用いて説明した方法や、移相量を順次設定していき信号強度Pを最小にする移相量を決定する方法等が考えられる。図9は移相量を順次設定していったときの強度Pの変化をdB表示したものである。図9に示すように、受信強度の最小点は鋭い特性を持っているので、精度の高い移相量の決定ができる。
続いて、信号選択手段75からの通知に基づいて、移相量演算手段331により算出された移相量Φ2が移相量設定手段372に入力される。この移相量Φ2を移相量設定手段372により第2の可変移相器42に設定する(ステップS1009)。続いて信号選択手段75により第2の信号遮断手段712を遮断側に設定する(ステップS1010)。続いて、第3ないし第nの可変移相器43ないし4nの移相量設定についても同様の手順で行なう。
以上の処理により、第2ないし第nの可変移相器42〜4nの各々により位相制御された受信信号の位相が、第1の可変移相器41により位相制御された受信信号の位相と逆位相の関係になる。続いて、信号選択手段75によりって、第1の信号遮断手段711を遮断側、第2ないし第nの信号遮断手段712〜71nを通過側に設定する(ステップS1011)。
以上の処理により、可変移相器2〜n(1042〜104n)により位相制御された受信信号の位相が同一になり、端末機が送信した信号は合成器5により同相合成することができる。例えば、算出した移相量を記憶しておけば、一旦終呼した後通話を再開するときにも用いることができる。以上説明した本発明の第3実施形態における効果を纏めると以下のようになる。
信号強度検出手段7により検出される受信信号の信号強度に基づいて、端末局が送信した信号を同相合成して受信するための移相量を簡単な処理により得ることができる。したがって、簡単な回路構成で実現でき、処理時間も短くて済む利点がある。特に、高速伝送の無線通信システムにおいてリアルタイムでの処理を必要とする場合に有効である。
アンテナ素子毎に接続されているデバイスの偏差、アンテナ素子の配置誤差またはマルチパス伝搬等に起因する位相の偏差があっても、これを加味して同相合成して受信するための移相量を得ることができ、従来のビームステアリングによる方法のように、位相の偏差分を補償するように移相量を設定する必要がなく、偏差の測定による補償を省略もしくは簡略化することができる。
一度記憶した最適な移相量は、特に、WLL(Wireless Local Loop)システムのように基地局と端末局が空間的に固定されている場合は、電波の伝搬環境が時間的にほぼ固定であるため、再度利用することができ、通信時の制御を簡略化することができる。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係るアダプティブアレーアンテナについて説明する。本発明の第4実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの構成は第3実施形態の構成と同様であるので、ハードウェア構成については、図7の構成に従い説明する。
第3実施形態との相違は、第3実施形態の処理動作を示す図8におけるステップS1011の後に、第1の可変移相器41に新たな移相量を設定して、設定すべき最適な移相量を決定し、端末局が送信した信号を同相合成する際に、第1のアンテナ素子11で受信された受信信号も用いた点にある。
第4実施形態の動作について、より詳細に説明する。図10はアダプティブアレーアンテナの動作を示すフローチャートである。
図8に示したステップS1001〜S1011を第3実施形態と同様の手順で行なう。続いて、現在第1の可変移相器41に設定している移相量Φ1を180度だけ増加させた移相量を第1の移相量設定手段371により第1の可変移相器41に設定する(ステップS1101)。続いて、信号選択手段75により第1の信号遮断手段711を通過側に設定する(ステップS1102)。
以上の処理により、第2ないし第nの可変移相器42〜4nにより位相制御された受信信号の位相が同一になり、端末局が送信した信号は合成器5により同相合成することができる。
以上のように、本発明の第4実施形態によれば、端末局が送信した信号を同相合成する際に、第1のアンテナ素子11で受信された受信信号も用いることにより、端末局に対する指向性利得を大きくすることができる。
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。図11は、本発明の第5実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの構成図である。
この第5実施形態が第3実施形態と相違している点は、可変利得回路と利得制御手段を用いた構成にある。図11において、1101〜110nは外部からの入力された制御信号に応じて、可変移相器41〜4nにより位相制御された受信信号を各々増幅し、それら増幅した受信信号を合成器5に入力する第1ないし第nの可変利得回路、110は信号強度検出手段7により検出された受信信号の強度に基づいて、第1ないし第nの可変利得回路1101〜110nにより各々増幅された受信信号の強度が等しくなるように可変利得回路1101〜110nの利得を設定する利得制御手段である。その他の構成は第3実施形態の構成を示す図7と同様なので、同一符号を付すことにより重複説明を省略する。
以上のように構成されたアダプティブアレーアンテナの動作について、より詳細に説明する。図12はアダプティブアレーアンテナの動作を示すフローチャートである。
まず、図8に示したステップS1001〜S1004の動作を第3実施形態と同様の手順で行なう。続いて、信号選択手段75により第1ないし第nの信号遮断手段711〜71nを遮断側に設定する(ステップS1201)。
本第5実施形態の特徴は、信号強度検出手段7により検出される受信信号の信号強度に基づいて、第1ないし第nの可変利得回路1101〜110nにより各々増幅された受信信号の強度が等しくなるように可変利得回路1101〜110nの利得制御を行なう点にある。第1ないし第nの可変利得回路1101〜110nに設定する利得は、1個ずつ利得制御手段110により設定される。ここでは、第1の可変利得回路1101の利得を設定する方法を説明する。
信号選択手段75により第1の信号遮断手段711を通過側に設定し、これを利得制御手段110に通知する(ステップS1202)。この状態で、信号強度検出手段1007により検出される受信信号の強度Qが利得制御手段110に入力される(ステップS1203)。これに基づいて、利得制御手段110により第1の可変利得回路1101により増幅された受信信号の強度が指定の値になるように第1の可変利得回路1101の利得を設定する(ステップS1204)。続いて、信号選択手段75により第1の信号遮断手段711を遮断側に設定する(ステップS1205)。続いて、第2ないし第nの可変利得回路1102〜110nの利得設定についても同様の手順で行なう。
続いて、図8に示したステップS1005〜S1011を第3実施形態と同様の手順で行なう。
第3実施形態では、各アンテナ素子で受信された受信信号の信号強度は同一であるものとして説明している。ところが、端末局が送信した信号の反射や、アンテナ素子毎に接続されている増幅器の偏差等の影響により、各アンテナ素子で受信された受信信号の信号強度が異なる場合も想定される。この場合、図9に示した受信信号の信号強度は、図13に示すように、最小点は鋭い特性を持たなくなり、アンテナ素子間で精度の高い位相合わせができなくなる。
これに対して、第5実施形態では、各アンテナ素子で受信された受信信号の信号強度が異なっていても、最適な移相量を決定する動作の前に、第1ないし第nの可変利得回路1101〜110nにより各々増幅された受信信号の強度が等しくなるように可変利得回路1101〜110nの利得制御を行なうので、受信信号の信号強度の最小点は再び図9に示すように鋭い特性を持つようになり、アンテナ素子間で精度の高い位相合わせを行なうことができる。
なお、可変利得回路1101〜110nの後に各々信号強度測定手段を設け、可変利得回路1101〜110nにより各々増幅された受信信号の強度を各々測定する方法も考えられる。
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態について説明する。図14は、本発明の第6実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの構成図である。
第6実施形態が第3実施形態と相違する点は、第1の信号強度記憶手段と第2の信号強度記憶手段と移相量演算手段を用いている構成にある。図14において、移相量制御手段3は、所望波と干渉波が存在する状態で信号強度検出手段7により検出される受信信号の第1の強度P1を格納する第1の信号強度記憶手段141と、干渉波のみが存在する状態で信号強度検出手段7により検出される受信信号の第2の強度P2を格納する第2の信号強度記憶手段142と、信号遮断手段711〜71nの何れか2つが通過側に設定され、残りが遮断側に設定された状態で、第1の強度P1と第2の強度P2に基づいて、その差「P1−P2」を最小にする移相量を算出する移相量演算手段331と、を備えている。その他の構成は図7と同様なので同一符号を付して重複説明を省略する。
以上のように構成されたアダプティブアレーアンテナの動作について、より詳細に説明する。図15はアダプティブアレーアンテナの動作を示すフローチャートである。この図15を用いて、第2の可変移相器42の移相量を設定する方法を説明する。まず、図8に示したステップS1001〜S1006を第3実施形態と同様の手順で行なう。次に、信号強度検出手段7により検出される受信信号の第1の強度P1が第1の信号強度記憶手段141に入力される(ステップS1301)。続いて、基地局が、所望の端末局に対して一定期間送信を中断するように指示し、端末局が、その指示に従って一定期間送信を中断する(ステップS1302〜1303)。この状態で、信号強度検出手段7により検出される受信信号の強度P2が第2の信号強度記憶手段142に入力される(ステップS1304)。これに基づいて、移相量演算手段331により第1の強度と第2の強度の差すなわち「P1−P2」を最小にする移相量Φ2が算出される(ステップS1305)。続いて図8に示したステップS1009〜S1011を第3実施形態と同様の手順で行なう。
第3実施形態においては、移相量を算出する際に、所望の端末局から送信された信号の受信強度のみが信号強度検出手段7により検出されるものと想定している。したがって、他の端末局も同時に送信している場合、信号強度検出手段7により検出された受信信号の信号強度は、所望の端末局が送信した信号の受信強度に他の端末局が送信した信号の受信強度が加わったものになる。その場合、アンテナ素子間で精度の高い位相合わせができなくなる。
これに対して、第6実施形態においては、他の端末局が送信した信号が存在しても、移相量を算出する際に、他の端末局が送信した信号の受信強度を検出し、その影響を除去するので、アンテナ素子間で精度の高い位相合せを行なうができる。
(第7実施形態)
図16は、送信の際に用いられる本発明の第7実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの構成図である。図16において、アンテナシステムは、送信器161と、送信器161により送信された送信信号を分配する分配器162と、これら分配された送信信号を後述する移相量制御手段3により各々設定された移相量に応じて位相制御する可変移相器41〜4nと、これら位相制御された送信信号を各増幅する増幅器21〜2nと、これら増幅された送信信号を後述する信号選択手段75により各々入力された制御信号に応じて後段の回路へ通過または遮断する信号遮断手段711〜71nと、これら信号遮断手段を通過した送信信号を各々送信するアンテナ素子11ないし1nと、通信する端末局からの通知により端末局において受信された受信信号の信号強度を検出する信号強度検出手段7と、検出された受信信号の強度に基づいて移相量を算出しこれら算出した移相量を各々第1ないし第nの可変移相器41〜4nに設定する移相量制御手段3と、により構成されている。
信号強度検出手段7により検出される信号強度は、例えば、端末局からの信号強度情報の通知を受信器163により受信し、その信号強度情報を信号強度検出手段7に入力することにより得ることができる。第7実施形態における移相量制御手段3は、信号遮断手段711〜71nの何れか2つを通過側に設定し、残りを遮断側に設定する信号選択手段75と、信号遮断手段711〜71nの何れか2つが通過側に設定され、残りが遮断側に設定された状態で、信号強度検出手段7により検出される受信信号の強度Pに基づいて、その強度Pを最小にする移相量を算出する移相量演算手段331と、その算出された移相量を可変移相器41〜4nのうち信号選択手段75により通過側に設定された信号遮断手段i(1≦i≦n)に接続された可変移相器iに設定する移相量設定手段371〜37nとを備えている。
以上のように構成された第7実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの動作を説明する。図17はアダプティブアレーアンテナの動作を示すフローチャートである。新たに端末局が運用を開始する、あるいは既存の端末局がその位置を変更した後はじめて運用を再開する場合に、端末局が第1の制御信号を基地局に対して送信し、通信チャネルが空いている場合、基地局が第2の制御信号を用いてそれ以降の送受信を行なう1つないし複数の通信チャネルを指定する(ステップS3001〜S3003)。続いて、信号選択手段75により第1の信号遮断手段711を通過側に、第2ないし第nの信号遮断手段712〜71nを遮断側に設定する(ステップS3004)。
本第7実施形態の特徴は、信号強度検出手段7により検出される受信信号の信号強度に基づいて、第2ないし第nの可変移相器712〜71nにより位相制御された受信信号の位相が、端末局において、第1の可変移相器41により位相制御された送信信号の位相と逆位相の関係になる、すなわち、第2ないし第nの可変移相器42〜4nにより位相制御された送信信号の位相が端末局において同一になるように移相量制御を行なう点である。第2ないし第nの可変移相器42〜4nに設定する移相量は1個ずつ移相量制御手段3により算出される。ここでは第1の可変移相器42の移相量を設定する方法を説明する。
信号選択手段75により第2の信号遮断手段712を通過側に設定し、これを移相量演算手段331に通知する(ステップS3005)。続いて、基地局が、指定した通信チャネルで、一定の送信電力をもって送信を行なう(ステップS3006)。この状態で、信号強度検出手段7により検出される受信信号の強度Pが移相量演算手段331に入力される(ステップS3007〜S3008)。これに基づいて、移相量演算手段331によりPを最小にする移相量Φ2が算出される(ステップS3009)。
続いて、信号選択手段75からの通知に基づいて、移相量演算手段331により算出された移相量Φ2が第2の移相量設定手段372に入力される。この移相量Φ2を移相量設定手段372により第2の可変移相器42に設定する(ステップS3010)。続いて、信号選択手段3032により第2の信号遮断手段712を遮断側に設定する(ステップS3010)。続いて、第3ないし第nの可変移相器43〜4nの移相量設定についても同様の手順で行なう。
以上の処理により、第2ないし第nの可変移相器42〜4nの各々により位相制御された送信信号の位相が、端末局において、第1の可変移相器41により位相制御された送信信号の位相と逆位相の関係になる。続いて、信号選択手段75により第1の信号遮断手段711を遮断側、第2のないし第nの信号遮断手段712〜71nを通過側に設定する(ステップS3011)。
以上の処理により、第2ないし第nの可変移相器42〜4nにより位相制御された受信信号の位相が端末局において同一になり、基地局が送信した信号は端末局において同相受信することができる。例えば、算出した移相量を記憶しておけば、一旦終呼した後通話を再開するときにも用いることができる。
(第8実施形態)
次に、本発明の第8実施形態に係るアダプティブアレーアンテナについて説明する。本発明の第8実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの構成図は第7実施形態の図16の構成と同様である。
第8実施形態が第7実施形態と相違する点は、第7実施形態のステップS3012の後で、第1の可変移相器41に新たな移相量を設定し、設定する最適な移相量を決定し、基地局が送信する際に、第1のアンテナ素子11で送信された送信信号も用いるようにした構成にある。
第8実施形態の動作について、より詳細に説明する。図18はアダプティブアレーアンテナの動作を示すフローチャートである。
次に、ステップS3001〜S3012を第7実施形態と同様の手順で行なう。続いて第1の可変移相器41に現在設定されている移相量Φ1を180度だけ増加させた移相量を第1の移相量設定手段371により第1の可変移相器41に設定する(ステップS3101)。続いて、信号選択手段75により第1の信号遮断手段711を通過側に設定する(ステップS3102)。
以上の処理により、第2ないし第nの可変移相器42〜4nにより位相制御された送信信号の位相が端末局において同一になり、基地局に対する指向性利得を大きくすることができる。
以上のように、本発明の第8実施形態によれば、基地局が送信する際に、第1のアンテナ素子11で送信された送信信号も用いることにより、端末局に対する指向性利得を大きくすることができる。
(第9実施形態)
次に、本発明の第9実施形態に係るアダプティブアレーアンテナについて説明する。図19は、本発明の第9実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの構成図である。
第9実施形態が第7実施形態と相違する点は、可変利得回路と利得制御手段を用いた構成にある。図19において、アダプティブアレーアンテナは、は外部からの入力された制御信号に応じて分配器162により分配された送信信号をそれぞれ増幅してこれらの増幅した送信信号を各可変移相器41〜4nに入力する可変利得回路81〜8nと、信号強度検出手段7により検出される受信信号の強度に基づいて可変利得回路81〜8nにより各々増幅された送信信号の強度が端末局において等しくなるように可変利得回路81〜8nの利得を設定する利得制御手段85と、を備えている。その他の構成は第7実施形態を示す図16と同様なので同一または相当構成要素に同一符号を付すことにより重複説明を省略する。
以上のように構成されたアダプティブアレーアンテナの動作について、より詳細に説明する。図20は、第9実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの動作を示すフローチャートである。ステップS3001〜S3003は第7実施形態と同様の手順によって行なわれる。次いで、信号選択手段75により第1ないし第nの信号遮断手段711〜71nを遮断側に設定する(ステップS3201)。
この第9実施形態の特徴は、信号強度検出手段7により検出される受信信号の信号強度に基づいて、可変利得回路81〜8nにより各々増幅された送信信号の強度が端末局において等しくなるように可変利得回路81〜8nの利得制御を行なう点である。第1ないし第nの可変利得回路81〜8nに設定される利得は1つずつ利得制御手段85により設定される。ここでは、第1の可変利得回路81の利得を設定する方法を説明する。
信号選択手段75により第1の信号遮断手段711を通過側に設定し、これを利得制御手段85に通知する(ステップS3202)。続いて、基地局が、指定した通信チャネルで、一定の送信電力をもって送信を行なう(ステップS3203)。この状態で、信号強度検出手段7により検出される受信信号の強度Gが利得制御手段3009に入力される(ステップS3204〜S3205)。これに基づいて、利得制御手段85により第1の可変利得回路81により増幅された送信信号の強度が指定の値になるように第1の可変利得回路81の利得を設定する(ステップS3206)。続いて、信号選択手段75により第1の信号遮断手段711を遮断側に設定する(ステップS3207)。続いて、第2ないし第nの可変利得回路82〜8nの利得設定についても同様の手順で行なう。最後に、ステップS3004〜S1012を第7実施形態と同様の手順で行なう。
第7実施形態においては、各アンテナ素子で送信された送信信号の信号強度は端末局において同一であるとしている。ところが、基地局が送信した信号の反射や、アンテナ素子毎に接続されている増幅器の偏差等の影響により、各アンテナ素子で送信された送信信号の信号強度が端末局において異なる場合も想定される。その場合、第5実施形態における説明と同様の理由により、アンテナ素子間で精度の高い位相合わせができなくなる。
これに対して、第9実施形態では、各アンテナ素子で送信された送信信号の信号強度が異なっていても、最適な移相量を決定する動作の前に第1ないし第nの可変利得回路81〜8nにより各々増幅された送信信号の強度が端末局において等しくなるように可変利得回路81〜8nの利得制御を行なうので、アンテナ素子間で精度の高い位相合わせを行なうことができる。
(第10実施形態)
次に、本発明の第10実施形態に係るアダプティブアレーアンテナについて説明する。図21は、本発明の第10実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの構成図である。
この第10実施形態が第7実施形態と異なる点は、受信側において図14に示した第6実施形態が、図11に示した第5実施形態に対して有する構成と同様に、第1の信号強度記憶手段141と第2の信号強度記憶手段142とを備えており、これら第1および第2の移相量記憶手段141,142に基づいて移相量を演算する移相量演算手段331を用いた構成にある。図21において、アダプティブアレーアンテナは、基地局が送信している状態で信号強度検出手段7により検出される受信信号の強度P1を格納する第1の信号強度記憶手段141と、基地局が送信していない状態で信号強度検出手段7により検出される受信信号の強度P2を格納する第2の信号強度記憶手段142と、第1ないし第nの信号遮断手段711〜71nの何れか2個が通過側に設定され、他が遮断側に設定された状態で、P1とP2に基づいてこれらの差「P1−P2」を最小にする移相量を算出する移相量演算手段331と、を備えている。その他の構成は図16と同様なので同一または相当構成要素に同一符号を付すことにより重複説明を省略する。
以上のように構成されたアダプティブアレーアンテナの動作について、より詳細に説明する。図22はアダプティブアレーアンテナの動作を示すフローチャートである。図22を参照して、第2の可変移相器42の移相量を設定する方法を説明する。まず、図17に示すステップS3001〜S3007における処理を第7実施形態と同様の手順により行なう。続いて、信号強度検出手段7により検出される受信信号の強度P1が第1の信号強度記憶手段141に入力される(ステップS3301)。次に、基地局が、所望の端末局に対して、一定期間送信を中断する旨を通達し、一定期間送信を中断する(ステップS3302)。この状態で、信号強度検出手段7により検出される受信信号の強度P2が第2の信号強度記憶手段142に入力される(ステップS3303〜S3304)。これに基づいて、移相量演算手段331により強度P1とP2との差「P1−P2」を最小にする移相量Φ2が算出される(ステップS3305)。続いて、図17に示すステップS3010〜S3012の処理を第7実施形態と同様の手順で行なう。
上述した第7実施形態に係るアダプティブアレーアンテナにおいては、移相量を算出する際に、基地局から送信された送信信号のみが、端末局により受信されると想定している。したがって、他の干渉局も同時に送信していると、信号強度検出手段3007により検出された受信信号の信号強度は、前記基地局が送信した信号の受信強度に干渉局が送信した信号の受信強度が付加されたものになる。この場合、アンテナ素子間で精度の高い位相合わせができなくなる。
これに対して、第10実施形態に係るアダプティブアレーアンテナにおいては、干渉局が送信した信号が存在しても、移相量を算出する際に、干渉局が送信した信号の端末局における受信強度を検出し、その影響を除くことになるので、アンテナ素子間で精度の高い位相合わせを行なうことができる。
(第11実施形態)
次に、図23を参照しながら、本発明の第11実施形態について説明する。図23は第11実施形態に係るアダプティブアレーアンテナを示す図である。
無線基地局2301と端末局2302が通信を行なう時間帯を考えると、無線基地局2301からみて、端末局2302と同じ方向にある別の無線基地局2303に対してはヌルを向ける拘束条件を加えず、その他の無線基地局のうち比較的基地局2301に近くかつ基地局2301に設置されたアダプティブアレーアンテナの指向性可変な角度範囲にあるもの2304,2305,2306,2307,2308,2309,2310に対しては、ヌルを向ける拘束条件を加えて、ビームを制御するアルゴリズムを適用することを特徴とする。
特に、加入者無線アクセスシステムの場合、他の基地局との通信を行なう端末からの干渉信号は予測不能なランダムなタイミングでバースト的に発生し、多くの場合、伝送シンボル数にして数十シンボルから数百シンボル、時間にして、数マイクロ秒から数十マイクロ秒と非常に短い。従来の制御方法のように、他のセルにある端末からの干渉波とその到来方向を自基地局で逐次検出し、その端末の方向に対してヌルを向けるためのデジタル信号処理等を用いた制御を行なうためには非常に速い信号処理速度を必要とする。これに対して、この第11実施形態に係るアダプティブアレーアンテナの場合、他の基地局の位置情報を予め取得しておくことと、端末が指向性アンテナを用いることとにより干渉波の到来する方向の概略が予め捕捉できることを利用し、自基地局と通信する端末局の方向を最初の発呼の段階で検出するか、あるいは予め登録しておいたデータベースから他の基地局の位置情報を引用することにより、ヌルの拘束方向を速やかに決定することができる。これにより、通信中の制御処理を減らすことができるという利点が得られる。また、前記端末との通信中は、前記端末に割り当てられたスロットに関してはビーム制御の変更を行なう必要が特にないので、干渉波を逐次検出する方法に比べ、通信中の制御のための計算処理量が極めて小さくなるという利点も有する。
なお、一般にTDD(Time Division Duplex)を用いるセルラー形の無線通信方式の場合は、基地局同士のTDMA(Time Division Multiple Access)同期をとらない場合には同一周波数での他の基地局からの送信波が干渉を生じることになるので、干渉波のレベルに応じて基地局からの干渉波の到来方向を検出してこれをアダプティブに抑圧する方法が考えられる。このような方式に対して、第11実施形態に係るアダプティブアレーアンテナにおいては、二重化方式としてFDD(Frequency Division Duplex)を用いる場合にも適用でき、簡易な制御が可能になるという特有の効果を有している。特筆すべきことは、二重化方法としてFDDを用いる無線通信システムの場合、たとえ基地局間の時分割多重の同期をとらない場合であれ、基地局から送信する周波数は基地局受信の干渉の原因とはならないため、従来の干渉防止のためのアルゴリズムでは、他の基地局方向への拘束条件を付加することは無かったことである。FDDを用いるシステムにおいても、端末側に指向性アンテナを用いる場合は、この第11実施形態の制御方法のように他の基地局の方向に拘束条件を用いることにより、個々の干渉端末からの信号を検出する必要がないため、非常に高速な制御が可能である。
なお、図23より明らかなように、基地局2304と2305,2306と2307,2309と2310は、それぞれ基地局2301から見て近い方向に位置している。このような場合には、複数の他の基地局のうち、アダプティブアレーアンテナの利得、距離、該当する基地局への見通し状況などの伝搬条件、などを含めて干渉波のレベルが最も大きくなると推定できる基地局の方向のみを拘束条件に加える、あるいは、複数の基地局の上記の条件を重み付けを加えて平均した方向を拘束条件とする、あるいは、複数の基地局の方向のうち両端のほぼ中央を拘束条件とする、等の方法を用いて拘束条件を減らすことができる。
なお、遠く離れた基地局との間で通信を行なう端末が干渉の原因となる確率は低い。また一般にアンテナ素子数N_elのアレイアンテナが形成できるヌルの数はN_el個で数に限りがある。したがって、拘束条件を設ける方向はN_el個以下とし、必要に応じてアダプティブアンテナの利得、距離、前記当する基地局への見通し状況などの伝播条件などを含めて干渉波のレベルが大きくなると推定できる基地局から優先的に拘束条件を設けることが適当である。したがって、第11実施形態の場合、他の基地局のうちの2311,2312,2313,2314に対しては拘束条件を設けていない。
なお、第11実施形態においては、基地局2301から見て通信中の端末2302の方向に近い方向に位置する他の基地局2303に対してはヌルを向けないようにしている。一方、一般に基地局同士での制御情報のやり取りはされていないので、基地局2301と通信中の端末の位置と基地局2303と通信する端末の位置との関係はランダムになる。たとえば、図24のように、端末1402が通信している間に、基地局2403と端末2416とが通信している間は値端末5216のアンテナ指向性が基地局2401に向いていないので、もちろん、干渉波は問題とならない。また、図25のように、端末2502が通信している間に、たまたま基地局2503と端末2516とが通信している間は、端末2516のアンテナ指向性が基地局2501に向いているので、端末2516の送信信号は干渉波となる。しかし、従来の図38や図39のようにセクターアンテナを用いている場合には、他の基地局(例えば3504,3505,3506,3507,3508,3509,3510)と通信しているうち、指向性アンテナで送信する端末局が基地局3501への干渉となる位置の範囲3515にあるすべての端末からの干渉を受けるのに対し、第11実施形態の場合には基地局2503以外の他の基地局と通信している端末からの干渉を受けないという利点を有する。
なお、他の無線基地局の方向を知る方法については、無線基地局設定時には既存の他の無線基地局との位置関係あるいは他の無線基地局の方向をあらかじめ登録しておくことが考えられる。また、新たな無線基地局が設置されたときには値複数の無線基地局を統括する制御局から、新たな無線基地局の位置情報を制御情報として各無線基地局に通知し、各無線基地局では必要に応じて前記位置情報から自無線基地局との位置関係を計算し,既存の登録に追加することが考えられる。また、新規の無線基地局の設置作業時に、端末用無線局を改造したものなど基地局の受信周波数で新規基地局登録用の制御バーストを送信できる無線局を用いて、既存の基地局に向けて新規基地局登録用の制御バーストを送信し、既存の既知局側では前記制御バーストを新規基地局登録と認識したときに、送信信号とその信号強度から新規基地局の方向や伝搬条件等を検出し、新規基地局を新たに登録するとともに、ヌル拘束条件を設ける際の優先順位やその方向などを算出・登録することが考えられる。なお、ある基地局の方向と通信する端末の方向との差(ここではδθとする)が小さいか否かを判定する方法としては、例えば、以下に挙げる種々の方法が考えられる。例えば、端末の指向性ビーム幅をθ_tとすると、図26に示すように、自基地局2601に対しての干渉となる他の基地局2603と通信する端末局の位置の範囲は、他の基地局2603の無線ゾーン内でかつ基地局2601と基地局2603とを通り直線のうち基地局2603から基地局2601と逆側の線を中心とした角度θ_tに含まれる範囲2615である。この範囲2615を基地局2601から見込む角度θ_iは、基地局2601と基地局2603との距離d_BBと基地局2603の無線ゾーンの半径r_zを用いて、
θ_i=2×arctan{((r_z)×tan((θ_t)/2))/((r_z)+(d_BB)))}
として求められる。したがって、
δθ<θ_iθ×0.5
を、ある基地局の方向と通信を行なう端末の方向との差δθが小さいか否かを判定する基準とすることにより、干渉となる範囲に通信を行なう端末の方向があるかないかを判定できる。
また、上記のθ_iを近似するものを求める方法として、図26に示すように、ほぼ規則的に基地局が配置されている場合には、平均的な対象システムの無線ゾーン半径r_gを用いて、r_z=r_g,d_BB=3×r_gで近似することにより、
θ_i’=2×arctan{tan((θ_t)/2))/4}
をθ_iの近似値として用いることが可能である。基地局間の距離などを考慮する必要が無く、干渉波を除去できるという利点がある。
また、図26より、あきらかに、
θ_t>θ_i
であるので、上記の方法よりさらに簡単な方法として、しきい値として端末の指向性ビーム幅θ_tを用いれば、やや角度が広めになる傾向はあるものの、基地局間の距離や各基地局の無線ゾーンの大きさなどを考慮する必要が無く、干渉波を除去できるという利点がある。
また、すでに述べたように、アダプティブアレーアンテナの素子数が限られている場合には、形成できるヌルの個数が制限される。一般に、素子数N_elのアレイアンテナで形成できるヌルの数はせいぜいN_el個までである。この場合は、自基地局からの距離が近いもの、あるいは、端末局がより多く接続している基地局の方向、あるいは、角度上の方向がお互いに離れたもの、などの基準を用いて、せいぜいN_el個までの方向を選択して、ヌルを向ける拘束条件とすることが考えられる。
また、アンテナ素子の指向性ビーム幅θ_tが比較的狭い場合はブロードサイドアレーアンテナとしてのビームを振ることのできる角度幅もおよそθ_tになる。したがって、この角度から外側の方向にある基地局への方向は、第11実施形態の基地局群の方向から除外することが望ましい。
なお、第11実施形態は、たとえば図27のようなフレーム構成を考えた場合、上がりペイロードウインドウで通信するデータパケットの送受信に基地局アダプティブアレーアンテナを用いる場合について述べたが、下に述べるような方法で、上がり制御ウインドウの制御パケットの送受信に適用することも考えられる。すなわち、上がり制御ウインドウに適用する場合には、たとえば、他の基地局方向関係によりヌル拘束条件を設けるべき方向がn個ある場合に、そのうちの幾つかを除いて作った放射パターンを複数個用意する。このとき、ある方向を取りあげたときに、複数個のパターンのうち少なくとも何れか1個は、その方向にヌルが向いていないような組み合わせとしておく。そして、制御チャネルを送信できる上がり制御ウインドウのなかで、スロット毎に上記複数個のパターンを適宜切り替えることにより、干渉を減少しながら、自セル内の端末からの制御信号をくまなく受信することが可能になる。特に、特有の隣接セルに多くのトラヒックが生じる場合に、この隣接セルの端末からの干渉を避けるために、この隣接セルの基地局にヌルを向けるスロットをやや多めにして、この時間帯の干渉レベルをさげてスループットを上げ、この隣接セルの基地局へヌルを向けないスロットも設けることにより、この方向に存在している端末からの制御信号も受信できるようになる利点がある。
(第12実施形態)
次に、図28を参照しながら本発明の第12実施形態に係るアダプティブアレーアンテナについて説明する。図28は、第12実施形態の構成を示している。図28に示すように、第12実施形態に係るアダプティブアレーアンテナは、複数のアンテナ素子と各アンテナ素子に接続される高周波回路を備え、前記高周波回路内の周波数変換回路に加えるローカル信号の位相を各アンテナ素子用の高周波回路毎に変化させるローカル信号移相回路2811の一部として、ローカル周波数信号と制御信号を入力とする直交変調器2812を用いることを特徴とするアダプティブアレーアンテナにおいて、前記高周波回路内に、各アンテナ素子からの信号の一部を分岐するカプラ2801と、前記カプラ2801からの信号が入力される個別素子用直交復調器2802を有することを特徴とする。
また、ローカル信号移相回路2811の直交変調器2812への制御信号を出力する位相制御信号出力回路と、個別素子用直交復調器2802からの復調信号が入力され、個別素子への入力信号の位相と振幅を検出する複数の個別素子信号センサと、上記複数の個別素子信号センサからの信号を比較しその差を検出する比較回路と、その比較結果に基づいて上記の検出された差およびアンテナ給電線の引き回し長やその他の配線長の差による位相差等を補償するように位相制御信号出力回路の出力信号を制御する補償制御手段と、を移相量・振幅ウェイト演算回路2813の内部に有することも特徴である。
さらに、複数の個別素子からの第2のIF信号のうち、1つの信号レベルをモニターするための第1のRSSI回路(信号のある一定の割合の信号電力を取り出すカプラ2820、取り出された信号を増幅する対数アンプとその出力をディジタル値に変換するADCとで構成するRSSI出力回路2821とを含む)と、合成後の第2のIF信号の信号レベルをモニターする第2のRSSI回路(合成後の信号のある一定の割合の信号電力を取り出すカプラ2822、取り出された信号を増幅する対数アンプとその出力をディジタル値に変換するADCとにより構成されるRSSI出力回路2823とを含む)と、各個別素子の全てのIF信号の相対レベルを可変とするN個の第1のIF可変利得アンプ2816およびN個の第2IF可変利得アンプ2815、個別素子からの信号を合成した後の第2IF信号の信号レベルを可変する合成後可変利得アンプ2825と、第1のRSSI回路と第2のRSSI回路からのRSSI信号に基づき、合成後の出力信号レベルを一定の幅に制御し、かつ、各個別素子用の高周波回路素子が飽和することのないように、第1のIF可変利得アンプ2816と第2のIF可変利得アンプ2815と合成後可変利得アンプ2825とを制御するAGC制御回路2824と、を有することをも特徴としている。なお、上記RSSIは受信信号強度表示(Receive Signal Strength Indication)の略であり、受信している電波信号の強さを数値化したものである。
また、一般に複雑でボーレートに対してオーバーサンプリングを行なうなど高速な回路を必要とするクロック再生回路を削減するために、受信機2819に搭載されているクロック再生回路2828の出力を、必要に応じて受信機2819と合成後出力復調回路2829とウェイト決定用個別素子復調回路2803との内部遅延を補償して、アイの最も開口率の高いタイミングを供給するためのタイミング調整を施すクロックタイミング調整回路2827を経由させた後、合成後出力復調回路2829のADC2826とウェイト決定用個別素子復調回路2803の複数のADC2809に供給されていることも特徴である。
これにより、合成後出力復調回路2829とウェイト決定用個別素子復調回路2803にオーバーサンプリングを適用する必要がなくなり、ADCのサンプリングレートを下げることができるので、消費電力を低減することができるという効果がある。
なお、一般にクロック再生回路の出力周波数はボーレートに略々等しくなるが変調方式等によっては、ADC2826や複数のADC2809に対して比較的小さい倍数のオーバーサンプリングを施す方が好ましい場合もある。この場合はクロック再生回路2828からボーレートの倍数の周波数を出力すれば良い。なお、クロック再生回路、受信機2819に設けられる代わりに合成後出力復調回路2829に設けるか、あるいはウェイト決定用個別素子復調回路2803に設けることも考えられる。
これらの構成により、DBF(Digital Beam Forming)形のアダプティブアンテナの場合、PTMPシステムで検討されている1Mbaud以上といったように伝送レートが速くなると、リアルタイム受信を行なうためには非常に速いディジタル信号処理が必要になるという問題点があったのに対して、本第12実施形態のアダプティブアレーアンテナは、実際の信号の重み付けおよび合成は、ローカル信号位相回路2811、振幅ウェイト重み付け回路2817および高周波加算器2818を用いてリアルタイムで行なうことができるため、非常に高速な伝送レートが用いられてもリアルタイム受信を通常の受信機2819で行なうことができるという利点を有する。
また、アレイアンテナを構成する高周波回路、例えば、増幅器やミキサの位相ひずみの素子偏差、アンテナ給電線の引き回し長やその他の配線長の差による位相差等を補償するための特別な付加回路(たとえば高周波移相器)を設ける必要がなく、ディジタル入力値の補正を行なうだけで良く、低コスト化を図ることができる。また、直交変調器を用いたローカル移相回路に関しても、個々の素子用回路の偏差が生じることがある。この実施形態では、このローカル移相回路を含めた較正をも行なうことが可能である。
図30に上述した第12実施形態に係るアダプティブアレーアンテナにおける位相差や振幅差を補償するための構成例を示す。ウェイト決定用個別素子復調回路2803からの復調信号が入力され、各入力信号の位相と振幅とを比較してこれらの差を検出する位相・振幅比較回路3202と、その比較結果に基づいて検出された上記位相偏差およびアンテナ給電線の引回し長やその他の配線長の差、振幅ウェイト重み付け用可変利得アンプ3208や合成器2818の通過位相特性の差などによる位相偏差を補償するように、位相制御信号出力回路の出力信号を制御する位相偏差補償制御手段3203と、前記位相偏差補償制御手段3203と移相量・振幅ウェイト演算回路3205からの移相量の出力とに基づきローカル信号移相回路の直交変調器への制御信号を出力する移相制御信号出力回路3204と、移相・振幅比較回路3202の比較結果に基づき、検出された振幅偏差およびアンテナ給電線の引き回し長やその他の配線長の差、振幅ウェイト重み付け用可変利得アンプ3208や合成器2818の通過振幅特性などによる振幅偏差を補償するように、AGC・振幅偏差補償回路3201から第2のIF・AGC制御および振幅偏差補償回路2814への出力信号を制御する振幅偏差補償制御手段3206と、を有することを特徴とする。
一般に、アダプティブアレーアンテナの各アンテナ素子毎のRF・IF回路やローカル移相回路等を構成する構成要素は、利得や損失、信号通過に伴う位相特性等にばらつきがある。このばらつきによる各アンテナ素子系の振幅や位相の偏差が移相量や振幅ウェイトの制御による放射パターン特性に誤差を生じる。
これらの各アンテナ素子系の振幅や位相の偏差をアンテナの製造時点や運用中のある程度の時間毎に測定して、その偏差を補償することができれば、放射パターンの誤差を抑えることができることになる。
例えば、製造時点では各アンテナ入力に分配器等により同一位相・同一振幅の信号を入力したり、または電波暗室等においてボアサイト方向の十分離れた位置から電波を送信したりして各アンテナ素子系からの入力の位相偏差および振幅偏差を位相・振幅比較回路3202で検出する。その比較結果は、位相偏差補償制御手段3203と振幅補償制御手段3206に入力され、これらの手段では位相偏差、振幅偏差を補償するための移相量および振幅調整量を求める。求められた位相偏差補償のための移相量と移相量・振幅ウェイト演算回路3205から出力されたアンテナの放射パターンを制御するための移相量とは、位相制御信号出力回路3204によって加算され、ローカル信号移相回路の直交変調器への制御信号に変換され出力される。また、求められた振幅偏差補償のための振幅調整量とAGCを行なうための振幅調整量は、AGC・振幅偏差補償制御回路3201によって加算され、第2のIF・AGC制御および振幅偏差補償回路2814への利得可変のためのディジタル信号に変換されて出力される。これらの制御方法により放射パターンの誤差を抑えることができる。
また、運用中には予め位置が分かっている特定の送信局からの信号をなるべく他の送信局からの信号が到来しないタイミングで受信し、その特定の送信局の方向から予測される各アンテナ素子系からの入力の位相差との偏差および入力の振幅偏差を位相・振幅比較回路3202により検出することにより、上述した方法と同様の方法により補償を行なうことが可能となる。
なお、IF周波数変換器3207の形式によっては、ローカル信号移相回路2811の出力レベルによってはIF周波数変換器3207の変換号の出力レベルを変更できる場合もある。この場合は、振幅補償制御手段3206を用いずに位相偏差補償制御手段3203に相当する場所に設けた位相・振幅偏差補償制御手段に位相・振幅比較回路3202から位相偏差と振幅偏差を取り込み、移相量および振幅調整量を求め、移相制御信号出力回路3204に相当する場所に設けられた移相・振幅制御信号出力回路により、移相量・振幅ウェイト演算回路3205から出力されたアンテナの放射パターンを制御するための移相量と上述したように求められた偏差補償のための移相量とを加算し、かつ、振幅調整量に応じてN個の各直交変調器へのI,Q入力を調整することにより、振幅偏差と位相偏差を補償することも考えられる。また、この例では振幅補償制御手段3206を併用し、振幅偏差の補償量を位相・振幅偏差補償手段と振幅補償制御手段3206とにより分配して制御することも考えられる。
図31に、上記の位相差や振幅差を補償するための他の構成例を示す。この図31が図30と異なる点は、振幅補償制御手段3206の出力が、移相量・振幅ウェイト演算回路3205からの振幅ウェイトと共に振幅制御信号出力回路3303に入力されてここで加算され、振幅ウェイト重み付けおよび振幅偏差補償回路3302の利得可変のためのディジタル信号に変換されて出力されるような構成にあり、図30の動作説明で述べた例と同様の制御により位相および振幅の補償を行なうことができる。
図28に示す構成のアダプティブアレーアンテナが通常の無線通信機と異なる点は、合成後の信号レベルと合成前の信号レベルの両方をモニターする必要があることである。例えば、セル内では所望端末以外からの信号を停止させて移相器で移相量を連続的に変化させてヌル点を探るような場合、合成後の信号レベルのダイナミックレンジは相当大きくなるのに対し、合成前の各アンテナからの信号の強度はほぼ一定のレベルになることが予測される。この場合、合成後の受信信号のレベルが低くなったからといって、合成器に至るまでの可変利得アンプのゲインを上げてしまうと飽和が起きてしまう。したがって、合成前の受信信号のレベルもモニターし、合成器に至る前で飽和が起きない程度に利得を上げて、残りの不足分を合成後の可変利得アンプのゲイン増加で補うことになる。
反対に、ほぼ端末方向を同定できた後、あるいはほぼ最適な重みづけ係数に収束した後に、その方向にビームを向けるような合成を行なった場合には、合成後の信号強度は安定しており変動が少なくなる。一方、合成前の各アンテナからの信号の強度は、複数の端末局からの信号の干渉によりレベルが低下する場合がある。
但し、一般に無線通信の送信信号は線スペクトラムが立たないようにスクランブルが施されているので、ある程度長い時間区間をみれば、情報信号の位相は一様分布に従うと仮定できる。また、加入者無線アクセスシステムのPTMPシステムの場合、各端末局の位置は原則として動かない。したがって、RSSI回路においてシンボルデュレーション(伝送シンボルレートTs[Hz]の逆数)より十分長い時間で平均すれば、複数の送信信号間の位相差はランダムな一様分布になり、干渉によるRSSI出力の揺らぎは影響しないと考えられる。また、この性質は複数のアンテナの内どのアンテナの出力を選んでも、無関係になりたつと考えられる。したがって、複数の素子からのすべての入力電力をモニターすることは必ずしも必要ではなく、図28に示すように、そのうち少なくとも1つの入力をモニターするためのカプラ2820とRSSI回路2821を用いれば、各アンテナの平均入力電力を推定することが可能である。
そして、上記の2つのRSSI回路を併用し、この2つのモニター結果をもとに、3組の可変利得アンプ2816,2815,2825のゲインを調整する。すなわち、AGC制御回路2824では、2つの入力に対して、3つのゲイン調整電圧出力を求めるテーブルを用意することになる。
図29に第12実施形態のアダプティブアレーアンテナを用いる場合で、ある端末に対するAGC電圧の制御方法の一例を示す。なお、図28中のゲインの上げ幅や下げ幅は、通常は所望下限値や所望上限値との差とほぼ同一に設定するのが一般的だが、収束は遅いものの制御を簡略化するために、所望の値の範囲よりも小さい値で予め定めた一定値でステップ的に制御する方法も考えられる。上記のような制御をすることにより、合成後の出力信号レベルを一定の幅に制御し、かつ、各個別素子用の高周波回路素子が飽和することのないように制御することができるという効果が得られる。
なお、合成後の受信器2819には±2dB程度の入力変動マージンを設けるのが通常である。したがって、これよりかなり小さい変動でゲイン調整機能が過敏に反応しゲインがあまり頻繁に変更されることのないよう、ヒステリシスを設けることが考えられる。具体的には、前記RSSI回路の過去の出力値のうち一定数を記憶し、これとの偏差がある一定値を越えた場合にのみAGC制御回路2824から第1のIF可変利得アンプ2816と第2のIF可変利得アンプ2815と合成後可変利得アンプ2825とに対し利得変更命令を出力するように制限を加えると、RSSI回路の雑音成分や入力RF信号の微小なフェージングによるわずかな信号レベルのゆらぎでAGC制御回路2824が過剰に反応して、本来は受信器2819の許容受信電力範囲に収まっているために不要な制御を行なうことを防止することができるという利点を有する。
また、移相器で移相量を連続的に変化させ、そのときの合成後の受信信号の性質を測定するような場合においては、移相量の変化の速さをRSSIの時定数より十分遅くすることが望ましい。RSSIの時定数をある一定値にしてしまうと測定の速度が遅くなってしまう場合が考えら、その場合には、RSSIの時定数を変更するモードを設けることも考えられる。
(第13実施形態)
次に、図32を参照しながら本発明の第13実施形態に係るアダプティブアレーアンテナについて詳細に説明する。
この第13実施形態のアダプティブアレーアンテナは、複数のアンテナ素子11〜1nと各アンテナ素子に接続される高周波回路30と前記複数の高周波回路へ出力を分配する高周波分配回路162を備えており、前記高周波回路30内でアンテナ素子ごとに振幅の重み付けを行なう振幅ウェイト重み付け回路31と、位相の重みづけを行なうローカル信号移相回路32とを備え、個別素子への分配前の第2のIF信号の信号レベルを可変とする分配前可変利得アンプ33と、N個の各個別素子の第2のIF信号の相対レベルを可変できるN個の第2のIF可変利得アンプ34と、上記振幅ウェイト重み付け回路31の出力から推定される前記アダプティブアレーアンテナからの指向性利得を勘案した実効放射電力が定められた値を越えないように制御し、かつ、各個別素子用の高周波回路素子が飽和することのないように、分配前可変利得アンプ33とN個の第2のIF可変利得アンプ34とを制御する利得制御回路35と、を有することを特徴とする。
図33は第13実施形態のアダプティブアレーアンテナを用いる場合で、ある端末に対するAGC電圧の制御方法の一例を示している。なお、図32の分配後のN個の第2のIF可変利得アンプ34を、各アンテナ素子の振幅ウェイト重み付けを行なう回路として併用することも考えられる。この場合、図31中の所望ERP値に対応する分配前可変利得アンプとN個の第2のIF可変利得アンプの利得設定値テーブルに書かれている利得制御電圧は、振幅ウェイトとして用いる利得の可変範囲の上限と下限を考慮しても、NFの不足や飽和による歪が生じないような利得となるような制御電圧であることが必要である。もし、この条件が同時に満たせないような場合は、所望ERP値に対して、利得設定値テーブルの他に、許容される振幅ウェイトとしての利得の可変範囲の上限と下限もテーブルとして準備し、NFの不足や飽和による歪の防止が重要な場合は、振幅ウェイトの決定時にこのテーブルを参照し、振幅ウェイトが上限と下限との間に収まるように変更することが考えられる。
以上述べた方法により、所定の値以下の実効放射電力値と各個別素子用の高周波回路の低歪みを同時に実現することができるという効果が得られる。また、送信電力の制御幅を非常に多くする必要がある場合には、一つの可変利得アンプのみで大きな制御幅が必要になるため、ゲインを大きくするための入出力アイソレーションをとるのが困難になったり可変利得アンプに減衰機能を持たせるため構成が複雑になったりすることもある。このような問題点も本実施例のように分配前後に可変利得要素を分割することにより回避することができるという利点も有する。
また、この第13実施形態では、振幅ウェイト重み付け回路31とN個の第2のIF可変利得アンプ34とをそれぞれ別個に設けたが、この2つを単一の回路で実現することも考えられる。この場合は、必要な送信電力制御幅をとるための回路規模がさらに小さくでき、アイソレーションや減衰機能などの既述の問題点も解決することができるという利点もある。
(第14実施形態)
次に、本発明の第14実施形態に係るアダプティブアレーアンテナについて、図34ないし図36を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は多数の実施形態を用いて発明の詳細な内容につき説明しているため、第14実施形態に用いられる図面中の符号が他の実施形態の図面で用いた符号と重複する場合もあるが、図34ないし図36に使用されている符号はあくまでも第14実施形態に限局されて用いられているものとする。
図34において、符号11〜1nはアンテナ素子、21〜2nはアンテナ素子11〜1nにより受信された受信信号を後述する実数ウェイト制御手段7により各々設定された実数ウェイトにより重み付けする複数の実数重み付け手段であり、31〜3nはこれら重み付けされた受信信号の強度を個別素子信号強度として各々検出する複数の個別素子信号強度検出手段である。また、符号4は実数重み付け手段21〜2nにより重み付けされた受信信号を合成する合成器であり、符号5はこの合成器4により合成された受信信号を復調処理する復調器であり、符号6は合成器5により合成された受信信号の強度を合成信号強度として検出する信号強度検出手段である。
符号7は、個別素子信号強度検出手段31〜3nにより各々検出された個別素子信号強度および合成信号強度検出手段6により検出された合成信号強度に基づいて、新たに設定する実数ウェイトを算出し、これら算出した実数ウェイトを各々重み付け手段21〜2nに設定する処理を複数サイクル繰り返す実数ウェイト制御手段である。
前記実数ウェイト制御手段7は、前記複数の実数重み付け手段21〜2nに設定される実数ウェイトの初期値W_1(0)〜W_n(0)(nはアンテナ素子数)を記憶する複数の初期値記憶手段711〜71nと、この実数ウェイト制御手段7が初めて動作するときに、これらW_1(0)〜W_n(0)を複数の実数重み付け手段21〜2nの各々に設定すべき実数ウェイトW_1(k)〜W_n(k)(kは実数ウェイト更新の回数)として記憶する複数の実数ウェイト記憶手段721〜72nと、これらの複数の実数ウェイト記憶手段721〜72nに記憶されたW_1(k)〜W_n(k)に基づいて前記複数の実数重み付け手段21〜2nの実数ウェイトとしてW_i(k)または−W_i(k)(1≦i≦n)の何れか一方を各々設定する複数の実数ウェイト設定手段731〜73nと、前記複数の実数重み付け手段21〜2nに各々W_1(k)〜W_n(k)が設定された状態で前記合成信号強度検出手段6により検出された合成信号強度Py(k)が入力されて、同様に前記複数の実数重み付け手段21〜2nにより各々W_1(k)〜W_n(k)が設定された状態で前記複数の個別素子信号強度検出手段31〜3nにより各々検出された個別素子信号強度Px_1(k)〜Pxn(k)が各々入力され、さらに前記複数の実数重み付け手段21〜2nに各々W_1(k),W_2(k),・・・,W_i−1(k),W_i(k),W_i+1(k),・・・,W_n(k)(1≦i≦n)が設定された状態で前記合成信号強度検出手段6により各々検出された合成信号強度Py_i(k)(1≦i≦n)が各々入力されたときに、新たな実数ウェイトW_i(k+1)=W_i(k)+a*[Px_i(k)+{Py(k)−Py_i(k)}/4]/W_i(k)(aは定数)および(1≦i≦n)を各々算出して前記複数の実数ウェイト記憶手段721〜72nのW_1(k)〜W_n(k)に入力する実数ウェイト演算手段741〜74nと、を更に備えている。
また、図34において、前記実数ウェイト制御手段7は、その動作を所定の条件に基づいて停止させる更新停止手段75を備えている。
実数重み付け手段21〜2nは例えば図35に示される用に構成されている。図35において、実数重み付け手段21(2n)は、実数ウェイトW_i(k)の絶対値を算出する絶対値検出手段211と、W_i(k)の符号を算出する符号検出手段212と、絶対値検出手段211により算出された絶対値に基づいて受信信号X_i(t)を増幅する可変ゲインアンプ213と、符号検出手段212により算出された符号に基づいてこの増幅された受信信号の符号を制御する1ビット移相器214と、を備えている。
このように実数ウェイトの重み付けは、振幅、位相ウェイトの重み付けで必要となる多ビット移相器を用いないため、簡単な回路構成により実現することができる。ただし、振幅、位相ウェイトの重み付けをする回路構成に本発明を適用することも可能である。
以上のように構成されたアダプティブアレーアンテナの動作を、図36を用いて説明する。図36はアダプティブアレーアンテナの動作を説明するフローチャートである。
まず、初期値記憶手段711により記憶された実数ウェイトW_1(0)が実数ウェイト記憶手段721に入力される。これに基づいて、実数ウェイト記憶手段721によりW_1(0)が下式のようにW_1(0)に記憶される。
W1(k)=W1(0)
続いて、初期値記憶手段712〜71nにより記憶された実数ウェイトの初期値W_2(0)〜W_n(0)についても同様に、実数ウェイト記憶手段722〜72nに記憶される(ステップS1〜S4)。
続いて、実数ウェイト記憶手段721によって記憶された実数ウェイトの初期値W_1(k)が実数ウェイト設定手段731に入力される。この実数ウェイトW_1(k)が実数ウェイト設定手段731により実数重み付け手段21に設定される。
続いて実数ウェイト記憶手段722〜72nにより記憶された実数ウェイトの初期値W_2(k)〜W_n(k)についても同様に、実数ウェイト設定手段732〜73nに入力され、実数重み付け手段22〜2nに設定される(ステップS5)。
実数ウェイトの初期値W_1(0)〜W_n(0)は、例えば、所望波方向の指向性利得を最大にするように設定すればよい。
時刻tの時、アンテナ素子11〜1nにより受信された受信信号をX_1(t)〜X_n(t)とする。これらの信号は実数重み付け手段21〜2nにより重み付けされる。これら重み付けされた受信信号は個別素子信号強度検出手段31〜3nに入力される。実数重み付け手段21〜2nに設定されている実数ウェイトをW_1(k)〜W_n(k)とすると、個別素子信号強度検出手段31〜3nにより各々検出される個別素子信号強度Px_1(k)〜Px_n(k)は、
と表される。但し、i:1<=i<=n,E[・]:期待値演算である。
続いて、実数重み付け手段21〜2nにより重み付けされた受信信号は合成器4により合成される。この合成された受信信号は合成信号強度検出手段6に入力される。これに基づいて、合成信号強度検出手段6により検出される合成信号強度Py(k)は、
と表される。但し、
*:複数共役である。
この第14実施形態の特徴は、合成信号強度検出手段6により検出される合成信号強度の、各々実数重み付け手段21〜2nに設定されている実数ウェイトに対する微係数を、個別素子信号強度検出手段31〜3nにより検出される個別素子信号強度および合成信号強度検出手段6により検出される合成信号強度を用いて求めることができる点である。この微係数を用いて、最急降下法に基づく実数ウェイト制御を行なう。
以下に、ウェイト制御の手順を説明する。
まず、更新停止手段75により実数ウェイト更新の回数がk=1に設定される(ステップS6)。
続いて、実数重み付け手段21〜2nに各々W_(k)〜W_n(k)が設定され状態で合成信号強度検出手段6により検出された合成信号強度Py(k)が実数ウェイト演算手段741〜74nに入力される(ステップS7)。
続いて、実数重み付け手段21〜2nに各々W_1(k)〜W_n(k)が設定され状態で個別素子信号強度検出手段31により検出された個別素子信号強度Px_1(k)が実数ウェイト演算手段741に入力される。
続いて、実数重み付け手段21〜2nに各々W_1(k)が設定され状態で個別素子信号強度検出手段32〜3nにより検出された個別素子信号強度Px_2(k)〜Px_n(k)についても同様に、実数ウェイト演算手段741〜74nに入力される(ステップS8〜S11)。
続いて、実数ウェイト設定手段731〜73nにより実数重み付け手段21〜2nに各々−W_1(k),W_2(k),…,W_n(k)
が設定された状態で合成信号強度検出手段6により各々検出された合成信号強度Py_1(k)が実数ウェイト演算手段741に入力される。
続いて、実数ウェイト設定手段731〜73nにより実数重み付け手段21〜2nに各々W_1(k),−W_2(k),…,W_n(k)
が設定された状態で合成信号強度検出手段6により各々検出された合成信号強度Py_2(k)が実数ウェイト演算手段742に入力される。
続いて、合成信号強度Py_3(k)〜Py_n(k)についても同様に、実数ウェイト演算手段743〜74nに入力される(ステップS12〜S16)。
これらの入力に基づいて、実数重み付け手段21〜2nに各々設定する新たな実数ウェイトW_1(k+1)〜W_n(k+1)が実数ウェイト演算手段741〜74nにより算出される。
まず、合成信号強度Py(k)、個別素子信号強度Px_1(k)、および合成信号強度Py_1(k)に基づいて、実数重み付け手段21に設定する新たな実数ウェイトW_1(k+1)が実数ウェイト演算手段741により次のように算出される。
W1(k+1)=W1(k)+a{PX1(k)+(PY(k)−PY1(k))/4}/W1(k)
但し、a:実数である。
続いて、合成信号強度Py(k)、個別素子信号強度Px_2(k)〜Px_n(k)、および合成信号強度Py_2(k)〜Py_n(k)についても同様に、実数ウェイト演算手段742〜74nにより算出される(ステップS17〜S20)。
続いて、実数ウェイト演算手段741により算出された新たな実数ウェイトW_1(k+1)が実数ウェイト記憶手段721に入力される。これに基づいて、実数ウェイト記憶手段721によりW_1(k+1)が下式のようにW_1(k)記憶される。
W1(k)=W1(k+1)
続いて、実数ウェイト演算手段742〜74nにより算出された新たな実数ウェイトW_2(k+1)〜W_n(k+1)についても同様に、実数ウェイト記憶手段722〜72nに記憶される(ステップS21〜S24)。
続いて実数ウェイト記憶手段721により記憶された新たな実数ウェイトW_1(k)が実数ウェイト設定手段731に入力される。この実数ウェイトW_1(k)が実数ウェイト設定手段731により実数重み付け手段21に設定される。
続いて実数ウェイト記憶手段722〜72nにより記憶された新たな実数ウェイトW_2(k)〜W_n(k)についても同様に、実数ウェイト設定手段732〜73nに入力され、実数重み付け手段22〜2nに設定される(ステップS25)。
次に、更新停止手段75により実数ウェイト更新の回数kがKより小さいか否かが判断されkがKより小さければkを1増加し、ステップS7ないしS25の処理を繰り返し、kがK以上であれば、処理を終了する(ステップS26〜S27)。
更新停止手段75を設けることで、実数ウェイト制御手段7が動作し続けることを回避できる。
ここでは、実数ウェイト更新の繰り返し回数をカウントすることで処理を終了しているが、この場合、実数ウェイト制御手段7の動作を所定時間内に終了することができる。また、W_i(k+1)−W_i(k)(1<=i<=n)が所定の値以下になったら処理を終了するという方法も考えられる。この場合、いわゆる適応アルゴリズムが収束した状態で実数ウェイト制御手段7の動作を終了することができる。
(Px_i(k)+(Py(k)−Py_i(k))/4)/W_i(k)は
と表される。但し、i:1<=i<=nを満たす整数であり、Re{・}:実部である。
一方、合成信号強度Py(k)の実数ウェイトW_i(k)に関する微係数δPy(k)/δW_i(k)は、
と表される。
以上より、δPy(k)/δW_i(k)=2(Px_i(k)+(Py(k)−Py_i(k))/4)W_i(k)が成り立つ。したがって、ステップS18の処理は、
と等価の処理を行なっていることになる。
実数aが負の値のときは、アダプティブアレーアンテナの合成信号強度を小さくするように実数重み付け手段21〜2nの実数ウェイトが更新されて、最終的にはδPy(k)/δW_i(k)=0(1<=i<=n)となる実数ウェイトが設定されるので、干渉波が存在する場合は、これを抑圧することができる。ただし、全ての実数ウェイトが0になることを避けるために1個以上の実数ウェイトの初期値からの変化量を制限する必要がある。
このような実数ウェイト制御を、例えば、基地局の受信用アダプティブアレーアンテナに適用する場合は、通信を要求してきた端末局に通信チャネルを与える前に、実数重み付け手段の実数ウェイトを制御して、同一チャネル干渉を抑圧する実数ウェイトを算出し、その後、前記通信チャネルを前記端末局に与え、前記同一チャネル干渉を抑圧する実数ウェイトを実数重み付け手段21〜2nに設定して前記端末局が送信する信号を受信する方法が考えられる。
所望波の到来方向が予め分かっている場合は、所望波方向の指向性アンテナまたはアレーアンテナであってもよい。指向性アンテナである場合は、各素子により受信される信号を到来方向により制限することができる。また、アレーアンテナである場合は、例えば、直交ビームのように適切な指向性をもたせることができる。
以上のように、本発明の第14実施形態によれば、個別素子信号強度検出手段31〜3nにより検出される複数の個別素子信号強度および合成信号強度検出手段6により検出される合成信号強度を用いて、評価関数の実数ウェイトに対する微係数を求めることにより最急降下法に基づいた実数ウェイト制御を行なうことができるため、従来技術のように、各アンテナ素子の復調信号を用いる場合に比べて、簡単な回路構成で実現することができる。