ある種の強磁性体では、電気抵抗が外部磁界の強さに応じて変化するという現象が知られており、磁気抵抗効果と呼ばれている。この効果は外部磁場の検出に使うことができ、そのような磁場検出素子を磁気抵抗効果素子(以下、MR素子)と呼ぶ。
このようなMR素子は、産業的には、ハードディスクや磁気テープ等の磁気記録装置で、磁気記録媒体に記憶された情報の読み出しに利用されており、そのような磁気ヘッドはMRヘッドと呼ばれている。
ところで近年、これらのMR素子が利用されている磁気記録装置、特にハードディスク装置においては、磁気記録密度の高密度化が進められており、1ビットのサイズが小さくなり、ビットからの漏れ磁束の量がますます減少している。このため、より低磁界でも大きな抵抗変化率を得ることが出来る高感度で高S/N比のMR素子を作ることが、磁気媒体に書き込んだ情報の読み出しには必須となってきており、記録密度向上のための重要な基盤技術となっている。
ここで高感度とは、MR変化量、すなわち単位磁界(Oe)あたりの抵抗変化量(Ω)が大きいことを意味しており、より大きなMR変化量をもち、より軟磁気特性に優れているMR素子ほど高感度になる。また、高S/N比を実現するためには、熱雑音を出来るだけ低減することが重要となる。このため素子抵抗自体はあまり大きくなることは好ましくなく、ハードディスク用読み取りセンサーとして用いる場合、良好なS/N比を実現するためには、素子抵抗としては10Ω〜200Ω程度の値とすることが望まれている。
このような背景のなか、現在ではハードディスク用MRヘッドに用いるMR素子としては、大きなMR変化率を得ることができるスピンバルブ膜を用いたMR素子を用いることが一般化している。スピンバルブ膜とは、非磁性材料からなる中間層を挟んだ、磁気的に非結合な状態にある2つの強磁性層のうち、一方の強磁性層(磁化固着層とも云う)は反強磁性層を用いた交換バイアス等により磁化を固着しておき、もう片方の強磁性層(磁化自由層とも云う)は外部磁界(信号磁界等)により容易に磁化回転出来るようにしておく。これにより、外部磁界によって磁化自由層の磁化のみを回転させることにより、2つの強磁性層の磁化方向の相対的な角度を変化させ、大きな磁気抵抗効果を得ることのできる膜である(例えば、非特許文献1参照)。スピンバルブ膜は低磁場で磁化を回転させることが出来るため、高感度化が可能であり、MRヘッド用のMR素子に適している。
現在は、このようなスピンバルブ膜に対して、センス電流を一方の電極からMR膜の膜面に平行に他方の電極に流し、膜面平行方向の抵抗を測定する方式が一般に用いられている。この方法は一般にCIP(Current In Plane)方式とよばれている。
このCIP方式では、MR変化率としては10%〜20%程度の値を得ることが可能となっている。また現在一般に用いられているシールドタイプのMRヘッドでは、スピンバルブ膜はほぼ正方形に近い形状で用いられるため、MR素子の抵抗はほぼスピンバルブ膜の面電気抵抗値に等しくなる。このため、CIP方式のスピンバルブ膜では面電気抵抗値を10Ω〜30Ωにすることにより良好なS/N特性を得ることが可能となる。このことはスピンバルブ膜全体の膜厚を薄くすることにより比較的簡単に実現することが出来る。これらの利点から、現時点ではCIP方式のスピンバルブ膜がMRヘッド用のMR素子として一般的に用いられている。
しかしながら、500Gbpsi(Gigabit per square inch)から1Tbpsi(Terabit per square inch)の高記録密度での情報再生を実現するためにはMR変化率として50%を越える値が必要とされてくると予想される。これに対して従来のスピンバルブ膜では、MR変化率として20%を越える値を得ることは難しい。このため、いかにこのMR変化率を大きく出来るかが、更なる記録密度の向上のための大きな技術課題となっている。
このような技術課題を解決するための手段として、センス電流を一方の電極からMR膜の膜面に垂直に他方の電極に流し、MR膜の膜面垂直方向の抵抗を測定する方法が知られている。この方法は一般にCPP(Current Perpendicular to Plane)方式と呼ばれている。CPP方式のMR素子は大きく分けると3つに分類することが出来る。一つは中間層に非磁性金属を用いた一般にCPP−スピンバルブ膜と呼ばれている構造である。二つ目は中間層に非磁性絶縁体を用いた一般に磁気トンネルMR膜と呼ばれている構造である。三つ目は中間層が磁性体同士のポイントコンタクトで構成されている一般にポイントコンタクトMR膜と呼ばれている構造である。
CPP方式では、2つの磁性層間の磁化相対角度の変化に対応して(1)非磁性金属または(2)非磁性絶縁体または(3)ポイントコンタクトを介して接合された2つの磁性層間のコンダクタンスが大きく変化することを利用して大きなMR変化率を得ることが動作原理になっている。すなわち電流を垂直に流すことにより電流の大部分が磁性層/中間層/磁性層を横切るようにし、良好な界面効果を利用することが可能となる。このため上記の3つの素子では原理的には50%を超える大きなMR変化率が得られることが知られている。このため500Gbpsiから1Tbpsiの高い磁気記録密度に対応したMRヘッドにはいわゆるCPP方式のMR素子を用いることが必須と成っている。
以上述べたように、500Gbpsiを越える高記録密度では、MR膜の膜面に対して垂直に通電することにより大きなMR変化率を得ることができるCPP−MR素子を用いることが必須となっている。特に、CPP−スピンバルブ素子は低抵抗過ぎるという欠点を持っているが、高いMR変化率が期待されるので、この欠点を回避しつつ使いこなすことが期待されている。
一方、MRヘッドの構造としては、従来、シールド間に媒体に対向してMR素子が設けられたシールド型MRヘッドが主流となっている。しかしこのようなシールド型MRヘッドでは、幾つかの問題があり、500Gbpsiから1Tbpsiの記録密度での使用は困難であると考えられている。
そのひとつはギャップ間隔の問題である。従来のシールド型MRヘッドでは線記録密度をシールド間のギャップ間隔により規定しているのだが、500Gbpsiを超える高密度では、ギャップ間隔を30nmより小さい、極めて微小な値にする必要が出てくる。しかしながらそのような微小なギャップ間にMR素子を挟み込むことが極めて困難になってくる。これはMR素子だけの厚さを見ても20nm近くあるからである。このため、絶縁膜、保護膜等を考慮すると、再生ギャップを30nm以下にすることは非常に困難であり、線記録密度として十分な分解能を得ることが困難になってくる。
2つめはデプス加工の問題で、シールド型MRヘッドでは最終的には研磨によりMR素子のデプスを決める。しかし500Gbpsiを超える高密度では、研磨追い込み後のMR素子のデプスを10nm以下の精度で制御する必要が出てくる。しかし、機械加工によってこのような精度を達成することは容易ではない。
3つめは再生効率の問題である。従来のシールド型MRヘッドではシールド間のギャップ中にMR素子を挿入することにより、必要な線分解能をえていた。しかしながら、一方ではトラック幅を100nm以下にする必要があるため、MR膜の形状は100nmスクエア程度以下の微小な形状にする必要がある。そうすると反磁界の効果が強くなり、MR膜の有効透磁率は極めて悪化する。そうすると、媒体の磁化遷移点からMR膜に流入した磁束は急速にシールドに逃げるようになってしまい、再生効率が急速に悪化してしまう。一般には再生ヘッドからの再生出力としては孤立再生波で1mVピークツウピークの大きさが必要であるが、上述のような理由により再生効率が劣化する為、500Gbpsiから1Tbpsiにおいて、必要な再生出力を得ることが困難になってしまう。
このため、500Gbpsiから1Tbpsiの高密度記録に対応するには、微細な分解能を備えたシールド型MRヘッドに変わる新しい高感度なMRヘッド構造が要求されている。
一方で垂直磁気記録への対応にも以下に述べるような課題がある。
現在の磁気記録装置の記録再生方式は一般的に長手記録方式を使用している。長手記録方式では記録密度が高くなるにつれ反磁界が大きくなり、再生出力の低下や安定な記録が行えなくなるという問題点がある。これらの問題点を改善するものとして垂直記録方式が提案されている。この垂直記録方式では記録媒体面と垂直方向に磁化して記録するものであり、長手方向の記録に対し記録密度を高めても反磁界の影響が少なく、再生出力の低下等は抑制される。このため垂直記録方式が有力視されている。
長手記録と垂直記録とでは、信号処理がされていない生の再生波形形状には違いがあり、垂直記録を使用して再生の信号処理を行う場合には、今まで培われてきた長手記録の再生信号処理技術に変更を加える必要がある。変更の方法は大きく2つ考えられていて、生の再生波形を微分処理して長手記録と同様の単峰波形にして以降は長手記録用の信号処理技術を用いる方法と、垂直記録用の技術をトータルで構築する方法である。前者の方が簡単ではあるが、エラーレートは後者より劣る可能性が大きい。
垂直記録方式がいずれの方法で信号処理されたとしても、高記録密度を達成するためには生の再生波形をシャープにする必要がある。再生波形のシャープさの指標としては、長手記録方式や、垂直記録方式の微分波形のような単峰波の場合、パルスの半値幅を示すPW50が垂直記録のような単調波の場合T50(出力25%から75%までの距離)が用いられる。この値はPW50としては2.0〜3.0×ビット長、T50としては1.4〜2.0×ビット長程度に制御して、所望のエラーレートを得る。この値は再生ギャップ長さに大きく依存し、線密度を大きくするには、すなわちビット長を小さくするには、再生ギャップ長さを小さくする必要がある。
しかし、先ほども触れたように、再生ギャップ長さを小さくすることは限界に近づきつつある。製品レベルで使用されているMR膜のトータル膜厚は、現状では少なく見ても20nm程度であり、絶縁層の厚さをたすと、現行での再生ギャップの限界は50nmである。絶縁層の耐電圧が大きくなる、あるいはCPP素子等が用いられると考えても再生ギャップ30nmが限界と考えられるので、現行シールドタイプの適用限界は400Gbpsi程度と見積もれる。これを超えてさらなる高記録密度を達成する為には、現行のシールドタイプの再生ヘッドを用いるのであれば、信号処理系のブレークスルー等が必要になると考えられる。
この様な問題を解決する手段として、シールドを用いない再生ヘッドを用いることが考えられる。シールドを用いない再生ヘッドとしては従来、ヨークタイプが考えられている。ヨークタイプ再生ヘッドは、ABS(媒体対向面)とMR膜の距離を離すことで媒体からの磁束が直接にMR膜に流れ込むのを防ぎ、さらにヨークと呼ばれる軟磁性体(多くの場合一対の磁性体)をABSに露出させ、それをMR膜に接続して磁束をMR膜に導いている。これによりヨークのABSでの露出部付近に感度が集中して読み取り分解能が向上し、さらに対で設けられたヨークにより差動が働いて分解能が増すと考えられる。また直接にはMR膜部は感度を持たないので、MR素子部を大きくでき、製造上のメリットがある。さらにヨークでの差分は再生波形に対し、再生信号処理での微分回路と同様の作用を及ぼし、特に垂直磁気記録に用いた場合、シールドタイプ再生ヘッドを長手記録方式で用いたと同様の単峰波の波形になる。このため微分回路を使用せずに従来の長手記録方式と同じ再生信号処理系を用いることができると考えられる。
しかし、ヨークタイプの再生ヘッドは、実際にはABSから離れた部分も感度を持ち、特に垂直記録方式で使用した場合は、所定のエラーレートが得られるほど分解能が得られないという欠点があることが鋭意検討した結果明らかになった。ヨークタイプヘッドを垂直記録方式で使用する場合、ギャップが磁化遷移点にある時にヨークの感じる磁束は最大となり、再生波形は単峰波となる。磁化遷移ポイントから外れると、本来出力はゼロになることが期待されるが、媒体からの磁束がABS面から離れたヨーク上部まで届いてしまうため、空間分解能は著しく低下することが研究の結果明らかになった。
以上の問題点を一挙に解決する方法として、ハント型露出水平ヘッドとCPP−GMR素子を組み合わせたプラナーCPPヘッドが本発明者によって提案されている。
このヘッド構造においては、2つの対向する主表面を有し一方が媒体対向面に略平行にされる磁化自由層と、この磁化自由層の媒体と反対側の面上に、上記磁化自由層に接するように形成された中間層と、この非磁性層の前記磁化自由層と反対側の面上に、上記中間層に接しかつ外側に向かって延在するように形成された一対の磁化固着層と、を備え、センス電流が前記磁化自由層と前記一対の磁化固着層との間で流れるように構成されている。
このプラナーCPPヘッド構造においては、シールドを用いていないため、ギャップ中にMR素子を挿入できないという困難を回避することができる。
また、この構造においては、CPP−MR素子が平面上に展開した構造になっているため、CPP−GMR効果を十分に活用することが可能となっており、上記構造を有するCPP−MR素子以前のCPP−GMR素子では実現が難しかった、100Ω程度の良好な抵抗値と50%程度の大きなMR変化率を得ることができ、大きな再生出力を得ることが可能となっている。
また、上記構造を有するCPP−MR素子の磁化自由層自体が媒体に対して対向した形になっており、媒体からの磁束は磁化自由層中を還流する構造となっている為、再生効率が極めて高く、1Tbpsiの記録密度においても30%〜50%の再生効率を得ることが可能となっている。
この高いMR変化率と高い再生効率によって、プラナーCPPヘッドは高い再生感度を持ち、1Tbpsiの記録密度においても、2〜3mVピークツウピークの再生出力を得ることが可能となっている。この値は従来のシールド型MRヘッドでは達成するのが困難な超高感度となっている。
Phys. Rev. B45, 806(1992), J. Appl. Phys. 69, 4774(1991)
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による磁気抵抗効果素子の構成を図1(a)、(b)に示す。図1(a)、(b)は本実施形態による磁気抵抗効果素子の断面図、下面図である。本実施形態による磁気抵抗効果素子は、プラナーCPP素子1と、シールド30とを備え、裏打ち層101上に磁性体からなる記録層102が形成された垂直媒体100に対して用いられる。プラナーCPP素子1は、垂直媒体100に略平行に対抗した磁化自由層2と、磁化自由層2の媒体対向面と反対側の面の両側に中間層4を介して外側に延在するように接続された2つの磁化固着層6a、6bとを備えている。そして、プラナーCPP素子1を囲むようにしてシールド30が配置されている。このシールド30は磁化自由層2の側部に形成されたシールド層31a、31bと、シールド層31a、31b上にそれぞれ設けられたシールド層32a、32bと、シールド層32a、32b上に磁気抵抗効果素子を跨ぐように形成されたシールド層33とを備えている。なお、シールド層31a、31bの媒体対向面と磁化自由層2の媒体対向面は概略同一平面内にあることが望ましい。なお、シールド層31a、31bはなくても、ある程度の効果が期待される。その場合はシールド層32a、32bの媒体対向面と磁化自由層2の媒体対向面が概略同一平面内にあることが好ましい。
図1においては、プラナーCPP素子1の構成を簡略に示しているが、その詳細な構成を図8に示す。このプラナーCPP素子1は、磁化自由層2と、磁化自由層2の媒体対向面と反対側の面の両側に中間層4a、4bを介して外側に延在するように接続された2つの磁化固着層6a、6bと、磁化固着層6a、6bに反強磁性層8a、8bを介して接続された電極10a、10bとを備えている。磁化固着層6a、6bの磁化は反強磁性層8a、8bにより固着されており、磁化自由層2の磁化は、磁化自由層2の横に配置したハードバイアス膜3a、3bによって単磁区化されている。磁化自由層2の磁化と磁化固着層6の磁化は直交するように配置されている。このような磁化配置において、媒体100からの信号磁束が磁化自由層2に入ることにより、磁化自由層2の磁化が回転し、磁化固着層6と磁化自由層2の磁化の相対角度が略直交状態から変化する。これに伴いGMR効果が生じ、センス電流から再生出力を得ることができる。なお、本実施形態においては、磁化自由層2が渡してある溝に沿った方向と磁化固着層6a、6bの磁化固着方向が平行となっている。また、図8においては、中間層4a、4bは、磁化自由層2上で分離して設けられていたが、一体となるように設けても良い。
なお磁化の固着方向は図1(a)、(b)に示したように固着しても良いが、図2(a)、(b)に示すように配置することも出来る。なお、図2(a)、(b)は本実施形態の変形例による磁気抵抗効果素子の断面図、下面図をそれぞれ示す。図2(a)、(b)に示す変形例の構造では磁化の配列のしかたが図1(a)、(b)に示す本実施形態の構造と90度回転している。またプラナーCPP素子1の方向も90度回転した位置関係になっている。図2(a)、(b)に示す変形例の構造では磁化自由層2が渡してある溝に沿った方向と磁化固着層6a、6bの磁化固着方向が直交しているため、磁化固着層6a、6bからの漏れ磁束により、溝の部分には溝幅方向に磁界が発生してしまう。このため溝に位置している磁化自由層2はこの磁場の影響を受けてしまうため、設計に注意が必要となる。
磁化固着層6a、6bの磁化は反強磁性層によって固着されているため、再生効率、再生分解能には影響せず、再生効率、分解能は磁化自由層の形状と、シールド30の形状によって決定される。
シールド30の形状としては、例えば通常のシールド型GMRヘッドのように、2層の磁性層を対向させて、そのギャップにGMR素子を挿入する等、色々な形態を考えることが出来るが、鋭意検討した結果、プラナーCPP型のGMR素子と組み合わせる場合には、上述したようないわゆるリング型のシールド30が最適であることが分かった。ここでリング型シールドとは磁化自由層の両側面と、磁化自由層の媒体対向面の反対側の面を覆うシールドである。
このようなリング型シールド30においては記録層102に書き込まれている磁化転移点104がリング型シールド30のギャップからずれている場合には媒体100からの磁束はシールド内で還流することになるため、遠方からの磁束をカットオフすることが可能になり、線分解能を向上させることが出来る。
特にリング型であることから、リング型シールド30のギャップの端部に磁化転移点104がきているような状況においても、磁束は磁気抵抗の小さなリング型シールド30のほうに積極的に吸い込まれるため、実際のリング型シールド30のギャップ幅よりもさらに狭い範囲に磁化転移点104が存在している場合についてのみ、磁化自由層2に媒体100からの磁束が流入する。このため、リング型シールド30のギャップ長は極端に小さくする必要はなく、作成が可能な大きさにすることができる。
また、リング型シールド30とプラナーCPP素子の組み合わせの場合、プラナーCPP素子1の磁化自由層2とシールド層31a、31bの間の間隔は特に狭くする必要はない。このため、本実施形態においては、シールドを用いてはいるが、従来のシールド型MRヘッドのように媒体の磁化遷移点から磁化自由層に流入した磁束が急速にシールドに流出することはなく、媒体100からの磁束を効率よく磁化自由層2に流入させることが可能である。このため良好な再生効率を保つことが可能であり、1Tbpsiの記録密度において、20%から30%の再生効率を実現することが可能となる。
また、シールドがリング型であることから、シールドを含めて薄膜プロセスで作成することが可能となっており、デプス研磨が必要ない。このため、プラナーCPP素子のようなプラナー型の素子と組み合わせることにより、デプス研磨を行わないで薄膜工程のみでヘッドを作成することが可能になる。
また、動作原理を周波数成分の観点から考えると、リング型シールドは低域カットフィルターになっており、媒体からの磁束の低域成分をカットオフする機能を持っていることがわかる。一方、プラナーCPP素子の磁化自由層は、それ自身が高域通過フィルターの役目をもっているが、周波数特性としては余りシャープでなく、やや低域に裾を引く形になっている。従って、リング型シールドと組み合わせた場合、磁化自由層の低域の裾をカットオフすることができ、これにより全体としての線分解能を向上させることが可能になっている。従って、線分解能の大まかなところは磁化自由層の形状自体で決まっており、その形状を整え分解能を向上させる補佐としてリングシールドが機能している。
このため、磁化自由層の形状の規定により500Gbpsi以上の記録密度に対応できる空間分解能を得ることができる。
本実施形態によるMRヘッドはとくに垂直記録方式で使用した場合、単峰波の再生波形となって、再生信号処理に非常に都合がよい。さらに大きなヨークを持たないため、ヨークタイプの再生ヘッドよりも格段に分解率がよい。
磁化自由層はリング型シールドのギャップ中で、直接感度をもつ位置に設置する必要がある。特に媒体から磁化自由層までの距離(磁気的浮上量)は空間分解能に直接影響する。この磁気的浮上量は通常、ビット長の2倍程度を超えると急激に空間分解能が悪くなるので、ABS面から磁化自由層までの距離を押さえる必要がある。ビット長としては現行30nm程度であるので、ABSから磁化自由層までの距離は物理浮上量も考慮にいれると少なくとも30nm程度以内とする必要がある。また1Tbpsiではビット長は10nm程度になるため望ましくは10nm程度とするのが良い。
図3(a)、(b)に本実施形態による磁気抵抗効果素子の再生原理をより詳細に示す。なお、図3(a)、(b)ではシールド30のうちシールド層32a、32b、31a、31bは示してあるが、シールド層33は表示していない。しかし、実際には図3(a)、(b)では、シールド層32a、32bに相当する部分に接してシールド層33が配置される。本実施形態による磁気抵抗効果素子においては、図3(a)に示すように、媒体の磁化遷移点104の位置が、プラナーCPP素子1の磁化自由層2の直下にあるときに、媒体からの磁束が、磁化自由層2を通って還流しているのが分かる。また一度磁化自由層2に流入した磁束はリング型シールド30に流出することなく直接媒体へと戻っていることが見て取れる。このように本実施形態による磁気抵抗効果素子においては媒体の磁化遷移点104からの磁束を効率よく磁化自由層2に流入させ、シールド30に流出させること無く利用することが可能で、シールド30を用いながら20%から30%の良好な再生効率を実現することが可能となっている。
一方、図3(b)に示すように、媒体の磁化遷移点104の位置がプラナーCPP素子1の磁化自由層2の直下からずれている場合には、媒体からの磁束は、磁化自由層2を通らず、シールド30を通って還流しているのが見て取れる。このため磁化遷移点104が磁化自由層2の近傍にある場合以外では出力はでない。したがって本実施形態による磁気抵抗効果素子においては、リング型シールド30を付加したことにより、良好な線分解能を実現することが可能となっている事が見て取れる。
図4に本実施形態による磁気抵抗効果素子の孤立再生波を示す。横軸は磁化遷移点からの距離、縦軸は再生出力を示す。比較のために(1)シールドを用いていない、露出型プラナーCPPヘッドの孤立再生波g1と、(2)図1(a)、(b)で示したサイドギャップの値を25nmとし、リング型シールド30を付加したプラナーCPPヘッドの孤立再生波g2、(3)サイドギャップの値を15nmとし、リング型シールド30を付加したプラナーCPPヘッドの孤立再生波g3を示しておいた。
線分解能を評価する上では、孤立再生波の半値幅であるPW50が重要な指標となる。図4から分かるように、半値幅はそれぞれ、(1)露出型で36nm、(2)サイドギャップ25nmで25nm、(3)サイドギャップ15nmで22nmとなることが分かった。1Tbpsiの記録密度を実現するためにはPW50を約26nmにする必要があるが、(1)の露出型では、それが実現できていないのに対して、(2)のサイドギャップ25nmの場合には1Tbpsiの値をクリアしているのが分かる。さらに(3)のサイドギャップ15nmのサンプルでは余裕をもって1Tbpsiの目標値をクリアできているのが分かる。
また、再生出力を比較すると、(1)の露出型に比べると(2)のサイドギャップ25nmの場合には約70%程度に減少している。また(3)のサイドギャップ15nmの場合には約55%程度まで減少しているのが分かる。しかしながらもともとの再生効率が極めて高い為、(3)のサイドギャップ15nmの場合でも、再生出力として、1mVピークツウピークの値を得ることが可能となる。
従って、プラナーCPP素子とリング型シールドを組み合わせることにより、500Gbpsiから1Tbpsiの高密度磁気記録システムにおいて、必要な線分解能と再生出力を併せ持った、良好なヘッドを提供することが出来ることがわかる。
本実施形態によるヘッドにおいてはヨークタイプのように大きな感磁部がないため、磁気分解能が良くなる。また離れた距離からの磁束の影響は、媒体からハイト方向に距離が離れるにしたがって相対的に強くなるが、シールドタイプのようにハイト方向の広がりがないため線分解能を確保しやすい。
再生原理は従来のシールドタイプと全く異なり、再生原理自体はシールドを使っているにも関わらす、ヨークタイプに近い。しかし、ヨークタイプのように磁束を磁気抵抗素子まで引き込むと言う発想はなく、大きなMR変化率が期待できるプラナーCPP素子とリング型シールドを組み合わせた結果得られた、全く新しい発想のヘッド形状である。
なお、本実施形態におけるヘッドにおいては、リング型シールドを、幾つかの薄膜の積層構造として形成することが可能である。そうすることにより、デプス加工のような機械加工工程を行うことなく、リソグラフィ等の薄膜工程のみを用いてリード素子部を形成することが可能になる。図1、図2に示した構造例では、リング型シールド30を3つの膜の積層によって形成している。この構造では図中のシールド33をまず形成したのち、シールド32a、32bを薄膜工程により形成し、シールド31a、31bは磁化自由層2を形成するときに磁化自由層2と同一の材料を用いて同時に形成している。そのようにすることにより、磁化自由層2とリング型シールド30との間のサイドギャップの値をリソグラフィによって正確に決めることが可能となり、良好な生産再現性を得ることが可能になる。また、シールド32a、32bよりもシールド31を突出させることにより、リング型シールド30中に磁化固着層6を十分な余裕をもって配置しながら、サイドギャップの値を小さく保つことが可能となる。またプラナーCPP素子からリードを取り出す必要があることから、シールド32a、32bとシールド31のトラック幅方向の幅はシールド33の幅よりも小さくしておくことが望ましい。また、トラック方向においては、シールド層32a、32bとシールド層33の端部は同一位置にある必要はなく、シールド層33はシールド層32a、32bよりも十分に広くしてもかまわない。また、逆にシールド層32a、32bの端部よりシールド層33の端部が内側にきていてもかまわない。
このとき、リング型シールド30の各層は非磁性層を介することなく、直接積層されていることが望ましい。これは各層のあいだに非磁性層が挿入されると磁気的ギャップとなってしまい、リング型シールド30の透磁率が悪化し、磁化自由層2の直下からずれた磁化遷移点からの磁束を十分にシールドで吸収することができなくなり、線分解能が劣化してしまう為だ。しかしながら製造プロセスによってはリング型シールド30を形成する各層の間に非磁性層を形成することが望ましい場合もある。その場合でも非磁性層の厚さは10nm以下とすることが望ましい。
次に、プラナーCPPヘッドにシールドを付加する方法としては、幾つかの方法が考えられるが、他タイプのシールドとの組み合わせにおいては、十分な線分解能と大きな再生出力を両立することは難しく、リングヘッドとの組み合わせがもっとも優れていることを以下に説明する。
まず、容易な類推としては図5に示したように、プラナーCPPヘッドに対して、従来のシールド型MRヘッドで用いられているような、2つのシールド層36a、36bからなるシールド36を用いることが考えられる。しかしこのようなシールド36を用いた場合には、磁化自由層2とシールド36の間のギャップが、シールド36a、36b間のギャップよりも小さいことから、磁化遷移点が、磁化自由層2とシールド36の間のギャップにある場合に、磁束はシールド36には吸い込まれず、磁化自由層2のほうに流れてしまう。このため、このような容易な組み合わせにおいては、シールド36aとシールド36bの間隔によって線分解能が決まってしまい、シールド36を付加しても十分に高い線分解能を得ることはできない。またこのような構造を形成するためには、シールド36を形成して、ABS(Air Bearing Surface)面を機械加工によって形成した後に、ABS面からのプロセスによって、プラナーCPPヘッドを形成する必要がある。しかしながら、そのような製造過程を行うためには、基板をスライダにカッティングした後に薄膜プロセスを通す必要があり、そのようなことは実質上、工業生産としては不可能である。
また、その他のシールド構造としては、図6に示したように、アッパーシールド38を用いることも考えられる。この場合は、磁化遷移点104が、磁化自由層2の直下から外れている場合には、磁束が、アッパーシールド38中を還流し、磁化自由層2中を流れないようにして、線分解能を高くすることを目的としている。またこの構造ではデプス研磨を必要とせず、一括して薄膜工程により作成できるというメリットがある。しかしながら、このような構造で、高線分解能を達成する為には、アッパーシールド38の下面と媒体100の上面との間のギャップを30nm以下にする必要がある。これよりもアッパーシールド30の下面と媒体100の上面のギャップが大きいと、磁化遷移点104が磁化自由層2の直下にない場合にもアッパーシールド38中を還流するより、磁化自由層2中を流れるほうが容易になってしまい、磁束は磁化自由層2中に流れてしまい、高い線分解能を得ることはできない。しかしながらプラナーCPP素子1自体が、30nm程度の厚さを持っているため、従来のシールド型MRヘッドの場合と同様の理由により、このギャップ中にプラナーCPP素子を挿入することは不可能である。このため、アッパーシールドを用いたヘッドも実質上、工業生産は不可能である。
また、その他のシールド構造としては、図7に示したように、薄膜シールド39a、39bをプラナーCPP素子1の両脇におく方法が考えられる。この場合は、磁化遷移点104が、磁化自由層2の直下から離れ、シールド39a、39bに近い場所にあるときには、磁束が、薄膜シールド39a、39b中を還流し、磁化自由層2中を流れないようにして、高線分解能を得ることを目的としている。またこの構造ではデプス研磨を必要とせず、一括して薄膜工程により作成できるというメリットがある。しかしながらこの様な構造では、磁化遷移点104が十分に薄膜シールド39a、39bよりにあったとしても、図中に示したような磁束の流れができてしまう為に、磁化自由層2中を磁束が流れてしまい、十分な線分解能を得ることは困難である。このため、この様な薄膜シールド39a、39bでは、プラナーCPPヘッドの線分解能を向上させることはできない。
以上説明したように、本実施形態以外のシールド構造では、本実施形態で得られるような、高記録密度で良好なエラーレートが達成できる高感度で、高分解能なリードヘッドを得ることはできない。
以上、線分解能を中心に説明を行ったが、500Gbpsiから1Tbpsiの高記録密度を実現する為には、トラック密度を高くする必要がある。プラナーCPP素子とリングシールドを組み合わせたヘッドでは、トラック幅方向の分解能は、磁化自由層の幅によって規定することが出来る。したがって、磁化自由層の幅は媒体の記録線幅と略等しいことが望ましい。
なお、本実施形態においては、媒体100として連続垂直媒体を用いた場合の動作原理を説明したが、媒体としてはパターンド垂直媒体を用いても同様な動作を得ることができる。また、このヘッドの動作原理はここに説明した動作が最適ではあるが、これに限定する必要はなく、面内記録媒体と共に用いることも可能である。
次に、本実施形態によるMRヘッドに用いるMR素子について説明する。
本実施形態によるMRヘッドにおいてはCPP−MR素子としてプラナーCPP素子を用いる。センス電流は、電極から反強磁性層を介して磁化固着層に流れ、磁化固着層から中間層を介して磁化自由層に流れ、磁化自由層から中間層を介して逆側の磁化固着層に流れ、磁化固着層から反強磁性層を介して電極に流れるこのため、センス電流は2度、磁化固着層と磁化自由層の界面を通過することになり、このときに大きな界面磁気抵抗効果、CPP−MR効果により、大きな再生出力を得ることが可能になる。
CPP−MR効果としては、CPP−スピンバルブ効果、磁気トンネルMR効果、磁気ポイントコンタクトMR効果のいずれを用いることも可能だが、500Gbpsiから1Tbpsiの高密度記録密度においては、低抵抗で大きなMR変化率が期待できるCPP−スピンバルブ膜を有するMR素子を用いることが望ましい。なお、CPP−スピンバルブ効果を用いた磁気抵抗効果素子の中間層は非磁性層であり、磁気トンネルMR効果を用いた磁気抵抗効果素子の中間層は、絶縁層(トンネルバリア層)であり、磁気ポイントコンタクトMR効果を用いた磁気抵抗効果素子の中間層は磁性体層である。
本実施形態によるMRヘッドにおいて、CPP−MR素子としてCPP−スピンバルブ効果を用いる場合、磁化固着層としてはNi、Co、Feおよびその合金等の磁性材料を用いることができる。特に、NiFe合金、CoFe合金を用いることがMR変化率の上からは望ましい。また、界面のスピン分極率を向上させるため、NiFe/CoFe、NiFe/Co、NiFe/Fe等の積層構造を用いることが出来る。また磁化固着層の磁化固着特性を向上させるためには、CoFe/Ru/CoFe積層構造のようないわゆるシンセティック反強磁性体構造を用いることができる。また更に高抵抗変化率を実現するためにはハーフメタルを用いても良い。ハーフメタルとしては、NiMnSb,PtMnSb等のホイスラー合金、CrO2等の酸化物磁性体、ペロブスカイト系ハーフメタル、CrAs等のダイヤモンド構造材料を用いることができる。
また、磁化固着用の反強磁性層としてはPtMn、NiMn,IrMn等の反強磁性材料を用いることができる。またNiOのような絶縁性反強磁性材料を用いることもできる。
なお、磁化自由層としては磁化固着層で述べたのと同様な材料を用いることができる。
CPP−MR素子として磁気トンネル効果を用いる場合には、中間層として酸化物バリアを用いることが望ましい。具体的にはAl2O3、SiO2等のギャップエネルギーの高い絶縁物を用いることが出来る。但し素子抵抗の増大を押さえる為には絶縁物からなる中間層の膜厚は2nm以下とすることが望ましい。またバリアとしてはギャップエネルギーの小さいNiO等の酸化物を用いることもできる。
また、CPP−MR素子としてCPP−スピンバルブ効果を用いる場合には、中間層として非磁性金属層を用いることが望ましい。具体的にはAu、Ag、Cu等の貴金属、およびその合金、もしくはその積層構造を用いることができる。中間層の膜厚は1nm〜50nm程度にすることにより良好な磁気的結合の切断と、スピン分極の伝達を両立することが可能となる。
またCPP−MR素子として磁気ポイントコンタクト効果を用いる場合には、中間層としては直径の最大値が10nm以下の微小な磁性体を用いることができる。材料として磁化固着層、磁化自由層で述べた材料と同様な材料を用いることができる。
なお、中間層は、磁化自由層全体に積層されていても良いし、中間層は磁化固着層全体に積層されていても良いし、中間層は、磁化固着層に跨るように存在しても良い。但し最適には接合部だけにあることが望ましい。
なお、CPP−MR素子としてCPP−スピンバルブ効果を用いる場合には、磁化自由層の媒体対向面に、直接、またはAu、Ag、Cuもしくはその合金層を介して、酸化物層を積層することができる。このような構成にすることにより酸化物層による電子反射効果、いわゆるスペキュラー効果を利用することが可能になり、MR変化率には寄与しない、余分な磁性体表面での電子散乱効果を押さえ、より大きなMR変化率を得ることが可能になる。また、電子反射効果を有する酸化物層を磁化自由層の媒体対抗面と反対側に更に形成することも可能である。また、磁化自由層が積層膜、例えば強磁性層と非磁性層との積層膜である場合、酸化物層は磁化自由層の内部に形成することも可能である。また磁化固着層においても磁化自由層と同様に磁化固着層の両表面および内部に酸化物層を更に形成することが可能である。またこれらの酸化物層の一部は磁気抵抗効果素子の保護層の一部となっていても良い。
なお、磁化固着層と、磁化自由層の接合面は必ずしも膜面に水平になっている必要はない。すなわち、上記接合面が媒体対向面に対して傾いていても良い。ただし、磁化自由層は媒体に対して略平行に相対する必要があるため、磁化固着層よりも出っ張っている必要がある。
極端な構造としては、磁化自由層と磁化固着層の接合面が媒体対向面に対して略90度傾いているように形成され、磁化自由層と磁化固着層間に中間層が設けられた構造も考えられる。しかしこの構造だと、磁化自由層と磁化固着層の接合部分の面積が極端に小さくなってしまうため、抵抗が大きくなりすぎてしまう可能性がある。また、磁化自由層と磁化固着層が同一平面になってしまう。なお、磁化自由層と磁化固着層および中間層の膜厚が略同じであったが、磁化自由層の膜厚が磁化固着層および中間層の膜厚よりも厚くなっていても良い。
(実施例1)
基板上に、まず電極を形成し、その間にシールド層としてNiFe50nmを形成した。そして、プラナーCPP素子を形成するための幅100nmの溝をFIB加工により形成し、リング型シールドを形成した。溝上にはアルミナを10nm成膜し、シールドとプラナーCPP素子の絶縁を確保した。その上に下地Ta2nm/PtMn10nm/CoFe5nmの磁化固着層を形成した。そしてFIB加工により10nm幅のトレンチを加工し、その間をつなぐ形でEBリソグラフィーを用いたリフトオフ工程により10nm×40nmの矩形の穴を形成し、リフトオフによりCu3nm/CoFe2nm/NiFe3nmの磁化自由層を成膜した。そしてその横にハードバイアス膜を形成した。
その結果、素子抵抗が90オームで、MR変化率40%の素子を作成することができた。
ここで従来のシールドタイプの作成方法と比較する。従来のシールドタイプでは上下シールド層、ギャップを形成するための非磁性層を積層し、研磨等の技術でABSを形成して保護層をつける必要がある。それに対して本実施例では、シールド/研磨を必要としないためプロセスを非常に簡略化できる。また、従来のヘッドでは、出力特性に大きく影響するストライプハイトを研磨で決定するため、ストライプハイトのコントロールが大きな問題となっている。
それに対して、本実施例は、分解能を規定している磁化自由層とシールド層の形状をすべてリソグラフィ等のウエファ行程内で行っているため、出力、分解能のコントロールが非常に良いという特徴がある。
ここでシールド層のないプラナーCPPヘッドとの比較を行うために、前記実施例と同一構造で、ただしリングシールドを形成していないヘッドを作成した。
図5にシールドありのヘッドと、シールドなしのヘッドを用いて、孤立再生波の測定を行った結果を示した。本発明の一実施形態のシールドありのヘッドではシールドなしのヘッドに比べて半値幅の小さな再生出力を得ることができ、高い線分解能を得られることが分かった。
以上説明したように本発明の一実施形態によれば、500Gbpsiから1Tbpsiの高記録密度で、良好なエラーレートが達成可能な、高感度で高分解能なMRヘッドを提供することができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による磁気記録再生装置について説明する。第1実施形態による磁気抵抗効果素子を有する磁気ヘッドは、例えば、記録再生一体型の磁気ヘッドアセンブリに組み込まれ、磁気記録再生装置に搭載することができる。
図9は、このような磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。すなわち、本実施形態による磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、長手記録用または垂直記録用磁気ディスク200は、スピンドル152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。磁気ディスク200は、長手記録用または垂直記録用の記録層を有する。磁気ディスク200は、磁気ディスク200に格納される情報の記録再生を行うヘッドスライダ153は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ここで、ヘッドスライダ153は、前述した実施形態による磁気ヘッドをその先端付近に搭載している。
磁気ディスク200が回転すると、ヘッドスライダ153の媒体走行面(ABS)は磁気ディスク200の表面から所定の浮上量をもって保持される。
サスペンション154は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
アクチュエータアーム155は、固定軸157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
図10は、アクチュエータアーム155から先の磁気ヘッドアセンブリをディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、磁気ヘッドアッセンブリ160は、例えば駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム151を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。
サスペンション154の先端には、前述した磁気ヘッドを具備するヘッドスライダ153が取り付けられている。再生用ヘッドを組み合わせても良い。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダ153に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中165は磁気ヘッドアッセンブリ160の電極パッドである。
本実施形態においては、磁気記録再生装置について述べたが、再生のみを実施するものであってもよい。また、媒体はハードディスクの限定されず、その他、フレキシブルディスクや磁気カードなどのあらゆる磁気記録媒体を用いることが可能である。さらに、磁気記録媒体を装置から取り外し可能にした、いわゆる「リムーバブル」の形式の装置であってもよい。