JP4028755B2 - マイクロアレイチップ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロアレイチップ、遺伝子検出方法、及びその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
遺伝情報の解析、例えば遺伝子の突然変異の解析、疾病の予知や診断、ウイルスのタイピング等を行うための、核酸解析技術が近年大幅に進歩している。例えば、数百個乃至数万個のDNAプローブを格子状に2次元的に配列させ、試料溶液中の核酸をこのアレイ上でハイブリダイズさせることで、複数の遺伝子の情報を一括して検出するDNAマイクロアレイと呼ばれるシステムが普及し始めている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
マイクロアレイシステムは、多種類のプローブがマイクロアレイチップ上に配置され、プローブのそれぞれに対応する多種類の試料を解析にかけるものであるために、非常に多くの情報が含まれている。従ってこのシステムの利用に当たっては、プローブの配列についての情報、チップ上でプローブが配置されているスポット同士の位置関係の情報、各スポットにおける解析結果の情報、そして解析結果と各スポットの対応付けの情報等を正確に管理することが必須となる。マイクロアレイシステム自体が非常に多くの種類の試料を解析するものであるため、この情報管理は非常に煩雑であるが、マイクロアレイシステムで取り扱う試料の種類が多くなればなるほど、更に取り扱うマイクロアレイチップの数が多くなればなるほど増加し、これらの情報の管理は非常に複雑なものとなってくる。
これに加えて、マイクロアレイシステムを使用した解析において、多数の試料の前処理や、反応容器間での試料の移し替えを行うことが必要な場合には、それぞれの操作毎にも情報の修正・再記録等が必要となる。従って情報管理が更に複雑なものとなってしまう。
【0004】
このような複雑な操作が要求されているのみならず、操作中に何らかの原因により試料の入れ替わりが生じてしまい、試験者がこれを検知できないという問題が発生する可能性もある。何らかの原因で試料の入れ替わりが起こり、それを試験者が検知できない場合には、誤った情報に基づいて解析がなされてしまい、偽陽性・偽陰性の問題が生じる。即ち、実際の対応付けとは異なる対応付けである、予め試験者によって登録されていたマイクロアレイチップと試料との対応づけに基づいて解析結果がでてしまう。この場合には、マイクロアレイシステムを利用した解析結果の信頼性が著しく低下することとなり、非常に好ましくない。また、仮にそのような入れ替わりを検知できたとしても、情報の修正や再記録には手間がかかり、マイクロアレイシステムを利用した解析の所要時間が長期化するという問題が生じる。
【0005】
更に試料の混入の問題が生じる可能性もある。試料の調製中に何らかの理由により、ある試料が他の試料に混入した場合には、試験者がこれを検知できることが望ましいが、明らかな操作ミスの場合以外は、この問題は本質的に検知できない。
【0006】
また、試料の入れ替わりや混入の問題が生じたことが認知されている場合には、正確な解析結果を得るために再解析を行うことが必要になる。再解析用に、新規のマイクロアレイチップ、又は同一のマイクロアレイチップ上の別個の領域を用意し、別個の識別情報を記録する必要がある。そしてこの新規のマイクロアレイチップ又は別個の領域における、試料と解析結果との対応づけを、試験者が登録し直す必要がある。従って、更なる情報管理が必要となり、操作が煩雑となってしまう。
【0007】
従来技術においてはそもそも、マイクロアレイチップに付された識別情報に基づいて試料と解析結果とを対応づけて処理するために、試験者が試験結果の解析作業毎に、それぞれのマイクロアレイチップについて情報管理作業を行わなくてはならず、情報管理が煩雑である。具体的には、特開2001-133464号公報に開示されるようにして、バーコードや磁気テープ等をマイクロアレイチップ上に貼付する作業が必要であり、そして各マイクロアレイチップの情報を管理するたびに、バーコードや磁気テープの記録・読取装置が必要になる。これは、マイクロアレイシステムの肥大化を招き、コストやスペースの点で問題となる。更に、バーコードや磁気テープ自体が試料の解析中に剥がれたり汚損したりした場合には、情報管理ができなくなってしまうという問題が生じる。
【0008】
このようにマイクロアレイシステムには情報管理が煩雑であるという問題が存在しているが、これ以外に、マイクロアレイシステムで解析を行う試料の調製をPCRで行うことに起因する定量性の問題が存在している。即ち、PCR法においては、たとえば二種類の核酸分子をそれぞれ別個に同一条件で増幅させる場合であっても、増幅対象である核酸分子の配列次第では、その増幅量に差が生じることがある。これは、増幅にかける核酸同士がクロスハイブリダイゼーションを起こしてしまう確率が配列により異なり(クロスハイブリダイゼーションが起りやすい配列と起りにくい配列とが存在していて)、核酸の増幅反応が必ずしも均等には起こらないためである。そのため、配列が多様である種々の生体由来核酸分子をマイクロアレイシステムで解析する場合には、上述のごとく配列によってはクロスハイブリダイゼーションの起こりやすさに違いが存在し、従って種々の生体由来核酸分子のいずれについても均等に増幅することは必ずしも保証されないのである。
【0009】
従って本発明は、遺伝子解析に伴う情報処理を正確且つ効率良く行え、更に定量性の向上したマイクロアレイチップ、遺伝子検出方法及びその装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記の問題点を念頭に、鋭意研究した結果、標的核酸分子を人為的な第1タグ配列に符号化(変換)し、更に検出する遺伝子に対応する識別符号を表す第2タグ配列の組合せを利用すれば、従来技術の問題が解決され、遺伝子解析に伴う情報管理の効率性が著しく向上し、併せて定量性のよい画期的なシステムができ上がることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明のマイクロアレイチップは、検出する遺伝子を符号化した第1タグ配列に対して相補的な配列を有するプローブが固定化された第一プローブ領域と、検出する遺伝子に対応する識別符号を表す第2タグ配列に対して相補的な配列を有するプローブが固定化された第二プローブ領域とを有するものとなっている。
【0012】
また、本発明のマイクロアレイチップにおいては、前記第1タグ配列及び前記第2タグ配列がともに、正規直交化配列であることが好ましい。
【0013】
本発明は更に、上記のマイクロアレイチップを用いる遺伝子検出方法を提供するが、これは検出する遺伝子を符号化した第1タグ配列と、検出する遺伝子に対応する識別符号を表す1又は2以上の第2タグ配列とを混合する工程;当該第1タグ配列及び第2タグ配列を増幅させる工程;及び当該増幅された第1タグ配列及び第2タグ配列の混合物を、本発明のマイクロアレイチップ上の、前記第一プローブ領域及び前記第二プローブ領域の双方で検出する工程;を含むものとなっている。
【0014】
本発明はまた、遺伝子検出装置を提供するものであるが、これは、核酸試料をマイクロアレイチップ上でプローブとハイブリダイズさせるためのマイクロアレイチップを備えた遺伝子検出装置において、検出する遺伝子を符号化した第1タグ配列と、検出する遺伝子に付与した識別符号を表す1又は2以上の第2タグ配列とを混合する混合部を更に有するものとなっている。本発明の遺伝子検出装置の好ましい態様においては、更に前記の第1タグ配列及び第2タグ配列の混合物を増幅させる増幅部を有することが望ましい。
(遺伝子検出装置においては、第1タグ配列と第2タグ配列を混合する部分以外は、従来のものと同等であると判断しました。また、画像解析システムに特徴を出せば、検査効率の向上が望めると考えましたが、この場合には、画像解析システムに関する詳細な記載が必要になります)
【0015】
【発明の実施の形態】
図1乃至図3は、本発明の一態様である、正規直交化配列を用いて構成された本発明のマイクロアレイチップ、及びその利用方法(即ち遺伝子検出方法)を示すものである。本発明のマイクロアレイチップの利用方法をエンコード(符号化)工程(図1)、増幅工程(図2)、及び検出工程(図3)にわけて説明する。
【0016】
まず正規直交化配列とは、核酸分子の配列であって、そのTm値が均一であるもの、即ちTm値が一定範囲内に揃うように設計された配列であって、核酸分子自身が分子内(intramolecular)で構造化して、相補的な配列とのハイブリッド形成を阻害することのない配列であり、尚且つこれに相補的な塩基配列以外とは安定したハイブリッドを形成しない塩基配列を意味する。正規直交化配列は、PCRにおいて増幅させると、たとえば上述のクロスハイブリダイゼーションのような問題に影響されずに、当該正規直交化配列を有する核酸分子の初期量に応じた量の核酸分子が定量的に増幅される性質を有している。
【0017】
図1に示されるエンコード工程においては、試料核酸分子(標的核酸分子10)としてcDNAを用い、このcDNA中に含まれる遺伝子の特定部分を、正規直交化配列の含まれる分子に変換する操作が行われている。この操作は、増幅時の定量性が必ずしも保証されない試料核酸分子を、増幅時の定量性が必ず保証される正規直交化配列を有する分子に変換するものであり、この正規直交化配列を標的核酸分子のかわりに後の解析で使用することにより、マイクロアレイチップ上でのハイブリダイゼーション時にクロスハイブリダイゼーションが生じず、システム全体の定量性が有意に向上する。
【0018】
本発明の実施においては、標的核酸分子10の配列中において、その核酸分子特有の配列(即ちこれに相補的な配列が他の遺伝子中には実質的に存在しないような配列)を有する領域1を選択することが、複合体5の形成における配列特異性を高める上で望ましい。次にアンカープローブ2とアダプタープローブ3とを用意する(図1a)。このアンカープローブ2は、標的核酸分子10の領域1中の一部(3’末端側)に対して相補的な配列を、その3’末端側に有し、当該相補配列とは反対側の末端(5’末端側)にリンカー配列を介してビオチン(B)と結合させたものである。一方、アダプタープローブ3は、アンカープローブ2の3’末端に引き続いて、領域1の残りの部分(5’側)に相補的な配列を、その5’側に有し、その3’側には適宜リンカー配列を介して、二本鎖の人為的な第1タグ配列であるDCN配列4(DCN:DNA Coded Number)が連結されている。この第1タグ配列はセンス鎖及びアンチセンス(r:リバース)鎖からなり、センス鎖はその5’末端側にSD(Starting Digit)配列を、3’末端側にED(Ending Digit)配列を有し、その間に、当該標的核酸分子と1:1の対応関係にあり、尚且つ当該DCN固有のCD(Coding Digit)配列を有している。DCNのリバース鎖は、センス鎖のED、CD、及びSDにそれぞれ相補的なrED、rCD、及びrSDを5’末端側からこの順に有している。標的核酸分子10、アンカープローブ2、及びアダプタープローブ3を、領域1の配列に適した条件下でそれぞれハイブリダイズして、複合体5を形成させる。
【0019】
ハイブリッドが安定に形成された後、リガーゼを用いてアンカープローブ2とアダプタープローブ3とを連結させて、エンコード(コード化、即ち標的核酸分子から人為的な第1タグ配列への変換)を終了させる(図1b)。この段階では、標的核酸分子10中に特有の配列がハイブリダイズに使用されているので、複合体5の形成が非常に特異性の高いものとなっている。更にアンカープローブ2とアダプタープローブ3との連結に、相補鎖形成に依存する酵素を使用していることからも、複合体5の形成が非常に特異的に行われることを保証するものとなっている。このように特異性の高い方式で、標的核酸分子から第1タグ配列への変換が行われている。
【0020】
次に、標的核酸分子10、アンカープローブ2、アダプタープローブ3からなる複合体5を、アンカープローブの5’末端に結合しているビオチンを利用して反応系から分離する。即ち、例えば磁気ビーズにストレプトアビジンを結合しておいたものを、当該複合体と混合して、ビオチン-ストレプトアビジン複合体を形成させ、磁気ビーズに磁場をかけてこの複合体を反応系から分離する。
【0021】
次に、複合体5より、標的核酸分子10を除去する。具体的には、標的核酸分子10の領域1と、アンカープローブ2及びアダプタープローブ3との間の相補鎖を、第1タグ配列の二重鎖が完全には解離しないような条件で解離させて、これらを分離する。従って、第1タグ配列の二重鎖のTmは、領域1における二重鎖のTmよりも顕著に高いことが必要である。
【0022】
上記の段階においては、アンカープローブ2とアダプタープローブ3とが連結されたものが得られるが、これを第1タグ配列の二重鎖の解離を許容する温度、即ち第1タグ配列のTmを十分にこえる温度にまで上昇させて、第1タグ配列のセンス鎖とリバース鎖とを分離する。ビオチンを結合した磁気ビーズを再び上述のごとく利用すれば、第1タグ配列のセンス鎖とリバース鎖を分離できる。このように分離した第1タグ配列のセンス鎖及びリバース鎖のうち、リバース鎖を以後の工程に供する。
【0023】
図2は、図1で標的核酸分子10から変換された第1タグ配列のリバース鎖を、第2タグ配列とともにPCRにより増幅するための、増幅工程を示している。この工程においては、通常のPCR法により第1タグ配列の増幅が行われている。第1タグ配列は、上述のようにSD配列、CD配列、及びED配列からなるが、ここで各試料に固有の配列はCD配列のみであり、SD配列及びED配列はすべての第1タグ配列に共通のものとすることが好ましい。即ち、複数の試料核酸があった場合に、それぞれの第1タグ配列は、CD配列の部分において異なっており、SD配列及びED配列は、何れの試料についても同じである。各試料について共通のSD配列及びED配列を使用するのは、何れの第1タグ配列(CD配列)についてもSD配列又はED配列に基づく、共通の配列を有するプライマーを利用してPCRにより増幅することを可能にするためである。尚、ここで増幅される第1タグ配列はリバース鎖となっており、r第1タグ配列は正確には、5’末端から3’末端にかけて、rED、rCD、rSD配列の順に並んでいる。
【0024】
この増幅工程においてr第1タグ配列を増幅する際には、検出する遺伝子に対応する識別符号を表すための第2タグ配列の組合せを混合する。図2aにおいては簡略化のため、第2タグ配列は1種類のみを試料中に混合しているが、複数の第2タグ配列の組合せを用いれば、多数の核酸試料に識別符号を付与することが可能になり、これについては以下に詳細に記載する。第2タグ配列は、後の工程においてマイクロアレイチップ上に固定化されている第2タグ配列用プローブと相補的な配列になっており、この図においては、リバース鎖、即ちr第2タグ配列として示されている。r第2タグ配列は、5’末端から3’末端にかけて、rED、rTag、rSD配列の順に並んでいて(図2a)、これは第1タグ配列と同様の方法により調製することができる。
【0025】
r第1タグ配列と、r第2タグ配列との混合物を、PCRによる増幅に供する。その際のプライマーとしては、5’末端にビオチンが結合し、rSD配列に相補的なSD配列を有するものと、5’末端に標識(図2においてはCy3蛍光標識)を有し、rEDと同一のrED配列を有するものを利用する(図2b)。このプライマーセットを利用して増幅を行うと、5’末端にビオチンを結合しているフォワード鎖の第1タグ配列及びフォワード鎖の第2タグ配列、並びに5’にCy3蛍光標識が結合しているリバース鎖の第1タグ配列及びリバース鎖の第2タグ配列が得られる(図2c及び図3a)。これらの混合物を、ストレプトアビジンに結合している磁気ビーズと混合して、ビオチン-ストレプトアビジン複合体を形成させ、尚且つこの混合系を二重鎖の解離を許容する温度にまで上昇させて(ホットウォッシュ)、センス鎖とリバース鎖とを分離する(図3b)。センス鎖はいずれもビオチンを介して磁気ビーズ側に回収され、リバース鎖と分離される。分離されたリバース鎖には、標的核酸分子中に固有な領域に対して1:1の関係で特異的に対応させたrCD配列を有し、且つ5’末端にCy3蛍光標識が結合しているもの、そして標的核酸分子に人為的に付与した識別符号を表す第2タグ配列(この図では一種類のrTag)を有し、且つ5’末端にCy3蛍光標識が結合されたものとが含まれている。この混合物を、本発明のマイクロアレイチップでの遺伝子解析に利用する(図3c)。
【0026】
図3cの右パネルは、CD配列に対して相補的なプローブが固定化された領域と、第2タグ配列に対して相補的なプローブが固定化された領域とを有する、本発明のマイクロアレイチップにおいて、核酸試料が当該プローブとハイブリッドを形成している様子を示している(検出工程)。マイクロアレイチップ上において、CD配列に相補的なプローブが固定化されている領域と、第2タグ配列に相補的なプローブが固定化されている領域とをいかに配置するかは、適宜決定されるものであるが、例えば図4及び図5に示されるような配置が考えられる。尚、本発明のマイクロアレイチップの製造においては、固定化するプローブ及びその固定位置(配置)以外のものは、通常のマイクロアレイチップの製造と本質的に同じものとすることができる。
【0027】
図4に示される配置においては、第2タグ配列に相補的なプローブを固定化する識別符号領域13が、チップの長辺方向の一端に設けられていて、CD配列に相補的なプローブを固定化する検査領域11が識別符号領域の下方に設けられている。一方、図5に示される配置においては、検査領域11をチップ中央に配置し、その四方に識別符号領域を配置している。これらの配置は、検査結果を画像解析システムにより解析するような場合には、一定のものにする必要があるが、プローブの配置は本来、任意に設計できるものでありこれにより本発明の効果が影響をうけるものではない。
【0028】
このように構成されたマイクロアレイチップを用いて、上述のように遺伝子のエンコード、増幅、検出を行えば、マイクロアレイチップの各スポットの位置情報と、検出系によるハイブリッドの検出とを併せることにより、遺伝子の検出が間接的に行えると同時に、検出された遺伝子がどの遺伝子であったのかを識別することが可能になる。これは、実験中に試料及び/又はマイクロアレイの入れ替えがあったとしても、その入れ替わった情報に基づいて対応付けられた状態で検出結果が得られるので、検出の正確性が著しく向上する。以上は、第1タグ配列及び第2タグ配列がともに正規直交化配列であるとして説明を行ったが、第1タグ配列及び第2タグ配列が共に正規直交化配列でない場合も、原理的には本発明の実施が可能である。しかし、正規直交化配列又はこれに準じる配列を利用することが本発明においては好ましいことはいうまでもない。
【0029】
本発明は、上記のマイクロアレイチップを利用し、本発明の遺伝子検出方法に好適に用いられる遺伝子検出装置も提供する。この遺伝子検出装置は、マイクロアレイチップを利用した、ハイブリダイゼーション部及び検出部を有する通常の遺伝子検出装置において、更に混合部を含むものとなっている。混合部は、核酸試料の混合に適するものであれば特に限定されるものではなく、適宜、溶液の分注システムや撹拌システムと連結していることが望ましい。本発明の遺伝子検出装置は、更に増幅部を有することが好ましいが、増幅部は、第1タグ配列及び第2タグ配列をPCR等の方法により増幅できるものであれば特に限定されるものではなく、適宜プライマーや酵素等を分注するためのシステムと連結していることが望ましい。ハイブリダイゼーション部は、マイクロアレイチップを収容し、当該マイクロアレイチップ上でハイブリダイゼーション反応を制御するためのシステム、具体的には検出する配列のTm値を挟んだ温度領域において、温度を制御できるシステムと連結されている。また、検出部は、検出するシグナルに応じたシステム、例えば検出系として配列に結合されている蛍光色素を検出する場合には、蛍光顕微鏡ベースのシステムと連結している。
【0030】
図6は、本発明の遺伝子検出装置の一態様を示すものである。この図に示される遺伝子検出装置200は、試料の識別符号と解析結果を管理するID・解析結果管理部210、解析を行う解析部220、及びマイクロアレイチップの信号(蛍光シグナル等)を読み取る信号読取部230を有する。ID・解析結果管理部210は、試料にID(識別符号)を割り当てるID割当部211、IDと解析結果を対応づけて管理するID・解析結果管理部212を有する。解析部220はIDとして機能する第2タグ配列及び試料(第1タグ配列)を混合する混合部221、第1タグ配列及び第2タグ配列を増幅する増幅部222、増幅された第1タグ配列及び第2タグ配列をマイクロアレイチップ上でハイブリダイゼーシヨンを行うハイブリダイゼーション部223、第2タグ配列を混合部221に供給する夕グ供給部224、第1タグ配列を混合部221に供給する試料供給部225、及びマイクロアレイチップをハイブリダイゼーション部223に供給するチップ供給部226を備える。信号読取部230は、マイクロアレイチップ上の検査領域11(図4及び5を参照)の信号を読み取る解析結果読取部231と、ID領域13の信号を読み取るID読取部232とを有する。
【0031】
この遺伝子検出装置200は以下のように動作する。ID・解析結果管理部210のID割当部211は、解析対象である試料について予め用意された情報(検体名、試料の数、解析項目など)に基づき、各試料に識別符号であるIDを割り当て、ID情報を解析部220の混合部221に送る。混合部221はID情報に基づいて、IDとして機能するr第2タグ配列の組合せを夕グ供給部224から得る。試料調製部(図示せず)で作られた試料(発明の実施の態様の欄の、エンコード工程及び増幅工程を経て得られたもの)が試料供給部225から混合部221に供給される。混合部221は当該試料とr夕グ配列の組合せを混合し、混合された試料を増幅部222に送る。増幅部222は第1タグ配列及び第2タグ配列の増幅を行い、増幅後に試料をハイブリダイゼーション部223に送る。ハイブリダイゼーション部223は、チップ供給部226から供給されたマイクロアレイチップ上の所定のスポットに試料を移し、ハイブリダイゼーションを行い、ハイプリダイゼーション後にマイクロアレイチップを信号読取部230に送る。信号読取部230の解析結果読取部231は、マイクロアレイチップ上の解析結果領域11の信号を読み取り、これを解析結果情報としてID・解析結果管理部210のID・解析結果管理部212に送る。ID読取部232はID領域13の信号を読み取り、ID情報としてID・解析結果管理部210のID・解析結果管理部212に送る。ID・解析結果管理部212は、試料のIDと解析結果との対応づけを行う。解析結果が再解析対象にあたる場合は、再解析対象の試料のID情報を解析部220の混合部221に再び送り、上述した動作が再度行われる。図6に示される装置においては、信号続取部230に解析結果読取部231及びID読取部232を備えるが、解析結果とIDの読み取りを共通の読取部で行ってもよい。
【0032】
上述の実施態様の遺伝子検出装置200によれば、マイクロアレイチップに付されたバーコード等のIDに依存せずに、試料と解析結果の間の対応づけができるので、遺伝子解析をより正確且つ迅速に行うことができる。また、試験者がマイクロアレイチップのIDを管理しなくても、試料と検出結果の間の対応づけが試料の検出自体により可能となるので、解析情報の管理が簡便になり、試験者の作業を減らすことができる。また、どの試料に対しても同じマイクロアレイチップを使用できるので、マイクロアレイチップの管理が簡便になり、試験者の作業を減らすとともに、マイクロアレイチップの製造コストを抑えることが可能になる。また、マイクロアレイチップのIDの記録や読み取りをバーコード等を利用して行うが不要となるので、ID記録装置やID読取装置が不要となり、検出システムを小型化することができる。
【0033】
【実施例】
上記の[発明の実施の形態]の欄では、簡略化のために第2タグ配列を一種類に限定して記載したが、以下においては、複数の第2タグ配列の組合せにより、核酸試料分子に識別符号を付与する方法、及びコンタミネーションの有無の検知方法、並びに分注時のコンタミネーションの有無の検知方法及び本発明の遺伝子検出方法の検出効率の検査方法について記載する。なお、以下に示す実施例では、1スポットを1ビットに割り当てるようにして、シグナルとしての発光の発生の有無を各スポット毎に二進法で表す(例えば発光があれば「1」、発光してなければ「0」とする)ようにしている。このようにビット化する方法を用いれば、多量の情報をタグ配列を用いて各種情報を記録することが可能となる。例えば二進法によるビット化では、タグ配列としてn個用意すれば、2n通りの情報が記録可能となる。
【0034】
(実施例1)この実施例では、N個のタグ配列のうち、n個が必ずシグナルを発生するというマーキングの仕方であり、n/Nが1/2以下であれば発光しているスポットのチェック・サムをとることで必要な評価を実行できるようにしている。5ビットの二進数で試料の識別を行う方法、及びコンタミネーションの有無の検知方法
10個の試料のIDを5ビットの二進数で表現した場合を説明する。rTag8a-rTag8eのそれぞれの使用・不使用を、1ビット-5ビットの各ビットでの1(使用)又は0(不使用)に割り当てる。その際、5つのビット中、2つのビットが1となる組(即ち、5C2)を利用してIDを規定する(表1参照)。
【0035】
【表1】
【0036】
試料にNo.5というIDが付与されている試料の場合、試料には、ID夕グ群としてrTag8cとrTag8bとが含まれているはずである。そのためこの試料は、本発明のマイクロアレイチップ上のID領域において、rTag8cとrTag8bとに対するプローブが固定化されているスポットにおいて信号(蛍光等)を発する。例えば、ID領域に、左から右の順に、rTag8e、rTag8d、rTag8c、rTag8b、rTag8aに対するプローブが固定化されている場合に、これらのスポットに、この試料が含まれる検体をそれぞれスポットしてハイブリダイゼーションを行わせると、左から(発光せず、発光せず、発光、発光、発光せず)の形式で結果が得られる。これは00110のビットを意味し、表1に示される対応関係から、試料5であることがわかる。すなわち試料への第2タグ配列の混合を確実に行いさえすれば、検出結果から、検出された試料がどの試料であるかがおのずと判明するため、データの管理が著しく簡単になる。
【0037】
また、この場合に試料中へ2種類を越える第2タグ配列が混入した場合には、ID領域において、2を越えるスポットが発光することから、混入の事実が判明する。例えばNo.1の試料とNo.2の試料が混合した場合は00111が示され、No.4とNo.5が混合した場合は11100が示される。
【0038】
本実施例では、5種類のrTag配列を利用したが、試料の数に応じて用いるrTag配列の数や組み合わせを変えることができる。n種類(個)のタグのうち、n/2個(nが偶数の場合)のタグの組合せで情報を表示する場合には、nCn/2種類(個)の情報を表示できる。同様に、n種類のタグのうち、n/2-1/2個(nが奇数の場合)のタグの組合せで情報を表示する場合には、nCn/2-1/2種類(個)の情報を表示できる。例えば4種類のタグの内の2種類のタグの組合せで情報を表示する場合には、4C2=6であり、6通りの情報を表示できることになり、また10種類のタグの内の5種類のタグの組合せを利用する場合には、10C5=252であり、252通りの情報を表示できる。更に、各スポットの表示に使用する蛍光色素の種類を変更するなどして多色化すれば、表示できる情報量を更に増大させることが可能である。
【0039】
(実施例2)
分注時のコンタミネーションの有無の検知方法
実施例1においては、一つの試料に対して二つのビットを使用したが、試料の分注工程注にコンタミネーションが生じた場合に、どの試料がどの試料に混入したかを明確に検出するために、9種類の第2タグ配列を用いて行う例を示す。
【0040】
この実施例においては、図7に示されるように、96穴のマイクロアレイチップにおいて9つで一組の試料の組合せを利用して、試料の分注工程を行う。具体的には、例えば図中の4-Dから4F、5Dから5F、そして6Dから6Fの9つのスポットのそれぞれに9種類の異なる第2タグ配列(表2参照)を、試料にID付するための配列とともに混合して分注操作を行う。
【0041】
【表2】
【0042】
この分注操作中に、例えば隣り合う穴の間で試料の混入が生じた場合には、本発明のマイクロアレイチップのID領域におけるハイブリダイゼーションの結果によりその事実が判明する。
【0043】
例えば5-Eの穴に含まれる試料(この穴には混入検出用のrTag8eが含まれている)に、隣の6-Dの試料(この穴には混入検出用のrTag8gが含まれている)が混入した場合、この混入の事実は、マイクロアレイチップのID領域において001010000のビットにより示される。この実施例では各混入検出用のタグはそれぞれ1ビットで表したので、2ビット以上が検出された場合にはそれは試料の混入を意味し、そればかりか、どのような配列のビットであるかをマイクロアレイチップ上のID領域から検知することができる。
【0044】
本実施例では、96穴のプレートにおいて9つで一組の試料の組合せを用いて実施したが、プレート上の配置、用いる第2タグ配列の数や組合せを適宜変更することにより、様々な用途に第2タグ配列を利用することが可能である。例えばコストの面からは、全ての穴に混入検知用のタグを導入せずに、予め選択したいくつかの穴にのみ第2タグ配列を導入することにより、混入の事実のおおよその推定に用いることも可能である。
【0045】
(実施例3)
増幅効率の推定
本実施例においては、第2タグ配列を定量性の確認のための内部標準として利用する。
【0046】
標的核酸分子の特定の領域1、アンカープローブ2、及びアダプタープローブ3からなる複合体5を、磁気ビーズで分離する際に、第2タグ配列を含む複合体5を混合する。この混合物からr第1タグ配列及びr第2タグ配列を分離し、これを増幅、ハイブリダイゼーション、そして信号検出を行い、第1タグ配列及び第2タグ配列の信号強度を比較する。第1タグ配列と、第2タグ配列は、共に同一系内で同一条件増幅されてきているので、第2タグ配列の増幅量との相対的比較により、第1タグ配列(及びこれと1:1に対応した標的核酸分子)の量の推定を行うことができる。例えば第1タグ配列に第2タグ配列を混合する際に、第2タグ配列を100μl中に10-18mol混合していた場合に、一連の増幅操作等が終了した後に、第2タグ配列の信号強度と第1タグ配列の信号強度がほぼ同じであった場合には、第1タグ配列(及びこれに1:1で対応する標的核酸分子)の量が、略100fmol程度存在(発現)していたことがわかる。
【0047】
【発明の効果】
本発明のマイクロアレイチップ、遺伝子検出方法、及びその装置は、遺伝子解析に伴う情報処理を正確且つ効率良く行うことを可能にし、更に定量性も向上させる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この図は、標的核酸分子を第1タグ配列にエンコードする工程を示す。
【図2】 この図は、r第1タグ配列を、r第2タグ配列とともに増幅する工程を示す。
【図3】 この図は、エンコード及び増幅された第1タグ配列及び第2タグ配列を検出する工程を示す。
【図4】 この図は、本発明のマイクロアレイチップの一態様を示す図である。
【図5】 この図は、本発明のマイクロアレイチップの別の態様を示す図である。
【図6】 この図は、本発明の遺伝子検出装置の一態様を示す図である。
【図7】 この図は、後から分注時のコンタミネーションの事実を検知するための方法における分注操作時の、96穴のプレートの穴の利用配置を示す図である。
【符号の説明】
1・・・標的核酸分子(検出する遺伝子)、 4・・・第1タグ配列、 5・・・第2タグ配列、10・・・標的核酸分子、11・・・第一プローブ領域(検査領域)、 13・・・第二プローブ領域(識別符号領域)、200・・・遺伝子解析装置、 221・・・混合部、 222・・・増幅部
Claims (5)
- 検出する遺伝子を符号化した第1タグ配列に対して相補的な配列を有するプローブが固定化された第一プローブ領域と、
検出する遺伝子に対応する識別符号を表す第2タグ配列に対して相補的な配列を有するプローブが固定化された第二プローブ領域とを有するマイクロアレイチップ。 - 前記第1タグ配列及び前記第2タグ配列がともに、正規直交化配列である、請求項1に記載のマイクロアレイチップ。
- 検出する遺伝子を符号化した第1タグ配列と、検出する遺伝子に対応する識別符号を表す1又は2以上の第2タグ配列とを混合する工程;
当該第1タグ配列及び第2タグ配列を増幅させる工程;及び
当該増幅された第1タグ配列及び第2タグ配列の混合物を、請求項1又は2に記載のマイクロアレイチップ上の、前記第一プローブ領域及び前記第二プローブ領域の双方で検出する工程;
を含む、遺伝子検出方法。 - 核酸試料をマイクロアレイチップ上でプローブとハイブリダイズさせるためのマイクロアレイチップを備えた遺伝子検出装置において、
試料にID(識別符号)を割当てるID管理部、及びIDと解析結果を対応づけて管理するID・解析結果管理部を含み、
検出する遺伝子を符号化した第1タグ配列と、検出する遺伝子に対応する識別符号を表す1又は2以上の第2タグ配列とを混合する混合部を更に有する、遺伝子検出装置。 - 更に、前記の第1タグ配列及び第2タグ配列の混合物を増幅させる増幅部を有する、請求項4に記載の遺伝子検出装置。
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