JP3940002B2 - 穿孔方向可変ドリル刃 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として骨折処置等の外科処置等において骨孔を形成するために用いられるドリル刃に関する。
【0002】
【従来の技術】
大腿骨や脛骨の骨折処置において広く普及しているのが髄内釘使用による補強法である。図13に、その補強方法によって処置された、骨折状態にある長い骨を固定した様子を示す。大腿骨や脛骨の骨折部10aを補強するために骨10の骨髄内に対して髄内釘11が麻酔下で挿入配置される。髄内釘11は、固定時の剛直性と安定性を増すべく横方向の止めねじ12を用いて骨10に固定されるので、この止めねじ12を挿通するための挿通孔13を複数個有している。髄内釘11の直径は、骨髄内に収容可能な程度に設定されている。
【0003】
このように、髄内釘11は直線状の固定構造ではあるが、骨髄内に差し込んでいる間に捩られる程度の可撓性(しなやかさ)を有しているので、骨髄内に髄内釘11が配置された後において止めねじ12を挿通するための挿通孔13を確認することはきわめて困難である。とくに髄内釘11が骨随内に位置していることから身近な治具による直接測量によっては骨の外部から挿通孔13を発見することができないので、図14に示すような治具を用いることが行われていた。すなわち、側面視略コ字形をした治具Jでは、下側アームJ1において髄内釘11における挿通孔13に対応した位置にガイド孔J13が穿設されているので、骨髄内に挿入された髄内釘11と治具JのアームJ1とが平行を保っている場合には、アームJ1におけるガイド孔J13と髄内釘11の挿通孔13が一致し(図14(b)参照)、ガイド孔J13よりドリル刃で穿孔すれば、両孔を貫通する止めねじ12の螺入が可能になるわけである。
【0004】
ところが、末梢側の挿通孔13は治具Jの基部から遠い位置にあるので、骨髄内で髄内釘11が撓んでいると治具Jとの平行が保てない。したがって、このような状態にあっては、ドリル刃を治具Jのガイド孔J13に沿わせながら骨10を穿孔しても、髄内釘11に設けられた挿通孔13からずれてしまうのである(図14(c)参照)。
【0005】
そこで、近時の医療現場では、X線映像増幅装置の監視映像(イメージ)を用いたラジオルーセントドリルによって穿孔位置決めを行っている。図15はラジオルーセントドリルによる穿孔作業の様子を示す概略図であり、骨髄内に髄内釘11が配置された後に挿通孔13に向けて止めねじ12を螺入するためのドリル刃による穿孔の様子を示している。まず、X線映像増幅装置の監視映像を視覚で参照し、髄内釘11における挿通孔13の位置に相当する皮膚の部位を確認する。メスで皮膚、筋膜、筋肉を順次切開し、当該切開部位にドリル刃を挿入する。ドリル刃を挿入した後においてはドリル刃14の先端が肉眼で確認できないため、ドリル刃先を骨10の表面に斜めに宛い、X線ビームによる映像増幅装置の監視映像を視覚で参照しながらドリル刃先を正確に挿通孔13上に位置合わせする。監視映像中においては、挿通孔13は白抜きの丸として現れる一方、ドリル刃は黒い陰影として現れるので、両者の重なり合いによって正確な位置合わせができたか否かを確認することができる。
【0006】
図16はドリル刃による穿孔工程を示す図である。ドリル刃14を斜めに傾けた状態で先端が挿通孔13に合致するように位置合わせを終えると(図16(a))、図16(b)に示すように、ドリル刃先を移動させないようにしながらドリル刃14を穿孔方向に起立させる。そして、図16(c)にみられるように、ドリル刃14を回転させて髄内釘11の挿通孔13の前後骨に穿孔する。こうしたラジオルーセントドリルによる穿孔作業の下準備としては、骨の表面で横方向にドリルが滑動するのを防止するために、穿孔方向に配置した鋭利な錐を用いて予め挿し込み位置に窪み(センターポンチ)を付ける(印付けをする)とか、細い鋼線を用い、予めガイド孔を設けておいてそれに基づいてドリルにより穿孔する方法が実施されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このように、X線ビームによる映像増幅装置の映像を視覚で参照しながらの作業においては、施術者は穿孔作業終了に至るまでX線ビームの照射を受け続けることになるから、穿孔作業が長時間に亘るとそれだけ被爆量が増大することになり、施術者の健康への影響が心配される。また、ドリル穿孔作業開始直後に問題となることは、ドリル刃が骨形状の関係で骨表面に対して垂直でない場合が多く、穿孔位置がずれ易い点と、皮膚、筋膜、骨膜など、強度の高い組織がドリル刃先をずらす方向に作用し易い点である。そして、一旦ドリル刃が正しい穿孔位置からずれてしまうと、もはや穿孔方向の修正は困難であった。
【0008】
そこで、本発明者等は、ドリル刃先の位置合わせを終えると、そのまま穿孔作業に移ることができ、しかも、穿孔作業を開始した後においても穿孔作業を継続しながら穿孔位置・穿孔方向を修正でき、そのまま髄内釘の挿通孔を経て反対側の骨に至るまで穿孔することのできるドリル刃について検討した。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題解決を図るため、本発明では、穿孔刃先端に小穿孔径かつ扁平断面の多方向穿孔刃を設けるとともに、その先端においてさらに穿孔位置保持刃を設けた穿孔方向可変ドリル刃としたのである。ここで、多方向穿孔刃としては、その横断面を略方形すなわち相対する2面の平行面を有したものであるとか、その側壁面に対して穿孔方向に伸びる凹溝や凸条を設けることによって凹レンズ状の横断面を備えたもの、あるいは中心軸部分と左右端の穿孔刃部分を外方へ膨出させたものなどが例示され、螺旋状をした穿孔刃寄りの基部側から先端側に至るほど小径となるよう形成するのが望ましい。この多方向穿孔刃の基部最大径は、後述する穿孔刃穿孔径の1/4〜9/10程度が好ましい。
【0010】
穿孔位置保持刃は、先端にいくほど小穿孔径となる尖った錐(きり)状で、横断面が略三角形以上の多角形又はこれらに凹溝又は凸条を設けた形状に形成するのがよい。また、穿孔位置保持刃の先端角は50°〜90が好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
図1は本発明に係る穿孔方向可変ドリル刃の一実施例を示した要部拡大側面図である。図2は少し回転させた場合の同要部拡大側面図であり、図3は90°回転させた場合の要部拡大側面図である。そして、図4(a)は図3中A−A断面図であり、図4(b)は図3中B−B断面図である。図示した例の穿孔方向可変ドリル刃において、本体側の螺旋状をした穿孔刃1の形状についてのすくい角、逃げ角等についての構造は特に限定されるものではなく、従来から穿孔効率、操作性、穿孔精度等が良いとされる程度(例えば、すくい角が−5°〜40°、逃げ角が1°〜20°)に設定される。また、穿孔刃1の条数についても穿孔効率、操作性、穿孔精度等によって1〜6条の範囲内に設定し得る。
【0012】
本発明の穿孔方向可変ドリル刃において特徴とする点は、穿孔刃1の先端に該穿孔刃1よりも小穿孔径かつ扁平断面の多方向穿孔刃3を設け、さらにその先端に穿孔位置保持刃2を設けたことにある。この例では、穿孔位置保持刃2を先端にいくほど小穿孔径となる側面視三角形状とし、図4(a)に示すように穿孔位置保持刃2の水平断面を方形とした角錐としている。このように角錐とした場合、刃先の位置決めが容易であり、穿孔効率もよい。さらに穿孔効率等を高めるために、図4(a)のように側壁面に凹部を設けるとよい。
【0013】
本例のドリル刃における多方向穿孔刃3は、図4(b)に示すように扁平断面、すなわち、横断面が略長方形であって相対する2面に凹溝や凸条を設けた補強構造としつつ角部に刃部4を設けた構造である。図示した例において、多方向穿孔刃3の基部最大径d(16mm)は穿孔刃の穿孔径D(32mm)の1/2としている。また、穿孔位置保持刃2の先端角は略60°で、多方向穿孔刃3を含めた穿孔刃からの全立ち上がり高さHを11mmとしている。
【0014】
多方向穿孔刃3を設けたことによって、穿孔作業時に穿孔位置保持刃2の先端位置が髄内釘11の挿通孔13の中心Sよりもずれた場合、後に詳細に説明するように横方向への移動による修正機能が付加される。骨孔用のガイド孔穿孔からドリル穿孔への作業を円滑に進めるだけでなく、骨質への不要な損傷を抑えた穿孔位置の微細な修正作業が可能となるのである。
【0015】
このことを更に図面によって説明すると、本発明のように穿孔刃1の先端に小穿孔径かつ扁平断面の多方向穿孔刃3を設けるとともに、さらにその先端に小さい穿孔径の穿孔位置保持刃2を設けると、図5〜図8に示すように従来の穿孔方法に準じた方法によって骨10へ穿孔することもできるし、図9〜図12に示すような穿孔位置修正作業も可能となる。なお、各図において、(a)は骨の穿孔方向とドリル刃先の関係を示す側面図であり、(b)はX線ビームによる映像増幅装置の監視映像の様子を示している。
【0016】
まず、図5〜図8に示した穿孔方法を説明すると、施術者は、映像増幅装置の監視映像を見ながら、図5のようにドリル軸Oを傾けて髄内釘11の挿通孔13の中心Sへドリル刃先にある穿孔位置保持刃2の位置合わせを行う。刃先の位置合わせを終えると、図6に示すように、ドリル軸Oを穿孔方向に引き起こす。この場合、ドリル刃先には鋭い錐状の穿孔位置保持刃2があるので、横滑りすることなく正確な位置を保ちながらドリル軸Oを穿孔方向に引き起こすことができる。そして、図7にみられるように、回転押圧しながら多方向穿孔刃3により穿孔を開始し、更に回転押圧を続けると図8にみられるように穿孔刃1による本来の穿孔が開始されて髄内釘11の挿通孔13に向けて正確な位置に穿孔することができるのである。このように、監視映像による監視下でドリル刃先の穿孔位置保持刃2の先端位置と軸方向がずれなければ、回転押圧を続けると髄内釘11の挿通孔13と連通する骨孔が形成されるのである。
【0017】
図9〜図12は本発明の穿孔方向可変ドリル刃を用いて初めて可能にした穿孔位置修正方法を示している。図9に示されるように、ドリルを回転押圧して穿孔作業を開始した際に刃先となる穿孔位置保持刃2の先端位置が髄内釘11の挿通孔13の中心Sよりもずれてしまっていた場合、従来のドリル刃であればあらためて刃先の位置決め作業からやり直すほかなかったのであるが、本発明に係るドリル刃では、そのまま穿孔作業を継続しながら穿孔方向を正しい方向に修正することができる。
【0018】
すなわち、図9に示される状態から図10に示されるようにドリル軸Oを挿通孔13の中心Sに向けて再び傾斜させて回転押圧すると、多方向穿孔刃3が骨を切削しながらも刃先が本来位置しているべき挿通孔13の中心位置にまで移動する(図11)。監視映像によって穿孔位置保持刃2の先端が目的とする挿通孔13の中心位置に至ったことを確認した後、図12に示すようにドリル軸Oが正確な穿孔方向と一致するように引き起こして穿孔作業を継続すれば、容易に目的の骨孔を穿孔することができる。多方向穿孔刃3はドリル刃本体の螺旋状をした穿孔刃1よりも小穿孔径であるから、以上のような穿孔方向修正作業中に多方向穿孔刃3によって切削された部分は穿孔刃1によって穿たれた穿孔内に包含されてしまう。このように、ドリル刃を寝かすように傾斜させたり引き起こしたりすることによって、本来目的とする穿孔方向に合致するようドリル刃の穿孔方向を簡単に修正できるのである。
【0019】
【発明の効果】
本発明に係る穿孔方向可変ドリル刃は先端に穿孔位置保持刃を設けたので、ドリル刃の横滑りがほぼ防止できる。そのため、穿孔作業の準備段階、すなわち錐で骨表面に穿孔方向をガイドする窪みを付けるとか、あるいは、鋼線であらかじめ細い骨孔を穿孔するといった煩雑な作業が不要となる。また、ドリル刃の横滑りを防ぐための手間や、ドリル刃が横滑りをした時に先端位置と穿孔方向を再調整する手間がなくなる。
【0020】
また、前記穿孔位置保持刃と螺旋状をした穿孔刃との間において多方向穿孔刃を設けたので、穿孔位置保持刃の先端が髄内釘の挿通孔の中心Sよりもずれていた場合でも、ドリル刃を寝かせるように傾斜させたり引き起こしたりという動作を行うだけで、ドリル刃先を骨から離さず穿孔作業を継続しながら目的位置にまで容易に移動させて穿孔方向の修正を図ることが可能である。
【0021】
したがって、連続したX線照射を受けながらのドリル穿孔作業時間を短縮することができて、手術関係者のみならず手術患者の被爆リスクを軽減することができる結果、施術中の患部損傷を少なくすることと時間短縮により患者に対する負担等を軽減すると共に、技量や判断が要求される医師にとっても、他の手術手順に多くの時間をかけることができて、手術成績向上等の効果が得られる。
【0022】
このように、本発明に係る穿孔方向可変ドリル刃は髄内釘を用いた外科手術における骨孔形成用として極めて有用であるが、その他プラスチック、木材、金属材等に対する穿孔作業にも応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る穿孔方向可変ドリル刃の一例を示した要部拡大側面図である。
【図2】同穿孔方向可変ドリル刃を小回転させた場合の要部拡大側面図である。
【図3】同穿孔方向可変ドリル刃を90°回転させた場合の要部拡大側面図である。
【図4】図3の穿孔方向可変ドリルの横断面先端方向から見た図であり、(a)は図3中A−A断面図、(b)は図3中B−B断面図である。
【図5】穿孔位置合わせ時の骨とドリル刃先の関係を示す側面図(a)、及びX線ビームによる映像増幅装置の監視映像の正面略図(b)である。
【図6】穿孔開始時の骨とドリル刃先の関係を示す側面図(a)、及び監視映像の正面略図(b)である。
【図7】多方向穿孔刃による穿孔時の骨とドリル刃先の関係を示す側面図(a)、及び監視映像の正面略図(b)である。
【図8】穿孔刃による本来の穿孔開始時の骨とドリル刃先の関係を示す側面図(a)、及び監視映像の正面略図(b)である。
【図9】穿孔位置がずれた場合における骨とドリル刃先の関係を示す側面図(a)、及び監視映像の正面略図(b)である。
【図10】挿通孔の中心S方向にドリル軸Oを傾けた際の骨とドリル刃先の関係を示す側面図(a)、及び監視映像の正面略図(b)である。
【図11】刃先を目的位置に移動させた様子を示す骨とドリル刃先の関係を示す側面図(a)、及び監視映像の正面略図(b)である。
【図12】正確な穿孔方向に引き起こした時の骨とドリル刃先の関係を示す側面図(a)、及び監視映像の正面略図(b)である。
【図13】髄内釘使用により処置された骨の固定の様子を示す断面図である。
【図14】治具を用いた従来の穿孔作業を示す概略側面図(a)、同治具のアームと髄内釘の位置関係を示す概略平面図(b)(c)である。
【図15】ラジオルーセントドリルを用いた穿孔作業の様子を示す概略図である。
【図16】従来の骨髄内に髄内釘が配置された後に挿通孔を設けている様子を示す(a)はドリルを宛った際、(b)は穿孔開始時、(c)は穿孔終了時の断面図である。
【符号の説明】
1 穿孔刃
2 穿孔位置保持刃
3 多方向穿孔刃
4 刃部
d 多方向穿孔刃の基部最大径
D 穿孔刃の穿孔径
H 穿孔刃からの全立ち上がり高さ
S 挿通孔の中心
O ドリル軸
10 骨
10a 骨折部
11 髄内釘
12 止めねじ
13 挿通孔
14 ドリル刃
Claims (3)
- 穿孔刃先端に小穿孔径かつ扁平断面の多方向穿孔刃を設け、さらに該多方向穿孔刃の先端に穿孔位置保持刃を設けた穿孔方向可変ドリル刃であって、前記多方向穿孔刃が、その基部最大径を穿孔刃の穿孔径の1/4〜9/10とし、かつ、その横断面が略長方形又は相対する2面に凹溝や凸条を設けた略長方形であって角部に刃部を設けた構造としてなる穿孔方向可変ドリル刃。
- 穿孔位置保持刃が、先端にいくほど小穿孔径となる略多角形断面で先端が尖った錐状に形成されたものである請求項1記載の穿孔方向可変ドリル刃。
- 穿孔位置保持刃が、その先端角を50°〜90°としたものである請求項1又は2に記載の穿孔方向可変ドリル刃。
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