JP3948734B2 - 細胞間接着及びシグナル伝達を媒介する細胞表面分子 - Google Patents

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Description

本発明は、哺乳動物の新規な細胞表面分子、該分子を構成するポリペプチド及びその断片、該ポリペプチド断片と免疫グロブリン断片からなる融合ポリペプチド、該ポリペプチド及び該断片をコードする遺伝子、該遺伝子を含むベクター、該ベクターが導入された形質転換体、該ポリペプチド若しくは該ポリペプチドにより構成される細胞表面分子反応性を有する抗体、該抗体を産生するハイブリドーマ、該ポリペプチド断片若しくは該融合ポリペプチドを含んでなる医薬組成物、該抗体を含有してなる医薬組成物、トランスジェニックマウス、並びにノックアウトマウスに関する。
哺乳動物の生体は、体内に侵入した病原微生物(ウイルス、細菌、寄生虫など)や外来異物など(以下、併せて「抗原」と呼ぶ。)を排除しようとする免疫応答システムを有する。その1つは、自然免疫応答システムと呼ばれ、他の1つは獲得免疫応答システムと呼ばれるものである。前者は、食細胞(多形核白血球、単球、マクロファージなど)による貪食、ナチュラルキラー(NK)細胞による攻撃、及び補体による抗原のオプソニン化などのような非特異的な認識による排除機構である。後者の獲得免疫応答システムは、該抗原に対する特異性を獲得(活性化)したリンパ球(主にT細胞、B細胞)による排除機構である。抗原特異性を獲得したB細胞は、該抗原に特異的な抗体を産生することにより細胞外に存在する該抗原を攻撃する。抗原特異性を獲得(活性化)したT細胞は、ヘルパーT細胞と細胞傷害性T細胞(cytotoxic T cell; cytotoxic lymphocyte;CTL)に分類され、前者はB細胞の分化や抗体の産生を調節するとともに食細胞と協同して該抗原を破壊する。後者は、自らウイルス感染細胞などを攻撃する(実験医学(別冊)・「Bio Science用語ライブラリー[免疫]」、羊土社、p.14-17、1995)。
このT細胞による抗原特異性の獲得(活性化)は、T細胞が、マクロファージ、B細胞あるいは樹状細胞などの抗原提示細胞(antigen-presenting cells: APC)により提示される抗原を認識することにより開始される。抗原提示細胞は、取り込んだ抗原をプロセッシング(加工)し、この加工された抗原を主要組織適合性抗原複合体(MHC)に結合させて抗原提示する。T細胞は、抗原提示細胞に より提示された該加工抗原を、その細胞膜表面に有するT細胞受容体(TcR)と CD3抗原との複合体(TcR/CD3複合体)を通じて認識することで細胞の活性化 (特異性の獲得)のための第1のシグナルを受ける。
しかしながら、このTcR/CD3複合体を介した第1シグナルだけでは、T細胞の十分な活性化が起こらないだけでなく、その後に受ける如何なる刺激に対しても反応しなくなる不応答状態(unresponsiveness)またはクローン麻痺(clonal anergy)と呼ばれる状態に陥る。T細胞が活性化され抗原特異的なT細胞クロー ンに分化、増殖するためにはインターロイキン−2(IL-2)の自己分泌(オートクリン;autocrine)が必要であるが、クローン麻痺の状態ではIL-2が産生及び 細胞分裂が起こらず、T細胞が不活性化された状態となる。即ち、IL-2などのサイトカインの産生を伴うT細胞の活性化には、TcR/CD3複合体を介した第1シグ ナルに引き続く第2のシグナルを必要とする。この第2のシグナルはコスティミュレイトリーシグナル(副刺激シグナル;costimulatory signal)と呼ばれる。
T細胞は、T細胞表面上のTcR/CD3複合体とは別の分子を介して抗原提示細胞上のMHCとは別の分子と相互作用(細胞間接着)することによりこの第2のシグ ナルを受けとり細胞内に伝達する。この第2のシグナルにより細胞のアナジー(クローン麻痺)が回避されるとともに細胞が活性化される。
抗原提示細胞とT細胞等のリンパ球の間の第2のシグナルの伝達のメカニズムについては未だ詳細に解明されていない部分はあるものの、これまでの研究から、この第2のシグナル伝達には、主にT細胞及び胸腺細胞で発現する細胞表面分子であるCD28(別名:Tp44、T44、又は9.3抗原)と抗原提示細胞(マクロファージ、単球、樹状細胞など)で発現する細胞表面分子であるCD80(別名:B7-1、B7、BB1、またはB7/BB1)及び同じく抗原提示細胞状の細胞表面分子であるCD86( 別名:B7-2またはB70)との間の相互作用(即ち、それらの分子間の結合を介し た細胞間接着)が極めて重要であることが明らかにされている。さらにこの第2のシグナルによるT細胞の活性化の制御には、該第2のシグナルに依存してその発現が増強されると考えられているCTLA-4(Cytolytic T lymphocyte associated antigen 4)と該CD80(B7-1)及びCD86(B7-2)との間の相互作用(即ち、それら の分子間の結合を介した細胞間接着)も重要な役割を担っていることが実験的に明らかにされてきている。即ち、この第2のシグナルの伝達によるT細胞の活性化の制御には、少なくともCD28とCD80/CD86との間の相互作用、該相互作用に依 存すると考えられるCTLA-4の発現の増強、並びにCTLA-4とCD80/CD86との間の相 互作用が包含されることが明らかにされてきている。
CD28は、このT細胞の活性化とアナジーの回避に必要な第2のシグナル(コスティミュレイトリー・シグナル)を伝達するコスティミュレイター分子であることが明らかにされている。この分子が抗原提示細胞上のコスティミュレイター分子であるCD80(B7-1)及びCD86(B7-2)と結合すること(換言すれば、それらの分子間の結合を介した細胞間接着)により伝達される第2のシグナルは、Th1型サイ トカインのmRNAを安定化させ、その結果T細胞からのIL-2、IFNγ及びTNFαなどのTh1型サイトカインを大量の産生を促す。一方、CTLA-4は、TcR/CD3を通じて入る第1シグナルにより発現が誘導されるとともに、CD28とCD80との結合により入る該第2のシグナルによってもその発現が増強されることが知られている。CTLA-4は、それらのシグナルを受けて、CD28より入る第2ののシグナルによるT細胞の活性化とは反対にT細胞機能に対して抑制的に働くことが明らかになってきている。
ヒトのCD28及びCTLA-4は、各々44kD及び41乃至43kDの分子量を有するI型糖蛋白質である。ともに免疫グロブリン様ドメイン1個を有し、免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、細胞間接着分子としての機能と細胞内へのシグナル伝達分子としての両方の機能を併せ持った分子である。
ヒトCD28はジズルフィド結合によりホモ二量体を形成し、一方、CTLA-4は単量体で存在することが示されている。CD28及びCTLA-4の遺伝子の染色体上に位置は、ヒトにおいてはいずれも「2q33」、またマウスにおいては「1C」であり、いずれも4つのエクソンからなる。ヒトのCD28及びCTLA-4は、リーダー配列を含め各々220及び223個のアミノ酸から構成され、両者のアミノ酸相同性は20乃至30%程度である。
CD28及びCTLA-4のリガンドは、ヒト及びマウスにおいてCD80(B7-1)及びCD86(B7-2)であることが解明されている。CTLA-4は、いずれのリガンドに対してもCD28より親和性が高く、その差は約20倍である。CD28及びCTLA-4のCD80(B7-1)への結合には、動物種を超えて保存されているアミノ酸配列構造である「MYPPPY(Met-Tyr-Pro-Pro-Pro-Tyr)」が重要であることが明らかにされている。また、CD28が刺激を受けると、その細胞内の部分配列「YMNM(Tyr-Met-Asn-Met)」内のリン酸化されたチロシン残基へPI3キナ−ゼ(phosphoinositide 3 kinase, PI3K)が会合することが示され、CD28はこの「YxxM」構造を介して細胞内シ グナル伝達において重要な働きをしていることが示されてきている。また、CTLA4の細胞内領域にも「YxxM」で表わされる配列、即ち「YVKM(Tyr-Val-Lys-Met)」を有しており、刺激を受けた後、この配列に SYP が会合することが示されて いる。
CD28は、胸腺細胞及び末梢血T細胞に限局して発現し、一方CTLA-4は活性化T細胞に特異的に発現することがわかってきている(細胞工学・別冊「接着分子ハンドブック」、秀潤社発行、第93-102頁、1994年; 同誌、第120-136頁;実験医学・別冊「BIO SCIENCE 用語ライブラリー・免疫」、羊土社発行、第94-98 頁、1995年;実験医学・別冊「BIO SCIENCE 用語ライブラリー・細胞内シグナル伝達」、羊土社発行、第58-59頁、1997年;日本臨床、第55巻、第6号、第215-220頁、1997年)。
このようにしてT細胞機能の制御(T細胞の活性化及び機能抑制)におけるコスティミュレイター分子(CD28、CD80(B7-1)及びCD86(B7-2)など)並び連動するCTLA-4などの複数の分子の間の相互作用(換言すれば、それらの分子間の結合を介した細胞間接着)の重要性が提唱されるようになり、それらの分子と疾患との関係の解明、並びにそれらの分子の機能を制御することによる疾患の治療の試みが注目されるようになってきている。
前述のように、生体は、生体(自己)にとって異物である抗原に対しては獲得免疫応答システムを作動させるが、自己の生体成分(自己抗原)に対しては免疫応答を示さない免疫寛容を有している。しかしながら、何らかの原因で免疫寛容の破綻が起こると、自己抗原に対する免疫応答が起こり前述と同様のメカニズムにより自己抗原反応性T細胞が誘導され免疫異常状態に陥り、種々の自己免疫疾患が惹起される。
即ち、生体の免疫システムが正常な状態では、正常組織の無刺激の抗原提示細胞(antigen presenting cell; APC)はコスティミュレイトリー分子を発現しないため、例え自己抗原に反応する自己抗原反応性T細胞が存在していても、T細胞が不応答状態に陥っているため自己寛容が維持されているが、免疫異常状態においては過剰または継続的なコスティミュレイトリー分子の発現以上により自己抗原反応性T細胞が活性化され自己免疫疾患が惹起されるという可能性が提示されている。
このような観点から近年、コスティミュレイトリーシグナルの伝達、例えば前述のCD28/CTLA-4-CD80/CD86の間のシグナル伝達を調節することにより種々の自 己免疫性疾患の治療の試みが多数なされてきている。
自己免疫性疾患である慢性関節リウマチ、多発性硬化症、自己免疫性甲状腺炎、アレルギー性接触性皮膚炎、慢性炎症性皮膚疾患である扁平苔癬、及び乾癬などではその病巣部の抗原提示細胞ではCD28やCTLA-4のリガンドとしてのコスティミュレイトリー分子であるCD80が異常発現が確認されていることから、特にCD80の機能を抑制することによる該種々の自己免疫性疾患の治療の試みが多くなされてきている。
CD80の機能をブロックする方法としては、CD80に対する抗体、CD80のリガンドであるCD28の可溶化蛋白、あるいは同じくCD80のリガンドであるCTLA-4の可溶化蛋白を用いる方法が検討されてきている。中でも、CTLA-4のCD80に対する結合親和性がCD28のそれと比べ20倍以上であることに基づく「可溶化CTLA-4」、具体的には「CTLA-4」の細胞外ドメインとヒト免疫グロブリンIgG1のFc領域とからなる融合タンパク(CTLA-4-IgFc)を用いた治療の試みが動物モデル並びに臨床 試験において行われている(日本臨床、第55巻、第6号、第215-220頁、1997年)。
自己免疫疾患モデル動物でのCTLA-4-IgFcによる治療効果については下記(i)乃至(v)のような報告がなされている。
(i)ヒト全身性エリテマトーデス(SLE)のモデルである(NZB/NZW)F1マウスにおいては、発症前投与で自己抗体産生の抑制及びループス腎炎の発症を抑制し、また発症後の投与においても病態改善が認められた(Science, Vol.125, p.1225-1227, 1994)。
(ii)多発性硬化症(MS)のモデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)においては、免疫直後の短期投与により発病を阻止できた(J. Clin. Invest., Vol.95, p.2783-2789, 1995)。
(iii)インスリン依存性糖尿病(IDDM)モデルであるNOD(non-obese diabetes) マウスでは、生後2乃至3週齢の雌に2週間投与することにより発病率が著明に低下した(J. Exp. Med., Vol.181, p.1145-1155, 1995)。
(iv)グッドパスチャー(Goodpasture)の腎炎モデルである腎糸球体基底膜免疫 によるラット腎炎では、投与により症状の改善が認められた(Eur. J. Immunol., Vol.24, No.6, p.1249-1254, 1994)。
(v)ヒト慢性関節リウマチモデルであるDBA/1マウスを用いたタイプIIコラーゲン誘導関節炎(CIA)では、免疫時の投与により関節炎の発症が抑制され、コラ ーゲンに対する自己抗体(IgG1及びIgG2)の産生が抑制された(Eur. J. Immunol., Vol.26, p.2320-2328, 1996)。
しかしながら、上記のような治療の試みがなされる一方で、コスティミュレイター分子及び関連する分子との間の相互作用(換言すれば、それらの分子間の結合を介した細胞間接着)によるT細胞の活性化のメカニズムの詳細な解明は未だなされておらず、またこのメカニズムには未だ同定されていない他の分子が関与する可能性も残っている。
前述のようなT細胞等のリンパ球の活性化に必須な第2のシグナルの伝達に関与する分子間の結合を介した細胞間接着によるT細胞等のリンパ球の活性化及びリンパ球の機能の制御のメカニズムの解明、並びにそのメカニズムに関与する細胞間接着を媒介する能力とシグナルを伝達する能力を併せ持った既知または未知の分子の同定及びその性状解析は、先に述べたような種々の自己免疫疾患、アレルギー性疾患、及び炎症性疾患等の種々の疾患の治療または予防において有用な医薬品の開発し、提供することを可能とする。
即ち、本発明は、そのような細胞間接着の媒介とシグナル伝達という両面の機能を併せ持った新規な細胞表面分子を同定するとともにその構造的及び生物学的な性状を明らかにすることを課題とする。さらに、本発明は、該新規な分子または該分子に対する抗体等を用いることによる種々の自己免疫疾患や炎症性疾患の治療または予防に有用な医薬品を提供することを課題とする。
そのような有用な分子を同定するために、本発明者らは、自己免疫疾患やアレルギー疾患などにおいてはT細胞等のリンパ球が重要な働きをしていること、並びに抗原提示細胞からの第2のシグナル(コスティミュレイトリーシグナル)のリンパ球細胞内へのシグナル伝達には細胞間接着が必須であることに着目し、リンパ球系の細胞に特異的に発現し、且つ細胞間接着を媒介する機能を有する細胞表面分子の単離及び同定を行うことを考えた。
その方法として、まず、リンパ球系細胞自体を免疫することにより該細胞の表面に発現している種々の細胞表面分子に対するモノクローナル抗体を取得し、得られたモノクローナル抗体を用いて細胞間接着を媒介する機能を有する目的の細胞表面分子を単離、同定する手法を用いた。以下、その方法を具体的に説明する。
本発明者らは、まず、ラットのリンパ球系細胞株を免疫原としてマウスに投与して、種々のモノクロナール抗体の作製した。次いで、得られたモノクロナール抗体を、免疫原として用いたラットリンパ球系細胞に作用させ、該モノクローナル抗体が該細胞に与える影響について検討した。この結果、得られたモノクローナル抗体の内の一つが該ラットリンパ球系細胞を強く凝集させる特性を有することを見出した(このモノクローナル抗体を「JTT.1抗体」と命名した。)。さら に、同様にして、作製したモノクローナル抗体の中に、該「JTT.1抗体」により 誘導されるラットリンパ球系細胞の凝集を強く阻害するモノクローナル抗体を見出した(このモノクローナル抗体を「JTT.2抗体」と命名した。)。
「JTT.1抗体」によるラットリンパ球系細胞の凝集が、該細胞に発現している既知の最も代表的な細胞間接着分子であるICAM-1(Intercellular adhesion molecule-1)やLFA-1(Lymphocyte function-associated antigen-1)に対する抗 体により阻害されなかったことから、この凝集が細胞間接着媒介作用を有する未知の接着分子を介した細胞間接着による凝集であると考えた。
次に、この2つのモノクローナル抗体により各々認識される細胞表面分子(各々「JTT.1抗原」及び「JTT.2抗原」と命名した。)の同定、単離及び性状解析を行った。
まず、「JTT-1抗体」及び「JTT-2抗体」を用いた蛍光抗体法に基づくフローサイトメトリーにより、種々の細胞における「JTT.1抗原」及び「JTT.2抗原」の発現パタ−ンの解析を行った。この結果、「JTT.1抗原」及び「JTT.2抗原」がともに、胸腺細胞及び脾臓細胞をマイトジェン(mitogen)であるコンカナバリンA (Concanavalin A; ConA)で刺激して活性化した活性化リンパ芽球細胞(活性化Tリンパ芽球細胞、活性化Bリンパ芽球細胞など)、特に該活性化リンパ芽球細胞で強く発現が確認される一方で、何らの刺激も加えていない脾臓細胞(このような細胞は、本発明においては、「静止期リンパ球」と呼ばれる場合もある。)にはほとんど発現が見られないことを見出した。また、「JTT-1抗体」及び「JTT-2抗体」の各々により確認される分子の発現パターンは、ほぼ同一であることを見出した。
次いで、吸着剤に「JTT-1抗体」を吸着させて作製したアフィニティーカラムを用いて、前記のラットリンパ球系細胞から調製した可溶性細胞表面分子の混合物から該「JTT-1抗体」によりトラップされる分子、即ち「JTT-1抗原」を精製した。この精製「JTT-1抗原」の分子量を、「JTT-1抗体」及び「JTT-2抗体」を用 いた免疫沈降法及びSDS-PAGEにより分析した。その結果、「JTT-1抗体」及び「JTT-2抗体」の各々により免疫沈降される分子が同一の分子であり、また該分子は、各々異なる糖鎖修飾を有するホモダイマーであることを見出した。具体的には、N型糖鎖の消化処理を行わない場合には、非還元化で約47kDの1分子として、また還元化で約24kDと約28kDの2分子として同定され、N型糖鎖の消化処理を行った場合には、非還元化で約36kDの1分子として、また還元化で約20kDの1分子として同定された。
次いで、該精製「JTT.1抗原」をコーティングしたプレートへのラット胸腺細 胞の接着の解析を行った。この結果、胸腺細胞が、「JTT.1抗体」存在下でのみ 有意にプレートに接着(即ち、「JTT.1抗原」に接着)し、その接着は「JTT.2抗体」の共存下で有意に阻害されることを確認し、「JTT.1抗原」が実際に細胞間 接着を媒介する細胞表面分子であることを証明した。
次に、本発明者らは、ラット、ヒト及びマウスの「JTT.1抗原」をコードする遺伝子をクロ−ニングし、及びその構造の解析を行った。
具体的には、まず、「JTT.1抗体」を用いたパニング(panning)法を利用した発現クローニング法により、ConA刺激したラット脾臓由来リンパ芽球のcDNAライブラリーから、「ラットJTT.1抗原」の全長をコードするcDNAを単離することに 成功し、ジデオキシ法によりその塩基配列を決定することにより、全く新規な ラットの遺伝子を単離、同定した。さらに得られた「ラットJTT.1抗原」をコー ドするcDNAをプローブとしたプラ−クハイブリダイゼイ−ションにより、ConA刺激したヒト末梢血リンパ芽球のcDNAライブラリーから、「ヒトJTT.1抗原」の全 長をコードするcDNAを単離することに成功し、ジデオキシ法によりその塩基配 列を決定することにより、全く新規なヒトの遺伝子を単離、同定した。同様にして、ConA刺激したマウス脾臓由来リンパ芽球のcDNAライブラリーから、「マウスJTT.1抗原」の全長をコードするcDNAを単離することに成功し、 ジデオキシ法によりその塩基配列を決定することにより、全く新規なマウスの遺伝子を単離、同定した。さらに、同様にしてラット胸腺腫細胞株のcDNAライブラリーから、前記の「ラットJTT.1抗原」のオールタナティブスプライシング変異体(alternative splicing variant)の全長をコードするcDNAを単離することに成功し、 ジデオキシ法によりその塩基配列を決定することにより、全く新規な別のラットの遺伝子を単離、同定した。
単離された「ヒトJTT-1抗原」のcDNAによりコードされるアミノ酸配列のハイドロパシーブロット解析から「JTT.1抗原」が、シグナル配列、糖鎖修飾部位を 有する細胞外領域、膜貫通領域、及び細胞内領域から構成される細胞膜貫通蛋白(即ち、細胞表面分子)であることを見出した。さらに、既知分子とのホモロジー検索の結果、ラット、ヒト及びマウスのいずれの「JTT.1抗原」も、細胞間接 着分子を含めた既知のいかなる分子とも有意な相同性を有せず、且つ細胞間接着媒介機能を有する全く新規な細胞表面分子であることを見出した。
さらに、「ヒトJTT-1抗原」のアミノ酸配列をもとにモチーフ検索を行った結果、「ヒトJTT-1抗原」は、先に詳細に述べた細胞間接着を介してT細胞の活性 化に重要なコスティミュレイトリーシグナル伝達するT細胞等のリンパ球の細胞表面分子である「CD28」並びに該シグナルに連動して活性化T細胞等の活性化リンパ球の機能制御を行うT細胞等のリンパ球の細胞表面分子である「CTLA-4」と下記のような構造的類似性を有していることを見出した。
即ち、(i)システイン残基を含む20以上のアミノ酸残基が良く保存されている。(ii)リガンド結合領域として必須なプロリン残基の連続する配列「Pro-Pro-Pro (PPP)」が細胞外領域に保存されている。また、(iii)シグナル伝達領域として必 須な配列「Tyr-Xaa-Xaa-Met(YxxM)(Xaa及びxは任意のアミノ酸を意味する。)が細胞内領域に保存されている。
次に、蛍光インサイチュウハイブリダイゼーション(FISH)法を用いて、「マウスJTT-1抗原」をコードする遺伝子のマウス染色体上での位置を解析したとこ ろ、その位置は、マウスの「CD28」及び「CTLA-4」の位置と同じ、「1C3」であることを見出した。
次に、「JTT-1抗原」の機能を制御することによる自己免疫疾患及びアレルギー性疾患の治療の有効性を解析するために、前述の「JTT-2抗体」を実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)及び糸球体基底膜(GBM)腎炎のモデルラットに投 与する実験を行った。その結果、いずれの疾患モデル動物においても、病状の有意な抑制が見られることを発見し、「JTT-1抗原」の機能を制御することにより 自己免疫疾患やアレルギー性疾患の治療が可能であることを見出した。
さらに、「ヒトJTT-1抗原」に対するモノクローナル抗体が、ヒト末梢血リンパ球を有意に増殖させること、またその増殖は、T細胞の活性化に必須な抗原提示細胞からの第1のシグナルを受け取るT細胞上のTcR/CD3複合体を構成するCD3に対するモノクローナル抗体を共存させることによりさらに高い増殖が見られることを発見し、「JTT-1抗原」がリンパ球へのシグナル伝達に関与する細胞表面 分子であることを見出した。
さらに、「JTT-1抗原」及び/またはそのリガンドの機能を制御することによる自己免疫疾患、アレルギー性疾患または炎症性疾患の治療のための医薬品として有用な、「ヒトJTT-1抗原」の細胞外領域とヒト免疫グロブリンのFc領域か らなる融合ポリペプチドを製造することに成功した。
さらに、「JTT-1抗原」の詳細な機能を解析し、自己免疫疾患、アレルギー性疾患及び炎症性疾患の治療のための医薬品を開発するために有用な、他の動物種の「JTT-1抗原」をコードする遺伝子が導入されたトランスジェニックマウス、 並びに「マウスJTT-1抗原」をコードする内在性遺伝子が不活性化されたノック アウトマウスを作製することに成功した。
即ち、本発明は、上述のようにして単離、同定された新規な哺乳動物の「JTT-1抗原」に関係するポリペプチド、遺伝子、抗体、ベクター、形質転換体、医薬 組成物、トランスジェニックマウス、及びノックアウトマウス等に関する。具体的には、下記(1)乃至(36)に記載される発明に関する。
(1)下記の特徴を有する細胞表面分子を構成するポリペプチド:
(a)少なくとも胸腺細胞及びマイトジェン(mitogen)で刺激したリンパ 芽球細胞で発現する;
(b)該細胞表面分子に反応性を有する抗体は、マイトジェンで刺激したリンパ芽球細胞間の接着を誘導する;
(c)該細胞表面分子に反応性を有する抗体は、CD3に反応性を有する抗体との共存下で末梢血リンパ球の増殖を誘導する;
(d)細胞外領域にPhe-Asp-Pro-Pro-Pro-Pheで表わされる部分アミノ酸配列を有する;及び
(e)細胞内領域にTyr-Met-Phe-Metで表わされる部分アミノ酸配列を有する。
(2)該ポリペプチドが、配列番号2に記載のアミノ酸配列、または配列番号2に記載のアミノ酸配列中のアミノ酸において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたアミノ酸配列を有することを特徴とする前記(1)に記載のポリペプチド。
(3)該ポリペプチドが、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされることを特徴とする前記(1)に記載のポリペプチド。
(4)該ポリペプチドが、配列番号2に記載のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有することを特徴とする前記(1)に記載のポリペプチド。
(5)該細胞表面分子が、ヒト由来の細胞表面分子であることを特徴とする前記(1)乃至前記(4)のいずれかに記載のポリペプチド。
(6)前記(1)乃至前記(5)のいずれかに記載のポリペプチドをコードする遺伝子。
(7)該遺伝子が、cDNAであることを特徴とする前記(6)に記載の遺伝子。
(8)該cDNAが、配列番号1に記載の塩基配列を有することを特徴とする前記(7)に記載の遺伝子。
(9)該cDNAが、配列番号3の塩基番号26乃至625に記載の塩基配列、配列番号4の塩基番号35乃至637に記載の塩基配列、配列番号5の塩基番号1乃至603に記載の塩基配列、または配列番号6の塩基番号35乃至685に記載の塩基配列のいずれかを含むことを特徴とする前記(7)に記載の遺伝子。
(10)前記(6)乃至前記(9)のいずれかに記載の遺伝子を含有するベクター。
(11)前記(10)に記載のベクターが導入された形質転換体。
(12)国際寄託番号FERM BP-5725で識別される形質転換体。
(13)前記(1)乃至前記(5)のいずれかに記載のポリペプチドの細胞外領域からなるポリペプチド断片。
(14)該ポリペプチドが、配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するヒト由来のポリペプチドであることを特徴とする前記(13)に記載のポリペプチド断片。
(15)前記(13)または前記(14)に記載のポリペプチド断片をコードする遺伝子。
(16)前記(1)乃至前記(5)のいずれかに記載のポリペプチドの細胞外領域からなるポリペプチド断片がジスルフィド結合により結合して形成されるホモダイマー分子。
(17)該ポリペプチドが、配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するヒト由来のポリペプチドであることを特徴とする前記(16)に記載のホモダイマー分子。
(18)前記(14)に記載のポリペプチド断片若しくは前記(17)に記載のホモダイマー分子のいずれか一方または両方と薬学的に許容されうる担体を含んでなる医薬組成物。
(19)前記(1)乃至前記(5)のいずれかに記載のポリペプチドの細胞外領域とヒトの免疫グロブリン(Ig)の重鎖の定常領域または定常領域の一部とからなる融合ポリペプチド。
(20)免疫グロブリンが、IgGであることを特徴とする前記(19)に記載の融合ポリペプチド。
(21)定常領域の一部が、IgGのヒンジ領域、C2ドメイン及びC3ドメインからなることを特徴とする前記(19)に記載の融合ポリペプチド。
(22)該ポリペプチドが、配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するヒト由来のポリペプチドであることを特徴とする前記(19)乃至前記(21)のいずれかに記載の融合ポリペプチド。
(23)前記(19)乃至前記(22)のいずれかに記載の融合ポリペプチドがジスルフィド結合により結合して形成されるホモダイマー分子。
(24)前記(22)に記載の融合ポリペプチドがジスルフィド結合により結合して形成されるホモダイマー分子。
(25)前記(22)に記載の融合ポリペプチド若しくは前記(24)に記載のホモダイマー分子のいずれか一方または両方と薬学的に許容されうる担体を含んでなる医薬組成物。
(26)該医薬組成物が、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療または該疾患症状の抑制に用いられることを特徴とする前記(25)に記載の医薬組成物。
(27)前記(1)乃至前記(5)のいずれかに記載のポリペプチド、前記(13)若しくは前記(14)に記載のポリペプチド断片または該ポリペプチドにより構成される細胞表面分子に反応性を有する抗体またはその一部。
(28)該抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする前記(27)に記載の抗体またはその一部。
(29)配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、前記(14)に記載のポリペプチド断片または該ポリペプチドから構成されるヒト由来の細胞表面分子に反応性を有するモノクローナル抗体またはその一部。
(30)前記(1)乃至前記(5)のいずれかに記載のポリペプチドまたは該ポリペプチドにより構成される細胞表面分子に反応性を有するモノクローナル抗体であって、該モノクローナル抗体のマイトジェンで刺激したリンパ芽球細胞への作用が、国際寄託番号 FERM BP-5707で識別されるハイブリドーマが産生する モノクローナル抗体がマイトジェンで刺激したラットリンパ芽球細胞に示す作用と実質的に同一であるモノクローナル抗体またはその一部。
(31)前記(1)乃至前記(5)のいずれかに記載のポリペプチドまたは該ポリペプチドにより構成される細胞表面分子に反応性を有するモノクローナル抗体であって、該モノクローナル抗体のマイトジェンで刺激したリンパ芽球細胞への作用が、国際寄託番号 FERM BP-5708で識別されるハイブリドーマが産生する モノクローナル抗体がマイトジェンで刺激したラットリンパ芽球細胞に示す作用と実質的に同一であるモノクローナル抗体またはその一部。
(32)前記(29)に記載のモノクローナル抗体またはその一部と薬学的に許容されうる担体を含んでなる医薬組成物。
(33)該医薬組成物が、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療または該疾患症状の抑制に用いられることを特徴とする前記(32)に記載の医薬組成物。
(34)前記(28)乃至前記(31)のいずれかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
(35)前記(1)に記載のポリペプチドをコードする遺伝子であって、配列番号1に記載される塩基配列を含むヒト由来の遺伝子または配列番号4の塩基番号35乃至637に記載される塩基配列を含むラット由来の遺伝子が、マウスの内在 性遺伝子に組み込まれていることを特徴とするトランスジェニックマウス。
(36)前記(1)に記載のポリペプチドであって配列番号5に記載される遺伝子によりコードされるアミノ酸配列を有するマウス由来のポリペプチドが産生されないように、該ポリペプチドをコードするマウスの内在性遺伝子が不活性化されていることを特徴とするノックアウトマウス。
本発明により提供される、ヒト、マウス及びラットなどの哺乳動物由来の新規な細胞表面分子(「JTT-1抗原」と呼ぶ)は下記のような特徴を有するものである。
(1)T細胞の活性化に重要なコスティミュレイトリーシグナルを細胞間接着を介して伝達するT細胞等のリンパ球の細胞表面分子である「CD28」並びに該シグナルに連動して活性化T細胞等の活性化リンパ球の機能制御を行うT細胞等のリンパ球の細胞表面分子である「CTLA-4」と下記のような類似性を有する。
(i)システイン残基を含む20以上のアミノ酸残基が良く保存されている。
(ii)リガンド結合領域として必須なプロリン残基の連続する配列「Pro-Pro-Pro(PPP)」が細胞外領域に保存されている。
(iii)シグナル伝達領域として必須な配列「Tyr-Xaa-Xaa-Met(YxxM)(Xaa及びxは任意のアミノ酸を意味する。)が細胞内領域に保存されている。
(iv)「マウスJTT-1抗原」をコードする遺伝子のマウス染色体上での位置は、マウスの「CD28」及び「CTLA-4」の位置と同く、「1C3」である。
(2)細胞間接着を媒介する機能を有する「CD28」及び「CTLA-4」と同様に、「JTT-1抗原」は胸腺細胞、ConAなどのマイトジェンで刺激したリンパ芽球及び胸 腺腫細胞の細胞間接着を媒介する能力を有する。
(3)少なくとも胸腺細胞、ConAなどのマイトジェンで刺激したリンパ芽球細胞(活性化Tリンパ芽球細胞や活性化Bリンパ芽球細胞)、末梢血リンパ球及び胸腺腫細胞で強く発現する。
(4)「JTT-1抗原」に体する抗体は、ヒト末梢血リンパ球を有意に増殖させ、またその増殖は、T細胞の活性化に必須な抗原提示細胞からの第1のシグナルを受け取るT細胞上のTcR/CD3複合体を構成するCD3に対するモノクローナル抗体を共存させることによりさらに高い増殖を誘導する。
(5)「JTT-1抗原」に体する抗体を、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)に投与することにより、その病状が有意に抑制がされる。
(6)「JTT-1抗原」に体する抗体を、糸球体基底膜(GBM)腎炎のモデルラットに投与することにより、その病状が有意に抑制がされる。
このような特徴から、本発明の「JTT-1抗原」は、前記「CD28」や「CTLA-4」と同様に、T細胞等のリンパ球の活性化に必須な第2のシグナル(コスティミュレイトリーシグナル)の伝達、並びに該シグナルに連動して活性化T細胞等の活性化リンパ球の機能制御を行う分子であると考えられる。
従って、そのような細胞表面分子を構成する本発明のポリペプチド、ポリペプチド断片、融合ポリペプチド及び抗体は、T細胞等のリンパ球の活性化並びに活性化リンパ球の機能制御の異常に起因する種々の自己免疫性疾患、アレルギー性疾患または炎症性疾患、具体的には、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、自己免疫性甲状腺炎、アレルギー性接触性皮膚炎、慢性炎症性皮膚疾患である扁平苔癬、全身性エリテマトーデス、インスリン依存性糖尿病及び乾癬などの治療または予防に極めて有用な医薬品を提供することが可能である。
同様に、本発明のポリペプチドあるいはポリペプチド断片をコードする遺伝子は、該種々疾患の遺伝子治療を可能とするだけでなく、アンチセンス医薬品を提供することが可能である。
本発明の抗体の中でも、ヒトモノクローナル抗体及びその医薬組成物は、マウス由来の抗体等の非ヒト哺乳動物由来の抗体からなる抗体医薬品の治療上の大きな問題点(副作用)であったヒトに対する抗原性を全く有しないことから、医薬品としての価値を劇的に増大させるものである。
また、本発明の遺伝子(DNA)、ポリペプチド、ポリペプチド断片及び抗体は、医薬品として有用なだけでなく、本発明の細胞表面分子と相互作用を有する分子(リガンド)の探索、該リガンドの機能の解明、並びに該リガンドをターゲットとした治療薬を開発するための試薬として有用である。
また、本発明のトランスジェニックマウスは、本発明の細胞表面分子である「JTT-1抗原」の生理学的機能を解明するためのモデル動物として有用であるだけでなく、「JTT-1抗原」の機能を制御(阻害、抑制、活性化、刺激など)する活性を有する種々の医薬(低分子化合物、抗体、アンチセンス、ポリペプチドなど)をスクリーニングするためのツールといして極めて有用である。即ち、そのような被験物質を該トランスジェニックマウスに投与し、該マウスの生体に起こる種々の生理学的、生物学的あるいは薬理学的パラメーターを測定、解析することにより投与された被験物質の活性を評価することが可能である。
また、本発明のノックアウトマウスは、該マウスの特徴を種々の側面(生理学的、生物学的、薬理学的、病理学的及び遺伝子的等の側面)から分析することにより、本発明の細胞表面分子の機能を解明することを可能とする。
上述のように本発明の細胞表面分子(即ち、「JTT-1抗原」)は、該分子を介した細胞間接着、並びにT細胞等のリンパ球へのシグナルの伝達及び活性化リンパ球の機能制御において役割を担う側面を有する。そこで、そのような生物学的事象の一般的理解に役立てるためのみの目的で、リンパ球系細胞、細胞間接着分子、及びそれらと疾患との関係についての一般的知見を下記に記載する。従って、下記に記載する一般的な知見は、本発明を限定的に解釈するためのものではない。
リンパ球は、大別してT細胞とB細胞の2種類に分けられる。骨髄の多能性幹細 胞からリンパ球系幹細胞が分化すると、その一部は血流に乗って胸腺に到達する。胸腺で分化成熟したリンパ球はT細胞(Thymus-derived cell:T cell)と呼ばれ、再び血中に入り全身を巡る。成熟したT細胞はCD3と呼ばれる分子を表面に持っており、この分子を持っていることがその細胞が成熟T細胞であるかどうかを 区別する目印になる。CD3は有力なT細胞マーカーである。その他、T細胞はCD4またはCD8などを発現している。T細胞はさらに、Bリンパ球の抗体産生を補助する ヘルパーT細胞(Th細胞:helper T cell)、標的細胞にとりついて直接にそれを破壊する細胞障害性T細胞(Tc細胞:cytotoxic T cell:CTL)あるいはキラーT 細胞、Bリンパ球の抗体産生を抑制するサプレッサーT細胞、リンフォカインなどの効果物質を分泌して遅延型アレルギーを起こすエフェクターT細胞(effector T cell)などがある。
リンパ球系幹細胞のうち骨髄の中でそのまま分化成熟するのがB細胞である。B細胞は、適切な刺激があれば抗体を産生するようになる細胞で、抗体産生前駆細胞である。表面にはB細胞内で合成された免疫グロブリンがあり、抗原レセプタ ーとして機能している。成熟したB細胞の表面にはIgMとIgDがともにあり、抗原 刺激とT細胞からのシグナルで分化するとIgMの産生が増加し、C末端部の細胞膜 結合部分が変わって分泌されるようになる。十分な刺激があると表面の免疫グロブリンもIgGやIgE、IgAに変化するとともに、それぞれのクラスの免疫グロブリ ンを分泌するようになる。B細胞表面の免疫グロブリンは、表面のIgということ でsIgとか、細胞膜のIgということでmIgと表現されることもある。一つのB細胞 の表面にあるIgはすべて同じ抗原結合部位を有する。
T細胞でもなくB細胞でもないリンパ球で、LGL(laege granular lymphocute)あるいはヌルセル(null cell)と呼ばれるものがある。この細胞には、腫瘍細 胞やウイルス感染細胞の障害能力があるが、細胞障害性T細胞の場合と異なり、 あらかじめ抗原刺激をしておく必要がない。そのためナチュラルキラー細胞(NK細胞:natural killer cell)ともいわれる。
上記のT細胞の内、CD4陽性T細胞は、抗原提供細胞によって提示された抗原に反応すると、いろいろなサイトカインを分泌し、それらのサイトカインに対するレセプターなどが新たに発現し、細胞自身も大きくなり、分裂を始め、増殖する。このような細胞レベルの反応に先立って、それぞれのT細胞に特有の抗原レセ プター(T cell antigen receptor:TCR)に抗原提供細胞上の抗原ペプチドとMHCクラスII分子の複合体が結合し、それによって細胞内ではいろいろな生化学的 変化が生じて核内にシグナルが伝わり、特定のDNAの転写が始まり、それぞれの タンパク質が合成される。その結果として、細胞レベルの反応が見られるようになるわけである。また、CD8陽性T細胞に関しては例えば、あるウイルスに感染した細胞を考えると、この感染した細胞はウイルスタンパク質を合成し、そのタンパク質が細胞質内のプロテアゾームで分解され、一部のペプチドがTAPを経て小胞体内に入り、合成されたばかりのMHCクラスI分子と安定した複合体を形成して細胞表面にでる。これを特異的なCD8陽性T細胞が認識するが、この段階ではまだその細胞を破壊することはない。抗原に反応したこのT細胞はIL-2レセプター(IL-2R)を発現し、それにIL-2が作用すると細胞障害活性を持つCTLに分化し、次 に同じ抗原ペプチド/MHCクラスI複合体に出会った時にその標的細胞を破壊して殺すことになる。CTLへ分化するのに必要なサイトカインはIL-2ばかりでなく、IFNγやその他のサイトカインにも類似の作用があるといわれる。このように、CTLへの分化にはT細胞の分泌するリンフォカインが必要であるが、それらのリンフォカインはCD4陽性Th1細胞(IL-2やIFNγなどを分泌するCD4陽性T細胞)が同じ ウイルスに由来する抗原のペプチドをクラスII分子とともに認識して産生している。CD4陽性T細胞の助けがなくても、CD8陽性T細胞が抗原に反応してIL-2などを産生している場合もある。CD8陽性T細胞がCTLに分化すると、細胞質内に顆粒が 増加してくる。この顆粒のなかにはいろいろな高分子タンパク質が含まれており、パーフォリンはその代表である。パーフォリンは補体の第5-9成分で構成され る膜侵襲複合体(membrane attack complex:MAC)によく似ており、標的細胞の細胞膜に穴をあける作用がある。その他、セリンプロテアーゼやLT、プロテオグリカン(proteoglycan)なども含まれている。また、CTLに分化して抗原刺激を 受けるとIFNγ、LT、TNFあるいはIL-2などのリンフォカインも分泌する。また、T細胞は汎血球凝集素(植物凝集素、PHA)やコンカナバリンA(Con A)に反応して芽球化現象を示す。
また、まだ何も刺激を受けていない状態の成熟T細胞は、静止期T細胞(resting T cell)と呼ばれ、細胞の大きさが小さく、寿命も数日で短い。刺激を受けると、すでに述べたように細胞は大きくなり、いろいろな刺激に対してさらに反応しやすくなる。このようなT細胞を活性化T細胞(activated T cell)と呼ぶ。一部の活性化T細胞は、記憶T細胞(memory T cell)となり、同じ抗原刺激を受け ると二次免疫反応をもたらすことになる。記憶T細胞は数年あるいは数十年も体 内を循環し続けるといわれている。
B細胞でまだ何も刺激を受けていない状態のものを、T細胞の場合と同じように静止期B細胞(resting B cell)といい、多価の抗原やCD40Lで刺激され、増殖を起こしたようなB細胞を活性化B細胞(activated B cell)という。静止期B細胞 には、B7-1(CD80)やB7-2(CD86)のようなコスティミュレーター分子(TCRを 介したシグナルとともにT細胞を刺激する分子)がなく、静止期T細胞に抗原を提供してもTCRを刺激するだけで、CD40リガンド(CD40L)を発現させたり、リンフォカインを産生させたりすることができないといわれている。そのため、ほかの抗原提供細胞によって抗原刺激され、活性化されたヘルパーT細胞が静止期B細胞の抗原提示に反応するものと考えられている。すなわち、抗原が侵入してきた場合には、まずB7分子を発現している樹状細胞(著しい樹状の突起を有する細胞)や微生物に反応して活性化されたマクロファージがその抗原を提示して、休止期ヘルパーT細胞を刺激し、CD40Lを発現させるなど活性化してから、同じ抗原を提示する静止期B細胞に結合してそのCD40を刺激すると考えられている。多価の抗 原やCD40Lで刺激されて一度活性化されると、B細胞もB7分子を発現し、TCRとともに表面のCD28を刺激してそのヘルパーT細胞を活性化し、CD40Lを発現させたり、リンフォカインを産生させたりすることができる。また、刺激を受けて細胞が大きくなるなどの変化は見られるものの、抗体の分泌はほとんど見られない状態のB細胞を活性化B細胞(activated B cell)という。さらに成熟B細胞になって 抗原に出会うと、T細胞からの刺激も加わってIgMの産生が高まり、産生するIgM が膜型から分泌型に変わって分泌されるようになる。さらに、T細胞からの液性 因子によってIgMからIgGなどのほかのアイソタイプの抗体を産生するようになる。これをアイソタイプスイッチあるいはクラススイッチという。抗体を分泌するようになったB細胞は抗体分泌細胞(antibody-secreting cell)と呼ばれるようになり、一部は形態学的にも特徴のある細胞となり、形質細胞(plasma cell) と呼ばれる(免疫学の知識、オーム社(1996))。
ところで免疫系の様々な反応において、白血球はそのサブポピュレーション、即ち、Tリンパ球、Bリンパ球、NK、好中球などがそれぞれ異なった動態を示す場合が多い。また、上記のように同じリンパ球であっても、その細胞の状態、即ち、活性化しているか、静止期にあるかにより、それぞれ異なった動態を示す。これらの事実は、白血球のサブポピュレーション特異的な認識機構、さらには細胞の状態に特異的な認識機構、特に細胞接着分子(細胞接着タンパク質)の存在を示唆するものである。
細胞接着分子、即ち、細胞接着タンパク質は、一般に、個体の発生・分化の際に、あるいは細胞の局所への遊走の際に、細胞同士を互いに接着させる機能を有する分子であり、生体の有機的かつ機能的な連絡にとって必須の分子であることが知られている。
細胞接着分子は、その構造的特徴から大きく免疫グロブリンスーパーファミリー、インテグリンファミリー、セクレチンファミリー、カドヘリンファミリー、CD44ファミリーの5つに分類されている。免疫グロブリンスーパーファミリーに 属する接着分子は、ジスルフィド結合で形成されるループ様ドメインを繰り返し持つことを特徴としており、「ICAM-1」(intercellular adhesion molecule-1)、「VCAM-1」(vascular cell adhesion molecule-1)などの分子が知られて いる。また、インテグリンファミリーに属する接着分子は、α/βヘテロダイマ ー構造を特徴とし、「VLA-1〜6」(very late antigen-1〜6)、「LFA-1」(lymphocyte function-associated antigen-1)、「Mac-1」、「p150/90」などが知 られている。セクレチンファミリーに属する分子は、N末端から順に、レクチン 様ドメイン、EGF様ドメイン、補体ドメインを有し、「E-セレクチン」,「P-セレクチン」などが知られている。さらに、カドヘリンファミリーとしては、「E-カドヘリン」、「N-カドヘリン」、「P-カドヘリン」が、CD44ファミリーには、「CD44」が知られている。
これら接着分子の具体的な機能としては、白血球の血管内皮細胞への接着やリンパ球の抗原提示細胞への接着などが知られているが、近年における様々な研究から、これらの機能のみならず種々の疾患にも関係していることが徐々に明らかとなってきた。
特に、疾患と接着分子の発現異常に関しては、多くの報告がなされている。例えば、慢性関節リウマチ(RA)については、RA滑膜細胞において、「Mac-1」と「p150/95」の両者の発現が増強していることが報告されている(Allen,C et al.Arthritis Rheum.,32,947(1989))。また、RA滑膜では、様々な細胞が「ICAM-1」を強く、かつ異所性に発現していることが報告されている(Hale,L.et al.Arthritis Rheum.,32,22(1989))。さらに、「ELAM-1」も好中球と血管内皮細胞の 接着に関与しており、これら分子の過剰発現は、RA関節液中に見られる好中球の浸潤(特に関節液中への)に関与していることが示唆されている(Laffon,A.,et al.Arthritis Rheum.,32,386(1989))。さらに、「CD44」もRA滑膜において、 血管内皮細胞、A型滑膜細胞に強く発現していることが報告されている(Heynes,B.et al.Arthritis Rheum.,34,1434(1991))。
また、全身性エリデマトーデス(SLE)と接着分子の発現異常との関係についても例があり、例えば、SLE患者ではTリンパ球の培養血管内皮細胞に対する接着能が健康人と比較すると低下していることが報告されている。また、SLE患者の 抹消リンパ球における接着分子の発現検討では、「ICAM-1」、「VLA-4」、「IFA-1」の増強傾向が見られている(Haskard, D.O. et al, Rheumatol. Int, 9, 33 (1989))。
自己免疫性甲状腺疾患については、甲状腺濾胞細胞をインターフェロン-γ、インターロイキン-1、腫瘍壊死因子で刺激すると「ICAM-1」が発現すること、濾胞細胞と単核細胞とのクラスター形成が、抗「ICAM-1」抗体により抑制されることが報告されている(Weetman,A.P.,et al.Eur.J.Immunol.,20,271(1990))。
肝炎では、肝細胞と炎症細胞間の接着が「ICAM-1」と「LFA-3」、「LFA-1」と「CD2」という2つの経路で行なわれることでその機会を増加させ、抗原の提示や炎症細胞の活性化が促進されると考えられている。特に、B型肝炎における検討 では「LFA-3」がウイルス増殖の盛んな肝細胞に強く発現し、「ICAM-1」が肝炎 の程度によく相関していることから、「LFA-3」がウイルスの排除に関与し、ま た「ICAM-1」がT細胞への抗原提示を促進させ炎症反応を調節していることが示 唆されている。「ICAM-1」陰性でHBc抗原陽性の肝細胞の場合はリンパ球との細 胞間相互作用が起こらずウイルス感染の慢性化という一種の免疫不応答の状態が生じるのではないかと考えられる。急性肝炎や慢性活動性肝炎、肝硬変患者の血清「ICAM-1」濃度が健常者や慢性持続性肝炎患者よりも高く、また活動性肝炎患者のうちでも組織学的に進行した症例で高値を認めることから慢性肝疾患における血清「ICAM-1」が肝細胞の障害の程度と相関するとの報告もなされている(Mod.Phys.15,(1),73-76(1995))。
動脈硬化のモデル動物では、その病変発症のごく初期において血管内皮への単球やリンパ球の接着、侵入が認められ、これら血球細胞と内皮の相互作用が動脈硬化発症の第一段階と考えられている。また、実際の動脈硬化巣における接着分子の発現については、種々の報告がなされている。例えば、ヒト動脈硬化巣における「ICAM-1」の発現(Poston RN,et al.Am J Patol,140,665(1992))や高コレステロール血症ウサギの動脈硬化巣における「VCAM-1」の発現(Cybulsky MI,Gimbrone MA Jr.Science,251,788(1991))について報告例がある。さらに最近、ヒトの動脈硬化巣においても「VCAM-1」が発現していることが観察されており、その発現が特に内膜に遊走した平滑筋細胞と単球/マクロファージに強く認められたことが報告されている。また、ウサギおよびヒト動脈硬化巣において「MCP-1 」の発現亢進が認められており、「MCP-1」が単球/マクロファージの遊走を介 して動脈硬化巣の形成を促進しているという示唆もある(カレントテラピー,12,(8),1485-1488(1994))。
さらに、癌転移と接着分子異常の関係についても報告がある。例えば、E-カドヘリンの低下した癌細胞は、強い侵襲性を示すが、これにE-カドヘリンのcDNAを導入すると侵襲性が抑制され、さらに、E-カドヘリン抗血清を添加すると侵襲性が回復することが見出されており、E-カドヘリンの発現低下と癌細胞の侵襲性の密接な関連が示唆されている(Frixen,U.H.,et al.113,173(1991))。実際の臨 床例においても、肝癌、食道癌、胃癌、乳癌など種々の癌でE-カドヘリンの発現低下と転移との関係が指摘されている。また、「VCAM-1」のリガンドである「VLA-4」は転移性メラノーマ、胃癌、乳癌などで高発現することが報告されており、これらが転移に際して血管内皮細胞への着床に利用される可能性が示唆されている。また、種々の癌細胞株を用いた実験から胃癌、大腸癌、肺癌、肝癌、膵癌などの上皮性の癌はE-セレクチンを介して血管内皮細胞に接着するとの報告もなされている(Takada,A.,et al.Cancer Res.,53,354(1993))。
一方、これら接着分子を標的とした疾患治療の試みもなされている。例えば、抗ラット「ICAM-1」抗体がラット自己免疫性関節炎モデルでの炎症反応を強く抑えることが報告されている。また、RAの動物モデルの一つとされるアジュバンド滑膜炎では、抗「ICAM-1」抗体を投与することにより、関節炎の発症が抑制されることが報告されている(日本臨床免疫学会誌、14,(6),571-577(1991))。さらに、一部のインテグリンが認識し結合する細胞外マトリックス蛋白上のアミノ酸配列であるREG配列のペプチドを多量に胆癌マウスへ投与すると、接種腫瘍の転 移形成が顕著に抑制され、またインビトロの系では、RGDペプチドや抗β1サブユニット抗体が癌細胞の運動や浸潤を抑制することが報告されている(Yamada,K.M.,et al.Cancer Res,50,4485,(1990))。
以下、本発明で用いる語句の意味並びに本発明のポリペプチド、融合ポリペプチド、遺伝子、抗体、トランスジェニックマウス、ノックアウトマウス等の一般的製造方法を明らかにすることにより本発明を詳細に説明する。しかしながら、該用語の意味がそのような定義を以て限定的に解釈されるものではないことは言うまでもない。
本発明における「マイトジェン」とは、分裂促進剤とも呼ばれ、細胞分裂を誘起する物質を指す。免疫学的には、抗原非特異的(ポリクローナル)にリンパ球を幼弱化し分裂を誘起させるものを意味する。例えば、PHAやPWMなどのレクチン、コンカナバリンA(Concanavalin A; ConA)、リポ多糖、ストレプトリシンS、抗リンパ球抗体などが挙げられる。コンカナバリンAやPHAは、Tリンパ球の みに作用し、リポ多糖はBリンパ球のみに作用し、PWMは両リンパ球に作用する ことが知られている。
本願明細書中で用いられる「リンパ芽球細胞」なる用語は、大リンパ球、リンホブラスト(lymphoblast)あるいは免疫芽細胞とも呼ばれ、リンパ性組織(リンパ節、脾臓、胸腺、骨髄、リンパ管、扁桃腺など)や血液中に存在するリンパ球の内の大リンパ球に属するリンパ球を指す。
本願明細書中で用いられる「活性化リンパ球」なる用語は、例えば下記のようなリンパ球を意味するがこの限りではない。例えば、何らかの刺激により活性化されたリンパ球を指す。前述のとおりリンパ球は、T細胞、B細胞、およびナチュラルキラー細胞に分類され、さらにT細胞についてはCD4陽性細胞とCD8陽性細胞 に分類することができる。従って、本発明の「活性化リンパ球」には、主に活性化T細胞、活性化B細胞、および活性化ナチュラルキラー細胞が含まれ、さらに活性化T細胞には活性化CD4陽性細胞と活性化CD8陽性細胞が含まれる。
CD4陽性T細胞は、抗原提供細胞によって提示された抗原に反応すると、いろいろなサイトカインを分泌し、それらのサイトカインに対するレセプターなどが新たに発現し、細胞自身も大きくなり、分裂を始め、増殖して活性化される。活性化CD4陽性T細胞とは、このような状態のCD4陽性T細胞を指す。
CD8陽性T細胞は、抗原に反応するとIL-2Rを発現し、それにIL-2が作用すると細胞障害性をもつCTLに分化し、次に同じ抗原ペプチド/MHCクラスI複合体に出 会った時にその標的細胞を破壊して殺すようになる。CD8陽性T細胞がCTLに分化 すると、細胞質内に顆粒が増加してくる。この顆粒の中にはいろいろな高分子タンパク質が含まれており、パーフォリンはその代表である。パーフォリンは補体の第5-9成分で構成されるMACによく似ており、標的細胞の細胞膜に穴をあける作用がある。その他、セリンプロテアーゼやLT、プロテオグリカン(proteoglycan)なども含まれている。また、CTLに分化して抗原刺激を受けるとIFNγ、LT、TNFあるいはIL-2などのリンフォカインも分泌する。活性化CD8陽性T細胞とは、こ のような状態のCD8陽性T細胞を指す。
T細胞は汎血球凝集素(植物凝集素、PHA)やコンカナバリンA(Con A)に反応して芽球化現象を示すが、このような状態のT細胞も活性化T細胞に含まれる。
B細胞では、B7分子を発現し、TCRとともに表面のCD28を刺激してそのヘルパーT細胞を活性化し、CD40Lを発現させたり、リンフォカインを産生したりし、刺激を受けて細胞が大きくなったり、増殖を起こすなどの変化が見られる。活性化B 細胞とは、このような状態のB細胞を指し、本発明においては、抗体を分泌する ようになったB細胞(抗体分泌細胞(antibody-secreting cell)及び形質細胞(plasma cell))も活性化B細胞に含まれる。
活性化ナチュラルキラー細胞とは、前述のとおり腫瘍細胞やウイルス感染細胞の障害作用を示すナチュラルキラー細胞を指す。なお、本発明においては、コンカナバリンA(Con A)で刺激された胸腺細胞も活性化リンパ球に含まれる。
本発明において用いられる「活性化リンパ芽球細胞」には、前記のような「リンパ芽球」が、コンカナバリンAのような前記「マイトジェン」で刺激を受けて活性化されたリンパ芽球が含まれる。
本願明細書で場合によって用いられる「静止期リンパ球」なる用語は、前述の活性化リンパ球と対照的に、細胞の活性化のための刺激を受けていない非活性化状態のリンパ球を指す。
本発明における「遺伝子」には、ゲノミックDNAおよびcDNAが含まれる。
本発明において「ヒト由来」とは、ヒトの生体成分(臓器、組織、細胞、体液など)から単離された天然の物質、遺伝子組換え技術を用いて作製される組み換え物質を含み、また該物質がタンパク質あるいはポリペプチドである場合には、それらのアミノ酸配列中のアミノ酸の1もしくは数個のアミノ酸配列が置換、欠 失もしくは付加したアミノ酸配列を有する人工のタンパク質及びポリペプチドも含まれる。
本発明の「細胞表面分子」とは、ヒト、ラット、マウス、モルモット及びウサギなどの哺乳動物に由来する細胞表面分子であり、好ましくはヒト、ラットまたはマウスに由来する細胞表面分子であり、より好ましくはヒト由来の細胞表面分子である。
本発明の「細胞表面分子」は、具体的には、少なくとも下記の性質を有することを特徴とする細胞表面分子である。
(a)少なくとも胸腺細胞及びマイトジェン(mitogen)で刺激したリンパ芽球細胞で発現する;
(b)該細胞表面分子に反応性を有する抗体は、マイトジェンで刺激したリンパ芽球細胞間の接着を誘導する;
(c)該細胞表面分子に反応性を有する抗体は、CD3に反応性を有する抗体との共存下で末梢血リンパ球の増殖を誘導する;
(d)細胞外領域にPhe-Asp-Pro-Pro-Pro-Pheで表わされる部分アミノ酸配列を有する;及び
(e)細胞内領域にTyr-Met-Phe-Metで表わされる部分アミノ酸配列を有する。
好ましい態様としては後述する本発明の「ポリペプチド」から構成される細胞表面分子である。
本発明の「ポリペプチド」とは、上記の本発明の「細胞表面分子」を構成するポリペプチドであり、具体的には下記が挙げられる。
(1)配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるポリペプチド。
(2)配列番号2に記載のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド。
(3)配列番号2に記載されるアミノ酸配列または該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(即ち、「ヒトJTT-1抗原」を構成する ポリペプチド及びその誘導体)。
(4)配列番号3の塩基番号26乃至625に記載の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列または該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(即ち、「ヒトJTT-1抗原」を構成するポリペプチド及びその誘導体)。
(5)配列番号4の塩基番号35乃至637に記載の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列または該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(即ち、「ラットJTT-1抗原」を構成するポリペプチド及びその誘導体)

(6)配列番号5の塩基番号1乃至603に記載の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列または該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(即ち、「マウスJTT-1抗原」を構成するポリペプチド及びその誘導体)。
(7)配列番号6の塩基番号35乃至685に記載の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列または該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(即ち、「ラットJTT-1抗原の変異体」を構成するポリペプチド及びその 誘導体)。
(8)国際寄託番号FERM BP-5725識別される形質転換体に導入された本発明の細胞表面分子を構成するポリペプチドをコードするDNAによりコードされるアミノ酸配列または該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(即ち、「ヒトJTT-1抗原」を構成するポリペプチド及びその誘導体)。
ここで「ストリンジェントな条件下」としては、例えば、次のような条件を挙げることができる。例えば、50塩基以上のプローブを用い、0.9%NaCl下でハ イブリダイゼーションを行う場合には、、50%の解離を生ずる温度(Tm)の目安を下記計算式から求め、ハイブリダイゼーションの温度を下記計算式のように設定することができる。
Tm=82.3℃+0.41×(G+C)%−500/n−0.61×(フォルムアミド)%
(nはプローブの塩基数を示す。)
温度=Tm−25℃
また、100塩基以上のプローブ(G+C=40〜50%の場合)を用いる場合には、Tmが下記(1)及び(2)のように変化することを目安する。
(1)1%ミスマッチ毎に、Tmが約1℃下がる。
(2)フォルムアミド1%毎に、Tmが0.6〜0.7℃下がる。
従って、完全相補鎖の組み合わせの場合の温度条件は下記のようにすることができる。
(A)65〜75℃(フォルムアミド無添加)
(B)35〜45℃(50%フォルムアミド存在下)
また、不完全相補鎖の組み合わせの場合の温度条件は下記のようにすることができる。
(A)45〜55℃(フォルムアミド無添加)
(B)35〜42℃(30%フォルムアミド存在下)
また、23塩基以下のプローブを用いる場合の温度条件は、37℃とすることもできるし、また下記計算式を目安とすることもできる。
温度=2℃×(A+Tの数)+4℃×(C+Gの数)−5℃
ここで「実質的に同一のアミノ酸配列を有する」とは、配列表に記載されるアミノ酸配列を有するポリペプチドと実質的に同等の生物学的性質を有する限り、該アミノ酸配列中の複数個のアミノ酸、好ましくは1乃至10個のアミノ酸、特に好ましくは1乃至5個のアミノ酸が置換、欠失及び/または修飾されているアミノ酸配列を有するポリペプチド、並びに該アミノ酸配列に、複数個のアミノ酸、好ましくは1乃至10個のアミノ酸、特に好ましくは1乃至5個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをも包含することを意味する。
そのようなアミノ酸の置換、欠失、または挿入は常法に従って行うことができる(実験医学別冊・「遺伝子工学ハンドブック」(1992)など)。
例えば、合成オリゴヌクレオチド指定突然変異導入法(gapped duplex)法、亜硝酸あるいは亜硫酸処理によってランダムに点突然変異を導入する方法、Ba131酵素等により欠失変異体を作製する方法、カセット変異法、リンカースキャニング法、ミスインコーポレーション法、ミスマッチプライマー法、DNAセグメント合成法などを挙げることができる。
合成オリゴヌクレオチド指定突然変異導入(gapped duplex)法は、例えば下記のように行うことができる。アンバー変異をもつM13ファージベクターに変異 誘起を希望する領域をクローニングし、一本鎖ファージDNAを調製する。アンバー変異をもたないM13ベクターのRFIDNAを制限酵素処理により線状とし、上記の一本鎖ファージDNAと混合して変性後、アニールさせ、「gapped duplex DNA」を形成させる。これに変異を導入した合成オリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、DNAポリメラーゼとDNAリガーゼの反応により閉環状2本鎖DNAとする。このDNAをミスマッチ修飾能が欠損している大腸菌mutS株にトランスフェクションし、 増殖したファージをサプレッサー機能のない大腸菌に感染させ、アンバー変異を持たないファージだけを選択する。
また、亜硝酸による点突然変異を導入する方法は、例えば下記のような原理を利用する。DNAを亜硝酸処理すると塩基が脱アミノ化されて、アデニンはヒポキサンチンに、シトシンはウラシルに、グアニンはキサンチンになる。脱アミノ化されたDNAを細胞に導入すると、DNA複製時にヒポキサンチンはシトシンと、ウラシルはアデニンとキサンチンはチミンと塩基対を形成するため、「A:T」が「G:C」へ、「G:C」が「A:T」へと置換する。実際には亜硝酸処理した一本鎖DNA断片を「gapped duplex DNA」にハイブリダイズさせ、以下、合成オリゴヌクレオチド指定突然変異導入(gapped duplex)法と同様に操作して変異株を分離すればよい。
なお、本願明細書または図面においてアミノ酸を表記するために用いられるアルファベットの三文字あるいは一文字は、各々次に示すアミノ酸を意味する。
(Gly/G)グリシン、(Ala/A)アラニン、(Val/V)バリン、(Leu/L)ロイシン、(Ile/I)イソロイシン、(Ser/S)セリン、(Thr/T)スレオニン、(Asp/D)アスパラギン酸、(Glu/E)グルタミン酸、(Asn/N)アスパラギン、(Glu/Q)グルタミン、(Lys/K)リジン、(Arg/R)アルギニン、(Cys/C)システイン、(Met/M)メチオニン、(Phe/F)フェニルアラニン、(Tyr/Y)チロシン、(Trp/W)トリプトファン、(His/H)ヒスチジン、(Pro/P)プロリン。
前述した本発明の「細胞表面分子」を構成する「ポリペプチド」は、細胞膜を貫通する細胞膜貫通蛋白であり、この細胞膜貫通ポリペプチドの1または2により該「細胞表面分子」が構成される。
ここで「細胞膜貫通蛋白」とは、多くの受容体あるいは細胞膜表面分子に見られるように、膜の脂質二重層を1回または数回貫通する疎水性ペプチド領域により膜と連結し、全体として細胞外領域(extracellular region)、膜貫通領域(transmembrane region)及び細胞質領域(cytoplasmic region)の3つの主領域から構成される構造をとる蛋白を指す。さらにそのような膜貫通性蛋白は、モノマ−(monomer)として、または、同一のアミノ酸配列を有するもう1本の鎖あるいは異なるアミノ酸配列を有する鎖とともにそれぞれホモダイマ−(homodimer) 、ヘテロダイマ−(heterodimer) あるいはオリゴマ−(origomer)を形成して存在することにより、各々の受容体や細胞表面分子を構成する。
本発明の「ポリペプチド断片」とは、前述に定義した本発明の「ポリペプチド」のポリペプチド断片であり、好ましくは該ポリペプチドの細胞外領域である。該領域は所望応じそのN末端及び/またはC末端に1乃至5のアミノ酸が付加されていてもよい。
ここで「細胞外領域」とは、前述のような細胞膜膜貫通蛋白の全体構造のうち、該膜蛋白が連結している膜の外界側に存在する部分構造(部分領域)の全部または一部を意味し、換言すれば、膜内に取り込まれている領域(膜貫通領域)及び該膜内の領域に引き続いて細胞質内に存在する領域(細胞内領域)以外の領域の全部または一部を意味する。
本発明における「ヒトの免疫グロブリン(Ig)の重鎖の定常領域または定常領域の一部」とは、前述のようなヒト由来の免疫グロブリンの重鎖(Heavy Chain,H鎖)の 定常領域(Constant region)、Fc領域またはそれらの一部を意 味する。該免疫グロブリンは、どのようなクラス及びサブクラスに属する免疫グロブリンであってもよく、具体的には、IgG(IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4)、IgM、IgA(IgA1及びIgA2)、IgD及びIgEを挙げることができる。好ましくは、IgG(IgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4)またはIgMである。本発明における特に好ましい例としては、ヒト由来のIgG(IgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4)に属する免疫グロブリンである。
免疫グロブリンは、2つの相同な軽鎖(Light Chain,L鎖)と2つの相同な重鎖(Heavy Chain,H鎖)の4つの鎖が、 ジスルフィド結合(S−S結合)で結合したY字形の構造単位を有する。軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定 常領域(CL)から構成される。重鎖は、重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域(CH)から構成される。
重鎖定常領域は、クラス(IgG、IgM、IgA、IgD及びIgE)並びにサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)毎に各々固有のアミノ酸配列を有するいくつかのドメインから構成される。
IgG(IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4)の重鎖は、N末端から順に、VH、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン及びCH3ドメインから構成される。
同様にIgG1の重鎖は、N末端から順に、VH、Cγ11ドメイン、ヒンジ領域、Cγ12ドメイン及びCγ13ドメインから構成される。IgG2の重鎖は、N末端から順に、VH、Cγ21ドメイン、ヒンジ領域、Cγ22ドメイン及びC γ23ドメインから構成される。IgG3の重鎖は、N末端から順に、VH、Cγ31ドメイン、ヒンジ領域、Cγ32ドメイン及びCγ33ドメインから構成され る。IgG4の重鎖は、N末端から順に、VH、Cγ41ドメイン、ヒンジ領域、Cγ42ドメイン及びCγ43ドメインから構成される。
IgAの重鎖は、N末端から順に、VH、Cα1ドメイン、ヒンジ領域、Cα2ドメイン及びCα3ドメインから構成される。
同様にIgA1の重鎖は、N末端から順に、VH、Cα11ドメイン、ヒンジ領域、Cα12ドメイン及びCα13ドメインから構成される。IgA2の重鎖は、N末端から順に、VH、Cα21ドメイン、ヒンジ領域、Cα22ドメイン及びC α23ドメインから構成される。
IgDの重鎖は、N末端から順に、VH、Cδ1ドメイン、ヒンジ領域、Cδ2ドメイン及びCδ3ドメインから構成される。
IgMの重鎖は、N末端から順に、VH、Cμ1ドメイン、Cμ2ドメイン、Cμ3ドメイン及びCμ4ドメインから構成され、IgG、IgA及びIgDに見られるようなヒンジ領域を有しない。
IgEの重鎖は、N末端から順に、VH、Cε1ドメイン、Cε2ドメイン、Cε3ドメイン及びCε4ドメインから構成され、IgG、IgA及びIgDに見られるようなヒンジ領域を有しない。
さらに、IgGを例に挙げるならば、IgGをパパインで処理すると、2つの重鎖を連結させているヒンジ領域中に存在するジスルフィド結合のややN末端側で切断されて、VH及びCH1からなる重鎖断片と1つの軽鎖がジスルフィド結合で連結した2つの相同なFab、並びにヒンジ領域、CH2ドメイン及びCH3ドメインからなる2つの相同な重鎖断片がジスルフィド結合で連結した1つのFcを生ずる(以上、「免疫学イラストレイテッド」、原書第2版、第65〜75頁、1992年、南江堂発行、及び「最新医科学の焦点「免疫系の認識機構」」、第4 〜7頁、1991年、南江堂発行など参照)。
即ち、本発明における「免疫グロブリンの重鎖の定常領域の一部」とは、上述のような構造的特徴を有する免疫グロブリンの重鎖の定常領域一部を意味し、好ましくは、C1ドメインを欠く定常領域またはFc領域である。具体的には、IgG、IgAまたはIgDの場合には、各々のヒンジ領域、C2ドメイン及びC3ドメインからなる領域が挙げられ、IgMまたはIgEの場合には、各々のC2ドメイン、C3ドメイン及びC4ドメインからなる領域が挙げられる。とりわけ好ましい例としては、ヒト由来のIgG1のFc領域を挙げることができる。
本発明の「融合ポリペプチド」とは、前記の定義されるとおりの本発明の「細胞表面分子」を構成する「ポリペプチド」の細胞外領域と「ヒトの免疫グロブリン(Ig)の重鎖の定常領域または定常領域の一部」とからなる融合ポリペプチドである。好ましくは本発明のポリペプチドの細胞外領域とヒトIgGの重鎖の定常領域の一部との融合ポリペプチドであり、特に好ましくは本発明のポリペプチドの細胞外領域とヒトIgGの重鎖のヒンジ領域、CH2ドメイン及びCH3ドメインからなる領域(Fc)との融合ポリペプチドである。なお、IgGとしては、IgG1が好ましい。また、本発明のポリペプチドとしては、ヒト、マウスまたはラット(好ましくはヒト)に由来するポリペプチドが好ましい。
本発明の融合ポリペプチドは、前述のようなIgG等の免疫グロリンの定常領域の一部(例えば、Fc)を融合パートナーとして有することから、該免疫グロブリン断片に特異的に結合するというプロテインAの性質を用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィーを用いることにより該融合ポリペプチドを極めて容易に精製することが可能であるという点で利点を有する。さらに、種々の免疫グロブリンのFcに対する種々の抗体が提供されていることから、該Fcに対する抗体を用いて、該融合ポリペプチドのイムノアッセイを簡便に行うことができる。
本発明のポリペプチド、ポリペプチド断片及び融合ポリペプチドは、後述するような遺伝子組換え技術のほか、化学的合成法、細胞培養方法等のような当該技術的分野において知られる公知の方法あるいはその修飾方法を適宜用いることにより製造することができる。
本発明の「遺伝子」は、前述の本発明のポリペプチドまたはポリペプチド断片をコードするDNAからなる遺伝子であって、本発明のポリペプチドまたはポリペプチド断片をコードし得るいかなる塩基配列を有する遺伝子をも包含する。
具体的な態様としては、下記ポリペプチドまたはそのポリペプチド断片をコードする遺伝子である。
(1)配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるポリペプチド。
(2)配列番号2に記載のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド。
(3)配列番号2に記載されるアミノ酸配列または該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(即ち、「ヒトJTT-1抗原」を構成する ポリペプチド及びその誘導体)。
(4)配列番号3の塩基番号26乃至625に記載の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列または該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(即ち、「ヒトJTT-1抗原」を構成するポリペプチド及びその誘導体)。
(5)配列番号4の塩基番号35乃至637に記載の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列または該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(即ち、「ラットJTT-1抗原」を構成するポリペプチド及びその誘導体)。
(6)配列番号5の塩基番号1乃至603に記載の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列または該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(即ち、「マウスJTT-1抗原」を構成するポリペプチド及びその誘導体)。
(7)配列番号6の塩基番号35乃至685に記載の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列または該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(即ち、「ラットJTT-1抗原の変異体」を構成するポリペプチド及びその 誘導体)。
(8)国際寄託番号FERM BP-5725識別される形質転換体に導入された本発明の細胞表面分子を構成するポリペプチドをコードするDNAによりコードされるアミノ酸配列または該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(即ち、「ヒトJTT-1抗原」を構成するポリペプチド及びその誘導体)。
ここで「実質的に同一のアミノ酸配列を有する」とは、前記に定義したような意味を有する。
さらに具体的な態様としては、下記DNAまたはその断片が挙げられる。
(1)配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、並びに該DNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
(4)配列番号3の塩基番号26乃至625に記載の塩基配列を含むDNA。
(5)配列番号4の塩基番号35乃至637に記載の塩基配列を含むDNA。
(6)配列番号5の塩基番号1乃至603に記載の塩基配列を含むDNA。
(7)配列番号6の塩基番号35乃至685に記載の塩基配列を含むDNA。
(8)国際寄託番号FERM BP-5725識別される形質転換体に導入された本発明の細胞表面分子を構成するポリペプチドをコードするDNA。
また、本発明における融合ポリペプチドの一部である免疫グロブリンの重鎖の定常領域の一部をコードするDNAとしては、cDNAであっても良いし、また各エクソン(例えば、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CH4ドメインなどをコードするDNA)の間にイントロンを含むような ゲノミックDNAであっても良い。
本発明においては、同一のアミノ酸をコードするコドンであればどのようなコドンから構成されるDNAを含む。
また、本発明のDNAは、いかなる方法で得られるものであってもよい。例えばmRNAから調製される相補DNA(cDNA)、ゲノムDNAから調製されるDNA、化学合成によって得られるDNA、RNAまたはDNAを鋳型としてPCR法で増幅させて得られるDNAおよびこれらの方法を適当に組み合わせて構築されるDNAをも全て包含するものである。
本発明のポリペプチドをコードするDNAは、常法に従って本発明のポリペプチドのmRNAからcDNAをクローン化する方法、ゲノムDNAを単離してスプライシング処理する方法、化学合成する方法等により取得することができる。
(1)例えば、本発明のポリペプチドのmRNAからcDNAをクローン化する方法としては、以下の方法が例示される。
まず、本発明の細胞表面分子(ポリペプチド)を発現・産生する組織あるいは細胞(例えば、胸腺細胞やConA刺激した脾臓由来リンパ芽球細胞)から該本発明のポリペプチドをコードするmRNAを調製する。mRNAの調製は、例えばグアニジンチオシアネート法(Chirgwin J.M. et al, Biochemistry, Vol.18, p.5294, 1979)、熱フェノール法もしくはAGPC法等の公知の方法を用いて調製 した全RNAをオリゴ(dT)セルロースやポリU−セファロース等によるアフィニティクロマトグラフィーにかけることによって行うことができる。
次いで得られたmRNAを鋳型として、例えば逆転写酵素を用いる等の公知の方法、例えばオカヤマらの方法(モレキュラーセルバイオロジー(Mol.Cell.Biol.)、第2巻、第161頁、1982年及び同誌 第3巻、第280頁、1983年)やホフマン(Hoffman)らの方法(ジーン(Gene)、第25巻、第263 頁、1983年)等によりcDNA鎖を合成し、cDNAの二本鎖cDNAへの変換を行う。このcDNAをプラスミドベクター、ファージベクターまたはコスミドベクターに組み込み、大腸菌を形質転換して、あるいはインビトロパッケージング後、大腸菌に形質移入(トランスフェクト)することによりcDNAライブラリーを作製する。
ここで用いられるプラスミドベクターとしては、宿主内で複製保持されるものであれば特に制限されず、また用いられるファージベクターとしても宿主内で増殖できるものであれば良い。常法的に用いられるクローニング用ベクターとしてpME18S、λZAPII(lZAPII)、pUC19、λgt10、λgt11等が例示される。ただし、後述の免疫学的スクリーニングに供する場合は、宿主内で本発明のポリペプチドをコードする遺伝子を発現させうるプロモーターを有したベクターであることが好ましい。
プラスミドにcDNAを組み込む方法としては、例えばマニアティス(Maniatis)らの方法(モレキュラークローニング、ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual, second edition)、コールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、第1.53頁、19 89年) に記載の方法などが挙げられる。また、ファージベクターにcDNA を組み込む方法としては、ヒュン(Hyunh) らの方法(DNAクローニング、プラクティカルアプローチ(DNA Cloning, a practical approach)、第1巻、第49頁、1985年)などが挙げられる。簡便には、市販のクローニングキット(例えば、宝酒造製等)を用いることもできる。このようにして得られる組換えプラスミドやファージベクターは、原核細胞(例えば、E.coli:XL1Blue MRF'、DH5α、HB101またはMC1061/P3等)等の適当な宿主に導入する。
プラスミドを宿主に導入する方法としては、(モレキュラークローニング、ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual, second edition)、コールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、第1.74頁、1989年)に記載の塩化カルシウム法または塩化 カルシウム/塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。また、ファージベクターを宿主に導入する方法としてはファージDNAをインビトロパッケージングした後、増殖させた宿主に導入する方法等が例示される。インビトロパッケージングは、市販のインビトロパッケージングキット(例えば、ストラタジーン製、アマシャム製等)を用いることによって簡便に行うことができる。
上記の方法によって作製されたcDNAライブラリーから、本発明のポリペプチドをコードするcDNAを単離する方法は、一般的なcDNAスクリーニング法を組み合わせることによって行うことができる。
例えば、別個に本発明のポリペプチドのアミノ酸配列に対応すると考えられるオリゴヌクレオチドを化学合成したのち、これを32Pでラベルしてプローブとなし、公知のコロニーハイブリダイゼーション法(クランシュタイン(Crunstein)ら、プロシーディングスオブナショナルアカデミーオブサイエンス(Proc. Natl. Acid. Sci. USA)、第72巻、第3961頁、1975年)またはプラークハイブリダイゼーション法(Molecular Cloning, A Laboratory Manual, second edition , Cold Spring Harbor Laboratory、第2.108 頁、1989年)により、目的のcDNAを含有するクローンをスクリーニングする方法、PCRプライマーを作製し本発明のポリペプチドの特定領域をPCR法により増幅し、該領域をコードするDNA断片を有するクローンを選択する方法等が挙げられる。
また、cDNAを発現しうるベクター(例えば、λZAPIIファージベクター)を用いて作製したcDNAライブラリーを用いる場合には、本発明のポリペプチドに反応性を有する抗体を用いる抗原抗体反応を利用して、目的のクローンを選択することができる。大量にクローンを処理する場合には、PCR法を利用したスクリーニング法を用いることが好ましい。
この様にして得られたDNAの塩基配列はマキサム・ギルバート法(マキサム(Maxam)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA.、第74巻、第560頁、1977年)あるいはファージM13を用いたジデオキシヌクレオチド合成鎖停止の方法(サンガー(Sanger)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA.、第74巻、第546 3〜5467頁、1977年)によって決定することができる。本発明のポリペプチドをコードする遺伝子は、その全部または一部を上記のようにして得られるクローンから制限酵素等により切り出すことにより取得できる。
(2)また、前述のような本発明のポリペプチドを発現する細胞に由来するゲノムDNAから本発明のポリペプチドをコードするDNAを単離することによる調製方法としては、例えば以下の方法が例示される。
該細胞を好ましくはSDSまたはプロテナーゼK等を用いて溶解し、フェノールによる抽出を反復してDNAの脱蛋白質を行う。RNAを好ましくはリボヌクレアーゼにより消化する。得られるDNAを適当な制限酵素により部分消化し、得られるDNA断片を適当なファージまたはコスミドで増幅しライブラリーを作成する。そして目的の配列を有するクローンを、例えば放射性標識されたDNAプローブを用いる方法等により検出し、該クローンから本発明のポリペプチドをコードする遺伝子の全部または一部を制限酵素等により切り出し取得する。
ヒト由来のポリペプチドをコードするcDNAを取得する場合には、さらにヒトゲノムDNA(染色体DNA)が導入されたコスミドライスラリーを作製(「ラボマニュアルヒトゲノムマッピング」、丸善出版)し、該コスミドライブラリーをスクリーニングすることにより、目的タンパクのコーディング領域のDNAを含む陽性クローンを得、該陽性クローンから切り出したコーディングDNAをプローブとして用い、前述のcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより調製することもできる。
(3) また、化学的合成による本発明のDNAの製造は、配列番号1、3、4、5または6に記載される塩基配列をもとにして、常法に従って行うことができる。
さらに本発明は、上述の本発明の細胞表面分子(ポリペプチド)をコードするDNAを含有する組換えベクターに関する。本発明の組換えベクターとしては、原核細胞及び/または真核細胞の各種の宿主内で複製保持または自己増殖できるものであれば特に制限されず、プラスミドベクターおよびファージベクターが包含される。
当該組換えベクターは、簡便には当業界において入手可能な組換え用ベクター(プラスミドDNAおよびバクテリアファージDNA)に本発明のポリペプチドをコードするDNAを常法により連結することによって調製することができる。用いられる組換え用ベクターとして具体的には、大腸菌由来のプラスミドとして例えばpBR322、pBR325、pUC12、pUC13、pUC19など、酵母由来プラスミドとして 例えばpSH19、pSH15など、枯草菌由来プラスミドとして例えばpUB110、pTP5、pC194などが例示される。また、ファージとしては、λファージなどのバクテリ オファージが、さらにレトロウイルス、ワクシニヤウイルス、核多角体ウイルスなどの動物や昆虫のウイルス(pVL1393、インビトロゲン製)が例示される。
本発明のポリペプチドをコードするDNAを発現させ本発明のポリペプチドを生産させる目的においては、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、原核細胞および/または真核細胞の各種の宿主細胞中で本発明のポリペプチドをコードする遺伝子を発現し、これら蛋白質を生産する機能を有するものであれば特に制限されない。例えば、pEFneo(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 158-162, 1994)、pEF-BOS(Nucleic Acid Research, 18, 5322, 1990)、pME18S( 実験医学別冊「遺伝子工学ハンドブック」、1992年等)あるいはpMAL C2 等を挙げることができる。
宿主細胞として細菌、特に大腸菌を用いる場合、一般に発現ベクターは少なくともプロモーター/オペレーター領域、開始コドン、本発明のポリペプチドをコードするDNA、終止コドン、ターミネーター領域および複製可能単位から構成される。
宿主として酵母、動物細胞または昆虫細胞を用いる場合、発現ベクターは少なくともプロモーター、開始コドン、本発明のポリペプチドをコードするDNA、終止コドンを含んでいることが好ましい。またシグナルペプチドをコードするDNA、エンハンサー配列、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子の5’側および3’側の非翻訳領域、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、選択マーカー領域または複製可能単位などを含んでいてもよい。また、目的に応じて通常用いられる遺伝子増幅遺伝子(マーカー)を含んでいてもよい。
細菌中で本発明のポリペプチドを発現させるためのプロモーター/オペレータ−領域は、プロモーター、オペレーターおよび Shine-Dalgarno(SD) 配列(例えば、AAGGなど)を含むものである。例えば宿主がエシェリキア属菌の場合、好適にはTrpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、tacプロモーターなどを含むものが例示される。酵母中で本発明のポリペプチドを発現させるためのプロモーターとしては、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターが挙げられ、宿主がバチルス属菌の場合は、SL01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーターなどが挙げられる。また、宿主が哺乳動物細胞等の真核細胞である場合、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、ヒートショックプロモーター、EFプロモーターなどが挙げられる。好ましくは、SV−40、SRα、レトロウイルスである。しかし、特にこれらに限定されるものではない。また、発現にはエンハンサーの利用も効果的な方法である。
好適な開始コドンとしては、メチオニンコドン(ATG)が例示される。
終止コドンとしては、常用の終止コドン(例えば、TAG、TGA、TAAなど)が例示される。
ターミネーター領域としては、通常用いられる天然または合成のターミネーターを用いることができる。
複製可能単位とは、宿主細胞中でその全DNA配列を複製することができる能力をもつDNAを言い、天然のプラスミド、人工的に修飾されたプラスミド(天然のプラスミドから調製されたDNAフラグメント)および合成プラスミド等が含まれる。好適なプラスミドとしては、E. coli ではプラスミドpBR322、もしくはその人工的修飾物(pBR322を適当な制限酵素で処理して得られるDNAフラグメント)が、酵母では酵母2μプラスミド、もしくは酵母染色体DNAが、また哺乳動物細胞ではプラスミドpEFneo、pME18S、pRSVneo ATCC 37198、プラスミドpSV2dhfr ATCC 37145、プラスミドpdBPV-MMTneo ATCC 37224、プラスミドpSV2neo ATCC 37149等があげられる。
エンハンサー配列、ポリアデニレーション部位およびスプライシング接合部位については、例えばそれぞれSV40に由来するもの等、当業者において通常使用されるものを用いることができる。
選択マーカーとしては、通常使用されるものを常法により用いることができる。例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、またはカナマイシン等の抗生物質耐性遺伝子等あるいはチミジンキナーゼ遺伝子が例示される。
遺伝子増幅遺伝子としては、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、グルタミン酸合成酵素遺伝子、アデノシンデアミナーゼ遺伝子、オルニチンデカルボキシラーゼ遺伝子、ヒグロマイシン−B−ホスホトランスフェラーゼ遺伝子、アスパルラートトランスカルバミラーゼ遺伝子等を例示することができる。
本発明の発現ベクターは、少なくとも、上述のプロモーター、開始コドン、本発明のポリペプチドをコードするDNA(遺伝子)、終止コドンおよびターミネーター領域を連続的かつ環状に適当な複製可能単位に連結することによって調製することができる。またこの際、所望により制限酵素での消化やT4DNAリガーゼを用いるライゲーション等の常法により適当なDNAフラグメント(例えば、リンカー、他のリストリクションサイトなど)を用いることができる。
本発明の形質転換細胞は、上述の発現ベクターを宿主細胞に導入することにより調製することができる。
本発明で用いられる宿主細胞としては、前記の発現ベクターに適合し、形質転換されうるものであれば特に限定されず、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞あるいは人工的に樹立された組換細胞など種々の細胞(例えば、細菌(エシェリキア属菌、バチルス属菌)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など)、動物細胞または昆虫細胞など)が例示される。
好ましくは大腸菌あるいは動物細胞であり、具体的には大腸菌(DH5α、XL1Blue MRF'、TB1、HB101等)、マウス由来細胞(COP、L、C127、Sp2/0、NS−1またはNIH3 T3等)、ラット由来細胞、ハムスター 由来細胞(BH K、CHO-K1およびCHO等)、サル由来細胞(COS1、CO S3、COS7、CV1およびVelo等)およびヒト由来細胞(HEK293、Hela、2倍体線維芽細胞に由来する細胞、ミエローマ細胞およびNamalwa等)などが例示される。
発現ベクターの宿主細胞への導入(形質転換(形質移入))は従来公知の方法を用いて行うことができる。
例えば、細菌(E.coli、Bacillus subtilis 等)の場合は、例えばCohenらの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA.、第69巻、第2110頁、1972年 )、プロトプラスト法(Mol. Gen. Genet.、 第168巻、第111頁、197 9年)やコンピテント法(ジャーナルオブモレキュラーバイオロジー(J. Mol. Biol.)、第56巻、第209頁、1971年)によって、Saccharomyces cerevisiaeの場合は、例えばハイネン(Hinnen)らの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA.、第75巻、第1927頁、1978年)やリチウム法(J. Bacteriol.、第 153巻、第163頁、1983年)によって、動物細胞の場合は、例えばグラハム(Graham)の方法(バイロロジー(Virology)、第52巻、第456頁、1973年)、昆虫細胞の場合は、例えばサマーズ(Summers)らの方法(Mol. Cell. Biol.、第3巻、第2156〜第2165頁、1983年)によってそれぞれ形質転換することができる。
本発明のポリペプチドは、上記の如く調製される発現ベクターを含む形質転換細胞(以下、形質移入体を包含する意味で使用する。)を栄養培地で培養することによって製造することができる。
栄養培地は、宿主細胞(形質転換体)の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含でいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)など)を含んでいてもよい。
培養は当業界において知られている方法により行われる。培養条件、例えば温度、培地のpHおよび培養時間は、本発明のポリペプチドが大量に生産されるように適宜選択される。
なお、下記に宿主細胞に応じて用いられる具体的な培地および培養条件を例示するが、何らこれらに限定されるものではない。
宿主が細菌、放線菌、酵母、糸状菌である場合、例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜8である培地である。
宿主がE. coli の場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地(ミラー(Miller)ら、 Exp. Mol. Genet、Cold Spring Harbor Laboratory、第431頁、 1972年)等が例示される。かかる場合、培養は、必要により通気、撹拌しながら、通常14〜43℃、約3〜24時間行うことができる。
宿主がBacillus属菌の場合、必要により通気、撹拌をしながら、通常30〜40℃、約16〜96時間行うことができる。
宿主が酵母である場合、培地として、例えばBurkholder最小培(ボスチアン(Bostian)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第77巻、第4505頁、1980年)が挙げられ、pHは5〜8であることが望ましい。培養は通常約20〜35℃で約14〜144時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。
宿主が動物細胞の場合、培地として例えば約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地(サイエンス(Science)、第122巻、第501頁、1952年)、 DMEM培地(バイロロジー(Virology)、第8巻、 第396頁、1959年)、RPMI1640培地(J. Am. Med. Assoc.、第199巻、第519頁、1967年)、199培地(proc. Soc. Exp. Biol. Med.、第73巻、第1頁、1950年)等を用いることができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましく、培養は通常約30〜40℃で約15〜72時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。
宿主が昆虫細胞の場合、例えば胎児牛血清を含むGrace's 培地(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第82巻、第8404頁、1985年)等が挙げられ、そのpHは約5〜8であるのが好ましい。培養は通常約20〜40℃で15〜100時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。
本発明のポリペプチドは、上述のような形質転換細胞、特に動物細胞を培養することにより、その細胞表面に目的分子を高発現させることが可能である。
一方、本発明のポリペプチドを、細胞外領域断片のような可溶性ポリペプチド断片として製造する場合には、当該細胞外領域あるいは各ドメインをコードするDNAを用いて上述のように形質転換体を調製し、外形質転換体を培養することにより培養上清中に分泌させることにより製造することができる。また、本発明の融合ポリペプチドについても同様にして作製することができる。
すなわち、得られた培養物を濾過または遠心分離等の方法で培養濾液(上清)を得、該培養濾液から天然または合成蛋白質を精製並びに単離するために一般に用いられる常法に従って該本発明のポリペプチドまたはポリペプチド断片を精製、単離する。
単離、精製方法としては、例えば塩析、溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動など分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーやヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。
一方、本発明のポリペプチドまたはポリペプチド断片が培養された形質転換体のペリプラズムまたは細胞質内に存在する場合は、培養物を濾過または遠心分離などの常法に付して菌体あるいは細胞を集め、適当な緩衝液に懸濁し、例えば超音波やリゾチーム及び凍結融解などの方法で細胞等の細胞壁および/または細胞膜を破壊した後、遠心分離やろ過などの方法で本発明のポリペプチドを含有する膜画分を得る。該膜画分をトライトン−X100等の界面活性剤を用いて可溶化して粗溶液を得る。そして、当該粗溶液を先に例示したような常法を用いることにより、単離、精製することができる。
本発明における「トランスジェニックマウス」は、上述のような方法に従って調製できる本発明のマウス以外の動物種のポリペプチド(非自己のポリペプチド)をコードするDNA(cDNAまたはゲノミックDNA)がマウスの内在性遺伝子座上にインテグレート(integrate)されているトランスジェニックマウスマウスであり、該トランスジェニックマウスは、体内に該非自己のポリペプチドを発現、分泌する。
該トランスジェニックマウスは、トランスジェニック動物の製造において通常使用されるような常法(例えば、最新動物細胞実験マニュアル、エル・アイ・シー発行、第7章、第361〜第408頁、1990年を参照)に従って作製することが可能である。
具体的には、例えば、正常マウス胚盤胞(blastcyst)のか ら取得した胚性幹細胞(Embryonic Stem Cell, ES Cell)を、例えば、ヒト由来の本発明のポリペプチド(即ち「ヒトJTT-1抗原」)をコードする 遺伝子が発現可能なように挿入された発現ベクターで形質転換する。該本発明のヒト由来のポリペプチドをコードする遺伝子が内在性遺伝子上にインテグレートされたES細胞を常法により選別する。次いで、選別したES細胞を、別の正常マウスから取得した受精卵(肺盤胞)にマイクロインジェクションする(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.77, No.12, pp.7380-7384, 1980;米国特許第4,873,191号公報)。該胚盤胞を仮親としての別の正常マウスの子宮に移植する。そうして該仮親マウスから、ファウンダーマウス(子マウス)が生まれる。該ファウンダーマウスを正常マウスと交配させることによりヘテロトランスジェニックマウスを得る。該ヘテロ(heterogeneic)トランスジェニックマウス同士を交配することにより、メンデルの法則に従って、ホモ(homogeneic)トランスジェニックマウスが得られる。
本発明の「ノックアウトマウス」は、マウス由来の本発明のポリペプチド(即ち「マウスJTT-1抗原)をコードする内在性遺伝子がノックアウト(不活性化) されたマウスであり、例えば相同組換えを応用したポジティブネガティブセレクション法を用いて作製することができる(米国特許第5,464,764号公報、同5,487,992号公報、同5,627,059号公報、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.86, 8932-8935, 1989、Nature, Vol.342, 435-438, 1989など)。
本発明における「抗体」とは、ポリクローナル抗体(抗血清)あるいはモノクローナル抗体を意味し、好ましくはモノクローナル抗体である。
具体的には、前述の本発明のポリペプチドまたはポリペプチド断片に反応性を有する抗体である。
本発明の「抗体」は、本発明の「細胞表面分子」を発現する細胞(天然の細胞、株化細胞、腫瘍細胞など)、遺伝子組換技術を用いて作製される本発明のポリペプチドまたは細胞表面分子をその細胞表面に高発現させた形質転換体、あるいは本発明の「ポリペプチド断片」若しくは「融合ポリペプチド」を抗原として、該抗原をマウス、ラット、ハムスター、モルモットあるいはウサギ等の哺乳動物に免疫して得られる天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体及びヒト型抗体(CDR-grafted抗体)、並びにヒト抗体産生トランスジェニッ ク動物等を用いて製造され得るヒト抗体も包含する。
またモノクローナル抗体の場合には、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有するモノクローナル抗体をも包含する。好ましくは、IgGまたはIgMである。
本発明で言うポリクローナル抗体(抗血清)あるいはモノクローナル抗体は、既存の一般的な製造方法によって製造することができる。即ち、例えば、前述のような抗原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、哺乳動物、好ましくは、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマあるいはウシ、より好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモットまたはウサギに免疫する。
ポリクローナル抗体は、該免疫感作動物から得た血清から取得することができる。またモノクローナル抗体は、該免疫感作動物から得た該抗体産生細胞と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)からハイブリドーマを調製し、該ハイブリドーマをクローン化し、哺乳動物の免疫に用いた抗原に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによって製造される。
モノクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。即ち、前述のような抗原を免疫原とし、該免疫原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、非ヒト哺乳動物、具体的 には、マウス、ラット、ハムスター、モルモ ットあるいはウサギ、好ましくは マウス、ラットあるいはハムスター(後述するヒト抗体産生トランスジェニックマウスのような他の動物由来の抗体を産生するように作出されたトランスジェニック動物を含む)の皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1乃至数回注射するかあるいは移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1乃至14日毎に1乃至4回免疫を行って、最終免疫より約1乃至5日後に免疫感作された該哺乳動物から抗体産生細胞が取得される。免疫を施す回数及び時間的インターバルは、使用する免疫原の性質などにより、適宜変更することができる。モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの調製は、ケーラー及びミルシュタインらの方法(ネイチャー(Nature)、第256巻、第495〜第497頁、1975年)及びそれに準じる修飾方法に従って行うことができる。即ち、前述の如く免疫感作された非ヒト哺乳動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄あるいは扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラットまたはヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞との細胞融合させることにより調製される。
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63-AG8.653(653)、P3/NSI/1-Ag4-1(NS−1)、P3/X63-Ag8.U1(P 3U1)、SP2/0-Ag14(Sp2/O、Sp2)、PAI、F0あるいはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3-Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU-266AR1、GM1500-6TG-A1-2、UC729-6、CEM-AGR、D1R11あるいはCEM-T15を使用することができる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の前述の免疫感作で用いた免疫抗原に対する反応性を、例えばRIAやELISA等の酵素免疫測定法によって測定することにより行なうことができる。
ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の製造は、ハイブリドーマをインビトロ、またはマウス、ラット、モルモット、ハムスターまたはウサギ等、好ましくはマウスまたはラット、より好ましくはマウスの腹水中等でのインビボで行い、得られた培養上清、または哺乳動物の腹水から単離することにより行うことができる。
インビトロで培養する場合には、培養する細胞種の特性、試験研究の目的及び培養方法等の種々条件に合わせて、ハイブリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるために用いられるような既知栄養培地あるいは既知の基本培地から誘導調製されるあらゆる栄養培地を用いて実施することが可能である。
基本培地としては、例えば、Ham’F12培地、MCDB153培地あるいは低カルシウムMEM培地等の低カルシウム培地及びMCDB104培地、MEM培地、D−MEM培地、RPMI1640培地、ASF104培地あるいはRD培地等の高カルシウム培地等が挙げられ、該基本培地は、目的に応じて、例えば血清、ホルモン、サイトカイン及び/または種々無機あるいは有機物質等を含有することができる。
モノクローナル抗体の単離、精製は、上述の培養上清あるいは腹水を、飽和硫酸アンモニウム、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムあるいはプロテインAカラム等のアフィニティカラムクロマトグラフィーに供すること等により行うことができる。
本発明のモノクローナル抗体としては、好ましくは下記のモノクローナル抗体が挙げられる。
(1)配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、該ポリペプチドに由来するポリペプチド断片または該ポリペプチドから構成されるヒト由来の細胞表面分子に反応性を有するモノクローナル抗体。
(2)本発明のポリペプチド、該ポリペプチドに由来するポリペプチド断片または該ポリペプチドにより構成される細胞表面分子に反応性を有するモノクローナル抗体であって、該モノクローナル抗体のマイトジェン(mitogen)で刺激し たリンパ芽球細胞への作用が、国際寄託番号FERM BP-5707で識別されるハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体がマイトジェンで刺激したラットリンパ芽球細胞に示す作用と実質的に同一であるモノクローナル抗体。
(3)本発明のポリペプチド、該ポリペプチドに由来するポリペプチド断片または該ポリペプチドにより構成される細胞表面分子に反応性を有するモノクローナル抗体であって、該モノクローナル抗体のマイトジェン(mitogen)で刺激し たリンパ芽球細胞への作用が、国際寄託番号FERM BP-5708で識別されるハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体がマイトジェンで刺激したラットリンパ芽球細胞に示す作用と実質的に同一であるモノクローナル抗体。
また、本発明のモノクローナル抗体には、国際寄託番号 FERM BP-5707及び FERM BP-5708で各々識別されるのハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体も包含する。
本発明における「キメラモノクローナル抗体」は、遺伝子工学的に作製されるモノクローナル抗体であって、具体的には、その可変領域が、非ヒト哺乳動物(マウス、ラット、ハムスターなど)のイムノグロブリン由来の可変領域であり、かつその定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域であることを特徴とするマウス/ヒトキメラモノクローナル抗体等のキメラモノクローナル抗体を意味する。
ヒトイムノグロブリン由来の定常領域は、IgG(IgG1, IgG2, IgG3, IgG4)、IgM、IgA、IgD及びIgE等のアイソタイプにより各々固有のアミノ酸配列を有するが、本発明における組換キメラモノクローナル抗体の定常領域はいずれのアイソタイプに属するヒトイムノグログリンの定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgGの定常領域である。
本発明におけるキメラモノクローナル抗体は、例えば以下のようにして製造することができる。しかしながら、そのような製造方法に限定されるものでないことは言うまでもない。
例えば、マウス/ヒトキメラモノクローナル抗体は、実験医学(臨時増刊号)、第1.6巻、第10号、1988年及び特公平3−73280号公報等を参照しながら作製することができる。即ち、マウスモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから単離した該マウスモノクローナル抗体をコードするDNAから取得した活性なVH遺伝子(H鎖可変領域をコードする再配列されたVDJ遺伝 子)の下流に、ヒトイムノグロムリンをコードするDNAから取得したCH遺伝 子(H鎖定常領域をコードするC遺伝子)を、また該ハイブリドーマから単離したマウスモノクローナル抗体をコードするDNAから取得した活性なVL遺伝子 (L鎖可変領域をコードする再配列されたVJ遺伝子)の下流にヒトイムノグロムリンをコードするDNAから取得したCL遺伝子(L鎖定常領域をコードする C遺伝子)を、各々発現可能なように配列して1つ又は別々の発現ベクターに挿入し、該発現ベクターで宿主細胞を形質転換し、該形質転換細胞を培養することにより作製することができる。
具体的には、まず、マウスモノクローナル抗体産生ハイブリドーマから常法によりDNAを抽出後、該DNAを適切な制限酵素(例えばEcoRI、HindIII等)を用いて消化し、電気泳動に付して(例えば0.7%アガロースゲル使 用)サザンブロット法を行う。泳動したゲルを例えばエチジウムブロマイド等で染色し、写真撮影後、マーカーの位置を付し、ゲルを2回水洗し、0.25M HCl溶液に15分間浸す。次いで、0.4NのNaOH溶液に10分間浸し、その間緩やかに振盪する。常法により、フィルターに移し、4時間後フィルターを回収して2×SSCで2回洗浄する。フィルターを十分乾燥した後、ベイキング(75℃、3時間)を行う。ベイキング終了後に、該フィルターを0.1×SSC/0.1%SDS溶液に入れ、65℃で30分間処理する。次いで、3×SSC/0.1%SDS溶液に浸す。得られたフィルターをプレハイブリダイゼーション液と共にビニール袋に入れ、65℃で3〜4時間処理する。
次に、この中に32P標識したプローブDNA及びハイブリダイゼーション液を入れ、65℃で12時間程度反応させる。ハイブリダイゼーション終了後、適切な塩濃度、反応温度および時間(例えば、2×SSC−0.1%SDS溶液、室温、10分間)のもとで、フィルターを洗う。該フィルターをビニール袋に入れ、2×SSCを少量加え、密封し、オートラジオグラフィーを行う。
上記サザンブロット法により、マウスモノクローナル抗体のH鎖及びL鎖を各々コードする再配列されたVDJ遺伝子及びVJ遺伝子を同定する。同定したDNA断片を含む領域をショ糖密度勾配遠心にて分画し、ファージベクター(例えば、Charon 4A、Charon 28、 λEMBL3、λEMBL4等)に組み込み、該ファージベクターで大腸菌(例えば、LE392、 NM539等) を形質転換し、ゲノム ライブラリーを作製する。そのゲノムライブラリーを適当なプローブ(H鎖J遺伝子、L鎖(κ)J遺伝子等)を用いて、例えばベントンデイビス法(サイエンス(Science)、第196巻、第180〜第182頁、1977年)に従って、プ ラークハイブリダイゼーションを行い、再配列されたVDJ遺伝子あるいはVJ遺伝子を各々含むポジティブクローンを得る。得られたクローンの制限酵素地図を作製し、塩基配列を決定し、目的とする再配列されたVH(VDJ)遺伝子あるいはVL(VJ)遺伝子を含む遺伝子が得られていることを確認する。
一方、キメラ化に用いるヒトCH遺伝子及びヒトCL遺伝子を別に単離する。例えば、ヒトIgG1 とのキメラ抗体を作製する場合には、CH遺伝子であるCγ1遺伝子とCL遺伝子であるCκ遺伝子を単離する。これらの遺伝子はマウス免疫 グロブリン遺伝子とヒト免疫グロブリン遺伝子の塩基配列の高い相同性を利用してヒトCγ1遺伝子及びヒトCκ遺伝子に相当するマウスCγ1遺伝子及びマウスCκ遺伝子をプローブとして用い、ヒトゲノムライブラリーから単離することによって得ることができる。
具体的には、例えば、クローンIg146(プロシーディングスナショナルアカデミーオブサイエンス(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、第75巻、第4709〜第4713頁、1978年)からの3kbのHindIII−BamHI断片と クローンMEP10(プロシーディングスナショナルアカデミーオブサイエンス(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、第78巻、第474〜第478頁、1981年)からの6.8kbのEcoRI断片をプローブとして用い、ヒトのラムダCharon 4A のHaeIII−AluIゲノムライブラリー(セル(Cell)、第15巻、第 1157〜第1174頁、1978年)中から、ヒトCκ遺伝子を含み、エンハンサー領域を保持しているDNA断片を単離する。また、ヒトCγ1遺伝子は、 例えばヒト胎児肝細胞DNAをHindIIIで切断し、アガロースゲル電気泳動 で分画した後、5.9kbのバンドをλ788に挿入し、前記のプローブを用いて単離する。
このようにして単離されたマウスVH遺伝子とマウスVL遺伝子、及びヒトCH 遺伝子とヒトCL遺伝子を用いて、プロモーター領域及びエンハンサー領域など を考慮しながらマウスVH遺伝子の下流にヒトCH遺伝子を、またマウスVL遺伝 子の下流にヒトCL遺伝子を、適切な制限酵素及びDNAリガーゼを用いて、例えばpSV2gptあるいはpSV2neo等の発現ベクターに常法に従って組み込む。この際、マウスVH遺伝子/ヒトCH遺伝子とマウスVL遺伝子/ヒトCL遺伝子のキメラ遺伝子は、一つの発現ベクターに同時に配置されてもよいし、各々別個の発現ベクターに配置することもできる。
このようにして作製したキメラ遺伝子挿入発現ベクターを、例えばP3X63・Ag8・653細胞あるいは SP210細胞といった、自らは抗体を産生していない骨髄腫細胞にプロトプラスト融合法、DEAE−デキストラン法、リン酸カルシウム法あるいは電気穿孔法等により導入する。形質転換細胞は、発現ベクターに導入された薬物耐性遺伝子に対応する薬物含有培地中での培養により選別し、目的とするキメラモノクローナル抗体産生細胞を取得する。
このようにして選別された抗体産生細胞の培養上清中から目的のキメラモノクローナル抗体を取得する。
本発明における「ヒト型モノクローナル抗体(CDR-grafted抗体)」は、遺伝子工学的に作製されるモノクローナル抗体であって、具体的には、その超可変領域の相補性決定領域の一部または全部が非ヒト哺乳動物(マウス、ラット、ハムスターなど)のモノクローナル抗体に由来する超可変領域の相補性決定領域であり、その可変領域の枠組領域がヒトイムノグロブリン由来の可変領域の枠組領域であり、かつその定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域であることを特徴とするヒト型モノクローナル抗体を意味する。
ここで、超可変領域の相補性決定領域とは、抗体の可変領域中の超可変領域に存在し、抗原と相補的に直接結合する部位である3つの領域(Complementarity-determining residue;CDR1、CDR2、CDR3)を指し、また可変領域 の枠組領域とは、該3つ相補性決定領域の前後に介在する比較的保存された4つの領域(Framework;FR1、FR2、FR3、FR4)を指す。
換言すれば、非ヒト哺乳動物由来のモノクローナル抗体の超可変領域の相補性決定領域の一部または全部以外の全ての領域が、ヒトイムノグロブリンの対応領域と置き代わったモノクローナル抗体を意味する。
ヒトイムノグロブリン由来の定常領域は、IgG(IgG1, IgG2, IgG3, IgG4)、IgM、IgA、IgD及びIgE等のアイソタイプにより各々固有のアミノ酸配列を有するが、本発明におけるヒト型モノクローナル抗体の定常領域はいずれのアイソタイプに属するヒトイムノグログリンの定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgGの定常領域である。また、ヒトイムノグロブリン由来の可変領域の枠組領域についても限定されるものではない。
本発明におけるヒト型モノクローナル抗体は、例えば以下のようにして製造することができる。しかしながら、そのような製造方法に限定されるものでないことは言うまでもない。
例えば、マウスモノクローナル抗体に由来する組換ヒト型モノクローナル抗体は、特表平4−506458号公報及び特開昭62−296890号公報等を参照して、遺伝子工学的に作製することができる。即ち、マウスモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから、少なくとも1つのマウスH鎖CDR遺伝子と該マウスH鎖CDR遺伝子に対応する少なくとも1つのマウスL鎖CDR遺伝子を単離し、またヒトイムノグロブリン遺伝子から前記マウスH鎖CDRに対応するヒトH鎖CDR以外の全領域をコードするヒトH鎖遺伝子と、前マウスL鎖CDRに対応するヒトL鎖CDR以外の全領域をコードするヒトL鎖遺伝子を単離する。
単離した該マウスH鎖CDR遺伝子と該ヒトH鎖遺伝子を発現可能なように適当な発現ベクターに導入し、同様に該マウスL鎖CDR遺伝子と該ヒトL鎖遺伝子を発現可能なように適当なもう1つの発現ベクターに導入する。または、該マウスH鎖CDR遺伝子/ヒトH鎖遺伝子とマウスL鎖CDR遺伝子/ヒトL鎖遺伝子を同一の発現ベクターに発現可能なように導入することもできる。このようにして作製された発現ベクターで宿主細胞を形質転換することによりヒト型モノクローナル抗体産生形質転換細胞を得、該形質転換細胞を培養することにより培養上清中から目的のヒト型モノクローナル抗体を得る。
本発明における「ヒトモノクローナル抗体」とは、イムノグロブリンを構成するH鎖の可変領域及びH鎖の定常領域並びにL鎖の可変領域及びL鎖の定常領域を含む全ての領域がヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来するイムノグロブリンである。
ヒト抗体は、常法に従って、例えば、少なくともヒトイムノグロブリン遺伝子をマウス等のヒト以外の哺乳動物の遺伝子座中に組込むことにより作製されたトランスジェニック動物を、抗原で免疫感作することにより、前述したポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体の作製法と同様にして製造することができる。
例えば、ヒト抗体を産生するトランスジェニックマウスは、Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994;Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997;特 表平4-504365号公報;特表平7-509137号公報;日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年;国際出願公開WO94/25585号公報;Nature, Vol.368, p.856-859, 1994;及び特表平6−500233号公報などに記載の方法に従って作製することができる。
また、昨今開発された技術であるトランスジェニックなウシやブタのミルク中からヒト由来タンパクを製造方法を適用することも可能である(日系サイエンス、1997年4月号、第78頁乃至84頁)。
本発明における「抗体の一部」とは、前述のようなモノクローナル抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはF(ab')2 、Fab'、Fab 、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilised Fv)あるいはdAb(single domain antibody)などを意味する(エキスパート・オピニオン・オン・テラピューティック・パテンツ(Exp. Opin. Ther. Patents),第6巻,第5号,第441〜456頁,1996年)。
ここで、「F(ab')2」及び「Fab'」とは、イムノグロブリン(モノクローナル抗体)を、蛋白分解酵素であるペプシンあるいはパパイン等で処理することにより製造され、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体フラグメントを意味する。例えば、IgGをパパインで処理すると、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の上流で切断されてVL(L鎖可変領域)とCL(L鎖定常領域)からなるL鎖、及びVH(H鎖可変領域)とCHγ1(H鎖定常領域中のγ1領域)とからなるH鎖フラグメントがC末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な2つの抗体フラグメントを製造することができる。これら2つの相同な抗体フラグメントを各々Fab'という。またIgGをペプシンで処理すると、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の下流で切断されて前記2つのFab'がヒンジ領域でつながったものよりやや大きい抗体フラグメントを製造することができる。この抗体フラグメントをF(ab')2という。
本発明の「医薬組成物」とは、前記で定義される本発明の「ポリペプチド」、該ポリペプチドから構成される「ホモダイマー分子」、「ポリペプチド断片」または「融合ポリペプチド」、該融合ポリペプチドから構成される「ホモダイマー分子」、「抗体」または「抗体の一部」のいずれかと、薬学的に許容され得る担体とからなる医薬組成物である。
ここで「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の一つ以上を用いることにより、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、注射剤、液剤、カプセル剤、トロー剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、一つまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される外用液剤、腸溶内投与のための坐剤およびペッサリーなどが含まれる。
投与量は、患者の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは該医薬組成物に含有される活性成分(前記ポリペプチドや抗体など)の種類などにより異なるが、通常成人一人当たり、一回につき10μgから1000mg (あるいは10μgから500mg)の範囲で投与することができる。しかしながら、投与量は種々の条件により変動するため、上記投与量より少ない量で十分な場合もあり、また上記の範囲を越える投与量が必要な場合もある。
とりわけ注射剤の場合には、例えば生理食塩水あるいは市販の注射用蒸留水等の非毒性の薬学的に許容され得る担体中に0.1μg抗体/ml担体〜10mg抗体/ml担体の濃度となるように溶解または懸濁することにより製造することができる。このようにして製造された注射剤は、処置を必要とするヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg〜100mgの割合で、好ましくは50μg〜50mgの割合で、1日あたり1回〜数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射のような医療上適当な投与形態が例示できる。好ましくは静脈内注射である。
また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。
そのような注射剤の無菌化は、バクテリア保留フィルターを通す濾過滅菌、殺菌剤の配合または照射により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
本発明の医薬組成物は、T細胞等のリンパ球の活性化並びに活性化リンパ球の機能制御の異常に起因する種々の自己免疫性疾患、アレルギー性疾患または炎症性疾患の治療及び予防に適用が可能である。該疾患としては慢性関節リウマチ、多発性硬化症、自己免疫性甲状腺炎、アレルギー性接触性皮膚炎、慢性炎症性皮膚疾患である扁平苔癬、全身性エリテマトーデス、インスリン依存性糖尿病及び乾癬などが挙げられる。
また、本発明の医薬組成物の種々疾患症状の治療効果については、常法に従って、既知の疾患モデル動物に投与することにより試験、検討することができる。
例えば、(i)ヒト全身性エリテマトーデス(SLE)のモデルである(NZB/NZW)F1マウス(Science, Vol.125, p.1225-1227, 1994)、(ii)多発性硬化症(MS)として の実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)のモデル(J. Clin. Invest., Vol.95, p.2783-2789, 1995)、(iii)インスリン依存性糖尿病(IDDM)モデルであるNOD(non-obese diabetes)マウス(J. Exp. Med., Vol.181, p.1145-1155, 1995)、(iv) グッドパスチャー(Goodpasture)の腎炎モデルである腎糸球体基底膜免疫によ るラット腎炎モデル(Eur. J. Immunol., Vol.24, No.6, p.1249-1254, 1994)、(v)ヒト慢性関節リウマチモデルであるDBA/1マウス(Eur. J. Immunol., Vol.26, p.2320-2328, 1996)を用いることが可能である。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1] モノクローナル抗体の調製
以下に述べる抗体産生ハイブリドーマの調製は、ケーラー(Kohler)らの方法(Blood、第81巻、101-111ペ−ジ、1993年、大森ら)を参照しながら行い、また、モノクロ−ナル抗体の調製は神奈木らの方法(Handbook of Experimental Immunology、第4巻、117.21-117.21ペ−ジ、1986年)を参照しながら行った。
まず、ラット胸腺腫細胞株FTL435細胞を免疫感作抗原として、該抗原をBALB/cマウスに0日目(107細胞/匹)、7日目、14日目および28日目という間隔及び量でフットパッド投与した。初回免疫のみ該抗原をフロイント完全アジュバントと混和したものを投与した。最後の免疫感作から2日後に該マウスのリンパ節を採取 し、常法によりマウスミエロ−マ細胞PAI(JCR No.B0113; Res. Disclosure, Vol.217, p.155, 1982, Stocker,J.W.et al. )と融合させ、多数のモノクローナ ル抗体産生ハイブリドーマを得た。
[実施例2] ハイブリドーマのスクリーニング及びモノクローナル抗体の性状解析
実施例1で調製した各種ハイブリドーマの培養上清中に生成されたモノクロ−ナル抗体の免疫原であるFTL435細胞におよぼす効果を解析することによりハイブリドーマをスクリーニングした。
96穴マイクロタイタ−プレ−トの各ウエルにFTL435細胞(5×106cell/mlを0.1ml)を播種し、各ハイブリドーマの培養上清(それぞれ10μg/ml)を加え、37℃で1時間培養した。その内のハイブリドーマクローン「JTT-1」及びクローン「JTT-2」についての結果を図1及び図2に示す。
ハイブリドーマクローン「JTT-1」が産生するモノクローナル抗体(「JTT-1抗体」)は、FTL435細胞を強く凝集させる作用を持つことが確認された(図1(b)、及び図2(c))。一方、「JTT-1抗体」とともに「JTT-2抗体」を加えることにより、「JTT.1抗体」刺激によるFTL435細胞の凝集が強く抑制されることが確認され た(図1(d))。なお、いずれのハイブリドーマ上清も加えない系を対照とした(図1(a)及び図2(a))。
この「JTT-1抗体」刺激によるFTL435細胞の凝集が、代表的な既知の接着分子経路であるICAM-1(Intercellular adhesion molecule-1)とLFA-1(Lymphocyte function-associated antigen-1)の間の細胞接着によるものか否かを確認す るため、「JTT-1抗体」ともに抗ラットICAM-1抗体1A29(10μg/ml;IgG1)または抗ラットLFA-1抗体(10μg/ml;IgG2a)を加えて37℃で1時間培養した。
「JTT-1抗体」刺激によるFTL435細胞の凝集は、抗ICAM-1抗体及び抗LFA-1抗体のいずれによっても抑制されなかった([抗ICAM-1抗体]:図1(c)及び図2(f)、及び[抗LFA-1抗体]:図2(d))。
「JTT-1抗体」の細胞凝集能に関するさらなる性状解析にために、コンカナバリンAで刺激して活性化したラット活性化リンパ芽球細胞に対する凝集能を前述と同様にして解析した。結果を図2に示す。
FTL435細胞に対する作用と同様に、「JTT-1抗体」の刺激により活性化リンパ芽球細胞の凝集が誘導された(図2(i))。しかしながら、活性化リンパ芽球細胞に対しては、「JTT-1抗体」刺激による細胞凝集の多くは、抗LFA-1抗体(図2(j))および抗ICAM-1抗体(図2(l))により抑制された(但し、部分的凝集が残った)。
対照であるいずれの抗体も加えない系(図2(g))から明らかなように、活性化リンパ芽球等の活性化リンパ球は、PMA(Phorbol myristate acetate:LFA-1を 活性化させる機能を有する)(図2(h))や「JTT-1抗体」(図2(i))による刺激 を受けない限り何らの細胞接着による凝集は起こらない。従って、抗LFA-1抗体 により「JTT-1抗体」刺激による細胞凝集の部分的に抑制された事実は、活性化 リンパ芽球細胞においては、「JTT-1抗体」の刺激によりLFA-1が活性化されていることを示すものである。これは、「JTT-1抗体」により認識される分子が何ら かのシグナルの伝達に関与する機能を有していることを示すものである。
なお、ハイブリドーマクローン「JTT-1」及び「JTT-2」は、1996年10月11日付でブダペスト条約の下で認定された国際寄託機関である日本国通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に国際寄託した([JTT-1]:国際寄託番号FERM BP-5707、[JTT-2]:国際寄託番号FERM BP-5708)。
マウスモノクロ−ナル抗体アイソタイプ同定キット(Amersham社製)を用いた解析により、各々のハイブリドーマから産生させるモノクローナル抗体(JTT-1 抗体及びJTT-2抗体)のアイソタイプはともにIgG1と決定された。
[実施例3] 「JTT.1抗体」及び「JTT.2抗体」の各種細胞に対する反応性
各種細胞における「JTT.1抗体」及び「JTT.2抗体」の認識する分子の発現パタ−ンを解析する目的で、各種細胞に対する該抗体の反応性を確認した。なお、「JTT-1抗体」が認識する分子を「JTT-1抗原」と、また「JTT-2抗体」が認識する 分子を「JTT-2抗原」と命名する。
5乃至10週齢のウイスタ−ラット(150乃至250g)をジエチルエ−テルにて麻酔死させた。外科的手術により開腹して胸部及び腹部から各々胸腺及び脾臓を摘出し、すりつぶして細胞浮遊液を調製した。更に、脾臓細胞をコンカナバリンA(2μg/ml)及び10%FCSを含むRPMI1640培地中で37℃で、3日間培養することにより、活性化リンパ芽球を調製した。
FTL435細胞、胸腺細胞、脾臓細胞及び活性化リンパ芽球(各5×105個)を「JTT.1抗体」または「JTT.2抗体」と反応させ、次いでFITC標識抗マウスIgG(Cappel社製)反応させた後、染色された細胞の蛍光強度をエピックスエリ−ト(EPICS-Elite)フロ−サイトメ−タ−を用いて測定した。
結果を図3に示す。FTL435細胞では、「JTT.1抗原」及び「JTT.2抗原」の強い発現がみられた。胸腺細胞でも同分子の発現がみられたが、脾臓細胞ではわずかにしか発現していなかった。しかし、脾臓細胞をコンカナバリンAで刺激して得 た活性化リンパ芽球では、「JTT.1抗原」及び「JTT.2抗原」の強い発現がみられるようになった。また各々の細胞種において「JTT.1抗原」及び「JTT.2抗原」の発現パタ−ンは、一致していた。この結果は「JTT-1抗原」及び「JTT-2抗原」が同一の分子であることを示唆するものである。
[実施例4] 「JTT.1抗体」の種々リンパ系細胞に対する反応性種々リンパ系細胞での「JTT.1抗体」の認識する分子(「JTT-1抗原」)の発現パタ−ンを解析する目的で、2種類のラット(Wistarラット、及びF344ラット)のリンパ節、脾臓由来Tリンパ芽球、及び脾臓由来Bリンパ芽球に対する「JTT-1抗体」の反応性を解析した。
5乃至10週齢のWistarラット及びF344ラット(150乃至250g)をジエチルエ−テルにて麻酔死させた。各々のラットを外科的手術により開腹してリンパ節及び脾臓を摘出し、すりつぶして細胞浮遊液を調製した。更に、脾臓の細胞調製物をコンカナバリンA(ConA;2μg/ml)及び10%FCSを含むRPMI1640培地中で37℃で、3日間培養した。各々のラットについて、1日間培養後及び3日間培養後に、活性化Tリンパ芽球、及び活性化Bリンパ芽球を取得した。また、対照として、リンパ節細胞およびConAを加える前(0日)に取得した脾臓由来Tリンパ芽球、及びBリンパ芽球を用いた。
各々の細胞(各5×105個)を、ビオチン標識抗ラットT細胞抗体またはビオチン標識抗ラットB細胞抗体(10μg/ml,生化学工業製)と反応させた後、ピコエリスリン標識ストレプトアビジンと反応させた。次いで、FITC標識した「JTT-1抗体」(10μg/ml)と反応させ、染色された細胞の蛍光強度をエピックスエリート(EPICS-Elite)フローサイトメーターを用いて測定した。
結果を図4に示す。Wistarラット及びF344ラットともに、活性化Tリンパ芽球、及び活性化Bリンパ芽球のいずれにおいてもConA刺激による活性化の1日目から「JTT.1抗原」の強い発現がみられた。また各々の細胞種における「JTT.1抗原」の発現パタ−ンは、ほぼ一致していた。
[実施例5] 免疫沈降実験による「JTT.1抗原」及び「JTT.2抗原」の性状解析「JTT.1抗原」及び「JTT.2抗原」の性状を解析する目的で、FTL435細胞を用いて免疫沈降実験を行った。
(1)ビオチン化可溶性細胞表面分子の調製
FTL435細胞をPBSで洗浄した後、100μg/mlのNHS-ビオチンを含む0.1Mヘペス含有生理食塩水(pH8.0)に1×107細胞/mlになるよう懸濁し、室温で40分間反応させた。細胞をPBSで3回洗浄した後、可溶化バッファ−(1%NP-40、10mMTris-HCl(pH7.4)、0.15MNaCl)を5×107cells/mlになるように添加し、4℃、30分間反応させ細胞を溶解した。得られた細胞溶解物を遠心し、ビオチン化可溶性細胞表面分子を含む遠心上清を−80℃で保存した。
(2)免疫沈降及びSDS-PAGE解析
実施例1で調製したハイブリドーマクローン「JTT-1」の培養上清から常法により精製した「JTT.1抗体」の精製標品を、2mg/mlになるようにプロテインG-セファロ−スビーズと混合し、4℃で1時間反応させビーズに抗体を結合させた。ビ−ズを洗浄し、10μlのビ−ズに対しビオチン化FTL435細胞可溶化物を500μl添加し、4℃で2時間反応させた。ビ−ズを可溶化バッファ−で3回洗浄し、50μlの グリカナ−ゼバッファ−(0.15%SDS含有ナトリウムリン酸バッファ−(pH7.0))を加え煮沸することにより抗体結合ビーズにトラップされた結合分子を溶出させた。溶出サンプルの一部に1.25%NP-40とN-グリカナ−ゼ(20U/ml)を添加し一晩反応させ、N型糖鎖を消化した。
溶出サンプル5μlに2-メルカプトエタノ−ル存在下あるいは非存在下でSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)用サンプルバッファ−(Enprotech 社製)を等量添加して煮沸し、電気泳動後、PVDF膜に転写した。転写膜を 3% BSA-PBS でブロッキングを行い、次いでペルオキシダ−ゼ標識ストレプトアビジンと反応させた後、使用説明書の記載に従いECLシステム(Amersham社製)を用いて「JTT-1抗体」によりトラップされたビオチン化可溶性細胞膜表面分子を検出 した。
図5に結果を示す。「JTT.1抗体」により認識されるFTL435細胞上の分子(「JTT-1抗原」)は、非還元下(図5中に「(-)」で示した)で約47kDの分子量を有し、また還元下(図5中に「(+)」で示した)で約24kDおよび約28kDの分子量を 有していた。またN型糖鎖を消化を行うことにより(図5中に「+N-gly」で示した)、「JTT.1抗原」は、非還元下で約36kD、また還元下で約20kDの1本のバン ドに収束した。以上の結果から、「JTT.1抗原」は、糖鎖修飾が異なりコア蛋白 が同一の分子からなるダイマ−を形成していると推定された。なお、「JTT.2抗体」を用いて上述と同様にして行った試験においても全く同様の結果が得られた。この結果と実施例3及び後述の実施例7の結果を考え合わせると、「JTT.1抗原」(「JTT-1抗体」により認識される分子)及び「JTT.2抗原」(「JTT-2抗体」により認識される分子)は全く同一の分子であると考えられた。
[実施例6] 精製「JTT.1抗原」に対するラット胸腺細胞の接着実験並びにN末端アミノ酸解析
「JTT.1抗体」が認識する分子(「JTT-1抗原」)が接着分子としての機能を有しているか否かを解析するため以下の実験を行った。また、N末端アミノ酸解析を行った。
(1)「JTT.1抗体」アフィニティーカラムの調製
実施例1で調製したハイブリドーマクローン「JTT-1」の培養上清から常法により精製した「JTT.1抗体」の精製標品2mg(2ml)を1mlのプロテインG-セファロ−ス樹脂と混合し、4℃で1時間反応させた。樹脂を200mMのトリエタノ−ルアミン(pH8.2)で3回洗浄した。さらに、10mMジメチルピメリミデイト(DMP)を含むトリエタノ−ルアミン(pH8.2)中で室温下1時間インキュベ−トすることにより、樹脂に「JTT.1抗体」を共有結合させた。
(2)「JTT.1抗原」の精製
FTL435細胞を10%FCS含有RPMI1640培地を用いて培養した。細胞を遠心操作により回収し、ペレットをPBSにて3回洗浄した。洗浄後のペレットに可溶化バッファ−(1%NP-40、10mMTris-HCl(pH7.4)、0.15MNaCl)を5×107cells/mlになるよう に添加し、4℃で30分間反応させ細胞を溶解した。得られた細胞溶解物を遠心し、可溶性細胞表面分子を含む遠心上清を-80℃で保存した。
可溶化物400mlを「JTT.1抗体」アフィニティーカラムに添加した。カラムを可溶化バッファ−50ml及びPBS20mlで洗浄した後、0.2Mグリシンバッファ−(pH2.8)で「JTT-1抗原」を溶出させた。溶出した「JTT-1抗原」に1Mトリスバッファーを添加して中和した。得られた「JTT.1抗原」は、マイナス80℃で保存した。
(3)N末端のアミノ酸配列の決定
得られた精製「JTT-1抗原」を、SDS-PAGEで展開後、常法によりN末端のアミノ酸配列を決定し、Glu-Leu-Asn-Asp-Leu-Ala-Asn-His-Argのアミノ酸配列を含む ことが明らかとなった。
(4)接着実験
5乃至10週齢のウイスタ−ラット(150乃至250g)をジエチルエ−テルにて麻酔死させた。外科的手術により胸部を開腹して胸腺を摘出し、すりつぶして胸腺細胞浮遊液を調製した。細胞浮遊液に、2',7'-ビス(カルボキシエチル)カルボキシフルオレインテトラセトキシメチルエステル(BCECF-AM; Molecular Probes社製)10μMを添加し、37℃で30分間培養することにより、蛍光標識を行った。細 胞をPBSで洗浄した後、10%FCSを含むRPMI1640培地中に、2×107cell/mlの濃度になるように再浮遊させた。
96穴ELISAプレ−トに、(2)で得た精製「JTT.1抗原」を10μl/wellで1晩コ−ティングした。プレ−トをPBSで洗浄した後、3%BSAを含むPBSを200μl/well添加し2時間ブロッキングを行った。プレ−トをPBSで洗浄した後、各ウエルに(i)蛍光標識胸腺細胞(2×107cells/mlを0.1ml)のみ、(ii)蛍光標識胸腺細胞(同濃度)及び常法により調製した「JTT.1抗体」のFab断片(5μg/ml)、並びに(iii)蛍光 標識胸腺細胞(同濃度)、該「JTT.1抗体」のFab断片(同濃度)及び「JTT.2抗 体」(10μg/ml)を加え、37℃で1時間培養した。結合していない細胞を除去するために、各ウエルを10%FCSを含むRPMI1640培地にて1回洗浄した。各ウエルを光学顕微鏡で観察した。次いで、各ウェルに0.1%NP-40溶液100μlを添加してプ レートに結合している細胞をで溶解した。フルオロスキャンIIマイクロプレ−ト・フルオロメ−タ−(Flow Laboratories社製)を用いて、538nm(485nmで励起)の波長での蛍光強度を測定することにより、各ウエルに結合した蛍光標識胸腺細胞の相対細胞数を計数した。なお、精製「JTT-1抗原」をコーティングしない 系を対照とした。
光学顕微鏡観察の結果を図6に示す。
胸腺細胞は、「JTT.1抗体」のFab断片存在下でのみ有意に精製「JTT.1抗原」に接着した(図6(c))。またその接着は、「JTT.2抗体」により有意に阻害された(図6(d))。
なお、各ウェルにコーティングした「JTT.1抗原」に接着した胸腺細胞の相対細胞数を蛍光強度により測定した結果を図7に示した。
以上の結果により、「JTT.1抗原」は、接着分子としての機能を有していることが確認された。
[実施例7] ラット「JTT.1抗原」をコードするcDNAのクロ−ニング
1.cDNAライブラリ−の作製
1−(1) ConA刺激ラットリンパ芽球からのpoly(A)+RNAの抽出
ConAで刺激したラット脾臓由来リンパ芽球(Con A blast)(約1×106cells/ml)を4℃で5分間(2,000×g)遠心して、沈殿した細胞をISOGEN(ニッポンジ−ン社製)を用いて懸濁し、クロロホルムで浸とう抽出して上清を回収した。得られた上清にイソプロパノ−ルを添加して室温で10分間放置した後、4℃で10分間、12,000×gにて遠心し、RNAを沈殿させた。沈殿したRNAをエタノ−ルで洗浄し た後、TE緩衝液に溶解した。得られた全RNAから、「mRNA Purification Kit」(Pharmacia社製)を用いてpoly(A)+RNAを精製した。
1−(2) cDNAの調製
調製したpoly(A)+RNA5μgを鋳型とし、「Time Saver cDNA Synthesis Kit」(Pharmacia社製)を用いてcDNAを合成した。スクリ−ニングの効率を上げるため、NotI切断部位を有する「oligo dTプライマ−」(Pharmacia社製)を用いた。次いでEcoRIをアダプタ−付加し、NotI消化を行い、単一方向性を有するcDNAを 得た。更にスパンカラム(Pharmacia社製)を用いてサイズ分画を行った。
1−(3) ベクタ−への組み込み
得られたEcoRIおよびNotI末端を有するcDNAを、EcoRIおよびNotI処理したベクタ−pME18S(Hara,T. and Miyajima,A. EMBOJ.,11,1875-1884,1992)に連結した。連結反応には「DNA ligation Kit」(宝酒造社製)を用いた。得られた反応生成物を用いてE.coli DH5(東洋紡社製)を形質転換した。形質転換体はO.D.値(600nm)が0.6になるまで培養した後集菌し、ライブラリ−を含むプラスミドDNAを 回収した。プラスミドDNAの精製にはQUIAGEN-Tip(QUIAGEN社製)を用いた。
2. cDNAライブラリ−のスクリニ−ング
スクリ−ニング法はパニング法(Seed,B. et al. Proc.Natl.Acad.Sci USA, 84, 3365-3369, 1987)に準じて行った。
2−(1) COS細胞への遺伝子導入
得られたライブラリ−をエレクトロポレ−ション法(Potter,H.et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 2288-2292)によりCOS7細胞に導入した。導入後60 時間培し、上清を除去しPBSで3回洗浄した。次いでPBS(0.5mM EDTA)で処理(37℃、30分)した後ピペッティング操作により細胞を剥がした。さらに「Lymphprep」(NYCOMED社製)を用いて生細胞のみを回収した。
2−(2) パニングによる遺伝子発現細胞の濃縮
得られた生細胞をPBS(5%FCS、0.5mM EDTA)に懸濁した。細胞懸濁液を「JTT.1抗体」をコ−トした培養皿に移し、室温で3時間作用させた。培養皿への非結合細胞を除去し、培養皿をPBSで3回洗浄した後、培養皿に結合した細胞からHirt法(Hirt,B.J.Mol.Biol.,26.365-369)によりプラスミドDNAを回収した。得られたプラスミドDNAを用いてE.coli DH10B(GIEBCO BRL社製)を形質転換した。形質転 換体を用いて前記1-(3)と同様にプラスミドDNAを増幅、精製した。得られたDNA を用いて、前記(1)及び本(2)に記載の操作を更に2回繰り返し行った。
2−(3) ポジティブクロ−ンの単離
3回目のパニング後、形質転換したE.coli DH10Bをアンピシリン含有LB plateで終夜培養しコロニ−を得た。薬剤耐性コロニ−20個を培養しアルカリ・ミニプレップ法(Maniatis,T.et al.Molecular Cloning;A Larolatory Mnual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York)でプラスミドDNAを回収し挿入されたDNA(インサ−トDNA)を解析した。アガロ−スゲル電気泳動の 結果、約0.9kbのcDNAを有するクロ−ン(以下、このクローンを「T132A7」と称する)が濃縮されていることが明らかとなった。
前記(1)に記載の方法を用いて、「T132A7」を再びCOS7細胞で一過性に発現させた。「T132A7」導入細胞を、「JTT.1抗体」または「JTT.2抗体」と反応させ、次いでFITC標識抗マウスIgG(Cappel社製)反応させた後、染色された細胞の蛍 光強度をEPICS-Eliteフロ−サイトメ−タ−(Coulter社製)を用いて測定した。「JTT.1抗体」及び「JTT.2抗体」は「T132A7」遺伝子産物を強く認識していた。結果を図8に示す。
3. 塩基配列及びアミノ酸配列の決定
クロ−ン「T132A7」の塩基配列を、ジデオキシ法により「Auto Read Sequencing Kit」(Pharmacia社製)と「A.L.F.DNA sequencer」(Pharmacia社製)を用 いて決定した。また、該塩基配列がコードする「ラットJTT.1抗原」の推定アミノ酸配列を遺伝子解析ソフト「GENEWORKS」(IntelliGenetics社製)を用いて解析した。該塩基配列及び推定アミノ酸配列を、配列番号4に記載する。
クローニングした遺伝子から演繹されるアミノ酸配列(200アミノ酸残基から構成される)には、実施例6-(3)で決定したN末端アミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含んでいた。クロ−ン「T132A7」導入細胞が、「JTT-1抗体」に強く反応することを考え合わせると、クロ−ン「T132A7」は「ラットJTT.1抗原」をコードするcDNAを含んでいると結論できる。
4. コンピューター解析
「JTT.1抗原」の推定アミノ酸配列の一次構造について、KiteとDoolittleの方法(Kite,J.&Doolittle,R.F.J.Mol.Biol.157,105-132,1982)に従ってハイドロパシー・ブロット解析を行った(図9)。その結果、「JTT.1抗原」はN末端にシグナル配列を有する細胞膜貫通蛋白質であることが明らかとなった。また、モチーフ解析の結果、「JTT.1抗原」の細胞外ドメインに2カ所のアス パラギン結合型糖鎖結合部位を有し、また細胞内ドメインに2カ所のカゼインキナーゼリン酸化部位並びに1カ所のプロテインキナーゼCリン酸化部位を有していることが明らかとなった。なお、図9中の「CHO」はN型糖鎖結合部位を示し、「P」はリン酸化部位を示し、「CKII」はカゼインキナーゼIIを示し、「PKC」はプロテインキナーゼCを示す。
[実施例8] 「ヒトJTT.1抗原」cDNAのクロ−ニング
1. プロ−ブの作製
実施例7で得たクロ−ン「T132A7」を制限酵素EcoRIおよびNotIで消化して、「ラットJTT.1抗原」をコードするcDNA約0.9kbを切り出し、アガロ−スゲル電気泳動により分離した。分離したDNA断片を「QUIAEX gel extraction kit」(QUIATEN社製)を用いて精製し、得られたDNA断片を「Ready-To-Go DNA labelling kit」(Pharmacia社製)を用いて32Pで標識した。この標識DNA断片をプラ−クハ イブリダイゼイ−ション用のプロ−ブとして用いた。
2. cDNAライブラリ−の作製
2−(1) poly(A)+RNAの抽出
実施例7-1-(1)と同様にして、ConAで刺激したヒト末梢血由来のリンパ芽球(Con A blast)からpoly(A)+RNAを抽出した。
2−(2) cDNAの調製
調製したpoly(A)+RNA5μgを鋳型とし、「oligo dTプライマ−」(Pharmacia社製)と「Time Saver cDNA Synthesis Kit」(Phramacia社製)を用いてcDNAを合成した。次いで、EcoRIアダプタ−を付加した後、スパンカラム(Pharamacia社製)を用いてサイズ分画を行った。
2−(3) ベクタ−への組み込み及びパッケ−ジング
得られたEcoRI末端を有するcDNAを、EcoRIで処理したベクタ−「λZAPII」(Stratagene社製)に連結した。連結反応には「DNA ligation Kit」(宝酒造社製)を用いた。これを「GIGA PACK II GOLD」(Strategene社製)を用いてインビ トロパッケージング(in vitro packaging)した後、得られたファ−ジ粒子を用いて、E coli XL1Blue MRF'(Strategene社製)を宿主として組換えファ−ジを 含有するプラ−クからなるcDNAライブラリ−を作製した。
3. cDNAライブラリ−のスクリ−ニング
スクリ−ニングは「Rapid hybridization buffer」(Amersham社製)を用いたプラ−クハイブリダイゼ−ション法(Maniatis,T.et al.Molecular Cloning:A Labolatory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York)に従い行った。得られたcDNAライブラリ−(1×104個)を寒天プレ−トにまき、「Hybond-N nylon menbrane」(Amersham社製)を用いてレプリカを作製し た。レプリカと前記実施例8-1で作製した32P標識プロ−ブを用い、「Rapid hybridization buffer」(Amersham社製)中でプラ−クハイブリダイゼイ−ション を行った。1次スクリ−ニング及び2次スクリ−ニングを行い、8個のポジティブ・クロ−ンを得た。各クロ−ンをシングルプラ−クで単離後、マニュアル(Strategene社)に従ってインビボエキサイション(in vivo Excision)に供し、7つのポジティブクロ−ンをプラスミドDNAとして回収した。
4. 塩基配列決定
7個のクロ−ンの塩基配列を、ジデオキシ法により、「Auto Read Sequencing Kit」(Pharmacia社製)と「A.L.F.DNA sequencer」(Pharmacia社製)を用い て決定した。7個のクロ−ンはすべて同じ塩基配列を含んでいた。このうちクロ−ン「pBSh41」は、「ヒトJTT-1抗原」の全長をコ−ドしていることが確認され た。「ヒトJTT-1抗原」の読取り枠(open reading frame; ORF)に対応するcDNAの塩基配列を配列番号1に、また「ヒトJTT.1抗原」の推定全長アミノ酸配列を 配列番号2、また5'及び3'配列を含む塩基配列を配列番号3(ORFは、塩基番号26乃至625)に示す。該クローンに含まれる塩基配列が、「ヒトJTT-1抗原」の全 長をコードするものであることは、該塩基配列から演繹されるアミノ酸配列(199アミノ酸残基から構成される)が、「ラットJTT.1抗原」のアミノ酸配列と 有意な相同性を示すことから明らかである(図10)。また、図10に示されるとおり、ヒト及びラットの「JTT.1抗原」のアミノ酸配列相同性は、60%以上である。
なお、クローン「pBSh41」により形質転換したE.coli.DH10B(GIBCO BRL社製)を、1996年10月25日付でブダペスト条約の下で認定された国際寄託機関である日本国通産省工業技術院生命工学技術研究所に寄託した(寄託番号:FERM BP-5725)。
5. 「JTT-1抗原」の構造的特徴及び生物学的機能
演繹される「ヒトJTT-1抗原」のアミノ酸配列について、既知ヒトタンパクとのモチーフ検索を行った結果、「ヒトJTT-1抗原」は、先に詳細に述べた免疫グロブリンスーパーファミリーに属するヒト由来の細胞膜分子である「CD28」及び「CTLA-4」と次の点で構造的類似性を有していることが確認された(図11及び図12)。前述したとおり、「CD28」及び「CTLA-4」は、T細胞の活性化及び抑制を制御する免疫系において極めて重要な分子である。
即ち、(i)システイン残基を含む20以上のアミノ酸残基が良く保存されている。(ii):CD28及びCTLA-4におけるリガンド結合領域として必須なプロリン残基の連続する配列「Pro-Pro-Pro(PPP)」が保存されている。また、(iii):細胞内ドメインに、CD28及びCTLA-4におけるシグナル伝達領域として必須な配列「Tyr-Xaa-Xaa-Met(YxxM)(Xaa及びxは任意のアミノ酸を意味する。)が保存されている。
本発明の「JTT-1抗原」は、そのような免疫反応の主役であるT細胞の活性化の制御において重要な役割を担う「CD28」及び「CTLA-4」に特徴的な構造と同一の構造を有することから、本発明の「JTT-1抗原」は、それらの分子と同様に免疫反応の主体であるT細胞をはじめとしたリンパ球の活性化の制御において重要な役割も果たす分子であることが推測される。
[実施例9] 「マウスJTT-1抗原」をコードするcDNAのクローニング
1. プローブの作製
実施例7で得たクロ−ン「T132A7」を制限酵素EcoRIおよびNotIで消化して、「ラットJTT.1抗原」をコードするcDNA約0.9kbを切り出し、アガロ−スゲル電気泳動により分離した。分離したDNA断片を「QUIAEX gel extraction kit」(QUIATEN社製)を用いて精製し、得られたDNA断片を「Ready-To-Go DNA labelling kit」(Pharmacia社製)を用いて32Pで標識した。この標識DNA断片をプラ−クハイブリダイゼイ−ション用のプロ−ブとして用いた。
2. cDNAライブラリーの作製
2−(1) poly (A)+RNAの抽出
実施例7-1-(1)と同様にして、ConAで刺激したマウス脾臓由来リンパ芽球(約1×106cells/ml)からのpoly (A)+RNAを抽出した。
2−(2) cDNAライブラリーの作製
前記で調製したpoly (A)+RNA 5mgを鋳型とし、oligo dTプライマー(Pharmacia社製)及び「Time Saver cDNA Synthesis Kit」(Pharmacia社製)を用いてcDNAを合成した。該cDNAにEcoRIアダプター付加した後、スパンカラム(Pharmacia社製)を用いてサイズ分画を行った。
2−(3) ベクターへの組み込み及びパッケージング
前記で得られたEcoRI末端を有するcDNAを、EcoRIで処理したベクターlZAPII(Stratagene社製)に連結した。連結反応には「DNA ligation Kit」(宝酒造社製)を用いた。これをGIGA PACK II GOLD(Stratagene社製)を用いてin vitro packagingした後、得られたファージ粒子を用いて、E coli XL1Blue MRF'(Stratagene社製)を宿主として組み換えファージを含有するプラークからなるcDNAライブラリーを作製した。
3. cDNAライブラリーのスクリーニング
スクリーニングはRapid hybridization buffer(Amersham社製)を用いたプラークハイブリダイゼーション法(Maniatis, T. et al. Molecular Cloning: A Labolatory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York)に従い行った。
前記で得られたcDNAライブラリー(1×104個)を寒天プレートに播種し、Hybond-N nylon menbrane(Amersham社製)を用いてレプリカを作製した。レプリカ及び前記9-1で作製した32P標識プローブを用い、Rapid hybridization buffer(Amersham社製)中でプラークハイブリダイゼーションを行った。1次スクリーニング及び2次スクリーニングを行い、5個のポジティブ・クローンを得た。各クローンをシングルプラークで単離後、Stratagene社Instruction Manualに従ってin vivo Excisionに供し、5クローンをplasmid DNAとして回収した。
4. 塩基配列決定
5個のクローンの各々について、 ジデオキシ(dideoxy)法により、「Auto Read Sequencing Kit」(Pharmacia社製)及び「A.L.F.DNA sequencer」(Pharmacia社製)を用いて塩基配列を決定した。該5クローン中の4個のクローンはすべて同じ塩基配列を含んでいた。「マウスJTT-1抗原」の全長をコードするcDNAの塩基配列及び推定アミノ酸配列を配列番号5に記載する。
図10から明らかなように、「マウスJTT-1抗原」は、「ラットJTT-1抗原」と同様に200アミノ酸残基から構成され、またマウス、ラット及びヒトの「JTT-1抗原」は、各々の間で有意なアミノ酸配列相同性(60%以上)を有していた。
5. 「マウスJTT-1抗原」の遺伝子の染色体上の位置の解析
「マウスJTT-1抗原」をコードする遺伝子 の染色体上の位置を、蛍光インサイチュウ(in situ)ハイブリダイゼーション法により解析した。
得られた「マウスJTT-1抗原」をコードするcDNAを32Pで標識して常法に従ってハイブリダイゼーション用プローブを作製した。このプローブを用いて、129 SVJ マウスゲノミックDNAライブラリー(STRATAGENE社製)をスクリーニングし、「マウスJTT-1抗原」をコードするエクソンを含むマウスゲノミックDNAクローンを取得した。該ゲノミックDNAの構造を模式的に示した図を図13に示す。
前記で得たゲノミックDNAクローンをニックトランスレーションにより、ジゴ キシゲニンdUTP(digoxigenin dUTP)で標識しプローブとした。該標識プローブを分断したマウスDNAを結合させた後、50%ホルムアルデヒド、10%硫酸デキスト ラン及び2×SSCを含む溶液中で、マウス胚性線維芽細胞由来の正常な細胞分裂 中期(metaphase)染色体にハイブリダイズさせた。特異的ハイブリダイゼーションシグナルは、ハイブリダイゼーション用スライドを蛍光標識した抗ジゴキシゲニン抗体中でインキュベートした後、DAPIで染色することにより検出した。初回の試験においては、そのDNAサイズ及び現れたバンドの状況から、1番染色体 と思われる最も巨大な染色体の近傍部分に特異的標識がなされた。この情報に基づき、1番染色体のセントロメア領域に特異的なプローブとともに前記ゲノミックDNAクローンを共ハイブリダーゼーションさせた。この結果、1番染色体のセントロメア領域とその近傍の領域が特異的に標識された。特異的ハイブリダーゼーションが見られた1番染色体(10サンプル)を解析した結果、前記ゲノミックDNAクローンはヘテロクロマチンとユークロマチンとの境界から1番染色体の テロメアまでの距離の33%の位置、即ち、マウス「CD28」及び「CTLA-4」の遺伝子の染色体上の位置と同一のバンド「1C3」に存在することが明らかとなった。総計80個の細胞分裂中期の細胞について解析した結果、79個の細胞で該位置に特異的標識が確認された。
この結果と実施例8で得られた結果、即ち「JTT-1抗原」と「CD28」及び「CTLA-4」との構造的類似性を考え合わせると、「JTT-1抗原」が「CD28」や「CTLA-4」と同様なコスティミュレイトリーシグナルの伝達及び/またはリンパ球の活性化の制御に関与する重要な分子であることが推察される。
[実施例10] 「ラットJTT-1抗原」の変異体をコードするcDNAのクローニング
実施例7でクローニングした「ラットJTT-1抗原」のオールタナティブ・スプライシング変異体(alternative splicing variant)をコードするものと考えられる他の1つのcDNAを下記のようにクローニングした。
1. プローブの作製
実施例7で得たクロ−ン「T132A7」を制限酵素EcoRIおよびNotIで消化して、「ラットJTT.1抗原」をコードするcDNA約0.9kbを切り出し、アガロ−スゲル電気泳動により分離した。分離したDNA断片を「QUIAEX gel extraction kit」(QUIATEN社製)を用いて精製し、得られたDNA断片を「Ready-To-Go DNA labelling kit」(Pharmacia社製)を用いて32Pで標識した。この標識DNA断片をプラ−クハ イブリダイゼイ−ション用のプロ−ブとして用いた。
2. cDNAライブラリーの作製
2−(1)poly (A)+RNAの抽出
実施例7-1-(1)と同様にして、ラット胸腺腫細胞株FTL435(約1×106cells/ml)からのpoly(A)+RNAを抽出した。
2−(2) cDNAライブラリーの作製
前記のように調製したpoly (A)+RNA 5mgを鋳型とし、oligo dTプライマー(Pharmacia社製)及び「Time Saver cDNA Synthesis Kit」(Pharmacia社製)を用いてcDNAを合成した。該cDNAにEcoRIアダプターを付加した後、スパンカラム(Pharmacia社製)を用いてサイズ分画を行った。
2−(3) ベクターへの組み込み及びパッケージング
前述のようにして得られたEcoRI末端を有するcDNAを、EcoRIで処理したベクターlZAPII(Stratagene社製)に連結した。連結反応には「DNA ligation Kit」(宝酒造社製)を用いた。これをGIGA PACK II GOLD(Stratagene社製)を用いてin vitro packagingした後、得られたファージ粒子をもちいて、E coli XL1Blue MRF'(Stratagene社製)を宿主として組み換えファージを含有するプラークからなるcDNAライブラリーを作製した。
3. cDNAライブラリーのスクリーニング
スクリーニングはRapid hybridization buffer(Amersham社製)を用いてプラークハイブリダイゼーション法(Maniatis, T. et al. Molecular Cloning: A Labolatory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York)に従い行った。
前記で調製したでcDNAライブラリー(1×104個)を寒天プレートにまき、Hybond-N nylon menbrane(Amersham社製)を用いてレプリカを作製した。該レプリ カ及び前記10-1で作製した32P標識プローブを用い、Rapid hybridization buffer(Amersham社製)中でプラークハイブリダイゼーションを行った。1次スクリーニング及び2次スクリーニングを行い、2個のポジティブ・クローンを得た。各クローンをシングルプラークで単離後、Stratagene社Instruction Manualに従ってin vivo Excisionに供し、2クローンをplasmid DNAとして回収した。
4. 塩基配列決定
2個のクローンの各々について、ジデオキシ(dideoxy)法により「Auto Read Sequencing Kit」(Pharmacia社製)及びA.L.F.DNA sequencer(Pharmacia社製)を用いて 塩基配列を決定した。2個のクローンはすべて同じ塩基配列を含んでいた。得られた「ラットJTT-1抗原」の全長をコードするcDNAの塩基配列及び 推定アミノ酸配列を配列番号6に記載する。得られたcDNA配列から演繹されるアミノ酸配列(配列番号6)を、実施例7でクローニングした「ラットJTT-1抗原」をコードするcDNA配列から演繹されるアミノ酸配列(配列番号4)と比較した(図14)。その結果、図14から明らかなように、本試験でクローニングされたcDNAによりコードされるアミノ酸配列は、実施例7で得られた「ラットJTT.1 抗原」をコードするcDNAによりコードされるアミノ酸配列と比べ、(i)C末端の3つの連続するアミノ酸配列(Met-Thr-Ser)がThr-Ala-Proに変化している点、並びに(ii)該Thr-Ala-Proに続いてさらに16の連続するアミノ酸残基(Leu-Arg-Ala-Leu-Gly-Arg-Gly-Glu-His-Ser-Ser-Cys-Gln-Asp-Arg-Asn)が延長されているという2つの相違点以外は、全く同一のアミノ酸配列であった。このことからの本試験でクローニングされたcDNAは、実施例7で得られた「ラットJTT.1抗原」の オールタナティブ・スプライシング変異体(alternative splicing valiant)をコードしていると考えられる。
[実施例11] 組換え「ヒトJTT-1抗原」発現細胞の調製
実施例8で取得したプラスミドクロ−ンpBSh41を、制限酵素EcoRIで消化して、「ヒトJTT-1抗原」の全長をコードするcDNAを含むDNA断片を切り出した。このDNA断片を、DNAライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて、同じく制限酵素EcoRIで処理したプラスミドpEFneo(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 91, 158-162, 1994)に挿入し発現ベクターを作製した。エレクトロポレーションにより、該ベクターでCHO-K1細胞(ATCC: CCL-61)を形質転換した。細胞を、Geneticin(0.8 mg/ml; GIBCO BRL製)及び10%ウシ胎児血清(fetal calf serum)を含有するRPMI1640培地中で約2週間培養することにより、Geneticin耐性形質転換細胞を選別 した。組換え「ヒトJTT-1抗原」の発現は、常法によりノーザンブロティングに より確認した。
[実施例12] 「ヒトJTT.1抗原」に対するモノクローナル抗体の調製
実施例11で調製した組換え「ヒトJTT-1抗原」を発現する形質転換細胞を、ホモジナイズし、超遠心分離(100,000×g)して、細胞膜画分を含む遠心残さ を回収し、PBSに懸濁させた。得られた細胞膜画分を、完全フロインドアジュバントとともにBALB/cマウスのフッドパッド内に注射することにより初回免疫(0日)した。さらに該細胞膜画分抗原を7日目、14日目および28日目という間隔でフットパッド内に投与した。最後の免疫から2日後にリンパ節細胞を採取した。該リンパ節細胞とマウスミエローマ細胞PAI(JCR No.B0113; Res. Disclosure, Vol.217, p.155, 1982)とを5:1で混合し、融合剤としてポリエチレングリコール4000(GIBCO製)を用いて細胞融合させることによりモノクローナル抗体産 生ハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの選択は、10%ウシ胎児血清とアミノプテリンを含有するHAT含有ASF104培地(味の素製)中で培養することにより行った。各々のハイブリドーマの培養上清中に生成されたモノクローナル抗体の「ヒトJTT-1抗原」に対する反応性は、各々の培養上清を実施例11で調 製した組換え「ヒトJTT-1抗原」を発現する形質転換細胞と反応させた後、FITC 標識抗マウスIgG(Cappel製)と反応させることにより染色された細胞の蛍光強 度をEPICS-ELITEフローサトメーターで測定することにより確認した。この結果、「ヒトJTT-1抗原」に反応性を有するモノクローナル抗体を産生する10種以 上のハイブリドーマが得られたことが確認された。
これらのハイブリドーマの内の2種類(各々クローンSA12及びSG430命名)の 各々(106乃至107個/0.5ml/マウス)を、ICR nu/nuマウス(雌、7乃至8週齢)の腹腔内に注射した。10乃至20日後、マウスを麻酔下で開腹し、常法に従って採取した腹水から「ヒトJTT-1抗原」に反応性を有する2種類のモノク ローナル抗体(SA12及びSG430)を大量調製した。
[実施例13] 「ヒトJTT-1抗原」に対するモノクローナル抗体のヒト末梢血リンパ球に対する効果
実施例8で述べたとおり、「JTT-1抗原」は「CD28」や「CTLA-4」と同様に免疫反応におけるリンパ球細胞の活性化の制御に関与する可能性を有すると考えられる。この可能性を実証するため、「ヒトJTT-1抗原」に対するモノクローナル 抗体のヒトリンパ球に対する効果を細胞の増殖を指標として解析した。
96穴マクロタイタープレートの各ウェルに(i)実施例12で調製した「ヒトJTT-1抗原」に対するモノクローナル抗体SA12若しくはSG430のいずれか一方(1μg/ml)のみ、または(ii)モノクローナル抗体SA12若しくはSG430のいずれか一方(1μg/ml)とリンパ球の活性化における第1シグナル付与のための抗CD3モノクローナル抗体OKT-3(1μg/ml、オーソ・ダイアノスティック・システムズ社製)との混合溶液を加えて37℃で1時間培養して各ウェルを該抗体でコーティングした。プレートをRPMI1640培地で洗浄した後、各ウェルに正常ヒト末梢血リンパ球(1×105cells/well)を加え、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地中で3日 間培養した。必要に応じてPMA(phorbol myristate acetate:1 ng/ml)を添加 した。次いで、各ウェルに[3H]チミジン(3.7μkBq/ウェル)を添加して、37℃で6時間培養した。細胞を回収(ハーベスト)し、DNA内に取り込まれた[3H]チミジンの量を液体シンチレーションカウンター(ベックマン製)を用いて測定した。なお、いずれの抗体も加えない培養系を対照とした。結果を図15に示した。
モノクローナル抗体SA12またはSG430のいずれかの単独で処理した場合には、いずれの抗体を用いた場合にも対照に比べリンパ球が約10倍に増殖した。さらに、OKT3との併用の場合には、モノクローナル抗体SA12またはSG430のいずれを用いた場合にもリンパ球が約100倍に増殖した。
この結果は、「JTT-1抗原」が、リンパ球の活性化の制御において機能することを示すものである。また、OKT3との併用により細胞増殖率が増幅されたことから、「JTT-1抗原」が「CD28」や「CTLA-4」と同様のコスティミュレイトリー・ シグナルの伝達を担うことを示すものである。
[実施例14] 実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)に対する「JTT-2抗体」の効果
先に詳細に述べたように、近年、CD28/CTLA-4-CD80/CD86の間のシグナル伝達 を調節することにより種々の自己免疫性疾患(慢性関節リウマチ、多発性硬化症、自己免疫性甲状腺炎、アレルギー性接触性皮膚炎、慢性炎症性皮膚疾患である扁平苔癬、全身性エリテマトーデス、インスリン依存性糖尿病及び乾癬など)の治療の試みが多数なされてきている。既に、種々の自己免疫疾患モデル動物((i)ヒト全身性エリテマトーデス(SLE)のモデル、(ii)多発性硬化症(MS)のモデル である実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)、(iii)インスリン依存性糖尿病(IDDM)モデル、(iv)グッドパスチャー(Goodpasture)の腎炎モデル、(v)ヒト慢性関節 リウマチモデル)でその効果が確認されている。
本発明の「JTT-1抗原」が「CD28」や「CTLA-4」のようなリンパ球の活性化あるいはその抑制に関与する分子であるか否かを確認するため、多発性硬化症(MS)のモデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)モデルラットを作製し、 該モデルにおける「JTT-1抗原」に対するモノクローナル抗体の効果を解析した。
Hartleyモルモットの脳脊髄ホモジネート(800mg/ml生理食塩水)を等量のフロインド完全アジュバントと混和して免疫感作抗原としてのエマルジョンを調製した。該エマルジョンを、ルイスラット(雌、6週齢、15匹)の左右の足趾に各々0.25mlずつ皮内投与することにより免疫感作した。なお、該投与は、該ホモジネートの投与量がラット1匹あたり200mgとなるように行った。この免疫感作 により、アレルギー性脳脊髄炎(EAE)を誘導させることができる。
免疫感作したラットを5匹ずつの3群に分け、各群毎に、次の(i)乃至(iii)のいずれかを、免疫感作直後(0日)並びに該免疫感作から3日目、6日目、9日目及び12日目に静脈内投与した。
(i)実施例2で作製した「ラットJTT-1抗原」に対するモノクローナル抗体「JTT-2抗体」(投与量:2mg/ml PBS, 5mg/kg);
(ii)ステロイド剤プレドニゾロン(投与量:4mg/ml PBS, 10mg/kg);及び
(iii)「ラットJTT-1抗原」に反応しない対照抗体(投与量:2mg/ml PBS, 5mg/kg
)。
免疫感作から経時的に症状を観察し、EAE発症が認められた時点からその症状を次の基準にてスコア化することにより症状の程度を評価した。
(スコア1)尾の緊張の消失;
(スコア2)後肢のひきずり、及び軽度の麻痺;
(スコア3)後肢のひきずり、及び重度の麻痺;及び
(スコア4)全身の麻痺または死亡。
結果を図16に示す。対照抗体を投与した群では、免疫感作から11乃至15日目にEAE症状がピーク(スコア最大)となり、その後漸次回復した。一方、「JTT-2抗体」投与群では、感作後11日目のEAE症状の発症が有意に抑制された。この抑制効果はプレドニゾロン投与群に比べ有意に高いものであった。
この結果は、「JTT-1抗原」は、外来抗原による免疫感作により惹起されるリンパ球の活性化をはじめとした免疫応答の誘導において機能する分子であり、「JTT-1抗原」あるいはそのリガンドの機能を制御することにより種々の自己免疫 疾患の症状を抑制できることを示すものである。
[実施例15] 糸球体腎炎に対する「JTT-2抗体」の効果
実施例14と同様の目的のために、糸球体基底膜(GBM)腎炎モデルラットを作製し、該モデルにおける「JTT-1抗原」に対するモノクローナル抗体の効果を解析した。
コラゲナーゼにより消化したウシ糸球体基底膜(重井医学研究所製)を生理食塩水で200μg/mlの濃度に希釈した後、フロインド完全アジュバントと混和して免疫感作抗原としてのエマルジョンを調製した。エーテル麻酔下で、ウィスター・キョート系ラット(wister kyoto,約200g,48匹)の両後肢足底皮内に各々 約0.2ml(抗原量:約15μg)ずつ投与することにより免疫感作した。この免疫感作により糸球体基底膜(GBM)腎炎が誘導される。
免疫感作したラットを6匹ずつの8群に分け、各群毎に、次の(i)乃至(iii)のいずれかを、免疫感作直後(0日)並びにその後1週間に3回ずつ5週間に渡り投与した。
(i)実施例2で作製した「ラットJTT-1抗原」に対するモノクローナル抗体「JTT-2抗体」(投与量:3mg/kg (2ml PBS/kg),静脈内投与);
(ii)陽性対照としてのステロイド剤プレドニゾロン(0.5% CMC(カルボキシメチルセルロース)中に懸濁)(投与量:3mg/kg (5ml/kg) ,経口投与);及び
(iii)陰性対照としての0.5% CMC(投与量:5ml/kg,経口投与)。
被験物質の投与後、各々のラットに滅菌水(25ml/kg)を強制経口投与し、1匹ずつ代謝ケージ内に入れ絶食絶水下で5時間に渡り尿を採取した。採取した尿の量を測定後、尿中蛋白濃度をトネインTP-II(大塚製薬製)を用いて測定し、5時間あたりの尿中蛋白排泄量(単位:mg蛋白/5時間)を算出した。前記尿採取並びに尿中蛋白量の測定は、免疫感作(0日目)から1週間目、2週間目、3週間目及び4週間目の各時点で同様にして行った。
結果を図17に示した。対照群に比べ、「JTT-2抗体」投与群では、免疫感作から3週間目の尿中蛋白蛋白排泄量を有意に減少させた。
この結果は、「JTT-1抗原」は、外来抗原による免疫感作により惹起されるリンパ球の活性化をはじめとした免疫応答の誘導において機能する分子であり、「JTT-1抗原」あるいはそのリガンドの機能を制御することにより種々の自己免疫 疾患の症状を抑制できることを示すものである。
[実施例16] 「JTT-1抗原」とIgFcとの融合蛋白の調製
実施例8、13乃至15で述べたように、本発明の「JTT-1抗原」は、「CD28」や「CTLA-4」のようなリンパ球の活性化の制御に係わるコスティミュレイトリー・シグナル伝達に関与する分子であると考えられる。また、実施例14で述べたとおり、「CTLA-4」の細胞外ドメインとヒト免疫グロブリンIgG1のFc領域とからなる融合タンパク(CTLA-4-IgFc)は、種々の自己免疫疾患の治療効果を有 することが報告されている。本実施例では、CTLA-4-IgFcと同様の可溶化JTT-1抗原の種々自己免疫疾患の治療への適用可能性を確認するため「JTT-1抗原」の細 胞外領域をヒトIgGFcとからなる融合蛋白を下記のように調製した。
(1)「ラットJTT-1抗原」とヒトIgG1-Fcとの融合蛋白(rJTT-1-IgFc)の調製
「ラットJTT-1抗原」の細胞外領域をコードするcDNAをPCRで増幅するため に、末端にXhoI切断部位を有する5'プライマー(5'-CTGCTCGAGATGAAGCCCTACTTCTCG-3'、配列番号7)及びBamHI切断部位を有する3'プライマー(5'-ACCCTACGGGTAACGGATCCTTCAGCTGGCAA-3'、配列番号8)を設計、合成した。実施例7で取得した「ラットJTT-1抗原」の全長をコードするcDNAをクロ−ン「T132A7」を鋳型と して該プライマーを用いてPCRを行い、両端にXhoI及びBamHI切断部位を各々 有する「ラットJTT-1抗原」の細胞外領域をコードするcDNAを含むcDNAを調製し た。得られたPCR産物をXhoI及びBamHIで消化し、アガロースゲル電気泳動し、目的の細胞外領域をコードするcDNA断片と予測される約450bpのサイズのバン ドを単離した。単離されたcDNA断片を、XhoI及びBamHIで切断したプラスミドpBluescript II SK(+)(Stratagene製)中にサブクローニングした。自動蛍光DNAシークエンサー(Applied Biosystems製)による配列解析により、該cDNA断片は、「ラットJTT-1 抗原」(配列番号4)のアミノ酸番号1乃至141迄の領域をコードする領域を含むことを確認した。
一方、融合パートナーとしてのヒトIgG1のFcをコードするDNAは、プラスミド(Cell, Vol.61, p.1303-1313, 1990参照。マサチューセッツ・ゼネラル・ホ スピタルのシード博士(B. Seed)らにより作製)を、BamHI及びXbaIで消化することによりBamHI-XbaIDNA断片(約1.3kb)として切り出した。この断片には、ヒトIgG1のヒンジ領域、Cγ12、及びCγ13の各々コードするエクソンが含まれる。
前記のようにして作製した「ラットJTT-1抗原」の細胞外領域をコードするXhoI-BamHI断片、及びヒトIgG1のFc(「IgFc」と略記する)をコードするエクソン を含むBamHI-XbaI断片を、XhoI及びXbaIで切断したプラスミドpBluescript II SK(+)(Stratagene製)中にサブクローニングした。
次いで、該プラスミドをXhoI及びXbaIで消化し、「ラットJTT-1抗原」の細胞外領域とヒトIgFcとからなる融合DNAを含む約1.8kbのDNA断片を切りだした。こ の融合DNA断片を、T4 DNAリガーゼを用いて、発現ベクターpME18S(Medical Immunology, Vol.20, No.1, p.27-32, 1990、及び実験医学(別冊):「遺伝子工学ハンドブック」、羊土社、第101-107頁、1992年)のXhoI及びXbaI部位に挿入し、プラスミドprJTT-1-IgFcを構築した。
エレクトロポレーション法により、10%ウシ胎児血清及びアンピシリンを含むDMEM培地中でサブコンフルエントに単層培養したHEK293細胞(ATCC CRL1573)を、プラスミドprJTT-1-IgFcで形質転換し、形質転換細胞を取得した。
形質転換細胞を、無血清ASF104培地中で72時間培養することによりrJTT-1-IgFcを発現させた。
rJTT-1-IgFcは、Protein G Sepharoseアフィニティ−カラム(Pharmacia製)を用いて次のように精製した。
前記培養上清を遠心分離して得た遠心上清を、予め結合緩衝液(binding buffer)で平衡化したProtein G Sepharoseアフィニティーカラムに加えた。次いで、カラムを結合緩衝液で洗浄した後、溶出緩衝液(elution buffer)で溶出させた。溶出液を回収し、リン酸緩衝液で2回以上外液交換することにより透析し、精製rJTT-1-IgFcを得た。
アフィニティーカラムクロマトグラフィーの結果を図18に、また得られた精製rJTT-1-IgFcのSDS-PAGEの結果を図19に示す。
(2)「ヒトJTT-1抗原」とヒトIgG1-Fcとの融合蛋白(hJTT-1-IgFc)の調製
PCR用における鋳型としてのcDNA及びプライマーを除いては、前記(1)と同様にして調製した。本試験では、鋳型としては、実施例8で作製した「ヒトJTT-1抗原」の全長をコードするcDNAを含むクローン「pBSh41」を用い、また5'プライマーとしては5'-TAACTGTTTCTCGAGAACATGAAGTCAGGC-3'(配列番号9)を、3'プライマーとしては5'-ATCCTATGGGTAACGGATCCTTCAGCTGGC-3'(配列番号10)を用いた。
アフィニティーカラムクロマトグラフィーの結果を図20に、また得られた精製hJTT-1-IgFcのSDS-PAGEの結果を図21に示す。
[実施例17] 「ラットJTT-1抗原」をコードするcDNA導入トランスジェニックマウスの作製
実施例7で取得した「ラットJTT-1抗原」の全長をコードするcDNAを、ニワトリβアクチンプローモーターを有する発現ベクターpCAGGS( Gene, Vol.108, p.193-200, 1991)に、DNA末端平滑化キット(タカラ社製)を用いて挿入し、プラスミドprJTT-1を得た。トランスジェニックマウス作製のために、prJTT-1を制限酵素処理して直鎖状にした。
仮親マウスには、白色ICRマウス(雌、日本エスエルシー社製)と精管結紮した白色ICRマウス(雄、日本エスエルシー社製)とを交配して得られたプラグ(または腟栓)を有する雌ICRマウスを用いた。また、「ラットJTT-1抗原」遺伝子を導入するための受精卵を得るための採卵用マウスは、PEAMEX(5ユニット、三共ゾーキ社製)及びプレグニール(5ユニット、オルガノン社製)を投与することにより過剰排卵させたBDF-1マウス(雌、日本エスエルシー社製)をBDF-1マウス(雄、日本エスエルシー社製)と交配させて作製した。交配後、BDF-1マウス(雌)から卵管部を摘出し、ヒアルロニダーゼ処理により受精卵のみを得、培地中で保存した。
受精卵への「ラットJTT-1抗原」遺伝子の導入は、顕微鏡下でマニピュレーターを用いて常法により行った。受精卵を保定針で固定し、37℃条件下、トリスEDTA緩衝液で希釈した「ラットJTT-1抗原」をコードする前記直鎖状遺伝子 を含有する溶液を、DNA導入針を用いて受精卵の雄性前核内に注入(マイクロインジェクション)した。
遺伝子導入後、正常な状態を保持する受精卵のみを選別し、仮親マウス(白色ICRマウス)の卵巣内にある卵管采に、「ラットJTT-1抗原」遺伝子導入受精卵を挿入した。
仮親から生まれた子マウス(ファウンダー)の尾を切取りゲノム遺伝子を回収し、PCRによりマウスゲノム内に「ラットJTT-1抗原」遺伝子が導入されてい ることを確認した。次いで、このファウンダーを正常マウスと交配させることにより「ラットJTT-1抗原」を高発現するヘテロトランスジェニックマウスを作製 した。該ヘテロマウス同士を掛け合わせることによりホモマウスを作製できる。
マイクロインジェクションした「ラットJTT-1抗原」遺伝子を含むコンストラクトの模式図を図22に示す。
[実施例18] 「マウスJTT-1抗原」をコードする内在性遺伝子を不活性化したノックアウトマウスの作製
(1)ターゲティングベクターの構築
「マウスJTT-1抗原」をコードする内在性遺伝子を相同組換え(日経サイエンス、1994年5月号、第52-62頁)により不活性化(ノックアウト)するためのターゲティングベクターを下記のようにして構築した。
実施例9−5でクローニングした「マウスJTT-1抗原」をコードする領域を含むマウスゲノミックDNAクローンを、PstI及びHindIIIで消化して得たPstI-HindIII断片(「相同DNA(1)」)を、プラスミドpGEM-3(プロメガ製)にサブクローニングした。次いで、pGEM-3をXhoIで開環し、プラスミドpMC1-neo-polyA(Stratagene製)をXhoI及びSalIで処理して切り出したネオマイシン耐性遺伝子(「neo」)を、該「相同DNA(1)」の上流に挿入、連結した。
前記マウスゲノミックDNAクローンをXhoI及びNotIで消化して、上述の「相同DNA(1)」より上流に位置する約5.5kbの遺伝子(「相同DNA(2)」)を切り出した。一方、前述の「neo−相同DNA(1)」を挿入したpGEM-3を、XhoI及びHindIIIで消化して「neo−相同DNA(1)」を切り出した。得られた「相同DNA(2)」と「neo−相同DNA(1)」を、NotI及びHindIIIで開環したプラスミドpSEAP2-CONT(クロ−ンテック製)にサブクローニングした。
得られたプラスミド(「相同DNA(2)−neo−相同DNA(1)」が挿入されている)を、NruIを用いて「相同DNA(1)」の下流で消化、開環した後、プラスミドpMC1-TK(Stratagene製)をPvuIIで消化して得たチミジンキナーゼ遺伝子(「TK」)を、「相同DNA(1)」の下流に挿入、連結し、ターゲティングベクター(「相同DNA(2)−neo−相同DNA(1)−TK」が挿入されている)を得た。
(2)ターゲティングベクターのES細胞への導入
15%ウシ胎児血清を含有するDMEM培地中で培養したマウス胚性幹細胞(ES細胞;embryonic stem cell)(Nature, Vol.362, p.255-258, 1993及びNature, Vol.326, p.292-295, 1987)をトリプシンで処理して単一細胞とした後、リン酸緩 衝液で3回洗浄して細胞濃度を1×107細胞/mlに調製した。細胞懸濁液1ml あたり25μgの前記ターゲティングベクターを加え、350V/cm(25μF)の条件下で電気パルスを1回かけた。次いで、シャーレ(10cm)に1×107細胞のES細 胞を播種し維持培地中で1日培養した後、培地を選択培地(G418(250μg/ml)及 び2μMのガンシクロビルを含有する)に交換した。以後2日毎に培地交換を行い培養した。ターゲティングベクター導入から10日目に、マイクロピペットを用いて、顕微鏡下で573個のネオマイシン耐性ES細胞クローンを取得した。得られ たES細胞クローンを、Feeder細胞を敷いた24穴プレートで各々別々に培養することにより、768個のネオマイシン耐性ES細胞のレプリカを取得した。
(3)ノックアウトES細胞のスクリーニング
得られたネオマイシン耐性ES細胞の各々について、相同組換えによる「マウスJTT-1抗原」をコードする内在性遺伝子の破壊(ノックアウト)が起こっているか否かをPCRにより確認した。
PCRには、(1)前記ネオマイシン耐性遺伝子(「neo」)の配列に基づい て設計、合成したプライマー(5'-CGTGATATTGCTGAAGAGCTTGGCGGCGAATGGGC-3'、 配列番号11))及び(2)前記「相同DNA(1)」の配列に基づいて設計、合成したプライマー(5'-CATTCAAGTTTCAGGGAACTAGTCCATGCGTTTC-3'、配列番号12)を用いた。
各々のネオマイシン耐性ES細胞について、ゲノミックDNAを抽出し、それらを 鋳型とし、該プライマーを用いてPCRを行った。PCRは、94℃で3分の反応を1サイクル、94℃で1分、60℃で1分及び72℃で3分30秒の3つの反応からなる反応を30サイクル、並びに72℃で10分の反応を1サイクル行った後、4℃で保存した。このPCRにより約4kb弱のフラグメントが増幅される場合には、そのES細胞クローンでは相同組換えによる「マウスJTT-1抗原」をコードする内在性遺伝子の破壊(ノックアウト)が起こっていると判断できる。
その結果、試験した768個のES細胞クローンのうち、3クローンにおいて目的のPCR産物が得られた。これら3クローンについてゲノミックサザンブロッティングを行い、さらに選抜及び確認をした。該3クローンのゲノミックDNAを 抽出し、制限酵素BamHIで消化後、アガロースゲルで電気泳動を行った。これをナイロンメンブランにトランスファーし、「マウスJTT-1」のゲノミックDNA配列により作製したプローブを用いて、ハイブリダイゼーションを行った。該プローブは、相同組み換えが起こる部位より外側の配列であって、変異型ゲノムと通常型ゲノムをサイズ的に見分けられるような部位の配列を基に設計した。
その結果、3クローンの内の1クローンで、変異型と通常型の2本のバンドが確認された。このES細胞クローンを下記に述べるノックアウトマウスの作製に用いた。
(4)ノックアウトマウスの作製
前記で得た「マウスJTT-1抗原」をコードする内在性遺伝子が相同組換えにより不活性化(ノックアウト)されたES細胞を、C57BL6マウス(日本チャールズリバー製)の雄雌を交配して得た胚盤胞に1胚あたり15個ずつ注入(マイクロインジェクション)した。注入直後に、偽妊娠処理してから2.5日目の仮親ICRマウス(日本クレア製)の子宮に子宮の片側あたり約10個ずつの胚盤胞を移植した。その結果、合計38匹の産児を得、その内の18匹が目的のキメラマウスでった。毛色への貢献度が80%以上のキメラマウスは、11匹であった。
次いで得られたキメラマウスを正常C57BL6マウスと交配し、ES細胞由来の毛色遺伝子によるアグーチ(agouti)色のマウスを得た。
[実施例19] 抗体医薬組成物の調製
実施例1で調製した「ラットJTT-1抗原」に対するモノクローナル抗体「JTT-1抗体」及び「JTT-2抗体」の各々、並びに実施例12で調製した「ヒトJTT-1抗原」に対するモノクローナル抗体「SA12」及び「SG430」の各々(50〜150μ g/ml)を注射用蒸留水(10ml)に加え注射剤とした。
「JTT.1抗体」により誘導されるFTL435細胞の細胞凝集の状態、並びに「JTT.2抗体」による該細胞凝集の阻害の状態を示す顕微鏡写真である。 分図(a)はいずれのハイブリドーマ上清も加えない場合の細胞の状態を示し、分図(b)は「JTT-1抗体」による細胞凝集の状態を示し、分図(c)は「JTT-1抗体」とともに「抗ICAM-1抗体」を加えた場合の細胞凝集の状態を示し、また分図(d)は「JTT-1抗体」とともに「JTT-2抗体」を加えて場合の細胞凝集の状態を示す。 「JTT.1抗体」により誘導されるFTL435細胞及びラット活性化リンパ芽球の細 胞凝集の状態、並びに「JTT.2抗体」による該細胞凝集の阻害の状態を示す顕微 鏡写真である。 分図(a)はいずれの抗体も加えない場合のFTL435細胞の細胞の状態を示し、分図(b)はPMAを加えた場合のFTL435細胞の細胞の状態を示し、分図(c)は 「JTT-1抗体」を加えた場合のFTL435細胞の細胞の状態を示し、分図(d)は「JTT-1抗体」とともに抗LFA-1抗体を加えた場合のFTL435細胞の細胞の状態を示し、分図(e)は「JTT-1抗体」とともに抗CD18抗体を加えた場合のFTL435細胞の 細胞の状態を示し、分図(f)は「JTT-1抗体」とともに抗ICAM-1抗体を加えた 場合のFTL435細胞の細胞の状態を示し、分図(g)はいずれの抗体も加えない場合の活性化リンパ芽球の細胞の状態を示し、分図(h)はPMAを加えた場合の活 性化リンパ芽球の細胞の状態を示し、分図(i)は「JTT-1抗体」を加えた場合 の活性化リンパ芽球の細胞の状態を示し、分図(j)は「JTT-1抗体」とともに 抗LFA-1抗体を加えた場合の活性化リンパ芽球の細胞の状態を示し、分図(k) は「JTT-1抗体」とともに抗CD18抗体を加えた場合の活性化リンパ芽球の細胞の 状態を示し、また分図(l)は「JTT-1抗体」とともに抗ICAM-1抗体を加えた場 合の活性化リンパ芽球の細胞の状態を示す。 フロ−サイトメ−タ−を用いて測定した各種細胞における「JTT.1抗原」及び「JTT.2抗原」の発現の状態を示す図である。 フロ−サイトメ−タ−を用いて測定した各種リンパ球系細胞における「JTT.1抗原」の発現の状態を示す図である。 SDS-PAGEによる電気泳動により解析した「JTT.1抗原」の電気泳動像を示す写 真である。 「JTT.1抗体」の共存下で誘導される精製「JTT.1抗原」をコートしたマイクロプレートへのラット胸腺細胞の接着の状態、並びに「JTT.2抗体」による該細胞 接着の阻害の状態を示す顕微鏡写真である。 分図(a)は「JTT-1抗原」をコーティングしていないプレートへの細胞の接 着の状態を示し、分図(b)はいずれの抗体も加えない場合の「JTT-1抗原」を コーティングしたプレートへの細胞の接着の状態を示し、分図(c)は「JTT-1 抗体」のFab断片を加えた場合の「JTT-1抗原」をコーティングしたプレートへの細胞の接着の状態を示し、また分図(d)は「JTT-1抗体」のFab断片とともに「JTT-2抗体」を加えた場合の「JTT-1抗原」をコーティングしたプレートへの細胞の接着の状態を示す。 精製「JTT.1抗原」をコーティングしたプレートに接着した胸腺細胞の蛍光強 度に基づく相対細胞数を示す図である。 「Ag(-)」は「JTT-1抗原」をコーティングしていないプレートにおける相対細胞数を示し、「Ag(+)」はいずれの抗体も加えない場合の「JTT-1抗原」をコーティングしたプレートにおける相対細胞数を示し、「Ag(+)+JTT.1 Fab」は「JTT-1抗体」のFab断片を加えた場合の「JTT-1抗原」をコーティングしたプレートにおける相対細胞数を示し、また「Ag(+)+JTT.1 Fab+JTT.2」は「JTT-1抗体」のFab 断片とともに「JTT-2抗体」を加えた場合の「JTT-1抗原」をコーティングしたプレートにおける相対細胞数を示す。 フロ−サイトメ−タ−を用いて測定した「ラットJTT-1抗原」をコードするcDNAで形質転換したCOS細胞での「ラットJTT-1抗原」及び「ラットJTT-2抗原」の 発現状態を示す図である。 ハイドロパシーブロット解析による「JTT.1抗原」のアミノ酸配列の構造的特 徴を示す図である。 ヒト、ラット、及びマウスの「JTT.1抗原」並びに「ラットJTT-1抗原」の変異体の各々のアミノ酸配列の相同性を示す図である。 「ヒトJTT-1抗原」、「ヒトCD28分子」及び「ヒトCTLA-4分子」のアミノ酸配 列におけるアミノ酸配列相同性並びにモチーフの保存状態を示す図である。 「ヒトJTT-1抗原」、「ヒトCD28分子」及び「ヒトCTLA-4分子」の蛋白二次構造 及びその類似性を模式的に示す図である。 「マウスJTT-1抗原」をコードするゲノミックDNAの構造を模式的に示す図である。 「ラットJTT-1抗原」及びそのオールタナティブスプライシング変異体の各々のアミノ酸配列の差異を示す図である。 [3H]チミジン取込み試験により測定した「ヒトJTT-1抗原」に対するモノクローナル抗体により誘導されるヒト末梢血リンパ球の増殖の程度を示す図である。 縦軸は、細胞内への[3H]チミジンの取込み量(dpm)を示す。 疾患モデルラットにおける実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)の「JTT-1 抗原」に対するモノクローナル抗体による治療効果を示す図である。 縦軸はスコア化した疾患症状の程度を示し、また横軸はEAE誘導のための免疫感作後の経過日数を示す。 疾患モデルラットにおける糸球体腎炎の「JTT-1抗原」に対するモノクローナル抗体による治療効果を示す図である。 縦軸は尿中蛋白排泄量を示し、また横軸は糸球体腎炎誘導のための免疫感作後の経過時間(週)を示す。 プロテインAセファロースカラムによる「ラットJTT-1抗原」の細胞外領域とヒトIgFcとの融合ポリペプチド(rJTT-1-IgFc)の精製におけるカラムヒストグラムを示す図である。 SDS-PAGEによる電気泳動により解析したrJTT-1-IgFcの電気泳動像を示す写真である。 プロテインAセファロースカラムによる「ヒトJTT-1抗原」の細胞外領域とヒトIgFc(hJTT-1-IgFc)との融合ポリペプチドの精製におけるカラムヒストグラ ムを示す図である。 SDS-PAGEによる電気泳動により解析したhJTT-1-IgFcの電気泳動像を示す写真である。 「ラットJTT-1抗原」をコードするcDNAを導入したトランスジェニックマウス作製のための遺伝子導入用ベクターの構造を模式的に示す図である。

Claims (14)

  1. 下記(1)乃至(4)のいずれかをコードする遺伝子:
    (1)配列番号5に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
    (2)配列番号5に記載のアミノ酸配列中のアミノ酸において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、且つ下記(a)または(b)のいずれかの特徴を有する細胞表面分子を構成するポリペプチド:
    (a)該細胞表面分子に反応性を有する抗体は、マイトジェンで刺激したリンパ芽球細胞間の接着を誘導する;
    (b)該細胞表面分子に反応性を有する抗体は、CD3に反応性を有する抗体との共存下で末梢血リンパ球の増殖を誘導する、
    (3)前記ポリペプチドの細胞外領域からなるポリペプチドであって、配列番号5のアミノ酸番号1乃至141に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、または
    (4)前記ポリペプチドの細胞外領域からなるポリペプチドであって、配列番号5のアミノ酸番号1乃至141に記載のアミノ酸配列中のアミノ酸において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、且つ下記(a)または(b)のいずれかの特徴を有する細胞表面分子を構成するポリペプチド:
    (a)該細胞表面分子に反応性を有する抗体は、マイトジェンで刺激したリンパ芽球細胞間の接着を誘導する;
    (b)該細胞表面分子に反応性を有する抗体は、CD3に反応性を有する抗体との共存下で末梢血リンパ球の増殖を誘導する。
  2. 配列番号5の塩基番号1乃至603に記載の塩基配列を含む遺伝子、または配列番号5に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ下記(a)または(b)のいずれかの特徴を有する細胞表面分子を構成するポリペプチドをコードする遺伝子:
    (a)該細胞表面分子に反応性を有する抗体は、マイトジェンで刺激したリンパ芽球細胞間の接着を誘導する;
    (b)該細胞表面分子に反応性を有する抗体は、CD3に反応性を有する抗体との共存下で末梢血リンパ球の増殖を誘導する。
  3. 該DNAが、cDNAであることを特徴とする請求項2に記載の遺伝子。
  4. 該cDNAが、配列番号5に記載の塩基配列を有することを特徴とする請求項3に記載の遺伝子。
  5. 該cDNAが、配列番号5の塩基番号1乃至603に記載の塩基配列を含むことを特徴とする請求項3に記載の遺伝子。
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の遺伝子を含有するベクター。
  7. 請求項6に記載のベクターが導入された形質転換体。
  8. 請求項7に記載の形質転換体を培養することを含む、請求項1の(1)、(2)、(3)または(4)のいずれかに記載のポリペプチドの製造方法。
  9. 請求項8に記載の方法により製造された、請求項1の(1)、(2)、(3)または(4)のいずれかに記載のポリペプチド(但し、該形質転換体は、マウスに由来する細胞ではない。)。
  10. 請求項8に記載の方法により製造された、請求項1の(3)または(4)に記載のポリペプチドの細胞外領域とヒトの免疫グロブリン(Ig)の重鎖の定常領域または定常領域の一部とからなる融合ポリペプチド。
  11. 免疫グロブリンが、IgGであることを特徴とする請求項10に記載の融合ポリペプチド。
  12. 定常領域の一部が、IgGのヒンジ領域、C2ドメイン及びC3ドメインからなることを特徴とする請求項10に記載の融合ポリペプチド。
  13. 請求項10乃至請求項12のいずれかに記載の融合ポリペプチドがジスルフィド結合により結合して形成されるホモダイマー分子。
  14. 配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するマウス由来のポリペプチドが産生されないように、該ポリペプチドをコードするマウスの内在性遺伝子が不活性化されていることを特徴とするノックアウトマウス。

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