JP3963506B2 - リポソーム点眼剤 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、哺乳類動物細胞で発現可能な遺伝子DNA を組み込んだ発現用ベクターを内包したリポソームを含有する点眼剤の形態の医薬用組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
遺伝的な網膜ジストロフィーは、網膜内に発現される遺伝子の変異によって起きることが知られている (Bird, A. C., Am. J. Ophthalmol., 119, pp.543-562, 1995) 。網膜ジストロフィーに対しては、進行性の網膜変性を阻止して網膜の機能を回復させために、網膜細胞内に正常な遺伝子を移入する手法が有効な治療及び予防方法の一つとなりうる可能性がある。
【0003】
現在のところ、網膜細胞内に遺伝子を移入するために利用可能な方法は、外科的な方法に限られている。例えば、外科的に切開した強膜開窓を通じて網膜下腔内に遺伝子を導入する方法が提案されている(Bennett, J. et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 35, pp.2535-2542, 1994; 及び Li, T. et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 35, pp.2543-2549, 1994) 。しかしながら、この方法は、網膜下腔に遺伝子を導入するために血管が充満した脈絡膜に開孔する必要があり、出血を惹起するリスクが大きい。
【0004】
別の外科的方法として、毛様体の毛様体輪に対応する前方強膜の領域を外側から開孔し、硝子体手術で行われるように硝子体に針を侵入させて網膜細胞内に遺伝子を注入する方法も考えられるが、眼球に炎症を引き起こし視力をさらに減退させる可能性がある。このような理由から、網膜ジストロフィーの治療のために、外科的処置に替えて網膜細胞内に正常な遺伝子を移入する方法の開発が求められている。このような方法が開発されれば、網膜色素変性症(網膜ジストロフィー)などの遺伝子の異常に起因する眼疾患の治療及び予防に極めて有用であることが期待される(遺伝子異常に起因する眼疾患については、総説として、梶原、あたらしい眼科, 12, pp.239-250, 1995; 及び Bird, A.C., American Journal of Ophthalmology, 119, pp.543-562, 1995 などを参照のこと)。
【0005】
一方、リポソームを用いて遺伝子を細胞内に移入する方法が報告されている (例えば、総説として、Hug, P. and Sleight, R.G., Biochemica et Biophysica Acta, 1097, pp.1-17, 1991 などを参照)。例えば、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ) プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド (DOTMA)(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 84, pp.7413-7417, 1987)を含むリポソームを媒体として遺伝子DNA をエアゾール又は気道への吸入により投与することにより、該遺伝子を気道上皮に移入できることが知られている (Yoshimura, K. et al., Nucleic Acids Res., 20, pp.3233-3240, 1992; Stribling, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 89, pp.11277-11281, 1992; Hyde, S.C. et al., Nature, 362, pp.250-255, 1993; lton, E.W.F.W. et al., Nature Genet., 5, pp.135-142, 1993; 及び Caplan, N.J. et al., Nature Med., 1, pp.39-46, 1995) 。
【0006】
また、5:3:2 の比率のホスファチジルコリン:コレステロール:ホスファチジルエタノールアミンから成るリポソームを局所投与することにより、毛嚢上皮に選択的に遺伝子を移入できることが最近報告されている (Li, L. et al., Nature Med. 1, 705-706, 1995)。しかしながら、これらの方法では、上皮組織より深部にある組織への遺伝子移入は達成されていない。また、点眼剤の形態で眼内投与されたリポソームによって眼細胞、とりわけ網膜細胞内に遺伝子を移入した例は知られていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、外科的処置を要せずに点眼により所望の遺伝子を眼細胞内に移入することのできる医薬用組成物を提供することにある。より具体的には、哺乳類動物細胞で発現可能な目的遺伝子DNA を組み込んだ発現ベクターを含み、点眼により眼細胞、特に網膜細胞内に該遺伝子DNA を移入及び発現させることができる医薬用組成物を提供することが本発明の課題である。また、本発明の別の課題は、遺伝子の異常に起因する眼疾患の予防及び/又は治療のために有用な医薬用組成物を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意努力した結果、遺伝子DNA を組み込んだ発現用ベクターを特定のリポソームに内包して点眼剤の形態で眼内投与すると、該遺伝子DNA を、角膜上皮細胞、結膜上皮細胞、網膜細胞などの眼細胞内に効率よく移入することができ、該細胞内で移入遺伝子DNA が発現することを見いだした。また、本発明者らは、このような点眼剤の形態の組成物が眼細胞、特に網膜神経節細胞に対して炎症を惹起せず、安全性の高い医薬として使用できることを見いだした。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0009】
すなわち本発明は、哺乳類動物細胞内で発現可能な遺伝子DNA を組み込んだ発現用ベクターを内包したリポソームを含有する点眼剤の形態の医薬用組成物を提供するものである。この発明の好ましい態様によれば、該遺伝子DNA が眼疾患の原因となる異常遺伝子DNA に対応する正常遺伝子DNA である上記医薬用組成物;遺伝子の異常に起因する眼疾患の治療及び/又は予防に用いる上記医薬用組成物;眼疾患が眼底疾患である上記医薬用組成物;並びに、リポソームがTMAGリポソーム又はDC- コレステロールリポソームである上記医薬用組成物が提供される。また、本発明の別の態様によれば、上記の医薬用組成物を眼内投与する工程を含む、遺伝子の異常に起因する眼疾患の予防及び/又は治療方法が提供される。
【0010】
【発明の実施の態様】
本発明の医薬用組成物は、哺乳類動物細胞で発現可能な遺伝子DNA を組み込んだ発現用ベクターを内包したリポソームを含有する組成物であり、一般的には、上記のリポソームを含む水性懸濁液又はその凍結乾燥品などの形態の点眼剤として提供され、遺伝子の異常に起因する眼疾患、すなわち遺伝的眼疾患の予防及び/又は治療に用いられることを特徴としている。
【0011】
本発明の医薬の適用対象となる遺伝子の異常に起因する眼疾患としては、例えば、網膜色素変性症(網膜ジストロフィー)、ノリエ (Norrie) 病等の網膜変性症、緑内障、角膜内皮変性症などを挙げることができる。もっとも、本発明の医薬の適用対症となる疾患はこれらに限定されることはなく、遺伝子の異常が関与する眼疾患であって、眼細胞内に遺伝子を移入することにより予防及び/又は治療が可能なものであればいかなる眼疾患であってもよい。上記の眼疾患のうち、網膜色素変性症(網膜ジストロフィー)は本発明の医薬の特に好適な適用対象である。なお、本発明の医薬の適用種はヒトに限定されることはなく、ヒトを含む哺乳類動物、例えば、サル、ウシ、ウマ、イヌ、ネコなどの眼疾患も本発明の医薬の適用対象である。
【0012】
ベクターに組み込む遺伝子DNA としては、眼疾患の原因となる異常遺伝子DNA に対応する正常遺伝子DNA を用いることができ、遺伝子の異常に起因する眼疾患の治療及び/又は予防を可能にする遺伝子DNA であれば特に限定されることはない。異常遺伝子が関与する眼底疾患については、原因遺伝子及びその表現型として、例えば、ロドプシン(常染色体優性遺伝型網膜色素変性症、常染色体劣性遺伝型網膜色素変性症、及び常染色体優性遺伝型先天停止性夜盲)、β-PDE(常染色体劣性遺伝型網膜色素変性症)、ペリフェリン/RDS(常染色体優性遺伝型網膜色素変性症、常染色体優性遺伝型白点状網膜炎、常染色体優性遺伝型黄斑部変性症、及び二遺伝子性網膜色素変性症)、ROM1(二遺伝子性網膜色素変性症)、OAT(脳回転状網脈絡膜萎縮)、及び Norrie 遺伝子(Norrie病)などが知られている(梶原、あたらしい眼科, 12, pp.239-250, 1995)。これらの異常遺伝子に対応する正常遺伝子DNA は、特に好適に使用可能な遺伝子DNA である。
【0013】
上記の遺伝子DNA を組み込むためのベクターとしては、ヒトを含む哺乳類動物細胞内に上記の遺伝子DNA を移入することができ、かつ、上記の遺伝子DNA を該細胞内で発現させることができるものであれば特に限定されない。このようなベクターは種々知られており、当業者は本発明の医薬の適用目的や遺伝子DNA の種類などの条件に応じて適宜のものを選択することが可能である(例えば、総説として Biochimica et Biophysica Acta, 1097, pp.1-17, 1991 などを参照のこと)。また、上記の遺伝子DNA を調製する方法、及び上記の遺伝子DNA をベクターに組み込んで発現用ベクターを調製する方法は、当業者に周知の方法を適宜利用可能である(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manuarl, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989 などを参照のこと)。
【0014】
上記の発現用ベクターを内包するためのリポソームの調製に用いられる脂質二重膜の構成成分は、例えば、卵黄レシチン、大豆レシチンなどの天然レチシン類;ジラウリルホスファチジルコリン(DLPC)、ジパルミトイルフォスファチジルコリン(DPPC)、ジミリストイルフォスファチジルコリン(DMPC)、ジステアロイルフォスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC)、ジオレイルフォスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジミリストイルフォスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール(DPPG)、及びジミリストイルフォスファチジン酸(DMPA)などのリン脂質類; N-(アルファートリメチルアンモニオアセチル)-ジドデシル-D−グルタメート(TMAG)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、3-ベータ[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル] コレステロール(DC-コレステロール) などの陽性荷電脂質類;並びにスフィンゴ糖脂質及びグリセロ糖脂質などの糖脂質類からなる群から選択することができる。
【0015】
これらの構成成分は単独で用いてもよいが、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記の構成成分をコレステロール及びその誘導体などの非極性脂質類と組み合わせて用いてもよく、さらに、これらの成分に加えてステアリルアミン、ジセチルホスフェートなどの荷電性物質;ポリエチレングリコール等の水溶性高分子部分を有するリン脂質誘導体;及び/又はマレイミド基を有するリン脂質誘導体などを用いてもよい。これらの構成成分により形成されるリポソームの構造は特に限定されず、ユニラメラリポソーム又はマルチラメラリポソームのいずれであってもよい。また、リポソーム二重膜の外側にモノクローナル抗体や核酸プローブなどを固定化してもよい。
【0016】
リポソームとして、例えば、(1) TMAG、DLPC、及び DOPE を含む TMAG リポソーム(例えば、Koshizaka, T. et al., J. Clin. Biochem. Nutr., 7, pp.185-192, 1989に記載されたもの); (2) DDAB 及び DOPE を含む DDAB リポソーム(例えば、Rose, J. et al., Biotechniques, 10, pp.520-525, 1991に記載されたもの) 、又は (3) DC-コレステロール及び DOPE を含む DC-コレステロールリポソーム(例えば、Gao, X. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 179, pp.280-285, 1991 に記載されたもの)などは、本発明の組成物を構成するリポソームとして好適である。動物種によっては、 TMAG リポソーム又は DC-コレステロールリポソームを用いると角膜上皮細胞及び網膜細胞内に遺伝子DNA を移入することができ、一方、 DDAB リポソームでは角膜上皮細胞などの上皮細胞に限局した遺伝子DNA の移入が達成できる。従って、本発明の医薬の適用対象となる疾患の種類に応じて適宜リポソームの構成成分を選択することにより、所望の眼細胞内に遺伝子DNA を導入することが可能である。
【0017】
上記の構成成分からリポソームを調製する方法は特に限定されず、当業者に利用可能な適宜の方法に従って製造することが可能である。例えば、ガラス壁に付着させた脂質薄膜に水溶液を加えて機械的振盪を加えてマルチラメラリポソーム(MLV) を調製する方法;超音波処理法、エタノール注入法、若しくはフレンチプレス法によりスモールユニラメラリポソーム(SUV) を調製する方法;又は、界面活性剤除去法、逆相蒸発法(砂本ら著「リポソーム」、南江堂、1988) 、若しくはMLV を均一ポア径を有するメンブランを加圧して押し出すイクストゥルージョン法からラージユニラメラリポソーム(LUV) を調製する方法などを採用することができる(総説として、例えば、Liposome Technology, Vol.1, 2nd Edition, CRC Press, Inc. 1993 年を参照のこと)。
【0018】
上記の発現用ベクターの水溶液をリポソーム内部に内包させる方法は特に限定されず、当業者に利用可能なものであればいかなる方法を採用してもよい(総説として、例えば、Biochimica et Biophysica Acta, 1097, pp.1-17, 1991の III. Encapsulation of DNA by liposomes を参照のこと)。リポソームに内包される発現用ベクターの量は、用いるベクターの種類や医薬の適用対象などの種々の条件によって適宜選択されるべきであり、特に限定されることはない。
【0019】
本発明の医薬用組成物は、遺伝子DNA を組み込んだ発現用ベクターを内包したリポソームを均一に懸濁させた水性点眼剤の形態として、一般的に用いられる水性点眼剤の特性を満足するように調製される。例えば、涙液と同等の浸透圧を有し、ほぼ中性 (pH 6〜8 程度)のpHを有するように無菌的に調製することができる。従って、本発明の組成物の調製方法は、当業者に周知のリポソーム懸濁液の調製方法、及び水性点眼剤の汎用の製造方法に従って行うことができ、その製造方法は特に限定されることはない。製造方法の一例を挙げると、発現ベクターを内包するリポソームを注射用蒸留水に懸濁して、適宜の製剤用添加物を添加・混合するか、各種の製剤用添加物を添加・混合した水溶液の該リポソームを均一に懸濁することにより調製することができる。また、必要に応じてリポソームの水性懸濁液を凍結乾燥してもよい。このようにして得られる凍結乾燥組成物も本発明の範囲に包含されるが、この形態の組成物は注射用蒸留水の添加により点眼剤の形態の水性組成物を用時調製することができ、一般的には保存安定性にも優れるという特徴を有している。
【0020】
本発明の医薬組成物の調製に用いられる製剤用添加物としては、例えば、緩衝剤(リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、アミノ酸など);等張化剤(ソルビトール、グルコース、マンニトールなどの糖類、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコール類、又は塩化ナトリウムなどの塩類など);防腐剤(塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどの第四級アンモニウム塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチルなどのパラオキシ安息香酸エステル類、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ソルビン酸、およびそれらの塩、チメロサール、クロロブタノールなど);及び粘稠剤(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースなど)を挙げることができる。
【0021】
本発明の医薬用組成物には、上記の成分のほか、抗生物質、合成抗菌剤、又はステロイド系若しくは非ステロイド系抗炎症剤などの他の医薬の有効成分の1種又は2種以上を含んでいてもよい。本発明の医薬組成物の投与量、投与期間などの投与計画は特に限定されないが、ベクターの種類、リポソーム内部への発現用ベクターの内包量、治療・予防の対象となる眼疾患の種類及び症状、並びに本発明医薬の投与後の症状改善度など種々の条件を勘案して適宜選択されることが望ましい。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されることはない。
【0022】
【実施例】
実施例1
発現用ベクターとして、ベータ−ガラクトシダーゼ遺伝子を組み込んだ組換えプラスミドベクター p-CMV- ベータを用い、この組み換えプラスミドベクターを内包するリポソームの水性懸濁液を調製してラットの眼球表面に点眼剤として局所投与した。DC- コレステロール〔3-ベータ[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル] コレステロール〕はコレステロールクロロホルメートとジメチルエチレンジアミンとを用いて文献記載の方法に従って合成した (Biochem. Biophys. Res. Commun., 179, pp.280-285, 1991)。
【0023】
リポソームとして、(1) 2:1:4 のモル比の TMAG (N-(アルファ -トリメチルアンモニオアセチル)-ジドデシル -D-グルタメート) 、DLPC (ジラウロイルホスファチジルコリン) 及び DOPE(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン) からなる TMAG リポソーム(Koshizaka, T. et al., J. Clin. Biochem. Nutr., 7, pp.185-192, 1989); (2) 1:12.5 のモル比の DDAB(ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド) 及び DOPE からなる DDAB リポソーム(Rose, J. et al., Biotechniques, 10, pp.520-525, 1991) 、並びに(3) 1:2 のモル比の DC-コレステロール及び DOPE からなる DC-コレステロールリポソーム(Gao, X. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 179, pp.280-285, 1991)の3種類の異なるリポソームを以下のように調製した。
【0024】
TMAGリポソーム:10 ml フラスコ中で 10 mM TMAG 10μl, 5 mM DLPC 40 μl 及び 20 mM DOPE 10μl の混合液中の有機溶媒を留去し、減圧下で 30 分間乾燥して脂質膜を調製した。20μg のプラスミドDNA p-CMV-ベータ (MacGregor, G.R. et al., Nucleic Acids Res., 17, 2365, 1989 ; Clontech Laboratories Inc., CA, USAより購入) 及び 1 mM EDTAを含む Tris バッファー (TEバッファー)250 μl を加えて激しく振盪してマルチラメラリポソームの水性懸濁液を調製した。
DDABリポソーム:1.6 mM DDAB 100 μl 及び 20 mM DOPE 20μl の混合液中の有機溶媒を留去し、減圧下で乾燥して脂質膜を調製した。20μg のプラスミドDNA p-CMV-ベータを含む TE バッファー 250μl を加えて激しく振蘯してマルチラメラリポソームの水性懸濁液を調製した。
DC- コレステロールリポソーム:10 mM DC- コレステロール 30 μl 及び 20 mM DOPE 10μl の混合液中の有機溶媒を留去し、減圧下で乾燥して脂質膜を調製した。20μg のプラスミドDNA p-CMV-ベータを含む TE バッファー 250μl を加えて激しく振蘯してマルチラメラリポソームの水性懸濁液を調製した。
【0025】
酵素反応の測定は以下のように行った。上記の各リポソーム懸濁液 (10μl)をラット眼球に点眼した1日後、1週間後、及び1ヶ月後に眼球を摘出し、 4% パラホルムアルデヒドを含むリン酸緩衝食塩水(PBS) を用いて 4℃で1時間固定し、 PBSで数回洗浄した後、10 mM K3Fe(CN)6 、10 mM K4Fe(CN)6 、2 mM MgCl2、0.01% デオキシコール酸ナトリウム、及び 0.02% NP40 を含む PBSに溶解した 2 mg/ml X-galに一晩反応させた。反応後、眼球を PBSで洗浄して、 3.7% ホルムアルデヒドを含むPBS で固定し、段階的に濃度を上げたアルコールで脱水して、パラフィン中に包埋した。切片標本を取り、ヘマトキシリン−エオシンで染色した。ヘマトキシリン−エオシン対比染色により、遺伝子DNA が発現している部分は青色に染色された。
【0026】
免疫組織化学的染色は以下のようにして行った。パラフィン切片標本をキシレンを用いて脱パラフィン処理し、段階的に濃度を下げたアルコールで再水和した。内生パーオキシダーゼをメタノール中 0.3% 過酸化水素で 30 分間不活性化した後、切片標本を正常ウマ血清でブロックし、大腸菌ベータ−ガラクトシダーゼに対するモノクローナル抗体 (Chemicon International Inc., Temecula, CA, USA) と 30 分間インキュベートし、0.02% Tween-20を含む PBSで 10 分間洗浄した。次いで、切片標本をマウスIgG に対するビオチニル化二次抗体と共にインキュベートし、洗浄後、アビジン (avidin) 及びビオチニル化ホースラディッシュパーオキシダーゼ巨大分子複合体(ベクタステイン・エリート ABC試薬 : Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)と共にインキュベートして洗浄した。切片標本を 50 mM Tris バッファー (pH 7.2) 中で 0.05%ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド及び 0.01%過酸化水素により発色させ、メチルグリーンで対比染色した。
【0027】
この結果、 TMAG リポソーム及び DC-コレステロールリポソームについては、点眼の1日後、1週間後、及び1ヶ月後のいずれの時点においても網膜神経節細胞において上記遺伝子DNA の発現が認められた。図1は遺伝子DNA が移入された眼組織をヘマトキシリン−エオシン対比染色した結果を示す写真である。点眼の1日後に TMAG リポソーム(図1-a)及び DC-コレステロールリポソーム(図1-b 及びc)により網膜神経節細胞(矢印)中に移入された遺伝子DNA の選択的な発現が認められた。これら2種類のリポソームは角膜上皮細胞にも遺伝子DNA を移入しており、移入された遺伝子DNA の発現が認められた(TMAG: 図1-d, DC-コレステロール: 図1-e)。一方、DDABリポソームについては、上記遺伝子DNA の網膜細胞内での発現は認められなかったが、結膜上皮細胞内での移入遺伝子DNA の発現が認められた(図1-f)。これらの組織を除いては、他の領域に遺伝子発現は認められなかった。なお、図中のバーの長さは 20 μm を示している。
【0028】
遺伝子発現レベルは点眼後1日から1週間後までは安定して維持されたが、1ヶ月後には相対的に減少していた。網膜及び眼球表面における移入遺伝子DNA の発現を、大腸菌ベータ−ガラクトシダーゼに対するモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学的染色により観察したところ、ベータ−ガラクトシダーゼ遺伝子の発現は全領域ではなく、網膜神経節細胞、結膜、及び角膜細胞の部分にのみ認められた。図2は遺伝子DNA が移入された眼組織をモノクローナル抗体を用いて免疫組織化学的染色した結果を示す写真である。 DC-コレステロールリポソームによって網膜神経節細胞内に遺伝子DNA が移入され発現していることが認められる(図2-a)。また、TMAGリポソームにより遺伝子DNA が移入された結膜上皮細胞内で遺伝子発現が認められる(図2-b)。図中のバーの長さは 20 μm を示している。
【0029】
対照として行ったプラスミドDNA のみ又はプラスミドDNA を含まないリポソームの点眼では、遺伝子の発現は認められなかった。炎症性細胞は網膜を含む眼球内組織全体において存在せず、内生ベータ−ガラクトシダーゼ活性はこれらの対照において網膜中には全く検出されなかった。
【0030】
【表1】
【0031】
【発明の効果】
本発明の医薬用組成物を用いると、外科的処置を要せずに、点眼により所望の遺伝子を眼細胞内に移入することができるので、遺伝子の異常に起因する眼疾患の予防及び/又は治療のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 遺伝子DNA が移入された眼組織をヘマトキシリン−エオシン対比染色した結果を示す写真である。図中、(a) はTMAGリポソーム点眼の1日後の網膜神経節細胞を示し;(b) 及び(c) はDC- コレステロールリポソーム点眼の1日後の網膜神経節細胞を示し;(d) 及び(e) は、それぞれTMAGリポソーム及びDC- コレステロール点眼後の角膜上皮細胞を示し;(f) はDDABリポソーム点眼後の結膜上皮細胞を示す。図中のバーの長さは 20 μm を示し、発現が認められる部位を矢印で示した。
【図2】 遺伝子DNA が移入された眼組織をモノクローナル抗体を用いて免疫組織化学的染色した結果を示す写真である。図中、(a) は DC-コレステロールリポソーム点眼後の網膜神経節細胞を示し、(b) はTMAGリポソーム点眼後の結膜上皮細胞を示す。図中のバーの長さは 20 μm を示す。
Claims (4)
- 哺乳類動物細胞内で発現可能な遺伝子DNA を組み込んだ発現用ベクターを内包した、N-( アルファ - トリメチルアンモニオアセチル )- ジドデシル -D- グルタメートを含む TMAG リポソーム又は 3- ベータ [N-(N',N'- ジメチルアミノエタン )- カルバモイル ] コレステロールを含む DC- コレステロールリポソームを含有する点眼剤の形態の医薬用組成物。
- 該遺伝子DNA が眼疾患の原因となる異常遺伝子DNA に対応する正常遺伝子DNA である請求項1に記載の医薬用組成物。
- 遺伝子の異常に起因する眼疾患の治療及び/又は予防に用いる請求項1又は2に記載の医薬用組成物。
- 眼疾患が眼底疾患である請求項2又は3に記載の医薬用組成物。
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Cited By (1)
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